説明

骨代謝・たんぱく質代謝改善用栄養組成物

【課題】 寝たきりの高齢虚弱者のように食物摂取量の低下している対象者に対して、少ないカロリー摂取であっても、褥創の予防に必要なたんぱく質代謝、並びに骨粗鬆症の予防や治療に有益な骨代謝を改善するのに必要な栄養素を補給することができる骨代謝・たんぱく質代謝改善用栄養組成物を提供することである。
【解決手段】 100kcalあたり、少なくとも
ビタミンD 70〜150IU、
ビタミンC 50〜150mg、
ビタミンA 350〜700IU、
ビタミンK 9〜1000μg、
カルシウム 80〜120mg、
亜鉛 1.8〜3.5mg、および
たんぱく質 3〜6g
を含有し、かつカロリー源として糖質および脂質を含有した栄養組成物である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高齢虚弱者などのように食物摂取量の低下している対象者に対し必要な栄養素の補給が可能な骨代謝・たんぱく質代謝改善用栄養組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
高齢化社会が進むなかで、様々なきっかけで生活活動度が低下した場合、廃用性萎縮などを伴うことで、さらに活動度が低下し、寝たきりの要介護状態に陥ることが少なくない。生活活動度の低下と相まって、高齢者に頻繁に見られることが、食欲の低下と、それに伴う補給栄養素の不足である。
【0003】
このような場合、通常の食品を工夫して、必要な栄養素を補給することが好ましいが、摂取量の低下した状態では十分な栄養補給を行なえないのが現状である。
【0004】
ところで、高齢者を対象とする栄養組成物として、特許文献1には、特定の脂質およびたんぱく質を一定の割合で含有し、さらにビタミン、ミネラル、微量元素などを含有した栄養組成物が開示されている。この栄養組成物は、腸管機能の劣った高齢者等の腸管機能を改善するなどの効果がある。
【0005】
特許文献2には、高齢者の栄養要求に合致するように、たんぱく質、脂質、ビタミン、ミネラル、微量元素などを含むポリメリック完全栄養組成物が記載されている。
【0006】
特許文献3には、特に高齢者の免疫反応を改善したり、感染を予防するのに効果的な多ビタミン、多ミネラル栄養補給剤が開示されている。
【0007】
しかしながら、これらの特許文献に記載された栄養組成物は、寝たきり高齢者のように生活活動度が低下しているために食物摂取量も低下している対象者に対し必要な各種栄養素、特にビタミン、ミネラルの必要量を補給することは意図されていない。
【0008】
特に、寝たきり、またはそれに近い状態で、皮膚から筋肉、さらに深部の組織が壊死する褥瘡の発症には、慢性的な栄養状態の悪化が強く関与しており、その予防には適切な栄養管理が必須である(非特許文献1)。また、褥瘡からの回復には、創傷治癒に必要なコラーゲンの生合成やタンパク合成の活性化が重要である(非特許文献2)。一方、骨粗鬆症の発症には、加齢の影響による骨再構築系の機能低下(非特許文献3)や、閉経後のホルモンの変化による骨吸収の亢進(非特許文献4)が関与している。さらに不動・廃用による骨吸収の亢進(非特許文献5)は、生活活動度の低下した高齢者の骨強度の低下に寄与している。従って、高齢虚弱者などには、上記たんぱく質代謝および骨代謝に配慮した栄養組成物の提供が要望されている。
【0009】
【特許文献1】特開2003‐313142号公報
【特許文献2】特開昭64‐67164号公報
【特許文献3】特開平6‐340535号公報
【非特許文献1】美濃良夫、医学のあゆみ Vol.198、1108-12、2001
【非特許文献2】三浦栄一郎 他、治療 Vol.85、2805-15、2003
【非特許文献3】松本俊夫、医学のあゆみ Vol.198、1087-90、2001
