説明

駆動装置

【課題】 出力軸および入力軸に設けられた係止穴とケーブル両端の連結軸部の寸法のバラツキの影響を受け難くして、静粛で効率の良い回転トルクの伝達が得られる駆動装置の構成を提案すること。
【解決手段】 ケーブル66は、長手方向に直角となる断面の形状が係止穴76bと同数の辺を持つ多角形で、且つ該多角形の各辺が長手方向に螺旋状に延びる外面となるように捩れた形状の連結軸部66aを両端に備え、連結軸部66aが係止穴76bに挿入されたとき、連結軸部66aの外面66bと係止穴76bの内平面76cとは互いに当接し、連結軸部66aの捩れが戻されるように弾性変形する構成にしたことである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、駆動源の出力軸から被駆動装置の入力軸に回転トルクを伝達する可撓性のあるケーブルを備える駆動装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、可撓性のあるケーブルを備えて回転トルクを伝達する構成の駆動装置としては、ケーブルの両端に形成された連結軸部と、出力軸及び入力軸に設けられた係止穴との間に隙間が生じないようにして、回転トルクの伝達時に異音発生を防止する構成が用いられてきた。
【0003】
例えば連結軸と係止穴との隙間にばね部材を挿入する構成が提案されている。(特許文献1参照)。
【0004】
更に図9に示されるように、出力軸98から入力軸99に回転トルクを伝達するケーブル90で、その両端の結軸部91に複数の突起92を形成した構成も提案されている。この構成では、係止穴95に連結軸部91を挿入したとき、連結軸部91が弾性変形して係止穴95の内面95aと突起92が互いに当接する。(特許文献2参照)。
【特許文献1】特開平9−86236公報
【特許文献2】実開2004−044779公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記した特許文献1に開示される構成の駆動装置では、ばね部材を必要とするのに対して、特許文献2に開示される駆動装置では、ばね部材を必要としないために安価に作製できる利点がある。
【0006】
しかしながら、特許文献2に開示される駆動装置でも、係止穴95及び連結軸部91の寸法精度の影響を受け易く、高精度を保つためにコストが高くなる問題がある。
【0007】
即ち、図9に実線で示されるように、ケーブル90が、出力軸98と入力軸99の中心間を結ぶ直線上に位置しているとき、出力軸98からの回転トルクは入力軸99に最も安定して伝達される。しかし、例えば2点鎖線で示されるように、係止穴95の上下方向の寸法が小さく作製されたときに、係止穴95の内面95aで突起92がより大きく押されて、ケーブル90は係止穴95の入り口部分で直線上の位置に対して傾いてしまう。そして、ケーブル90は、両軸98、99間で湾曲した状態となる。このように湾曲した状態では、回転トルクを伝達する時、ケーブル90は縄跳びの縄のように撓んだ状態で回転する。その結果、回転が不安定になってトルクの伝達効率が低下したり、またケーブル90の振動などに起因する低周波の不快な「うねり音」を発生したりし易くなる。
【0008】
また、上記とは逆に係止穴95の寸法が所定より大きい場合は、ケーブル90は逆側に傾き、または連結軸部91の寸法にバラツキがある場合にも、同様にいずれかに容易に傾いてしまう。
【0009】
更に、ケーブル90は、用途によって外側を保護するための外套管(図示せず)を用いる場合がある。このような構成では、ケーブルが湾曲すると外套管の内面とケーブルの接触で、更に異音の発生原因になり易く、適用が限定され不利である。
【0010】
このために、本発明の課題は、この問題を解消するために、出力軸および入力軸に設けられた係止穴とケーブル両端の連結軸部の寸法のバラツキの影響を受け難くして、静粛で効率の良い回転トルクの伝達が得られる駆動装置の構成を提案することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記した技術的課題を解決するために講じた第1の技術的手段は、長手方向に直角となる断面の形状が多角形で、且つ該多角形の各辺が長手方向に延びる平らな内面となるように形成された係止穴を夫々備えた出力軸と入力軸との間で回転トルクを伝達するためのケーブルを備える駆動装置において、
