説明

飛行時間式PET用の集積複数チャネル時間−デジタル変換器

飛行時間式の陽電子放出型断層撮影(PET)スキャナ2の放射線検出器10にて、放射線検知部20が放射線検出事象を表す信号22を生成する。時間−デジタル変換器34は、リング発振器36,36’として動作可能に相互接続されたデジタル遅延素子40と、少なくとも信号22が生成された時のリング発振器の状態に基づいて、放射線検出事象のタイムスタンプを生成するように構成された読み出し回路50,52,60,82,84,86,88とを含む。デジタル遅延素子に動作的に接続された遅延調整素子46が、デジタル遅延素子に実質的に共通の遅延を設定する。更に或いは代替的に、デジタル遅延素子40は、自身の遅延より実質的に長い移行時間を有する読み出しバッファ48’と、遅延素子の値をデジタル化するアナログ−デジタル変換器82,84と、デジタル化された値に基づいてリング発振器36’の状態を計算するデコード回路86,88とを含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本出願はデータサンプリング、タイムスタンプ付与、及び関連技術に関する。本出願は、特に、飛行時間式(time of flight;TOF)陽電子放出型断層撮影(PET)スキャニングにおける放射線検出事象のサブナノ秒の分解能のタイムスタンプ付与を提供する時間−デジタル(Time-to-digital)変換器に適用され、特にそれを参照して説明される。しかしながら、以下の開示はより一般的に、その他の医療用途における時間−デジタル変換器や、例えば光事象又は光速事象の計時、核プロセスにおける放射線検出事象の計時、及びその他の時間依存事象の計時など、そのような時間−デジタル変換を用いる用途、方法及び装置にも適用される。
【背景技術】
【0002】
PETにおいては、ヒト患者又はその他の撮像対象に放射性医薬品が投与される。放射性医薬品は、陽電子を放出する放射線減衰事象を生成する。陽電子は、非常に短い距離を進行した後、2つの反対向きのガンマ線を生成する電子−陽電子消滅事象にて、周囲の撮像対象の近接電子と素早く相互作用する。これらのガンマ線は、撮像対象を囲む放射線検出器によって、それらの間に同時計数線(ライン・オブ・レスポンス;LOR)を定める2つの実質的に同時の放射線検出事象として検出される。
【0003】
ガンマ線は“実質的に同時に”検出されるが、関与する2つの放射線検出器の一方が、他方の放射線検出器より、電子−陽電子消滅事象に近い場合、2つの放射線検出事象間には小さい時間差が存在することになる。ガンマ線は光速で進行し、検出器は約2m以下しか離れていないので、これら検出間のこの時間差は、典型的に約1ns以下であり、陽電子−電子消滅事象がガンマ線の経路に沿って2つの検出器から等距離にある場合には、限りなくゼロに近くなり得る。飛行時間式PET(TOF−PET)において、放射線検出器は、LORに沿って電子−陽電子消滅事象の位置を特定するために使用する小さい飛行時間差の測定を可能にするよう、十分に高速に動作する。LORを飛行時間測定部からの時限情報と組み合わせるデータは、ヒストプロジェクションを呼ばれることがある。
【0004】
TOF−PETでは、放射線検出事象はサブナノ秒の時間分解能でタイムスタンプを付与されるべきである。一般的に、時間分解能が向上するにつれ、LORに沿っての消滅事象の位置特定の空間分解能も向上する。サブナノ秒の時間分解能で100を超える数のチャネルの、放射線検出事象(エネルギー、及び空間位置若しくは分布)のデジタル化と、放射線検出事象の発生時間のデジタル化(時間−デジタル変換)との双方を実行する集積されたマルチチャネルの高性能且つ低電力の読み出し技術が要求される。入手可能なディスクリート時間−デジタル変換器は、高入力電力装置であり、TOF−PETでの使用には容易に適応されない。単一チップ上で検出及び処理を実行する集積ソリューションが有利となる。
【0005】
既存の時間−デジタル変換器は、中央の基準クロックによって同期化されたリング発振器を用いている。時間−デジタル変換は、トリガー事象(例えば、PETスキャニングの場合の放射線検出事象)が検出された時のリング発振器の遅延素子の状態をラッチすることに基づく。リング発振器は、インバータ又はバッファ等の幾つかのデジタル遅延素子からなる一連の相互接続を含んでいる。遅延チェーン(鎖)の出力が入力にフィードバックされる。この構成は、遅延チェーンが反転接続を含む場合には安定状態を有さない。
【0006】
しかしながら、リング発振器をサブナノ秒の時間分解能での時間−デジタル変換に用いる場合、十分に高い精度を達成するは困難である。このような高い時間分解能を達成するため、各デジタル遅延素子の遅延は、例えば数ピコ秒から数十ピコ秒などと短くされる。例えば、CMOSにおいては、短いゲート長にすることにより、十分に高速なデバイスが実現される。しかしながら、短いゲート長の高速デバイスを用いると、一般的に、デバイス間のマッチングが乏しくなるとともに、リング発振器内の相異なるデジタル遅延素子間の遅延バラつきがかなりの量になるため、タイムスタンプ付与の時間精度が制限されてしまう。これらの問題を、例えば長めのゲート長にするなど、デジタル遅延素子を再設計することによって解決しようとすることは、全体的な速度を低下させ、キャパシタンス及びデバイスの電力消費を増大させる。リング発振器のジッタはまた、例えば時間−デジタル変換器の出力にデジタル補正を施すことなどの収集後の処理によって解決され得る。しかしながら、このような補正は複雑さを増すものであり、帯域幅やシステムコストを増大させてしまう。さらに、このような補正を用いたとしても、幾らかのジッタが残ってしまう。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本出願は、上述の問題及びその他の問題を解決する、改善された時間−デジタル変換器、放射線検出器、PETスキャナ、及びそれらに関連する方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0008】
