説明

面材

【課題】印刷用フィルムと基材との積層体から成る面材であって、当該印刷用フィルムが、耐熱性、印刷性、機械的強度、耐吸湿性、製膜性、可撓性などの特性に優れた面材を提供する。
【解決手段】基材20の少なくとも一方の表面上に、特定のゴム変性スチレン系樹脂に所定量のポリアミド系樹脂を配合した熱可塑性樹脂組成物を成形してなる印刷用フィルム10を積層して成り、当該印刷用フィルム10には、前記基材20と反対側の表面上の少なくとも一部に図柄層13を積層して成る面材。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、各種製品において目視される部材として好適に使用される、意匠性に優れた面材に関する。詳しくは、本発明は、主としてゴム変性スチレン系樹脂とポリアミド系樹脂とから成る熱可塑性樹脂組成物を成形してなる印刷用フィルムと基材との積層体から成る面材であって、当該印刷用フィルムが、耐熱性、印刷性、機械的強度、耐吸湿性、製膜性、可撓性などの特性に優れ面材に関する。
なお、一般に「フィルム」の語は厚さ0.254mm(1/100インチ)以下のものを指すが、本発明における「フィルム」の語はそれよりも厚い「シート」をも包含する。
【背景技術】
【0002】
従来、ABS樹脂フィルムの表面に印刷層を積層する場合、予め表面に印刷層が施されたPETフィルムからなる転写フィルムを熱ラミネートした後、当該PETフィルムを剥離して当該印刷層をABS樹脂フィルムに転写していた(特許文献1参照)。その理由は、ABS樹脂は耐溶剤性が低く、ABS樹脂フィルムに直接印刷を施すことができないことにある。しかし、上記転写フィルムを用いた印刷方法では、印刷層を転写した後に転写フィルムを剥離する工程を要するため、製造工程が煩雑である上、転写フィルムが廃棄物となり、コストが上昇し、さらには、製造工程で異物が積層体に混入する危険性がある。
【0003】
一方、ABS樹脂フィルムの表面をコロナ処理し、このコロナ処理した表面にアンカーコート層を形成して、当該アンカーコート層に印刷層を施すことも考えられる(特許文献2及び3参照)。しかし、この印刷方法では、アンカーコート層を形成する工程が加わるため、製造工程が煩雑になる。したがって、ABS樹脂フィルムに直接的に印刷する方法が望まれていた。
【0004】
また、樹脂フィルムに印刷層を施した後、当該印刷層の上にアクリル樹脂などの透明樹脂層を熱ラミネートにより積層する場合、樹脂フィルムが十分な耐熱性、十分な機械的強度及び寸法安定性等を備えることが要求されるが、従来のABS樹脂フィルムはこれらの特性が十分とは言えなかった。
【0005】
しかも、上記の樹脂フィルムにおいては、製膜時にフィルムがロール(例えばキャストロール:冷却ドラム)から剥がれずに粘着して持ち上げられ、フィルムの外観不良が発生することがあるとの問題が見出された。特に、この問題は、耐熱性に優れるフィルムを得るために製膜温度(ロール温度)を高めた場合に顕著である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2005−178276号公報
【特許文献2】特開2007−210309号公報
【特許文献3】特開2007−211219号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、印刷用フィルムと基材との積層体から成る面材であって、当該印刷用フィルムが、耐熱性、印刷性、機械的強度、耐吸湿性、製膜性、可撓性などの特性に優れた面材の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は、上記課題を解決すべく鋭意研究を行った結果、特定のゴム変性スチレン系樹脂に所定量のポリアミド系樹脂を配合することにより、耐溶剤性、耐熱性、印刷性、機械的強度、耐吸湿性、製膜性、可撓性などに優れ、直接印刷可能な印刷用フィルムが得られることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0009】
すなわち、本発明によれば次の発明が提供される。
基材の少なくとも一方の表面上に、以下に記載の印刷用フィルムを積層して成り、当該印刷用フィルムには、前記基材と反対側の表面上の少なくとも一部に図柄層を積層して成る、ことを特徴とする面材。
<印刷用フィルム>
ゴム変性スチレン系樹脂(A)25〜75質量%、及び、ポリアミド系樹脂(B)25〜75質量%(ただし、(A)及び(B)の合計は100質量%である)を含有する熱可塑性樹脂組成物(I)を成形してなる印刷用フィルムであって、
前記成分(A)は、ゴム質重合体(a)の存在下にビニル系単量体(b1)を重合して得られるグラフト共重合体(A1)、または、当該グラフト共重合体(A1)とビニル系単量体(b2)の(共)重合体(A2)との混合物からなり、
前記ビニル系単量体(b1)及びビニル系単量体(b2)は、何れも、芳香族ビニル化合物及びシアン化ビニル化合物を必須単量体成分として含有し、
前記ビニル系単量体(b1)及びビニル系単量体(b2)の少なくとも何れか1方は、さらに、水酸基含有不飽和化合物、エポキシ基含有不飽和化合物、置換または非置換のアミノ基含有不飽和化合物、カルボキシル基含有不飽和化合物、酸無水物基含有不飽和化合物及びオキサゾリン基含有不飽和化合物からなる群より選ばれた少なくとも1種の官能基含有ビニル系単量体を含有し、
前記成分(A)中の前記官能基含有ビニル系単量体の含有量は前記成分(A)の全量を100質量%として0.1〜1.2質量%であり、
前記成分(A)のアセトン可溶分の極限粘度(メチルエチルケトン、30℃)は0.15〜1.5dl/gであり、
前記熱可塑性樹脂組成物(I)は、前記成分(A)と前記成分(B)の合計100質量部に対して5〜30質量部のゴム質重合体(a)を含有する、印刷用フィルム。
【0010】
本発明の特に好ましい態様において、熱可塑性樹脂組成物(I)は、前記成分(A)と前記成分(B)の合計100質量部に対して7〜18質量部の無機充填材(C)を含有する。
【発明の効果】
【0011】
本発明の面材に使用する印刷用フィルムは、特定のゴム変性スチレン系樹脂に所定量のポリアミド系樹脂を配合することで、耐溶剤性、耐熱性、印刷性、機械的強度、耐吸湿性、製膜性、可撓性などに優れ、アンカーコート処理を施さずに直接印刷が可能となる。また、所定量の無機充填材を配合することで、製膜時にフィルムがロールに粘着するのが防止され、製膜外観に優れる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】図1は本発明の面材の一例を示す断面模式図である。
【図2】図2は本発明の面材の他の一例を示す断面模式図である。
【図3】図3は本発明の面材の更に他の一例を示す断面模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明を詳しく説明する。尚、本明細書において、「(共)重合」とは、単独重合および共重合を意味し、「(メタ)アクリル」とは、アクリル及び/又はメタクリルを意味し、「(メタ)アクリレート」とは、アクリレート及び/又はメタクリレートを意味する。
【0014】
先ず、本発明の面材に使用する印刷用フィルムについて説明する。
本発明で使用する印刷用フィルムは、ゴム変性スチレン系樹脂(A)25〜75質量%、及び、ポリアミド系樹脂(B)25〜75質量%(ただし、(A)及び(B)の合計は100質量%である)を含有する熱可塑性樹脂組成物(I)を成形して得られる。そして、本発明の特に好ましい態様において、熱可塑性樹脂組成物(I)は、前記成分(A)と前記成分(B)の合計100質量部に対して7〜18質量部の無機充填材(C)を含有する。
以下、各成分について詳細に説明する。
【0015】
1.成分(A)(ゴム変性スチレン系樹脂):
本発明で使用する成分(A)は、ゴム質重合体(a)の存在下にビニル系単量体(b1)を重合して得られるグラフト共重合体(A1)、または、当該グラフト共重合体(A1)とビニル系単量体(b2)の(共)重合体(A2)との混合物からなるゴム変性スチレン系樹脂である。(共)重合体(A2)は、ゴム質重合体(a)の不存在下にビニル系単量体(b2)を重合して得られる。
【0016】
1−1.ゴム質重合体(a):
