説明

骨密度を増減させる方法

【課題】スクレロスチン・タンパク質のアンタゴニストと、スクレロスチンの新しいアンタゴニストを同定する方法を提供する。SOST遺伝子の発現を抑制することのできる分子、および、そのような分子を同定する方法も提供する。
【解決手段】(a)間葉細胞に骨芽細胞誘導培地を前記細胞がSOST遺伝子を発現するに十分な量で添加すること;(b)前記細胞を試験因子と接触させること;(c)前記試験因子の非存在下におけるSOST遺伝子発現と比較した前記試験因子の存在下におけるSOST遺伝子発現の低下を検出することを含む、SOST遺伝子の発現を低下させる因子の同定方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、骨密度を調節するための組成物と方法を提供する。骨密度を調節することのできる新規な化合物の同定方法も提示する。
【背景技術】
【0002】
骨粗鬆症は骨量の減少を特徴とする骨の疾患であり、ヒトの骨の脆弱化と多孔化に至る。その結果、骨粗鬆症を患っている患者は、骨折のリスクが大きくなる。更年期の女性は、エストロゲンの産生レベルが低下するため、骨粗鬆症になるリスクが特に大きい。エストロゲンを低レベルで投与すると、骨の損失に対して好ましい効果がある。しかしエストロゲン置換療法を行なうと望ましくない副作用が発生する可能性がある。それらの副作用には、血栓、乳がん、内膜増殖症、内膜がんなどのリスクが大きくなるということが含まれる。これ以外で現在も行なわれている療法だと、骨粗鬆症の患者に新たに骨を生成させることはほとんどできない。したがって骨粗鬆症に対する別の治療法が必要とされている。
【0003】
硬化狭窄症は遺伝子病であり、ヒトにおいて骨形成が増大して強力な骨格が発達する。硬化狭窄症は、SOST遺伝子の機能が失われることによって、あるいはSOST遺伝子のヌル突然変異によって起こる(Beighton他、1976年;Brunkow他、2001年;Balesman他、2001年)。この疾患にかかっている人の大部分は南アフリカのアフリカ人集団であることが報告されており、創始者効果の結果としてこの疾患が高頻度で発生する。アフリカ系家系のホモ接合性マッピングと組み換え型の歴史を分析することにより、硬化狭窄症が染色体17q12〜q21上のD17S1787遺伝子座とD17S930遺伝子座に挟まれた約2cMの区画に位置することが突き止められた。罹患しているアフリカ人は、コードされているタンパク質のアミノ末端近傍にナンセンス突然変異を持っているのに対し、セネガル人起源の無関係な罹患者は、この遺伝子の単一のイントロンの中に2つのスプライシング変異を持っている。
【0004】
SOST遺伝子は、スクレロスチンと呼ばれるタンパク質をコードしている。このスクレロスチンは、シスチンの結び目を含む因子の1つのクラス(ダン(dan)、ケルベロス(cerberus)、グレムリン(gremlin)、prdc、カロント(caronte)を含む)と配列が幾分か似ている。スクレロスチン・タンパク質の遺伝子は、1種類以上の骨形成因子(BMP)と相互作用すると考えられている(Brunkow他、2001年)。骨形成因子は、トランスフォーミング成長因子(TGF-β)スーパーファミリーのメンバーであり、細胞の増殖と分化や、多くのタイプの組織(骨も含む)のアポトーシスに影響を与えることがわかっている。骨形成因子は、軟骨や骨の形成をde novoに誘導することができ、哺乳動物の胚発生期間における骨格の発達にとって本質的な役割を果たしているように見える(Wang、1993年)。骨折治癒プロセスの初期段階において、骨形成因子-4(BMP-4)の濃度が劇的に上昇する(Nakase他、1994年;Bostrom他、1995年)。in vivoにおける実験は、BMP-4の転写が上方調節されることにより哺乳動物における骨の治癒が促進される可能性のあることを示唆している(Fang他、1996年)。骨形成因子は、間葉系細胞の分化を誘導して骨形成細胞にするとともに、運命づけられた細胞における骨芽細胞表現型マーカーの発現を促進することが報告されている(Gazzero他、1998年;NifujiとNoda、1999年)。骨芽細胞における骨形成因子の活性は、骨形成因子に結合して不活性化することにより骨形成因子のアンタゴニストとして機能するノギンやグレムリンなどのタンパク質によって調節されているように見える(Yamaguchi他、2000年)。
しかし骨の石灰化に至る事象のカスケードと、骨密度を制御する因子は、完全にはわかっていない。骨芽細胞の分化を調節し、骨の石灰化を促進し、骨密度を改善することのできる因子が求められている。
この明細書で引用したすべての特許および参考文献は、参考のためその全体がこの明細書に組み込まれているものとする。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】Abe, E.他、2000年、J. Bone Min. Res.、第15巻、663ページ
【非特許文献2】Beighton, P.他、1976年、Ann. Int. Med.、第84巻、393ページ
【非特許文献3】BeresfordとOwen、1998年、『骨髄基質細胞培養物』、ケンブリッジ大学出版
【非特許文献4】Boden, S.他、1997年、Endocrinology、第138巻、2820ページ
【非特許文献5】Bostrom他、J. Orthopaed. Res.、第13巻、357ページ、1995年
【非特許文献6】Brunkow, M.他、2001年、Amer. J. Hum. Genet.、第68巻、577〜589ページ
【非特許文献7】Budd, R.C.、2002年、J. Clin. Invest.、第109巻、437ページ
【非特許文献8】Cooper, M.S.他、J. Endocrinology、1999年、第163巻、159ページ
【非特許文献9】Fang他、Proc. Natl. Acad. Sci. USA、第93巻、5753ページ、1996年
【非特許文献10】Gazzero, E.他、1998年、J. Clin. Invest.、第102巻、2106ページ
【非特許文献11】Gazit, D.他、1999年、Mol. Endocrinol.、第7巻、189ページ
【非特許文献12】Gitelman, S.E.他、1995年、Cell Growth & Differ.、第6巻、827ページ
【非特許文献13】Hofmann他、FEBS Letters、1998年、第441巻、441ページ
【非特許文献14】Lian, J.B.他、1999年、『代謝性骨疾患とミネラル代謝異常に関するプライマー』(第4版、M.J. Favus(編)、リピンコット、フィラデルフィア)の中の14ページ
【非特許文献15】Lu, T.T.他、J. Biol. Chem.、2001年、第276巻、37735ページ
【非特許文献16】Katagiri, T.他、1990年、Biochem. Biophys. Res. Commun.、第172巻、295ページ
【非特許文献17】Manolagas, S.C.、2000年、Endocrine Rev.、第21巻、115ページ
