説明

音響情報の伝送システム

【課題】ユーザが、自己の意思に応じて聴取対象を選択できるようにする。
【解決手段】音響情報の伝送システムは、例えば、音響情報を送信する1以上の送信装置と、音響情報を受信して出力する受信装置とを含む。受信装置は、送信装置との距離に関する距離情報を取得する取得手段と、受信した音響情報の出力音量を距離情報に従って調整する音量調整手段とを含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、音響情報を伝送する技術および音響情報を距離情報に応じて出力音量を調整する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、家屋等の一定の空間内には、テレビ、オーディオ装置または携帯電話など、音を出力する複数の機器が存在することが多い。さらに、シリコンオーディオ機器や携帯ゲーム機が広く普及しつつある。これらのユーザは室内においてもヘッドフォンを使用する機会が多い。
【0003】
一般的なヘッドフォンは、音の出力装置とケーブルにより接続される。しかしながら、ケーブルの接続は煩雑であったり、ケーブルによって行動範囲が制約されたりする。このような欠点を解消するために、ワイヤレスヘッドフォンが登場している。
【0004】
従来、ワイヤレスヘッドフォンを応用したシステムとしては、美術館などで利用される展示説明システムが提案されている(特許文献1)。このシステムによれば、各無線基地局が展示物ごとに設置されており、観覧者は、ヘッドフォンを装着して移動することで、各無線基地局から送信される展示説明を聴くことができる。
【0005】
また、ある無線基地局から音楽を聴取中に、より優先順位の高い他の無線基地局の通信範囲に受信局が入った場合、自動的に無線基地局を切り替える技術も提案されている(特許文献2)。
【特許文献1】特開平8−263006号公報
【特許文献2】特開2003−347956号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1によれば、混信を防ぐために、各無線基地局が送信する電波の電界強度や赤外線の指向性を厳密に制御する必要がある。これによって所定範囲内においては単一の音だけを聴取可能となる。
【0007】
しかしながら、一般的な個人が、受信範囲の厳密な制御を実行することは難しいため、特許文献1に記載の発明は、一般家庭向けの用途には向かない。
【0008】
また、特許文献2によれば、複数の無線基地局の優先順位を予め割り当てておく必要があり、面倒である。さらに、ユーザは、無線基地局の切り替えに対して唐突さと不自然さを感じるおそれがある。なぜなら、より優先順位の高い無線基地局の通信範囲内に受信機が入った時点で、何の前ぶれもなく、切り替えが実行されてしまうからである。
【0009】
そこで、本発明は、このような課題および他の課題のうち、少なくとも1つを解決することを目的とする。なお、他の課題については明細書の全体を通して理解できよう。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、例えば、音響情報を送信する1以上の送信装置と、音響情報を受信して出力する受信装置とを含む伝送システムにおいて好適に実現される。受信装置は、送信装置との距離に関する距離情報を取得する取得手段と、距離情報に従って、受信した音響情報の出力音量を調整する音量調整手段とを含むことを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、受信装置と送信装置との距離に応じて出力音量が調整されるため、ユーザは、出力音量を目安として自己の意思に応じて聴取対象を選択できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下に本発明の一実施形態を示す。もちろん以下で説明される個別の実施形態は、本発明の上位概念、中位概念および下位概念など種々の概念を理解するために役立つであろう。また、本発明の技術的範囲は、特許請求の範囲によって確定されるのであって、以下の個別の実施形態によって限定されるわけではない。
【0013】
[第1の実施形態]
図1は、実施形態に係る受信装置の例示的なブロック図である。受信装置100は、ヘッドフォンの一部として実現されてもよいし、ピンプラグ付きのヘッドフォンを接続可能な受信機であってもよい。受信装置100は、信号を送信することもできてもよく、この場合は受信装置100を通信装置と呼ぶことができよう。
【0014】
