説明

非水電解液二次電池

【課題】高出力と高い耐久性とを兼ね備えた非水電解液二次電池を提供する。
【解決手段】集電体と、活物質、導電剤及び結着剤を含む電極層と、からなる二次電池用正極において、前記集電体の表面粗さRzjisが5μm以下であり、前記電極層と前記集電体との間の剥離強度が0.1N/mm以上である、二次電池用正極である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は二次電池用正極及びこれを用いた非水電解液二次電池に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、自動車用の二次電池においてはより高出力の特性が求められており、中でも活物質の粒子径を5μm以下にし、電極の構造を制御することで、出力密度を有意に向上しうることが確認されている(特許文献1参照)。
【0003】
かかる技術は、高出力が求められる自動車や電動工具などの用途においては、強く求められていくものと考えられる。
【特許文献1】特開2002−151055号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、出力を高めるための電極の低抵抗化にとって、粒子径の小さい活物質を利用するだけでは不十分であり、粒子径の小さい活物質によって発揮される特性を引き出す適切な導電パスの形成が必要である。
【0005】
だが、高出力化のための活物質の小粒子径化や必要に応じた導電剤量の増加は、電極内において結着剤の増量を不可避的に伴い、抵抗が増大するという問題を生じうる。
【0006】
上記問題に対し、結着剤の量を減らした場合、今度は集電体と電極層との間の結着力は極めて弱くなり、結果として、電極層の剥離、並びに剥離による抵抗の増大及び耐久性の低下を招く虞がある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明はこのような従来技術の有する課題に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、二次電池用正極の構成材料(活物質)として小さい粒子を用いる場合の高出力の効果を最大限引き出すため、電極層の剥離を抑制することにより、低抵抗を維持しつつ高い耐久性を有する二次電池用正極及びこれを用いた非水電解液二次電池を提供することにある。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、低抵抗化とともに、高出力特性と高耐久性とを兼ね備えた非水電解液二次電池が得られる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
以下、本発明の実施の形態を説明する。
【0010】
(第1実施形態)
(正極の構成)
本発明の第1実施形態は、集電体と、活物質、導電剤及び結着剤を含む電極層と、からなる二次電池用正極において、前記集電体の表面粗さRzjisが5μm以下であり、前記電極層と前記集電体との間の剥離強度が0.1N/mm以上である二次電池用正極である。
【0011】
本発明の二次電池用正極は、電極構成材料として集電体、活物質、導電剤及び結着剤を含んで構成される。なお、本明細書において、単に「活物質」という場合には正極活物質を意味する。
【0012】
[正極側の集電体]
本発明の二次電池用正極に用いられる集電体は、表面粗さRzjisが5μm以下であり、集電体と電極層との間の剥離強度が0.1N/mm以上であることを特徴とする。前記表面粗さRzjisは、1〜5μmであることが好ましく、2〜4μmであることがより好ましい。
【0013】
集電体の表面粗さRzjisが5μmを超えると、充放電時の活物質の膨張収縮に伴う体積変化が、集電体である金属箔に対し、繰り返し大きなストレスを局所的に発生させることにつながる。集電箔への不均一なストレスは劣化促進要因となり、例えば集電箔の孔食腐食が発生しやすくなり、電池の耐久性に悪影響を与えることが考えられる。耐久性が特に求められる用途、例えば自動車用電池においては、表面荒れの少ない集電体であるとともに、耐久性を保障できるほどに十分な接着強度を有することが必要である。一方で、集電体の表面粗さが極めて小さいと、活物質のアンカー効果は弱く、集電体と電極層との結合は結着剤を介した化学的結合に依存するところが大きくなる。このような場合に、電極層と集電体との界面における剥離強度を0.1N/mm以上、好ましくは0.1〜0.5N/mm、より好ましくは0.15〜0.3N/mmとすることによって、前記界面での結合状態を強固なものとし、電極層と集電体との間の電子的な接続を保持できるようになり、低抵抗性及び高出力特性を発揮し、更にこのような状態を長期間維持することが可能となる。なお、本明細書において、集電体の表面粗さ及び剥離強度は、後述の実施例に記載された方法によって測定された値である。
【0014】
本発明の集電体の製造方法として、特に制限されることはないが、例えば圧延製箔製法などが挙げられる。
【0015】
また、集電体の構成材料としては、アルミニウム(Al)箔、ニッケル(Ni)、鉄(Fe)、チタン(Ti)、ステンレス、銅(Cu)などの金属箔、並びに上記金属箔を物理的(機械的)及び/または化学的に表面処理したものを用いることが好ましい。正極に使用されるという点から、より好ましくはAl箔、ならびにAl箔を物理的(機械的)及び/または化学的に表面処理したものを用いる。Al箔を用いることにより、有機電解液中で高電位でアノード分極されるという用途においては優れた耐食性を示すという効果がある。前記物理的(機械的)処理として、以下に限定されることはないが、例えばパンチングや、凹凸を付けるために型ロールと受ロールで加工する方法などが挙げられる。また、前記化学的処理として、以下に限定されることはないが、例えばメッキ処理、接着剤塗布、合金化、防錆処理などが挙げられる。前記集電体の厚さは5〜20μmであることが好ましく、10〜15μmであることがより好ましい。このような条件を満たす集電体を用いた場合、アンカー効果による集電体と電極層とのより強固な結合の形成(機械的結合)、物理的相互作用、及び結着剤を用いる際のより強固な化学的結合の形成(化学的相互作用)が得られる。従って、小粒子の活物質でも良好な結着状態が得られる正極を調製することができる。