上記ゴム質重合体(a)としては、特に限定されず、例えば、共役ジエン系ゴム質重合体、非共役ジエン系ゴム質重合体が挙げられる。共役ジエン系ゴム質重合体としては、例えば、ポリブタジエン、ブタジエン・スチレン共重合体、ブタジエン・アクリロニトリル共重合体、及びこれらの水素添加物が挙げられる。非共役ジエン系ゴム質重合体としては、例えば、エチレン・プロピレン共重合体、エチレン・プロピレン・非共役ジエン共重合体、エチレン・1−ブテン共重合体、エチレン・1−ブテン・非共役ジエン共重合体、エチレン・1−オクテン共重合体、エチレン・1−オクテン・非共役ジエン共重合体等のエチレン・α−オレフィン系共重合体ゴム;アクリル系ゴム;シリコーン系ゴム;シリコーン・アクリル系IPNゴム等が挙げられる。これらは1種単独で、または2種以上を組み合わせて用いることができる。
これらのゴム質重合体(a)のうち、本発明では、共役ジエン系ゴム質重合体が好ましい。
【0017】
上記ゴム質重合体(a)のゲル含率は、通常20〜99質量%、好ましくは30〜98質量%、更に好ましくは40〜98質量%である。ゲル含率が上記範囲にあると、フィルム加工性及び耐衝撃性の物性バランスに優れる。
尚、上記ゲル含率は、以下の方法により求めることができる。まず、ゴム質重合体(a)の1グラムをアセトン(アクリル系ゴムの場合はアセトニトリル)20mlに投入し、25℃の温度条件下で、攪拌機を用い、1,000rpmで2時間攪拌する。その後、遠心分離機(回転数;22,000rpm)で1時間遠心分離し、不溶分と可溶分とを分離して得られる不溶分を秤量(質量をW1グラムとする。)し、下記式により算出する。
[数1]
ゲル含率(質量%)=〔W1(g)/1(g)〕×100
尚、ゲル含率は、ゴム質重合体(a)の製造時に、単量体の種類及び量、分子量調節剤の種類及び量、重合時間、重合温度、重合転化率等を適宜選択することにより調整される。
【0018】
1−2.ビニル系単量体(b1):
上記ビニル系単量体(b1)としては、芳香族ビニル化合物及びシアン化ビニル化合物が必須成分として使用され、所望により、水酸基含有不飽和化合物、エポキシ基含有不飽和化合物、置換または非置換のアミノ基含有不飽和化合物、カルボキシル基含有不飽和化合物、酸無水物基含有不飽和化合物及びオキサゾリン基含有不飽和化合物からなる群より選ばれた少なくとも1種の官能基含有ビニル系単量体が使用される。これらの官能基含有
ビニル系単量体を使用することにより、本発明における成分(A)と成分(B)との相溶性を改善することができる。
但し、本発明では、ビニル系単量体(b1)及びビニル系単量体(b2)の少なくとも何れか1方は上記官能基含有ビニル系単量体を含有する必要があるので、ビニル系単量体(b2)が上記官能基含有ビニル系単量体を含有しない場合、ビニル系単量体(b1)は上記官能基含有ビニル系単量体を含有する必要がある。なお、本明細書中、上記官能基含有ビニル系単量体を含有しないビニル系単量体(b1)をビニル系単量体(b1−1)と、上記官能基含有ビニル系単量体を含有するビニル系単量体(b1)をビニル系単量体(b1−2)と、記載することもある。
【0019】
上記芳香族ビニル化合物としては、スチレン、α−メチルスチレン、o−メチルスチレン、p−メチルスチレン、ビニルトルエン、ビニルキシレン、エチルスチレン、ジメチルスチレン、p−tert−ブチルスチレン、ビニルナフタレン、メトキシスチレン、モノブロムスチレン、ジブロムスチレン、トリブロムスチレン、フルオロスチレン等が挙げられる。これらのうち、スチレン、α−メチルスチレンが好ましい。また、これらの化合物は、1種単独でまたは2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0020】
上記シアン化ビニル化合物としては、アクリロニトリル、メタクリロニトリル、α−クロロ(メタ)アクリロニトリル等が挙げられる。これらのうち、アクリロニトリルが好ましい。また、これらの化合物は、1種単独でまたは2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0021】
水酸基含有不飽和化合物としては、3−ヒドロキシ−1−プロペン、4−ヒドロキシ−1−ブテン、シス−4−ヒドロキシ−2−ブテン、トランス−4−ヒドロキシ−2−ブテン、3−ヒドロキシ−2−メチル−1−プロペン、アクリル酸2−ヒドロキシエチル、メタクリル酸2−ヒドロキシエチル、ヒドロキシスチレン等が挙げられる。これらは、1種単独でまたは2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0022】
エポキシ基含有不飽和化合物としては、アクリル酸グリシジル、メタクリル酸グリシジル、アリルグリシジルエーテル等が挙げられる。これらは、1種単独でまたは2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0023】
置換または非置換のアミノ基含有不飽和化合物としては、アクリル酸アミノエチル、メタクリル酸アミノエチル、メタクリル酸アミノプロピル、アクリル酸プロピルアミノエチル、メタクリル酸ジメチルアミノエチル、メタクリル酸フェニルアミノエチル、N−ビニルジエチルアミン、N−アセチルビニルアミン、アクリルアミン、メタクリルアミン、N−メチルアクリルアミン、アクリルアミド、N−メチルアクリルアミド、p−アミノスチレン等が挙げられる。これらは1種単独で、または2種以上組合わせて使用できる。
【0024】
カルボキシル基含有不飽和化合物としては、アクリル酸、メタクリル酸、エタクリル酸、マレイン酸、フマル酸、イタコン酸、クロトン酸、桂皮酸等が挙げられる。これらは1種単独で、または2種以上組合わせて使用できる。
【0025】
酸無水物基含有不飽和化合物としては、無水マレイン酸、無水イタコン酸、無水シトラコン酸などの不飽和カルボン酸無水物が挙げられる。これらは1種単独で、または2種以上組合わせて使用できる。
【0026】
オキサゾリン基含有不飽和化合物としては、ビニルオキサゾリン等が挙げられる。これらは、1種単独でまたは2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0027】
さらに、ビニル系単量体(b1)は、上記のもの以外に、(メタ)アクリル酸エステル、マレイミド化合物等のその他の共重合可能な単量体を含んでいてもよい。
【0028】
(メタ)アクリル酸エステルとしては、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸n−プロピル、(メタ)アクリル酸イソプロピル、(メタ)アクリル酸n−ブチル、(メタ)アクリル酸イソブチル等が挙げられる。これらは、1種単独でまたは2種以上を組み合わせて用いることができる。これらのうち、メタクリル酸メチルが好ましい。(メタ)アクリル酸エステルを使用すると成分(A)の透明性を向上させることができる。
【0029】
マレイミド化合物としては、マレイミド、N−メチルマレイミド、N−ブチルマレイミド、N−フェニルマレイミド、N−シクロヘキシルマレイミド等が挙げられる。これらは、1種単独でまたは2種以上を組み合わせて用いることができる。また、共重合樹脂にマレイミド系単量体単位を導入するために、無水マレイン酸を(共)重合させ、後イミド化してもよい。マレイミド化合物を使用すると成分(A)の耐熱性を向上させることができる。
【0030】
上記ビニル系単量体(b1)は、目的、用途等に応じてその種類及び使用量が選択されるが、芳香族ビニル化合物及びシアン化ビニル化合物の合計量は、ビニル系単量体(b1)全量100質量%に対し、通常50〜100質量%、好ましくは70〜100質量%、更に好ましくは80〜100質量%である。上記官能基含有ビニル系単量体の含有量は、ビニル系単量体(b1)全量100質量%に対し、通常0〜50質量%、好ましくは0〜30質量%、更に好ましくは0〜20質量%である。また、芳香族ビニル化合物及びシアン化ビニル化合物の使用比率(芳香族ビニル化合物/シアン化ビニル化合物)は、これらの合計を100質量%とした場合、通常40〜95質量%/5〜60質量%、好ましくは50〜90質量%/10〜50質量%、更に好ましくは55〜85質量%/15〜45質量%である。
【0031】
1−3.ビニル系単量体(b2):
上記ビニル系単量体(b2)としては、芳香族ビニル化合物及びシアン化ビニル化合物が必須成分として使用され、所望により、水酸基含有不飽和化合物、エポキシ基含有不飽和化合物、置換または非置換のアミノ基含有不飽和化合物、カルボキシル基含有不飽和化合物、酸無水物基含有不飽和化合物及びオキサゾリン基含有不飽和化合物からなる群より選ばれた少なくとも1種の官能基含有ビニル系単量体が使用される。
