説明

音響制御装置、及び、音響制御装置の制御方法

【課題】イコライザの数の増大を抑えながら、複数のチャンネルの音声信号を、より所望の特性に近くなるよう調整できるようにする。
【解決手段】車両10に搭載され、車両10の室内で出力される複数のチャンネルの音声信号を、音声信号の周波数特性を調整する複数のパラメトリックイコライザを用いて調整する音声出力装置1は、各々のパラメトリックイコライザをいずれかのチャンネルの音声信号に割り当てて、各チャンネルの音声信号を調整させ、各チャンネルの出力音量のバランスが設定された場合に、設定された各チャンネルの出力音量のバランスに基づいて、各チャンネルに割り当てるパラメトリックイコライザの数を変更する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複数のチャンネルの音声信号を制御する音響制御装置、及び、音響制御装置の制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、音声信号の周波数特性を調整するイコライザを利用して、音声信号を所望の特性に調整する方法が知られており、複数のイコライザを用いて一つの音声信号を調整することも知られている(例えば、特許文献1参照。)。特許文献1に開示された構成では、複数のパラメトリックイコライザを直列に接続した場合の、各イコライザの特性値の最適な組合せを求めて、所望の周波数特性を得ようとしている。
【特許文献1】特開2007−259061号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
上記のように複数のイコライザを組み合わせることにより、より所望の特性に近づくように音声信号を調整することが可能である。しかしながら、2chステレオ音声等のように複数のチャンネルの音声信号を処理する場合に、全チャンネルに対して十分な数のイコライザを用意しようとすれば、多数のイコライザが必要になってしまう。この場合、要求されるハードウェアの能力が格段に高くなるので、部品点数の増加や回路構成の複雑化を招き、小型化が困難になる等の問題が生じる。
そこで、本発明の目的は、イコライザの数の増大を抑え、複数のチャンネルの音声信号を、より所望の特性に近くなるよう調整できるようにすることにある。
【課題を解決するための手段】
【0004】
上記課題を解決するため、本発明は、移動体に搭載され、前記移動体の室内で出力される複数のチャンネルの音声信号を制御する音響制御装置において、音声信号の周波数特性を調整する複数のイコライザと、各々の前記イコライザをいずれかのチャンネルの音声信号に割り当てる割当制御手段と、前記割当制御手段によって割り当てられた前記イコライザの設定を行って、各チャンネルの音声信号を調整させるイコライザ設定手段と、各チャンネルの出力音量のバランスを設定する音量バランス設定手段と、を備え、前記割当制御手段は、前記音量バランス設定手段により設定された各チャンネルの出力音量のバランスに基づいて、各チャンネルに割り当てる前記イコライザの数を変更すること、を特徴とする音響制御装置を提供する。
この構成によれば、移動体において出力される複数のチャンネルの音声信号に対し、複数のイコライザを割り当てて、音声信号を調整して出力することができ、さらに、各チャンネルに割り当てるイコライザの数を、各チャンネルの音量バランスに基づいて変更する。このため、イコライザを全チャンネルに一律に割り当てるのではなく、個々のチャンネルの音量バランスに応じて分配するので、移動体に搭乗中の聴取者に対して影響の大きいチャンネルに多くのイコライザを割り当てる等、イコライザを効果的に配分できる。これにより、限られた数のイコライザを効果的に使って、複数のチャンネルの音声信号を、より所望の特性に近くなるよう調整できる。
【0005】
上記構成において、前記割当制御手段は、出力音量が大きいチャンネルに対しては割り当てる前記イコライザの数を増加させ、出力音量が小さいチャンネルに対しては割り当てる前記イコライザの数を減少させるものとしてもよい。
この場合、より音量が大きく、移動体に搭乗している聴取者にとって重要度が大きいチャンネルに多くのイコライザを割り当てて、音声信号の調整の自由度を増すことで、音声信号を、より所望の特性に近くなるよう調整できる。また、音量が小さいチャンネルは聴感上の影響が小さいため、割り当てるイコライザの数が少なくても、聴取者が違和感を覚えることがない。これにより、限られた数のイコライザを効果的に使って、複数のチャンネルの音声信号を、より所望の特性に近くなるよう調整できる。
【0006】
さらに、上記構成において、各々のチャンネルの音声信号は、前記移動体の室内に配置された複数のスピーカの各々に対応しており、前記音量バランス設定手段は、前記移動体の室内に配置された複数のスピーカからの出力音量のバランスを設定するものとしてもよい。
この場合、各チャンネルの音声信号が移動体の室内におけるスピーカに対応しているため、設定される各チャンネルの音量バランスは、各チャンネルの位置関係を反映しており、この音量バランスは移動体に搭乗している聴取者にとっての重要度と強い相関を有する。このため、各チャンネルの音量バランスに基づいて、割り当てるイコライザの数を変更することで、より効果的に、限られた数のイコライザによる音声信号の調整を行える。
【0007】
また、上記構成において、前記割当制御手段は、一つのチャンネルに割り当てる前記イコライザの数を減少させる場合には、当該チャンネルに割り当てられている全ての前記イコライザのうち、最も音声信号の周波数特性への影響が小さい前記イコライザから順に、割り当てを解除するものとしてもよい。
この場合、イコライザの数が減少するチャンネルの音声信号の周波数特性の変化を小さく抑えることにより、音声信号の急激な変化を起こさないように、割り当てるイコライザを減少させることができる。このため、イコライザの数が変化する際の音声信号の変化を抑え、聴取者に不自然な印象を与えることなく、イコライザの配分を最適化できる。
【0008】
また、上記構成において、前記割当制御手段は、一つのチャンネルに割り当てる前記イコライザの数を増加させる場合には、当該チャンネルに新たに割り当てる全ての前記イコライザの周波数特性をフラットな特性に設定してから、割り当てを行うものとしてもよい。
