説明

非水電解質リチウムイオン二次電池用正極材料およびその製造方法

【課題】 内部抵抗の上昇や電池特性の低下といった問題の発生を抑制し、リチウム鉄リン酸化合物からなる正極活物質を用いた電池の特性を改善しうる手段を提供する。
【解決手段】 リチウム鉄リン酸化合物からなる粒子2の表面にリチウム化合物3が添着されてなる非水電解質リチウムイオン二次電池用正極材料であって、添着されたリチウム化合物はリチウム鉄リン酸化合物粒子の被服層を形成しており、前記被覆層の厚さが3〜1000nmである正極材料。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、非水電解質リチウムイオン二次電池用正極材料に関する。詳細には、本発明は、正極活物質としてリチウム鉄リン酸化合物を用いた非水電解質リチウムイオン二次電池用正極材料の改良に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、大気汚染や地球温暖化に対処するため、二酸化炭素量の低減が切に望まれている。自動車業界では、電気自動車(EV)やハイブリッド電気自動車(HEV)の導入による二酸化炭素排出量の低減が期待されており、これらの実用化の鍵を握るモータ駆動用二次電池の開発が盛んに行われている。
【0003】
モータ駆動用二次電池としては、全ての電池の中で最も高い理論エネルギーを有するリチウムイオン二次電池が注目を集めており、現在急速に開発が進められている。リチウムイオン二次電池は、一般に、バインダを用いて正極活物質等を正極集電体の両面に塗布した正極と、バインダを用いて負極活物質等を負極集電体の両面に塗布した負極とが、電解質層を介して接続され、電池ケースに収納される構成を有している。
【0004】
このリチウムイオン二次電池の正極活物質としては、近年、リチウム鉄リン酸化合物(LiFePO)が注目を浴びている。このリチウム鉄リン酸化合物は、他の正極活物質と比較して、高温の電解質中においても比較的安定であり、安価で、環境親和性が高いという利点を有している。
【0005】
しかしながら、リチウム鉄リン酸化合物は導電性がそれほど高くなく、高負荷時の充放電特性に劣るという問題を抱えている。特に、車両のモータ駆動用電源として車載され、高出力での電力供給が期待される車載用リチウムイオン二次電池において、この問題は顕著である。
【0006】
そこで、上記の問題を解決することを目的として、リチウム鉄リン酸化合物の粒子表面を導電性の炭素質物質で被覆してなる複合体が提案されている(特許文献1を参照)。
【特許文献1】特開2003−292309号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、前記文献1に記載されているような複合体を正極活物質として用い、高出力条件下において充放電を繰り返すと、被覆された炭素質物質粒子間が剥離したり、活物質の1次粒子が膨張収縮を繰り返すことで1次粒子どうしが剥離し、2次粒子が崩壊したりしてしまう。また、高温での充放電を繰り返すと、鉄イオンと電解液とが反応し、鉄イオンが溶解して結晶構造が崩壊し、電解液が酸化される。その結果、正極活物質の内部抵抗が増大したり、電池の容量や出力などの特性が低下したりするという問題があった。さらに、電解液の酸化によりCOなどのガスが発生し、電池が膨れてしまうという問題もあった。
【0008】
そこで、本発明は、上記のような問題の発生を抑制し、リチウム鉄リン酸化合物からなる正極活物質を用いた電池の特性を改善しうる手段を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、リチウム鉄リン酸化合物からなる粒子の表面にリチウム化合物(以下、「Li化合物」とも称する)が添着されてなる、非水電解質リチウムイオン二次電池用正極材料である。
【発明の効果】
【0010】
本発明の正極材料を非水電解質リチウムイオン二次電池に採用することで、非水電解質リチウムイオン二次電池の電池特性が改善されうる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
本発明の第1の非水電解質リチウムイオン二次電池用正極材料は、正極活物質であるリチウム鉄リン酸化合物からなる粒子の表面にLi化合物が添着されてなることを特徴とする。本発明の正極材料においては、正極活物質粒子の表面にLi化合物が添着されることで、鉄イオンと電解液との反応が抑制される。その結果、鉄イオンと電解液との反応に伴う上記のような問題の発生が防止されうる。
【0012】
また、正極活物質であるリチウム鉄リン酸化合物が1次粒子が凝集してなる2次粒子である場合には、2次粒子を構成する1次粒子間の剥離が抑制され、2次粒子の崩壊が防止されうる。このメカニズムは明らかではないが、Li化合物を添着することで、充放電による1次粒子の膨張収縮が緩和されるか、または1次粒子の結着力が増強されることによるものと推測される。ただし、このメカニズムはあくまでも推測であって、上記のメカニズム以外のメカニズムにより本発明の作用効果が得られているとしても、本発明の技術的範囲は何ら影響を受けない。
【0013】
以下、本発明の実施の形態について詳細に説明するが、本発明の技術的範囲は特許請求の範囲の記載に基づいて定められるべきであり、下記の具体的な形態のみには制限されない。
【0014】
リチウム鉄リン酸化合物は、正極活物質として機能する。従って、リチウム原子、鉄原子、およびリン原子を含有し、正極活物質として機能しうる酸化物であれば、その具体的な組成などの形態は特に制限されない。また、上記の原子がその他の金属原子により置換されていてもよい。一例を挙げると、下記化学式1:
[化学式1]
LiFe
(式中、0<a≦1.2、0.6≦b≦1.1、0≦c≦0.4、0.9≦d≦1.1、3.6≦e≦4.1、0≦f≦0.4であり、Mは、Al、Mg、Ca、Ti、V、Cr、Fe、Ga、Cu、Zn、Sr、Y、Zr、Nb、およびMoからなる群から選択される1種または2種以上の原子であり、Nは、F、ClおよびSからなる群から選択される1種または2種以上の原子であり、Mおよび/またはNが2種以上の原子である場合には、cおよび/またはfは、2種以上の原子の合計値である。)