【非特許文献18】Martinez, L.A.、2002年、PNAS、第99巻、14849ページ
【非特許文献19】Miura他、J. Biol. Chem.、2001年、第276巻、47371ページ
【非特許文献20】Nakase他、J. Bone Miner. Res.、第9巻、651ページ、1994年
【非特許文献21】Nifuji, A.とNoda, M.、1999年、J. Bone Min. Res.、第14巻、2057ページ
【非特許文献22】Oreffo, R.O.C.他、1999年、J. Cell Biochem.、第75巻、382ページ
【非特許文献23】Pelletier, J.P.他、Am. J. Ther.、1996年、第3巻、115ページ
【非特許文献24】Pereira, R.他、2000年、Endocrinology、第141巻、4558ページ
【非特許文献25】Pittenger, M.F.他、1999年、Science、第284巻、143ページ
【非特許文献26】Pockwinse, S.他、1992年、J. Cell Biochem.、第49巻、310ページ
【非特許文献27】Scherr, M.他、Curr. Med. Chem.、2003年、第10巻、245ページ
【非特許文献28】Song, C.Z.他、Proc. Natl. Acad. Sci. USA、1999年、第96巻、11776ページ
【非特許文献29】Suzawa, M.他、1999年、Endocrinology、第140巻、2125ページ
【非特許文献30】Takiguchi, T.他、J. Periodontal Res.、1999年、第34巻、431ページ
【非特許文献31】Tanaka, H.とMakino, I.、BBRC、1992年、第188巻、942ページ
【非特許文献32】Thornberry, N.A.とLazebnik, Y.、1998年、Science、第281巻、1312ページ
【非特許文献33】Vaughan, A.T.M.他、2002年、Apoptosis、第7巻、173ページ
【非特許文献34】Wang、 Trends Biotechnol.、第11巻、379ページ、1993年
【非特許文献35】Weston, A.他、2000年、J. Cell. Biol.、第148巻、679ページ
【非特許文献36】Winkler, D.G.他、2000年、J. Bone Min. Res.、第16巻(補1)、S322ページ
【非特許文献37】Yanagi, Y.他、1999年、J. Biol. Chem.、第7巻、12971ページ
【非特許文献38】Yamaguchi, A.他、2000年、Endocrine Rev.、第21巻、393ページ
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、骨密度を調節するための組成物と方法を提供する。骨密度を調節することのできる新規な化合物の同定方法も提示する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明によれば、SOST遺伝子によってコードされているスクレロスチン・タンパク質は骨形成因子の固有のアンタゴニストであり、骨マトリックスの形成を調節する上で重要な役割を果たしている。SOST遺伝子は、運命づけられた成熟骨芽細胞において高レベルに発現するが、未成熟な骨芽細胞や未分化の骨芽細胞では、発現が低レベルであるか、発現していない。本発明によればさらに、スクレロスチン・タンパク質は、骨芽前駆細胞が分化し、ミネラルを堆積させ、完全に成熟した骨芽細胞に特徴的なタンパク質(例えばコラーゲン、アルカリホスファターゼ)を発現させる能力を阻害する。SOSTの発現は、ステロイドによって変化し、骨形成因子(例えば骨形成因子2、4、6)によって調節される。骨形成因子は骨芽細胞マーカー(例えばアルカリホスファターゼ)の活性を大きくするが、SOST遺伝子の産物(スクレロスチン)はそのような骨芽細胞マーカーの活性を阻害する。さらに、骨形成因子は、スクレロスチンによって誘導された骨芽細胞の活性低下を逆転させることができる。
【0008】
本発明により、哺乳動物においてSOSTの発現を低下させるための医薬組成物であって、下記の一般式(I):

の化合物(R1、R2、R3、R4、R5、R6、R7、R8は、それぞれ独立に、カルボニル、ハロ、フッ素、水素、ヒドロキシ、低級アシル、低級アルコキシ、低級アルキル、または低級ヒドロキシアルキルである)が提供される。いくつかの実施態様では、R1、R2、R3、R4、R5、R6、R7、R8は、それぞれ独立に、カルボニル、ヒドロキシ、水素、または低級ヒドロキシアルキルである。別の実施態様では、R1はカルボニルまたはヒドロキシであり、および/またはR8は、フッ素、水素、ハロのいずれかである。
【0009】
本発明により、哺乳動物においてSOSTの発現を低下させるため、治療に有効な量のグルココルチコイドを含む医薬組成物も提供される。グルココルチコイドとしては、例えばフルオシノロンアセトニド、トリアムシノロン、またはデキサメタゾンが可能である。
【0010】
本発明により、哺乳動物においてSOSTの発現を低下させるため、下記の一般式(II):

のプロスタグランジン(R10とR11は、それぞれ独立に、カルボニル、ハロ、フッ素、水素、ヒドロキシ、低級アシル、低級アルコキシ、低級アルキル、低級ヒドロキシアルキル、アリール、またはアリールオキシである)を治療に有効な量含む医薬組成物も提供される。R10とR11は、それぞれ独立に、カルボニル、ヒドロキシ、水素、低級ヒドロキシアルキルのいずれかにすることもできる。プロスタグランジンとしては、例えばプロスタグランジンE2が可能である。
【0011】
本発明により、哺乳動物においてSOSTの発現を低下させるため、下記の一般式(III):

の胆汁塩(R1、R2、R3、R4、R5、R6、R7、R8、R9は、それぞれ独立に、カルボニル、ハロ、フッ素、水素、ヒドロキシ、低級アシル、低級アルコキシ、低級アルキル、または低級ヒドロキシアルキルである)を治療に有効な量含む医薬組成物も提供される。R1、R2、R3、R4、R5、R6、R7、R8、R9は、それぞれ独立に、カルボニル、ヒドロキシ、水素、または低級ヒドロキシアルキルとすることもできる。このような胆汁塩の一例は、ウルソデオキシコール酸である。
【0012】
本発明により、哺乳動物においてSOSTの発現を低下させるため、プロスタグランジン(例えばプロスタグランジンE2)、胆汁塩(例えばウルソデオキシコール酸)、またはグルココルチコイド(例えばフルオシノロンアセトニド、トリアムシノロン、デキサメタゾン)を治療に有効な量含む医薬組成物も提供される。
【0013】
さらに本発明により、哺乳動物においてSOSTの発現を低下させるため、その哺乳類に対し、プロスタグランジン(例えばプロスタグランジンE2)、胆汁塩(例えばウルソデオキシコール酸)、またはグルココルチコイド(例えばフルオシノロンアセトニド、トリアムシノロン、デキサメタゾン)を治療に有効な量投与することを含む方法が提供される。
