説明

面発光レーザ素子及び面発光レーザ素子の製造方法

【課題】誘電体多層膜により上部DBRが形成されている面発光レーザ等において、高い歩留りで製造することのできる面発光レーザ素子を提供する。
【解決手段】基板上に形成された下部DBRと、前記下部DBRの上に形成された活性層と、前記活性層の上に形成された誘電体層と、前記誘電体層の上に形成された上部DBRと、を有し、前記上部DBRは、屈折率の異なる2種類の誘電体膜を交互に積層することにより形成されており、前記誘電体層の膜厚は、前記活性層における発振波長をλとし、前記誘電体膜における屈折率をnとした場合、λ/4nよりも厚いことを特徴とする面発光レーザ素子を提供することにより上記課題を解決する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、面発光レーザ素子及び面発光レーザ素子の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
面発光レーザ(VCSEL;Vertical Cavity Surface Emitting LASER)は、基板に対し、垂直方向に光を出射する半導体レーザであり、端面発光レーザに比べて低価格、低消費電力、小型であって高性能であること、2次元集積化が容易であるといった特徴を有している。
【0003】
特許文献1に開示されているように、面発光レーザは、活性層を含む共振器領域と、共振器領域の上下に設けられた上部反射鏡及び下部反射鏡とにより形成される共振器構造を有している。これにより、共振器領域における厚さは、必要な波長λの光を発振するような厚さで形成されており、上部反射鏡及び下部反射鏡は光学的な厚さがλ/4の低屈折率層と高屈折率層とを交互に積層して形成することにより、波長λの光が高い反射率で反射されるように形成されている。このような、面発光レーザを用いたデバイスとしては、1つの面発光レーザのチップより波長の異なる複数のレーザ光を出射することのできる構造を有する光伝送モジュール等がある。
【0004】
一方、原子時計においては、波長品質の高い面発光レーザが適しており、搬送波の波長精度としては、特定波長に対し±1nmが求められている。また、光通信における波長分割多重通信(WDM:Wavelength Division Multiplexing)は、一本の光ファイバーを用いて波長の異なる複数の光を伝送して通信する方式であり、これに使用される面発光レーザ素子は、1つのチップ内に波長の異なる複数のレーザ光を出射させることができるように形成されている。
【0005】
特許文献2では、基板上に下部DBR、活性層、半導体層、上部DBRが形成されており、この半導体層はエッチング方法の異なる2種類の半導体薄膜を複数の対となるように積層形成されており、エッチングの回数等により半導体層の膜厚を変えることができる構造のものが開示されている。尚、上部DBRはエピタキシャル成長により形成されている。
【0006】
また、特許文献3では、1つのチップ内に波長の異なるレーザを作製するため、下部DBRを形成した後、エッチングを行なうことにより、下部DBRの厚さを変えて、第1の波長を発振させるレーザと第2の波長を発振させるレーザを形成したものである。尚、下部DBRの上には活性層が形成されており、活性層の上には、誘電体多層膜により形成される上部DBRが形成されている。
【0007】
このように、上部DBRは半導体材料により形成する場合と、誘電体多層膜により形成する場合とがあるが、半導体材料により上部DBRを形成した場合、半導体材料にドープされた不純物等の影響により光を吸収してしまうため、光の吸収の少ない誘電体多層膜により上部DBRを形成する方が好ましい。尚、誘電体多層膜は、一般的に、屈折率の異なる2種類の誘電体膜を各々の誘電体膜における光学的膜厚がλ/4となるように十数ペア積層形成することにより形成されており、真空蒸着等の成膜方法により形成することができる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
ところで、上部DBRは各々の面発光レーザごとに形成されるため、一つのチップに複数の面発光レーザを形成する場合には、隣接する面発光レーザ間において上部DBR層はエッチングにより除去される。しかしながら、ウエハ等の基板の周辺部分と中央部分とではエッチングレートが異なるため、作製される素子にばらつきが生じ歩留りが低下してしまう。
【0009】