但し、本発明では、ビニル系単量体(b1)及びビニル系単量体(b2)の少なくとも何れか1方は上記官能基含有ビニル系単量体を含有する必要があるので、ビニル系単量体(b1)が上記官能基含有ビニル系単量体を含有しない場合、ビニル系単量体(b2)は上記官能基含有ビニル系単量体を含有する必要がある。なお、本明細書中、上記官能基含有ビニル系単量体を含有しないビニル系単量体(b2)をビニル系単量体(b2−1)と、上記官能基含有ビニル系単量体を含有するビニル系単量体(b2)をビニル系単量体(b2−2)と、記載することもある。
【0032】
上記ビニル系単量体(b2)として使用される芳香族ビニル化合物、シアン化ビニル化合物、官能基含有ビニル系単量体、及びその他の共重合可能な単量体としては、上記ビニル系単量体(b1)に関して上記したものを全て使用できる。
【0033】
上記ビニル系単量体(b2)は、目的、用途等に応じてその種類及び使用量が選択されるが、芳香族ビニル化合物及びシアン化ビニル化合物の合計量は、ビニル系単量体(b2)全量100質量%に対し、通常50〜100質量%、好ましくは70〜100質量%、更に好ましくは80〜100質量%である。上記官能基含有ビニル系単量体の含有量は、ビニル系単量体(b2)全量100質量%に対し、通常0〜50質量%、好ましくは0〜30質量%、更に好ましくは0〜20質量%である。また、芳香族ビニル化合物及びシアン化ビニル化合物の使用比率(芳香族ビニル化合物/シアン化ビニル化合物)は、これらの合計を100質量%とした場合、通常40〜95質量%/5〜60質量%、好ましくは50〜90質量%/10〜50質量%、更に好ましくは55〜85質量%/15〜45質量%である。
【0034】
1−4.ゴム変性スチレン系樹脂(A)の製造方法:
本発明で使用する成分(A)は、グラフト共重合体(A1)、または、当該グラフト共重合体(A1)とビニル系単量体(b2)の(共)重合体(A2)との混合物から本質的に構成される。
【0035】
上記グラフト共重合体(A1)は、下記成分(A1−1)及び/又は下記成分(A1−2)であってよい。
成分(A1−1):ゴム質重合体(a)の存在下に、芳香族ビニル化合物及びシアン化ビニル化合物を必須成分として含有するビニル系単量体(b1−1)(但し官能基含有ビニル系単量体を含有しない)を重合して得られるグラフト共重合体。
成分(A1−2):ゴム質重合体(a)の存在下に、芳香族ビニル化合物及びシアン化ビニル化合物、並びに、水酸基含有不飽和化合物、エポキシ基含有不飽和化合物、置換または非置換のアミノ基含有不飽和化合物、カルボキシル基含有不飽和化合物、酸無水物基含有不飽和化合物及びオキサゾリン基含有不飽和化合物からなる群より選ばれた少なくとも1種の官能基含有ビニル系単量体を必須成分として含有するビニル系単量体(b1−2)
を重合して得られるグラフト共重合体。
【0036】
上記(共)重合体(A2)は、下記成分(A2−1)及び/又は下記成分(A2−2)であってよい。
成分(A2−1):ゴム質重合体(a)の不存在下に、芳香族ビニル化合物及びシアン化ビニル化合物を必須成分として含有するビニル系単量体(b2−1)(但し官能基含有ビニル系単量体を含有しない)を重合して得られる(共)重合体。
成分(A2−2):ゴム質重合体(a)の不存在下に、芳香族ビニル化合物及びシアン化ビニル化合物、並びに、水酸基含有不飽和化合物、エポキシ基含有不飽和化合物、置換または非置換のアミノ基含有不飽和化合物、カルボキシル基含有不飽和化合物、酸無水物基含有不飽和化合物及びオキサゾリン基含有不飽和化合物からなる群より選ばれた少なくとも1種の官能基含有ビニル系単量体を必須成分として含有するビニル系単量体(b2−2)を重合して得られる(共)重合体。
【0037】
本発明における成分(A)は、ビニル系単量体(b1)及びビニル系単量体(b2)の少なくとも何れか一方は、官能基含有ビニル系単量体を含有する必要がある。したがって、成分(A)は、上記成分(A1−2)及び上記成分(A2−2)の少なくとも何れか一方を必須成分として含有することが必要である。
【0038】
かくして、上記成分(A1)が、上記成分(A1−2)、又は、上記成分(A1−1)と上記成分(A1−2)との混合物である場合、成分(A)は上記成分(A2)は含有しなくても良く、上記成分(A2)を含有する場合は、上記成分(A2)は上記成分(A2−1)及び/又は上記成分(A2−2)であってよい。
【0039】
また、上記成分(A1)が、上記成分(A1−1)である場合、成分(A)は上記成分(A2)を含有し、当該成分(A2)は、上記成分(A2−2)、又は、上記成分(A2−1)と上記成分(A2−2)との混合物であることが必要である。
【0040】
上記グラフト共重合体(A1)には、通常、ビニル系単量体(b1)の(共)重合体がゴム質重合体(a)にグラフトしているグラフト共重合体と、ゴム質重合体(a)にグラフトしていないビニル系単量体(b1)の(共)重合体が含まれる。但し、このグラフト共重合体(A1)に、ビニル系単量体(b1)の(共)重合体がグラフトしていないゴム質重合体(a)が含まれていてもよい。
【0041】
前記成分(A)中の前記官能基含有ビニル系単量体の含有量は、前記成分(A)の全量を100質量%として、0.1〜1.2質量%、好ましくは0.1〜1.1質量%、更に好ましくは0.2〜1.0質量%、特に好ましくは0.2〜0.9質量%である。これにより、本発明で使用する印刷用フィルムに十分な機械的強度と寸法安定性が付与される。官能基含有ビニル系単量体は、上記含有量を満たす限り、上記成分(A1)及び(A2)の何れに由来するものあってよい。
【0042】
上記グラフト共重合体(A1)の製造方法は、特に限定されず、公知の重合法、例えば、乳化重合、溶液重合、塊状重合、懸濁重合等が挙げられる。これらのうち、乳化重合が好ましい。尚、ゴム質重合体(a)及びビニル系単量体(b1)の使用比率(ゴム質重合体(a)/ビニル系単量体(b1))は、これらの合計を100質量%とした場合、通常5〜80質量%/20〜95質量%であり、好ましくは5〜70質量%/30〜95質量%であり、更に好ましくは10〜65質量%/35〜90質量%である。
【0043】
上記グラフト共重合体(A1)を乳化重合により製造する場合、重合開始剤、乳化剤、連鎖移動剤(分子量調節剤)、電解質、水等が用いられる。尚、乳化剤及び連鎖移動剤は、状況により使用しない場合もあるが、通常は、使用される。
【0044】
重合開始剤としては、クメンハイドロパーオキサイド、ジイソプロピルベンゼンハイドロパーオキサイド、ベンゾイルパーオキサイド、ラウロイルパーオキサイド、過硫酸カリウム、アゾビスイソブチロニトリル、tert−ブチルパーオキシラウレート、tert−ブチルパーオキシモノカーボネート等が挙げられる。これらは、1種単独でまたは2種以上を組み合わせて用いることができる。
上記重合開始剤は、反応系に一括して又は連続的に添加することができる。また、上記重合開始剤の使用量は、上記ビニル系単量体の全量を100質量部とした場合、通常、0.1〜5質量部、好ましくは0.5〜2質量部である。
【0045】
乳化剤としては、アルカンスルホン酸塩、アルキルベンゼンスルホン酸塩、アルキルナフタレンスルホン酸塩等のアルキルスルホン酸塩;ガムロジン、ウッドロジン、トール油ロジン、これらを不均化反応させた不均化ロジン、精製したロジン等のロジン酸(通常、アビエチン酸を主成分とする。)のアルカリ金属塩(ナトリウム塩又はカリウム塩)等のロジン酸塩;高級アルコールの硫酸エステル、高級脂肪族カルボン酸塩、リン酸塩等のアニオン系界面活性剤;ノニオン系界面活性剤等が挙げられる。
上記乳化剤の使用量は、上記ビニル系単量体(b1)の全量を100質量部とした場合、通常、0.1〜5質量部、好ましくは0.1〜3質量部である。
【0046】
連鎖移動剤としては、n−ヘキシルメルカプタン、n−オクチルメルカプタン、n−ドデシルメルカプタン、tert−ドデシルメルカプタン等のメルカプタン類、テトラエチルチウラムスルフィド、アクロレイン、メタクロレイン、アリルアルコール、2−エチルヘキシルチオグリコール、ターピノーレン等が挙げられる。これらは、1種単独でまたは2種以上を組み合わせて用いることができる。また、上記連鎖移動剤の使用量は、上記ビニル系単量体(b1)の全量を100質量部とした場合、通常、0.01〜5質量部、好ましくは0.05〜3質量部である。
