説明

面法線計測方法及びその装置

【課題】
離れた位置にある小領域対象面の面法線を計測する方法及び装置を提供する。
【解決手段】
互いの両端面を平行に組み合わせて中間に一定の隙間を有する2枚のウェッジプリズム11a、11bを用い、光ビームの入射光91を平行にシフトするためのビームシフト光学系1を構成し、これを角度可変アクチュエータ41により一体で回転させ照射位置を可変とし、小領域中の少なくとも3点94a、94b、94cに光ビームを照射して得られる距離データを基に法線演算回路51で法線を算出することにより、離れた位置にある対象面の面法線を計測する方法及びその装置を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は移動ロボット等の外界認識手段として、離れた位置にある小領域対象面の面法線方向を計測する方法及びその装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
レーザー距離計とポリゴンミラー等を組み合わせ、計測点を直線状又は平面状に走査することで計測対象物体の位置、姿勢を計測する手段がある(例えば、非特許文献1参照。)。
【非特許文献1】伊藤:レーザ測定システム:LMSシリーズ、日本ロボット学会誌、Vol.21、No.1、pp.45−47、2003
【0003】
また、光を2枚の同一楔角を有し互いに反対に回転する光学ウェッジにより直線的に偏向する距離測定装置が提案されている(特許文献1参照。)。
【特許文献1】特開平7−218633号広報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら非特許文献1の手段は構造、制御が複雑であると共に、ポリゴンミラーの回転角制御分解能や距離測定分解能が十分でないため、例えば階段の立ち上がり面等の小領域の面の計測には不向きであるという不都合を有している。また、特許文献1の手段は直線的に広範囲に偏向することを目的にした方法であり、対象面の法線方向を一意に求めることはできないという不都合を有している。更に非特許文献1及び特許文献1の手段を小領域面の計測に適用しようとした場合、計測対象面までの距離の変化に伴い、偏向角を制御する必要があるという不都合を有している。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明はこのような課題を解決することを目的とするもので、請求項1記載の方法の発明は、光ビームを物体へ照射し、前記物体表面で反射した光を受光し、前記物体表面までの距離を測定する原理を用い、前記物体表面の小領域中の少なくとも3点に前記光ビームを平行に照射して得られる複数の距離データを基に、前記物体表面の法線を計測することを特徴とする面法線計測方法にある。また、請求項2記載の発明は、上記の方法において、互いの両端面を平行に組み合わせた2枚のウェッジプリズムと、前記光ビームの照射位置を可変にするための前記2枚のウェッジプリズムの角度を可変にする角度可変手段と、前記複数の距離データから前記物体表面の法線を算出するための演算手段とを用いることを特徴とするものであり、また、請求項3記載の発明は、前記2枚のウェッジプリズムの間に調整可能な空隙を設けて配置することを特徴とするものであり、また、請求項4記載の発明は、前記2枚のウェッジプリズムを前記光ビームの光軸周りに一体で回転させ角度可変とすることを特徴とするものである。
【0006】
また、請求項5記載の装置の発明は、光ビームを物体へ照射し、前記物体表面で反射した光を受光し、前記物体表面までの距離を測定する原理を用い、前記物体表面の小領域中の少なくとも3点に前記光ビームを平行に照射して得られる複数の距離データを基に、前記物体表面の法線を計測することを特徴とする面法線計測装置にある。また、請求項6記載の発明は、互いの両端面を平行に組み合わせた2枚のウェッジプリズムと、前記光ビームの照射位置を可変にするための前記2枚のウェッジプリズムの角度を可変にする角度可変アクチュエータと、前記複数の距離データから前記物体表面の法線を算出するための演算回路とを備えることを特徴とするものであり、また、請求項7記載の発明は、前記2枚のウェッジプリズムの間に調整可能な空隙を設けて配置することを特徴とするものであり、また、請求項8記載の発明は、前記2枚のウェッジプリズムを前記光ビームの光軸周りに一体で回転させ角度可変とすることを特徴とするものである。