【0016】
[正極側の活物質]
本発明の活物質は、平均粒子径が5μm以下のものを用いることが好ましく、0.1〜5μmのものを用いることがより好ましく、1〜3μmのものを用いることが特に好ましい。かかる範囲の平均粒子径を有する活物質を用いることにより、電池の容量密度をより大きくすることができ、高出力の電極を作製することができる。なお、本明細書において、活物質の粒径の値は、レーザー回折散乱法を用いて得られたメディアン径を使用できる。
【0017】
上記正極活物質は、以下に制限されることはないが、マンガン酸リチウム、ニッケル酸リチウム、コバルト酸リチウム、マンガンニッケルコバルト酸リチウム及びオリビン型燐酸鉄からなる群から選択される一種以上であることが好ましい。これらを用いると、平均粒子径を上記範囲に容易に調整することができ、集電体の表面状態をより均一にすることが可能となる。
【0018】
[正極側の導電剤]
本発明の二次電池用正極に用いられる導電剤としては、黒鉛、無定形炭素及び繊維状炭素からなる群から選択される1種以上の炭素材料を含有することが好ましい。これにより、上記した小粒子径の活物質でも電極内の導電性を確保し、電極を低抵抗化、高出力化することができる。
【0019】
前記黒鉛としては、以下に限定されることはないが、例えば燐片状や繊維状等、前記無定形炭素としては、以下に限定されることはないが、例えばカーボンブラック、より具体的にはアセチレンブラック、ケッチェンブラック、ファーネスブラックなどが挙げられ、これらは天然由来のものでもよく、人造のものでもよい。前記繊維状炭素は、直径が10〜150nmであることが好ましく、20〜100nmであることがより好ましい。また、長さは1〜150μmであることが好ましく、10〜100μmであることがより好ましい。前記繊維状炭素がかかる範囲にある場合、導電性が付与されるという効果を奏する。以下に限定されることはないが、例えばカーボンナノファイバー、カーボンナノチューブなどが挙げられる。
【0020】
[正極側の結着剤]
本発明の二次電池用正極に用いられる結着剤は、フッ素系樹脂を主成分として含むことが好ましい。かかる場合に、耐薬品性(耐電解液性)を良好に維持できるという優れた効果がある。ここで言う「主成分」とは、前記結着剤の成分の中で最も配合比の高い成分を意味する。フッ素系樹脂は、前記結着剤中に20質量%以上含まれることが好ましく、50質量%以上含まれることがより好ましく、80質量%以上含まれることが特に好ましい。
【0021】
また、前記フッ素樹脂としては、以下に制限されることはないが、例えばフッ化ビニリデン系樹脂、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、テトラフルオロエチレン/ヘキサフルオロプロピレン共重合体(FEP)、テトラフルオロエチレン/パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体(PFA)、ポリクロロトリフロロエチレン(PCTFE)、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、ポリフッ化ビニル、エチレン/テトラフルオロエチレン共重合体(ETFE)、エチレン/クロロトリフルオロエチレン共重合体(ECTFE)、及びこれらの少なくとも一種を主成分とする共重合体、ならびにビニリデンフルオロライド系フッ素ゴム、プロピレン/テトラフルオロエチレン系フッ素ゴム、及びテトラフルオロエチレン/パーフルオロアルキルビニルエーテル系フッ素ゴムなどのフッ素ゴムなどが挙げられる。なかでも好ましくはフッ化ビニリデン系樹脂であり、より好ましくは極性を有する官能基を含有するフッ化ビニリデン系樹脂である。フッ化ビニリデン系樹脂を結着剤として用いることにより、活物質を細粒化しても均一分散が可能であり、製造の際にはスラリーを容易に調製できるという利点がある。前記官能基としては以下に限定されることはないが、例えば既知のカルボキシル基、エポキシ基、水酸基等の極性基を用いることができる。かかる極性基を含有するフッ素樹脂は、すなわちフッ素樹脂の変性品であり、かかる極性基を有しない「未変性品」に比して一層結着性を向上させることができる。前記変性品についての変性方法としては、フッ化ビニリデン樹脂の変性方法については、他のモノマーとの共重合、フッ化ビニリデン樹脂の単重合体あるいはその共重合体を溶解または膨潤する溶媒中で変性剤と反応させる方法(特開平6−93025)、放射線を照射してグラフト処理により変性する方法(特開2005−047275)など、特定の方法に限定されるものではないが、特に共重合によるものが好ましい。変性条件のうち、変性剤、変性温度及び変性時間については以下の通りである。変性剤としては、以下に制限されることはないが、例えば不飽和二塩基酸のモノエステルが挙げられる。好ましくは、前記不飽和二塩基酸のモノエステルのうち、炭素数5〜8のものである。具体例として、マレイン酸モノメチルエステル、マレイン酸モノエチルエステル、シトラコン酸モノメチルエステル、シトラコン酸モノエチルエステル等が挙げられる。より好ましくはマレイン酸モノメチルエステル、またはシトラコン酸モノメチルエステルである。変性温度は10〜50℃であることがより好ましい。変性時間は10〜100時間であることが好ましい。
【0022】
前記結着剤の重量平均分子量は、変性品の場合、35万〜100万であることが好ましく、45万〜70万であることがより好ましい。一方、未変性品の場合、50万〜100万であることが好ましく、50万〜70万であることがより好ましい。かかる範囲にある場合、所望の高い剥離強度が得られるとともに、電極スラリーの粘度調整が比較的容易であり、電極の塗布を容易に行うことができる。本発明の分子量は、GPC(Gel Permeation Chromatography)によって測定する。
【0023】
上記結着剤の量は、活物質量100質量部に対して10質量部以下であることが好ましく、3〜10質量部であることがより好ましく、4〜8質量部であることが特に好ましい。一方、前記結着剤の量は、導電剤100質量部に対して90質量部以下であることが好ましく、40〜90質量部であることがより好ましく、50〜80質量部であることが特に好ましい。このように、本発明の結着剤は従来と比較して有意に少ない量で、結着剤の量の増加による電極の抵抗の増加を伴うことなく、所望の剥離強度及び出力特性を得ることができ、更には容量密度を高く維持することもできる。
