説明

食品処理剤及び魚卵食品

【課題】 魚卵食品に高い還元力を付与して、優れた鮮度保持及び制菌効果を発揮させ、発色性を向上させかつ褪色を少なくし、調味液浸漬による歩留まりの向上を図ることができ、しかも人体に安全性の高い食品処理剤を提供する。
【解決手段】 特に野生する1種又は2種以上の草木や海藻の炭化及び/又は灰化物から水や植物酢などで抽出したものを配合し、かつその酸化還元電位が−200mV以上である高い還元力をもたせた食品処理剤。この食品処理剤を添加した調味液に魚卵を浸漬して魚卵食品を製造する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、各種食品、特に魚卵食品の製造加工において魚卵を処理する際に使用するための食品処理剤及びそれを用いた魚卵食品に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、各種食品の加工・製造において、鮮度保持、殺菌、酸化防止、保存、発色、調味などを目的として様々な添加剤や処理剤が使用されている。これら添加剤、処理剤には、化学的に合成された酸化力の高い化学物質を使用したものが多くある。合成化学物質は本来地球上に存在せず、地球上の生物が含有するものでもないから、人体は、これを摂取すると、当然ながら異物として防御機能を活性化し、その結果酸化が進行して健康に悪影響を及ぼすなど、有害な作用を生ずる。そこで最近は、例えば食肉加工品、水産加工品、練り製品、めん類、つけものなどに使用する食品添加物又は処理剤は、合成化学物質の使用量を少なくしたり、天然由来の物質のみを用いたものが商品化されている。
【0003】
例えば、食塩の脱水作用を利用して魚卵の身締めを行いかつ食塩の熟成作用で旨みを出させる塩蔵処理に、塩化ナトリウムとグリシンを主体とするアミノ酸とを用いることにより、食塩使用料を少なくしつつ身締まりを良くしかつ呈味を良くする方法が知られている(例えば、特許文献1を参照)。同様の魚卵の塩蔵処理において、トレハロース及び/又は有機酸を含む食塩水溶液を用いることにより、少ない食塩量で身締まりが良くかつドリップのない魚卵製品の製造方法が知られている(例えば、特許文献2を参照)。
【0004】
また、魚卵製品の製造工程において、乳酸、乳酸塩又はそれらの混合物を用いて魚卵を洗浄若しくは浸漬し、又はそれを調味液に添加して処理することにより、低食塩量を維持しかつ酸味を伴わずに、微生物に対する安定性及び抵抗性を高め、保存性をもたせた魚卵製品の製造方法が開発されている(例えば、特許文献3を参照)。同様に魚卵製品の加工処理工程において、魚卵を浸漬した処理液の容器に減圧と加圧とを繰り返すことにより、処理加工時間を短縮して雑菌の発生及び繁殖を抑制し、かつ卵粒感を維持して重量の減少を生じさせない方法が知られている(例えば、特許文献4を参照)。
【0005】
更に、魚卵をリゾチーム、酢酸及びビタミンB1で処理することにより、優れた静菌効果により魚卵食品の日持ちを向上させ、かつ優れた食感及び味感を可能にした魚卵日持ち向上剤が提案されている(例えば、特許文献5を参照)。また、魚卵などの生鮮食品を殺菌消毒しかつ品質保持するために、塩素系殺菌剤とそれとは異なる無機電解質からなるイオン強度付与剤とを含む食品処理剤、及びそれを用いた食品処理方法が知られている(例えば、特許文献6を参照)。
【0006】
また、天然由来の植物灰抽出液が高アルカリで、ミネラル成分を豊富に含有することに注目し、更に強い殺菌、抗菌作用を有することを見出したことに基づいて、かかる植物灰抽出液からなる安全性に優れた日持ち向上剤、及びそれを用いて生鮮食品を浸漬処理する日持ち向上方法が提案されている(例えば、特許文献7を参照)。この日持ち向上剤及び日持ち向上方法は、原料植物から得た水抽出物が強アルカリ性を示すため、有機酸又は無機酸などを添加して用いることが開示されている。
【0007】
