説明

飲酒状態判定装置

【課題】 呼気中のアルコール濃度検知に基づく飲酒状態判定における誤判定を防止することにより、精度の高い飲酒状態判定を行うことができる飲酒状態判定装置を提供する。
【解決手段】 飲酒状態判定ECU1は、アルコール検知センサ2から送信される呼気アルコール濃度に基づいて、飲酒状態を判定する。ここで、呼気アルコール濃度がアルコール濃度しきい値以上であると判断した場合、前回の飲酒状態判定で飲酒状態と判定されたかを判断する。このとき、前回の飲酒状態判定で飲酒状態と判定されていれば、呼気アルコール濃度勾配を算出し、酒類近似飲食物から発生する気化ガス濃度勾配と比較する。そして、呼気アルコール濃度勾配と気化ガス濃度勾配とが近似する場合に、飲酒状態でないと判定する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、飲酒状態を判定する飲酒状態判定装置に係り、車両を運転するドライバの飲酒状態を判定する飲酒状態判定装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、飲酒運転を防止するため、ドライバが飲酒状態にあるときには、車両のエンジンがかからないようにするアルコールインターロックシステムが導入されつつある。このアルコールインターロックシステムは、ドライバの飲酒状態を判定しており、ドライバの飲酒状態を判定する飲酒状態判定装置として、従来、半導体アルコールセンサを用いたアルコール検出装置がある(たとえば、特許文献1参照)。このアルコール検出装置は、増幅回路と微分回路とを有し、これらの増幅回路および微分回路の加算結果からアルコール濃度を検出することにより、アルコール濃度の時間変化を忠実に表すことができるというものである。
【特許文献1】特開平6−82411号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
ところで、ドライバの飲酒状態を判定するにあたり、ドライバが酒類近似飲食物を摂取していると、この酒類近似飲食物から生じる成分によってドライバの呼気中のアルコール濃度が高いと誤検知することがある。ここで、上記特許文献1に開示されたアルコール検出装置では、アルコール濃度の時間変化を表すことはできるものの、ドライバが酒類近似飲食物を摂取した場合の誤検知を防ぐことはできなかった。このため、ドライバが酒類近似飲食物を摂取した場合には、飲酒を行っていないにもかかわらず、飲酒状態であると判定されてしまうことがあるという問題があった。
【0004】
また、飲酒を行った後であっても、ドライバの呼気中のアルコール濃度が一旦低下することがある。このため、ドライバの呼気中のアルコール濃度が一旦低下した状態でアルコール濃度の検出を行うと、飲酒を行ったにもかかわらず、飲酒状態でないと判定されてしまうことがあるという問題があった。
【0005】
そこで、本発明の課題は、呼気中のアルコール濃度検知に基づく飲酒状態判定における誤判定を防止することにより、精度の高い飲酒状態判定を行うことができる飲酒状態判定装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決した本発明に係る飲酒状態判定装置は、被検者の呼気中のアルコール濃度を検知し、検知したアルコール濃度に基づいて被検者の飲酒状態を判定する飲酒状態判定装置であって、複数回のアルコール濃度検知によって検知されたアルコール濃度に基づいて、アルコール濃度の経時変化に基づく濃度勾配を算出するアルコール濃度勾配算出手段を備え、アルコール濃度と、アルコール濃度勾配と、に基づいて、被検者の飲酒状態を判定するものである。
【0007】
本発明に係る飲酒状態判定装置においては、複数回のアルコール濃度検知によって検知されたアルコール濃度に基づいて、アルコール濃度の経時変化に基づく濃度勾配を算出し、このアルコール濃度とアルコール濃度勾配とに基づいて、被検者の飲酒状態を判定している。被検者が酒類近似飲食物を摂取した場合、アルコール濃度が酒類を摂取した場合と同様となったとしても、その後のアルコール濃度勾配は異なってくる。このため、アルコール濃度とアルコール濃度勾配とに基づいて、被験者の飲酒状態を判定することにより、呼気中のアルコール濃度検知に基づく飲酒状態判定における誤判定を防止することができ、もって精度の高い飲酒状態判定を行うことができる。
【0008】
