説明

類似事例検索を精密化するための方法及び装置

本発明は、データベースの事例のサーチに関する。提案の方法及び装置によれば、類似性照合は、所定の照合判断基準を用いることにより初期のサーチにおいて入力事例と1組の事例との間で行われ類似事例を検索するようにしている。そして、類似事例に関する画像系及び非画像系の特徴に関する統計値は、計算され、類似事例とともにユーザに提示される。サーチ精密化において、類似事例は、統計情報に基づきユーザにより判定される付加的な特徴により洗練される。このサーチ精密化は、ユーザの必要性に応じて繰り返されるものとすることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、検索に関し、より詳しくは、例えば事例に基づくコンピュータ支援型の診断及びコンピュータ支援型の治療管理といった医療用途における事例に基づく意思決定支援のための階層的検索の方法及び装置に関する。
【背景技術】
【0002】
事例に基づく臨床用意思決定支援システム(CDSS;case-based clinical decision support systems)は、診断し治療した前の事例であって評価際中にある当該事例に類似した事例を識別し提示することによって医師を補助することができる。こうしたシステムは、以前の又は学習した事例の医師自身の記憶が新しい臨床の意思決定を導く伝統的な臨床用意思決定過程を拡大するものである。事例に基づくCDSSシステムは、医師1人が持つ経歴的経験を超越するデータセットに迅速かつ確実に医師がアクセスすることができるものとなる。
【0003】
研究により、診断及び治療を向上させる際に医師を手助けするために、コンピュータ支援型診断(CADx;computer-aided diagnosis)及びコンピュータ支援型治療管理(CATM;computer-aided therapy management)のための事例に基づくシステムの可能性が実証された。経験のある医師により使われる認知過程と同様の帰納的態様において事例を検索することによって、このようなシステムは、臨床状況における使用に自然に適したものである。したがって、事例に基づくCADxシステムは、医師が自分の診断の正確さを改善し、治療における不必要な介入及び遅延の双方を減らすことを助けるものとなる。CATM分野において、事例に基づくシステムは、過去の類似の事例に基づいてより良い治療計画を適用することによって、患者予後を改善し治療時間を短縮することができる。
【0004】
現在の事例に基づくCDSSシステムは、主として、画像に基づく情報だけに基づいた類似の事例を呈示し、診断過程における重要な役割を担う患者の医療経歴を組み入れることにかけるものである。しばしば、これらシステムは、医師に対して多すぎる「類似の」事例を呈示したり、或いは、画像に基づく情報単独の使用が、真に臨床的に類似の又は関連した事例を見つけるのには不十分である。したがって、事例に基づくCDSSシステムは、その元の目的を損ねる可能性がある。医師の意思決定過程における医師を補助するというよりも、これらの情報オーバーロードを、実際には関連のないものを多く有する多すぎる事例とともに呈示されることによって増大させてしまう。これに加え、画像に基づく特徴は、十分な事例を見つけるのに十分ではない場合がある。このことは、問題となっている事例が異例の外観を有する場合に特に問題である。
【0005】
こうした問題を解決する1つの可能な方法は、画像に基づく特徴と、対象の患者に関連した関連の過去又は現在の病気、ライフスタイル状況、遺伝子特性、家族の医療経歴、患者の生命統計値(血圧、心拍数など)のような関連の画像に基づかない情報とを用いることである。この付加的な非画像データは、データベースにおける同様の事例を検索するために当該画像に基づく特徴と組み合わせられることができる。しかしながら、従来の検索技術を活用すると、検索された結果は、当該事例検索システムにおいて固定され又は当該検索過程の始まりにおいて入力される所定の判断基準に基づいている。したがって、従来技術に基づくこのようなシステムは、検索過程の間において事例類似性の主観的感覚を用いて当該検索を洗練させるような可能性を医師に与えることができず、これにより、事例検索の有用性及び効率性を限定してしまう。さらに、ユーザ入力が検索過程の間に限定されるので、これまでに知られているシステムは、何故或る特定の事例が検索されたかについて透明性に欠けている。
【0006】