また、魚卵製品の加工において、人体に有害な亜硝酸塩類の使用を少なくしつつ、同程度の発色を可能にするために、フェルラ酸及びニコチン酸アミドを含有する発色助剤が知られている(例えば、特許文献8を参照)。更に、魚卵食品の鮮明な赤色を長期間維持するために、魚卵に酵母の処理剤を添加することにより、亜硝酸塩などの使用を排除して安全性を向上させた魚卵褪色防止方法が知られている(例えば、特許文献9を参照)。この方法では、より鮮明に発色させるために、発色助剤やpH調整剤を更に添加する。
【0008】
特に魚卵は、一般に賞味期限が短く、しかも長期間に亘り保存すると卵粒の膜が破れて中の液体が流出したり潰れる虞がある。そこで、捕獲した魚類から取り出した魚卵をアルカリ水溶液に浸漬などして処理し、それにより雑菌を死滅又は除去した後、アルカリ水溶液を水で洗浄又は酸性溶液で中和する方法が知られている(例えば、特許文献10を参照)。
【0009】
他方、本願発明者は、平成8年頃から、自生する海草・野草・樹木葉などの生物体から抽出した水溶性無機ミネラルが人体の健康に有用な作用を示すことを発表している(例えば、非特許文献1を参照)。更に、ミネラルを含む生物体を加熱処理し、その炭化及び/又は灰化物からミネラルを抽出採取する方法を提案している(例えば、特許文献11を参照)。
【0010】
また、本願発明者は、上述したように海草・野草・樹木葉などの灰化物から抽出した水溶性無機ミネラルが、各種食品に対して酸化防止、防腐効果を高め、旨みをひき出し、殺菌効果を発揮することから、従来のような合成化学物質の添加物を必要としない食品作りを発表している(例えば、非特許文献2を参照)。そして、このように生物を灰化して抽出した生物由来の水溶性ミネラルを含む食品等の処理剤を開発している(例えば、特許文献12を参照)。
【0011】
更に本願発明者は、食品の酸化還元電位と人体の健康との関係について様々に研究、考察した結果、食品の酸化還元電位を測定することにより、食品の良否を的確に判別し得る方法を開発している(例えば、特許文献13を参照)。この方法では、食品を水溶液の状態にしてその酸化還元電位を測定しかつ標準水素電極の数値に補正し、補正後の数値が−420mVに近いほど還元力が大きく良い食品であり、+815mVに近いほど還元力が低く悪い食品であると判定する。
【0012】
【非特許文献1】中山栄基,「生物ミネラルが癌やアトピーなど生活習慣病を撃退する」,3年後・5年後のビジネスチャンス,日本ビジネス株式会社,2002年5月20日,p.339−344
【非特許文献2】中山栄基,「生物ミネラルは食品業界の救世主」,3年後・5年後のビジネスチャンス,日本ビジネス株式会社,2002年5月20日,p.345−350
【特許文献1】特開平9−187255号公報
【特許文献2】特開2002−27951号公報
【特許文献3】特開平6−133741号公報
【特許文献4】特開平8−182480号公報
【特許文献5】特開2000−37161号公報
【特許文献6】特開2003−135041号公報
【特許文献7】特開2000−135074号公報
【特許文献8】特開2000−325049号公報
【特許文献9】特開2000−245400号公報
【特許文献10】国際公開番号WO2002/052958
【特許文献11】特許第3084687号公報
【特許文献12】特開2004−49148号公報
【特許文献13】特開平8−136500号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
上述したいずれの従来技術も、食品特に魚卵食品において、食品の還元力がその鮮度保持、発色、旨み等に与える影響や、それを摂取する人体への影響を全く考慮していない。本願発明者は、自生する海草・野草・樹木葉などの炭化・灰化物及びその水溶性無機抽出物に、或る程度即ち酸化還元電位−50〜−100mVの還元力があることを見出した。そして、その還元力が魚卵食品についてどの程度の鮮度保持効果や発色性を発揮するか試験を行った。しかしながら、多少の効果を示すことは確認できたが、商品化可能なレベルには程遠いという問題があった。
