説明

食品焼成方法及び食品焼成装置

【課題】エネルギーの無駄な消費を抑制して省エネルギーを行うことができる食品焼成装置を提供すること。
【解決手段】焼成装置1は、過熱蒸気焼成室3A,3B及び飽和蒸気焼成室4を有するケーシング2と、食品を移送するコンベヤ5と、過熱蒸気ノズル6と、飽和蒸気ノズル41と、過熱蒸気ノズル6に過熱蒸気を供給する過熱蒸気供給ライン61A,61Bと、過熱蒸気を生成する過熱蒸気生成部8A,8Bと、飽和蒸気ノズル41に飽和蒸気を供給する飽和蒸気供給ライン42と、過熱蒸気焼成室3A,3B内の蒸気を吸気口71a,71bと吸気路7A,7Bを通して過熱蒸気生成部に戻す戻しライン74A,74Bと、飽和蒸気焼成室4から吸気口45及び吸気筒46を通して蒸気を吸引する吸気ライン47と、戻しライン74A,74Bに介設され、吸気ライン47に連なる分岐ライン48A,48Bの下流端が接続された2つのエジェクタ92A,92Bを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、過熱蒸気と飽和蒸気とで食品を焼成する食品焼成方法および食品焼成装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、食品の焼成に、飽和蒸気を加熱して100℃以上とした過熱蒸気が用いられている。過熱蒸気は、熱伝達性に優れ、含有酸素量が少なく、また、焼成過程の初期において凝縮水が食品の表面を覆うことから、風味を保ちつつ食品の焼成を行うことができる。このような利点に鑑み、食品を焼成するための種々の焼成装置が提案されている。
【0003】
図6は、従来の第1の食品焼成装置を示す断面図である(例えば、特許文献1:特開2003−325340号公報参照)。この食品焼成装置101は、食品を連続的に焼成するロースターであり、長手方向の両端に食品の入口102aと出口102bを有して内部に焼成室103を有するケーシング102と、食品を載置して焼成室内を移送する無端の網状のコンベヤ104と、焼成室内でコンベヤ104によって移送される食品に向けて過熱蒸気を吹き付ける複数のノズル105と、熱交換器及びバーナで形成されて過熱蒸気を生成する過熱蒸気生成装置106を有する。
【0004】
ケーシング102の入口側の端部には、焼成室内の蒸気を吸引する吸引口107を設け、この吸引口107に蒸気の戻し管108を接続している。この戻し管108に介設された吸引ブロワ109の吸引作用により、焼成室103の蒸気を吸引して過熱蒸気生成装置106に戻し、この過熱蒸気生成装置106で蒸気を加熱して過熱蒸気を生成し、この過熱蒸気を焼成室13に戻すことにより、蒸気の循環利用を行っている。一方、ケーシング102の入口102aと出口102bとに隣接する位置に排気筒110を夫々設け、これら排気筒110から、焼成室103内の蒸気を排出ブロワ111で外部に排出している。
【0005】
戻し管108の吸引ブロワ109の上流側には、飽和蒸気を補充する補充管112が接続されている。この補充管112を通して、焼成室103からの蒸気に飽和蒸気を補充することにより、循環や排出に伴う蒸気の不足を補っている。
【0006】
ケーシング102の側面には、図示しないメンテナンス開口と、このメンテナンス開口に取り付けられた開閉扉とが設けられており、ケーシング102の内側面やコンベヤ104等の汚れの洗浄や、ノズル105の過熱蒸気の吹き出し量の調整等のメンテナンスを行うようにしている。
【0007】
ところで、従来の第1の食品焼成装置として、過熱蒸気と共に、飽和蒸気を用いて食品の調理を行う食品焼成装置が提案されている(例えば、特許文献2:特開2000−139366号公報参照)。この食品焼成装置は、飽和蒸気が供給される飽和蒸気室と、飽和蒸気と過熱蒸気が混合状態で供給される飽和蒸気・過熱蒸気ブレンド室と、過熱蒸気が供給される過熱蒸気室とを有し、これらの室に食品をコンベヤで移送して、食品を加熱調理するように形成されている。各室に供給する蒸気は、室ごとに配置された加熱装置によって互いに別個に生成され、各室の余剰の蒸気は、装置の上端の排気筒から外部に排出される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2003−325340号公報
【特許文献2】特開2000−139366号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、上記従来の第1の食品焼成装置101は、焼成後の過熱蒸気に補充すべき飽和蒸気の量の調整が難しく、安定した過熱蒸気の生成が困難であるという問題がある。その結果、焼成室103の温度を所定温度以上に維持するため、過熱蒸気の生成量が過剰となってエネルギーの無駄な消費が生じるという問題がある。
【0010】
また、ケーシング102の入口102a及び出口102bや、メンテナンス開口を通して焼成室の内外が流通しやすく、空気の流入によって焼成室の温度低下や食品の酸化が生じ、焼成品質の低下を招いたり、蒸気の流出によってエネルギーの無駄な消費を招くという問題がある。
【0011】
一方、上記従来の第2の食品焼成装置は、飽和蒸気室に供給する飽和蒸気と、飽和蒸気・過熱蒸気ブレンド室に供給する飽和蒸気及び過熱蒸気と、過熱蒸気室に供給する過熱蒸気とを、室ごとに設けられた加熱装置で別個に加熱して生成するので、エネルギーの無駄な消費が多いという問題がある。しかも、各室の余剰の蒸気を食品焼成装置の外部に排出するので、エネルギーの無駄な消費が多いという問題がある。
【0012】
そこで、本発明の課題は、エネルギーの無駄な消費を効果的に削減できて、省エネルギーを行うことができる食品焼成装置を提供することにある。また、焼成室への空気の流入を効果的に防止して、省エネルギーと焼成品質の向上を行うことができる食品焼成装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