一態様に従って、飛行時間式PETスキャナが開示される。放射線検出器が、撮像領域から放射された放射線を検出するように配置される。放射線検出器は、放射線検出事象にタイムスタンプを付与するための少なくとも1つの時間−デジタル変換器を含む。時間−デジタル変換器は:リング発振器として動作可能に相互接続された複数のデジタル遅延素子;デジタル遅延素子に動作的に接続され、デジタル遅延素子に実質的に共通の遅延を設定するよう構成可能な遅延調整素子;及び放射線検出事象に応答して、少なくともリング発振器の状態に基づいて、タイムスタンプを生成するよう構成可能な読み出し回路を含む。
【0009】
他の一態様に従って、時間−デジタル変換器が開示される。複数のデジタル遅延素子が、リング発振器として動作可能に相互接続される。デジタル遅延素子に実質的に共通の遅延を設定するよう構成可能な遅延調整素子が、デジタル遅延素子に動作的に接続される。読み出し回路が、トリガー事象に応答してリング発振器の状態を表す出力を生成するよう構成される。
【0010】
他の一態様に従って、放射線検出器が開示される。放射線検知部が、放射線検出事象を表す信号を生成する。時間−デジタル変換器が、リング発振器として動作可能に相互接続された複数のデジタル遅延素子、デジタル遅延素子に動作的に接続され、デジタル遅延素子に実質的に共通の遅延を設定するよう構成可能な遅延調整素子、及び少なくとも前記信号が生成された時のリング発振器の状態に基づいて、放射線検出事象のタイムスタンプを生成するよう構成された読み出し回路を含む。
【0011】
他の一態様に従って、リング発振器として動作可能に相互接続された複数の遅延素子を有するリング発振器を校正する方法が開示される。ランダム化されたトリガー事象に応答してリング発振器の出力のヒストグラムデータが決定される。遅延素子に実質的に共通の遅延を設定するよう、ヒストグラムデータに基づいて遅延素子の遅延が調整される。
【0012】
他の一態様に従って、時間−デジタル変換器が開示される。複数のデジタル遅延素子が、リング発振器として動作可能に相互接続される。デジタル遅延素子は、当該デジタル遅延素子の遅延より実質的に長い移行時間を有する読み出しバッファを含む。アナログ−デジタル変換器が、トリガー事象に応答して遅延素子の値をデジタル化する。デコード回路が、デジタル化された値に基づいて、トリガー事象に対応するリング発振器の状態を計算する。計算された状態はデジタル遅延素子の遅延より短い時間分解能を有する。
【0013】
他の一態様に従って、上述の時間−デジタル変換器を用いる放射線検出器及び飛行時間式PETスキャナが開示される。
【発明の効果】
【0014】
1つの効果は時間分解能が改善されることにある。
【0015】
他の1つの効果は、時間−デジタル変換器の遅延素子群の遅延差が、周期的に、あるいは場合により実時間で、補正されることにある。
【0016】
他の1つの効果は、集積された高分解能時間−デジタル変換器を備えた放射線検出器が提供されることにある。
【0017】
他の1つの効果は、タイムスタンプ付与が一体化された検出器を具えた飛行時間式PETスキャナが提供されることにある。
【0018】
他の1つの効果は、各チャネルのタイムスタンプ付与及び信号積分が同時に行われ、飛行時間式PETのための時間、エネルギー、及び陽電子のパラメータが提供されることにある。
【0019】
以下の詳細な説明を読み、理解することによって、本発明の更なる効果が当業者に明らかになる。
【0020】
本発明は、様々な構成要素及びそれらの配置、並びに様々な段階及びそれらの編成の形態を取り得る。図面は、好適実施形態を例示するためだけのものであり、本発明を限定するものとして解釈されるべきではない。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】飛行時間式陽電子放出型断層撮影(PET)スキャナを示す図である。
【図2】時間−デジタル変換器の主要部を含む、図1の放射線検出器を示すブロック図である。
【図3】図2の時間−デジタル変換器のリング発振器の主要部を示す電気回路図である。
【図4】デジタル遅延素子の不一致を補正する前の、図2の時間−デジタル変換器の瓶カウンタによって収集されると予期される種類のヒストグラムデータを示す図である。
【図5】デジタル遅延素子の不一致を補正した後の、図2の時間−デジタル変換器の瓶カウンタによって収集されると予期される種類のヒストグラムデータを示す図である。
【図6】図3のリング発振器の時間分解能を高めるためのオーバーサンプリング手法を示す図である。
【図7】図1の放射線検出器の時間−デジタル変換器に好適に使用される他のリング発振器の主要部を示す電気回路図である。
【図8】図7のリング発振器のデジタル遅延素子群のうちの1つのオフからオンへの移行を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
図1を参照するに、飛行時間式陽電子放出型断層撮影(TOF−PET)スキャナ2は、筐体4、及びカウチ6すなわち患者支持台を含んでいる。筐体4はボア型の撮像領域8を画成する。放射線検出器アレイ10が、撮像領域8を眺めるように配置されている。認識されるように、単一の図示した放射線検出器アレイ10は例示的なものであり、スキャナ2は典型的に、実質的に如何なる角度においてもデータを収集し得るように撮像領域8を取り囲む、1つ以上のリングを成すこのような検出器アレイを含んでいる。また、認識されるように、放射線検出器アレイ10は例示的なものであり、典型的には、放射線検出器はスキャナ2の筐体4内に収容され、外側からは見えない。また、典型的に、放射線検出器の各リングは、何百又は何千という放射線検出素子を含んでいる。一部のPETスキャナにおいては、単一の放射線検出器リングが設けられ、他のPETスキャナにおいては、2つ、3つ、4つ、5つ、又はそれより多くの放射線検出器リングが設けられる。また、一部の実施形態において、放射線検出器は、ガンマカメラ構成においてのように、1つ以上の検出器ヘッド上の1つ以上のアレイとして配置され得る。これら検出器ヘッドは、例えば患者に対して近付いたり離れたりするように移動可能であったり、患者の周りを移動可能であったり等、様々に移動可能であってもよい。カウチ6又はその他の支持台はヒト患者又はその他の撮像対象を撮像領域8内に位置付ける。必要に応じて、カウチ6は、3次元撮像データの収集を容易にするよう、放射線検出器10のリングに略直交する軸方向に直線的に移動可能にされる。加えて、あるいは代えて、撮像対象は静止状態に保たれ、複数の放射線検出器リングが、3次元TOF−PET撮像データを収集するために使用される。更なる他の実施形態においては、単一の検出器リングのみが設けられ、撮像対象は静止したままにされ、得られる画像は2次元となる。