【0014】
これは、単なる植物炭化又は灰化物からの抽出物では、十分な鮮度保持効果や発色性を発揮する程度の高い還元力は得られないからである。更に、植物炭化又は灰化物からの水溶性無機質抽出物に含まれる無機質は、時間の経過と共に酸化されるため、低濃度の水溶性無機質抽出物では、当初の還元力が酸化により低下するという問題がある。
【0015】
そこで、本願発明者は、魚卵食品の鮮度保持効果や還元力の向上、発色性の良化、酸化防止について更に様々な試験を行い、考察を加えた結果、酸化還元電位が−200mV以上の高還元力を有する植物炭化又は灰化抽出物及びそれからの水溶性無機質抽出物を見出し、かかる高い還元力によって実用上十分な魚卵食品の鮮度保持効果や還元力の向上及び維持、発色性の良化及び褪色の防止、酸化防止効果が得られることを確認した。そして、かかる知見に基づいて本発明を案出するに至ったものである。
【0016】
そこで本発明は、上述した従来の問題点に鑑みてなされたものであり、その目的は、各種食品特に魚卵食品の製造、加工において、合成化学物質の使用を排除して人体への高い安全性を確保し得るだけでなく、酸化還元電位が−200mV以上の高い還元力をもたせしかも長期間持続させることにより、優れた鮮度保持及び制菌効果、優れた発色性及び褪色防止効果を発揮させ、更に還元力の向上により人体に有用な食品処理剤を提供することにある。
【0017】
更に、魚卵食品は、原料の魚卵を調味液に浸漬することによって、卵粒の中に調味液が入り込み、熟成して旨みを引き出しかつ重量が増加する。しかしながら、従来技術に関連して上述したように、魚卵は比較的賞味期限が短く、卵粒が潰れたり卵膜が破れて液体が流れ出し易いという問題がある。
【0018】
そこで、本発明は更に、魚卵食品の加工処理において、優れた鮮度保持効果に加えて、調味液の浸透性及び保水性を向上させ、歩留まりの向上を図ると共に、食感及び呈味に優れた魚卵食品を可能にすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0019】
本発明によれば、上記目的を達成するために、1種又は2種以上の海草及び/又は草木の炭化及び/又は灰化物からの抽出物を含み、かつ酸化還元電位が−200mV以上である食品処理剤が提供される。
【0020】
このように化学合成物質ではなく、天然由来の植物抽出物を用いることにより、人体への安全性が十分に確保されることに加えて、酸化還元電位−200mV以上の高い還元力を有することにより、優れた制菌効果が発揮されて高い鮮度保持効果が得られる。更に、発色性が向上してきれいな色を呈し、かつ経日変化による褪色も少なくなり、食品の製品価値が高くなる。
【0021】
特に本発明の食品処理剤を魚卵食品に用いた場合、魚卵を浸漬する調味液に添加することによって、調味液の魚卵への浸透力が高くなる。これにより、調味液の浸漬による重量の増加が従来に比して大きくなり、しかも経日変化による重量の減少が少なく、歩留まり及び身締め効果が大幅に向上する。そのため、調味液による魚卵の熟成が良く、従来よりも優れた呈味及び食感の魚卵食品が得られる。
【0022】
従って、本発明の別の側面によれば、本発明の食品処理剤を用いて製造した魚卵食品が提供される。或る実施例では、魚卵食品が、前記食品処理剤を含む調味液に魚卵を浸漬することにより製造される。
【0023】
或る実施例では、前記抽出物が、それぞれが互いに異なる1種又は2種以上の海草及び/又は草木の炭化及び/又は灰化物から抽出した複数の抽出物を配合したものである。
【0024】
別の実施例では、前記抽出物が、少なくともカリウム、塩素、ナトリウム、イオウ、カルシウム、マグネシウム、ケイ素、リンを含む多種類の無機質を含有する。
【0025】
また、或る実施例では、前記抽出物が、水又は植物酢を用いて炭化及び/又は灰化物から抽出される。
【0026】
更に別の実施例では、前記抽出物が、水又は植物酢を用いて炭化及び/又は灰化物から抽出した後、それから液体部分を除去することにより固体化される。