この場合、イコライザを増加させる前後で音声信号の周波数特性が変化しないので、聴取者に不自然な印象を与えることなく、イコライザの配分を最適化できる。
【0009】
さらに、上記構成において、前記音量バランス設定手段により設定された各チャンネルの出力音量のバランスと、このバランスに基づいて前記割当制御手段により変更された各チャンネルに割り当てる前記イコライザの数と、を対応づけて記憶する記憶手段を備え、前記割当制御手段は、前記音量バランス設定手段により各チャンネルの出力音量のバランスが設定された場合に、このバランスに対応づけて前記記憶手段に記憶された数に従って、各チャンネルに割り当てる前記イコライザの数を変更するものとしてもよい。
この場合、設定された音量バランスと、各チャンネルに割り当てられるイコライザの数とが対応づけて記憶され、音量バランスが設定された場合に、過去に変更されたイコライザの数が読み出されて設定が行われるので、音量のバランスに基づくイコライザの数の変更を速やかに行うことが可能となり、また、イコライザ数の割当状態に関して再現性を持たせることができる。
【0010】
また、本発明は、移動体に搭載され、前記移動体の室内で出力される複数のチャンネルの音声信号を、音声信号の周波数特性を調整する複数のイコライザを用いて調整する音響制御装置を制御して、各々の前記イコライザをいずれかのチャンネルの音声信号に割り当てて、各チャンネルの音声信号を調整させ、各チャンネルの出力音量のバランスが設定された場合に、設定された各チャンネルの出力音量のバランスに基づいて、各チャンネルに割り当てる前記イコライザの数を変更すること、を特徴とする音響制御装置の制御方法を提供する。
この方法によれば、移動体において出力される複数のチャンネルの音声信号に対し、複数のイコライザを割り当てて音声信号を調整して出力する場合に、各チャンネルに割り当てるイコライザの数を、各チャンネルの音量バランスに基づいて変更するので、移動体に搭乗中の聴取者に対して影響の大きいチャンネルに多くのイコライザを割り当てる等、イコライザを効果的に配分できる。これにより、限られた数のイコライザを効果的に使って、複数のチャンネルの音声信号を、より所望の特性に近くなるよう調整できる。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、各チャンネルに割り当てるイコライザの数を調整することで、限られた数のイコライザを効果的に使い、複数のチャンネルの音声信号を、より所望の特性に近くなるよう調整できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、本発明の好適な実施の形態について、図面を参照して説明する。
図1は、本発明を適用した音声出力装置1の設置環境を説明する図である。
本実施の形態の音声出力装置1は、移動体の一例としての車両10において車室内に設置される複数のスピーカ2から音声を出力させる。
スピーカ2は、車両10の車室内の前部において左右1個ずつ、後部において左右1個ずつ、合計4個設置されており、乗員が着座する運転席11、座席12、13の位置に対応している。上記4個のスピーカ2の位置を、以後の説明では、フロント右側(FR)、フロント左側(FL)、リア右側(RR)、リア左側(RL)と呼ぶ。
車両10は、4チャンネルの音声信号を処理する機能を備え、各チャンネルの音声を4個のスピーカ2からそれぞれ出力する。
【0013】
図2は、音声出力装置1の機能的構成を示すブロック図である。
この図2に示すように、音声出力装置1は、4チャンネルの音声信号を処理するDSP(Digital Signal Processor)5を備えている。DSP5は、内蔵するデジタルフィルタによって音声信号の周波数特性をチャンネル毎に調整し、調整後の音声信号を出力する。
また、音声出力装置1は、CDプレーヤ、MDプレーヤ、ラジオチューナ等の音楽ソース3と、いずれかの音楽ソース3を選択して、この音楽ソース3が出力したデジタル音声信号をDSP5へ出力する音声信号出力部4と、DSP5が出力したデジタル音声信号をアナログ音声信号に変換してスピーカ2へ出力するD/A(Digital / Analogue)変換部6と、を備えている。
【0014】
DSP5は、音声信号出力部4から入力されたデジタル音声信号を調整するイコライザ部51(割当制御手段)と、このイコライザ部51の周波数特性を決める係数(パラメータ)を設定するフィルタ係数設定部52(イコライザ設定手段)と、フィルタ係数設定部52が設定した係数等を記憶する設定記憶部53(記憶手段)と、フィルタ係数設定部52に対して各チャンネルに割り当てるバンド数を指定するチャンネル別バンド数算出部54と、フィルタ係数設定部52に対して各バンドの係数を指定するフィルタ係数保持部55と、を備えている。
イコライザ部51は、複数のパラメトリックイコライザ(イコライザ)を有し、この複数のパラメトリックイコライザにより各チャンネルの音声信号の周波数特性を調整する。
【0015】
図3は、イコライザ部51の構成を模式的に示す図である。
イコライザ部51が有する複数のパラメトリックイコライザは、DSP5によってソフトウェアの機能により実現されるデジタルフィルタである。DSP5がソフトウェアを実行することにより、パラメトリックイコライザが設定されると、各々のパラメトリックイコライザに対してDSP5が備えるメモリ領域(図示略)が分割されて割り当てられる。
図3には、イコライザ部51が24個のパラメトリックイコライザPEQ1〜24を備えた場合を例示する。この例では、24個のパラメトリックイコライザPEQ1〜24が、4つのチャンネルに均等に割り当てられており、1チャンネルの音声信号を6個のパラメトリックイコライザPEQによって調整する。
例えば、フロント右(FR)のスピーカ2から出力されるチャンネルの音声信号FRは、パラメトリックイコライザPEQ1〜6によって周波数特性が調整され、調整後の音声信号FRがD/A変換部6に出力される。同様に、フロント左(FL)のスピーカ2から出力されるチャンネルの音声信号FLは、パラメトリックイコライザPEQ7〜12によって周波数特性が調整され、リア右(RR)のスピーカ2から出力されるチャンネルの音声信号RR、リア左(RL)のスピーカ2から出力されるチャンネルの音声信号RLも、それぞれ6個のパラメトリックイコライザPEQ13〜18、PEQ19〜24によって調整され、D/A変換部6に出力される。
