説明

飲酒運転検出方法および飲酒運転検出装置

【目的】皮膚電位により飲酒状態か判断する「飲酒運転検出方法および飲酒運転検出装置」を提供することにある。
【構成】自動車のエンジンキーに皮膚電位測定用の電極を埋め込み、該電極に触れる指間の皮膚電位を測定し、該測定した皮膚電位により飲酒状態か判断し、飲酒状態と判断した場合エンジンの始動を禁止するように制御を行う。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は飲酒運転検出方法および飲酒運転検出装置に係り、特に、皮膚電位により運転者が飲酒状態か否かを検出する飲酒運転検出方法および飲酒運転検出装置に関する。
【背景技術】
【0002】
車両における飲酒運転は道路交通法により禁止されており、呼気1リットル中のアルコール濃度が0.15mg以上が飲酒運転となっている。従来より、呼気中のアルコール濃度を検出して、飲酒運転を取り締まり、違反者に高い罰金を科しているが、飲酒運転は絶えない。
【0003】
そこで、第1の従来技術として、車両のハンドル部分に皮膚抵抗測定部を備え、皮膚抵抗により疲労状態、すなわち眠気を催す状態と判断し、その旨の警告を発し、停車あるいは一定速度以上とならないように制御する技術(特許文献1)がある。この従来技術では、エンジン始動と同時に運転者の皮膚抵抗を測定して該測定結果を基準値として保存する。そして、所定時間毎の皮膚抵抗を測定し、該基準値と比較し、該測定結果が該基準値より大きくなった場合には飲酒等に伴う興奮状態と判断し、該測定結果が該基準値より相当量小さくなった場合には疲労状態、すなわち眠気を催す状態と判断し、その旨の警告を発し、停車あるいは一定速度以上とならないように制御する。
【0004】
また、第2の従来技術として、エンジンキーにアルコールセンサおよび湿度センサを備え、運転者が該湿度センサに素手で触れたか判断し、素手で触れたと判断した場合にはアルコールセンサが運転者の汗にアルコール蒸気が含まれているか判断し、該アルコール蒸気が含まれていると判断した場合には、マイコン等の制御部がエンジンの始動モータの作動を阻止するように制御する技術(特許文献2)がある。
【特許文献1】特公平3−48560号公報
【特許文献2】特開2008−7100号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記第1の従来技術においては、運転者がエンジンを始動させた後から皮膚抵抗測定部により測定した皮膚抵抗を基準値として、所定時間毎の皮膚抵抗を測定し、該測定結果と該基準値との比較に基づいて運転者の状態を判断するので、飲酒状態でも車両の運転が可能となるという問題点がある。
【0006】
また、上記第2の従来技術は、湿度センサとアルコールセンサが必要でコスト高となると共に、運転者の汗に含まれるアルコール蒸気を検出するので、飲酒直後の汗にアルコール蒸気が含まれる可能性が低く、飲酒直後の飲酒状態の検出が困難であるという問題点がある。
【0007】
本発明の目的は、運転者が飲酒状態かの判断を精度良く行い、飲酒状態の場合は、車両のエンジンの始動を禁止するように制御し、飲酒運転による危険を未然に防ぐことである。
本発明の別の目的は、1種類のセンサを用いて飲酒状態を検出することである。
本発明の別の目的は、飲酒直後であっても飲酒状態を検出することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、皮膚電位により運転者が飲酒状態か否かを検出する飲酒運転検出方法および飲酒運転検出装置に関する。
本発明の飲酒運転検出方法は、自動車のキーに皮膚電位測定用の電極を埋め込み、該電極に触れる指間の皮膚電位を測定し、該測定した皮膚電位により飲酒状態か判断する。
本発明の飲酒運転検出方法は、更に、飲酒状態と判断した場合エンジンの始動を禁止する。
本発明の飲酒運転検出装置は、自動車のキーに埋め込んだ皮膚電位測定用の電極と、前記電極を介して、指間の皮膚電位を測定する皮膚電位測定部と、該測定した皮膚電位により飲酒状態か判断する飲酒状態判断部と、を備えている。
