説明

音響システム

【課題】環境の相違に適応した音響特性制御を行うことができる音響システムを提供することである。
【解決手段】音響システムは、音声信号を出力する音声信号源手段1と、この音声信号源手段1から出力された音声信号に処理を施し、複数の処理後音声信号を出力する信号処理手段2と、複数の処理後音声信号を増幅する増幅手段4〜7と、増幅された複数の処理後音声信号のそれぞれに基づく音を出力する複数のスピーカ8〜11と、複数のスピーカ8〜11から出力される音を収集する音声収集手段12とを有し、信号処理手段2が、音声収集手段12による収集音に基づいて、聴取位置における音響特性を最適化するように音声信号の処理内容を決定する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば、車載ネットワークに複数の音響機器を接続することによって構成される音響システムに関し、特に、聴取位置における音響特性を最適化するように調整することができる音響システムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
車載音響システムとして、音響機器(例えば、CDプレーヤ)で再生された音声信号に、車室内の音場を勘案した信号処理を施し、各スピーカから信号処理を施された音声信号に基づく音声を出力させるものがある。しかし、一般的に、音声信号に施される信号処理は、ユーザー毎の車室環境に詳細に適応するものではなく、予め用意されたデータパターンの中から選択されデータに基づく処理であったり、又は、聴取者自身が手動で音響特性を調整したりするものであった。
【0003】
また、ユーザーの要求に応じて、車室内の音響特性を外部のデータ配信センターへ送信し、データ配信センターから配信されるデータを用いることにより、ユーザー毎の車室環境に対して柔軟に対応できるシステムの提案もある(例えば、特許文献1参照)。
【0004】
さらに、車載ネットワークの欧州規格であるMOST(Media Oriented Systems Transport)規格に準拠した車載ネットワーク(光ネットワーク)をベースとして構築されたシステムにおいて、接続されたA/V機器の作動方法に関して提案する文献(特許文献2参照)もあるが、この文献には、車載ネットワークをベースとした音響特性の制御に関する開示はない。
【0005】
【特許文献1】特開2003−91290号公報
【特許文献2】特開2001−223718号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、従来の音響システムは、音声信号に信号処理を施す場合に、予め用意されたデータパターンに基づく内容の処理を行ったり、又は、聴取者自身が手動で音響特性を調整したりする方法を採用しており、ユーザー毎の車室環境に詳細に適応する信号処理を行うものではなかった。また、データ配信センターから配信されるデータを用いる方法では、外部との通信を要することから時間がかかり、また、外部との通信のための機器によって装置が大型かつ高価になるという問題もあった。
【0007】
そこで、本発明は、上記したような従来技術の課題を解決するためになされたものであり、その目的は、環境の相違に適応した音響特性制御を行うことができる音響システムを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の音響システムは、音声信号を出力する音声信号源手段と、前記音声信号に処理を施し、複数の処理後音声信号を出力する信号処理手段と、前記複数の処理後音声信号のそれぞれに基づく音を出力する複数のスピーカ手段と、前記複数のスピーカ手段から出力される音を収集する音声収集手段とを有し、前記信号処理手段が、前記音声収集手段による収集音に基づいて、前記音声信号の処理内容を決定することを特徴としている。
【発明の効果】
【0009】
本発明の音響システムによれば、音声収集手段によって収集された音に基づいて、前記信号処理手段による音声信号の処理内容を決定するので、環境の相違に適応した音響特性制御を行うことができるという効果がある。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
実施の形態1.
