説明

音響制御装置、及び、音響制御装置の制御方法

【課題】車両等の移動体の室内において音声が出力される場合に、煩雑な操作を伴わない、効率のよい処理を行うことで、移動体に着座する人の数にかかわらず良好な音声を聴けるようにする。
【解決手段】車両10の室内で出力される複数のチャンネルの音声信号を制御する音声出力装置1は、複数のチャンネルの音声信号の周波数特性を調整するDSP16と、DSP16の設定値を、各着座位置の人の有無の組合せをグループ化した着座状態毎に対応づけて記憶するメモリ12と、着座位置毎の人の有無を検出する着座センサ23と、着座状態に対応するDSP16の周波数特性に係る設定をメモリ12から読み出して、DSP16の設定を行う制御部11と、を備え、メモリ12には、車両10の運転者のみが着座した状態を基準とした場合の音響特性の変化を補償するための設定値が予め記憶されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、音声信号を制御する音響制御装置、及び、この音響制御装置の制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、車両等の移動体の室内において音声を出力する場合に、出力される音声の音質や音場が、移動体に搭乗した人の体の影響を受けることが知られている。このため、例えば、車両の座席における着座状況を入力すると、入力された着座状況に応じて音場を補正する装置が提案されている(例えば、特許文献1参照)。特許文献1記載の装置によれば、乗員数が変化しても、良好な音響特性が得られるとされている。
【特許文献1】実開昭60−193779号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
特許文献1に記載された装置では、座席における着座状況を入力する必要があるため、入力操作の負担が少なくない。特に、複数の座席を有する車両等において、各座席の着座状況を逐一入力することは非常に面倒な操作が求められる。
また、入力操作の負担が軽減されたとしても、複数の座席を有する車両等においては、着座状態、すなわち各座席への着座の有無の組合せが多数あり、これら多数の着座状態の全てについて乗員による音響への影響を調べ、音響特性を補正することは、非常に多くの情報を必要とし、現実的とはいえない。
そこで、本発明の目的は、車両等の移動体の室内において音声が出力される場合に、煩雑な操作を伴わない、効率のよい処理を行うことで、移動体に搭乗する人の数にかかわらず良好な音声を聴けるようにすることにある。
【課題を解決するための手段】
【0004】
上記課題を解決するため、本発明は、移動体に搭載され、前記移動体の室内で出力される複数のチャンネルの音声信号を制御する音響制御装置において、複数のチャンネルの音声信号の周波数特性を調整するイコライザと、前記イコライザの周波数特性に係る設定値を、前記移動体の室内に設定された各搭乗位置の人の有無の組合せをグループ化したグループ毎に、対応づけて記憶する記憶部と、前記移動体の搭乗位置毎の人の有無を検出する搭乗状態検出部と、前記搭乗状態検出部により検出された状態を含むグループに対応する設定値を前記記憶部から読み出して、前記イコライザの設定を行う制御部と、を備え、前記記憶部は、各搭乗位置の人の有無の組合せのグループ毎に、前記移動体の運転者のみが搭乗した状態を基準とした場合の音響特性の変化を補償するための前記イコライザの周波数特性に係る設定値を、予め記憶していること、を特徴とする音響制御装置を提供する。
この構成によれば、移動体の室内に設定された各搭乗位置の人の有無の組合せをグループ化した上で、このグループ毎にイコライザの周波数特性に係る設定値を記憶しておき、搭乗状態検出部によって検出した状態を含むグループに対応する設定値を読み出してイコライザの設定を行うことで、運転者のみが搭乗した状態を基準とした場合の音響特性の変化を補償するので、移動体に運転者以外の人が搭乗した場合に、搭乗者の人数に関わらず、運転者に煩雑な操作を強いることなく運転者に聞こえる音声の周波数特性を最適な状態にして、良好な音声の聴取を可能とする。また、各搭乗位置の人の有無の組合せをグループ化することにより、各搭乗位置の人の有無の組合せが極めて多数になる場合であっても、グループ数を現実的な数に絞ってイコライザの周波数特性に係る設定値を記憶し、この現実的な数の設定状態に基づいてイコライザによって音声を調整できる。このように、搭乗位置と人数が僅かに異なる複数の搭乗状態をグループ化することによって、音声を適切に調整して良好な音声の聴取を可能としつつ、処理の効率化を図ることができる。
