説明

顔の皮膚の欠陥を処置する組成物および方法

【課題】哺乳類の対象における顔面皮膚欠陥を処置するための方法に関する。
【解決手段】本発明は、ペルオキシソーム増殖剤活性化受容体γのアゴニストを含む皮下移送可能な組成物、および、皮下移送可能な組成物を使用する。

【発明の詳細な説明】
【開示の内容】
【0001】
〔発明の分野〕
本発明は、ペルオキシソーム増殖剤活性化受容体γ(PPAR-γ)のアゴニストの皮下移送によって顔面皮膚欠陥を処置する組成物および方法に関する。
【0002】
〔発明の背景〕
ペルオキシソーム増殖剤活性化受容体γ(PPAR-γ)は、転写因子の核ホルモン受容体のサブファミリーに属している。PPAR-γは、脂肪細胞の増殖、分化、維持、および生存の不可欠の調節因子である。ジャーナル・オブ・バイオロジカル・ケミストリー(Journal of Biological Chemistry)、282(41), 29946-57, (2007)を参照されたい。
【0003】
ロシグリタゾンは、チアゾリジンジオン(TZD)として知られている化合物群のメンバーであり、PPAR-γの比較的選択的なアゴニストである(N. Engl. J. Med. 351:1106-18, 2004)。他のTZDの、および、非−TZDの、PPAR-γアゴニストの中でもとりわけロシグリタゾンは、ヒト免疫不全ウイルス(HIV)への感染のための処置を受ける人々、または、糖尿病を有する人々に時々起こる、脂肪萎縮症の処置に対して有用でありうるということが、仮定されてきた。Antivir. Ther., 8:199-207 (2003); Lancet, 363:429-38 (2003); AIDS, 17:770-2 (2003); Ann. Intern. Med., 143:337-46 (2005); J Clin Invest, 101:1354-61 (1998); および Diabetes, 46:1393-9 (1997)を参照されたい。しかしながら、このような患者における研究は、矛盾する結果をもたらした。例えば、全身のチアゾリジンジオン処置は、インシュリン耐性とリポジストロフィを有する患者の内臓脂肪を減少させるが、周囲の脂肪を増加させるということが示されている。「リポジストロフィシンドロームの処置における、トログリタゾンの有効性および安全性(Efficacy and safety of troglitazone in the treatment of lipodystrophy syndromes)」、Ann. Intern. Med., 133:263-74 (2000)を参照されたい。
【0004】
24週間の研究は、経口摂取を通したロシグリタゾンが、HIV対象の処置群と偽薬群との間で、脚の脂肪、手足の脂肪、胴体の脂肪、または全身の脂肪において、何らの統計的に著しい相違点も有さなかったということを示した。「HIV脂肪萎縮症のための、ロシグリタゾンのランダム化されたプラセボ対照試験(A randomized, placebo-controlled trial of rosiglitazone for HIV lipoatrophy)」、J. Infect. Dis. 195: 1754-61 (2007)を参照されたい。
【0005】
国際公開第2007026356号明細書は、糖尿病に関連する皮膚病変または皮膚疾患を、および/または、前記皮膚病変または皮膚疾患に関連する皮膚の損なわれた生理的状態を回復できる少なくとも1つの薬剤の局所性投与による老化を、処置または防止するための方法および組成物を開示する。国際公開第2007026356号明細書は、このような薬剤が皮下脂肪層を活性化させることによるアンチエイジング処置法として有用でありうるということを示唆している。しかしながら、様々な身体部位からの前脂肪細胞が、持続性薬剤特有の特性を有していることを示す証拠がある。「脂肪細胞における老化:固有の、持続性薬剤特有メカニズムの潜在的な衝撃(Aging in adipocytes: Potential impact of inherent, depot-specific mechanisms)」、Exptl. Gerontol. 42:463, 2007を参照されたい。例えば、いくつかのPPAR-γアゴニストは、大網の前脂肪細胞と比較すると、皮下の前脂肪細胞において、より多くの脂質滴を引き起こし、そして、グリセロール3リン酸デヒドロゲナーゼ(G3PDH)の酵素活動のより大きい増加を引き起こした。重要なことには、この相違点は、類似のレベルのPPAR-γタンパク質の発現にもかかわらず、観測された;「ペルオキシソーム増殖剤活性化受容体γの活性剤は、人間の前脂肪細胞の分化に持続性薬剤特有の効果を有する(Activators of peroxisome proliferators-activated receptor γ have depot-specific effects on human preadipocyte differentiation)」、J. Clin. Invest. 100:3149, 1997を参照されたい。非常に最近の研究は、異なった身体部位からの主要な前脂肪細胞のゲノム全体の発現プロファイルが異なっていて、これらの相違点が複数の集団倍加(population doubling)を通して持続するということを示した。「異なった表現プロファイルおよび発生遺伝子パターンによる、持続性薬剤特有の人間の脂肪細胞前駆細胞の識別(Identification of depot-specific human fat cell progenitors through distinct expression profiles and developmental gene patterns)」、 Am. J. Physiol. Endocrinol. Metab., 292:E298 (2007)を参照されたい。