図1は、本発明の実施の形態1に係る音響システムの構成を示すブロック図である。図1に示されるように、実施の形態1に係る音響システムは、音声信号源手段1と、信号処理手段2と、伝送媒体3と、信号増幅手段4〜7と、信号増幅手段4〜7に接続されたスピーカ8〜11と、音声収集手段12と、音声収集手段12に接続されたマイク13とを有している。
【0011】
音声信号源手段1は、例えば、CDプレーヤ等の再生装置であり、デジタル信号フォーマットの音声信号を出力する。信号処理手段2は、音声信号源手段1から出力された音声信号に信号処理を加えて、複数の処理後音声信号をそれぞれ複数の系統へ出力する。信号増幅手段4〜7は、信号処理手段2から出力される複数の処理後音声信号のうち、それぞれ自己に割り当てられた信号を受け取って増幅し、増幅されたそれぞれの信号をスピーカ8〜11に出力する。
【0012】
音声収集手段12は、マイク13により取得された音に基づいてマイク13から出力された音声信号を、デジタル信号フォーマットの音声信号として出力する。
【0013】
伝送媒体3は、例えば、MOST規格に準拠した光ネットワークである。伝送媒体3には、音声信号源手段1、信号処理手段2、信号増幅手段4〜7、及び音声収集手段12が接続されている。音声信号源手段1から信号処理手段2へ、音声収集手段12から信号処理手段2へ、信号処理手段2から信号増幅手段4〜7へ、伝送媒体3を介して各種の信号が伝送される。
【0014】
図2は、実施の形態1に係る音響システムを自動車30に適用した場合(すなわち、車載音響システム)におけるスピーカ8〜11とマイク13の位置を示す図である。図2に示される例においては、自動車30室内の前方(フロント)31にスピーカ8,9が配置され、後方(リア)32にスピーカ10,11が配置され、後部左側座席(後部座席33の左列)にマイク13が配置されている。マイク13の位置は、音響特性の測定点を示しており、後部左側座席において最適なリスニング環境を得ようとするものである。音響特性の補正方法としては、各スピーカ8〜11と聴取位置との距離差に起因する、音の到達時間のズレによる弊害を補正するタイムアライメント手法と、車室内に生ずる定在波に起因する周波数特性の非平坦性を補正するイコライザ手法などが一般的である。したがって、実施の形態1における信号処理手段2の働きとしては、タイムアライメント手法及びイコライザ手法を用いる場合について説明する。ただし、本発明は、これらの手法に限定されるものではない。また、スピーカ8〜11の位置及び台数、並びに、マイク13の位置及び台数は、図示の例に限定されない。
【0015】
図2の場合において、車室内の各スピーカ8〜11と聴取位置に相当するマイク13との距離はそれぞれ異なるため、各スピーカ8〜11から出力された音がマイク13に到達するまでの時間(到達時間)は異なる。タイムアライメント手法では、聴取位置における音の到達時間の早いチャンネルの音声信号を遅延させ、各スピーカ8〜11からの音の到達時間が聴取位置において均等になるように補正する。例えば、図2の距離関係で言えば、スピーカ11からの音、スピーカ10からの音、スピーカ9からの音、スピーカ8からの音の順にマイク13へ到達するので、スピーカ8からの音の到達時間に合わせるように、スピーカ11、スピーカ10、及びスピーカ9のそれぞれに入力される音声信号を遅延させる。
【0016】
図3は、実施の形態1に係る音響システムの信号処理手段2の構成を示すブロック図である。図3に示されるように、信号処理手段2は、伝送媒体3との信号授受を担うインターフェース回路(以下「I/F回路」と記す。)2aと、測定用の基準音声信号Sを発生する信号発生回路2bと、基準音声信号Sと音声信号源1からの元音声信号Sとの切り替えを行うセレクト回路2cは、音声収集手段12からのマイク音声信号Sに基づいて元音声信号Sに処理を加える処理回路2dとを有している。I/F回路2aは、音声信号源手段1から伝送される元音声信号Sを伝送媒体3から取り出してセレクト回路2cへと出力し、音声収集手段12から伝送されるマイク音声信号Sを処理回路2dへと出力する。さらに、I/F回路2aは、処理回路2dから出力される4系統の処理後音声信号S,S,S,Sを、信号増幅手段4〜7に対応させて伝送媒体3へと出力する。
【0017】
