説明

風味改良剤

【課題】動物性油脂を用いることなく、動物性油脂の関与する加熱調理風味を飲食品に付与すること。
【解決手段】ペプチドと植物性油脂との加熱反応物を含有する、風味改良剤を用いる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、風味改良剤および飲食品の風味改良方法に関する。
【背景技術】
【0002】
加熱調理において、油脂(油、脂)は、普遍的に使用されている熱媒体である。また、一般的に、油脂を用いて加熱調理された飲食品や、油脂を多く含んだ素材を加熱調理した飲食品は、加熱調理により、独特の風味が形成され、非常に嗜好性が高く、かつ食欲をそそる好ましい風味を有することが知られている。
【0003】
一方で、油脂を多量に使用した加熱調理飲食品や、油脂を高含有する食材の加熱調理飲食品、例えば、てんぷらや、フライ、焼肉、中華料理等は、調理後の油の処理や油汚れの洗浄等に手間のかかる調理を伴う飲食品であり、特に近年では家庭での油脂を使用した調理が敬遠されている。また、社会的な健康志向の高まりにより、高カロリーの代表格である、油脂を用いた飲食品の摂取は避けられる傾向にある。特に、動物由来の油脂、例えば、豚脂(ラード)や牛脂(ヘット)や鶏脂等は、そのカロリーのみならず、動物由来の油脂に多く含まれるトランス脂肪酸の摂取により、悪性コレステロールが増加し各種病気の原因となりうる事から、使用が敬遠されることが多い。
【0004】
上記の理由から、油脂の摂取減少を目的に、デンプンを用いた油脂代替物(特許文献1)や脂肪の一部を脂肪以外の化合物に変更した低カロリーの脂肪代替物を作る方法(特許文献2、3、4)が報告されている。しかし、これらの方法で得られた脂肪代替物による油脂風味の再現は限定的であり、主に食感を再現した代替物であるため油脂を用いた加熱調理によって生じる風味を再現することはできていない。
【0005】
また、動物性蛋白質を含有させることで、揚げ物生地の吸油低下により食品の低カロリー化を行う方法(特許文献5)が報告されている。しかしながら、該方法では、吸油自体が抑えられるため、油脂の風味が低下することは避けられない。
【0006】
このように、動物性油脂を用いないにもかかわらず、動物性油脂の加熱調理によって生じる風味、特に油脂を高含有する畜肉の加熱調理風味や、動物性油脂そのものを用いて加熱調理を行った際に得られるような加熱調理風味を付与しうる食品添加剤は未だ知られていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平6−189699
【特許文献2】米国特許3600186
【特許文献3】特開2003−253293
【特許文献4】特開平6−113748
【特許文献5】特開2005−192506
【発明の概要】
【0008】
本発明の目的は、動物性油脂を用いることなく、動物性油脂の関与する加熱調理風味を飲食品に付与しうる新規な風味改良剤、それを添加してなる飲食品、風味改良剤の製造方法、または飲食品の風味改良方法を提供することをその目的とする。
【0009】
本発明によれば、以下の発明が提供される。
(1)ペプチドと植物性油脂との加熱反応物を含有する、風味改良剤。
(2)動物性油脂の加熱調理風味の付与剤である、(1)に記載の風味改良剤。
(3)ペプチドが、ホエー蛋白質、カゼイン蛋白質、卵白蛋白質、筋原繊維蛋白質、血漿蛋白質、細胞外基質蛋白質、大豆蛋白質、小麦蛋白質および酵母菌体由来蛋白質からなる群から選択される少なくとも一つの蛋白質に由来するペプチドである、(1)または(2)に記載の風味改良剤。
(4)植物性油脂が、炭素数16〜20の不飽和脂肪酸を含む植物性油脂である、(1)〜(3)のいずれか一つに記載の風味改良剤。
(5)(1)〜(4)のいずれか一つに記載の風味改良剤を添加してなる、飲食品。
(6)ペプチドと植物性油脂との混合物を加熱することを含んでなる、風味改良剤の製造方法。
(7)(1)〜(4)のいずれか一つに記載の風味改良剤を飲食品に添加することを含んでなる、飲食品の風味改良方法。
(8)(1)〜(4)のいずれか一つに記載の風味改良剤を飲食品に添加することを含んでなる、飲食品の製造方法。
