説明

音響波型位置検出装置

【課題】音響波型の位置検出装置において、複数の物体が接触対象の面上をドラッグしているとき、物体がこの面上に実際に接触したか否かを正確に検出可能とする。
【解決手段】物体の接触対象である面2aに沿って音響波を伝搬させるとともに、この伝搬した音響波を検出して電気的な検出信号S3、S4を得、音響波が物体によって遮断されたときの検出信号S3、S4の減衰に基づいて、該物体の前記面2a上の接触位置を検出するように構成された音響波型位置検出装置100において、面2a上を複数の物体がドラッグしている際に出力される前記減衰の状態を示す信号の振幅並びに、該信号の立ち上がり部の長さ、ピーク間距離および波形の少なくとも1つに基づいて、物体の前記面2aへの接触の有無を検出する検出手段21、22を設ける。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、タッチパネル等を構成する音響波型位置検出装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、例えば特許文献1に示されるように、音響波型の位置検出装置が公知となっている。この音響波型位置検出装置は基本的に、人間の指等の物体の接触対象である面に沿って音響波を伝搬させるとともに、この伝搬した音響波を検出して電気的な検出信号を得、音響波が物体によって遮断されたときの前記検出信号の減衰に基づいて、該物体の前記面上の接触位置を検出するように構成されたものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2004−164289号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
このような基本構成を有する従来の音響波型位置検出装置は多くの場合、上記減衰の状態を示す信号を生成し、この信号において上記減衰に対応して生じるピーク部に基づいて、物体の前記面への接触位置を検出するように構成されている。より具体的には、上記ピーク部の振幅が所定の閾値以上となっている場合は減衰が生じている、つまり物体が面に接触していると判断され、そのピーク部が発生した時間に基づいて接触位置が検出されるようになっている。
【0005】
ところが、そのような従来の音響波型位置検出装置においては、接触対象の面に物体が実際に接触しているのにも拘わらず、接触を示す信号が得られないという不具合が発生することが認められている。このような不具合は特に、接触対象の面上を指等の物体がドラッグ(接触を維持したまま移動すること)していて、しかもマルチタッチ(接触している物体が複数)である場合に多く認められる。このような事情を考慮すると、接触を示す信号が得られない場合、それが上記不具合によるものであるか、あるいは本当に接触がなされなかったのかを正確に知ることが求められる。つまり、実際は接触がなされているのに上記不具合が発生しているのであると正確に把握できれば、適宜の方法により、接触位置を求めることも可能になるからである。
【0006】
本発明は上記の事情に鑑みてなされたものであり、音響波型の位置検出装置において、物体が接触対象の面に実際に接触しているか否かを正確に検出することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明による音響波型位置検出装置は、
前述したように、物体の接触対象である面に沿って音響波を伝搬させるとともに、
この伝搬した音響波を検出して電気的な検出信号を得、
音響波が物体によって遮断されたときの前記検出信号の減衰に基づいて、該物体の前記面上の接触位置を検出するように構成された音響波型位置検出装置において、
前記面上を複数の物体がドラッグしている際に出力される前記減衰の状態を示す信号の振幅並びに、該信号の立ち上がり部の長さ、ピーク間距離および波形の少なくとも1つに基づいて、物体の前記面への接触の有無を検出する検出手段を備えたことを特徴とするものである。
【0008】
なお上記の検出手段は、ある時点における該物体の前記面への接触位置を、その時点の前に検出された接触位置に基づいて予測して求めるように構成されていてもよい。