図4は、音声信号源手段1、信号増幅手段4、及び音声収集手段12の構成を示すブロック図である。図4に示されるように、音声信号源手段1は、音声信号源1aと、I/F回路1bとから構成される。また、音声収集手段12は、マイク13からの入力信号をデジタル信号フォーマットに変換するA/D回路12aと、I/F回路12bとから構成される。さらに、信号増幅手段4は、I/F回路4aと、増幅回路4bとから構成される。信号増幅手段5〜7のそれぞれは、信号増幅手段4と同じ構成を持つ。各手段内のI/F回路1b,4b,12bは、信号処理手段2のI/F回路2aと同様に、伝送媒体3に対する信号の受け渡しを行う。
【0018】
図5(a)〜(j)は、実施の形態1に係る音響システムの信号処理手段2においてタイムアライメント手法に基づく処理を行う場合の動作を説明するための波形図である。図5(a)及び(f)は、測定用インパルス信号(基準音声信号S)を示し、図5(b)〜(e)は、タイムアライメント処理前のスピーカ8〜11出力によるマイク収集音信号を示し、図5(g)〜(j)は、タイムアライメント処理後のスピーカ8〜11出力によるマイク収集音信号を示している。
【0019】
タイムアライメント処理の手順は、最初に各スピーカ8〜11から出力された音がマイク13に到達するまでの時間(到達時間)及び到達時間差を求め、到達時間が最も遅い経路(各スピーカ8〜11からマイク13までの経路)に合わせるように、各スピーカ8〜11に対応する音声信号に遅延を与える処理を行う。到達時間差を求める動作時において、信号発生回路2bは処理回路2dの指示に基づき、タイムアライメント手法用のインパルス信号(図5(a))を発生する。この時、セレクト回路2cは、測定用インパルス信号(基準音声信号)Sを選択し、処理回路2dへと出力する。処理回路2dは、処理後音声信号の経路に対して各スピーカ8〜11に対応して順次測定用インパルス信号Sを出力し、それぞれマイク音声収集信号からスピーカ8〜11毎の到達時間を測定する。図5(b)〜(e)は、タイムアライメント処理前に測定した到達時間の差を示している。なお、図5(a)〜(j)に示される波形は、簡便化のために同様のインパルス波形として描かれているが、実際には、車室内の反射波などの影響により、図5(b)〜(e),(g)〜(j)の波形は異なっている。しかし、一般的に、直接波が最も早く到達するので、測定信号波形の先頭の立ち上がりエッジで到達時間を判定すれば、反射波等の影響を受けない。したがって、図5(a)〜(j)における時間Tb,Tc,Td,Teはスピーカ8〜11出力の到達時刻を示している。スピーカ8〜11出力の到達時刻の差、すなわち、到達時間差は、図2に示されるように、各スピーカ8〜11からマイク13までの最短経路(距離)に対応する。
【0020】
このようにしてスピーカ8〜11毎に求められた到達時間差に基づき、処理回路2dにおいて各スピーカ8〜11に対応した音声信号に時間遅延を与え、図5(g)〜(j)のタイムアライメント処理後のスピーカ8〜11出力によるマイク収集音信号のように、スピーカ8〜11出力の到達時刻が補正される。処理内容が確定すれば、セレクト回路2cの選択により音声信号源手段1からの元音声信号が処理回路2dに入力され、タイムアライメント処理を施した通常動作へと移行する。
【0021】
図6(a)〜(c)は、実施の形態1に係る音響システムの信号処理手段2においてイコライザ手法に基づく処理を行う場合の動作を説明するためのグラフである。イコライザ手法に基づく処理を行う信号処理手段2の構成は、タイムアライメント手法に基づく処理を行う信号処理手段2と同様に図3であり、信号発生回路2b及び処理回路2dによる動作内容がタイムアライメント手法からイコライザ手法に置き換わるだけである。
【0022】
イコライザ手法に基づく処理の手順は、最初に各スピーカ8〜11からの音についてオクターブバンドパスフィルタにより個別に周波数特性を求め、各周波数特性のピーク又はディップの周波数及びゲインを検出し、それぞれの周波数特性が平坦化するように補正する。各スピーカ8〜11による周波数特性を求める動作時において、信号発生回路2aは処理回路2dの指示に基づき、イコライザ手法用のピンクノイズ信号を発生する。ピンクノイズは、図6(a)に示すように、スペクトルレベルは−3dB/octの(すなわち、周波数が2倍になる毎に、3dBずつレベルが下がる)傾きを持っており、高周波数ほどレベルが下がる特性をしている。ピンクノイズ信号をオクターブバンドパスフィルタで測定すると、図6(b)に示すように、どのオクターブでもエネルギーが均一となる性質があるので、ピンクノイズ信号は、測定用信号として一般的に使用されている。