説明

騒音低減装置

【課題】騒音低減装置が制御の対象とする周波数範囲において、低周波域における騒音の低減に効果を発揮する、航空機などの客席において使用可能な騒音低減装置を提供する。
【解決手段】騒音源610から発せられる騒音を検知するマイク620と、マイク620により検知された騒音を制御空間の制御中心Xにおいて打ち消すための制御音信号を生成させる騒音制御器630と、騒音制御器630からの制御音信号に基づいて制御音を出力するスピーカ640とを備えた騒音低減装置であって、マイク620を騒音低減装置が配設される制御空間に配置し、マイク620と制御中心Xとの距離を、スピーカ640と制御中心Xとの距離よりも、少なくとも騒音制御器630の制御対象周波数におけるスピーカ640の最大群遅延時間に相当する距離だけ離して配置する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、騒音低減装置に関するものであり、特に航空機や鉄道車両などの密閉構造体内において使用する騒音低減装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
騒音の大きい航空機や車両などにおいて、座席に着席した利用者に対して音声サービスなどの情報提供を行う場合、座席における騒音が課題となる。
【0003】
航空機や車両のように連続した壁によって境界を作られた内部空間は、一種の密閉構造体になっており、当該空間の内外に騒音源があると、利用者にとって騒音環境が固定化されてしまう。このため、騒音の程度によっては、騒音が利用者に物理的、精神的な圧迫要因となり、快適性が低下する。特に、航空機などの客室として利用客にサービスを提供する場合は、サービス業務の品質に重大な支障を与えることとなる。
【0004】
特に、航空機の場合は、プロペラやエンジンを中心とする航空機の推力を発生させるための機器の騒音や、飛行中の風切り音など空気層を機体が移動することに伴って発生する空気流に係る音が主要な騒音源となるが、機内の騒音は乗客に不快感を与えるとともに、音声サービスなどの妨げとなるので、改善が強く望まれている。
【0005】
これに対して、密閉室内の騒音を低減する対策としては、従来、受動的減衰手段による方法が一般的であり、障壁材料や吸収材料など音響的な吸収性を有する遮音材料を密閉構造体と発生源との間に配置する。障壁材料としては高密度の障壁材料などを使用し、吸収材料としては吸音シートなどを利用する。音響的な吸収性を有する材料は、一般的に高密度となり、高密度材料は重量の増加を伴う。重量が増加すると、飛行燃料が増加し、航続距離が低下する。したがって、航空機としての経済性および機能の低下をもたらす。また、構造材料として、傷つきやすいなどの強度面と質感などのデザイン面での機能の低下も無視できない。
【0006】
上記の受動的減衰手段による騒音対策の課題に対して、能動的減衰手段により騒音を低減する方法として、騒音の位相と反対の位相の音波を発生させる方法が、実施されている。この方法により、発生源またはその付近で騒音レベルを低減し、騒音の低減を必要とする領域に伝搬するのを防止することができる。
【0007】
また、騒音低減装置における構成要素の配置や騒音低減に係わる遅延時間を取り扱った事例としては、空調設備などの電気機器を対象とする消音装置において、マイクとスピーカの配設位置、および騒音が伝搬する時間とスピーカから発せられる制御音に関し遅延時間を考慮することにより、騒音の低周波成分の消音効果を高める方法や(例えば、特許文献1参照)、騒音を低減する場所(以下、「消音中心」と略記する)に対して、スピーカの配設位置を考慮することにより、ランダムな騒音に対して消音効果を高める方法(例えば、特許文献2参照)が提案されている。
【特許文献1】特開平7−160280号公報
【特許文献2】特開平10−171468号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