前記ケーブルは、長手方向に直角となる断面の形状が前記係止穴と同数の辺を持つ多角形で、且つ該多角形の各辺が長手方向に螺旋状に延びる外面となるように捩れた形状の連結軸部を両端に備え、前記連結軸部が前記係止穴に挿入されたとき、前記連結軸部の前記外面と前記係止穴の前記内平面とは互いに当接し、前記連結軸部の捩れが戻されるように弾性変形する構成にしたことである。
【0012】
また、本発明で講じた第2の技術的手段は第1の手段に加えて、前記係止穴の長手方向に直角となる断面の形状は4角形としたことである。
【0013】
更に、また、本発明で講じた第3の技術的手段は第1の手段に加えて、前記ケーブルは外套管で覆われている構成にしたことである。
【発明の効果】
【0014】
請求項1に記載の発明によれば、例えば係止穴の寸法が所定より小さい場合でも、連結軸部の弾性変形での捩れが増すだけで、ケーブルは出力軸と入力軸の中心間を結ぶ直線上の位置に維持され、傾かない。また、係止穴の寸法が所定より小さい場合、または連結軸部の寸法に誤差が生じた場合であっても、ケーブルの直線上の位置は維持され、回転トルクの高い伝達効率が実現できる。このために、連結軸部及び係止穴の寸法を高精度にする必要が無く安価に製造できるようになる。
【0015】
更に、請求項2に記載の発明によれば、連結軸部の断面が4角形であるので、プレス成型し易く安価に製造できる。
【0016】
更に、請求項3に記載の発明によれば、ケーブルが出力軸と入力軸の中心間を結ぶ直線上の位置に維持されるので、ケーブルを保護するように外套管で覆われている構成であっても、異音が発生し難くい。よって静粛な作動の駆動装置が実現できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
本発明に係る駆動装置5の実施の形態について、図1から図8に基づき、車両用のシート調整装置10へ適用した例を用いて以下に説明する。
【0018】
先ず、図1は、シート1の前後位置、背凭れ角度位置等を総合的に調整することを可能とするシート調整装置10の全体を斜視図で示している。
【0019】
次に図2と図3に、シート1の位置を前後方向(図1に示す矢印参照)に調整するために、シート調整装置10に備えられているシートスライド装置3を示す。以下で、本発明に関わる駆動装置5の構成を、このシートスライド装置3に適用した例を用いて説明する。
【0020】
シートスライド装置3は、シート調整装置10の左右に対になって配置され、前後方向に延びるアッパレール31とロアレール35を備えている。アッパレール31は、シート調整装置10のシート1側部材に固定して取付けられ、ロアレール35は車両のフロア(図示せず)に固定して取付けられている。アッパレール31とロアレール35は互いに摺動自在に係合し、シート1の前後方向の位置を調整可能にする構成となっている。
【0021】
図1及び図2に、更に示されるように、シートスライド装置3は、シート調整装置10の前方側に配置された駆動装置5を有する。駆動装置5には、シート調整装置10のアッパレール31側にブラケット32によって固定して取付けられた1つのモータ52が備えられている。モータ52は、シート1の前後方向の位置を調整するための駆動力の出力源となる。
【0022】
更に、図1、図2及び図3に示されるように、駆動装置5には、シート調整装置10の前方側に配置され、左右のシートスライド装置3のアッパレール31の先端部分に、ブラケット33で固定して取付けられている2つの減速ギヤ機構70を有している。
【0023】
2つの各減速ギヤ機構70は、図3に示されるように、ハウジング75と、ハウジング75内には互いに噛合って回転するウォームギヤ76とホイールギヤ77が備えられている。後述で詳細するが、1つのモータ52と、左右の減速ギヤ機構70内の各ウォームギヤ76とは、連結ケーブル61、62で直接連結され、互いに同じ回転数で回転する構成となっている。更に、ウォームギヤ76に伝達されたモータ52の回転は、ウォームギヤ76とホイールギヤ77の噛合い作用によって、大幅に減速されてホイールギヤ77へ伝達される。