【0023】
TOF−PET撮像の開始に先立って、患者又はその他の撮像対象に好適な放射線医薬品が投与される。放射性医薬品は、陽電子を放出する放射性崩壊事象を被る放射線物質を含む。放出された陽電子は、素早く、撮像対象の電子とともに消滅する。得られる陽電子−電子消滅事象の各々は、511keVのエネルギーを有する2つの反対向きのガンマ線を生成する。これらのガンマ線は光速、すなわち、約3×10m/sで進行する。撮像領域8は一般的に約2m以下の直径又はその他の特性寸法を有するので、陽電子−電子消滅事象の位置から1つの放射線検出器アレイ10までのガンマ線の飛行時間は数ナノ秒以下である。故に、2つの反対向きのガンマ線は2つの放射線検出器に、典型的にサブナノ秒の時間差で突き当たる。放射線検出器は、エネルギー、空間位置及びタイムスタンプを含めて放射線検出事象を記録し、このデータは事象バッファ11に格納される。
【0024】
放射線検出事象はガンマ線対検出回路12によって処理され、対応する電子−陽電子消滅事象に属する実質的に同時のガンマ線検出の対が識別される。この処理は、例えば、エネルギーウィンドウをかけること(すなわち、511keVの周りに配置された選択されたエネルギーフィルタリングウィンドウの外側の放射線検出事象を破棄すること)、及び同時発生(コインシデンス)検出回路(すなわち、選択された時間フィルタリング間隔より大きく互いに時間的に離れた放射線検出事象対を破棄すること)を含み得る。ガンマ線対が識別されると、2つのガンマ線検出事象に関する空間情報がライン・オブ・レスポンス(LOR)プロセッサ13によって処理され、2つのガンマ線検出を接続するライン・オブ・レスポンス(LOR)の空間的な直線が特定される。1つの陽電子−電子消滅事象によって放出される2つのガンマ線は空間的に反対向きなので、その電子−陽電子消滅事象はそのLOR上の何処かで発生したことがわかる。
【0025】
TOF−PETにおいては、放射線検出器10は、2つの“実質的に同時の”ガンマ線検出間の飛行時間差を検出するのに十分な時間分解能を有する。すなわち、放射線検出事象は実質的に同時に起こるが、一般的に、2つの事象のタイムスタンプ間に飛行時間差に起因する小さい時間差が存在する。この時間差は一般的にサブナノ秒の域である。2つの実質的に同時のガンマ線検出事象のタイムスタンプ間の時間差は飛行時間プロセッサ14によって分析され、陽電子−電子消滅事象の位置がLORに沿って特定される。多数の陽電子−電子消滅事象に関して累積された結果は、ヒストプロジェクションセット15となる。ヒストプロジェクションセット15は、再構成プロセッサ16によって、例えばフィルタ補正逆投影法又は補正を用いた反復的逆投影法などの好適な再構成アルゴリズムを用いて、再構成画像へと再構成される。得られた再構成画像は、画像メモリ17に格納され、ユーザインタフェース18上で表示される。得られた再構成画像はまた、印刷され、記憶され、イントラネット又はインターネット上で通信され、あるいはその他の方法で使用されることが可能である。図示した実施形態においては、放射線医又はその他のユーザがTOF−PETスキャナ2を制御することをユーザインタフェース18が可能にする。他の実施形態においては、別個のコントローラ又は制御コンピュータが設けられてもよい。
【0026】
図2を参照するに、放射線検出器アレイ10は、典型的に、画素化された放射線センサのアレイである放射線検知部20を含んでいる。典型的な構成において、シンチレーション結晶が511keVガンマ線を吸収し、光のシンチレーションを生成する。そして、例えばフォトダイオード又は光電管(PMT)等の光検出器アレイがシンチレーションを検出する。他の実施形態においては、半導体に基づく放射線検出器が、シンチレーション事象を介在せずに直接的に、ガンマ線を吸収・検出する。放射線検知部20は、放射線検出事象を表す信号22(そのシンチレーション事象を観測した複数の光検出器からの複数の信号を有していてもよい)を生成する。トリガー24が信号22の命中(ヒット)を監視し、ヒットが検出された場合、トリガー信号を生成する。トリガー信号が積分器26による信号積分を開始させるために使用され、積分信号が生成される。積分信号は例えばアンガー(Anger)ロジック28等の従来からの要素に好ましく入力され、アンガーロジック28はこの信号を処理して、入射放射線粒子のエネルギー30(好ましくは、1つ、2つ、3つ、又はそれより多くの光検出器によって観察されたシンチレーションエネルギーの積分又は和に関する)、及び放射線検出事象の空間位置32(好ましくは、1つ、2つ、3つ、又はそれより多くの光検出器によって観察されたシンチレーションエネルギーの分布に関する)を決定する。信号22はまた、放射線検出事象にタイムスタンプを付与するため、時間−デジタル変換器34用のトリガー信号としても作用する。時間−デジタル変換器34は、N個の遅延素子を有するリング発振器36に基づく。
【0027】
