飲料用抽出フィルター及びその製造方法
【課題】飲料用抽出装置に使用される飲料用抽出フィルターにおいて、そのコストを低減することができ、運送する時も嵩張らず、廃棄処分も容易に行い得る構成を備えた飲料用抽出フィルターを提供する。
【解決手段】飲料用抽出装置の所定位置にセットされる飲料用抽出フィルターであって、嗜好品が収容されるフィルター部10と、このフィルター部10の上部に取り付けられる平板状の蓋部11と、を備え、フィルター部10の上部近傍に蛇腹を形成し、所定位置にセットして、蓋部を介して注湯した後に、前記蛇腹部の蛇腹が伸びるように構成した。
【解決手段】飲料用抽出装置の所定位置にセットされる飲料用抽出フィルターであって、嗜好品が収容されるフィルター部10と、このフィルター部10の上部に取り付けられる平板状の蓋部11と、を備え、フィルター部10の上部近傍に蛇腹を形成し、所定位置にセットして、蓋部を介して注湯した後に、前記蛇腹部の蛇腹が伸びるように構成した。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、飲料用抽出装置の所定位置にセットされる飲料用抽出フィルター及びその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
コーヒー、紅茶、緑茶等の嗜好品は、これらを粉末状にしたものを飲料用抽出フィルターに収容して、飲料用抽出装置の所定位置にセットされ、上部から注湯することで、ホットコーヒー、ホット紅茶などを作ることができる。飲料用抽出フィルターがセットされる飲料用抽出装置は、主として業務用に使用されるものであるが、家庭用でも使用可能な小型化されたものも普及している。
【0003】
かかる飲料用抽出フィルターと飲料用抽出装置に関しては、下記特許文献1に開示されるコーヒー等の抽出措置が知られている。この抽出装置では、粉末状の嗜好品が収容されるカートリッジが用いられている。このカートリッジは樹脂製の容器により形成され、この容器の内部にフィルター部が収容されている。容器の上部は蓋部により封止されている。蓋部はフィルム製のシートにより形成される。
【0004】
コーヒー等を抽出するときは、カートリッジ上部の蓋部から注湯用針を貫通させて、あるいは、上部の蓋部から直接、お湯を注ぎこむ。また、カートリッジ底部から抽出用針が貫通させられる。これにより、カートリッジから嗜好品が抽出されて、カートリッジの下部に載置されているコーヒーカップ等に注ぐことができる。
【0005】
【特許文献1】特開2005−110835号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記従来技術における課題は以下の通りである。嗜好品を収容したカートリッジは、樹脂性の容器の内部にフィルターを設けている構成であるため、カートリッジのコストを低減するには限界があった。また、樹脂製の容器はサイズを小さくするのに限度があり、包装して運送するときに嵩張るという問題もある。さらに、樹脂性の容器を使用したカートリッジは、廃棄するときに樹脂の部分と紙の部分とを分別しなければならず、面倒である。
【0007】
本発明は上記実情に鑑みてなされたものであり、その課題は、飲料用抽出装置に使用される飲料用抽出フィルターにおいて、そのコストを低減することができ、運送する時も嵩張らず、廃棄処分も容易に行い得る構成を備えた飲料用抽出フィルター及びその製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するため本発明に係る飲料用抽出フィルターは、
飲料用抽出装置の所定位置にセットされる飲料用抽出フィルターであって、
嗜好品が収容されるフィルター部と、このフィルター部の上部に取り付けられる平板状の蓋部と、を備え、
フィルター部の上部近傍に蛇腹部を形成し、前記所定位置にセットして、蓋部を介して注湯した後に、前記蛇腹部の蛇腹が伸びるように構成したことを特徴とするものである。
【0009】
この構成による飲料用抽出フィルターの作用・効果を説明する。このフィルターは、嗜好品が収容されるフィルター部と、フィルター部の上部に取り付けられる平板状の蓋部により構成される。嗜好品の抽出を行うときは、蓋部から注湯針を貫通させることで、お湯を注ぐ。あるいは、上部の蓋部から直接お湯を注ぎこむ。抽出された嗜好品は、フィルター部から注ぎ出され、そのままカップ等に注がれる。樹脂製の容器は用いられておらず、その分、コストを低減させることができる。さらに、樹脂性の容器を必要としないので、廃棄するときに分別作業が不要となる。
【0010】
また、フィルター部の上部には、蛇腹部が設けられており、装置にセットするまでは、蛇腹部が形成されている状態に保持可能である。従って、運送するときなど、嵩張らないようにすることができる。嗜好品の抽出を行うときは、フィルター部の内部において、嗜好品が収容されている部分の上部に空間が必要であるが、注湯をして抽出を開始すると、注湯力あるいは重力の作用により、蛇腹部が伸びて上記空間が形成される。この空間は、湯により膨張した嗜好品と湯が滞留接触するために必要なものであり、これにより、十分な抽出を行うことができるようになる。
【0011】
本発明において、前記蛇腹の段数は少なくとも2段であることが好ましい。少なくとも2段の蛇腹を形成することで、フィルターの高さを小さくすることができると共に、抽出を行うときに適切な大きさの空間を形成させることができる。
【0012】
本発明において、前記フィルター部はお椀形状を呈しており、前記蓋部はお椀形状の上部外径よりも大径のフランジ部分と、このフランジ部分から更に突出したつまみ部分とを有することが好ましい。
【0013】
この構成によると、蓋部はお椀形状を呈するフィルター部よりも大径のフランジ部分を有する。このフランジ部分を利用して、飲料用抽出装置の所定位置に載置することができる。また、つまみ部分が一体形成されており、例えば、抽出済みのフィルターを上記所定位置から取り除くときに、つまみ部分を手で持ちながら行うことができる。
【0014】
本発明において、前記蓋部は不織布により形成されることが好ましい。これにより、蓋部から注湯針を差し込まなくても、お湯を注ぐことができる。また、本発明に係る前記蓋部をラミネートフィルムにより形成し、少なくも1層はシール性を有する非透水性の樹脂フィルムにより構成することもできる。かかる蓋部の場合は、蓋部から注湯針を差し込むことにより、お湯を注ぐことができる。
【0015】
上記課題を解決するため本発明に係る飲料用抽出フィルターの製造方法は、
シート状の素材から、お椀形状の前記フィルター部を成形するステップと、
前記フィルター部の前記上部近傍に前記蛇腹部を成形するステップと、を有することを特徴とするものである。
【0016】
この構成による飲料用抽出フィルターの製造方法の作用・効果を説明する。まず、シート状の素材から、お椀形状のフィルター部を成形する。素材としては、例えば、成形性に優れたスパンボンド不織布を用いることができる。次いで、お椀形状の上部近傍に蛇腹部を成形する。これにより、蛇腹部を有するフィルター部が作製される。かかる構成により、前述のように、コストを低減することができ、運送する時も嵩張らず、廃棄処分も容易に行い得る構成を備えた飲料用抽出フィルターを製造することができる。
【0017】
本発明において、前記蛇腹部が形成されたフィルター部の内部に嗜好品を充填するステップと、嗜好品を充填した後に、蓋部をかぶせるステップと、前記蛇腹部が形成された状態のまま、飲料用抽出フィルターを包装紙で包装するステップ、とを有することが好ましい。
【0018】
蛇腹部が形成されたフィルター部に嗜好品を充填するときは、蛇腹が形成された状態で嗜好品を充填させる。充填後に蓋部により封止を行い、さらに包装紙によりフィルター全体を包装する。包装は、蛇腹が形成された状態で行う。従って、多数のフィルターを運送する時も嵩張らないようにすることができる。
【0019】
本発明において、前記シート状の素材は、熱成形による形状記憶特性を有する不織布であることが好ましい。
【0020】
かかる素材として、例えば、スパンボンド不織布を用いることができる。熱成形による形状記憶特性を有する素材を用いることで、嗜好品を抽出するときに、お湯を注ぐときに、そのお湯の温度により、蛇腹部が成形される前の前記お椀形状に戻ろうとする力が作用し、前述の滞留空間を容易かつ確実に形成することができる。
【0021】
本発明において、前記蛇腹部を成形するステップは、前記お椀形状の高さを保持したまま行われることが好ましい。
【0022】
お椀形状に成形されたフィルター部の高さを保持したまま蛇腹部を成形するので、蛇腹部の厚さは、他の部分に比べて薄くなる。従って、蛇腹部の折り畳みや伸長を行いやすくすることができる。
【0023】
本発明において、前記フィルター部の成形ステップ及び前記蛇腹部の成形ステップは、嗜好品抽出時の注湯温度よりも高い温度環境で行われることが好ましい。
【0024】
かかる温度設定で成形を行うことで、お椀形状のフィルター部や蛇腹部の成形を適切に行うことができる。また、嗜好品の抽出時には、注湯力及び重力の作用により、蛇腹部が伸びた状態にすることができる。