測距部101は、送信装置と受信装置100との間の距離に関する距離情報を取得するユニットである。高周波送受信部(以下、RF部)102は、送信装置から送信される信号を受信して復調したり、信号を変調して送信装置へ送信したりするユニットである。復号部103a、103b(以下、復号部103)は、受信したデータを復号するユニットである。当該データは、例えば、音響情報(音、音声、音楽など)である。また、当該データは、D/A変換器により、アナログ信号に変換されて、利得可変アンプ105a、105bへ入力される。
【0015】
制御部104は、受信装置100に含まれる各ユニットを制御するユニットである。利得可変アンプ105a、105bは、制御部104から指示された利得に応じて、再生対象となるデータ(例:音響情報)を増幅するユニットである。合成部106は、利得可変アンプ(GCA)から出力される信号を合成するユニットである。ヘッドフォン部107は、合成された音声を出力するユニットである。
【0016】
測距部101における測距方法は、種々考えられる。例えば、制御部104が測距部101に測距を指示すると、測距部101は、高周波送受信部102から周囲の装置に対して問い合わせ信号を送信する。測距部101は、高周波送受信部102が問い合わせに対する応答信号を受信すると、電波の伝播速度と遅延時間から距離を算定する。遅延時間は、問い合せ信号を送信した時刻から、問い合わせに対する応答信号を受信した時刻までの時間をいう。なお、送信装置は、問い合せを受信すると遅滞なく応答信号を送信するものとする。
【0017】
なお、送信装置と受信装置100間の通信は、UWB(ウルトラ・ワイド・バンド)規格に従って実行されてもよい。UWBは規格上、距離の測定が可能となっている。UWBの測距機能を使用すれば、約数十cmの測距精度を実現できるといわれている。なお、UWBによる具体的な測距技術については後述する。
【0018】
また、UWBは、IEEE802.11a/b/g等の無線LAN規格と比較し、通信可能範囲は狭いものの、より高速の通信が可能となっている。よって、UWBは、家庭内での機器の有線接続をケーブルレス接続に置き換えることも可能な規格となっている。例えば、UWBは、ワイヤレスヘッドフォンへ応用されることも期待されている。なお、UWBは、一例にすぎず、通信と測距とを実現可能な他の無線規格(赤外線による通信規格)などが採用されてもよい。
【0019】
図2は、実施形態に係る送信装置の例示的なブロック図である。測距部201は、送信装置200と受信装置100との間の距離を測定するユニットである。なお、測距部201はオプションである。送信装置200と受信装置100の少なくとも一方に測距部が存在すれば十分だからである。RF部202は、受信装置100から送信される信号を受信して復調したり、信号を変調して受信装置100へ送信したりするユニットである。符号化部203は、送信対象のデータを符号化するユニットである。符号化部203は、ベースバンド処理部の一例である。
【0020】
制御部204は、送信装置200に含まれる各ユニットを制御するユニットである。例えば、制御部204は、受信装置100において音響情報の出力音量を調整するために使用される距離情報を、RF部202を介して送信してもよい。もちろん、制御部204は、ROM205から読み出した音響情報を、RF部202を介して送信してもよい。ROM205は、音響情報や制御プログラムなどを記憶する不揮発性の記憶装置である。RAM206は、ワークエリアとして機能する揮発性の記憶装置である。
【0021】
図3は、実施形態に係る音響情報の伝送システムの一例を示す図である。受信装置100は、送信装置200から音響情報を受信して出力する。受信装置100は、送信装置200との間の距離に応じて出力音量を調整し、受信した音響情報を出力する。
【0022】
図4は、実施形態に係る音響情報の伝送処理を示す例示的なフローチャートである。ステップS401において、制御部104は、RF部102に対して周囲に存在する送信装置をサーチするよう指示する。RF部102は、サーチ結果を制御部104に返す。なお、復号部103がサーチに関与してもよい。
【0023】
ステップS402において、制御部104は、送信装置が発見されたか否かを判定する。例えば、制御部104は、送信装置200が送信する識別信号(ビーコンやその他)または音響情報などを受信できたか否かを判定する。送信装置が発見されないときは、ステップS401に戻る。なお、ステップS401に戻る代わりに、制御部104がエラー処理を実行してもよい。
【0024】
ステップS403において、制御部104は、距離情報を取得する。例えば、制御部104は、測距部101に対して、発見された送信装置200までの距離を測定するよう指示する。測距部101は、例えば、RF部102を用いて送信装置200と通信することで、距離情報を取得する。なそ、測距部101は、送信装置200の測距部201により測定された距離に関する距離情報をRF部102および復号部103を通じて受信してもよい。
