説明

顕微鏡用対物レンズ

【課題】本発明は、変倍可能であって充分な倍率を備えているとともに、諸収差が良好に補正された顕微鏡用対物レンズを提供すること。
【解決手段】物体側から順に、正の屈折力を有する第1レンズ群と、負の屈折力を有する第2レンズ群と、正の屈折力を有する第3レンズ群からなり、第2レンズ群が光軸方向に移動し、以下の条件式(1)、(2)を満たす顕微鏡用対物レンズ。
NAH/NAL>2.2 ・・・・(1)
0>(L12−fB1)/D2>−1 ・・・・(2)
ただし、NALは、最も低倍時の開口数、
NAHは、最も高倍時の開口数
fB1は、第1レンズ群の最も像側の面から後側焦点位置までの距離、
L12は、第1レンズ群の最も像側の面と第2レンズ群の最も物体側の面の最
短距離、
D2は、第2レンズ群の最も物体側の面から最も像側の面までの距離、
である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、顕微鏡に用いられる倍率可変の対物レンズに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、低倍率と高倍率を切り換えて用いられる光学系が提案されている。例えば特許文献1及び2には、3つのレンズ群のうち中間の第2レンズ群を光軸方向に移動させて変倍させる光学系が開示されている。
【特許文献1】特開平9−127416号公報
【特許文献2】特開平11−72701号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら、特許文献1に記載の光学系は、変倍可能な対物レンズとして使用するためには充分な倍率を備えておらず、また高倍率化した場合には諸収差が悪化するという問題があった。
【0004】
また、特許文献2に記載の光学系は、収差補正については考慮されていなかった。
【0005】
本発明は、上述した事情に鑑みてなされたものであって、変倍可能であって充分な倍率を備えているとともに、諸収差が良好に補正された顕微鏡用対物レンズを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するために、本発明による顕微鏡用対物レンズは、物体側から順に、正の屈折力を有する第1レンズ群と、負の屈折力を有する第2レンズ群と、正の屈折力を有する第3レンズ群からなり、前記第2レンズ群が光軸方向に移動し、以下の条件式(1)、(2)を満たすことを特徴とする。
NAH/NAL>2.2 ・・・・(1)
0>(L12−fB1)/D2>−1 ・・・・(2)
ただし、NALは、最も低倍時の開口数、
NAHは、最も高倍時の開口数
fB1は、前記第1レンズ群の最も像側の面から後側焦点位置までの距離、
L12は、前記第1レンズ群の最も像側の面と前記第2レンズ群の最も物体側の面の最短距離、
D2は、前記第2レンズ群の最も物体側の面から最も像側の面までの距離、
である。
【0007】
また、本発明の顕微鏡用対物レンズにおいては、以下の条件式(3)を満足するのが好ましい。
1>fL/D>0.28 ・・・・(3)
ただし、fLは、最も低倍時の前記顕微鏡用対物レンズ全体の焦点距離、
Dは、標本面から前記第3レンズ群の最も像側の面までの距離、
である。
【0008】
また、本発明の顕微鏡用対物レンズにおいては、以下の条件式(4)を満足するのが好ましい。
0.5>L2/D>0.2 ・・・・(4)
ただし、L2は、前記第2レンズ群の最も低倍時から最も高倍時までの移動距離、
Dは、標本面から前記第3レンズ群の最も像側の面までの距離、
である。
【発明の効果】
【0009】
本発明の顕微鏡用対物レンズによれば、充分な倍率を備えているとともに、諸収差が良好に補正された倍率可変の顕微鏡用対物レンズを提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
実施例の説明に先立ち、本実施形態の顕微鏡用対物レンズの作用効果について説明する。
本実施形態の顕微鏡用対物レンズは物体側から順に、正の屈折力を有する第1レンズ群と、負の屈折力を有する第2レンズ群と、正の屈折力を有する第3レンズ群からなり、第2レンズ群が光軸方向に移動し、以下の条件式(1)、(2)を満たす。
NAH/NAL>2.2 ・・・・(1)