【0005】
上記構成において、前記搭乗状態検出部は、前記移動体の室内に設定された搭乗位置に搭乗した人の体格を検出可能に構成され、前記制御部は、前記搭乗状態検出部によって検出された人の体格が基準より小さい場合に、前記記憶部から読み出した前記イコライザの周波数特性に係る設定値を調整して、前記イコライザの設定を行うものとしてもよい。
この場合、搭乗した人の体格に基づいてイコライザの周波数特性に係る設定値を調整することが可能なため、例えば、子供や高齢者が搭乗した場合に身体及び聴覚への負荷や刺激を弱めるよう調整するなど、運転者に聞こえる音声の周波数特性を最適な状態にしながら、搭乗した人にも配慮して音声を調整できる。
【0006】
また、前記イコライザの周波数特性に係る設定値を入力する入力部をさらに備え、前記記憶部は、前記入力部により入力された設定値を、入力時の各搭乗位置の人の有無に相当するグループに対応づけて記憶するものとしてもよい。
この場合、搭乗状態に対応してイコライザの周波数特性に係る設定値が入力された場合に、この設定値を記憶して、予め記憶していた設定値と同様に利用できるので、運転者等の好みに応じてイコライザの周波数特性を変更できる。また、入力された設定値は、その後に同様の搭乗状態となった場合に読み出され、イコライザに設定されるので、運転者に煩雑な操作を強いることなく、運転者が入力した好みの音響特性を再現できる。
【0007】
また、本発明は、移動体に搭載され、前記移動体の室内で出力される複数のチャンネルの音声信号を調整するイコライザを備えた音響制御装置を制御して、前記移動体の室内に設定された搭乗位置毎の人の有無の組合せをグループ化したグループ毎に、前記移動体の運転者のみが搭乗した状態を基準とした場合の音響特性の変化を補償するための前記イコライザの周波数特性に係る設定値を、対応づけて記憶し、前記移動体の搭乗位置毎の人の有無を検出し、検出した状態を含むグループに対応する設定値を読み出して、前記イコライザの設定を行うこと、を特徴とする音響制御装置の制御方法を提供する。
この方法によれば、移動体の室内に設定された各搭乗位置の人の有無の組合せをグループ化した上で、このグループ毎にイコライザの周波数特性に係る設定値を記憶しておき、搭乗状態検出部によって検出した状態を含むグループに対応する設定状態を読み出してイコライザの設定を行うことで、運転者のみが搭乗した状態を基準とした場合の音響特性の変化を補償するので、移動体に運転者以外の人が搭乗した場合に、搭乗者の人数に関わらず、運転者に煩雑な操作を強いることなく運転者に聞こえる音声の周波数特性を最適な状態にして、良好な音声の聴取を可能とする。また、各搭乗位置の人の有無の組合せをグループ化することにより、各搭乗位置の人の有無の組合せが極めて多数になる場合であっても、音声を適切に調整して良好な音声の聴取を可能としつつ、処理の効率化を図ることができる。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、移動体に運転者以外の人が搭乗した場合に、搭乗者の人数に関わらず、運転者に煩雑な操作を強いることなく効率の良い処理を行って、運転者に聞こえる音声の周波数特性を最適な状態にし、良好な音声の聴取を可能とする。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
以下、本発明の好適な実施の形態について、図面を参照して説明する。
図1は、本発明を適用した実施形態に係る音声出力装置1の設置環境を説明する図である。
本実施の形態の音声出力装置1は、移動体の一例としての車両10において車室内に設置される複数のスピーカ21から音声を出力させる。
車両10は、車両10に搭乗する人が着座する運転席2、助手席3、後部座席4の各座席(搭乗位置)を備えている。運転席2及び助手席3には各々一人が着座可能であり、後部座席4には3人が着座できる。後部座席4の3人分の着座位置(搭乗位置)を、図1に示すように着座位置41、42、43とする。
