説明

面状発熱体

【課題】抵抗体とこれを覆う絶縁被覆層とをスクリーン印刷によって形成した場合において、抵抗体の抵抗値が上昇する問題を解消した面状発熱体を提供する。
【解決手段】導電性粒子を含んだインクを用いて、スクリーン印刷によって基材1上に形成された抵抗体3と、耐熱性の樹脂を含んだインクを用いて、スクリーン印刷によって抵抗体を覆うように形成された絶縁被覆層4とを有した面状発熱体であって、前記抵抗体は、少なくとも、絶縁被覆層と接し、かつ、厚み方向の表層部が、カーボン粒子を含んだインクによって形成されていることを特徴とする面状発熱体である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、基材上に、抵抗体とこれを覆う絶縁被覆層とをスクリーン印刷によって形成した面状発熱体に関し、詳しくは、抵抗体の抵抗値が上昇する問題を解消した面状発熱体に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体製造装置における静電チャックでの基板の昇温をはじめ、各種装置や器具を加温したり、恒温に保つなどの目的で利用される面状発熱体は、その構造が比較的簡単であり、また、基材としてフィルム等を用いれば、極めて薄くでき、しかも折り曲げが可能であることから、様々な用途や分野で広く利用されている。
【0003】
この面状発熱体は、抵抗体に電流を流すことで発熱させるものであり、このような面状発熱体を得る方法として、例えば、基材上に、スクリーン印刷によって導電性粒子を含んだインクを印刷して、所定の形状を有した発熱用の抵抗体を形成する方法が知られている。
【0004】
そして、例えば特許文献1には、スクリーン印刷によって抵抗体を形成する際に、発熱用の抵抗体とは別に、所望のパターン形状からなる抵抗値調整用の抵抗体を重ねて印刷することが提案されている。また、特許文献2には、発熱用の抵抗体間の抵抗値を測定するための抵抗体を別途形成することが提案されている。これらはいずれも、導電性粒子を含んだインクから抵抗体を形成すると、インク性状のばらつきや、塗布されるインクの厚みのばらつきが原因で、抵抗体の抵抗値が変動してしまい、面内の発熱温度が不均一になる問題に対応するものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平10−172741号公報
【特許文献2】特開2007−273130号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、近年では、抵抗体を被覆する絶縁被覆層についても、耐熱性の樹脂を含んだインクを用いて、スクリーン印刷により形成する試みがなされている。抵抗体と共に絶縁被覆層をスクリーン印刷により形成することができれば、大型の面状発熱体を得る上で好適であり、コストの面でも有利になると考えられる。
【0007】
ところが、実際に、耐熱性の樹脂を含んだインクを用いて、抵抗体の上に絶縁被覆層を形成すると、絶縁被覆層を形成する前に比べて、抵抗体の抵抗値が2〜3倍程度上昇してしまう問題があることが明らかになった。この現象については未だ十分に解明できていないが、スクリーン印刷によって絶縁被覆層を形成すると、耐熱性の樹脂を含んだインクが硬化して、それに含まれる成分が抵抗値を上昇させるものと推測される。
【0008】
そこで、本発明者等は上記のような課題を解決するために鋭意検討した結果、少なくとも、絶縁被覆層と接する抵抗体の表層部を、カーボン粒子を含んだインクによって形成することで、スクリーン印刷によって絶縁被覆層を形成しても、抵抗体の抵抗値の上昇を抑えることができることを見出し、本発明を完成した。
【0009】
したがって、本発明の目的は、抵抗体とこれを覆う絶縁被覆層とをスクリーン印刷によって形成した場合において、抵抗体の抵抗値が上昇する問題を解消した面状発熱体を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
すなわち、本発明は、導電性粒子を含んだインクを用いて、スクリーン印刷によって基材上に形成された抵抗体と、耐熱性の樹脂を含んだインクを用いて、スクリーン印刷によって抵抗体を覆うように形成された絶縁被覆層とを有した面状発熱体であって、前記抵抗体は、少なくとも、絶縁被覆層と接し、かつ、厚み方向の表層部が、カーボン粒子を含んだインクによって形成されていることを特徴とする面状発熱体である。
【0011】