で示される組成が例示される。なお、リチウム鉄リン酸化合物の組成は、例えば、ICP(誘導結合プラズマ)発光分光分析法、原子吸光光度法、蛍光X線法、キレート滴定法、およびパーティクルアナライザ分析法などにより測定されうる。正確な組成が測定されるのであれば、その他の分析法が採用されてもよく、このことは、後述するその他のパラメータの測定についても同様である。
【0015】
リチウム鉄リン酸化合物からなる粒子の平均粒径は、正極活物質としての反応性およびサイクル耐久性などの観点から、好ましくは0.1〜20μmである。前記粒子は、1次粒子が凝集してなる2次粒子であってもよい。かような形態において、2次粒子を構成する1次粒子の平均粒径は、好ましくは0.01〜5μmである。これらの平均粒径は、例えば、走査型電子顕微鏡(SEM)や透過型電子顕微鏡(TEM)などを用いて観察することにより測定されうる。
【0016】
リチウム鉄リン酸化合物からなる粒子の形状は球状の形態のみに制限されず、板状、針状、柱状、角状などの形態であってもよい。粒子の形状は、所望の電池特性(例えば、充放電特性やサイクル耐久性など)を考慮して適宜選択されうる。粒子の形状が球状以外の場合には粒子の形状が一様ではないため、かような場合には粒子の絶対最大長を粒子の平均粒径とする。ここで「絶対最大長」とは、図1に示すように、粒子1の輪郭線上の任意の2点間の距離のうち、最大の距離Lをいう。絶対最大長を測定する際には、電子顕微鏡写真の一定の領域中に存在する各粒子の絶対最大長の平均値を用いることが好ましい。あるいは、本発明に用いるリチウム鉄リン酸化合物を篩分けにより選別する場合には、篩分けに用いる篩の篩い目(メッシュスルーサイズまたはメッシュパスサイズ)を絶対最大長としてもよい。
【0017】
本発明の正極材料の正極活物質であるリチウム鉄リン酸化合物からなる粒子の表面付近に存在する鉄原子の平均価数は、好ましくは+1.95以下、より好ましくは+1.90以下である。かような形態によれば、正極活物質中の鉄イオンにより電解液が酸化される反応がより一層抑制されうる。なお、リチウム鉄リン酸化合物からなる粒子の「表面付近」とは、粒子の表面から、粒子の粒径の1/20の深さまでの領域をいう。例えば、リチウム鉄リン酸化合物からなる粒子の粒径が2μmの場合、粒子の「表面付近」とは、粒子の表面から、深さ100nmまでの領域である。また、リチウム鉄リン酸化合物からなる粒子の表面付近に存在する鉄原子の価数は、例えば、電子エネルギー損失分光法(EELS)により測定されうる。
【0018】
リチウム鉄リン酸化合物からなる粒子の表面に添着されるLi化合物は、特に制限されず、従来公知のLi化合物が用いられうる。また、新たに開発されたLi化合物が用いられてもよい。Li化合物の具体例としては、例えば、LiSO、LiPO、LiPON、LiO−B、LiO−B−LiI、LiO−SiS、LiS−SiS−LiPO、LiCoO、LiMn、LiOH、LiCO、LiS−SiS、LiFePO、LiBr、LiI、酢酸リチウム、リチウムアセチリドエチレンジアミン、安息香酸リチウム、フッ化リチウム、シュウ酸リチウム、ピルビン酸リチウム、ステアリン酸リチウム、酒石酸リチウムなどが例示される。なかでも、LiSO、LiPO、LiPON、LiO−B、LiO−B−LiI、LiO−SiS、LiS−SiS−LiPO、LiCoO、LiMn、LiOH、およびLiCOが好ましく用いられうる。これらのLi化合物は、1種のみが単独で用いられてもよく、2種以上が併用されてもよい。ただし、これらの形態のみには制限されず、その他のLi化合物が用いられても、勿論よい。なお、Li化合物の組成は、例えば、ICP(誘導結合プラズマ)発光分光分析法、原子吸光光度法、蛍光X線法、キレート滴定法、およびパーティクルアナライザ分析法などにより測定されうる。
【0019】
Li化合物の形状は特に制限されず、リチウム鉄リン酸化合物について上記で説明したような形状が同様に採用されうる。また、Li化合物の1次粒子の平均粒径についても特に制限されないが、高い出力が得られるという観点から、好ましくは10〜1000nm、より好ましくは50〜300nmである。2次粒子の平均粒径についても特に制限されないが、高い出力が得られるという観点から、好ましくは50nm〜10μm、より好ましくは100nm〜5μmである。
【0020】
Li化合物は、リチウムイオン伝導性であることが好ましい。これは、リチウムイオン伝導性を有しないLi化合物が添着された場合、添着された箇所ではリチウムイオンが伝導しないために正極材料の内部抵抗が増大し、電池性能が低下してしまうためである。なお、上記で列挙したLi化合物はいずれもリチウムイオン伝導性を有する。
【0021】
Li化合物がリチウムイオン伝導性を有する場合、その伝導性は、好ましくは10−15S/m以上、より好ましくは10−12S/m以上である。リチウムイオン伝導性は、例えば、交流インピーダンス法、定電位ステップ法、定電流ステップ法などにより測定されうる。
【0022】
リチウム鉄リン酸化合物からなる粒子の表面にLi化合物が添着される具体的な形態は、特に制限されない。例えば、図2に示す形態が例示される。図2は、リチウム鉄リン酸化合物からなる粒子2の表面に、Li化合物からなる被覆層3が形成されてなる形態を有する本発明の正極材料の模式断面図である。一方、図3に示す形態もまた、例示されうる。図3は、リチウム鉄リン酸化合物からなる粒子2の表面に、Li化合物からなる粒子4が点在するように添着されてなる形態を有する本発明の正極材料の模式斜視図である。なお、Li化合物が添着されるリチウム鉄リン酸化合物からなる粒子2の「表面」とは、1次粒子の表面であってもよく、1次粒子が凝集してなる2次粒子の表面であってもよい。図2および図3に示すリチウム鉄リン酸化合物からなる粒子2を2次粒子と仮定すれば、図2および図3は、2次粒子の表面にLi化合物が添着されてなる形態を示す図となる。
【0023】
上記の図2および図3に示す形態は、いずれが採用された場合であっても、鉄イオンと電解液との反応が抑制され、さらに、正極材料を構成する2次粒子の崩壊が抑制されうる。従って、いずれの形態を採用するかは、用いられるリチウム鉄リン酸化合物やLi化合物の組成、所望の電池性能や入手可能な製造手段などを考慮することにより、適宜選択されうる。例えば、鉄イオンと電解液との反応や2次粒子の崩壊を効果的に防止したい場合には、図2に示すような被覆層3が形成される形態が好ましく採用されうる。一方、正極活物質中のリチウムイオンと電解液とを直接接触させて反応させたい場合には、図3に示すようなLi化合物からなる粒子4が表面に点在する形態が好ましく採用されうる。