このことを図1に基づきより詳細に説明する。図1は、面発光レーザ素子の製造工程の一部を示すものであり、第1の上部スペーサ層922、電流狭窄層923、第2の上部スペーサ層924、コンタクト層925、上部DBR904を形成した後、不要な上部DBR904をエッチングにより除去した状態を示すものである。尚、第1の上部スペーサ層922、電流狭窄層923、第2の上部スペーサ層924、コンタクト層925は半導体材料により形成されている。また、上部DBR904は、誘電体多層膜により形成されており、光学的な膜厚がλ/4であるSiO等により形成される低屈折率層904aと、光学的な膜厚がλ/4であるTa等により形成される高屈折率層904bとを交互に8.5ペア積層することにより形成されている。
【0010】
このように、上部DBR904をエッチングする際には、最初に、上部DBR904の上にフォトレジストを塗布し、露光装置により露光、現像を行なうことにより、エッチングにより上部DBRが除去される領域に開口を有するレジストパターン930を形成し、この後、フッ素系ガスを用いたドライエッチングにより、上部DBR904を形成している不要な誘電体膜を除去する。
【0011】
この際、ドライエッチングでは、プラズマの分布等の影響により、ウエハ等の基板の周辺部分と中央部分とではエッチングレートが異なり、基板の周辺部分ではエッチングレートが速く、中央部分ではエッチングレートが遅くなる傾向にある。具体的には、図1(a)に示されるように、基板の中央部分においてジャストエッチングされるように、即ち、エッチングより形成される開口部905aの底面に、コンタクト層925が露出するようにエッチングを行なうと、図1(b)に示されるように、エッチングレートの速い基板の周辺部分に形成される開口部905bにおいては、コンタクト層925が除去され、底面に第2の上部スペーサ層924が露出してしまう。実際に実験を行なった結果ところ、コンタクト層925の上面からの半導体層におけるオーバーエッチング量dは、約80nmであった。
【0012】
図1(b)に示されるように、開口部905bにおいてコンタクト層925がエッチングにより除去されてしまうと、面発光レーザに電流を注入することができないため、面発光レーザ素子としては機能しないものとなってしまう。従って、基板の中央部分における面発光レーザ素子は良品となるものの、基板の周辺部分における面発光レーザ素子は不良となるため、歩留りが低下してしまう。
【0013】
本発明は、上記に鑑みなされたものであり、誘電体多層膜により上部DBRが形成されている面発光レーザ等において、高い歩留りで製造することのできる面発光レーザ素子及び面発光レーザ素子の製造方法を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明は、基板上に形成された下部DBRと、前記下部DBRの上に形成された活性層と、前記活性層の上に形成された誘電体層と、前記誘電体層の上に形成された上部DBRと、を有し、前記上部DBRは、屈折率の異なる2種類の誘電体膜を交互に積層することにより形成されており、前記誘電体層の膜厚は、前記活性層における発振波長をλとし、前記誘電体膜における屈折率をnとした場合、λ/4nよりも厚いことを特徴とする。
【0015】
また、本発明は、基板の上に下部DBR、活性層、コンタクト層を順に積層形成する工程と、前記コンタクト層の上に誘電体層を形成する工程と、前記コンタクト層の上に屈折率の異なる2種類の誘電体膜を交互に積層することにより上部DBRを形成する工程と、所定の領域における前記上部DBR及び前記誘電体層の一部をドライエッチングにより除去する工程と、前記所定の領域において、前記ドライエッチングを行なった後に残存している前記誘電体層をウエットエッチングにより除去する工程と、を有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、誘電体多層膜により上部DBRが形成されている面発光レーザ等において、高い歩留りで面発光レーザを製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】上部DBRの一部をドライエッチングにより除去した場合の説明図
【図2】本実施の形態における面発光レーザ素子の構造図
【図3】本実施の形態における面発光レーザ素子の製造方法の工程図(1)
【図4】本実施の形態における面発光レーザ素子の製造方法の工程図(2)
【図5】本実施の形態における面発光レーザ素子の製造方法の工程図(3)
【図6】本実施の形態における面発光レーザ素子の上面図
【図7】P−CVDにより成膜されたSiNにおける基板温度とエッチングレートとの相関図
【図8】P−CVDにより成膜されたSiNにおける基板温度と屈折率との相関図
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明を実施するための形態について、以下に説明する。尚、同じ部材等については、同一の符号を付して説明を省略する。
【0019】
〔第1の実施の形態〕
(面発光レーザの構造)
