説明

音波で動作する変換器および当該変換器を有するフィルタ

ここに記載されているのは、障害となる横モードを抑圧するSAW変換器である。ここでこれは、音波の横方向励起プロフィールと、音響トラックおよびこれに隣接する外部領域(AU1,AU2)によって形成される導波体の横方向基本モードとを互いに適合させることによって達成される。この適合化は、上記の音響トラックを励起領域(MB)と縁部領域(RB1,RB2)とに分けることによって行われる。この縁部領域および外部領域は、縁部領域における音波の縦方向の位相速度が、励起領域よりも大きくなるように構成されており、この外部領域における縦方向の位相速度は、励起領域よりも小さい。またkは縁部領域において実数であり、外部領域において虚数である。上記の縁部領域(RB1,RB2)の幅を調整して、上記の励起領域においてkが実質的に一定であり、また実質的にゼロに等しいようにする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
ここに記載されているのは、SAW変換器、すなわち、表面音響波によって動作する電気音響変換器である(SAW=Surface Acoustic Wave)。SAW変換器は、例えば、携帯可能な移動無線装置に使用される。
【0002】
SAW変換器では、電気信号が音波に、またこの逆に変換される。SAW変換器において音波が伝搬する際、この変換器の縁部領域において、表面波の一部が横方向に放射されることによって回折損失が発生する。高次の横モードを抑圧するためないし変換器の励起プロフィール(Anregungsprofil)を横方向基本モードの形状に適合させるための方法は、例えば刊行物DE196 38 398 C2から公知である。
【0003】
さらに刊行物DE10331323A,EP1,471,638A2およびUS5,121,860から、音波の速度が互いに異なる領域を横方向に有する別のSAW変換器が公知である。
【0004】
本発明の課題は、表面音響波で動作する変換器であって、障害となる横モードが抑圧される変換器を提供することである。
【0005】
電気音響変換器は、圧電基板と、これに配置された電極指とを有しており、この電極指は、音波を励起するための電極格子を形成する。
【0006】
ここでは音響トラックを有する変換器が提供される。この音響トラックは、圧電基板に配置される。音響トラックには互いに噛み合う電極指が含まれており、これらの電極指は、実質的に交互に第1および第2の母線に接続される。異なる極性を有する電極指の間で表面波を励起することができ、この表面波が上記の音響トラック内で伝搬することができるのである。
【0007】
この音響波は1平面内で伝搬する。この平面をx,y平面と記す。このx,y平面によって形成される2次元空間において上記の波は、縦方向成分kと横方向成分kを有する波ベクトル(k,k)によって特徴付けることができる。これらの成分kおよびkは、縦方向ないしは横方向波数とも称される。
【0008】
上記の音響トラックは横方向yに、これに隣接する2つの外部領域の間に配置される。この外部領域において上記の波は、有利には実質的に減衰されるかないしは伝搬することができない。この波の振幅は、外部領域において、トラックによって指示される横方向において指数的に減少する。上記の外部領域はふつう、何もない基板表面または少なくとも部分的にメタライゼーションされた基板表面によって形成することができる。有利な変形実施形態では外部領域は、x方向に延在する金属ストライブとすることができ、その幅は、例えば少なくともλ=2π/kである。
【0009】
上記の音響トラックは、1つの励起領域と2つの縁部領域とを有しており、励起領域は縁部領域の間に配置されている。上記の縁部領域および外部領域は、縁部領域における音波の縦方向の位相速度が、励起領域よりも大きくなるように構成されており、また外部領域における縦方向の位相速度は、励起領域よりも小さい。またkは縁部領域において実数であり、外部領域において虚数である。上記の波は有利には励起領域においてのみ励起され、すなわち縁部領域では励起されないが、この波は、励起領域だけでなくこの縁部領域においても伝搬することができる。それはここではkが実数だからである。
【0010】
縁部領域の幅は有利にはつぎのように調整される。すなわち、励起領域におけるkの絶対値が、縁部領域および外部領域よりも有利には格段に(例えば少なくとも10倍)小さくなるように調整されるのである。上記の音響トラック構造により、また殊に縁部領域の幅を適切に選択することにより、励起領域において有利にもk=0が達成される。
【0011】
上記の変換器構造により、音響トラック内ないしは実質的に励起領域内で、励起すべき音響モード(主モード)を結合(binden)することができる。
【0012】
上記の音響トラックの全領域および外部領域はそれぞれ縦方向xに、ひいては互いに平行に延在している。上記の励起領域における波の速度は、外部領域よりも大きいが、音響トラックの縁部領域よりも小さい。上記の変換器は、横方向yに逆の導波体(inverse Wellenleister)の構造を有する。音響トラックはこの導波体のコアを形成するのに対して、外部領域はその側面を形成する。
【0013】
導波体領域とは、第1外部領域、第2外部領域および音響トラックの種々異なる領域、すなわち励起領域ならびに第1および第2縁部領域から選択される領域のことである。波が伝搬可能な選択したi番目の導波体領域において、(k+(ky,i=(ω/vが成り立つ。ωは波の角周波数であり、vはi番目の導波体領域におけるこの波の伝搬速度である。ky,iは、各導波体領域における横方向の波数である。
【0014】
上記の音波は、横方向基本モードによって特徴付けられる。横方向基本モードは、上記の音響トラックと外部領域とによって形成される導波体の横方向速度プロフィールから得られる。ここでこの音響トラック内の音波の大部分のエネルギーは、音響トラック内に集中している。
【0015】
上記の第1母線の少なくとも一部は第1外部領域に、第2母線の少なくとも一部は第2外部領域に所属する。
【0016】
変換器の電極指が多くの場合に周期的に配置構成されるのに相応して、音波は主に縦方向の両側に伝搬する。しかしながらこの変換器は、励起される音波を縦方向の片側だけに有利に放射することも可能である。このような変換器は、例えば、再帰形フィルタに使用することができる。
【0017】
音響トラックにおいて励起される表面音響波の伝搬速度は、多くの圧電基板、例えば石英、LiNbO,LiTaOにおいて基板表面をメタライゼーションすることにより、(何もない基板表面に比べて)小さくなる。
【0018】
以下で格子状配置構成とは、横方向に延在する金属ストライプの周期的な配置構成のことを示すこととする。音波の速度を調整するため、この金属ストライプの代わりに、基本的には任意の音響的な不均質体が有利であり、例えば溝も有利である。