能動型の騒音低減装置では、制御の安定性の観点からフィードフォワード制御が採用されるのが一般的である。フィードフォワード制御においては、騒音源からの騒音をマイクで検知し、この検知した騒音信号から逆位相の制御音を生成して騒音を相殺するために、騒音が消音中心に届くまでの時間内に確実に制御音を生成しなくてはならない(時間因果律の制限)。騒音低減装置における構成要素の配置や騒音低減に係わる遅延時間に関し、従来、提案されている消音装置では、マイクから消音中心までの音の伝搬時間とスピーカから消音中心までの音の伝搬時間の差分に基づいて消音に係わる遅延時間の調整を行っているのみで、騒音低減装置における構成要素のうち、大きな遅延要因を含むスピーカについて効果的な検討がなされていない。スピーカに関しては、従来、高域の位相特性を補償する目的で騒音源よりも消音中心の側に配置する事例において、周波数に対してゲインおよび位相が一定となる理想的な位相特性について触れるに止まっている。特に、スピーカに関する具体的な位相特性(群遅延特性)に係わる開示がない。したがって、スピーカの配置およびスピーカにおける遅延時間の発生が騒音低減装置の性能に与える影響および騒音低減装置の性能を高めるための対策について、効果的な検討がなされているとは言えない。
【0009】
本発明は、以上の課題を解決するものであり、航空機などの客席において、効果的に騒音を低減できる高品質の騒音低減装置を提供することを目的とする。特に、フィードフォワード制御方式を採用した騒音低減装置が制御の対象とする周波数範囲に関し、低周波域における騒音の低減に効果を発揮する騒音低減装置を実現することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上述したような目的を達成するために、本発明の騒音低減装置は、騒音源から発せられる騒音を検知する騒音検知マイクと、騒音検知マイクにより検知された騒音を制御空間の制御中心において打ち消すための制御音信号を生成させる騒音制御器と、騒音制御器からの制御音信号に基づいて制御音を出力する制御スピーカとを備えた騒音低減装置であって、騒音検知マイクと制御中心との距離を、制御スピーカと制御中心との距離よりも、少なくとも騒音制御器の制御対象周波数における制御スピーカの最大群遅延時間に相当する距離だけ離して配置することを特徴とする。
【0011】
これにより、騒音源から制御中心に到達する騒音に対して制御スピーカから発せられる制御中心に到達する制御音が遅延することがなく、制御中心において周囲から到達する騒音を確実に低減することができる。
【0012】
また本発明の騒音低減装置では、騒音検知マイクと制御中心との距離を、制御スピーカと制御中心との距離よりも、少なくとも騒音制御器の制御対象周波数における制御スピーカ、騒音制御器および騒音検知マイクのそれぞれの最大群遅延時間を合計した時間に相当する距離だけ離して配置してもよい。
【0013】
これにより、騒音検知マイクおよび騒音制御器の群遅延時間が制御スピーカの群遅延時間に対して無視できない場合であっても、騒音源から制御中心に到達する騒音に対して制御スピーカから発せられ制御中心に到達する制御音が遅延することがなく、制御中心において周囲から到達する騒音を確実に低減することができる。
【0014】
また本発明の騒音低減装置では、騒音検知マイクと制御中心との距離を、制御スピーカと制御中心との距離よりも少なくとも34センチ大きくすることが望ましい。
【0015】
これにより、制御対象周波数の下限を100Hzとした場合であっても、十分な騒音低減の効果を発揮することができる。
【0016】
また本発明の騒音低減装置では、制御空間は制御中心の周囲に防音壁をさらに備え、制御スピーカを防音壁の内側に配置し、騒音検知マイクを防音壁の壁面頂部に配置してもよい。
【0017】
これにより、騒音源からの騒音を効果的に低減できるとともに、よりコンパクトな騒音低減装置を実現することができる。また、防音壁の防音効果が高い場合には、防音壁を越えて進入する騒音を効率よく検知できる。
【0018】
また本発明の騒音低減装置では、制御空間は制御中心の周囲に防音壁をさらに備え、制御スピーカを防音壁の内側に配置し、騒音検知マイクを防音壁の外壁面に配置してもよい。
【0019】
これにより、騒音源からの騒音を効果的に低減できるとともに、よりコンパクトな騒音低減装置を実現することができる。また、比較的低い経路を通ってやってくる騒音を効率よく検知できるとともに、防音壁の中で利用者が発した音声等をノイズとして拾いにくくすることができる。
【0020】
また本発明の騒音低減装置では、制御空間は制御中心の周囲に防音壁をさらに備え、制御スピーカを防音壁の内側に配置し、騒音検知マイクを防音壁の内壁面に配置してもよい。