【非特許文献4】上野豊 他、臨床成人病 30巻、871-6、200
【非特許文献5】高田信二郎、Clinical Calcium、11巻、895-901、2001
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、寝たきりの高齢虚弱者のように食物摂取量の低下している対象者の栄養管理に適し、少ないカロリー摂取であっても、褥創の予防に必要なたんぱく質代謝、並びに骨粗鬆症の予防や治療に有益な骨代謝を改善するのに必要な栄養素を補給することができる骨代謝・たんぱく質代謝改善用栄養組成物を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、上記課題を解決すべく種々検討を重ねた結果、以下に示す栄養組成物を摂取することにより、少ないカロリー摂取であっても、骨代謝およびたんぱく質代謝を改善するのに必要なビタミン、ミネラルなど栄養素を充分に補給できるという新たな事実を見出し、本発明を完成するに至った。
【0012】
(1)100kcalあたり、少なくとも
ビタミンD 70〜150IU、
ビタミンC 50〜150mg、
ビタミンA 350〜700IU、
ビタミンK 9〜1000μg、
カルシウム 80〜120mg、
亜鉛 1.8〜3.5mg、および
たんぱく質 3〜6g
を含有し、かつカロリー源として糖質および脂質を含有したことを特徴とする骨代謝・たんぱく質代謝改善用栄養組成物。
【0013】
(2) 前記脂質が、ω6系脂肪酸/ω3系脂肪酸の重量比が2〜4である脂肪酸組成を有する上記(1)記載の骨代謝・たんぱく質代謝改善用栄養組成物。
(3) 前記脂質が中鎖脂肪酸トリグリセライドを含有する上記(1)または(2)記載の骨代謝・たんぱく質代謝改善用栄養組成物。
(4) さらに、イソフラボン4〜25mg、グルコサミン50〜500mgおよびオリゴ糖0.1〜1gから選ばれる少なくとも1種を含有する上記(1)〜(3)のいずれかに記載の骨代謝・たんぱく質代謝改善用栄養組成物。
かかる本発明の栄養組成物は、食物摂取量の低下した、または通常食の摂取不能な対象者の栄養管理に用いるのに好適であり、特に少ないカロリー摂取であっても、骨代謝およびたんぱく質代謝を改善するのに必要なビタミン、ミネラルなど栄養素を充分に補給できるので、栄養管理上、1日あたりのカロリー摂取量を800〜1400kcalに調整するのに適している。
【発明の効果】
【0014】
本発明の栄養組成物は、少ないカロリー摂取であっても、少なくとも骨代謝およびたんぱく質代謝を改善するのに必要なビタミン、ミネラルなど栄養素を補給することができるので、生活活動度が低下し、食欲も低下した寝たきり高齢者や、通常食の摂取不能な患者等の栄養管理を行なう上で最適である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
本発明の栄養組成物は、骨代謝およびたんぱく質代謝を考慮して、所定量のビタミン、ミネラルを含有し、さらにたんぱく質のほか、カロリー源として糖質および脂質を含有したものである。そして、ビタミン、ミネラルについては、少なくとも800kcal摂取でほぼ1日の必要量を補給できるようにされている。
【0016】
ビタミンD、カルシウムおよびビタミンKは、骨代謝調節に有用である (Weber P, Nutrition 17, 880-7, 2001:最新栄養学 木村修一 他監修、建帛社)。そこで、骨代謝の改善を考慮して、高齢虚弱者が食事より十分量摂取することの難しいこれらの栄養素の量を比較的多く、または高濃度に配合している。すなわち、本発明の栄養組成物は100kcalあたり、ビタミンDを70〜150IU、カルシウムを80〜120mgおよびビタミンKを9〜1000μg含有している。これにより、骨粗鬆症などの予防・改善に寄与することができる。