【発明の効果】
【0027】
本発明による食品処理剤は、海草や草木の炭化及び/又は灰化物からの抽出物を含みかつ酸化還元電位が−200mV以上の高い還元力を有するので、これを添加した魚卵食品は、人体への安全性が十分に確保されているだけでなく、その制菌効果により一般生菌数が長期間の保存においても増加せず、格段に高い鮮度保持効果を発揮する。更に、発色性が向上しかつ経日変化による褪色も少なくなり、また調味液の浸漬による重量の増加が大きく即ち歩留まりが大幅に向上する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0028】
以下に、本発明による食品処理剤の好適な実施例について詳細に説明する。先ず、好ましくは野生する1種又は2種以上の植物即ち陸上の草木や海草を加熱処理して、炭化及び/又は灰化する。前記加熱処理は、使用する原料の草木及び海草の種類に応じて、概ね300℃〜1000℃の範囲で行う。この炭化及び/又は灰化物は、例えば20メッシュ程度のふるいを用いてふるい分けし、更に2000℃以上の温度で追加加熱処理して、最終的な炭化・灰化物を得る。
【0029】
使用する原料として、海草には、昆布、わかめ、あらめ、ほんだわら、ひじき、かじめなどがある。陸上植物には、杉、ひのき、くぬぎ、松、なら、いちょう、びわなどの樹木葉、竹、熊笹、イタドリ、クズ、ヨモギ、まこも、ドクダミ、スギナ、ノカンゾウ、クレソン、セリ、タンポポ、ギシギシ、スイバ、オオバギボウシなどの野草がある。しかし、これらは単なる例示であって、使用可能な原料を限定するものではない。いずれの種類であっても、原則として自生する繁殖力の旺盛な植物を選択することが好ましい。
【0030】
2種類以上の植物を使用する場合、それらを混合したものを上述したように炭化及び/又は灰化することができる。別の実施例では、使用する植物の種類毎に、炭化又は灰化することができる。
【0031】
原料植物の選択や組合せに特に制限は無いが、より多種類のミネラルがバランス良く含まれるように、陸上の植物と海草とを2種類以上混ぜて使用することが好ましい。原料植物の炭化又は灰化物が含有する無機質には、カルシウム、カリウム、塩素、ナトリウム、ケイ素、マグネシウム、リン、イオウなどが多く含まれ、更に地球上に存在する多種類の無機質が微量に含まれている。
【0032】
上述したようにして最終的に得られた植物の炭化・灰化物は、一般水や脱イオンした純水、又は純植物酢の水溶液若しくはアルコール溶液を1:2〜3程度の割合で混合して、加温する。2種類以上の植物を使用する場合、植物の種類毎にその炭化・灰化物を配合することができる。次に、この混合物をろ過、遠心分離などの方法により、固体と液体とに分離し、得られた液体を活性炭フィルタ、孔径1μm以下の精密なフィルタに通して、無機物質液体のみを抽出する。この無機物質液体が含有する水溶性無機質には、カリウム、塩素、ナトリウム、イオウなどが多く含まれ、更に上述した他の無機質及び地球上に存在する多種類の無機質が微量に含まれている。
【0033】
更に、前記無機物質液体を概ね20%以上に濃縮して液体化し、または水分を完全に蒸発させて固体化する。固体化すると、含まれる無機質の酸化速度を遅くすることができ、また粉末化すると、使用上有利である。更に、得られた濃縮液又は固体物が、−200mV以上の酸化還元電位を保持していることを確認し、最終製品としての食品処理剤が完成する。
【0034】
本発明の食品処理剤は、このように天然由来の植物抽出物である無機質を含みかつ酸化還元電位が−200mV以上である高い還元力を備えることによって、人体に安全であることに加えて、魚卵食品その他食品の鮮度保持、酸化防止、発色性向上、褪色防止などの効果、特に魚卵食品について調味液添加による歩留まりの向上、優れた呈味などが得られる。更に、食品の還元力が強化されることにより、人体の健康にも有益である。
【0035】