【0014】
本発明により、哺乳動物において骨密度を増大させる方法であって、ウルソデオキシコール酸、フルオシノロンアセトニド、トリアムシノロン、プロスタグランジンE2、またはデキサメタゾンを、治療に有効な量、その哺乳動物に投与することを含む方法も提供される。一実施態様では、本発明の方法をステロイド・ホルモンまたはグルココルチコイド・ホルモンを用いて実施することができる。グルココルチコイド・ホルモンの具体例としては、コルチゾール、デキサメタゾン、ならびに構造的にこれらと関係のある化合物が挙げられる。グルココルチコイド・ホルモンの治療に有効な量の一例は、血中濃度が約0.01マイクロモル〜約1マイクロモルになる量である。
さらに本発明により、哺乳動物においてSOSTの発現を低下させるため、配列番号1、配列番号2、配列番号4、配列番号5、または配列番号7とハイブリダイズすることのできるアンチセンス核酸を治療に有効な量含む医薬組成物が提供される。
【0015】
本発明により、スクレロスチンのアンタゴニストを治療に有効な量含む医薬組成物も提供される。スクレロスチンのアンタゴニストとしては、配列番号3、配列番号6、または配列番号8を有するスクレロスチン・ポリペプチドと結合することのできる抗体が可能である。スクレロスチンのアンタゴニストの別の具体例としては、スクレロスチンと結合する骨形成因子のペプチドが挙げられる。
【0016】
さらに本発明により、SOSTの発現を低下させる因子の同定方法であって、検出可能なマーカーをコードする核酸と機能的に連結していて配列番号4を含むSOSTプロモータが含まれた核酸構築物を含有する細胞を用意し;この細胞を、1つの因子を含むテスト・サンプルと接触させ;そのテスト・サンプル中の因子が、テスト・サンプルと接触させていない細胞を含む対照と比べて検出可能なマーカーの発現を低下させるかどうかを検出する工程を含む方法が提供される。例えばそのような細胞は、骨形成因子に応答する任意の細胞である。そのような細胞の別の例は、ATCC寄託番号CRL-1772のC2C12細胞系、あるいはATCC寄託番号CCL-226のC3H10T1/2細胞系、あるいはヒト間葉(hMSC)細胞である。核酸構築物に存在することのできる別のエレメントは、骨芽細胞特異的ステロイド応答エレメントである。
【0017】
本発明により、SOSTの発現を低下させる因子の同定方法であって、細胞をテスト・サンプルと接触させ、そのテスト・サンプル中の因子が内在性SOSTの発現を低下させるかどうかを検出する工程を含む方法も提供される。この方法では、SOSTは、配列番号1、配列番号2、配列番号5、または配列番号7を含む核酸から発現することができる。この方法の別の実施態様では、SOSTは、配列番号3、配列番号6、または配列番号8を含むタンパク質をコードしている核酸から発現することができる。
さらに本発明により、スクレロスチンのアンタゴニストを同定する方法であって、スクレロスチンとテスト・サンプルの両方を細胞と接触させ;そのテスト・サンプルがその細胞のアポトーシスを阻止するかどうかを検出する工程を含む方法が提供される。
本発明により、スクレロスチンに結合する分子を同定する方法であって、テスト・サンプルを、配列番号3、配列番号6、または配列番号8を含むスクレロスチン・ポリペプチドと接触させ;そのテスト・サンプル中の分子がそのポリペプチドと結合するかどうかを調べる工程を含む方法も提供される。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1A】SOSTの発現に関する逆転写ポリメラーゼ連鎖反応(RT-PCR)分析の結果を他の因子の発現と比較して示した図である。RT-PCRの鋳型として使用するRNAは、初代ヒト骨芽細胞、未分化hMSC細胞、分化して骨芽細胞になるhMSC細胞、軟骨細胞、脂肪細胞から調製した。RT-PCR増幅による産物は、アガロース・ゲル上で分離して視覚化した。RNAの鋳型を得る元になった細胞の種類を図1Aに示したゲルの下部に表示してある。別個のRT-PCR反応において何組かのプライマーを使用し、さまざまな種類の細胞におけるSOSTの発現レベルを、さまざまな種類の細胞に特徴的な表現型マーカー(例えば副甲状腺ホルモン受容体(PTHr)、コラーゲン(I型、X型、IX型)、PPARγ2(脂肪細胞の特徴的な表現型マーカー)、死防御遺伝子(DAD、ハウスキーピング遺伝子の1つ))の発現レベルと比較した。この図1Aからわかるように、未分化hMSC細胞と脂肪細胞ではSOSTの発現レベルは無視できるほど低かった。他方、石灰化を起こすことのできるタイプの細胞のうちで骨芽細胞と肥大性軟骨細胞の表現型に関係するマーカー(例えばI型コラーゲン、X型コラーゲンがそれぞれ該当する)を発現する細胞は、SOSTを発現した。
【図1B】成熟骨芽細胞においてSOSTの発現レベルが高いことを示している。ヒトMSC細胞を標準的な増殖培地(未分化)または骨芽細胞誘導培地(分化)で21日間にわたって増殖させた。組み合わせ培養を7日目または21日目に停止し、アルカリホスファターゼ(ALP)またはコラーゲン(マッソン三色染色)について組織化学的に染色した。別の培養物を処理し、SOSTの発現に関するRT-PCR分析を行なった。骨芽細胞に分化していたhMSC細胞は、アルカリホスファターゼ(ALP)とコラーゲンの組織化学的染色が増大したこと(図1B、右側に示した分化した細胞の21日目の状態を示す元の写真では、それぞれ紫色と青色に染色されている)と、ミネラルの堆積が増大したこと(7日目には無視できる程度であったのに対し、28日目には、タンパク質1mgにつきカルシウムが437±60μgになった)によって同定された。未分化のhMSC細胞は、SOSTのmRNAを無視できる程度にしか発現せず、アルカリホスファターゼの活性とコラーゲンのレベルも無視できるほど低く、ミネラルの堆積も少なかった(図1B、左側の2つの図)。他方、骨芽細胞誘導培地の中で増殖させた細胞では、アルカリホスファターゼ、コラーゲン、SOSTの発現が時間経過とともに増大した。
【図2】SOSTの発現が骨形成因子(BMP)によって上方調節されることを示している。SOSTの発現に関するRT-PCR分析を行なうため、さまざまな因子(例えばインスリン様成長因子-1(IGF-1、10または50ng/ml)、1,25-ジヒドロキシビタミンD3(vit D、10-7M)、デキサメタゾン(DEX、10-7M)、BMP-6(300ng/ml)、BMP-4(50または300ng/ml))で72時間にわたって処理したhMSC細胞からRNAを単離した。SOSTの発現に関するRT-PCR分析を行なうため、標準的な増殖培地(対照)または骨芽細胞誘導培地(誘導)で7日間または21日間増殖させた細胞からもRNAを単離した。図からわかるように、未処理のhMSC細胞(“ビヒクル”)は、I型コラーゲンを強く発現したのに対し、PTHrとSOST(ビヒクルと対照、21日間)のレベルは無視できる程度であった。これらの結果は、未処理のhMSC細胞が、骨芽細胞系列になる初期段階にあるとはいえ、骨芽細胞になることが運命づけられていることを示唆している。この細胞をDEX、BMP、IGF-1(50ng/mlのIGF-1)で処理すると、あるいは骨芽細胞誘導培地(誘導、21日間)で長期にわたって培養すると、分化段階が進行し、PTHrの発現が誘導された。いくつかの因子(BMP-4、BMP-6、IGF-1(50ng/ml))が、SOSTの発現を増大させた。