【0025】
本発明において、前記フィルター部の成形ステップは、嗜好品抽出時の注湯温度(例えば、100℃)よりも高い温度環境(例えば、150℃)で行われ、前記蛇腹部の成形ステップは、前記注湯温度よりも低い温度環境(例えば、60℃)で行われることが好ましい。
【0026】
かかる温度環境でフィルター部の成形を行うことで、嗜好品の抽出時に注湯することで、熱成形による形状記憶特性を有する不織布の特性により、蛇腹部が成形される前の前記お椀形状に戻ろうとする力が作用し、蛇腹部のない形状に戻ろうとする。これにより、滞留空間を形成することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0027】
本発明に係る飲料用抽出フィルターの好適な実施形態を図面を用いて説明する。具体的には、コーヒー等(コーヒー、紅茶、緑茶等)を抽出するためのコーヒー等抽出フィルター(以下、単に「フィルター」という。)の実施形態を説明する。まず最初に、本発明に係るフィルターが使用されるコーヒー等抽出装置(以下、単に「抽出装置」という。)の構成を簡単に説明する。
【0028】
<コーヒー抽出装置の構成>
図1は、抽出装置の外観構成を示す斜視図である。抽出装置は、加熱・保温式貯湯容器1と、不図示の電動ポンプ、抽出機構、通湯パイプ、注湯針などを備えている。電動ポンプにより貯湯容器1内の湯を注湯針へと給送させる。注湯針は、フィルターの蓋部の上方に位置し、注湯針の先端が蓋部を貫通するように動作させられる。
【0029】
抽出装置の正面側はユーザーが操作する操作部等が設けられている。開始ボタン2は、これを押すことにより、抽出動作が開始する。水量表示部3は、貯湯容器1内の水量レベルを外部表示させる。水が減ってきた場合は、装置の天面に設けられている注入口1aを介して、水を補給することができる。抽出状況表示部4は、抽出状況を視覚的に表示させる。ユーザーは、この抽出状況表示部4を見ることで、抽出が終了したか否かを判断することができる。
【0030】
フィルターセット部5は、本発明に係るフィルターをセットする箇所である。引き出し式になっており、凹部5aに手を入れることで、フィルターセット部5を手前に引き出すことができる。カップCは、載置部6の上に載置される。
【0031】
図2は、フィルターセット部5の構成を示す斜視図であり、引き出した状態を示している。外観カバー部材7は、左右一対のガイドレール8により、前後方向にスライド自在に保持されている。フィルターFを所定位置にセットするためのセット容器9が保持される。セット容器9の上端部がフィルターFが載置される載置面であり、所定位置に相当する。セット容器9は、保持ピン9aが一体的に設けられており、ガイドレール8に取り付けられた保持プレート8aに保持される。
【0032】
セット容器9は、保持ピン9aにより回転自在に保持されており、抽出が終了して不要になったフィルターFは、セット容器9を不図示の機構で回転させることで、セット容器9から強制的に落下させられて、不図示の回収ボックス内に回収される。
【0033】
<フィルターの構成>
図3は、フィルターFの構成を示す図である。図3(a)は平面図、(b)は蛇腹を伸ばした状態の側面図、(c)は蛇腹を折り畳んだ状態の側面図である。なお、図3は後述の第1実施形態に係る製造方法により製造されたフィルターFを図示するものである。
【0034】
図示のように、フィルターFは、フィルター部10と、蓋部11により構成される。フィルター部10は、不織布で形成されるが、好ましくは、旭化成せんい株式会社のスパンボンド不織布(商品名「スマッシュ」)が使用される。この素材は、特殊ポリエステル長繊維不織布であり、熱可塑性の特長を持ち、加熱すると変形が容易となり、加熱プレス成型加工ができるという特徴がある。また、湯温への耐久性などの点で優れており、安定した抽出を行うことができる。
【0035】
フィルター部10は、全体的な形状がお椀形状(あるいは、半楕円形、半卵形)を呈している。その底部はなだらかな曲線を描くような形状を有している。上部の外径寸法は、例えばφ45mmであり、蓋部11との接着のためにフランジ部10bも一体的に形成される。フランジ部10bの外径寸法はφ55mmである。
【0036】
フィルターFの上部近傍には、蛇腹部10aが形成される。蛇腹部10aは、2段の谷部を有しており、ピッチは5.0mmに形成される。したがって、蛇腹部10aの全長は、図3(b)の状態で10mmである。蛇腹部10aは、蓋部11の位置から下方3mmの位置(上部近傍に相当)から形成される。すなわち、蛇腹部10aの形成範囲は、蓋部11の位置から下方へ3mm〜13mmとなる。上記の3mmという数値設定は、これに限定されるものではなく、例えば、数mm程度に設定すればよい。
【0037】
コーヒーの抽出を行うまでは、蛇腹部10aは、図3(c)に示すように折り畳まれた状態に保持される。上部からお湯が注ぎ込まれると、その注湯力および重力の作用により、図3(b)に示すように、蛇腹部10aが伸びた状態になる。蛇腹部10aが折り畳まれた状態で、フィルター部10の内部にはコーヒーの粉末がほぼ隙間なく充填されている。蛇腹部10aが伸びると、充填されているコーヒーの上部に空間が形成される。かかる空間を形成するために、蛇腹部10aは蓋部11の近傍に形成される。
【0038】
上記空間は滞留空間と呼ばれるものであり、注湯した後に水分により膨張したコーヒーの粉末とお湯が滞留して接触するための空間である。この空間がない場合には、適切な滞留接触が行われないため、薄いコーヒーが抽出されることになる。従って、風味のあるコーヒーを抽出するためには滞留空間が必要である。
【0039】
蓋部11の形状は図3(a)に示すように平板状(あるいは、シート状)である。蓋部11は、フランジ部11aを有しており、フィルター部10のフランジ部10bと同じ外径寸法を有している。また、つまみ部11bが一体形成されている。フィルターFを抽出装置にセットしてコーヒーの抽出を行い、抽出済みのフィルターFを取り除くときは、このつまみ部11bを手で持って行うことができる。
【0040】
蓋部11の素材は、ラミネートされた樹脂製フィルムが好ましい。例えば、レーヨン、PET(ポリエチレンテレフタレート)、LLDPE(直鎖状低密度ポリエチレン)の三層ラミネートフィルム、あるいは、レーヨン、CP(二方向延伸ポリプロピレン)の二層ラミネートフィルムが好ましい。これらの素材は、いずれもシール性を有する非透水性の樹脂フィルムである。なお、非透水性を有するものであれば、他の材質のものを適宜使用することができる。
【0041】
蓋部11には、注湯針により貫通孔を形成する必要があり、蓋部11のフランジ部11aとフィルター部10のフランジ部10bの接着は、ある程度の形状保持力が必要とされる。また、注湯針を貫通させるために蓋部11の耐衝撃性が大きすぎると、貫通がしにくくなる。すなわち、注湯針の大きさがφ5mmであり、容易に孔が形成できる必要がある。ただし、あまり弱すぎると、貫通動作時に素材が裂けてしまう可能性がある。
【0042】
さらに、注湯孔の貫通後は、加圧されたお湯を注入するために、蓋部11から湯が漏れないように、疎水性の素材であることが要求される。また、ラミネートされた最外装は、環境に配慮しているという雰囲気を出すため、紙調の仕上がり外観とし、天然素材を利用しているということを感じさせる素材が好ましい。
【0043】
レーヨンは、天然のセルロースを化学分解し繊維状に形成することで不織布とすることができる。CPは、低温シール性を有し、安価な素材である。LLDPEは、低温シール性を有し、フィルター部11の不織布内に浸透していく性質を有している。LLDPEを用いることで、熱シールが可能になる。なお、CPでも熱シールは可能であるが、通常、不織布をシールするときには、不織布の熱伝導性が悪いため、超音波シール(ウルトラソニック)が必要になる。
【0044】
すなわち、上記素材を蓋部11の素材として選択した場合、フィルター部10との接着は、ラミネートの最下層にあるLLDPEまたはCPがシール材として機能する。接着する場合は、これらの素材に熱を与えてゲル化させることで、ゲル化した樹脂がフィルター部10内の繊維内に浸透して、冷却後固化して接着が完了することになる。
【0045】
PETは、蓋部11の硬度を保持するためと、注湯針で孔を開けるときの開封性を上げるために使用する。また、抽出時の加圧熱湯への耐圧性を確保する目的でも使用される。LLDPEは、延伸性がよく、すぐに伸びてしまうからである。
【0046】
<フィルターの製造工程(第1実施形態)>
次に、本発明に係るフィルターの製造工程(第1実施形態)について説明する。図4は、成形前のシートSの平面図を示している。シートSは矩形状に形成されており、6か所を押え部材23により押えられる。また、シートSは予熱することで成形が行いやすくなるので、予め、50℃〜80℃程度に予熱する。S1,S2で示すのは後述のヒーターブロック21で押え成形を行う箇所がS1,S2で示される。したがって、図4に示す例では、1枚のシートSから2つのフィルターが作製される。シートSの素材は、前述のように、スパンボンド不織布(商品名「スマッシュ」)を用いることができる。
