説明

顆粒、焼結体

【課題】 優れた流動性を有する顆粒を用い、成形体の寸法精度の向上及び生産性の向上を図ることができる顆粒等を提供することを目的とする。
【解決手段】 本発明の顆粒は、複数の粒子が、水で結着されたものである。このような顆粒は、粉末冶金、特に希土類焼結磁石の製造に用いるのに適している。この顆粒では、水が、複数の粒子の接点部分に少なくとも介在している。このような顆粒により、流動性が向上し、金型キャビティに対する粒子(顆粒)の充填性を向上させることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えばNd−Fe−B系に代表される希土類焼結磁石等の製造に際し、原料粉体等の流動性を向上させることのできる顆粒等に関するものである。
【背景技術】
【0002】
例えば、希土類焼結磁石を製造する際、焼結に供する原料粉末を微細化することにより飽和磁束密度及び保磁力等の磁気特性を確保している。ところが、原料粉末の微細化は、成形体の寸法精度、生産性を阻害する要因となる。
原料粉末は磁場中での加圧成形により成形体を構成する。この磁場中成形において、静磁場又はパルス磁場を印加して原料粉末の粒子を配向させる。この磁場中成形時、原料粉末が微細であるほどその流動性が悪く、金型への充填性が問題となる。粉末の金型への充填性が劣ると、金型へ粉末を十分に充填することができないために成形体の寸法精度が得られない、あるいは金型への充填自体に時間がかかって生産性を阻害するという問題がある。特に薄肉形状や複雑形状の成形体を精度よくかつ効率的に作製することは困難である。
【0003】
原料粉末の流動性向上の手段の一つとして原料粉末の顆粒化が試みられている。例えば、特開平8−107034号公報(特許文献1)および特開平8−88111号公報(特許文献2)は希土類金属粉末にバインダを添加したスラリをスプレードライすることにより顆粒化する提案を行っている。
また、特公平7−6025号公報(特許文献3)は、希土類金属粉末に磁界を印加して顆粒化する提案を行っている。
【0004】
【特許文献1】特開平8−107034号公報
【特許文献2】特開平8−88111号公報
【特許文献3】特公平7−6025号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1及び2によれば、顆粒を作製することにより流動性を向上することができる。しかし、一次合金粒子同士を例えばPVA(ポリビニルアルコール)といったバインダで結着しているため、一次合金粒子同士の結着力が比較的強い。このように結着力の強い顆粒を磁場中成形に供しても、顆粒の状態を維持しようとするため、各一次合金粒子を配向させることは容易ではない。また、焼成後も、顆粒間に間隙が残ることもある。その結果、得られる希土類焼結磁石の配向度が低く、磁気特性、特に残留磁束密度(Br)の低下や、物理特性の低下を招くことになる。また、バインダに含まれる炭素が磁気特性低下の要因となることから、このバインダを除去する工程が必要となる。
特許文献3によれば、加圧体作製時の磁界印加工程および顆粒を金型に充填後、磁気特性を向上させるための交流磁界印加工程を要する。また、磁界を印加した顆粒であるため残留磁化による流動性の低下が懸念される。
本発明は、このような技術的課題に基づいてなされたもので、優れた流動性を有する顆粒を用い、特性を大きく低下させることなく、成形体の寸法精度の向上及び生産性の向上を図ることができる顆粒等を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上述したように、従来のバインダを用いる顆粒化技術では、バインダを溶解する溶媒として、また、一次合金粒子を分散する分散媒として、有機溶媒を所定量含むスラリを作製していた。本発明者らは、この有機溶媒に着目し、有機溶媒のみで顆粒が作製できないか、研究を行った。その過程で、有機溶媒に代えて、水を用い、同様に顆粒が作製できないか、と考えた。その結果、水のみで顆粒を作製することができ、この顆粒は金型充填時の流動性に優れること、さらに水のみで作製されたこの顆粒は一次合金粒子同士の結着力が比較的弱いため、磁場中成形時に印加される磁場により一次合金粒子に分離して、良好な配向状態を実現できることを確認した。このような顆粒は、所定組成の一次合金粒子に対して水を添加して混合物を得た後、この混合物を用いて一次合金粒子を水で結着させることで作製できる。
