説明

音響を考慮した居室構造

【課題】シュレーダ拡散体に改良を加えて建物の居室部に用いることにより、低音域から高音域にわたって吸音率をバランス良く向上させて、音響効果に優れた居室空間を容易に形成することができる音響を考慮した居室構造を提供する。
【解決手段】居室部の壁11に、室内に向って開口面12aが開口する枠体12を設け、この枠体12に多数の音響振動板13を所定の間隔をおいて配置してなる吸音拡散体10が設置されている、音響を考慮した居室構造であって、多数の音響振動板13は、開口面12aと垂直に交差する方向に平行に配置されることにより、吸音拡散体10には、各隣接する音響振動板13の間に開口面12aに向けて開口する共鳴振動溝14が形成されており、形成された多数の共鳴振動溝14の内部には、奥部閉塞部材15がランダムな深さ位置に設けられていて、多数の共鳴振動溝14はランダムな深さを有している。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、音響を考慮した居室構造に関し、特に、居室部の周囲の室内壁面に設けた枠体に、多数の音響振動板を所定の間隔をおいて平行に配置してなる吸音拡散体が設置されている音響を考慮した居室構造に関する。
【背景技術】
【0002】
例えばコンサートホールや劇場等の大規模空間を、音響効果に優れた空間とするための建築音響設計では、例えば吸音材料として、低音域の吸音特性に優れた共鳴器型の吸音材料、中音域の吸音特性に優れた板(膜)振動型の吸音材料、中高音域の吸音特性に優れた多孔質型の吸音材料等の各種の吸音材料を使用し、これらを適宜組み合わせて、低音域から高音域にわたる吸音率の周波数特性のバランスを図ることが行われている。
【0003】
これに対して、例えば住宅建築物等の一般の建物では、一部の居室部を音響効果に優れた居室空間としようとする場合、このような小規模空間である居室部においては、室内壁面に過度の凹凸を形成するための大きなスペースを確保することが難しく、低音域の吸音特性に優れた共鳴器型の吸音材料を、十分な大きさや形状で設けることは困難である。また、居室部等の小規模空間においては、平面間の繰り返し反射を原因として、低音域〜高音域にかけて吸音力の不足(残響過多)が生じ易く、特に中音域(500Hz帯域)での残響過多が突出し易くなる。さらに、低・中音域の響き過ぎが高音域をマスキングするため、高音域が一層聞き取り難くなる。
【0004】
また、例えば音楽用途の居室部においては、内装計画時の吸音設計として、中高音域の吸音特性に優れたグラスウール等の多孔質型の吸音材料を用いた設計が行なわれることが多いが、多孔質型の吸音材料を使用した場合には、特に例えば1kHz以上の高音域の吸音が過多になって、音源の持つ倍音《基本となる周波数(基音)の他に含まれる周波数で、基音の2倍、3倍、・・7倍(整数倍)・・の周波数を持つ》が不足し易くなる。
【0005】
さらに、空間の音響上の拡散性を高めることは、室内吸音率の周波数特性のバランスを図る上で重要であることが知られているが、一般の居室部では、意匠上の理由から、拡散を高めるための過度の凹凸形状は嫌われるため、拡散性まで配慮して居室部を設計することは殆どなく、居室部は、過度の凹凸のない、すっきりとした空間構成が望まれている。
【0006】
一方、例えばコンサートホールや劇場等の大規模空間においては、空間の音響上の拡散性を高める構造体として、シュレーダ拡散体と呼ばれる拡散体が用いられる場合がある(例えば、非特許文献1参照)。シュレーダ拡散体は、平方剰余擬似ランダム配列による深さを有する剛な材料で仕切られた多数の溝を、開口部が平面をなすように並べて配置することで、音響インピーダンスの変化(不連続)を、吸音材料を用いることなく実現できるようにしたものである。
【非特許文献1】「室内音響学−建築の響きとその理論−」、著者、ハインリッヒ・クットルフ、翻訳者、藤原恭司、日高孝之、2003年8月12日、株式会社市ヶ谷出版社発行
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