0>(L12−fB1)/D2>−1 ・・・・(2)
ただし、NALは、最も低倍時の開口数、
NAHは、最も高倍時の開口数
fB1は、第1レンズ群の最も像側の面から後側焦点位置までの距離、
L12は、第1レンズ群の最も像側の面と第2レンズ群の最も物体側の面の最短距離、
D2は、第2レンズ群の最も物体側の面から最も像側の面までの距離、
である。
【0011】
本実施形態の顕微鏡用対物レンズは、物体側から順に、第1レンズ群と、第2レンズ群と、第3レンズ群と、で構成される。第1レンズ群と第3レンズ群は、正の屈折力を有する。一方、第2レンズ群は、負の屈折力を有する。そして、第2レンズ群が光軸方向に移動可能であって倍率可変な対物レンズである。具体的には、第2レンズ群を光軸方向に移動させることで、低倍時と高倍時の2つの倍率に切り替えることが可能である。すなわち、本実施形態の対物レンズは、倍率を2段階に可変できる。
【0012】
正の屈折力を有する第1レンズ群は標本を実像として結像させる。さらに負の屈折力を有する第2レンズ群により虚像としてリレーされる。そして正の屈折力を有する第3レンズ群によりアフォーカル像に変換される。第2レンズ群が光軸方向に移動することで像のリレー倍率が変わり対物レンズとしての倍率を変化させることができる。
【0013】
このとき、本実施形態の顕微鏡用対物レンズは、条件式(1)、(2)を同時に満足することで、諸収差を良好に補正することができる。
条件式(1)を満足すると、顕微鏡用対物レンズは倍率の上昇に伴いNAが大きくなるため、標本の解像度が向上する。
【0014】
条件式(2)の上限値を上回ると、最も低倍時における第3レンズ群での軸外光束の光線高が上がり、コマ収差の補正が十分にできない。また、第3レンズ群での軸外光束の光線高が上がるということは、レンズ径も大きくなる。
また、条件式(2)の下限値を下回ると、最も高倍時に第1レンズ群でのマージナル光線の光線高が高くなり球面収差の補正が難しくなる。
【0015】
また、本実施形態の顕微鏡用対物レンズは、以下の条件式(3)を満足するのがよい。
1>fL/D>0.28 ・・・・(3)
ただし、fLは、最も低倍時の顕微鏡用対物レンズ全体の焦点距離、
Dは、標本面から第3レンズ群の最も像側の面までの距離、
である。
【0016】
条件式(3)の下限値を下回ると、第2レンズ群と第3レンズ群のパワーが強くなる。すなわち、第2レンズ群と第3レンズ群の有するレンズの曲率半径が小さくなるため、球面収差の補正が困難になる。
また、条件式(3)の上限値を上回ると、第2レンズ群の凹パワーが弱くなる。このため、ペッツバール和を小さく出来なくなり、像面湾曲の補正が困難になる。
【0017】
また、本実施形態の顕微鏡用対物レンズは、以下の条件式(4)を満足するのがよい。
0.5>L2/D>0.2 ・・・・(4)
ただし、L2は、第2レンズ群の最も低倍時から最も高倍時までの移動距離、
Dは、標本面から第3レンズ群の最も像側の面までの距離、
である。
【0018】
条件式(4)の下限値を下回ると、第2レンズ群のパワーが小さくなる。すなわち、第2レンズ群の有するレンズの曲率半径が小さくなるため、球面収差の補正が困難になる。
また、条件式(4)の上限値を上回ると、第2レンズ群の凹パワーが弱くなる。このため、ペッツバール和を小さく出来なくなり、像面湾曲の補正が困難になる。
【実施例】
【0019】
以下、本実施形態の顕微鏡用対物レンズを用いた実施例1、実施例2及び実施例3を図に基づいて説明する。実施例1の顕微鏡用対物レンズの断面図を図1に、実施例2の顕微鏡用対物レンズの断面図を図4に、実施例3の顕微鏡用対物レンズの断面図を図7に示す。各図において、(a)は高倍時、(b)は低倍時を示すものであり、第1レンズ群はG1、第2レンズ群はG2、第3レンズ群はG3で示してある。なお、第2レンズ群G2は光軸方向に移動可能である。
【0020】
各実施例の説明に先立ち、各レンズ群の望ましいアッベ数(νd)と、屈折率(nd)について述べる。
第1レンズ群G1には接合レンズを含み、νd1p(第1レンズ群G1内の接合レンズの凸レンズで最小のアッベ数)は、νd1p>80とすることが望ましい。
第2レンズ群G2の、νd2p(第2レンズ群G2内の凸レンズの最大のアッベ数)は、νd2p<50とし、νd2n(第2レンズ群G2内の凹レンズの最小のアッベ数)は、νd2n>50とすることが望ましい。