【0024】
以下、図2および図3に示す形態のそれぞれの好ましい形態について、説明する。
【0025】
まず、図2に示す形態について、詳細に説明する。上述したように、図2に示す形態においては、リチウム鉄リン酸化合物からなる粒子2の表面に、Li化合物が添着されることにより、Li化合物からなる被覆層3が形成されている。
【0026】
かような被覆層3の厚さは、好ましくは3〜1000nm、より好ましくは5〜1000nm、さらに好ましくは5〜700nmである。被覆層3の厚さが3nm未満であると、正極活物質中の鉄イオンと電解液との反応や2次粒子の崩壊が充分に抑制されない虞がある。一方、被覆層3の厚さが1000nmを超えると、Li化合物がたとえリチウムイオン伝導性を有するものであっても、正極材料の内部抵抗が上昇し、電池性能が低下する虞がある。なお、被覆層3の厚さは、例えば、正極材料の断面の電子顕微鏡写真を観察することにより測定されうる。
【0027】
続いて、図3に示す形態について、詳細に説明する。上述したように、図3に示す形態においては、リチウム鉄リン酸化合物からなる粒子2の表面に、Li化合物からなる粒子4が点在するように添着されている。
【0028】
かような形態において、リチウム鉄リン酸化合物からなる粒子2の体積に対する、添着されたLi化合物からなる粒子4の体積比は、好ましくは0.5〜250%、より好ましくは0.7〜150%である。Li化合物からなる粒子の体積比が0.5%未満であると、正極活物質中の鉄イオンと電解液との反応や2次粒子の崩壊が充分に抑制されない虞がある。一方、Li化合物からなる粒子の体積比が250%を超えると、Li化合物がたとえリチウムイオン伝導性を有するものであっても、正極材料の内部抵抗が上昇し、電池性能が低下する虞がある。なお、前記体積比は、例えば、正極材料の電子顕微鏡写真を観察することにより測定されうる。
【0029】
また図3に示す形態において、点在するように添着されてなるLi化合物からなる粒子4の平均粒径は、好ましくは10〜200nm程度であり、より好ましくは20〜100nmである。Li化合物からなる粒子4の平均粒径が10nm未満であると、Li化合物を添着させることによる効果が充分に得られない虞がある。一方、前記平均粒径が200nmを超えると、添着による効果が逓減し、さらに、Li化合物による抵抗が増大する虞がある。
【0030】
本発明の正極材料の表面には、さらに、導電性材料が添着されていることが好ましい。かような形態によれば、本来の導電性があまり高くないリチウム鉄リン酸化合物を正極活物質として採用する本発明の正極材料の導電性が向上しうる。なお、導電性材料が正極材料の表面に添着される形態については特に制限されず、Li化合物がリチウム鉄リン酸化合物の表面に添着される形態について上記で説明した図2や図3に示す形態が同様に採用されうる。
【0031】
例えば、導電性材料が添着されることにより、正極材料の表面に導電性材料からなる被覆層が形成される場合、前記被覆層の厚さは、好ましくは3〜1000nm、より好ましくは5〜500nmである。また、導電性材料からなる粒子が点在するように添着される場合、正極材料(Li化合物が添着されてなるリチウム鉄リン酸化合物)の体積に対する、添着された導電性材料からなる粒子の体積比は、好ましくは0.5〜100%、より好ましくは0.6〜80%である。
【0032】
なお、場合によっては、リチウム鉄リン酸化合物からなる粒子の表面に、Li化合物からなる粒子および導電性材料からなる粒子の双方が点在する形態も採用されうる。
【0033】
導電性材料は、導電性を有する単体または化合物などの材料であれば特に制限されないが、前記導電性材料は、炭素、銀、白金、パラジウム、金、インジウム、アルミニウム、チタン、タンタルからなる群から選択される1種または2種以上の元素からなる材料であることが好ましい。より好ましくは、導電性材料は炭素からなり、炭素からなる導電性材料としては、アセチレンブラック、カーボンブラック、グラファイト、気相成長カーボンファイバー(VGCF)などが例示される。
【0034】
続いて、本発明の正極材料の製造方法について説明する。本発明の正極材料は、例えば、リチウム鉄リン酸化合物の原料を焼成してリチウム鉄リン酸化合物を調製し(焼成工程)、このリチウム鉄リン酸化合物の粒子の表面にLi化合物を添着させる(添着工程)ことにより製造されうる。
【0035】
以下、上記の製造方法の好ましい一形態について詳細に説明するが、本発明の技術的範囲は下記の形態のみには制限されない。
【0036】
まず、焼成工程について説明する。
【0037】
焼成工程においては、上述したように、リチウム鉄リン酸化合物の原料を焼成して、リチウム鉄リン酸化合物を調製する。
【0038】
焼成工程においては、まず、リチウム鉄リン酸化合物の原料を準備する。前記原料は、焼成によりリチウム鉄リン酸化合物が調製されうるものであれば特に制限されず、単一の化合物であってもよいし、2種以上の化合物の混合物であっても構わない。なお、原料中の各成分の組成については特に制限されず、得られるリチウム鉄リン酸化合物の所望の組成に応じて適宜調節されうる。また、原料が2種以上の化合物の混合物である場合、2種以上の化合物を混合するための混合手段は特に制限されず、従来公知の手段が採用されうる。この際、均一な混合物を得るためには、好ましくは湿式混合が用いられる。湿式混合された原料を、例えば共沈法により共沈させて、後述するように焼成するとよい。場合によっては、原料を篩分けすることによって、粒径の揃った原料のみを選別し、製造に用いてもよい。
【0039】
原料の一例としては、リチウム化合物、鉄化合物、およびリン化合物の混合物が挙げられる。また、原料の好ましい形態としては、硫酸鉄、水酸化鉄、およびこれらの水和物からなる群から選択される1種または2種以上の鉄化合物、リチウム化合物、並びにリン化合物の混合物の形態が挙げられる。
【0040】
すなわち、本発明の第2は、硫酸鉄、水酸化鉄、およびこれらの水和物からなる群から選択される1種または2種以上の鉄化合物、リチウム化合物、並びにリン化合物の混合物を焼成してリチウム鉄リン酸化合物からなる粒子を得る焼成段階と、前記リチウム鉄リン酸化合物からなる粒子の表面にリチウム化合物を添着させる添着段階とを有する、非水電解質リチウムイオン二次電池用正極材料の製造方法である。