シュレーダ拡散体は、拡散体としての機能の他、ランダムな容積を有する多数の溝によって、レゾネータ(共鳴器)としての機能をも備えるものと考えられる。したがって、シュレーダ拡散体を建物の居室部等の小規模空間に設置することにより、当該小規模空間の音響上の拡散性を高めることが可能になる他、吸音材料としての機能を発揮させることができるものと考えられるが、コンサートホールや劇場等の大規模空間に用いるシュレーダ拡散体を、建物の居室部等の小規模空間において使用するには、種々の改良が必要である。また大規模空間に用いるシュレーダ拡散体に改良を加えて吸音材料としての機能を高めることにより、小規模空間に用いた際に、低音域から高音域にわたって吸音率をバランス良く向上させて、音響効果に優れた居室空間を容易に形成できるようにすることが望まれている。
【0008】
本発明は、シュレーダ拡散体に改良を加えて建物の居室部に用いることにより、周囲の室内壁面に過度の凹凸を設けることなく、低音域から高音域にわたって吸音率をバランス良く向上させて、音響効果に優れた居室空間を容易に形成することのできる音響を考慮した居室構造を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、居室部を形成する壁、天井、又は床による室内壁面に、室内に向って開口面が開口する枠体を設け、該枠体に多数の音響振動板を所定の間隔をおいて配置してなる吸音拡散体が設置されている音響を考慮した居室構造であって、前記多数の音響振動板は、前記開口面と交差する方向に平行に配置されることにより、前記吸音拡散体には、各隣接する音響振動板の間に前記開口面に向けて開口する共鳴振動溝が形成されており、形成された多数の前記共鳴振動溝の内部には、奥部閉塞部材がランダムな深さ位置に設けられていて、多数の前記共鳴振動溝はランダムな深さを有している音響を考慮した居室構造を提供することにより、上記目的を達成したものである。
【0010】
そして、本発明の音響を考慮した居室構造は、前記吸音拡散体の各音響振動板の両側縁部に、前記開口面側の端辺から溝の深さ方向に延設して切込みを形成することにより、低音域の吸音率を高めることができる。
【0011】
また、本発明の音響を考慮した居室構造は、前記吸音拡散体が設置された前記枠体の開口面を覆って、音響透過性を有するシート部材が取り付けられていることが好ましい。
【0012】
さらに、本発明の音響を考慮した居室構造は、前記多数の音響振動板は、前記枠体の開口面と垂直に交差する方向に平行に配置されていることが好ましい。
【0013】
さらにまた、本発明の音響を考慮した居室構造は、前記多数の音響振動板が、2.5〜5.5mmの厚さの薄板部材からなることが好ましい。
【0014】
また、本発明の音響を考慮した居室構造は、前記多数の音響振動板が、30〜100mmの間隔をおいて平行に配置されていることが好ましい。
【0015】
さらに、本発明の音響を考慮した居室構造は、前記多数の共鳴振動溝が、0〜380mmの範囲でランダムな深さに形成されていることが好ましい。
【0016】
さらにまた、本発明の音響を考慮した居室構造は、前記多数の共鳴振動溝のランダムな深さが、平方剰余擬似ランダム配列による深さであることが好ましい。
【0017】
また、本発明の音響を考慮した居室構造は、前記吸音拡散体が設置された前記枠体の開口面が、幅600〜2000mmの矩形形状に開口していることが好ましい。
【0018】
さらに、本発明の音響を考慮した居室構造は、前記吸音拡散体が設置された前記枠体の開口面が、前記居室部における壁、天井、床を含む室内壁面の全体の面積の3〜50%の面積を占めるように設けられていることが好ましい。
【発明の効果】
【0019】
本発明の音響を考慮した居室構造によれば、シュレーダ拡散体に改良を加えて建物の居室部に用いることにより、周囲の室内壁面に過度の凹凸を設けることなく、低音域から高音域にわたって吸音率をバランス良く向上させて、音響効果に優れた居室空間を容易に形成することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
図1に示す本発明の好ましい第1実施形態に係る音響を考慮した居室構造は、例えば住宅建築物における6畳程度の広さの洋室を、例えば音楽用途の居室部として使用できるようにするために、従来よりコンサートホールや劇場等の大規模空間に使用されていた、剛な材料で仕切られたランダムな深さを有する多数の溝を開口部が平面をなすように並べて配置してなるシュレーダ拡散体に対して、小規模空間に適するように改良を加えて吸音拡散体10を形成し、この吸音拡散体10を、室内壁面としての壁11に設けられた、室内に向って開口面12aが開口する枠体12を介して壁11に設置することによって構成されるものである。