図3を参照するに、N=16のデジタル遅延素子40を有するリング発振器36の例が示されている。N=16構成の例を示すが、認識されるように、遅延素子の数は16より多くても少なくてもよく、また、遅延素子の数は2のべき乗以外の数であってもよい(例えば、N=13も可能である)。デジタル遅延素子40は相互に直列に接続され、この直列の最後の遅延素子は、リングトポロジーが形成されるよう、最初の遅延素子に戻るように接続されている。一般的に、N個の遅延素子を相互接続するN個の接続が存在する。この直列接続のうちの大部分は非反転接続であるが、リング発振器36内の1つの接続42は反転した相互接続である。他の実施形態においては、これとは異なるように分布された反転相互接続及び非反転相互接続も意図される。ドリフトを抑制するため、リング発振器36は必要に応じて、位相ロックループ(PLL)43又はその他の調整ループによって、より遅い基準クロック又は発振器(図示せず)にロックされる。PLL43は、例えば複数の放射線検出器アレイに時間−デジタル変換を提供するため、共通の基準クロック又は発振器と組み合わせて、複数のリング発振器を同期させるように使用されることも可能である。
【0028】
デジタル遅延素子は高精度バイアス回路44によってバイアスされる。高精度バイアス回路44の使用は、バイアスにより遅延時間が変化するデジタル遅延素子40の時間遅延を、一定の変動しないものにする助けとなる。この例に係るリング発振器36は32の安定状態を循環する。ここでは、個々のデジタル遅延素子40を参照することを容易にするため、直列接続された遅延素子群を連続する大文字“A”、“B”、“C”、・・・、“P”で表記する。この直列相互接続は、“A”の出力を“B”へと送り、“B”の出力を“C”へと送り、“C”の出力を“D”へと送り、等々、“P”の出力が“A”に戻されてリングが完成するまで続ける。リング発振器36がデジタル遅延素子群40の全てに“0”の値を用いて初期化された場合、リング発振器36の初期状態は、“00−00000000000000”で表され得る。ただし、記号“−”は反転接続を意味する。一遅延期間(T)の後、リング発振器36は、デジタル遅延素子“B”の“0”が反転されてデジタル遅延素子“C”に伝達されることにより“1”の値を1つ有する状態“00−10000000000000”に移行する。残りのデジタル遅延素子は、反転されていない“0”の値を受け取るため値の変化はない。第2の遅延期間Tの後、リング発振器36は“00−11000000000000”に移行し、第3の遅延期間Tの後、リング発振器36は“00−11100000000000”に移行し、第16の遅延期間後に値“11−11111111111111”に到達するまで続く。第17の遅延期間Tの後、リング発振器36は“11−01111111111111”に移行する。この段階では、反転接続は、遅延素子“B”の“1”を、それが遅延素子“C”に取り込まれる前に“0”に反転させるからである。第18の遅延期間後、リング発振器36は“11−00111111111111”に移行し、第31の遅延期間後にリング発振器36が“01−00000000000000”に移行するまで続く。そして、第32の遅延期間後、リング発振器36は当初の“00−00000000000000”状態へと戻り、期間32×Tを有するリング発振器36の1サイクルが完成される。
【0029】
以上の分析は、デジタル遅延素子40の全てが同一の遅延Tを有すると仮定している。しかしながら、デジタル遅延素子40の不一致のため、全てのデジタル遅延素子40のバイアスが同一であったとしても、この仮定は事実上誤ったものとなり得る。すなわち、高精度バイアス回路44がデジタル遅延素子40の各々且つ全てに厳密に同一のバイアスを供給したとしても、製造上の限界などに起因するデジタル遅延素子40間のバラつきのため、これらの素子の遅延は実質的に互いに異なるものとなり得る。
【0030】
従って、ジッタを抑制してリング発振器36の時間的精度を高めるようデジタル遅延素子40を一致させるために、各デジタル遅延素子40は更に、個々の微調整用のトリミングバイアス46を有している。バイアス44、46の選定は、例えばCMOS又は差動電流モードロジック等、デジタル遅延素子40のロジックのスタイル又は構成に依存する。CMOSにおいては、トリミングバイアス46は、各デジタル遅延素子の遅延を独立に制御するよう、高精度バイアス回路44の、例えば電源電圧、負荷容量、又は電流制限などのバイアス条件を変化させ得る。差動ロジックにおいては、遅延はバイアス電流にほぼ反比例するため、個々の遅延はバイアス電流の制御によって制御可能である。バイアス制御以外の機構によるトリミングも意図される。
【0031】
引き続き図3を参照しながら図2を再び参照し、個々のトリミングバイアス46の値を決定する好適手法を説明する。リング発振器36の遅延素子40は、対応する読み出しバッファ48及びラッチ50を含んでおり、これらはトリガー事象に応答して遅延素子40のデジタル値を受信して保持する。放射線検出器10の場合、トリガー事象はトリガー24によって生成される、放射線検出事象を表すトリガー信号によって好ましく提供される。ラッチされた値はデコーダ52によってデコードされ、リング発振器36の状態値が生成される。表1は、リング発振器36の36個の相異なる状態についての取り得るデコーダ出力の組の一例を示している。表1のデコーダ値は単なる例であり、ラッチされた値は実質的に如何なるデコーダ値の組にもマッピングされ得る。
【0032】
【表1】


表1には、何れの遅延素子の遅延がリング発振器状態の持続性を制御するかも示している。例えば、10進数でのデコーダ値2に対応する状態“00−11000000000000”を考える。この状態は、遅延素子“E”が遅延素子“D”からの入力“1”の存在によって“0”から“1”に切り替わるまで持続する。故に、状態“00−11000000000000”の持続性は、遅延素子“E”の遅延に依存する。一部の実施形態において、状態“00−11000000000000”(デコーダ値2)の持続性は、“11−00111111111111”(デコーダ値18)の持続性と同一であるはずである。後者の状態は、遅延素子“E”が“1”から“0”に切り替わるまで持続するからである。他の実施形態においては、これら2つの状態の持続性は、“1”→“0”の移行における遅延に対する“0”→“1”の移行における遅延の差異に起因して異なり得る。
