説明

音叉型圧電振動片

【課題】振動腕の断面に工夫をすることにより、振動特性を損なうことなく、また、一般の露光装置を用いることが可能とされる、対向側面に長さ方向に分割された電極を備えた音叉型圧電振動片を提供することを課題とする。
【解決手段】音叉型圧電振動片1は、基部2と、この基部2の両端からこれと直角方向に、且つ、同じ側に延出した一対の平行な振動腕3が一体的に形成され、各振動腕3の側面32であって、表裏の主面31を除いた側面32のそれぞれは、振動腕3の長さ方向に沿って、互いに平行であるが互いにずれている2つの段差平面33とこの2つの段差平面33を結ぶ遷移面34を有しており、段差平面33のそれぞれには、遷移面34上の非電極部5によって互いに隔てられている電極4がそれぞれ形成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、音叉型水晶振動片に代表されるような音叉型圧電振動片に関し、音叉型圧電振動子あるいは音叉型圧電発振器等の圧電振動片として用いることができるものである。
【背景技術】
【0002】
圧電振動片の圧電材料は、その結晶構造、及び、用途に応じて必要な電界方向が決定され、電界を形成するための電極は、振動片の形を作った圧電材料に金属膜及びレジスト膜を形成し、これをフォトエッチングすることによって得られる。
【0003】
音叉型圧電振動片は、基部と、少なくとも2つの振動腕を有し、2つの振動腕は、この基部から、互いに平行に、同方向、且つ、直角方向に延在するようにように形成されている。圧電振動片においても、電子部品の小型化の流れに沿ってますます小型化してきており、上記2つの振動腕の間隔もきわめて狭いものとなってきている。
【0004】
上述のように、電極は、結晶構造と用途に応じて様々な箇所に形成することができるのであるが、音叉型圧電振動片にあっては、その構造上の制約から、振動腕が互いに向かい合っている側の側面(これを、対向側面という。)のそれぞれについて、図1に示すような、振動腕の長さ方向に分割された2つの平行な電極を形成することは困難であった。なお、図中、符号3は振動腕、符号4は電極を示している。
【0005】
上記困難とする理由は、対向側面に振動腕の長さ方向に分割された電極を形成するには、腕全体に形成された金属膜の内、非電極部となる部分のレジスト膜c(図2)をフォトエッチングによって除去する必要がある。そして、図2に示されるように、音叉型圧電振動片の場合、互いに接近した2つの振動腕3が互いに影を作ることから、各対向側面の2つの平行な電極は、限られた隙間を通しての斜めからの露光aになる上、仮に、そのような斜めから露光を許すとしても、そのような特殊な露光装置は一般に使用することはできないからである。
【0006】
このような理由から、対向側面の各面に平行な電極を形成することは一般に行われていない。図6、図7には、対向側面を含んで側面に電極を形成した例の断面図を示す。
【0007】
図6の例は、振動腕の側面32(対向側面321を含む。)と主面31とに形成された電極4により電界bを形成する。この対となる電極同士が互いに直角をなしているため、電気力線は曲線形状を描き振動に寄与しない垂直方向成分が多く存在することとなり、振動腕を効率良く振動させることができない。
【0008】
図7の例は、振動腕の主面に設けた電極溝41内に電極を形成し、これと側面(対向側面321を含む。)とに形成された電極4により電界を形成する。振動腕3の長さ方向に電極溝41を形成しなければならず、振動腕3の幅を広くしなければならない。
【0009】
なお、特許文献1の図6、あるいは、特許文献2の図13には、対向側面に長さ方向に分割された電極を備えた音叉型圧電振動片について記載されているが、どのようにしてこれが形成されたものなのかについては何も開示されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開昭56−089114号公報
【特許文献2】特開昭58−111515号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明は、振動腕の断面に工夫をすることにより、振動特性を損なうことなく、また、一般の露光装置を用いることが可能とされる、対向側面に長さ方向に分割された電極を備えた音叉型圧電振動片を提供することを課題とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記課題は以下の手段によって解決される。すなわち、第1番目の発明は、基部と、この基部の両端からこれと直角方向に、且つ、同じ側に延出した一対の平行な振動腕が一体的に形成された音叉型圧電振動片であって、上記各振動腕の側面であって、表裏の主面を除いた側面のそれぞれは、振動腕の長さ方向に沿って、互いに平行であるが互いにずれている2つの段差平面とこの2つの段差平面を結ぶ遷移面を有しており、上記段差平面のそれぞれには、上記遷移面上の非電極部によって互いに隔てられている電極がそれぞれ形成されていることを特徴とする音叉型圧電振動片である。