【発明の効果】
【0009】
本発明の音響波型位置検出装置は、上記の通り、前記面上を複数の物体がドラッグしている際に出力される前記減衰の状態を示す信号の振幅並びに、該信号の立ち上がり部の長さ、ピーク間距離および波形の少なくとも1つに基づいて、物体の前記面への接触の有無を検出するように構成されているので、上記減衰の状態を示す信号の振幅だけに基づいて接触の有無を検出するようにした従来装置と比べれば、マルチタッチでドラッグされる場合の接触有無の検出精度をより高いものとすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】本発明の一実施形態による音響波型位置検出装置の概略正面図
【図2】上記音響波型位置検出装置の一部を示す部分側面図(a)と部分正面図(b)
【図3】上記音響波型位置検出装置における位置検出信号の一例を示すグラフ
【図4】上記音響波型位置検出装置における位置検出信号の別の例を示すグラフ
【図5】上記音響波型位置検出装置におけるタッチ信号の一例を示すグラフ
【図6】上記音響波型位置検出装置におけるタッチ信号の別の例を示すグラフ
【図7】上記音響波型位置検出装置におけるタッチ信号のさらに別の例を示すグラフ
【図8】音響波型位置検出装置において生じ得る問題を説明する図
【図9】上記音響波型位置検出装置においてなされる接触位置検出を説明する図
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、図面を参照して本発明の実施形態を詳細に説明する。図1は、本発明の一実施形態による音響波型位置検出装置100の概略正面形状を示すものである。図示の通り本実施形態の音響波型位置検出装置100は基本的に、タッチパネル1、パルス発生器20、信号処理回路21およびコンピュータ22からなり、タッチパネル1の表面に接触した指等の位置を検出するように構成されたものである。後述するように、上記信号処理回路21およびコンピュータ22は、タッチパネル1に対する物体の接触の有無を検出する手段を構成している。
【0012】
上記タッチパネル1は、矩形のガラス基板2を有する。このガラス基板2の表面2aには、4つの反射アレイ6a、6b、6c、6dが、全体としてタッチ領域12を四方から囲むように形成されている。つまり、ガラス基板2の横方向、縦方向を各々X方向、Y方向と規定すると、反射アレイ6a、6bはそれぞれガラス基板2の上端縁4a、下端縁4bに沿ってX方向に延びるように、そして反射アレイ6c、6dは、それぞれガラス基板2の左端縁4c、右端縁4dに沿ってY方向に延びるように形成されている。
【0013】
各反射アレイ6a、6b、6c、6dには、音響波の一例である表面弾性波を反射するために、多数の傾斜した突条すなわち傾斜線8が形成されている。これらの傾斜線8は、鉛ガラスの微粉末をペースト状にしたものをスクリーン印刷等によりガラス基板2上に印刷した後、焼結することによって形成されたものである。本実施形態において各傾斜線8は、ガラス基板2の端縁4a、4b、4c、4dに対して45°の角度をなす向きに形成されている。そしてより詳しくは、反射アレイ6aの各傾斜線8と、反射アレイ6bの各傾斜線8とは、互いに90°の角度をなすように形成されている。他方、反射アレイ6cの各傾斜線8と、反射アレイ6dの各傾斜線8も、互いに90°の角度をなすように形成されている。なお音響波としては、上記表面弾性波以外のものが用いられても構わない。
【0014】
またガラス基板2の表面2a上において、互いに基板対角位置となる2つの隅部には、音響波の発信側のモード変換要素であるグレーティング10b、10cが配設されている。それらのグレーティング10b、10cはそれぞれ、対応する反射アレイ6b、6cに向けて音響波を発射するように配置されている。さらに、ガラス基板2の表面2a上において、別の一つの隅部には、受信側のモード変換要素であるグレーティング10a、10dが配設されている。これらのグレーティング10a、10dは、それぞれ反射アレイ6a、6dから伝搬して来る音響波を受ける位置に配置されている。