第1の実施の形態における面発光レーザ素子について説明する。図2は、本実施の形態における面発光レーザ素子の構造を示すものである。尚、便宜上、電極パッド及び保護膜等は省略されている。
【0020】
本実施の形態における面発光レーザ素子は、半導体等の基板101の上に、下部DBR102、下部スペーサ層121、活性層103、第1の上部スペーサ層122、電流狭窄層123、第2の上部スペーサ層124、コンタクト層125がエピタキシャル成長により積層形成されている。尚、下部DBR102、下部スペーサ層121、活性層103、第1の上部スペーサ層122、電流狭窄層123、第2の上部スペーサ層124、コンタクト層125は半導体材料により形成されている。
【0021】
また、コンタクト層125の上には、誘電体層110、上部DBR104が積層して形成されている。上部DBR104は、光学的な膜厚がλ/4となるように屈折率の低い材料により形成される低屈折率層104aと、光学的な膜厚がλ/4となるように屈折率の高い材料により形成される高屈折率層104bとを交互に積層することにより形成されている。誘電体層110は、光学的な膜厚が3λ/4となるように屈折率の低い材料により形成されている。
【0022】
尚、誘電体層110の光学的な膜厚は、λ/4よりも厚ければよいが、誘電体層110を上部DBR104と組み合わせた場合における反射率を考慮すると、誘電体層110の光学的な膜厚は、λ/4の奇数倍であることが好ましい。具体的には、誘電体層110の光学的な膜厚は、λ/4の3以上の奇数倍であることが好ましい。また、誘電体層110を屈折率の低い材料により形成しているため、誘電体層110の上に形成される上部DBR104において、誘電体層110の上には高屈折率層104bが形成されている。低屈折率層104a及び高屈折率層104bとしては、酸化物、窒化物、フッ化物等の誘電体材料を用いることができる。具体的には、低屈折率層104aとしては、SiO、MgF、SiN等の材料を用いることができ、高屈折率層104bとしては、TiO、Ta、HfO、TiN等の材料を用いることができる。尚、λは、本実施の形態における面発光レーザ素子における発振波長である。
【0023】
本実施の形態における面発光レーザ素子では、活性層103、第1の上部スペーサ層122、電流狭窄層123、第2の上部スペーサ層124、コンタクト層125、誘電体層110、上部DBR104の一部を除去することによりメサ150が形成されており、メサ150の周囲より電流狭窄層123を選択的に酸化することにより、周辺部分において酸化された選択酸化領域123aと中心部分において酸化されていない電流狭窄領域123bとが形成されている。また、誘電体層110、上部DBR104の一部を除去することにより、コンタクト層125を露出させ、この後、コンタクト層125の上に上部電極となるp側電極131を形成することにより、コンタクト層125とp側電極131とが電気的に接続されている。尚、メサ150の周囲には、コンタクト層125の上面と略同じ高さまでポリイミド等による樹脂層140が形成されており、基板101の裏面には下部電極となるn側電極132が形成されている。
【0024】
本実施の形態における面発光レーザ素子は、p側電極131とn側電極132とにより活性層103に電流を注入することにより発光させ、発光した光を上部DBR104と下部DBR102とにより共振させることにより、レーザ光が出射されるものである。
【0025】
ところで、ドライエッチングにおいて、半導体材料により形成されているコンタクト層125のエッチングレートに対する誘電体材料により形成されている上部DBR104のエッチングレートの比は、約2であり小さい。よって、前述したように基板101の中心部分において、コンタクト層125の表面が露出するまでエッチングを行なった場合、基板101の周辺部分においては、コンタクト層125まで除去されてしまい、上部電極であるp側電極131と電気的に接続することができない。
【0026】
本実施の形態では、後述するように、最初に、ドライエッチングにより上部DBR104及び誘電体層110の一部を除去し、この後、残っている誘電体層110をウエットエッチングにより除去して、コンタクト層125の表面を露出させる。ウエットエッチングでは、誘電体層110の膜質やウエットエッチングに用いるエッチング液を選択することにより、コンタクト層125におけるエッチングレートに対する誘電体層110におけるエッチングレートの比を10以上にすることができる。よって、上部DBR104及び誘電体層110を除去して状態においても、基板101の全面においてコンタクト層125を残すことができ、コンタクト層125の表面を露出させることができる。尚、ウエットエッチングにおいては、基板101の中心部分と周辺部分にかかわらず均一にエッチングを行なうことができる。
【0027】
