説明

飛翔体の誘導方法及び誘導システム

【課題】センサ部の設置構造の簡素化、小型化および低価格化を実現することができるとともに、終末誘導の実行の確実性及び信頼性を向上できる飛翔体の誘導方法及び誘導システムを提供する。
【解決手段】飛翔体2の機体3に対するセンサ部16の姿勢を調整できるようにセンサ部16を飛翔体の機体3に固定可能な構成としておく。飛翔体2の発射前に、中間誘導によって飛翔体2が目標1近辺に到達したときにセンサ部16の視野範囲に目標1が入るように飛翔体2の機体3に対するセンサ部16の姿勢を調整して固定しておく。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は飛翔体(ミサイル等)を目標に誘導する誘導方法及び誘導システムに関する。
【背景技術】
【0002】
図3は、従来の飛翔体(ミサイル)の誘導方法を説明する図である。図3に示すように、従来の飛翔体の誘導方法では、予め設定された経路に沿って目標近辺まで飛翔体40を誘導する中間誘導を行い、飛翔体40が目標近辺まで到達したら、飛翔体を目標41に着弾するように誘導する終末誘導を行なう(例えば、下記特許文献1〜4参照)。
【0003】
図4は、飛翔体40に搭載された、従来の終末誘導装置43の概略構成を示すものである。終末誘導装置43は、目標を捕捉するための光波、赤外線、電波などを受けるセンサ部44と、このセンサ部44が取り付けられX軸(紙面に垂直な軸)及びY軸を中心に回動動作するジンバル機構45とを備えている。このように構成された終末誘導装置43では、飛翔体40が目標近辺まで到達したときに、ジンバル機構45が首振り動作してセンサ部の視野範囲に目標41を捉えることにより、目標41の捜索、識別、追跡を実行する。
【0004】
【特許文献1】特開平5−150030号公報
【特許文献2】特開平5−288496号公報
【特許文献4】特開平8−14798号公報
【特許文献3】特開平10−307000公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上述した従来の飛翔体の誘導方法では、ジンバル機構45を用いているために、機構が複雑なメカトロニクス系になる、終末誘導装置43の小型化、低価格化が困難となる、という問題があった。さらに、次のような問題があった。
ジンバル機構45では、各回動軸に軸受が設置されている。近年、長射程化に伴い、砲弾においても誘導を行なうことで、着弾精度を維持もしくは向上させる試みがなされている。しかし、砲発射などのように高い発射G環境において、例えば、センサ部44の1Gでの重量が約200gの場合で発射環境が16000Gのときには、発射時のセンサ部44の重量は3.2tにも達する。このような荷重に耐えられるよう軸受を選定すると、必要な軸受の直径は、例えば120mmとなってしまう(参照:機械要素設計、実教出版)。ところが、飛翔体の直径を155mmと仮定した場合、搭載できる軸受の寸法は30mm程度に制限される。したがって、直径30mmの軸受では荷重に耐えられずに損傷してしまい、結果としてジンバル機構45が作動せず、終末誘導を行なうことができない事態を招く恐れがあるという問題があった。
【0006】
本発明は上述した問題に鑑みてなされたものであり、センサ部の設置構造の簡素化、小型化および低価格化を実現することができるとともに、終末誘導の実行の確実性及び信頼性を向上できる飛翔体の誘導方法及び誘導システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するため、本発明にかかる飛翔体の誘導方法および誘導システムは、以下の手段を採用する。
すなわち、本発明にかかる飛翔体の誘導方法は、予め設定された経路に沿って目標近辺まで飛翔体を誘導する中間誘導を行い、前記飛翔体が目標近辺まで到達したときに前記中間誘導に引き続いて前記飛翔体に搭載したセンサ部により目標を捕捉して前記飛翔体を目標に着弾するように誘導する終末誘導を行なう飛翔体の誘導方法であって、前記飛翔体の機体に対する前記センサ部の姿勢を調整できるように前記センサ部を前記飛翔体の機体に固定可能な構成としておき、前記飛翔体の発射前に、前記中間誘導によって前記飛翔体が前記目標近辺に到達したときに前記センサ部の視野範囲に前記目標が入るように前記飛翔体の機体に対する前記センサ部の姿勢を調整して固定する、ことを特徴とする。