【図3】SOSTの発現が骨形成因子によって上方調節されることと、hMSC細胞と一次ヒト骨芽細胞においてBMPによってこのように誘導されたSOSTの発現の時間変化が示してある。細胞をBMP-2(100ng/ml)またはBMP-4(50ng/ml)で24〜120時間にわたって処理した後、RNAを回収し、RT-PCRで分析した。この図からわかるように、SOSTの最大発現レベルは、処理開始から72〜120時間のときに実現した。
【図4】hMSC細胞において、骨形成因子2、4および6が、BMPのアンタゴニストであるグレムリン、ノギン、SOSTの発現に及ぼす効果を示している。hMSC細胞をBMP-2、4、6(100ng/ml)で72時間にわたって処理した後、RNAを回収し、RT-PCRで分析した。ノギンを分析する際に、対照となる2つのcDNAも分析した。未分化のhMSC細胞ではSOSTとノギンの基本レベルは無視できる程度であったが、BMP-2、4および6によってSOSTとノギンの発現は上方調節された。他方、グレムリンは未分化のhMSC細胞で構成的に発現し、その発現は、骨形成因子によってほんのわずかしか増大しなかった。
【図5】ステロイドが、SOSTの発現に対する骨形成因子-4の効果を変化させうることを示している。1,25-ジヒドロキシビタミンD3(vit D、10-7M)、レチノイン酸(RA、10-6M)、BMP-4(250ng/ml)、またはデキサメタゾン(DEX、10-7M)を用いて、あるいはこれらのステロイドとBMP-4の組み合わせを用いて72時間にわたって処理したhMSC細胞からRNAを単離した。次に、単離したRNAをSOSTに関してRT-PCRで分析した。単独のBMP-4は、SOSTの発現を増大させた。レチノイン酸とビタミンDは、BMP-4と組み合わせて添加したときにSOSTのレベルを増大させた。SOSTのレベルは、レチノイン酸またはビタミンDがBMP-4とともに存在しているときのほうが、BMP-4だけで処理した細胞におけるよりも高かった。デキサメタゾンは、SOSTの発現に対するBMP-4の促進効果を失わせた。
【図6】hMSC細胞において、ステロイドが、グレムリン、ノギン、SOSTの発現に及ぼす効果を比較した図である。hMSC細胞をBMP-4(100ng/ml)、レチノイン酸(RA、10-6M)、デキサメタゾン(DEX、10-7M)、および、1,25-ジヒドロキシビタミンD3(vit D、10-7M)を用いて、あるいはBMP-4とレチノイン酸、デキサメタゾン、ビタミンDのいずれかの組み合わせを用いて72時間にわたって処理した。次にRNAを細胞から回収し、RT-PCR分析を行なった。BMP-4は、グレムリンとノギンの発現を増大させた。BMPによって誘導されるノギンとグレムリンの発現にステロイドが及ぼす効果は小さかった。この図からわかるように、BMP-4もSOSTの発現レベルを顕著に増大させた。SOSTの発現に対するこの効果は、ビタミンDまたはレチノイン酸の存在によって増大したが、デキサメタゾンの存在によって抑制された。
【図7】hMSC細胞において、グルココルチコイド類似体と胆汁塩がSOSTの発現に及ぼす効果を示したゲルの写真である。デキサメタゾン(DEX、10-7M)、トリアムシノロン(Triam、10-7M)、ウルソデオキシコール酸(1x10-6MのUrso-1または3x10-6MのUrso-2)の不在下または存在下で、BMP-6(250ng/ml)を用いてhMSC細胞を72時間にわたって処理した。RNAを単離し、RT-PCRでSOSTを分析した。DNAローディングにはDAD遺伝子を対照として用いた。デキサメタゾン、トリアムシノロン、ウルソデオキシコール酸が、BMP-6によるSOSTの誘導を阻止した。
【図8】hMSC細胞において、グルココルチコイド類似体とプロスタグランジンがSOSTの発現に及ぼす効果を示したゲルの写真である。デキサメタゾン(DEX、10-7M)、タウロウルソデオキシコール酸(Tauro、2x10-6M)、フルオシノロンアセトニド(Fluo、10-7M)、ロバスタチン(Lova、10-7M)、ICI 182,780(ICI、10-6M)、17β-エストラジオール(エストロゲン、10-6M)、プロスタグランジンE2(PGE2、10-6M)の不在下または存在下で、BMP-6(250ng/ml)を用いてhMSC細胞を72時間にわたって処理した。RNAを単離し、RT-PCRでSOSTを分析した。DNAローディングにはDAD遺伝子を対照として用いた。DEX、Fluo、およびPGE2が、BMP-6によるSOSTの誘導を阻止した。
【図9A】BMPによって誘導されるSOSTの発現を阻止するグルココルチコイドであるデキサメタゾンの化学構造である。
【図9B】BMPによって誘導されるSOSTの発現を阻止するグルココルチコイドであるトリアムシノロンの化学構造である。
【図9C】BMPによって誘導されるSOSTの発現を阻止するグルココルチコイドであるフルオシノロンアセトニドの化学構造である。
【図9D】BMPによって誘導されるSOSTの発現を阻止する胆汁塩であるウルソデオキシコール酸の化学構造である。
【図9E】BMPによって誘導されるSOSTの発現を阻止するエイコサノイドであるプロスタグランジンE2の化学構造である。
【図10】分化しているヒトMSC細胞においてヒトのスクレロスチンとマウスのノギンがアルカリホスファターゼ(ALP)に及ぼす効果を比較した図である。ALPの活性は、骨芽細胞の分化に関する表現型マーカーである。ヒトMSC細胞をノギン(1または5μg/ml)または部分精製したスクレロスチン(1または5μg/ml)を含む骨芽細胞誘導培地の中で7日間にわたって培養した。次に細胞を回収し、RT-PCRでALPの活性を分析した。処理開始から7日後、1μg/mlのマウスのノギンはALPの活性に影響を与えなかったのに対し、5μg/mlのマウスのノギンはALPの活性を顕著に増大させた(ビヒクルで処理した細胞との比較、p<0.001)。同じ条件下において、部分精製したスクレロスチン調製物は、1μg/mlと5μg/mlのどちらを投与した場合でもALPの活性を確実に低下させた。
【図11】ヒト骨芽細胞の初代培養物においてもヒトのスクレロスチンがアルカリホスファターゼの活性を低下させることを示している。初代ヒト骨芽細胞を、標準的な増殖培地、あるいは(分化を促進するための)誘導培地の中で増殖させ、次いでスクレロスチン(20μg/ml)または対照(Sf9コンディションド培地から精製したタンパク質)で7日間にわたって処理した後、組織学的染色によりアルカリホスファターゼの活性を調べた。標準的な増殖培地の中で増殖させた骨芽細胞は、ALPの基底発現レベルが低かった(右端の“処理せず”)。このレベルは、細胞を誘導培地の中で増殖させたときに顕著に増大した(左から4番目の写真、紫色の染色)。同様の細胞をスクレロスチンで処理すると、発現するALPの量が顕著に減少した。そのことは、紫色の染色が薄くなったことからわかる(左から3番目の写真、“スクレロスチン+誘導培地”)。