例えば、誘電体層110を形成しているSiO膜をBHF110(バッファードフッ酸)によりエッチングした場合、エッチングレートは100〜110nm/minであり、コンタクト層125におけるエッチングレートは5nm/minである。よって、コンタクト層125におけるエッチングレートに対する誘電体層110におけるエッチングレートの比は20以上となる。
【0028】
また、基板101におけるドライエッチングの面内分布は、基板101の周辺部分においてジャストエッチングした場合、中心部分に残る膜厚は約160nm(80nm×2)であり、この後、ウエットエッチングを行なうことにより、中心部分においてコンタクト層125を露出させた場合、周辺部分におけるコンタクト層125は約8nmオーバーエッチングされるだけであり、作製される面発光レーザ素子の特性に影響を与えることはない。
【0029】
尚、ドライエッチングによるエッチングにおいては、エッチング時間等によりエッチングの管理がなされているが、プラズマの状態やエッチングされる開口領域の面積、エッチング時に生成される副生成物等の影響によりエッチングレートが刻々と変化するため、所望の位置でエッチングを停止することは極めて困難である。
【0030】
ここで、従来の上部DBRと同様に、誘電体層110が上部DBRの低屈折率層の一部となるように、誘電体層110の厚さをλ/4とした場合について考える。具体的には、低屈折率材料としてSiOを用い、高屈折率材料としてTaを用いて上部DBRを形成する。レーザ光の発振波長λが890nmの場合における各々の膜厚は、
低屈折率層(SiO):λ(890nm)/4n(n=1.45)=153nm
高屈折率層(Ta):λ(890nm)/4n(n=2.5)=89nm
となる。
【0031】
また、本実施の形態においては、ドライエッチングにより上部DBRを除去する場合、基板の周辺部分における低屈折率層であるSiOを50〜100nm残すようなエッチングが必要となる。この場合、上述した従来の上部DBRにおいては、基板の中心部分では高屈折率層であるTaが残ってしまう。Taはウエットエッチングにおいてエッチングしにくい材料であり、エッチング液としてHF+NHFを用いた場合におけるエッチングレートは、約8nm/minであり、半導体材料により形成されているコンタクト層125におけるエッチングレートと略同じである。このため、基板の周辺部分と中心部分とでは、エッチングされる半導体層の膜厚差が大きくなり、基板の周辺部分においてもコンタクト層125が除去されてしまう場合が生じる。よって、上部DBRにおける高屈折率層であるTaは、ドライエッチングの工程において、確実に除去しておく必要がある。
【0032】
本実施の形態における面発光レーザ素子では、誘電体層110の光学的な厚さがλ/4(厚さがλ/4n、nは屈折率)よりも厚くなるように形成されている。例えば、誘電体層110の厚さを3λ/4nとなるように形成した場合、誘電体層110であるSiOの膜厚は460nmとなる。よって、ドライエッチングの工程において、基板101の周辺部分における誘電体層110の膜厚が100nm残るようにエッチングを行なった場合、エッチングされる誘電体層110の膜厚は360nmとなり、前述したようにドライエッチングの面内分布である約160nmを考慮すると、基板101の中心部分では誘電体層110は膜厚が260nm残るようにエッチングされる。従って、エッチングされる誘電体層110の膜厚は200nmであり、上部DBR104における高屈折率層104bであるTaが残ることはない。この場合、誘電体層110の膜厚は、3λ/4n以上であれば同様の効果を得ることができ、また、光学的な特性を考慮するならば、3λ/4n以上であってλ/4nの奇数倍であることが好ましい。尚、この場合において、ドライエッチングにおける終点が多少ずれたとしても、誘電体層110は十分厚く形成されているため、歩留りが低下することはない。
【0033】
ところで、ドライエッチングの面内分布である約160nmを考慮すると、基板101の周辺部分における誘電体層110の膜厚が、100nm残るようにエッチングを行なった場合、基板101の中心部分に残る誘電体層110の膜厚は260nmとなる。よって、この場合、誘電体層110の膜厚は260nm以上、即ち、1.7λ/4n以上形成されていることが好ましい。
【0034】
また、基板101の周辺部分における誘電体層110の膜厚が、50nm残るようにエッチングを行なった場合、基板101の中心部分に残る誘電体層110の膜厚は210nmとなる。よって、この場合、誘電体層110の膜厚は210nm以上、即ち、1.4λ/4n以上形成されていることが好ましい。
【0035】