【0041】
かような原料を焼成することにより、酸化物を構成する各原子の分散性に優れ、結晶性が高く、かつ、不可逆容量の小さいリチウム鉄リン酸化合物が調製されうる。特に、鉄原子の供給源として硫酸鉄を用いると、上記の特性がより一層優れる正極活物質が得られる。なお、リチウム鉄リン酸化合物の原料であるリチウム化合物の具体的な形態について特に制限はないが、例えば、水酸化物、炭酸化合物、酸化物といった形態が挙げられ、なかでも水酸化物の形態が好ましい。同様に、リン化合物の具体的な形態についても特に制限はないが、リン酸塩の形態が好ましく、例えば、アンモニウム塩などの形態が挙げられる。
【0042】
本発明の製造方法においては、上記の原料の混合物中に、同時に還元剤を混合させるとよい。還元剤を混合することで、鉄原子の酸化が防止されうる。還元剤の具体的な形態は特に制限されないが、例えば、アスコルビン酸などの粉末が例示される。
【0043】
焼成条件についても、リチウム鉄リン酸化合物が得られるのであれば特に制限されない。一例を挙げると、焼成温度は、500〜1000℃程度、好ましくは600〜900
℃である。焼成時間は、6〜36時間程度、好ましくは10〜30時間である。焼成時の雰囲気条件についても特に制限はないが、不活性ガス雰囲気下にて焼成を行うとよい。不活性ガス雰囲気下にて焼成を行うことにより、得られるリチウム鉄リン酸化合物の表面付近に存在する鉄原子の酸化が防止され、これらの鉄原子の平均価数を+1.95以下とすることができる。
【0044】
上記の焼成工程後、得られたリチウム鉄リン酸化合物を室温程度まで冷却するが、この際、急速に冷却するとよい。急冷することで、平均粒径の小さいリチウム鉄リン酸化合物の粒子を得ることができる。具体的な冷却速度は、好ましくは150℃/min以上、より好ましくは170℃/min以上である。この際、冷却速度を速くすると、より平均粒径の小さい酸化物の粒子が得られる。また、上記の急冷は、アルゴンガスや窒素ガスなどの不活性ガス雰囲気下において行うとよい。これにより、酸化物の表面付近に存在する鉄原子の酸化が防止される。
【0045】
上記の焼成工程に用いられる装置は特に制限されず、従来公知の焼成炉や製膜用真空チャンバーなどが適宜採用されうる。
【0046】
必要であれば、上記の焼成工程後に、得られたリチウム鉄リン酸化合物の粒子を篩分けすることで、所望の平均粒径を有する粒子のみを選別してもよい。
【0047】
以上、原料を焼成してリチウム鉄リン酸化合物を自ら調製する形態について説明したが、かような形態のみには制限されない。場合によっては、市販のリチウム鉄リン酸化合物を購入して、必要に応じて分級などを行い、後述の添着工程に用いてもよい。
【0048】
続いて、添着工程について説明する。
【0049】
添着工程においては、上述したように、上記の焼成工程において調製したリチウム鉄リン酸化合物の粒子の表面にLi化合物を添着させて、本発明の正極材料を得る。
【0050】
添着工程においては、上記で調製したリチウム鉄リン酸化合物の粒子と、添着させるためのLi化合物を準備する。これらの好ましい形態については、上記で説明した通りであるため、ここでは説明を省略する。
【0051】
添着の具体的な方法は特に制限されず、従来公知の添着技術が適宜採用されうる。図2に示すようにLi化合物からなる被覆層3が形成される形態と、図3に示すようにLi化合物からなる粒子4が点在する形態とのいずれが採用されるかは、用いられるリチウム鉄リン酸化合物の粒子およびLi化合物の体積比および平均粒径や、添着方法を調整することにより、適宜制御されうる。
【0052】
Li化合物の添着方法としては、好ましくは乾式方法が採用されうる。すなわち、上記の焼成工程で調製されたリチウム鉄リン酸化合物とLi化合物とを乾式混合することで、前記酸化物の粒子の表面にLi化合物が添着される。
【0053】
乾式混合の具体的な手法は特に制限されないが、例えば、化学気相蒸着(CVD)法、物理気相蒸着(PVD)法、パルスレーザ蒸着(PLD)法、またはスパッタリング法などの手法が例示される。これらの手法は、図2に示す被覆層3が形成される形態の正極材料の製造に特に有利である。また、例えば、ハイブリダイゼーションシステム(株式会社奈良機械製作所製)、コスモス(川崎重工業株式会社製)、メカノフュージョン(ホソカワミクロン株式会社製)、サーフュージングシステム(日本ニューマチック工業株式会社製)、メカノミル、スピードニーダー、スピードミル、スピラコーター(以上、岡田精工株式会社製)などの手法も用いられうる。これらの手法は、図3に示す点在型の形態の正極材料の製造に特に有利である。ただし、上述した手法にのみには制限されず、その他の手法が用いられても、勿論よい。
【0054】
必要に応じて、得られた粒子を加熱してもよい。加熱することにより、添着したLi化合物が粒子の表面に強固に接着しうる。
【0055】
以上、乾式の添着方法について詳細に説明したが、場合によっては湿式の添着方法も用いられうる。かような場合には、上述した焼成工程において同時に添着工程を行うとよい。すなわち、上記の焼成工程においてリチウム鉄リン酸化合物の原料を湿式混合する際に、Li化合物を同時に混合し、共沈させ、さらに焼成することで、表面にLi化合物が添着されてなるリチウム鉄リン酸化合物の粒子(本発明の正極材料)が得られる。
【0056】
その後、必要に応じて、導電性材料を添着させてもよい。導電性材料の好ましい形態については上記で説明した通りである。また、導電性材料の添着方法については、Li化合物の添着について上記で説明した方法が同様に用いられうる。
【0057】
本発明の正極材料は、非水電解質リチウムイオン二次電池の正極に好適に用いられる。すなわち、本発明の第3は、本発明の第1の非水電解質リチウムイオン二次電池用正極材料を用いた正極である。上述したように、本発明の正極材料を用いることにより、内部抵抗の上昇や電池性能の低下が抑制されうる。以下、本発明の正極材料を用いた非水電解質リチウムイオン二次電池用正極の好ましい一形態について詳細に説明するが、本発明の技術的範囲は下記の形態のみには制限されない。
【0058】