なお、本発明における「経時変化に基づく濃度勾配」とは、一定時間が経過した時点における濃度の変化量を上記の一定時間で除した値をいう。
【0009】
ここで、酒類近似飲食物から発生する気化ガスの濃度の経時変化に基づく濃度勾配を表す気化ガス濃度勾配モデルを記憶する気化ガス濃度勾配モデル記憶手段をさらに備え、複数回のアルコール濃度検知によって検知されたアルコール濃度がいずれも所定の濃度しきい値を超えるとともに、アルコール濃度勾配算出手段で算出されたアルコール濃度勾配と気化ガス濃度勾配モデルとの差が所定のしきい値以下であるときに、被検者が非飲酒状態であると判定する態様とすることができる。
【0010】
本発明に係る飲酒状態判定装置では、アルコール濃度勾配と、酒類近似飲食物から発生する気化ガスの濃度の経時変化に基づく濃度勾配を表す気化ガス濃度勾配モデルとの差が所定のしきい値以下であるときに、被検者が非飲酒状態であると判定する。このため、被検者が酒類近似飲食物を摂取したときに、呼気中のアルコール濃度が高いと判定されてしまった場合でも、この判定結果が飲酒によるものではないと判定することができる。したがって、呼気中のアルコール濃度検知に基づく飲酒状態判定における誤判定を防止することができ、もって精度の高い飲酒状態判定を行うことができる。
【0011】
なお、本発明に係る酒類近似飲食物とは、酒類とは異なるが、人間の口内においてアルコールまたはアルコールに近似する成分を生じる飲食物等をいい、たとえば果汁飲料などのジュースやコーヒー、発酵食物系に属するキムチ、ヨーグルト、パン、食物系に属する納豆、らっきょ、生わさび、からし、ミント系食品(ミント系ガム、ミント系あめ)、発酵系漬物、奈良漬、麹系味噌汁、薬品系に属するカフェイン剤、睡眠改善剤、咳き止め、入れ歯安定剤、栄養ドリンク、口内洗浄剤などを例示することができる。
【0012】
また、飲酒状態時におけるアルコール濃度の経時変化に基づくアルコール濃度勾配モデルを記憶するアルコール濃度勾配モデル記憶手段をさらに備え、アルコール濃度勾配算出手段で算出されたアルコール濃度勾配とアルコール濃度勾配モデルとの差が所定のしきい値以下であるときに、被検者が飲酒状態であると判定する態様とすることができる。
【0013】
一般に、飲酒を行った場合には、アルコール濃度の経時変化は小さく、アルコール濃度勾配は小さくなり、酒類近似飲食物を摂取した場合とは、その濃度勾配が異なる傾向が大きい。このため、アルコール濃度勾配とアルコール濃度勾配モデルとの差が所定のしきい値以下であるときに、被検者が飲酒状態であると判定することにより、精度よく飲酒状態判定を行うことができる。
【0014】
複数回のアルコール濃度検知のうち、複数回のアルコール濃度検知によって検知されたアルコール濃度のうち、先に検知されたアルコール濃度が所定の濃度しきい値を超え、かつ後に検知されたアルコール濃度が所定の濃度しきい値以下であるとともに、アルコール濃度勾配算出手段で算出されたアルコール濃度勾配とアルコール濃度勾配モデルとの差が所定のしきい値以下である場合に、被検者が飲酒状態であると判定する態様とすることができる。
【0015】
被検者が飲酒した場合、呼気中のアルコール濃度は高い状態となるが、その後、呼気アルコール濃度が一時的に減少傾向となることがある。この点、本発明に係る飲酒状態判定装置では、先に検知されたアルコール濃度が所定の濃度しきい値を超え、かつ後に検知されたアルコール濃度が所定の濃度しきい値以下であるとともに、アルコール濃度勾配算出手段で算出されたアルコール濃度勾配とアルコール濃度勾配モデルとの差が所定のしきい値以下である場合に、アルコール濃度の検知を再度行うようにしている。先に検知されたアルコール濃度が所定の濃度しきい値を超え、かつ後に検知されたアルコール濃度が所定の濃度しきい値以下である場合には、後に検知されたアルコール濃度が所定の濃度しきい値以下であるにもかかわらず、飲酒状態である可能性もある。ここで、アルコール濃度勾配とアルコール濃度勾配モデルとの差が所定のしきい値以下である場合には、被検者が飲酒状態である可能性が高いので、この場合にアルコール濃度の検知を再度行うことにより、精度よく飲酒状態の判定を行うことができる。
【0016】