【0033】
引き続き図2を参照しながら図4及び5をも参照するに、放射線検出事象に対応するリング発振器状態は瓶(bin)カウンタによって仕分けられる。放射線検出事象に関する仕分けられたリング発振器状態の出現数は、ヒストグラムデータを形成する。ランダムな放射線検出事象であっても様々な遅延素子40の遅延に幾らかの差異がある場合、ヒストグラムデータの瓶群は、図4にプロットされるように幾らかのバラつきを示すことが予期される。陽電子を発生する放射線崩壊は時間的にランダムに起こるので、放射線検出事象は時間的にランダムに出現するはずである。従って、様々なデジタル遅延素子40の遅延が相等しい場合、各リング発振器状態の持続性は相等しくなるはずであるので、出現数のヒストグラムも統計的な限界の範囲内で平坦になるはずである。しかしながら、特定のデジタル遅延素子が比較的短い遅延を有する場合、該遅延に依存する持続性を有するリング発振器状態は比較的低い頻度で出現することになる。逆に、特定のデジタル遅延素子が比較的長い遅延を有する場合、該遅延に依存する持続性を有するリング発振器状態は比較的高い頻度で出現することになる。図4のヒストグラムは、如何なる所与のデジタル遅延素子40においても“0”→“1”の移行と“1”→“0”の移行とは略等しい遅延を有するという仮定の下で導き出されたものである。この場合、例えば、状態“00−11000000000000”(デコーダ値2)の持続性は、“11−00111111111111”(デコーダ値18)の持続性と略同一である。何れも遅延素子“E”の切り替わりによって制御されるからである。故に、状態“00−11000000000000”及び“11−00111111111111”の瓶は結合されることができ、“0”→“1”及び“1”→“0”という逆極性のその他の移行対も同様であるので、図4の32個の瓶は16個の瓶に削減される。他の例では、“0”→“1”及び“1”→“0”の移行は別々に取り扱われてもよく、その場合には32個の瓶が用いられる。
【0034】
図4のプロット例のようなヒストグラムデータはヒストグラム分析器56によって分析され、各デジタル遅延素子40の実際の遅延が決定される。所与の個々の遅延素子において、遅延は、該個々の遅延素子の切り替わりによって持続性が制御される状態又は状態群の出現数に比例する。従って、何れの遅延素子が比較的長い遅延を有し、何れの遅延素子が比較的短い遅延を有するかを決定することは容易である。ヒストグラム分析器56は、全ての遅延素子40に共通の一様な遅延が得られるよう、比較的短い遅延を長くし、比較的長い遅延を短くするため、バイアストリマー46を調節する。例えば、差動ロジックにおいて、移行速度がバイアス電流に対してほぼ線形となるよう動作点が選択される。従って、インデックス“q”を付けられた遅延素子によって持続性が制御される状態の出現数をN、総出現数(すなわち、放射線検出事象の総数)を瓶数で割った値をNavgとして、好適なバイアス電流補正は比Navg/Nに関係する。
【0035】
“0”→“1”及び“1”→“0”の移行が別々に仕分けられる場合、所与の遅延素子の微調整は、該遅延素子によって持続性が制御される2つの状態の平均値に基づき得る。他の例では、デジタル遅延素子40は、“0”→“1”及び“1”→“0”の移行に関する遅延が独立して微調整され、“0”→“1”及び“1”→“0”の移行に関する微調整(トリム)が別々に行われ得るように構成されてもよい。
【0036】
トリム補正の後、瓶54は必要に応じてクリアされ、より多くのデータが収集される。バイアストリマー46の調整後に収集されるヒストグラムデータは、出現数のヒストグラムが統計的限界の範囲内で平坦であって、全ての遅延素子40に共通の一様な遅延Tを指し示す図5のデータと同様になるはずである。必要に応じて、この補正は繰り返されてもよい。例えば、図5のヒストグラムが依然として、リング発振器36の様々な状態の出現数に許容できないバラつきを示す場合、図5のヒストグラムデータに基づいて再度のバイアス調整が実行され得る。この補正を、PETデータが収集されるときに実質的にリアルタイムで実行することが意図される。例えば、仕分けが数秒から数分の期間をかけて実行された後、収集されたヒストグラムデータに基づいてバイアストリマー46の調整が行われ、そして、このサイクルが撮像中に反復的に繰り返され、リアルタイムの、あるいは略リアルタイムのトリミング調整が実現される。
【0037】
バイアストリマー46の範囲は、デジタル遅延素子40の最悪の場合の遅延差を補正するのに十分な大きさにされるべきである。例えば、“最悪の場合の差”はデジタル遅延素子40間の予期される、あるいは実験的に決定される製造バラつきによって推定され得る。トリムの調整は、PET撮像中に実行されてもよいし、別個の検出器校正処理にて、例えば校正時間の短縮のために多数の放射線検出事象をもたらすよう高濃度の放射性物質を有するファントムを用いて実行されてもよい。ファントムの使用することのほかに、例えば自然バックグラウンド放射能や、Lu等の放射性元素でのシンチレーション材料の汚染によって存在する放射線崩壊は、撮像装置が患者データ収集モードにないときに校正処理に十分なカウント数をもたらす好適なランダム事象発生器である。また、例えば、乱数発生器又はアナログノイズ発生器を有する等によって、トリム校正に使用するためのランダムトリガー事象を定める、その他のランダムなトリガーが、時間−デジタル変換器34を校正するために用いられてもよい。実際、十分に高いレートで時間的にランダムに発生する実質的に如何なるトリガー事象も、バイアストリマー46を調整するために使用されることが可能である。この校正はまた、時間−デジタル変換器34のアナログ経路上の全ての異なる非線形性を補正するため、ラッチ及び読み出しバッファに拡張され得る。
【0038】
