説明

飲料用消泡剤

【課題】コーヒーや紅茶に代表されるpH4.6〜6.9の低酸性飲料の製造工程において空気の抱き込みによる泡の発生を抑制し、更には製造後の振とうなどによる泡の発生が少なく、開栓時の容器からの噴き出しも抑制する消泡剤およびこれを含有する飲料を提供する。
【解決手段】ポリグリセリン脂肪酸エステルを構成するポリグリセリンの平均重合度が2〜20、主構成脂肪酸としてベヘン酸を有してなり、ケン化価が110〜160であることを特徴とする飲料用消泡剤。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、pH4.6〜6.9の低酸性飲料の起泡を抑制する消泡剤に関する。より詳細には特定のポリグリセリン脂肪酸エステルを有効成分とする消泡剤及びそれを含有する低酸性飲料に関する。
【背景技術】
【0002】
コーヒーや紅茶には、芳香や風味が異なる数多くの品種があり、嗜好品として各人の好みにより選択、飲用されている。一般に、これら飲料を充填した飲料が販売されており、コーヒー豆、各種茶葉等の原材料からの抽出、希釈、溶解、調合、そして殺菌のために100℃以上の加熱処理を行なうことにより製品化されている。
【0003】
これら飲料の本来の水素イオン濃度指数(以下「pH」という。)は通常4.6以上であるが、加熱殺菌の工程を経ることによって、pH値の低下を引き起こし、その結果、飲料としては好ましくない酸味を呈したり、経時的な香味の劣化も著しくなる。特に、ミルクコーヒーやミルクティー等の乳成分を含んだ飲料においては、pH値が6以下になると分散化され安定していた乳蛋白質が凝集して沈澱を生じ易くなることから、重曹等を用いて殺菌前にpHを6.5〜7.5に調整するのが常である。
【0004】
ところで、コーヒーや紅茶等の低酸性飲料は容易に起泡し易く、多数の気泡が飲料内または飲料の液面上に発生する場合がある。製造工程において発生する泡は作業性を著しく低下させるだけでなく、飲料液をボトルや缶などの容器に充填する際に飲料液の噴き出し等を引き起こす要因となる。また、消費者が開栓前に容器を振とうしたりして容器内のヘッドスペースに相当量の泡が発生することにより、開栓時に泡が噴き出す等のトラブルが発生する。このため、これらの泡を効率良く消すことは極めて重要であり、ショ糖脂肪酸エステルやグリセリン脂肪酸エステルなどの各種消泡剤を添加する方法が提案されている。
【0005】
ポリグリセリン脂肪酸エステルを有効成分とする飲料用消泡剤には、グリセリンの重合度が6以上、かつHLB値が7以下であるもの(特許文献1)や、ポリグリセリンの平均重合度が4〜12で、その構成脂肪酸やケン化価を特定したもの(特許文献2、3)などが開示されており、これら消泡剤により機械的な剪断力が加わった場合や種々の温度において高い消泡効果を得ることができると述べられている。
【0006】
【特許文献1】特開平8−070827号公報
【特許文献2】特開平9−187257号公報
【特許文献3】特開平9−224620号公報
【0007】
これらの消泡剤は、飲料の製造工程においてpHを7.0以上に調整する場合は効果的に気泡の発生を抑制するものの、低酸性域では消泡効果が著しく低下するという問題が発生していた。
【0008】
pHを高めた飲料は独特のアルカリ味がつき、本来の芳香や風味が損なわれることから、近年、本物に近い品質を求める消費者のニーズに対応してpH6.5以下の商品も増加している。しかし、その製造工程では必ずしも満足できる消泡効果を得られておらず、低酸性域においても発泡を抑制する効果に優れた消泡剤は求められていた。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明の目的は、上記事情に鑑み、コーヒーや紅茶に代表される低酸性飲料の製造工程において撹拌や送液による空気の抱き込みによる泡の発生を抑制し、更には製造後の開栓時の噴き出しを抑制する消泡剤およびこれを含有する飲料を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者が鋭意研究を重ねた結果、特定のポリグリセリンと脂肪酸から構成されたある種のポリグリセリン脂肪酸エステルは、pH4.6〜6.9の低酸性飲料において高い消泡効果を発揮することを見出し、本発明を完成するに至った。