各チャンネルに割り当てられたパラメトリックイコライザは直列に接続され、各チャンネルの音声信号は直列接続された6個のパラメトリックイコライザによって多重の調整が行われる。
【0016】
図4は、パラメトリックイコライザによる周波数特性の調整を説明する図であり、図4(A)はパラメトリックイコライザの係数と周波数特性の対応を示し、図4(B)は調整前の音声信号の周波数特性の例を示し、図4(C)はパラメトリックイコライザの周波数特性の例を示し、図4(D)は調整後の音声信号の周波数特性の例を示す。
図4(A)には、一例として、3つのパラメトリックイコライザを直列に接続して用いる場合を示し、各パラメトリックイコライザの周波数特性を3つのバンドB1,B2,B3の波形として示す。
この図4(A)に示すように、各バンドの波形すなわち周波数特性は、ゲイン(G)、中心周波数(F)、Qカーブ(先鋭度)の3つの係数(パラメータ)で決定される。
ゲインは、図中に示すように、各バンドの波形のピーク値のゲインを指す。図中の例では0デシベルから上のゲインの値を指しているが、ゲインを負の値に設定して、特定周波数のゲインを低下させることも可能である。この場合、バンドの波形は下向きのピークを持つ波形となる。中心周波数は、各バンドのピーク部分の中心の周波数を指す。このピーク部分とそれ以外とを区分するゲインのしきい値は、任意である。
Qカーブは、波形が頂部を有する曲線を描く場合に、この頂部の帯域幅(f)とゲイン(g)の比を示し、下記式(1)に従って求められる。
Q=g/f ・・・(1)
バンドB1は中心周波数(F)が低周波数域に位置し、バンドB2は中心周波数(F)が中周波数域に位置し、バンドB3は中心周波数(F)が高周波数域にある。このため、各バンドB1〜B3の波形を音声信号の低、中、高周波数の各帯域に合わせて設定することにより、音声信号の周波数特性を、低周波数帯域から高周波数帯域まできめ細かく調整できる。
【0017】
図4(B)に示す音声信号W1の周波数特性を、図4(C)に示すバンドB1〜B3に従って調整すると、調整後の音声信号W2の波形は、例えば図4(D)に示すようにフラットな波形となる。一つのバンドのみによって一つの音声信号の周波数特性をフラットにすることは難しいが、複数のバンドB1〜B3を用いることで、音声信号W1の周波数特性を、低周波数帯域から高周波数帯域にわたって、図4(D)に示すようなフラットに近い特性に変更できる。
このように、複数のパラメトリックイコライザを用いて一つの音声信号を調整する場合には、各バンドの中心周波数をずらして設定することで、可聴周波数帯域を分割した各帯域を個々のバンドにより調整できる。この方法では、一つの音声信号に対して使用するパラメトリックイコライザが多いほど、狭い周波数帯域を一つのバンドで調整することになるため、音声信号の周波数特性を、所望の特性により近づけることができる。
【0018】
図3に示す例では、24個のパラメトリックイコライザPEQ1〜24を、均等に6個ずつ4チャンネルの音声信号FR、FL、RR、RLに割り当てているが、音声出力装置1は、各チャンネルに任意の数のパラメトリックイコライザを割り当てることができる。なお、以下の説明において、パラメトリックイコライザの数をバンド数と呼び、各チャンネルへのパラメトリックイコライザの割当数を割当バンド数と呼ぶ。
図2に示すように、DSP5には入力部7が接続されている。入力部7は、音声出力装置1を収容する本体(図示略)に設けられたスイッチ類やタッチパネル等により構成され、ユーザの操作を受け付ける。
また、音声出力装置1は、DSP5の制御に従って各種画面を表示する表示部8を備えている。
【0019】
入力部7は、パラメトリックイコライザの係数を入力するフィルタ係数入力部71と、4チャンネルの音声信号の出力音量バランスを入力するフェダー・バランス入力部72(音量バランス設定手段)とを備えている。
フィルタ係数入力部71には、イコライザ部51が有する個々のパラメトリックイコライザに対して係数が入力される。
また、フェダー・バランス入力部72には、フェダー(フロント−リア間の音量バランス)、及び、バランス(左右間の音量バランス)が入力される。
本実施の形態の入力部7では、フィルタ係数入力部71及びフェダー・バランス入力部72は、表示部8が有する表示画面に重畳配置されたタッチパネルにより実現される。入力部7は、表示部8の表示画面に接触する操作が行われた場合に、この操作位置に表示中の内容に基づいて操作内容を特定し、この操作内容を示す操作信号をDSP5に出力する。
フィルタ係数入力部71は、例えば、表示部8の表示画面に、設定対象のパラメトリックイコライザを選択する選択指示部と、選択したパラメトリックイコライザの計数を入力するテンキー等の数値入力部とを表示し、これらに対する接触操作を検出する構成が挙げられる。
【0020】
図5は、フェダー・バランス入力部72の具体的な構成例を示す図である。
この例では、フェダー・バランス入力部72の入力を行う場合、表示画面80に、フェダー及びバランスを指定するバランス入力部81及び方向指示部82が表示される。バランス入力部81は2次元の直交座標平面からなり、一方の軸はフェダーすなわちフロント(Front)−リア(Rear)間の音量バランスを示し、他方の軸はバランスすなわち右(Right)−左(Left)間の音量バランスを示す。
バランス入力部81の座標平面上に接触操作が行われると、この接触操作がタッチパネルにより検出され、その操作位置の座標が入力値となる。フェダー・バランス入力部72は、接触位置の座標と、バランス入力部81における表示画像とに基づいて、入力された値を特定する。バランス入力部81における操作位置には設定値シンボル85が表示される。このバランス入力部81を用いれば、1回の操作でフェダー及びバランスの両方を入力できる。