【0025】
ステップS404において、制御部104は、取得した距離情報に応じて、出力音量を調整する。例えば、制御部104は、距離が長くなればなるほど、出力音量を相対的に小さくするように決定してもよい。また、制御部104は、距離が近くなればなるほど、出力音量を相対的に大きくするように決定してもよい。この場合、ユーザは、どの機器から音響情報が送信されているかを出力音量が大きいか小さいかに基づいて認識できよう。
【0026】
ステップS405において、制御部104は、調整された出力音量に応じて、利得可変アンプ105の増幅利得を変更し、送信装置200から受信した音響情報をヘッドフォン部107から出力する。
【0027】
本実施形態によれば、受信装置100と送信装置200との距離に応じて出力音量が調整されるため、ユーザは、出力音量を目安として自己の意思に応じて聴取対象を選択できであろう。
【0028】
例えば、距離が長くなればなるほど、出力音量を相対的に小さくすれば、ユーザは、どの機器から音響情報を出力されているか否かを、出力音量に応じて認識できる。よって、ユーザは、所望の音響情報を送信している送信装置へと近づくだけで、所望の送信装置を選択できる。受信装置に対する特別な操作は一切不要であるか、ほとんど不要となろう。また、従来のように、送信装置におけるビームパターンの調整などは不要であり、高度な知識や経験がなくても、ユーザは容易に所望の送信装置を選択できる。
【0029】
上述したように、測距部は、受信装置100が備えてもよいし、送信装置200が備えてもよい。これは、最終的に受信装置が距離情報を入手できれば、十分だからである。ただし、受信装置よりも送信装置が多くなるようなアプリケーションでは、受信装置に測距機能を搭載した方がコスト低減には有利であろう。逆に、送信装置よりも受信装置が多くなるようなアプリケーションでは、送信装置に測距機能を搭載した方がコスト低減には有利であろう。
【0030】
[第2の実施形態]
第2の実施形態は、複数の送信装置が存在する場合における音響情報の伝送技術と、複数の音響情報を同時に出力する技術に関するものである。とりわけ、複数の音響情報を合成して出力する際における合成比(以下、MIX比)の決定方法について詳細に説明する。
【0031】
図5は、実施形態に係る他の伝送システムの一例を示す図である。図からわかるように、第1の送信装置200に加えて、第2の送信装置500が受信装置100の周囲に存在している。特許文献2のように、一方の送信装置を優先順位にしたがって択一的に選択したのでは、接続すべき送信装置の切り替えが唐突に発生するため、ユーザは、不自然さを感じるであろう。本実施形態は、このような不自然さを低減し、自然な切り替え感を達成しようとするものである。
【0032】
図6は、実施形態に係る音響情報の伝送処理を示す例示的なフローチャートである。ここでは、上述したステップS401およびS402についての説明は省略する。
【0033】
ステップS601において、制御部104は、受信可能な送信装置の数が1つであるかそれ以上であるかを判定する。1つであれば、ステップS606に進み、制御部104は、送信装置200から音響情報を受信する。ステップS607において、制御部104は、MIX比を1に設定する。ここで、MIX比は、複数の送信装置から受信した音響情報を合成して出力する際の出力音量の比をいう。
【0034】
一方、送信装置が複数であれば、ステップS602に進み、制御部104は、RF部102および復号部103を用いて、送信装置200と送信装置500からそれぞれ音響情報を受信して復号する。
【0035】
ステップS603において、制御部104は、各送信装置と受信装置100との間の距離に関する情報を取得する。上述したように、測距処理は、受信装置が実行してもよいし、送信装置が実行してもよい。
【0036】
ステップS604において、制御部104は、各送信装置と受信装置との距離に応じて各音響情報の合成比を決定する。例えば、送信装置200と受信装置との距離がaで、送信装置500と受信装置との距離がbであれば、MIX比は、b:aとしてもよい。MIX比が距離の比の逆数になっているのは、距離の長さと、音量とが概ね反比例となるからである。
【0037】
ステップS605において、制御部104は、決定したMIX比に応じて各アンプの利得を設定し、音響情報をヘッドフォン部107から出力する。
【0038】