尚、誘電体層110は上部DBR104と同じ成膜方法であってもよく、また、異なる成膜方法であってもよい。誘電体層110を上部DBR104と異なる成膜方法により形成する場合としては、後述するように、P−CVD(plasma-enhanced chemical vapor deposition)により、誘電体層110としてSiOまたはSiNを膜厚が3λ/4nとなるように成膜した後、イオンアシスト蒸着法により低屈折率層104aと高屈折率層104bとを交互に積層形成することにより上部DBR104を形成したものであってもよい。また、P−CVDは誘電体層110の膜質を大きく変えることができるため、ウエットエッチングにおけるエッチングレートの速い膜等を形成することができる。
【0036】
また、誘電体層110は、上部DBR104における低屈折率層104aまたは高屈折率層104bと同じ材料により形成したものであってもよく、異なる材料により形成したものであってもよい。尚、誘電体層110を低屈折率層104aまたは高屈折率層104bと異なる材料により形成した場合における誘電体層110の屈折率は、上部DBR104における低屈折率材料104aを形成している材料の屈折率以上、高屈折率材料104bを形成している材料の屈折率以下であることが好ましい。
【0037】
(面発光レーザ素子の製造方法)
次に、本実施の形態における面発光レーザ素子の製造方法について説明する。本実施の形態における面発光レーザ素子は、前述したように、電流狭窄層となるAlAs層を選択酸化することにより電流狭窄構造を形成したものであり、発振波長が890nmの面発光レーザ素子である。
【0038】
最初に、図3(a)に示すように、基板101としてn−GaAs基板を用い、基板101の上に、下部DBR102、下部スペーサ層121、活性層103、第1の上部スペーサ層122、電流狭窄層123、第2の上部スペーサ層124、コンタクト層125をMOCVD(Metal Organic Chemical Vapor)またはMBE(Molecular Beam Epitaxy)により半導体材料をエピタキシャル成長させることにより形成する。下部DBR102は、光学的な膜厚がλ/4であるn−Al0.1Ga0.9Asにより形成される高屈折率層と、光学的な膜厚がλ/4であるn−Al0.9Ga0.1Asにより形成される低屈折率層とを交互に35.5ペア積層形成することにより形成されている。
【0039】
下部スペーサ層121はAl0.2Ga0.8Asにより形成されており、活性層103はGaInAs量子井戸層/GaInPAs障壁層により形成されている。また、第1の上部スペーサ層122はAl0.2Ga0.8Asにより形成されており、電流狭窄層123はAlAsにより形成されており、第2の上部スペーサ層124はAl0.2Ga0.8Asにより形成されており、コンタクト層125はp−GaAsにより形成されている。
【0040】
次に、図3(b)に示すように、イオンアシスト蒸着法により、光学的な膜厚が3λ/4となるようにSiOからなる誘電体層110(膜厚:460nm)を形成し、誘電体層110の上には、光学的な膜厚がλ/4となるようにSiOにより形成される低屈折率層104a(膜厚:153nm)と、光学的な膜厚がλ/4となるようにTaにより形成される高屈折率層104b(膜厚:89nm)とを交互に8.5ペア積層形成することにより上部DBR104を形成する。尚、図3〜図5においては、便宜上、低屈折率層104a及び高屈折率層104bの一部は省略されている。
【0041】
次に、図3(c)に示すように、上部DBR104の表面にレジストパターン161を形成する。具体的には、上部DBR104の表面にフォトレジストを塗布し、露光装置による露光、現像を行なうことにより上部DBR104及び誘電体層110の一部が除去される領域に開口部を有するレジストパターン161を形成する。
【0042】
次に、図4(a)に示すように、ドライエッチングにより上部DBR104及び誘電体層110の一部を除去する。このドライエッチングの工程では、基板101の全面において、上部DBR104が除去され誘電体層110が露出した状態となるまで、エッチング時間を調節してエッチングを行なう。尚、誘電体層110の下のコンタクト層125が露出しなければ、誘電体層110は一部が除去されてもよい。前述したようにドライエッチングにおいては、エッチングによる面内分布が生じるため、誘電体層110の膜厚は、基板101の中央部分に対し基板101の周辺部分が約160nm薄くなる。このため、ドライエッチングにおけるエッチングレートの遅い基板101の中央部分において、誘電体層110が露出するようにエッチングを行なう。このドライエッチングの工程では、基板101の全面において、コンタクト層125が露出することなく誘電体層110が露出している状態であることが好ましい。また、本実施の形態では、誘電体層110は、膜厚が460nmで形成されているため、エッチングの面内分布である約160nmを考慮すると、約300nmの余裕があり、ドライエッチングにおける製造工程のマージンが広い。尚、本実施の形態においては、基板101の中央部分で誘電体層110が約200nm残るようにドライエッチングを行なう。従って、基板101の周辺部分における誘電体層110は約40nm残っている。