過熱蒸気で食品を焼成する方法において、過熱蒸気と飽和蒸気とを用いて食品を加熱する場合、飽和蒸気の焼成室への供給量と、再利用する蒸気への飽和蒸気の補充量との調整が困難であり、飽和蒸気を過剰に生成し、エネルギーを無駄に消費する傾向にあった。さらに、焼成後の蒸気を再加熱して過熱蒸気を生成する場合、焼成に伴う蒸気の損失を補うために、焼成後の蒸気に新たな蒸気を補充して加熱する必要がある。この新たな蒸気の補充量は、従来、焼成状況に応じて適宜調節を行っていたが、その調節方法は確立されておらず、所定の焼成温度を確保するために過熱蒸気を過剰に生成し、エネルギーを無駄に消費する傾向にあった。このような技術背景のもと、本発明者は、焼成後の過熱蒸気と飽和蒸気を混合し、再加熱することにより、安定的な過熱蒸気の生成が可能となり、さらに、過熱蒸気に対する飽和蒸気の混合割合を所定値とすることにより、安定的な過熱蒸気の生成が可能となることを見出した。この見地に基づき、本発明がなされたのである。
【0014】
上記課題を解決するため、本発明の食品焼成方法は、過熱蒸気で食品を焼成する過熱蒸気焼成室に過熱蒸気を供給する工程と、
飽和蒸気で食品を焼成する飽和蒸気焼成室に飽和蒸気を供給する工程と、
過熱蒸気焼成室から蒸気を吸引する工程と、
飽和蒸気焼成室から蒸気を吸引する工程と、
過熱蒸気焼成室から吸引された蒸気と、飽和蒸気焼成室から吸入された蒸気との混合蒸気を加熱して、過熱蒸気を生成する工程と
を備えることを特徴としている。
【0015】
上記構成によれば、過熱蒸気焼成室に過熱蒸気を供給し、飽和蒸気焼成室に飽和蒸気を供給し、各室で食品を焼成する。詳しくは、過熱蒸気焼成室において、過熱蒸気の顕熱や、過熱蒸気の顕熱の放出によって生成された飽和蒸気の潜熱によって食品を焼成する。また、飽和蒸気焼成室において、飽和蒸気の潜熱によって食品を焼成する。過熱蒸気焼成室内の余剰の過熱蒸気や食品を加熱した後の蒸気を、過熱蒸気焼成室から吸引する。また、飽和蒸気焼成室内の余剰の飽和蒸気や食品を加熱した後の蒸気を、飽和蒸気焼成室から吸引する。これらの過熱蒸気焼成室から吸引された蒸気と、飽和蒸気焼成室から吸引された蒸気とを混合し、この混合蒸気を再度加熱して、過熱蒸気を生成する。こうして生成された過熱蒸気を過熱蒸気焼成室に供給することにより、蒸気を循環使用して食品を連続的に加熱する。
【0016】
このように、過熱蒸気焼成室から吸引された蒸気と、飽和蒸気焼成室から吸引された蒸気との混合蒸気を再度加熱して過熱蒸気を生成するので、余剰の蒸気を排出することでエネルギーを無駄に消費する不都合を防止して、効果的に省エネルギーを行うことができる。
【0017】
一実施形態の食品焼成方法は、飽和蒸気焼成室から吸引する蒸気の流量が、過熱蒸気焼成室から吸引する蒸気の流量に対して14%以上20%以下の割合である。
【0018】
上記実施形態によれば、過熱蒸気焼成室から吸引する蒸気と、飽和蒸気焼成室から吸引する蒸気とを、飽和蒸気焼成室から吸引する蒸気の流量が、過熱蒸気焼成室から吸引する蒸気の流量に対して14%以上20%以下の割合となるように混合する。この混合蒸気を加熱して生成した過熱蒸気を、再度過熱蒸気焼成室に供給することにより、過熱蒸気焼成室の蒸気と飽和蒸気焼成室の蒸気のいずれも、余剰の蒸気を排出することなく定常的に循環利用することができる。したがって、安定して所定温度の過熱蒸気を生成でき、過熱蒸気焼成室において食品を安定して焼成することができる。したがって、各焼成室から戻す蒸気の量や飽和蒸気の補充量を微調整する必要が無く、その結果、過熱蒸気及び飽和蒸気を過剰に生成することでエネルギーを無駄に消費する不都合を防止して、効果的に省エネルギーを行うことができる。
【0019】
一実施形態の食品焼成方法は、上記混合蒸気を加熱して、200℃以上500℃以下の過熱蒸気を生成する。
【0020】
上記実施形態によれば、過熱蒸気焼成室から吸引された蒸気と、飽和蒸気焼成室から吸引された蒸気との混合蒸気を加熱して200℃以上500℃以下の過熱蒸気を生成する場合に、特に安定して食品を焼成でき、また、省エネルギーを行うことができる。
【0021】
なお、生成する過熱蒸気が200℃未満である場合、過熱蒸気焼成室で過熱蒸気が飽和蒸気となる割合が増加するため、過熱蒸気焼成室から吸引された蒸気と飽和蒸気焼成室から吸引された蒸気とを混合して加熱をしても、過熱蒸気を安定して発生させることが困難となる。一方、生成する過熱蒸気が500℃を超える場合、過熱蒸気焼成室から吸引された蒸気に飽和蒸気焼成室から吸引された蒸気を混合すると、この混合蒸気を加熱して過熱蒸気の生成に必要な熱量が増大するので、加熱効率が悪化する。
【0022】
また、本発明の他の側面による食品焼成装置は、過熱蒸気で食品を焼成する過熱蒸気焼成室と、飽和蒸気で食品を焼成する飽和蒸気焼成室とを内部に有すると共に、食品の入口と出口を有するケーシングと、
食品を載置してケーシングの過熱蒸気焼成室内と飽和蒸気焼成室内とを移送する移送部と、
移送部によって移送される食品に過熱蒸気を吹き付ける過熱蒸気ノズルと、
移送部によって移送される食品に飽和蒸気を吹き付ける飽和蒸気ノズルと、
過熱蒸気ノズルに過熱蒸気を供給する過熱蒸気供給ラインと、
飽和蒸気ノズルに飽和蒸気を供給する飽和蒸気供給ラインと、
過熱蒸気供給ラインの上流側に接続されて過熱蒸気を生成する過熱蒸気生成部と、
過熱蒸気焼成室内の蒸気を吸引する第1吸気部と、
飽和蒸気焼成室内の蒸気を吸引する第2吸気部と、
第1吸気部からの蒸気を過熱蒸気生成部に戻す戻しラインと、
戻しラインに介設され、第2吸気部からの蒸気を第1吸気部からの蒸気に混合する混合部とを特徴としている。
【0023】
上記構成によれば、移送部によって入口から導入された食品が、ケーシング内の過熱蒸気焼成室を移送されるに伴い、ノズルから吹き付けられた過熱蒸気の作用によって焼成される。詳しくは、過熱蒸気の顕熱や、過熱蒸気の顕熱の放出によって生成された飽和蒸気の潜熱によって食品が焼成される。また、食品が、ケーシング内の飽和蒸気焼成室を移送されるに伴い、ノズルから吹き付けられた飽和蒸気の潜熱によって焼成される。焼成された食品は、移送部によってケーシングの出口から搬出される。過熱蒸気焼成室内の余剰の過熱蒸気や食品を加熱した後の蒸気は、第1吸気部で過熱蒸気焼成室から吸引され、戻しラインを介して過熱蒸気生成部に戻される。また、飽和蒸気焼成室内の余剰の飽和蒸気や食品を加熱した後の蒸気は、第2吸気部で飽和蒸気焼成室から吸引され、混合部によって第1吸気部からの蒸気に混合される。この混合蒸気が過熱蒸気生成部で再度加熱されて過熱蒸気が生成され、この過熱蒸気が過熱蒸気焼成室に供給されて、蒸気が循環使用されて食品が連続的に加熱される。
【0024】
このように、過熱蒸気焼成室から吸引された蒸気と、飽和蒸気焼成室から吸引された蒸気との混合蒸気を過熱蒸気生成部で再度加熱して過熱蒸気を生成するので、余剰の蒸気を排出することでエネルギーを無駄に消費する不都合を防止して、効果的に省エネルギーを行うことができる。