【0024】
図3に示されるように、ホイールギヤ77の中心部には、スクリューシャフト54が、その前端部が貫通するように挿入され、締結ナット54bで固定されている。そして、ホイールギヤ77とスクリューシャフト54は、互いに一体的になって回転する構成となっている。スクリューシャフト54は後方に伸び、その外径上に雄ネジ54aが形成されている。
【0025】
更に図3に示されるように、シートスライド装置3のロアレール35上には、支持ブラケット36が固定して取り付けられ、この支持ブラケット36には、弾性体のインシュレータ37を介してナット部材38が取付けられている。ナット部材38には、雌ネジ38aが形成されていて、スクリューシャフト54がナット部材38を貫通して組付けられ、雄ネジ54aと雌ネジ38aが係合する。
【0026】
この、構成によって、スクリューシャフト54が回転することでロアレール55に対してアッパレール51を前後方向に移動させることが出来る構成となっている。即ち、モータ52を作動させることによって、シート1の前後位置の調整が可能となる。
【0027】
次に、図4から図8を用いて、本発明に関わる駆動装置5と、駆動装置5の連結ケーブル61について述べる。モータ52の左右に取付けられる連結ケーブル61と連結ケーブル62の構成は、シート調整装置10の構成によって、連結する距離は異なるのみで、同様の構成であるため、以下では連結ケーブル61を例にして説明する。
【0028】
先ず、図4は、連結ケーブル61とモータ52側(図4の右側)及び減速ギヤ機構70側(図4の左側)の連結部分を断面図で示している。
【0029】
連結ケーブル61は、パイプ状の中空形状をして伸びる外套管65を備え、外套管65の中空部に可撓性のあるケーブル66が挿入された構成になっている。外套管65の1方端は、減速ギヤ機構70のハウジング75に設けられた取付け孔75aと嵌合している。また、他方端は、モータ52に設けられた取付け孔52aに挿入されて組み付けられている。
【0030】
減速ギヤ機構70側の取付け孔75aの中心部には、ウォームギヤ76の回転軸になる入力軸76aが配置される。更に、入力軸76aの軸芯部には、長さ方向に沿って伸びる係止穴76bが形成されている。係止穴76bは、図5乃至図7に示されるように長手方向に直角な断面形状が4角形となっている。この4角形の各辺、即ち係止穴76bの4つの各内面76cは、入力軸76aの長さ方向に延びる平面となっている。
【0031】
また、モータ52側の取付け孔52aの中心に、出力軸55が配置され、出力軸55の中心には、ウォームギヤ76の係止孔76bと同じ4角形の断面形状をもつ係止孔55aが形成されている。
【0032】
ケーブル66の両端部には、図5乃至図7及び図8に示されるように、長手方向に直角の断面形状が4角形となる連結軸部66aが形成されている。連結軸部66aの4角形の断面は、係止孔55aまたは係止孔76bの4角形断面より僅かに小さく形成されている。また、連結軸部66aは長手方向に捩れるようにして延びた形状となっていて、4角形の各辺となる4つの外面66bは、長手方向に螺旋状になって延びる形状となっている。
【0033】
ケーブル66の両端部の連結軸部66aは、夫々、係止孔55a及び係止孔76bに挿入されて組付けられている。そして、係止孔76bと連結軸部66aの係合状態を図5乃至図7に示すが、連結軸部66aが係止穴76bに挿入されたとき、連結軸部66aの外面66bと係止穴76bの内平面76cと互いに当接する。係止孔76bの奥の部分と連結軸部66a先端部分(図5参照)と、係止孔76bの入り口部分で連結軸部66aの根元部分(図7参照)で当接する。図6に示されるように、連結軸部66aの中間部分では内面76cとは接しない。
【0034】