そして、飲酒状態時におけるアルコール濃度の経時変化に基づくアルコール濃度勾配モデルを記憶するアルコール濃度勾配モデル記憶手段と、被検者が車両のドライバであり、ドライバが飲酒状態であると判定した場合に、車両の走行を停止するインターロック手段と、をさらに備え、インターロック手段の作動中に、複数回のアルコール濃度検知のうち、複数回のアルコール濃度検知によって検知されたアルコール濃度のうち、先に検知されたアルコール濃度が所定の濃度しきい値を超え、かつ後に検知されたアルコール濃度が所定の濃度しきい値以下であるとともに、アルコール濃度勾配算出手段で算出されたアルコール濃度勾配とアルコール濃度勾配モデルとの差が所定のしきい値以下である場合に、インターロック手段の作動を継続させる態様とすることもできる。
【0017】
このように、先に検知されたアルコール濃度が所定の濃度しきい値を超え、かつ後に検知されたアルコール濃度が所定の濃度しきい値以下であるとともに、アルコール濃度勾配算出手段で算出されたアルコール濃度勾配とアルコール濃度勾配モデルとの差が所定のしきい値以下である場合には、後の検知後にアルコール濃度が再上昇するおそれがある。この場合に、インターロック手段の作動を継続させることにより、飲酒状態にあるドライバによる飲酒運転を好適に防止することができる。
【発明の効果】
【0018】
本発明に係る飲酒状態判定装置によれば、呼気中のアルコール濃度検知に基づく飲酒状態判定における誤判定を防止することにより、精度の高い飲酒状態判定を行うことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
以下、添付図面を参照して本発明の第1の実施形態について説明する。なお、図面の説明において同一の要素には同一の符号を付し、重複する説明を省略する。また、図示の便宜上、図面の寸法比率は説明のものと必ずしも一致しない。
【0020】
図1は、本発明の第1の実施形態に係る飲酒状態判定装置のブロック構成図である。図1に示すように、本実施形態に係る飲酒状態判定装置は、飲酒状態判定ECU(Electronic control unit)1、アルコール検知センサ2を備えており、アルコール検知センサ2は、飲酒状態判定ECU1に接続されている。また、飲酒状態判定ECU1には、インターロック回路3が接続されている。
【0021】
飲酒状態判定ECU1は、車両に搭載されたコンピュータであり、CPU(Central Processing Unit)、ROM(Read Only Memory)、RAM(Random Access Memory)、および入出力インターフェイスなどを備えて構成されている。飲酒状態判定ECU1は、作動しきい値判定部11、誤作動判定部12、飲食物データベース13、および制御指示部14を備えている。
【0022】
アルコール検知センサ2は、飲酒状態判定を行う際に、車室内における被検者であるドライバの息が吹きかかる位置に設けられている。具体的には、ステアリング、ルームミラー、サンバイザなどに設けられる。アルコール検知センサ2は、飲酒状態の判定を行う際、ドライバが吐出した呼気に含まれるアルコール量に基づく呼気アルコール濃度を検知する。アルコール検知センサ2は、検知した呼気アルコール濃度を飲酒状態判定ECU1における作動しきい値判定部11および誤作動判定部12に送信する。
【0023】
インターロック回路3は、飲酒状態判定ECU1における制御指示部14から送信されるインターロック制御情報に基づいて、インターロック制御の開始、継続、解除等の制御を行う。インターロック制御が行われている際には、車両のエンジンがかからないようにする制御が行われ、インターロック制御が解除されたときに、エンジンの始動が可能となる。
【0024】
作動しきい値判定部11は、インターロック制御を行うためのアルコール濃度しきい値を記憶しており、アルコール検知センサ2から送信された呼気アルコール濃度と、記憶しているアルコール濃度しきい値とを比較する。作動しきい値判定部11は、この比較結果に基づいて、インターロック制御を作動させるか否かの作動判定を行う。作動しきい値判定部11は、判定したインターロック制御の作動判定結果を制御指示部14に出力する。
【0025】
誤作動判定部12は、アルコール検知センサ2から送信される呼気アルコール濃度を前回呼気アルコール濃度として一時的に記憶する一時記憶部を備えている。誤作動判定部12は、一時記憶部に記憶された前回呼気アルコール濃度と、今回アルコール検知センサ2から受信した今回呼気アルコール濃度に基づいて、呼気アルコール濃度の濃度勾配(以下、「呼気アルコール濃度勾配」という)を求める。