したがって、事例検索性能を改善する検索方法及び装置を提供する必要がある。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の目的は、データベースにおける類似の事例を検索するときに事例検索性能を向上させる検索方法及び装置を提供することである。本発明は、これを、ユーザに対して類似事例を検索するために多段アプローチを用いて検索が行われるようにした階層的検索方法及び装置を提案することによって達成するものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の一態様によれば、本発明は、データベースの事例を検索する方法であって、
・第1の照合判断基準を用いることによって入力事例と前記データベースの事例との類似性照合を行い、前記入力事例に類似した1組の事例を識別するようにする第1のステップと、
・当該1組の類似事例に関連した特徴に関する統計情報を計算するステップと、
・前記1組の類似事例及び前記統計情報をユーザに提示するステップと、
・前記統計情報に基づいて第2の照合判断基準を含むユーザ入力を受信するステップと、
・前記第2の照合判断基準を用いることによって前記入力事例と前記1組の類似事例との類似性照合を行う第2のステップと、
を有する方法を提供する。
【0009】
当該1組の類似事例に関連づけられる特徴は、画像に基づく(画像系)特徴及び/又は画像に基づかない(非画像系)特徴である。類似性照合を行う第1のステップは、当該入力された事例に類似した事例を識別するよう初期検索として実行される。類似性照合を行う第2のステップは、当該初期検索における検索結果を洗練させるための検索精密化として行われ、このステップは、ユーザが望む回数繰り返すことができる。
【0010】
事例検索結果に関連した統計情報が提供されるユーザにより駆動される多段アプローチにおいて類似性照合を可能にすることにより、この発明は、どのようにして、そしてどんな理由をもって当該特定の類似事例がデータベースから検索されるかについて、ユーザに対し、1段アプローチよりも多大な洞察を付与するものであり、事例検索性能の向上をもたらすものである。
【0011】
実施例において、前記データベースの事例は、異なる画像形成モダリティにより分類される複数の画像を含み、前記類似性照合を行う第1のステップは、
・画像形成モダリティ毎に入力事例と前記データベースの事例との類似性照合を行い、前記第1の照合判断基準を用いることによって複数のそれぞれの組の類似事例を識別すること、及び
・類似事例の前記各組のうちの少なくとも2つの組に現れかつ前記統計情報を計算するステップにより用いられるべき事例を選択すること、
を有し、
前記類似性照合を行う第2のステップは、前記入力事例と当該選択された類似事例との間で行われる。
【0012】
実施例において、前記第1の照合判断基準は、少なくとも1つの画像系の特徴を含み、前記第2の照合判断基準は、少なくとも1つの非画像系の特徴を含む。初期検索の類似性照合は、画像系の特徴に基づいており、検索結果は、非画像特徴に基づいて洗練させられる。或いは、初期検索及び検索精密化のために用いられる特徴の順序は反対にすることができ、或いは、当該照合の判断基準は、画像系の特徴及び非画像系の特徴の双方を含むようにしてもよい。このようにして、本発明は、ユーザに対して高い汎用性を提供するのである。
【0013】
類似性照合を行うステップにおいて、比較すべき事例の各々について類似性の値が計算され、これが入力された事例と検索された事例の各々との類似性の程度を示すようにすることが有利である。さらに、結果として生じるステップにおける検索精密化の結果は、当該1組の類似事例から出すよう事例全部を動かすこと、又は更新された類似性照合判断基準に基づいて当該1組の類似事例の類似レートを変調すること、或いはこれら双方の組み合わせを含む。このようにして、事例検索過程は、医師の意思決定過程に良好に適合することとなる。
【0014】
また、ユーザ入力はさらに、画像系特徴又は非画像系特徴のいずれかに与えられるオプションの数値的重要性の値(重み)を有し、これにより、例えば、ユークリッド距離、マハラノビス距離又はハミング距離といった類似性メトリックの計算に基づいて類似性照合が行われるようにすることも有利である。或いは、当該メトリックは、これら3つの重みづけられた組み合わせとすることができる。
【0015】