図1に示す例では、車両10は運転席2が前部左側に設けられた左ハンドル車両であり、各シートの近傍に設置された4つのスピーカ21から、4チャンネルの音声を出力する。具体的には、運転席2の側方には左フロントスピーカ21Aが設置され、助手席3の側方には右フロントスピーカ21Bが、後部座席4の後方には2台の左リアスピーカ21C、右リアスピーカ21Dが設置されている。また、音声出力装置1は、例えばダッシュボードに埋め込み設置され、4チャンネルの音声信号を調整して、4個のスピーカ21から出力させる。
【0010】
図2は、音声出力装置1の機能的構成を示すブロック図である。
この図2に示すように、音声出力装置1は、CDプレーヤ、MDプレーヤ、ラジオチューナ等の音楽ソース15と、音楽ソース15が出力したデジタル音声信号をイコライザとして処理するDSP(Digital Signal Processor)16と、DSP16により処理されたデジタル音声信号をスピーカ21に出力する電子ボリューム回路17とを備えている。DSP16は、4チャンネルの音声信号に対応するイコライザを内蔵し、このイコライザによって音声信号の周波数特性をチャンネル毎に調整し、調整後の4チャンネルの音声信号を出力する。DSP16が内蔵するイコライザは、例えばパラメトリックイコライザであり、パラメータ(周波数、ゲイン、Q値など)に基づいて周波数特性が決定される。DSP16に対しては、制御部11によって上記パラメータが設定される。
電子ボリューム回路17は、DSP16により調整された音声信号を、制御部11によって設定されるゲインで増幅し、アナログ音声信号に変換してスピーカ21へ出力する。電子ボリューム回路17には、左フロントスピーカ21A、右フロントスピーカ21B、左リアスピーカ21C、及び右リアスピーカ21Dが各々接続されており、これら4個のスピーカ21に対して、電子ボリューム回路17は、各チャンネルのアナログ音声信号を出力する。
【0011】
音声出力装置1は、音声出力装置1の各部を制御する制御部11を備え、制御部11は、音楽ソース15、DSP16、および電子ボリューム回路17を制御する。例えば、制御部11は、音楽ソース15に対してソースの再生及び音声信号出力の開始/停止を制御し、DSP16に対してイコライザのパラメータを設定し、電子ボリューム回路17に対してゲインを設定する。
制御部11には、制御部11が実行する処理に関係する各種データを一次的に、或いは継続的に記憶するメモリ12が接続されている。また、制御部11には、車両10の運転者や他の搭乗者がデータを入力するための入力部13と、制御部11による処理結果等を表示する表示部14とが接続されている。入力部13は、車両10の運転者や他の搭乗者が操作する各種スイッチを備え、このスイッチの操作に応じた操作信号を生成して、制御部11に出力する。制御部11は、入力部13から入力される操作信号に基づいて、音楽ソース15による音声の再生開始/停止のタイミングや、DSP16のイコライザのパラメータ、電子ボリューム回路17におけるゲイン等を決定し、決定したデータをメモリ12に一時的に記憶するとともに、このデータに基づいて音楽ソース15、DSP16及び電子ボリューム回路17を制御する。
表示部14は、LCD(液晶ディスプレイ)、有機ELパネル等からなる表示画面を備え、制御部11の制御に従って各種の画面を表示する。制御部11は、入力部13の操作により入力されたデータ、入力部13から入力された操作信号に対応して行った処理の結果、音楽ソース15、DSP16及び電子ボリューム回路17の動作状態等を、表示部14の表示画面に表示させる。
【0012】
なお、入力部13が備えるスイッチの具体的形態や数等は任意であり、スイッチに代えて表示部14の表示画面に重畳配置されるタッチパネルを備えた構成としてもよい。また、表示部14が備える表示画面の解像度、サイズ、表示色数は任意であり、表示部14が表示画面を持たず、LEDを点灯または点滅させることによってデータを表示するものであってもよい。
【0013】
さらに、制御部11には、助手席3及び後部座席4における着座状態を検出する搭乗状態検出部としての着座センサ23A〜23Dが接続されている。着座センサ23A〜23Dは、助手席3及び後部座席4の着座位置41〜43における着座の有無を、それぞれ検出するセンサである。
【0014】
図3は、着座センサ23の構成例を示す図であり、一例として助手席3に設置される着座センサ23Aの構成及び設置状態を示す。図中、符号5は助手席3に着座した乗員を示している。