【0006】
その上、薬物が経口または局所用の剤形で有効であるという事実は、皮下に注入されたときに効果的であり許容できる副作用を伴いうるということを、必ずしも示唆しえない。例えば、レチノイドは、座瘡に対して局所的にそして経口で使用されるが、激しい組織刺激および胎児毒性のため、注入可能物質として使用されない。「全トランス−レチノイン酸における濃度−時間曲線下の領域は、ネズミ中のこのレチノイドの胎児毒性への最も適当な薬物動態関連要因である(The area under the concentration-time curve of all-trans-retinoic acid is the most suitable pharmacokinetic correlate to the embryotoxicity of this retinoid in the rat)」、Toxicology And Applied Pharmacology 143, 436-444 (1997)を参照されたい。
【0007】
〔発明の概要〕
我々は、ペルオキシソーム増殖剤活性化受容体γのアゴニスト、そして特に、ロシグリタゾンが、生体外で顔の前脂肪細胞の分化を強力にそして選択的に増進させること、そしてそれゆえ、生体内で皮下の顔の組織分化を増進させるだろうことを予想外に観測した。
【0008】
それゆえ、本発明は、a)ペルオキシソーム増殖剤活性化受容体γのアゴニスト、および薬学的に許容しうる担体を含む、皮下移送可能な組成物を用意すること;b)哺乳類の対象における処置の必要な顔面皮膚の領域を特定すること;c)安全で美容上の有効な量の組成物を前記顔面皮膚の特定された領域に皮下移送すること、により、前記哺乳類の対象における顔面皮膚の欠陥を処置するための組成物および方法に関する。この皮下移送は、顔面皮膚欠陥の外観の減少をもたらす。
【0009】
本発明はまた、a)ペルオキシソーム増殖剤活性化受容体γのアゴニスト、および薬学的に許容しうる担体を含む、皮下移送可能な組成物を用意すること;b)処置を必要とする顔面皮膚の領域を特定すること;c)安全で美容上の有効な量の組成物を前記皮膚の前記特定された領域に皮下移送すること、によって、哺乳類の対象における顔面輪郭形成方法(a method of facial contouring)にも関する。この皮下移送は、顔面皮膚の特定された領域の周りの顔の輪郭の改善をもたらす。
【0010】
本発明はまた、哺乳類の対象における、皮膚の欠陥の外観を処置するための皮下移送可能な組成物にも関する。皮下移送可能な組成物は、a)ペルオキシソーム増殖剤活性化受容体γのアゴニスト、b)皮膚の充填材料、および、c)薬学的に許容しうる担体、を含んでいる。組成物の皮下移送は、顔面皮膚の特定された領域周りの皮膚欠陥の外観の減少をもたらす。
【0011】
本発明における皮下移送可能な組成物は、コラーゲン、架橋コラーゲン、ヒアルロン酸、ポリ乳酸、カルシウムヒドロキシルアパタイト、細胞、組織切片、完全な、もしくは断片化された、自己移植細胞または組織、ゼラチン、および、これらの混合物を含むがこれらに限定されない皮膚充填材料をさらに含んでもよい。
【0012】
本発明の他の特徴及び利点は、発明の詳細な説明および特許請求の範囲から明らかになるであろう。
【0013】
〔好適な実施形態の詳細な説明〕
特に定義されていない場合、本明細書において使用されるすべての技術用語および科学用語は、本発明が属する技術分野における通常の知識を有する者によって一般的に理解されるものと同じ意味を有している。また、本明細書において言及された、全ての刊行物、特許出願、特許、および他の参考文献は、参照により本明細書に組み込まれる。特に記載していない限り、パーセンテージは、重量パーセント(すなわち、%(W/W))を言う。
【0014】
本明細書に使用されるように、「皮下移送」は、針、マルチニードルアレイ、皮下移送可能なエネルギーベースの移送システム、皮下移送可能な圧力ベースの移送システム、皮下移送可能な無針移送システム、もしくは、同様の医療機器といったアプリケータを用いて、皮膚中もしくは皮膚表面下に、または、皮下脂肪層中に、直接堆積させること、を意味する。
【0015】
本明細書に使用されるように、「薬学的に許容できる」ことは、この用語で記述されている、(単数または複数の)化合物、(単数または複数の)担体、または(単数または複数の)製品が、過度の毒性、不適合、不安定性、炎症、アレルギー反応などが無く、皮下移送に適していることを意味する。この用語は、この用語が説明している成分または製品を、化粧品としてのみ使用することに限定する意図ではない(例えば、成分または製品は、医薬品として使用できる)。
【0016】
本明細書に使用されるように、「美容上の有効な量」は、顔の皮膚の欠陥の外観を処置するため、または処置されるべき状態にある顔の輪郭形成をするために、十分な生理的に活性の化合物または組成物の量であるが、重篤な副作用を避けるために十分に低い量であることを意味する。化合物または組成物の美容上の有効な量は、処置される特定の状態、エンドユーザの年齢および身体的な状態、処置/阻止される状態の深刻さ、処置の持続時間、他の処置の性質、使用される特定の化合物または製品/組成物、使用される特定の薬学的に許容しうる担体、および、類似の要素で、変わるであろう。
【0017】
本明細書に使用されるように、「顔の皮膚の欠陥」は、瘢痕の皮膚、しわになった皮膚、しわのよった皮膚、折り曲がっている皮膚、弛んだ皮膚、病気または外傷による皮膚萎縮、皮膚への事故または外傷から生じる皮膚欠陥、皮膚移植または他の外科で誘発された凹凸に続発した欠陥、および、皮膚の凹凸を含むが、これらに限定されない。