【0021】
すなわち、本第1実施形態の音響を考慮した居室構造は、図1及び図2に示すように、居室部を形成する側周面の室内壁面である壁11に、室内に向って開口面12aが開口する枠体12を設け、この枠体12に多数の音響振動板13を所定の間隔をおいて配置してなる吸音拡散体10が設置されている居室構造であって、多数の音響振動板13は、開口面12aと交差する方向に平行に配置されることにより、吸音拡散体10には、各隣接する音響振動板13の間に開口面12aに向けて開口する共鳴振動溝14が形成されており、形成された多数の共鳴振動溝14の内部には、奥部閉塞部材15がランダムな深さ位置に設けられていて、多数の共鳴振動溝14はランダムな深さを有している。
【0022】
また、本第1実施形態では、吸音拡散体10の多数の音響振動板13は、枠体12の開口面12aと垂直に交差する方向に、例えば40mm程度の等間隔をおいて平行に配置されている。さらに、本実施形態では、枠体12の開口面12aは、居室部の床26の近傍部分から天井21に向って、例えば幅が800mm程度、高さが1925mm程度の縦長の矩形形状に開口すると共に、床26及び天井21に対して垂直方向に延設して設けられており、居室部における壁11、天井21、床26を含む室内壁面の全体の面積の3.3%の面積を占めて開口している。また各音響振動板13は、床26及び天井21と平行な水平面に沿って取り付けられている。
【0023】
本第1実施形態では、吸音拡散体10を構成する多数の音響振動板13は、例えば厚さが3mm程度の針葉樹製の合板からなり、例えば縦400mm、横800mm程度の大きさの矩形平面形状を備えている。音響振動板13は、開口面12aを壁11の壁面と略面一にして壁11の内部に埋設設置された枠体12に両側縁部を支持させた状態で各々水平に取り付けられることにより、多数の音響振動板13からなる吸音拡散体10を形成する。
【0024】
本第1実施形態では、吸音拡散体10が設置される枠体12は、前面が開口面12aとして開口する中空の縦長直方体形状を有するボックス形状の外殻体である。枠体12は、開口面12aを室内に向けて開口させた状態で、居室部の壁11に埋設固定されている。枠体12の両側の側面12bの内側には、図2に示すように、例えば幅が40mm程度の多数の木製の帯板16が、水平方向に延設すると共に、例えば3mm程度の間隔をおいて互いに平行に配置されて取り付けられている。これによって、各隣接する帯板16の間隔部分には、音響振動板13の両側縁部を挿入係止して当該両側縁部を支持する案内支持溝17が、枠体12の両側の側面12bに、互いに対向する同じ高さに位置に配置されて形成されている。
【0025】
また、本第1実施形態では、枠体12の内側には、多数の木製の奥部閉塞部材15が、対向して配置された同じ高さ位置の各一対の両側の帯板16に両端面を各々接合固定して、枠体12の両側の側面12bの間を水平方向に横断するようにして取り付けられている。奥部閉塞部材15は、各々縦40mm、横30mm程度の大きさの矩形断面を有しており、各一対の両側の帯板16の間に、枠体12の開口面12aと平行に延設して、案内支持溝17にはみ出ない状態で取り付けられる。
【0026】
ここで、奥部閉塞部材15は、枠体12の開口面12aからランダムな深さ位置に取り付けられている。各高さ位置に配設された両側の案内支持溝17に両側縁部を挿入係止すると共に、当該案内支持溝17によって案内させつつ、多数の音響振動板13を枠体12の内部に各々押し込んで取り付けた際に、奥部閉塞部材15は、各隣接する一対の音響振動板13の間に形成された共鳴振動溝14の奥部をランダムな深さで閉塞することになる。これによって、図3に示すように、枠体12の内部には、各隣接する音響振動板13の間に開口面12aに向けて開口するランダムな深さの共鳴振動溝14が形成された、本実施形態の吸音拡散体10が設置されることになる。
【0027】
そして、本第1実施形態では、好ましくは、枠体12の内部の奥部閉塞部材15によって奥部が閉塞された多数の共鳴振動溝14のランダムな深さは、平方剰余擬似ランダム配列による深さとなっている。平方剰余擬似ランダム配列は、例えば大規模空間に用いるシュレーダ拡散体を設計する際に採用される公知のものである。平方剰余擬似ランダム配列による深さで多数の共鳴振動溝14を形成することにより、低音域から高音域にわたるバランスの良い拡散性が得られる他、例えば共鳴振動溝14の容積がランダムな大きさとなることで、吸音拡散体10がレゾネータ(共鳴器)としての機能を発揮する際に、低音域から高音域にわたるバランス良い吸音率の向上を効果的に図ることが可能になる。