【0026】
飲食物データベース13には、酒類近似飲食物から発生する気化ガスの濃度勾配(以下「気化ガス濃度勾配」という)が記憶されている。飲食物データベース13は、本発明の気化ガス濃度勾配モデル記憶手段となり、気化ガス濃度勾配が本発明の気化ガス濃度勾配モデルとなる。酒類近似飲食物としては、奈良漬、果汁飲料などが想定されており、これらの気化ガスの濃度勾配が記憶されている。
【0027】
誤作動判定部12は、算出した呼気アルコール濃度勾配と、飲食物データベース13から読み出した気化ガス濃度勾配とを比較して、飲酒判定において誤作動を起こす可能性を判定する。誤作動判定部12は、誤作動を起こす可能性の判定結果に基づく誤作動判定結果を制御指示部14に出力する。
【0028】
制御指示部14は、作動しきい値判定部11から出力される作動判定結果および誤作動判定部12から出力される誤作動判定結果に基づいて、インターロック制御の実行の当否を判定する。制御指示部14は、インターロック制御の実行の当否に基づくインターロック制御情報をインターロック回路3に送信する。
【0029】
また、制御指示部14は、インターロック制御を実行すると判定した場合に、飲酒状態判定情報を誤作動判定部12に出力する。誤作動判定部12は、一時記憶部において飲酒状態判定情報が記憶可能とされており、制御指示部14から飲酒状態判定情報が出力された場合に、その飲酒状態判定情報を記憶しておく。
【0030】
続いて、本実施形態に係る飲酒状態判定装置における飲酒状態判定処理の手順について説明する。図2は、本実施形態に係る飲酒状態判定処理の手順を示すフローチャートである。
【0031】
図2に示すように、本実施形態に係る飲酒状態判定装置では、まず、ドライバの呼気検査を行う(S1)。呼気検査では、アルコール検知センサ2において、ドライバが吐出した呼気から呼気アルコール濃度を検知する。アルコール検知センサ2は、検知した呼気アルコール濃度を作動しきい値判定部11および誤作動判定部12に送信する。
【0032】
次に、誤作動判定部12において、前回の飲酒状態判定において、飲酒状態と判定されたか否かを判断する(S2)。この判断は、制御指示部14から出力される飲酒状態判定情報が誤作動判定部12に記憶されているか否かによって行われる。その結果、前回の飲酒状態判定において飲酒状態でないと判定されていた場合には、そのまま飲酒状態判定処理を終了する。
【0033】
一方、前回の飲酒状態判定において飲酒状態であると判定されていた場合には、作動しきい値判定部11において、アルコール検知センサ2から送信された呼気アルコール濃度が、記憶しているアルコール濃度しきい値を超えているか否かを判断する(S3)。その結果、アルコール検知センサ2から送信された呼気アルコール濃度が、記憶しているアルコール濃度しきい値を超えていない(以下である)と判断した場合には、非飲酒状態であるとしてインターロック制御を作動させないと判定し、作動判定結果として制御指示部14に出力する。そして、制御指示部14において、インターロック制御を解除するインターロック制御情報をインターロック回路3に送信して(S6)、飲酒状態判定処理を終了する。
【0034】
また、呼気アルコール濃度がアルコール濃度しきい値を超えていると判断した場合には、作動しきい値判定部11では、インターロック制御を作動させると判定し、作動判定結果として制御指示部14に出力する。続いて、誤作動判定部12において、前回アルコール検知センサ2によって検知された呼気アルコール濃度と今回アルコール検知センサ2によって検知された呼気アルコール濃度との濃度勾配である呼気アルコール濃度勾配を算出する(S4)。それから、誤作動判定部12において、算出した呼気アルコール濃度勾配が、飲食物データベース13に記憶されている気化ガス濃度勾配と近似しているか否かを判断する(S5)。ここでの呼気アルコール濃度の濃度勾配と気化ガスの濃度勾配とが近似しているか否かは、呼気アルコール濃度勾配と気化ガス濃度勾配との差が所定のしきい値以下あるか否かによって判断される。
【0035】