本発明の正極は、集電体と、前記集電体上に位置する活物質層とを有し、本発明の第1の正極材料を前記活物質層中に含む点に特徴を有する。本発明の正極においては、前記活物質層において電池反応が進行し、この電池反応によって生じた電子は、集電体を通じて集められ、外部の負荷に対して、電気的仕事をする。
【0059】
以下、本発明の正極を構成する集電体および活物質層について説明する。
【0060】
集電体は、アルミ箔、銅箔、ステンレス(SUS)箔など、導電性の材料から構成される。集電体の一般的な厚さは、10〜50μmである。ただし、この範囲を外れる厚さの集電体を用いてもよい。集電体の大きさは、本発明の正極の使用用途に応じて決定される。大型の電池に用いられる大型の正極を作製するのであれば、面積の大きな集電体が用いられる。小型の正極を作製するのであれば、面積の小さな集電体が用いられる。
【0061】
活物質層は、前記集電体の面上に位置し、本発明の正極材料を含む。前記活物質層に含まれる本発明の正極材料の好ましい形態については本発明の第1の欄で説明した通りであるため、ここでは詳細な説明を省略する。
【0062】
活物質層には、必要に応じて、本発明の正極材料以外の正極活物質が含まれてもよい。本発明の正極材料以外の正極活物質としては特に制限はなく、所望の電池性能などに応じて、正極活物質として従来公知の化合物が適宜用いられうる。一例としては、リチウムと遷移金属との複合酸化物が挙げられる。具体的には、LiMnなどのLi−Mn系複合酸化物、LiCoOなどのLi−Co系複合酸化物、LiCrやLiCrOなどのLi−Cr系複合酸化物、LiFeOなどのLi−Fe系複合酸化物などが例示される。また、これらの複合酸化物に含まれる遷移金属の一部が他の元素により置換された化合物、例えば、LiNiCoMn酸化物など、が用いられてもよい。これらの他にも、リチウム硫酸化合物、V、MnO、TiS、MoS、MoOなどの遷移金属の酸化物や硫化物、PbO、AgO、NiOOHなどが活物質層に含まれてもよい。
【0063】
活物質層には、必要に応じて、上記の物質以外の物質もまた、含まれうる。例えば、バインダ、導電助剤、リチウム塩(支持電解質)、イオン伝導性ポリマー等が含まれうる。また、場合によっては、活物質層に含まれるイオン伝導性ポリマーを重合させるための重合開始剤が含まれてもよい。
【0064】
バインダとしては、ポリフッ化ビニリデン(PVdF)やゴム系バインダ等が挙げられる。
【0065】
導電助剤とは、電極における活物質層の導電性を向上させるために配合される添加物をいう。導電助剤としては、アセチレンブラック、グラファイトなどのカーボン粉末、気相成長カーボンファイバー(VGCF)、メソフェーズ系炭素、難黒鉛化性炭素、ケッチェンブラック、炭素繊維等が挙げられる。
【0066】
リチウム塩(支持電解質)としては、LiBETI(リチウムビス(パーフルオロエチレンスルホニルイミド);Li(CSON)、LiPF、LiBF、LiClO、LiAsF、LiCFSO、LiBOB等が挙げられる。
【0067】
イオン伝導性ポリマーとしては、例えば、ポリエチレンオキシド(PEO)系およびポリプロピレンオキシド(PPO)系のポリマーが挙げられる。ここで、前記イオン伝導性ポリマーは、本発明の正極が採用される非水電解質リチウムイオン二次電池の電解質層において電解質として用いられるイオン伝導性ポリマーと同じであってもよく、異なっていてもよいが、同じであることが好ましい。
【0068】
重合開始剤は、イオン伝導性ポリマーの架橋性基に作用して、架橋反応を進行させるために配合される。開始剤として作用させるための外的要因に応じて、熱重合開始剤、光重合開始剤などに分類される。重合開始剤としては、例えば、熱重合開始剤であるアゾビスイソブチロニトリル(AIBN)や、光重合開始剤であるベンジルジメチルケタール(BDK)等が挙げられる。
【0069】
活物質層中に含まれる成分の配合比や、活物質層の大きさ(面積)は、特に限定されない。これらの形態は、電極の活物質層についての公知の知見を適宜参照することにより、調整されうる。
【0070】
本発明の正極の製造方法について特に制限はなく、電池の正極の製造に関する従来公知の知見を適宜参照することにより製造されうる。一例を挙げると、本発明の正極材料を含む正極材料スラリーを調製し、この正極材料スラリーを集電体の面に塗布して乾燥させることにより、本発明の正極が製造されうる。
【0071】
以下、上記の製造方法の好ましい一形態について詳細に説明する。
【0072】
まず、正極材料スラリーを調製する工程について説明する。
【0073】
この工程においては、本発明の第1の正極材料を、適当なスラリー粘度調整溶媒中に添加し分散させて正極材料スラリーを調製する。また、必要であれば、正極材料スラリー中には、本発明の正極材料以外の正極活物質、バインダ、導電助剤、リチウム塩(支持電解質)、イオン伝導性ポリマー、および重合開始剤等の他の成分を添加してもよい。ここで、正極材料スラリー中に含まれる各成分の好ましい形態については、上記で説明した通りであるため、ここでは説明を省略する。
【0074】
なお、正極材料スラリーを調製する際には、各成分の添加の順序などは特に制限されない。例えば、前記スラリー中に含まれる溶媒以外の全ての成分の混合物を調製した後、前記混合物に溶媒を添加し、混合して正極材料スラリーを調製してもよい。また、前記スラリー中に含まれる溶媒以外のいくつかの成分の混合物を調製した後、前記混合物に溶媒を添加し、混合した後、さらに残りの成分を添加し、混合して正極材料スラリーを調製してもよい。この際、各成分の添加や混合のために用いられる装置は特に制限されず、例えば、ホモミキサー等が挙げられる。
【0075】
次に、正極材料スラリーを塗布する工程について説明する。
【0076】
この工程においては、前記の工程において調製された正極材料スラリーを、適当な集電体上に塗布する。正極材料スラリーを集電体上に塗布する方法は特に制限されず、コーター等の従来公知の方法が用いられうる。可能であれば、スプレー印刷、インクジェット印刷等の印刷方法も用いられうる。次いで、正極材料スラリーが塗布された前記集電体を乾燥させて、スラリー中に含有される溶媒を除去する。乾燥させる際には、例えば、真空乾燥機が用いられうる。また、乾燥条件は、スラリーの種々の性状に応じて変化するため、一義的に決定されえないが、通常60〜130℃で5〜60分程度である。
【0077】