図3の例では、ヘッドレスト31、背もたれ部32、及び座面部33により構成される助手席3に、着座センサ23Aを構成する複数の検出子25が分散して配置される。検出子25は、所定の押圧力が加わるとオンとなるスイッチ式のセンサである。全ての検出子25は通信線26に接続されており、オンとなった場合に通信線26を介して検出信号を出力する。通信線26は音声出力装置1の制御部11に接続されているので、各々の検出子25の検出状態、すなわちオンかオフかを、検出子25ごとに制御部11によって検出できる。
【0015】
具体的には、例えば、全ての検出子25を共通の通信線26に接続するとともに、各検出子25に固有のID等を持たせ、検出子25が検出信号とともに自己のIDを送信する構成が挙げられる。この場合、制御部11は、着座センサ23Aを構成する検出子25のうち、どの検出子25がオンになったのかを、検出信号とともに送信されたIDに基づいて特定できる。また、通信線26を独立した複数の信号線の束として構成し、各々の信号線が一つの検出子25に接続される構成としてもよい。この場合、各検出子25の検出信号が、それぞれ別の信号線を介して制御部11に入力されるので、制御部11は、検出信号が入力された信号線を特定することで、オンになった検出子25を特定できる。
【0016】
図3に示すように、ヘッドレスト31、背もたれ部32、及び座面部33に、それぞれ検出子25が埋設設置された場合には、ヘッドレスト31、背もたれ部32、及び座面部33の各々における押圧力を検出できる。さらに、背もたれ部32には、異なる高さ位置に複数の検出子25が配設され、この背もたれ部32の上に位置するヘッドレスト31に検出子25が配設されているので、各検出子25の検出状態に基づいて、乗員5の体格を判定できる。すなわち、乗員5の座高が低い場合には、乗員5が助手席3に着座しても、ヘッドレスト31及び背もたれ部32になる高さ位置で配設された複数の検出子25のうち、下側に配設された一部の検出子25のみがオンになり、ヘッドレスト31や、背もたれ部32の上部に配設された検出子25はオフのままである。また、座高が高い乗員5が着座した場合には、全ての検出子25がオンになることが考えられる。さらに、助手席3の座面部33にも、複数の検出子25が奥行き方向に異なる位置に埋設されているので、座面部33における各検出子25の検出状態に基づいて、乗員5の体格を判定できる。
このように、制御部11は、着座センサ23A〜23Dの検出状態に基づいて、運転席2を除く着座位置における着座状態とともに、着座した人の体格が、所定の基準サイズより大きいか小さいかを検出できる。
【0017】
音声出力装置1は、車両10の室内で再生出力される音声の周波数特性を調整することによって、良好な音声を聴取できるようにするものである。音声の調整の内容は、入力部13の操作によって、運転者が自分の好みに合わせて決定することが可能であり、また、予め、車両10の車室内の構造や内装材の種類により決定される吸音・反響特性を考慮して、良い音響特性で運転者が音声を聴けるように設定することもできる。
ところが、車両10に運転者以外の人が搭乗した場合、人の体によって音声の反射や遮断、吸音等が起きるため、運転者のみが搭乗している場合とは音声の聞こえ方が異なる。
そこで、音声出力装置1は、運転席2を除く着座位置における着座状態に合わせて、DSP16のイコライザの設定を変えることにより、これによって運転者以外の人が搭乗した場合の聞こえ方の変化を補償して、運転者が所望の特性の音を聴けるようにしている。
【0018】
すなわち、制御部11は、着座センサ23A〜23Dの検出状態に基づいて、助手席3、及び、後部座席4の着座位置41〜43における着座の有無、すなわち着座状態を検出し、この着座状態に応じて、DSP16のイコライザのパラメータを選択し、設定する。メモリ12には、車両10における着座状態に対応づけて、DSP16のイコライザに設定するパラメータが記憶されている。
【0019】
図4は、メモリ12に記憶されたイコライザの設定値の状態を模式的に示す図である。
この図4に示す例では、4通りの着座状態について、DSP16のイコライザに設定される設定値が記憶されている。一つの設定値は、DSP16のイコライザに設定される全てのパラメータ(ゲイン、周波数、Q値)を含む。DSP16が4チャンネルの音声信号に対応して4つ以上のイコライザを備えている場合には、一つの設定値が、全てのイコライザに設定されるパラメータを含むようにすればよい。
【0020】