【0025】
一実施形態の食品焼成装置は、上記混合部で混合される第2吸気部からの蒸気の流量が、第1吸気部からの蒸気の流量に対して14%以上20%以下の割合である。
【0026】
上記実施形態によれば、混合部により、第1吸気部からの蒸気に対して第2吸気部からの蒸気が、第2吸気部からの蒸気の流量が第1吸気部からの蒸気の流量に対して14%以上20%以下の割合となるように混合される。この混合蒸気を過熱蒸気生成部により加熱して生成した過熱蒸気を、再度過熱蒸気焼成室に供給することにより、第1吸気部からの蒸気と第2吸気部からの蒸気のいずれも、余剰の蒸気を排出することなく定常的に循環利用することができる。したがって、安定して所定温度の過熱蒸気を生成でき、過熱蒸気焼成室において食品を安定して焼成することができる。したがって、各焼成室から戻す蒸気の量や飽和蒸気の補充量を微調整する必要が無く、その結果、過熱蒸気及び飽和蒸気を過剰に生成することでエネルギーを無駄に消費する不都合を防止して、効果的に省エネルギーを行うことができる。
【0027】
一実施形態の食品焼成装置は、上記過熱蒸気生成部は、200℃以上500℃以下の過熱蒸気を生成する。
【0028】
上記実施形態によれば、第1吸気部で過熱蒸気焼成室から吸引された蒸気と、第2吸気部で飽和蒸気焼成室から吸引された蒸気との混合蒸気を加熱して200℃以上500℃以下の過熱蒸気を生成する場合に、特に安定して食品を焼成でき、また、省エネルギーを行うことができる。
【0029】
なお、生成する過熱蒸気が200℃未満である場合、過熱蒸気焼成室で過熱蒸気が飽和蒸気となる割合が増加するため、第1吸気部で過熱蒸気焼成室から吸引された蒸気と第2吸気部で飽和蒸気焼成室から吸引された蒸気とを混合して加熱をしても、過熱蒸気を安定して発生させることが困難となる。一方、生成する過熱蒸気が500℃を超える場合、第1吸気部で過熱蒸気焼成室から吸引された蒸気に第2吸気部で飽和蒸気焼成室から吸引された蒸気を混合すると、この混合蒸気を加熱して過熱蒸気の生成に必要な熱量が増大するので、加熱効率が悪化する。
【0030】
一実施形態の食品焼成装置は、上記混合部は、第1吸気部からの蒸気の流れに伴って負圧を生成し、この負圧により第2吸引部からの蒸気を吸引するエジェクタを含む。
【0031】
上記実施形態によれば、戻しラインに介設された混合部が含むエジェクタにより、戻しラインにブロワ等を設けるのみにより、飽和蒸気焼成室から第2吸気部を介して蒸気を吸引して、過熱蒸気焼成室からの蒸気に混合することができる。したがって、飽和蒸気焼成室から蒸気を吸引するために他のブロワ等を別途設けることなく、簡易な構成により、第2吸気部からの蒸気を第1吸気部からの蒸気に混合して過熱蒸気生成部に戻すことができる。
【0032】
一実施形態の食品焼成装置は、上記ケーシングは、下部ケーシングと、実質的に開口部の無い側面及び天面を有すると共に昇降可能な上部ケーシングと、下部ケーシングと上部ケーシングとの間をシールする水シール機構とを有し、
上記上部ケーシングを昇降駆動する昇降部を備える。
【0033】
上記実施形態によれば、上部ケーシングを昇降部で上昇させることにより、過熱蒸気焼成室及び飽和蒸気焼成室を外部に開いて、各焼成室内のメンテナンスを行うことができる。上部ケーシングを昇降部で下降させると、上部ケーシングと下部ケーシングが水シール機構でシールされ、ケーシング内部の各焼成室が気密状態となる。ここで、上部ケーシングの側面及び天面は、実質的に開口部が無いので、従来のようにメンテナンス開口等の開口を通して空気が焼成室内に流入したり、焼成室内の蒸気がケーシング外に流出することが無い。したがって、空気の流入による焼成室の温度低下や食品の酸化を防止でき、食品の焼成品質を向上できる。また、各焼成室内の蒸気の流出を防止でき、過熱蒸気焼成室及び飽和蒸気焼成室の蒸気を無駄なく過熱蒸気生成部に戻して過熱蒸気を生成できる。その結果、過熱蒸気の無駄な生成を防止してエネルギーの無駄な消費を防止でき、省エネルギーを行うことができる。しかも、上部ケーシングと下部ケーシングとの間をシールする水シール機構は、樹脂等のシール部材を用いて形成されたシール機構のように、高温の蒸気で劣化することがない。したがって、長期にわたってシール機能を発揮できて、焼成品質を安定して高く維持できると共に、省エネルギーを安定して行うことができる。
【0034】
なお、上記下部ケーシングは、過熱蒸気焼成室及び飽和蒸気焼成室内の移送部の食品移送部の下方に位置する水トレイを有するのが好ましい。この水トレイに水を貯留することにより、焼成中の食品から滴下した油等の滲出成分を受けて、清掃を容易にすると共に滲出成分の着火を防止することができる。この水トレイに、水シール機構のドレイン水を供給することにより、少ない水の消費量により、水シール機構のシール機能を発揮できると共に水トレイの貯留水量を適切に保持することができる。
【0035】
一実施形態の食品焼成装置は、上記ケーシング内に、入口に隣接して入口を過熱蒸気焼成室又は飽和蒸気焼成室と隔てる前室と、出口に隣接して出口を過熱蒸気焼成室又は飽和蒸気焼成室と隔てる後室と、過熱蒸気焼成室の上方に形成された吸気路を有し、
上記過熱蒸気焼成室の上部の入口側と出口側に、上記吸気路に連なる上記第1吸気部が設けられている。
【0036】
上記実施形態によれば、前室と後室によって入口と出口に隔てられた過熱蒸気焼成室の上方に吸気路が設けられ、この吸気路に連なる第1吸気部が過熱蒸気焼成室の上部の入口側と出口側に設けられているので、過熱蒸気焼成室内の蒸気を、第1吸気路を通して吸気部から吸引する際、入口と出口からのケーシング内への空気の流入量を少なくできる。したがって、過熱蒸気焼成室への空気の流入量を少なくでき、過熱蒸気焼成室の温度の低下を効果的に防止できると共に、過熱蒸気生成部で再加熱する蒸気の温度の低下を防止できる。したがって、焼成品質の低下を防止できると共に、過熱蒸気の生成に必要なエネルギーを低減させて省エネルギーを行うことができる。
【0037】
一実施形態の食品焼成装置は、上記前室と後室は、ケーシング外に連通して自然排気を行う排気路に接続されている。
【0038】