【0007】
さて、これに基づいてなされた本発明の顆粒は、複数の粒子が、水で結着されることで形成されていることを特徴とする。このような顆粒、および顆粒を形成する粒子は、物質やその用途を特に限定する意図はないが、本発明は、粉末冶金に適用するのが有効である。特に、希土類焼結磁石の製造工程において、希土類焼結磁石の原料となる所定組成を有した合金粒子を、水で結着させ、顆粒化するのが有効である。
このような顆粒において、水は、複数の粒子の接点部分に少なくとも介在している。つまり、顆粒の状態において、水は蒸発しておらず、液体の状態のまま存在し、顆粒が濡れたままの状態を維持しているのである。このとき、この顆粒を構成する粒子は、水のみによって結着され、他の結着力を有するバインダ等の固体成分等によって結着されていない。
【0008】
本発明による顆粒は、金型キャビティへの迅速な投入を実現するために、安息角が55°以下であることが望ましい。
また本発明は、R214B相(Rは希土類元素から選択される1種又は2種以上の元素、TはFe又はFe及びCoを含む遷移金属元素から選択される1種又は2種以上の元素)を含む組成を有し、平均粒径が2.5〜6μmである合金粒子に適用することが望ましい。
【0009】
水は、有機溶媒等に比較しても、表面張力が強く、発揮する液体架橋力が大きく、顆粒の保形力が大きい。さらに、水は入手が容易であり、磁場中成形工程、焼結工程の過程で蒸発しても水蒸気となるだけで、何ら有害物質を排出せず、環境性に優れる。有機溶媒等に比較すると、粒子の酸化抑止力は劣るものの、上記したような面を重視する場合、本発明は特に有効である。
【0010】
本発明は、上記のような顆粒を用いて形成される焼結体として捉えることもできる。
すなわち、この焼結体は、複数の粒子を水で結着することによって形成された顆粒を、金型中で磁場を印加しつつ加圧成形し、さらに焼結することによって得られたものであることを特徴とすることができる。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、水により粒子が結着された顆粒により、特性を大きく低下させることなく流動性を向上させることができ、成形体の寸法精度の向上及び生産性の向上を図ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、本発明を実施の形態に基づいて詳細に説明する。
本発明は、水により粉末同士を結着させることにより顆粒を構成する。本実施の形態では、粉末の一例として希土類焼結磁石用の一次合金粒子を挙げる。水が粒子間に存在することにより液体架橋が生じて一次合金粒子同士を結着させている。水による結着力は、従来のPVA等のバインダによる結着力に比べて極めて弱い。したがって、本発明により得られた顆粒は、磁場中成形時に印加される磁場によって容易に崩壊し一次合金粒子に分離する。そのため、高い配向度を得ることができる。これまで、PVA等のバインダを用いることが顆粒作製の前提として考えられてきたが、本発明のように水を用いた場合でも、流動性の高い顆粒が得られることを見出した価値は大きい。しかも、この顆粒は、磁場印加により崩壊するため、磁場中成形を行う希土類焼結磁石にとって好適である。加えて、水は、従来のバインダであるPVA等の樹脂に比べて、成形体からの除去が極めて容易であり、従来の顆粒技術を用いた場合には必須とされていた脱バインダ工程を省くことが可能であり、工程的な利点をも含んでいる。