本発明において、電流を流して発熱させる抵抗体は、図2に示した部分拡大図の例のように、少なくとも、絶縁被覆層2と接する部分であって、尚且つ、基材1の上に形成された抵抗体3の厚み方向の表層部については、カーボン粒子を含んだインク3-1によって形成されるようにする。例えば、2種以上のインクを用いて、抵抗体を多層構造で形成する場合、図2(a)や(b)に示した例のように、表層部のみをカーボン粒子を含んだインク3-1を用いて形成し、それ以外の部分は、カーボン粒子以外の導電性粒子を含んだインク(3-2、3-3)を用いて形成するようにしても良い。勿論、カーボン粒子を含んだインク3-1単独で、抵抗体3を形成するようにしても良い。また、2種以上のインクを用いて抵抗体3を形成する場合については、図2(c)の例のように、抵抗体3の厚み方向の表層部のみならず、絶縁被覆層2と接する部分の全てを、カーボン粒子を含んだインク3-1を用いて形成するようにしても良い。
【0012】
また、抵抗体が2種以上のインクを用いて形成された多層構造を有する場合、少なくとも、絶縁被覆層と接する部分であって、尚且つ、基材上に形成された抵抗体の厚み方向における表層部を形成するインクについては、それに含まれるカーボン粒子が、基材側に位置する最下層部又は深層部を形成するインク3-3に含まれる導電性粒子の粒子径に比べて小さくなるようにするのが好ましい。絶縁被覆層と接する部分を形成するインクに含まれるカーボン粒子の粒子径を、基材側の最下層部又は深層部を形成するインクに含まれる導電性粒子に比べて小さくすることで、抵抗体の抵抗値の上昇をより抑えることができる。なお、カーボン粒子を含んだインクは、例えば銀フィラーインクに比べて、それ自身の抵抗値はかなり高いが、このような多層構造を採用することで、複合抵抗は並列接続になり、銀フィラーインク単体の抵抗値に近い値を維持することができる。
【0013】
抵抗体の厚みについては、発熱体の用途や必要な発熱量によっても異なるが、例えば静電チャックに吸着させた基板を昇温する用途であれば、一般には、10〜100μm程度であるのが良い。このうち、カーボン粒子を含んだインクによって形成される厚みは10μm以上であるであるのが好ましい。カーボン粒子を含んだインクによって形成される部分の厚みが10μmより薄くなると抵抗値の上昇を抑える効果が不十分になるおそれがある。
【0014】
本発明において抵抗体を形成するインクについては、低抵抗の導電性インクであって、スクリーン印刷が可能なものであれば良く、このうち、カーボン粒子を含んだインクとして、市販されているものを具体的に挙げると、例えば、十条ケミカル社製のカーボンフィラーインク(型式CH-10)、Lackwerke Peters社製の導電性カーボンインク(SD2843 HAL)等を例示することができる。また、カーボン粒子以外の導電性粒子を含んだインクとしては、銅粒子、銀粒子、金、ナノワイヤー等を含んだインクを用いることができ、これらについて市販されているものを具体的に挙げると、例えば、タツタシステムエレクトロニクス社製の銅フィラーインク(型式NF2000EX)、太陽インキ社製の銀フィラーインク(型式AF-4820)、アルバックマテリアル社製のAUメタルインク、Cambrios社製のClearOhm(登録商標)を例示することができる。ここで例示した以外のものであっても使用できることは勿論である。
【0015】
また、スクリーン印刷によって形成する抵抗体は、発熱体の面内において均一な温度分布を有するようにする観点から、基材上で所定のパターン形状を有するように形成するのが良く、好ましくは、図3に示す例のように、線状本体3aを所定の間隔で並べ、かつ、線状本体3aの幅dと線状本体間の隙間dとが同じになるようにして、抵抗体が基材上で所定のパターン形状を形成するのが良い。このように、線状本体3aの幅dと線状本体間の隙間dとを揃えることで、抵抗体に電圧が印加された際に、抵抗体から発生する磁界の影響で電流が流れ難くなる現象を抑えることができる。また、図3に示したように、抵抗体3が外部電源に接続される接続端子部4を有するようにして、この接続端子部4を介して外部電源5に接続された際に、抵抗体3が電気的に並列接続となるように、2以上の抵抗体3を基材上に形成するのが好ましい。発熱体の形状が大型化されるなど、抵抗体自体の抵抗値を抑えることが難しくなる場合には、抵抗体を複数に分割して並列接続になるようなパターン形状を形成することで、抵抗値を抑えて印加電圧を低くすることができる。なお、図3は、抵抗体を3分割して、基材上で並列接続を形成する例であるが、これ以外のパターン形状や、分割の仕方を採用しても良いことは勿論である。
【0016】