【0047】
上記グラフト共重合体(A1)を乳化重合により製造する場合の重合温度は、通常、30〜95℃、好ましくは40〜90℃である。乳化重合により得られたラテックスからグラフト共重合体(A1)を回収するには、通常、塩化カルシウム、硫酸マグネシウム、塩化マグネシウム等の無機塩;硫酸、塩酸、酢酸、クエン酸、リンゴ酸等の酸等の凝固剤を添加することにより行われる。その後、凝固したグラフト共重合体(A1)は、水洗、乾燥することによって、粉体として得られる。
【0048】
また、上記グラフト共重合体(A1)は、例えば、溶液重合、塊状重合、懸濁重合等により製造することができる。溶液重合の場合、通常、ゴム質重合体とビニル系単量体を、トルエン、エチルベンゼン等の芳香族炭化水素;メチルエチルケトン等のケトン類;アセトニトリル、ジメチルホルムアミド、N−メチルピロリドン等の不活性重合溶媒に溶解させ、重合開始剤の存在下に重合してよいし、あるいは、重合開始剤の非存在下に熱重合してもよい。
【0049】
上記(共)重合体(A2)は、ゴム質重合体(a)を使用しない以外、上記したグラフト共重合体(A1)の製造方法と同様に製造することができ、具体的には、塊状重合、溶液重合、乳化重合、懸濁重合等により得ることができる。
【0050】
1−5.ゴム変性スチレン系樹脂の物性:
上記グラフト共重合体(A1)のグラフト率は、通常20〜170%であり、好ましくは20〜150%、更に好ましくは30〜150%である。このグラフト率が20%未満では、フィルムに成形した際に、表面にフローマークが発生する場合があり、機械的強度が十分でない場合がある。また、グラフト率が170%を超えると、グラフト共重合体(A1)の粘度が高くなり、薄肉化が困難になる場合がある。
なお、上記グラフト共重合体(A1)のグラフト率は、その製造時に用いる連鎖移動剤の種類及び使用量、重合開始剤の種類及び使用量、重合時の単量体成分の添加方法及び添加時間等を適宜選択することにより調整することができる。
【0051】
なお、上記グラフト率は、下記式により求めることができる。
[数2]
グラフト率(質量%)={(S−T)/T}×100
上記式中、Sはグラフト共重合体1グラムをアセトン(ゴム質重合体がアクリル系ゴムの場合はアセトニトリル)20mlに投入し、25℃の温度条件下で、振とう機により2時間振とうした後、5℃の温度条件下で、遠心分離機(回転数;23,000rpm)で60分間遠心分離し、不溶分と可溶分とを分離して得られる不溶分の質量(g)であり、Tはグラフト共重合体1グラムに含まれるゴム質重合体の質量(g)である。このゴム質重合体の質量は、重合処方及び重合転化率から算出する方法、赤外線吸収スペクトル(IR)により求める方法等により得ることができる。
【0052】
上記グラフト共重合体(A1)のアセトン(ゴム質重合体がアクリル系ゴムの場合はアセトニトリル)可溶分の極限粘度[η](溶媒としてメチルエチルケトンを使用し、30℃で測定)は、通常0.15〜1.5dl/gであり、好ましくは0.2〜1.2dl/g、より好ましくは0.2〜0.8dl/gである。上記極限粘度[η]が0.15未満では、耐熱性、機械的強度が十分でなくなる可能性がある。上記極限粘度[η]が1.5を超えると、製膜性が十分でなくなる可能性がある。
また、上記(共)重合体(A2)の極限粘度[η](溶媒としてメチルエチルケトンを使用し、30℃で測定)は、通常0.15〜1.5dl/g、好ましくは0.2〜1.2dl/g、より好ましくは0.2〜0.9dl/gである。上記極限粘度[η]が0.15未満では、耐熱性、機械的強度が十分でなくなる可能性がある。上記極限粘度[η]が1.5を超えると、製膜性が十分でなくなる可能性がある。
【0053】
なお、上記極限粘度[η]の測定は下記方法で行った。まず、上記グラフト共重合体(A1)の上記可溶分又は上記(共)重合体(A2)をメチルエチルケトンに溶解させ、濃度の異なるものを5点作った。ウベローデ粘度管を用い、30℃で各濃度の還元粘度を測定した結果から、極限粘度[η]を求めた。単位は、dl/gである。
上記極限粘度は、製造時に用いる連鎖移動剤の種類及び使用量、重合開始剤の種類及び使用量、重合温度等を適宜選択することにより調整することができる。
【0054】
本発明におけるゴム変性スチレン系樹脂中のゴム質重合体(a)の含有量は、ゴム変性スチレン系樹脂全体を100質量%として、好ましくは5〜80質量%、より好ましくは5〜70質量%、更に好ましくは10〜65質量%である。
【0055】
2.成分(B)(ポリアミド系樹脂):
本発明で使用する成分(B)としては、3員環以上のラクタム、重合可能なω−アミノ酸、又は、二塩基酸とジアミン等の重縮合によって得られるポリアミドが挙げられる。具体的には、ε−カプロラクタム、アミノカプロン酸、エナントラクタム、7−アミノヘプタン酸、11−アミノウンデカン酸、9−アミノノナン酸、α−ピロリドン、α−ピペリドン等の重合体、ヘキサメチレンジアミン、ノナメチレンジアミン、ウンデカメチレンジアミン、ドデカメチレンジアミン、メタキシリレンジアミン等のジアミンと、テレフタル酸、イソフタル酸、アジピン酸、セバシン酸、ドデカン二塩基酸、グルタール酸等のジカルボン酸と重縮合せしめて得られる重合体又はこれらの共重合体、例えば、ナイロン4、6、7、8、11、12、6.6、6.9、6.10、6.11、6.12、6T、6/6.6、6/12、6/6T、6T/6I、MXD6等が挙げられる。これらの化合物は、単独で使用しても、2種以上混合して使用してもよい。
【0056】
本発明で使用するポリアミド系樹脂の末端は、カルボン酸又はアミンで封止されていてもよく、特に炭素数6〜22のカルボン酸又はアミンで封止されたポリアミド系樹脂が望ましい。封止に用いるカルボン酸としては、例えば、カプロン酸、カプリル酸、カプリン酸、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、ベヘニン酸等の脂肪族モノカルボン酸が挙げられる。また、封止に用いるアミンとしては、ヘキシルアミン、オクチルアミン、デシルアミン、ラウリルアミン、ミリスチルアミン、パルミチルアミン、ステアリルアミン、ベヘニルアミン等の脂肪族第一級アミンが挙げられる。封止に使用するカルボン酸又はアミンの量は、30μeq/g程度が好ましい。
【0057】
また、本発明で使用するポリアミド系樹脂は、ある範囲内の重合度、すなわち相対粘度を有することが必要である。ポリアミド系樹脂の相対粘度は、JIS−K6810に従って98%硫酸中濃度1%、温度25℃で測定した値として通常2.0〜4.0である。相対粘度が2.0より低いと、機械的強度が低下する可能性がある。また、相対粘度が4.0より高いと、製膜性が低下する可能性がある。本発明において特に好ましいポリアミドとしては、耐熱性、機械的強度、製膜性の点からナイロン6、共重合ナイロン6/66、ナイロン66が挙げられる。
【0058】
3.成分(C)(無機充填材):
本発明で使用する成分(C)としての無機充填材は、周知の無機充填材を使用することができ、形状は特に制限されず、繊維状、板状、針状、球状、粉末等いずれの形状であってもよい。無機充填材の種類としては、ガラス繊維、炭素繊維、タルク、マイカ、ガラスフレーク、ウォラストナイト、チタン酸カリウム、硫酸マグネシウム、セピオライト、ゾノライト、ホウ酸アルミニウム、ガラスビーズ、バルーン、炭酸カルシウム、シリカ、カオリン、クレー、カーボンブラック、酸化チタン、硫酸バリウム、酸化亜鉛、水酸化マグネシウム等が挙げられ、単独または二種以上の混合物として用いることができる。無機充填材としては、印刷用フィルムの強度、表面外観のバランスに優れ、入手もし易い点から、好ましくは、ガラス繊維、マイカ、タルク、ウォラストナイトである。
【0059】
本発明における無機充填材(C)としては、タルクを用いることが好ましい。タルクは含水珪酸マグネシウム塩の粘土鉱物の一種で、その組成は(MgO)x(SiO)y・zHO(x、y、zは正値)であり、代表的には[(MgO)(SiOO]である。またタルク中のMgの一部がCa2+等の2価の金属イオンに置換されてもよい。タルクの粒径は、特に制限されないが、レーザー散乱法による平均粒子径として、通常0.5〜50μm、好ましくは1.0〜25μm、更に好ましくは1.5μm〜20μmである。タルクの平均粒子径が0.5μm未満では、タルクの分散性が不十分となり、フィルム外観が不十分となる可能性がある。一方、タルクの平均粒径が50μmを超えると、フィルム外観が不十分となる可能性がある。