【0015】
ここで、発信側の一つのグレーティング10bおよびその近辺の側面形状、正面形状を各々図2の(a)、(b)に示す。同図に示される通りグレーティング10bは、微小な高さを有する複数の平行な突条11がガラス基板2の表面2aに形成されてなるものである。このグレーティング10bに対応する位置においてガラス基板2の裏面2bには、トランスデューサ18が取り付けられている。図1においては省略してあるが、他のグレーティング10a、10cおよび10dに対応する位置にも、上記と同様のトランスデューサ18が取り付けられている。
【0016】
図1に戻って、表面弾性波の発信側となる他方のグレーティング10cも、基本的に上記グレーティング10bと同様に形成されたものである。さらに、受信側のグレーティング10a、10dも同様である。なお、それらのグレーティング10a、10dに対応して設けられた受信側のトランスデューサ18は、バルク波の発生手段ではなく、音響波の検出手段となる。
【0017】
発信側のグレーティング10b、10cに対応するトランスデューサ18には、図1に示すパルス発生器20からそれぞれ、トランスデューサの電極周期長に対応する周波数の電気信号S1、S2が印加される。一方、受信側のグレーティング10a、10dに対応するトランスデューサ18から後述のようにして出力される音響波検出信号S3、S4は、信号処理回路21に入力されるようになっている。この検出回路21および上記パルス発生器20の駆動は、コンピュータ22によって制御される。
【0018】
以下、上記構成を有する位置検出装置100の作用について説明する。まず、X方向位置の検出について説明する。グレーティング10bに対応するトランスデューサ18に対して、パルス発生器20から前述のような電気信号S1が印加されると、このトランスデューサ18から例えば周波数が5.5MHz程度の超音波振動(バルク波)が励振される。このバルク波はガラス基板2内を通過して、グレーティング10bでバースト波である表面弾性波に変換される。
【0019】
この表面弾性波は反射アレイ6bに向かって−X方向に伝搬し、一部は該反射アレイ6bを構成する各傾斜線8で反射して+Y方向に伝搬し、反射アレイ6aを構成する各傾斜線8で反射し、+X方向に伝搬して受信側のグレーティング10aに到達する。表面弾性波はこのグレーティング10aによって超音波振動(バルク波)に変換され、この超音波振動はガラス基板2内を通過して、グレーティング10aと対応して設けられているトランスデューサ18によって電気的な出力信号S3に変換される。
【0020】
このときの表面弾性波の一つの伝搬経路を、図1において14a、14bおよび14cで示す。すなわち、反射アレイ6bの各傾斜線8は、経路14aを通る表面弾性波の一部(約0.5〜1%)を反射するように形成されている。傾斜線8どうしの間隔は表面弾性波の波長の整数倍とされているが、この間隔は、経路14bと平行にタッチ領域12を伝搬する表面弾性波の強度が均一になるように、グレーティング10bから離れるに従って次第に狭くなるように設定されている。こうして傾斜線8の配置密度は、グレーティング10bから離れるに従って指数関数的に増大している。
【0021】
対応する反射アレイ6aの傾斜線8も同様に、グレーティング10aに近いほどその間隔が広く設定されている。ただし、この反射アレイ6aの傾斜線8は、反射アレイ6bの傾斜線8と90°の角度をなす向きに形成されている。つまり反射アレイ16bと反射アレイ16aは、ガラス基板2を上下に二分する中心線に関して、互いに線対称の形状とされている。
【0022】
上記表面弾性波は反射アレイ6b中を−X方向に伝搬するが、該反射アレイ6b中のよりグレーティング10bに近い傾斜線8で反射した表面弾性波ほどより早くグレーティング10aに到達し、グレーティング10bからより遠い傾斜線8で反射した表面弾性波ほどより遅くグレーティング10aに到達する。したがって上記の出力信号S3の波形は、次々とグレーティング10aに到達した表面弾性波、つまりは次々と前記トランスデューサ18に到達した超音波振動を変換して得られた電気信号の包絡線からなる波形となる。そこで、具体的にこの出力信号S3の波形は、上記表面弾性波に特に外乱が作用しなければ、図3に実線で示すようなものとなる。