【0017】
ビタミンC、ビタミンAおよび亜鉛は、コラーゲンおよびたんぱく質代謝の調節に有用である(MacKay D et al., Alt Med Rev, Vol. 8, 359-77, 2003)。そこで、これらの代謝の改善を考慮して、上述の栄養素を多く配合している。すなわち、本発明の栄養組成物は、100kcalあたり、ビタミンCを50〜150 mg、ビタミンAを350〜700IUおよび亜鉛(Zn)を1.8〜3.5mg含有している。これにより、褥瘡の予防に寄与することができる。さらに銅(Cu)を含有していることがたんぱく質代謝を改善する上でより好ましく、Zn/Cuが重量比で10以上であることがZnの吸収の点より好ましい(湧上聖 臨床栄養 103,457-64,2003)。
【0018】
また、本発明の栄養組成物は100kcalあたり3〜6gのたんぱく質(窒素源)を含有し、患者へのたんぱく質補給を可能としている。栄養管理上、100kcalあたり4.5〜6gのたんぱく質を含有しているのがより好ましい。たんぱく質としては、乳たんぱく質と植物性たんぱく質(大豆たんぱく質等)とを用いるのが好ましく、下痢発生の防止、便性の改善、薬理学的活性、循環器疾患、慢性疾患に対する予防効果の立場から、乳蛋白質/大豆蛋白質の重量比が0/1〜4/1であるのがより好ましい。
【0019】
また、前記脂質は、ω6系脂肪酸/ω3系脂肪酸の重量比が2〜4である脂肪酸組成を有する。具体的には、脂質の脂肪酸組成がω3系脂肪酸3〜20重量%およびω6系脂肪酸10〜40重量%であるのがよい。
【0020】
前記の脂質としては、ω3系脂肪酸を含有する脂質およびω6系脂肪酸を含有する脂質を配合する。好ましいω3系脂肪酸はα-リノレン酸、エイコサペンタエン酸、ドコサヘキサエン酸であり、ω3系脂肪酸の合計が、脂肪酸組成中3〜20重量%を含有するものを用いる。また、好ましいω6系脂肪酸はリノール酸である。このω6系脂肪酸が脂質の脂肪酸組成中10〜40重量%を含有しているものを用いる。ω3系脂肪酸とω6系脂肪酸の両方を含有する油としてはシソ油、エゴマ油、アマニ油、キリ油、魚油、サフラワー油、コーン油、大豆油、ナタネ油などの食用油を例示しうる。これらの油の2種またはそれ以上を混合することによって、前記したω6/ω3比を有する脂質を得ることができる。さらに、他の脂質として、速やかに消化、吸収される中鎖脂肪酸トリグリセライド(MCT)などを用いてもよい。
【0021】
糖質としては、例えばデンプン、デキストリン、ショ糖、グルコース、ガラクトース、マルトースなどが挙げられる。また、血糖値の上昇の起こりにくい果糖、キシリトール、パラチノース、糖アルコールなどを一部配合することも可能である。
【0022】
また本発明では、100 kcalあたり、オリゴ糖を0.1〜1g配合してもよい。オリゴ糖を配合することで、腸内環境の維持改善作用が期待できる。オリゴ糖としては、例えばフラクトオリゴ糖、乳果オリゴ糖、ガラクトオリゴ糖、ラクチュロース、イソマルトオリゴ糖、パノース、ゲンチオリゴ糖、キシロオリゴ糖、キチンオリゴ糖、大豆オリゴ糖、ラフィノースなどが挙げられ、これらの一もしくは二以上の成分を配合することができる。フラクトオリゴ糖、乳果オリゴ糖、ガラクトオリゴ糖の配合が特に望ましく、これらは前述の効果に加えてミネラル吸収促進機能を有している。
【0023】
さらに本発明では、100 kcalあたり、食物繊維を0〜3g配合してもよい。食物繊維としては、例えばセルロース、リグニン、難消化性デキストリン、難消化性スターチ、ポリデキストロース、アラビアガム、グアガム分解物、水溶性ペクチン、グルコマンナン、ガラクトマンナン、カラギーナン、アルギン酸、小麦フスマ、大豆ファイバー、キトサン、キチン、サイリウムなどが挙げられ、これらの一もしくは二以上の成分を配合することができる。