図6(c)はスピーカ8〜11の一つからピンクノイズを発した場合に、マイク13で収集されたマイク音声信号を処理回路2dにおいて、オクターブバンドパスフィルタで測定した周波数特性を示している。車室内に生ずる定在波に起因する周波数特性の非平坦性が生じ、例えば、破線で示したような周波数特性となる。このピークやディップの周波数とゲインを検出し、例えば、事前に用意した補正テーブルに基づいてピークやディップを平坦化するIIR(Infinite Impulse Response)型デジタルフィルタ係数を求め、音声信号にこのフィルタ処理を行い、周波数特性を補正する。図6(c)の実線が補正後の特性であり、周波数特性が平坦化するように補正されている。
【0023】
図7は、実施の形態1に係る音響システムの処理手順を示すフローチャートである。動作開始時点においては、まず、ユーザーは、補正係数の測定モードに入るか否か操作をする(ステップST1)。測定モードに入る場合には、ユーザーは、タイムアライメント処理の補正係数を測定するのか、イコライザ処理の補正係数を測定するのかの操作をする(ステップST2)。
【0024】
タイムアライメント処理の補正係数の測定を行う場合には、スピーカ8〜11出力音声のマイク13への到達時間を順次測定し(ステップST3−ST6)、それぞれの遅延時間を判定する(ステップST7)。誤検出の影響を少なくするため、ステップST3−ST7の測定及び判定を複数回(N回)繰り返して平均化し(ステップST8)、タイムアライメント補正係数を決定する(ステップST9)。
【0025】
イコライザ処理の補正係数の測定を行う場合には、スピーカ8〜11出力音声について各周波数特性のピーク又はディップの周波数及びゲインを測定し(ステップST10−ST13)、それぞれ周波数特性分析する(ステップST14)。誤検出の影響を少なくするため、ステップST10−ST14の測定及び判定を複数回(N回)繰り返して平均化し(ステップST15)、イコライザ補正係数を決定する(ステップST16)。
【0026】
このようにして測定モード終了後、タイムアライメント処理及び/又はイコライザ処理に移行する(ステップST1)。信号処理手段2においては通常動作として音声信号源手段1からの元音声信号Sに対して、測定結果(タイムアライメント補正係数及びイコライザ補正係数)に基づくタイムアライメント処理及び/又はイコライザ処理を施し(ステップST17,ST18)、各処理後音声信号S,S,S,Sを各信号増幅手段4〜7へ出力する。
【0027】
なお、以上の例では、信号処理手段2内に信号発生回路2bを設けて、この信号発生回路2bが測定用の基準音声信号Sを発生する構成として説明したが、信号発生回路2bを信号処理手段2の外部(例えば、音声信号源手段1や信号増幅手段4〜7の中)に設け、信号処理手段2から信号発生動作を制御する構成としてもよい。
【0028】
以上に説明したように、実施の形態1に係る音響システムによれば、環境の相違に適応した音響特性制御を行うことができる。また、イコライザ処理を行う場合、各車室内に実現される音響特性の均一化を図ることができる。さらに、音声収集のための基準音声信号発生動作と音声収集動作を、連携して行わせる構成とすることにより、音響特性調整の自動化を図ることもできる。
【0029】
また、信号処理手段2による処理機能を独立させずに、信号処理手段2を音声信号源手段1に含める構成としてもよい。
【0030】
図8は、実施の形態1に係る音響システムの信号増幅手段4における増幅回路4bとしてD級増幅器を用いた構成例を示すブロック図である。信号増幅手段5〜7は、信号増幅手段4と同様の構成を有している。図8に示されるように、増幅回路4bは、I/F回路4aからの音声信号にノイズシェーピング処理を施してPWM信号(パルス幅変調信号)に変換するPWM変換4b1と、PWM信号に基づいてスイッチング動作を行うパワードライバ4b2と、PWMキャリアを取り除いてアナログ音声信号によりスピーカ8を駆動するLCフィルタ4b3とを有している。D級増幅器は、小型高効率であり、クロスオーバー歪のない高音質出力を得られることにより普及しつつあるが、出力段がスイッチング動作であるために、強い高周波雑音がスピーカ駆動線に重畳する問題がある。したがって、本構成のように車載ネットワークを介してスピーカ側に信号増幅手段4〜7を配することにより、スピーカ駆動線を最短化することができ、D級増幅器の特長を生かしつつ、不要輻射の発生を低減できる。
【0031】
実施の形態2.
