説明

面発光型半導体レーザ素子

【課題】保護膜に起因する応力を低減して、素子寿命の長い面発光型半導体レーザ素子を提供する。
【解決手段】本面発光型半導体レーザ素子は、GaAs基板12上に、一対の半導体多層膜反射鏡と、一対の半導体多層膜反射鏡の間に配置された活性層とを有し、基板に直交する方向にレーザ光を出射する酸化狭窄型面発光型半導体レーザ素子である。そして、抵抗率が105 Ω・cm2 以上の高抵抗半導体層からなる保護膜が、上部多層膜反射鏡上に、直接、又は他の化合物半導体層を介して設けられている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、面発光型半導体レーザ素子に関し、更に詳細には、素子特性や信頼性に対して、外部からの物理的化学的影響を遮断できる保護膜を備えた面発光型半導体レーザ素子に関するものである。
【背景技術】
【0002】
面発光型半導体レーザ素子は、基板に対して直交方向に光を出射させる半導体レーザ素子であって、従来のファブリペロー共振器型半導体レーザ素子とは異なり、同じ基板上に2次元アレイ状に多数の面発光型半導体レーザ素子を配列することが可能なこともあって、近年、データ通信分野で注目されている半導体レーザ素子である。
面発光型半導体レーザ素子は、GaAsやInPといった半導体基板上に1対の半導体多層膜反射鏡(例えばGaAs系では、AlGaAs/GaAs等)を形成し、その対の反射鏡の間に発光領域となる活性層を有する。
そして、電流閉じ込め効果に優れた、Al酸化層による電流狭窄構造を構成した、低しきい値、高効率で動作する酸化狭窄型の面発光型半導体レーザ素子が提案されている。
【0003】
ここで、図1を参照して、酸化層狭窄型で850nm帯の代表的な面発光型半導体レーザ素子の構成を説明する。図1は面発光型半導体レーザ素子の構成を示す断面模式図である。
面発光型半導体レーザ素子10は、n−GaAs基板12上に、それぞれの層の厚さがλ/4n(λは発振波長、nは屈折率)のn−Al0.9GaAs/n−Al0.2 GaAsの35ペアからなる下部DBRミラー14、下部クラッド層16、量子井戸活性層18、上部クラッド層20、それぞれの層の厚さがλ/4n(λは発振波長、nは屈折率)のp−Al0.9GaAs/p−Al0.2 GaAsの20ペアからなる上部DBRミラー22、及びGaAsキャップ層24の積層構造を備えている。
【0004】
上部DBRミラー22では、活性層18に近い側の一層が、p−Al0.9GaAs層に代えて、p−AlAs層26で形成され、かつ電流注入領域以外の領域のAlAs層26のAlが選択的に酸化され、Al酸化層28からなる電流狭窄層を構成している。
【0005】
積層構造のうち、上部DBRミラー22は、フォトリソグラフィー処理及びエッチング加工により、AlAs層26よりも下方まで、例えば直径30μmの円形のメサポストに加工されている。
メサポストに加工した積層構造を水蒸気雰囲気中にて、約400℃の温度で酸化処理を行い、メサポストの外側からAlAs層26のAlを選択的に酸化させることにより、Al酸化層28からなる電流狭窄層が形成されている。例えばAl酸化層28の幅が10μmの帯状のリングとした場合、中央のAlAs層26の面積、即ち電流注入される面積(アパーチャ)は、約80μm2(直径10μm)の円形になる。
【0006】
メサポストは、周囲が例えばポリイミド層30により埋め込まれている。そして、メサポスト上部に外周5μm〜10μm程度の幅で接触するリング状電極がp側電極32として設けられている。また、基板裏面を適宜研磨して基板厚さを例えば200μm厚に調整した後、n−GaAs基板12の裏面にn側電極34が形成されている。
また、リング電極上を除きGaAs層上には、外部の物理的及び化学的影響から光出射部を保護するために、レーザ光に対して透明なSiN膜からなる保護膜36が設けてある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平10−75014号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
ところで、特開平10−75014号公報は、保護膜36の膜厚として(λ/2n)×N(N=1、2、3、・・・整数)を好ましいとしている。ここで、λは波長、nは屈折率である。例えば、この式を上述の850nm帯の面発光型半導体レーザ素子に適用すると、最も薄い場合でも約250nm厚のSiN膜を必要とすることになる。
しかし、このようにSiN膜の膜厚が厚いと、SiN膜と上部DBRミラーのAlGaAs膜との熱膨張係数の差によって、SiN膜とAlGaAs膜との界面に応力が生じ、ひいては、活性層にもダメージを与える。また、SiNの残留応力により面発光型半導体レーザ素子の長期的信頼性に悪影響を及ぼす可能性がある。
この結果、面発光型半導体レーザ素子の素子寿命が短くなるという問題が生じる。
【0009】
そこで、本発明の目的は、外部からの物理的及び化学的影響から発光部を保護し、かつ保護膜に起因する応力を低減して、素子寿命の長い面発光型半導体レーザ素子を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者は、保護膜による上部DBRミラーの反射率の低下と、保護膜による外部からの物理的及び化学的影響の遮断性とを研究した結果、保護膜として高抵抗半導体層を使用することにより、上部DBRミラーの反射率を低下させることなく、外部からの物理的及び化学的影響を遮断して、面発光型半導体レーザ素子を保護することができることを見出した。
【0011】
上記目的を達成するために、上述の知見に基づいて、本発明に係る面発光型半導体レーザ素子は、基板上に、一対の半導体多層膜反射鏡と、一対の半導体多層膜反射鏡の間に配置された活性層とを有し、基板に直交する方向にレーザ光を放射する面発光型半導体レーザ素子において、
抵抗率が105 Ω・cm2 以上の高抵抗半導体層からなる保護膜が、上部多層膜反射鏡上に、直接、又は他の化合物半導体層を介して設けられていることを特徴としている。
【0012】
上記構成では、Fe(鉄)、Ti(チタン)、Cr(クロム)、Ru(ルテニウム)等の金属を半導体層にドーピングして得た、比抵抗の高い高抵抗半導体層を保護膜として使用することができる。また、高抵抗半導体層はレーザ光に対して透明であることが好ましい。
【0013】
高抵抗半導体層の厚さは、位相のずれやアンチフェイズによる反射率の低下を防ぐために、λ/4nか、もしくはλ/4n(n=高抵抗半導体層の屈折率)の3倍ないし5倍が好ましい。また、光の吸収を考慮する場合には、多層膜反射鏡の反射率に影響を及ぼさないように、数十nm以下の厚さが好ましい。
半導体層の組成には制約はないが、多層膜反射鏡を構成している半導体層、又はその上のコンタクト層(キャップ層)の格子定数に近い格子定数を有する半導体層が好ましい。多層膜反射鏡又はその上のコンタクト層(キャップ層)と格子定数が近い高抵抗半導体層を保護膜として用いた場合、両者の界面で応力フリーにすることができる。
更には、高抵抗半導体層を用いた場合、その表面が電気的に中性となるため、化学的ダメージを受け難くなるという効果もある。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、レーザ光に対して透明で、特定した高抵抗半導体層からなる保護膜を、上部多層膜反射鏡上に、直接、又は他の化合物半導体層を介して設けることにより、特性が良好で長寿命な面発光型半導体レーザ素子を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】面発光型半導体レーザ素子の構成を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下に、実施形態例を挙げ、添付図面を参照して、本発明の実施の形態を具体的かつ詳細に説明する。
実施形態例
本実施形態例は、面発光型半導体レーザ素子の実施形態の一例である。本実施形態例の850nm帯の面発光型半導体レーザ素子は、保護膜36(図1参照)が抵抗率が105 Ω・cm2 で、膜厚60nmのFeドープGaAs層で構成されていることを除いて、面発光型半導体レーザ素子10と同じ構成を備えている。
【0017】
本実施形態例の面発光型半導体レーザ素子を作製するには、従来と同様にして上部DBRミラー、GaAsコンタクト層を形成し、次いでコンタクト層上に連続して、高抵抗半導体層を成膜し、電極形成のときに、所望のコンタクト領域の高抵抗半導体層を除去し、その部分に電極を形成することを除いて、従来と同様にして、作製することができる。
【0018】
尚、保護膜36を設けたことにより、位相のずれや、アンチフェイズ化が起こり、上部DBRミラーの反射率が低下する場合には、上部DBRミラーのペア数を増やし、反射率を上げることが好ましい。その際、p型GaAs基板上に面発光型半導体レーザ素子を作製すれば、上部DBRミラーを抵抗率の小さいn型化合物半導体層で構成することができるので、ペア数を増やして反射率を高めたときでも、電気抵抗の上昇を極めて小さく抑えることが可能となる。
【符号の説明】
【0019】
10 面発光型半導体レーザ素子
12 n−GaAs基板
14 n−Al0.9GaAs/n−Al0.2 GaAsの35ペアからなる下部DBRミラー
16 下部クラッド層
18 量子井戸活性層
20 上部クラッド層
22 p−Al0.9GaAs/p−Al0.2 GaAsの20ペアからなる上部DBRミラー
24 GaAsキャップ層
26 p−AlAs層
28 Al酸化層
30 ポリイミド層
32 p側電極
34 n側電極
36 SiN膜からなる保護膜