【0024】
脂質および糖質の配合量は特に限定されないが、例えば一日当りのカロリー摂取を800kcal〜1400kcalとした場合、具体的には脂質が120〜560kcal、糖質が300〜1000kcalとなる量である。
【0025】
本発明では、上記の有効成分以外にも各種の栄養成分を配合することができる。このような栄養成分としては、例えば蛋白質加水分解物、アミノ酸、上記以外のビタミン類やミネラル類などが挙げられる。ミネラルとしては、上記Zn、Ca以外に、例えばNa、K、Mg、P、Cl、Fe、Cu、Mn、I、Se,Cr,Moなどの有機塩又は無機塩を配合することができる。ビタミンとしては上記以外に、ビタミンEなどの脂溶性ビタミンや、ビタミンB1 、B2 、B6 、B12、パントテン酸、ナイアシン、ビオチン、葉酸などの水溶性ビタミンを配合することができる。ビタミンKはビタミンK2であってもよい。さらに、骨代謝に有用とされるイソフラボンを100kcalあたりイソフラボン4〜25mg配合することができる。関節痛等に有用とされるグルコサミンを100kcalあたり50〜500mg配合することができる。さらに、疲労回復等に有用とされるクエン酸を100kcalあたり0.1〜3g配合することができる。また、必要に応じてカテキン類又はポリフェノールを配合してもよい。
【0026】
本発明の栄養組成物は、その形態は特に限定されないが、例えば各栄養成分を粉粉混合して得られる粉末のもの、及び水に溶解して得られる液状のもの、液状のものを乾燥させて得られる粉末のものが好ましい。液状の栄養組成物の調製に当たっては、必要に応じ、レシチン、グリセリン脂肪酸エステル、ショ糖脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル、プロピレングリコール脂肪酸エステル、ステアロイル乳酸カルシウムなどの乳化剤を用いてもよい。
【0027】
このようにして得られた栄養組成物は、寝たりきり高齢者のように生活活動度が低下し、それに伴って食欲の低下した対象者に少量で所要量の栄養素を補給するのに使用される。その投与形態としては、状況に応じて経口又は経管、経腸にて投与することができる。
【0028】
また、本栄養組成物は、嚥下障害が見られる場合や胃瘻への投与を行なう場合などには、必要に応じて糊料(増粘剤、ゲル化剤)を添加して粘体状またはゼリー状に調製することもできる。その際に使用する糊料としては、例えば寒天、ゼラチン、カラギーナン、アラビアガム、グァーガム、ローカストビーンガム、タラガム、ジェランガム、キサンタンガム、カードラン、プルラン、ペクチン、アルギン酸ナトリウム、カルボキシメチルセルロース、その他糊料として通常使用し得る多糖類などがあげられ、これらの一種又は二種以上を組み合わせたものを用いる。これら糊料の配合割合は、粘体状またはゼリー状に調製した栄養組成物100重量部に対して5重量部以下の割合が好ましい。
【0029】
本発明の栄養組成物は、年齢や症状などにより異なるが、通常の食事の摂取が困難な場合には、ヒト成人一人当り一日800kcal〜1400kcalを経口的または経管・経腸的に投与することが好ましい。また、補食的に通常の食事と併用することも可能である。
【0030】
以下、実施例を挙げて本発明を詳細に説明するが、本発明は以下の実施例のみに限定されるものではない。
【実施例1】
【0031】
<液状製剤の製造>
表1に示す配合で、カロリーが1000kcalである液状の滅菌栄養組成物を常法に従い調製した。表1に示す栄養組成物は精製水で全量が1000mLになるようにした。なお、総カロリーに対する脂質カロリーの占める割合は20%、脂肪酸組成(ω6系脂肪酸/ω3系脂肪酸)比は3、蛋白質カロリーの占める割合は20%、乳蛋白質/大豆蛋白質の重量比は4/1である。