【0021】
これにより、騒音源からの騒音を効果的に低減できるとともに、よりコンパクトな騒音低減装置を実現することができる。また、低周波の騒音のように防音壁を透過してくる騒音も確実に検知することができる。
【0022】
また本発明の騒音低減装置では、制御空間は制御中心の周囲に防音壁をさらに備え、制御スピーカを防音壁の内側に配置し、騒音検知マイクを防音壁の内側に配置してもよい。
【0023】
これにより、騒音源からの騒音を効果的に低減できるとともに、よりコンパクトな騒音低減装置を実現することができる。また、制御中心の近傍で騒音を検知できるので、多くの騒音源があって主要な騒音源を特定しにくい場合に特に有効である。さらに、騒音マイクと制御点が近くなるため、騒音マイクで検出した騒音信号と制御点での騒音の相関性が向上し、その結果、騒音効果を向上できる。
【0024】
また本発明の騒音低減装置では、制御空間が旅客移動体内に配置された座席であり、制御中心を座席に着席した利用者の頭部位置としている。
【0025】
これにより、各座席における減音効果を適切かつ効果的に高め、航空機のシェル構造を備えたファーストクラスの座席などにおいて高度の快適性を提供可能となる。
【発明の効果】
【0026】
本発明によれば、制御音発生用のスピーカおよび騒音検知用マイクに関し、相互の配設位置に物理的な条件を設けることにより、フィードフォワード制御方式を採用した騒音低減装置において、確実かつ効果的な騒音低減を実現することができる。したがって、騒音制御空間において、高品質の騒音低減を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0027】
以下、本発明の実施の形態について、図1から図7を用いて説明する。
【0028】
(実施の形態)
本発明の実施の形態における騒音低減装置について、航空機に搭載した場合の事例を引用して以下に説明する。
【0029】
まず、騒音低減装置の設置を必要とする航空機における音環境について、図1および図2を用いて説明する。
【0030】
図1は、本発明の実施の形態における騒音低減装置の設置環境を示す平面図である。図1に示すように、航空機100は、左右の翼101a、101bにエンジン102a、102bを備えている。
【0031】
航空機の音環境の観点からみると、エンジンは回転音だけでなく、飛行中は空気流の反響などを伴うため、騒音源として重要な位置を占める。利用者サービスの観点からは、エンジン102a、102bが、例えば機内の客室A(例えば、ファーストクラス)、客室B(例えば、ビジネスクラス)および客室C(例えば、エコノミークラス)に設置された座席列103a、103b、103cに対して外部の騒音源NS1a、NS1bとして機体の各部に作用するほか、機体が空気層を高速で移動することに伴う機体の先端部や左右の翼101a、101bの前縁部等における空気流との衝突音(風切り音)が騒音源として機内の情報提供サービスなどに悪影響を与えている。図1では、この空気流との衝突音を代表して機体の先端部の衝突音を騒音源NS1cとして表している。
【0032】
図2は、同騒音低減装置の設置環境の詳細を示す平面図であり、図1における客室Aおよび客室Bの一部における座席の配置を拡大して示している。客室100aは壁により客室Aおよび客室Bに区分され、客室Aおよび客室Bにはそれぞれ座席列が設けられている。一方、客室100aの音環境としては、エンジン102a、102bから発生する騒音源NS1a、NS1bおよび機体先端部における風切り音NS1cが外部の騒音源として存在するほか、エアコンなどによる騒音源NS2a〜NS2eが内部の騒音源として存在する。これを客室Aに配列された一つの座席105における騒音として考えると、座席105では窓の外側の翼に取付けられたエンジン102a、102b(図1)および気流音を発生原因とする騒音源NS1a〜NS1cおよびエアコンを発生原因とする騒音源NS2a〜NS2eから騒音の影響を受ける。
【0033】
特に、図1における客室Aで示したファーストクラスなどでは、座席はシェル構造となっており、このシェルの内部には映画や音楽を楽しむためのテレビやラジオなどの視聴機器や、ビジネスマンのための机、PC接続電源などが配設されており、ゆっくりとくつろいだり、ビジネスに集中したりできる環境を利用者に提供することが強く求められている。そのために、このシェル内部の騒音低減に対する要望は特に大きいものがある。
