説明

香料組成物

【課題】 保留性及び芳香特性に優れ、さらには、安全性、香気性、またその持続性にも優れた香料組成物を提供することを目的とする。
【解決手段】 下記一般式(I)で表されるロドデンドロール誘導体を一般の香料組成物に配合することにより、香料の保留性を高めることができ、かつ安全性、香気性、持続性にも優れた香料組成物を提供することができる。
【化1】


(式中、Rは、水素又は炭素数2〜10のアシル基であり、Rは、水素又は炭素数2〜10のアシル基である。但し、R及びRがともに水素ではない。)

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ロドデンドロール誘導体を有効成分として含有する保留性に優れた香料組成物に関するものである。またジアセチルロドデンドロールを含有する芳香特性及び保留性に優れた香料組成物に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、天然あるいは合成の有香物質を用いて優れた香料を調香するときには所望の香気を持続するために、有香物質の芳香特性及び保留性を調整する各種保留剤が香料に有効成分として配合されている。具体的には、ベンジルサリシレート、ベンジルベンゾエート、トリエチルシトレート、イソプロピルミリステート、ジエチルフタレート等の各種エステル類が利用されている。また、ジオール骨格を有するp−メンタン−3,8−ジオールにも優れた保留性があることが報告されている(特許文献1)。しかしながら、これら保留剤は残香性が低く満足のいく保留効果を有するものではなかった。
一方、ロドデンドロールは、メグスリノキ等に含まれる物質であり、美白作用(特許文献2)や、表皮細胞増殖促進作用や抗酸化作用(特許文献3)等を有することが知られている。
【0003】
【特許文献1】特許第3045562号公報
【特許文献2】特許第3340935号公報
【特許文献3】特許第3550475号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記事情において、本発明者等が鋭意検討を行った結果、下記一般式(I)で表されるロドデンドロール誘導体が、香料の保留性を調整するための優れた効果を有することを見出し、さらに、一般式(I)中のR及びRがともにアセチル基であるジアセチルロドデンドロールが、芳香特性及び持続性にも優れた効果を有することを見出し、本発明を完成した。
【課題を解決するための手段】
【0005】
すなわち、本発明は、下記一般式(I)で表されるロドデンドロール誘導体を含有することを特徴とする香料組成物にある。
【化1】

(式中、Rは、水素又は炭素数2〜10のアシル基であり、Rは、水素又は炭素数2〜10のアシル基である。但し、R及びRがともに水素ではない。)
また、本発明は、一般式(I)中のR及びRがともにアセチル基であるジアセチルロドデンドロールを含有する事を特徴とする香料組成物にある。
【発明の効果】
【0006】
本発明のロドデンドロール誘導体を一般の香料組成物に配合することにより、香料の保
留性を高めることができ、さらには、安全性、香気性、またその持続性にも優れた香料組成物を得ることができる。また、本発明のジアセチルロドデンドロールにおいては、上記効果に加えて、ほのかなスィートさをもった香気を付与し、かつ持続性にも優れた香料組成物を得ることができる。すなわち、本発明のロドデンドロール誘導体を配合することにより、香料組成物の残香性及び香り立ちが改善され、所望の香気の持続性を高めることが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
以下、本発明の実施の形態を詳述する。
【0008】
本発明に用いられる下記一般式(I)で表されるロドデンドロール誘導体は、R及びRが、それぞれ水素又は炭素数2〜10のアシル基で表される化合物である。但し、R及びRがともに水素であることはなく、どちらか一方が水素で残りの一方がアシル基であるか、又は両方がアシル基である。また、炭素数2〜10のアシル基は、一般に用いられているものであれば特に限定されるものではないが、安定性、合成の容易さから、直鎖飽和のアシル基が好ましく、炭素数は2〜8のアシル基が特に好ましい。
【化2】