【0019】
上記の励起領域において電極指は、有利には格子状配置構成をなす。励起が行われない変換器領域、例えば縁部領域において、この格子状配置構成は、複数の電極指の領域によって、またはスタブ状指(Stummelfinger)を配置することによって形成することができ、ここでこれらの電極指の領域は、互いに続いており、それぞれ同じ電位にあり、また上記の母線に隣接している。この格子状配置構成は、穴の開けられた金属ストライプとして構成することも可能である。
【0020】
周期的な格子状配置構成を有する音響トラックにおいて、表面波の速度は、(各変換器領域においてメタライゼーションされた表面の割合が同じ場合)格子構造(ストライプ)の中心間の間隔が小さくなるのに伴って低下する。これは、指の端部において格子周期が小さくなるのに伴って波が一層減速されるためである。したがって有利であるのは、周期的に配置される金属ストライプ間の間隔を励起領域よりも大きく選択することにより、上記の縁部領域において励起領域よりも高い速度を得る場合である。
【0021】
さらに上記の表面波の速度は、メタライゼーション比、すなわち各変換器領域においてメタライゼーションされた表面の割合に依存する。メタライゼーションされる伝搬区間の割合が大きくなることにより、波の速度は、(格子状配置構成の周期が同じままであるとすると)メタライゼーション比の増大に伴って低下する。したがって有利であるのは、縁部領域における平均メタライゼーション比が励起領域よりも小さくなるように選択することによって、励起領域よりも大きい速度が縁部領域において達成される場合である。上記の外部領域では、この外部領域における平均メタライゼーション比を励起領域よりも大きく選択することにより、励起領域よりも小さい速度を達成することができる。全体に及ぶメタライゼーション外部領域は殊に有利である。別の手段を講じて外部領域における速度を低下することも可能である。
【0022】
音響トラックにおいて表面波が伝搬することのできる角度領域が主伝搬方向の周りに存在する場合、SAWトラックは、これに隣接する外部領域と共に横方向に導波体として作用することができる。ここでこの波は同時に外部領域との境界において有利には全反射するため、音響トラック外への横方向の放射による損失は発生しないのである。
【0023】
上記の変換器は、1変形実施形態においてトラック装置を有しており、このトラック装置には、互いに電気接続された有利には互いに平行に配置された複数のSAWトラックが含まれる。またこのトラック装置は、上記の音響トラックに対する条件を満たす場合には、このトラック装置に隣接する外部領域と共に横方向に導波体として作用することが可能である。
【0024】
入力結合される音波の偏差を以下では励起強度(Anregungsstaerke)と称する。上記の音響トラックは(縦方向または横方向における)励起強度によって特徴付けられる。この励起強度は、異なる電極の縦方向に並んで配置された電極指間の電位差ΔUに比例する。ここでこれらの電極指は一緒になって、励起を行う指の対を形成する。ここでは横方向座標Yに依存する励起強度を励起プロフィールΨと称する。
【0025】
このように形成される導波体において、音波の複数の横モード(基本モードおよびその高調波)が励起ないし伝搬することができる。ここでは上記の音響トラックが横方向に構成されて、波の相応する横方向の励起プロフィールΨが基本モードの形状Φに適合される場合、上記の電気信号は、所定の周波数においてこの音波の基本モードに最大限に入力結合される。ここではこの適合に対する判定条件として、関係式
【数1】

を使用することができ、ただし、例えばα=0.9であり、また有利にはα=0.95が選択される。Φは横方向座標Yに依存する横方向の基本モードの偏差である。
【0026】
上記の電気信号が音響基本モードに最適に入力結合される場合には、高次の複数のモードへの入力結合は消える。それは横方向の複数のモードからなる系が近似的に直交しているからである。
【0027】
横方向における各縁部領域の幅は、有利にはλ/8〜λ/4であり、ここでλは相応する縁部領域における横方向の基本モードの波長である。
【0028】
縁部領域におけるkの絶対値は、励起領域よりも格段に大きいため、横方向における横モードの偏差は、縁部領域において相応に高速に変化する。外部領域における横方向波数の値kyは、虚数であり、またその絶対値は励起領域よりも格段に(例えば少なくとも10倍だけ)大きいため、これによって横方向における横モードの高速な減衰が保証される。したがって、導波体において近似的に矩形の基本モードを生じさせることができ、この基本モードの側縁の傾斜は、縁部トラックの絶対幅に依存し、また最終的には、縁部領域、励起領域および外部領域における波の位相速度の差に依存する。
【0029】
障害となる横方向の波モードは、横方向の音響基本モードへの電気信号の入力結合が、音響トラックの縁部領域の特別な構成および入れ方によって改善されることにより、抑圧される。
【0030】
障害となる横方向の波モードを抑圧する上記の変換器の利点は、このような変換器を設計する際に、この変換器のシミュレーションした伝達関数と、実際の伝達関数とを良好に一致させるために、ただ1つの方向(縦方向)における波の伝搬のシミュレーションを行うだけで十分であることである。ここでは2次元的な(縦方向ならびに横方向における)波伝搬作用の煩雑なシミュレーションを省略することができる。
【0031】
上記のように音響トラックを1つの励起領域および2つの縁部領域に分割することと、公知のように複数の部分トラックにトラックを分割することとはつぎの点で異なっている。すなわち、この変換器の縁部領域においては縦方向に音波が励起されず、励起領域において励起された波が所期のように加速される点で異なっているのである。
【0032】
上記の縁部領域は、導波体の適切な速度プロフィールを設定することにより、(正弦波とは異なる)横方向の導波体基本モードを調整するためにのみ使用される。横方向の基本モードの形状を調整するため、例えば、縁部領域の幅および/または波の位相速度を変更することができる。
【0033】
音響基本モードの形状をできる限りに矩形に近く適合させるため、図9Aおよび9Bに関連して説明する凹状のスローネスを有する変換器に対して、縁部領域における波の速度を励起領域よりも格段に大きく、また外部領域における速度を励起領域よりも格段に小さくすると有利である。有利には上記の外部領域における速度は、少なくとも2%だけ、有利には少なくとも3%だけ励起領域よりも小さい。5%以上の差を得ることも可能である。上記の縁部領域における速度は有利には、少なくとも2%だけ、有利には少なくとも3%だけ励起領域よりも大きい。
【0034】