【0047】
図5は、図4に示すシートSを用いてフィルター部10を作製する工程を示している。まず、図5(a)に示すように、下型20の上に、矩形状に形成されたシートSを載置する。下型20の形状は、矩形プレートに、図4で示すS1,S2に対応した穴が形成されている。雄型ヒーターブロック21は、お椀形状を有する本体部21aと、本体部21aの上部に一体的に設けられるフランジ部21bを有する。本体部21aの内部にはヒーター機構が設けられている。このヒーターブロック21は150〜180℃に加熱されている。
【0048】
雄型ヒーターブロック21を上方から下ろすことで、図5(b)に示すように、フィルター部10の基本形状が成形される。シートSの外周部が下型20と、ヒーターブロック21のフランジ部21bで挟持されることで、フィルター部10のフランジ部10bが形成される。前述のスパンボンド不織布は、加熱成形を行いやすい素材であり、ヒーターブロック21により150〜180℃に加熱した状態にすることで、お椀形状の成形を行いやすくしている。
【0049】
また、お椀形状の成形後に、下方から冷却エアーを吹き付ける。その後、ヒーターブロック21は上方に引き上げられる。
【0050】
次に、蛇腹部10aを形成するために、図5(c)に示すように、2つ割半円ブロック22を用いる。このとき、お椀形状に成形されたフィルター部10のフランジ部10bは不図示の機構により支持されている。半円ブロック22は、図示のように左右一対設けられており、その端面に蛇腹部10aを形成するための山形突起22aが形成されている。なお、2つ割半円ブロック22の平面図は、図6に示される。
【0051】
蛇腹部10aを成形する際には、ヒーターブロック21を脱出させたのち、押えブロック24が挿入される。ヒーターブロック21により成形されるお椀形状の高さは33mmであるが、押えブロック24により、上記33mmの高さが維持されるように挿入される。押えブロック24で押えている間、ヒーターブロック21の場合と同様に、内部に冷却エアーが送り込まれる。
【0052】
2つ割半円ブロック22は、ヒーターブロック21と同様に150〜180℃の低温で加熱しながら蛇腹部10aの成形を行う点に特徴がある。押えブロック24で高さを維持したまま、蛇腹部10aを成形するので、成形された蛇腹部10aは、蛇腹部10a以外の部分よりも厚さが薄くなる。これにより、蛇腹部10aを折り畳みやすくすることができる。
【0053】
<抽出工程(第1実施形態)>
次に、第1実施形態の製造方法により作製されたフィルターによりコーヒーを抽出するときの手順を図7により説明する。図1,2で説明した抽出装置において、フィルターセット部5を引き出す(図2)。また、包装紙12を開封して、フィルターFをセット容器9の上(所定位置)にセットする。次に、フィルターセット部5を閉じる。この状態が図7(a)に示される。このとき、注湯針13は、蓋部11の上方に待機している。
【0054】
開始ボタン2を押すと、上方から注湯針13が下降してきて、その先端部が蓋部11を破りフィルターFの内部へと侵入する(図7(b)参照)。次いで、注湯針13からお湯が注ぎ込まれる。なお、このとき、蓋部11のフランジ部11aは、押え部材14により押さえつけられているので、注湯針13の先端で確実に蓋部11を破ることができる。
【0055】
お湯を注いでいくと、図7(c)に示すように、フィルターFの内部にお湯が滞留して注湯力及び重力の作用により、折り畳まれていた蛇腹部10aが伸びる。これにより、フィルターFの上部に滞留空間Eが形成される。これは、注湯した後に水分により膨張したコーヒーの粉末とお湯が滞留して接触するための空間である。滞留空間Eがない場合には、適切な滞留接触が行われないため、薄いコーヒーが抽出されることになる。従って、風味のあるコーヒーを抽出するためには滞留空間Eが必要である。
【0056】
本発明に係るフィルターFによれば、フィルターFを包装した状態では、滞留空間Eが形成されていないため、その分、フィルターFを小さなサイズに保持しておくことができる。一方、コーヒーの抽出を行うときは、注湯動作に伴い、滞留空間Eが形成される。これにより、従来と同じように風味のあるコーヒーを抽出することができる。
【0057】
注湯針13から注ぎこまれるお湯の量は予め設定されており、抽出された所定量のコーヒーがカップCの中に注ぎ込まれる。本発明に係るフィルターFは、樹脂性の容器を備えていないので、底部に抽出用の針は必要ない。
【0058】
抽出が終了すると、注湯針13は上昇し、待機位置に復帰する。抽出済みのフィルターFは不図示の機構により、廃棄ボックスへと移動させられる。
【0059】
<フィルターの製造工程(第2実施形態)>
次に、本発明に係るフィルターの製造工程(第2実施形態)について図8により説明する。図4に示すシートSを用いる点は同じである。図8において、工程(a)(b)は、第1実施形態と同じなので説明を省略する。シートSの素材も同じである。
【0060】
図8(c)に示すように、お椀形状のフィルター部10を成形した後、フィルター部10の内部に内型26を挿入する。内型26の外周には、蛇腹部を成形するための成形溝26aが形成されている。成形溝26aは、2段に形成されている。内型26は、常温に設定される。
【0061】
溝成形用型27がフィルター部10の外側に配置される。溝成形用型27は先端部27aが形成されており、これを成形溝26aに押し付けることで、蛇腹部10aが成形される。溝成形用型27は、図6に示すような2つ割の金型を用いてもよいが、円盤形状(成形ローラ)に形成して、内型26に押しつけながら、内型26の外周を回転させることで、蛇腹部10aを成形してもよい。図8(c)の例では、上段の溝を成形したのち、下段の溝を成形することができる。もちろん、一度に2段の溝が成形できるように、溝成形用型27に上下2段の先端部27aを設けてもよい。
【0062】
溝成形用型27の先端部27aの溝のピッチは、図5(c)に示す2つ割半円ブロックの山形突起22aの溝のピッチよりも小さくなっている。例えば、先端部27aの溝ピッチは2.5mm(形成される蛇腹部10aの長さは5mm)であり、図5(c)の場合の約半分に設定されている。
【0063】
溝成形用型27は60℃(注湯温度よりも低い温度)に設定されている。このような温度設定を行っているのは、フィルター素材の有する熱成形による形状記憶特性を利用するためである。すなわち、図9に示すように100℃近いお湯を注ぐことで、蛇腹部10aが元の形に戻ろうとする力が作用する。従って、蛇腹部10aを容易に伸ばすことができる。なお、溝成形用型27の60℃はお湯の温度(100℃)よりも低い温度(低温)であり、ヒーターブロック21の150℃〜180℃は湯温よりも高い温度である。かかる温度設定により、素材の形状記憶特性を活用することができる。したがって、60℃及び150℃〜180℃という温度設定は、上記目的を達成可能な範囲内で設定変更可能である。以上のように作製されたフィルター部10の形状は図9に示される。
【0064】
図8の場合、図5に示す押えブロック24は設けられていないので、蛇腹部10aを成形しても蛇腹部10aの厚さが薄くなることはない。ただし、お椀形状の全高は、蛇腹部10aを成形することで低くなる。
【0065】
<抽出工程(第2実施形態)>
第2実施形態の製造方法で作成したフィルターを用いてコーヒーを抽出するときの手順を図9により説明する。図7に示す抽出工程と大きく異なるのは、図9(c)である。
【0066】
フィルターFの内部にお湯が注入されると、素材の形状記憶特性により、蛇腹部10aが形成される前の形状に戻ろうとする力が作用する。これにより、フィルターFの上部に滞留空間Eが形成される。
【0067】
<包装工程(第1・第2実施形態)>
次に、コーヒー粉末を充填して包装するまでの工程を図10により説明する。図10(a)に示すように、フィルター部10の蛇腹部10aを折りたたんだ状態にセットする(第1実施形態の製法によるフィルターの場合)。ちなみに、第2実施形態による製法の場合、第1実施形態と比較して、蛇腹部10aのピッチが小さいため、蛇腹を折り畳む工程は不要である。
【0068】
次に、(b)に示すように、コーヒー粉末Dをフィルター部10の内部に充填する。このとき、フィルター部10の内部容積いっぱいになる程度(図示のように隙間が生じない程度)にコーヒー粉末Dが充填される。
【0069】
このとき、タンピングによりコーヒー粉末に圧縮を加えながら充填することが好ましい。これにより、充填された部分の硬さを上昇させることができ、包装紙により包装した状態で蛇腹部10aが伸びることを防止することができる。また、フィルターFに外圧が作用しても、へこみにくくすることができる。
【0070】
次に、蓋部11をかぶせてフィルター部10が封止される。このとき、フィルター部10のフランジ部10bと蓋部11のフランジ部11aが接着される。