【0009】
本発明で用いられるロドデンドロール誘導体は、例えば、メグスリノキ(Acer nikoence Maxim.)等に含まれるロドデンドロール[下記、化合物(1)]や、香料として利用されている4−(p−ヒドロキシフェニル)−2−ブタノン(以下、ラズベリーケトンと称す)等を出発原料として用い、公知のアシル化反応を利用して合成することができるが、特にこれらに限定されるものではない。
【化3】

【0010】
例えば、4−(3−ヒドロキシブチル)フェニルアセテート[化合物(2)]、ジアセチルロドデンドロール[化合物(3)]、4−(4−ヒドロキシフェニル)−2−ブタニルアセテート[化合物(4)]、4−(3−ヒドロキシブチル)フェニルヘキサノエート[化合物(5)]、ジオクタノイルロドデンドロール[化合物(6)]、4−(4−ヒドロキシフェニル)−2−ブタニルオクタノエート[化合物(7)]等が挙げられる。
【化4】

【化5】

【化6】

【化7】

【化8】

【化9】

【0011】
なお、本発明のロドデンドロール誘導体には、光学異性体が存在するが、(+)体、(−)体単独でも、またそれらの混合物を用いることもできる。
【0012】
本発明のロドデンドロール誘導体の配合量は、香料の芳香特性及び保留性に応じて任意に選択することができるが、通常は香料組成物の総量を基準として、0.01質量%〜90質量%、好ましくは0.1質量%〜70質量%、更に好ましくは、1.0質量%〜20質量%の範囲内の配合量を挙げることができる。
【0013】
本発明の香料組成物は、上記一般式(I)で表されるロドデンドロール誘導体のうち、いずれか1種類を単独で用いてもよいし、又はそれらの2種類以上を混合物として用いてもよい。
【0014】
本発明の香料組成物は、上記一般式(I)で表されるロドデンドロール誘導体のいずれか1種又は2種以上を必須成分とするが、他に水溶性アルコール、テルペン系アルコール、アセテート類、ケトン類、テルペン類、天然精油、その他の通常香料を調製する際に用いられるものを組み合わせることができる。
【0015】
本発明のロドデンドロール誘導体は、一般の香料組成物に配合することにより、香料の保留性を高めることができることから、保留剤として用いることができる。
【実施例】
【0016】
以下、出発原料の1つであるロドデンドロールの製造方法(製造例1)及び本発明のロドデンドロール誘導体の製造方法(製造例2〜7)、実施例を挙げて本発明を詳説する。
【0017】
製造例1 ロドデンドロール[化合物(1)]
ラズベリーケトン(2g)を、エタノール(5mL)中、水素化ホウ素ナトリウム(0.35g)を加え室温で反応させた。2時間後、反応終了を確認し、反応混合物に3vol%塩酸水溶液を加え、酢酸エチルで抽出し、さらに飽和食塩水で洗浄した。酢酸エチル層を無水硫酸マグネシウム上で乾燥後、溶媒を留去した。得られた残渣を15℃で5vol%エタノール水溶液から再結晶することにより、白色結晶のロドデンドロール(1.8g)を製造した。
【0018】
製造例2 化合物(2)
ラズベリーケトン(2g)をピリジン(5mL)に溶解し、攪拌下、アセチルクロライド(1.1g)を滴下し、室温で1時間反応させた。次に、冷却した3vol%塩酸水溶液を加えてから、ヘキサンを用いて抽出した。ヘキサン層を水で洗浄後、硫酸マグネシウムで乾燥、続いて溶媒を留去した。得られた残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(ヘキサン/酢酸エチル=3/1)で精製し、アセチルラズベリーケトンを得た。得られたアセチルラズベリーケトンを、上記製造例1に従い、水素化ホウ素ナトリウムを用いて還元することにより、化合物(2)(1.8g)を製造した。
本化合物の構造はNMR測定により確認した。図1に、13C−NMRスペクトルを示す。
【0019】
製造例3 化合物(3)