【0013】
第2番目の発明は、第1番目の発明の音叉型圧電振動片において、この音叉型圧電振動片は、水晶を素材とするものであることを特徴とする音叉型圧電振動片である。
【0014】
第3番目の発明は、第2番目の発明の音叉型圧電振動片において、上記表裏の主面は、結晶軸のZ軸と直交し、上記振動腕の長さ方向は、結晶軸のY軸に沿ったものであり、上記段差平面のずれの方向は、結晶軸のX軸方向であることを特徴とする音叉型圧電振動片である。
【0015】
第4番目の発明は、第3番目の発明の音叉型圧電振動片において、上記遷移面は、音叉型振動子の主面の形状を有するマスクを上記段差の量だけずらして素材の両主面に形成したものをウエットエッチングすることにより形成されたものであることを特徴とする音叉型圧電振動片である。
【0016】
第5番目の発明は、第4番目の発明の音叉型圧電振動片において、上記非電極部は、振動腕に形成された金属膜上のレジスト膜の上記遷移面の部分を上記主面と直交する方向から紫外線露光してフォトエッチングすることにより、上記金属膜を除去したものであることを特徴とする音叉型圧電振動片である。
【発明の効果】
【0017】
本発明の音叉型圧電振動片は、各振動腕の側面であって、表裏の主面を除いた側面のそれぞれは、振動腕の長さ方向に沿って、互いに平行であるが互いにずれている2つの段差平面とこの2つの段差平面を結ぶ遷移面を有しているという構造をとっているため、遷移面のレジスト膜は通常の露光装置を用いて、主面と直交する方向から露光することによって非電極部を形成することができる。この構造により、音叉型圧電振動片であっても振動腕の側面、特に対向側面に、長さ方向に平行な2つの電極を形成することができるので、他の電極との組み合わせで多様なタイプの電極対を形成することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】音叉型圧電振動片において、振動腕の対向側面に、長さ方向に平行な2つの電極を形成した場合を説明するための斜視図である。
【図2】音叉型圧電振動片の振動腕の対向側面に電極成形する場合の露光の方向を示す説明図である。
【図3】本発明の音叉型圧電振動片の全体図(図3(1))と、その振動腕の先端部斜視図(図3(2))であって、段差平面に電極が、遷移面に非電極部が形成されていることを説明する説明図である。
【図4】ウエットエッチングにより、遷移面が形成される様子を示す模式図である。
【図5】本発明の音叉型圧電振動片に対する非電極部の露光を説明するための説明図である。
【図6】対向側面を含んで側面に電極を形成したものの一例(従来例)を示す断面図である。
【図7】対向側面を含んで側面に電極を形成したものの他の一例(従来例)を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の実施例を図面を用いて説明する。本発明の音叉型圧電振動片1は、基部2と、この基部2の両端からこれと直角方向に、且つ、同じ側に延出した一対の平行な振動腕3が一体的に形成されている。
【0020】
上記各振動腕3の側面32であって、表裏の主面31を除いた側面32のそれぞれは、振動腕3の長さ方向に沿って、互いに平行であるが段差fだけ互いにずれている2つの段差平面33とこの2つの段差平面33を結ぶ遷移面34を有している。上記段差平面33のそれぞれには、上記遷移面34上の非電極部5によって互いに隔てられている電極4がそれぞれ形成されている。
【0021】
上述のように本発明の音叉型圧電振動片1は、振動腕3が2つの主面31の間、つまり、表裏で、ずれていることが大きな特徴であり、この「表裏でずれていること」によって、段差平面33と遷移面34が形成され、段差平面33が電極4に、又、遷移面34が非電極部5となるような加工をすることができる。
【0022】
上記段差平面33と遷移面34は、次のようにして形成することができる。すなわち、図4に示すように、所定の厚さの圧電材料の表面に、音叉型圧電振動片となる部分を除いて他の部分が開口したマスクgを形成し、これをウエットエッチングする。なお、圧電材料には水晶を選ぶことができ、結晶方位は図3(2)に示されるように振動腕3の幅方向をx軸、厚さ方向(主面が直交する方向)をz軸、長さ方向をy軸にとっている。振動方向は矢印eで示されている。