上記実施形態によれば、ケーシングの入口と出口から流入する空気を、前室と後室から排気路を通して自然排気によってケーシング外に排出できる。ここで、過熱蒸気焼成室又は飽和蒸気焼成室に対して区画された前室と後室から自然排気を行うので、過熱蒸気焼成室又は飽和蒸気焼成室から蒸気を無駄に排出する不都合を防止できる。また、過熱蒸気焼成室又は飽和蒸気焼成室に対して区画された前室と後室から排気を行うので、ケーシングの入口と出口から過熱蒸気焼成室又は飽和蒸気焼成室へ空気が流入することを防止でき、したがって、焼成室の温度の低下を効果的に防止できると共に、過熱蒸気生成部で再加熱する蒸気の温度の低下を防止できる。したがって、焼成品質の低下を防止できると共に、過熱蒸気の生成に必要なエネルギーを低減させて省エネルギーを行うことができる。
【発明の効果】
【0039】
本発明によれば、過熱蒸気によって食品を焼成する過熱蒸気焼成室から蒸気を吸引すると共に、飽和蒸気によって食品を焼成する飽和蒸気焼成室から蒸気を吸引し、過熱蒸気焼成室から吸引された蒸気と、飽和蒸気焼成室から吸引された蒸気とを混合して再度加熱して過熱蒸気を生成し、この過熱蒸気を過熱蒸気焼成室に戻すので、余剰の蒸気を排出することでエネルギーを無駄に消費する不都合を防止して、効果的に省エネルギーを行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0040】
【図1】実施形態の焼成装置の側面図である。
【図2】実施形態の焼成装置の縦断面図である。
【図3】実施形態の焼成装置の横断面図である。
【図4】焼成室内の過熱蒸気配管を示す模式平面図である。
【図5】蒸気の循環経路を示す模式図である。
【図6】従来の焼成装置を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0041】
以下、本発明の実施形態を、添付の図面を参照しながら詳細に説明する。
【0042】
図1は、本発明の実施形態の焼成装置を示す側面図であり、図2は焼成装置の縦断面図であり、図3は焼成装置の横断面図である。
【0043】
本実施形態の焼成装置1は、内部に2つの過熱蒸気焼成室3A,3Bと1つの飽和蒸気焼成室4を有するケーシング2と、食品を移送する移送部としてのコンベヤ5と、過熱蒸気焼成室3A,3B内に配置されて食品に過熱蒸気を吹き付ける複数の過熱蒸気ノズル6と、飽和蒸気焼成室4内に配置されて食品に飽和蒸気を吹き付ける複数の飽和蒸気ノズル41と、過熱蒸気ノズル6に過熱蒸気を供給する2つの過熱蒸気供給ライン61A,61Bと、過熱蒸気を生成する2つの過熱蒸気生成部8A,8Bと、飽和蒸気ノズル41に飽和蒸気を供給する飽和蒸気供給ライン42と、各過熱蒸気焼成室3A,3B内の蒸気を吸引する第1吸気部としての吸気口71a,71bと、ケーシング2内の過熱蒸気焼成室3A,3Bの上方に設けられて吸気口71a,71bに夫々連なる吸気路7A,7Bと、吸気路7A,7Bに吸気筒72A,72Bを介して連なって蒸気を過熱蒸気生成部に戻す2つの戻しライン74A,74Bと、飽和蒸気焼成室4の上部に設けられた第2吸気部としての吸気口45と、ケーシング2の天面に設けられて吸気口45に連なる吸気筒46と、吸気筒46に連なって飽和蒸気焼成室4から蒸気を吸引する吸気ライン47と、吸気ライン47の下流端に二股に分岐して連なる分岐ライン48A,48Bと、2つの戻しライン74A,74Bに設けられて分岐ライン48A,48Bの下流が接続された2つのエジェクタ92A,92Bを備える。
【0044】
ケーシング2は、横長の概ね直方体形状を有し、上部ケーシング20と下部ケーシング21とで大略構成されている。上部ケーシング20は、下端が開口した直方体形状を有し、天面及び側面に実質的に開口部が無い一方、長手方向の両端面に食品の入口20aと出口20bが設けられている。下部ケーシング21は、上端が開口した直方体形状を有し、内部にコンベヤ5を収容すると共に、コンベヤ5の食品移送部であるベルト51の上側部の下方に、食品から滴下する滲水を受ける水トレイ32が設けられている。
【0045】
上部ケーシング20内には、食品が移送される方向に向かって順に、入口20aに隣接する前室22と、第1過熱蒸気焼成室3Aと、飽和蒸気焼成室4と、第2過熱蒸気焼成室3Bと、出口20bに隣接する後室23が形成されている。前室22と第1過熱蒸気焼成室3Aとの間と、第1過熱蒸気焼成室3Aと飽和蒸気焼成室4との間と、飽和蒸気焼成室4と第2過熱蒸気焼成室3Bとの間と、第2過熱蒸気焼成室3Bと後室23との間には、縦方向に延びる縦隔壁221,401,402,231が夫々設けられている。また、上部ケーシング20内の第1過熱蒸気焼成室3Aと第2過熱蒸気焼成室3Bの上側には、天面と平行の吸気路隔壁71A,71Bが夫々設けられている。第1過熱蒸気焼成室3Aの吸気路隔壁71Aは、長手方向の両側縁が上部ケーシング20の内側面に固定されている一方、長手方向の両端縁が、前室22側の縦隔壁221の表面と、飽和蒸気焼成室4側の縦隔壁401の表面とに対して夫々離隔をおいて隙間を形成している。この吸気路隔壁71Aの長手方向の両端縁と、各縦隔壁221,401との間の隙間が、吸気口71a,71bになっている。また、第2過熱蒸気焼成室3Bの吸気路隔壁71Bは、長手方向の両側縁が上部ケーシング20の内側面に固定されている一方、長手方向の両端縁が、飽和蒸気焼成室4側の縦隔壁402の表面と後室23側の縦隔壁231の表面とに対して夫々離隔をおいて隙間を形成している。この吸気路隔壁71Bの長手方向の両端縁と、各縦隔壁402,231との間の隙間が、吸気口71a,71bになっている。上部ケーシング20の第1過熱蒸気焼成室3Aと第2過熱蒸気焼成室3内の2つの吸気路隔壁71A、71Bと天板との間に、吸気口71a,71bに連なる2つの吸気路7A,7Bが夫々形成されている。
【0046】