また、ユーザ入力は、特徴の重要性及びそうした特徴のための許容可能な範囲又は値を特定することができるようにすることが有利である。この態様によれば、ユーザは、これら仕様に忠実でない事例が検索結果に戻されるべきではないことを直接特定することができる。或いは、階層的検索は、より概念的なものとすることができ、決定的特徴は、ユーザ入力において識別可能であるが、特徴の値の範囲は特定されない。医師は、例えば類似の治療などを伴う事例を検索するために、用いるべき種々の特徴を特定し、又は対象となっている患者の診断結果に基づいて当該検索を精密化することができる。これは、事例に基づくコンピュータ支援型治療計画に対して特に役立つものである。
【0016】
他の態様によれば、本発明は、データベースの事例を検索するようサーチする装置であって、
第1の照合判断基準を用いることによって入力事例と前記データベースの事例との類似性照合を行い、前記入力事例に類似した1組の事例を識別する第1の照合ユニットと、
当該1組の類似事例に関連した特徴の統計情報を計算する計算ユニットと、
前記1組の類似事例及び前記統計情報をユーザへ提示する提示ユニットと、
前記統計情報に基づいて第2の照合判断基準を含むユーザ入力を受信する受信ユニットと、
前記第2の照合判断基準を用いることによって前記入力事例と前記1組の類似事例との類似性照合を行う第2の照合ユニットと、
を有する装置を提供する。
【0017】
実施例において、前記データベースの事例は、異なる画像形成モダリティを用いて得られる複数の画像を含み、前記第1の照合ユニットは、さらに、画像形成モダリティ毎に入力事例と前記データベースの事例との類似性照合を行い、前記第1の照合判断基準を用い前記類似事例の各組のうちの少なくとも2つの組に現れる事例を選択することにより複数のそれぞれの組の類似事例を識別し、前記統計情報を計算するステップにより用いられるようにするように構成され、前記第2の照合ユニットは、さらに、前記入力事例と当該選択された類似事例との類似性照合を行うよう構成される。
【0018】
他の実施例において、装置300は、前記ユーザに類似した事例を検索するために、さらなるユーザ入力に基づいて、更新された類似性照合判断基準を用いることにより前記入力事例と更新された組の類似事例との類似性照合を行う反復ステップを制御するためのコントローラ360を有する。
【0019】
説明するこれらの方法及び装置の変形並びにこれらのバリエーションに対応する、独立請求項に規定される本発明のこれらの変形及び変更は、ここに提示する説明に基づいて当業者により実施することができるものである。
【図面の簡単な説明】
【0020】
本発明のこれらの目的及び特徴並びにその他の目的及び特徴は、添付図面に関連して考慮される以下の詳細な説明から、より明らかなものとなる筈である。
【図1】本発明による方法の模範的実施例を示すフローチャート。
【図2】マルチスライスCTスキャンのみを用いた肺癌診断のための初期検索の模範的出力を示す図。
【図3】本発明による装置の模範的実施例を示すブロック図。 図中、同じ参照数字は同等の部分を指すために用いられている。
【発明を実施するための形態】
【0021】
図1は、データベースから事例を検索するための、本発明による方法の模範的実施例を示すフローチャートである。
【0022】
図1を参照すると、本方法の処理は、第1の照合判断基準を用いることにより入力事例とデータベースの事例との類似性照合を行い、この入力事例に類似する1組の事例を識別する第1のステップ110から開始する。このステップは、当該データベースから事例を検索するための初期検索として行われる。
【0023】
類似性照合のために用いられる第1の照合判断基準は、医療の被検体の画像から得られる画像系特徴を含むようにすることができる。これら特徴は、例えば、腫瘍の形状、腫瘍の生地、及び時間にともなう事例スキャンにおける治療による腫瘍のサイズ変化などを含みうる。或いは、第1の照合判断基準は、例えば、関連の過去又は現在の病気、生活様式状況、遺伝子特性、及び家族の医療経歴といった臨床情報から得られる非画像系特徴を含みうる。この臨床情報は、例えば体重、アレルギ及びその他の生命活動統計情報など、診断又は治療すべき患者に係る医師の特定の知識/情報を含むように拡張されることができる。
【0024】
実施例において、データベースの事例が、肺癌の場合において異なるモダリティ、例えばPET及びCTスキャンにより分類される複数の画像を含むとき、類似性照合を行う当該第1のステップ110は、モダリティ毎に入力事例とデータベースにおける事例との類似性照合を行い当該第1の照合判断基準を用いることにより複数のそれぞれの組の類似事例を識別するサブステップと、当該類似事例の組のうちの少なくとも2つの組において現れる事例を選択するサブステップとを有することができる。選択された類似事例は、後述する統計情報を計算する後続ステップにより用いられることが意図される。
【0025】