【0013】
以上の水を用いた顆粒化技術を適用した希土類焼結磁石の製造方法について以下説明する。
原料合金は、真空又は不活性ガス、望ましくはAr雰囲気中でストリップキャスト法、その他公知の溶解法により作製することができる。ストリップキャスト法は、原料金属をArガス雰囲気などの非酸化雰囲気中で溶解して得た溶湯を回転するロールの表面に噴出させる。ロールで急冷された溶湯は、薄板または薄片(鱗片)状に急冷凝固される。この急冷凝固された合金は、結晶粒径が1〜50μmの均質な組織を有している。原料合金は、ストリップキャスト法に限らず、高周波誘導溶解等の溶解法によって得ることができる。なお、溶解後の偏析を防止するため、例えば水冷銅板に傾注して凝固させることができる。また、還元拡散法によって得られた合金を原料合金として用いることもできる。
R−T−B系焼結磁石を得る場合、R214B結晶粒を主体とする合金(低R合金)と、低R合金よりRを多く含む合金(高R合金)とを用いる所謂混合法を本発明に適用することもできる。
【0014】
原料合金は粉砕工程に供される。混合法による場合には、低R合金及び高R合金は別々に又は一緒に粉砕される。粉砕工程には、粗粉砕工程と微粉砕工程とがある。まず、原料合金を、粒径数百μm程度になるまで粗粉砕する。粗粉砕は、スタンプミル、ジョークラッシャー、ブラウンミル等を用い、不活性ガス雰囲気中にて行うことが望ましい。粗粉砕に先立って、原料合金に水素を吸蔵させた後に放出させることにより粉砕を行うことが効果的である。水素放出処理は、希土類焼結磁石として不純物となる水素を減少させることを目的として行われる。水素吸蔵のための加熱保持の温度は、200℃以上、望ましくは350℃以上とする。保持時間は、保持温度との関係、原料合金の厚さ等によって変わるが、少なくとも30分以上、望ましくは1時間以上とする。水素放出処理は、真空中又はArガスフローにて行う。なお、水素吸蔵処理、水素放出処理は必須の処理ではない。この水素粉砕を粗粉砕と位置付けて、機械的な粗粉砕を省略することもできる。
【0015】
粗粉砕工程後、微粉砕工程に移る。微粉砕には主にジェットミルが用いられ、粒径数百μm程度の粗粉砕粉末を、平均粒径2.5〜6μm、望ましくは3〜5μmとする。ジェットミルは、高圧の不活性ガスを狭いノズルより開放して高速のガス流を発生させ、この高速のガス流により粗粉砕粉末を加速し、粗粉砕粉末同士の衝突やターゲットあるいは容器壁との衝突を発生させて粉砕する方法である。
【0016】
混合法による場合、2種の合金の混合のタイミングは限定されるものではないが、微粉砕工程において低R合金及び高R合金を別々に粉砕した場合には、微粉砕された低R合金粉末及び高R合金粉末を窒素雰囲気中で混合する。低R合金粉末及び高R合金粉末の混合比率は、重量比で80:20〜97:3程度とすればよい。低R合金及び高R合金を一緒に粉砕する場合の混合比率も同様である。なお、成形時の潤滑及び配向性の向上を目的とした脂肪酸又は脂肪酸の誘導体、例えばステアリン酸系やオレイン酸系であるステアリン酸亜鉛、ステアリン酸カルシウム、ステアリン酸アミド、オレイン酸アミド等を微粉砕時に0.01〜0.3wt%程度添加することができる。
【0017】
以上で得られた微粉砕粉末を造粒して顆粒を作製する。
本発明は水を用いて顆粒を作製する。本発明で用いる水としては、一次合金粒子の酸化を低減するために、溶存酸素量を低減することが望ましい。具体的には、脱溶存酸素処理した純水(イオン交換水)、あるいは窒素等の不活性ガスでバブリングして酸素を不活性ガスで置換した水を用いることが望ましい。
本発明では、微粉砕粉末(一次合金粒子)を、水による結着力で結着させ、顆粒を形成する。このような液体(本発明では水)による結着力は、液体架橋力と称されている。水は、有機溶媒等に比較しても、表面張力が強く、発揮する液体架橋力が大きく、顆粒の保形力が大きい。