【0024】
このように、結着剤の重要な要素は、種類、添加量及び分子量である。前記種類については、一般に、変性品の方が未変性品よりも結着性に優れる。前記添加量については、多くなるほど電池の容量密度は低下する反面、結着性が向上する。前記分子量については、一般に、分子量の大きい方が結着性に優れる。
【0025】
[その他]
また、前記電極層には、必要であれば、支持塩(リチウム塩)、イオン伝導性ポリマーなどが含まれうる。また、イオン伝導性ポリマーが含まれる場合には、前記ポリマーを重合させるための重合開始剤が含まれてもよい。
【0026】
支持塩(リチウム塩)としては、Li(CSON、ビスペンタフルオロエチルスルホニルイミドリチウム(LiBETI)、LiPF、LiBF、LiClO、LiAsF、LiCFSO等が挙げられる。
【0027】
イオン伝導性ポリマーとしては、例えば、ポリエチレンオキシド(PEO)系およびポリプロピレンオキシド(PPO)系のポリマーが挙げられる。ここで、前記ポリマーは、本発明の電極が採用された電池の電解質層において用いられるイオン伝導性ポリマーと同じであってもよく、異なっていてもよいが、同じであることが好ましい。
【0028】
重合開始剤は、イオン伝導性ポリマーの架橋性基に作用して、架橋反応を進行させるために配合される。開始剤として作用させるための外的要因に応じて、光重合開始剤、熱重合開始剤などに分類される。重合開始剤としては、例えば、熱重合開始剤であるアゾビスイソブチロニトリル(AIBN)や、光重合開始剤であるベンジルジメチルケタール(BDK)等が挙げられる。
【0029】
電極層に含まれる、上記成分の配合比は、特に限定されず、リチウムイオン二次電池などについての公知の知見を適宜参照することにより、調整されうる。
【0030】
電極層の厚さについても特に制限はなく、リチウムイオン二次電池などについての従来公知の知見が適宜参照されうる。一例を挙げると、電極層の厚さは、好ましくは10〜100μm程度であり、より好ましくは20〜50μmである。電極層の厚さが10μm程度以上であれば、電池容量が充分に確保されうる。一方、電極層の厚さが100μm程度以下であれば、電極深部(集電体側)にリチウムイオンなどが拡散しにくくなることに伴う内部抵抗の増大という問題の発生が抑制されうる。なお、負極及び電解質層については、下記の第3実施形態で詳述する。
【0031】
また、前記二次電池用正極の占める体積において、電極層の固形分の体積に対する固形分以外の体積の割合を表す空隙率は、33.0%以上であることが好ましく、33.0〜50.0%であることがより好ましい。前記空隙率が33.0%以上であれば、所望の電池容量を確保するのに十分な電解質量を電極に保持させることができるとともにリチウムの拡散性を良好にできる為に高出力性能が得られる。一方、前記空隙率が50.0%以下であれば、導電ネットワークを確保しながら、さらに膜厚を制御することで電池の高エネルギー密度及び高出力をともに実現可能な程度の正極物質を配置させることができる。
【0032】
(第2実施形態)
本発明の第2実施形態は、第1実施形態の集電体を準備する段階と、第1実施形態の活物質、導電剤及び結着剤を含む電極層材料を混合する段階と、得られた混合物をスラリー粘度調製溶媒に分散して正極活物質スラリーを調製する段階と、前記集電体の一方の面に前記正極活物質スラリーを塗布し、乾燥する段階と、からなる二次電池用正極の製造方法である。上記第1実施形態で述べた通り、前記集電体と、前記活物質、前記導電剤及び前記結着剤を含む電極層との間の剥離強度が0.1N/mm以上であることを特徴とする。また、二次電池用正極の構成要素のうち、集電体、活物質、導電剤及び結着剤については、上記第1実施形態と同様であるので、ここでは説明を省略する。
【0033】
前記スラリー粘度調製溶媒は、以下に制限されることはないが例えば、NMPなどが挙げられる。スラリーはホモジナイザーまたは混練装置などを用いて溶媒及び固形分よりインク化される。塗布はホットプレート法または温風乾燥法にて実施される。塗布(塗膜)条件のうち、塗布温度は100〜150℃であることが好ましく、120〜140℃であることがより好ましい。塗布時間は、3〜30分であることが好ましく、5〜15分であることがより好ましい。
【0034】
(第3実施形態)
(電池の構造)
本発明の第3実施形態は、上記第1実施形態の二次電池用正極、または上記第2実施形態の製造方法により得られる二次電池用正極によって構成される、非水電解液二次電池である。本発明による正極の構成(上記第1実施形態)は、積層型電池にも双極型電池にも適用することができる。以下に、負極、及び上記2つの電池構造等について説明する。
【0035】
[負極の構成]
本発明の非水電解液二次電池に用いられる負極の構成は、従来公知の構成を採用することができる。
【0036】
集電体は導電性の材料から構成される。特に限定されることはないが、例えばアルミニウム箔、ニッケル箔、銅箔などが挙げられる。集電体の一般的な厚さは、1〜30μmである。ただし、この範囲を外れる厚さの集電体を用いてもよい。
【0037】
負極活物質としては、特に限定されることはないが、例えば、黒鉛及び非晶質炭素などのカーボン、金属材料、並びにリチウムアルミニウム合金、リチウムスズ合金及びリチウムケイ素合金などのリチウム合金が挙げられる。容量及び出力特性に優れた電池を構成できる観点から、好ましくはカーボンである。場合によっては、2種以上の負極活物質が併用されてもよい。平均粒子径については特に限定されることはない。前記負極活物質の含有量は特に制限されないが、前記正極物質及び前記負極物質の各々の全質量を100質量部として、70〜95質量部であることが好ましく、80〜90質量部がより好ましい。かかる範囲内にあれば、電池の高エネルギー密度及び高出力のバランスが取れるため、好ましい。
【0038】
また、必要であれば、導電剤、結着剤、支持塩(リチウム塩)、イオン伝導性ポリマーなどが含まれうる。また、イオン伝導性ポリマーが含まれる場合には、前記ポリマーを重合させるための重合開始剤が含まれてもよい。