【0034】
次に、本発明の実施の形態における騒音低減装置の基本構成について、図3を用いて説明する。
【0035】
図3(a)は、騒音低減装置の基本構成を示すブロック図である。本実施の形態の騒音低減装置はフィードフォワード制御を用いている。
【0036】
騒音低減装置300は、騒音検知マイク320、騒音制御器330、制御スピーカ340および誤差検知マイク350を備えている。以下、それぞれの構成および機能について説明する。
【0037】
騒音検知マイク320は、騒音源310から発せられる騒音を検知し、電気信号に変換して出力する。
【0038】
騒音制御器330は、A/D変換器331、335、適応デジタルフィルタ332、制御部333、D/A変換器334を備えており、騒音検知マイク320からの騒音信号および誤差検知マイク350の誤差信号に基づいて、検出誤差が最小となるように制御音信号を生成し制御スピーカ340の制御を行う。
【0039】
A/D変換器331は騒音検知マイク320からの騒音信号をA/D変換して適応デジタルフィルタ332および制御部333へ出力する。適応デジタルフィルタ332は多段タップで構成されており、各タップのフィルタ係数を自由に設定可能なFIRフィルタである。制御部333には、騒音検知マイク320からの信号に加えて誤差検知マイク350からの検出誤差信号がA/D変換器335を介して入力されており、この検出誤差が最小となるように、上記適応デジタルフィルタ332の各フィルタ係数を調整する。すなわち、誤差検知マイク350の設置位置において騒音源310からの騒音と反対位相となるような制御音信号を生成してD/A変換器334を介して、制御スピーカ340に出力する。制御スピーカ340は、D/A変換器334から受け取った制御音信号を音波に変換して出力することができ、利用者301の耳301bの近傍の騒音を相殺する制御音を発する機能を備えている。
【0040】
誤差検知マイク350は、騒音低減後の音を誤差として検出し、騒音低減装置300の動作結果に対してフィードバックを行う。これにより、騒音環境などが変化しても利用者の耳の位置で常に騒音を最小にすることができる。
【0041】
図3(a)に示すように、本発明の実施の形態における騒音低減装置300では、騒音源310から発せられた騒音を騒音検知マイク320により検知し、騒音制御器330で信号処理を行って制御スピーカ340から制御音を発生させ、騒音源310から発せられた騒音と位相の反転した音を重ね合わせて利用者301の耳301bに発信することにより、騒音の低減を行う。
【0042】
図3(b)は、制御スピーカ340から発する制御音と騒音源310から発せられる騒音とを重ね合わせる方法について示している。
【0043】
制御スピーカ340は、騒音源310と利用者301の耳301bとを結ぶ騒音の主到達経路310N内に配置される。これにより、スピーカ340から発せられる位相が反転した制御音が騒音と重ね合わされて利用者301の耳301bに到達する。また、重ね合わせの領域内に誤差検知マイク350を配置することにより、騒音低減後の音を誤差として検出し、騒音低減装置300の動作結果に対してフィードバックを行い、騒音低減効果を高めることができる。
【0044】
次に、本発明の実施の形態における騒音低減装置(以下、「本装置」とも略記する)を航空機の客室に設置した場合の構成上の特徴について、図4を用いて説明する。図4は、航空機の客室に設置された騒音低減装置の4つの事例における主要な構成を示す平面図である。
【0045】
図4(a)〜図4(d)は、騒音検知マイク420a〜420f、制御スピーカ440a、440bおよび防音壁としてのシェル部402aとの配置関係が異なっており、図4(a)は騒音検知マイク420a〜420fをシェル部402aの壁面頂部に配置した事例、図4(b)は騒音検知マイク420a〜420fをシェル部402aの外壁面に配置した事例、図4(c)は騒音検知マイク420a〜420fをシェル部402aの内壁面に配置した事例、図4(d)は騒音検知マイク420a〜420fをシェル部402aの内側に配置した事例をそれぞれ示している。
【0046】
図4(a)の事例をもとに本装置の構成を説明する。図4(a)に示すように、本装置は、航空機の客室A(図1)に配列され、騒音を制御する制御空間である座席402に設置される。