【0010】
本発明によれば、風味改良剤を用いて、動物性油脂を用いることなく、動物性油脂の関与する加熱調理風味を飲食品に付与することができる。
【発明の具体的説明】
【0011】
本発明の風味改良剤は、ペプチドと、植物性油脂との加熱反応物を含有することを一つの特徴としている。かかる加熱反応物が、動物性油脂を用いていないにもかかわらず、動物性油脂の関与する加熱調理風味を飲食品に付与しうることは意外な事実である。
【0012】
本発明に用いられるペプチドとしては、動物蛋白質、植物蛋白質および酵母菌体由来の蛋白質から選択される1種以上の蛋白質に由来するペプチドが挙げられる。
【0013】
動物蛋白質としては、ホエー蛋白質、カゼイン蛋白質等の乳蛋白質、卵白蛋白質、卵黄蛋白質等の卵蛋白質、食肉や魚肉における、ミオシン、アクチン等の筋原繊維蛋白質、ヘモグロビンやミオグロビン等の血漿あるいは肉漿蛋白質、コラーゲン、エラスチン等の細胞外基質蛋白質等が挙げられる。
【0014】
植物蛋白質としては、大豆蛋白質、小麦蛋白質、トウモロコシ蛋白質等の種子蛋白質等が挙げられる。
【0015】
酵母菌体由来の蛋白質としては、ビール酵母、パン酵母、トルラ酵母等の酵母菌体をそのまま用いてもよく、また、菌体に含まれる蛋白質を単離、精製したものも用いてもよい。
【0016】
上記蛋白質のうち好適な例としては、ホエー蛋白質、カゼイン蛋白質、卵白蛋白質、筋原繊維蛋白質、血漿蛋白質、細胞外基質蛋白質、大豆蛋白質、小麦蛋白質または酵母菌体由来蛋白質が挙げられる。
【0017】
また、上記蛋白質に由来するペプチドとしては、上記蛋白質に化学処理、酵素処理、または物理処理等を施した蛋白質(例えば、ゼラチン、プラクアルブミン、プロテオース、ペプトン等)に由来するものを用いてもよい。ゼラチンには、コラーゲンを酸処理して得られるゼラチン(タイプA)と、アルカリ処理して得られるゼラチン(タイプB)の二種類があるが、いずれを用いてもよい。
本発明に用いられるペプチドは、上述のような蛋白質を、酵素または酸・アルカリによる加水分解処理に供することによって好適に得ることができる。
【0018】
酵素による加水分解処理によりペプチドを得る場合、蛋白質加水分解酵素は、特に限定されないが、例えば、エンドペプチダーゼ(プロテイナーゼ)、エキソペプチダーゼ、エンドペプチダーゼ活性を有するエキソペプチダーゼが挙げられ、好ましくはエンドペプチダーゼ、またはエンドペプチダーゼ活性を有するエキソペプチダーゼである。
【0019】
エンドペプチダーゼとしては、例えば、トリプシン、キモトリプシン、スブチリシン等のセリンプロテアーゼ(プロテアーゼは一般的にエンドペプチダーゼを指す)、パパイン、フィシン、ブロメライン等のチオールプロテアーゼ、ペプシン、カテプシン等のアスパラギン酸プロテアーゼ、サーモリシン等のメタロプロテアーゼ等が挙げられる。
【0020】
蛋白質加水分解酵素は市販のものを用いてもよい。エンドペプチダーゼの市販品としては、例えば、アルカラーゼ(ノボザイムズジャパン(株)製)、スミチームLP(新日本化学工業(株)製)等が挙げられる。エンドペプチダーゼ活性を有するエキソペプチダーゼとしては、スミチームFP(新日本化学工業(株)製)、ウマミザイムG(天野エンザイム(株)製)等が挙げられる。
【0021】
蛋白質加水分解酵素はそれぞれ単独でも用いてもよいし、組み合わせて使用してもよい。
【0022】
蛋白質の酵素による加水分解の条件は、ペプチドが得られる条件であれば、使用する加水分解酵素の種類、その使用量等に応じて適宜変更してよい。その温度およびpHの一例としては、20〜80℃、pH3〜10が挙げられる。同様に、その処理時間も適宜調節してよく、例えば、数十分間〜数時間、好ましくは1〜100時間、より好ましくは1〜72時間である。
加水分解処理により得られた反応液はそのまま次の処理に供することもできるが、加熱処理、酸処理等によって酵素を失活させた後に次の処理に供することもできる。
【0023】
また、蛋白質の酸・アルカリによる加水分解によってペプチドを得る場合、使用される酸またはアルカリは特に限定されず、1種でもよいし、2種以上の組み合わせであってもよい。