【0071】
蓋部11の接着が完了した後、図10(d)に示すように、フィルターFの上下を逆にセットしてから包装紙12による包装が行われる。この包装紙12の内部に窒素を注入して空気(酸素)の量を少なくする。これにより、袋を膨らませてフィルターFに外圧がかかりにくくなる。また、コーヒーの酸化による品質劣化を防止することも兼ねている。
【0072】
さらに、上記にように包装することで、フィルターFの内部に酸素が入りにくくなり、品質が劣化しない。例えば、包装紙12により包装しない場合、フィルター部10と蓋部11の接着部分の間にコーヒー粉末を挟んだまま接着すると、接着部分の隙間から内部に酸素が入り込み、品質が劣化する。しかし、本発明の場合は、包装紙12により内部に酸素が少ない状態で包装しているので、接着部分に不良があったとしても、上記のような不具合は生じない。
【0073】
包装完了状態では、蛇腹部10aが形成された状態でフィルターFが包装されている。また、蛇腹部10aを伸ばそうとしても、上記のように窒素ガスを注入して膨らませているので、容易に蛇腹部10aを伸ばすことはできない。以上のように、包装した後は、蛇腹部10aを折り畳んだ状態が保持される。
【0074】
<フィルターの包装状態(第1・第2実施形態)>
次に、フィルターFの包装状態を図10(d)により説明する。図示のように、蛇腹部10aが形成された状態で包装紙12に包装される。第1実施形態によるフィルターFの場合、蛇腹部10aを伸ばした状態のフィルターFの高さは33mmであるが、折りたたむことで高さが25mmになる。また、第2実施形態によるフィルターFの場合、成形されたフィルターFの高さが、すでに25mm程度になっている。従って、高さ寸法を小さくすることができ、運送時や保管時などに嵩張らないようにすることができる。
【0075】
包装紙12の寸法は、平面視で110mm×110mmの正方形(四方シールの場合)、あるいは、90mm×120mmの長方形(三方シールの場合)である。包装した状態での高さ寸法は27mmである。フィルター部10や蓋部11には、酸素バリア性や湿度バリア性はないので、包装素材はバリア性を有するラミネートフィルム(例えば、アルミ蒸着フィルム)を用いることが好ましい。もちろん、包装紙12の寸法は、上記に限定されるものではなく、適宜設定できるものである。
【0076】
<蓋部材質の別実施形態>
本実施形態で説明した蓋部11の材質は、ラミネートされた樹脂製フィルムであったが、これに限定されるものではない。例えば、不織布のみの単層構造とすることができる。これにより、蓋部11の上方からお湯を注ぐだけで、フィルター内部にお湯を浸透させていくことができる。このように、注湯針を上から差し込まないタイプのフィルターに関しても、本発明は適用できるものである。
【0077】
<別実施形態>
本発明に係る飲料用抽出フィルターは、コーヒー用(レギュラーコーヒー、インスタントミルクコーヒー等を含む。)に限定されるものではなく、紅茶、ココア、緑茶、ウーロン茶その他の適宜の嗜好品に対して応用できるものである。
【0078】
蛇腹部の具体的な形状については、種々の変更が可能である。例えば、蛇腹の山谷の数は適宜変更可能である。また、山谷の深さについても適宜変更可能である。また、蛇腹の段数設定もフィルターの大きさ・材質等を考慮して、適宜設定可能である。
【0079】
本発明において、フィルター部はお椀形状を有するが、お椀形状については図3に示すような曲線のみで形成されるものに限定されるものではない。角ばった形状を有していてもよい。要するに、内部に嗜好品を充填可能な形状を有していればよい。
【0080】
フィルター部の素材として、スパンボンド不織布を用いているが、成型加工特性や形状記憶特性を有する素材であれば、上記に限定されるものではなく、種々の素材を使用することが可能である。
【0081】
本発明において、「蛇腹が折りたたまれた状態」とは、完全に折り畳まれた状態、すなわち、山谷が完全に密着した状態のみを指すものではない。また、「蛇腹が伸びた状態」とは、完全に伸びきった状態のみを指すものではない。「蛇腹が折りたたまれた状態」と「蛇腹が伸びた状態」は、あくまでも相対的な関係を示すための表現である。蛇腹が伸びて長さが長くなった状態と、蛇腹が縮んで短くなった状態をそれぞれ表している。
【0082】
本実施形態において、1枚の不織布の矩形シートから2つのフィルターを作製する実例を図4により説明した。1枚のシートから、何個のフィルターを作製するかについては、適宜設定できるものである。また、シート形状は矩形に限定されるものではなく、円形、正方形、楕円形等、種々変形例が考えられる。
【0083】
図5で示す製造工程では、プレート形状の下型20を用いたが、これに代えて、図11に示すような雌型ブロック25を用いてもよい。この雌型ブロック25と、図6に示す雄型ヒーターブロック21により、お椀形状のフィルター部11を成形することができる。この場合、エッジ部25aにR形状を設けておくことが好ましい。これにより、素材の破れなどの不具合を防ぐことができる。
【図面の簡単な説明】
【0084】
【図1】コーヒー等抽出装置の外観構成を示す斜視図
【図2】フィルターセット部を引き出した状態を示す図
【図3】フィルターの構成を示す図
【図4】フィルターを作製するシート状部材を示す図
【図5】フィルターの製造工程を示す図(第1実施形態)
【図6】図5における2つ割半円ブロックの構成を示す平面図
【図7】コーヒーの抽出工程を示す図(第1実施形態)
【図8】フィルターの製造工程を示す図(第2実施形態)
【図9】コーヒーの抽出工程を示す図(第2実施形態)
【図10】フィルター製品の包装工程を示す図
【図11】雌型ブロックの構成を示す図
【符号の説明】
【0085】
C カップ
D コーヒー粉末
E 滞留空間
F フィルター
S シート
5 フィルターセット部
10 フィルター部
10a 蛇腹部
10b フランジ部
11 蓋部
11a フランジ部
11b つまみ部
12 包装紙
13 注湯針
21 ヒーターブロック
22 2つ割半円ブロック
24 押えブロック
【技術分野】
【0001】
本発明は、飲料用抽出装置の所定位置にセットされる飲料用抽出フィルター及びその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
コーヒー、紅茶、緑茶等の嗜好品は、これらを粉末状にしたものを飲料用抽出フィルターに収容して、飲料用抽出装置の所定位置にセットされ、上部から注湯することで、ホットコーヒー、ホット紅茶などを作ることができる。飲料用抽出フィルターがセットされる飲料用抽出装置は、主として業務用に使用されるものであるが、家庭用でも使用可能な小型化されたものも普及している。
【0003】
かかる飲料用抽出フィルターと飲料用抽出装置に関しては、下記特許文献1に開示されるコーヒー等の抽出措置が知られている。この抽出装置では、粉末状の嗜好品が収容されるカートリッジが用いられている。このカートリッジは樹脂製の容器により形成され、この容器の内部にフィルター部が収容されている。容器の上部は蓋部により封止されている。蓋部はフィルム製のシートにより形成される。
【0004】
コーヒー等を抽出するときは、カートリッジ上部の蓋部から注湯用針を貫通させて、あるいは、上部の蓋部から直接、お湯を注ぎこむ。また、カートリッジ底部から抽出用針が貫通させられる。これにより、カートリッジから嗜好品が抽出されて、カートリッジの下部に載置されているコーヒーカップ等に注ぐことができる。
【0005】
【特許文献1】特開2005−110835号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記従来技術における課題は以下の通りである。嗜好品を収容したカートリッジは、樹脂性の容器の内部にフィルターを設けている構成であるため、カートリッジのコストを低減するには限界があった。また、樹脂製の容器はサイズを小さくするのに限度があり、包装して運送するときに嵩張るという問題もある。さらに、樹脂性の容器を使用したカートリッジは、廃棄するときに樹脂の部分と紙の部分とを分別しなければならず、面倒である。
【0007】
本発明は上記実情に鑑みてなされたものであり、その課題は、飲料用抽出装置に使用される飲料用抽出フィルターにおいて、そのコストを低減することができ、運送する時も嵩張らず、廃棄処分も容易に行い得る構成を備えた飲料用抽出フィルター及びその製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するため本発明に係る飲料用抽出フィルターは、
飲料用抽出装置の所定位置にセットされる飲料用抽出フィルターであって、
嗜好品が収容されるフィルター部と、このフィルター部の上部に取り付けられる平板状の蓋部と、を備え、
フィルター部の上部近傍に蛇腹部を形成し、前記所定位置にセットして、蓋部を介して注湯した後に、前記蛇腹部の蛇腹が伸びるように構成したことを特徴とするものである。
【0009】