図5の例で表示画面80に表示された設定値シンボル85は、中心位置(原点)より上に3、右に2の座標にある。図5の例では上下の軸が前後の音量バランスを示し、左右の軸が左右の音量バランスを示しているから、この設定値シンボル85は、フロントのチャンネルがリアのチャンネルよりも音量が3段階大きく、右側のチャンネルが左側のチャンネルよりも音量が2段階大きくなるような設定状態に相当する。
【0021】
方向指示部82には、バランス入力部81における方向(フロント、リア、右、左)を指定するための4つの矢印記号が配置されており、各矢印記号の操作によって、対応する方向の音量が1段階ずつ増すよう入力できる。
また、表示画面80には、バランス入力部81又は方向指示部82の操作により入力されたバランスの値及びフェダーの値を示す設定値表示部86が表示される。バランスの値及びフェダーの値は、音量バランスが均等である状態を0(ゼロ)として、+又は−の値で表現される。バランスの設定値は、左右の音量バランスが均等の場合に0となり、右のチャンネルの音量が大きく設定された場合は+の数値となり、左のチャンネルの音量が大きく設定された場合は−の数値となる。フェダーの設定値は、前後の音量バランスが均等の場合に0となり、前のチャンネルの音量が大きく設定された場合は+の数値となり、後のチャンネルの音量が大きく設定された場合は−の数値となる。
【0022】
音声出力装置1は、フェダー・バランス入力部72により入力されたフェダー及びバランスの設定値に基づいて、フロント右、フロント左、リア右、リア左の各チャンネルへの割当バンド数を決める。
図6は、各チャンネルの割当バンド数を算出する際に用いるテーブルの構成例を示す図であり、図6(A)はフェダー設定値と割当バンド数の増減との対応を定めたテーブルを示し、図6(B)はバランス設定値と割当バンド数の増減との対応を定めたテーブルを示す。この図6(A)及び(B)に例示するテーブルは、例えば、DSP5が備えるメモリに記憶されており、チャンネル別バンド数算出部54によって読み出される。
【0023】
上記のように本実施の形態ではフェダー・バランスの設定値を、音量バランスが均等である状態を0(ゼロ)とした+又は−の値で表現するので、図6(A)及び図6(B)に示すテーブルでは、フェダー・バランスの設定値に対し、割当バンド数の増減量を対応づけている。
図6(A)の例では、フェダーの設定値が+4から−4まで9段階で設定可能な場合に、これら9段階の設定値に対応して、フロント側の2個のスピーカ2に対応する2チャンネルの割当バンド数の増減量と、リア側の2個のスピーカ2に対応するチャンネルの割当バンド数の増減量とが対応づけられている。具体的には、フェダー設定値が+4の場合、フロントの左右各チャンネルの割当バンド数が2ずつ増加し、リアの左右各チャンネルの割当バンド数が2ずつ減少するよう設定されている。また、例えばフェダー設定値が+1〜−1の場合、割当バンド数の増減は0(ゼロ)である。
【0024】
また、図6(B)の例では、バランスの設定値が+4から−4まで9段階で設定可能な場合に、これら9段階の設定値に対応して、右側の2個のスピーカ2に対応する2チャンネルの割当バンド数の増減量と、左側の2個のスピーカ2に対応する2チャンネルの割当バンド数の増減量とが対応づけられている。具体的には、バランス設定値が+4の場合、フロント及びリアの右側のチャンネルの割当バンド数が2ずつ増加し、フロント及びリアの左側のチャンネルの割当バンド数が2ずつ減少するよう設定されている。また、例えばバランス設定値が+1〜−1の場合、割当バンド数の増減は0(ゼロ)である。
【0025】
図6(A)及び(B)の例では、フェダーの設定値が、フロント側の音量を大きくする値である場合に、フロント側のチャンネルの割当バンド数を増加させ、リア側の音量を大きくする値である場合にはリア側のチャンネルの割当バンド数を増加させる。また、バランスの設定値が、右側の音量を大きくする値であれば右側のチャンネルの割当バンド数を増加させ、左側の音量を大きくする値であれば左側のチャンネルの割当バンド数を増加させる。
このように、より音量が大きくなるチャンネルに、多くのパラメトリックイコライザを割り当てることにより、より高音質の音声を聴取できるようになるという利点がある。
【0026】
上述のように、音声信号の周波数特性を調整する場合には、割当バンド数が多いほど調整の自由度が高く、所望の特性により近づくように調整できる。しかしながら、音声出力装置1のような装置に搭載可能なパラメトリックイコライザの数は限られており、全てのチャンネルの割当バンド数を、十分な数にすることは困難である。そこで、本実施の形態の音声出力装置1は、フェダー及びバランスの設定がなされた場合に、他のチャンネルよりも大きな音量で出力される音声信号に対して、より多くのパラメトリックイコライザを割り当てるよう、割当バンド数を変更する。
【0027】
音声信号の周波数特性は、音量が大きいほど顕著に現れるので、周波数特性の調整が不十分であった場合には、調整しきれなかった特性に起因する違和感が、音量に比例して強く感じられる。反対に、音量が小さいほど、周波数特性の違いを感じにくくなる。
また、車両10の車室内に配置された4個のスピーカ2のうち、音量が小さくなるよう設定されたスピーカ2の近くには、人が着座していない可能性が高い。このため、音量が小さくなるよう設定されたチャンネルの音声信号の重要度は低く、このチャンネルの割当バンド数が少なくても、違和感を惹起する可能性は低い。反対に、音量が大きくなるよう設定されたスピーカ2の近くには、人が着座している可能性が高く、このスピーカ2に対応するチャンネルの音声信号の重要度は高い。
従って、音量が大きくなるように設定されたチャンネルにより多くのパラメトリックイコライザを割り当てて、周波数特性を十分に調整できるようにすれば、限られた数のパラメトリックイコライザを有効に活用して、所望の特性に近い音声を出力させることができ、興趣性、快適性を高めることができる。
【0028】
このため、入力部7のフェダー・バランス入力部72によってフェダー及びバランスの設定値が入力されると、チャンネル別バンド数算出部54(図2)は、この入力値に従って図6(A)及び(B)に例示したテーブルを、DSP5のメモリ(図示略)から読み出して、FR、FL、RR、RLの各チャンネルの割当バンド数を算出し、算出した割当数をフィルタ係数設定部52に出力する。フィルタ係数設定部52は、チャンネル別バンド数算出部54から入力された割当バンド数に従って、例えば図3に示した24個のパラメトリックイコライザPEQ1〜24の割当状態を変更する。