【0023】
しかしここで、ガラス基板表面2aのタッチ領域12に例えば指等の物体が接触した場合は、その物体によって表面弾性波が遮られるので、上記出力信号S3に、図3に破線で示すような減衰が生じる。この減衰が生じた時間は、タッチ領域12において上記物体が接触したX方向位置と対応するので、出力信号S3の波形に基づいて、この接触のX方向位置を検出することができる。
【0024】
タッチ領域12に接触した物体のY方向位置も、上記と同様にして検出される。すなわち、もう一つの発信側グレーティング10cに対応するトランスデューサ18には、図1に示すパルス発生器20から、トランスデューサの電極周期長に対応する周波数の電気信号S2が印加される。それにより、グレーティング10cから反射アレイ6cに向けて表面弾性波が発せられる。
【0025】
この表面弾性波は反射アレイ6cの傾斜線8、反射アレイ6dの傾斜線8で反射して、図1中に例えば経路16a、16bおよび16cで示すように伝搬し、受信側グレーティング10dに到達する。表面弾性波はこのグレーティング10dによって超音波振動(バルク波)に変換され、この超音波振動はガラス基板2内を通過して、グレーティング10dと対応して設けられているトランスデューサ18によって電気的な出力信号S4に変換される。なお反射アレイ16cと反射アレイ16dは、ガラス基板2を左右に二分する中心線に関して、互いに線対称の形状とされている。
【0026】
出力信号S4の波形は、上記表面弾性波に特に外乱が作用しなければ、図4に実線で示すようなものとなる。しかしここで、ガラス基板表面2aのタッチ領域12に例えば指等の物体が接触した場合は、その物体によって表面弾性波が遮られるので、上記出力信号S4に、図4に破線で示すような減衰が生じる。この減衰が生じた時間は、タッチ領域12において上記物体が接触したY方向位置と対応するので、出力信号S4の波形に基づいて、この接触のY方向位置を検出することができる。
【0027】
以下、上記接触の位置検出について、さらに詳しく説明する。図1に示した信号処理回路21は、上述の出力信号S3を受けると、その減衰に対応したタッチ信号PXを生成し、それをA/D変換した上でコンピュータ22に入力する。このタッチ信号PXは基本的に、出力信号S3の減衰部つまり図3の破線部を上下反転した波形のものであり、一例として減衰部が1箇所のみである場合は例えば図5に示すようなものとなる。つまり、このタッチ信号PXは、上記減衰部の最も減衰が大きい所に対応したピークを持つものとなり、そのピークの中央位置X1が、ガラス基板表面2a上の接触点のX方向位置を示す。また、ガラス基板表面2a上に2つの物体が接触している場合、出力信号S3には減衰部が2箇所発生するので、その場合のタッチ信号PXは例えば図6に示すようなものとなる。
【0028】
信号処理回路21はさらに、もう一つの出力信号S4に基づいて、上記タッチ信号PXと同様のタッチ信号PYを生成し、それをA/D変換した上でコンピュータ22に入力する。このタッチ信号PYは、そのピークが生じている位置が、ガラス基板表面2a上の接触点のY方向位置を示すものとなる。コンピュータ22は、以上のようにして入力されたタッチ信号PX、PYに基づいて、ガラス基板表面2a上の接触点のX,Y座標を示す位置検出信号S(X,Y)を出力する。なお、上記出力信号S3やS4におけるピークの検出は、公知のピーク検出手法を用いて行うことができる。
【0029】
このときコンピュータ22においては、タッチ信号PXのピーク部の振幅、つまり図5中のWhや図6中のWh1、Wh2が所定の第1の振幅閾値Rh1と比較される。その振幅が第1の振幅閾値Rh1を下回る場合、つまり図3に示した出力信号S3の減衰がそれほど顕著でない場合は、さらに該振幅と第2の振幅閾値Rh2(Rh2<Rh1)との比較がなされ、振幅がこの第2の閾値Rh2をも下回った場合(この点については後に詳しく説明する)タッチ信号PXは物体の接触を示していないと判定して無視される。これは、タッチ信号PYについても同様である。このようにタッチ信号PXあるいはPYが無視されたとき、位置検出信号S(X,Y)は出力されない。