連結軸部66aは、係止孔76bの内面76cと当接することで、連結軸部66aの捩れた形状が戻されるように弾性変形する。この結果、係止孔76bと連結軸部66aとの間では、連結軸部66aの弾性作用で遊びの無い連結を実現する構成となっている。尚、係止孔55aに対する連結軸部66aの係合においても同様で遊びが無く連結される。
【0035】
上記のように構成された駆動装置5では、図5乃至7に示されるように、係止孔76bと連結軸部66aの中心は、互いに共通の中心Cを持つように連結される。この関係は、係止孔76bおよび連結軸部66aの寸法に多少のバラツキが生じたとしても、単に連結軸部66aの形状の捩れの程度の変わるだけで、中心Cを共有する関係は維持される。従って、製造のバラツキの影響を受けずに、ケーブル66の回転中心軸の触れが少ない回転トルクの伝達が可能となる。特に、ケーブル66の傾きが少なく維持されことによって、外套管65の内壁に接触し難く、静粛な作動が得られる。
【0036】
外套管65の有しない連結ケーブルであっても、ケーブルが縄跳びの縄のように撓んだ状態で回転する現象は生じ難くなる。
【0037】
上記したように構成された、本発明に関わる駆動装置5では、回転が不安定になってトルクの伝達効率が低下、またケーブルの振動などに起因する低周波の不快な「うねり音」の発生も避けられる。
【0038】
また、ケーブル66は、多数のワイヤ材料を縒り合わせて作製される。上記説明では係止孔55a、76bと連結軸部66aの断面形状を4角形とした。4角形の連結軸部66aは、プレス成型で上下に押しつぶして作成できるため、プレス型が簡単で安価にできる有利さがある。しかしながら、係止孔55a、76bと連結軸部66aの断面形状は、上記の説明からも、回転トルクを伝達できる形状であれば、その他の多角形であっても良いことは自明である。
【図面の簡単な説明】
【0039】
【図1】本発明に関わる駆動装置を備えるシート調整装置の斜視図である。
【図2】図1のII方向から見た駆動装置を示す。
【図3】図2におけるIII―III部分での断面図である。
【図4】図2におけるIV―IV部分での断面図である。
【図5】図4におけるV―V部分での断面図である。
【図6】図4におけるVI―VI部分での断面図である。
【図7】図4におけるVII―VII部分での断面図である。
【図8】本発明に関わる駆動装置のケーブルの連結軸部を示す斜視図である。
【図9】従来技術に示される出力軸及び入力軸を連結するケーブルの構成を示す断面図である。
【符号の説明】
【0040】
55 出力軸
55a 係止穴
55b 内面
65 外套管
66 ケーブル
66a 連結軸部
66b 外面
76a 入力軸
76b 係止穴
76c 内面

【特許請求の範囲】
【請求項1】
長手方向に直角となる断面の形状が多角形で、且つ該多角形の各辺が長手方向に延びる平らな内面となるように形成された係止穴を夫々備えた出力軸と入力軸との間で回転トルクを伝達するためのケーブルを備える駆動装置において、
前記ケーブルは、長手方向に直角となる断面の形状が前記係止穴と同数の辺を持つ多角形で、且つ該多角形の各辺が長手方向に螺旋状に延びる外面となるように捩れた形状の連結軸部を両端に備え、前記連結軸部が前記係止穴に挿入されたとき、前記連結軸部の前記外面と前記係止穴の前記内平面とは互いに当接し、前記連結軸部の捩れが戻されるように弾性変形する構成にしたことを特徴とする駆動装置。
【請求項2】
前記連結軸部の長手方向に直角となる断面の形状は4角形である請求項1に記載の駆動装置。
【請求項3】
前記ケーブルは外套管で覆われている構成の請求項1に記載の駆動装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2007−224999(P2007−224999A)
【公開日】平成19年9月6日(2007.9.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−46074(P2006−46074)
【出願日】平成18年2月23日(2006.2.23)
【出願人】(000000011)アイシン精機株式会社 (5,421)
【Fターム(参考)】