また、本発明における絶縁被覆層は、耐熱性の樹脂を含んだインクを用いて、図1に示すように、スクリーン印刷によって抵抗体を覆うように形成する。ここで用いるインクは、スクリーン印刷が可能であって、しかも、抵抗体による発熱に耐えて、電気的な絶縁層を形成することができるものであれば特に制限されず、例えば、ポリイミド、アクリル等の樹脂を含んだインクを用いることができる。なかでも、ポリイミドを含んだインクであれば、耐熱性や絶縁性の面で好適である。このポリイミドを含んだインクについて具体例を挙げると、例えば、宇部興産社製のユピコート(登録商標)の商品名で市販されているポリイミドインク、フェルノックス社製のアクリルインク(ペルトロンC-4542)等を例示することができる。この絶縁被覆層の厚みについて、例えば静電チャックに吸着させた基板を昇温する用途であれば、一般には、50〜200μm程度であるのが良い。
【0017】
また、本発明の面状発熱体を形成する基材について特に制限はないが、例えば、PET(ポリエチレンテレフタレート)フィルム、PEN(ポリエチレンナフレタート)フィルム、ポリイミドフィルム等のフィルムを用いることで、可撓性を有したフレキシブル発熱体を得ることができる。基材としてこれらのフィルムを用いる場合には、25〜200μm程度であるのが好適である。また、可撓性が要求されない場合には、フィルム以外のガラス板やアルミ板等の基板を用いても良く、或いは、昇温や恒温のために発熱が要求される装置や器具等の一部に、所定の抵抗体や絶縁被覆層を形成して、既存の基材を利用するようにしても良い。
【0018】
また、本発明において、抵抗体及び絶縁被覆層を形成するスクリーン印刷については、公知の手段を採用することができる。印刷条件を例示すれば、スクリーン印刷の版と基材とのクリアランスは3〜4mm程度、スキージの押し込み量は1〜5mm程度、及び印刷速度は20〜40cm/秒程度であり、特にこれらの条件に制約されるものではない。また、印刷後は、用いるインクの種類によるが、熱や紫外線による硬化処理を行うようにしてもよい。
【0019】
また、本発明では、図4に示したように、内部に抵抗体を備えた絶縁被覆層が、基材上で2以上の階層を有するように形成しても良い。内部に抵抗体を備えた絶縁被覆層が、基材上で2以上の階層を有することで、仮にそれぞれの階層で抵抗体の抵抗値が各層間でばらついていたとしても、発熱体全体での発熱の均一性を確保することができるようになる。その際、多層化した各抵抗体が並列接続となるように、連結部6を介して接続するのが好ましい。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、抵抗体及び絶縁被覆層をいずれもスクリーン印刷によって形成した場合でも、抵抗体の抵抗値の上昇を抑えることができる。そのため、スクリーン印刷を利用して面状発熱体を得た場合でも、抵抗体の抵抗値を再現性良く製造することができ、しかも、面状発熱体として、均一かつ安定した動作が得られるようになる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】図1は、本発明の面状発熱体を説明する断面模式図である。
【図2】図2(a)〜(c)は、抵抗体の一部を拡大した拡大模式図である。
【図3】図3は、抵抗体のパターン形状を模式的に示す平面図である。
【図4】図4は、本発明の面状発熱体の変形例を示す断面模式図である。
【図5】図5は、実施例1の面状発熱体に用いた抵抗体のパターン形状を示す平面模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、実施例に基づき本発明をより具体的に説明する。なお、本発明は、以下の実施例の内容に制限されるものではない。
【実施例】
【0023】
[実施例1]
図1において、本発明の実施例1に係る面状発熱体Xが示されている。この実施例1の面状発熱体Xにおいて、基材1は、500mm×400mm×厚さ50μmのポリイミドフィルム(東レ・デュポン社製:カプトン(登録商標)H)を使用し、このポリイミドフィルム1の上に、導電性粒子を含んだインクを用いて、スクリーン印刷によって、図5に示すパターン形状を有した抵抗体3を形成した。ここで、図5に示すパターン形状は、幅2mmの線状本体3aを交互に折り返しながら、隣り合う線状本体3aとの間に2mmの隙間が形成されるようにして、ポリイミドフィルム1の平面を埋めている。また、この平面内には3つの抵抗体3が存在し、それぞれ接続端子部4を介して図示外の外部電源に接続されて、これら3つの抵抗体3が電気的に並列接続となるように構成されている。
【0024】
そして、上記抵抗体3を形成するにあたり、先ず、銀フィラーインク(太陽インキ社製:型式AF-4820)を用いて、図5に示したパターン形状となるように、スクリーン印刷によってポリイミドフィルム1の上に第一の層を印刷した。この銀フィラーインクに含まれる銀粒子の平均粒径は5μmであり、また、印刷条件については、スクリーン印刷の版とポリイミドフィルム1とのクリアランスを3mmとし、スキージの押し込み量を2mmとなるようにして、印刷速度は20cm/秒とした。そして、所定のパターン形状を印刷した後には、170℃で60分の熱硬化を行い、図2(a)に示すように、銀フィラーインク3bからなる厚さ約20μmの第一の層(最下層部)をポリイミドフィルム1の上に形成した。ここで、銀フィラーインク3bからなる第一の層の抵抗値は49Ωであった。