上記製造例2で製造した化合物(2)(1g)をピリジン(3mL)に溶解させ、攪拌下、アセチルクロライド(0.4g)を滴下し、1時間反応させた。反応終了後、定法に従い反応処理を行い、粗生成物を得た。得られた粗生成物はシリカゲルカラムクロマトグラフィー(ヘキサン/酢酸エチル=5/1)を用いて精製し、本発明で用いる化合物(3)(1.3g)を製造した。
本化合物の構造はNMR測定により確認した。図2に、13C−NMRスペクトルを示す。
【0020】
製造例4 化合物(4)
上記製造例3で製造したジアセチルロドデンドロール[化合物(3)](3g)を80vol%メタノール(120mL)に溶解後、酢酸アンモニウム(7.5g)を加え、40℃で48時間攪拌した。反応終了後、定法に従い反応処理を行い、粗生成物を得た。得られた粗生成物はシリカゲルカラムクロマトグラフィー(ヘキサン/酢酸エチル=4/1)を用いて精製し、本発明で用いる化合物(4)(11.3g)を製造した。
本化合物の構造はNMR測定により確認した。図3に、13C−NMRスペクトルを示す。
【0021】
製造例5 化合物(5)
ラズベリーケトン(8.2g)をピリジン(20mL)に溶解し、攪拌下、ヘキサノイルクロライド(8.1g)を滴下し、室温で1時間反応後、次に、冷却した3vol%塩酸水溶液を加えてから、ヘキサンを用いて抽出した。ヘキサン層を水で洗浄後、硫酸マグネシウムで乾燥、続いて溶媒を留去した。得られた残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(ヘキサン/酢酸エチル=8/1)で精製した。得られた精製物(5g)を上記製造例1に従い、水素化ホウ素ナトリウムを用いて還元することにより、本発明で用いる化合物(5)(4.1g)を製造した。
本化合物の構造はNMR測定により確認した。図4に、13C−NMRスペクトルを示す。
【0022】
製造例6 化合物(6)
製造例1で製造したロドデンドロール(5g)をピリジン(10mL)に溶解させ、攪拌下、オクタノイルクロライド(10g)を滴下し、室温で2時間反応させた。反応終了後、定法に従い反応処理を行い、粗生成物を得た。得られた粗生成物はシリカゲルカラムクロマトグラフィー(ヘキサン)を用いて精製し、本発明で用いる化合物(6)(11.5g)を製造した。
本化合物の構造はNMR測定により確認した。図5に、13C−NMRスペクトルを示す。
【0023】
製造例7 化合物(7)
上記製造例6で製造した化合物(6)(3g)を80vol%メタノール(120mL)に溶解後、酢酸アンモニウム(7.5g)を加え、40℃で48時間攪拌した。反応終了後、定法に従い反応処理を行い、粗生成物を得た。得られた粗生成物はシリカゲルカラムクロマトグラフィー(ヘキサン/酢酸エチル=10/1)を用いて精製し、本発明で用いる化合物(7)(1.8g)を製造した。
本化合物の構造はNMR測定により確認した。図6に、13C−NMRスペクトルを示す。
【0024】
上記製造例2〜7で製造した各化合物は、いずれも無色透明の油状物質であった。
【0025】
実施例1〜6
製造例2〜7で製造したロドデンドロール誘導体[化合物(2)〜(7)]を、表1の処方に従い調製し、実施例1〜6及び比較例1〜3の香料組成物とした。これらを用いて残香性及び香り立ち(匂い)について試験した。
【表1】

【0026】
・残香性試験方法
上記表1の各試料香料組成物150mgを5.5cm×15cmの匂い紙に均一に塗布し、官能検査室(温度25℃、湿度60%、風速0.1m/秒以下)中に垂直状態で放置した。塗布後、2時間及び4時間経過した時点で、それぞれの匂い紙に付着した香料組成物の残香強度の比較を5名の調香専門パネラーにより5回繰り返して判定した(延べ人数25名)。
【0027】
・香り立ち試験方法
上記表1の各試料香料組成物を80vol%エタノール溶液とし、匂い紙に同量ずつ塗布し、それぞれの匂い紙に付着した試料香料組成物の香り立ちの比較を5名の調香専門パネラーにより5回繰り返して判定した(延べ人数25名)。
【0028】
残香性試験の結果を表2に示す。
【表2】