この構成による飲料用抽出フィルターの作用・効果を説明する。このフィルターは、嗜好品が収容されるフィルター部と、フィルター部の上部に取り付けられる平板状の蓋部により構成される。嗜好品の抽出を行うときは、蓋部から注湯針を貫通させることで、お湯を注ぐ。あるいは、上部の蓋部から直接お湯を注ぎこむ。抽出された嗜好品は、フィルター部から注ぎ出され、そのままカップ等に注がれる。樹脂製の容器は用いられておらず、その分、コストを低減させることができる。さらに、樹脂性の容器を必要としないので、廃棄するときに分別作業が不要となる。
【0010】
また、フィルター部の上部には、蛇腹部が設けられており、装置にセットするまでは、蛇腹部が形成されている状態に保持可能である。従って、運送するときなど、嵩張らないようにすることができる。嗜好品の抽出を行うときは、フィルター部の内部において、嗜好品が収容されている部分の上部に空間が必要であるが、注湯をして抽出を開始すると、注湯力あるいは重力の作用により、蛇腹部が伸びて上記空間が形成される。この空間は、湯により膨張した嗜好品と湯が滞留接触するために必要なものであり、これにより、十分な抽出を行うことができるようになる。
【0011】
本発明において、前記蛇腹の段数は少なくとも2段であることが好ましい。少なくとも2段の蛇腹を形成することで、フィルターの高さを小さくすることができると共に、抽出を行うときに適切な大きさの空間を形成させることができる。
【0012】
本発明において、前記フィルター部はお椀形状を呈しており、前記蓋部はお椀形状の上部外径よりも大径のフランジ部分と、このフランジ部分から更に突出したつまみ部分とを有することが好ましい。
【0013】
この構成によると、蓋部はお椀形状を呈するフィルター部よりも大径のフランジ部分を有する。このフランジ部分を利用して、飲料用抽出装置の所定位置に載置することができる。また、つまみ部分が一体形成されており、例えば、抽出済みのフィルターを上記所定位置から取り除くときに、つまみ部分を手で持ちながら行うことができる。
【0014】
本発明において、前記蓋部は不織布により形成されることが好ましい。これにより、蓋部から注湯針を差し込まなくても、お湯を注ぐことができる。また、本発明に係る前記蓋部をラミネートフィルムにより形成し、少なくも1層はシール性を有する非透水性の樹脂フィルムにより構成することもできる。かかる蓋部の場合は、蓋部から注湯針を差し込むことにより、お湯を注ぐことができる。
【0015】
上記課題を解決するため本発明に係る飲料用抽出フィルターの製造方法は、
シート状の素材から、お椀形状の前記フィルター部を成形するステップと、
前記フィルター部の前記上部近傍に前記蛇腹部を成形するステップと、を有することを特徴とするものである。
【0016】
この構成による飲料用抽出フィルターの製造方法の作用・効果を説明する。まず、シート状の素材から、お椀形状のフィルター部を成形する。素材としては、例えば、成形性に優れたスパンボンド不織布を用いることができる。次いで、お椀形状の上部近傍に蛇腹部を成形する。これにより、蛇腹部を有するフィルター部が作製される。かかる構成により、前述のように、コストを低減することができ、運送する時も嵩張らず、廃棄処分も容易に行い得る構成を備えた飲料用抽出フィルターを製造することができる。
【0017】
本発明において、前記蛇腹部が形成されたフィルター部の内部に嗜好品を充填するステップと、嗜好品を充填した後に、蓋部をかぶせるステップと、前記蛇腹部が形成された状態のまま、飲料用抽出フィルターを包装紙で包装するステップ、とを有することが好ましい。
【0018】
蛇腹部が形成されたフィルター部に嗜好品を充填するときは、蛇腹が形成された状態で嗜好品を充填させる。充填後に蓋部により封止を行い、さらに包装紙によりフィルター全体を包装する。包装は、蛇腹が形成された状態で行う。従って、多数のフィルターを運送する時も嵩張らないようにすることができる。
【0019】
本発明において、前記シート状の素材は、熱成形による形状記憶特性を有する不織布であることが好ましい。
【0020】
かかる素材として、例えば、スパンボンド不織布を用いることができる。熱成形による形状記憶特性を有する素材を用いることで、嗜好品を抽出するときに、お湯を注ぐときに、そのお湯の温度により、蛇腹部が成形される前の前記お椀形状に戻ろうとする力が作用し、前述の滞留空間を容易かつ確実に形成することができる。
【0021】
本発明において、前記蛇腹部を成形するステップは、前記お椀形状の高さを保持したまま行われることが好ましい。
【0022】
お椀形状に成形されたフィルター部の高さを保持したまま蛇腹部を成形するので、蛇腹部の厚さは、他の部分に比べて薄くなる。従って、蛇腹部の折り畳みや伸長を行いやすくすることができる。
【0023】
本発明において、前記フィルター部の成形ステップ及び前記蛇腹部の成形ステップは、嗜好品抽出時の注湯温度よりも高い温度環境で行われることが好ましい。
【0024】
かかる温度設定で成形を行うことで、お椀形状のフィルター部や蛇腹部の成形を適切に行うことができる。また、嗜好品の抽出時には、注湯力及び重力の作用により、蛇腹部が伸びた状態にすることができる。
【0025】
本発明において、前記フィルター部の成形ステップは、嗜好品抽出時の注湯温度(例えば、100℃)よりも高い温度環境(例えば、150℃)で行われ、前記蛇腹部の成形ステップは、前記注湯温度よりも低い温度環境(例えば、60℃)で行われることが好ましい。
【0026】
かかる温度環境でフィルター部の成形を行うことで、嗜好品の抽出時に注湯することで、熱成形による形状記憶特性を有する不織布の特性により、蛇腹部が成形される前の前記お椀形状に戻ろうとする力が作用し、蛇腹部のない形状に戻ろうとする。これにより、滞留空間を形成することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0027】
本発明に係る飲料用抽出フィルターの好適な実施形態を図面を用いて説明する。具体的には、コーヒー等(コーヒー、紅茶、緑茶等)を抽出するためのコーヒー等抽出フィルター(以下、単に「フィルター」という。)の実施形態を説明する。まず最初に、本発明に係るフィルターが使用されるコーヒー等抽出装置(以下、単に「抽出装置」という。)の構成を簡単に説明する。
【0028】
<コーヒー抽出装置の構成>
図1は、抽出装置の外観構成を示す斜視図である。抽出装置は、加熱・保温式貯湯容器1と、不図示の電動ポンプ、抽出機構、通湯パイプ、注湯針などを備えている。電動ポンプにより貯湯容器1内の湯を注湯針へと給送させる。注湯針は、フィルターの蓋部の上方に位置し、注湯針の先端が蓋部を貫通するように動作させられる。
【0029】
抽出装置の正面側はユーザーが操作する操作部等が設けられている。開始ボタン2は、これを押すことにより、抽出動作が開始する。水量表示部3は、貯湯容器1内の水量レベルを外部表示させる。水が減ってきた場合は、装置の天面に設けられている注入口1aを介して、水を補給することができる。抽出状況表示部4は、抽出状況を視覚的に表示させる。ユーザーは、この抽出状況表示部4を見ることで、抽出が終了したか否かを判断することができる。
【0030】
フィルターセット部5は、本発明に係るフィルターをセットする箇所である。引き出し式になっており、凹部5aに手を入れることで、フィルターセット部5を手前に引き出すことができる。カップCは、載置部6の上に載置される。
【0031】
図2は、フィルターセット部5の構成を示す斜視図であり、引き出した状態を示している。外観カバー部材7は、左右一対のガイドレール8により、前後方向にスライド自在に保持されている。フィルターFを所定位置にセットするためのセット容器9が保持される。セット容器9の上端部がフィルターFが載置される載置面であり、所定位置に相当する。セット容器9は、保持ピン9aが一体的に設けられており、ガイドレール8に取り付けられた保持プレート8aに保持される。
【0032】
セット容器9は、保持ピン9aにより回転自在に保持されており、抽出が終了して不要になったフィルターFは、セット容器9を不図示の機構で回転させることで、セット容器9から強制的に落下させられて、不図示の回収ボックス内に回収される。
【0033】
<フィルターの構成>
図3は、フィルターFの構成を示す図である。図3(a)は平面図、(b)は蛇腹を伸ばした状態の側面図、(c)は蛇腹を折り畳んだ状態の側面図である。なお、図3は後述の第1実施形態に係る製造方法により製造されたフィルターFを図示するものである。
【0034】
図示のように、フィルターFは、フィルター部10と、蓋部11により構成される。フィルター部10は、不織布で形成されるが、好ましくは、旭化成せんい株式会社のスパンボンド不織布(商品名「スマッシュ」)が使用される。この素材は、特殊ポリエステル長繊維不織布であり、熱可塑性の特長を持ち、加熱すると変形が容易となり、加熱プレス成型加工ができるという特徴がある。また、湯温への耐久性などの点で優れており、安定した抽出を行うことができる。
【0035】