比較すべき全ての事例の類似性の値が入力事例と比較すべき事例との類似性の程度を示すために計算されることは有利である。類似性の値は、医師が検索結果を評価するのに役に立つ。何故なら、事例類似性は、実務上同一の事例から全く互いに似ていないものに及んで、連続した形で存在するからである。
【0026】
本方法はさらに、当該第1のステップの検索において、例えばステップ110において検索された当該1組の類似事例に関連した画像系特徴及び/又は非画像系特徴についての統計情報を計算するステップ120を有する。データベースの事例が異なるモダリティ(例えばPET,CTなど)により分類された複数の画像を含む場合、当該統計情報は、2つ以上のモダリティにおいて現れる選択された類似事例に関連した特徴について計算される。
【0027】
実施例において、画像系特徴に基づいてデータベースから類似事例が検索されたとき、当該1組の類似事例に関連した非画像系特徴についての統計情報が計算される。これら統計情報は、例えば、検索された類似事例における男性又は女性の数、肺癌診断のための喫煙歴(例えば年数)、乳癌診断のための家族の女系における癌履歴(例えば、以前、癌と診断された血縁者の数)など、データベースで入手可能でかつ当該事例に関連したものとなりうる臨床情報の如き非画像系情報を表すものである。
【0028】
或いは、類似事例が非画像系特徴に基づいてデータベースから検索されるとき、当該1組の類似事例に関連した画像系特徴に関する統計情報が計算される。当該統計情報は、腫瘍の平均サイズ又は予め規定された閾値よりも大きいサイズを有する事例の数又はパーセントなどの画像系情報を表す。
【0029】
また、このステップにおいては、どんなタイプの特徴が類似事例を検索するために用いられるかにかかわらず、画像系特徴及び非画像系特徴の双方に関する統計情報が計算されることが可能である。医師は、後続の入力(以下に詳述される)を策定し、当該検索を精密化するために付加的な特徴を選択し、さらには検索戦略を調整するために当該統計情報を用いることができる。
【0030】
本方法はさらに、当該1組の類似事例及び当該統計情報をユーザに提示するステップ130を有する。例えば、当該情報を表示のためにスクリーンに出力するなど、有意儀な態様でユーザに類似事例及び統計情報を呈示する種々の方法がある。
【0031】
類似性値がステップ110で計算されるときに各識別された類似事例の類似性値をユーザに提示することが有利である。さらに、医師は、どれほどの数の事例が実際に処理されつつあるか及びどれほどの数が提示されつつあるかについて知らされることができる。
【0032】
図2は、マルチスライスCTスキャンのみを用いた肺癌診断のための類似性照合のステップ110の後の模範的出力を示している。図2に示されるスクリーンにおいて、左上部分が入力事例の画像を表し、左下部分は、年齢、喫煙履歴、性別、他の肺病(例えば肺気腫)、癌履歴及びリンパ節状態を含むこの事例に対する入手可能な臨床情報を表している。
【0033】
このスクリーンの右上部分には、8つの類似画像が示されており、これらは、既知の診断を伴う過去の事例のデータベースから検索されたものである。各検索された画像の上部には、当該事例の診断結果の表示、例えば、悪性又は良性及び入力事例とステップ110により検索された各事例との類似性距離がある。例えば、第1の行における第2の画像の上部における「M:1.39」は、当該事例の診断結果が悪性であること及び当該事例と該当の事例との類似性距離が1.39であることを示している。類似性距離の計算は、当該各事例を表す特徴に基づいて計算されたユークリッド距離に対応しうる(距離計算については以下で詳しく説明する)。数が小さくなるほど、検索した事例が入力事例に類似するものとなる。
【0034】
スクリーンの右下部分には、平均年齢、喫煙履歴、性別分布、他の病気(例えば、肺気腫、癌経歴及び陽性又は陰性リンパ節の事例の数など)と診断された回数といった臨床情報(すなわち、各検索された類似事例に関連した非画像系情報)を含む検索事例に関連して統計情報が示される。
【0035】
検索した類似事例及び統計情報を見ることによって、医師は、自分が精密化のための構造サーチを行いたいかどうかを決定することができる。サーチの第1のステップにおいて識別される類似事例の数は少ない場合があり、さらなる精密化は必要ない場合がある。比較的可能性の高いシナリオは、類似事例の数が非常に大きく、それで医師が精密化のための後続のサーチを行うことを決定しうることである。このような状況において、医師は、類似性照合判断基準を精密化し又は束縛するために、当該類似性に関する自分の個人的認識及び当該統計情報の分析に基づいて、付加的特徴を含むユーザ入力を策定する。