図9は、本発明の実施の形態2に係る音響システムの構成を示すブロック図である。図9に示されるように、実施の形態2に係る音響システムは、音声信号源手段1と、信号処理手段2と、伝送媒体3と、信号増幅/音声収集処理手段14〜17と、信号増幅/音声収集処理手段14〜17に接続されたスピーカ8〜11と、信号増幅/音声収集処理手段14〜17に接続されたマイク18〜21とを有している。信号増幅/音声収集手段14は、I/F回路14aと、増幅回路14bと、A/D回路14cとから構成されている。他の信号増幅/音声収集手段15〜17は、信号増幅/音声収集手段14と同様の構成を有している。
【0032】
図10は、実施の形態2に係る音響システムを自動車40に適用した場合(すなわち、車載音響システム)におけるスピーカ8〜11とマイク18〜21の位置を示す図である。図10に示される例においては、自動車40室内の前方(フロント)41にスピーカ8,9及びマイク18,19が配置され、後方(リア)42にスピーカ10,11及びマイク20,21が配置され、後部左側座席(後部座席42の左列)が聴取位置22である。図10はフロントとリアの各2系統のスピーカ及びマイクを用いる例である。図の表示上、マイク18〜21がスピーカ8〜11に対してそれぞれ車室の内側に記載しているが、この位置関係に限定するものではなく、通常は、それぞれが車室のフロント及びリアの四隅に配置されている。マイク18〜21の位置は、実施の形態2における音響特性の測定点を示しており、後部左側座席の聴取位置22と測定点とが異なる位置である点が、上記実施の形態1と相違する。言い換えれば、実施の形態2は、測定点(マイク位置)とは異なる位置である聴取位置22において最適なリスニング環境を得ようとするものである。実施の形態2における音響特性の補正方法は、基本的に、実施の形態1の場合と同様である。
【0033】
図11〜図14は、実施の形態2に係る音響システムにおいて、聴取位置22におけるタイムアライメント手法による補正を行う場合についての説明図である。図11〜図14においては、説明の簡略化のためにマイク18〜21と同じ位置にスピーカ8〜11があると仮定し、マイク18〜21のみを記載している。聴取位置22は、図11〜図14において左上に描かれているマイク18を原点として座標(X,Y)で表している。
【0034】
図11は、スピーカ8〜11から順次測定用インパルス信号に基づく音を出力し、マイク21により到達時間を測定する場合を示している。図11において、A21はスピーカ8からマイク21までの最短経路(距離又は経路長とも言う。)、B21はスピーカ9からマイク21までの最短経路、C21はスピーカ10からマイク21までの最短経路である。スピーカ11からマイク21までの最短経路D11は、スピーカ11とマイク21とが重なるので図示していない。また、図11において、Aはスピーカ8から聴取位置22までの最短経路(距離又は経路長とも言う。)、Bはスピーカ9から聴取位置22までの最短経路、Cはスピーカ10から聴取位置22までの最短経路である。スピーカ8〜11から出力され経路A21、B21、C21、D21を通りマイク21に到達するまでの到達時刻をそれぞれ、TA21、TB21、TC21、TD21とする。ここで、TD21は、実質的に信号処理手段2から出力される測定用インパルス信号Sが各スピーカ8〜11から音として出力されるまでの時間と、音がマイク21で取り込まれて信号処理手段2に到達するまでの時間との和とみなせるので、実質的な音の到達時間は次式(1)〜(3)のようになる。
経路A21の到達時間=TA21−TD21 (1)
経路B21の到達時間=TB21−TD21 (2)
経路C21の到達時間=TC21−TD21 (3)
また、式(1)〜(3)と音速Vから各経路長A21、B21、C21を求めることができる。
【0035】
さらに、スピーカ8〜11から聴取位置までの経路長A、B、Cは次式(4)〜(6)のようになる。
=√(X+Y) (4)
=√(X+(C21−Y)) (5)
=√((B21−X)+Y) (6)
【0036】
したがって、聴取位置における各経路A、B、Cの到達時間は次式(7)〜(9)のようになる。
経路Aの到達時間=(A/A21)*(TA21−TD21) (7)
経路Bの到達時間=(B/B21)*(TB21−TD21) (8)