酸としては、例えば、塩酸、硫酸、硝酸等の無機塩、クエン酸等の有機塩が挙げられる。アルカリとしては、例えば、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等の無機塩基、有機塩基等が挙げられる。
酸・アルカリによる加水分解の条件は、ペプチドが得られる条件であれば特に限定されず、適宜調節してよい。
【0024】
蛋白質を加水分解処理して得られる処理物は、本発明に用いられるペプチドの含有物として植物性油脂との加熱反応に用いてもよいが、該処理物を限外ろ過、ゲル電気泳動、ゲルろ過クロマトグラフィー、超遠心分離等に供して分子量が150〜10,000、好ましくは150〜5,000、さらに好ましくは150〜1,000の画分を分画し、該画分を本発明に用いられるペプチドとして植物性油脂との加熱反応に用いてもよい。
また、本発明に用いられるペプチドは、アミノ酸等からペプチド合成により上記分子量となるように調製したペプチドを用いてもよい。
【0025】
本発明に用いられる植物性油脂は、植物由来の油脂であれば特に限定されないが、好ましくは、不飽和脂肪酸を含有する植物性油脂である。
【0026】
植物性油脂に含まれる不飽和脂肪酸としては、好ましくは、炭素数16〜20の不飽和脂肪酸であり、より好ましくは炭素数18〜20の不飽和脂肪酸である。より具体的には、上記不飽和脂肪酸としては、パルミトレイン酸(C16:1)、ヘプタデセン酸(C17:1)、オレイン酸(C18:1)、リノール酸(C18:2)、リノレン酸(C18:3)またはイコセン酸(C20:1)等が挙げられるが、好ましくは、オレイン酸、リノール酸、リノレン酸またはイコセン酸である。
【0027】
植物性油性における不飽和脂肪酸の含量は、植物性油脂中の総脂肪酸重量を基準として、好ましくは10〜95重量%であり、より好ましくは50〜95重量%であり、さらに好ましくは80〜95重量%である。
【0028】
より具体的には、植物性油脂としては、例えば、大豆油、菜種油、紅花油(サフラワー油)、とうもろこし油、ひまわり油、ぶどう種子油、オリーブ油、ごま油、エゴマ油、シソ油、つばき油、綿実油、落花生油、米ぬか油等が挙げられるが、好ましくは、大豆油、菜種油、紅花油(サフラワー油)、とうもろこし油、ひまわり油、ぶどう種子油、オリーブ油、ごま油、エゴマ油、シソ油またはつばき油である。
【0029】
植物性油脂は、本発明の風味改良剤の製造において、そのまま用いてもよいし、リパーゼ等の酵素処理を行ったものを用いてもよい。
【0030】
本発明の風味改良剤は、本発明に用いられるペプチドと植物性油脂とを共存させて加熱することにより製造することができる。共存させる方法としては、例えばの本発明に用いられるペプチドと植物性油脂とを混合する方法があげられる。
【0031】
混合するペプチドと植物性油脂との重量比は、上記加熱反応物の取得を妨げない限り特に限定されないが、例えば、9:1〜1:9であり、好ましくは、5:1〜1:5であり、より好ましくは2.5:1〜1:2.5である。混合物中には、所望により水等の水性媒体を含有させてもよい。
【0032】
混合物の加熱温度は、例えば、40〜200℃であり、好ましくは60〜150℃である。また、上記加熱反応の反応時間は、例えば、数分間〜数十時間であり、好ましくは15分間〜5時間である。
【0033】
なお、上記混合物には、必要に応じてpH調節剤等を添加してpHを2〜10、好ましくは3〜8となるように調節してもよい。
【0034】
上記方法により得られる加熱反応物はそのまま風味改良剤として用いてもよく、乾燥処理、濃縮処理、脱色処理、分離精製処理等の処理に供し、それぞれの処理物を風味改良剤として用いてもよい。
【0035】
本発明の風味改良剤は、液状、ペースト状、粉状、顆粒状等のいずれの形状を有するものであってもよい。
【0036】
本発明の風味改良剤は、必要に応じて食品に使用可能な添加物を含有してもよい。添加物としては、例えば、水等の水性媒体、食塩、糖類、酢、香辛料、ソース、醤油、野菜エキス、畜肉エキス、酵母エキス等の調味料や、酒精、酸味料、うま味調味料、乳化剤等が挙げられる。
【0037】