過熱蒸気焼成室3A,3Bには、過熱蒸気供給ライン61A,61Bの下流側に連なる過熱蒸気配管が配置されている。図4は、過熱蒸気焼成室3A,3B内のコンベヤ5のベルト51の上方に配置された過熱蒸気配管を示す模式平面図である。図4に示すように、コンベヤ5のベルト51の上方には、過熱蒸気配管として、過熱蒸気焼成室3A,3Bの短手方向に長辺が延びるループ状の横断配管62と、過熱蒸気焼成室3A,3Bの長手方向であって食品の移送方向に長辺が延びるループ状の縦断配管63が設置されている。横断配管62は、過熱蒸気焼成室3A,3Bの長手方向に複数個配置されており、これら複数個の横断配管62は、枝状に分岐した状態で過熱蒸気供給ライン61A,61Bに接続されている。縦断配管63は、横断配管62の群と分岐した状態で過熱蒸気供給ライン61A,61Bに接続されている。横断配管62と縦断配管63には、コンベヤ5のベルト51に向かう側に複数の貫通穴が設けられており、各配管に導かれた過熱蒸気が、横断配管62と縦断配管63の貫通穴を通して噴出するようになっている。このように、過熱蒸気ノズル6は、配管に形成された貫通穴によって形成されている。コンベヤ5のベルト51の下方には、過熱蒸気配管として、ベルト51の上方の横断配管62と同様の形状の下方配管64が設けられており、この下方配管64のコンベヤ5のベルト51に向かう側に、貫通穴によって形成された複数の過熱蒸気ノズル6が形成されている。なお、横断配管62、縦断配管63及び下方配管64の過熱蒸気ノズル6は、過熱蒸気配管に固定された別体のノズルによって形成してもよい。
【0047】
過熱蒸気焼成室3A,3Bは、上部ケーシング20の入口20a側と出口20b側に各々隣接する前室22及び後室23により、上部ケーシング20の入口20a及び出口20bと夫々隔てられている。前室22と後室23の上端には、前室22及び後室23内を自然排気する排気路としての排気筒24,25が設けられている。
【0048】
飽和蒸気焼成室4は、ケーシング2内の2つの過熱蒸気焼成室3A,3Bの間に配置されており、縦隔壁401,402によって各過熱蒸気焼成室3A,3Bと区画されている。縦隔壁401,402の下端縁の下方が、飽和蒸気焼成室4に対する食品の入口と出口になっている。飽和蒸気焼成室4内には、コンベヤ5のベルト51の下方に飽和蒸気配管が配置され、この飽和蒸気配管に飽和蒸気供給ライン42から飽和蒸気が供給される。飽和蒸気配管には、ベルト51に向かう側に複数の貫通穴が設けられており、これらの貫通穴によって飽和蒸気ノズル41が形成されている。なお、飽和蒸気配管の飽和蒸気ノズル41は、飽和蒸気配管に固定された別体のノズルによって形成してもよい。飽和蒸気供給ライン42は、設置施設に配備された汎用ボイラに接続されており、飽和蒸気バルブ43によって供給量が調整される。飽和蒸気焼成室4は、ケーシング2の上部の吸気口45から内部の蒸気が吸引されるようになっている。
【0049】
コンベヤ5は、可撓性を有する金網状の無端のベルト51が、下部ケーシング21の長手方向の両端部に設けられたローラ52,52に巻き回されて形成されており、所定の駆動ローラで駆動されて食品の移送動作を行う。金網状のベルト51は、移送する食品からの滲液を水トレイ32に滴下可能に通過させ、かつ、下方配管64の過熱蒸気ノズル6からの過熱蒸気と飽和蒸気配管の飽和蒸気ノズル41からの飽和蒸気とを食品側に通過させる開口率に形成されている。なお、ベルト51は、食品の滲液や過熱蒸気及び飽和蒸気を透過可能であれば、金網状以外の形態でもよい。
【0050】
下部ケーシング21は、複数の脚部27,27・・・で設置面上に支持されている。複数の脚部27のうちの所定の脚部27には、2つの架台28の支柱28aの下端が固定されている。これらの架台28は、2つの過熱蒸気焼成室3A,3Bに対応する位置に設置されており、ケーシング2の上方に載荷部28bを夫々有する。この載荷部28bに、吸引ブロワ91A,91Bや昇降部としての昇降装置29等が設置されている。昇降装置29は、ウインチで形成され、図示しないワイヤによって上部ケーシング20を昇降駆動するように構成されている。
【0051】
上部ケーシング20の昇降に伴って上部ケーシング20と下部ケーシング21とが互いに接離する部分には、水シール機構が形成される。すなわち、図3に模式的に示すように、下部ケーシング21の両側に、長手方向に延在する水封溝31,31が設けられている。上部ケーシング20が下降したとき、上記水封溝31に貯留された水に上部ケーシング20の両側面20c,20dの下端部が浸漬する。この水封溝31には所定の水位が保持されており、オーバーフローを水トレイ32に流すようになっている。
【0052】
上部ケーシング20内の過熱蒸気焼成室3A,3Bの上方に形成された吸気路7A,7Bは、各過熱蒸気焼成室3A,3Bの中央付近に設けられた吸気筒72A,72Bに連通している。この吸気筒72A,72Bは、蛇腹状のフレキシブルパイプで形成され、上部ケーシング20の昇降に伴って伸縮可能に形成されている。吸気筒72A,72Bの下流側は、フィルタ73A,73Bを介して戻しライン74A,74Bに接続されており、この戻しライン74A,74Bに吸引ブロワ91A,91Bが介設されている。この吸引ブロワ91A,91Bによって過熱蒸気焼成室3A,3Bの蒸気を吸引し、フィルタ73A,73Bで吸引蒸気の油分等を除去して、過熱蒸気生成部8A,8Bに送るようになっている。戻しライン74A,74Bの吸引ブロワ91A,91Bの上流側には、戻しライン74A,74Bの蒸気の流れによって負圧を生成するエジェクタ92A,92Bが介設されている。このエジェクタ92A,92Bに、吸気ライン47に連なる分岐ライン48A,48Bの下流端が夫々接続されている。このエジェクタ92A,92Bは、戻しライン74A,74Bに蒸気が流れることにより負圧を生成し、この戻しライン74A,74Bの蒸気の流量に対して16.9%の流量の蒸気を分岐ライン48A,48Bから吸引するように設定されている。なお、エジェクタ92A,92Bは、戻しライン74A,74Bの蒸気の流量に対して16%以上17%以下の流量の蒸気を分岐ライン48A,48Bから吸引するように設定されてもよく、さらに、戻しライン74A,74Bの蒸気の流量に対して14%以上20%以下の流量の蒸気を分岐ライン48A,48Bから吸引するように設定されてもよい。エジェクタ92A,92Bによる分岐ライン48A,48Bからの蒸気の吸引流量は戻しライン74A,74Bの流量によって調整され、すなわち、吸引ブロワ91A,91Bの吸引流量によって調整される。
【0053】
過熱蒸気生成部8A,8Bは、ケーシング2の各過熱蒸気焼成室3A,3Bに対応する位置の下方に夫々配置され、熱交換器81とバーナ82で形成されている。熱交換器81は、蒸気が供給される缶体中に、バーナ82からの燃焼ガスが流れる煙管が配置された煙管式の熱交換器である。バーナ82は、LPG(液化石油ガス)を燃料とするガスバーナである。この過熱蒸気生成部8A,8Bは、熱交換器81の蒸気吐出口に過熱蒸気供給ライン61A,61Bの上流端が接続されており、この過熱蒸気供給ライン61A,61Bに所定温度の過熱蒸気を供給する。過熱蒸気生成部8A,8Bの上流側には、主に起動時に飽和蒸気を戻しライン74A,74Bに供給する補充飽和蒸気ライン83A,83Bが接続されており、これら補充飽和蒸気ライン83A,83Bに、補充飽和蒸気バルブ84A,84Bが介設されている。