第3レンズ群G3の、νd3p(第3レンズ群G3内の凸レンズの最小のアッベ数)は、νd3p>50とし、νd3n(第3レンズ群G3内の凹レンズの最大のアッベ数)は、νd3n<45とすることが望ましい。
第2レンズ群G2の、nd2p(第2レンズ群G2内の凸レンズの最小の屈折率)は、nd2p>1.65とすることが望ましい。
第3レンズ群G3の、nd3n(第3レンズ群G3内の凹レンズの最小の屈折率)は、nd3n>1.65とすることが望ましい。
【0021】
実施例1の顕微鏡用対物レンズは、図1に示すように、物体側から順に、第1レンズ群G1と、第2レンズ群G2と、第3レンズ群G3と、から構成されている。第1レンズ群G1は、L1〜L8の8枚のレンズからなり正の屈折力を有する。第2レンズ群G2は、L9とL10の2枚のレンズからなり負の屈折力を有する。第3レンズ群G3は、L11とL12の2枚のレンズからなり正の屈折力を有する。
第1レンズ群G1のνd1pは81.54、第2レンズ群G2のνd2pは27.25、νd2nは50.81であり、第3レンズ群G3のνd3pは70.23、νd3nは34.71である。
また、第2レンズ群G2のnd2pは1.7552であり、第3レンズ群G3のnd3nは1.72047である。
【0022】
実施例2の顕微鏡用対物レンズは、図4に示すように、物体側から順に、第1レンズ群G1と、第2レンズ群G2と、第3レンズ群G3と、から構成されている。第1レンズ群G1は、L21〜L26の6枚のレンズからなり正の屈折力を有する。第2レンズ群G2は、L27とL28の2枚のレンズからなり負の屈折力を有する。第3レンズ群G3は、L29とL30の2枚のレンズからなり正の屈折力を有する。
第1レンズ群G1のνd1pは81.54、第2レンズ群G2のνd2pは29.52、νd2nは52.43であり、第3レンズ群G3のνd3pは52.43、νd3nは26.52である。
また、第2レンズ群G2のnd2pは1.71736であり、第3レンズ群G3のnd3nは1.76182である。
【0023】
実施例3の顕微鏡用対物レンズは、図7に示すように、物体側から順に、第1レンズ群G1と、第2レンズ群G2と、第3レンズ群G3と、から構成されている。第1レンズ群G1は、L31〜L35の5枚のレンズからなり正の屈折力を有する。第2レンズ群G2は、L36〜L38の3枚のレンズからなり負の屈折力を有する。第3レンズ群G3は、L39とL40の2枚のレンズからなり正の屈折力を有する。
第1レンズ群G1のνd1pは81.54、第2レンズ群G2のνd2pは44.78、νd2nは61.14であり、第3レンズ群G3のνd3pは81.54、νd3nは39.59である。
また、第2レンズ群G2のnd2pは1.744であり、第3レンズ群G3のnd3nは1.8044である。
【0024】
次に、実施例1、実施例2及び実施例3のそれぞれについて、顕微鏡用対物レンズを構成する光学部材の数値データを示す。実施例1が、数値実施例1に対応する。実施例2が、数値実施例2に対応する。実施例3が、数値実施例3に対応する。
なお、数値データ及び図面において、rは各レンズ面の曲率半径、dは各レンズの肉厚または空気間隔、ndは各レンズのd線(587.56nm)での屈折率、νdは各レンズのd線(587.56nm)でのアッベ数を表している。長さの単位はmmである。
なお、各数値実施例において、第1面と、第2面におけるデータは、対物レンズに用いられるカバーガラスの値を記載している。従って、第1面と第2面に記載された数値は、用いられるカバーガラスによって、適宜変更され得る。また、各実施例に記載の光学部材は、結像レンズを用いて像を形成する。また、無限遠像のためFナンバーの記載は省略し、物体側NAを記載した。画角は、入射テレセントリックのため0度である。
【0025】
数値実施例1
単位mm
面番号 r d nd νd
物体面 ∞ 0.0000
1 ∞ 1.0000 1.52100 56.02
2 ∞ 2.6944
3 -3.6871 0.7000 1.75520 27.51
4 -28.3665 3.0000 1.49700 81.54
5 -4.6577 0.1922
6 768.6114 3.0000 1.56907 71.32