本発明の風味改良剤は、飲食品に添加することにより、飲食品に加熱調理風味、特に、動物性油脂を用いた加熱調理風味を付与する剤または調味料として好適に用いることができる。すなわち、本発明の風味改良剤を用いて、動物性油脂が関与する加熱調理した飲食品における調理感、より具体的には、炒めた風味や、煮込んだ風味、蒸した風味、揚げた風味等、動物性油脂由来の加熱調理風味を飲食品に付与することができる。
【0038】
本発明の風味改良剤を添加する方法としては、例えば、該風味改良剤を、加熱調理飲食品を製造する際に素材の一部として添加する方法、製品となっている加熱調理飲食品を加熱調理、電子レンジ調理等で調理する際に添加する方法、喫食の際に添加する方法等が挙げられる。
【0039】
本発明の風味改良剤の飲食品への添加量は、特に限定されず、飲食品の種類、性質に応じて適宜調整してよい。かかる添加量としては、例えば、飲食品100重量部に対して、該風味改良剤は0.01〜20重量部であり、好ましくは0.05〜10重量部であり、より好ましくは0.1〜5重量部である。
【0040】
本発明の風味改良剤を添加する飲食品は特に限定されないが、動物性油脂が関与する加熱調理風味を必要とする飲食品が好ましい。飲食品の形態は、液体、固体、または、半固体のいずれであってもよい。
かかる飲食品としては、素材の観点からは、デミグラスソース、ミートソース、ベシャメルソース、各種フォン、ハンバーグ、餃子、肉まん、シュウマイ、とんかつ、フライドチキン、エビフライ等の油脂を含有する動物性素材を用いる飲食品、畜肉系フライ、魚介系フライ、スナック、フライドポテト等や、チャーハン、焼きそば、各種バターソテー等の動物性油脂を加熱媒体として用いる飲食品等が挙げられる。
【0041】
また、香り立ちおよび風味の観点からは、ハム、ソーセージ、シュウマイ、牛丼、親子丼、豚汁、ラーメンスープ、カレー、シチュー(ブラウン、ホワイト)、煮豚、各種ソース、うどん・そばつゆ等の、煮る、蒸すといった加熱調理によって得られる、動物性油脂由来の豊かで広がりのある香り立ちを有することが好まれる飲食品、すき焼き、焼きそば、チャーハン、チャーシュー、ピラフ、グラタン、ピザ、ドリア、焼肉、お好み焼き、バーベキュー、各種ソテー、回鍋肉、麻婆豆腐、エビチリ、各種ムニエル、各種ソース等の、焼く、炒めるといった加熱調理によって得られる、動物性油脂由来、あるいは熱媒体として用いる動物性油脂由来の濃厚で余韻のある甘い風味が好まれる飲食品、メンチカツ、鶏の唐揚げ、春巻き、スナック菓子、水産練り物、フライドポテト、畜肉系フライ、魚介系フライ、即席めん、各種ソース等の、揚げるといった加熱調理によって得られる、動物性油脂由来、あるいは熱媒体として用いる動物性油脂由来のスナッキーな風味と、深みのあるオイリーなフライ香が好まれる飲食品等が挙げられる。
【実施例】
【0042】
以下、実施例に基づいて本発明を具体的に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
【0043】
実施例1
(1)風味改良用ペーストA〜Iの調製
グルタミン酸、アスパラギン酸、グルタミン、アスパラギン、アラニン、ロイシン、イソロイシン、アルギニン、リシン、ヒスチジン、セリン、トレオニン、プロリン、タウリン、グリシン、バリン、メチオニンの各アミノ酸およびアミノ酸の酸化生成物がそれぞれ等モル量となるようにアミノ酸混合物を調製した。
【0044】
3gのひまわり油および7gのアミノ酸混合物を水3mlと混合して溶液を調製し、該溶液を100℃で1時間加熱し、ペーストAを得た。
また、上記アミノ酸混合物を用いない以外はペーストAの調製と同様の操作を行って、ペーストBを得た。
また、ひまわり油を用いない以外はペーストAの調製と同様の操作を行って、ペーストCを得た。
また、3gのひまわり油、および7gのゼラチン(豚由来)の酸加水分解物(キリン協和フーズ(株)製)を水3mlと混合して溶液を調製し、該溶液を100℃で1時間加熱して、ペーストDを得た。
なお、上記ゼラチンの酸加水分解物中の総アミノ酸量および遊離アミノ酸量をアミノ酸アナライザー(日本電子(株)製)を用い、公知手法に準じて測定したところ、それぞれ456mgと451mgであった(この結果から、ペプチド態アミノ酸率:1.1重量%、分解率98.9重量%と算出した)。