その結果、呼気アルコール濃度勾配と気化ガス濃度勾配とが近似していると判断した場合には、ドライバは非飲酒状態であると考えられる。このため、インターロック制御が誤作動を生じる可能性があると判定し、誤作動判定結果として制御指示部14に出力する。制御指示部14では、作動しきい値判定部11からインターロック制御を作動させるとする作動判定結果が出力されているが、誤作動判定部12からインターロック制御が誤作動を生じる可能性があるとする誤作動判定結果が出力される。このため、制御指示部14では、インターロック制御を解除するインターロック制御情報をインターロック回路3に送信して(S6)、飲酒状態判定処理を終了する。
【0036】
一方、誤作動判定部12において、呼気アルコール濃度勾配と気化ガス濃度勾配とが近似していないと判断した場合には、ドライバは飲酒状態であると考えられる。このため、インターロック制御が誤作動とはならいないと判定し、誤作動判定結果として制御指示部14に出力する。制御指示部14では、作動しきい値判定部11からインターロック制御を作動させるとする作動判定結果が出力されており、誤作動判定部12からインターロック制御が誤作動とはならないとする誤作動判定結果が出力される。このため、インターロック制御を実行するインターロック制御情報をインターロック回路3に送信して(S7)、飲酒状態判定処理を終了する。ここでのインターロック制御の実行とは、インターロック制御が行われているときにはインターロック制御を継続し、インターロック制御が解除されているときにはインターロック制御を開始することを意味する。
【0037】
ドライバが飲酒した場合と、アルコール近似飲食物を摂取した場合とを比較すると、飲酒またはアルコール近似飲食物摂取時(以下、「対象物摂取時」という)から経過する時間が短い場合には、呼気アルコール濃度が高い点で共通する。ところが、対象物摂取時からある程度時間が経過すると、呼気アルコール濃度の減衰に差が見られる。
【0038】
いま、アルコール近似飲食物を摂取した場合における呼気アルコール濃度の経時変化の一例を図3に示す。図3に示すように、アルコール近似飲食物を摂取した場合、対象物摂取時からの経過時間が短いときには、呼気アルコール濃度は、アルコール濃度しきい値THを超えている。そして、ある程度の時間(3分程度)が経過すると、呼気アルコール濃度が減衰し、時刻t13(t13<5分)に到達した時点では、呼気アルコール濃度がアルコール濃度しきい値TH以下となる。また、図示はしないが、ドライバが飲酒した場合には、5分を経過した場合でも呼気アルコール濃度はアルコール濃度しきい値THを超えた状態となっている。
【0039】
ここで、呼気アルコール濃度検知によって検知された呼気アルコール濃度がアルコール濃度しきい値THを超えた場合に、飲酒を行ったと判定するとする。この場合、アルコール検知センサ2でアルコール検知を行った時刻t11が、時刻t13よりも前である場合には、アルコール近似飲食物を摂取した場合でも、呼気アルコール濃度がアルコール濃度しきい値を超えることとなる。また、時刻t11に続いて、2回目の呼気アルコール濃度検知を時刻t12に行った際に、時刻t12が時刻t13より前であると、2回目の呼気アルコール濃度検知でも、呼気アルコール濃度がアルコール濃度しきい値を超えることとなる。この場合、2回の呼気アルコール濃度検知によっていずれも呼気アルコール濃度がアルコール濃度しきい値THを超えることとなり、実際にはアルコール近似飲食物を摂取したにもかかわらず、飲酒をしたと判定されることとなってしまう。
【0040】
この点、本実施形態に係る飲酒状態判定処理では、1回目の呼気アルコール濃度検知によって検知された前回呼気アルコール濃度と、2回目の呼気アルコール濃度検知によって検知された今回呼気アルコール濃度とからアルコール濃度勾配を求めている。アルコール濃度勾配は、呼気アルコール濃度の減衰傾向を示しており、飲酒をした場合とアルコール近似飲食物を摂取した場合とでは、異なるものとなる。具体的に、アルコール近似飲食物を摂取した場合、飲酒した場合と比較して、アルコール濃度勾配が大きくなる。
【0041】
そして、アルコール濃度勾配を求めたら、アルコール濃度勾配と気化ガス濃度勾配とを比較し、両者が近似する場合に、非飲酒状態であり、アルコール近似飲食物を摂取したと判定し、飲食物の摂取に基づく誤作動によるインターロック制御を解除するようにしている。このため、アルコール近似飲食物による飲酒状態判定における誤判定を防止することができ、もって精度の高い飲酒状態判定を行うことができる
【0042】