7 -9.0795 0.4394
8 48.3932 1.5000 1.61800 63.33
9 10.5856 5.2484 1.49700 81.54
10 -16.6847 0.2000
11 38.8817 2.4264 1.49700 81.54
12 -48.1756 0.2551
13 18.3581 3.5000 1.49700 81.54
14 -37.7898 1.5000 1.75520 27.51
15 36.1523 可変
16 -10.4108 1.5840 1.75520 27.51
17 -4.1382 0.9000 1.69350 50.81
18 11.3169 可変
19 253.2375 1.0000 1.72047 34.71
20 19.7327 2.5000 1.48749 70.23
21 -11.4829


各種データ
変倍比 4
高倍時 低倍時
焦点距離 4.5 18
物体側NA 0.58 0.208
画角 0
像高(結像レンズと組合せ) 11 11
レンズ全長(3面−21面) 44.32 44.32
d15 14.65433 2.54111
d18 1.72397 13.83719
入射瞳位置 ∞ ∞
バックフォーカス -14.51595 -38.21325
【0026】
数値実施例2
単位mm
面番号 r d nd νd
物体面 ∞ 0.0000
1 ∞ 1 1.521 56.02
2 ∞ 2.1555
3 -43.3831 4.2314 1.51633 64.14
4 -5.1935 0.4394
5 -11.8573 1.1726 1.7552 27.51
6 32.8911 3.2309 1.497 81.54
7 -9.0789 0.2
8 37.0538 2.9487 1.6779 55.34
9 -14.9884 0.2551
10 18.6157 3.3985 1.497 81.54
11 -10.5636 1.0647 1.744 44.78
12 -58.8146 可変
13 -6.9835 1.584 1.71736 29.52
14 -4.2579 0.9 1.51742 52.43
15 9.6595 可変
16 -2027.8285 1 1.76182 26.52
17 26.4692 2.5 1.51742 52.43
18 -13.0176


各種データ
変倍比 4
高倍時 低倍時
焦点距離 4.5 18
物体側NA 0.58 0.248
画角 0
像高(結像レンズと組合せ) 11 11
レンズ全長(3面−18面) 39.83 39.83
d12 15.12362 1.68104
d15 1.78578 15.22835
入射瞳位置 ∞ ∞
バックフォーカス -15.9249 -43.0978
【0027】
数値実施例3
単位mm
面番号 r d nd νd
物体面 ∞ 0.0000
1 ∞ 1 1.521 56.02
2 ∞ 2.9352
3 -11.7341 4.4159 1.755 52.32
4 -5.714 0.4394
5 -17.5147 1.1726 1.80518 25.42
6 16.7526 3.2725 1.497 81.54
7 -10.9209 0.2
8 35.8822 2.7198 1.497 81.54
9 -18.9973 0.2551
10 16.1147 2.7243 1.497 81.54
11 -58.8138 可変
12 -11.904 0.9 1.48749 70.23
13 4.4214 2.6365 1.744 44.78
14 17.5142 0.4892
15 -19.6502 1 1.58913 61.14
16 6.6331 可変
17 74.0429 1 1.8044 39.59
18 19.8986 2.5 1.497 81.54
19 -11.1327

各種データ
変倍比 4
高倍時 低倍時
焦点距離 4.5 18
物体側NA 0.57 0.24
画角 0
像高(結像レンズと組合せ) 11 11
レンズ全長(3面−19面) 37.45 37.45
d12 11.87927 1.65230
d15 1.84880 12.07577
入射瞳位置 ∞ ∞
バックフォーカス -9.1280 -25.5369
【0028】