フィルター部10は、全体的な形状がお椀形状(あるいは、半楕円形、半卵形)を呈している。その底部はなだらかな曲線を描くような形状を有している。上部の外径寸法は、例えばφ45mmであり、蓋部11との接着のためにフランジ部10bも一体的に形成される。フランジ部10bの外径寸法はφ55mmである。
【0036】
フィルターFの上部近傍には、蛇腹部10aが形成される。蛇腹部10aは、2段の谷部を有しており、ピッチは5.0mmに形成される。したがって、蛇腹部10aの全長は、図3(b)の状態で10mmである。蛇腹部10aは、蓋部11の位置から下方3mmの位置(上部近傍に相当)から形成される。すなわち、蛇腹部10aの形成範囲は、蓋部11の位置から下方へ3mm〜13mmとなる。上記の3mmという数値設定は、これに限定されるものではなく、例えば、数mm程度に設定すればよい。
【0037】
コーヒーの抽出を行うまでは、蛇腹部10aは、図3(c)に示すように折り畳まれた状態に保持される。上部からお湯が注ぎ込まれると、その注湯力および重力の作用により、図3(b)に示すように、蛇腹部10aが伸びた状態になる。蛇腹部10aが折り畳まれた状態で、フィルター部10の内部にはコーヒーの粉末がほぼ隙間なく充填されている。蛇腹部10aが伸びると、充填されているコーヒーの上部に空間が形成される。かかる空間を形成するために、蛇腹部10aは蓋部11の近傍に形成される。
【0038】
上記空間は滞留空間と呼ばれるものであり、注湯した後に水分により膨張したコーヒーの粉末とお湯が滞留して接触するための空間である。この空間がない場合には、適切な滞留接触が行われないため、薄いコーヒーが抽出されることになる。従って、風味のあるコーヒーを抽出するためには滞留空間が必要である。
【0039】
蓋部11の形状は図3(a)に示すように平板状(あるいは、シート状)である。蓋部11は、フランジ部11aを有しており、フィルター部10のフランジ部10bと同じ外径寸法を有している。また、つまみ部11bが一体形成されている。フィルターFを抽出装置にセットしてコーヒーの抽出を行い、抽出済みのフィルターFを取り除くときは、このつまみ部11bを手で持って行うことができる。
【0040】
蓋部11の素材は、ラミネートされた樹脂製フィルムが好ましい。例えば、レーヨン、PET(ポリエチレンテレフタレート)、LLDPE(直鎖状低密度ポリエチレン)の三層ラミネートフィルム、あるいは、レーヨン、CP(二方向延伸ポリプロピレン)の二層ラミネートフィルムが好ましい。これらの素材は、いずれもシール性を有する非透水性の樹脂フィルムである。なお、非透水性を有するものであれば、他の材質のものを適宜使用することができる。
【0041】
蓋部11には、注湯針により貫通孔を形成する必要があり、蓋部11のフランジ部11aとフィルター部10のフランジ部10bの接着は、ある程度の形状保持力が必要とされる。また、注湯針を貫通させるために蓋部11の耐衝撃性が大きすぎると、貫通がしにくくなる。すなわち、注湯針の大きさがφ5mmであり、容易に孔が形成できる必要がある。ただし、あまり弱すぎると、貫通動作時に素材が裂けてしまう可能性がある。
【0042】
さらに、注湯孔の貫通後は、加圧されたお湯を注入するために、蓋部11から湯が漏れないように、疎水性の素材であることが要求される。また、ラミネートされた最外装は、環境に配慮しているという雰囲気を出すため、紙調の仕上がり外観とし、天然素材を利用しているということを感じさせる素材が好ましい。
【0043】
レーヨンは、天然のセルロースを化学分解し繊維状に形成することで不織布とすることができる。CPは、低温シール性を有し、安価な素材である。LLDPEは、低温シール性を有し、フィルター部11の不織布内に浸透していく性質を有している。LLDPEを用いることで、熱シールが可能になる。なお、CPでも熱シールは可能であるが、通常、不織布をシールするときには、不織布の熱伝導性が悪いため、超音波シール(ウルトラソニック)が必要になる。
【0044】
すなわち、上記素材を蓋部11の素材として選択した場合、フィルター部10との接着は、ラミネートの最下層にあるLLDPEまたはCPがシール材として機能する。接着する場合は、これらの素材に熱を与えてゲル化させることで、ゲル化した樹脂がフィルター部10内の繊維内に浸透して、冷却後固化して接着が完了することになる。
【0045】
PETは、蓋部11の硬度を保持するためと、注湯針で孔を開けるときの開封性を上げるために使用する。また、抽出時の加圧熱湯への耐圧性を確保する目的でも使用される。LLDPEは、延伸性がよく、すぐに伸びてしまうからである。
【0046】
<フィルターの製造工程(第1実施形態)>
次に、本発明に係るフィルターの製造工程(第1実施形態)について説明する。図4は、成形前のシートSの平面図を示している。シートSは矩形状に形成されており、6か所を押え部材23により押えられる。また、シートSは予熱することで成形が行いやすくなるので、予め、50℃〜80℃程度に予熱する。S1,S2で示すのは後述のヒーターブロック21で押え成形を行う箇所がS1,S2で示される。したがって、図4に示す例では、1枚のシートSから2つのフィルターが作製される。シートSの素材は、前述のように、スパンボンド不織布(商品名「スマッシュ」)を用いることができる。
【0047】
図5は、図4に示すシートSを用いてフィルター部10を作製する工程を示している。まず、図5(a)に示すように、下型20の上に、矩形状に形成されたシートSを載置する。下型20の形状は、矩形プレートに、図4で示すS1,S2に対応した穴が形成されている。雄型ヒーターブロック21は、お椀形状を有する本体部21aと、本体部21aの上部に一体的に設けられるフランジ部21bを有する。本体部21aの内部にはヒーター機構が設けられている。このヒーターブロック21は150〜180℃に加熱されている。
【0048】
雄型ヒーターブロック21を上方から下ろすことで、図5(b)に示すように、フィルター部10の基本形状が成形される。シートSの外周部が下型20と、ヒーターブロック21のフランジ部21bで挟持されることで、フィルター部10のフランジ部10bが形成される。前述のスパンボンド不織布は、加熱成形を行いやすい素材であり、ヒーターブロック21により150〜180℃に加熱した状態にすることで、お椀形状の成形を行いやすくしている。
【0049】
また、お椀形状の成形後に、下方から冷却エアーを吹き付ける。その後、ヒーターブロック21は上方に引き上げられる。
【0050】
次に、蛇腹部10aを形成するために、図5(c)に示すように、2つ割半円ブロック22を用いる。このとき、お椀形状に成形されたフィルター部10のフランジ部10bは不図示の機構により支持されている。半円ブロック22は、図示のように左右一対設けられており、その端面に蛇腹部10aを形成するための山形突起22aが形成されている。なお、2つ割半円ブロック22の平面図は、図6に示される。
【0051】
蛇腹部10aを成形する際には、ヒーターブロック21を脱出させたのち、押えブロック24が挿入される。ヒーターブロック21により成形されるお椀形状の高さは33mmであるが、押えブロック24により、上記33mmの高さが維持されるように挿入される。押えブロック24で押えている間、ヒーターブロック21の場合と同様に、内部に冷却エアーが送り込まれる。
【0052】
2つ割半円ブロック22は、ヒーターブロック21と同様に150〜180℃の低温で加熱しながら蛇腹部10aの成形を行う点に特徴がある。押えブロック24で高さを維持したまま、蛇腹部10aを成形するので、成形された蛇腹部10aは、蛇腹部10a以外の部分よりも厚さが薄くなる。これにより、蛇腹部10aを折り畳みやすくすることができる。
【0053】
<抽出工程(第1実施形態)>
次に、第1実施形態の製造方法により作製されたフィルターによりコーヒーを抽出するときの手順を図7により説明する。図1,2で説明した抽出装置において、フィルターセット部5を引き出す(図2)。また、包装紙12を開封して、フィルターFをセット容器9の上(所定位置)にセットする。次に、フィルターセット部5を閉じる。この状態が図7(a)に示される。このとき、注湯針13は、蓋部11の上方に待機している。
【0054】
開始ボタン2を押すと、上方から注湯針13が下降してきて、その先端部が蓋部11を破りフィルターFの内部へと侵入する(図7(b)参照)。次いで、注湯針13からお湯が注ぎ込まれる。なお、このとき、蓋部11のフランジ部11aは、押え部材14により押さえつけられているので、注湯針13の先端で確実に蓋部11を破ることができる。
【0055】
お湯を注いでいくと、図7(c)に示すように、フィルターFの内部にお湯が滞留して注湯力及び重力の作用により、折り畳まれていた蛇腹部10aが伸びる。これにより、フィルターFの上部に滞留空間Eが形成される。これは、注湯した後に水分により膨張したコーヒーの粉末とお湯が滞留して接触するための空間である。滞留空間Eがない場合には、適切な滞留接触が行われないため、薄いコーヒーが抽出されることになる。従って、風味のあるコーヒーを抽出するためには滞留空間Eが必要である。