図7は、実施形態に係るMIX比を決定するための制御線を示すグラフである。基本的に、送信装置200と受信装置との距離aと、送信装置500と受信装置との距離bとの比(a/b)に反比例して、MIX比が決定されていることを理解できよう。
【0039】
ただし、距離の比b/aが所定の閾値Th1を超えると、制御部104は、合成比を1:0に決定する。例えば、送信装置200からの距離aが極端に短く、送信装置500からの距離bが極端に長い場合、MIX比が1:0となる。したがって、送信装置200からの音響情報のみがヘッドフォン部107から再生される。
【0040】
逆に、距離の比b/aが所定の閾値Th2以下となる、制御部104は、合成比を0:1に決定する。例えば、送信装置500からの距離が極端bに短く、送信装置200からの距離が極端aに長い場合、MIX比が0:1となる。したがって、送信装置500からの音響情報のみがヘッドフォン部107から出力される。
【0041】
もちろん、ユーザが、受信装置100を携帯しながら送信装置200から送信装置500へと近づいて行くと、MIX比は1:0から次第に0:1に近づいてゆく。すなわち、送信装置200から送信される音響情報の出力音量は次第に小さくなり、送信装置500からの送信される音響情報の出力音量は次第に大きくなって行く。
【0042】
図8は、複数の送信装置が存在する場合の各出力可能範囲を説明するための図である。出力可能範囲とは、音響情報を受信して出力できる地理的な範囲のことである。一般に、出力可能範囲は、通信可能範囲の内側に存在する。すなわち、受信装置が送信装置と通信可能であったとしても、受信装置は、送信装置が送信する音響情報を出力しない場合があることを意味する。図中の同心円は、各送信装置についての出力可能範囲を示している。
【0043】
とりわけ、図8によれば、4つの送信装置(テレビ受像機(TV)、携帯電話機(Phone)、携帯ゲーム機(Game)およびオーディオ装置(Audio))が示されている。また、ヘッドフォン型の受信装置は、携帯ゲーム機の出力可能範囲に属しており、他の送信装置の出力可能範囲には属していない。
【0044】
この状態で、受信装置100を装着しているユーザには、携帯ゲーム機の音響情報(音声、背景音楽、効果音など)のみが聴こえている。よって、ユーザは、他の送信装置からの音に邪魔されることなく、携帯ゲーム機の音のみを聴取することができる。また、受信装置100は、各送信装置との距離に応じて、音響情報の出力可否の設定や出力音量の調整を実行するため、ユーザは、受信装置に対して特別な操作をすることなく、所望の音響情報を享受できる。すなわち、ユーザの利便性が向上する。
【0045】
図9は、複数の送信装置が存在する場合の各出力可能範囲を説明するための図である。とりわけ、ユーザは、オーディオ装置の出力可能範囲から、テレビ受像機の出力可能範囲へと移動するものとする。
【0046】
この場合、ユーザは、当初、オーディオ装置からの音響情報が相対的に大きく聴こえている。ユーザは、テレビ受像機へと近づいて行くにつれて、テレビ受像機の音響情報が相対的に大きく聴こえるようになり、オーディオ装置からの音響情報が相対的に小さく聴こえるようになる。そして、ユーザが、オーディオ装置ネント装置の出力可能範囲を抜けると、ユーザは、テレビ受像機からの音響情報のみを聴けるようになる。
【0047】
図10は、複数の送信装置が存在する場合の各出力可能範囲を説明するための図である。とりわけ、ユーザは、オーディオ装置と携帯電話機との中間に位置している。よって、受信装置100は、MIX比を0.5:0.5(=1:1)に決定する。すなわち、ユーザは、オーディオ装置からの再生音と携帯電話からの再生音を同時かつ同音量で聴けることになる。例えば、ユーザは、オーディオ装置からの再生音を聴きつつ、携帯電話機を用いて通話できる。もちろん、受信装置100は、マイク、RF部および符号化部を用いて、送話用の音声を携帯電話機に送信できるものとする。
【0048】
このように、本実施形態によれば、受信装置は、周囲に存在する複数の送信装置から送信される各音響情報を距離に応じた出力音量でもって再生することができる。よって、ユーザは、所望の音響情報の出力音量が大きくなる方向へと移動することで、所望の音響情報を選択できる。
【0049】
また、各送信装置との距離の比が所定の閾値を超えたときは、相対的に近い送信装置からの音響情報のみを再生することで、ユーザは、所望の音響情報だけを選択して聴取できる。
【0050】
さらに、本実施形態によれば、受信装置が、周囲に存在する複数の送信装置から送信される各音響情報の出力音量を距離に応じて調整するため、聴取対象の切り替えも自然に感じられるようになろう。
【0051】
[第3の実施形態]