【0060】
3.熱可塑性樹脂組成物(I):
本発明における熱可塑性樹脂組成物(I)は、上記成分(A)、上記成分(B)及び上記成分(C)を所定の配合比率で混合し溶融混練することにより得られる。なお、上記成分(C)は、本発明の好ましい態様で使用される任意成分である。
【0061】
上記成分(A)は、本発明で使用する印刷用フィルムに耐吸湿性を与えるために有用であり、その配合量は、上記成分(A)及び(B)の合計を100質量%として、25〜75質量%であり、好ましくは30〜70質量%であり、更に好ましくは30〜65質量%である。この配合量が25質量%未満であると、耐吸湿性が劣り、75質量%を超えると耐溶剤性、耐熱性が劣る。
【0062】
上記成分(B)は、本発明で使用する印刷用フィルムに耐溶剤性及び耐熱性を与えるために有用であり、その配合量は、上記成分(A)及び(B)の合計を100質量%として、25〜75質量%であり、好ましくは30〜70質量%であり、更に好ましくは35〜70質量%である。この配合量が25質量%未満であると、耐溶剤性及び耐熱性が劣り、75質量%を超えると耐吸湿性が劣る。
【0063】
本発明で使用する熱可塑性樹脂組成物(I)中のゴム質重合体(a)の含有量は、上記成分(A)及び(B)の合計100質量部に対して、5〜30質量部、好ましくは10〜30質量部、更に好ましくは10〜22質量部である。ゴム質重合体(a)の含有量がこの範囲にあると、印刷用フィルムが十分な機械的強度及び製膜性を備える。
【0064】
上記成分(C)は、製膜時にフィルムがロールに粘着するのを防止し、本発明で使用する印刷用フィルムに優れた製膜外観を与えるために有用であり、その配合量は、上記成分(A)及び(B)の合計100質量部に対して、通常7〜18質量部、好ましくは7〜15質量部、更に好ましくは8〜12質量部である。この配合量が7質量部未満であると、初期の目的を十分に達成することができなくなる恐れがあり、15質量部超えるとフィルムの耐溶剤性(割れ性)が不十分になる恐れがある。上記成分(C)により、製膜時にフィルムがロールに粘着するのを防止できるため、本願発明では製膜温度(ロール温度)を高くすることができる。その結果、耐熱性(加熱伸長率)がより優れるフィルムを得ることができる。
【0065】
尚、本発明で使用する熱可塑性樹脂組成物(I)は、必要に応じて、造核剤、熱安定剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、難燃剤、老化防止剤、可塑剤、抗菌剤、着色剤等の各種添加剤を、本発明の目的を損なわない範囲で含有することができる。
【0066】
本発明で使用する熱可塑性樹脂組成物(I)は、各成分を所定の配合比で、タンブラーミキサーやヘンシェルミキサーなどで混合した後、一軸押出機、二軸押出機、バンバリーミキサー、ニーダー、ロール、フィーダールーダー等の混合機を用いて、適当な条件下で溶融混練して製造することができる。好ましい混練機は、二軸押出機である。さらに、それぞれの成分を混練するに際しては、それぞれの成分を一括して混練しても、多段、分割配合して混練してもよい。尚、バンバリーミキサー、ニーダー等で混練した後、押出機によりペレット化することもできる。また、充填材のうち繊維状のものは、混練中での切断を防止するためにサイドフィーダーにより押出機の途中から供給する方が好ましい。溶融混練温度は、通常200〜300℃、好ましくは220〜280℃である。
【0067】
本発明で使用する印刷用フィルムは、上記熱可塑性樹脂組成物(I)を成形材料として用い、カレンダー成形、インフレーション成形、Tダイ押出成形等の各種成形方法により製造することができる。これらの中ではTダイ押出成形が好ましい。
【0068】
Tダイ押出成形は、Tダイから溶融樹脂を吐出させて軟質フィルムとした後、例えば、エアーナイフによりキャストロールに押出して面密着して冷却固化する方法である。キャストロールの数は特に制限されない。2本以上としてもよい。また、キャストロールの配置方法としては、例えば、直線型、Z型、L型などが挙げられるが特に制限されない。またダイの開口部から押出された溶融樹脂のキャストロールヘの通し方も特に制限されない。
【0069】
キャストロールの温度により、押出されたシート状の熱可塑性樹脂のキャストロールヘの密着具合が変化する。キャストロールの温度を上げると密着はよくなるが、温度を上げすぎるとシート状の熱可塑性樹脂がキャストロールから剥がれずに、キャストロールに粘着する不具合が発生する恐れがある。
【0070】
本発明で使用する印刷用フィルムの厚さは、通常50〜2500μm、好ましくは70〜1400μm、更に好ましくは70〜1000μm、特に好ましくは70〜500μmである。
【0071】
本発明で使用する印刷用フィルムは、上記成分(A)、上記成分(B)及び上記成分(C)からなる熱可塑性樹脂組成物(I)と、これから上記成分(C)を除いた組成の熱可塑性樹脂組成物(II)とを用い、少なくともキャストロールと接触する側に熱可塑性樹脂組成物(I)を配置させた積層構造、すなわち、(I)/(II)又は(I)/(II)/(I)の積層構造とすることもできる。
【0072】
本発明で使用する印刷用フィルムの表面には、直接印刷を施すことにより印刷層(図柄層)を設けることができる。印刷層は、各種印刷方法により形成することができる。印刷に使用するインクは、水性インクであっても、溶剤系インクなどの非水性インクの何れであってもよい。
直接印刷法としては、例えば、オフセット印刷、グラビア印刷、スクリーン印刷、インクジェット印刷、等の公知の印刷法を挙げることができる。
【0073】
本発明で使用する印刷用フィルムは耐溶剤性に優れるため、アンカーコート層を形成することなく、溶剤系インクを使用して当該フィルムの表面に直接印刷層を形成することができる。
別法として、特開2005−178276号公報に記載のように、予め図柄が印刷されたPETフィルムから本発明で使用する印刷用フィルムの表面に図柄を転写させる方法で印刷層を形成することもできる。
【0074】
本発明で使用する印刷用フィルムの印刷層の上には、公知の方法に従って、透明樹脂層を積層することができる。
透明樹脂層は、通常、熱可塑性樹脂の成形樹脂層からなる。当該熱可塑性樹脂は、透明であれば特に限定されず、例えば、アクリル系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、ポリプロピレン系樹脂、ポリエチレン系樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリスチレン系樹脂、ABS樹脂、ポリアミド系樹脂、四フッ化エチレン系樹脂、四フッ化エチレン−六フッ化プロピレン共重合樹脂、四フッ化エチレン−エチレン共重合樹脂、四フッ化エチレン−パーフルオロビニルエーテル共重合樹脂、三フッ化塩化エチレン樹脂、フッ化ビニリデン樹脂等が使用できる。これらの熱可塑性樹脂のうち、印刷層への密着性の点から、アクリル系樹脂を使用することが好ましい。アクリル系樹脂としては、メチルメタクリレートを構成単量体成分として含有するものが好ましい。
【0075】
透明樹脂層は、上記熱可塑性樹脂を予めフィルム状またはシート状に成形したものを、印刷層を被覆するように熱ラミネートして積層することができる。別法としては、印刷層が形成された印刷用フィルムの当該印刷層を被覆するように、上記熱可塑性樹脂を押出ラミネートして積層することもできる。
【0076】
透明樹脂層の厚さは、通常20μm〜2000μm、好ましくは50μm〜1500μm、更に好ましくは50μm〜1000μmである。この厚さが20μm未満では印刷層の影響により表面の荒れが発生することがある。この厚さが2000μmを超えると重量が増したり経済的に不利となることがある。
【0077】
次に、図1〜図3に基づき本発明の面材について説明する。図1は、印刷用フィルム10の基材20と反対側の表面上に最上層として透明樹脂層15を被覆し、基材20の他方の表面上に保護フィルム30を設けた場合であり、図2は、透明樹脂層15及び保護フィルム30を設けなかった場合を示す。また、図3は、印刷用フィルム10の基材20と反対側の表面上に最上層として透明樹脂層15を被覆し、基材20を2層で構成した例を示す。