【0056】
本発明に係るフィルターFによれば、フィルターFを包装した状態では、滞留空間Eが形成されていないため、その分、フィルターFを小さなサイズに保持しておくことができる。一方、コーヒーの抽出を行うときは、注湯動作に伴い、滞留空間Eが形成される。これにより、従来と同じように風味のあるコーヒーを抽出することができる。
【0057】
注湯針13から注ぎこまれるお湯の量は予め設定されており、抽出された所定量のコーヒーがカップCの中に注ぎ込まれる。本発明に係るフィルターFは、樹脂性の容器を備えていないので、底部に抽出用の針は必要ない。
【0058】
抽出が終了すると、注湯針13は上昇し、待機位置に復帰する。抽出済みのフィルターFは不図示の機構により、廃棄ボックスへと移動させられる。
【0059】
<フィルターの製造工程(第2実施形態)>
次に、本発明に係るフィルターの製造工程(第2実施形態)について図8により説明する。図4に示すシートSを用いる点は同じである。図8において、工程(a)(b)は、第1実施形態と同じなので説明を省略する。シートSの素材も同じである。
【0060】
図8(c)に示すように、お椀形状のフィルター部10を成形した後、フィルター部10の内部に内型26を挿入する。内型26の外周には、蛇腹部を成形するための成形溝26aが形成されている。成形溝26aは、2段に形成されている。内型26は、常温に設定される。
【0061】
溝成形用型27がフィルター部10の外側に配置される。溝成形用型27は先端部27aが形成されており、これを成形溝26aに押し付けることで、蛇腹部10aが成形される。溝成形用型27は、図6に示すような2つ割の金型を用いてもよいが、円盤形状(成形ローラ)に形成して、内型26に押しつけながら、内型26の外周を回転させることで、蛇腹部10aを成形してもよい。図8(c)の例では、上段の溝を成形したのち、下段の溝を成形することができる。もちろん、一度に2段の溝が成形できるように、溝成形用型27に上下2段の先端部27aを設けてもよい。
【0062】
溝成形用型27の先端部27aの溝のピッチは、図5(c)に示す2つ割半円ブロックの山形突起22aの溝のピッチよりも小さくなっている。例えば、先端部27aの溝ピッチは2.5mm(形成される蛇腹部10aの長さは5mm)であり、図5(c)の場合の約半分に設定されている。
【0063】
溝成形用型27は60℃(注湯温度よりも低い温度)に設定されている。このような温度設定を行っているのは、フィルター素材の有する熱成形による形状記憶特性を利用するためである。すなわち、図9に示すように100℃近いお湯を注ぐことで、蛇腹部10aが元の形に戻ろうとする力が作用する。従って、蛇腹部10aを容易に伸ばすことができる。なお、溝成形用型27の60℃はお湯の温度(100℃)よりも低い温度(低温)であり、ヒーターブロック21の150℃〜180℃は湯温よりも高い温度である。かかる温度設定により、素材の形状記憶特性を活用することができる。したがって、60℃及び150℃〜180℃という温度設定は、上記目的を達成可能な範囲内で設定変更可能である。以上のように作製されたフィルター部10の形状は図9に示される。
【0064】
図8の場合、図5に示す押えブロック24は設けられていないので、蛇腹部10aを成形しても蛇腹部10aの厚さが薄くなることはない。ただし、お椀形状の全高は、蛇腹部10aを成形することで低くなる。
【0065】
<抽出工程(第2実施形態)>
第2実施形態の製造方法で作成したフィルターを用いてコーヒーを抽出するときの手順を図9により説明する。図7に示す抽出工程と大きく異なるのは、図9(c)である。
【0066】
フィルターFの内部にお湯が注入されると、素材の形状記憶特性により、蛇腹部10aが形成される前の形状に戻ろうとする力が作用する。これにより、フィルターFの上部に滞留空間Eが形成される。
【0067】
<包装工程(第1・第2実施形態)>
次に、コーヒー粉末を充填して包装するまでの工程を図10により説明する。図10(a)に示すように、フィルター部10の蛇腹部10aを折りたたんだ状態にセットする(第1実施形態の製法によるフィルターの場合)。ちなみに、第2実施形態による製法の場合、第1実施形態と比較して、蛇腹部10aのピッチが小さいため、蛇腹を折り畳む工程は不要である。
【0068】
次に、(b)に示すように、コーヒー粉末Dをフィルター部10の内部に充填する。このとき、フィルター部10の内部容積いっぱいになる程度(図示のように隙間が生じない程度)にコーヒー粉末Dが充填される。
【0069】
このとき、タンピングによりコーヒー粉末に圧縮を加えながら充填することが好ましい。これにより、充填された部分の硬さを上昇させることができ、包装紙により包装した状態で蛇腹部10aが伸びることを防止することができる。また、フィルターFに外圧が作用しても、へこみにくくすることができる。
【0070】
次に、蓋部11をかぶせてフィルター部10が封止される。このとき、フィルター部10のフランジ部10bと蓋部11のフランジ部11aが接着される。
【0071】
蓋部11の接着が完了した後、図10(d)に示すように、フィルターFの上下を逆にセットしてから包装紙12による包装が行われる。この包装紙12の内部に窒素を注入して空気(酸素)の量を少なくする。これにより、袋を膨らませてフィルターFに外圧がかかりにくくなる。また、コーヒーの酸化による品質劣化を防止することも兼ねている。
【0072】
さらに、上記にように包装することで、フィルターFの内部に酸素が入りにくくなり、品質が劣化しない。例えば、包装紙12により包装しない場合、フィルター部10と蓋部11の接着部分の間にコーヒー粉末を挟んだまま接着すると、接着部分の隙間から内部に酸素が入り込み、品質が劣化する。しかし、本発明の場合は、包装紙12により内部に酸素が少ない状態で包装しているので、接着部分に不良があったとしても、上記のような不具合は生じない。
【0073】
包装完了状態では、蛇腹部10aが形成された状態でフィルターFが包装されている。また、蛇腹部10aを伸ばそうとしても、上記のように窒素ガスを注入して膨らませているので、容易に蛇腹部10aを伸ばすことはできない。以上のように、包装した後は、蛇腹部10aを折り畳んだ状態が保持される。
【0074】
<フィルターの包装状態(第1・第2実施形態)>
次に、フィルターFの包装状態を図10(d)により説明する。図示のように、蛇腹部10aが形成された状態で包装紙12に包装される。第1実施形態によるフィルターFの場合、蛇腹部10aを伸ばした状態のフィルターFの高さは33mmであるが、折りたたむことで高さが25mmになる。また、第2実施形態によるフィルターFの場合、成形されたフィルターFの高さが、すでに25mm程度になっている。従って、高さ寸法を小さくすることができ、運送時や保管時などに嵩張らないようにすることができる。
【0075】
包装紙12の寸法は、平面視で110mm×110mmの正方形(四方シールの場合)、あるいは、90mm×120mmの長方形(三方シールの場合)である。包装した状態での高さ寸法は27mmである。フィルター部10や蓋部11には、酸素バリア性や湿度バリア性はないので、包装素材はバリア性を有するラミネートフィルム(例えば、アルミ蒸着フィルム)を用いることが好ましい。もちろん、包装紙12の寸法は、上記に限定されるものではなく、適宜設定できるものである。
【0076】
<蓋部材質の別実施形態>
本実施形態で説明した蓋部11の材質は、ラミネートされた樹脂製フィルムであったが、これに限定されるものではない。例えば、不織布のみの単層構造とすることができる。これにより、蓋部11の上方からお湯を注ぐだけで、フィルター内部にお湯を浸透させていくことができる。このように、注湯針を上から差し込まないタイプのフィルターに関しても、本発明は適用できるものである。
【0077】
<別実施形態>
本発明に係る飲料用抽出フィルターは、コーヒー用(レギュラーコーヒー、インスタントミルクコーヒー等を含む。)に限定されるものではなく、紅茶、ココア、緑茶、ウーロン茶その他の適宜の嗜好品に対して応用できるものである。
【0078】
蛇腹部の具体的な形状については、種々の変更が可能である。例えば、蛇腹の山谷の数は適宜変更可能である。また、山谷の深さについても適宜変更可能である。また、蛇腹の段数設定もフィルターの大きさ・材質等を考慮して、適宜設定可能である。
【0079】
本発明において、フィルター部はお椀形状を有するが、お椀形状については図3に示すような曲線のみで形成されるものに限定されるものではない。角ばった形状を有していてもよい。要するに、内部に嗜好品を充填可能な形状を有していればよい。
【0080】
フィルター部の素材として、スパンボンド不織布を用いているが、成型加工特性や形状記憶特性を有する素材であれば、上記に限定されるものではなく、種々の素材を使用することが可能である。
【0081】