上記の外部領域における速度の減少は、可能な限りに大きいメタライゼーション比によって達成され、最も有利には、ベースとなる圧電基板の表面全体に及ぶメタライゼーションによって達成される。また外部領域において音響トラックよりも金属の厚さを大きくすることによって、上記の外部領域における速度がさらに減少される。
【0035】
上記の外部領域において達成すべき表面波の速度の減少は、つぎようにして得ることも可能である。すなわち、上記の音響トラックと比較して、殊に励起領域と比較して、剛性を小さくしたないしは密度を大きくしたメタライゼーションを外部領域に使用することによって得ることも可能である。例えば、外部領域にアルミニウムを含有する電極を有する変換器の場合、Al層に加えて、金、白金、銅またはこれらの層列からなる層を使用することができる。上記の外部領域に任意の材料、有利には剛性の比較的小さいないしは密度の比較的大きい材料の層列を使用することも可能である。
【0036】
上記の縁部領域における速度を大きくするため、励起領域と比べて周期を大きくした周期的な格子状配置構成を使用することができる。この際には上記の縁部領域におけるメタライゼーション比を、励起領域よりも小さく選択することが可能である。音響トラックの縁部領域および励起領域におけるメタライゼーション比は、別の変形実施形態では同じとすることができる。上記の格子状配置構成の周期が同じ場合、縁部領域におけるメタライゼーション比を励起領域よりも小さく選択することも可能である。
【0037】
縁部領域として、例えば、上記の変換器の横方向ギャップを使用することができる。横方向ギャップとは、上記の指の端部と、対向する母線またはスタブ状指との間で横方向に延在する領域のことである。この領域では励起領域と比べて指を欠いているため、平均周期は大きくなりまたメタライゼーション比は小さくなる。この場合に上記の矩形の波プロフィールは、縁部領域の幅によって調整可能である。
【0038】
上記の縁部領域はそれぞれ部分トラックとして実現することもでき、ここでこの部分トラックでは、周期およびメタライゼーション比が、達成しようとする速度に有利に選択される。上記の縁部領域における電極指は、有利には周期的なグリッドで配置される。
【0039】
上記の縁部領域において、音響トラックよりも剛性が大きいかないしは密度を小さくした材料を周期的に配置されるストライプに使用することよってさらに速度を大きくすることも可能である。
【0040】
例えば、上記の励起領域に銅を含有する電極を備えた変換器に対し、縁部領域にアルミニウムを使用することができる。
【0041】
これまで公知になっている全ての手法において変換器の励起プロフィールが横方向の基本モードに適合される。
【0042】
上記の変換器の有利な変形実施形態において、さらにこの変換器の励起プロフィールを付加的に微調整して、上記のように定めた横方向基本モードの形状に適合させることができる。
【0043】
この微調整による適合は、例えば、上記の励起領域を横方向に複数の部分トラックに分割することによって実現することができ、ここで各部分トラックは部分変換器を形成する。これらの部分トラックないし部分変換器は、互いに直列および/または並列に接続される。直列接続によって、励起を行う電極指の電位差が低減され、ひいては部分トラックにおける励起強度が低減される。これらの部分トラックは縦方向に、幅を除いて同一に構成されている。ここでは部分トラックの幅を選択して、励起領域における励起強度の横方向プロフィールΨが、横方向基本モードの形状Φに適合するようにする。
【0044】
以下では、実施例およびこれに対応する図に基づき、上記の変換器を詳しく説明する。これらの図は、概略図であり、縮尺通りではない。同じ部分または同じ作用の部分には同じの参照符号が付されている。ここで
図1には、変換器と、横方向における波数の変化と、相応する基本モードの形状および横方向速度プロフィールとが略示されており、
図2Aには、電極指の端部と、これに対向する母線との間に縁部領域が形成されている変換器が略示されており、
図2Bには、上記の縁部領域が、穴の開けられた母線の領域として構成されている変換器が略示されており、
図3には、互いに直列接続される部分トラックに励起領域が分けられている別の変換器(下)と、相応する横方向励起プロフィールと、横方向基本モードの形状(上)とが略示されており、
図4には、互いに直列および並列接続される部分トラックに励起領域が分けられている別の変換器(下)と、相応する横方向励起プロフィールと、横方向基本モードの形状(上)とが略示されており、
図5には、複数の音響トラックが順々に接続されている別の変換器(下)と、相応する横方向基本モードと、横方向における波数の変化(上)とが略示されており、
図6Aには、励起領域に比べて外部領域を厚くした変換器におけるメタライゼーション高さの横方向プロフィールが略示されており、
図6Bには、付加的な材料層によって外部領域を厚くした変換器におけるメタライゼーション高さの横方向プロフィールが略示されており、
図7のa)には、横方向の励起プロフィールが適合化されていない場合に音響トラックにおいて伝搬可能な横方向波モードの偏差が、またb)にはこれらのモードに相応する励起強度が略示されており、
図8の(a)には、横方向励起プロフィールが基本モードに適合されている場合に音響トラックにおいて伝搬可能な横方向波モードの偏差が、また(b)にはこれらのモードに相応する励起強度が略示されており、
図9Aには、凸状のスローネスを有する導波体におけるスローネス曲線が略示されており、
図9Bには、凹状のスローネスを有する導波体におけるスローネス曲線が略示されている。
【0045】
図1には、例えば、42°YXLiTaOのような圧電基板に配置されておりかつ音響表面波が縦方向Xに伝搬可能な音響トラックASを有するSAW変換器と、横方向座標Yに依存する横モードの波数kの2乗と、kプロフィールから得られる横モードΦ(上側)と、横方向速度プロフィール(下側)とが示されている。
【0046】
音響トラックASは、1つの励起領域MBと、2つの縁部領域RB1およびRB2とに分けられている。横方向における縁部領域の幅は、有利にはλ/8〜λ/4であり、ここでλは、縁部領域における横方向基本モードの波長である。
【0047】
上記の波数kにより、各横方向領域MB,RB1,RB2,AU1,AU2において、基本モードの横方向の偏差Φが横方向座標Yに依存することが表され、ここでは
【数2】

であり、またAおよびBは係数である。
【0048】
上記の変換器は2つの電極を有しており、これらの電極には1つずつの母線E1,E2およびこれに接続される電極指が含まれている。母線E1,E2は、比較的幅が広くかつ全体にわたってメタライゼーションされた領域である。有利な実施形態では、ここでのメタライゼーションの高さは、音響トラックASよりも大きい。これについては図6Aおよび6Bを参照されたい。
【0049】