図2を参照するに、TOF−PETスキャン中に放射線検出事象にタイムスタンプを付与することは、トリミングされた時間−デジタル変換器34によって以下のようにして行われる。デコーダ52の出力が、少なくともトリガー事象(例えば、放射線検出事象を表す信号22)の時点でのリング発振器36の状態に基づいて計算されたタイムスタンプ58の最下位ビット(LSB)を提供する。しかしながら、リング発振器36は速く循環しており、1つのフルサイクルは典型的にサブナノ秒から数ナノ秒の周期を有する。(遅延素子40当たり共通の遅延Tを有するリング発振器36の例では、フルサイクルは周期32×Tを有する。)より大きい時間枠に及ぶタイムスタンプを提供するため、粗いカウンタ60が、サイクル数、ハーフサイクル数、又はリング発振器36のサイクルの別の時間単位を計数する。例えば一手法において、粗カウンタは、リング発振器36のフルサイクルを計数するため、1つの遅延素子の出力を分岐する。粗カウンタが計数値を増加させるときに起こり得る移行エラーを回避するため、場合により、同一だが反転された遅延素子出力を分岐することによって第2の粗カウンタが設けられる。このような2つの時間的にずらされた粗いカウンタを使用することは、移行エラーを効果的に防止する。タイムスタンプ58は、粗カウンタ60によって提供される最上位ビット(MSB)を、デコーダ52が指し示すリング発振器36の状態によって提供される最下位ビット(LSB)と組み合わせることによって構築される。
【0039】
図6を参照するに、リングカウンタに基づく時間−デジタル変換器の時間分解能を高める一手法は、遅延素子当たり2つのサブ遅延素子、例えば比較的高速の読み出しバッファ70及び比較的低速の読み出しバッファ72等、を用いるオーバーサンプリングを使用する。(遅延素子70、72は好適には図2に示した読み出しバッファ48に対応する。)各デジタル遅延素子40の状態は、高速のサブ遅延素子すなわち読み出しバッファ70と、低速のサブ遅延素子すなわち読み出しバッファ72とによって並行して送られる。2つの読み出しバッファ70、72の輸送時間の差は、トランジスタ構造によって粗調整され、理想的には瓶幅の半分(例えば、T/2)であるべきである。微調整は好ましくは、速度を制御する別々のバイアス回路、すなわち、高速読み出しバッファ70用の1つのバイアス回路構成74及び低速読み出しバッファ72用の別の1つのバイアス回路構成76、を有することによって実現される。ランダムに分散された到来トリガー事象を用いることによって校正が行われ、図2のバイアストリマー46に関して示したトリミング回路と同様に、均等に分散されたヒット確率を狙った調整がもたらされる。各デジタル遅延素子40とともに、一対の速度差を有する読み出しバッファ70、72を用い、且つ読み出しバッファ70、72の出力をラッチ50に送ることにより、実効的な瓶幅が1/2に狭められる(すなわち、時間分解能が向上される)。16個の遅延素子40を有する図示の例においては、各遅延素子が2つの読み出しバッファに対応する2つの出力を作り出すため、32個のラッチ出力が提供される。デジタル遅延素子40当たり3つ、4つ、又はそれより多くの異なる速さの読み出しバッファを含めることにより、瓶幅は更に狭められ得る。例えば、3つの相異なる速度の3つの読み出しバッファを用いると、瓶幅の1/3化が達成され得る。一部の実施形態において、異なる速さの読み出しバッファの各々は、個別にトリミングされるように構成される。
【0040】
図7及び8を参照して、時間分解能を向上させるために他の手法を用いる他のリング発振器36’を開示する。リング発振器36’は、リング発振器として相互接続されたデジタル遅延素子群40を含んでいる。しかしながら、読み出しバッファ48は、瓶幅(図8においてTbinと表記する)と同等、あるいはそれを超えるゆっくりした期間を有する、例えば図8に示した“0”→“1”移行80のような、実質的に遅くされた“0”→“1”及び“1”→“0”の移行を有する変更された読み出しバッファ48’で置き換えられている。対照的に、図2の読み出しバッファ48は瓶幅より実質的に短い移行時間を有し、無視できるほど短い移行時間中を除いて、各デジタル遅延素子40はラッチ50の位置で“0”又は“1”の何れかの値を有する。図示した移行80は“0”→“1”の移行であるが、“1”→“0”の移行も同様にゆっくりである。各デジタル遅延素子40の読み出しバッファ48’の出力は、アナログ−デジタル変換器84に続かれるサンプルホールド回路82への入力として作用する。各デジタル遅延素子40の読み出しバッファ48’の出力は、それに結合されたサンプルホールド回路82及びアナログ−デジタル変換器84によって個々にデジタル化される。図示した実施形態においては、アナログ−デジタル変換器84は、図8に示すように“00”、“01”、“10”又は“11”という4つの取り得るデジタル出力のうちの1つを提供する2ビット変換器である。例えば、図8中“トリガー”と表記された事象に時点において、サンプルホールド回路82は、アナログ−デジタル変換器84の“01”の離散化レベル内にある遅延素子信号のスナップショットを撮り、その結果、アナログ−デジタル変換器84は“01”を出力する。より多くのビット数を有するアナログ−デジタル変換器も使用され得る。例えば、4ビット変換器は“0000”から“1111”までの範囲の16レベルを提供する。しかしながら、典型的に、速いデジタル化ほど、少ないビットが関連付けられる。このデジタル化は、アナログ値をサンプリングすることによる瓶幅の補間を可能にする。この補間は、アナログ−デジタル変換器84の分解能によって制限される。図示した2ビット変換器の場合、瓶は4つのサブ瓶に分割される。より一般的には、Mビットのアナログ−デジタル変換器の場合、瓶は2個のサブ瓶に分割され得る。
【0041】