【0011】
即ち本発明は、ポリグリセリン脂肪酸エステルを有効成分とするpH4.6〜6.9の低酸性飲料用消泡剤であって、前記ポリグリセリン脂肪酸エステルを構成するポリグリセリンの平均重合度が2〜20、主構成脂肪酸にベヘン酸を有してなり、ケン化価が110〜160であることを特徴とする消泡剤である。
【0012】
そして本発明は、前記飲料用消泡剤を用いて製造されたpH4.6〜6.9の低酸性飲料である。
【発明の効果】
【0013】
本発明の飲料用消泡剤によれば、pH4.6〜6.9の低酸性飲料の泡立ちを効果的に抑制することができるので、製造の効率化、歩留まりや品質の向上にも寄与するところが大きい。更には、これを含有する飲料が提供され、噴き出しの防止された飲料の製造が可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
本発明を実施形態に基づき以下に説明するが、本発明の範囲はこの実施形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を損なわない範囲で、変更等が加えられた形態も本発明に属する。
【0015】
本実施形態のポリグリセリン脂肪酸エステルは、ポリグリセリンと脂肪酸がエステル化したもので、所定のポリグリセリンと脂肪酸からなり、そのケン化価が限定されたものとなっている。
【0016】
本発明のポリグリセリン脂肪酸エステルを構成するポリグリセリンとしては、平均重合度(n)が2〜20、好ましくは4〜15である。ここで平均重合度(n)とは、末端分析法によって得られる水酸基価から算出される値であり、詳しくは、次式(式1)及び(式2)から平均重合度(n)が算出される。
【0017】
(式1)分子量=74n+18
(式2)水酸基価=56110(n+2)/分子量
【0018】
前記水酸基価とは、エステル化物中に含まれる水酸基数の大小の指標となる数値であり、1gのエステル化物に含まれる遊離のヒドロキシル基をアセチル化するために必要な酢酸を中和するのに要する水酸化カリウムのミリグラム数をいい、水酸化カリウムのミリグラム数は、社団法人日本油化学会編纂、「日本油化学会制定、基準油脂分析試験法(I)、2003年度版」に準じて算出される。
【0019】
本発明のポリグリセリン脂肪酸エステルを構成する脂肪酸は、主構成脂肪酸にベヘン酸を有している。ここで主構成脂肪酸とは、ポリグリセリン脂肪酸エステルを構成する脂肪酸の60重量%以上が前記脂肪酸よりなるが、本発明の目的、効果が達成される範囲で、他の脂肪酸が一種または二種以上含まれていてもよいとの意味である。例えば、炭素数8〜18の飽和脂肪酸と炭素数8〜22の不飽和脂肪酸から選択される一種または二種以上の脂肪酸が挙げられ、飲料の調整条件や消泡力を発揮したい温度帯に合わせてそれらを選択することができる。炭素数8〜18の飽和脂肪酸としては、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸が例示される。一方、炭素数8〜22の不飽和脂肪酸としては、オレイン酸、リノール酸、エルカ酸が例示される。
【0020】
本発明のポリグリセリン脂肪酸エステルは、ケン化価が110〜160の範囲であるが、更に好ましくは、120〜150である。ここでケン化価とは、試料の1gをケン化するのに要する水酸化カリウムの量をミリグラム数で表した値であり、水酸化カリウムのミリグラム数は、社団法人日本油化学会編纂、「日本油化学会制定、基準油脂分析試験法(I)、2003年度版」に準じて算出される。
【0021】