経路Cの到達時間=(C/C21)*(TC21−TD21) (9)
【0037】
図12は、スピーカ8〜11より順次測定用インパルス信号に基づく音を出し、マイク20により到達時間を測定する場合を示している。図12において、A20はスピーカ8からマイク20までの最短経路(距離又は経路長とも言う。)、B20はスピーカ9からマイク20までの最短経路、D20はスピーカ11からマイク20までの最短経路である。スピーカ10からマイク20までの最短経路C20は、スピーカ10とマイク20とが重なるので図示していない。また、図12において、Aはスピーカ8から聴取位置22までの最短経路(距離又は経路長とも言う。)、Bはスピーカ9から聴取位置22までの最短経路、Dはスピーカ11から聴取位置22までの最短経路である。スピーカ8〜11から出力され経路A20、B20、D20を通りマイク20に到達するまでの到達時刻をそれぞれ、TA20、TB20、TC20、TD20とする。ここで、TD20は、実質的に信号処理手段2から出力される測定用インパルス信号が各スピーカ8〜11から音として出力されるまでの時間と、音がマイク21で取り込まれて信号処理手段2に到達するまでの時間との和とみなせるので、実質的な音の到達時間は次式(10)〜(12)のようになる。
経路A20の到達時間=TA20−TC20 (10)
経路B20の到達時間=TB20−TC20 (11)
経路D20の到達時間=TD20−TC20 (12)
また、式(1)〜(3)と音速Vから各経路長A20、B20、D20を求めることができる。
【0038】
さらに、スピーカ8〜11から聴取位置までの経路長A、B、Dは次式(13)〜(15)のようになる。
=√(X+Y) (13)
=√(X+(D20−Y)) (14)
=√((A20−X)+(D20−Y)) (15)
【0039】
したがって、聴取位置における各経路A、B、Dの到達時間は次式(16)〜(18)のようになる。
経路Aの到達時間=(A/A20)*(TA20−TC20) (16)
経路Bの到達時間=(B/B20)*(TB20−TC20) (17)
経路Dの到達時間=(D/D20)*(TD20−TC20) (18)
【0040】
図13は、スピーカ8〜11より順次測定用インパルス信号に基づく音を出し、マイク19により到達時間を測定する場合を示している。図13において、A19はスピーカ8からマイク19までの最短経路(距離又は経路長とも言う。)、C19はスピーカ10からマイク19までの最短経路、D19はスピーカ11からマイク19までの最短経路である。スピーカ9からマイク19までの最短経路B19は、スピーカ9とマイク19とが重なるので図示していない。また、図13において、Aはスピーカ8から聴取位置までの最短経路(距離又は経路長とも言う。)、Bはスピーカ9から聴取位置までの最短経路、Dはスピーカ11から聴取位置までの最短経路である。スピーカ8〜11から出力され経路A19、B19、C19、D19を通りマイク20に到達するまでの到達時刻をそれぞれ、TA19、TB19、TC19、TD19とする。ここで、TD19は、実質的に信号処理手段2から出力される測定用インパルス信号が各スピーカ8〜11から音として出力されるまでの時間と、音がマイク21で取り込まれて信号処理手段2に到達するまでの時間との和とみなせるので、実質的な音の到達時間は次式(19)〜(21)のようになる。
経路A19の到達時間=TA19−TB19 (19)
経路C19の到達時間=TC19−TB19 (20)
経路D19の到達時間=TD19−TB19 (21)
また、式(19)〜(21)と音速Vから各経路長A19、C19、D19を求めることができる。
【0041】
したがって、聴取位置における各経路A、C、Dの到達時間は次式(22)〜(24)のようになる。
=√(X+Y) (22)
=√((D19−X)+Y) (23)
=√((D19−X)+(A19−Y)) (24)
【0042】
したがって、聴取位置における各経路A、C、Dの到達時間は次式(25)〜(27)のようになる。
経路Aの到達時間=(A/A19)*(TA19−TB19) (25)
経路Cの到達時間=(C/C19)*(TC19−TB19) (26)
経路Dの到達時間=(D/D19)*(TD19−TB19) (27)