アナログ−デジタル変換器84の出力はデコーダ86に入力され、デコーダ86は、組み合わせ論理、ルックアップテーブル88の参照などを用いて、アナログ−デジタル変換器84のデジタル化された出力に基づいてリング発振器36’の状態を得る。16この遅延素子40及び2ビットのアナログ−デジタル変換器84を有する例示の実施形態においては、状態数は128(16素子×2極性×4離散化レベル)であり、出力状態を表すために7ビット90を必要とする。デジタル化を用いない場合には32状態(16素子×2極性;表1参照)が存在することになるので、このことは、2ビットのアナログ−デジタル変換処理によって時間的な瓶幅が1/4に狭められることを意味する。サンプルホールド回路82、アナログ−デジタル変換器84、及び必要に応じてルックアップテーブル88を含むデコード回路86は、リング発振器36’が図2の時間−デジタル変換器34のリング発振器36を置き換えるときに、変換器34の読み出し回路部50、52を好適に置き換える読み出し回路の部分を定める。
【0042】
図7及び8の手法は、リング発振器の全てのアナログ情報を利用する。図8に示した概して“S字”型の移行のような遅い移行80は、アナログ−デジタル変換によって、線形あるいは実質的に線形とし得るサブサンプル軸に自動的に変換される。ルックアップテーブル88を用いて、移行の非線形性や上昇特性と下降特性との差(“1”→“0”移行に対する“0”→“1”移行)等を不具にすることが可能なデジタル補正が行われ得る。ルックアップテーブル88内の補正により、遅延素子40間、又は読み出しバッファ48’間の不一致を不具にすることも意図される。しかしながら、他の実施形態においては、図7及び8のアナログ−デジタル変換は、図2及び3のトリミングと、該トリミングが遅延素子の不整合を補正するようにして組み合わされる。図3のヒストグラムに基づく校正は、一様な瓶幅のサブ瓶をデジタル化することを実現するようにルックアップテーブル88を校正することにも使用され得る。リング発振器36’には、実質的に如何なる種類のロジックが使用されてもよい。移行80はゆっくりであるため、遅延素子40は、実質的に一層狭い帯域幅と一層低い電力を有するように設計されることが可能である。移行80が隣接する複数の瓶に重なることが意図される。このような重なりは、リニアスケールで瓶群を横切る時間軸を組み合わせる助けとなるので有利となり得る。
【0043】
放射線検出器及びTOF−PETへの適用例を参照して、様々な時間−デジタル変換器を説明した。放射線検出器及びTOF−PETへの適用例を参照して説明したものの、ここで開示した時間−デジタル変換器は、例えば素粒子物理学研究での放射線検出事象を記録すること、及び一般的な高速の時間依存型サンプリングを行うこと等、サブナノ秒の時間管理及びタイムスタンプ付与を必要とするその他の分野にも適用される。
【0044】
好適な実施形態を参照しながら本発明を説明した。以上の詳細な説明を読み、理解した者は改良及び改変に想到し得る。本発明は、添付の特許請求の範囲又はその均等範囲に入る限りにおいて、そのような全ての改良及び改変を含むとして解釈されるものである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
撮像領域から放射された放射線を検出するように配置された放射線検出器であり、放射線検出事象にタイムスタンプを付与するための少なくとも1つの時間−デジタル変換器を含む放射線検出器;
を有する飛行時間式PETスキャナであって:
前記時間−デジタル変換器は:
リング発振器として動作可能に相互接続された複数のデジタル遅延素子、
前記デジタル遅延素子に動作的に接続され、前記デジタル遅延素子に実質的に共通の遅延を設定するよう構成可能な遅延調整素子、及び
放射線検出事象に応答して、少なくとも前記リング発振器の状態に基づいて、タイムスタンプを生成するよう構成可能な読み出し回路、
を含む、
飛行時間式PETスキャナ。
【請求項2】
前記撮像領域から放射された放射線を検出するように配置された前記放射線検出器を複数含み、更に:
前記放射線検出事象の前記タイムスタンプに基づいて、2つの実質的に同時の放射線検出事象を識別するペア検出回路;
前記2つの放射線検出事象を接続する空間的なライン・オブ・レスポンスを決定するラインオブレスポンス・プロセッサ;及び
前記2つの実質的に同時の放射線検出事象の前記タイムスタンプ間の時間差に基づいて、前記ライン・オブ・レスポンスに沿って事象発生源の位置を特定する飛行時間プロセッサ;
を含む請求項1に記載の飛行時間式PETスキャナ。
【請求項3】
前記放射線検出器の前記時間−デジタル変換器の前記読み出し回路は更に、前記リング発振器の状態サイクル数又はサブサイクル数のカウントを生成する粗カウント回路を含み、前記タイムスタンプを生成することは更に前記カウントに基づく、請求項1に記載の飛行時間式PETスキャナ。
【請求項4】
前記放射線検出器の前記時間−デジタル変換器は更に:
放射線検出事象に応答して前記リング発振器の出力のヒストグラムデータを収集する回路;及び
前記デジタル遅延素子に前記実質的に共通の遅延を設定するよう、前記ヒストグラムデータに基づいて前記遅延調整素子を調整する回路;
を含む、請求項1に記載の飛行時間式PETスキャナ。
【請求項5】
前記放射線検出器の前記時間−デジタル変換器の前記遅延調整素子は:
前記デジタル遅延素子用のバイアス回路であり、前記デジタル遅延素子の遅延に影響を及ぼす前記デジタル遅延素子のバイアス条件の独立制御を提供するよう、独立して制御可能なバイアス回路、
を含む、請求項1に記載の飛行時間式PETスキャナ。
【請求項6】
前記放射線検出器の前記時間−デジタル変換器の各デジタル遅延素子は、前記共通の遅延の所定部分を表す2つ以上のサブ遅延素子を含み、前記読み出し回路は、前記リング発振器の状態を、前記サブ遅延素子の状態に基づいて、前記共通の遅延より短い時間分解能で計算する、請求項1に記載の飛行時間式PETスキャナ。
【請求項7】
リング発振器として動作可能に相互接続された複数のデジタル遅延素子;
前記デジタル遅延素子に動作的に接続され、前記デジタル遅延素子に実質的に共通の遅延を設定するよう構成可能な遅延調整素子;及び
トリガー事象に応答して、前記リング発振器の状態を表す出力を生成するよう構成可能な読み出し回路;