横方向Yに沿った変換器の高さプロフィールは図6Aに略示されている。高さ方向Zは、基板の表面に対して垂直方向に配向されている。励起領域MBおよび縁部領域RB1,RB2に配置されている金属構造部は、厚さないしは高さhを有する。外部領域には、同じ材料、例えばアルミニウムまたはアルミニウム合金からなる付加的なメタライゼーションが厚さh−hでデポジットされている。この付加的なメタライゼーションにより、外部領域における速度が低下する。
【0050】
上記の変換器構造、例えば、励起領域MBにおける電極指と、縁部領域RB1,RB2における周期的な格子と、外部領域AU1,AU2に属する構造(例えば母線E1,E2)とは、図6Bにおいて、圧電基板にデポジットされる厚さhの金属層S1に形成される。ここではすべての領域の層S1において同じ電極材料、例えばアルミニウムにまたはアルミニウム合金が使用される。
【0051】
図6Bでは、層S1に構成されている金属構造を外部領域AU1,AU2において厚くするため、この層の上に付加的な層S2がデポジットされている。ここでこの層S2は、有利には層S1の材料よりも大きな密度および/または小さい剛性を有する。層S2に対して、例えば金、白金または銅が有利である。この際には、外部領域AU1,AU2に配置される構造の全体厚さが比較的小さい場合でも、比較的大きな速度低下を得ることができる。
【0052】
図1の実施例において外部領域AU1,AU2は、この領域における表面波の速度が励起領域MBよりも低下するように構成されている。上記の母線の幅は、有利には少なくとも10λである。異なる電極の電極指は、励起領域において交互に配置されており、励起を行う指の対を形成する。音響トラックASの励起プロフィールは、励起領域によって決まり、またこの実施例において矩形である。
【0053】
縁部領域における電極指は全て同じの電極に属し、したがって不活性である。すなわち音波はこの縁部領域においては励起されない。縁部領域RB1,RB2において波は励起されないが、ここでは上記の励起領域における励起によって波が誘導される。
【0054】
この実施例において縁部領域は格子形の構造を有しており、ここでこの格子の周期は、励起領域MBの平均的なグリッドに比べて大きく選択される。上記の波が、縁部領域RB1,RB2において遭遇する格子のエッジは、励起領域MBに比べて少ないことにより、これらの縁部領域において音波の位相速度vが増大する。さらに励起領域と比べて縁部領域におけるメタライゼーション比が小さいことが、波の速度の増大に寄与するため、縁部領域RB1,RB2における速度vRBは、励起領域MBにおける速度vMBよりも大きい。これに対して上記の外部領域AU1,AU2はつぎのように構成される。すなわち、外部領域AU1,AU2における速度vAUが、励起領域MBにおける速度vMBよりも小さいように構成されているのである。
【0055】
音響トラックASと、この音響トラックに横方向に接しているメタライゼーションされた外部領域AU1,AU2とは一緒に導波体を形成する。横方向導波体モードは位相係数

によって特徴付けられる。束縛される波モード(gebundene Wellenmode)に対して横方向の波数kは、上記の導波体のコア領域(すなわち音響トラックAS)内で実数であり、導波体の被覆領域(外部領域AU1,AU2)においては虚数である。
【0056】
励起領域MBにおけるkの絶対値は、領域RB1,RB2,AU1,AU2よりも格段に(例えば少なくとも10倍)小さい。(励起領域において)k=0の場合、基本モードはこの領域において平坦域を有する。すなわち、励起領域における波の偏差は横方向Yにおいて一定である。
【0057】
音響トラックASの外部にありかつ横方向にこれと接している外部領域AU1,AU2において、kは虚数ないしは(k<0である。したがって外部領域AU1,AU2における波の振幅は、横方向に指数的に減少する。
【0058】
横方向の波数kは、各縁部領域RB1,RB2において実数ないし(k>0である。これらの縁部領域において、励起領域における最大振幅から外部領域との境界における小振幅にまで変化する。
【0059】
縁部領域における波長λの値は、縦方向における波の伝搬速度に依存し、この伝搬速度そのものは、縁部領域における電極指のグリッドに依存する。この縁部領域の絶対幅は、(あらかじめ定めたλの値に応じて)種々に選択することができる。波長で量った縁部領域の幅は、有利にはλ/4〜λ/8である。縁部領域の絶対幅を変更することにより、基本モードの相応する側縁の傾斜を調整することができる。上述のように選択される縁部領域の幅によって横方向基本モードの形状が定まり、この形状では、外部領域において波の振幅は外側に向かって指数関数的に低下し、また縁部領域において横方向に定常波が形成される。ここで定常波の腹は、励起領域および縁部領域の縁部にある。この波は、縁部領域において正弦波の4分の1まで進む。この波は外部領域においてゼロに減衰するため、縁部領域には偏差がゼロの個所はない。このような理由から、縁部領域の幅がλ/4以下であると有利である。上記の縁部領域の幅は、有利にはλ/8〜λ/4である。殊に有利であるのは、実質的にλy/4になる縁部領域の幅である。それはこれによって、波が外部領域にわずかにしか進入しないことになるからである。これによって基本モードの形状は、音響トラックASの矩形の励起プロフィール形状に最大限に適合されるのである。
【0060】
上記の縁部領域の幅Wは、例えば、式
【数3】

から決定することができ、ただしky,RBは、縁部領域における横方向波数であり、ky,ADは、外部領域における横方向波数である。ここで仮定したのは、励起領域においてk≒0であることである。すなわち、縁部領域に波がわずかに進入することは、比|ky,AU|/ky,RBの値が大きいことと同義である。有利には上記の変換器領域を構成して、
|ky,AU|/ky,RB≧1
が成り立つようにする。
【0061】
縁部領域における波数kが多くなればなるほど、相応する波長は小さくなり、ひいては縁部領域の絶対幅が小さくなる。k値が大きい場合、横方向基本モードの側縁の傾斜は相応して大きくなる。
【0062】
上記の電極指は実際には、波の主伝搬方向である縦方向Xに垂直である。指の長さが無限である理想的なケースにおいて、音波は主伝搬方向に伝搬する。音響トラックの励起領域の大きさが有限であることに起因して、上記の伝搬は、主伝搬方向から偏差する方向にも角度範囲−θmax<θ<θmaxで行われる。θは、上記の伝搬方向と主伝搬方向との間のなす角である。波の速度vが、この角度範囲の角度θに依存することによって決定されるのは、この波に対してこの変換器が導波体として機能できるか否かである。
【0063】
これに対して重要であるのは、図9Aおよび9Bに示した曲線s(s)の、導波体のコアおよび側面における振る舞いである。s=k/ωおよびs=k/ωは、xないしはy方向におけるスローネスベクトル
【数4】

の成分である。

は波数ベクトルである。
【0064】