【0029】
そして、各チャンネルに割り当てられたパラメトリックイコライザに対し、フィルタ係数入力部71によってパラメータが入力されると、DSP5のフィルタ係数保持部55が、入力されたパラメータを取得し、取得したパラメータをパラメトリックイコライザ毎にフィルタ係数設定部52に出力する。
フィルタ係数設定部52は、フィルタ係数保持部55から入力されるパラメータを、各チャンネルに割り当てられたパラメトリックイコライザに設定する。
【0030】
ここで、フィルタ係数設定部52は、各チャンネルの割当バンド数、及び、各パラメトリックイコライザに設定されたパラメータを、フェダー・バランス入力部72により入力されたフェダーとバランスの設定値に対応づけて、設定記憶部53に記憶させる。
設定記憶部53は、DSP5が備えるメモリの一部領域を用いて構成され、フェダーとバランスの設定値の組合せに対応づけて、各チャンネルの割当バンド数、及び、各パラメトリックイコライザに設定したパラメータが、フィルタ係数設定部52によって読み出し可能な形態で記憶する。
チャンネル別バンド数算出部54は、図6(A)及び(B)に例示したテーブルに基づいて算出した割当バンド数とともに、フェダー・バランス入力部72により設定されたフェダー及びバランスの設定値を、フィルタ係数設定部52に出力し、フィルタ係数設定部52は、このフェダー及びバランスの設定値に対応づけて設定記憶部53に記憶された割当バンド数及びパラメータを読み出すことができる。
設定記憶部53は、フェダー及びバランスの設定値の組合せに対応づけて一通りの割当バンド数及びパラメータを記憶するものとしてもよいし、一つのフェダー及びバランスの設定値の組合せに対し、複数の割当バンド数及びパラメータを記憶してもよい。本実施の形態では、一つの設定値に対して一通りの割当数及びパラメータを記憶するものとする。
【0031】
図7は、音声出力装置1の動作を示すフローチャートである。
音声出力装置1のDSP5は、フェダー・バランス入力部72によってフェダー又はバランスの設定値が変更され、変更後の設定値がチャンネル別バンド数算出部54により取得されるまで待機する(ステップS11)。フェダーまたはバランスのいずれかの設定値が変更されると(ステップS11;Yes)、DSP5は、変更後の設定値に対応する割当バンド数及びパラメータを、設定記憶部53に記憶しているか否かを判別する(ステップS12)。ここで、対応する変更後の設定値に対応する割当バンド数及びパラメータを設定記憶部53に記憶していない場合(ステップS12;No)、DSP5は、チャンネル別バンド数算出部54の機能によって、各チャンネルの割当バンド数を算出する(ステップS13)。
【0032】
続いて、DSP5は、チャンネル別バンド数算出部54によって算出された割当バンド数が、現在の(図7の処理前の)割当バンド数を変更する値であるか否かを判別する(ステップS14)。図6(A)及び(B)に例示したように、フェダーとバランスの設定値が変更されても、割当バンド数が変更されるとは限らないからである。
割当バンド数が変更される場合(ステップS14;Yes)、DSP5は、フィルタ係数設定部52の機能によって表示部8を制御し、割当バンド数が変更される旨のメッセージを表示部8の表示画面上に表示させる(ステップS15)。
さらに、DSP5は、イコライザ部51が備えるパラメトリックイコライザPEQ1〜24の割当状態を変更する再構成処理を実行する(ステップS16)。
【0033】
その後、DSP5は、再構成後のパラメトリックイコライザに対してフィルタ係数入力部71によりパラメータが入力されたか否かを判別し(ステップS17)、パラメータが入力された場合は(ステップS17;Yes)、入力されたパラメータを取得して、フィルタ係数設定部52の機能により各パラメトリックイコライザにパラメータを設定し(ステップS18)、各チャンネルの割当バンド数と、各パラメトリックイコライザに設定されているパラメータとを、フェダー及びバランスの設定値に対応づけて設定記憶部53により記憶し(ステップS19)、本処理を終了する。ステップS17でパラメータが入力されなかった場合には、そのままステップS19に移行して設定状態を記憶する。
さらにまた、フィルタ係数設定部52の機能により算出した割当バンド数が現在の設定状態と変わらない場合(ステップS14;No)、DSP5は、本処理を終了する。
【0034】
一方、DSP5は、フェダー・バランス入力部72により設定されたフェダー及びバランスの設定値に対応づけて、設定記憶部53に、各チャンネルの割当バンド数と、各パラメトリックイコライザに設定されているパラメータとを記憶している場合(ステップS12;Yes)、この記憶している値を使用するか否かを判別する(ステップS20)。この判別は、例えば、事前に設定された内容に基づいて判別するか、或いは、記憶している値を使用するか否かの入力を求めるメッセージを表示部8の表示画面に表示させ、この表示に応じて入力部7により入力される内容に従う。
設定記憶部53に記憶している値を使用しない場合(ステップS20;No)、DSP5は、ステップS13に移行して上記処理を実行する。
【0035】
また、設定記憶部53に記憶している値を使用する場合、DSP5は、設定記憶部53から各チャンネルの割当バンド数と、各パラメトリックイコライザのパラメータとを読み出し(ステップS21)、読み出した割当バンド数及びパラメータが、現在の設定状態と異なるか否かを判別する(ステップS22)。
ここで、割当バンド数及びパラメータが現在の設定状態と変わらない場合(ステップS22;No)、DSP5は本処理を終了する。
一方、割当バンド数及びパラメータが現在の設定状態とは異なる場合(ステップS22;Yes)、DSP5は、表示部8を制御して、設定状態が変更される旨のメッセージを表示部8の表示画面上に表示させ(ステップS23)、本処理を終了する。
【0036】
図8は、割当バンド数算出処理(図7:ステップS13)を詳細に示すフローチャートである。