本実施形態は、距離情報から送信装置と受信装置との間の相対的な移動速度に応じて出力音量を変更するものである。なお、第1、第2の実施形態において、周期的に測距しつつ、出力音量を調整すれば、同様の効果を達成できよう。また、一般に送信装置が固定されていて、受信装置だけが移動されることが多いと思われるが、本発明はこれに限定されない。すなわち、送信装置が移動してもよい。
【0052】
図11は、複数の送信装置が存在し、かつ、複数のユーザがこれらの送信装置間を移動する例を説明するための図である。この図において、各ユーザの移動速度は異なっているものとする。この例では、受信装置1101よりも高速に受信装置1102が高速に移動している。
【0053】
図12は、実施形態に係る受信装置の例示的なブロック図である。なお、既に説明した個所には同一の参照符号を付すことで説明を簡略化する。
【0054】
図1と比較すると、送信装置と受信装置との間の相対的な移動速度を決定するための移動速度決定部1201が追加されていることを理解できよう。移動速度決定部1201は、周期的なタイミングで取得された距離情報と、取得周期とに基づいて、各周期における移動速度を決定する。すなわち、移動速度[m/s]は、周期的なタイミングのうち、あるタイミングで取得された距離と、次のタイミングで取得された距離との差[m]を周期[sec]で除算することで算出される。もちろん、あるタイミングと後続のタイミングとの時間差によって距離の変化量を除算しても移動速度が算出できることは明らかであろう。
【0055】
図13は、実施形態に係る音響情報の伝送処理を示す例示的なフローチャートである。なお、既に説明した個所には同一の参照符号を付すことで説明を簡略化する。図6と比較すると、MIX比の決定工程(S604)に代えて、ステップS1301、S1302が採用されていることを理解できよう。
【0056】
ステップS1301において、制御部104は、移動速度決定部1201に移動速度を決定するよう指示する。移動速度決定部1201は、測距部101により取得された距離に基づいて移動速度を決定する。
【0057】
ステップS1302において、制御部104は、取得された距離と移動速度とに応じてMIX比を決定する。例えば、ある送信装置に対して受信装置が第1の速度で近づいている場合と、第1の速度より速い第2の速度で近づいている場合とでは、それぞれ距離が同じであったとしても、後者の場合の出力音量を相対的に大きくする。
【0058】
図14は、実施形態に係るMIX比を決定するための制御線を示すグラフである。破線は、通常速度で移動した場合の制御線を示している。実線は、通常速度よりも高速の速度で移動した場合の制御線を示している。制御部104は、移動速度に応じて、複数用意された制御線を切り替えることができる。
【0059】
図からわかるように、高速移動の制御線の傾きは、通常速度による移動の制御線の傾きよりも急峻となっている。そのため、図11においてオーディオ装置からテレビ受像機へと高速で移動している受信装置1102ユーザは、急激な音量の変化を感じることになる。逆にオーディオ装置からテレビ受像機へと低速で移動している受信装置1101のユーザは、相対的に緩やかな音量の変化を感じることになる。
【0060】
さらに、図14からわかるように、距離の比χ(=b/a)が同じであっても、移動速度が異なっているので、MIX比も異なっている。すなわち、受信装置が任意の送信装置に対してより高速で近づいているときは、より早い時点で、当該送信装置からの出力音量が大きくなる。同様に、高速移動の場合は、より早い時点で、受信装置から離れられた送信装置からの音響情報についての出力音量が小さくなる。
【0061】
このように移動速度の違いに応じて音量を調整することで、さらにユーザの意思を反映させることが可能となろう。例えば、所望の音響情報を送信している送信装置へと高速に近づけば、ユーザは、より早い段階で、所望の音響情報のみを聴くことが可能となる。
【0062】
[第4の実施形態]
上述したUWBの測距機能を実現する方式は、種々存在する。例えば、IR(インパルス無線)−UWB方式、DS(直接拡散)−UWB方式、または、MB(マルチバンド)−OFDM−UWB方式などを、測距部101、RF部102、復号部103に採用してもよい。ここでは、便宜上、測距部101、RF部102および復号部103を無線部(PHY)と呼ぶことにする。なお、送信装置についても同様の構成を採用できることは言うまでもない。
【0063】
IR−UWB方式は、最も単純な方法であり、搬送波を用いずに微細なパルス幅(0<パルス幅=<1ナノ秒(ns))のパルスを使用する方式である。なお、現時点では、数百ピコ秒(ps)から1ns以下の幅を有するパルスが検討されている。
【0064】