図4に示す例では、4つの着座状態が設定され、状態1は運転者のみが搭乗している状態を指し、状態2は運転者に加えて助手席3に着座している状態を指す。また、状態3は運転者に加えて後部座席4に人が着座している状態を指し、着座している人数が1〜3名の全ての場合を含み、着座位置41、42、43の区別をしない。また、状態4は運転者に加えて助手席3及び後部座席4に人が着座している状態を指し、後部座席4に着座している人数(1〜3名のいずれか)及び着座位置41〜43の区別をせず、助手席3と後部座席4の両方に人が着座している全ての場合を含む。つまり、メモリ12には、運転席2、助手席3及び後部座席4の着座位置41〜43からなる5つの着座位置の組合せを、状態1〜4の4つにグループ化した場合のグループ毎に、DSP16のイコライザの設定値が記憶されている。
【0021】
そして、状態1〜4の4通りの着座状態に対応づけて、メモリ12には、予め初期値としての設定値が記憶される。この初期値は、車両10の車室内の構造や内装材の種類により決定される吸音・反響特性を考慮して決められた設定値であり、運転者の操作に関係なく出荷時から音声出力装置1が記憶している。
また、音声出力装置1においては入力部13の操作によって設定値を入力することも可能であり、この入力された設定値は、その入力時の着座状態に対応づけて、ユーザ設定値としてメモリ12に記憶される。従って、メモリ12には、一つの着座状態に対応づけて、初期値とユーザ設定値との2つの設定値を記憶できる。後述するように、音声出力装置1は、一つの着座状態に対応づけて初期値とユーザ設定値との両方が記憶されている場合には、ユーザ設定値を読み出して設定する。入力部13の操作に従ってユーザ設定値が消去された場合には、初期値が読み出されて設定される。
【0022】
図5及び図6は、車両10における着座状態の例を示す図である。図5(A)〜(C)及び図6(A)〜(B)に示すいずれの場合も、運転席2に運転者が着座している。
図5(A)は、助手席3に人が搭乗した状態であり、図4を参照して説明した状態2に相当する。図5(A)の状態では、助手席3に着座している人の体の影響により、助手席3の横に配置された右フロントスピーカ21Bから出力される音声のうち、低音域が吸収されてしまうので、運転席2に着座している運転者には、運転者のみが搭乗している場合に比べて低音域が減衰したように聞こえる。
【0023】
また、図5(B)は、助手席3と、後部座席4の着座位置41と人が着座している状態であり、図5(C)は助手席3と、後部座席4の着座位置41及び着座位置43とに人が着座している状態である。また、図6(A)は助手席3と、後部座席4の全ての着座位置41〜43に着座している状態である。これら図5(B)〜(C)及び図6(A)に示す状態は、全て、図4を参照して説明した状態3に相当する。状態3に相当するこれらの着座状態では、搭乗している人数が多数(3名以上)であるため、人の体による低音域の吸収が顕著に起こり、人の体による高音域の反射も顕著になる。このため、運転席2に着座している運転者には、運転者のみが搭乗している場合に比べて低音域が大きく減衰したように聞こえ、さらに、反射した高音域がノイズのように聞こえる。
【0024】
運転者にとっての音声の聞こえ方を基準にして考えると、後部座席4に人が着座した場合には、主に左リアスピーカ21C及び右リアスピーカ21Dから出力される音声が影響を受けるが、これら左リアスピーカ21C及び右リアスピーカ21Dは運転席2から離れているため、後部座席4における着座位置や着座人数による差は大きくない。このため、図5(B)〜(C)及び図6(A)に示すいずれの状態でも、音声の周波数特性がほぼ同じように影響される。従って、図5(B)〜(C)及び図6(A)に示す状態を、状態3として同様に扱い、搭乗者の体による音声の変化を補償することは、十分な効果が期待できる上に、合理的である。
【0025】
さらに、制御部11は、助手席3及び後部座席4のいずれかの着座位置に、体格の小さい人が着座している場合には、DSP16に対して設定するパラメータを変化させて、出力音声の周波数特性を変える処理を行う。体格の小さい人は、子供あるいは高齢者である可能性が高く、例えば、図6(B)に示すように助手席3に子供が着座している場合には、この子供に対しては、側方の右フロントスピーカ21Bの出力音声が強く聞こえる。