【0018】
本明細書に使用されるように、「顔の皮膚の欠陥の外観を処置すること」は、瘢痕の皮膚、しわになった皮膚、しわのよった皮膚、折り曲がっている皮膚、弛んだ皮膚、病気または外傷による皮膚萎縮、皮膚への事故または外傷から生じる皮膚欠陥、皮膚移植または他の外科で誘発された凹凸に続発した欠陥、および、皮膚の凹凸を含むがこれらに限定されない顔面皮膚欠陥の外観を防止、抑制、向上、または除去することを意味する。
【0019】
本明細書に使用されるように、「顔面輪郭形成(facial contouring)」は、顔の特徴部をより若々しく、ふっくらした、そして、健康的な外観に、調整、形成、矯正、または変えること、および、皮膚の外観を改善することを意味する。顔の特徴部は、しかめ面または眉間のしわ、にきびの跡、ほおのくぼみ、垂直または口周囲の唇線、マリオネットライン(marionette lines)、または口腔の接合部、心配そうな目つき(worry line)または額の線、目尻のしわまたは眼窩周囲の線、鼻唇の折り目、微笑線、顔の傷、唇、およびまたは類似物を含むが、これらに限定されない。
【0020】
本明細書に記載する説明に基づいて、当業者が本発明を十分に利用できると考えられる。以下の特定の実施形態は、単に例示的として解釈されるべきであり、そして、開示の残りの部分をいかなる方法でも全く限定するものではない。
【0021】
〔皮下組成物〕
本発明において有用である皮下組成物は、皮下の用途に適した製剤を含んでいる。一実施形態では、組成物は、PPAR-γのアゴニスト、および薬学的に許容しうる担体を含んでいる。
【0022】
PPAR-γと略され、そしてまたNR1C3(核内受容体サブファミリー1、グループC、メンバー3)としても知られている、本明細書に使用されるペルオキシソーム増殖剤活性化受容体γは、核内受容体のガンマ(γ)亜型(gamma (γ) subtype)を意味する。PPAR-γタンパク質は、レチノイドX受容体を有するヘテロ二量体を形成し、これらのヘテロ二量体は、様々な遺伝子の転写を規制する。PPAR-γの遺伝子によってコード化されたタンパク質は、脂肪細胞分化の正の調節因子であることが知られている。
【0023】
〔ペルオキシソーム増殖剤活性化受容体γのアゴニスト〕
本明細書に使用されるように、「ペルオキシソーム増殖剤活性化受容体γのアゴニスト」は、分子、またはこのような分子(例えば、植物抽出物)を含む薬剤の混合物を意味して、この分子または混合物は、直接PPAR-γタンパク質と相互作用して、生理的影響を発生させるようにレチノイドX受容体、および/または、標的遺伝子との相互作用を刺激する。
【0024】
PPAR-γのアゴニストは、ロシグリタゾン、シグリタゾン、トログリタゾン、エングリタゾン、ピオグリタゾン、リノール酸およびアラキドン酸のリノール酸代謝産物、およびこれらの混合物を含むが、これらに限定されない。
【0025】
一実施形態では、ペルオキシソーム増殖剤活性化受容体γのアゴニストは、組成物の約0.00001重量%から約5重量%を構成し、より望ましくは、組成物の約0.001重量%から約0.1重量%を構成し、最も望ましくは、組成物の約0.01重量%から約0.1重量%を構成する。
【0026】
別の実施形態では、ペルオキシソーム増殖剤活性化受容体γのアゴニストは、脂肪細胞分化を増進させることを知られている植物の、および、天然の抽出物を含んでいる。このような抽出物、またはその断片は、PPAR−γ経路の活性剤(例えば、アルテミシアアブロタニウム(Artemisia abrotanum) からの抽出物、Pulpactyl;サザンウッド(Southernwood))で知られうるし、または、実験系または人体内で脂質生成を高める能力(例えば、アインコルン(Einkorn)、ヒトツブコムギ(Triticum monococcum)からの抽出物)で知られうる。
【0027】
〔薬学的に許容しうる担体〕
一または二以上の薬学的に許容しうる担体は、本発明の製剤中に存在していてもよい。皮下移送のための薬学的に許容できる薬剤は周知である;このような薬剤の記述の例は、1)(the American Society of Health-System Pharmacists (ASHP)によって出版された)Handbook on Injectable Drugs, 第14版;および、2)the U.S. Food and Drug Administration (FDA) でのthe Center for Drug Evaluation and Research (CDER) によってオンラインで公開された、"inactive ingredients for approved drug products"データベース、を含む。
【0028】
本発明の適当な担体は水、エタノール、イソプロパノール、1、2−プロパンジオール、グリセリン、ベンジル・アルコール、ジメチルイソソルビド、トリアセチン、グリコール・エーテル、プロピレン・グリコール、およびポリエチレン・グリコール(PEG)を含むが、これらに限定されない。特に好ましい溶媒は、約200および約400の間の平均分子量を有するポリエチレングリコール(PEG)と、ヒマシ油と、トリアセチンと、ジメチルイソソルビドと、エタノールと、水と、これらの組み合わせと、を含む。薬学的に許容しうる担体は、組成物の約50重量%から約99.99重量%、より望ましくは、組成物の約80重量%から約95重量%から構成される。
【0029】
容量オスモル濃度、および/または、pHを許容できる水準に変更するために、様々な化合物は、製剤に添加されうる。これらは、マンニトール、蔗糖、塩化カルシウム、塩化ナトリウム、リン酸一ナトリウム、リン酸二ナトリウム、水酸化ナトリウム、および塩酸を含むが、これらに限定されない。