【0043】
次に、図4(b)に示すように、ウエットエッチングにより残っている誘電体層110を除去し、コンタクト層125の表面を露出させる。このウエットエッチングの工程におけるエッチング液は110BHF(森田化学社製)を用いており、誘電体層110を形成しているSiOにおけるエッチングレートは約110nm/minであり、コンタクト層125におけるエッチングレートは約5nm/minである。
【0044】
従って、誘電体層110を除去するためのエッチング時間は、基板101の中央部分において1分50秒、基板101の周辺部分において20秒と見積もられ、基板101の中央部分においてコンタクト層125の表面が露出するまで誘電体層110を除去すると、基板101の周辺部分では、1分30秒のオーバーエッチングとなる。しかしながら、コンタクト層125のエッチングレートに対する誘電体層110であるSiOのエッチングレートの比は22(SiO:110nm/min、コンタクト層125:5nm/min)と大きく、コンタクト層125がエッチングされる量は7.5nmと僅かである。この後、レジストパターン161は有機溶剤等により除去される。
【0045】
次に、図4(c)に示すように、メサ150を形成するためのレジストパターン162を形成する。具体的には、上部DBR104及びコンタクト層125の表面にフォトレジストを塗布し、露光装置による露光、現像を行なうことによりメサ150が形成される領域の上にレジストパターン162を形成する。
【0046】
次に、図5(a)に示すように、レジストパターン162の形成されていない領域における活性層103、第1の上部スペーサ層122、電流狭窄層123、第2の上部スペーサ層124、コンタクト層125をドライエッチングにより除去する。これにより、後述するメサ150が形成される。
【0047】
次に、図5(b)に示すように、レジストパターン162を有機溶剤等により除去した後、水蒸気中で熱処理を行なうことにより電流狭窄層123をメサ150の周囲より選択酸化する。これにより、周辺部分の酸化された選択酸化領域123aと中心部分の酸化されていない電流狭窄領域123bとが形成される。このように、酸化された選択酸化領域123aと酸化されていない電流狭窄領域123bとにより電流狭窄層123が形成される。
【0048】
次に、図5(c)に示すように、光学的な膜厚がλ/4であるSiNからなる保護膜126を形成し、コンタクト層125上の保護膜126を除去し、露出したコンタクト層125を含む領域にp側電極131を形成する。これにより、コンタクト層125とp側電極131とは電気的に接続することができる。このp側電極131は、図6に示されるように、各々の面発光レーザに対応して形成されており、各々のp側電極131には、電極パッド133が接続されている。また、基板101の裏面には下部電極となるn側電極132が形成されており、メサ150間における溝は、ポリイミド等の樹脂材料により埋め込まれることにより樹脂層140が形成されている。尚、下部電極となるn側電極132は、イントラキャビティーコンタクト構造等、基板101の裏面に形成される構造のみならず、下部DBR102と活性層103との間に下部コンタクト層を形成し、この下部コンタクト層とn側電極132とを接続した構造のものであってもよい。
【0049】
本実施の形態では、コンタクト層125と上部DBR104との間に形成される誘電体層110を厚く形成し、ドライエッチングにより誘電体層110の一部までエッチングした後、ウエットエッチングを行なうことにより、コンタクト層125が除去されることなく、コンタクト層125の表面を露出させることができる。
【0050】
これにより、基板101の周辺部においても、コンタクト層125がエッチングにより除去されることがないため、半導体レーザ素子を高い歩留りで製造することができる。また、本実施の形態では、コンタクト層125におけるオーバーエッチング量は僅かであるため、コンタクト層125における抵抗が高くなることはない。
【0051】
〔第2の実施の形態〕
次に、第2の実施の形態について説明する。第2の実施の形態は、誘電体層110がP−CVDにより成膜されたSiOにより形成されており、上部DBR104における低屈折率層104aがMgFにより形成された面発光レーザ素子及び面発光レーザ素子の製造方法である。本実施の形態は、図3〜図5に示す製造方法と同様の方法により製造されるものであり、第1の実施の形態と異なる内容について以下に説明する。
【0052】