【0008】
このように、目標近辺まで飛翔体を中間誘導するので、終末誘導の開始時の図2に示す誤差バスケットを小さくすることができる。また、飛翔体の機体に対するセンサ部の姿勢を調整できるようにセンサ部を飛翔体の機体に固定可能な構成としておき、飛翔体の発射前に、中間誘導によって飛翔体が目標近辺に到達したときにセンサ部の視野範囲に目標が入るように飛翔体の機体に対するセンサ部の姿勢を調整して固定するので、センサ部によって目標を捕捉し、追尾し、飛翔体を目標まで誘導することができる。
本発明によれば、センサ部を飛翔体の機体に固定する構造としたことによって、ジンバル機構を不要としたので、センサ部の設置構造の簡素化、小型化、低価格化を実現できる。また、上述したジンバル機構では、発射時の衝撃によって軸受が損傷した場合、終末誘導を行なえないという事態が生じるが、本発明では、発射から着弾までセンサ部の姿勢を一定に保持するので、ジンバル機構のような問題は生じ得ないため、信頼性が格段に向上する。
【0009】
また、本発明にかかる飛翔体の誘導システムは、予め設定された経路に沿って目標近辺まで飛翔体を誘導する中間誘導装置と、前記飛翔体に搭載され当該飛翔体が目標近辺まで到達したときに前記中間誘導装置による誘導に引き続いて飛翔体を目標に着弾するように誘導する終末誘導装置と、を備えた飛翔体の誘導システムであって、前記終末誘導装置は、前記目標を捕捉するセンサ部と、前記飛翔体の機体に対する前記センサ部の姿勢を調整できるように前記センサ部を前記飛翔体の機体に固定する固定機構と、前記センサ部からの情報に基づいて前記飛翔体を制御する制御部とを有し、前記センサ部は、前記中間誘導装置によって前記飛翔体が前記目標近辺に到達したときに当該センサ部の視野範囲に前記目標が入るように、前記飛翔体の発射前に姿勢が調整されて前記飛翔体の機体に固定される、ことを特徴とする。
【0010】
このように構成された飛翔体の誘導システムにより、上述した飛翔体の誘導方法を実施することができる。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、センサ部の設置構造の簡素化、小型化および低価格化を実現することができるとともに、終末誘導の実行の確実性及び信頼性を向上できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、本発明の好ましい実施形態を添付図面に基づいて詳細に説明する。なお、各図において共通する部分には同一の符号を付し、重複した説明を省略する。
【0013】
図1及び図2は、本発明の実施形態にかかる飛翔体2の誘導システム10の概要を説明する図である。この誘導システム10は、飛翔体2を目標1に誘導するものであり、中間誘導装置12と、終末誘導装置14とを備えている。
【0014】
中間誘導装置12は、予め設定された経路に沿って目標近辺(例えば目標1から数km)まで飛翔体2を誘導するものであり、例えば、全地球測位装置(GPS)、慣性誘導装置(INS)、地形照合装置(TERCOM)等を用いることができる。本実施形態において中間誘導装置12は、飛翔体2に搭載されているが、発射側(母機、母艦など)に搭載されていてもよく、この場合、電波を用いて遠隔で飛翔体2に指令を出して誘導する指令誘導装置が用いられる。
この中間誘導装置12により、予め設定された飛翔経路と実際の飛翔経路とのズレを随時計算して、飛翔体2が予定の飛翔経路を飛翔するように飛翔体2を制御する。このように、目標近辺まで飛翔体2を中間誘導するので、終末誘導の開始時の誤差バスケットを小さくすることができる。
【0015】
終末誘導装置14は、飛翔体2に搭載されており、飛翔体2が目標近辺まで到達したときに中間誘導装置12による誘導に引き続いて飛翔体2を目標1に着弾するように誘導するものである。終末誘導装置14は、例えば、撮像センサで撮像した画像から目標1を識別し追跡する映像認識誘導装置、目標1から発生する赤外線を探知し追跡する赤外線誘導装置、レーダによって目標1を探索・識別し目標1からの反射波の方向へ飛翔体2を誘導するアクティブレーダ誘導装置、もしくは地上・空中の第3者によるレーザ照射器を用いたレーザ誘導装置等を用いることができる。