【0028】
また、本第1実施形態では、好ましくは、図4に示すように、吸音拡散体10の各音響振動板13の両側縁部に、枠体12の開口面12a側の端辺13aから共鳴振動溝14の深さ方向に延設して、切込み18を形成しておくこともできる。切込み18は、例えば各音響振動板13の両側縁部における、案内支持溝17に挿入係止される部分よりも内側の、枠体12の側面12bに近接する部分に、当該側面12bに沿ってこれと平行に延設して形成することができる。切込み18が形成されていることにより、各音響振動板13の両側の切込み18によって挟まれる部分である本体部分は、奥部閉塞部材15側の一辺部のみによって支持された状態で片持ち梁状に張り出すことになり、音響振動を生じやすくなる。これによって、後述する板(膜)振動による吸音率の向上をさらに効果的に図ることが可能になると共に、特に低音域における吸音率の向上を効果的に図ることが可能になる。なお、切込み18の共鳴振動溝14の深さ方向への切込み長さは、吸音率のバランス等を鑑みて適宜設定することができる。
【0029】
さらに、本第1実施形態では、好ましくは、吸音拡散体10が設置された枠体12の開口面12aを覆って、音響透過性を有するシート部材19(図9参照)を取り付けることもできる。音響透過性を有するシート部材19としては、例えば商品名「FAB−ACE」(株式会社川島織物セルコン製)等の、音響透過性を有するシート部材として知られる種々のシート材料を用いることができる。枠体12の開口面12aを覆って音響透過性を有するシート部材19を取り付けておくことにより、多数の音響振動板13を所定の間隔をおいて平行に配置してなる吸音拡散体10を覆い隠して、居室部の意匠性を損うことなく、すっきりとした居室空間を形成することが可能になる。
【0030】
ここで、本発明では、多数の音響振動板13として、針葉樹製の合板の他、広葉樹製の合板、アクリルパネル等の合成樹脂板、段ボール紙板等の、種々の板部材を用いることができる。また音響振動板13は、3.5〜5.5mmの厚さの薄板部材からなることが好ましい。音響振動板13の厚さが厚すぎると、板振動による吸音機能が低下することにより、中・低音域の吸音率が低下するといった不具合が生じることになり、音響振動板13の厚さが薄すぎると、板振動が過度に生じて、振動板自体の振動音(ビリツキ)が発生するといった不具合が生じることになる。
【0031】
また、多数の音響振動板13は、30〜100mmの間隔をおいて平行に配置されていることが好ましい。隣接する音響振動板13間の間隔が広すぎると、ランダムに配置される共鳴振動溝14の総数が少なくなり、拡散機能が低下してバランスの良い吸音が崩れるといった不具合が生じることになり、隣接する音響振動板13間の間隔が狭すぎると、各共鳴振動溝14の容積が減少することにより、溝の持つ共鳴周波数が中・高音域に移行し、中・高音域の吸音率が高まることで、バランスの良い吸音が崩れるといった不具合が生じることになる。
【0032】
さらに、多数の共鳴振動溝14は、0〜380mmの範囲でランダムな深さに形成されていることが好ましい。多数の共鳴振動溝14のランダムな深さの範囲が大きすぎると、居住スペースを圧迫しやすくなり、多数の共鳴振動溝14のランダムな深さの範囲が小さすぎると、低音域の拡散限界周波数が上昇することにより、低音域の拡散機能が低下し、且つ溝容積が小さくなることで、溝の共鳴周波数が高くなり、低音域の吸音効果が低下するといった不具合が生じることになる。
【0033】
さらにまた、吸音拡散体10が設置された枠体12の開口面12aは、居室部における壁11、天井21、床26を含む室内壁面の全体の面積の3〜50%の面積を占めるように設けられていることが好ましく、3〜25%面積を占めるように設けられていることが特に好ましい。吸音拡散体10が設置された枠体12の開口面12aの室内壁面に占める割合が大きすぎると、居住スペースを圧迫しやすくなり、吸音拡散体10が設置された枠体12の開口面12aの室内壁面に占める割合が小さすぎると、吸音拡散体10を設置した効果を十分に認識できなくなる場合がある。