【0007】
また、請求項9記載の装置の発明は、請求項1ないし請求項4記載の面法線測定方法を実現する機能を組み込んだことを特徴とする距離測定装置にある。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、請求項1または請求項5の発明にあっては、物体表面の小領域中の少なくとも3点に光ビームを平行に照射して得られる複数の距離データを基に、物体表面の法線を計測するから、距離によらず同一の手段で物体表面の小領域の面法線を計測することができる。
【0009】
また、請求項2または請求項6の発明にあっては、互いの両端面を平行に組み合わせた2枚のウェッジプリズムと、光ビームの照射位置を可変にするための2枚のウェッジプリズムの角度を可変にする角度可変手段と、複数の距離データから前記物体表面の法線を算出するための演算手段とを用いるから、簡単な構成で光ビームを平行にシフトすることができ、また、照射位置を円滑に変化させることができ、また、法線を自動で計算することができる。
【0010】
また、請求項3または請求項7の発明にあっては、2枚のウェッジプリズムの間に調整可能な空隙を設けて配置するから、光ビームの平行シフト量を変更することができ、計測対象面の状況と計測必要精度に応じ、計測する小領域の面積を円滑かつ簡単に調整することができる。
【0011】
また、請求項4または請求項8の発明にあっては、2枚のウェッジプリズムを光ビームの光軸周りに一体で回転させ角度可変とするから、照射位置を同一半径で円周上に変化させることができ、単純な動作で三次元的な法線計測が可能になる。
【0012】
また、請求項9の発明にあっては、従来の距離測定装置に面法線計測機能を付加できるから、距離測定装置を固定したまま面法線の計測が可能になり、距離測定装置の機能を向上させることができる。
【0013】
以上のように、本発明によれば、構造、制御が簡単で、離れた位置にある小領域面の法線方向を計測する手段を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下、本発明の実施の形態を図1〜図5に基づいて説明する。
【実施例1】
【0015】
図1は本発明に係る実施例1の説明図である。図1を用いて構成及び動作について説明する。投光器31で投光する光ビームは投光レンズ32で整形されビームシフト光学系1への入射光91となる。ビームシフト光学系1は内側と外側の端面をそれぞれ平行に並べる一対のウェッジプリズム11とそれを収納する筒12よりなり、2枚のウェッジプリズム11a、11bは、この場合円筒形であり、不図示のスペーサ及び押さえ環により間隔を平行に空けて相対位置を保てるようになっている。入射光91はビームシフト光学系1に入射し、照射光93として照射する。つまり、入射光91は第1プリズム11aで屈折し、屈折光92となり、第2プリズム11bへの入射光となる。屈折光92は第2プリズム11bで更に屈折し、照射光93となり測定対象面9の方へ照射する。後で説明する通り照射光93は入射光91と平行にシフトしている。この場合、照射光93aは対象面9上の照射点94aに照射される。照射点94aで反射する反射光95は例えばビームシフト光学系1を通り逆向きに戻り、受光レンズ34を介し受光器33に帰還する。計測制御回路35は、例えばパルス変調光位相差検出を原理とする距離計算回路を構成しており、投光器31、受光器33の投受光制御を行い、基準点から対象面までの距離を計算する。
【0016】
また、ビームシフト光学系1には不図示の回転ガイドが設けられ、角度可変アクチュエータであるモータ41の軸に設けられた回転力伝達手段42と当接し、モータ41と連動して回転可能になっている。計測制御回路35はモータ41の回転角を制御でき、従ってビームシフト光学系1の回転角を所定の角度に制御可能になっている。
【0017】
計測制御回路35は、モータ41を介し、少なくとも3つの角度にビームシフト光学系1の回転角度を制御し、照射光を93a、93b、93cと変え、対象面9の照射点94a、94b、94cまでの距離計測を行う。その回転角情報と距離計測結果を法線を算出するための法線演算回路51に送る。法線演算回路51は前記回転角情報と距離計測結果から後で説明する方法で対象面の法線を計算し、表示器52に表示する。表示器52には、必要に応じ、対象面9までの距離を表示しても良い。また、計測された法線方向を吟味し、例えば予め設定された座標軸周りの回転角として表示しても良い。