上記のスローネス成分sには実数部分Re{s}と虚数部分Im{s}とが含まれる。ここではRe{s}/s=tan(θ)が成り立つ。この曲線は、専門用語ではゆっくりさ(英語では「スローネス」)とも称される。それはこれが、角度θに対して速度の逆数の振る舞いを示すからである。
【0065】
MBおよびRAUにより、この変換器の励起領域MBないしは外部領域AU1,AU2におけるスローネス曲線Re{s(s)}、すなわち、各領域においてsに対してプロットしたスローネス成分sの実数値を示す。IMBおよびIAUにより、この変換器の励起領域MBないしは外部領域AU1,AU2におけるスローネス曲線Im{s(s)}、すなわち、sに対してプロットしたスローネス成分sの虚数値を示す。
【0066】
凸状のスローネスと、凹状のスローネスとが区別される。凸状のスローネス(図9A)が意味するのは、θの絶対値が増大すると、スローネスベクトルの成分sが減少しかつ成分Re{s}の絶対値が増大することである。つまり、θの絶対値が増大すると共に波長λが増大しかつ波長λが減少するのである。
【0067】
これに対して凹状のスローネス(図9B)に意味するのは、θの絶対値が増大するのに対して、sもRe{s}も絶対値が大きくなることである。したがって凹状のスローネスの場合、波長λおよびλはθの増大と共に減少する。上で示した変換器に対して、殊に凹状のスローネスを有する圧電基板における変換器が対象となる。
【0068】
上記の導波は、所定の角度範囲においてのみ行われる。すなわち、直線s=s0,minおよびs=s0,maxの間にあるスローネス曲線RMBの領域においてのみ行われるのである。凸状のスローネスでは、s0,min=S0,AUおよびs0,max=S0,ABが成り立つ。凹状のスローネスでは、s0,min=S0,ABおよびs0,max=S0,AUが成り立つ。
【0069】
角度θ=0に相応するスローネス曲線RMBないしはRAUの頂点S0,MB,S0,AUから、励起領域ないしは外部領域における縦方向の波の位相速度VMB=1/S0,MBおよびVAU=1/S0,AUを求めることができる。凸状のスローネスではS0,AU<S0,MB(図9Aを参照されたい)が成り立つため、凸状のスローネスによって特徴付けられる導波体における速度は、外部領域において励起領域よりも大きくなる。すなわちvAU>vMBである。したがってこの変換器は、凸状のスローネスのケースでは、外部領域における速度が音響トラックよりも高い場合に導波体として機能するのである。
【0070】
同様に凹状のスローネスにおいて得られる関係S0,AU>S0,MBから導き出せるのは、このケースにおいて外部領域における速度が音響トラックよりも低い場合に導波体が形成されることである。
【0071】
上記の変換器が配置される圧電基板に対して有利にはつぎが成り立つ。上記の表面波の波数は、縦の伝搬方向Xからわずかに(例えば最大±10°だけ)偏差する方向において、近似的に関係式(2πf/vMB=k+k(1+γ)(放物線近似)によって表すことができ、ここでfは変換器の動作周波数、vMBは励起領域における縦方向Xの音波の速度、またγは異方性パラメタである。上記のスローネスは、γ<−1に対して凹状であり、γ>−1に対して凸状である。この近似の枠内では上記の縁部領域の有利な幅Wは、
【数5】

で得られ、ここでΔvRBは、励起領域と縁部領域との間の速度差、すなわちΔvRB=vMB−vRBである。vRBは、縁部領域における速度である。ここで仮定したのは、励起領域においてk=0が成り立つことである。条件|ky,AU|/ky,RB≧1が満たされる場合、外部領域に進入するエネルギーが殊に少なくなる。これは上記の放物線近似において条件|ΔvAU/ΔvRB|≧1と同義である。vAUは外部領域における速度であり、またΔvAU=vMB−vAUである。
【0072】
図1の励起領域は、再帰形フィルタの場合と同様に構成される。しかしながら変換器の励起領域を縦方向において少なくとも部分的につぎように構成することも可能である。すなわち、周期なグリッドに配置されているインタデジタルフィンガを有する公知のそれ自体公知の通常の指形変換器(図2A,2Bを参照されたい)のように、またはそれ自体公知のスプリット形指形変換器のように構成することも可能である。
【0073】
図2Aに示した変形実施形態では、横方向の縁部領域RB2は、第1電極指E11の端部と第2母線E2との間に、また横方向の縁部領域RB1は、第2電極指E22の端部と第1母線E1との間に形成される。(励起領域MBを基準にして)格子周期が長くまたメタライゼーション比が小さいことに起因して、縁部領域RB1,RB2において、励起領域MBよりも高い速度が得られる。
【0074】
図2Aに示した変形実施形態では縁部領域RB1,RB2における格子配置構成は、指の配置構成、すなわち励起領域MBにおける格子配置構成によって定められる。図2Bにおいて上記の変換器は、互いに独立した格子配置構成を有する部分トラックに横方向に分割される。励起領域MBは、中央の部分トラックであり、また縁部領域RB1,RB2は、音響トラックASの、外側の部分トラックである。ここでは縁部領域RB1,RB2は、母線E1ないしはE2の穴の開けられた領域とみなすことができる。
【0075】
図2Bにおいて縁部領域RB1,RB2は、励起領域MBよりも周期が長くかつこの領域に比べてメタライゼーション比の小さい格子配置構成として実施されている。独立した部分トラックを有するこの実施例の利点は、縁部領域における速度を所望のように調整できることである。
【0076】
実際には、縁部領域の絶対幅を任意に小さく選択することができないので、縁部領域を挿入することにより、完全に矩形をした横方向基本モードを得ることはできない。したがって上記の変換器の別の変形実施形態において、変換器の横方向励起プロフィールと、横方向基本モードとの微調整による適合は、例えば、励起領域を複数の部分トラックに分けることによって行われる。このような微調整による適合は、基本モードの形状が周波数に依存するため、極めて狭い周波数領域においてのみ可能である。
【0077】
図3には、音響トラックASの励起領域MBが横方向に4つの部分トラックTB1,TB2,TB3およびTB4に分けられている変換器の1発展形態が示されている。これらの部分トラックは電気的に直列接続される。
【0078】
図3,4ではそれぞれ、音響トラックASの一部が下側に、また励起領域の相応する励起プロフィールΨならびに横方向基本モードの形状Φが上側に略示されている。
【0079】
このように分けられた励起領域のすべての部分トラックは、縦方向Xの電極指構造が、すなわち、幅、接続の順序、続いている2つの指の間隔が同じに構成されている。ここでこれらの部分トラックの幅は、横方向Yに有利には別々に選択される。数字iを付した部分トラックは幅bを有する。例えば、図3に示した変形実施形態では中央の部分トラックTB2,TB3は、縁部領域側の部分TB1,TB4よりも横方向に幅が狭い。