【0030】
界面活性剤は、組成物に加えられてもよい。例示的な表面活性剤は、ポリソルベート(例えば、Tween(登録商標)20、Tween(登録商標)80などのポリソルベート20、80)またはポロキサマー(poloxamer)(例えば、ポロキサマー(poloxamer)188)などの非イオン性界面活性剤を含んでいる。添加さられた表面活性剤の量は、生物活動を抑えずに、製剤の集合を減少させ、および/または、製剤における、微粒子の形成を最小化するほどの量である。表面活性剤は、約0.001重量%から約0.5重量%、望ましくは約0.005重量%から約0.1重量%、および、最も望ましくは約0.01重量%から約0.05重量%の量で、製剤中に存在していてもよい。
【0031】
〔皮膚の充填材料〕
本発明の組成物は、皮膚の充填材料をさらに含むことができる。
【0032】
本明細書に使用されるように、「皮膚の充填材料」は、組織中に直ちに吸収および劣化されずに、化粧品的、そして、美的な必要性のために移送可能な物として使用される材料を意味する。いわゆる「注入可能物質充填剤」は、皮膚折り目の深さを減少させるため、しわを減少させるため、組織欠陥を充填するため、傷跡の視認性を減少させるため、病気または外傷による萎縮を抑制または修正するため、皮膚移植または他の外科で誘発された凹凸に続発した欠陥を修正するため、および、他の軟組織欠陥または欠損を改善または除去するために、美容整形外科医、皮膚科医および形成外科医によって使用される。
【0033】
本発明の皮膚の充填材料は、コラーゲン、架橋コラーゲン、ヒアルロン酸、ポリ乳酸、カルシウムヒドロキシルアパタイト、ポリマー、細胞、組織切片、完全な、もしくは断片化された、自己移植細胞または組織、ゼラチン、またはこれらの混合物を含むが、これらに限定されない。ロシグリタゾンは、血清タンパク質に固く結合しており(99.8%は生体内で結合している)、他のタンパク質またはタンパク質を含む充填剤(例えば、コラーゲン、ゼラチン、細胞、組織切片、完全な、もしくは断片化された、自己移植細胞または組織)に結合してもよい。このような結合は、本発明の目的のために、移送の場所から離れるアゴニストの拡散を遅くすることによって、ロシグリタゾン(そして、おそらく他のPPAR-γのアゴニスト)の効力を高めうる。
【0034】
一実施形態では、皮膚の充填材料は、組成物の約1重量%から約10重量%、さらに望ましくは、組成物の約1.5重量%から約8重量%、最も望ましくは、組成物の約2.5重量%から約4.5重量%を構成する。
【0035】
〔架橋コラーゲン〕
本明細書に使用されるように、「架橋コラーゲン」は、共に結合されるコラーゲン分子の高分子複合材料を意味する。架橋は、1つの高分子鎖を別のものと結合する共有結合であり、熱および/もしくは圧力によって、または、非重合化されたもしくは部分的に重合させているユニットを、架橋試薬と呼ばれる特定の化学物質との混合によって、開始される化学反応で形成される。架橋は、高分子鎖の最密充填を抑制して、結晶領域の形成を防止する。架橋コラーゲンといった、架橋生物学的構造は、高分子材料の伸長を制限して、コラーゲンモノマーよりも劣化する傾向の少ない、制限された分子運動性を有する。
【0036】
本発明の好適な架橋コラーゲンは、例えば、熱、溶媒、有機薬剤、凝固剤、糖類、グルコサミノグリカン、グルタルアルデヒド、および類似物によって架橋される天然または合成の供給源のコラーゲン分子を含むが、これらに限られない。
【0037】
〔糖類架橋コラーゲン〕
本明細書に使用されるように、「糖類架橋コラーゲン」は、糖類と反応することによって化学的に結合されるコラーゲン分子を意味する。糖類架橋コラーゲンの1つの非限定的な例は、Glymatrix(商標)技術によって架橋されたコラーゲンであり、その技術は、非酵素の糖化過程に基づいている。この架橋技術は、架橋剤としてD−リボースを用いる。
【0038】
一実施形態では、糖類架橋コラーゲンは、組成物の約1重量%から約10重量%、さらに望ましくは、組成物の約1.5重量%から約8重量%、最も望ましくは組成物の約2.5重量%から約4.5重量%を構成する。
【0039】
〔インシュリンの信号伝達経路の活動を調節できる薬剤〕
本発明の組成物は、インシュリンの信号伝達経路の活動を調節できる1または2以上の薬剤をさらに含むことができる。
【0040】
本明細書に使用されるように、「インシュリン信号伝達経路の活動を調節できる薬剤」は、インシュリンによって規制された生理的過程に影響しうる薬剤を意味する。インシュリンは、細胞内および血液のグルコース値の調整および糖尿病の回避に関与する。インシュリンは、インシュリン受容体基質のリン酸化反応を導くインシュリン受容体に結合する。これらは、順番に、他の中間体をリン酸化して、遺伝子転写における変化を導いて、血糖値の変調をもたらす、RasおよびAKT信号伝達経路を活性化する。本発明におけるインシュリンの信号伝達経路の活動を調整できる薬剤は、インシュリン、デキサメサゾン、3−イソブチル1−メチルキサンチン(IBMX)、副腎皮質ホルモン、および非特定のホスホジエステラーゼ阻害薬を含むが、これらに限定されない。
【0041】
〔製剤〕
本発明において有用である組成物は、標的組織への投与に適当な製剤を含む。本発明の組成物は、溶液、ゲル、乳剤、懸濁液、マイクロエマルジョン、ナノエマルジョン、液滴、リポソーム、緩効性材料、ポリマー、モノマー、ならびに、ポリマー生成剤、および類似物を含むがこれらに限定されないさまざまな製品のタイプに作られうる。
【0042】