ここで、活物質層中に含まれるイオン伝導性ポリマーを重合させるための重合開始剤が活物質層中に含まれる場合には、その後、種々の方法により前記イオン伝導性ポリマーを重合(架橋)させて、正極を完成させる。この際の重合(架橋)方法は特に制限されず、活物質層中に含まれる重合開始剤の種類に応じて適宜選択されうる。例えば、熱重合、光(紫外線)重合、放射線重合、電子線重合等が挙げられる。重合(架橋)させるための装置および条件は特に制限されず、従来公知の装置および条件が用いられうる。
【0078】
また、必要であれば、上記の方法により製造された正極にプレス操作を行ってもよい。このプレス操作を行うことで、得られる正極の表面をより平坦化させることが可能となる。前記プレス操作に用いられる装置および条件は特に制限されず、従来公知の装置および方法が適宜用いられうる。
【0079】
なお、工業的な生産過程においては、生産性を向上させるために、最終的な電池のサイズよりも大きい正極を作製し、これを所定の大きさにカットする工程を採用してもよい。
【0080】
本発明の正極は、非水電解質リチウムイオン二次電池に好適に用いられる。すなわち、本発明の第4は、本発明の第3の非水電解質リチウムイオン二次電池用正極を用いた電池である。かような電池においては、上述したように、内部抵抗の上昇や電池性能の低下が抑制されうる。以下、上述した本発明の正極を用いた非水電解質リチウムイオン二次電池の好ましい一形態について詳細に説明するが、本発明の技術的範囲は下記の形態のみには制限されない。
【0081】
本発明の電池は、正極として本発明の第3の正極が用いられる、すなわち、正極に本発明の第1の正極材料が含まれる点に特徴を有する。
【0082】
一般的な電池においては、正極、電解質層、および負極がこの順序に配置され、これらが外装中に封止される。前記負極の具体的な形態や、前記電解質層中に含まれる電解質の形態は特に制限されず、従来公知の形態が採用されうる。例えば、前記負極としては、本発明の正極に用いられるのと同様の集電体上に、グラファイトやハードカーボン等の炭素材料のような負極活物質を含む活物質層が形成されてなる形態が例示されうる。また、前記電解質は、液体電解質、固体電解質、およびゲル電解質のいずれであってもよい。
【0083】
外装内部に電池要素が収納される場合には、タブが外装の外部に引き出される形で、前記電池要素が収納される。そして、内部の密封性を確保するために、電池要素が収納されていない部位の外装はシールされる。前記外装としては、高分子金属複合フィルムが用いられうる。高分子金属複合フィルムとは、少なくとも金属薄膜および樹脂フィルムが積層されたフィルムである。このような外装によって、薄いラミネート電池が形成されうる。
【0084】
本発明の電池は、リチウムイオン二次電池である。また、好ましくは、バイポーラ型のリチウムイオン二次電池(バイポーラ電池)である。参考までに、図4に、バイポーラ型でないリチウムイオン二次電池(一般リチウムイオン電池)の概略断面図を示し、図5に、バイポーラ型のリチウムイオン二次電池(バイポーラ電池)の概略断面図を示す。図4および図5からわかるように、一般リチウムイオン電池10とバイポーラ電池30とは、その電極の配置構成が異なるのみである。通常、一般リチウムイオン電池は電池容量が大きく高エネルギー型の電池であり、長期間持続して電力を供給する性能に優れる。これに対し、バイポーラ電池は高出力密度の電池であり、短時間に大きな電力を供給する性能に優れる。したがって、いずれの形態を採用するかは、必要とする電力の形態に応じて適宜決定されうる。なお、本発明の技術的範囲がこれらの図面の内容に制限されるものではない。
【0085】
複数個の本発明の電池を、または、少なくとも1つの本発明の電池と他の種類の電池とを、並列接続、直列接続、並列−直列接続、または直列−並列接続により接続し、組電池としてもよい。すなわち、本発明の第5は、本発明の電池を用いた組電池である。これにより、使用目的ごとの電池容量や出力に対する要求に、新たに電池を作製することなく、比較的安価に対応することが可能になる。組電池を製造する際の具体的な形態は特に制限されず、組電池について現在用いられている公知の知見が採用されうる。さらに、本発明の組電池を複数接続して、複合組電池としてもよい。
【0086】
本発明の電池および組電池、並びにこれらを含む複合組電池は、好ましくは、駆動用電源や補助電源として車両に用いられうる。すなわち、本発明の第6は、本発明の電池または本発明の組電池を搭載する車両である。
【0087】
本発明の電池または組電池、並びにこれらを含む複合組電池が搭載されうる車両としては、特に制限されないが、電気自動車、燃料電池自動車やこれらのハイブリッドカーが好ましい。
【実施例】
【0088】
本発明の効果を、以下の実施例および比較例を用いて説明する。ただし、本発明の技術的範囲は以下の実施例に限定されない。
【0089】
<実施例1>
実施例1−1
<正極材料の調製>
正極活物質の原料として、水酸化リチウム水和物(平均粒径:100nm)(1)、硫酸鉄水和物(平均粒径:120nm)(2)、リン酸アンモニウム水和物(3)、および還元剤であるアスコルビン酸(4)を準備した。上記の(1)〜(4)を(1):(2):(3):(4)=2.5:1.0:1.0:0.2のモル比で混合し、遊星ボールミルにて24時間混合した。その後、大気雰囲気下で850℃にて12時間焼成した。焼成後、不活性ガスで焼成炉内を置換し、150℃/minの冷却速度で室温まで冷却し、正極活物質であるリチウム鉄リン酸化合物を調製した。得られたリチウム鉄リン酸化合物の組成をICP発光分光分析法により分析した結果、Li1.1Fe0.980.99であった。また、得られたリチウム鉄リン酸化合物の平均粒径を測定したところ、2.3μmであった。さらに、得られたリチウム鉄リン酸化合物の表面付近に存在する鉄原子の平均価数をEELSにより測定したところ、+1.94価であった。
【0090】
続いて、リチウム化合物である硫酸リチウム(平均粒径:20nm)を準備した。この硫酸リチウムを用いて、上記で調製したリチウム鉄リン酸化合物の粒子の表面を3nmの厚さで被覆し、図2に示す形態の正極材料を調製した。硫酸リチウムによる被覆はメカノフュージョン法により行い、その際には、大気雰囲気下、300℃にて5時間のアニール条件を採用した。
【0091】
<正極の作製>