【0018】
ビームシフト光学系1は図1の構成に限らず、例えば図2に示す光学系2として構成しても良い。この場合、ビームシフト光学系2は内外端面が互いに平行な一対のウェッジプリズム21とそれを収納する筒22によりなり、2枚のウェッジプリズム21a、21bは不図示のスペーサ及び押さえ環により間隔を空けて相対位置を保てるようになっている。入射光91はビームシフト光学系2に入射し、照射光93として照射する。つまり、入射光91は第1プリズム21aで屈折し、屈折光92となり、第2プリズム21bに入射する。屈折光92は第2プリズム21bで更に屈折し、照射光93となり測定対象面9の方へ照射する。この場合も照射光93は入射光91と平行にシフトする。
【0019】
次に図3を用いて本発明に係る面法線計測原理を説明する。距離測定の基準点を原点O、距離測定方向をz、設置基準面をxとする座標系を定義する。入射光軸81を基準とした照射光83aの平行シフト量をr、シフト角をθ、対象物表面85の法線をNとする。前記のビームシフト光学系1により、照射開始点は82aに移動したものと見なせる。θを変え、少なくとも3点84a、84b、84cまでの距離を計測すれば3光路が平行のためこの座標系における3点の座標、それぞれP1、P2、P3が定まり、(1)式によって計測点84a、84b、84cを含む単位法線ベクトルNを計算できる。
【0020】
【数1】

【0021】
次に図4を用いて本発明に係る光ビーム平行シフト法の詳細を説明する。照射位置を可変にするため、2枚のウェッジプリズム11a、11bを用いる。向き合うウェッジ面が平行になるように隙間を空けて配置する。左側の第1プリズム11aに垂直に入射した光91は屈折しその右側に屈折光92として出射する。そして、屈折光92は第2プリズム11bで更に屈折し、その右側に照射光93として出射する。2枚のプリズム11a、11bが屈折率、ウェッジ角とも同一、あるいは光学的に同一性能であれば、入射光91と照射光93は平行となる。この時の入射光軸と照射光93との間隔をビームシフト量rと呼んでいる。ここで、プリズム11a、11bのウェッジ角θw、屈折率n及び2枚のプリズムの間隔Lを可変とすることにより、適宜ビームシフト量rを調整できる。第1プリズム11aからの屈折光92の屈折角θdは(2)式、ビームシフト量rは(3)式から求められる。
【0022】
【数2】

【0023】
このプリズム11a、11bの相対関係を保ったまま一体で回転させれば、半径rの円周上に照射光93を平行に可変にでき、従って計測対象面に対し入射光軸91と平行に照射光をrだけ平行移動して照射できる。
【0024】
なお、前記光ビーム平行シフト法においては、第1プリズム11aに対する第2プリズム11bの両端面の平行度誤差が照射光の平行ずれとなる。特に長距離計測に適用する場合、上記の誤差が距離計測誤差及び面法線計測誤差の増大を招く大きな要因であることがわかっている。計測精度を維持するためにビームシフト光学系1の設計、製造には留意が必要である。
【0025】
以上により、ビームシフト光学系1の効果により、構造、制御が簡単で、対象面9の法線方向Nを円滑に計測する手段を提供できる。
【0026】
なお、距離計測精度を向上するために、ビームシフト光学系挿入による光路長の補正を行うと良い。また、面法線計測精度を向上するために、照射点を3点ではなく、より多数点とすると良い。また、対象面が平面でない場合、多数の照射点群の中から部分的な法線を計測し、形状認識の手段としても良い。
【実施例2】
【0027】
図5は投光器、受光器、及び計測制御回路の一部を一体化して製品化されている距離計を用いる場合の本発明に係る実施例2の説明図である。距離測定を行うために、例えば通信機能を持ち、パルス変調光位相差検出を原理とする距離計6を用いる。距離計の出射光91を実施例1と同様にビームシフト光学系1で平行にシフトし、照射光93として照射する。測定対象面からの反射光を距離計6で受光し、距離計6で算出された距離計測結果を通信制御回路7で受け取る。通信制御回路7は距離計6を制御すると共に、実施例1と同様に少なくとも3つの角度にビームシフト光学系1の回転角度を制御するため、モータ41の回転角度を制御する。その回転角情報と距離計測結果を法線演算回路51に送り、法線演算回路51はその結果から対象面の法線Nを計算し、表示器52に表示する。なお、本実施例2のその他の構成、動作については実施例1と同様であるため、詳細な説明を省略する。