本発明において有用である組成物は、溶液として製剤できる。溶液は、望ましくは、水性溶媒を含むべきである。このような組成物は、製剤に依存して変化しうるが、さらに約1%から約30%の有機溶媒を含むことができる。このような溶媒の非限定的な例は、エタノール、プロピレン・グリコール、ポリエチレン・グリコール、およびこれらの混合物を含んでいる。
【0043】
本発明において有用である皮下組成物はまた、乳剤として製剤できる。担体が乳剤であれば、担体の約1%から約10%(望ましくは、約2%から約5%)は、1または2以上の乳化剤で構成されるべきである。乳化剤は、非イオンの、陰イオンまたは陽イオンでありうる。適当な乳化剤は、例えば、Personal Care Products Councilによって発行された、2008年の、International Cosmetic Ingredient Dictionary and Handbook、第12版で見ることができる。
【0044】
水中油型や油中水型などの単一の乳剤製剤は、化粧品の技術で周知であり、主題の発明において有用である。水中油中水型などの多相エマルション組成もまた、主題の発明において有用である。全体的に、このような単一または多相乳剤は、不可欠の成分として、水、皮膚軟化剤、および乳化剤を含んでいる。
【0045】
本発明の組成物は、ゲル(例えば、適当な単数または複数のゲル化剤を用いた水性ゲル)として製剤できる。水性ゲルのための適当なゲル化剤は、天然ゴム、アクリル酸ポリマーおよびコポリマー、アクリレートポリマーおよびコポリマー、ならびにセルロース誘導体(例えば、ヒドロキシメチルセルロースとヒドロキシプロピルセルロース)を含むがこれらに限られない。(鉱油などの)油のための適当なゲル化剤は、水素化ブチレン/エチレン/スチレンコポリマー、および、水素化エチレン/プロピレン/スチレンコポリマーを含むが、これらに限定されない。このようなゲルは、このようなゲル化剤の約0.1重量%〜5重量%を典型的に含む。
【0046】
本発明において有用である組成物は、前述の組成物に加えて、それらの技術で確立した水準で皮膚上に使用するために、組成物に慣習上使用される、さまざまな追加的な、油溶性、有機溶媒可溶性、および/または、水溶性の材料を含むことができる。
【0047】
〔追加的な美容上の活性薬剤〕
一実施形態では、本発明による組成物は、前述の組成物と同様に、1または2以上の追加的な美容上の活性薬剤をさらに含むことができる。「美容上の活性薬剤」によって意味されることは、合成化合物でありうる化合物、または、自然源から抽出され、単離され、精製され、もしくは濃縮されうる化合物、あるいは、抗酵母剤、抗真菌薬、および抗生物質といった抗菌剤、抗炎症薬、老化防止剤、抗寄生虫剤、酸化防止剤、角質溶解剤、栄養剤、ビタミン、鉱物、エネルギーエンハンサ、pH調整剤、および類似物を含むがこれらに限定されない、組織上に化粧品の、もしくは治療上の効果を有する、化合物の混合物を含む天然抽出物である。
【0048】
本発明の組成物の成分でありうるビタミンの例は、ビタミンA、ビタミンB3、ビタミンB5、ビタミンB7、ビタミンB12といった、ビタミンB群、ビタミンC、ビタミンK、α、γまたはδ−トコフェロールなどのビタミンE、および(塩およびエステルといった)これらの誘導体ならびにこれらの混合物を含むが、これらに限定されない。
【0049】
本発明における組成物および方法において使用できる酸化防止剤の例は、スルフヒドリル化合物およびこれらの誘導体(例えば、メタ重亜硫酸ナトリウムとNアセチルシステイン)、リポ酸、ジヒドロリポ酸、レスベラトロル、ラクトフェリン、アスコルビン酸、およびアスコルビン酸誘導体(例えば、アスコルビン酸パルミテートとアスコルビン酸ポリペプチド)などの、水溶性酸化防止剤を含むが、これらに限定されない。本発明の組成物中の使用に好適な油溶性の酸化防止剤は、ブチル化ヒドロキシトルエン、レチノイド(例えば、レチノールおよびレチニルパルミテート)、異なる型のトコフェロール(例えば、α−、γ−、δ−トコフェロール、およびアセテートといったこれらのエステル)、およびこれらの混合物、トコトリエノール、およびユビキノンを含むが、これらに限定されない。本発明の組成物における使用に適した酸化防止剤を含む天然抽出物は、フラビノイド(flavinoid)、イソフラビノイド、ならびに、(例えば、大豆およびクローバー抽出物、レスベラトロルを含む抽出物、ならびに類似物などのような)ゲニステインおよびダイゼイン(diadzein)などのこれらの誘導体、を含むが、これらに限定されない。
【0050】
〔薬剤の移送〕
一実施形態では、本発明の組成物は、皮下注入で移送される。皮下注入は、例えば、針に取り付けられた、薬剤で充填されたシリンジを使用して、皮膚と筋肉との間の脂肪層の中に薬剤を移送する方法である。本発明の一実施形態では、シリンジと針の注入器具は、皮膚充填剤の有無にかかわらず、PPAR−γアゴニストを含む懸濁液を個人の皮膚の脂肪層の中に移送するために使用できる。
【0051】
無針注入器具は、米国特許第7,320,677号明細書、同第5,938,637号明細書、および同第6,447,475号明細書において開示され、これらは、本明細書中に参考として組み込まれる。このような無針注入器具は、材料を皮膚および筋肉に移送するために特に有用である。本発明の一実施形態では、無針注入器具は、例えば、PPAR−γアゴニストを含む懸濁液を個人の皮膚の表面に向けて推進させるために使用されうる。この材料は、皮膚に衝突したときに皮膚の表面に入って、皮膚組織に浸透するように、十分な速度で推進されている。
【0052】
イオン導入性薬物移送システムは、例えば、IONSYS(商標)の商標名で、および、米国特許第4,281,709号明細書において開示され、この明細書は、本明細書中に参照として組み込まれる。このような移送システムは、薬用の表面または容器を有するパッチと、コントローラとを含み、コントローラは電流を供給して、イオン導入性薬物移送をもたらす。本発明の一実施形態では、イオン導入装置は、例えば、PPAR−γアゴニストを含む溶液または懸濁液を個人の皮膚の中に移送するために使用できる。