【0039】
導電剤の例としては、以下に制限されることはないが、アセチレンブラック等のカーボンブラック、グラファイトなどのカーボン粉末や、気相成長炭素繊維(VGCF;登録商標)などの種々の炭素繊維などが挙げられる。前記導電剤の含有量は特に制限されないが、前記正極物質及び前記負極物質の各々の全質量を100質量%として、1〜20質量%であることが好ましく、5〜10質量%であることがより好ましい。かかる範囲内にあれば、電池の高エネルギー密度及び高出力が共に図れるため、好ましい。
【0040】
結着剤の例としては、以下に制限されることはないが、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、ポリ酢酸ビニル、ポリイミド及びユリア樹脂などの熱可塑性樹脂、エポキシ樹脂及びポリウレタン樹脂などの熱硬化性樹脂、並びにブチルゴム及びスチレン系ゴムなどのゴム系材料が挙げられる。
【0041】
支持塩(リチウム塩)、イオン伝導性ポリマー、重合開始剤については、上記第1実施形態と同様であり、ここでは説明を省略する。これらの成分の配合比は、特に限定されず、リチウムイオン二次電池などの二次電池についての公知の知見を適宜参照することにより、調整されうる。
【0042】
電極層の厚さについても上記第1実施形態と同様であり、ここでは説明を省略する。
【0043】
<双極型電池>
本発明の電池は、双極型の非水電解液二次電池(以下、「双極型電池」とも称する)でありうる。
【0044】
集電体の一方の面と電気的に結合した正極物質を有する正極と、前記集電体のもう一方の面と電気的に結合した負極物質を有する負極と、正極及び負極の間に配置された電解質層と、が交互に積層されてなる非水電解液二次電池である。前記正極は、上記第1実施形態の非水電解液二次電池用正極である。双極型電池を採用することにより、積層型電池に比して一層の高出力密度及び高電圧を有しうる利点がある。
【0045】
図1は、本発明の双極型電池を示す断面図である。以下、図1に示す双極型電池を例に挙げて詳細に説明するが、本発明の技術的範囲はかような形態のみに制限されない。
【0046】
図1に示す本実施形態の双極型電池10は、実際に充放電反応が進行する略矩形の電池要素21が、外装であるラミネートシート29の内部に封止された構造を有する。
【0047】
図1に示すように、本実施形態の双極型電池10の電池要素21は、正極活物質層13と、負極活物質層15とが集電体11のそれぞれの面に形成された双極型電極を複数個有する。各双極型電極は、電解質層17を介して積層されて電池要素21を形成する。この際、一の双極型電極の正極活物質層13と前記一の双極型電極に隣接する他の双極型電極の負極活物質層15とが電解質層17を介して向き合うように、各双極型電極および電解質層17が積層されている。
【0048】
そして、隣接する正極活物質層13、電解質層17、および負極活物質層15は、一つの単電池層19を構成する。従って、双極型電池10は、単電池層19が積層されてなる構成を有するともいえる。また、単電池層19の外周には、隣接する集電体11間を絶縁するための絶縁層31が設けられている。なお、電池要素21の最外層に位置する集電体(最外層集電体)(11a、11b)には、片面のみに、正極活物質層13(正極側最外層集電体11a)または負極活物質層15(負極側最外層集電体11b)のいずれか一方が形成されている。
【0049】
さらに、図1に示す双極型電池10では、正極側最外層集電体11aが延長されて正極タブ(端子)25とされ、外装であるラミネートシート29から導出している。一方、負極側最外層集電体11bが延長されて負極タブ(端子)27とされ、同様にラミネートシート29から導出している。
【0050】
以下、本実施形態の双極型電池10を構成する部材について説明する。ただし、電極を構成する成分については上記で説明した通りであるため、ここでは説明を省略する。また、本発明の技術的範囲が下記の形態のみに制限されることはなく、従来公知の形態が同様に採用されうる。
【0051】
[電解質層]
電解質層17を構成する電解質は特に限定されないが、液体電解質またはポリマー電解質が用いられうる。
【0052】
液体電解質は、可塑剤である有機溶媒に支持塩であるリチウム塩が溶解した形態を有する。可塑剤として用いられうる有機溶媒としては、例えば、エチレンカーボネート(EC)、プロピレンカーボネート(PC)、ジメチルカーボネート(DMC)、ジエチルカーボネート(DEC)等のカーボネート類が例示される。また、支持塩(リチウム塩)としては、LiBETI等の電極の活物質層に添加されうる化合物が同様に採用されうる。
【0053】
一方、ポリマー電解質は、電解液を含むゲルポリマー電解質(ゲル電解質)と、電解液を含まない真性ポリマー電解質に分類される。
【0054】
ゲルポリマー電解質は、イオン伝導性ポリマーからなるマトリックスポリマー(ホストポリマー)に、上記の液体電解質が注入されてなる構成を有する。マトリックスポリマー(ホストポリマー)として用いられるイオン伝導性ポリマーとしては、特に限定されないが例えば、ポリエチレンオキシド(PEO)、ポリプロピレンオキシド(PPO)、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、ヘキサフルオロピレン(HFP)のポリマー、PAN、PMMA及びこれらの共重合体等が挙げられる。かようなポリアルキレンオキシド系高分子には、リチウム塩などの電解質塩がよく溶解しうる。また、可塑剤の例としては、通常リチウムイオン電池などの非水電解液二次電池に用いられる電解液を用いることが可能である。
【0055】
なお、電解質層17が液体電解質やゲルポリマー電解質から構成される場合には、電解質層17にセパレータを用いてもよい。セパレータの具体的な形態としては、例えば、ポリエチレンやポリプロピレン等のポリオレフィンからなる微多孔膜が挙げられる。
【0056】
真性ポリマー電解質は、上記のマトリックスポリマーに支持塩(リチウム塩)が溶解してなる構成を有し、可塑剤である有機溶媒を含まない。従って、電解質層17が真性ポリマー電解質から構成される場合には電池からの液漏れの心配がなく、電池の信頼性が向上しうる。