DS−UWB方式およびMB−OFDM−UWB方式は、マルチバンド方式の一種で、UWBで使用する周波数帯を複数のバンドに分割し、各バンドで搬送波を変調する方式である。DS−UWB方式は、直接拡散技術を使用するが、MB−OFDM−UWB方式は、OFDMと周波数ホッピングとを組み合わせて使用する。
【0065】
図15は、実施形態に係る無線部(UWB PHY)の一例を示す図である。ここでは、IR―UWB方式の無線部について説明する。無線部は、送信部1500と受信部1550を含む。送信部1500において、パルス発生器1501は、入力されたデータに対応するパルス信号を生成する。増幅器1502は、生成されたパルス信号を増幅する。一方、受信部1550において、増幅器1551は、受信したパルス信号を増幅する。相関器1552は、受信したパルス信号からデータを取り出すために、受信したパルス信号とテンプレートパルス信号との相関値を求める。相関値は、基本的に0か1となるので、相関値に基づいてデータが決定される。
【0066】
なお、測距部101が測距を行うタイミングは、音響情報を受信するために無線部が使用されていないときであれば、いつでもよい。例えば、スーパーフレームにおいて、65msごとにビーコン区間が挿入されると仮定する。この場合、このビーコン区間を用いて測距を行えば、データ区間に与える影響がほとんどなくて好ましい。
【0067】
制御部104は、測距用のUWBパルス信号が送信部1500から送出されてから測距対象物に反射して受信部1550により受信されるまでの時間を測定する。測距部101は、この時間を電波の伝播速度と乗算することで距離を算出する。なお、この距離は無線通信装置と測距対象物との間の往復距離となるため、往復距離を2で除算することで、片道の距離が決定される。
【0068】
なお、測距対象物が他の無線通信装置であれば、測距部101は、他の無線通信装置が折り返して送信する信号を受信することで、信号の往復時間を測定してもよい。ただし、折り返し信号を利用する場合は、反射信号を利用する場合に比較し、測距精度が相対的に低下する傾向にある。
【0069】
複数の無線通信装置が同期して通信する場合は、同期時刻からのビーコン到着のずれ時間に基づいて、測距部101は、相手側の無線通信装置まで距離を測定することもできる。ただし、複数の無線通信装置間に同期ずれがあると、この測距方法は測距精度が低下してしまう。よって、測距精度に関しては、反射信号を利用する方法が優れているだろう。一般に、測距情報を利用するアプリケーションによって、必要とされる測距精度が異なってくる。そのため、アプリケーションを考慮した上で測距方法を決定してもよい。
【0070】
図16は、実施形態に係る他の無線部の一例を示す図である。ここでは、DS―UWB方式の無線部について説明する。無線部は、送信部1600と受信部1650を含む。送信部1600の符号変調器1601は、入力されたデータについて位相変調や振幅変調などの1次変調を実行する。拡散変調器1602は、1次変調された信号に対して拡散変調(2次変調)を実行する。一方、受信部1650の拡散復調器1651は、受信した信号を逆拡散する。なお、逆拡散する際には、送信側で使用された拡散符号と同一の拡散符号が用いられる。このような拡散符号の相関演算により、相関ピークが得られる。よって、測距部101は、この相関ピークを用いて、測距を行うことができる。符号復調器1652は、逆拡散された信号を復調することでデータを抽出する。
【0071】
図17は、実施形態に係る他の無線部の一例を示す図である。ここでは、OFDM―UWB方式の無線部について説明する。送信部1700において、シリアルパラレル変換器(S/P)1701は、入力されたシリアルデータをパラレルデータに変換する。複数の変調器(mod)1702は、各パラレルデータに対して符号変調を実行する。逆フーリエ変換器1703は、符号変調された信号(周波数軸の信号)を時間軸の信号に変換する。一方、受信部1750の低域通過フィルタ(LPF)1751は、受信した信号のうち低域成分を抽出する。フーリエ変換器1752は、抽出された信号をフーリエ変換することで周波数軸上の複数の信号成分に変換する。複数の復調器(dmod)1753は、各信号成分を復調することで、それぞれデータを抽出する。パラレルシリアル変換器(P/S)1754は、パラレルデータをシリアルデータに変換する。
【0072】
ここで、測距に関しては、逆フーリエ変換器1755が、フーリエ変換器1752からの信号を逆フーリエ変換することで時間軸でのパルス列を抽出する。パルス決定部1756は、複数のパルス列のうち最も早く到達したパルスを決定し、決定したパルスのみを測距部101に出力する。よって、測距部101は、この最も早く到達したパルスに基づいて測距をすることができる。