【0028】
以上により、ビームシフト光学系1の効果により、構造、制御が簡単で、距離計本体を固定したまま対象面の法線方向を簡単に計測する手段を提供できる。
【産業上の利用可能性】
【0029】
本発明は移動ロボット等の外界認識手段として利用できる。また、例えば、壁面、階段等構造物の傾きを簡易に測る手段としても利用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】本発明の実施例1の説明図
【図2】他の光ビーム平行シフト光学系の説明図
【図3】面法線計測原理の説明図
【図4】光ビーム平行シフトの説明図
【図5】本発明の実施例2の説明図
【符号の説明】
【0031】
1 ビームシフト光学系
11 一対のウェッジプリズム
11a、11b ウェッジプリズム
12 筒
2 他のビームシフト光学系
21 一対のウェッジプリズム
21a、21b ウェッジプリズム
22 筒
31 投光器
32 投光レンズ
33 受光器
34 受光レンズ
35 計測制御回路
41 モータ
42 回転力伝達手段
51 法線演算回路
52 表示器
6 距離計
7 通信制御回路
81 入射光軸
82a 照射開始点
83a 照射光
84a、84b、84c 照射点
85 法線計測対象中心点
9 法線計測対象面
91 入射光
92 屈折光
93、93a、93b、93c 照射光
94a、94b、94c 照射位置
95 反射光

【特許請求の範囲】
【請求項1】
光ビームを物体へ照射し、前記物体表面で反射した光を受光し、前記物体表面までの距離を測定する原理を用い、前記物体表面の小領域中の少なくとも3点に前記光ビームを平行に照射して得られる複数の距離データを基に、前記物体表面の法線を計測することを特徴とする面法線計測方法。
【請求項2】
上記請求項1の方法において、互いの両端面を平行に組み合わせた2枚のウェッジプリズムと、前記光ビームの照射位置を可変にするための前記2枚のウェッジプリズムの角度を可変にする角度可変手段と、前記複数の距離データから前記物体表面の法線を算出するための演算手段とを用いることを特徴とする面法線計測方法。
【請求項3】
上記請求項2の方法において、前記2枚のウェッジプリズムの間に調整可能な空隙を設けて配置することを特徴とする面法線計測方法。
【請求項4】
上記請求項2または請求項3の方法において、前記2枚のウェッジプリズムを前記光ビームの光軸周りに一体で回転させ角度可変とすることを特徴とする面法線計測方法。
【請求項5】
光ビームを物体へ照射し、前記物体表面で反射した光を受光し、前記物体表面までの距離を測定する原理を用い、前記物体表面の小領域中の少なくとも3点に前記光ビームを平行に照射して得られる複数の距離データを基に、前記物体表面の法線を計測することを特徴とする面法線計測装置。
【請求項6】
上記請求項5の装置において、互いの両端面を平行に組み合わせた2枚のウェッジプリズムと、前記光ビームの照射位置を可変にするための前記2枚のウェッジプリズムの角度を可変にする角度可変アクチュエータと、前記複数の距離データから前記物体表面の法線を算出するための演算回路とを備えることを特徴とする面法線計測装置。
【請求項7】
上記請求項6の装置において、前記2枚のウェッジプリズムの間に調整可能な空隙を設けて配置することを特徴とする面法線計測装置。
【請求項8】
上記請求項6または請求項7の装置において、前記2枚のウェッジプリズムを前記光ビームの光軸周りに一体で回転させ角度可変とすることを特徴とする面法線計測装置。
【請求項9】
前記請求項1ないし請求項4記載の面法線測定方法を実現する機能を組み込んだことを特徴とする距離測定装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2006−3184(P2006−3184A)
【公開日】平成18年1月5日(2006.1.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−179106(P2004−179106)
【出願日】平成16年6月17日(2004.6.17)
【出願人】(592102940)新潟県 (41)
【出願人】(304027279)国立大学法人 新潟大学 (310)
【Fターム(参考)】