【0036】
したがって、本方法は、サーチ精密化が必要かどうかを決定するステップ135をさらに有する。医師が多数の精密化サーチの後に検索結果に満足した場合、当該処理は終了(END)し、そうでない場合は、以下に説明されるように精密化が行われる。
【0037】
本方法はさらに、当該統計情報に基づいて第2の照合判断基準を含むユーザ入力を検索するステップ140を有する。第2の照合判断基準は、第1の照合判断基準における特徴とは異なる付加的な特徴を含む。例えば、第1の照合判断基準が画像系特徴を含むとき、第2の照合判断基準は、検索した類似事例の医師による認識及び当該統計情報により呈される情報に応じて、非画像系特徴を含んでもよい。或いは、医師は、第1及び第2の類似性照合判断基準の順序を逆にしてもよい。
【0038】
実施例において、本方法は、医師が、関連の特徴のメニューから選択し、関連の特徴を表すアイコンをドラッグしてドロップし、一連のスライダ、メニュー及びトグルスイッチを用いてそれらの重要性によって特徴を評定し、又は自由な形式の又は構造化されたテキストを入力することができるようにしている。さらに、本方法によって、医師は、類似性照合のためのサンプルの事例及び特徴を含む共通の入力をセーブし、セーブされた入力の自分自身のプールから選択することができる。幾つかの用途においては、本方法は、これら入力が、例えば関連の保険業者又は病院管理者などの支払人によって読まれ分析されて、医師の実績を監視するようにすることを可能にする。
【0039】
実用的な用途において、医師は、類似事例の自分の認識及び統計情報に基づいて自分のサーチ判断基準をそしてサーチ戦略をも調整することができる。例えば、肺癌診断について、肺気腫のような他の肺の病気に関する患者の経歴を綿密に検討し又は癌履歴を備えることは重要なものとなりうる。さらに、他の生活様式情報も関連する可能性がある。例えば、患者が10年前に客室乗務員として15年間働いた場合、その彼又は彼女は、かなりの量の受動喫煙に晒されていた。したがって、データベースがこの患者の受動喫煙状況に関する情報を有するならば、医師は、類似性照合判断基準を覆すことができる。この場合、当該医師は、受動喫煙に晒された患者のためのデータベースをサーチして、例えば、当該1組の事例を予め選別するために非画像系特徴を用いて類似性照合を行いその後に肺結節の画像系特徴に基づいてサーチを洗練させるようにしたいという状況が考えられる。
【0040】
或いは、検索された事例から、医師は、非常に類似した1つ又は2つの事例を選択することができ、そして、2番目に類似した照合判断基準は、例えばこれら選択された事例に基づく臨床情報といった画像系特徴及び非画像系特徴を含みうるのである。医師は、類似の治療などを伴う事例を使用例えば検索するため、又は対象となっている患者の診断結果に基づいてサーチを精密化するため、種々の特徴を特定することもできる。これは、事例に基づいたコンピュータ支援型の治療計画にとっては特に役立つものである。
【0041】
本方法はさらに、この第2の照合判断基準を用いることによって入力事例と選択した類似事例との間の類似性照合を行って検索結果を洗練させるようにする第2のステップ150を有する。データベースの事例が種々のモダリティにより分類された複数の画像を含む場合、類似性照合の第2のステップは、入力事例と特定の組の類似事例又は統計情報計算のために用いられた当該選択された類似事例を含む各組の類似事例との間で行われる。
【0042】
検索結果がステップ150により精密化されると、精密化された組の類似事例に関連した特徴に関する統計情報は、ステップ120を繰り返すことによって計算され、ステップ130を繰り返すことによって当該精密化された組の類似事例とともに医師に提示される。前述したものと同様に、医師は、検索結果を見て評価し、さらなるサーチ精密化が必要かどうかを判定する。さらなるサーチ精密化が必要なときは、ステップ135、140、150は、他のユーザ入力に基づいて更新された類似性照合判断基準を用いることによって更新された組の類似事例を得るために繰り返されることになる。
【0043】
検索精密化又は反復は、必要に応じた回数、繰り返すことができる。医師は、中間の精密化ステップを除去し又はそれらを後の使用のために記憶することができる。但し、実際は、サーチ精密化のステップは、少数回しか行われないものと期待されており、そうでないと、医師の診断効率を落としかねない。精密化の反復数は、医師の経験によるところが大きい。このため、本方法は、臨床の意思決定支援に加えて、医師のトレーニングのためにも用いられることができる。