図3(a)に示す構造のものを第1の実施の形態と同様の方法により形成した後、図3(b)に示すように、誘電体層110及び上部DBR104を形成する。具体的には、誘電体層110は、P−CVD法により、光学的な膜厚が3λ/4となるようにSiOにより形成する。形成された誘電体層110の膜厚は471nmであり、屈折率は1.56である。
【0053】
この後、誘電体層110の上に、イオンアシスト蒸着法により、光学的な膜厚がλ/4となるようにMgFにより形成される低屈折率層104a(膜厚:162nm)と、光学的な膜厚がλ/4となるようにTaにより形成される高屈折率層104b(膜厚:89nm)とを交互に8.5ペア積層形成することにより上部DBR104を形成する。MgFは、SiOよりも屈折率が低いため、低屈折率層104aに用いることにより高屈折率層104bとの屈折率差を大きくとることができる。よって、上部DBR104における反射率を高めることができ、設計の自由度を広くすること等が可能となる。しかしながら、NH系のエッチング液を用いてウエットエッチングを行なう場合においては、MgFはウエットエッチング性がよくない。
【0054】
本実施の形態においては、誘電体層110はP−CVD法により成膜されたSiOにより形成されているため、図4(a)に示されるドライエッチングの工程において、上部DBR104における低屈折率層104a及び高屈折率層104b及び誘電体層110の一部を除去し、この後、図4(b)に示されるウエットエッチングの工程において、残りの誘電体層110であるSiOを除去することにより、第1の実施の形態と同様に高い歩留りで面発光レーザ素子を製造することができる。
【0055】
このように、本実施の形態では、コンタクト層125の上に形成されている誘電体層110をSiOにより形成することにより、上部DBR104における低屈折率層104aとしてMgFを用いることができる。
【0056】
尚、本実施の形態では、上部DBR104における低屈折率層104aをMgFにより形成し、高屈折率層104bをTaにより形成した場合について説明したが、これに限定されるものではなく、低屈折率層104aとしては、SiO、SiN等を用いることができ、高屈折率層104bとしては、TiO、HfO、TiN等を用いることができる。
【0057】
(誘電体層110がSiNの場合)
また、誘電体層110は、SiNにより形成したものであってもよい。SiNはBHFには溶けにくい材料ではあるが、P−CVDにより成膜した場合には、成膜条件に依存してエッチングレートが大きく変化する。
【0058】
図7は、P−CVDによりSiNを成膜する際の基板温度(成膜温度)とBHFにおけるエッチングレートとの関係を示す。図7に示されるように、基板温度を下げることにより、エッチングレートを高くすることができる。コンタクト層125のエッチングレート(5nm/min)に対するSiNのエッチングレートの比を10にするためには、基板温度を約295℃で成膜すればよく、エッチングレートの比を15にするためには、基板温度を約265℃で成膜すればよい。尚、P−CDVにより成膜されたSiNは、成膜条件におけるエッチングレートの依存性が大きく、エッチングレート等を調整する際には有効である。
【0059】
本実施の形態においては、誘電体層110としてSiNを基板温度260℃で成膜したが、この場合における誘電体層110であるSiNのエッチングレートは、85nm/minであり、コンタクト層125のエッチングレートに対する誘電体層110であるSiNのエッチングレートの比は17である。
【0060】
また、図8は、P−CVDによりSiNを成膜する際の基板温度(成膜温度)と成膜されたSiNの屈折率との関係を示す。図8に示されるように、基板温度を下げると屈折率は低下する。誘電体層110としてSiNを基板温度260℃で成膜した場合における屈折率1.876であり、3λ/4nとなる膜厚は355.8nmである。尚、前述したように、ドライエッチングにより基板101の中央部分において誘電体層110であるSiNが約200nm残るようにエッチングを行なうと、基板101の周辺部分においては、誘電体層110であるSiNは約40nm残る。
【0061】
よって、誘電体層110を除去するためのエッチング時間は、基板101の中央部分において2分21秒、基板101の周辺部分において28秒と見積もられ、基板101の中央部分においてコンタクト層125の表面が露出するまで誘電体層110を除去すると、基板101の周辺部分では、1分53秒のオーバーエッチングとなる。しかしながら、コンタクト層125に対する誘電体層110であるSiNのエッチングレートの比は17(SiN:85nm/min、コンタクト層125:5nm/min)と大きく、コンタクト層125がエッチングされる量は9.4nmと僅かである。この後、レジストパターン161は有機溶剤等により除去される。