このような場合、聴覚への負担を軽減するために出力音声の周波数特性を変えれば、この人が搭乗中快適に過ごせるという利点がある。また、このような処理を行うことを前提にして、運転者が、搭乗者への負担を考慮せずに自分の好みに合わせてユーザ設定値を決めることができ、運転者にとってもメリットがある。
【0026】
図7は、音声出力装置1の動作を示すフローチャートである。
この図7に示す処理は、例えば、入力部13の操作により音声再生を開始する旨の指示が入力された場合に、開始される。
音声出力装置1の制御部11は、音楽ソース15を制御して音声信号の出力を開始させ(ステップS11)、着座センサ23A〜23Dの検出値を取得することによって着座状態を検出する(ステップS12)。制御部11は、検出した着座状態に対応する設定値を、メモリ12に記憶された設定値から検索し(ステップS13)、対応するユーザ設定値の有無を判別する(ステップS14)。
ここで、着座状態に対応づけてユーザ設定値が記憶されている場合(ステップS14;Yes)、制御部11は、メモリ12からユーザ設定値を読み出して(ステップS15)、ステップS17に移行する。また、ユーザ設定値が記憶されていない場合(ステップS14;No)、制御部11は、着座状態に対応する初期値をメモリ12から読み出して(ステップS16)、ステップS17に移行する。
【0027】
ステップS17で、制御部11は、小柄な人(体格の小さい人)が着座しているか否かを判別する。この判別は、図3を参照して説明したように、着座センサ23A〜23Dにおける検出状態に基づいて行われる。
小柄な人が着座している場合(ステップS17;Yes)、制御部11は、ステップS15またはS16で読み出した設定値を調整する処理を行い(ステップS18)、DSP16に対してパラメータを設定する(ステップS19)。これに対し、小柄な人が着座していない場合(ステップS17;No)、制御部11は、ステップS15またはS16で読み出した設定値に従ってDSP16に対してパラメータを設定する(ステップS19)。
その後、制御部11は、音声出力を終了する指示の有無を判別し(ステップS20)、入力部13により音声出力を終了する旨の指示が入力されていなければ、ステップS12に戻って着座状態を検出し、音声出力の終了の指示が入力された場合は本処理を終了する。なお、図7の処理を繰り返し実行する場合には、ステップS12で検出した着座状態が以前の着座状態とは異なる場合にのみ、ステップS13〜19の処理を行うようにしてもよい。
【0028】
以下、DSP16による音声信号の具体例を挙げて説明する。
図8〜図11は、音声信号の調整の具体例を示す図表である。
図8は、運転者のみが搭乗している状態(図1の着座状態)における音声信号の波形の例を示すグラフであり、図4の状態1に相当する。
この図8に示す波形は、運転者が快適に音声を聴くことができるように、DSP16によって調整されている。
図9は助手席3に人が着座している状態の音声信号の波形を示すグラフである。この着座状態は図5(A)に示す状態であり、図4の状態2に相当する。図9に示す波形は、図8に示す波形に比べて、符号B1で示す低音域のゲインが大きくなるよう調整されている。これにより、助手席3に人が搭乗することによって減衰した低音域を補い、運転者が一人で搭乗している場合と同様、快適に音楽を聴くことができる。
【0029】
また、図10は助手席3と後部座席4に人が着座している状態の音声信号の波形を示すグラフである。この着座状態は図6(A)に示す状態であり、図4の状態4に相当する。図10に示す波形は、図8に示す波形に比べて、符号B2で示す低音域のゲインが大きくなるよう調整される一方、符号H1で示す高音域のゲインが小さくなるよう調整されている。これにより、助手席3と後部座席4に多数の人が搭乗することによって大きく減衰した低音域を補うとともに、人の体に反射してノイズのように聞こえる高音域成分を減衰させるので、運転者が快適に音楽を聴くことができる。
図11は体格の小さい人が助手席3に着座している状態の音声信号の波形を示すグラフである。この着座状態は、図6(B)に示す状態である。
この着座状態は、基本的に、図5(A)に示すように運転者に加えて助手席3に人が搭乗した場合に相当するので、図4の状態2に相当する。