また、ひまわり油を用いない以外はペーストDの調製と同様の操作を行って、ペーストEを得た。
また、ペーストDの調製においてゼラチン酸加水分解物の代わりに、ゼラチン(豚由来)の酵素分解物(キリン協和フーズ(株)製:酵素としてエンドペプチダーゼを用いた分解物)を用いる以外は同様の操作を行って、ペーストFを得た。
なお、上記ゼラチン酵素分解物1g中の総アミノ酸量、遊離アミノ酸量を、上記方法に準じて算出したところ、それぞれ534mgと153mgであった(この結果から、ペプチド態アミノ酸率:71.5重量%、分解率28.5重量%と算出した)。
また、ひまわり油を用いない以外はペーストFの調製と同様の操作を行って、ペーストGを得た。
また、3gのひまわり油および7gのコラーゲン(魚由来、タンパク質含量90〜95%:協和発酵バイオ(株)製)を水3mlと混合して溶液を調製し、該溶液を100℃で1時間加熱して、ペーストHを得た。
また、ひまわり油を用いない以外はペーストHの調製と同様の操作を行って、ペーストIを得た。
【0045】
(2)官能試験
塩化ナトリウム、上白糖、オニオンエキスパウダー、セロリパウダー、グルタミン酸ナトリウム、ビーフエキスパウダーおよび乳糖を含有するコンソメスープの素15gに熱水を加えて全量1Lとしてコンソメスープを調製した。
該コンソメスープ 1Lに上記(1)で調製したペーストA〜Iをそれぞれ 3gずつ添加し、溶解させて、コンソメスープA〜Iを調製した。
【0046】
コンソメスープA〜Iの動物性油脂の関与する加熱調理感、特に牛脂由来の豊かで広がりのある香り立ちの強さについて、各ペーストを添加していないコンソメスープをコントロールとし、4名のパネラーによって官能評価を行った。
【0047】
官能評価は、各評価項目において、以下に示す基準に従って官能評価を行った。
+++:かなり強く感じられる(嗜好性:かなり高い)
++ :強く感じられる(嗜好性:高い)
+ :やや強く感じられる(嗜好性:やや高い)
± :差異を感じられない(嗜好性:コントロールと変わらない)
【0048】
各試験区において、パネラーが最も多く選択した評価を表1に示す。
【表1】

【0049】
表1に示すとおり、ゼラチンのエンドペプチダーゼによる分解物(ペプチド態アミノ酸率:71.5重量%)と不飽和脂肪酸含有植物性油脂(ひまわり油)との加熱反応物を添加して得られたコンソメスープFは牛脂由来の加熱調理感が強く感じられ、嗜好性が高いものであった。
【0050】
実施例2
(1)風味改良用ペーストJ〜Nの調製
3gのサフラワー油および7gの大豆蛋白質の加水分解物(キリン協和フーズ(株)製)を水3mlと混合し、該溶液を100℃で1時間加熱して、ペーストJを得た。
なお、該大豆タンパク質の酸加水分解物1g中の総アミノ酸量、遊離アミノ酸量を実施例1記載の方法に準じて算出したところ、それぞれ311mgと227mgであった(この結果から、ペプチド態アミノ酸率:26.9重量%、分解率:73.1重量%と算出した)。
また、サフラワー油を用いない以外はペーストJの調製と同様の操作を行って、ペーストKを得た。
また、大豆タンパク質の酸加水分解物を用いない以外はペーストJの調製と同様の操作を行って、ペーストLを得た。
3gのサフラワー油および7gの大豆タンパク質の酵素分解物(キリン協和フーズ(株)製:酵素としてエンドペプチダーゼを用いた分解物)を水3mlと混合して溶液を調製し、該溶液を100℃で1時間加熱して、ペーストMを得た。
なお、上記大豆タンパク質酵素分解物1g中の総アミノ酸量、遊離アミノ酸量を、実施例1に記載の方法に準じて算出したところ、それぞれ364mgと97mgであった(この結果から、ペプチド態アミノ酸率:73.4重量%、分解率:26.6重量%と算出した)。
また、サフラワー油を用いない以外はペーストMの調製と同様の操作を行って、ペーストNを得た。
【0051】
(2)官能試験
実施例1で調製したコンソメスープにペーストJ〜Nをそれぞれ3g添加して溶解させて、コンソメスープJ〜Nを調製した。
【0052】