次に、本発明の第2の実施形態について説明する。本実施形態に係る飲酒状態判定装置は、飲酒状態判定ECU20を備えており、飲酒状態判定ECU20は、作動継続判定部21および飲酒状態データベース22を備えている。また、上記第1の実施形態と同様のアルコール検知センサ2、作動しきい値判定部11、制御指示部14、およびインターロック回路3を備えている。
【0043】
作動継続判定部21は、アルコール検知センサ2から送信される呼気アルコール濃度を前回呼気アルコール濃度として一時的に記憶する一時記憶部を備えている。作動継続判定部21は、一時記憶部に記憶された前回呼気アルコール濃度と、今回アルコール検知センサ2から受信した今回呼気アルコール濃度に基づいて、呼気アルコール濃度勾配を求める。飲酒状態データベース22には、飲酒状態時におけるアルコール濃度勾配の経時変化に基づく飲酒状態アルコール濃度勾配が記憶されている。飲酒状態データベース22は、本発明のアルコール濃度勾配モデル記憶手段となり、飲酒状態アルコール濃度勾配は、本発明のアルコール濃度勾配モデルとなる。
【0044】
作動継続判定部21は、算出した呼気アルコール濃度勾配と、飲酒状態データベース22から読み出した飲酒状態アルコール濃度勾配とを比較して、インターロック制御を継続するか否かを判定する。作動継続判定部21は、インターロック制御を継続するか否かの判定結果に基づく継続判定結果を制御指示部14に出力する。
【0045】
続いて、本実施形態に係る飲酒状態判定装置における飲酒状態判定処理の手順について説明する。図5は、本実施形態に係る飲酒状態判定処理の手順を示すフローチャートである。
【0046】
図5に示すように、本実施形態に係る飲酒状態判定装置では、まず、ドライバの呼気検査を行い(S11)、作動継続判定部21において、前回の飲酒状態判定で飲酒状態と判定されたか否かを判断する(S12)。その結果、前回の飲酒状態判定で飲酒状態でないと判定されていた場合には、そのまま飲酒状態判定処理を終了する。また、前回の飲酒状態判定において飲酒状態であると判定されていた場合には、アルコール検知センサ2から送信された呼気アルコール濃度が、作動しきい値判定部11が記憶しているアルコール濃度しきい値を超えているか否かを判断する(S13)。ここまでは、上記第一の実施形態と同様の手順で行われる。
【0047】
それから、ステップS13における判断の結果、アルコール検知センサ2から送信された呼気アルコール濃度が、作動しきい値判定部11が記憶しているアルコール濃度しきい値を超えていると判断した場合には、インターロック制御を継続すると判定し、作動判定結果として制御指示部14に出力する。そして、制御指示部14において、インターロック制御を継続するインターロック制御情報をインターロック回路3に送信して(S14)、飲酒状態判定処理を終了する。
【0048】
また、呼気アルコール濃度がアルコール濃度しきい値を超えていない(以下である)と判断した場合には、作動継続判定部21において、前回アルコール検知センサ2によって検知された呼気アルコール濃度と今回アルコール検知センサ2によって検知された呼気アルコール濃度との濃度勾配であるアルコール濃度勾配を算出する(S15)。
【0049】
その後、作動継続判定部21において、算出した呼気アルコール濃度勾配が、飲酒状態データベース22に記憶されている飲酒状態アルコール濃度勾配と近似しているか否かを判断する(S16)。呼気アルコール濃度勾配と飲酒状態アルコール濃度勾配とが近似しているか否かは、呼気アルコール濃度勾配と飲酒状態アルコール濃度勾配との差が所定のしきい値以下であるか否かによって判断される。
【0050】
その結果、呼気アルコール濃度勾配と飲酒状態アルコール濃度勾配とが近似していると判断した場合には、ドライバは飲酒状態であると考えられる。このため、ドライバが飲酒状態であると判断して、インターロック制御を継続すると判定し、継続判定結果として制御指示部14に出力する。制御指示部14では、作動しきい値判定部11からインターロック制御を作動させるとする作動判定結果が出力されており、作動継続判定部21からインターロック制御を継続させるとする継続判定結果が出力される。このため、制御指示部14では、インターロック制御を継続するインターロック制御情報をインターロック回路3に送信して(S14)、飲酒状態判定処理を終了する。
【0051】