【0054】
この焼成装置1は、図示しない制御部を有し、この制御部により、飽和蒸気バルブ43と、吸引ブロワ91A,91Bと、補助飽和蒸気バルブ84A,84Bの動作が制御される。
【0055】
以下、上記構成の焼成装置1の動作を説明する。
【0056】
まず、焼成装置1を起動すると、制御部の制御により起動運転が行われる。すなわち、過熱蒸気生成部8A,8Bのバーナ82が点火され、吸引ブロワ91A,91Bの吸引動作が開始され、補助飽和蒸気バルブ84A,84Bが開かれると共に、飽和蒸気バルブ43が開かれる。これにより、補充飽和蒸気ライン83A,83Bから過熱蒸気生成部8A,8Bへ約100℃の飽和蒸気が供給され、この飽和蒸気が熱交換器81で加熱されて約260℃の過熱蒸気が生成される。過熱蒸気は、過熱蒸気供給ライン61A,61Bを通って焼成室3内の蒸気配管に導かれる。過熱蒸気焼成室3A,3Bでは、蒸気配管としての横断配管62、縦断配管63及び下方配管64の過熱蒸気ノズル6から、過熱蒸気が吹き出される。また、飽和蒸気供給ライン42に約100℃の飽和蒸気が流れ、この飽和蒸気が飽和蒸気配管の飽和蒸気ノズル41から飽和蒸気焼成室4に吹き出される。
【0057】
過熱蒸気生成部8A,8Bへの過熱蒸気の吹き出しと飽和蒸気焼成室4への飽和蒸気の吹き出しによって過熱蒸気生成部8A,8B内と飽和蒸気焼成室4内が所定の焼成温度に達すると、食品を焼成する焼成運転が行われる。すなわち、補助飽和蒸気バルブ84A,84Bが閉じられ、補充飽和蒸気ライン83A,83Bから過熱蒸気生成部8A,8Bへの飽和蒸気の供給が停止される一方、過熱蒸気焼成室3A,3Bの蒸気と飽和蒸気焼成室4の蒸気との混合蒸気が過熱蒸気生成部8A,8Bに戻される。戻された蒸気が再加熱され、過熱蒸気が生成されて、過熱蒸気焼成室3A,3Bに供給される。飽和蒸気供給ライン42による飽和蒸気焼成室4への飽和蒸気の供給は継続される。
【0058】
また、動作が開始されたコンベヤ5のベルト51の端部に食品が載置され、コンベヤ5の動作に伴って食品が入口20aからケーシング2内に移送され、前室22を通って縦隔壁221の下方を通過して一方の過熱蒸気焼成室3Aに入る。過熱蒸気焼成室3Aでは、コンベヤ5のベルト51上の食品が、横断配管62及び縦断配管63の過熱蒸気ノズル6から吹き出された過熱蒸気が上方から吹き付けられると共に、下方配管64の過熱蒸気ノズル6から吹き出された過熱蒸気が下方から吹き付けられる。過熱蒸気が吹き付けられた食品は、過熱蒸気の顕熱及び潜熱によって加熱される。詳しくは、食品の温度が比較的低い場合は、過熱蒸気の顕熱と潜熱を受けた食品の表面に凝縮水が析出して煮え効果が与えられる一方、食品の温度が比較的高い場合は、過熱蒸気の顕熱を受けて焼き効果が与えられる。さらに、過熱蒸気は酸素濃度が低いため、食品の酸化が抑制されて風味の変化が防止される。さらに、過熱蒸気は、赤外線放射性を有するので、食品の中心まで迅速に加熱される。これらの効果を伴って過熱蒸気焼成室3Aで食品が焼成された後、食品は縦隔壁401の下方を通過して飽和蒸気焼成室4に入る。
【0059】
飽和蒸気焼成室4では、コンベヤ5のベルト51上の食品が、飽和蒸気配管の飽和蒸気ノズル41から吹き出された飽和蒸気が下方から吹き付けられる。飽和蒸気が吹き付けられた食品は、飽和蒸気の潜熱によって加熱され、また、表面に凝縮水が析出して水分が与えられる。このように飽和蒸気焼成室4で食品が焼成された後、食品は縦隔壁402の下方を通過して他方の過熱蒸気焼成室3Bに入る。
【0060】
他方の過熱蒸気焼成室3Bでは、一方の過熱蒸気焼成室3Aにおけるのと同様に、コンベヤ5のベルト51上の食品が、横断配管62及び縦断配管63の過熱蒸気ノズル6から吹き出された過熱蒸気が上方から吹き付けられると共に、下方配管64の過熱蒸気ノズル6から吹き出された過熱蒸気が下方から吹き付けられ、過熱蒸気の顕熱及び潜熱によって加熱される。過熱蒸気焼成室3Bで焼成された食品は、縦隔壁231の下方を通過し、後室23を通って出口20bからケーシング2外に排出される。食品の焼成加減は、コンベヤ5の移送速度を調整することによって調整される。
【0061】
本実施形態の焼成装置1は、過熱蒸気焼成室3A,3Bの蒸気を吸引すると共に、飽和蒸気焼成室4の蒸気を吸引し、吸引した蒸気を混合して過熱蒸気生成部8A,8Bで再度加熱して過熱蒸気を生成し、この過熱蒸気を過熱蒸気焼成室3A,3Bに供給することにより蒸気を循環させている。図5は、蒸気の循環経路を示す模式図である。図5に示すように、過熱蒸気焼成室3A,3B内の蒸気が、戻しライン74A,74Bを通って吸引ブロワ91A,91Bに吸引される。戻しライン74A,74Bの吸引ブロワ91A,91Bの下流側には、エジェクタ92A,92Bにより、飽和蒸気焼成室4から分岐ライン48A,48Bを通して蒸気が吸引されて混合されることにより、蒸気が補充される。戻しライン74A,74Bは、吸引ブロワ91A,91Bの上流側に設けられた逆止弁75により、蒸気の逆流が防止される。飽和蒸気焼成室4には、飽和蒸気供給ライン42によって汎用ボイラ47から飽和蒸気が供給され、飽和蒸気の流量が飽和蒸気バルブ43によって調整される。
【0062】