を有する時間−デジタル変換器。
【請求項8】
前記読み出し回路は:
前記リング発振器の状態サイクル数又はサブサイクル数のカウントを生成する粗カウント回路、
を含む、請求項7に記載の時間−デジタル変換器。
【請求項9】
ランダム化されたトリガー事象に応答して前記リング発振器の出力のヒストグラムデータを収集する回路;及び
前記デジタル遅延素子に前記実質的に共通の遅延を設定するよう、前記ヒストグラムデータに基づいて前記遅延調整素子を調整する回路;
を含む、請求項7に記載の時間−デジタル変換器。
【請求項10】
前記デジタル遅延素子は、当該デジタル遅延素子のバイアス条件に依存する遅延を有し、前記遅延調整素子は:
前記デジタル遅延素子用のバイアス回路であり、前記デジタル遅延素子の前記バイアス条件の独立制御を提供するよう独立して制御可能なバイアス回路、
を含む、請求項7に記載の時間−デジタル変換器。
【請求項11】
前記デジタル遅延素子は、前記共通の遅延より実質的に短い移行時間を有する、請求項7に記載の時間−デジタル変換器。
【請求項12】
前記デジタル遅延素子は、前記共通の遅延より実質的に長い移行時間を有する読み出しバッファを含み、前記読み出し回路は:
前記トリガー事象に応答して前記遅延素子の値をデジタル化するアナログ−デジタル変換器;及び
デジタル化された値に基づいて、前記リング発振器の状態を、前記共通の遅延より短い時間分解能で計算するデコード回路;
を含む、請求項7に記載の時間−デジタル変換器。
【請求項13】
前記デコード回路はルックアップテーブルを参照する、請求項12に記載の時間−デジタル変換器。
【請求項14】
各デジタル遅延素子は:
前記共通の遅延のオーバーサンプリングを提供する2つ以上のサブ遅延素子、
を含む、請求項7に記載の時間−デジタル変換器。
【請求項15】
放射線検出事象を表す信号を生成する放射線検知部;及び
請求項7に記載の時間−デジタル変換器であり、少なくとも前記信号が生成された時の前記リング発振器の状態に基づいて、前記放射線検出事象のタイムスタンプを生成するよう構成された読み出し回路を含む時間−デジタル変換器;
を有する放射線検出器。
【請求項16】
リング発振器として動作可能に相互接続された複数の遅延素子を有するリング発振器を校正する方法であって:
ランダム化されたトリガー事象に応答して前記リング発振器の出力のヒストグラムデータを決定する段階;及び
前記遅延素子に実質的に共通の遅延を設定するよう、前記ヒストグラムデータに基づいて前記遅延素子の遅延を調整する段階;
を有する方法。
【請求項17】
前記調整する段階は:
前記遅延に影響を及ぼすデジタル素子のバイアスを調整すること、及び
サブ瓶幅の分解能での前記リング発振器の読み出しに使用されるアナログ−デジタル変換パラメータを調整すること、及び
サブ瓶幅の分解能での前記リング発振器の読み出しに使用されるオーバーサンプリング読み出しバッファの遅延を調整すること、
のうちの少なくとも1つを有する、請求項16に記載の方法。
【請求項18】
リング発振器として動作可能に相互接続された複数のデジタル遅延素子であり、当該デジタル遅延素子の遅延より実質的に長い移行時間を有する読み出しバッファを含むデジタル遅延素子;
トリガー事象に応答して前記遅延素子の値をデジタル化するアナログ−デジタル変換器;及び
デジタル化された値に基づいて、前記トリガー事象に対応する前記リング発振器の状態を計算するデコード回路であり、計算された状態は前記デジタル遅延素子の遅延より短い時間分解能を有するデコード回路;
を有する時間−デジタル変換器。
【請求項19】
前記アナログ−デジタル変換器は:
前記デジタル遅延素子のアナログ値を取得するサンプルホールド回路;及び
前記サンプルホールド回路に接続され、前記アナログ値を少なくとも2ビットの分解能でデジタル化するアナログ−デジタル変換回路;
を含む、請求項18に記載の時間−デジタル変換器。
【請求項20】
前記デコード回路はルックアップテーブルを参照する、請求項18に記載の時間−デジタル変換器。
【請求項21】
放射線検出事象を表す信号を生成する放射線検知部;及び
請求項18に記載の時間−デジタル変換器であり、前記アナログ−デジタル変換器が前記放射線検出事象を表す信号に応答して前記遅延素子の値をデジタル化するように構成された、時間−デジタル変換器;
を有する放射線検出器。
【請求項22】
各々が、放射線検出事象を表す信号を生成するように構成された放射線検知部と、請求項18に記載の時間−デジタル変換器であり、少なくとも前記リング発振器の状態に基づいて、前記放射線検出事象のタイムスタンプを構築するように構成された時間−デジタル変換器とを含む、放射線検出器;
前記放射線検出事象の前記デジタル化された値に基づいて、2つの実質的に同時の放射線検出事象を識別するペア検出回路;
前記2つの放射線検出事象を接続する空間的なライン・オブ・レスポンスを決定するラインオブレスポンス・プロセッサ;及び
前記2つの実質的に同時の放射線検出事象の前記タイムスタンプ間の時間差に基づいて、前記ライン・オブ・レスポンスに沿って事象発生源の位置を特定する飛行時間プロセッサ;
を有する飛行時間式PETスキャナ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公表番号】特表2009−540339(P2009−540339A)
【公表日】平成21年11月19日(2009.11.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−515559(P2009−515559)
【出願日】平成19年5月29日(2007.5.29)
【国際出願番号】PCT/US2007/069835
【国際公開番号】WO2007/146587
【国際公開日】平成19年12月21日(2007.12.21)
【出願人】(590000248)コーニンクレッカ フィリップス エレクトロニクス エヌ ヴィ (12,071)
【Fターム(参考)】