この図8に示すように、DSP5のチャンネル別バンド数算出部54は、フェダー・バランス入力部72により入力されたバランスの設定値を取得し(ステップS31)、取得した設定値と、図6(A)及び(B)に例示したテーブルとに基づいて、各チャンネルの割当バンド数の増減値を算出する(ステップS32)。
続いて、チャンネル別バンド数算出部54は、フェダー・バランス入力部72により入力されたフェダーの設定値を取得し(ステップS33)、取得した設定値と、図6(A)及び(B)に例示したテーブルとに基づいて、各チャンネルの割当バンド数の増減値を算出する(ステップS34)。
【0037】
その後、チャンネル別バンド数算出部54は、バランスの設定値に基づいて算出した各チャンネルの割当バンド数の増減値と、フェダーの設定値に基づいて算出した各チャンネルの割当バンド数の増減値とを合算し、各チャンネルの割当バンド数の増減値を算出する(ステップS35)。その後、チャンネル別バンド数算出部54は、現在の各チャンネルの割当バンド数を、ステップS35で算出した値に従って増減させることで、各チャンネルの割当バンド数を算出する(ステップS36)。
これにより、フェダーの設定値と、バランスの設定値との両方を加味して、各チャンネルの割当バンド数を適切な値に変更できる。
なお、この図8に示す割当バンド数算出処理では、ステップS35で算出した全チャンネルの割当バンド数の増減値が0(ゼロ)であって、結果として割当バンド数が変化しないこともあり得る。
また、上記の例において、算出された割当バンド数の減少値と、現在の割当バンド数とを比較し、割当バンド数が0になってしまう場合には、割当バンド数の増減値を調整する処理を行ってもよい。この処理は、例えば、割当バンド数が0になってしまうチャンネルについて、割当バンド数の減少値を1減らし、その分、割当バンド数の増加値が大きいチャンネルの増加値を1減らすことで、実現される。
【0038】
図9は、イコライザ部51の再構成処理(図7:ステップS16)を詳細に示すフローチャートである。
この再構成処理は、各チャンネルの割当バンド数を、チャンネル別バンド数算出部54による割当バンド数算出処理(図8)によって算出された割当バンド数に変更するため、各チャンネルに割り当てられたパラメトリックイコライザを別のチャンネルに割り当てる処理である。
イコライザ部51は、まず、割当バンド数が減少することとなったチャンネルの処理を行う。イコライザ部51は、チャンネル別バンド数算出部54により算出された割当バンド数に基づいて、割当バンド数が減少することになったチャンネルの中から一つのチャンネルを、処理対象として選択する(ステップS41)。
【0039】
イコライザ部51は、処理対象として選択したチャンネルに割り当てられている複数のパラメトリックイコライザ各々に設定されているパラメータを取得し(ステップS42)、各バンドの波形が作り出す領域の面積を算出する(ステップS43)。この領域は、各バンドの波形(図4(A)の実線)と0デシベル(dB)のライン(図4(A)の破線)とで囲まれる領域である。
続いて、イコライザ部51は、処理対象のチャンネルについて割当バンド数の減少数を取得し、この減少数に相当するパラメトリックイコライザを、面積の小さいパラメトリックイコライザから順に選択し(ステップS44)、選択したパラメトリックイコライザを、処理対象のチャンネルに割り当てられた状態から外す(ステップS45)。これにより、処理対象のチャンネルについては、割当バンド数が減少する。
【0040】
ステップS42〜S45の処理では、あるチャンネルに割り当てられたパラメトリックイコライザの割り当てを解除する際に、波形が作り出す領域の面積が小さいパラメトリックイコライザから順に解除する。
処理対象のチャンネルからパラメトリックイコライザの割り当てを解除すると、そのチャンネルの音声信号を調整していたパラメトリックイコライザが消滅することになるので、音声信号の周波数特性が変化する可能性がある。しかしながら、波形が作り出す領域の面積が小さいパラメトリックイコライザは、ピークが小さい、或いはゲインが小さいということができ、音声信号の周波数特性に与える影響が比較的小さいと考えることができる。従って、波形が作り出す領域の面積が小さいパラメトリックイコライザから順に、割り当て状態から外すことで、割当バンド数を減らす際の音声信号の周波数特性への影響を抑えることができる。
そして、ステップS45でチャンネルへの割り当てが解除されたパラメトリックイコライザは、どのチャンネルにも割り当てられていない、準備状態となる。
【0041】
続いて、イコライザ部51は、割当バンド数が減少する全てのチャンネルについて処理が終了したか否かを判別し(ステップS46)、まだ処理されていないチャンネルがある場合は、割当バンド数が減少するチャンネルから、別のチャンネルを処理対象として選択し(ステップS47)、ステップS42に戻る。
一方、割当バンド数が減少する全てのチャンネルについて処理が終了した場合、イコライザ部51は、割当バンド数が増加することとなったチャンネルの処理を行う。イコライザ部51は、チャンネル別バンド数算出部54により算出された割当バンド数に基づいて、割当バンド数が増加することになったチャンネルの中から一つのチャンネルを、処理対象として選択する(ステップS48)。
【0042】
イコライザ部51は、処理対象のチャンネルについて割当バンド数の増加数を取得し、この増加数に相当するパラメトリックイコライザを、準備状態のパラメトリックイコライザから選択する(ステップS49)。イコライザ部51は、選択したパラメトリックイコライザの周波数特性がフラットになるよう、パラメータを設定し(ステップS50)、このパラメトリックイコライザを処理対象のチャンネルに割り当てる(ステップS51)。
ここで、イコライザ部51は、割当バンド数が増加する全てのチャンネルについて処理が終了したか否かを判別し(ステップS52)、まだ処理されていないチャンネルがある場合は、ステップS48に戻って別のチャンネルを処理対象として選択する。また、割当バンド数が増加する全てのチャンネルについて処理が終了した場合、イコライザ部51は、本処理を終了する。
【0043】