【0047】
座席402は、壁面によりシェル状に周囲を囲い利用者の占有領域を確保するシェル部402aおよびシェル部402aの内部に配置された座席部402bを備えている。シェル部402aは、座席部402bの前方に対向する位置に棚部402aaを備えており、机としての機能を発揮することができる。また、座席部402bは、背もたれ部(図示せず)、ヘッドレスト402bcおよび肘掛け部402bd、402beを備えている。
【0048】
航空機の客室Aにおける音環境としては、機体に搭載されたエンジンや客室の内部に配設されたエアコンその他の騒音源があり、座席402では、騒音源から発せられる騒音が、シェル部402aの外周部に到達する。これに対して、例えば6個の騒音検知マイク(以下、単に「マイク」という)420a〜420fが座席402のシェル部402aの壁面頂部に配設される。
【0049】
また、ヘッドレスト402bcはC形の形状を有し利用者401が座席402に着座すると頭部401aがヘッドレスト402bcに囲まれた状態になる。またヘッドレスト402bcには、騒音制御器430および制御スピーカ(以下、単に「スピーカ」という)440a、440bが埋め込まれ、スピーカ440a、440bは利用者401の頭部401aに対して耳401bに対向して配置される。
【0050】
他の4つの事例についても、マイク420a〜420fの配置が異なるのみでその他の構成は同じであるので説明を省略する。それぞれの事例の特徴は以下の通りである。
【0051】
まず、図4(a)のようにマイク420a〜420fをシェル部402aの壁面頂部に設置すると、シェル部402aの防音効果が高い場合には、シェル部402aを越えて進入する騒音を効率よく検知できる。
【0052】
また、図4(b)のようにマイク420a〜420fをシェル部402aの外壁面に配置すると、比較的低い経路を通ってやってくる騒音を効率よく検知できるとともに、シェル部402aの中で利用者401が発した音声等をノイズとして拾いにくくすることができる。
【0053】
また、図4(c)のようにマイク420a〜420fをシェル部402aの内壁面に配置すると、低周波の騒音のようにシェル部402aを透過してくる騒音も確実に検知することができる。
【0054】
最後に、図4(d)のようにマイク420a〜420fをシェル部402aの内側に配置すると、騒音を低減すべき利用者401の耳401bの近くで騒音を検知できるので、多くの騒音源があって主要な騒音源を特定しにくい場合に特に有効である。さらに、騒音マイクと制御点が近くなるため、騒音マイクで検出した騒音信号と制御点での騒音の相関性が向上し、その結果、騒音効果を向上できる。
【0055】
次に、本装置における主要な構成要素の配置および機能について、前述の図4(a)のように騒音検知用のマイクをシェル部の壁面頂部に配置した場合を例に図5を用いて説明する。図5は、本装置が設置された座席502の主要な構成要素の配置図であり、図5(a)は平面図、図5(b)は側面図である。本装置では、シェル部502aの内部の座席を制御空間、座席に着席した利用者の頭部の位置を制御空間の中心として、制御中心と定義する。
【0056】
図5(a)および図5(b)において、座席502は、座席502を区画する構造物としてのシェル部502aおよび座席部502bを備え、座席部502bは他の座席と区画するシェル部502aにより周囲を壁面で囲われた状態で保持されている。
【0057】
座席502では、例えば外部の騒音源510aおよび騒音源510bから発せられた騒音に対してシェル部502aにより座席502の周囲で物理的な防音を行う。騒音源510a、510bからの騒音はそれぞれ主到達経路(騒音経路)510Na、510Nbにより、シェル部502aの内部に進入し、座席部502bに着席した利用者501の頭部(耳)501aに到達する。
【0058】
また、本装置では、指向性の方向DAと指向角度θが設定されたマイク520がシェル部502aの壁面頂部に配設され、騒音源510a、510bからの騒音を正確かつ確実に検知することができる。これに対して、利用者501の頭部(耳)501a(制御中心)の近傍には、スピーカ540が配設されており、騒音制御器(図示せず)により生成された騒音と反対位相となるような制御音が出力される。これにより、騒音源から到達する音とスピーカ540から発せられる制御音が重畳され、座席502に着席した利用者501に達する騒音を効果的に低減することができる。