上記で調製した正極材料(75質量部)、バインダであるポリフッ化ビニリデン(PVdF)(15質量部)、および導電助剤であるアセチレンブラック(10質量部)を準備し、これに適量のスラリー粘度調整溶媒であるN−メチル−2−ピロリドン(NMP)を添加し、充分に撹拌混合して、正極材料スラリーを調製した。
【0092】
上記で調製した正極材料スラリーを、正極集電体であるアルミニウム箔(厚さ:20μm)上にアプリケータにより塗布し、真空乾燥機にて約80℃に加熱して乾燥させた。コイン型電池に用いるため、得られた電極を15mmφで打ち抜き、さらに高真空条件下で90℃にて6時間乾燥させ、正極を作製した。なお、集電体上に形成された正極層の厚さは50μmであった。
【0093】
<負極の作製>
負極活物質である炭素系材料のカーボン(平均粒径:500nm)(85質量部)、バインダであるポリフッ化ビニリデン(PVdF)(5質量部)、並びに、導電助剤であるアセチレンブラック(8質量%)および気相成長カーボンファイバー(VGCF)(2質量%)を準備し、これに適量のスラリー粘度調整溶媒であるN−メチル−2−ピロリドン(NMP)を添加し、充分に撹拌混合して、負極材料スラリーを調製した。
【0094】
上記で調製した負極材料スラリーを、負極集電体である銅箔(厚さ:20μm)上にアプリケータにより塗布し、真空乾燥機にて約80℃に加熱して乾燥させた。コイン型電池に用いるため、得られた電極を16mmφで打ち抜き、さらに高真空条件下で90℃にて6時間乾燥させ、負極を作製した。なお、集電体上に形成された負極層の厚さは80μmであった。
【0095】
<電解質層の作製>
セパレータとして、ポリプロピレン(PP)系微多孔質セパレータ(微細孔の平均孔径:800nm、空孔率:35%、厚さ:30μm)を準備した。一方、非水系電解液として、1.0MのLiPFを含有する、エチレンカーボネート(EC)とジエチルカーボネート(DEC)との等体積混合溶液を準備した。上記のセパレータに、同じく上記の電解液を注入することにより、電解質層を作製した。
【0096】
<コイン型2極式セルの作製>
上記で作製した正極、負極および電解質層を用い、コイン型2極式セルを作製した。この際、正負極の容量バランスは正極支配とした。
【0097】
<保存による内部抵抗の変化の測定>
上記のコイン型2極式セルを作製した直後に、正極換算で0.2Cの電流で4.1Vの電圧まで充電し、そのまま室温にて1週間保存した。その後、直流により初期内部抵抗を測定し、さらに、電池厚さを測定した。
【0098】
続いて、4.1Vの電圧で60℃にて1ヶ月間保存した。その後、上記と同様に直流により内部抵抗を測定し、下記数式1に従って、内部抵抗増加率を算出した。結果を下記の表1に示す。
【0099】
【数1】

【0100】
また、電池の膨れの指標として、下記数式2に従って電池厚さ増加率を算出した。結果を下記の表1に示す。なお、電池厚さの測定は、SOC100%の条件下において行った。
【0101】
【数2】

【0102】
実施例1−2〜1−9
リチウム鉄リン酸化合物の粒子の表面を被覆する硫酸リチウムの厚さを、下記の表1に示す値としたこと以外は、実施例1−1と同様の手法により正極材料を調製し、コイン型2極式セルを作製し、保存による内部抵抗の変化および電池厚さの変化を測定した。結果を下記の表1に示す。
【0103】
<比較例>
リチウム鉄リン酸化合物の粒子の表面を、リチウム化合物である硫酸リチウムにより被覆しなかったこと以外は、実施例1−1と同様の手法によりコイン型2極式セルを作製し、保存による内部抵抗の変化および電池厚さの変化を測定した。結果を下記の表1に示す。
【0104】
【表1】

【0105】
<実施例2>
実施例2−1
上記の実施例1−5を、実施例2−1とする。
【0106】
実施例2−2〜2−21
リチウム鉄リン酸化合物の粒子の表面を被覆するためのリチウム化合物として、硫酸リチウムに代えて下記の表2に示す化合物を用いたこと以外は、実施例2−1と同様の手法により正極材料を調製し、コイン型2極式セルを作製し、保存による内部抵抗の変化および電池厚さの変化を測定した。結果を下記の表2に示す。
【0107】
【表2】

【0108】
<実施例3>
実施例3−1
正極活物質であるリチウム鉄リン酸化合物の粒子の表面に、リチウム化合物である硫酸リチウムを添着させる際にメカノフュージョン法を用い、この際、リチウム鉄リン酸化合物に対して0.5体積%の硫酸リチウムを添着させ、図3に示す形態の正極材料を調製したこと以外は、実施例1−1と同様の手法により正極材料を調製し、コイン型2極式セルを作製し、保存による内部抵抗の変化および電池厚さの変化を測定した。結果を下記の表3に示す。
【0109】
実施例3−2〜3−11
硫酸リチウムの添着量を、下記の表3に示す値としたこと以外は、実施例3−1と同様の手法により正極材料を調製し、コイン型2極式セルを作製し、保存による内部抵抗の変化および電池厚さの変化を測定した。結果を下記の表3に示す。
【0110】
【表3】

【0111】
<実施例4>
実施例4−1
上記の実施例3−4を、実施例4−1とする。
【0112】
実施例4−2〜4−21
リチウム鉄リン酸化合物の粒子の表面に添着させるためのリチウム化合物として、硫酸リチウムに代えて下記の表4に示す化合物を用いたこと以外は、実施例4−1と同様の手法により正極材料を調製し、コイン型2極式セルを作製し、保存による内部抵抗の変化および電池厚さの変化を測定した。結果を下記の表4に示す。
【0113】
【表4】

【0114】
<実施例5>
実施例5−1
得られた正極材料の粒子の表面に、さらに導電性材料であるアセチレンブラック(平均粒径:3nm)を被覆したこと以外は、実施例1−5と同様の手法により正極材料を調製し、コイン型2極式セルを作製し、保存による内部抵抗の変化および電池厚さの変化を測定した。結果を下記の表5に示す。なお、アセチレンブラックによる正極材料の被覆はメカノフュージョン法により行い、その際には、大気雰囲気下、300℃にて5時間のアニール条件を採用した。また、アセチレンブラックによる被覆層の厚さは、5nmであった。
【0115】
実施例5−2〜5−9
アセチレンブラックによる被覆層の厚さを、下記の表5に示す値としたこと以外は、実施例5−1と同様の手法により正極材料を調製し、コイン型2極式セルを作製し、保存による内部抵抗の変化および電池厚さの変化を測定した。結果を下記の表5に示す。