【図12A】hMSC細胞において、ヒトのスクレロスチンがアルカリホスファターゼの活性を投与量に依存した形で低下させることを示している。hMSC細胞を骨芽細胞誘導培地の中で増殖させた。部分精製したスクレロスチンまたはSf9コンディションド培地から精製したタンパク質(対照)を翌日に添加した。培養物を7日間維持した後、アルカリホスファターゼの活性を分析した。この図からわかるように、スクレロスチンの濃度を大きくするとアルカリホスファターゼの活性レベルが低下する。
【図12B】hMSC細胞において、ヒトのスクレロスチンが石灰化(カルシウムの堆積)を投与量に依存した形で低下させることを示している。hMSC細胞を骨芽細胞誘導培地の中で増殖させた。部分精製したスクレロスチンまたはSf9コンディションド培地から精製したタンパク質(対照)を翌日に添加した。培養物を8日間維持した後、スクレロスチンまたは対照タンパク質で処理し、さらに13日間維持した後、石灰化を調べた。この図からわかるように、スクレロスチンの濃度を大きくすると石灰化が減少した。
【図13】ヒトのスクレロスチンの部分精製調製物が、10μg/mlのスクレロスチンで処理した細胞においてI型コラーゲンの合成を約50%減少させることを示している(対照との比較、p<0.001)。hMSC細胞を骨芽細胞誘導培地の中で増殖させ、部分精製したスクレロスチンまたはSf9コンディションド培地から精製したタンパク質(対照)で21日間にわたって処理した。培養開始から8日後、図に示した濃度のスクレロスチンまたは対照を添加した。
【図14】分化しているhMSC細胞の培養物において、ヒトのスクレロスチンが骨芽細胞マーカーの発現を低下させることを示している。hMSC細胞を骨芽細胞誘導培地の中で増殖させた。3日後、部分精製したスクレロスチン(10μg/ml)またはSf9コンディションド培地から精製したタンパク質(対照)を添加した。40時間後に細胞を回収してRNAを調製し、RT-PCRにより骨芽細胞マーカーを分析した。この図からわかるように、脂肪細胞に対するマーカー(PPARγ2)または未分化の間葉細胞に対するマーカー(エンドグリン)のRNAレベルは、部分精製したスクレロスチン調製物で処理したことの影響を受けなかった。他方、PTHr、I型コラーゲン、BMP-2およびBMP-6のような骨芽細胞表現型マーカーのRNAのレベルは、部分精製したスクレロスチン調製物で処理した細胞において、対照で処理した細胞と比較して顕著に低下した。
【図15】hMSC細胞において、ヒトのスクレロスチンが、BMP-6で刺激されたアルカリホスファターゼの活性とアルカリホスファターゼの基本活性を阻害することを示している。ヒトMSC細胞を骨芽細胞誘導培地の中で増殖させ、ビヒクルまたはBMP-6(500ng/ml)と、いろいろな濃度のヒトのスクレロスチン-フラグ・タンパク質で処理した。BMP-6は、アルカリホスファターゼの活性を増大させた。スクレロスチンは、BMPで誘導されたアルカリホスファターゼの活性と、アルカリホスファターゼの基本活性を、投与量に依存した形で低下させた(p<0.001)。
【図16】hMSC培養物において、スクレロスチンがアルカリホスファターゼに及ぼす抑制効果をBMP-6が逆転させることを示している。hMSCを骨芽細胞誘導培地の中で増殖させ、スクレロスチン(10μg/ml)、および、いろいろな濃度のBMP-6で処理した。スクレロスチンがALPの基本レベルを低下させたのに対し、BMP-6はこの効果を投与量に依存した形で逆転させた(p<0.001)。
【図17A】マウスの間葉細胞においてヒトのスクレロスチンがアルカリホスファターゼの活性を低下させることを示している。マウスの間葉細胞C3H10T1/2(ATCC寄託番号CCL-226)を標準的な増殖培地の中で増殖させた。ヒトのスクレロスチン、抗FLAG M2抗体を用いて免疫を欠損させたスクレロスチン、マウスのノギンを500ng/mlのBMP-6とともに1時間にわたって予備インキュベーションした後、細胞に添加した。次に、細胞を、BMP-6、スクレロスチン、免疫欠損スクレロスチン、ノギンのいずれかとともに72時間にわたってインキュベーションした後、アルカリホスファターゼの活性を調べた。C3H10T1/2細胞におけるアルカリホスファターゼの活性に対するBMP-6の増大効果(図17A)は、ノギンによって抑制され(図17B)、スクレロスチンによっても抑制された。スクレロスチンの応答の特異性を確認するため(図17C)、FLAG-タグを用いて合成したスクレロスチンを抗FLAG M2抗体/アガロース複合体で予備処理することによって免疫枯渇させた後、細胞に添加した。図17Dからわかるように、スクレロスチン調製物を抗FLAG抗体で予備処理すると、C3H10T1/2細胞におけるBMP-6の拮抗作用が完全に消失した。これは、スクレロスチンに特異的な応答が存在することを示している。
【図17B】マウスの間葉細胞においてヒトのスクレロスチンがアルカリホスファターゼの活性を低下させることを示している。マウスの間葉細胞C3H10T1/2(ATCC寄託番号CCL-226)を標準的な増殖培地の中で増殖させた。ヒトのスクレロスチン、抗FLAG M2抗体を用いて免疫を欠損させたスクレロスチン、マウスのノギンを500ng/mlのBMP-6とともに1時間にわたって予備インキュベーションした後、細胞に添加した。次に、細胞を、BMP-6、スクレロスチン、免疫欠損スクレロスチン、ノギンのいずれかとともに72時間にわたってインキュベーションした後、アルカリホスファターゼの活性を調べた。C3H10T1/2細胞におけるアルカリホスファターゼの活性に対するBMP-6の増大効果(図17A)は、ノギンによって抑制され(図17B)、スクレロスチンによっても抑制された。スクレロスチンの応答の特異性を確認するため(図17C)、FLAG-タグを用いて合成したスクレロスチンを抗FLAG M2抗体/アガロース複合体で予備処理することによって免疫枯渇させた後、細胞に添加した。図17Dからわかるように、スクレロスチン調製物を抗FLAG抗体で予備処理すると、C3H10T1/2細胞におけるBMP-6の拮抗作用が完全に消失した。これは、スクレロスチンに特異的な応答が存在することを示している。
【図17C】マウスの間葉細胞においてヒトのスクレロスチンがアルカリホスファターゼの活性を低下させることを示している。マウスの間葉細胞C3H10T1/2(ATCC寄託番号CCL-226)を標準的な増殖培地の中で増殖させた。ヒトのスクレロスチン、抗FLAG M2抗体を用いて免疫を欠損させたスクレロスチン、マウスのノギンを500ng/mlのBMP-6とともに1時間にわたって予備インキュベーションした後、細胞に添加した。次に、細胞を、BMP-6、スクレロスチン、免疫欠損スクレロスチン、ノギンのいずれかとともに72時間にわたってインキュベーションした後、アルカリホスファターゼの活性を調べた。C3H10T1/2細胞におけるアルカリホスファターゼの活性に対するBMP-6の増大効果(図17A)は、ノギンによって抑制され(図17B)、スクレロスチンによっても抑制された。スクレロスチンの応答の特異性を確認するため(図17C)、FLAG-タグを用いて合成したスクレロスチンを抗FLAG M2抗体/アガロース複合体で予備処理することによって免疫枯渇させた後、細胞に添加した。図17Dからわかるように、スクレロスチン調製物を抗FLAG抗体で予備処理すると、C3H10T1/2細胞におけるBMP-6の拮抗作用が完全に消失した。これは、スクレロスチンに特異的な応答が存在することを示している。