この図11に示す波形は、図4の状態2に対応する設定値により、図8に示す波形に比べて、符号B1で示す低音域のゲインが大きくなるよう調整されている。この調整に加えて、制御部11によって、体格の小さい人に対応して、聴覚への負担が小さくなるように、低音域B1のゲインが小さく調整され、さらに符号H2のゲインが小さく調整されている。これにより、体全体および聴覚に対して刺激の強い音域を減衰させて、全ての搭乗者が搭乗中に快適に過ごせる。
なお、図8〜図11に示す波形はあくまで一例であり、図9〜図11に示した調整の様子も、本発明を適用した一具体例を示すものに過ぎない。
【0030】
以上のように、本発明を適用した実施の形態に係る音声出力装置1によれば、車両10の室内に設定された各着座位置の人の有無の組合せをグループ化した上で、このグループに相当する状態1〜4の各着座状態について、着座状態毎に、DSP16のイコライザの周波数特性に係る設定値をメモリ12に記憶し、制御部11によって、着座センサ23によって検出した着座状態を含む状態に対応する設定値をメモリ12から読み出してDSP16に設定することで、運転者のみが搭乗した状態を基準とした場合の周波数特性の変化を補償する。これにより、車両10に運転者以外の人が搭乗した場合に、搭乗者の人数に関わらず、また、運転者に煩雑な操作を強いることなく、運転者に聞こえる音声の音響特性を最適な状態できる。
また、各着座位置の人の有無の組合せをグループ化してグループ毎の設定値をメモリ12に記憶することにより、着座位置の人の有無の組合せが極めて多数であっても、現実的な数の設定値に基づいてイコライザによって音声を調整することができる。このように、着座位置と人数が僅かに異なる複数の着座状態をグループ化することによって、音声を適切に調整して良好な音声の聴取を可能としつつ、処理の効率化を図ることができる。
【0031】
また、上記構成において、着座センサ23は、車両10の室内に設定された着座位置に搭乗した人の体格を検出できるように、例えば図3に示したように構成され、制御部11は、着座センサ23によって検出された人の体格が基準より小さい場合に、メモリ12から読み出した設定値を調整して、DSP16に設定する。このように、体格の小さい人が搭乗した場合に、身体及び聴覚への負荷や刺激が小さくなるように調整を行うことで、運転者に聞こえる音声の周波数特性を最適な状態にしながら、搭乗した人に配慮した音声の調整を行える。
また、音声出力装置1は、入力部13によって入力された設定値を、入力時の各着座位置の人の有無に相当する状態に対応づけて記憶するので、運転者等の好みに応じてイコライザの設定値を変更でき、この設定値を、運転者に煩雑な操作を強いることなく読み出してDSP16に設定し、運転者が入力した好みの音響特性を再現できる。
【0032】
なお、上記実施の形態においては、スイッチ式の検出子25を用いた着座センサ23A〜23Dによって、各着座位置における人の着座の有無を検出する構成を例に挙げて説明したが、本発明はこれに限定されるものではなく、着座センサ23A〜23Dとして反射型または透過型の光センサや、赤外線センサ等を用いて、着座位置における人の有無を検出する構成としてもよい。この場合、反射型または透過型の光センサや赤外線センサによる検出範囲を、異なる高さ位置に複数設けることにより、着座した人の体格を検出できる。また、助手席3または後部座席4の座面部に、検出子25としての重量センサを埋設して着座センサ23A〜23Dを構成してもよく、この場合、検出した重量によって、各着座位置における人の着座の有無を検出するとともに、着座した人の体重を検出して、この体重から体格を特定することが可能である。さらに、上記実施の形態においてはDSP16の機能として実現されるパラメトリックイコライザを用いる構成を例に挙げて説明したが、本発明はこれに限定されるものではなく、本発明のイコライザは音声信号の周波数特性を調整できるものであれば、その具体的態様は任意である。
また、入力部13が備えるスイッチはキースイッチや押しボタンスイッチ、ロータリースイッチ等であってもよく、その具体的態様は任意である。また、図2に示した音声出力装置1の機能ブロックは、ハードウェアとソフトウェアとの協働により実現されるものであって、図2に示す態様と具体的な実装形態とが一致する必要はない。
さらに、上記実施の形態では、移動体としての車両10に本発明に係る音声出力装置1を設置した場合を例に挙げて説明したが、本発明はこれに限定されるものではなく、船舶や電車等であってもよく、車両は小型車両であっても大型車両であってもよい。また、スピーカの数は移動体の室内のサイズに応じて任意に変更可能であり、スピーカの位置を均等に配置する必要はなく、スピーカの位置と着座位置との位置関係も適宜変更可能であり、その他の細部構成についても、本発明の趣旨を損なうことのない範囲において、任意に変更可能である。