【0057】
ゲルポリマー電解質や真性ポリマー電解質のマトリックスポリマーは、架橋構造を形成することによって、優れた機械的強度を発現しうる。架橋構造を形成させるには、適当な重合開始剤を用いて、高分子電解質形成用の重合性ポリマー(例えば、PEOやPPO)に対して熱重合、紫外線重合、放射線重合、電子線重合等の重合処理を施せばよい。
【0058】
本発明において、前記電解質層はゲルポリマー電解質からなることが好ましい。電解質としてゲルポリマー電解質を用いることで電解質の流動性がなくなり、双極型電池の製造を容易にし、またシール性能を向上することが可能となる。ゲルポリマー電解質のホストポリマー及び可塑剤の例は上記の通りである。
【0059】
また、前記電解質層は全固体電解質からなることがより好ましい。電解質として全固体電解質を用いることで電解質の流動性がなくなり、集電体への電解質の流出がなくなり、各層間のイオン伝導性を遮断することがより確実になりうる。
【0060】
[絶縁層]
双極型電池10においては、通常、各単電池層19の周囲に絶縁層31が設けられる。この絶縁層31は、電池内で隣り合う集電体11同士が接触したり、電池要素21における単電池層19の端部の僅かな不ぞろいなどによる短絡が起きたりするのを防止する目的で設けられる。かような絶縁層31の設置により、長期間の信頼性および安全性が確保され、高品質の双極型電池10が提供されうる。
【0061】
絶縁層31としては、絶縁性、固体電解質の脱落に対するシール性や外部からの水分の透湿に対するシール性(密封性)、電池動作温度下での耐熱性などを有するものであればよく、例えば、ウレタン樹脂、エポキシ樹脂、ポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂、ポリイミド樹脂、ゴムなどが用いられうる。なかでも、耐蝕性、耐薬品性、作り易さ(製膜性)、経済性などの観点から、ウレタン樹脂、エポキシ樹脂が好ましい。
【0062】
[タブ]
双極型電池10においては、電池外部に電流を取り出す目的で、最外層集電体(11a、11b)に電気的に接続されたタブ(正極タブ25および負極タブ27)が外装であるラミネートシート29の外部に取り出される。具体的には、正極用最外層集電体11aに電気的に接続された正極タブ25と、負極用最外層集電体11bに電気的に接続された負極タブ27とが、ラミネートシート29の外部に取り出される。
【0063】
タブ(正極タブ25および負極タブ27)の材質は、特に制限されず、双極型電池用のタブとして従来用いられている公知の材質が用いられうる。例えば、アルミニウム、銅、チタン、ニッケル、ステンレス鋼(SUS)、これらの合金等が例示される。なお、正極タブ25と負極タブ27とでは、同一の材質が用いられてもよいし、異なる材質が用いられてもよい。なお、本実施形態のように、最外層集電体(11a、11b)を延長することによりタブ(25、27)としてもよいし、別途準備したタブを最外層集電体に接続してもよい。
【0064】
[外装ケース]
双極型電池10においては、使用時の外部からの衝撃や環境劣化を防止するために、電池要素21は、好ましくはラミネートシート29などの外装内に収容される。外装としては特に制限されず、従来公知の外装が用いられうる。自動車の熱源から効率よく熱を伝え、電池内部を迅速に電池動作温度まで加熱しうる点で、好ましくは、熱伝導性に優れた高分子−金属複合ラミネートシート等が用いられうる。また、上述の通り、本発明の二次電池用正極を用いることにより、高出力で耐久性に優れた二次電池を得ることができるが、特に、形状の自由度の高いアルミラミネートの外装体を用いた場合、耐久性を一層向上させることができる。なぜなら、ラミネートセルは、金属製の円筒型や角型セルのように構造的な圧力が加わり、電極と箔の接触を保持できない構造であるため、結着剤による電極との接着力の大小がより重要となると考えられるためである。
【0065】
本実施形態の双極型電池10によれば、本発明の電極が集電体11の両面に形成されてなる双極型電極が採用されている。このため、本実施形態の双極型電池は出力特性に優れる。
【0066】
ここで、上述したような本発明の作用効果は、高出力条件下において用いられる二次電池において特に顕著に発現しうる。従って、本発明の二次電池は、高出力条件下において用いられることが好ましい。具体的には、本発明の二次電池は、好ましくは20C以上、より好ましくは50C以上、さらに好ましくは100C以上の出力を必要とする条件下において用いられる。
【0067】
<積層型電池>
本発明の電池は、積層型の非水電解液二次電池(以下、「積層型電池」とも称する)でありうる。
【0068】
一の集電体の両方の面とそれぞれ電気的に結合した正極物質を有する正極と、他の集電体の両方の面とそれぞれ電気的に結合した負極物質を有する負極と、前記正極及び前記負極の間に配置された電解質層と、が交互に積層されてなる非水電解液二次電池である。前記正極は、上記第1実施形態の非水電解液二次電池用正極である。参考までに、図2に、積層型の非水電解液二次電池60の概要を示す断面図を示す。
【0069】
(第4実施形態)
(組電池)
上記の第3実施形態の二次電池の複数個を、並列及び/または直列に接続して、組電池を構成する。
【0070】
図3は、本実施形態の組電池を示す斜視図である。
【0071】
図3に示すように、組電池40は、上記の第3実施形態に記載の双極型電池が複数個接続されることにより構成される。各双極型電池10の正極タブ25および負極タブ27がバスバーを用いて接続されることにより、各双極型電池10が接続されている。組電池40の一の側面には、組電池40全体の電極として、電極ターミナル(42、43)が設けられている。
【0072】
組電池40を構成する複数個の双極型電池10を接続する際の接続方法は特に制限されず、従来公知の手法が適宜採用されうる。例えば、超音波溶接、スポット溶接などの溶接を用いる手法や、リベット、カシメなどを用いて固定する手法が採用されうる。かような接続方法によれば、組電池40の長期信頼性が向上しうる。
【0073】
本実施形態の組電池40によれば、組電池40を構成する個々の双極型電池10が出力特性に優れることから、出力特性に優れる組電池が提供されうる。
【0074】