本発明の飲酒運転検出装置は、更に、前記飲酒状態判断部が飲酒状態と判断した場合にはエンジンの始動を禁止するエンジン始動禁止部、を備えている。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、自動車のキーに皮膚電位測定用の電極を埋め込み、該電極に触れる指間の皮膚電位を測定し、該測定した皮膚電位により飲酒状態か判断するようにしたので、運転者が飲酒状態かの判断を精度良く行え、飲酒状態の場合は、車両のエンジンの始動を禁止するようにしたので、飲酒運転による危険を未然に防ぐことができる。また、飲酒直後であっても飲酒状態を検出して、飲酒運転による危険を未然に防ぐことができる。
また、本発明によれば、1種類のセンサを用いて飲酒状態を検出するようにしたので、コストを低減することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
(A)本発明の概要
図1は本発明の概略説明図であり、1は車両のエンジンキー、2はエンジンキーの把持部両面に埋め込まれている指間の皮膚電位測定用電極、3は電極2に接続されている端子である。尚、所定長以上の2点間の皮膚電位は、正常状態において正となるが、飲酒状態においては負になる。
【0011】
運転者はエンジン始動に際して、エンジンキー1を車両のキー穴に挿入する。その際、把持部両面に埋め込まれている電極2に発生する指間(例えば親指と人差し指間)の皮膚電位を端子3を介して、車内に設置されている図示しない飲酒判断部に送り、該飲酒判断部は該皮膚電位が負の値を示しているかの判断を行う。該飲酒判断部は該皮膚電位が負を示していれば、運転者は飲酒状態であると判断し、イグニッション回路を制御してエンジン始動を禁止する。
【0012】
(B)皮膚電位測定の原理
皮膚電位が正常状態においては正となるが、飲酒状態においては負となることを利用することにより、飲酒運転の検出が可能となる。
ここで、皮膚電位について述べる。皮膚電位(Skin Potential Level:SPL)とは掌と上腕部あるいは2つの指先間に生じる電位差である。細胞内外の主な物質としてK+、Na+、Cl-が存在し、細胞内外では強制的にこれらの濃度差が作られ、細胞内外で受動輸送、能動輸送が起こり皮膚電位を生じる。この皮膚電位は皮膚間距離が5cm以上であれば測定でき、さまざまな状態によって異なった測定結果が得られることが知られている。
【0013】
図2は一人の被験者のさまざまな状態における皮膚電位であり、Acは活動状態の皮膚電位、Norは平常状態の皮膚電位、AFT1は飲酒直後の皮膚電位、AFT2は飲酒後30分経過後の皮膚電位である。図2において、活動状態の皮膚電位Acと平常状態の皮膚電位Norは正を示しているが、飲酒直後の皮膚電位AFT1と飲酒後30分経過後の皮膚電位AFT2は負を示している。
図3は5人の被験者の飲酒直後の皮膚電位であり、図4は飲酒後30分経過後の皮膚電位である。VA〜VEはそれぞれの被験者A〜Eの皮膚電位である。図3、4において、個人差や例外的な部分はあるが、被験者全員の皮膚電位VA〜VEは負を示している。
以上より、皮膚電位が負である場合は飲酒状態であることが判断でき、後述する飲酒検出装置に適用することにより飲酒状態の検出が可能となる。
【0014】
(C)第1実施例
図5は第1実施例のエンジンキーおよび車両のキーシリンダーの説明図、図6は車両側に設置されている飲酒運転制御ユニットの構成図である。
図5(A)に示すように、エンジンキー1の把持部1aの両面には指間の皮膚電位を発生する表電極2が埋め込まれている。この皮膚電位測定用電極2に図5(C)に示すように、運転者の指が触れると指間(例えば、親指と人差し指間)の皮膚電位が表電極に接続されている端子3aと裏電極に接続されている端子3b間に発生する。
【0015】