一般に植物の炭化又は灰化物は、或る程度の酸化を防止する還元力を有している。しかしながら、単なる植物炭化又は灰化物からの抽出物では、−200mV以上の酸化還元電位は得られない。従って、所望の酸化還元電位が得られるように、使用する植物原料を適当に選択しかつ/又は組み合わせることが好ましい。特に、極端に還元力の低い植物原料は除外することが好ましい。そのためには、事前に様々な植物の種類毎に、5%程度の水溶液の抽出物を作り、その状態で酸化還元電位を測定し、還元力の高いもの、特に酸化還元電位−200mV以上のものを選別することが好ましい。
【0036】
一般に水溶性無機質抽出物に含まれる無機質は、時間の経過と共に酸化される傾向がある。低濃度の水溶性無機質抽出物は、当初高い還元力を示していても、酸化により低下する。従って、製品化された食品処理剤は、酸化還元電位−200mV以上の高い還元力を長期間持続させることが望ましい。
【0037】
そこで、本発明では、原料植物からの抽出物を上述したように概ね20%以上の濃縮液にし又は水分を完全に蒸発させて固体化し、酸化を防止して高還元力を維持することが好ましい。尚、抽出した前記無機物質液体を固形化する場合、過度に乾燥させると却って還元酸化電位を低下させるので、注意する必要がある。
【0038】
また、本発明は、その技術的範囲内において、上述した実施例に様々な変形・変更を加えて実施することができる。例えば、原料植物を灰化・炭化して無機ミネラルを抽出する方法として、例えば本願発明者による上記特許文献11,12などに記載される方法を用いることができる。
【実施例】
【0039】
(実施例1)
野生植物の昆布、ワカメ、アラメ、ホンダワラ、アスコフィラム属、杉、松、ひのき、竹、カヤ、クマザサ、ヨモギ、イタドリを概ね300℃〜1000℃の範囲内の温度で加熱処理を行う。その炭化及び/又は灰化物を、例えば20メッシュ程度のふるいを用いてふるい分けし、更に2000℃以上の温度で追加加熱処理し、最終的な炭化・灰化物を得た。この灰化物30kgに対して、脱イオンした純水に純植物酢を含有した溶液を100リットルの割合で混合し、沸騰するまで加熱した後、一昼夜冷却した。その上澄み液を、最初に市販のろ布を用いて、次に二段式の活性炭ろ過装置を用いてろ過し、更にろ過精度0.5μm前後のフィルタでろ過した。得られたろ液を20%以上に加熱濃縮し、得られた植物抽出無機質溶液の酸化還元電位が−250mV以上であることを確認した。更に濃縮して固体化し、得られた植物抽出無機質固体物の酸化還元電位が−200mV以上であることを確認した。
【0040】
これら植物抽出無機質の20%濃縮溶液及び固体物を、その製造後1ヶ月経過した後にそれぞれ酸化還元電位673mVの水道水で1%水溶液とし、それらの酸化還元電位(mV)を測定した。測定結果を以下の表1に示す。更に、これらを室温(概ね20℃以下)で暗所に2ヶ月放置した後、酸化還元電位を再度測定したところ、略同様の値を示した。これらの結果から、本発明による食品処理剤は高い還元力を一定期間保持し得ることが分かった。
【0041】
【表1】

【0042】
(実施例2)
次に、本発明の食品処理剤による魚卵食品の鮮度保持効果について実験した結果を説明する。上述した方法により植物炭化・灰化物から無機質を抽出しかつその水溶液から液体部分を除去して粉末化し、酸化還元電位−200mV以上の高い還元力を有する本発明の抽出物Aを準備した。更に、同様に植物炭化・灰化物から無機質を抽出しかつその水溶液から液体部分を除去して粉末化したが、酸化還元電位−50mV程度の低い還元力を有する従来の抽出物Bを準備した。これら抽出物A及びBを用いた調味液でたらこを処理して明太子を製造し、その鮮度保持効果、発色性の向上及び維持、調味液の歩留まりについて試験した。調味液は、抽出物A及びBの濃度を900ppm、300ppm、100ppmの3段階に分け、それぞれ別個に試験した。また、植物炭化・灰化物の抽出物を全く添加しない無処置の明太子(無処置群)を比較対照として準備し、同様の試験を行った。
【0043】