ここで、食品を焼成する焼成運転において、エジェクタ92A,92Bによる飽和蒸気焼成室4からの蒸気の混合量が、制御部による制御の下、飽和蒸気バルブ43と吸引ブロワ91A,91Bの動作が調節されて、戻しライン74A,74Bにより過熱蒸気焼成室3A,3Bから戻される蒸気の流量に対して16.9%の割合の流量に調節される。本実施形態では、戻しライン74A,74Bの蒸気の2595kg/hの流量に対して、分岐ライン48A,48Bの蒸気が440kg/hの流量に調節される。戻しライン74A,74Bの蒸気の温度は約120℃であり、分岐ライン48A,48Bの蒸気の温度は約100℃である。戻しライン74A,74Bの蒸気に分岐ライン48A,48Bで蒸気が混合されてなる3035kg/hの蒸気が、過熱蒸気生成部8A,8Bで加熱されて、約280℃の過熱蒸気が生成される。この過熱蒸気が、過熱蒸気供給ライン61A,61Bを通って過熱蒸気焼成室3A,3Bに供給される。このように、吸気口45で飽和蒸気焼成室4から吸引して分岐ライン48A,48Bを通して戻す蒸気の流量を、過熱蒸気焼成室3A,3Bから戻す蒸気の流量の16.9%に調節することにより、過熱蒸気焼成室3A,3Bに定常的に280℃の過熱蒸気を供給することができる。したがって、過熱蒸気焼成室3A,3Bから戻す蒸気の量や、飽和蒸気供給ライン42で供給する飽和蒸気の量を微調整する必要が無い。その結果、過熱蒸気を過剰に生成することや飽和蒸気を過剰に消費することでエネルギーを無駄に消費する不都合を防止して、効果的に省エネルギーを行うことができる。また、過熱蒸気焼成室3A,3Bの焼成温度を安定して280℃に保持することができ、安定して食品を焼成することができる。
【0063】
なお、吸気口45で飽和蒸気焼成室4から吸引して戻しライン74A,74Bに混合する蒸気の流量は、過熱蒸気焼成室3A,3Bの温度や過熱蒸気焼成室3A,3Bから戻す蒸気の流量に応じて、戻す流量の16%以上17%の範囲に調節してもよい。さらに、吸気口45で飽和蒸気焼成室4から吸引して戻しライン74A,74Bに混合する蒸気の流量は、過熱蒸気焼成室3A,3Bから戻す蒸気の流量の14%以上20%の範囲に調節してもよい。このような飽和蒸気焼成室4からの蒸気の混合量に調整することにより、安定して蒸気を循環させつつ過熱蒸気を焼成室3へ供給することができる。
【0064】
また、本実施形態の焼成装置1は、制御部により、補助飽和蒸気バルブ84A,84Bを開いて過熱蒸気生成部8A,8Bへ飽和蒸気を供給して生成した過熱蒸気を過熱蒸気焼成室3A,3Bへ供給すると共に、飽和蒸気バルブ43を開いて飽和蒸気焼成室4へ飽和蒸気を供給する起動運転を行う。この後、補助飽和蒸気バルブ84A,84Bを閉じ、過熱蒸気焼成室3A,3Bからの蒸気と飽和蒸気焼成室4からの蒸気との混合蒸気を過熱蒸気生成部8A,8Bに戻して再加熱して生成した過熱蒸気を、過熱蒸気焼成室3A,3Bへ供給する。これと共に、飽和蒸気バルブ43の開き状態を継続して飽和蒸気焼成室4へ飽和蒸気を供給する焼成運転を行う。したがって、速やかに過熱蒸気焼成室3A,3Bと飽和蒸気焼成室4の温度を焼成温度に上昇させ、迅速に食品の焼成を開始し、安定して食品の焼成を行うことができる。
【0065】
また、本実施形態の焼成装置1は、上部ケーシング20を昇降装置29で上昇させることにより、上部ケーシング20と下部ケーシング21の間に形成される過熱蒸気焼成室3A,3Bと飽和蒸気焼成室4が開かれる。このとき、過熱蒸気焼成室3A,3Bと飽和蒸気焼成室4が全面的に開かれるので、コンベヤ5の清掃や、横断配管62、縦断配管63、下方配管64及び飽和蒸気配管の清掃や、ノズル6,41の調整等のメンテナンスを容易に行うことができる。
【0066】
また、上部ケーシング20が下降したとき、上部ケーシング20と下部ケーシング21との間が水シール機構でシールされ、ケーシング内部の過熱蒸気焼成室3A,3Bと飽和蒸気焼成室4が気密状態となる。ここで、上部ケーシング20の側面及び天面は、実質的に開口部が無いので、従来のようにメンテナンス開口等の開口を通して空気が焼成室内に流入したり、焼成室内の蒸気がケーシング外に流出することが無い。したがって、空気の流入による過熱蒸気焼成室3A,3B及び飽和蒸気焼成室4の温度低下や食品の酸化を防止でき、食品の焼成品質を向上できる。また、過熱蒸気焼成室3A,3B及び飽和蒸気焼成室4内の蒸気の流出を防止でき、過熱蒸気焼成室3A,3B及び飽和蒸気焼成室4の蒸気を無駄なく過熱蒸気生成部8A,8Bに戻して過熱蒸気を生成できる。したがって、過熱蒸気の無駄な生成を防止してエネルギーの無駄な消費を防止でき、省エネルギーを行うことができる。しかも、上部ケーシング20と下部ケーシング21との間をシールする水シール機構は、樹脂等のシール部材を用いて形成されたシール機構のように、高温の蒸気で劣化することがない。したがって、長期にわたってシール機能を発揮できて、焼成品質を安定して高く維持できると共に、省エネルギーを安定して行うことができる。
【0067】
さらに、下部ケーシング21に、過熱蒸気焼成室3A,3B及び飽和蒸気焼成室4内のコンベヤ5のベルト51の下方に水トレイ32が設けられているので、この水トレイ32貯留した水で、焼成中の食品から滴下した油等の滲出成分を受けて、清掃を容易にすると共に滲出成分の着火を防止することができる。また、この水トレイ32に、水シール機構のドレイン水を供給するので、少ない水の消費量により、水シール機構のシール機能を発揮できると共に水トレイ32の貯留水量を適切に保持することができる。
【0068】
さらに、本実施形態の焼成装置1によれば、前室22と後室23によって入口20aと出口20bに隔てられた過熱蒸気焼成室3A,3Bの上方に吸気路7A,7Bが設けられ、この吸気路7A,7Bに連なる吸気口71a,71bが過熱蒸気焼成室3A,3Bの上部の入口側と出口側に設けられている。したがって、過熱蒸気焼成室3A,3B内の蒸気を、吸気路7A,7Bを通して吸気口71a,71bから吸引する際、入口20aと出口20bからのケーシング2内への空気の流入量を少なくできる。したがって、過熱蒸気焼成室3A,3Bへの空気の流入量を少なくでき、過熱蒸気焼成室3A,3Bの温度の低下を効果的に防止できると共に、過熱蒸気生成部8A,8Bで再加熱する蒸気の温度の低下を防止できる。したがって、焼成品質の低下を防止できると共に、過熱蒸気の生成に必要なエネルギーを低減させて省エネルギーを行うことができる。
【0069】
さらに、本実施形態の焼成装置1によれば、過熱蒸気焼成室3A,3Bと縦隔壁221,231で隔てられた前室22と後室23を、排気筒24,25を通して自然排気を行うので、焼成室3から蒸気を無駄に排出する不都合を防止できる。また、過熱蒸気焼成室3A,3Bと縦隔壁221,231で隔てられた前室22と後室23から自然排気を行うので、ケーシングの入口20aと出口20bから過熱蒸気焼成室3A,3Bへ空気が流入することを防止できる。したがって、過熱蒸気焼成室3A,3Bの温度の低下を効果的に防止できると共に、過熱蒸気生成部8A,8Bで再加熱する蒸気の温度の低下を防止できる。その結果、焼成品質の低下を防止できると共に、過熱蒸気の生成に必要なエネルギーを低減させて省エネルギーを行うことができる。