本発明の面材は、基材20の少なくとも一方の表面上に、印刷用フィルム10を積層して成り、印刷用フィルム10には、前記基材20と反対側の表面上の少なくとも一部に図柄層13を積層して成る、ことを特徴とする。
【0078】
本発明で使用する基材20は、印刷用フィルムと積層できるものであれば、特に限定されないが、基材20の成形材料として、熱可塑性樹脂、熱硬化性樹脂、有機質材料、無機質材料、金属材料等が挙げられる。
熱可塑性樹脂としては、例えば、ポリ塩化ビニル、ポリエチレン、ポリプロピレン、AS樹脂、ABS樹脂、AES樹脂、ASA樹脂、ポリスチレン、耐衝撃性ポリスチレン、EVA、ポリアミド、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリカーボネート、ポリ乳酸等が挙げられる。これらは、1種単独で、又は、2種以上の組み合わせで使用できる。
熱硬化性樹脂としては、例えば、フェノール樹脂、エポキシ樹脂、尿素樹脂、メラミン樹脂、不飽和ポリエステル樹脂等が挙げられる。これらは、1種単独で、又は、2種以上の組み合わせで使用できる。
上記熱可塑性樹脂及び熱硬化性樹脂は、リサイクル樹脂又はリサイクル樹脂と非リサイクル樹脂の混合物であってもよい。
上記熱可塑性樹脂及び熱硬化性樹脂には、ガラス繊維、炭素繊維、金属繊維、ガラスビーズ、ワラストナイト、ガラスのミルドファイバー、ガラスフレーク、炭酸カルシウム、タルク、マイカ、カオリン、黒鉛、木粉、有機繊維、熱硬化性樹脂の粉砕粒子等の充填剤を、1種単独で又は2種類以上を組み合わせて配合することができる。
上記充填剤の配合量は、上記熱可塑性樹脂及び熱硬化性樹脂100質量部当たり、通常3〜300質量部、好ましくは3〜150質量部である。
上記熱可塑性樹脂及び熱硬化性樹脂には、上記充填剤以外に、必要に応じて酸化防止剤、帯電防止剤、滑剤、着色剤、難燃剤、難燃助剤等を添加してもよい。
上記熱可塑性樹脂及び熱硬化性樹脂は、発泡剤を添加した発泡成形体であってもよく、発泡倍率は、通常1.05〜20倍、好ましくは1.2〜15倍である。
有機質材料としては、例えば、インシュレーションボード、MDF(中質繊維板)、ハードボード、ポーティクルボード、ランバーコア、LVL(単板積層材)、OSB(配向性ボード)、PSL(パララム)、WB(ウェハーボード)、硬質繊維板、軟質繊維板、ランバーコア合板、ボードコア合板、特殊コア−合板、ベニアコア−ベニヤ板、タップ樹脂を含浸させた紙の積層シート・板、(古)紙等を砕いた細かい小片・線状体に接着剤を混合して加熱圧縮したボード、各種の木材等が挙げられる。
無機質材料としては、例えば、ケイ酸カルシウムボード、フレキシブルボード、ホモセメントボード、せっこうボード、シージングせっこうボード、強化せっこうボード、石膏ラスボード、化粧せっこうボード、複合せっこうボード、更に、鉄、アルミニウム、銅、各種の合金等の金属等が挙げられる。
金属が基材20として使用される場合、多くは金属板で使用される。金属板としては、例えば、一般的に樹脂被覆金属板の基材として使用されている金属板が使用され、具体的には、溶融亜鉛メッキ鋼板、電気亜鉛メッキ鋼板、アルミニウム・亜鉛複合メッキ鋼板、アルミニウムメッキ鋼板、ステンレス鋼板、アルミニウム系合金板等が挙げられる。これら金属板は、厚さ、熱処理条件、メッキの厚さ等に関しても特に制限はなく、また、金属板の表面処理も、リン酸塩処理、クロメート処理等が施されていてもよい。
基材20の形状は、本発明の面材の用途に応じて各種の形状をとるが、通常、板状(表面が平面でなくてもよく、丸み、凹凸等の変形があってもよい)、さらには、板状より厚みのある成形体等が挙げられる。
【0079】
印刷用フィルムの構成およびその表面に設けられる図柄層の印刷方法については前記した通りである。
【0080】
保護フィルム30は、意匠性、機械的強度、耐傷性、衛生性等の性能を向上させるために積層される。
保護フィルム30の材質としては、特に限定されないが、上記に示されている基材20の成形材料が挙げられ、更に、ゴム状重合体、紙、クロス等が挙げられる。好ましくはABS樹脂、AES樹脂、ASA樹脂等のゴム強化樹脂であり、上記の性能に優れる。
【0081】
本発明の面材は、基材20の一方の表面上に、印刷用フィルム10に図柄層13、更に必要に応じて透明樹脂層15を設けたものを積層して得られる。また、必要に応じて、基材20の他方の表面上に、保護フィルム30を積層してもよい。透明樹脂層の構成は前記した通りである。保護フィルム30の成形材料としては前記印刷用フィルム10と同じものを用いることができる。印刷用フィルム10と保護フィルム30を同じ材料で構成してもよく、異なる材料で構成してもよい。図1は透明樹脂層15と保護フィルム30を有する構成を示し、図2は透明樹脂層15と保護フィルム30を有しない構成を示す。
また、基材20は、一層で構成してもよく、また、2層以上で構成してもよい。図3は、第1基材層20aと第2基材層20bの2層で構成した例を示し、第1基材層20aの面上(第2基材層20bと反対側の面上)に、印刷用フィルム10を設けている。2層以上で構成する場合には、各層は同じ材料で構成してもよく、又、異なった材料で構成してもよい。
印刷用フィルム10が積層されていない表面(図3に示す例では第2基材層20bの下面)には、意匠性を高めるために、図柄及び着色等が施されていてもよい。
印刷用フィルム10と基材20との積層における接着は、接着剤、粘着剤等を使用する方法、加熱・圧着する方法が挙げられる。
また、接着力を高めるために、接着面の一方又は両方に、必要に応じて、コロナ放電処理、火炎処理、酸化処理、プラズマ処理、UV処理、イオンボンバード処理、電子線処理、溶剤処理、アンカーコート処理等の処理がなされていてもよい。
本発明の面材は、各種製品の部材として使用することにより、製品の意匠性を、従来の方法に比べ低コストで高めることができる。更に、長期使用における図柄の劣化が少なく、耐久性に優れる。
【0082】
本発明の面材は、建築用製品、電気製品、車両製品、家具製品、厨房用製品、及び、雑貨製品の部材として使用することができる。
具体的部材としては、例えば、床材、壁材、天井材、扉材、タンス部材などの家具部材、各種手摺り、テーブル部材、机部材、本箱、窓枠、瓦、雨樋、デッキ材、木口材、外装材、流し台、システムキッチン、ベッド部材、階段部材、壁パネル、額縁、鉛筆、筆、幅木、回り縁、みきり縁、椅子材、サッシ部材、パラボラアンテナ部材、竹垣、エアコンダクトカバー、浴室部材、パネル水槽部材、看板、表示板、案内板、事務用品関連分野、車両の内・外装、OA・家電各パーツなどに使用できる。
【0083】
印刷用フィルム10の図柄層13及び保護フィルム30の図柄(図示せず)としては、着色、大理石模様、木目模様、エンボス調模様、絵画タイトル、文字等が挙げられる。
【実施例】
【0084】
以下、参考例および実施例を挙げ、本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はその要旨を越えない限り、以下の参考例および実施例に何等制約されるものではない。尚、参考例および実施例中、部および%は特に断らない限り質量基準である。
【0085】
(1)評価方法:
下記の参考例及び実施例における、各種評価項目の測定方法を以下に示す。
【0086】
(1−1)マスメルトフローレート(MFR):
ISO1133に準じ、測定温度240℃、荷重98Nの条件で測定を行った。測定値の単位は、g/10分である。
【0087】
(1−2)耐熱性:加熱伸長率:
展色印刷前のフィルムを1インチ幅×300mm長に切り、これに500g荷重を吊り下げた試験サンプルを130℃に保持した恒温槽内に10秒間放置し、放置前に測定した100mm長(L0)に対する伸び(L1)を測定し、L1/L0×100(%)として求めた。
【0088】
(1−3)機械的強度:引き裂き強度:
フィルムの一方の表面に硬化性溶剤系インクを用いて展色印刷し、その後、温度23℃及び湿度50%RHの恒温恒湿室に24時間静置して印刷層を塗工した。その後、JIS K−7128に基づき、エレメンドルフ測定機(東洋精機(株)製)を用いてフィルムのMD方向/TD方向の両方についてエレメンドルフ引張強度を測定した。
なお、本明細書において、MD方向はTダイからの樹脂の押出方向、TD方向はMD方向に対して直角の方向を意味する。
【0089】
(1−4)機械的強度:フィルムインパクト:
振子式フィルム衝撃試験機(フィルムインパクトテスター:安田精機製作所製)を用いて、100mm×100mmのフィルムのフィルムインパクト(塗工前)を測定した。評価は、衝撃球半径:6.35mm、追加ウェイト:1390gの条件で行った。また、上記フィルムの一方の表面に硬化性溶剤系インクを用いて展色印刷し、その後、温度23℃及び湿度50%RHの恒温恒湿室に24時間静置して印刷層を塗工した。その後、上記と同様の方法で塗工面からのフィルムインパクト(塗工後)を測定した。そして、下記式に従い、フィルムインパクト保持率を求めた。
【0090】
【数3】

【0091】
(1−5)耐溶剤性(割れ性):
上記同様の塗工後のフィルムから100mm(MD)×100mm(TD)の試験片を切り出し、MD方向の対称軸に沿って折り曲げ、その後TD方向の対称軸に沿って折り曲げた。折り曲げた試験片を、JIS−Z0237に準拠し、手動式圧着ロール(2000g)を用い、5mm/秒の速度で、各折り目上を2往復させた。その後、折り目をひろげて元の状態に戻し、試験片の状態を目視にて観察した。評価はn=5回で行った。以下に判断基準を示した。
○:n=5回すべてにおいて折り目が割れていない。
△:折り目が割れていたものがあった。
×:n=5回すべてにおいて折り目が割れている。
【0092】
(1−6)印刷性(印刷面密着性):
フィルムの一方の表面に硬化性溶剤系インクを用いて展色印刷し、その後、温度23℃及び湿度50%RHの恒温恒湿室に24時間静置して印刷層を形成した。そして、印刷層の表面に、幅18mm及び長さ約75mmの粘着テープ(ニットウ社製)を貼り付け、指圧でしごいて密着させ、その後、一気に剥がした。印刷層が残存しているかどうかを目視で観察し、下記基準に従って判定した。尚、粘着テープの貼り付け及び引き剥がしは、JIS−K5600−5−6に準じて行った。
○:密着性が良好であり、実用上問題ない、
×:印刷層が剥離。
【0093】
(1−7)製膜性:
フィルムを製膜する際に下記基準で評価を行った。
○:安定して製膜を行うことができ、表面が均一で美麗なフィルムが得られる。
△:時々フィルムの端部が蛇行したり、破断が生じる。
×:安定して製膜を行うことができず、表面が不均一で美麗なフィルムが得られない。
【0094】
(1−8)フィルム貼り追随性(可撓性):
直径9cm×高さ40cmの筒状物の外周面に、300mm幅(MD)×215mm長(TD)にカットした展色印刷前のフィルムを巻きつけ、下記の基準で評価した。なお、フィルムは、そのMD方向が筒状物の周方向に沿うようにした。
○:フィルム全体を筒状物に巻き付けられる。
×:フィルム全体を筒状物に巻き付けられない。
【0095】
(1−9)吸湿性(寸法変化率):
展色印刷前のフィルムを15mm幅(MD)×100mm長(TD)に切り、恒温恒湿槽(40℃×90%)内に24時間放置した後、フィルムのTD方向の寸法変化率を下記式に従って求めた。
【0096】
【数4】

【0097】
(1−10)製膜時のロール粘着性:
製膜時にキャストロール上のシートを目視で評価した。
○:シート状の熱可塑性樹脂がキャストロールから剥がれて、キャストロールに巻きつかない。
×:シート状の熱可塑性樹脂がキャストロールから剥がれずに、キャストロールに巻きつく。
【0098】
(1−11)製膜外観:
製膜後のシート外観を目視で評価した。
○:しわがなく、キャストロール面が転写されている。
×:しわがあり、キャストロール面が転写されていない。
【0099】
(2−1)成分(A)(ゴム変性スチレン系樹脂):
表1記載の重合方法で得られ、表1記載の共重合割合及び物性値を備えた重合体を使用した。
【0100】
【表1】

【0101】
(2−2)成分(B)(ポリアミド系樹脂):
B1:ナイロン6;NOVAMID 1015J(商品名:三菱エンジニアリングプラスチック社製)、相対粘度3.0(98%硫酸法)。
B2:ナイロン6;NOVAMID 1020J(商品名:三菱エンジニアリングプラスチック社製)、相対粘度3.5(98%硫酸法)。
【0102】
(2−3)成分(C)(無機充填材:タルク):
C1:日本タルク社製「ミクロエースK−1」を用いた。このものの平均粒径D50(レーザー回折法)は8μm、見掛け密度(JIS−K5101)は0.25g/mlであった。
C2:日本タルク社製「ミクロエースP−3」を用いた。このものの平均粒径D50(レーザー回折法)は5μm、見掛け密度(JIS−K5101)は0.16g/mlであった。
【0103】
(2−4)添加剤:
D1:ステアリン酸カルシウム;Ca−St(商品名:日東化成工業製)
D2:ペンタエリストールテトラキス[3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート];IRGANOX 1010(商品名:チバスペシャルティ・ケミカルズ(株)製)
【0104】
<印刷用フィルムの評価>
参考例1A〜10A及び参考比較例1A〜5A(無機充填剤を含有しない系):
表2−1〜表2−3に記載の配合割合で、各表に記載の各成分をヘンシェルミキサーにより混合した後、二軸押出機(日本製鋼所製、TEX44、バレル設定温度250℃)で混練し、ペレット化した。得られたペレットを用い、下記方法によりフィルムを製造した。
まず、Tダイ(ダイ幅;1400mm、リップ間隔;0.5mm)を備え、スクリュー
径65mmの押出機を備えたフィルム成形機を用い、押出機にペレットを供給して、Tダイから、溶融温度270℃で樹脂を吐出させ、軟質フィルムとした。その後、この軟質フィルムをエアーナイフによりキャストロールに面密着させ、冷却固化しフィルムを得た。得られたフィルムの評価結果を表2−1〜表2−3に示した。
尚、フィルムの肉厚は、シックネスゲージ(型式「ID−C1112C、ミツトヨ社製)を用い、フィルム製造開始から1時間経過後のフィルムを切り取り、フィルム幅方向の中心、及び、中心より両端に向けて、10mm間隔で肉厚を測定し、その平均値とした。フィルムの端部から20mmの範囲にある測定点の値は、上記平均値の計算から除去した。
【0105】
【表2−1】

【0106】
【表2−2】

【0107】
【表2−3】

【0108】
表2−1〜3より以下のことが明らかである。
【0109】
参考例1A〜10Aの熱可塑性樹脂組成物(I)を成形して得られた印刷用フィルムは、本発明の目的とする性能を備えていた。
これに対し、参考比較例1Aは、成分(B)の配合量が本発明の範囲外で高く、耐吸湿性が劣る。
参考比較例2Aは、成分(B)の配合量が本発明の範囲外で低く、耐溶剤性(割れ性等)が劣る。
参考比較例3Aは、ビニル系単量体として官能基含有不飽和化合物を使用しなかった例であり、TD方向とMD方向の引き裂き強度の差が大きく、機械的強度が不均一であった。
参考比較例4Aは、ビニル系単量体として官能基含有不飽和化合物を多量に配合した例であり、製膜性に劣る。
参考比較例5Aは、ゴム量が本発明の範囲外で高く、製膜性に劣る。
【0110】
参考例11A:
参考例1Aのフィルムの印刷面に、透明樹脂フィルムを150℃、20kg/cm、15分のプレス条件で熱圧着して透明樹脂層を積層して化粧フィルムを作成した。なお、透明フィルムとして、メチルメタクリレート/ブチルアクリレート/スチレン=81/16/3の割合(質量比、3成分の合計は100質量部)の共重合体からなる厚さ50μmのアクリル系樹脂フィルムを用いた。その結果、製膜性に問題はなく、美麗な外観の化粧フィルムが得られた。
【0111】
参考例12A:
参考例5Aのフィルムを用いた以外、参考例11Aと同様の方法で化粧フィルムを作成した。その結果、製膜性に問題はなく、美麗な外観の化粧フィルムが得られた。
【0112】
参考例1B〜12B(無機充填剤を含有する系):
表3−1及び表3−2に記載の配合割合で、各表に記載の各成分をヘンシェルミキサーにより混合した後、二軸押出機(日本製鋼所製、TEX44、バレル設定温度250℃)で混練し、ペレット化した。得られたペレットを用い、下記方法によりフィルムを製造した。
まず、Tダイ(ダイ幅;1400mm、リップ間隔;0.5mm)を備え、スクリュー径65mmの押出機を備えたフィルム成形機を用い、押出機にペレットを供給して、Tダイから、溶融温度270℃で樹脂を吐出させ、軟質フィルムとした。その後、この軟質フィルムをエアーナイフにより、所定の表面温度に設定したキャストロールに面密着させ、冷却固化しフィルムを得た。得られたフィルムの評価結果を表3−1及び表3−2に示した。
尚、フィルムの肉厚は、前記の参考例1Aと同様にして求めた。
【0113】