【0116】
【表5】

【0117】
<実施例6>
実施例6−1
上記の実施例5−2を、実施例6−1とする。
【0118】
実施例6−2〜6−5
正極材料の表面を被覆するための導電性材料として、アセチレンブラックに代えて下記の表6に示す化合物を用いたこと以外は、実施例6−1と同様の手法により正極材料を調製し、コイン型2極式セルを作製し、保存による内部抵抗の変化および電池厚さの変化を測定した。結果を下記の表6に示す。
【0119】
【表6】

【0120】
以上の結果から、リチウム鉄リン酸化合物からなる粒子の表面にLi化合物を添着させることで、電池の膨れや電池の内部抵抗の上昇が抑制されることが示される。これは、Li化合物の添着により、正極活物質中の鉄イオンと電解液との反応が抑制されるためであると推測される。
【0121】
また、実施例1と実施例5および6との比較から、本発明の正極材料の表面に導電性材料をさらに添着させることにより、内部抵抗の上昇がより一層抑制されうることが示される。
【図面の簡単な説明】
【0122】
【図1】粒子の粒径を測定する際に用いる絶対最大長を説明するための解説図である。
【図2】リチウム鉄リン酸化合物からなる粒子の表面に、Li化合物からなる被覆層が形成されてなる形態を有する本発明の正極材料の模式断面図である。
【図3】リチウム鉄リン酸化合物からなる粒子の表面に、Li化合物からなる粒子が点在するように添着されてなる形態を有する本発明の正極材料の模式斜視図である。
【図4】バイポーラ型でないリチウムイオン二次電池(一般リチウムイオン電池)の概略断面図である。
【図5】バイポーラ型のリチウムイオン二次電池の概略断面図である。
【符号の説明】
【0123】
1 粒子(不定形粒子を含む)、
2 リチウム鉄リン酸化合物からなる粒子、
3 Li化合物からなる被覆層、
4 Li化合物からなる粒子、
10 一般リチウムイオン電池、
13 正極、
15 負極、
17 電解質層、
21 正極集電体、
23 負極集電体、
25 正極タブ、
27 負極タブ、
29 外装、
30 バイポーラ電池、
31 集電体、
33 単電池(セル)、
35 絶縁層、
37 積層体(電池要素)、
L 最大の距離。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
リチウム鉄リン酸化合物からなる粒子の表面にリチウム化合物が添着されてなる、非水電解質リチウムイオン二次電池用正極材料。
【請求項2】
前記リチウム鉄リン酸化合物からなる粒子の平均粒径が0.1〜20μmである、請求項1に記載の非水電解質リチウムイオン二次電池用正極材料。
【請求項3】
添着された前記リチウム化合物が前記リチウム鉄リン酸化合物からなる粒子を被覆する被覆層を形成しており、前記被覆層の厚さが3〜1000nmである、請求項1または2に記載の非水電解質リチウムイオン二次電池用正極材料。
【請求項4】
前記リチウム鉄リン酸化合物からなる粒子の体積に対する、添着された前記リチウム化合物の体積比が0.5〜250%である、請求項1〜3のいずれか1項に記載の非水電解質リチウムイオン二次電池用正極材料。
【請求項5】
添着された前記リチウム化合物がリチウムイオン伝導性を有する化合物である、請求項1〜4のいずれか1項に記載の非水電解質リチウムイオン二次電池用正極材料。
【請求項6】
添着された前記リチウム化合物が、LiSO、LiPO、LiPON、LiO−B、LiO−B−LiI、LiO−SiS、LiS−SiS−LiPO、LiCoO、LiMn、LiOH、およびLiCOからなる群から選択される1種または2種以上の化合物である、請求項1〜5のいずれか1項に記載の非水電解質リチウムイオン二次電池用正極材料。
【請求項7】
前記リチウム鉄リン酸化合物からなる粒子の表面付近に存在する鉄原子の平均価数が+1.95以下である、請求項1〜6のいずれか1項に記載の非水電解質リチウムイオン二次電池用正極材料。
【請求項8】
前記リチウム鉄リン酸化合物からなる粒子の表面に、導電性材料がさらに添着されてなる、請求項1〜7のいずれか1項に記載の非水電解質リチウムイオン二次電池用正極材料。
【請求項9】
前記導電性材料が、炭素、銀、白金、パラジウム、金、イリジウム、アルミニウム、チタン、タンタルからなる群から選択される1種または2種以上の元素からなる材料である、請求項8に記載の非水電解質リチウムイオン二次電池用正極材料。
【請求項10】
請求項1〜9のいずれか1項に記載の非水電解質リチウムイオン二次電池用正極材料を用いた非水電解質リチウムイオン二次電池。
【請求項11】
請求項10に記載の非水電解質リチウムイオン二次電池を用いた組電池。
【請求項12】
請求項10に記載の非水電解質リチウムイオン二次電池、または請求項11に記載の組電池を搭載する車両。
【請求項13】
硫酸鉄、水酸化鉄、およびこれらの水和物からなる群から選択される1種または2種以上の鉄化合物、リチウム化合物、並びにリン化合物の混合物を焼成してリチウム鉄リン酸化合物からなる粒子を得る焼成段階と、
前記リチウム鉄リン酸化合物からなる粒子の表面にリチウム化合物を添着させる添着段階と、
を有する、非水電解質リチウムイオン二次電池用正極材料の製造方法。
【請求項14】
前記焼成段階において得られたリチウム鉄リン酸化合物からなる粒子を、不活性ガス雰囲気下において150℃/min以上の速度で冷却する冷却段階をさらに有する、請求項13に記載の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図4】
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【図5】
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【図3】
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【公開番号】特開2006−66081(P2006−66081A)
【公開日】平成18年3月9日(2006.3.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−243799(P2004−243799)
【出願日】平成16年8月24日(2004.8.24)
【出願人】(000003997)日産自動車株式会社 (16,386)
【Fターム(参考)】