【0062】
本実施の形態では、誘電体層110を上部DBR104における低屈折率層104a及び高屈折率層104bと異なる材料により形成することにより、上部DBR104における低屈折率層104aの材料選択の範囲を広げることができる。また、本実施の形態では、より特性の良い面発光レーザ素子を高い歩留りで製造することができる。
【0063】
尚、上記以外の内容については、第1の実施の形態と同様である。
【0064】
以上、本発明の実施に係る形態について説明したが、上記内容は、発明の内容を限定するものではない。
【符号の説明】
【0065】
101 基板
102 下部DBR
103 活性層
104 上部DBR
104a 低屈折率層
104b 高屈折率層
110 誘電体層
121 下部スペーサ層
122 第1の上部スペーサ層
123 電流狭窄層
123a 選択酸化領域
123b 電流狭窄領域
124 第2の上部スペーサ層
125 コンタクト層
131 p側電極
132 n側電極
133 電極パッド
140 樹脂層
150 メサ
161 レジストパターン
162 レジストパターン
【先行技術文献】
【特許文献】
【0066】
【特許文献1】特開2008−53353号公報
【特許文献2】特許第2751814号公報
【特許文献3】特開2007−81282号公報
【特許文献4】特開2009−188598号公報

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板上に形成された下部DBRと、
前記下部DBRの上に形成された活性層と、
前記活性層の上に形成された誘電体層と、
前記誘電体層の上に形成された上部DBRと、
を有し、前記上部DBRは、屈折率の異なる2種類の誘電体膜を交互に積層することにより形成されており、
前記誘電体層の膜厚は、前記活性層における発振波長をλとし、前記誘電体膜における屈折率をnとした場合、λ/4nよりも厚いことを特徴とする面発光レーザ素子。
【請求項2】
前記誘電体膜の膜厚は、λ/4nの奇数倍であることを特徴とする請求項1に記載の面発光レーザ素子。
【請求項3】
前記上部DBRを形成する2種類の誘電体層は低屈折率層と高屈折率層であって、
前記誘電体膜の屈折率は、前記低屈折率層の屈折率以上、前記高屈折率層の屈折率以下であることを特徴とする請求項1または2に記載の面発光レーザ素子。
【請求項4】
前記活性層と前記誘電体層との間には、コンタクト層が形成されており、
前記上部DBR及び前記誘電体層を除去することにより露出した前記コンタクト層と電極とが、電気的に接続されていることを特徴とする請求項1から3のいずれかに記載の面発光レーザ素子。
【請求項5】
前記コンタクト層をウエットエッチングする際のエッチングレートに対する前記誘電体層をウエットエッチングする際のエッチングレートの比は、10以上であることを特徴とする請求項1から4のいずれかに記載の面発光レーザ素子。
【請求項6】
前記誘電体層は、前記上部DBRを形成している2種類の誘電体層のうちいずれか一方と同一の材料により形成されているものであることを特徴とする請求項1から5のいずれかに記載の面発光レーザ素子。
【請求項7】
基板の上に下部DBR、活性層、コンタクト層を順に積層形成する工程と、
前記コンタクト層の上に誘電体層を形成する工程と、
前記コンタクト層の上に屈折率の異なる2種類の誘電体膜を交互に積層することにより上部DBRを形成する工程と、
所定の領域における前記上部DBR及び前記誘電体層の一部をドライエッチングにより除去する工程と、
前記所定の領域において、前記ドライエッチングを行なった後に残存している前記誘電体層をウエットエッチングにより除去する工程と、
を有することを特徴とする面発光レーザ素子の製造方法。
【請求項8】
前記誘電体層はSiNまたはSiOにより形成されているものであることを特徴とする請求項7に記載の面発光レーザ素子の製造方法。
【請求項9】
前記ウエットエッチングに用いられるエッチング液は、バッファドフッ酸を含むものであることを特徴とする請求項7または8に記載の面発光レーザ素子の製造方法。
【請求項10】
前記誘電体層はプラズマCVDにより成膜されたものであることを特徴する請求項7から9のいずれかに記載の面発光レーザ素子の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2013−115146(P2013−115146A)
【公開日】平成25年6月10日(2013.6.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−258141(P2011−258141)
【出願日】平成23年11月25日(2011.11.25)
【出願人】(000006747)株式会社リコー (37,907)
【Fターム(参考)】