【0070】
さらに、本実施形態の焼成装置1によれば、エジェクタ92A,92Bにより、飽和蒸気焼成室4から吸気口45、吸気筒46、吸気ライン47及び分岐ライン48A,48Bを通して蒸気を吸引し、戻しライン74A,74Bの蒸気に混合するので、戻しライン74A,74Bに吸引ブロワ91A,91Bを設けるのみにより、飽和蒸気焼成室4から蒸気を吸引して、過熱蒸気焼成室3A,3Bからの蒸気に混合することができる。したがって、飽和蒸気焼成室4から蒸気を吸引するために他のブロワ等を別途設けることなく、簡易な構成により、飽和蒸気焼成室4からの蒸気を過熱蒸気焼成室3A,3Bからの蒸気に混合して過熱蒸気生成部8A,8Bに戻すことができる。
【0071】
上記実施形態において、過熱蒸気生成部8A,8Bは、280℃の過熱蒸気を生成したが、200℃以上500℃以下の範囲に含まれるいずれの温度の過熱蒸気を生成してもよい。本発明によれば、200℃以上500℃以下の範囲内の温度の過熱蒸気を用いる焼成装置において、分岐ライン48A,48Bで飽和蒸気焼成室4から戻して戻しライン74A,74Bに混合する蒸気の流量を過熱蒸気焼成室3A,3Bから戻す蒸気の流量の14%以上20%の範囲に調節することにより、安定して蒸気を循環させて過熱蒸気焼成室3A,3Bへ過熱蒸気を供給することができる。
【0072】
また、上記実施形態において、エジェクタ92A,92Bにより、飽和蒸気焼成室4から蒸気を吸引して過熱蒸気焼成室3A,3Bからの蒸気に混合したが、飽和蒸気焼成室4の蒸気は、別途設置したブロワ等の他の機器により吸引して過熱蒸気焼成室3A,3Bからの蒸気に混合してもよい。
【符号の説明】
【0073】
1 焼成装置
2 ケーシング
3A,3B 過熱蒸気焼成室
5 コンベヤ
6 過熱蒸気ノズル
7A,7B 吸気路
8A,8B 過熱蒸気生成部
20 上部ケーシング
20a 上部ケーシングの入口
20b 上部ケーシングの出口
21 下部ケーシング
41 飽和蒸気ノズル
42 飽和蒸気供給ライン
45 吸気口
61A,61B 過熱蒸気供給ライン
71a,71b 吸気口
74A,74B 戻しライン
92A,92B エジェクタ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
過熱蒸気で食品を焼成する過熱蒸気焼成室に過熱蒸気を供給する工程と、
飽和蒸気で食品を焼成する飽和蒸気焼成室に飽和蒸気を供給する工程と、
過熱蒸気焼成室から蒸気を吸引する工程と、
飽和蒸気焼成室から蒸気を吸引する工程と、
過熱蒸気焼成室から吸引された蒸気と、飽和蒸気焼成室から吸引された蒸気との混合蒸気を加熱して、過熱蒸気を生成する工程と
を備えることを特徴とする食品焼成方法。
【請求項2】
請求項1に記載の食品焼成方法において、
飽和蒸気焼成室から吸引する蒸気の流量が、過熱蒸気焼成室から吸引する蒸気の流量に対して14%以上20%以下の割合であることを特徴とする食品焼成方法。
【請求項3】
請求項1に記載の食品焼成方法において、
上記混合蒸気を加熱して、200℃以上500℃以下の過熱蒸気を生成することを特徴とする食品焼成方法。
【請求項4】
過熱蒸気で食品を焼成する過熱蒸気焼成室と、飽和蒸気で食品を焼成する飽和蒸気焼成室とを内部に有すると共に、食品の入口と出口を有するケーシングと、
食品を載置してケーシングの過熱蒸気焼成室内と飽和蒸気焼成室内とを移送する移送部と、
移送部によって移送される食品に過熱蒸気を吹き付ける過熱蒸気ノズルと、
移送部によって移送される食品に飽和蒸気を吹き付ける飽和蒸気ノズルと、
過熱蒸気ノズルに過熱蒸気を供給する過熱蒸気供給ラインと、
飽和蒸気ノズルに飽和蒸気を供給する飽和蒸気供給ラインと、
過熱蒸気供給ラインの上流側に接続されて過熱蒸気を生成する過熱蒸気生成部と、
過熱蒸気焼成室内の蒸気を吸引する第1吸気部と、
飽和蒸気焼成室内の蒸気を吸引する第2吸気部と、
第1吸気部からの蒸気を過熱蒸気生成部に戻す戻しラインと、
戻しラインに介設され、第2吸気部からの蒸気を第1吸気部からの蒸気に混合する混合部とを備えることを特徴とする食品焼成装置。
【請求項5】
請求項4に記載の食品焼成装置において、
上記混合部で混合する第2吸気部からの蒸気の流量が、第1吸気部からの蒸気の流量に対して14%以上20%以下の割合であることを特徴とする食品焼成装置。
【請求項6】
請求項4に記載の食品焼成装置において、
上記過熱蒸気生成部は、200℃以上500℃以下の過熱蒸気を生成することを特徴とする食品焼成装置。
【請求項7】
請求項4に記載の食品焼成装置において、
上記混合部は、第1吸気部からの蒸気の流れに伴って負圧を生成し、この負圧により第2吸引部からの蒸気を吸引するエジェクタを含むことを特徴とする食品焼成装置。
【請求項8】
請求項4に記載の食品焼成装置において、
上記ケーシングは、下部ケーシングと、実質的に開口部の無い側面及び天面を有すると共に昇降可能な上部ケーシングと、下部ケーシングと上部ケーシングとの間をシールする水シール機構とを有し、
上記上部ケーシングを昇降駆動する昇降部を備えることを特徴とする食品焼成装置。
【請求項9】
請求項4に記載の食品焼成装置において、
上記ケーシング内に、入口に隣接して入口を過熱蒸気焼成室又は飽和蒸気焼成室と隔てる前室と、出口に隣接して出口を過熱蒸気焼成室又は飽和蒸気焼成室と隔てる後室と、過熱蒸気焼成室の上方に形成された吸気路を有し、
上記過熱蒸気焼成室の上部の入口側と出口側に、上記吸気路に連なる上記第1吸気部が設けられていることを特徴とする食品焼成装置。
【請求項10】
請求項9に記載の食品焼成装置において、
上記前室と後室は、ケーシング外に連通して自然排気を行う排気路に接続されていることを特徴とする食品焼成装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2010−284115(P2010−284115A)
【公開日】平成22年12月24日(2010.12.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−140549(P2009−140549)
【出願日】平成21年6月11日(2009.6.11)
【出願人】(591288229)ジョンソンボイラ株式会社 (2)
【出願人】(509166249)株式会社今林鉄工所 (2)
【Fターム(参考)】