本発明の飲料用消泡剤を使用しうる飲料は、pH4.6〜6.9の範囲内とする低酸性飲料であるが、さらに飲料自体の風味を活かす点を考慮すると、pH4.6〜6.5の範囲内であることが好ましい。具体的には、コーヒー飲料、紅茶飲料、乳成分を含有させた該低酸性乳飲料などが挙げられるが、コーヒーエキス、紅茶エキス、濃縮乳等の濃厚形態の飲料であってもよい。
【0022】
これらの飲料に添加される飲料用消泡剤の量は、該飲料用消泡剤の組成や飲料の種類などによって異なるので一概には決定することができないが、通常、飲料に対して0.005%〜0.1重量%、好ましくは0.01〜0.08重量%である。0.005重量%未満では本発明の消泡効果は期待できず、0.1重量%より多いとコスト高を招くとともに飲料への分散性が悪くなる。
【0023】
本発明の消泡剤は、飲料を製造する各工程で使用することが可能である。その使用方法としては、例えば、予め乳化剤や乳化安定剤との混合物を調製して飲料に添加してもよいし、抽出液や糖分、乳成分などと混合して、或いは同時に添加してもよく、消泡剤が飲料に均一に分散する方法を選択することができる。
【0024】
本発明の消泡剤を含有する飲料には、本発明の効果を損なわない範囲で、通常各種飲料に使用される他の消泡剤が含まれていてもよい。更に、消泡を短時間で、精度良く行なうために超音波を利用する方法など、外的な作用を加えることにより消泡効率を高めることができる。
【0025】
本発明でいう乳化剤としては、ショ糖脂肪酸エステル、ポリグリセリン脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル、サポニン類などが挙げられる。ショ糖脂肪酸エステルは耐熱菌増殖防止のため使用されることが多い乳化剤である。また、乳化安定剤とは、増粘、ゲル化、安定化などの機能をもつ添加物のことをいい、キサンタンガムなどの増粘剤、カラギーナンなどのゲル化剤、安定剤などが挙げられる。
【0026】
本発明において、低酸性飲料には糖分や乳成分の他、副原料としてpH調整剤、乳化剤、乳化安定剤、酸化防止剤、香料等の他の添加剤を適宜配合することができる。
【0027】
飲料の加熱殺菌方法は、レトルト殺菌、ホットパック、無菌充填などを用いることができ、特に限定されず、内容物の性状や容器等によって殺菌条件を適宜設定すればよい。
【0028】
以下に実施例を示して、本発明をさらに具体的に説明するが、本発明は、実施例に限定されるものではない。
【0029】
<実施例1>
平均重合度が6のポリグリセリン100gとベヘン酸306gを反応容器に入れ、水酸化ナトリウムによるアルカリ性及び窒素気流下、250℃で反応させ、ケン化価が133.0のポリグリセリン脂肪酸エステルを得た。
【0030】
<実施例2>
平均重合度が10のポリグリセリン100gとベヘン酸245gを反応容器に入れ、水酸化ナトリウムによるアルカリ性及び窒素気流下、250℃で反応させ、ケン化価が125.5のポリグリセリン脂肪酸エステルを得た。
【0031】
<実施例3>
平均重合度が4のポリグリセリン100gとパルミチン酸79g、ベヘン酸313gから成る混合脂肪酸を反応容器に入れ、水酸化ナトリウムによるアルカリ性及び窒素気流下、250℃で反応させ、ケン化価が148.2のポリグリセリン脂肪酸エステルを得た。
【0032】
<実施例4>
平均重合度が6のポリグリセリン100gとオレイン酸81g、ベヘン酸392gから成る混合脂肪酸を反応容器に入れ、水酸化ナトリウムによるアルカリ性及び窒素気流下、250℃で反応させ、ケン化価が150.5のポリグリセリン脂肪酸エステルを得た。
【0033】
<比較例1>
グリセリン100gとベヘン酸444gを反応容器に入れ、水酸化ナトリウムによるアルカリ性及び窒素気流下、250℃で反応させ、ケン化価が140.7のグリセリン脂肪酸エステルを得た。
【0034】
<比較例2>