【0034】
そして、上述の構成を有する本第1実施形態の音響を考慮した居室構造によれば、シュレーダ拡散体に改良を加えた吸音拡散体10を居室部の壁11に設置して用いることにより、周囲の室内壁面に過度の凹凸を設けることなく、低音域から高音域にわたって吸音率をバランス良く向上させて、音響効果に優れた居室空間を容易に形成することが可能になる。
【0035】
すなわち、本第1実施形態によれば、吸音拡散体10は、枠体12に多数の音響振動板13を所定の間隔をおいて平行に配置して構成され、多数の音響振動板13の間隔部分に、枠体12の開口面12aに向けて開口するランダムな深さを有する多数の共鳴振動溝14が形成されるので、シュレーダ拡散体と同様に、居室空間の音響上の拡散性を高めることが可能になると共に、ランダムな容積を有する多数の溝によって、低音域から高音域にわたるバランスの良いレゾネータ(共鳴器)としての機能を発揮することになる。また、共鳴振動溝14は、剛な材料で仕切られるのではなく、音響によって振動する音響振動板13によって仕切られているので、ランダムな深さの共鳴振動溝14を仕切る音響振動板13の板(膜)振動による吸音効果によって、ランダムな深さの共鳴振動溝14のレゾネータとしての吸音効果と相俟って、低音域から高音域にわって、バランス良く居室部の吸音率の向上を効果的に図ることが可能になり、これによって音響効果に優れた居室空間を容易に形成することが可能になる。
【0036】
図5は、本発明の好ましい第2実施形態に係る音響を考慮した居室構造の要部を示すものである。本第2実施形態によれば、上記第1実施形態の居室構造に用いた吸音拡散体10と同様の構成を有する一対の吸音拡散体10’が、居室部の天井21に埋設設置されて開口面12aを室内に向けて下方に開口させた枠体12に、多数の音響振動板13を平行に配置して取り付けることによって設けられている。本第2実施形態の居室構造によっても、吸音拡散体10’の作用によって、上記第1実施形態の居室構造と同様の効果を奏することになる。なお、本発明の居室構造は、吸音拡散体を居室部の床に設けて形成することもできる。
【0037】
図6は、本発明の好ましい第3実施形態に係る音響を考慮した居室構造の要部を示すものである。本第3実施形態によれば、吸音拡散体20は、図7及び図8に示すように、例えば段ボール紙22と発泡断熱材からなる棒状部材23とを用いて形成した、例えば縦400mm、横800mm、高さ265mm程度の大きさの直方体形状を有する吸音拡散体ユニット24を、居室部の壁11に複数積み重ねた状態で埋設設置することによって形成されている。
【0038】
本第3実施形態によれば、吸音拡散体ユニット24を形成するには、例えば縦400mm、横800mm程度の大きさの矩形平面形状を有する、厚さが3mm程度の段ボール紙22を音響振動板13として、これの表面に、例えば縦40mm、横30mm程度の大きさの矩形断面を有する発泡断熱材からなる棒状部材23を枠部材25及び奥部閉塞部材17として、接着剤等を用いて所定の位置に取り付ける(図7参照)。すなわち、例えば400mm程度の長さに裁断した棒状部材23を枠部材25として、段ボール紙22の両側の短辺に沿って取り付ける。また例えば740mm程度の長さに裁断した棒状部材23を奥部閉塞部材17として、両端面を両側の枠部材25の内側面に当接接合しつつ、音響振動板13の開口面12a側の端辺13aとなる段ボール紙22の一方の長辺22aから、平方剰余擬似ランダム配列によって得られた所定の長さ離れた位置に取り付ける。
【0039】
さらに、取り付けた枠部材25及び奥部閉塞部材17の上面を覆って上段の段ボール紙22を取り付け、同様の作業を繰り返して例えば6段に積み重ねることにより、各隣接する段ボール紙22による音響振動板13の間にランダムな深さの共鳴振動溝14が設けられた、軽量で且つ持ち運びや施工に適した大きさ及び形状を有する吸音拡散体ユニット24が容易に形成されることになる(図8参照)。
【0040】
そして、本第3実施形態では、居室部の壁11に隣接して設けた一対の開口凹部27に、吸音拡散体ユニット24を、嵌め込むようにしながら例えば上下に8段に積み重ねて取り付ける。これによって、段ボール紙22の側縁部を介在させつつ上下方向に連続して一体として配置された両側の多数の枠部材25と、最上部と最下部に配置された段ボール紙22とによる矩形形状の外殻部分を室内に向って開口面12aを開口させた枠体12として、この枠体12の内部に段ボール紙22による多数の音響振動板13を平行に配置してなる吸音拡散体20が、隣接する2箇所に設置されることになる。