なお、組電池40を構成する双極型電池10の接続は、複数個全て並列に接続してもよく、また、複数個全て直列に接続してもよく、さらに、直列接続と並列接続とを組み合わせてもよい。これにより、容量及び電圧を自由に調節することが可能となる。
【0075】
(第5実施形態)
(車両)
第5実施形態では、上記の第3実施形態の双極型電池10、または第4実施形態の組電池40をモータ駆動用電源として搭載して、車両を構成する。双極型電池10または組電池40をモータ用電源として用いる車両としては、例えば、ガソリンを用いない完全電気自動車、シリーズハイブリッド自動車やパラレルハイブリッド自動車などのハイブリッド自動車、及び燃料電池自動車などの、車輪をモータによって駆動する自動車、並びに他の車両(例えば電車)が挙げられる。これにより、従来に比して高寿命で信頼性の高い車両を製造することが可能となる。
【0076】
参考までに、図4に、組電池40を搭載する自動車50の概略図を示す。自動車50に搭載される組電池40は、上記で説明したような特性を有する。このため、組電池40を搭載する自動車50は出力特性に優れるとともに、高寿命で信頼性の高い車両となる。
【0077】
以上のように、本発明の幾つかの好適な実施形態について示したが、本発明は、以上の実施形態に限られるものではなく、当業者によって種々の変更、省略、および追加が可能である。
【実施例】
【0078】
以下、本発明による二次電池用正極の効果を、以下の実施例および比較例を用いて説明するが、本発明の技術的範囲はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0079】
[実施例1]
<正極の作製>
活物質として、平均粒子径D50が1μmのマンガン酸リチウムを用いた。また、導電剤としてアセチレンブラックを、及び結着剤として重量平均分子量50万のポリフッ化ビニリデンのカルボン酸変性品を用いた。前記結着剤の含量が、前記活物質100質量部に対して7質量部、かつ前記導電剤100質量部に対して60質量部になるように前記結着剤を供試した。これらを混合し、次いでスラリー粘度調製溶媒であるNMPに分散して、正極活物質スラリーを調製した。
【0080】
一方、集電体として、表面粗さRzjisが2.81μmであって厚さ20μmのアルミニウム(Al)箔を準備し、集電体の一方の面に上記のスラリーを塗布し、乾燥後プレスすることで正極を作製した。
【0081】
なお、上記のうち、活物質の平均粒子径及び集電体の表面粗さの測定方法は以下の通りである。
【0082】
(粒子径測定)
・方法:レーザー回折散乱法 50%累積粒子測定(D50)
・装置:マイクロトラック社製 X−100
(集電体の表面粗さ測定)
・方法:レーザー顕微鏡粗さ測定(JIS B 0601−1994)
・試験片作製:電極を10mm幅に切断してNMP溶液に含浸させた(2日間)。含浸した容器のまま3分間超音波処理をして浮き上がった電極層を剥離した。残った集電体をスライドガラスに貼り付け測定試料とした。
・装置:レーザー顕微鏡(Olympus製 LEXT−OLS3000)
・測定データ:十点平均粗さ(Rzjis)の算出、光学顕微鏡像観察。
【0083】
(空隙率の測定)
空隙率の測定方法として水銀圧入法を利用し、測定装置にはオートポアIV9510型((株)島津製作所製)を用いた。また、測定条件は、Φ10μm〜3nmの細孔径の範囲を対象として、サンプル(正極)に侵入した水銀の体積を電極層内の空隙の体積相当分として、電極層の固形分の体積に対する固形分以外の体積の割合を空隙率とした。
【0084】
<負極の作製>
負極活物質として難黒鉛化炭素、導電助剤としてアセチレンブラック、及び結着剤としてPVDFを混合し、次いでスラリー粘度調製溶媒であるNMPに分散して、負極活物質スラリーを調製した。なお前記結着剤の含量が、前記負極活物質100質量部に対して12質量部、かつ前記導電剤100質量部に対して200質量部になるように前記結着剤を供試した。
【0085】
さらに集電体として、厚さ10μmの銅(Cu)箔を用意し、集電体の一方の面に上記のスラリーを塗布、乾燥後プレスすることで負極を作製した。
【0086】
<評価用セルの作製>
上記の通り作製した正極および負極を縦10cm、横10cmの大きさに切り出し、厚さ20μmのポリエチレン(PE)製セパレータを介して対向させるように積層して評価用電池要素を作製した。なお各電極にはニッケル(Ni)製およびアルミニウム(Al)製タブリードを超音波溶接にて接続させた。次いで前記評価用電池要素をラミネート外装対中に設置して電解液を1cc注入後真空封止して評価用セルを作製した。なお電解液は1MLiPFをPC:EC=1:1の溶媒に溶解させたものである。
【0087】
[実施例2]
活物質として、平均粒子径D50が3μmのマンガン酸リチウムを用い、集電体として、表面粗さRzjisが3.65μmであって厚さ20μmのアルミニウム(Al)箔を用いた。その他については実施例1と同様の方法・条件で、正極、負極及び評価用セルを作製した。
【0088】
[比較例1]
活物質として、平均粒子径D50が1μmのマンガン酸リチウムを用いた。また、導電剤としてアセチレンブラックを、及び結着剤として重量平均分子量35万のポリフッ化ビニリデンの未変性品を用いた。前記結着剤の含量が、前記活物質100質量部に対して13質量部、かつ前記導電剤100質量部に対して100質量部になるように前記結着剤を供試した。これらを混合し、次いでスラリー粘度調製溶媒であるNMPに分散して、正極活物質スラリーを調製した。
【0089】
一方、集電体として、表面粗さRzjisが2.81μmであって厚さ20μmのアルミニウム(Al)箔を準備し、集電体の一方の面に上記のスラリーを塗布し、乾燥後プレスすることで正極を作製した。
【0090】
なお、正極以外の構成要素については実施例と同様である。
【0091】
[比較例2]
活物質として、平均粒子径D50が3μmのマンガン酸リチウムを用い、集電体として、表面粗さRzjisが3.65μmであって厚さ20μmのアルミニウム(Al)箔を用いた。その他については比較例1と同様の方法・条件で、正極、負極及び評価用セルを作製した。
【0092】
[比較例3]