【0044】
第1及び第2の又は後続の類似性照合のステップにおいて行われる類似性照合は、例えば「診断において30から35歳の患者のみ示せ」といった医師の要求に直接基づいたものとすることができる。この場合、特定の数値的判断基準が付与され、サーチのための類似性照合は、簡単なブール論理による除外又は包含を経て進められることができる。
【0045】
或いは、類似性照合は、より概念的なものとすることができ、事例特性、例えば事例に関連した非画像系特徴は、与えられるものの、例えば「年齢及び喫煙歴を考慮せよ」など、値の範囲が特定されないものとすることができる。このアプローチにおいて、事例特性は、重要性に関してランク付けされ、又は医師により数値的な重要性の値が与えられ、より一般的な数学的類似性照合を類似事例を検索するために用いることができる。
【0046】
類似性照合は、周知の類似性メトリクス、例えば、次の2つのポイントの間の直線距離として定義されるユークリッド距離を用いて行うことができる。当該ポイントは、p=(p,p,…,p)と、q=(q,q,…,q)であり、例えば、
【数1】

である。ここで、p=(p,p,…,p)は、入力事例の特徴(画像系特徴及び/又は非画像系特徴)を表す1組の数値を示し、q=(q,q,…,q)は、サーチすべきデータベース中の事例の特徴を表す1組の数値を示し、Nは、類似性照合のために医師により要求された特徴の数を示している。ユークリッド距離dは、入力事例と比較事例との間の類似性距離を表しており、この距離が小さいほど、検索した事例が対象の事例に類似している。
【0047】
類似性照合は、マハラノビス距離などの他の周知の類似性マトリクスを代替的に用いることができる。これら2つの事例をベクトル


及び共分散行列Σにおいて表わされる母集団の共分散として表現することにより、当該距離は、
【数2】

と表現することができる。
【0048】
他の同様のメトリクス又は上述したものの重み付けされた組み合わせは、実際の用途に応じて類似性照合のために用いることができる。当該1組の特徴が2進列で表わされる場合、2つの2進列の間で異なるビット数を示すハミング距離は、2つの事例の間の当該類似性距離を計算するために用いることができる。
【0049】
類似性照合を行う第2の又は後続のステップにおけるサーチ精密化の結果は、ユーザが所望する出力により近い合致をなすために、検索した組の類似例から全体的に移動することによって、又は検索した類似事例毎に類似性値を変調することによって、得ることができる。かかる精密化は、毎回非画像系特徴の1つだけに基づいて順次に行われるようにすることができ、或いはまた、複数の非画像系特徴を共に同時に用いて行われるようにすることができる。さらに、検索結果は、サーチの最初のステップにおいて行われるように画像系特徴を用いて精密化させられることができる。
【0050】
サーチ精密化ステップは、医者の要求に応じて多数回に付き繰り返されるようにしてもよい。精密化毎に、医師は、当該サーチ結果に関する統計情報に関するグラフィカルな表示を通じてアドバイスを受ける。さらに、医師は、例えば、対象の患者の類似の治療又は診断結果によるサーチを精密化するために用いるべき異なる特徴を特定するようにしてもよい。
【0051】
図1に示されるような上記方法は、ソフトウェア若しくはハードウェア、又はこれらの組み合わせで実現することができる。
【0052】
図3は、本発明による装置300の模範的実施例を示すブロック図である。本発明によれば、装置300は、第1の照合判断基準を用いることによって入力事例とデータベースの事例との類似性照合を行い、当該入力事例に類似した1組の事例を識別するための第1の照合ユニット310を有する。第1の照合ユニット310は、当該方法におけるステップ110を行うように意図されている。
【0053】
装置300はさらに、当該1組の類似事例に関連した画像系及び/又は非画像系の特徴についての統計情報を計算するための計算ユニット320を有する。計算ユニット320は、当該方法におけるステップ120を行うように意図される。
【0054】
装置300はさらに、当該1組の類似事例及び当該統計情報をユーザに提示するための提示ユニット330を有する。提示ユニット330は、当該方法におけるステップ130を行うよう意図されている。
【0055】
装置300はさらに、当該統計情報に基づいて第2の照合判断基準を含むユーザ入力を受信する受信ユニット340を有する。受信ユニット340は、当該方法におけるステップ140を行うよう意図されている。
【0056】