【0053】
伝導力を使用して(例えば、セルライトを処置するための)皮膚の中への活性薬剤の移送を増大する方法は、米国特許出願公開第20040267232号明細書、同第20050148996号明細書、および同第20070060862号明細書に記載され、これらは、本明細書中に参照として組み込まれる。このような装置は、バリア、膜接触面、導電性電極と容器とを含む電源を有する。本発明の一実施形態では、このような移送装置は、例えば、PPAR−γアゴニストを含む溶液または懸濁液を個人の皮膚の中に移送するために使用できる。
【0054】
〔その他の材料〕
様々な他の材料もまた、主題の発明において有用である組成物中に存在していてもよい。これらは、タンパク質、ポリペプチド、防腐剤、およびアルカリ化剤を含んでいる。このような薬剤の例は、Personal Care Products Councilによって発行された、2008年の、International Cosmetic Ingredient Dictionary and Handbook、第12版に開示されている。
【0055】
本発明は、以下の実施例でさらに定義される。本発明の好適実施例を示しているが、これらの実施例は例示のみとして付与されているということは、理解されるべきである。上述の議論およびこれらの実施例から、当業者は、本発明の本質的特質を確かめることができ、そして、その趣旨および範囲から逸脱せずに、様々な用途および状態に適合させるために、本発明の様々な変更および修正を行うことができる。
【0056】
〔実施例〕
〔実施例1.皮下組成物〕
以下は、本発明の組成物の実施例である。後の実施例において使用されるように、組成物の重量パーセントは、流体抽出物の重さを指す。
【表1】


【表2】

【0057】
〔実施例2.ロシグリタゾンは、強力にそして選択的に顔の前脂肪細胞の分化を増進させる。〕
インフォームドコンセントとともに得られた、顔のそして腹の皮膚サンプルからの人間の初代前脂肪細胞は、以下の公開された手順(Crandall他著, Endocrinology 140:154-8, 1999)に従って、分離され、そして培養された。簡潔には、腹のまたは顔の処理からのサンプルは、6mMのブドウ糖と2mg/mLのコラゲナーゼを含む、クレブス・リンガー重炭酸塩バッファー(Krebs-Ringer-bicarbonate buffer)(pH 7.4) 中での酵素消化を受けた。この初期の酵素の消化の後に、フラスコの内容物は、50mLの無菌そしてプラスチックの試験管中へと、無菌そして230ミクロンのステンレス鋼の組織ふるい(Cellector, Bellco Glass Inc., Vineland, NJ)を通された。ふるい上に捕らえられた消化されない間質−血管組織は廃棄され、一方、前脂肪細胞断片を含む浮遊物(infranatant)が、収集されて、別の無菌チューブ中に通され、そして、コラゲナーゼは、培地199、10%の加熱不活性化したFCS、および、1%の抗生物質−抗真菌薬(Life Technologies, Grand Island, NY)を含む等容積の成長培地で中和された。遠心分離後に、ペレットは、成長培地で再懸濁され、濾過され、無菌組織培養フラスコに移されて、37C、5%のCOの培養器で維持された。細胞接着は、16〜20時間で可能になり、その後、浮遊細胞は吸引によって取りのぞかれ、続いて新鮮な成長培地を添加した。
【0058】
細胞が播種されてから24時間後に、すべての分化剤(IBMX、デキサメサゾン、インシュリン、およびロシグリタゾン)が培地に添加された。媒体は3日後に変えられて、それぞれの薬剤の新鮮な製剤を補充された。培養液中での7日目の後に、IBMXとロシグリタゾンが培地から取り除かれて、細胞は、細胞の分化する能力を暗示する脂質滴形成の観測のために、さらに5〜10日間保たれた。12日目から15日目の間に、培養細胞およびそれらの生成された脂質滴の画像は、倒立顕微鏡によって取得された。次に、培養液は、オイルレッドO(中性脂肪に結合する染料)で培養され;この染料は、次に、抽出されて分光測定によって定量化された。増加したオイルレッドO染色は、より多くの脂質生成に、そしてそれ故、より高い分化水準に相関している。以下の表で与えられた結果は、3つの別々の実験からの概要である:
【表3】

表3は、腹筋前脂肪細胞に比して、顔の前脂肪細胞がロシグリタゾンを含む分化組成物により反応性を有していることを示す。この実施例は、このような組成物で処置された顔の前脂肪細胞が、顔以外の前脂肪細胞の場合よりも、より完全に分化するであろうということを示唆する。
【0059】
重要なことに、以下の表4に示されているように、ロシグリタゾンおよびインシュリンだけの組み合わせは、すべての4つの薬剤を一緒にしたものと同様の分化度を引き起こす;したがって、ロシグリタゾンは、少なくとも顔の前脂肪細胞に対してプレ脂肪細胞分化(pre-adipocyte differentiation)の誘導においてIBMXおよびデキサメサゾンと置換することができる。
【表4】

【0060】
別の研究では、我々は、ロシグリタゾンが、インシュリン、IBMX、およびデキサメサゾンの組み合わせによって分化が部分的に既に引き起こされた後で添加されたときに、依然として脂肪細胞分化を促進できるかどうかを求めた。したがって、人間の初代前脂肪細胞は、分離されて、最初の8日間での、インシュリン、IBMX、およびデキサメサゾンの添加で、部分的に分化することが引き起こされた。ロシグリタゾンは、次に、培養液のいくつかに添加され、そして、培養は15日目まで続けられた。培養細胞およびそれらの生成された脂質滴の画像は、倒立顕微鏡によって研究の12日目から15日目の間で取得された。