以上のように、本発明を適用した実施の形態に係る音声出力装置1によれば、車両10の室内で出力される複数のチャンネルの音声信号を制御する際に、音声信号の周波数特性を調整する複数のパラメトリックイコライザを有するイコライザ部51により、各パラメトリックイコライザをいずれかのチャンネルの音声信号に割り当て、フィルタ係数設定部52により、各パラメトリックイコライザにパラメータを設定して音声信号を調整させ、フェダー・バランス入力部72の入力に従って、各チャンネルの出力音量のバランスが設定された場合に、各チャンネルの出力音量のバランスに基づいて、各チャンネルの割当バンド数の増減値をチャンネル別バンド数算出部54によって算出し、この算出した増減値に従って、イコライザ部51によって、各チャンネルの割当バンド数を変更する。
【0044】
これにより、パラメトリックイコライザを全チャンネルに一律に割り当てるのではなく、個々のチャンネルの音量バランスに応じて分配することで、車両10に搭乗中の聴取者に対して影響の大きいチャンネルに多くのパラメトリックイコライザを割り当てる等、パラメトリックイコライザを効果的に配分できる。これにより、限られた数のパラメトリックイコライザを効果的に使って、複数のチャンネルの音声信号を、より所望の特性に近くなるよう調整できる。
すなわち、音声出力装置1は、出力音量が大きいチャンネルに対しては割当バンド数を増加させ、出力音量が小さいチャンネルに対しては割当バンド数を減少させる。従って、より音量が大きく、車両10に搭乗している聴取者にとって重要度が大きいチャンネルには多くのパラメトリックイコライザを割り当てられ、音声信号の調整の自由度が増すので、音声信号を、より所望の特性に近くなるよう調整できる。さらに、音量バランスが大きいチャンネルでは、音声信号の周波数特性の差異やずれが目立ちやすいが、このチャンネルに多くのパラメトリックイコライザを割り当てれば、自由な調整が可能になり、聴取者(ユーザ)に音声信号の特性のずれ等を感じさせない。
また、音量が小さいチャンネルは聴感上の影響が小さいため、割当バンド数が少なくても、聴取者が違和感を覚えることがない。
これにより、限られた数のパラメトリックイコライザを効果的に使って、複数のチャンネルの音声信号を、より所望の特性に近くなるよう調整できる。
【0045】
また、音声出力装置1は、車両10の室内に設置された4つのスピーカ2に対応する4チャンネルの音声信号の音量バランスに基づいて、各チャンネルに対する割当バンド数を変更する。各チャンネルの音量バランスは、車両10におけるスピーカ2の位置に関する重要性、すなわち搭乗している聴取者とスピーカ2との位置関係に相関しており、例えば、車両10の搭乗者が、運転席11に着座する運転者一人だけである場合に、フロント右(FR)の音量バランスが大きく設定される。従って、各チャンネルの音量バランスに基づいて割当バンド数を変更することで、より効果的に、限られた数のパラメトリックイコライザによる音声信号の調整を行える。
特に、車両10の室内においては、聴取者が搭乗する運転席11、座席12、13の位置に応じてスピーカ2が設置され、各々のスピーカ2に対応する4チャンネルの音声信号について、音量バランスをフェダー・バランス入力部72によって入力でき、この入力された音量バランスに基づいて割当バンド数が変更される。このため、聴取者の着座位置と音量バランスとの相関が非常に強く、各チャンネルの音量バランスに基づいて割当バンド数を変更することによって、極めて効果的に音声信号の調整を行える。
【0046】
また、音声出力装置1は、チャンネル別バンド数算出部54によって割当バンド数の増減値を算出する際に、まずフェダー・バランス入力部72により入力されたフェダーの設定値に基づいて増減値を求め、続いてバランスの設定値に基づいて割当バンド数の増減値を求め、これらの増減値を合算することで、各チャンネルの割当バンド数の増減値を求める。このため、フェダーの設定値とバランスの設定値との両方を加味した割当バンド数の変更方法を容易に、速やかに算出できる。
さらに、音声出力装置1は、図6に示したテーブルに基づいて、フェダー及びバランスの設定値に対応する割当バンド数の増減値を求めるので、割当バンド数の増減値を、より速やかに求めることができる。
【0047】
さらに、イコライザ部51は、割当バンド数を減少させる場合には、当該チャンネルに割り当てられている全てのパラメトリックイコライザのうち、最も音声信号の周波数特性への影響が小さいパラメトリックイコライザから順に、割り当てを解除するものとしてもよい。具体的には、波形が作り出す領域の面積が最も小さいパラメトリックイコライザから順に、割り当て状態を解除する。このため、パラメトリックイコライザの数が変化する際の音声信号の変化を抑え、聴取者に不自然な印象を与えることなく、パラメトリックイコライザの配分を最適化できる。
さらに、イコライザ部51は、割当バンド数を増加させる場合に、新たに割り当てる全てのパラメトリックイコライザの周波数特性をフラットな特性に設定するので、パラメトリックイコライザを増加させる前後で音声信号の周波数特性が変化しない。このため、聴取者に不自然な印象を与えることなく、パラメトリックイコライザの配分を最適化できる。
【0048】
さらに、設定記憶部53は、フェダー・バランス入力部72の設定されたフェダー及びバランスの設定値と、各チャンネルの割当バンド数、各パラメトリックイコライザのパラメータを対応づけて記憶し、イコライザ部51は、設定記憶部53から各チャンネルの割当バンド数、各パラメトリックイコライザのパラメータを読み出して設定することができる。このため、音量のバランスに基づく割当バンド数の変更を速やかに行うことが可能となり、また、割当バンド数やパラメトリックイコライザの周波数特性に再現性を持たせることができる。
【0049】
なお、上記実施の形態においては、入力部7がタッチパネルを有し、表示画面80に対するタッチ操作によりフィルタ係数入力部71及びフェダー・バランス入力部72の操作が行われる構成としたが、本発明はこれに限定されるものではなく、入力部7はキースイッチやロータリースイッチ等を設けたものであってもよく、その具体的態様は任意である。また、図2に示した音声出力装置1の機能ブロックは、ハードウェアとソフトウェアとの協働により実現されるものであって、図2に示す態様と具体的な実装形態とが一致する必要はない。
【0050】