【0016】
終末誘導装置14は、センサ部16と、固定機構22と、制御部26とを有する。
センサ部16は、終末誘導装置14において、目標1を捕捉する目として機能する部分であり、本実施形態では、センサ部16の視野方向からの光を集光するレンズ17と、特定の波長の光のみを通過させる光学バンドパスフィルタ18と、画像を撮影する撮像センサ(例えばCCDセンサ)19と、レンズ17、光学バンドフィルタ18及び撮像センサ19を適切な位置に配置した状態に保持しつつ囲むケーシング20と、を有している。
【0017】
固定機構22は、飛翔体2の機体3に対するセンサ部16の姿勢を調整できるように、センサ部16を飛翔体2の機体3に固定するものである。本実施形態において固定機構22は、センサ部16を支持台4に回動可能に連結する回動連結部材23と、センサ部16の回動範囲内でセンサ部16を所望の位置に調節し固定する角度調整ネジ24とからなる。回動連結部材23の回動中心は、図1で紙面に垂直な軸心Xである。なお、「機体3に固定する」とは、機体3に直接固定する場合のみならず、本実施形態のように支持台4を介して間接的に機体3に固定することも含む。
【0018】
上述のように構成された固定機構22により、飛翔体2の機体3に対するセンサ部16の姿勢を調整でき、かつ、その姿勢のまま保持できる。すなわち、センサ部16の中心軸Wを機軸Zに対して所定角度オフセットさせた姿勢に調整し、このオフセット角θを保持した状態で、センサ部16を飛翔体2の機体3に堅固に固定することができる。したがって、大きな衝撃が作用する飛翔体発射時においても、センサ部16を支持し、所望のオフセット角θを保持することができる。
【0019】
センサ部16の姿勢の調整及び固定は、飛翔体2の発射前に行なう。具体的には、飛翔体2の発射前に、中間誘導によって飛翔体2が目標近辺に到達したときにセンサ部16の視野範囲に目標1が入るように飛翔体2の機体3に対するセンサ部16の姿勢を調整して固定する。中間誘導によって飛翔体2が目標近辺に到達したときの、飛翔体2と目標1との空間的位置関係、飛翔体2の空間内の姿勢とそのばらつきは、飛翔体2の発射前に予測することができるので、この予測に基づいて、与えるべきオフセット角θを割り出すことができる。
【0020】
図1に示した固定機構22は、一例に過ぎず、飛翔体2の機体3に対するセンサ部16の姿勢を調整できるようにセンサ部16を飛翔体2の機体3に固定できる範囲で、他の種々の形態を採用することができる。
【0021】
制御部は、センサ部16からの情報に基づいて、飛翔体2を目標1に着弾するように制御する。符号Sはセンサ部16からの検出信号である。
【0022】
なお、図1において、符号5は飛翔体2の前部においてセンサ部16を囲むカウリング、符号6は、光を透過させる光学ドームである。
【0023】
上述した構成の飛翔体の誘導システム10によって、本発明の飛翔体2の誘導方法を実施することができる。すなわち、本発明の飛翔体の誘導方法では、予め設定された経路に沿って目標近辺まで飛翔体2を誘導する中間誘導を行い、飛翔体2が目標近辺まで到達したときに中間誘導に引き続いて飛翔体2に搭載したセンサ部16により目標1を捕捉して飛翔体2を目標1に着弾するように誘導する終末誘導を行なう。この場合おいて、飛翔体2の機体3に対するセンサ部16の姿勢を調整できるようにセンサ部16を飛翔体2の機体3に固定可能な構成としておき、飛翔体2の発射前に、中間誘導によって飛翔体2が目標近辺に到達したときにセンサ部16の視野範囲に目標1が入るように飛翔体2の機体3に対するセンサ部16の姿勢を調整して(オフセット角θを与えて)固定する。
【0024】
以下、本発明の実施形態にかかる飛翔体の誘導方法及び誘導システム10の作用・効果について説明する。
本発明によれば、目標近辺まで飛翔体2を中間誘導するので、終末誘導の開始時の誤差バスケットを小さくすることができる。また、飛翔体2の機体3に対するセンサ部16の姿勢を調整できるようにセンサ部16を飛翔体2の機体3に固定可能な構成としておき、飛翔体2の発射前に、中間誘導によって飛翔体2が目標近辺に到達したときにセンサ部16の視野範囲に目標1が入るように飛翔体2の機体3に対するセンサ部16の姿勢を調整して固定するので、中間誘導の終了後に実行する終末誘導において、センサ部16によって目標1を捕捉し、追尾し、飛翔体2を目標1まで誘導することができる。