活物質として、平均粒子径D50が6μmのマンガン酸リチウムを用い、集電体として、表面粗さRzjisが6.02μmであって厚さ20μmのアルミニウム(Al)箔を用いた。また、結着剤として重量平均分子量50万のポリフッ化ビニリデンのカルボン酸変性品を用いた。前記結着剤の含量が、前記活物質100質量部に対して7質量部、かつ導電剤100質量部に対して60質量部になるように前記結着剤を供試した。これらを混合し、次いでスラリー粘度調製溶媒であるNMPに分散して、正極活物質スラリーを調製した。その他については比較例1と同様の方法・条件で、正極、負極及び評価用セルを作製した。
【0093】
<評価>
(剥離強度の測定)
・手段:T型試験片を用いた測定。
・試験片作製:電極を10mm幅に切断、両面テープで剥離可能なT型試験片状態に加工した。
・装置:インストロン社製 材料試験機5867
・測定条件:試験速度:200/分、試験温度は室温(23℃)
・強度データ:得られたデータのうち、前後10mmを削除し、60mmの範囲を対象とした(N=3の平均値)。
【0094】
上記した各試験の測定結果を表1に示す。
【0095】
【表1】

【0096】
【表2】

【0097】
表1において、剥離箇所とは、剥離が電極層の層内で起こったか(以下、「層内」と称す)、集電体と電極層との界面で起こったか(以下、「界面」と称す)を示している。剥離が「界面」ではなく「層内」で起こる場合、「界面」での結着性が強いことを意味し、かかる場合には、長期間に渡って抵抗の増加を抑制し、高い入出力特性の発現が要求される用途に求められる耐久性を満足できる。表1より、実施例1、2の正極における「界面」での結着性が強いことが分かる。このことは、剥離強度により定量的に説明することができ、実施例1、2の剥離強度が0.1N/mm以上であるのに対し、比較例1、2の剥離強度は0.1N/mm未満であることが分かる。また、空隙率については、実施例1、2では33.0%以上の好ましい範囲内にある一方、比較例1〜3はいずれも前記範囲外にあった。したがって、本発明により得られる電極は、従来型の電極と比較して、所望の電池容量を確保するのに十分な電解質量を保持することができるとともに、リチウムの拡散性を良好にできる。また電極層の厚さが一層薄くなるとさらに抵抗率を低減させることができる。併せて、電池の高エネルギー密度及び高出力がともに実現可能となることを明らかにした。
【0098】
(IV抵抗値の測定)
上記記載の評価用セルを用い、初回充放電後SOC50%の状態から測定を開始した。初期の測定条件は室温25℃、電流値1、2、3Cの平均値、放電時間10秒であった(評価装置:北斗電工製HJ100ISM8)。また、試験の初期とともに、試験開始から1か月後及び8か月後にも同様に測定を行った。なお、1か月及び8か月間の保存温度はともに55℃であり、測定温度はともに25℃であった。
【0099】
測定結果を表1に示すが、実測値とともに、比較例1の結果を基準値とする相対値も示した。表1中、「IV抵抗」(初期)及び「比較例1に対する相対値」(1か月後及び8か月後)とは、比較例1におけるセルのIV抵抗値を100とした場合の、各実施例及び比較例におけるIV抵抗の相対的な割合(%)または値を示す。「IV抵抗」や「比較例1に対する相対値」(以下、単に「相対値」ともいう)が低いほど、電気抵抗がより低減される。表1より、実施例における「IV抵抗」及び「相対値」は比較例のものと比較して常に有意に低いことが分かった。また、経時的に、実施例と比較例との間で「IV抵抗」及び「相対値」の差が広がり、比較例に対する実施例の優位性が一層明確になることも明らかとなった。
【0100】
(抵抗上昇率)
各セルについて、55℃で1か月及び8か月保存した後のIV抵抗値の変化率を各々測定した。測定結果を表1に示すが、初期値の結果を基準値とする増減率を表した。すなわち、「初期値からの抵抗上昇率」とは、測定初期におけるセルのIV抵抗値に対する、1か月後及び8か月後のIV抵抗値の上昇率(単位:%)を示す。「初期値からの抵抗上昇率」が低いほど、電池の耐久性の向上につながる。
【0101】
表1より、表面粗さRzjisが5μm以下であり、かつ剥離強度が0.1N/mm以上の場合(実施例1、2)、剥離箇所は常に電極層内であるとともに、実施例における「初期値からの抵抗上昇率」は比較例のものと比較して常に有意に低いことが分かった。また、経時的に、実施例と比較例との間で「IV抵抗」及び「初期値からの抵抗上昇率」の差が広がり、比較例に対する実施例の優位性が一層明確になることを明らかにした。すなわち、表面粗さRzjisが5μm以下であり、かつ剥離強度が0.1N/mm以上である正極においては、集電体と電極層との結着性が高いため、電気抵抗を低減させ、ひいては高い入出力特性及び高い耐久性を実現可能なことを明らかにした。これに対して、表面粗さRzjisが5μmを上回るか(比較例3)、または剥離強度が0.1N/mm未満の場合(比較例1、2)、電気抵抗(IV抵抗)及び「初期値からの抵抗上昇率」が実施例に比して高くなることを明らかにした。比較例3は、初期の剥離強度が0.1N/mm以上の場合であっても特性が実施例より悪い例を示したものである。比較例3の結果は、表面粗さがRzjisが5μmを上回る集電体において、結着剤種による結合力が十分でなければ結合状態を保持できない場合があることを示すものである。比較例3の結果を見ると、充放電に伴う活物質の膨張収縮の挙動を結合剤で抑制できないことに起因して、表面粗さの大きな部分に電解液等が浸入し、これにより集電体からの粒子脱離が促進され、剥離強度を保持できない現象が発生する。そのため、比較例3では抵抗値が上昇してしまうことを見出した。逆に、表面粗さが大きく剥離強度が弱い場合には、上記比較例3について述べたことと同様に、初期段階から構造を保持できないため、抵抗値の値は大きくなると推測される。なお、比較例1、2に関しては、共に界面剥離であることに起因して、抵抗値は実施例の値よりも高い。しかし、比較例1及び2を比較した場合、剥離強度が2倍になると「初期値からの抵抗上昇率」は約1/2に抑制されており、強度と抵抗上昇率との間の傾向は、上述した実施例及び比較例3についての傾向と同様であることを確認した。
【0102】