【0073】
図18は、実施形態に係る通信フレームの構成例を示す図である。各フレームの先頭には、ビーコン区間が設けられている。さらに、ビーコン区間に続いて、データ区間が設けられている。なお、n番目のフレームだけでなく、n−1番目のフレーム、n+1番目のフレームも同様の構成である。なお、ビーコン区間は定期的に設けられている。すなわち、無線部は、定期的(例:65ms)にビーコンを送信する。これは、フレームの長さが一定(例:65ms)であることを意味する。フレームは、例えば、256個のメディア・アクセス・スロット(MAS)に分割されている。ビーコンは、同期やMASを予約するために使用される。なお、データ区間内に設けられているDRP(Distributed Reservation Protocol) WUSBは、Wireless USBのデータが行われるMASである。
【0074】
図19は、実施形態に係る通信路の使用状態と無線通信装置の内部処理との時間的な関係を示す図である。図19が示すように、測距部101は、ビーコン区間で、ビーコンの送信と、反射してきたビーコンの受信とを無線部に実行する。そして、測距部101は、データ区間で、無線部から得られた信号に基づいて距離を決定してもよい。例えば、n番目のフレームで測距を行う場合、測距部101は、次のn+1番目のビーコンを送信するタイミングとなるまでに距離の決定を終了すればよい。
【0075】
このように、1つのフレーム周期内で測距を完了できれば、測距部101は、フレームごとに測距を実行できることになる。すなわち、無線部は、定期的にビーコンを送信するための、定期的に測距を実行できる。
【0076】
さらに、測距部101は、定期的に送信されるビーコンに基づいて決定された時間的な距離の変動量から測距対象物の相対速度を測定することができる。例えば、測距部101は、n番目のフレームで検出された距離と、n+1番目のフレームで検出された距離との差分をフレーム周期(例:65ms)で除算することで、移動速度を算出できる。なお、この移動速度は、無線通信装置と測距対象物についての相対速度に相当することは言うまでもない。
【0077】
以上様々な実施形態を説明したが、各実施形態は、種々の点で従来技術よりも優れている。例えば、実施形態に係るワイヤレスヘッドフォン型の受信装置を装着したユーザは、特別な操作をすることなく、複数の送信装置のうち、聴取対象の音響情報を送信している送信装置を選択できる。また、当該受信装置を装着した複数のユーザが存在する場合も、各ユーザは、他のユーザの影響を受けることなく、所望の聴取対象を容易に選択できる。
【0078】
例えば、大音量で音を再生できないような住環境(マンションなど)に、複数人が居住しているとする。さらに、図8などに示したように、特定の部屋(例:リビング)に複数の送信装置が設置されているとする。このような場合においても、各ユーザは、自己の意思に従って部屋内を移動することで、所望の音響情報を聴取できる。
【0079】
また、博物館や美術館等の音声案内を聴く場合はヘッドフォンを使用することが多い。このような場合にも本発明は有効である。さらに、基本的に静粛な状況が求められていながらも、ゲーム機やオーディオ機器等の多数の送信装置が一定の範囲内に設定されているマンガ喫茶のような娯楽施設においても本発明は有効であろう。
【0080】
なお、上述してきた伝送システムは、基本的にデジタル伝送を実行するものである。これにより、アナログ伝送と比較して、所望の音響情報を選択することが容易となるからである。
【図面の簡単な説明】
【0081】
【図1】実施形態に係る受信装置の例示的なブロック図である。
【図2】実施形態に係る送信装置の例示的なブロック図である。
【図3】実施形態に係る音響情報の伝送システムの一例を示す図である。
【図4】実施形態に係る音響情報の伝送処理を示す例示的なフローチャートである。
【図5】実施形態に係る他の伝送システムの一例を示す図である。
【図6】実施形態に係る音響情報の伝送処理を示す例示的なフローチャートである。
【図7】実施形態に係るMIX比を決定するための制御線を示すグラフである。
【図8】複数の送信装置が存在する場合の各出力可能範囲を説明するための図である。
【図9】複数の送信装置が存在する場合の各出力可能範囲を説明するための図である。
【図10】複数の送信装置が存在する場合の各出力可能範囲を説明するための図である。
【図11】複数の送信装置が存在し、かつ、複数のユーザがこれらの送信装置間を移動する例を説明するための図である。
【図12】実施形態に係る受信装置の例示的なブロック図である。
【図13】実施形態に係る音響情報の伝送処理を示す例示的なフローチャートである。