【0018】
水を用いて作製された顆粒は、水が、少なくとも微粉砕粉末同士の接点に存在し、その液体架橋力によって微粉砕粉末同士が結着されている。このとき、微粉砕粉末同士の接点には、水以外に、微粉砕粉末同士を結着させるためのバインダ等の固体成分を実質的に含まない。ただし、粉砕性の向上並びに成形時の配向性の向上のために潤滑剤を添加した場合、この潤滑剤の固体成分が液体中に存在することは許容するものとする。
【0019】
微粉砕粉末に対する水の添加量は特に制限されないが、水の添加量が少なすぎると、一次合金粒子同士に液体架橋を生じさせるに足る液量を確保することができないために、顆粒化が困難である。一方、水の添加量が多すぎると、得られた顆粒をそのまま磁場中成形する場合に液体が過剰に存在して成形を阻害するおそれがある。以上より、微粉砕粉末に対する水の添加量は1.5〜12.0wt%とすることを推奨する。より望ましい水の添加量は1.5〜8.0wt%、さらに望ましい水の添加量は2.0〜6.0wt%である。
【0020】
微粉砕粉末と水とを用いて顆粒を作製する方法は、従来公知の造粒法を適用すればよい。適用できる造粒方法としては、転動造粒法、振動造粒法、混合造粒法、流動造粒法、解砕造粒法、圧縮成形造粒法、押出し造粒法が掲げられる。微粉砕粉末と水は、造粒法に応じて当該造粒法適用の前に混合、混錬される場合と、造粒法適用時に混合、混錬される場合がある。
【0021】
以上のようにして得られた顆粒状の造粒粉は磁場中成形に供される。
磁場中成形における成形圧力は0.3〜3ton/cm2(30〜300MPa)の範囲とすればよい。成形圧力は成形開始から終了まで一定であってもよく、漸増または漸減してもよく、あるいは不規則変化してもよい。成形圧力が低いほど配向性は良好となるが、成形圧力が低すぎると成形体の強度が不足してハンドリングに問題が生じるので、この点を考慮して上記範囲から成形圧力を選択する。磁場中成形で得られる成形体の最終的な相対密度は、通常、50〜60%である。
印加する磁場は、12〜20kOe(960〜1600kA/m)程度とすればよい。この程度の磁場を印加することにより、顆粒は崩壊して一次合金粒子に分解される。印加する磁場は静磁場に限定されず、パルス状の磁場とすることもできる。また、静磁場とパルス状磁場を併用することもできる。
【0022】
ここで、上記のようにして磁場中成形するに際し、成形体が形成された状態での水の残留量は、45vol%以下(10wt%以下)であるのが好ましい。希土類焼結磁石の製造工程における成形体密度は、55〜60%であり、残留する水は成形体の空隙部分にのみ実質的に存在し得るからである。水の残留量が45vol%程度より多くなると、成形時に、水は金型キャビティ内で成形圧力によって圧縮され、これによって成形体がうまく成形できなくなる。より具体的には、成形圧力から解放された水が元の容積に戻ろうとするため、成形体の割れが生じることがある。ここで、残留量は、顆粒を形成する粉の重量に対し、顆粒中に存在する水の重量濃度(wt%)で規定される。残留量を正確に計測するには、顆粒から水のみを揮発させ、その重量変化を測定する。このとき、顆粒の酸化による重量変動の影響を避けるため、容器内に顆粒を入れ、これを高真空にする、あるいは真空や不活性雰囲気下で加熱し、水を揮発させて、そのときの重量変化を計測するのが好ましい。
【0023】
次いで、成形体を真空又は不活性ガス雰囲気中で焼結する。焼結温度は、組成、粉砕方法、平均粒径と粒度分布の違い等、諸条件により調整する必要があるが、1000〜1200℃で1〜10時間程度焼結すればよい。