車両のエンジンを始動させるためにエンジンキー1を差し込むキーシリンダー4は、図5(B)に示すようにエンジンキー挿入部4a、エンジンキー1に設けた端子3a、3bと接触する端子5a、5bを備え、後述する車内の飲酒運転検出装置に指間の皮膚電位を入力する。
【0016】
図6において、A、Bは皮膚電位を検出する親指、人指し指の上の点であり、測定点A、B間の皮膚電位は飲酒運転制御ユニット60に入力される。飲酒運転制御ユニット60において、増幅部61は該入力された皮膚電位が小さいため増幅し、増幅した皮膚電位を飲酒判断部62に入力する。飲酒判断部62は該皮膚電位が負であるかの判断を行う。前述したように皮膚電位が負である場合は飲酒状態、正である場合は正常状態であると判断が可能である。飲酒判断部62が該皮膚電位が負であると判断した場合、すなわち飲酒状態であると判断した場合、イグニッション制御部63はエンジンの始動を禁止するようにイグニッション回路64を制御する。
【0017】
次に全体の動作について説明を行う。
運転者はエンジンを掛けるために、親指、人差し指の測定点A、Bを電極2に触れながら、エンジンキー1をキーシリンダー4に挿入し、エンジンキー1を回す。そのとき、把持部両面の電極2に発生した皮膚電位はエンジンキー1に備えられている端子3a、3b、エンジンキー挿入部4aに備えられている端子5a、5bを介して車内に設置されている飲酒運転制御ユニット60に入力する。該皮膚電位は小さいため、増幅器61は皮膚電位を増幅して飲酒判断部62に入力する。
【0018】
飲酒判断部62は該入力された皮膚電位が負であるかの判断を行い、負の場合は飲酒状態であると判断し、飲酒信号をイグニッション制御部63に送り、皮膚電位が正である場合は正常状態であると判断し、正常信号をイグニッション制御部63に入力する。イグニッション制御部63は該入力された信号に基づいて、イグニッション回路64を制御し、飲酒状態である場合にはエンジンの始動を禁止するように制御を行い、正常状態である場合にはエンジンを始動させるように制御を行う。尚、電極のつなぎ方を反対にすると、正常状態と飲酒状態とでは極性が反転する。これを考慮すれば、正常状態の極性と異なる極性の皮膚電位が検出されたとき、飲酒状態と判定する。以下の実施例においても同様に言えることである。
【0019】
以上、本実施例によれば、自動車のエンジンキーに皮膚電位測定用の電極を埋め込み、該電極に触れる指間の皮膚電位を測定し、該測定した皮膚電位により飲酒状態か判断するようにしたので、運転者が飲酒状態かの判断を精度良く行え、飲酒状態の場合は、車両のエンジンの始動を禁止するようにしたので、飲酒運転による危険を未然に防ぐことができる。また、飲酒直後であっても飲酒状態を検出して、飲酒運転による危険を未然に防ぐことができる。
また、本実施例によれば、1種類のセンサにより飲酒運転の検出を行うようにしたので、コストを低減することができる。
【0020】
(D)第2実施例
図7は第2実施例の飲酒運転検出装置の構成図であり、図6の第1実施例と同一部分には同一符号を付している。第1実施例と異なる点は、エンジンキー1にマイコン等の飲酒判断部62を設け、更に変調部71、無線送信部72を設け、車側に無線受信部73、復調部74を設けた点である。
変調部71は、飲酒判断部62が増幅器61より入力された皮膚電位に基づいて発生した飲酒信号もしくは正常信号を、変調する。無線送信部72は変調部71が変調した信号を無線により送信する。無線受信部73は無線送信部72が送信した信号を受信し、復調部74は無線受信部73が受信した信号を復調する。
【0021】
次に全体の動作について説明を行う。
エンジンキー1の把持部両面の電極2に発生した皮膚電位を増幅器61に入力する。該皮膚電位は小さいため、増幅器61により増幅して、該皮膚電位を飲酒判断部62に入力する。飲酒判断部62は該入力された皮膚電位が負であるかの判断を行い、負の場合は飲酒状態であると判断し飲酒信号を、皮膚電位が正の場合は正常状態であると判断し正常信号を、変調部71に入力する。
【0022】