【図14】実施形態に係るMIX比を決定するための制御線を示すグラフである。
【図15】実施形態に係る無線部(UWB PHY)の一例を示す図である。
【図16】実施形態に係る他の無線部の一例を示す図である。
【図17】実施形態に係る他の無線部の一例を示す図である。
【図18】実施形態に係る通信フレームの構成例を示す図である。
【図19】実施形態に係る通信路の使用状態と無線通信装置の内部処理との時間的な関係を示す図である。
【符号の説明】
【0082】
101:測距部
102:高周波送受信部
103:データ復号部
104:制御部
105:利得可変アンプ
106:合成部
107:ヘッドフォン部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
音響情報を伝送する伝送システムであって、
音響情報を送信する1以上の送信装置と、
前記音響情報を受信して出力する受信装置と、
を含み、さらに、
前記受信装置は、
前記送信装置との距離に関する距離情報を取得する取得手段と、
受信した前記音響情報の出力音量を前記距離情報に従って調整する音量調整手段と
を含むことを特徴とする伝送システム。
【請求項2】
前記取得手段は、
各送信装置と前記受信装置との間の距離を測定する測定手段
を含むことを特徴とする請求項1に記載の伝送システム。
【請求項3】
前記送信装置は、
該送信装置と前記受信装置との間の距離を測定する測定手段と、
前記距離に関する距離情報を前記受信装置へ送信する送信手段と
を含み、
前記受信装置の前記取得手段は、
前記送信装置から送信される前記距離情報を受信する受信手段
を含むことを特徴とする請求項1に記載の伝送システム。
【請求項4】
前記受信装置および前記送信装置は、
UWB規格の通信手段を含み、
前記測定手段は、
前記通信手段に含まれるUWB規格の測距機能により前記距離を測定することを特徴とする請求項2または3に記載の伝送システム。
【請求項5】
前記音量調整手段は、
前記距離が長くなればなるほど、前記出力音量を相対的に小さくする手段
を含むことを特徴とする請求項1ないし4のいずれかに記載の伝送システム。
【請求項6】
前記音量調整手段は、
複数の送信装置から受信したそれぞれの音響情報を合成して出力する際に、各送信装置と前記受信装置との距離に応じて各音響情報の合成比を決定する合成比決定手段と、
決定された前記合成比に応じた出力音量でもって各音響情報を出力する出力手段と
を含むことを特徴とする請求項1ないし5のいずれかに記載の伝送システム。
【請求項7】
前記音量調整手段は、
取得された前記距離情報から前記送信装置と前記受信装置との間の相対的な移動速度を決定する移動速度決定手段と、
決定された前記移動速度に応じて前記出力音量を変更する変更手段と
を含むことを特徴とする請求項1ないし6のいずれかに記載の伝送システム。
【請求項8】
音響情報を送信する1以上の送信装置から前記音響情報を受信して出力する受信装置であって、
前記送信装置との距離に関する距離情報を取得する取得手段と、
前記距離情報に従って、受信した前記音響情報の出力音量を調整する音量調整手段と
を含むことを特徴とする受信装置。
【請求項9】
音響情報を送信する1以上の送信装置から前記音響情報を受信して出力する受信出力方法であって、
前記送信装置との距離に関する距離情報を取得する取得工程と、
受信した前記音響情報の出力音量を前記距離情報に従って調整する調整工程と
を含むことを特徴とする受信出力方法。
【請求項10】
受信装置に対して音響情報を送信する送信装置であって、
前記受信装置との距離を測定する測定手段と、
前記受信装置において前記音響情報の出力音量を調整するために使用される前記距離に関する距離情報と、該音響情報とを送信する送信手段と
を含むことを特徴とする送信装置。
【請求項11】
受信装置に対して音響情報を送信する送信方法であって、
前記受信装置との距離を測定する測定工程と、
前記受信装置において前記音響情報の出力音量を調整するために使用される前記距離に関する距離情報と、該音響情報とを送信する送信工程と
を含むことを特徴とする送信方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【公開番号】特開2007−329877(P2007−329877A)
【公開日】平成19年12月20日(2007.12.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−161642(P2006−161642)
【出願日】平成18年6月9日(2006.6.9)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】