【0059】
なお、マイク520は、指向性の方向を変更できるマイクを使用し、騒音源から発せられる騒音の状態に応じて、マイク520の指向性の方向を適宜変更するようにしてもよい。騒音低減の対象となる騒音源が複数ある場合は、配設されたマイク520からの検知情報に基づいて対象とすべき騒音源の数および騒音の周波数などを特定し、特定した騒音源に対してマイク520の指向性の方向を個別に設定してもよい。
【0060】
また、マイク520の指向性は、複数のマイク素子をアレイ状に配置したアレイマイクを用い、マイク素子間の距離を調整することにより実現できる。また、アレイマイクの幅を変えることにより指向性の周波数特性も調整が可能となる。
【0061】
つぎに、本装置の構成上の特徴である騒音検知用のマイクおよび騒音制御用のスピーカの配置について、図6および図7により説明する。
【0062】
本装置が騒音の低減に関し、フィードフォワード制御を行なう場合、騒音源610から発する騒音が制御中心Xに到達すると同時にスピーカ640からの制御音が到達するという条件(以下、「制御条件」と略記する)を満足しなければならない。例えば、図6において、制御空間における制御中心Xが利用者の頭部601aの耳元601bの近傍にあり、制御音発生用のスピーカ640が座席のヘッドレスト(図5)にあるとする。騒音検知用のマイク620が騒音源610に隣接して配設されている場合には、騒音源610から騒音がマイク620に到達するまでに要する時間τ1は近似的に0とみなすことができる。また、マイク620、騒音制御器630およびスピーカ640において入力から出力までに要する時間(遅延)τ2、τ3、τ4がいずれも無視できる程度である仮定すると、マイク620において騒音を検知してから騒音制御器630により制御音を生成し、スピーカ640から制御音を発生して制御中心Xに到達するまでの時間は、スピーカ640から制御中心Xに至る距離d2を制御音が伝搬する時間(制御音伝達時間)τ5(=d2/v:vは音速を示す)に等しくなる。したがって、本装置における制御条件より、騒音源610から制御中心Xに至るまでの距離d1を騒音が伝搬する時間(騒音伝達時間)T(=d1/v)に関し、T≧τ5を満足することが必要となり、
d1/v≧d2/v および d1≧d2 (1)
を導出することができる。これにより、本装置においてフィードフォワード制御を行う場合には、マイク620およびスピーカ640は、上記(1)式の条件を満たす位置に設置すればよい。
【0063】
以上は、マイク620、騒音制御器630およびスピーカ640において遅延が発生しない場合についての説明であるが、実際には制御音発生に係わる構成要素において群遅延などが発生する。したがって、本装置における制御条件は、
d1≧d2+α (2)
として考慮する必要がある。なお、制御音発生に係わる構成要素であるマイク620、騒音制御器630およびスピーカ640のうち、スピーカ640で発生する時間遅れ(遅延)τ4が最も大きい。
【0064】
以下、図7により、スピーカ640において発生する遅延τ4について検討を行う。
【0065】
図7(a)は、本装置において使用するスピーカ640の通常の遅延特性を示し、図7(b)は、低遅延化対策を実施した後の遅延特性を示している。本装置では、図7(c)に示すように、座席の制御空間において騒音低減の制御の対象とする周波数をflowからfhighまで設定して、低遅延化対策を実施し、スピーカ640の群遅延の制御を行う。
【0066】
なお、群遅延とは対象機器の周波数ごとの遅延時間であり、機器の位相歪を表す。したがって、十分な消音効果を得るためには、制御帯域内においてスピーカ640の群遅延特性がフラット(一定遅延)である必要がある。すなわち、騒音を消去するためには制御中心Xにおいて制御音の位相が騒音に対して正確に反転している必要があるが、スピーカ640の群遅延特性がフラットでないと、スピーカ640から発せられる制御音の出力時刻が周波数ごとに微妙に異なることになる。その結果、騒音周波数によっては制御中心Xにおいて騒音と制御音の位相がずれてしまい十分な消音効果を得られない。このように、制御帯域内においてスピーカ640の群遅延特性を一定にすることが本装置の性能を確保する上で非常に重要となる。
【0067】