次に、変調部71は該入力された信号を変調し、無線送信部72に入力する。無線送信部72は該変調された信号を電波を用いて、車側に設置されている無線受信部73に送信する。無線受信部73は該送信された信号を受信し、復調部74に入力する。復調部74は、該受信した信号を復調し、該復調した信号をイグニッション制御部63に入力する。
イグニッション制御部63は該入力された信号に基づいて、イグニッション回路64を制御し、飲酒状態である場合にはエンジンの始動を禁止するように制御を行い、正常状態である場合にはエンジンを始動させるように制御を行う。尚、無線送受信部をブルートゥースにより構成することもできる。
【0023】
以上、本実施例によれば、第1実施例と同様の効果を得ることができる。また、第2実施例によれば、キーシリンダーにエンジンキー側の電極と接触する電極構造を設ける必要がないので、キーシリンダー構造を簡単にできる。
【0024】
(E)変形例
図8は変形例の飲酒運転検出装置の構成図であり、図7の第2実施例と同一部分には同一符号を付している。第2実施例と異なる点は、マイコン等の飲酒運転判断部62を車側に設置した点である。この変形例では、増幅器出力をAD変換し、該出力電圧を無線で車側に送信し、車側の飲酒判断部62で飲酒運転を検出する。
【0025】
以上より、変形例によっても第2実施例と同様の効果を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】本発明の概略説明図である。
【図2】一人の被験者のさまざまな状態における皮膚電位である。
【図3】5人の被験者の飲酒直後の皮膚電位である。
【図4】5人の被験者の飲酒後30分経過後の皮膚電位である。
【図5】第1実施例のエンジンキーおよび車両のキーシリンダーの説明図である。
【図6】第1実施例の車両側飲酒運転制御ユニットの構成図である。
【図7】第2実施例の飲酒運転検出装置の構成図である。
【図8】変形例の飲酒運転検出装置の構成図ある。
【符号の説明】
【0027】
1 エンジンキー
1a エンジンキー把持部
2 皮膚電位を測定するための電極
3 発生した皮膚電位を入力するための端子
3a 発生した皮膚電位を入力するための端子
3b 発生した皮膚電位を入力するための端子
4 キーシリンダー
4a エンジンキー挿入部
5a 3aに接触する端子
5b 3bに接触する端子
60 飲酒運転制御ユニット
62 飲酒判断部
63 イグニッション制御部
71 変調部
72 無線送信部
73 無線受信部
74 復調部


【特許請求の範囲】
【請求項1】
皮膚電位により運転者が飲酒状態か否かを検出する飲酒運転検出方法において、
自動車のキーに皮膚電位測定用の電極を埋め込み、
該電極に触れる指間の皮膚電位を測定し、
該測定した皮膚電位により飲酒状態か判断する、
ことを特徴とする飲酒運転検出方法。
【請求項2】
更に、飲酒状態と判断した場合エンジンの始動を禁止する、
ことを特徴とする請求項1記載の飲酒運転検出方法。
【請求項3】
皮膚電位により運転者が飲酒状態か否か検出する飲酒運転検出装置において、
自動車のキーに埋め込んだ皮膚電位測定用の電極と、
前記電極を介して、指間の皮膚電位を測定する皮膚電位測定部と、
該測定した皮膚電位により飲酒状態か判断する飲酒状態判断部と、
を備えたことを特徴とする飲酒運転検出装置。
【請求項4】
更に、前記飲酒状態判断部が飲酒状態と判断した場合にはエンジンの始動を禁止するエンジン始動禁止部、
を備えたことを特徴とする請求項3記載の飲酒運転検出装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2009−226962(P2009−226962A)
【公開日】平成21年10月8日(2009.10.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−71131(P2008−71131)
【出願日】平成20年3月19日(2008.3.19)
【出願人】(000101732)アルパイン株式会社 (2,424)
【出願人】(504085336)
【Fターム(参考)】