【0041】
本第3実施形態の居室構造によっても、吸音拡散体20の作用によって、上記第1実施形態の居室構造と同様の効果を奏することになる。また吸音拡散体20の構成材料として吸音拡散体ユニット24を用いているので、吸音拡散体ユニット24を工場等において予め製造しておくことにより、施工現場における吸音拡散体20の組み付け作業を簡易且つ容易に行うことが可能になる。
【0042】
図9(a)〜(c)は、本発明の好ましい第4実施形態に係る音響を考慮した居室構造の要部を示すものである。本第4実施形態によれば、吸音拡散体30は、居室部の壁11や天井21に埋設設置して設けられるのではなく、居室部の壁11や天井21による壁面に背面部を沿わせるようにして取り付けられる、吸音拡散キャビネット31の内部に配置された状態で居室部に設けられている。すなわち、本第4実施形態では、吸音拡散キャビネット31は、図9(a)に示すように、前面が開口面32aとなった縦長直方体形状の枠体32の内部に、多数の音響振動板13を所定の間隔をおいて平行に配置してなる吸音拡散体30を設けることによって構成されている。また、枠体32の開口面32aとなった前面を覆って音響透過性を有するシート部材19が取り付けられており、多数の音響振動板13による吸音拡散体30を覆い隠して、吸音拡散キャビネット31をすっきりとして意匠性に優れたデザインとしている。
【0043】
本第4実施形態によれば、吸音拡散体30を備える吸音拡散キャビネット31を、図9(b),(c)に示すように、例えば居室部における壁11の入隅部分や、壁11と天井21との接合角部分に取り付けることにより、居室部の周囲の室内壁面に過度の凹凸を生じさせることなく、吸音拡散体30の作用によって、上記第1実施形態の居室構造と同様の効果を奏することになる。また吸音拡散体30を居室部の壁11や天井21に埋設設置して設ける必要はないので、建物が構築された後の例えば居室部のリフォーム時に、必要に応じて吸音拡散体30を適宜容易に設置したり撤去したりすることが可能になる。
【0044】
なお、本発明は上記各実施形態に限定されることなく種々の変更が可能である。例えば、多数の音響振動板は、枠体の開口面と垂直に交差する方向に平行に配置されている必要は必ずしも無く、枠体の開口面と斜めに交差する方向に配置されていても良い。また、吸音拡散体が設置される枠体は、前面が開口する直方体形状を備えている必要は必ずしも無く、例えば前面及び背面が開口する枠体であっても良い。室内に向って開口面が開口する枠体の開口面は、矩形状に開口している必要は必ずしも無く、その他の種々の形状に開口していても良い。さらに、多数の共鳴振動溝のランダムな深さは、平方剰余擬似ランダム配列によるランダムな深さである必要は必ずしも無い。
【実施例】
【0045】
以下、実施例及び比較例により、本発明の音響を考慮した居室構造をさらに詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0046】
〔実施例1〕
図1に示す上記第1実施形態の居室構造と略同様の構成を備える居室構造を実施例1の居室構造として、以下の方法によって、低音域から高音域での平均吸音率と残響時間とを測定し、吸音拡散体を設置しない状態で測定した居室部の平均吸音率及び残響時間と比較した。測定結果を図10に示す。なお、吸音拡散体を構成する多数の音響振動板として、上記第1実施形態の針葉樹製の合板に代えて、厚さ3mmのファルカータ合板を使用した。また、枠体の開口面の開口面積は1.54m2であり、居室部における壁、天井、床を含む室内壁面の全体の面積の3.2%の領域を占めていた。
【0047】
〔実施例2〕
吸音拡散体を構成する各音響振動板の両側縁部に、開口面側の端辺から奥部閉塞部材に至るまで切込みを形成したこと以外は、上記実施例1と同様の構成を備える居室構造を実施例2の居室構造として、以下の方法によって、低音域から高音域での平均吸音率と残響時間とを測定し、吸音拡散体を設置しない状態で測定した居室部の平均吸音率及び残響時間と比較した。測定結果を図11に示す。
【0048】
〔比較例1〕