【0043】
図14は、スピーカ8〜11より順次測定用インパルス信号に基づく音を出し、マイク18により到達時間を測定する場合を示している。図14において、B18はスピーカ9からマイク18までの最短経路(距離又は経路長とも言う。)、C18はスピーカ10からマイク18までの最短経路、D18はスピーカ11からマイク18までの最短経路である。スピーカ8からマイク18までの最短経路B18は、スピーカ8とマイク18とが重なるので図示していない。また、図14において、Bはスピーカ9から聴取位置22までの最短経路(距離又は経路長とも言う。)、Cはスピーカ10から聴取位置22での最短経路、Dはスピーカ11から聴取位置22までの最短経路である。スピーカ8〜11から出力され経路A18、B18、C18、D18を通りマイク18に到達するまでの到達時刻をそれぞれ、TA18、TB18、TC18、TD18とする。ここで、TA18は、実質的に信号処理手段2から出力される測定用インパルス信号が各スピーカ8〜11から音として出力されるまでの時間と、音がマイク21で取り込まれて信号処理手段2に到達するまでの時間との和とみなせるので、実質的な音の到達時間は次式(28)〜(30)のようになる。
経路B18の到達時間=TB18−TA18 (28)
経路C18の到達時間=TC18−TA18 (29)
経路D18の到達時間=TD18−TA18 (30)
また、式(28)〜(30)と音速Vから各経路長B18、C18、D18を求めることができる。
【0044】
したがって、聴取位置における各経路A、C、Dの到達時間は次式(31)〜(33)のようになる。
=√(X+(B18−Y)) (31)
=√((C18−X)+Y) (32)
=√((C18−X)+(B18−Y)) (33)
【0045】
したがって、聴取位置における各経路B、C、Dの到達時間は次式(34)〜(36)のようになる。
経路Bの到達時間=(B/B18)*(TB18−TA18) (34)
経路Cの到達時間=(C/C18)*(TC18−TA18) (35)
経路Dの到達時間=(D/D18)*(TD18−TA18) (36)
【0046】
以上のように図11から図14までに示された測定により、例えば、スピーカ8から聴取位置22までの経路Aの到達時間は、式(7)、(16)、(25)の各式で求まり、求められた値を平均化するなどして聴取位置22におけるスピーカ8からの到達時間を決定できる。他についても、同様に求めることができる。これらに基づくタイムアライメント補正は、実施の形態1の場合と同様である。
【0047】
イコライザ処理についても同様に、図10の各スピーカ8〜11より発したピンクノイズに基づいて、各マイク18〜21において個別に音声収集し、オクターブバンドパスフィルタで測定した周波数特性を求める。その結果、各マイクの測定点における周波数特性が求まり、各点における周波数特性の非平坦性を補正するためのフィルタ係数を決定できる。聴取位置22に対しては、例えば、近い測定点の補正内容を高く重み付けして(例えば、経路長に反比例して重み付けする等して)、各測定点の補正内容を合成するなどの方法が適用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0048】
【図1】本発明の実施の形態1に係る音響システムの構成を示すブロック図である。
【図2】実施の形態1に係る音響システムを自動車に適用した場合の構成の配置を示す図である。
【図3】実施の形態1に係る音響システムの信号処理手段の構成を示すブロック図である。
【図4】実施の形態1に係る音響システムの音声信号源手段、信号増幅手段、及び音声収集手段の構成を示すブロック図である。
【図5】(a)〜(j)は、実施の形態1に係る音響システムの信号処理手段においてタイムアライメント処理を行う場合の動作を説明するための信号波形図である。
【図6】(a)〜(c)は、実施の形態1に係る音響システムの信号処理手段においてイコライザ処理を行う場合の動作を説明するためのグラフである。
【図7】実施の形態1に係る音響システムの動作を示すフローチャートである。
【図8】実施の形態1に係る音響システムの信号増幅手段における増幅回路としてD級増幅器を用いた構成を示すブロック図である。