【表3−1】

【0114】
【表3−2】

【0115】
表3−1及び表3−2より以下のことが明らかである。
【0116】
本発明における成分(A)、(B)、(C)を配合した熱可塑性樹脂組成物(I)を成形してなる印刷用フィルムである参考例1B〜12Bは、製膜時にロールに粘着し難く製膜外観に優れ、更に、製膜性、耐熱性、耐溶剤性、印刷性、耐吸湿性に優れる。
【0117】
参考例13B:
参考例1Bのフィルムの印刷面に、透明樹脂フィルムを150℃、20kg/cm、15分のプレス条件で熱圧着して透明樹脂層を積層して化粧フィルムを作成した。なお、透明フィルムとして、メチルメタクリレート/ブチルアクリレート/スチレン=81/16/3の割合(質量比、3成分の合計は100質量部)の共重合体からなる厚さ50μmのアクリル系樹脂フィルムを用いた。その結果、製膜性に問題はなく、美麗な外観の化粧フィルムが得られた。
【0118】
参考例14B:
参考例5Bのフィルムを用いた以外、参考例13Bと同様の方法で化粧フィルムを作成した。その結果、製膜性に問題はなく、美麗な外観の化粧フィルムが得られた。
【0119】
<面材>
実施例1〜4:
前記の参考例3A、6A、8A、10Aで得られた各印刷用フィルムからA4サイズ(縦297mm、横210mm)の印刷用フィルムを切り出し、このA4サイズの印刷用フィルムの一方の表面に硬化性溶剤インクを用いて印刷し、その後、温度23℃及び湿度50%RHの恒温恒湿に24時間静置して印刷層を積層した。そして、印刷層を積層した上記のフィルムとを用いて、次の要領で図3に示す面材を作成した。
【0120】
まず、基材(20)を作成した。
第1基材層(20a)の形成にはMDF(厚さ15mm、縦297mm、横210mm)を使用し、第2基材層(20b)の形成には、テクノポリマー社製の商品「バリューテックNSG100」(厚さ0.5mm、縦297mm、横210mm)を使用した。「バリューテックNSG100」の色調は酸化チタンで着色されて白色である。
上記のMDFと「バリューテックNSG100」との接着は、中央理化工業社製の接着組成物(BA−20/BA−11B=100/2.5(部):何れも商品名)を用い、塗布量80g/m(ドライ)、室温(25〜30℃)、0.5N/cm×2日圧締の条件で行った。
【0121】
次に、MDFの表面に印刷層(13)を積層した前記のフィルム(10)を接着させた。接着条件は上記と同一条件とした。
【0122】
次に、印刷層(13)の表面に透明樹脂フィルムを熱圧着して透明樹脂層(15)を形成し、図3に示す面材(システムキッチンの扉)を得た。透明樹脂フィルムとしては、メチルメタクリレート/ブチルアクリレート/スチレン=81/16/3の割合(質量比、3成分の合計は100質量部)の共重合体からなる厚さ50μmのアクリル系樹脂フィルムを用いた。また、上記の熱圧着は、150℃、20kg/cm、15分のプレス条件で行った。透明樹脂フィルムの熱圧着に問題はなく、美麗な外観の面材が得られた。
【符号の説明】
【0123】
10:印刷用フィルム
13:図柄層(印刷層)
15:透明樹脂層
20:基材層
20a:第1基材層
20b:第2基材層
30:保護フィルム

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材の少なくとも一方の表面上に、以下に記載の印刷用フィルムを積層して成り、当該印刷用フィルムには、前記基材と反対側の表面上の少なくとも一部に図柄層を積層して成る、ことを特徴とする面材。
<印刷用フィルム>
ゴム変性スチレン系樹脂(A)25〜75質量%、及び、ポリアミド系樹脂(B)25〜75質量%(ただし、(A)及び(B)の合計は100質量%である)を含有する熱可塑性樹脂組成物(I)を成形してなる印刷用フィルムであって、
前記成分(A)は、ゴム質重合体(a)の存在下にビニル系単量体(b1)を重合して得られるグラフト共重合体(A1)、または、当該グラフト共重合体(A1)とビニル系単量体(b2)の(共)重合体(A2)との混合物からなり、
前記ビニル系単量体(b1)及びビニル系単量体(b2)は、何れも、芳香族ビニル化合物及びシアン化ビニル化合物を必須単量体成分として含有し、
前記ビニル系単量体(b1)及びビニル系単量体(b2)の少なくとも何れか1方は、さらに、水酸基含有不飽和化合物、エポキシ基含有不飽和化合物、置換または非置換のアミノ基含有不飽和化合物、カルボキシル基含有不飽和化合物、酸無水物基含有不飽和化合物及びオキサゾリン基含有不飽和化合物からなる群より選ばれた少なくとも1種の官能基含有ビニル系単量体を含有し、
前記成分(A)中の前記官能基含有ビニル系単量体の含有量は前記成分(A)の全量を100質量%として0.1〜1.2質量%であり、
前記成分(A)のアセトン可溶分の極限粘度(メチルエチルケトン、30℃)は0.15〜1.5dl/gであり、
前記熱可塑性樹脂組成物(I)は、前記成分(A)と前記成分(B)の合計100質量部に対して5〜30質量部のゴム質重合体(a)を含有する、印刷用フィルム。
【請求項2】
熱可塑性樹脂組成物(I)は、前記成分(A)と前記成分(B)の合計100質量部に対して7〜18質量部の無機充填材(C)を含有する請求項1に記載の面材。
【請求項3】
前記無機充填材(C)がタルクである請求項2に記載の面材。
【請求項4】
前記熱可塑性樹脂組成物(I)は、前記成分(A)と前記成分(B)の合計100質量部に対して10〜22質量部のゴム質重合体(a)を含有する請求項1〜3の何れかに記載の面材。
【請求項5】
前記ゴム質重合体(a)が共役ジエン系ゴムである請求項1〜4の何れかに記載の面材。
【請求項6】
前記成分(A1)は、下記成分(A1−1)及び/又は下記成分(A1−2)である請求項1又は2に記載の面材。
成分(A1−1):ゴム質重合体(a)の存在下に、芳香族ビニル化合物及びシアン化ビニル化合物をからなるビニル系単量体(b1−1)を重合して得られるグラフト共重合体。
成分(A1−2):ゴム質重合体(a)の存在下に、芳香族ビニル化合物及びシアン化ビニル化合物、並びに、水酸基含有不飽和化合物、エポキシ基含有不飽和化合物、置換または非置換のアミノ基含有不飽和化合物、カルボキシル基含有不飽和化合物、酸無水物基含有不飽和化合物及びオキサゾリン基含有不飽和化合物からなる群より選ばれた少なくとも1種の官能基含有ビニル系単量体からなるビニル系単量体(b1−2)を重合して得られ
るグラフト共重合体。
【請求項7】
前記成分(A2)は、下記成分(A2−1)及び/又は下記成分(A2−2)である請求項1又は2に記載の面材。
成分(A2−1):ゴム質重合体(a)の不存在下に、芳香族ビニル化合物及びシアン化ビニル化合物をからなるビニル系単量体(b2−1)を重合して得られる(共)重合体。 成分(A2−2):ゴム質重合体(a)の不存在下に、芳香族ビニル化合物及びシアン化ビニル化合物、並びに、水酸基含有不飽和化合物、エポキシ基含有不飽和化合物、置換または非置換のアミノ基含有不飽和化合物、カルボキシル基含有不飽和化合物、酸無水物基含有不飽和化合物及びオキサゾリン基含有不飽和化合物からなる群より選ばれた少なくとも1種の官能基含有ビニル系単量体からなるビニル系単量体(b2−2)を重合して得られる(共)重合体。
【請求項8】
前記印刷用フィルムには、更に、前記基材と反対側の表面上に最上層として透明樹脂層を被覆して成る、請求項1〜7の何れかに記載の面材。
【請求項9】
前記図柄層を、直接印刷法により積層して成る、請求項1〜8の何れかに記載の面材。
【請求項10】
前記基材の他方の表面上に、ゴム強化樹脂を含む樹脂組成物から成るフィルムを設けて成る、請求項1〜9の何れかに記載の面材。
【請求項11】
建築製品、電気製品、車両製品、家具製品、厨房用製品及び雑貨製品の面材に使用される請求項11〜12の何れかに記載の面材。
【請求項12】
システムキッチンに使用される請求項11〜12の何れかに記載の面材。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2009−255562(P2009−255562A)
【公開日】平成21年11月5日(2009.11.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−69917(P2009−69917)
【出願日】平成21年3月23日(2009.3.23)
【出願人】(396021575)テクノポリマー株式会社 (278)
【Fターム(参考)】