コンソメスープJ〜Nの動物性油脂の関与する加熱調理感、特に牛脂由来の豊かで広がりのある香り立ちの強さについて、各ペーストを添加していないコンソメスープをコントロールとし、以下に示す基準に従って、4名のパネラーによって官能評価を行った。
【0053】
+++:強さをかなり感じられる(嗜好性:かなり高い)
++ :強さを感じられる(嗜好性:高い)
+ :強さをやや感じられる(嗜好性:やや高い)
± :差異を感じられない(嗜好性:コントロールと変わらない)
【0054】
各試験区においてパネラーが最も多く選択した評価を表2に示す。
【表2】

【0055】
表2に示すとおり、大豆タンパク質の加水分解物と不飽和脂肪酸含有植物性油脂(サフラワー油)との加熱反応物を添加して得られたコンソメスープJおよびMは牛脂由来の加熱調理感が強く感じられ、嗜好性の高いものであった。特に、ペプチド態アミノ酸率の高い大豆タンパク質のエンドペプチダーゼによる分解物と不飽和脂肪酸含有植物性油脂との加熱反応物を添加して得られたコンソメスープMは特に牛脂由来の加熱調理感が強く感じられ、嗜好性の高いものであった。
【0056】
実施例3
(1)風味改良用ペーストO〜Xの調製
実施例1で調製したアミノ酸混合物5gとステアリン酸1gを水3gとを混合し、該溶液を120℃で3時間加熱して、ペーストOを得た。
また、アミノ酸混合物を用いない以外はペーストOの調製と同様の操作を行って、ペーストPを得た
また、実施例1で調製したアミノ酸混合物5gとオレイン酸1gを水3gとを混合して溶液を調製し、該溶液を120℃で3時間加熱して、ペーストQを得た。
また、アミノ酸混合物を用いない以外はペーストQの調製と同様の操作を行って、ペーストRを得た
また、実施例1で調製したアミノ酸混合物5gとリノール酸1gを水3gとを混合して溶液を調製し、該溶液を120℃で3時間加熱して、ペーストSを得た。
また、アミノ酸混合物を用いない以外はペーストSの調製と同様の操作を行って、ペーストTを得た
また、実施例1で調製したアミノ酸混合物5gとリノレン酸1gを水3gとを混合して溶液を調製し、該溶液を120℃で3時間加熱して、ペーストUを得た。
また、アミノ酸混合物を用いない以外はペーストUの調製と同様の操作を行って、ペーストVを得た。
また、上記アミノ酸混合物の代わりに、実施例1で使用したゼラチン酵素分解物5gおよび、ステアリン酸1g、水3gと混合して溶液を調製し、該溶液を100℃で1時間加熱して、ペーストWを得た。
ステアリン酸の代わりに、オレイン酸を用いる以外はペーストWと同様の操作を行って、オレイン酸とゼラチン酵素分解物の加熱反応物のペーストXを得た。
【0057】
(2)官能試験
塩化ナトリウム、グラニュー糖、オニオンエキスパウダー、ガーリックパウダー、グルタミン酸ナトリウム、チキンエキスパウダー、チキンオイル、核酸、ホワイトペッパーおよび乳糖を含有するチキンコンソメスープの素15gに熱水を加えて全量1Lとして、チキンコンソメスープを調製した。
ペーストO〜Xを、上記チキンコンソメスープ1Lにそれぞれ3gずつ添加して溶解させて得られたチキンコンソメスープO〜Xにおいて、動物性油脂の関与する加熱調理感、特に、鶏脂由来の豊かな香り立ちと広がりのある風味の強さについて、各ペーストを添加していないチキンコンソメスープをコントロールとし、以下に示す基準に従って、5名のパネラーによって官能評価を行った。
【0058】
+++:強さをかなり感じられる(嗜好性:かなり高い)
++ :強さを感じられる(嗜好性:高い)
+ :強さをやや感じられる(嗜好性:やや高い)
± :差異を感じられない(嗜好性:コントロールと変わらない)
【0059】
各試験区においてパネラーが最も多く選択した評価を表3に示す。
【表3】

【0060】
表3に示すとおり、ゼラチンのエンドペプチダーゼによる分解物と不飽和脂肪酸(オレイン酸)との加熱反応物を添加して得られたチキンコンソメスープXは鶏脂由来の加熱調理感が強く感じられ、嗜好性の高いものであった。
【0061】
実施例4
(1)風味改良剤の調製
実施例1で使用したゼラチン酵素分解物6gおよび大豆油6gを混合して溶液を調製し、該溶液を130℃で1時間加熱し、ゼラチン酵素分解物と大豆油の加熱反応物を得た。
【0062】
(2)ハンバーグ種の調整