【0023】
図4に示されるように、マスクgの開口部は、圧電材料の表裏で段差fだけずらして形成しておく。エッチングが開始されると、上下から内部に向かって加工が進行し、左右には面(段差平面33)が形成される。それぞれの除肉空間は加工が進行するとやがて中央部で出会うが、もともと除肉空間が段差fだけずれているため、互いの中心から左右(図4)にfだけずれた部分において最初の貫通が生じる。
【0024】
このとき貫通した孔の回りは非常に薄いため、エッチングは点線h、iで示すように左右に進行し、やがて遷移面34が形成される。遷移面34は、主面側から(上下から)見える面であり、露光光をほぼ正面から照射することができる点が重要である。
【0025】
上記工程を終えた圧電材料から残ったマスクgを除去すると、電極の形成がされていない点を除いて音叉型圧電振動片と同じものができあがる。そして、改めて、電極となる金属膜とその上にレジスト膜を形成する。
【0026】
図5は、金属膜とレジスト膜cが形成された圧電材料をフォトエッチングする様子を示す説明図である。主面側から紫外線の露光光aを照射することができ、金属膜をフォトエッチングできる面が遷移面34として形成されているため、○囲いjで示すように、マスクdを通して通常の露光装置により遷移面34をエッチングすることができる。反対側の遷移面34についても表裏反対にして同様の処理をすることができる。なお、段差fは2つの電極を分離する非電極部分を作るだけの幅があればよいので、振動特性が実質的に損なわれるようなことはない。
【0027】
以上、本発明の音叉型水晶振動片によれば、振動腕の断面に遷移面を形成するという工夫をしたことにより、振動特性を損なうことなく、対向側面に振動腕の長さ方向に分割された2つの平行な電極を形成することが可能となった。また、一般の紫外線露光装置を用いることができ特殊な装置を要しないで済むメリットがある。
【符号の説明】
【0028】
1 音叉型圧電振動片
2 基部
3 振動腕
31 主面
32 側面
321 対向側面
33 段差平面
34 遷移面
4 電極
41 電極溝
5 非電極部
a 露光光
b 電界
c レジスト膜
d マスク
e 振動方向
f 段差
g マスク
h、i 点線

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基部と、この基部の両端からこれと直角方向に、且つ、同じ側に延出した一対の平行な振動腕が一体的に形成された音叉型圧電振動片であって、
上記各振動腕の側面であって、表裏の主面を除いた側面のそれぞれは、振動腕の長さ方向に沿って、互いに平行であるが互いにずれている2つの段差平面とこの2つの段差平面を結ぶ遷移面を有しており、
上記段差平面のそれぞれには、上記遷移面上の非電極部によって互いに隔てられている電極がそれぞれ形成されていること
を特徴とする音叉型圧電振動片。
【請求項2】
請求項1に記載された音叉型圧電振動片において、
この音叉型圧電振動片は、水晶を素材とするものであること
を特徴とする音叉型圧電振動片。
【請求項3】
請求項2に記載された音叉型圧電振動片において、
上記表裏の主面は、結晶軸のZ軸と直交し、上記振動腕の長さ方向は、結晶軸のY軸に沿ったものであり、上記段差平面のずれの方向は、結晶軸のX軸方向であること
を特徴とする音叉型圧電振動片。
【請求項4】
請求項3に記載された音叉型圧電振動片において、
上記遷移面は、音叉型振動子の主面の形状を有するマスクを上記段差の量だけずらして素材の両主面に形成したものをウエットエッチングすることにより形成されたものであること
を特徴とする音叉型圧電振動片。
【請求項5】
請求項4に記載された音叉型圧電振動片において、
上記非電極部は、振動腕に形成された金属膜上のレジスト膜の上記遷移面の部分を上記主面と直交する方向から紫外線露光してフォトエッチングすることにより、上記金属膜を除去したものであること
を特徴とする音叉型圧電振動片。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2012−235391(P2012−235391A)
【公開日】平成24年11月29日(2012.11.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−103724(P2011−103724)
【出願日】平成23年5月6日(2011.5.6)
【出願人】(000232483)日本電波工業株式会社 (1,148)
【Fターム(参考)】