図7(a)に示すように、スピーカ640の群遅延は低域において大きく増大する。例えば、300Hz以上の周波数では1msecの群遅延が、100Hzでは2倍の2msecに増大している。したがって、例えば300Hzでの制御音の位相が、騒音に対してちょうど反転するようにマイクとスピーカの位置を調整された騒音低減装置では、100Hzの騒音に対して制御音の位相は本来よりも36度(1msec÷10msec×360度)もずれてしまう。このように、群遅延対策を行わない通常のスピーカ640では低域においてスピーカ640から発せられた制御音が制御中心Xへ到達するのが遅れるので十分な消音効果が得られない。一方、低遅延化対策を実施したスピーカ640では、図7(b)に示すように、100Hz以上の群遅延はほぼ全帯域に渡って1msecであり、全制御帯域において騒音と制御音の到達時間は等しくなり良好な消音効果が得られる。
【0068】
さて、本装置が座席の制御空間において騒音低減の制御の対象とする下限周波数flowを100Hzに設定すると、低遅延化対策を実施しても周波数100Hzでは約1msecの遅延が発生する。一方、騒音制御器630において発生する遅延τ3は、高速動作の設計を行うことにより、μsecオーダーに抑制することが可能である。また、マイク620において発生する群遅延τ2は、スピーカ640と異なり、中心周波数(fc)をDC近くに設定することができるため、騒音制御器630と同様に騒音低減の制御帯域内でμsecオーダーの遅延に抑制することができる。よって、マイク620およびスピーカ640に関する制御条件は、
d1≧d2+v・τ4 (3)
となる。
【0069】
また、本装置が座席の制御空間において騒音低減の制御の対象とする周波数において、スピーカ640の最大群遅延をτmaxとすると、上記(3)式の制御条件より、
d1≧d2+v・τmax (4)
が、スピーカ640およびマイク620を設置条件となる。通常、τmaxは1msec以上になるため、音速を340m/secとすると、騒音源610から制御中心Xに至るまでの距離d1を、スピーカ640から制御中心Xに至る距離d2より、少なくとも0.34m(34cm)大きくする必要がある。これにより、d2の下限値が決まる。一方、d2の上限値としては、シェル部(図5)内にスピーカ640を配置するという条件で、制御中心Xからシェル部までの距離としてもよい。
【0070】
以上の通り、本実施の形態の騒音低減装置を使用することにより、制御音発生用のスピーカおよび騒音検知用マイクに関し、相互の配設位置に物理な条件を設けて配置することが可能となり、フィードフォワード制御方式の騒音低減装置において、確実かつ効果的な騒音低減を実現することができる。したがって、騒音制御空間において、高品質の騒音低減を提供することができる。
【0071】
なお、上記実施の形態では制御空間として航空機内に配列された座席を例に説明したが、これに限定されるものではなく、高速道路や電車の線路沿いなどの防音壁に騒音低減装置を設置する場合にも利用することもできる。
【0072】
また、図4では、航空機の客室A(図1)を対象として、騒音検知用のマイク420a〜420fを本装置の制御空間である座席401のシェル部402aの周囲において壁面頂部に配設しているが、マイクの配設位置はこれに限られない。客室B(図1)のように前後および左右に座席列が配置された場合は、座席列の各座席が本装置の制御空間となるため、隣接する制御空間の境界領域となる座席のヘッドレスト(例えば、図4における402bc)や肘掛け部(例えば、図4における402bd、402be)に配設することができる。
【産業上の利用可能性】
【0073】
本発明による騒音低減装置は、高品質の騒音低減装置を提供することができる。したがって、航空機や列車、車など複雑な騒音環境の中で高度の快適性が求められる利用空間内で使用する騒音低減装置として有用である。
【図面の簡単な説明】
【0074】
【図1】本発明の実施の形態における騒音低減装置の設置環境を示す平面図
【図2】同騒音低減装置の設置環境の詳細を示す平面図
【図3】同騒音低減装置の基本構成を示すブロック図
【図4】同騒音低減装置の設置事例の構成を示す平面図
【図5】同騒音低減装置の設置事例における主要な構成要素の配置図
【図6】同騒音低減装置の騒音検知用のマイクおよび騒音制御用のスピーカの配置に関する説明図