一方、誤作動判定部12において、呼気アルコール濃度勾配と気化ガス濃度勾配とが近似していないと判断した場合には、ドライバは非飲酒状態であると考えられる。このため、ドライバが非飲酒状態であると判断し、インターロック制御を継続しないと判定し、継続判定結果として制御指示部14に出力する。制御指示部14では、作動しきい値判定部11からインターロック制御を作動させるとする作動判定結果が出力されているが、作動継続判定部21からインターロック制御を継続させないとする継続判定結果が出力される。このため、インターロック制御を解除するインターロック制御情報をインターロック回路3に送信して(S17)、飲酒状態判定処理を終了する。
【0052】
ドライバが飲酒した場合、呼気アルコール濃度は高い状態となるが、口腔内からアルコール成分が消え、アルコールが血中分解されるまでの間は、呼気アルコール濃度が一時的に減少傾向となることがある。いま、飲酒を行った場合における呼気アルコール濃度の経時変化の一例を図6に示す。
【0053】
図6に示すように、飲酒を行った場合、飲酒時から時刻t21までの間に呼気アルコール濃度は急上昇する。それから、時刻t22までの間は、呼気アルコール濃度は高い状態で安定する。その後、口腔内のアルコールが消滅し、口腔内におけるアルコール濃度は低下する。
【0054】
その一方、体内では、摂取したアルコール成分が血中へ分解されており、肺からの呼気に含まれるアルコールは少なく、肺から排出される呼気に含まれるアルコール成分も少ないものとなっている。この結果、口腔内のアルコール濃度および肺から排出される呼気におけるアルコール濃度は、いずれも低くなっていることから、時刻t23までの間は、呼気アルコール濃度は低下し続ける。
【0055】
その後、血中に分解されたアルコールが肺を経由して呼気に含まれることとなる。このため、時刻t24までの間は、再び呼気アルコール濃度が上昇する。そして、時刻t24以降は、時間経過とともに血中内のアルコールが分解され、徐々に呼気アルコール濃度も低下していることとなる。
【0056】
ここで、時刻t23から時刻t24までの間では、呼気アルコール濃度が一旦アルコール濃度しきい値THを下回ることがある。このため、たとえば時刻t32の段階で呼気アルコール濃度を検知した場合には、実際には飲酒状態であるにもかかわらず、飲酒状態ではないと誤判定することが考えられる。
【0057】
この点、本実施形態に係る飲酒状態判定装置20では、時刻t32で呼気アルコール濃度がアルコール濃度しきい値TH以下となっていると判定した場合でも、前回の時刻t31で呼気アルコール濃度がアルコール濃度しきい値THを超えていると判定した場合には、時刻t31における呼気アルコール濃度と時刻t32における呼気アルコール濃度とから、呼気アルコール濃度勾配を算出する。そして、算出した呼気アルコール濃度が飲酒アルコール濃度と近似している場合に、飲酒状態であると判定している。
【0058】
このため、呼気アルコール濃度を検知した時刻が、アルコールが血中に分解中であって、口腔内のアルコールが消滅するまでの呼気アルコール濃度が低い状態にあった場合における誤判定の防止を図ることができる。その結果、精度の高い飲酒状態判定を行うことができる。
【0059】
以上、本発明の好適な実施形態について説明したが、本発明は上記各実施形態に限定されるものではない。たとえば、上記各実施形態では、インターロック制御を行うための飲酒状態判定装置に用いているが、その他の飲酒状態判定装置に用いることもできる。また、上記実施形態では呼気アルコール濃度を2回検知するようにしているが、呼気アルコール濃度を3回以上検知する態様とすることもできる。
【0060】
さらに、上記第1の実施形態と第2の実施形態とを合わせた飲酒状態判定装置とすることもできる。また、上記第2の実施形態では、呼気アルコール濃度がアルコール濃度しきい値を超えていないときに、呼気アルコール濃度勾配と飲酒状態アルコール濃度勾配とが近似していると判断した場合には、ドライバが飲酒状態であると判定している。これに対して、呼気アルコール濃度がアルコール濃度しきい値を超えていないときには、一律的にドライバは非飲酒状態であると判定するとともに、前回の呼気アルコール濃度がアルコール濃度しきい値を超え、今回の呼気アルコール濃度がアルコール濃度以下であるときに、呼気アルコール濃度勾配と飲酒状態アルコール濃度勾配とが近似していると判断した場合には、インターロック制御を継続する態様とすることもできる。
【図面の簡単な説明】