また、活物質の平均粒子径を5μm以下とすることにより、比表面積を大きくし、ひいては出力特性を向上させることができる(実施例1、2)。そして、実施例と比較例との比較より本発明の結着剤、特に分子量のより大きい変性フッ素系樹脂を用いた場合、従来よりも少量で集電体と電極層との結着性を一層高くすることができるとともに、電気抵抗を一層低減させることができることも明らかにした。
【0103】
以上の結果は、本発明により得られる二次電池用正極を用いることによって、従来の二次電池用正極を使用した場合と比較して一層、低抵抗化、電池の耐久性及び高耐久性が同時に達成されることを示している。
【0104】
次に、本発明の結着剤の添加量による二次電池用正極の効果を調べた。
【0105】
[実施例3]
マンガン酸リチウム(活物質)、アセチレンブラック(導電剤)、重量平均分子量50万のポリフッ化ビニリデンのカルボン酸変性品(結着剤)の含量が、前記活物質100質量部に対して5質量部、かつ前記導電剤100質量部に対して40質量部になるように前記結着剤を供試したことを除いては、実施例1と同様である。なお、正極以外の構成要素については実施例1と同様である。
【0106】
[実施例4]
マンガン酸リチウム(活物質)、アセチレンブラック(導電剤)、重量平均分子量50万のポリフッ化ビニリデンのカルボン酸変性品(結着剤)の含量が、前記活物質100質量部に対して10質量部、かつ前記導電剤100質量部に対して80質量部になるように前記結着剤を供試したことを除いては、実施例1と同様である。なお、正極以外の構成要素については実施例1と同様である。
【0107】
<評価>
上記実施例1などと同様である。測定結果を表2に示す。
【0108】
【表3】

【0109】
表面粗さRzjisが5μm以下であり、かつ剥離強度が0.1N/mm以上である場合に、表面粗さRzjis及び剥離強度を調節することにより、集電体と電極層との高い結着性を維持しつつ、IV抵抗と抵抗上昇率とを所望の関係に調節することができることを明らかにした。より具体的には、本発明の結着剤は、抵抗が増大しない程度に少量の添加で所望の結着力を得ることができるが、その中で結着剤量を増やすほど剥離強度を増大させ、IV抵抗をより低く維持しつつ抵抗上昇率を低下させることができる(実施例3、4)。
【0110】
上記のように、本発明の二次電池用正極によれば、集電体と電極層との結着性を高めて、電気抵抗を低減させることができ、更に、より小さな平均粒子径の活物質、及びより少量の結着剤を用いることにより、従来よりも高い結着性と容量密度とを兼ね備えた二次電池が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0111】
【図1】本発明の一実施形態における双極型電池を示す断面図である。
【図2】本発明の一実施形態における積層型電池を示す断面図である。
【図3】本発明の一実施形態における双極型電池を複数個接続して得られる組電池を示す斜視図である。
【図4】本発明の一実施形態における組電池を搭載する自動車の概略図である。
【符号の説明】
【0112】
10 双極型電池、
11 集電体、
11a 正極側最外層集電体、
11b 負極側最外層集電体、
13 正極活物質層、
15 負極活物質層、
17 電解質層、
19 単電池層、
21 電池要素、
25 正極タブ(端子)、
27 負極タブ(端子)、
29 ラミネートシート、
31 絶縁層、
33 正極集電体、
35 負極集電体、
40 組電池、
42、43 電極ターミナル、
50 自動車、
60 積層型電池。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
集電体と、
活物質、導電剤及び結着剤を含む電極層と、からなる二次電池用正極において、
前記集電体の表面粗さRzjisが5μm以下であり、前記電極層と前記集電体との間の剥離強度が0.1N/mm以上である、二次電池用正極。
【請求項2】
前記活物質の平均粒子径が5μm以下である、請求項1に記載の二次電池用正極。
【請求項3】
前記結着剤の量が、前記活物質100質量部に対して10質量部以下であり、前記導電剤100質量部に対して90質量部以下である、請求項1または2に記載の二次電池用正極。
【請求項4】
前記二次電池用正極の占める体積において、電極層の固形分の体積に対する固形分以外の体積の割合を表す空隙率が33.0%以上である、請求項1〜3のいずれか1項に記載の二次電池用正極。
【請求項5】
前記結着剤が、フッ素系樹脂を主成分として含む、請求項1〜4のいずれか1項に記載の二次電池用正極。
【請求項6】
前記導電剤は、黒鉛、無定形炭素及び繊維状炭素からなる群から選択される1種以上の炭素材料を含有する、請求項1〜5のいずれか1項に記載の二次電池用正極。
【請求項7】
前記集電体が、アルミニウム箔、または物理的処理若しくは化学的処理されてなるアルミニウム箔である、請求項1〜6のいずれか1項に記載の二次電池用正極。
【請求項8】
前記活物質が、マンガン酸リチウム、ニッケル酸リチウム、コバルト酸リチウム、マンガンニッケルコバルト酸リチウム及びオリビン型燐酸鉄からなる群から選択される一種以上である、請求項1〜7のいずれか1項に記載の二次電池用正極。
【請求項9】
請求項1〜8のいずれか1項に記載の二次電池用正極によって構成される、非水電解液二次電池。
【請求項10】
外装体としてアルミラミネートを用いる、請求項9に記載の非水電解液二次電池。
【請求項11】
請求項9または10に記載の非水電解液二次電池の複数個を、並列及び/または直列に複数個接続して構成される、組電池。
【請求項12】
請求項9または10に記載の非水電解液二次電池または請求項11に記載の組電池を駆動用電源として搭載した、車両。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2009−43703(P2009−43703A)
【公開日】平成21年2月26日(2009.2.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−73936(P2008−73936)
【出願日】平成20年3月21日(2008.3.21)
【出願人】(000003997)日産自動車株式会社 (16,386)
【出願人】(000001100)株式会社クレハ (477)
【Fターム(参考)】