牛豚合挽き肉、食塩、ソテーオニオン、胡椒、パン粉、卵およびラード等を用いて、常法により、ハンバーグ種Aを作製した。
ラードを用いない以外はハンバーグ種Aと同様の方法でハンバーグ種Bを得た。
上記(1)のゼラチン酵素分解物と大豆油の加熱反応物をハンバーグ種B100gに1g添加して再度練りこみを行い、ハンバーグ種Cを得た。
【0063】
(3)官能評価
上記ハンバーグ種A〜Cをそれぞれ焼成し、得られたハンバーグA〜Cの動物性油脂の関与する加熱調理感、特に、牛、豚脂由来の余韻のある濃厚な甘い香り、豊かな香り立ち、ジューシー感、の風味の強さについて、以下に示す基準に従って、3名のパネラーによって官能評価を行った。
【0064】
+++:かなり強く感じられる(嗜好性:かなり高い)
++ :強く感じられる(嗜好性:高い)
+ :やや強く感じられる(嗜好性:やや高い)
± :強さは感じられない(嗜好性:低い)
【0065】
各試験区においてパネラーが最も多く選択した評価を表4に示す。
【表4】

【0066】
表4に示すとおり、ゼラチンのエンドペプチダーゼによる分解物と不飽和脂肪酸含有植物性油脂(大豆油)との加熱反応物を添加して得られたハンバーグCは、ラードを含まないにもかかわらず、動物性油脂(牛脂、ラード)由来の甘く余韻のある香りや、香り立ち、香りの濃厚感が強く感じられ、嗜好性の向上するものであった。
【0067】
実施例5
(1)風味改良剤の調製
実施例1で使用したゼラチン酵素分解物7gおよび菜種油3gを混合して溶液を調製し、該溶液を80℃で1時間加熱し、ゼラチン酵素分解物と菜種油の加熱反応物を得た。
【0068】
(2)シュウマイ餡の調整
豚挽き肉、食塩、砂糖、ソテーオニオン、ごま油、清湯スープ、濃口醤油、生姜、にんにく、胡椒、パン粉およびラード等を用いて、常法により、シュウマイ餡Aを作製した。
ラードを用いない以外はシュウマイ餡Aと同様の方法でシュウマイ餡Bを得た。
上記(1)のゼラチン酵素分解物と菜種油との加熱反応物を、シュウマイ餡Bの挽肉100gに1g添加して再度練りこみを行い、シュウマイ餡Cを得た。
【0069】
(3)官能評価
上記シュウマイ餡A〜Cをそれぞれ蒸し上げ、得られたシュウマイA〜Cの動物性油脂由来の加熱調理感、特に、豚脂由来の、余韻のある濃厚な香り、豊かな香り立ち、肉質感、甘い香り、ジューシー感、の風味の強さについて、以下に示す基準に従って、3名のパネラーによって官能評価を行った。
【0070】
+++:かなり強く感じられる
++ :強く感じられる
+ :やや強く感じられる(嗜好性:)
± :強さは感じられない(嗜好性:低い)
【0071】
各試験区においてパネラーが最も多く選択した評価を表5に示す。
【表5】

【0072】
表5に示すとおり、ゼラチンのエンドペプチダーゼによる分解物と不飽和脂肪酸含有植物性油脂(菜種油)との加熱反応物を添加して得られたシュウマイCは、ラードを含まないにもかかわらず、動物性油脂由来の甘く余韻のある香り、豊かな香り立ち、肉質感が強く感じられ、嗜好性の高いものであった。
【0073】
実施例6
(1)風味改良剤の調製
実施例1で使用したゼラチン酵素分解物7gおよびコーン油3gを混合し、該溶液を100℃で1時間加熱し、ゼラチン酵素分解物とコーン油との加熱反応物を得た。
【0074】
(2)焼きそばソースの調製
ウスターソース、食塩、砂糖、ソテーオニオン、MSG、カラメル、濃口醤油、オールスパイス、生姜、にんにく、胡椒、および水等を用いて、常法により、焼きそばソースAを作製した。
上記(1)の加熱反応物を、焼きそばソースA100gに1g添加して、焼きそばソースBを得た。
【0075】
(3)官能評価
お湯で戻した市販の即席焼きそば麺と、上記焼きそばソースA、Bをそれぞれ混ぜ合わせ、焼きそばA、Bを得た。得られた焼きそばA、Bの動物性油脂の関与する加熱調理感、すなわち豚脂由来の、余韻のある濃厚な香り、豊かな香り立ち、炒め感の風味の強さについて、以下に示す基準に従って、4名のパネラーによって官能評価を行った。
【0076】
+++:強さをかなり感じられる(嗜好性:かなり高い)
++ :強さを感じられる(嗜好性:高い)
+ :強さをやや感じられる(嗜好性:やや高い)