【図17D】マウスの間葉細胞においてヒトのスクレロスチンがアルカリホスファターゼの活性を低下させることを示している。マウスの間葉細胞C3H10T1/2(ATCC寄託番号CCL-226)を標準的な増殖培地の中で増殖させた。ヒトのスクレロスチン、抗FLAG M2抗体を用いて免疫を欠損させたスクレロスチン、マウスのノギンを500ng/mlのBMP-6とともに1時間にわたって予備インキュベーションした後、細胞に添加した。次に、細胞を、BMP-6、スクレロスチン、免疫欠損スクレロスチン、ノギンのいずれかとともに72時間にわたってインキュベーションした後、アルカリホスファターゼの活性を調べた。C3H10T1/2細胞におけるアルカリホスファターゼの活性に対するBMP-6の増大効果(図17A)は、ノギンによって抑制され(図17B)、スクレロスチンによっても抑制された。スクレロスチンの応答の特異性を確認するため(図17C)、FLAG-タグを用いて合成したスクレロスチンを抗FLAG M2抗体/アガロース複合体で予備処理することによって免疫枯渇させた後、細胞に添加した。図17Dからわかるように、スクレロスチン調製物を抗FLAG抗体で予備処理すると、C3H10T1/2細胞におけるBMP-6の拮抗作用が完全に消失した。これは、スクレロスチンに特異的な応答が存在することを示している。
【図18】図18はスクレロスチン活性に関するモデルを提供する。骨形成因子は、骨芽細胞マーカー(ALP、コラーゲン)の発現を増大させることにより、骨芽前駆細胞における骨芽細胞の表現型を増大させる。骨形成因子は、SOSTのレベルも増大させる。しかしSOSTはフィードバックにより骨形成因子のレベルを低下させるため、骨芽細胞マーカーの発現が低下する。デキサメタゾン(と、おそらくはエストロゲンまたはアンドロゲン)などのステロイドは、核内受容体(HR)と結合し、転写機構と相互作用して、SOSTの発現を低下させ、したがってスクレロスチンの活性を低下させる。
【図19】SOSTの発現を下方調節する可能性のある因子を同定するための本発明によるスクリーニング・アッセイの図である。両方のアッセイにおいて、化合物がグルココルチコイド受容体(GR)と結合し、BMP機構と相互作用してSOSTプロモータの活性を下方調節することで、より少ないSOSTが転写されることが想定される。対照化合物の一例は、デキサメタゾン(DEX)である。シナリオAでは、骨形成因子とグルココルチコイドに応答する骨細胞を用いて化合物ライブラリをスクリーニングし、BMPによって誘導されるSOSTの発現(SOSTの発現を調べるRT-PCRアッセイによって測定される)が増大するのを阻止する可能性のある化合物を探すことができる。注目に値するとして選択された化合物は、SOSTの発現を低下させる化合物であろう。シナリオBでは、DNA構築物をトランスフェクトされた培養細胞を用いて化合物ライブラリをスクリーニングすることができる。このDNA構築物は、例えば、SOSTプロモータ配列と、グルココルチコイド応答エレメント(GRE)と、検出可能なマーカー(例えばルシフェラーゼ)からなり、以下の構造を持つことになろう。 GRE - SOSTプロモータ - ルシフェラーゼ 注目に値するとして選択される化合物は、このDNA構築物の発現を低下させる化合物であろう。これらスクリーニングをくぐり抜けた候補は、間葉細胞または骨芽細胞の中でテストし、処理した細胞中で内在性スクレロスチンの発現阻止および/または骨芽細胞の活性増大が可能であるかどうかを調べる。
【図20】曝露するヒトのスクレロスチンの量を増やしていくとき、hMSC細胞の生存率が低下することを示すグラフである。hMSC細胞を骨芽細胞誘導培地の中で増殖させ、バキュロウイルスで発現させて部分精製したスクレロスチン調製物またはSf9コンディションド培地から精製したタンパク質(対照)で1週間にわたって処理した。培地交換ごとに、スクレロスチンと対照を新鮮な状態にした。1週間後、細胞を溶解させ、プロメガ社のCellTiterGlo生存アッセイを利用して処理し、どれだけの割合の細胞が生きているかを検出した。対照の生存率とスクレロスチンで処理した細胞の生存率を、ビヒクルで処理した細胞からのシグナルに対する割合としてy軸にプロットする。
【図21】スクレロスチンはhMSC細胞のアポトーシスを増加させるが、他のBMPアンタゴニストはhMSC細胞のアポトーシスを増加させないことを示している。hMSC細胞を骨芽細胞誘導培地の中で増殖させ、20μg/mlのスクレロスチン、不活化したスクレロスチン、BMPの1つのアンタゴニスト(ノギン、コーディン、グレムリン、twisted gastrulation(Tsg))のいずれかで処理した。カスパーゼの活性をアポトーシスの指標とした。スクレロスチンはカスパーゼの活性を増大させたが、スクレロスチンの不活化調製物またはBMPのアンタゴニストは、カスパーゼの活性に対して顕著な効果を及ぼすことがなかった。
【図22A】曝露するヒトのスクレロスチンの量を増やしていくとき、hMSC細胞のアポトーシスが投与量に依存した形で増加することを示すグラフである。カスパーゼの活性の大きさをアポトーシスの指標とした。hMSC細胞を骨芽細胞誘導培地の中で増殖させ、部分精製したスクレロスチン調製物またはSf9コンディションド培地から精製したタンパク質(対照)を指定された量用いて24時間にわたって処理した。この図から、スクレロスチンの量が増えるとカスパーゼの活性が増大することがわかる。
【図22B】増大する量のヒトのスクレロスチンに曝露したとき、hMSC細胞のアポトーシスが投与量に依存した形で増加することを示すグラフである。ELISA(ロッシュ社)によって測定したヒストン-DNAフラグメントの量をアポトーシスの指標とした。hMSC細胞を骨芽細胞誘導培地の中で増殖させ、部分精製したスクレロスチン調製物またはSf9コンディションド培地から精製したタンパク質(対照)を指定された量用いて24時間にわたって処理した。この図から、スクレロスチンの量が増えるとヒストン-DNAフラグメントの量が増えることがわかる。
【図23】ヒトのスクレロスチンに曝露したhMSC細胞がアポトーシスを起こすことを示している。それは、アポトーシスした核をTUNEL染色することによって検出される。他方、ビヒクルまたはコンディションド培地に曝露したhMSC細胞は、アポトーシスを起こした形跡がほとんど見られない。hMSC細胞を骨芽細胞誘導培地の中で増殖させ、部分精製したスクレロスチン調製物(20μg/ml)、Sf9コンディションド培地から精製したタンパク質(対照)、またはデキサメタゾン(DEX、1μM、正の対照)で24時間にわたって処理した。アポトーシスした核のTUNEL染色(矢印は、ポジティブ染色された核を示している)は、ロッシュ社のインサイチュ細胞死検出キットを用いて行なった。倍率、明視野、100倍。