【図9】本発明の実施の形態2に係る音響システムの構成を示すブロック図である。
【図10】実施の形態2に係る音響システムを自動車に適用した場合の構成の配置を示す図である。
【図11】実施の形態2に係る音響システムの信号処理手段においてタイムアライメント処理を行う場合の動作説明図(その1)である。
【図12】実施の形態2に係る音響システムの信号処理手段においてタイムアライメント処理を行う場合の動作説明図(その2)である。
【図13】実施の形態2に係る音響システムの信号処理手段においてタイムアライメント処理を行う場合の動作説明図(その3)である。
【図14】実施の形態2に係る音響システムの信号処理手段においてタイムアライメント処理を行う場合の動作説明図(その4)である。
【符号の説明】
【0049】
1 音声信号源手段、 2 信号処理手段、 3 伝送媒体、 4〜7 信号増幅手段、 8〜11 スピーカ、 12 音声収集手段、 13 マイク、 14〜17 信号増幅/音声収集手段、 18〜21 マイク、 22 聴取位置。



【特許請求の範囲】
【請求項1】
音声信号を出力する音声信号源手段と、
前記音声信号に処理を施し、複数の処理後音声信号を出力する信号処理手段と、
前記複数の処理後音声信号のそれぞれに基づく音を出力する複数のスピーカ手段と、
前記複数のスピーカ手段から出力される音を収集する音声収集手段と
を有し、
前記信号処理手段が、前記音声収集手段による収集音に基づいて、前記音声信号の処理内容を決定する
ことを特徴とする音響システム。
【請求項2】
前記信号処理手段は、基準音声信号を発生する信号発生手段を含み、
前記音声収集手段が収集する音は、前記基準音声信号に基づいて前記複数のスピーカ手段から出力される音である
ことを特徴とする請求項1に記載の音響システム。
【請求項3】
前記信号処理手段に基準音声信号が入力され、
前記音声収集手段が収集する音は、前記基準音声信号に基づいて前記複数のスピーカ手段から出力される音である
ことを特徴とする請求項1に記載の音響システム。
【請求項4】
前記音声収集手段により収集される音は、聴取位置における音であり、
前記信号処理手段は、前記音声収集手段により収集される音に基づいて、前記聴取位置における音響特性を最適化する
ることを特徴とする請求項1から3までのいずれかに記載の音響システム。
【請求項5】
前記音声収集手段を複数有し、
前記信号処理手段は、前記複数の音声収集手段により収集される音に基づいて、聴取位置における音響特性を最適化する
ことを特徴とする請求項1から3までのいずれかに記載の音響システム。
【請求項6】
前記信号処理手段から出力された複数の処理後音声信号を増幅する複数の信号増幅手段をさらに有し、
前記複数のスピーカ手段から出力される音は、前記増幅された複数の処理後音声信号に基づく音である
ことを特徴とする請求項1から5までのいずれかに記載の音響システム。
【請求項7】
信号を伝送する伝送媒体をさらに有し、
前記音声信号源手段、前記信号処理手段、前記音声収集手段、及び前記信号増幅手段が、前記伝送媒体に接続されている
ことを特徴とする請求項6に記載の音響システム。
【請求項8】
前記信号処理手段が、前記音声信号源手段の一部として構成されたことを特徴とする請求項1から7までのいずれかに記載の音響システム。
【請求項9】
前記信号増幅手段が、D級増幅器を含むことを特徴とする請求項1から8までのいずれかに記載の音響システム。
【請求項10】
当該音響システムが自動車に搭載されたシステムであることを特徴とする請求項1から9までのいずれかに記載の音響システム。
【請求項11】
前記伝送媒体は、MOST規格に準拠した車載ネットワークであることを特徴とする請求項7に記載の音響システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【公開番号】特開2006−267534(P2006−267534A)
【公開日】平成18年10月5日(2006.10.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−85389(P2005−85389)
【出願日】平成17年3月24日(2005.3.24)
【出願人】(000006013)三菱電機株式会社 (33,312)
【Fターム(参考)】