焼結後、得られた焼結体に時効処理を施すことができる。この工程は、保磁力を制御する重要な工程である。時効処理を2段に分けて行う場合には、800℃近傍、600℃近傍での所定時間の保持が有効である。800℃近傍での熱処理を焼結後に行うと、保磁力が増大するため、混合法においては特に有効である。また、600℃近傍の熱処理で保磁力が大きく増加するため、時効処理を1段で行う場合には、600℃近傍の時効処理を施すとよい。
【0024】
次に本発明が適用される希土類焼結磁石について説明する。
本発明は、特にR−T−B系焼結磁石に適用することが望ましい。このR−T−B系焼結磁石は、希土類元素(R)を25〜37wt%含有する。ここで、本発明におけるRはYを含む概念を有しており、したがってY、La、Ce、Pr、Nd、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、Yb及びLuの1種又は2種以上から選択される。Rの量が25wt%未満であると、R−T−B系焼結磁石の主相となるR214B相の生成が十分ではなく軟磁性を持つα−Feなどが析出し、保磁力が著しく低下する。一方、Rが37wt%を超えると主相であるR214B相の体積比率が低下し、残留磁束密度が低下する。またRが酸素と反応し、含有する酸素量が増え、これに伴い保磁力発生に有効なRリッチ相が減少し、保磁力の低下を招く。したがって、Rの量は25〜37wt%とする。望ましいRの量は28〜35wt%、さらに望ましいRの量は29〜33wt%である。
【0025】
また、本発明が適用されるR−T−B系焼結磁石は、ホウ素(B)を0.5〜4.5wt%含有する。Bが0.5wt%未満の場合には高い保磁力を得ることができない。一方で、Bが4.5wt%を超えると残留磁束密度が低下する傾向がある。したがって、Bの上限を4.5wt%とする。望ましいBの量は0.5〜1.5wt%、さらに望ましいBの量は0.8〜1.2wt%である。
本発明が適用されるR−T−B系焼結磁石は、Coを2.0wt%以下(0を含まず)、望ましくは0.1〜1.0wt%、さらに望ましくは0.3〜0.7wt%含有することができる。CoはFeと同様の相を形成するが、キュリー温度の向上、粒界相の耐食性向上に効果がある。
【0026】
また、本発明が適用されるR−T−B系焼結磁石は、Al及びCuの1種又は2種を0.02〜0.5wt%の範囲で含有することができる。この範囲でAl及びCuの1種又は2種を含有させることにより、得られる焼結磁石の高保磁力化、高耐食性化、温度特性の改善が可能となる。Alを添加する場合において、望ましいAlの量は0.03〜0.3wt%、さらに望ましいAlの量は、0.05〜0.25wt%である。また、Cuを添加する場合において、望ましいCuの量は0.15wt%以下(0を含まず)、さらに望ましいCuの量は0.03〜0.12wt%である。
本発明が適用されるR−T−B系焼結磁石は、他の元素の含有を許容する。例えば、Zr、Ti、Bi、Sn、Ga、Nb、Ta、Si、V、Ag、Ge等の元素を適宜含有させることができる。一方で、酸素、窒素、炭素等の不純物元素を極力低減することが望ましい。特に磁気特性を害する酸素は、その量を5000ppm以下、さらには3000ppm以下とすることが望ましい。酸素量が多いと非磁性成分である希土類酸化物相が増大して、磁気特性を低下させるからである。
【0027】
R−T−B系焼結磁石に本発明を適用することが望ましいが、他の希土類焼結磁石に本発明を適用することも可能である。例えば、R−Co系焼結磁石に本発明を適用することもできる。
R−Co系焼結磁石は、Rと、Fe、Ni、MnおよびCrから選ばれる1種以上の元素と、Coとを含有する。この場合、望ましくはさらにCuまたは、Nb、Zr、Ta、Hf、TiおよびVから選ばれる1種以上の元素を含有し、特に望ましくはCuと、Nb、Zr、Ta、Hf、TiおよびVから選ばれる1種以上の元素とを含有する。これらのうち特に、SmとCoとの金属間化合物、望ましくはSm2Co17金属間化合物を主相とし、粒界にはSmCo5系を主体とする副相が存在する。具体的組成は、製造方法や要求される磁気特性等に応じて適宜選択すればよいが、例えば、R:20〜30wt%、特に22〜28wt%程度、Fe、Ni、MnおよびCrの1種以上:1〜35wt%程度、Nb、Zr、Ta、Hf、TiおよびVの1種以上:0〜6wt%、特に0.5〜4wt%程度、Cu:0〜10wt%、特に1〜10wt%程度、Co:残部の組成が望ましい。