【0061】
この研究の結果は下記表5に示される。
【表5】

【0062】
この実施例は、PPAR-gアゴニストが生体外における脂肪細胞の最適の分化に必要であるように考えられるということを示した。
【0063】
〔実施例3:顔の細胞は、腹部の前脂肪細胞が行うよりもより大きい程度で、複数の二次継代(subpassage)を通して分化する能力を保持している。〕
人間の初代前脂肪細胞は、上で説明したように、分離されて、培養された。顔のプレ脂肪細胞(3つの異なる製剤)は、任意の腹部の前脂肪細胞製剤よりも高い程度で分化された。いずれの脂質生成分子への反応も、前脂肪細胞の両方の型において同様であったが、反応の強さは、顔の前脂肪細胞においてより顕著であった。さらに、人間の皮下の腹部皮膚からの前脂肪細胞は、それらが5回目(継代5代目)に新培養液プレートに分けられた後、最小量の分化能力を示し、それらの分化する能力は、実質的に損なわれた。顔の前脂肪細胞は、継代10代目の後でさえ、それらの分化する能力を実質的に損なわず、継代3代目からの細胞と同様の反応を示した。
【0064】
この研究の結果は下記表6に示される。
【表6】

【0065】
この実施例は、顔部および腹部の前脂肪細胞が、異なる分化能力を有するということを示した。
【0066】
〔実施例4:ロシグリタゾンは、前脂肪細胞の分化を引き起こすことにおいてリノール酸よりも優れている。〕
人体の初代前脂肪細胞は、実施例2で記載されているように、分離されて、培養された。すべての薬剤(IBMX、デキサメサゾン、インシュリン、およびリノール酸)は、細胞が播種されてから24時間後に、媒体に添加された。これらの媒体は、3日後に、それぞれの薬剤の新鮮な製剤に変えられた。培養液中での7日目後に、IBMXおよびリノール酸が取り除かれて、細胞は、脂質滴形成の観測のためにさらに5〜10日間保持された。12日目〜15日目の間に、培養細胞およびそれらの生成された脂質滴の画像は、倒立顕微鏡によって取得された。次に、培養液は、オイルレッドO(中性脂肪に結合する染料)で培養された;この染料は、次に、抽出されて、分光測定によって定量化された。以下の表7で与えられた結果は、2つの別々の実験からの概要である:
【表7】

【0067】
この実施例は、リノール酸が、IBMX、インシュリン、およびデキサメサゾンに加えて(5〜50μMで)媒体に添加されたときに、PPAR−γの生理的リガンドであるリノール酸は、前脂肪細胞の脂質生成を高めることができるということを示している。しかしながら、リノール酸だけでは、IBMXとデキサメサゾン(DEX)なしで、分化過程に影響を及ぼすことはできなかった。したがって、リノール酸は、IBMXとデキサメサゾンがないときでさえ前脂肪細胞の分化を刺激するという予期していなかった可能性を有するロシグリタゾンほど脂質生成しない。
結論:
【0068】
リノール酸もまた、皮下脂肪細胞の分化を引き起こすために使用できる。顔部の前脂肪細胞はロシグリタゾンに対してより敏感であるので、ロシグリタゾンは、顔の皮下脂肪の領域において、より効果を生じるであろう。したがって、非常に低い投与量のロシグリタゾンは、局所的な注入に使用できる。
【0069】
〔実施例5:ロシグリタゾンは、前脂肪細胞の分化を引き起こすことにおいて天然抽出物(Pulpactyl、アインコルン)よりも優れている。〕
Pulpactylは、アルテミシアアブロタニウム(Artemisia abrotanum)(一般名:サザンウッド)からの抽出物であり、PPAR−γ作用を有していると主張されている。アインコルン、一粒小麦(triticum monococcum)からの抽出物は、脂質生成を高める性能で知られている。顔の前脂肪細胞の分化を引き起こすためのこれらの抽出物の能力が、評価された。人体の初代前脂肪細胞は、実施例2で記載されているように、分離されて、培養された。細胞が播種されてから24時間後に、すべての薬剤(IBMX、デキサメサゾン、インシュリン、および天然抽出物)は、媒体に添加された。これらの媒体は、3日後に、それぞれの薬剤の新鮮な製剤に変えられた。培養液中での7日目の後に、IBMXおよび天然抽出物が取り除かれて、細胞は、脂質滴組成物の観測のために、さらに5〜10日間保持された。12日目〜15日目の間に、培養細胞およびそれらの生成された脂質滴の画像は、倒立顕微鏡によって取得された。次に、培養液は、オイルレッドO(中性脂肪に結合する染料)で培養された;この染料は、次に、抽出されて、分光測定によって定量化された。下記の表xxxおよびxxxxで与えられた結果は、顔部および腹部の前脂肪細胞の両方の実験からのものである。
【表8】

【表9】

【0070】
この実施例は、(0.001〜20%での)特定の天然抽出物が、IBMX、インシュリン、およびデキサメサゾンに結合されたときに、前脂肪細胞の脂質生成を高めることができるということを示している。しかしながら、天然抽出物は、ロシグリタゾンと同程度には分化過程に影響しなかった。Pulpactylおよびアインコルンなどの天然抽出物もまた、皮下脂肪細胞の分化を引き起こすために使用できる。
【0071】
〔実施例5.ロシグリタゾンと皮膚の充填材料との組み合わせ〕