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板上に、一対の半導体多層膜反射鏡と、一対の半導体多層膜反射鏡の間に配置された活性層とを有し、基板に直交する方向にレーザ光を放射する面発光型半導体レーザ素子において、
抵抗率が105 Ω・cm2 以上の高抵抗半導体層からなる保護膜が、上部多層膜反射鏡上に、直接、又は他の化合物半導体層を介して設けられていることを特徴とする面発光型半導体レーザ素子。
【請求項2】
高抵抗半導体層は、Fe(鉄)、Ti(チタン)、Cr(クロム)、Ru(ルテニウム)の少なくともいずれかがドープされた化合物半導体層であることを特徴とする請求項1に記載の面発光型半導体レーザ素子。
【請求項3】
少なくとも多層膜反射鏡の一部が、メサポスト構造を有していることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の面発光型半導体レーザ素子。
【請求項4】
電流狭窄構造が、酸化層狭窄型であることを特徴とする請求項1からのうちのいずれか1項に記載の面発光型半導体レーザ素子。

【図1】
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【公開番号】特開2011−14941(P2011−14941A)
【公開日】平成23年1月20日(2011.1.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−234895(P2010−234895)
【出願日】平成22年10月19日(2010.10.19)
【分割の表示】特願2001−235759(P2001−235759)の分割
【原出願日】平成13年8月3日(2001.8.3)
【出願人】(000005290)古河電気工業株式会社 (4,457)
【Fターム(参考)】