上記第1実施形態と同様の6畳程度の広さの洋室を測定対象の居室部として、吸音材料を用いていない標準仕様の場合と、天井に多孔質型の吸音材料を取り付けた場合と、天井に多孔質型の吸音材料を取り付けると共に、壁の1面に2間の幅で多孔質型の吸音材料を取り付た場合と、天井に多孔質型の吸音材料を取り付けると共に、壁の対向する2面に2間の幅で多孔質型の吸音材料を取り付た場合について、以下の方法によって、低音域から高音域での平均吸音率を測定すると共に、これらを比較した。測定結果を図12に示す。なお、天井に取り付ける吸音材料として、商品名「オトテン」(大建工業株式会社製)を、壁に取り付ける吸音材料として、商品名「フェブエース(FAB−ACE)」(株式会社川島織物セルコン製)を使用した。
【0049】
〔平均吸音率と残響時間の測定方法〕
平均吸音率と残響時間の測定は、例えば図14に示すように、デジタル式残響測定器(YAMAHA AS−2)40と、マイクロフォン41と、アンプ内蔵スピーカ42とを用いて行う。まず、デジタル式残響測定器40によって計測した1/1オクターブ周波数帯域ごとの残響時間(音源停止後の音響エネルギー密度が定常状態の10-6倍(=−60dB)になるまでの時間)を求める。すなわち、デジタル式残響測定器40から信号を発生し、スピーカ42から出力させると共に、マイクロフォン41によって室内の数点で受音し、デジタル式残響測定器40によって各点の平均値を求める。63Hz〜8kHzの1/1オクターブ中心周波数の8帯域にて測定を行い、それぞれの測定点ごとに平均値の算出を行って居室部の残響時間とする。つぎに、求めた残響時間、居室部容積、室内壁面の全体の面積をセービンの残響式にあてはめて、平均吸音率を算出する。なお、この残響時間測定器の原理(インパルス逆積分法)も、M.R.シュレーダーの発案に基づくものである。
【0050】
図10〜図12に示す実施例1、実施例2、及び比較例1の平均吸音率の測定結果によれば、比較例1では、標準仕様に対して多孔質型の吸音材料を取り付けた仕様においては、63Hz及び125Hzの領域で平均吸音率の伸びが認められず、吸音率の向上にバランスを欠いていることが判明する。これに対し、実施例1及び実施例2では、吸音拡散体を設置しない仕様に対して吸音拡散体を設置した仕様においては、低音域から高音域にわたって全体的にバランス良く吸音率が向上していることが判明する。また、吸音拡散体の各音響振動板の両側縁部に切込みを形成した実施例2では、特に、従来の小規模空間では吸音率を向上させることが困難であった低音域の吸音率が効果的に向上していることが判明する。
【0051】
〔実施例3〕
図1に示す上記第1実施形態の居室構造と略同様の構成を備える居室構造を実施例3の居室構造として、上述の方法によって低音域から高音域での平均吸音率を測定することにより、吸音拡散体を構成する多数の音響振動板の相違による、吸音率の向上の変化を検証した。測定結果を図13に示す。なお、吸音拡散体を構成する多数の音響振動板として、ファルカータ合板、ダンボール板A、ダンボール板B、アクリル板、針葉樹合板A、針葉樹合板B、及びプラダンを使用し、吸音拡散体を設置しない状態で測定した居室部の平均吸音率と比較した。
【0052】
図13に示す実施例3の測定結果によれば、音響振動板として上記のいずれの材料を使用した場合でも、吸音率の向上は同程度となることが判明する。したがって、吸音拡散体による基本的な吸音性能は、音響振動板の材質よりも共鳴振動溝の形状に影響されるものと考えられる。すなわち、音響振動板の材質が変わっても、ランダムな深さを有する各共鳴振動溝の容積は変わらないことから、各共鳴振動溝が持っている固有の共鳴周波数に変化は無く、その共鳴周波数に対して音響振動板が板振動共鳴を起しているものと考えられる。なお、室内で声を出し、各音響振動板を指で触れると、声の高さに応じて、異なる深さを有する共鳴振動溝を仕切る音響振動板の一部が共振することが確認された。
【図面の簡単な説明】
【0053】
【図1】本発明の好ましい第1実施形態に係る音響を考慮した居室構造の構成を説明する要部斜視図である。
【図2】本発明の好ましい第1実施形態に係る音響を考慮した居室構造において、吸音拡散体を組み立てる状況を説明する要部拡大斜視図である。
【図3】図1のA−Aに沿った略示断面図である。
【図4】吸音拡散体を構成する音響振動板の両側縁部に切込みを形成した状態を説明する図3のB−Bに沿った略示断面図である。
【図5】本発明の好ましい第2実施形態に係る音響を考慮した居室構造の構成を説明する要部斜視図である。