装置300はさらに、当該第2の照合判断基準を用いることにより入力事例と当該1組の類似事例との類似性照合を行うための第2の照合ユニット350を有する。第2の照合ユニット350は、当該方法におけるステップ150を行うように意図されている。
【0057】
実施例において、データベースの事例が異なるモダリティにより分類される複数の画像を含む場合、第1の照合ユニット310はさらに、モダリティ毎に入力事例とデータベースの事例との類似性照合を行うように構成され、第1の照合判断基準を用いかつ当該各組の類似事例のうちの少なくとも2つの組に現れる事例を選択することにより複数のそれぞれの組の類似事例を識別し、統計情報を計算する当該ステップにより用いられるようにし、第2の照合ユニット350はさらに、入力事例と当該選択された類似事例との類似性照合を行うように構成される。
【0058】
装置300はまた、検索のための事例を含むデータベース303と、装置300における各ユニットを纏めるための内部バス305とを有するようにしてもよい。さらに、装置300は、ユーザに類似する事例を検索するよう、他のユーザ入力に基づいて、更新された類似性照合判断基準を用いることによって入力事例と更新された組の類似事例との類似性照合を行う反復ステップを制御するためのコントローラを有する。
【0059】
実施例において、第1及び/又は第2の照合ユニット310及び350は、さらに、入力事例と比較すべき事例との類似性の程度を示すために、比較すべき事例毎に類似性の値を計算するように構成されるようにしてもよい。
【0060】
本発明は、特徴として又は別個の付加的モジュールとして放射線学情報科学の又は医療情報科学の製品に集積されることができる。本発明は、独立型の事例に基づくCADx又は治療管理ワークステーション製品又はこれらの組み合わせとして実現することもできる。本発明は、1つ又は複数の診断又は監視モダリティに関連したコンピュータ支援型診断システムのために用いることができる。本発明は、種々の病気の診断を補助するため、診断過程において疑いのある診断を確認するため、そして医師による治療計画を補助するために用いることができる。他の用途は、教示、救急診断及び事例に基づくコンピュータ支援型治療管理を含む。
【0061】
なお、上述した実施例は、本発明を限定するのではなく例示するものであり、当業者であれば、添付の請求項の範囲を逸脱することなく代替えの実施例を構成することができる筈である。請求項において、括弧内に付される参照符号は、当該請求項を限定するものと解釈してはならない。「有する」なる文言は、請求項又は詳細な説明において挙げられていない要素又はステップの存在を排除しない。要素の単数表現は、そのような要素の複数の存在を排除しない。本発明は、複数の別個の要素を有するハードウェアのユニットにより、そしてプログラムされたコンピュータのユニットにより実現することができる。複数のユニットを列挙する装置の請求項において、これらユニットの幾つかは、同一のハードウェア又はソフトウェアにより具現化することができる。第1、第2、第3などの文言の使用は、順番を示すものではない。これら文言は、名称と解釈すべきである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
データベースの事例を検索する方法であって、
・第1の照合判断基準を用いることによって入力事例と前記データベースの事例との類似性照合を行い、前記入力事例に類似した1組の事例を識別するようにする第1のステップと、
・当該1組の類似事例に関連した特徴に関する統計情報を計算するステップと、
・前記1組の類似事例及び前記統計情報をユーザに提示するステップと、
・前記統計情報に基づいて第2の照合判断基準を含むユーザ入力を受信するステップと、
・前記第2の照合判断基準を用いることによって前記入力事例と前記1組の類似事例との類似性照合を行う第2のステップと、
を有する方法。
【請求項2】
請求項1に記載の方法であって、前記データベースの事例は、異なる画像形成モダリティにより分類される複数の画像を含み、前記類似性照合を行う第1のステップは、
・画像形成モダリティ毎に入力事例と前記データベースの事例との類似性照合を行い、前記第1の照合判断基準を用いることによって複数のそれぞれの組の類似事例を識別すること、及び
・類似事例の前記各組のうちの少なくとも2つの組に現れかつ前記統計情報を計算するステップにより用いられるべき事例を選択すること、
を有し、
前記類似性照合を行う第2のステップは、前記入力事例と当該選択された類似事例との間で行われる、