次に、上記実施例1(数値実施例1)、実施例2(数値実施例2)及び実施例3(数値実施例3)における、条件式(1)〜(4)に記載のパラメータの値、並びにそのパラメータを構成する各種パラメータの値を示す。
【0029】
各種パラメータの値
実施例1 実施例2 実施例3
L12 2.54111 1.68104 1.6523
fB1 3.6697 2.4184 4.6832
D2 2.484 2.483 5.025
NAH 0.58 0.58 0.57
NAL 0.208 0.248 0.24
fL 18 18 18
D 48.018 42.99 41.3886
L2 12.11 13.44 10.23


NAH/NAL 2.79 2.34 2.38
(L12-fB1)/D2 -0.45 -0.30 -0.60
fL/D 0.37 0.42 0.43
L2/D 0.25 0.31 0.25
【0030】
上記各種パラメータの値より、実施例1(数値実施例1)〜実施例3(数値実地例3)は、いずれも条件式(1)〜(4)を満たしている。
【0031】
次に、上記実施例1〜3の対物レンズに結像レンズを組み合わせた場合における収差について説明する。結像レンズは図10に示すとおりであり、数値データは下記の通りである。また、実施例1の対物レンズに結像レンズを組み合わせた場合における光路図を図2に、実施例2の対物レンズに結像レンズを組み合わせた場合における光路図を図5に、実施例3の対物レンズに結像レンズを組み合わせた場合における光路図を図8に示す。
上記実施例1〜3の対物レンズに結像レンズを組み合わせることで、高倍時における倍率は40倍となり、低倍時における倍率は10倍となる。
【0032】
実施例1〜3の対物レンズに組み合わされる結像レンズ
単位mm
面番号 r d nd νd
1 54.9350 3.0000 1.48749 70.23
2 278.8800 0.3358
3 32.9210 6.0000 1.72342 38.03
4 -90.9350 2.6000 1.71850 33.52
5 25.9270

各種データ
焦点距離 180
Fナンバー 12.5
画角 3.5°
像高 11
レンズ全長 11.9358
入射瞳位置 -40〜-190
バックフォーカス 150.5461
【0033】
上記、実施例1の対物レンズに結像レンズを組み合わせた場合における収差図を図3に示す。実施例2の対物レンズに結像レンズを組み合わせた場合における収差図を図6に示す。実施例3の対物レンズに結像レンズを組み合わせた場合における収差図を図9に示す。
各収差図において(a)は高倍時における球面収差、非点収差、歪曲収差を示し、(b)は低倍時における球面収差、非点収差、歪曲収差を示したものである。また、(c)は高倍時におけるコマ収差を示し、(d)は低倍時におけるコマ収差を示したものである。
【0034】
これらの収差図で、SAは球面収差、ASは非点収差、DTは歪曲収差を示す。なお、球面収差を示す図の縦軸は開口比、横軸は焦点位置(mm)である。また、非点収差を示す図の縦軸は像の高さ(mm)、横軸は焦点位置(mm)である。また、歪曲収差を示す図の縦軸は像の高さ(mm)、横軸は歪曲収差(%)である。
コマ収差を示す(c)と(d)において、左側の図はタンジェンシャル面に関するコマ収差、右側の図はサジタル面に関するコマ収差を示している。なお、タンジェンシャル面とは、光学系の光軸と主光線を含む面(紙面に平行な面)であり、サジタル面とは、光学系の光軸と主光線を含む面に垂直な面(紙面に垂直な面)を意味している。また、縦軸は収差量(mm)であり、横軸は開口比である。
【0035】
各収差図より、高倍時と低倍時のいずれにおいても、球面収差、非点収差、歪曲収差及びコマ収差のいずれもが良好に補正されていることがわかる。
【0036】
本実施例の顕微鏡用対物レンズは、レボルバを回さずに倍率の変換ができるため、対物レンズがマニュピレーターやチャンバーの壁に当たることを防止することができる。一方、マニュピレーターやチャンバーの壁に囲まれている標本を、レボルバを回転させて観察する場合、対物レンズが、標本に当たることを防止するには、ステージの上下移動と、ピントの合わせなおしが必要であるため、操作性が良くない。
【0037】