【0080】
この変換器の2つの電極間の電圧差はUである。1つの部分トラックにおける電極指対の励起強度は、電極指間の電圧差Uに比例する。Uは部分トラックの容量に逆比例して依存し、この容量そのものは部分トラックの幅bに直接的に比例する。ここでは
【数6】

が成り立つ。
【0081】
したがって部分トラックiにおける励起強度は、その幅を変更することによって所期のように調整ないし重み付けすることができる。部分トラックが直列接続されている場合には、励起領域が分けられている音響トラックASのインピーダンスは、励起領域が分けられていない音響トラックのインピーダンスに比べて相応に大きくなる。
【0082】
部分トラックに分けられている音響トラックのインピーダンスを維持するために可能であるのは、部分トラックのうちの幾つかを互いに直列接続して、またこの直列回路を別の1つまたは複数の部分トラックと並列接続することである。これについては例えば、図4に示した実施例を参照されたい。
【0083】
励起領域MBは、中央の1つの部分トラックMTと、2つの縁部部分トラックRT1,RT2とに分けられる。縁部部分トラックRT1,RT2は互いに直列接続されており、部分トラックRT1およびRT2からなる直列回路は、中央の部分トラックMTに並列接続されている。中央の部分トラックMTの幅はそれぞれの縁部部分トラックRT1,RT2の幅よりも格段に大きく、有利には少なくとも5倍大きい。音響トラックASのインピーダンスは実質的に、比較的幅広に構成されている部分トラックMTのインピーダンスによって決定される。直列接続されている縁部部分トラックRT1とRT2との間に印加される電圧Uを分けることにより、電圧Uが印加される中央の部分トラックMTに比べて、各縁部部分トラックRT1ないしRT2における励起強度を低減することができる。
【0084】
図5には上記の変換器の別の変形実施形態が略示されている。この図には変換器の一部(下)と、相応する横方向基本モードと、横方向波数の2乗(上)とが横方向座標に依存して示されている。
【0085】
この変形実施形態では、別の音響トラックAS′が設けられており、この別の音響トラックAS′は音響トラックASと同様に、励起領域MB′および縁部領域RB1′,RB2′に分けられており、また実質的に音響トラックASと同じに構成されている。この実施例において音響トラックASおよびAS′は、互いに電気的に直列接続されており、これらの音響トラックは横方向において互いに平行に配置されている。音響トラックASと別の音響トラックAS′との間には中間領域ZBが配置されている。音響トラックASないしAS′の縁部領域RB1,RB2およびRB1´,RB2´の幅は、中間領域ZBにおいてはkの絶対値が、縁部領域RB1,RB2および外部領域AU1,AU2よりも格段に(例えば少なくとも1オーダだけ)小さくなるように選択されている。中間領域ZBにおいて基本モードを比較的速く減衰させるため、この中間領域においてkは、有利には純虚数である。このために、例えば上記の外部領域と同じ手段を講じることができる。すなわち、メタライゼーションの高さに加えて、励起領域に比べて厚さを増すかないし剛性を低下させた材料を使用することができるである。
【0086】
平行に配置されている音響トラックを互い並列接続することも可能である。また音響トラックが2つ以上平行に配置される場合、トラックの直列接続と並列接続を組み合わせることも可能である。
【0087】
マルチトラック形に構成される変換器の別の各々の音響トラックにおいて、(k>0である縁部領域が設けられ、これらの縁部領域では、音波が励起されないが、相応する励起領域において励起される波を縦方向に伝搬することができる。2つの音響トラックの間には、虚数kを有する1つずつの中間層が設けられる。これらの中間領域においては音波の励起は行われない。各中間領域は有利には、励起領域に比べて層厚を大きくした全体に及ぶ金属ストライプとして構成され、および/または励起領域に比べて厚さを大きくしたないしは剛性を小さくした材料を使用して構成される。上記の励起領域における電極指は、周期的に配置するか、または単方向放射セルを形成することもできる。
【0088】
励起領域に相応する領域において偏差がほぼ一定でありかつ中間領域において偏差が消えている横方向基本モードの形状は、縁部領域の絶対幅を適切に選択することによって調整することができる。ここで波長で量られる縁部領域の幅は、つねに8分の1波長〜4分の1波長である。このようにして横方向基本モードの形状は、マルチトラック形の配置構成の励起プロフィールに適合されるのである。
【0089】
図7および8には、例えば42°回転YXLiTaOのような凹状のスローネスを有する基板に構成された変換器において高次の横方向導波体モードを抑圧することが示されている。これらの高次の波モードは、共振器アドミッタンスまたはフィルタ関数における不所望のサブマキシマムの原因であり、これらの位相係数は、横方向座標に依存して図7の上側の曲線11,12,13に、またこれらの相対強度は図7の下側に略示されている。
【0090】
次数1の横モードは横方向基本モードであり、これは(励起領域を有するが縁部領域を有しない)従来通りに構成されている音響トラックにおいて正弦波状である。このモードは図7において曲線11で示されている。第1の横モードの相対強度は約84%である。さらにこのように構成される音響トラックにおいて、奇数の次数を有する別の横方向の波モードが励起される。第2の横方向波モード(曲線12)に相当する定在音波は、対称条件のために導波体において励起されることはない。
【0091】
第3の横方向波モードの相対強度(基本モードの第2高調波、図7における曲線13を参照されたい)はここで約9%であり、図7には示していない第5の波モードの相対強度は約3%である。
【0092】
したがって上記の第3および第5の横モードへの電気信号の入力結合が行われる。それは、音波の横方向励起プロフィールは矩形であるのに対して、横モードの形状は正弦波状だからである。これらのモードにより、フィルタの通過領域以上で望ましくない共振になり、これらの共振はフィルタ品質を劣化させる(殊に通過領域における挿入損も)。
【0093】
励起プロフィールおよび横方向の基本モードの形状を互いに調整すると、高次の横方向波モードは励起されない。
【0094】
図1にしたがって構成される音響トラックにおいて励起ないし伝搬可能な横方向導波体モードの位相係数は、図8の上に示されており、これらのモードの相対強度は図8の下に示されている。第1,第2および第3の横モードの位相係数は、曲線11´,12´および13´に相応する。高次の横モードの相対強度は、横方向基本モードの強度に比べて極めて小さい。
【0095】
図7および図8の曲線14および14´は、各音響トラックに相応する導波体の速度プロフィールを表しており、ここでの速度は、縦方向における波の伝搬速度のことである。図8には上記の音響トラックの縁部領域における波の伝搬速度が、この導波体の別の領域よりも大きいことが示されている。