【0025】
次いで、カーボンフィラーインク(十条ケミカル社製:型式CH-10)を用いて、銀フィラーインク3bからなる第一の層の上に、先と同じ版でスクリーン印刷を行い、印刷条件及び硬化条件は銀フィラーインクの場合と同様にして、厚さ15μmのカーボンフィラーインク3aからなる第二の層(表層部)を形成した。このカーボンフィラーインクに含まれるカーボン粒子の平均粒径は0.5μmである。また、銀フィラーインク3bの第一の層と、カーボンフィラーインク3aの第二の層とからなる抵抗体3の抵抗値は、67Ωであった。
【0026】
上記のようにして、ポリイミドフィルム1の上に多層構造の抵抗体3を形成した後、ポリイミドを含んだ絶縁性インク(宇部興産社製:ユピコート(登録商標))を用いて、接続端子部4を除いて抵抗体3が被覆されるようにスクリーン印刷し、硬化させて、厚さ60μmの絶縁被覆層4を形成した。この際の印刷条件及び硬化条件は、上記の場合と同様にした。そして、抵抗体3の上に絶縁被覆層4を形成して測定した抵抗値は、70Ωであった。
【0027】
絶縁被覆層4を形成した後、360mm×320mmのサイズになるように切り出し、接続端子部4にネジ・ナットを用いて圧着端子を取り付け、ケーブルと固定した。そして、露出している接続端子部4を熱収縮チューブで被覆して、実施例1に係る面状発熱体Xを完成させた。
【0028】
上記で得られた面状発熱体Xについて、交流電圧240V、電流5Aの外部電源に接続したところ、面状発熱体Xからの発熱が確認され、熱電対で計測したところ、面状発熱体Xの中央付近は170℃に昇温した。
【産業上の利用可能性】
【0029】
本発明の面状発熱体は、半導体製造装置における静電チャックでの基板の昇温をはじめ、CVD装置やイオン注入装置等における処理室の昇温のような半導体製造プロセスでの用途のほか、屋内外で使用される調理器での昇温、恒温ポット、ガラスや鏡等の曇り止め、便座の保温、各種電子機器を恒温に保つためのパネルなど、様々な用途で使用することができる。
【符号の説明】
【0030】
1:基材
2:絶縁被覆層
3:抵抗体
3a:線状本体
4:接続端子部
5:外部電源
6:連結部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
導電性粒子を含んだインクを用いて、スクリーン印刷によって基材上に形成された抵抗体と、耐熱性の樹脂を含んだインクを用いて、スクリーン印刷によって抵抗体を覆うように形成された絶縁被覆層とを有した面状発熱体であって、前記抵抗体は、少なくとも、絶縁被覆層と接し、かつ、厚み方向の表層部が、カーボン粒子を含んだインクによって形成されていることを特徴とする面状発熱体。
【請求項2】
抵抗体が2種以上のインクを用いて形成された多層構造を有しており、前記表層部を形成するインクに含まれるカーボン粒子は、基材側の最下層部又は深層部を形成するインクに含まれる導電性粒子の粒子径よりも小さいことを特徴とする請求項1に記載の面状発熱体。
【請求項3】
絶縁被覆層が、ポリイミドを含んだインクによって形成される請求項1又は2に記載の面状発熱体。
【請求項4】
抵抗体が、線状本体を所定の間隔で並べ、かつ、線状本体の幅と線状本体間の隙間とが同じになるように、基材上で所定のパターン形状を形成する請求項1〜3のいずれかに記載の面状発熱体。
【請求項5】
抵抗体が外部電源に接続される接続端子部を有しており、接続端子部を介して外部電源に接続された際に電気的に並列接続となるように、2以上の抵抗体を備える請求項1〜4のいずれかに記載の面状発熱体。
【請求項6】
基材上で、内部に抵抗体を備えた絶縁被覆層が2以上の階層を形成する請求項1〜5のいずれかに記載の面状発熱体。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate


【公開番号】特開2011−227999(P2011−227999A)
【公開日】平成23年11月10日(2011.11.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−93773(P2010−93773)
【出願日】平成22年4月15日(2010.4.15)
【出願人】(591012266)株式会社クリエイティブ テクノロジー (25)
【Fターム(参考)】