【図24A】ヒトのスクレロスチンがhMSC細胞のアポトーシスに及ぼす効果の時間変化を示している。hMSC細胞を骨芽細胞誘導培地の中で増殖させ、スクレロスチンで処理した。細胞を回収し、指定された複数の時刻にカスパーゼの活性を調べた。カスパーゼの活性は、hMSC細胞をスクレロスチンで処理した72時間後も大きな値のままであった。
【図24B】ラットのスクレロスチンもhMSC細胞のアポトーシスを誘導することを示している。ヒトMSC細胞を骨芽細胞誘導培地の中で増殖させ、ヒトまたはラットのスクレロスチンで24時間にわたって処理した後、カスパーゼの活性を調べた(ロッシュ社)。
【図25】商業的に入手可能なカスパーゼの活性阻害剤が、スクレロスチンによって誘導されるhMSC細胞のアポトーシスを阻止できることを示している。hMSC細胞を骨芽細胞誘導培地の中で増殖させ、カスパーゼ阻害剤の存在下または不在下で、ヒトのスクレロスチンまたはSf9コンディションド培地から精製したタンパク質(対照)で24時間にわたって処理した。カスパーゼの活性は、ロッシュ社のELISAで測定した。単一のカスパーゼ阻害剤(CAS-1、CAS-3、カルバイオケム社)または複数組み合わせたカスパーゼ阻害剤は、スクレロスチンによって誘導されるカスパーゼの活性増大を効果的に阻止した。カスパーゼ阻害剤は、この細胞においてラットのスクレロスチンによって誘導されたカスパーゼの活性も阻止した。
【図26】成熟骨芽細胞においてスクレロスチンがいかにしてアポトーシスを誘導できるかを示すダイヤグラムである。間葉細胞は、誘導可能骨芽前駆細胞から成熟骨芽細胞に至る決まった時間経路に沿って成長し、最終的に管壁細胞または骨細胞になる。これらの細胞は、成長するにつれ、分化の各段階に特徴的な表現型マーカー(例えば、前骨芽細胞ではI型コラーゲン、成熟骨芽細胞では石灰化)を発現する。成熟しつつある骨芽細胞はスクレロスチンを強く発現する。スクレロスチンは石灰化を調節し、したがって負のフィードバック・メカニズムによって骨形成を調節する。スクレロスチンは、骨芽細胞分化の初期段階において細胞のアポトーシスを増大させることにより、骨芽細胞の形成を減らす。骨細胞/管壁細胞からのシグナルは、このプロセス全体を調節する。スクレロスチンは、骨細胞による骨のリモデリングの調節と密接に結び付いている可能性がある。
【図27】スクレロスチンのアンタゴニストに関して可能な1つのアッセイを示している。このアッセイでは、さまざまな細胞を別々にテストすることができる。1つのアッセイでは、不死化させた骨細胞または形質転換させた骨細胞を、スクレロスチンとテスト化合物(すなわちテスト・サンプル)の存在下で培養することができる。別のアッセイでは、分化を誘導することのできる初代骨芽細胞または間葉細胞をテスト化合物(すなわちテスト・サンプル)に曝露する。インキュベーション期間が終了した後、アポトーシスを測定する。アポトーシスを低減する因子がスクレロスチンのアンタゴニスト候補であり、本明細書に示したような多数の方法でさらに特徴を明らかにすることができる。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本発明により、哺乳動物において骨密度を調節する組成物と方法が提供される。本発明により、特に、SOSTの発現を低下させる因子と、SOST遺伝子の産物であるスクレロスチンのアンタゴニストが提供される。本発明によれば、スクレロスチンは、成熟骨細胞において、直接的にも間接的にも、骨の石灰化を減らし、コラーゲンの合成を少なくし、アルカリホスファターゼ(ALP)の活性を低下させる。スクレロスチンが骨密度と骨形成を調節する1つの方法は、骨形成因子(BMP)のアンタゴニストとして作用を及ぼす方法である。スクレロスチンが骨密度と骨形成を調節する別の方法は、骨の石灰化と骨形成に関与する細胞のアポトーシスを通じた方法である。
【0020】
骨形成因子は、スクレロスチンの量を変化または減少させることにより、あるいはスクレロスチンの作用を抑制することにより、骨芽前駆細胞と前骨芽細胞(preosteoblastic cell)の拘束と分化に必要とされる主要な機能を実行することができる。さらに、スクレロスチンを媒介としたアポトーシスのアンタゴニストを投与することにより、骨の石灰化に関係する細胞の生存率を大きくし、寿命を延ばすことができる。このような組成物と方法により、骨の石灰化と形成を大きくするための治療戦略が提供される。
さらに本発明により、SOSTの発現を低下させる因子および/またはスクレロスチンの効果を打ち消すアンタゴニストを同定するためのアッセイも提供される。
【0021】
骨細胞の発生
(誘導可能骨芽前駆細胞と呼ばれる)多能性間葉細胞/ストロマ細胞の小さな集団の分化を誘導して骨芽細胞にすることができる(Pittenger, M.F.他、1999年)。誘導可能骨芽前駆細胞は、成長し、ある種の表現型マーカーを所定の順番で発現させる(Pockwinse他、1992年;Lian他、1999年)。骨芽前駆細胞はI型コラーゲンを発現するのに対し、運命づけられた前骨芽細胞と骨芽細胞は、一般に骨芽細胞系列の細胞で同定される多数の表現型マーカーを発現する。そのようなマーカーとしては、I型コラーゲン、アルカリホスファターゼ、副甲状腺ホルモン受容体(PTHr)、オステオポンチンなどが挙げられる。骨芽細胞の分化最終段階では、骨細胞がミネラル堆積物とマトリックス・タンパク質(例えばCD44やオステオカルシン)に取り囲まれる。したがって骨芽前躯体細胞が発生、増殖、分化して成熟骨芽細胞になるには、時間に依存した所定のやり方がある(Pockwinse他、1992年)。
【0022】
分化のさまざまな段階における骨芽細胞に特徴的な表現型マーカーの発現は、骨形成因子(BMP)を始めとするさまざまな因子によって調節される。BMP-6は、骨形成の初期段階において骨芽細胞の分化を開始させることができるが、他の骨形成因子または成長因子は分化プロセスを継続するために必要であると考えられている(Gitelman他、1995年;Boden他、1997年)。いくつかの研究から、骨芽前駆細胞と前骨芽細胞の拘束と分化が起こって骨芽細胞になるにはBMP-2とBMP-4が必要であることがわかっている(Katagiri他、1990年;Oreffo他、1999年;Suzawa他、1999年)。
骨形成因子のアンタゴニスト(例えばノギン、グレムリン、コーディン、Dan/cerberusファミリーのタンパク質)も同定されている。しかし骨形成因子のアンタゴニストが骨芽細胞において骨形成因子の調節と制御に関して果たしている役割はよくわかっていない。
【0023】
SOSTとスクレロスチン