方法。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の方法であって、当該1組の類似事例に関連する特徴は、画像系及び/又は非画像系の特徴である、方法。
【請求項4】
請求項3に記載の方法であって、前記第1の照合判断基準は、少なくとも1つの画像系の特徴を含み、前記第2の照合判断基準は、少なくとも1つの非画像系の特徴を含む、方法。
【請求項5】
請求項3に記載の方法であって、前記第1の照合判断基準は、少なくとも1つの非画像系の特徴を含み、前記第2の照合判断基準は、少なくとも1つの画像系の特徴を含む、方法。
【請求項6】
請求項3に記載の方法であって、前記類似性照合を行うステップは、前記入力事例と当該比較すべき事例との類似性の程度を示すため、比較すべき事例毎に類似性の値を計算することを含む、方法。
【請求項7】
請求項6に記載の方法であって、前記類似性の値は、ユークリッド距離、マハラノビス距離又はこれら2つの距離の重み付けされた組み合わせである、方法。
【請求項8】
請求項3に記載の方法であって、前記ユーザに類似した事例を検索するために、さらなるユーザ入力に基づいて、更新された類似性照合判断基準を用いることによって前記入力事例と更新された組の類似事例との類似性照合を行う反復ステップをさらに有する方法。
【請求項9】
請求項3に記載の方法であって、前記ユーザ入力はさらに、当該判断基準における各特徴に付与された数値を有し、前記類似性照合を行う第2のステップは、前記数値を用いることによって類似性メトリックを計算することを含む、方法。
【請求項10】
請求項3に記載の方法であって、前記ユーザ入力は、さらに、前記入力事例に最も類似した事例である類似事例に呈される画像系の特徴及び非画像系の特徴のうちのいずれか一方を有する、方法。
【請求項11】
データベースの事例をサーチする装置であって、
第1の照合判断基準を用いることによって入力事例と前記データベースの事例との類似性照合を行い、前記入力事例に類似した1組の事例を識別する第1の照合ユニットと、
当該1組の類似事例に関連した特徴の統計情報を計算する計算ユニットと、
前記1組の類似事例及び前記統計情報をユーザへ提示する提示ユニットと、
前記統計情報に基づいて第2の照合判断基準を含むユーザ入力を受信する受信ユニットと、
前記第2の照合判断基準を用いることによって前記入力事例と前記1組の類似事例との類似性照合を行う第2の照合ユニットと、
を有する装置。
【請求項12】
請求項11に記載の装置であって、前記データベースの事例は、異なるモダリティにより分類される複数の画像を含み、前記第1の照合ユニットは、さらに、画像形成モダリティ毎に入力事例と前記データベースの事例との類似性照合を行い、前記第1の照合判断基準を用い前記類似事例の各組のうちの少なくとも2つの組に現れる事例を選択することにより複数のそれぞれの組の類似事例を識別し、前記統計情報を計算するステップにより用いられるようにするように構成され、前記第2の照合ユニットは、さらに、前記入力事例と当該選択された類似事例との類似性照合を行うよう構成される、装置。
【請求項13】
請求項11又は12に記載の装置であって、前記1組の類似事例に関連した特徴は、画像系及び/又は非画像系の特徴である、装置。
【請求項14】
請求項13に記載の装置であって、前記第1及び第2の照合ユニットのいずれか一方は、さらに、前記入力事例と前記比較すべき事例との類似性の程度を示すために、比較すべき事例毎に類似性の値を計算するように構成される、装置。
【請求項15】
請求項11に記載の装置であって、前記ユーザに類似した事例を検索するために、さらなるユーザ入力に基づいて、更新された類似性照合判断基準を用いることにより前記入力事例と更新された組の類似事例との類似性照合を行う反復ステップを制御するためのコントローラをさらに有する装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate


【公表番号】特表2011−508331(P2011−508331A)
【公表日】平成23年3月10日(2011.3.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−540194(P2010−540194)
【出願日】平成20年12月10日(2008.12.10)
【国際出願番号】PCT/IB2008/055204
【国際公開番号】WO2009/083841
【国際公開日】平成21年7月9日(2009.7.9)
【出願人】(590000248)コーニンクレッカ フィリップス エレクトロニクス エヌ ヴィ (12,071)
【Fターム(参考)】