本発明において、「蛇腹が折りたたまれた状態」とは、完全に折り畳まれた状態、すなわち、山谷が完全に密着した状態のみを指すものではない。また、「蛇腹が伸びた状態」とは、完全に伸びきった状態のみを指すものではない。「蛇腹が折りたたまれた状態」と「蛇腹が伸びた状態」は、あくまでも相対的な関係を示すための表現である。蛇腹が伸びて長さが長くなった状態と、蛇腹が縮んで短くなった状態をそれぞれ表している。
【0082】
本実施形態において、1枚の不織布の矩形シートから2つのフィルターを作製する実例を図4により説明した。1枚のシートから、何個のフィルターを作製するかについては、適宜設定できるものである。また、シート形状は矩形に限定されるものではなく、円形、正方形、楕円形等、種々変形例が考えられる。
【0083】
図5で示す製造工程では、プレート形状の下型20を用いたが、これに代えて、図11に示すような雌型ブロック25を用いてもよい。この雌型ブロック25と、図6に示す雄型ヒーターブロック21により、お椀形状のフィルター部11を成形することができる。この場合、エッジ部25aにR形状を設けておくことが好ましい。これにより、素材の破れなどの不具合を防ぐことができる。
【図面の簡単な説明】
【0084】
【図1】コーヒー等抽出装置の外観構成を示す斜視図
【図2】フィルターセット部を引き出した状態を示す図
【図3】フィルターの構成を示す図
【図4】フィルターを作製するシート状部材を示す図
【図5】フィルターの製造工程を示す図(第1実施形態)
【図6】図5における2つ割半円ブロックの構成を示す平面図
【図7】コーヒーの抽出工程を示す図(第1実施形態)
【図8】フィルターの製造工程を示す図(第2実施形態)
【図9】コーヒーの抽出工程を示す図(第2実施形態)
【図10】フィルター製品の包装工程を示す図
【図11】雌型ブロックの構成を示す図
【符号の説明】
【0085】
C カップ
D コーヒー粉末
E 滞留空間
F フィルター
S シート
5 フィルターセット部
10 フィルター部
10a 蛇腹部
10b フランジ部
11 蓋部
11a フランジ部
11b つまみ部
12 包装紙
13 注湯針
21 ヒーターブロック
22 2つ割半円ブロック
24 押えブロック
【特許請求の範囲】
【請求項1】
飲料用抽出装置の所定位置にセットされる飲料用抽出フィルターであって、
嗜好品が収容されるフィルター部と、
このフィルター部の上部に取り付けられる平板状の蓋部と、を備え、
フィルター部の上部近傍に蛇腹部を形成し、前記所定位置にセットして、蓋部を介して注湯した後に、前記蛇腹部の蛇腹が伸びるように構成したことを特徴とする飲料用抽出フィルター。
【請求項2】
前記蛇腹の段数は少なくとも2段であることを特徴とする請求項1に記載の飲料用抽出フィルター。
【請求項3】
前記フィルター部はお椀形状を呈しており、前記蓋部はお椀形状の上部外径よりも大径のフランジ部分と、このフランジ部分から更に突出したつまみ部分とを有することを特徴とする請求項1又は2に記載の飲料用抽出フィルター。
【請求項4】
前記蓋部は不織布により形成されることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の飲料用抽出フィルター。
【請求項5】
前記蓋部はラミネートフィルムであり、少なくとも1層はシール性を有する非透水性の樹脂フィルムにより構成されることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の飲料用抽出フィルター。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれか1項に記載の飲料用抽出フィルターの製造方法であって、
シート状の素材から、お椀形状の前記フィルター部を成形するステップと、
前記フィルター部の前記上部近傍に前記蛇腹部を成形するステップと、を有する飲料用抽出フィルターの製造方法。
【請求項7】
前記蛇腹部が形成されたフィルター部の内部に嗜好品を充填するステップと、
嗜好品を充填した後に、蓋部をかぶせるステップと、
前記蛇腹部が形成された状態のまま、飲料用抽出フィルターを包装紙で包装するステップ、とを有する請求項6に記載の飲料用抽出フィルターの製造方法。
【請求項8】
前記シート状の素材は、熱成形による形状記憶特性を有する不織布であることを特徴とする請求項6又は7に記載の飲料用抽出フィルターの製造方法。
【請求項9】
前記蛇腹部を成形するステップは、前記お椀形状の高さを保持したまま行われることを特徴とする請求項6〜8のいずれか1項に記載の飲料用抽出フィルターの製造方法。
【請求項10】
前記フィルター部の成形ステップ及び前記蛇腹部の成形ステップは、嗜好品抽出時の注湯温度よりも高い温度環境で行われることを特徴とする請求項6〜9のいずれか1項に記載の飲料用抽出フィルターの製造方法。
【請求項11】
前記フィルター部の成形ステップは、嗜好品抽出時の注湯温度よりも高い温度環境で行われ、前記蛇腹部の成形ステップは、前記注湯温度よりも低い温度環境で行われることを特徴とする請求項8に記載の飲料用抽出フィルターの製造方法。
【請求項1】
飲料用抽出装置の所定位置にセットされる飲料用抽出フィルターであって、
嗜好品が収容されるフィルター部と、
このフィルター部の上部に取り付けられる平板状の蓋部と、を備え、
フィルター部の上部近傍に蛇腹部を形成し、前記所定位置にセットして、蓋部を介して注湯した後に、前記蛇腹部の蛇腹が伸びるように構成したことを特徴とする飲料用抽出フィルター。
【請求項2】
前記蛇腹の段数は少なくとも2段であることを特徴とする請求項1に記載の飲料用抽出フィルター。
【請求項3】
前記フィルター部はお椀形状を呈しており、前記蓋部はお椀形状の上部外径よりも大径のフランジ部分と、このフランジ部分から更に突出したつまみ部分とを有することを特徴とする請求項1又は2に記載の飲料用抽出フィルター。
【請求項4】
前記蓋部は不織布により形成されることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の飲料用抽出フィルター。
【請求項5】
前記蓋部はラミネートフィルムであり、少なくとも1層はシール性を有する非透水性の樹脂フィルムにより構成されることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の飲料用抽出フィルター。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれか1項に記載の飲料用抽出フィルターの製造方法であって、
シート状の素材から、お椀形状の前記フィルター部を成形するステップと、
前記フィルター部の前記上部近傍に前記蛇腹部を成形するステップと、を有する飲料用抽出フィルターの製造方法。
【請求項7】
前記蛇腹部が形成されたフィルター部の内部に嗜好品を充填するステップと、
嗜好品を充填した後に、蓋部をかぶせるステップと、
前記蛇腹部が形成された状態のまま、飲料用抽出フィルターを包装紙で包装するステップ、とを有する請求項6に記載の飲料用抽出フィルターの製造方法。
【請求項8】
前記シート状の素材は、熱成形による形状記憶特性を有する不織布であることを特徴とする請求項6又は7に記載の飲料用抽出フィルターの製造方法。
【請求項9】
前記蛇腹部を成形するステップは、前記お椀形状の高さを保持したまま行われることを特徴とする請求項6〜8のいずれか1項に記載の飲料用抽出フィルターの製造方法。
【請求項10】
前記フィルター部の成形ステップ及び前記蛇腹部の成形ステップは、嗜好品抽出時の注湯温度よりも高い温度環境で行われることを特徴とする請求項6〜9のいずれか1項に記載の飲料用抽出フィルターの製造方法。
【請求項11】
前記フィルター部の成形ステップは、嗜好品抽出時の注湯温度よりも高い温度環境で行われ、前記蛇腹部の成形ステップは、前記注湯温度よりも低い温度環境で行われることを特徴とする請求項8に記載の飲料用抽出フィルターの製造方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【公開番号】特開2010−69281(P2010−69281A)
【公開日】平成22年4月2日(2010.4.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−286861(P2008−286861)
【出願日】平成20年11月7日(2008.11.7)
【特許番号】特許第4278706号(P4278706)
【特許公報発行日】平成21年6月17日(2009.6.17)
【出願人】(390006600)ユーシーシー上島珈琲株式会社 (28)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成22年4月2日(2010.4.2)
【国際特許分類】
【出願日】平成20年11月7日(2008.11.7)
【特許番号】特許第4278706号(P4278706)
【特許公報発行日】平成21年6月17日(2009.6.17)
【出願人】(390006600)ユーシーシー上島珈琲株式会社 (28)
【Fターム(参考)】
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