± :強さは感じられない(嗜好性:低い)
【0077】
各試験区においてパネラーが最も多く選択した評価を表6に示す。
【表6】

【0078】
表6に示すとおり、ゼラチンのエンドペプチダーゼによる分解物と不飽和脂肪酸含有植物性油脂の加熱反応物を添加して得られた焼きそばBは、ラードで炒めたような風味が増強され、動物性油脂の甘く余韻のある香り、豊かな香り立ちが強く感じられ、嗜好性が向上するものであった。
【0079】
実施例7
(1)風味改良剤の調製
実施例1で使用したゼラチン酵素分解物6gおよびひまわり油6gを混合し、該溶液を130℃で1時間加熱し、ゼラチン酵素分解物とひまわり油の加熱反応物を得た。
【0080】
(2)バーベキューシーズニングの調製
バーベキューオイル、食塩、砂糖、MSG、ビーフパウダー、ガーリック粉末、オニオン粉末、唐辛子粉末、セロリシード、パプリカ粉末、クエン酸、およびデキストリン等を用いて、常法によりバーベキューシーズニングAを作製した。
上記(1)の加熱反応物を、バーベキューシーズニングA100gに1g添加して混合し、バーベキューシーズニングBを調製した。
【0081】
(3)官能試験
細切りしたジャガイモに小麦粉をまぶし、市販サラダ油で約10分の揚げ工程を行い、フライドポテトを作製した。
上記フライドポテト100gに対し、上記バーベキューシーズニングA、Bをそれぞれ3g添加して混合し、フライドポテトA、Bを得た。得られたフライドポテトA、Bの動物性油脂の関与する加熱調理感、すなわち、動物性油脂由来の甘いフライ香、香り立ち、香りの濃厚感、香りの余韻の風味の強さについて、以下に示す基準に従って、6名のパネラーによって官能評価を行った。
【0082】
+++:かなり強く感じられる(嗜好性:かなり高い)
++ :強く感じられる(嗜好性:高い)
+ :やや強く感じられる(嗜好性:やや高い)
± :強さは感じられない(嗜好性:低い)
【0083】
各試験区においてパネラーが最も多く選択した評価を表7に示す。
【表7】

【0084】
表7に示すとおり、ゼラチンのエンドペプチダーゼによる分解物と不飽和脂肪酸含有植物性油脂(ひまわり油)との加熱反応物を添加して得られたフライドポテトBは、ラードを用いていないにもかかわらず、ラードを用いてフライしたような、甘く、濃厚なフライ香が増強され、動物性油脂の甘く余韻のある香り、豊かな香り立ちが強く感じられ、嗜好が向上するものであった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ペプチドと植物性油脂との加熱反応物を含有する、風味改良剤。
【請求項2】
動物性油脂の加熱調理風味の付与剤である、請求項1に記載の風味改良剤。
【請求項3】
前記ペプチドが、ホエー蛋白質、カゼイン蛋白質、卵白蛋白質、筋原繊維蛋白質、血漿蛋白質、細胞外基質蛋白質、大豆蛋白質、小麦蛋白質および酵母菌体由来蛋白質からなる群から選択される少なくとも一つの蛋白質に由来するペプチドである、請求項1または2に記載の風味改良剤。
【請求項4】
前記植物性油脂が、炭素数16〜20の不飽和脂肪酸を含む植物性油脂である、請求項1〜3のいずれか一項に記載の風味改良剤。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか一項に記載の風味改良剤を添加してなる、飲食品。
【請求項6】
ペプチドと植物性油脂との混合物を加熱することを含んでなる、風味改良剤の製造方法。
【請求項7】
請求項1〜4のいずれか一項に記載の風味改良剤を飲食品に添加することを含んでなる、飲食品の風味改良方法。
【請求項8】
請求項1〜4のいずれか一つに記載の風味改良剤を飲食品に添加することを含んでなる、飲食品の製造方法。

【公開番号】特開2012−170354(P2012−170354A)
【公開日】平成24年9月10日(2012.9.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−33234(P2011−33234)
【出願日】平成23年2月18日(2011.2.18)
【出願人】(505144588)キリン協和フーズ株式会社 (50)
【Fターム(参考)】