【0025】
本発明によれば、センサ部16を飛翔体2の機体3に固定する構造としたことによって、ジンバル機構を不要としたので、センサ部16の設置構造の簡素化、小型化、低価格化を実現できる。また、上述したジンバル機構では、発射時の衝撃によって軸受が損傷した場合、終末誘導を行なえないという事態が生じるが、本発明では、発射から着弾までセンサ部16の姿勢を一定に保持するので、ジンバル機構のような問題は生じ得ないため、信頼性が格段に向上する。
【0026】
したがって、本発明によれば、センサ部の設置構造の簡素化、小型化および低価格化を実現することができるとともに、終末誘導の実行の確実性及び信頼性を向上できる、という優れた効果が得られる。
【0027】
なお、上記において、本発明の実施形態について説明を行ったが、上記に開示された本発明の実施の形態は、あくまで例示であって、本発明の範囲はこれら発明の実施の形態に限定されない。本発明の範囲は、特許請求の範囲の記載によって示され、さらに特許請求の範囲の記載と均等の意味および範囲内でのすべての変更を含むものである。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】本発明の実施形態にかかる飛翔体の誘導方法及び誘導システムを説明する図である。
【図2】本発明の実施形態にかかる飛翔体の誘導方法及び誘導システムを説明する図である。
【図3】従来の飛翔体の誘導方法を説明する図である。
【図4】従来の飛翔体の誘導方法を説明する図である。
【符号の説明】
【0029】
1 目標
2 飛翔体
3 機体
10 飛翔体の誘導システム
12 中間誘導装置
14 終末誘導装置
16 センサ部
22 固定機構
26 制御部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
予め設定された経路に沿って目標近辺まで飛翔体を誘導する中間誘導を行い、前記飛翔体が目標近辺まで到達したときに前記中間誘導に引き続いて前記飛翔体に搭載したセンサ部により目標を捕捉して前記飛翔体を目標に着弾するように誘導する終末誘導を行なう飛翔体の誘導方法であって、
前記飛翔体の機体に対する前記センサ部の姿勢を調整できるように前記センサ部を前記飛翔体の機体に固定可能な構成としておき、
前記飛翔体の発射前に、前記中間誘導によって前記飛翔体が前記目標近辺に到達したときに前記センサ部の視野範囲に前記目標が入るように前記飛翔体の機体に対する前記センサ部の姿勢を調整して固定する、ことを特徴とする飛翔体の誘導方法。
【請求項2】
予め設定された経路に沿って目標近辺まで飛翔体を誘導する中間誘導装置と、前記飛翔体に搭載され当該飛翔体が目標近辺まで到達したときに前記中間誘導装置による誘導に引き続いて飛翔体を目標に着弾するように誘導する終末誘導装置と、を備えた飛翔体の誘導システムであって、
前記終末誘導装置は、前記目標を捕捉するセンサ部と、前記飛翔体の機体に対する前記センサ部の姿勢を調整できるように前記センサ部を前記飛翔体の機体に固定する固定機構と、前記センサ部からの情報に基づいて前記飛翔体を制御する制御部とを有し、
前記センサ部は、前記中間誘導装置によって前記飛翔体が前記目標近辺に到達したときに当該センサ部の視野範囲に前記目標が入るように、前記飛翔体の発射前に姿勢が調整されて前記飛翔体の機体に固定される、ことを特徴とする飛翔体の誘導システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2007−322091(P2007−322091A)
【公開日】平成19年12月13日(2007.12.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−154576(P2006−154576)
【出願日】平成18年6月2日(2006.6.2)
【出願人】(500302552)株式会社アイ・エイチ・アイ・エアロスペース (298)
【Fターム(参考)】