【図6】本発明の好ましい第3実施形態に係る音響を考慮した居室構造の構成を説明する要部斜視図である。
【図7】本発明の好ましい第3実施形態に係る音響を考慮した居室構造において使用する、吸音拡散体を構成する吸音拡散体ユニットを組み立てる状況を説明する斜視図である。
【図8】吸音拡散体ユニットの斜視図である。
【図9】(a)は、吸音拡散キャビネットの斜視図、(a),(b)は、吸音拡散キャビネットを居室部に設置した本発明の好ましい第4実施形態に係る音響を考慮した居室構造の略示斜視図である。
【図10】実施例1における平均吸音率及び残響時間の測定結果を示すチャートである。
【図11】実施例2における平均吸音率及び残響時間の測定結果を示すチャートである。
【図12】比較例1における平均吸音率の測定結果を示すチャートである。
【図13】実施例3における平均吸音率の測定結果を示すチャートである。
【図14】平均吸音率と残響時間の測定に用いた装置の構成図である。
【0054】
10,10’,20,30 吸音拡散体
11 壁(室内壁面)
12,32 枠体
12a,32a 枠体の開口面
12b 枠体の側面
13 音響振動板
13a 音響振動板の開口面側の端辺
14 共鳴振動溝
15 奥部閉塞部材
16 帯板
17 案内支持溝
18 切込み
19 音響透過性を有するシート部材
21 天井
22 段ボール紙
23 発泡断熱材からなる棒状部材
24 吸音拡散体ユニット
25 枠部材
26 床
31 吸音拡散キャビネット

【特許請求の範囲】
【請求項1】
居室部を形成する壁、天井、又は床による室内壁面に、室内に向って開口面が開口する枠体を設け、該枠体に多数の音響振動板を所定の間隔をおいて配置してなる吸音拡散体が設置されている音響を考慮した居室構造であって、
前記多数の音響振動板は、前記開口面と交差する方向に平行に配置されることにより、前記吸音拡散体には、各隣接する音響振動板の間に前記開口面に向けて開口する共鳴振動溝が形成されており、
形成された多数の前記共鳴振動溝の内部には、奥部閉塞部材がランダムな深さ位置に設けられていて、多数の前記共鳴振動溝はランダムな深さを有している音響を考慮した居室構造。
【請求項2】
前記吸音拡散体の各音響振動板の両側縁部には、前記開口面側の端辺から溝の深さ方向に延設して切込みが形成されている請求項1に記載の音響を考慮した居室構造。
【請求項3】
前記吸音拡散体が設置された前記枠体の開口面を覆って、音響透過性を有するシート部材が取り付けられている請求項1又は2に記載の音響を考慮した居室構造。
【請求項4】
前記多数の音響振動板が、前記枠体の開口面と垂直に交差する方向に平行に配置されている請求項1〜3のいずれかに記載の音響を考慮した居室構造。
【請求項5】
前記多数の音響振動板は、2.5〜5.5mmの厚さの薄板部材からなる請求項1〜4のいずれかに記載の音響を考慮した居室構造。
【請求項6】
前記多数の音響振動板は、30〜100mmの間隔をおいて平行に配置されている請求項1〜5のいずれかに記載の音響を考慮した居室構造。
【請求項7】
前記多数の共鳴振動溝は、0〜380mmの範囲でランダムな深さに形成されている請求項1〜6のいずれかに記載の音響を考慮した居室構造。
【請求項8】
前記多数の共鳴振動溝のランダムな深さは、平方剰余擬似ランダム配列による深さである請求項1〜7のいずれかに記載の音響を考慮した居室構造。
【請求項9】
前記吸音拡散体が設置された前記枠体の開口面は、幅600〜2000mmの矩形形状に開口している請求項1〜8のいずれかに記載の音響を考慮した居室構造。
【請求項10】
前記吸音拡散体が設置された前記枠体の開口面は、前記居室部における室内壁面の全体の面積の
3〜50%の面積を占めるように設けられている請求項1〜9のいずれかに記載の音響を考慮した居室構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【公開番号】特開2010−1709(P2010−1709A)
【公開日】平成22年1月7日(2010.1.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−163615(P2008−163615)
【出願日】平成20年6月23日(2008.6.23)
【出願人】(000183428)住友林業株式会社 (540)
【Fターム(参考)】