以上、R−T−B系焼結磁石、R−Co系焼結磁石について言及したが、本発明は他の希土類焼結磁石への適用を妨げるものではない。
【実施例1】
【0028】
ストリップキャスト法により、26.5wt%Nd−5.9wt%Dy−0.25wt%Al−0.5wt%Co−0.07wt%Cu−1.0wt%B−Fe.balの組成を有する原料合金を作製した。
次いで、室温にて原料合金に水素を吸蔵させた後、Ar雰囲気中で600℃×1時間の脱水素を行う水素粉砕処理を行った。
水素粉砕処理が施された合金に、粉砕性の向上並びに成形時の配向性の向上に寄与する潤滑剤を0.05〜0.1%混合した。潤滑剤の混合は、例えばナウターミキサー等により5〜30分間ほど行う程度でよい。その後、ジェットミルを用いて平均粒径が5.0μmの微粉砕粉末を得た。
【0029】
以上の微粉砕粉末80gに対して、イオン交換水を5g添加した後に、乳鉢で十分に混錬した。この混練物から以下のようにして顆粒を作製した。所定の間隔を隔てて、50メッシュの篩(第1篩)と83メッシュの篩(第2篩)を上下方向に配置した。なお、第1篩が上側に位置している。第1篩の上に、得られた混錬物を載せた後に、第1篩及び第2篩をともに所定時間振動させた。振動終了後に、第2篩上に残存した顆粒を採取した。この顆粒は、第1篩及び第2篩の目開き寸法より、180〜300μmの粒径を有していることになる。得られた顆粒について以下の方法に基づいて安息角を測定した。その結果を表1に合わせて示す。なお、表1には、比較例1として、顆粒化する前の微粉砕粉末の安息角を、また比較例2、3として、バインダとしてPVAを含むスラリをスプレードライして得た顆粒の安息角を、それぞれ示した。また、図1は、実施例1の顆粒、および比較例1の微粉砕粉末(生材)の外観のSEM像を示す。
安息角測定方法:60mmφの円のテーブルの上に、一定高さからふるいを通して少しずつ顆粒を落下させた。顆粒の山が崩壊する直前で顆粒の供給を停止した。円テーブルの上にできた顆粒の山の底角を測定した。円テーブルを120°ずつ回転し、計3箇所について角度を測定し、その平均を安息角とした。
【0030】
【表1】

【0031】
得られた顆粒を磁場中成形した。具体的には、15kOeの磁場中で1.4t/cm2の圧力で成形を行い、成形体を得た。抗折強度は20mm×18mm×6mmの成形体を用い3点曲げ試験により測定した。
得られた成形体を真空中およびAr雰囲気中で1080℃まで昇温し4時間保持して焼結を行った。次いで得られた焼結体に800℃×1時間と560℃×1時間(ともにAr雰囲気中)の2段時効処理を施した。
【0032】
得られた焼結磁石の磁気特性を測定した結果を表1に示す。なお、表1には微粉砕粉末を顆粒化することなく上記と同様にして磁場中成形、焼結及び時効処理を施して得られた焼結磁石(比較例1)、バインダとしてPVAを含むスラリをスプレードライして得られた顆粒を上記と同様にして磁場中成形、焼結及び時効処理を施して得られた焼結磁石(比較例2、3)の磁気特性も合わせて示している。なお、比較例2は脱バインダ処理を行っておらず、比較例3のみ脱バインダ処理を、水素雰囲気中、400℃、1時間の条件で行った。
【0033】
表1に示すように、微粉砕粉末の安息角が60°であるのに対して、水を用いて顆粒化することにより安息角を55°以下とし流動性を向上することができる。また、水を用いた顆粒から作製された焼結磁石は、微粉砕粉末を磁場中成形して得られた焼結磁石と同等の磁気特性を備えることがわかる。特に、PVA等のバインダを用いた顆粒から焼結磁石を作製する場合、脱バインダ処理を行わないと磁気特性の低下が著しく、製造工程を簡略化しつつ高い磁気特性を得ることができる本発明の効果は顕著である。