また、本実施例の顕微鏡用対物レンズは、対物レンズ内に変倍機構があるため、倍率に適した解像力を維持することができる。具体的には、低倍時(10倍)におけるNAが0.2以上、高倍時(40倍)におけるNAが0.55以上となるため、高倍時および低倍時の何れにおいても良好な解像力を維持している。一方、対物レンズよりも像側に変倍機構をもつ光学系は、倍率の変化に対しNAの変化が不十分であるため、高倍時または低倍時の何れかの解像力が低下する。
【0038】
また、本実施例の顕微鏡用対物レンズは、全長が45mm以内に収まるので既存の顕微鏡に装着することができる。一方、対物レンズの内部にズーム機構を設けた場合は、レンズ枚数が多くなり、光学系の全長、太さが大きくなるため既存の顕微鏡にそのまま装着できない。
【0039】
また、本実施例の顕微鏡用対物レンズは、レンズ部品点数が通常の対物レンズ2本分と同等か少なく構成することができる。このため、対物レンズを安く作成することができる。一方、対物レンズの後に変倍機構をもつ光学系や、対物レンズ内部にズーム機構を持つ光学系はレンズ枚数が多くなり高価になる。
【図面の簡単な説明】
【0040】
【図1】本発明に係る顕微鏡用対物レンズの実施例1のレンズ断面図であり、(a)は高倍時、(b)は低倍時である。
【図2】実施例1の顕微鏡用対物レンズに結像レンズを組み合わせた光路図である。
【図3】実施例1の顕微鏡用対物レンズに結像レンズを組み合わせた収差図であり、(a)と(c)は高倍時、(b)と(d)は低倍時である。
【図4】本発明に係る顕微鏡用対物レンズの実施例2のレンズ断面図であり、(a)は高倍時、(b)は低倍時である。
【図5】実施例2の顕微鏡用対物レンズに結像レンズを組み合わせた光路図である。
【図6】実施例2の顕微鏡用対物レンズに結像レンズを組み合わせた収差図であり、(a)と(c)は高倍時、(b)と(d)は低倍時である。
【図7】本発明に係る顕微鏡用対物レンズの実施例3のレンズ断面図であり、(a)は高倍時、(b)は低倍時である。
【図8】実施例3の顕微鏡用対物レンズに結像レンズを組み合わせた光路図である。
【図9】実施例3の顕微鏡用対物レンズに結像レンズを組み合わせた収差図であり、(a)と(c)は高倍時、(b)と(d)は低倍時である。
【図10】本発明の実施例1〜3の顕微鏡用対物レンズと組み合わせた結像レンズ断面図である。
【符号の説明】
【0041】
G1:第1レンズ群
G2:第2レンズ群
G3:第3レンズ群

【特許請求の範囲】
【請求項1】
物体側から順に、正の屈折力を有する第1レンズ群と、負の屈折力を有する第2レンズ群と、正の屈折力を有する第3レンズ群からなり、前記第2レンズ群が光軸方向に移動し、以下の条件式(1)、(2)を満たすことを特徴とする顕微鏡用対物レンズ。
NAH/NAL>2.2 ・・・・(1)
0>(L12−fB1)/D2>−1 ・・・・(2)
ただし、NALは、最も低倍時の開口数、
NAHは、最も高倍時の開口数
fB1は、前記第1レンズ群の最も像側の面から後側焦点位置までの距離、
L12は、前記第1レンズ群の最も像側の面と前記第2レンズ群の最も物体側の面の最短距離、
D2は、前記第2レンズ群の最も物体側の面から最も像側の面までの距離、
である。
【請求項2】
以下の条件式(3)を満たす請求項1に記載の顕微鏡用対物レンズ。
1>fL/D>0.28 ・・・・(3)
ただし、fLは、最も低倍時の前記顕微鏡用対物レンズ全体の焦点距離、
Dは、標本面から前記第3レンズ群の最も像側の面までの距離、
である。
【請求項3】
以下の条件式(4)を満たす請求項1または2に記載の顕微鏡用対物レンズ。
0.5>L2/D>0.2 ・・・・(4)
ただし、L2は、前記第2レンズ群の最も低倍時から最も高倍時までの移動距離、
Dは、標本面から前記第3レンズ群の最も像側の面までの距離、
である。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2010−85426(P2010−85426A)
【公開日】平成22年4月15日(2010.4.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−251066(P2008−251066)
【出願日】平成20年9月29日(2008.9.29)
【出願人】(000000376)オリンパス株式会社 (11,466)
【Fターム(参考)】