【0030】
ここで、以上述べた基本構成を有する音響波型位置検出装置100においては、ガラス基板表面2a上に物体が接触しているのに、その接触点が検出されない事態が生じることがある。この不具合は特に、図8に一例を示すように接触点が複数(いわゆるマルチタッチ)で、かつそれらがある経路L1,L2でドラッグされている際に発生しやすいことが判明している。つまり、この図8の例では、そこにAで示す位置における接触点が検出されず、あたかもその位置で物体がガラス基板表面2aから離れたような位置検出結果が得られてしまうのである。
【0031】
以下、上記の不具合を回避する点について説明する。前述したタッチ信号PX、PYは各々、バースト波である表面弾性波が反射アレイ6b、6cに向けて1回発せられる毎に生成される。そこで、第n回目に表面弾性波が発せられたときに得られるタッチ信号をそれぞれPXn、PYnと表すことにする。
【0032】
コンピュータ22は、接触点がドラッグされている際に入力されるタッチ信号PX、PYを、例えば連続する数回の入力分(表面弾性波が間欠的に数回発せられたときにそれぞれ得られたタッチ信号PX、PY)だけバッファメモリに格納する。そしてコンピュータ22は、第n回目に表面弾性波が発せられたときに得られたタッチ信号PXn、PYnの振幅が前記第1の閾値Rh1を下回った場合は、該タッチ信号PXn、PYnの振幅並びに下記の条件に基づいて、ガラス基板表面2aへの物体の接触が実際に無いのか、あるいは接触は有るのに上記不具合が生じたのかを判定する。
【0033】
本発明では、タッチ信号の振幅に加えて、該信号の幅、ピーク間距離、および波形の少なくとも1つが上記判定の条件として用いられるが、本実施形態では特に、タッチ信号PXnの振幅並びに、該信号の立ち上がり部の長さおよび波形が用いられる。それらを利用した接触有無の判定は、具体的には次のようにしてなされる。タッチ信号PXnのピーク部の振幅、つまり図5中のWhや図6中のWh1、Wh2が上記第1の閾値Rh1を下回ったとき、その振幅は次に、第2の閾値Rh2(Rh2<Rh1)と比較される。振幅がこの第2の閾値Rh2をも下回った場合、そのタッチ信号PXnは物体接触を示していないとして前述の通り無視される。なお本実施形態では、接触点を2箇所まで検出することを前提としているので、タッチ信号PXnに3つ以上のピークが生じている場合は、振幅が大きい順の2つのピーク部のみが閾値との比較に供される。
【0034】
他方、タッチ信号PXnの振幅が1箇所あるいは2箇所で第2の閾値Rh2以上の値を取っている場合は、該タッチ信号PXnが物体の接触を示している可能性も有る。そこでコンピュータ22は次に、このタッチ信号PXnの立ち上がり部の長さWw(例えば半値全幅:図5および6参照。以下、単に「信号長」という)と、所定の信号長閾値Rwとを比較する。コンピュータ22はこの比較の結果、Ww≦Rwの場合はタッチ信号PXnの波形が例えば図5のような単峰形であり、Ww>Rwの場合はタッチ信号PXnの波形が例えば図6のような双峰形であると判別する。なお信号長Wwは、上述のようにピーク部の半値全幅で規定する他に、例えばピーク値の40%の値を取る部分間の距離等で規定されてもよい。
【0035】
このときコンピュータ22はさらに、公知のパターンマッチング等の手法により、タッチ信号PXnの波形が図5のような単峰形であるかあるいは図6のような双峰形であるかを判別する。
【0036】
コンピュータ22は上記2つの処理により同じ判別結果が得られた場合、その判別結果に基づいて、タッチ信号PXnの波形が単峰形であるかあるいは双峰形であるかを決定する。もし、上記2つの処理により異なる判別結果が得られた場合コンピュータ22は、例えばタッチ信号PXnが物体の接触を示していないと判定する。なお、上記2つの処理のうち一方だけを行い、その結果に基づいてタッチ信号PXnの波形が単峰形であるかあるいは双峰形であるかを決定するようにしてもよい。
【0037】