【図7】同騒音低減装置の騒音制御用のスピーカの群遅延特性を示す図
【符号の説明】
【0075】
100 航空機
100a,A,B,C 客室
101a,101b 翼
102a,102b エンジン
105,402,502 座席(制御空間)
300 騒音低減装置
301,401,501 利用者
401a,501a,601a 頭部(制御中心)
301b,401b,601b 耳
310,NS1a,NS1b,NS1c,NS2a,NS2b,NS2c,NS2d,NS2e,510a,510b,610 騒音源
310N,340N,510Na,510Nb 主到達経路(騒音経路)
320,420a〜420f,520,620 騒音検知マイク(マイク)
330,430,630 騒音制御器
331,335 A/D変換器
332 適応デジタルフィルタ
333 制御部
334 D/A変換器
340,440a,440b,540,640 制御スピーカ(スピーカ)
350 誤差検知マイク
402a,502a シェル部(防音壁)
402aa 棚部
402b,502b 座席部
402ba 腰掛け部
402bc ヘッドレスト
402bd,402be 肘掛け部
θ (マイクの)指向角度
DA (マイクの)指向性の方向

【特許請求の範囲】
【請求項1】
騒音源から発せられる騒音を検知する騒音検知マイクと、
前記騒音検知マイクにより検知された騒音を制御空間の制御中心において打ち消すための制御音信号を生成させる騒音制御器と、
前記騒音制御器からの制御音信号に基づいて制御音を発する制御スピーカとを備えた騒音低減装置であって、
前記騒音検知マイクと前記制御中心との距離を、前記制御スピーカと前記制御中心との距離よりも、少なくとも前記騒音制御器の制御対象周波数における前記制御スピーカの最大群遅延時間に相当する距離だけ離して配置することを特徴とする騒音低減装置。
【請求項2】
前記騒音検知マイクと前記制御中心との距離を、前記制御スピーカと前記制御中心との距離よりも、少なくとも前記騒音制御器の制御対象周波数における前記制御スピーカ、前記騒音制御器および前記騒音検知マイクのそれぞれの最大群遅延時間を合計した時間に相当する距離だけ離して配置することを特徴とする請求項1に記載の騒音低減装置。
【請求項3】
前記騒音検知マイクと前記制御中心との距離を、前記制御スピーカと前記制御中心との距離よりも少なくとも34センチ大きくすることを特徴とする請求項1に記載の騒音低減装置。
【請求項4】
前記制御空間は制御中心の周囲に防音壁をさらに備え、前記制御スピーカを前記防音壁の内側に配置し、前記騒音検知マイクを前記防音壁の壁面頂部に配置することを特徴とする請求項1から請求項3のいずれか1項に記載の騒音低減装置。
【請求項5】
前記制御空間は制御中心の周囲に防音壁をさらに備え、前記制御スピーカを前記防音壁の内側に配置し、前記騒音検知マイクを前記防音壁の外壁面に配置することを特徴とする請求項1から請求項3のいずれか1項に記載の騒音低減装置。
【請求項6】
前記制御空間は制御中心の周囲に防音壁をさらに備え、前記制御スピーカを前記防音壁の内側に配置し、前記騒音検知マイクを前記防音壁の内壁面に配置することを特徴とする請求項1から請求項3のいずれか1項に記載の騒音低減装置。
【請求項7】
前記制御空間は制御中心の周囲に防音壁をさらに備え、前記制御スピーカを前記防音壁の内側に配置し、前記騒音検知マイクを前記防音壁の内側に配置することを特徴とする請求項1から請求項3のいずれか1項に記載の騒音低減装置。
【請求項8】
前記制御空間が旅客移動体内に配置された座席であることを特徴とする請求項1から請求項7のいずれか1項に記載の騒音低減装置。
【請求項9】
前記制御中心を前記座席に着席した利用者の頭部位置としたことを特徴とする請求項8に記載の騒音低減装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate


【公開番号】特開2010−83267(P2010−83267A)
【公開日】平成22年4月15日(2010.4.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−253108(P2008−253108)
【出願日】平成20年9月30日(2008.9.30)
【出願人】(000005821)パナソニック株式会社 (73,050)
【Fターム(参考)】