【0061】
【図1】第1の実施形態に係る飲酒状態判定装置のブロック構成図である。
【図2】第1の実施形態に係る飲酒状態判定装置の処理手順を示すフローチャートである。
【図3】アルコール近似飲食物を摂取した場合における呼気アルコール濃度の経時変化の一例を示すグラフである。
【図4】第2の実施形態に係る飲酒状態判定装置のブロック構成図である。
【図5】第2の実施形態に係る飲酒状態判定装置の処理手順を示すフローチャートである。
【図6】飲酒を行った場合における呼気アルコール濃度の経時変化の一例を示すグラフである。
【符号の説明】
【0062】
1…飲酒状態判定ECU、2…アルコール検知センサ、3…インターロック回路、11…作動しきい値判定部、12…誤作動判定部、13…飲食物データベース、14…制御指示部、20…飲酒状態判定装置、21…作動継続判定部、22…飲酒状態データベース。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
被検者の呼気中のアルコール濃度を検知し、検知したアルコール濃度に基づいて前記被検者の飲酒状態を判定する飲酒状態判定装置であって、
複数回のアルコール濃度検知によって検知されたアルコール濃度に基づいて、アルコール濃度の経時変化に基づく濃度勾配を算出するアルコール濃度勾配算出手段を備え、
前記アルコール濃度と、前記アルコール濃度勾配と、に基づいて、前記被検者の飲酒状態を判定することを特徴とする飲酒状態判定装置。
【請求項2】
酒類近似飲食物から発生する気化ガスの濃度の経時変化に基づく濃度勾配を表す気化ガス濃度勾配モデルを記憶する気化ガス濃度勾配モデル記憶手段をさらに備え、
前記複数回のアルコール濃度検知によって検知されたアルコール濃度がいずれも所定の濃度しきい値を超えるとともに、前記アルコール濃度勾配算出手段で算出されたアルコール濃度勾配と気化ガス濃度勾配モデルとの差が所定のしきい値以下であるときに、前記被検者が非飲酒状態であると判定する請求項1に記載の飲酒状態判定装置。
【請求項3】
飲酒状態時におけるアルコール濃度の経時変化に基づくアルコール濃度勾配モデルを記憶するアルコール濃度勾配モデル記憶手段をさらに備え、
前記アルコール濃度勾配算出手段で算出されたアルコール濃度勾配と前記アルコール濃度勾配モデルとの差が所定のしきい値以下であるときに、前記被検者が飲酒状態であると判定する請求項1に記載の飲酒状態判定装置。
【請求項4】
前記複数回のアルコール濃度検知のうち、前記複数回のアルコール濃度検知によって検知されたアルコール濃度のうち、先に検知されたアルコール濃度が所定の濃度しきい値を超え、かつ後に検知されたアルコール濃度が前記所定の濃度しきい値以下であるとともに、前記アルコール濃度勾配算出手段で算出されたアルコール濃度勾配と前記アルコール濃度勾配モデルとの差が所定のしきい値以下である場合に、前記被検者が飲酒状態であると判定する請求項3に記載の飲酒状態判定装置。
【請求項5】
飲酒状態時におけるアルコール濃度の経時変化に基づくアルコール濃度勾配モデルを記憶するアルコール濃度勾配モデル記憶手段と、
前記被検者が車両のドライバであり、前記ドライバが飲酒状態であると判定した場合に、前記車両の走行を停止するインターロック手段と、をさらに備え、
前記インターロック手段の作動中に、前記複数回のアルコール濃度検知のうち、前記複数回のアルコール濃度検知によって検知されたアルコール濃度のうち、先に検知されたアルコール濃度が所定の濃度しきい値を超え、かつ後に検知されたアルコール濃度が前記所定の濃度しきい値以下であるとともに、前記アルコール濃度勾配算出手段で算出されたアルコール濃度勾配と前記アルコール濃度勾配モデルとの差が所定のしきい値以下である場合に、前記インターロック手段の作動を継続させる請求項1に記載の飲酒状態判定装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2010−5108(P2010−5108A)
【公開日】平成22年1月14日(2010.1.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−167534(P2008−167534)
【出願日】平成20年6月26日(2008.6.26)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】