【実施例2】
【0032】
<液状製剤の製造>
表1に示す配合の栄養組成物を用いた他は、実施例1と同様にして滅菌栄養組成物を調製した。なお、総カロリーに対する脂質カロリーの占める割合は24%、脂肪酸組成(ω6系脂肪酸/ω3系脂肪酸)比は2、蛋白質カロリーの占める割合は22.4%、乳蛋白質/大豆蛋白質の重量比は1/0である。
【実施例3】
【0033】
<液状製剤の製造>
表1に示す配合の栄養組成物を用いた他は、実施例1と同様にして滅菌栄養組成物を調製した。なお、総カロリーに対する脂質カロリーの占める割合は20%、脂肪酸組成(ω6系脂肪酸/ω3系脂肪酸)比は3.2、蛋白質カロリーの占める割合は20%、乳蛋白質/大豆蛋白質の重量比は4/1である。
【0034】
なお、下記表1において、カゼイン量と大豆たんぱく質量との合計が総蛋白質量を超えるのは、添加した原料(カゼインおよび大豆たんぱく質)に含まれる蛋白質の純度によるものである。つまり、総蛋白質量は、それら原料に含まれる蛋白質の純度を考慮して、計算により求めた値である。
【0035】
【表1】

【0036】
<骨代謝試験>
SD系雄性ラットを2群各10匹に群分けし、個別代謝ケージに移動して3日間の馴化飼育を行なった。その後、上記実施例3の栄養組成物を用いて、必要カロリーの50%の制限給餌を行なった。制限給餌開始7日目に、尾部懸垂処置を行ない、以後、尾部懸垂条件下で制限給餌を持続した。尾部懸垂処置後12〜14日目の3日間に蓄尿を行ない、15日目にエーテル麻酔下において採血・犠死せしめ、大腿骨を採取した。なお、比較例として、市販の栄養組成物(濃厚流動食)を用いて上記実施例1と同様の方法にて滅菌栄養組成物を調製し、その栄養組成物を上記と同様の制限給餌下で与えたものについても試験を行った(比較例1)。比較例1で調製した栄養組成物の配合を、表2に示す。
【0037】
【表2】

【0038】
採取した尿は、尿中デオキシピリノジリン(DPD)排泄量のクレアチニン補正値(nM/mMCre)の測定に供した。採取した血液は、血清アルカリ性フォスファターゼの測定に供した。採取した大腿骨は、動物用CTを用いて、全骨密度(mg/cm3)および骨強度の推定値(最小断面2次モーメント(単位:mgxcm))の測定に供した。
【0039】
尿中DPD排泄のクレアチニン補正値の測定結果を、図1に示す。尿中デオキシピリノジリン(DPD)排泄のクレアチニン補正値は、骨の減少過程において骨吸収が促進されることで上昇するが、図1に示すように、尾部懸垂処置後12〜14日目において、比較例1の群に比べ、実施例3の群で有意に低値であった。また、骨代謝異常時に上昇すると報告されている血清アルカリ性フォスファターゼの測定では、比較例1の群が436±60U/Lであったのに対して、実施例3の群では343±59U/Lと低値であり、有意差(p<0.01)が認められた。これらDPD排泄測定および血清アルカリ性フォスファターゼ測定といった骨代謝マーカーの試験結果から、実施例3の栄養組成物は、一定の骨代謝改善効果を有することが分かる。
【0040】
全骨密度の測定結果を図2に示す。図2に示すように、比較例1の結果に比べて、実施例3の全骨密度は有意に高値(p<0.05)であった。また、骨強度推定値(最小断面二次モーメント)の測定結果を図3に示す。図3に示すように、比較例1の結果に比べて、実施例3の最小断面二次モーメントの値は有意に高値(p<0.05)であった。これらの結果から、実施例3の栄養組成物は、骨密度および骨強度を向上させる効果を有することが分かる。
【0041】
<褥瘡予防試験>