上記2つの処理により、タッチ信号PXnの波形が単峰形であると判定された場合、コンピュータ22は、タッチ信号PXnのピーク部の振幅が2箇所で第2の閾値Rh2以上の値を取っていたとしても、その振幅がより大きい値を取っているピーク部のみが物体の接触を示していると判定し、そのピーク部のX方向位置つまり図5のX1を接触点のX方向位置として決定する。なお、タッチ信号PXnの波形が基本的には単峰形であるのに、2箇所でピークが検出される場合の波形例を図7に示す。
【0038】
また、上記2つの処理により、タッチ信号PXnの波形が双峰形であると判定された場合コンピュータ22は、振幅が第2の閾値Rh2以上の値を取っているタッチ信号PXnの2つのピーク部が各々物体の接触を正確に示していると判定し、そのピーク部のX方向位置つまり図6のX1およびX2を接触点のX方向位置として決定する。
【0039】
コンピュータ22においては、タッチ信号PYnについても上述と同様の処理がなされ、それにより、ガラス基板表面2aの上における1つまたは2つの接触点のY方向位置が決定される。以上の通りにしてコンピュータ22からは、ガラス基板表面2a上の接触点のX,Y座標を示す、1通りまたは2通りの位置検出信号S(X,Y)が出力される。
【0040】
従来はタッチ信号PX、PYのピーク値(振幅)のみに基づいて接触の有無を検出していたのに対し、以上説明した通り本実施形態においては、ガラス基板表面2aの上を物体がドラッグしている際に出力されるタッチ信号PX、PYのピーク値に加えて、その信号の立ち上がり部の長さおよび波形に基づいて接触の有無を検出するようにしているので、マルチタッチでドラッグされている場合であっても、この検出の精度を高いものとすることができる。つまり従来技術では、例えばタッチ信号PXが図6に示すようなものである場合、Wh1とWh2との間の値を閾値として、それとの大小関係だけに基づいて接触の有無が検出されるとすると、位置X2におけるピーク出現が実際の接触に起因するものであるにも拘わらず、接触とは無関係のものとして無視されることになる。それに対して本実施形態によれば、位置X2におけるピーク出現も実際の接触に起因するものであると認識され得るのは、先に述べた通りである。
【0041】
また、表面弾性波の進行方向に沿って2つの接触点がほぼ重なる状態で並んでいるような場合、それら2つの接触点によるタッチ信号PXあるいはPYのピークは、ほぼ1つに重なった状態で出現する。そのようになったとき、従来の振幅だけによる接触検出では、接触点が1つのみと検出される可能性が高いが、本発明によりタッチ信号PXあるいはPYの波形(例えば信号の立ち上がり部の全体的な高さや、裾部の形状等)も検出条件として用いれば、接触点が2つ有ることを正確に検出可能となる。つまり、上述のように2つの接触点がほぼ重なる状態で並んでいる場合と、1つだけ接触点が存在する場合とを比べれば、前者の方が表面弾性波がより大きく減衰する等のことから、両者の場合の波形は互いに異なる(例えば信号の立ち上がり部の全体的な高さは、前者の方がより高いものとなる)ようになるからである。
【0042】
なお以上述べた実施形態においては、タッチ信号PXnの波形が単峰形であるかあるいは双峰形であるかを判別するためにパターンマッチングの手法を用いているが、それに限らず、タッチ信号PXnを積分処理した値や、あるいはその波形の曲率等に基づいて、単峰形であるかあるいは双峰形であるかを判別することも可能である。
【0043】
また以上述べた実施形態においては、タッチの有無検出のためにタッチ信号PXnの振幅、立ち上がり部の長さおよび波形を利用しているが、その他にタッチ信号PXnのピーク間距離を利用することも可能である。このピーク間距離とは、例えば図6のような波形においては、位置X1とX2との間の距離であり、例えば、このピーク間距離が所定の閾値を下回る場合は波形が単峰形、閾値以上となる場合は双峰形であると判定可能である。このピーク間距離は、前述したタッチ信号PXnの立ち上がり部の長さに替えて好適に利用可能である。ただしそれに限らずに、例えばタッチ信号PXnの立ち上がり部の長さ、ピーク間距離および波形の3つによる判定結果が全て双峰形であるとき、双峰形とみなすようにしてもよい。