【0029】
香り立ち試験の結果を表3に示す。
【表3】

【0030】
表2〜3から明らかなように、実施例1〜6の香料組成物は比較例の香料組成物と比べ、高い残香性、優れた香り立ちを示した。
【0031】
実施例7 香気質の評価
ジアセチルロドデンドロール[化合物(3)]について、10人の専門パネラーによる匂い評価を行った。また、その匂いの嗜好性評価を行った。
【0032】
その結果を下記表4に示す。
(表4)
---------------------------------------------------------------------
化合物名 香気評価 好むと答えた人数
---------------------------------------------------------------------
ジアセチルロドデンドロール ほのかなパウダー 10
[化合物(3)] スウィート様
---------------------------------------------------------------------
【0033】
表4の結果から、ジアセチルロドデンドロール[化合物(3)]は、ほのかなパウダースィート様の香気を有しており、パネラー全員が好む、嗜好性の高い香気であることが分かった。さらに、この香気は、上記試験を継続し評価を行ったところ、7日間という長期間にわたり香気を持続することが確認され、十分な持続性を有することが分かった。
【0034】
実施例8 ローズタイプの調合香料組成物
------------------------------------------
成分 質量‰
------------------------------------------
ゲラニオール 240
ゲラニオールアセテート 50
ロジノール 350
ゼラニュームオイル 150
リナロール 20
フェニルアセタルデヒドDMA 20
フェニルエチルアルコール 100
フェニルエチルアセテート 20
フェニルエチルイソブチレート 10
ローズオキサイド 5
シストアブソリュート 10% 5
グアイアックウッド 20
α−イオノン 10
------------------------------------------
上記ローズタイプの調合香料組成物97gにジアセチルロドデンドロール[化合物(3)]3gを混合して、新規調合香料を調製した。この新規調合香料組成物とロドデンドロールジアセテートを加えていない上記ローズタイプの調合香料組成物について、専門パネラー10人により比較した。
【0035】
その結果、専門パネラー10人の全員がジアセチルロドデンドロール[化合物(3)]を加えた新規調合香料組成物は、ほのかな甘いスウィートさをもち、天然のローズの特徴を有し、香気的に優れており、さらに持続性、拡散性に格段優れていると評価した。
【産業上の利用可能性】
【0036】
本発明のロドデンドロール誘導体は、保留性及び芳香特性に優れ、かつ嗜好性が高いため、各種香粧品類、保健衛生材料、飲食品等の賦香成分として適用でき、非常に有用である。
【図面の簡単な説明】
【0037】
【図1】本発明の製造例2の化合物の13C−NMRスペクトルを示す図である。
【図2】本発明の製造例3の化合物の13C−NMRスペクトルを示す図である。
【図3】本発明の製造例4の化合物の13C−NMRスペクトルを示す図である。
【図4】本発明の製造例5の化合物の13C−NMRスペクトルを示す図である。
【図5】本発明の製造例6の化合物の13C−NMRスペクトルを示す図である。
【図6】本発明の製造例7の化合物の13C−NMRスペクトルを示す図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(I)で表されるロドデンドロール誘導体を含有することを特徴とする香料組成物。
【化1】

(式中、Rは、水素又は炭素数2〜10のアシル基であり、Rは、水素又は炭素数2〜10のアシル基である。但し、R及びRがともに水素ではない。)
【請求項2】
下記一般式(I)中のR及びRがともにアセチル基であるジアセチルロドデンドロールを含有することを特徴とする香料組成物。
【化2】


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2010−90259(P2010−90259A)
【公開日】平成22年4月22日(2010.4.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−261139(P2008−261139)
【出願日】平成20年10月7日(2008.10.7)
【出願人】(000000918)花王株式会社 (8,290)
【Fターム(参考)】