また、水は、有機溶媒等に比較しても、表面張力が強く、発揮する液体架橋力が大きく、顆粒の保形力が大きい。さらに、水は入手が容易であり、磁場中成形工程、焼結工程の過程で蒸発しても水蒸気となるだけで、何ら有害物質を排出せず、環境性に優れているという利点もある。
【0034】
次に、水の添加量が及ぼす影響を確認した。その結果を表2に示す。表2に示すように、水の残留量が多くなるほど、安息角が小さくなり流動性が向上することが分かる。しかし、水の残留量が多すぎると、湿分が多すぎて成形後にクラックが生じてしまう不具合が起こる。以上の結果より、水の添加量は、0〜12.0wt%とすることが望ましく、より望ましくは0〜6.0wt%、さらに望ましくは0〜3.0wt%とする(0を含まず)。
【0035】
【表2】

【0036】
流動性の良い顆粒を用いるメリットとして、狭間口の金型への粉体充填性の容易さが挙げられる。それを確認するためにフィーダテストを行った。通常の量産工程において金型へ粉体を供給するためにフィーダという装置が使用される。このフィーダは、金型の上で水平方向に往復運動をする箱であり、箱の下部には供給孔が空けられている。箱の中には一定量の粉がためられており、この箱が往復運動すると、箱下部の供給孔から金型内部に粉が落ちる仕組みになっている。流動性の良い粉ほど、一定回数の往復運動で多くの粉が落ちることになる。そこで、金型キャビティに見立てた3mm×20mmの空隙を設け、この上で、実施例1の水を用いて形成した顆粒、比較例1の微粉砕粉末をそれぞれ往復運動させた。往復運動のスピードは0.4m/sとし、5往復で上記隙間に落下した粉の重量を測定した。この5往復を1回の測定対象とし、15回の測定を繰り返した。測定結果を図2に示すが、顆粒を用いることにより、金型キャビティへの充填性を向上できることが確認された。
【図面の簡単な説明】
【0037】
【図1】実施例で作製された顆粒外観を示すSEM像である。
【図2】実施例で行ったフィーダテストの結果を示すグラフである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の粒子が、水で結着されることで形成されていることを特徴とする顆粒。
【請求項2】
前記粒子が、粉末冶金に用いられるものであることを特徴とする請求項1に記載の顆粒。
【請求項3】
前記粒子が、希土類焼結磁石の原料となる所定組成を有した合金粒子であることを特徴とする請求項2に記載の顆粒。
【請求項4】
前記合金粒子が、R214B相(Rは希土類元素から選択される1種又は2種以上の元素、TはFe又はFe及びCoを含む遷移金属元素から選択される1種又は2種以上の元素)を含む組成を有し、平均粒径が2.5〜6μmであることを特徴とする請求項3に記載の顆粒。
【請求項5】
前記水は、複数の前記粒子の接点部分に少なくとも介在していることを特徴とする請求項1から4のいずれかに記載の顆粒。
【請求項6】
複数の粒子を水で結着することによって形成された顆粒を、金型中で磁場を印加しつつ加圧成形し、さらに焼結することによって得られたものであることを特徴とする焼結体。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate


【公開番号】特開2006−16646(P2006−16646A)
【公開日】平成18年1月19日(2006.1.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−193728(P2004−193728)
【出願日】平成16年6月30日(2004.6.30)
【出願人】(000003067)TDK株式会社 (7,238)
【Fターム(参考)】