表2は、これら抽出物A及びBを用いた明太子を10℃の温度で保存し、製造後の経過日数に対する一般生菌数を測定した結果を示している。この一般生菌数の経日変化から、抽出物A及びBの鮮度保持効果を判断することができる。通常、一般生菌数が2.4×10/gレベルに達すると、食用には適さないとされている。
【0044】
【表2】

【0045】
この結果から分かるように、抽出物A及びB共にその濃度が高いほど一般生菌数の増加が少なく、鮮度保持効果が高くなる傾向を示している。特に、高還元力(酸化還元電位:−217mV)を有する抽出物Aによるものは、16日経過後にいずれの濃度も2.4×10/gまで達しておらず、900ppmのものは、21日経過後も一般生菌数が4.0×10/gと低い値を示している。これに対し、低還元力(酸化還元電位:−50mV)の抽出物Bによるものは、無処置群に比して良い結果を示しているとは言え、抽出物Aによるものと比較したとき、各濃度において食用に適さない2.4×10/gレベルに達する日数に明らかに大きな差が認められた。別言すれば、高還元力の抽出物Aと低還元力の抽出物Bとでは、鮮度保持効果に相当の差を生じることが分かる。また、対照の無処置明太子は、僅か8日経過後に一般生菌数が2.4×10/gとなり、食用に適さない状態となった。
【0046】
表3は、明太子に含まれる発色剤として亜硝酸根の量を測定した結果を示している。この結果から分かるように、高還元力の抽出物Aによるものが最も優れた発色性を発揮し、最もきれいな色を呈することを確認できた。低還元力の抽出物Bによるものは、抽出物Aに次いで発色性が良く、無処置群のものは最も発色性が悪かった。また、製造後の経過日数に対する褪色変化についても、還元力の高い順に良好な結果を示した。
【0047】
【表3】

【0048】
表4は、調味液を浸漬して増加した明太子の重量及びその経日変化を測定した結果を示している。この結果から分かるように、還元力を有する抽出物A、Bを調味液に添加することによって、無添加の無処置群と比較して、大幅に重量が増加している即ち歩留まりに大きな差が生じていることは明らかである。更に、高還元力の抽出物Aを調味液に添加することによって、低還元力の抽出物Bよりも歩留まりが向上していることが分かる。
【0049】
【表4】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
1種又は2種以上の海草及び/又は草木の炭化及び/又は灰化物からの抽出物を含み、かつ酸化還元電位が−200mV以上であることを特徴とする食品処理剤。
【請求項2】
前記抽出物が、それぞれが互いに異なる1種又は2種以上の海草及び/又は草木の炭化及び/又は灰化物から抽出した複数の抽出物からなることを特徴とする請求項1に記載の食品処理剤。
【請求項3】
前記抽出物が、少なくともカリウム、塩素、ナトリウム、イオウ、カルシウム、マグネシウム、ケイ素、リンを含む多種類の無機質を含有する請求項1又は2に記載の食品処理剤。
【請求項4】
前記抽出物が、水又は植物酢を用いて前記炭化及び/又は灰化物から抽出したものであることを特徴とする請求項1乃至3のいずれか記載の食品処理剤。
【請求項5】
前記抽出物が、水又は植物酢を用いて前記炭化及び/又は灰化物から抽出した後、液体部分を除去することにより固体化したものであることを特徴とする請求項4記載の食品処理剤。
【請求項6】
請求項1乃至5のいずれかに記載の食品処理剤を用いて製造したことを特徴とする魚卵食品。
【請求項7】
前記食品処理剤を含む調味液に魚卵を浸漬することにより製造したことを特徴とする請求項6に記載の魚卵食品。

【公開番号】特開2006−304671(P2006−304671A)
【公開日】平成18年11月9日(2006.11.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−130498(P2005−130498)
【出願日】平成17年4月27日(2005.4.27)
【出願人】(305018502)
【Fターム(参考)】