また、上記実施の形態では、フェダー及びバランスの設定値に基づいて、各チャンネルの割当バンド数を増減させるものとして説明したが、本発明はこれに限定されるものではなく、例えば、チャンネル毎に出力音量を独立して変更可能な構成とし、各チャンネルの出力音量を比較し、この比較結果から求められる音量バランスに基づいて、各チャンネルの割当バンド数を変更してもよい。
さらに、上記実施の形態では、移動体としての車両10に本発明に係る音声出力装置1を設置した場合を例に挙げて説明したが、本発明はこれに限定されるものではなく、船舶や電車等であってもよく、車両は小型車両であっても大型車両であってもよい。また、スピーカ2の数は移動体の室内のサイズに応じて任意に変更可能であり、スピーカ2の位置を均等に配置する必要はなく、移動体の室内の構成に応じて適宜設置すればよい。その他の細部構成についても、本発明の趣旨を損なうことのない範囲において、任意に変更可能である。
【図面の簡単な説明】
【0051】
【図1】実施の形態に係る音声出力装置の概略構成を示す図である。
【図2】音声出力装置の機能的構成を示すブロック図である。
【図3】イコライザ部の機能的構成を示すブロック図である。
【図4】パラメトリックイコライザによる周波数特性の調整を説明する図である。(A)はパラメトリックイコライザの係数と周波数特性の対応を、(B)は調整前の音声信号の周波数特性の例を、(C)はパラメトリックイコライザの周波数特性の例を、(D)は調整後の音声信号の周波数特性の例を示す。
【図5】フェダー・バランス入力部の具体的な構成例を示す図である。
【図6】各チャンネルの割当バンド数を算出する際に用いるテーブルの構成例を示す図である。
【図7】音声出力装置の動作を示すフローチャートである。
【図8】割当バンド数算出処理を示すフローチャートである。
【図9】イコライザ部の再構成処理を示すフローチャートである。
【符号の説明】
【0052】
1 音声出力装置(音響制御装置)
2 スピーカ
3 音楽ソース
4 音声信号出力部
5 DSP
6 D/A変換部
7 入力部
8 表示部
10 車両(移動体)
11 運転席
12 座席
51 イコライザ部(割当制御手段)
52 フィルタ係数設定部(イコライザ設定手段)
53 設定記憶部(記憶手段)
54 チャンネル別バンド数算出部
55 フィルタ係数保持部
71 フィルタ係数入力部
72 フェダー・バランス入力部(音量バランス設定手段)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
移動体に搭載され、前記移動体の室内で出力される複数のチャンネルの音声信号を制御する音響制御装置において、
音声信号の周波数特性を調整する複数のイコライザと、
各々の前記イコライザをいずれかのチャンネルの音声信号に割り当てる割当制御手段と、
前記割当制御手段によって割り当てられた前記イコライザの設定を行って、各チャンネルの音声信号を調整させるイコライザ設定手段と、
各チャンネルの出力音量のバランスを設定する音量バランス設定手段と、を備え、
前記割当制御手段は、前記音量バランス設定手段により設定された各チャンネルの出力音量のバランスに基づいて、各チャンネルに割り当てる前記イコライザの数を変更すること、
を特徴とする音響制御装置。
【請求項2】
前記割当制御手段は、出力音量が大きいチャンネルに対しては割り当てる前記イコライザの数を増加させ、出力音量が小さいチャンネルに対しては割り当てる前記イコライザの数を減少させること、
を特徴とする請求項1記載の音響制御装置。
【請求項3】
各々のチャンネルの音声信号は、前記移動体の室内に配置された複数のスピーカの各々に対応しており、
前記音量バランス設定手段は、前記移動体の室内に配置された複数のスピーカからの出力音量のバランスを設定すること、
を特徴とする請求項1または2記載の音響制御装置。
【請求項4】
前記割当制御手段は、一つのチャンネルに割り当てる前記イコライザの数を減少させる場合には、当該チャンネルに割り当てられている全ての前記イコライザのうち、最も音声信号の周波数特性への影響が小さい前記イコライザから順に、割り当てを解除すること、
を特徴とする請求項1から3のいずれかに記載の音響制御装置。
【請求項5】
前記割当制御手段は、一つのチャンネルに割り当てる前記イコライザの数を増加させる場合には、当該チャンネルに新たに割り当てる全ての前記イコライザの周波数特性をフラットな特性に設定してから、割り当てを行うこと、
を特徴とする請求項1から4のいずれかに記載の音響制御装置。
【請求項6】
前記音量バランス設定手段により設定された各チャンネルの出力音量のバランスと、このバランスに基づいて前記割当制御手段により変更された各チャンネルに割り当てる前記イコライザの数と、を対応づけて記憶する記憶手段を備え、
前記割当制御手段は、前記音量バランス設定手段により各チャンネルの出力音量のバランスが設定された場合に、このバランスに対応づけて前記記憶手段に記憶された数に従って、各チャンネルに割り当てる前記イコライザの数を変更すること、
を特徴とする請求項1から6のいずれかに記載の音響制御装置。
【請求項7】
移動体に搭載され、前記移動体の室内で出力される複数のチャンネルの音声信号を、音声信号の周波数特性を調整する複数のイコライザを用いて調整する音響制御装置を制御して、
各々の前記イコライザをいずれかのチャンネルの音声信号に割り当てて、各チャンネルの音声信号を調整させ、
各チャンネルの出力音量のバランスが設定された場合に、設定された各チャンネルの出力音量のバランスに基づいて、各チャンネルに割り当てる前記イコライザの数を変更すること、
を特徴とする音響制御装置の制御方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2010−103590(P2010−103590A)
【公開日】平成22年5月6日(2010.5.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−270468(P2008−270468)
【出願日】平成20年10月21日(2008.10.21)
【出願人】(000001487)クラリオン株式会社 (1,722)
【Fターム(参考)】