平均重合度が6のポリグリセリン100gとベヘン酸123gを反応容器に入れ、水酸化ナトリウムによるアルカリ性及び窒素気流下、250℃で反応させ、ケン化価が98.1のポリグリセリン脂肪酸エステルを得た。
【0035】
<比較例3>
平均重合度が10のポリグリセリン100gとステアリン酸269gを反応容器に入れ、水酸化ナトリウムによるアルカリ性及び窒素気流下、250℃で反応させ、ケン化価が155.5のポリグリセリン脂肪酸エステルを得た。
【0036】
<比較例4>
平均重合度が4のポリグリセリン100gとオレイン酸259gを反応容器に入れ、水酸化ナトリウムによるアルカリ性及び窒素気流下、250℃で反応させ、ケン化価が152.7のポリグリセリン脂肪酸エステルを得た。
【0037】
以上の実施例1〜4および比較例1〜3のエステルは、粉末状(粒子径として250μm以下)とし、ミルク入りコーヒー飲料の消泡剤として使用した。比較例4のエステルは液状であり、そのまま消泡剤として使用した。
【0038】
<ミルク入りコーヒー飲料の調製方法>
水相に静菌用乳化剤としてHLB16のショ糖脂肪酸エステル0.05重量%と、実施例または比較例の飲料用消泡剤0.02重量%を添加して適量の水に分散させた後、コーヒー抽出液(Brix42、固形分37.0%)4重量%、グラニュー糖7重量%、牛乳15重量%を加えホモミキサーを用い撹拌した。この全混合液に重曹(炭酸水素ナトリウム)を加えて、補水して全量100重量%にした後、65〜70℃にて150Kg/cm2ホモジナイズ処理を施し、pH6.5のミルク入りコーヒー飲料(試験液(I))を調製した。さらに、これをレトルト殺菌して、pHが6.1のミルク入りコーヒー飲料(試験液(II))を調製した。
【0039】
次の試験例1、2に基づき、実施例1〜4および比較例1〜4の消泡効果を評価した。
【0040】
[試験例1]
得られた試験液(I)50mlを200mlメスシリンダーに入れて液温を45℃または60℃にした後、ボールフィルターから0.1L/分で送気し、生成した泡の体積を以下の基準で評価した。
◎:10ml未満
○:10ml以上30ml未満
△:30ml以上100ml未満
×:100ml以上
その結果を表1に示す。
【0041】
[試験例2]
得られた試験液(II)100mlを200ml有栓メスシリンダーに入れて液温を5℃または55℃にした後、上下に激しく20回振とうさせ、生成した泡の体積を以下の基準で評価した。
◎:10ml未満
○:10ml以上20ml未満
△:20ml以上30ml未満
×:30ml以上
その結果を表1に示す。
【0042】
【表1】

【0043】
表1に示す通り、本発明のポリグリセリン脂肪酸エステルを添加したミルク入りコーヒー飲料は、比較例1〜4および消泡剤無添加(参考例1)と比べ起泡が抑制されている。実施例のものでは液面がほぼ表れ、周囲に泡が僅かに残る状態であったのに対して、比較例1〜4および参考例1では泡が厚みをもって液面全体を覆っている状態であった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリグリセリン脂肪酸エステルを有効成分とするpH4.6〜6.9の低酸性飲料用消泡剤であって、前記ポリグリセリン脂肪酸エステルを構成するポリグリセリンの平均重合度が2〜20、主構成脂肪酸にベヘン酸を有してなり、ケン化価が110〜160であることを特徴とする消泡剤。
【請求項2】
請求項1に記載の消泡剤を含有するpH4.6〜6.9の低酸性飲料。

【公開番号】特開2008−178359(P2008−178359A)
【公開日】平成20年8月7日(2008.8.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−15530(P2007−15530)
【出願日】平成19年1月25日(2007.1.25)
【出願人】(390028897)阪本薬品工業株式会社 (140)
【Fターム(参考)】