【図面の簡単な説明】
【0033】
【図1】実施の形態に係る音声出力装置の設置環境を示す図である。
【図2】音声出力装置の機能的構成を示すブロック図である。
【図3】着座センサの構成および設置状態の例を示す図である。
【図4】メモリに記憶された着座状態毎の設定値を模式的に示す図である。
【図5】車両における着座状態の例を示す図である。
【図6】車両における着座状態の例を示す図である。
【図7】音声出力装置の動作を示すフローチャートである。
【図8】音声出力装置による音声信号の調整の具体例を示す図表である。
【図9】音声出力装置による音声信号の調整の具体例を示す図表である。
【図10】音声出力装置による音声信号の調整の具体例を示す図表である。
【図11】音声出力装置による音声信号の調整の具体例を示す図表である。
【符号の説明】
【0034】
1 音声出力装置(音響制御装置)
2 運転席
3 助手席(搭乗位置)
4 後部座席(搭乗位置)
10 車両(移動体)
11 制御部
12 メモリ(記憶部)
13 入力部
14 表示部
15 音楽ソース
16 DSP(イコライザ)
17 電子ボリューム回路
21 スピーカ
23 着座センサ(搭乗状態検出部)
25 検出子
26 通信線
41〜43 着座位置(搭乗位置)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
移動体に搭載され、前記移動体の室内で出力される複数のチャンネルの音声信号を制御する音響制御装置において、
複数のチャンネルの音声信号の周波数特性を調整するイコライザと、
前記イコライザの周波数特性に係る設定値を、前記移動体の室内に設定された各搭乗位置の人の有無の組合せをグループ化したグループ毎に、対応づけて記憶する記憶部と、
前記移動体の搭乗位置毎の人の有無を検出する搭乗状態検出部と、
前記搭乗状態検出部により検出された状態を含むグループに対応する設定値を前記記憶部から読み出して、前記イコライザの設定を行う制御部と、を備え、
前記記憶部は、各搭乗位置の人の有無の組合せのグループ毎に、前記移動体の運転者のみが搭乗した状態を基準とした場合の音響特性の変化を補償するための前記イコライザの周波数特性に係る設定値を、予め記憶していること、
を特徴とする音響制御装置。
【請求項2】
前記搭乗状態検出部は、前記移動体の室内に設定された搭乗位置に搭乗した人の体格を検出可能に構成され、
前記制御部は、前記搭乗状態検出部によって検出された人の体格が基準より小さい場合に、前記記憶部から読み出した前記イコライザの周波数特性に係る設定値を調整して、前記イコライザの設定を行うこと、
を特徴とする請求項1記載の音響制御装置。
【請求項3】
前記イコライザの周波数特性に係る設定値を入力する入力部をさらに備え、
前記記憶部は、前記入力部により入力された設定値を、入力時の各搭乗位置の人の有無に相当するグループに対応づけて記憶すること、
を特徴とする請求項1または2に記載の音響制御装置。
【請求項4】
移動体に搭載され、前記移動体の室内で出力される複数のチャンネルの音声信号を調整するイコライザを備えた音響制御装置を制御して、
前記移動体の室内に設定された搭乗位置毎の人の有無の組合せをグループ化したグループ毎に、前記移動体の運転者のみが搭乗した状態を基準とした場合の音響特性の変化を補償するための前記イコライザの周波数特性に係る設定値を、対応づけて記憶し、
前記移動体の搭乗位置毎の人の有無を検出し、
検出した状態を含むグループに対応する設定値を読み出して、前記イコライザの設定を行うこと、
を特徴とする音響制御装置の制御方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2010−111339(P2010−111339A)
【公開日】平成22年5月20日(2010.5.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−287439(P2008−287439)
【出願日】平成20年11月10日(2008.11.10)
【出願人】(000001487)クラリオン株式会社 (1,722)
【Fターム(参考)】