SD系雄性ラットを2群各10匹に群分けし、個別飼育ケージ内で実施例3の栄養組成物または比較例1の栄養組成物(必要摂取カロリーの50%相当)を制限給餌させて、2週間飼育した。2週間の飼育後、磁石を用いて、ラット背部の皮膚に4時間の虚血処理を施した。その後、上記制限給餌を継続しながら、虚血処理の2日後、4日後、8日後および11日後に、ラット背部の潰瘍の発症状況を観察した。その観察結果は、潰瘍部位の大きさおよび壊死の状態に応じて、下記に示す0〜5の6段階の基準で評価し、各群のスコアの平均値を図4に示す。
(評価基準)
0:潰瘍の発生なし
1:皮下の一部に壊死を疑われる変化が見られる。
2:直径3mm以下の皮膚欠損が見られる、または虚血部皮下全体に壊死を疑われる変化が見られる。
3:直径3mm以下の皮膚欠損が見られる、または虚血部皮膚の壊死による硬化が見られる。
4:直径5mm以上の皮膚欠損が見られる、または虚血部皮膚が瘡蓋状に変化する
5:直径5mm以上の皮膚欠損が見られ、さらに潰瘍部が皮下脂肪部に到達している。
【0042】
図4に示すように、虚血処理後、経時的に皮膚潰瘍の悪化が見られ、両群とも虚血処理2日後ではスコアに差は見られなかった。しかし、虚血処理4日後以降、潰瘍が重症化していく過程において、比較例1の群に比べ、実施例3の群ではスコアが低く推移する傾向が観察された。
【図面の簡単な説明】
【0043】
【図1】本発明の実施例で行った骨代謝試験における、尿中DPD排泄量の測定結果を示すグラフである。
【図2】本発明の実施例で行った骨代謝試験における、全骨密度の測定結果を示すグラフである。
【図3】本発明の実施例で行った骨代謝試験における、骨強度(最小断面2次モーメント)の測定結果を示すグラフである。
【図4】本発明の実施例で行った褥瘡予防試験における、ラット背部の潰瘍の発症状況を観察した結果を示すグラフである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
100kcalあたり、少なくとも
ビタミンD 70〜150IU、
ビタミンC 50〜150mg、
ビタミンA 350〜700IU、
ビタミンK 9〜1000μg、
カルシウム 80〜120mg、
亜鉛 1.8〜3.5mg、および
たんぱく質 3〜6g
を含有し、かつカロリー源として糖質および脂質を含有したことを特徴とする骨代謝・たんぱく質代謝改善用栄養組成物。
【請求項2】
前記脂質が、ω6系脂肪酸/ω3系脂肪酸の重量比が2〜4である脂肪酸組成を有する請求項1記載の骨代謝・たんぱく質代謝改善用栄養組成物。
【請求項3】
前記脂質が中鎖脂肪酸トリグリセライドを含有する請求項1または2記載の骨代謝・たんぱく質代謝改善用栄養組成物。
【請求項4】
さらに、100kcalあたり、イソフラボン4〜25mg、グルコサミン50〜500mgおよびオリゴ糖0.1〜1gから選ばれる少なくとも1種を含有する請求項1〜3のいずれかに記載の骨代謝・たんぱく質代謝改善用栄養組成物。
【請求項5】
食物摂取量の低下した、または通常食の摂取不能な対象者の栄養管理に用いるための請求項1〜4のいずれかに記載の骨代謝・たんぱく質代謝改善用栄養組成物。
【請求項6】
栄養管理上、1日あたりのカロリー摂取量を800〜1400kcalに調整するための請求項1〜5のいずれかに記載の骨代謝・たんぱく質代謝改善用栄養組成物。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2006−131611(P2006−131611A)
【公開日】平成18年5月25日(2006.5.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−108994(P2005−108994)
【出願日】平成17年4月5日(2005.4.5)
【出願人】(000149435)株式会社大塚製薬工場 (154)
【Fターム(参考)】