ある研究が、皮下脂肪に対する、ロシグリタゾンに結合されたコラーゲン充填剤の皮下注入の効果を調べるために開始された。エボレンスは、Colbar、J&J 子会社によって売り出された、独占的な、架橋コラーゲン製品である。エボレンスのサンプルは、化合物とコラーゲンとの間の非共有結合性相互作用を可能にできる様々な状況下で、ロシグリタゾンとともに生体外に培養されるであろう。この混合物は、そして、動物の後部に皮下注入されるであろう。あるいはまた、ロシグリタゾンは、エボレンス注入と同時に注入されてもよい。対照ネズミの群は、注入されないか、塩水単独を注入されるか、または、エボレンスもしくはロシグリタゾンのどちらか単独を注入されるであろう。数週間後に、ネズミは犠牲になっているであろう。次に、注入された領域の全層生検は、取得され、ヘマトキシリンおよびエオシンによって組織学的に染色され、そして、皮下脂肪層の厚さ、脂肪細胞の分布、皮膚のテクスチャおよび健康状態を微視的に調査されるであろう。さらに、個々の脂肪細胞のサイズは、画像解析で測定されるであろう。我々は、この研究がロシグリタゾン処置に関して目に見える美的な利益に変換されうる皮膚脂肪パラメータにおける改良を示すと予想している。我々は、皮膚の欠陥を最も良好な程度に改良する可能性を有する、皮膚の充填剤とロシグリタゾンの組み合わせが充填剤と脂肪層との効果の両方をもたらすと予想している。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
哺乳類の対象における、顔面皮膚欠陥の外観を処置するための方法において、
前記方法は、
a)ペルオキシソーム増殖剤活性化受容体γのアゴニスト、および薬学的に許容しうる担体を含む皮下移送可能な組成物を用意することと、
b)前記対象において処置を必要とする顔面皮膚の領域を特定することと、
c)前記組成物の安全で美容上の有効な量を皮膚の前記領域に皮下移送することと、
を含み、
前記移送は、前記顔面皮膚欠陥の前記外観の減少をもたらす、方法。
【請求項2】
請求項1に記載の方法において、
前記顔面皮膚欠陥は、瘢痕の皮膚、しわになった皮膚、しわのよった皮膚、折り曲がっている皮膚、弛んだ皮膚、病気または外傷による皮膚萎縮、皮膚移植または他の外科で誘発された凹凸に続発した欠陥、および、皮膚の凹凸から選択される、方法。
【請求項3】
請求項1に記載の方法において、
前記ペルオキシソーム増殖剤活性化受容体γの前記アゴニストは、ロジグリタゾン、シグリタゾン、トログリタゾン、エングリタゾン、ピオグリタゾン、リノール酸、リノール酸およびアラキドン酸の酸化的代謝物、ならびに、これらの混合物からなる群から選択される、方法。
【請求項4】
請求項3に記載の方法において、
前記ペルオキシソーム増殖剤活性化受容体γの前記アゴニストは、ロシグリタゾンである、方法。
【請求項5】
請求項1に記載の方法において、
前記PPAR-γの前記アゴニストは、約0.00001重量%から約5重量%の濃度範囲を有している、方法。
【請求項6】
請求項5に記載の方法において、
前記PPAR-γの前記アゴニストは、約0.001重量%から約0.1重量%の濃度範囲を有している、方法。
【請求項7】
請求項6に記載の方法において、
前記PPAR-γの前記アゴニストは、約0.01重量%から約0.1重量%の濃度範囲を有している、方法。
【請求項8】
請求項1に記載の方法において、
前記組成物は、コラーゲン、架橋コラーゲン、ヒアルロン酸、ポリ乳酸、カルシウムヒドロキシルアパタイト、細胞、組織切片、完全な、もしくは断片化された、自己移植細胞または組織、ゼラチン、およびこれらの混合物、からなる群から選択された皮膚の充填材料をさらに含む、方法。
【請求項9】
請求項8に記載の方法において、
前記架橋コラーゲンが1または2以上の糖類で架橋されている、方法。
【請求項10】
哺乳類の対象における顔面輪郭形成方法において、
前記方法は、
a)ペルオキシソーム増殖剤活性化受容体γのアゴニスト、および薬学的に許容しうる担体を含む皮下移送可能な組成物を用意することと、
b)前記対象において処置を必要とする顔面皮膚の領域を特定することと、
c)前記組成物の安全で美容上の有効な量を皮膚の前記領域に皮下移送することと、
を含み、
前記移送は、前記顔面皮膚の前記領域の周りの顔面輪郭の改良をもたらす、方法。
【請求項11】
哺乳類の対象における、皮膚欠陥の外観を処置するための皮下移送可能な組成物において、
前記移送可能な組成物は、
a)ペルオキシソーム増殖剤活性化受容体γのアゴニストと、
b)皮膚の充填材料と、
c)薬学的に許容しうる担体と、
を含み、
前記組成物の移送は、顔面皮膚の前記領域の周りの皮膚欠陥の前記外観の減少をもたらす、組成物。
【請求項12】
請求項11に記載の組成物において、
前記ペルオキシソーム増殖剤活性化受容体γの前記アゴニストは、ロシグリタゾンである、組成物。
【請求項13】
請求項11に記載の組成物において、
前記皮膚の充填材料は、コラーゲン;架橋コラーゲン、ヒアルロン酸、ポリ乳酸、カルシウムヒドロキシルアパタイト、細胞、組織切片、完全な、もしくは断片化された、自己移植細胞または組織、ゼラチン、および、これらの混合物からなる群から選択される、組成物。
【請求項14】
請求項13に記載の組成物において、
前記架橋コラーゲンが1または2以上の糖類で架橋されている、組成物。

【公開番号】特開2009−280579(P2009−280579A)
【公開日】平成21年12月3日(2009.12.3)
【国際特許分類】
【外国語出願】
【出願番号】特願2009−122685(P2009−122685)
【出願日】平成21年5月21日(2009.5.21)
【出願人】(598039367)ジョンソン・アンド・ジョンソン・コンシューマー・カンパニーズ・インコーポレイテッド (79)
【氏名又は名称原語表記】Johnson & Johnson Consumer Companies,Inc.
【住所又は居所原語表記】Grandview Road,Skillman,New Jersey 08558,United States of America
【Fターム(参考)】