【0044】
また本発明においてタッチの有無を判定するに当たっては、タッチ信号の振幅に加えて、該信号の立ち上がり部の長さ、ピーク間距離および波形の3条件のうちのいずれか1つあるいは複数を適宜用いることができる。それらの3条件のいずれを用いる場合でも、タッチ信号の振幅のみに基づいてタッチの有無検出を行う場合と比べて、その検出の精度を高めることが可能である。
【0045】
また以上述べた実施形態においては、タッチ信号PXnのピーク部分のX方向位置をそのまま物体の接触位置としているが、物体の接触が有るか否か、そしてその接触は1点であるか2点であるかを上記実施形態における手法によって行い、接触位置の検出は他の方法によって行うようにしてもよい。以下、そのような別の方法の例について説明する。
【0046】
図9に示すように、ガラス基板2の表面2a上を、指等の物体が例えば直線状の経路L1でドラッグ(接触を保ったままの移動)しているとする。このとき、前述したように第n-3回目、第n-2回目、第n-1回目に表面弾性波が発せられた際に検出された接触点をそれぞれDn-3、Dn-2、Dn-1とする。そして、それらに続いて第n回目に表面弾性波が発せられた際にもドラッグは続行されているのに、接触点Dnが検出されなかった場合を考える。
【0047】
このとき、先に述べたようにコンピュータ22が、入力されたタッチ信号PX、PYを、例えば連続する数回の入力分(表面弾性波が間欠的に数回発せられたときにそれぞれ得られたタッチ信号PX、PY)だけバッファメモリに格納しておけば、コンピュータ22は、それらの格納されたタッチ信号PX、PYが示す接触点Dn-3、Dn-2、Dn-1の位置変化方向および、表面弾性波の発生時間間隔に基づいて、接触点Dnの位置を予測することができる。そこで、接触点Dnが検出されなかった場合に、この予測された接触位置を接触点としても、それと実際の接触点Dnとの間の誤差は少なく、あるいは皆無に抑えられ、実用上特に問題を招くことがない。
【符号の説明】
【0048】
1 タッチパネル
2 ガラス基板
2a ガラス基板の表面(接触対象の面)
6a、6b、6c、6d 反射アレイ
8 傾斜線
10a、10b、10c、10d グレーティング
18 トランスデューサ
20 パルス発生器
21 信号処理回路
22 コンピュータ
100 音響波型位置検出装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
物体の接触対象である面に沿って音響波を伝搬させるとともに、
この伝搬した音響波を検出して電気的な検出信号を得、
音響波が物体によって遮断されたときの前記検出信号の減衰に基づいて、該物体の前記面上の接触位置を検出するように構成された音響波型位置検出装置において、
前記面上を複数の物体がドラッグしている際に出力される前記減衰の状態を示す信号の振幅並びに、該信号の立ち上がり部の長さ、ピーク間距離および波形の少なくとも1つに基づいて、物体の前記面への接触の有無を検出する検出手段を備えたことを特徴とする音響波型位置検出装置。
【請求項2】
前記検出手段が、ある時点における該物体の前記面への接触位置を、その時点の前に検出された接触位置に基づいて予測して求めるように構成されていることを特徴とする請求項1記載の音響波型位置検出装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2012−167943(P2012−167943A)
【公開日】平成24年9月6日(2012.9.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−27012(P2011−27012)
【出願日】平成23年2月10日(2011.2.10)
【出願人】(500549870)タッチパネル・システムズ株式会社 (7)
【復代理人】
【識別番号】100116540
【弁理士】
【氏名又は名称】河野 香
【復代理人】
【識別番号】100139723
【弁理士】
【氏名又は名称】樋口 洋
【Fターム(参考)】