【0096】
上記の変換器は基本的に、それ自体公知の全てのSAW素子、例えばダブルモードSAWフィルタ、通常の指形変換器、再帰形フィルタに使用することができ、また図面に示した構成要素の数または所定の周波数領域に制限されることはない。
【図面の簡単な説明】
【0097】
【図1】変換器と、横方向における波数の変化と、相応する基本モードの形状および横方向速度プロフィールとを示す図である。
【図2A】電極指の端部と、これに対向する母線との間に縁部領域が形成されている変換器を示す図である。
【図2B】上記の縁部領域が、穴の開けられた母線の領域として構成されている変換器を示す図である。
【図3】互いに直列接続される部分トラックに励起領域が分けられている別の変換器(下)と、相応する横方向励起プロフィールと、横方向基本モードの形状(上)とを示す図である。
【図4】互いに直列および並列接続される部分トラックに励起領域が分けられている別の変換器(下)と、相応する横方向励起プロフィールと、横方向基本モードの形状(上)とを示す図である。
【図5】複数の音響トラックが順々に接続されている別の変換器(下)と、相応する横方向基本モードと、横方向における波数の変化(上)とを示す図である。
【図6A】励起領域に比べて外部領域を厚くした変換器におけるメタライゼーション高さの横方向プロフィールを示す図である。
【図6B】付加的な材料層によって外部領域を厚くした変換器におけるメタライゼーション高さの横方向プロフィールを示す図である。
【図7】横方向の励起プロフィールが適合化されていない場合に音響トラックにおいて伝搬可能な横方向波モードの偏差と、これのモードに相応する励起強度とを示す図である。
【図8】横方向励起プロフィールが基本モードに適合されている場合に音響トラックにおいて伝搬可能な横方向波モードの偏差と、これらのモードに相応する励起強度とを示す図である。
【図9A】凸状のスローネスを有する導波体におけるスローネス曲線を示す図である。
【図9B】凹状のスローネスを有する導波体におけるスローネス曲線を示す図である。
【符号の説明】
【0098】
AS 音響トラック、 AS′ 別の音響トラック、 MB 音響トラックの励起領域、 MB′ 別の音響トラックの励起領域、 RB1,RB2 音響トラックの縁部領域、 RB1′,RB2′ 別の音響トラックの縁部領域、 E1,E2 第1および第2母線、 Y 横方向、 X 縦方向、 AZ1 励起形セル、 RZ1〜RZ3 反射形セル、 AU1,AU2 導波体の外部領域、 TB1〜TB2 部分トラック、 MT 中央部分トラック、 RT1 縁部部分トラック、 ZB 中間領域、 11 (横方向励起プロフィールを適合化していない場合の)横方向座標に依存する横方向基本モードの位相係数、 12 (横方向励起プロフィールを適合化していない場合の)横方向基本モードの第1高調波の位相係数、 13 (横方向励起プロフィールを適合化していない場合の)横方向基本モードの第2高調波の位相係数、 11′ (横方向励起プロフィールを適合化した場合の)横方向座標に依存する横方向基本モードの位相係数、 12′ (横方向励起プロフィールを適合化した場合の)横方向基本モードの第1高調波の位相係数、 13′ (横方向励起プロフィールを適合化した場合の)横方向基本モードの第2高調波の位相係数、 14 基本モードが励起プロフィールに適合化されていない導波体の速度プロフィール、 14′ 基本モードが励起プロフィールに適合化されている導波体の速度プロフィール

【特許請求の範囲】
【請求項1】
表面音響波で動作する変換器において、
該変換器は、
− 横方向基本モードによって特徴付けられる音波が伝搬可能な音響トラック(AS)を有しており、
− 該音響トラック(AS)は、横方向(Y)に1つの励起領域(MB)と、2つの縁部領域(RB1,RB2)とに分けられており、
− 前記の音響トラック(AS)は、横方向に2つの外部領域(AU1,AU2)の間に配置されており、該外部領域は前記の音響トラック(AS)に隣接しており、
− 前記の縁部領域(RB1,RB2)を構成して、各縁部領域(RB1,RB2)における前記の音波の縦方向位相速度vRBが、励起領域(MB)における波の縦方向位相速度vMBよりも大きくなるようにし、
− 前記の外部領域(AU1,AU2)を構成して、各外部領域(AU1,AU2)における音波の縦方向位相速度vAUがvMBよりも小さくなるようにし、
− 前記の縁部領域(RB1,RB2)および外部領域(AU1,AU2)を構成して、
各縁部領域(RB1,RB2)にて(k>0であり、かつ各外部領域(AU1,AU2)にて(k<0が成り立つようにし、
− ここでkは、各領域(MB,RB1,RB2,AU1,AU2)における横方向基本モードの波数であり、
− 前記の縁部領域(RB1,RB2)の幅を、励起領域(MB)の幅を基準にして調整して、当該の励起領域(MB)にてkが、実質的に一定でありかつその絶対値が、縁部領域(RB1,RB2)および外部領域(AU1,AU2)よりも少なくとも10倍小さくなるようにしたことを特徴とする、
表面音響波で動作する変換器。
【請求項2】
前記の励起領域(MB)にてk≒0が成り立つ、
請求項1に記載の変換器。
【請求項3】
− 前記変換器は、圧電基板に配置されており、
該圧電基板を選択して、前記の励起領域における表面波の速度vMBに対し、伝搬方向(X)を中心とした角度範囲内で
(2πf/vMB=k+k(1+γ)
が成り立つようにし、
− ただしfは前記の変換器の動作周波数であり、kは縦方向における波数であり、γは基板の異方性パラメタであり、γ<−1が成り立ち、
− 前記の縁部領域(RB1,RB2)の幅Wは実質的に
λ/8≦W≦λ/4であり、
− ただしλは、横方向に伝搬する波の波長であり、ここで
【数1】

が成り立つ、
請求項1または2に記載の変換器。
【請求項4】
前記の外部領域(AU1,AU2)を構成して、当該外部領域にて前記の音波の位相速度が、励起領域(MB)よりも少なくとも3%だけ小さくなるようにした、
請求項1から3までのいずれか1項に記載の変換器。
【請求項5】
前記の各縁部領域(RB1,RB2)の横方向の幅は、π/(4ky,RB)とπ/(2ky,RB)との間にあり、
ただしky,RBは各縁部領域における基本モードの波数である、
請求項1から4までのいずれか1項に記載の変換器。
【請求項6】
前記の各外部領域(AU1,AU2)の横方向の幅は、少なくともλであり、
ただしλは、励起領域(MB)における主伝搬方向Xの波数である、
請求項1から5までのいずれか1項に記載の変換器。
【請求項7】
− 第1の母線に接続されている第1の電極指と、第2の母線に接続されている第2の電極指とを有しており、
当該の第1および第2の電極指は互いに噛み合っており、
− 前記の第1外部領域(AU1)は、第1の母線の少なくとも一部を含んでおり、
− 前記の第2外部領域(AU1)は、第2の母線の少なくとも一部を含んでいる、
請求項1から6までのいずれか1項に記載の変換器。
【請求項8】
前記の外部領域(AU1,AU2)はそれぞれ、縦方向に全体に及ぶ金属ストライプとして構成されており、
該金属ストライプの高さは、前記の励起領域(MB)における電極指の厚さよりも大きい、
請求項7に記載の変換器。
【請求項9】
前記の外部領域(AU1,AU2)はそれぞれ、異なる材料からなる少なくとも2つの部分層を有する、
請求項1から8までのいずれか1項に記載の変換器。
【請求項10】
前記の外部領域(AU1,AU2)に配置される部分層のうちの少なくとも1つは、前記の励起領域(MB)における電極指の材料よりも厚さが大きいおよび/または剛性が小さい、
請求項1から9までのいずれか1項に記載の変換器。
【請求項11】
− 前記の第1の縁部領域(RB1)は、第1電極指の端部と、第2母線との間に延在しており、
− 前記の第2縁部領域(RB2)は、第2電極指の端部と、第1母線との間に延在している、
請求項7に記載の変換器。
【請求項12】
− 前記の第1縁部領域(RB1)は、第1母線の穴の開けられた領域として構成されており、
− 前記の第2縁部領域(RB2)は、第2母線の穴の開けられた領域として構成されている、
請求項7に記載の変換器。
【請求項13】
前記の励起領域(MB)は横方向(Y)に複数の部分トラック(TB1,TB2,TB3,TB4)に分けられており、
該部分トラックは、互いに直列および/または並列接続される部分変換器に相当する、
請求項1から12でのいずれか1項に記載の変換器。
【請求項14】
− 前記の部分トラックは、伝搬方向(X)に同じ電極指構造を有しており、
− 前記の部分トラックの幅を選択して、前記の励起領域(MB)における励起強度の横方向プロフィールΨが、前記の横方向基本モードの形状Φに適合するようにした、
請求項13に記載の変換器。
【請求項15】
前記の励起強度の横方向プロフィールΨを横方向基本モードの形状Φに適合させるのに対して、
【数2】

が成り立つ、
請求項13または14に記載の変換器。
【請求項16】
− 前記の部分トラックは、中央の部分トラック(MT)と、2つの縁部部分トラック(RT1,RT2)とを有しており、
− 当該の縁部部分トラック(RT1,RT2)は互いに直列接続されて直列回路を形成しており、
− 当該の直列回路は、前記の中央の部分トラック(MT)に並列接続されており、
− 中央の部分トラック(MT)の幅は、各縁部部分トラック(RT1,RT2)の幅よりも少なくとも5倍だけ大きい、
請求項13から15までのいずれか1項に記載の変換器。
【請求項17】
前記の各縁部領域(RB1,RB2)におけるメタライゼーション面の割合は、前記の励起領域(MB)よりも小さい、
請求項1から16までのいずれか1項に記載の変換器。
【請求項18】
前記の各外部領域(AU1,AU2)におけるメタライゼーション面の割合は、前記の励起領域(MB)よりも大きい、
請求項1から17までのいずれか1項に記載の変換器。
【請求項19】
前記の縁部領域(RB1,RB2)は、実質的に周期的な金属ストライプの配置構成を有しており、
当該金属ストライプの周期は、前記の励起領域(MB)における電極指の周期よりも大きい、
請求項7から18までのいずれか1項に記載の変換器。
【請求項20】
− 前記の励起領域(MB)は縦方向に、単方向に放射または反射するセルに分けられており、
− 縦方向に並んで配置される複数の電極指は、励起領域(MB)にて有利な方向に音波を放射するセルまたは反射作用を有するセルを形成する、
請求項1から19までのいずれか1項に記載の変換器。
【請求項21】
− 前記の第1音響トラック(AS)の他に少なくとも1つの別の音響トラック(AS′)が設けられており、当該の別の音響トラックは、励起領域(MB′)および縁部領域(RB1′,RB2′)に分けられており、また前記の第1音響トラック(AS)と実質的に同じに構成されており、
− 前記の音響トラック(AS,AS′)は互いに平行に配置されており、
− 2つの音響トラックの間に中間領域(ZB)が配置されており、
− 前記の異なる音響トラック(AS,AS′)の励起領域(MB,MB′)における横方向波数kは、前記の中間領域(ZB)よりも少なくとも10倍小さい、
請求項1から20までのいずれか1項に記載の変換器。
【請求項22】
前記の励起領域と、各外部領域(AU1,AU2)と、各縁部領域(RB1,RB2)とを構成して、
(vMB−vAD)/(vRB−vMB)>1
が成り立つようにした、
請求項1から21までのいずれか1項に記載の変換器。
【請求項23】
フィルタにおいて、
請求項1から22のうちのいずれか1項に記載の少なくとも1つの変換器を有するフィルタ。

【図1】
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【図2A】
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【図2B】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6A】
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【図6B】
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【図7】
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【図8】
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【図9A】
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【図9B】
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【公表番号】特表2009−521142(P2009−521142A)
【公表日】平成21年5月28日(2009.5.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−546120(P2008−546120)
【出願日】平成18年12月18日(2006.12.18)
【国際出願番号】PCT/DE2006/002271
【国際公開番号】WO2007/073722
【国際公開日】平成19年7月5日(2007.7.5)
【出願人】(300002160)エプコス アクチエンゲゼルシャフト (318)
【氏名又は名称原語表記】EPCOS  AG
【住所又は居所原語表記】St.−Martin−Strasse 53, D−81669 Muenchen, Germany
【Fターム(参考)】