ヒトSOST遺伝子配列は約22kbであり、NCBIヌクレオチド・データベースにGenbank登録番号AF326736として登録されている(配列番号1)。ncbi.nlm.nih.gov/Genbank/GenbankOverviewというウェブサイトを参照のこと。譲受人に譲渡されて所有されているアメリカ合衆国特許第6,395,511号と第6,489,445号には、追加の配列情報と、SOST遺伝子およびその遺伝子産物(これらの文献の中ではbeerと呼ばれている)の性質に関する追加の記述がある。なおこれら特許文献の内容は、引用によりこの明細書に組み込まれているものとする。
【0024】
ヒトSOSTのcDNAは、Genbank登録番号NM025237である。便宜のため、その配列を以下に示す(配列番号2)。
1 AGAGCCTGTG CTACTGGAAG GTGGCGTGCC CTCCTCTGGC
41 TGGTACCATG CAGCTCCCAC TGGCCCTGTG TCTCGTCTGC
81 CTGCTGGTAC ACACAGCCTT CCGTGTAGTG GAGGGCCAGG
121 GGTGGCAGGC GTTCAAGAAT GATGCCACGG AAATCATCCC
161 CGAGCTCGGA GAGTACCCCG AGCCTCCACC GGAGCTGGAG
201 AACAACAAGA CCATGAACCG GGCGGAGAAC GGAGGGCGGC
241 CTCCCCACCA CCCCTTTGAG ACCAAAGACG TGTCCGAGTA
281 CAGCTGCCGC GAGCTGCACT TCACCCGCTA CGTGACCGAT
321 GGGCCGTGCC GCAGCGCCAA GCCGGTCACC GAGCTGGTGT
361 GCTCCGGCCA GTGCGGCCCG GCGCGCCTGC TGCCCAACGC
401 CATCGGCCGC GGCAAGTGGT GGCGACCTAG TGGGCCCGAC
441 TTCCGCTGCA TCCCCGACCG CTACCGCGCG CAGCGCGTGC
481 AGCTGCTGTG TCCCGGTGGT GAGGCGCCGC GCGCGCGCAA
521 GGTGCGCCTG GTGGCCTCGT GCAAGTGCAA GCGCCTCACC
561 CGCTTCCACA ACCAGTCGGA GCTCAAGGAC TTCGGGACCG
601 AGGCCGCTCG GCCGCAGAAG GGCCGGAAGC CGCGGCCCCG
641 CGCCCGGAGC GCCAAAGCCA ACCAGGCCGA GCTGGAGAAC
681 GCCTACTAGA GCCCGCCCGC GCCCCTCCCC ACCGGCGGGC
721 GCCCCGGCCC TGAACCCGCG CCCCACATTT CTGTCCTCTG
761 CGCGTGGTTT GATTGTTTAT ATTTCATTGT AAATGCCTGC
801 AACCCAGGGC AGGGGGCTGA GACCTTCCAG GCCCTGAGGA
841 ATCCCGGGCG CCGGCAAGGC CCCCCTCAGC CCGCCAGCTG
881 AGGGGTCCCA CGGGGCAGGG GAGGGAATTG AGAGTCACAG
921 ACACTGAGCC ACGCAGCCCC GCCTCTGGGG CCGCCTACCT
961 TTGCTGGTCC CACTTCAGAG GAGGCAGAAA TGGAAGCATT
1001 TTCACCGCCC TGGGGTTTTA AGGGAGCGGT GTGGGAGTGG
1041 GAAAGTCCAG GGACTGGTTA AGAAAGTTGG ATAAGATTCC
1081 CCCTTGCACC TCGCTGCCCA TCAGAAAGCC TGAGGCGTGC
1121 CCAGAGCACA AGACTGGGGG CAACTGTAGA TGTGGTTTCT
1161 AGTCCTGGCT CTGCCACTAA CTTGCTGTGT AACCTTGAAC
1201 TACACAATTC TCCTTCGGGA CCTCAATTTC CACTTTGTAA
1241 AATGAGGGTG GAGGTGGGAA TAGGATCTCG AGGAGACTAT
1281 TGGCATATGA TTCCAAGGAC TCCAGTGCCT TTTGAATGGG
1321 CAGAGGTGAG AGAGAGAGAG AGAAAGAGAG AGAATGAATG
1361 CAGTTGCATT GATTCAGTGC CAAGGTCACT TCCAGAATTC
1401 AGAGTTGTGA TGCTCTCTTC TGACAGCCAA AGATGAAAAA
1441 CAAACAGAAA AAAAAAAGTA AAGAGTCTAT TTATGGCTGA
1481 CATATTTACG GCTGACAAAC TCCTGGAAGA AGCTATGCTG
1521 CTTCCCAGCC TGGCTTCCCC GGATGTTTGG CTACCTCCAC
1561 CCCTCCATCT CAAAGAAATA ACATCATCCA TTGGGGTAGA
1601 AAAGGAGAGG GTCCGAGGGT GGTGGGAGGG ATAGAAATCA
1641 CATCCGCCCC AACTTCCCAA AGAGCAGCAT CCCTCCCCCG
1681 ACCCATAGCC ATGTTTTAAA GTCACCTTCC GAAGAGAAGT
1721 GAAAGGTTCA AGGACACTGG CCTTGCAGGC CCGAGGGAGC
1761 AGCCATCACA AACTCACAGA CCAGCACATC CCTTTTGAGA
1801 CACCGCCTTC TGCCCACCAC TCACGGACAC ATTTCTGCCT
1841 AGAAAACAGC TTCTTACTGC TCTTACATGT GATGGCATAT
1881 CTTACACTAA AAGAATATTA TTGGGGGAAA AACTACAAGT
1921 GCTGTACATA TGCTGAGAAA CTGCAGAGCA TAATAGCTGC
1961 CACCCAAAAA TCTTTTTGAA AATCATTTCC AGACAACCTC
2001 TTACTTTCTG TGTAGTTTTT AATTGTTAAA AAAAAAAAGT
2041 TTTAAACAGA AGCACATGAC ATATGAAAGC CTGCAGGACT
2081 GGTCGTTTTT TTGGCAATTC TTCCACGTGG GACTTGTCCA
2121 CAAGAATGAA AGTAGTGGTT TTTAAAGAGT TAAGTTACAT
2161 ATTTATTTTC TCACTTAAGT TATTTATGCA AAAGTTTTTC
2201 TTGTAGAGAA TGACAATGTT AATATTGCTT TATGAATTAA
2241 CAGTCTGTTC TTCCAGAGTC CAGAGACATT GTTAATAAAG
2281 ACAATGAATC ATGACCGAAA GAAAAAAAAA AAAAAAAAAA
2321 AAA
【0025】
SOST遺伝子はスクレロスチンというタンパク質を作る。ヒトのスクレロスチンは、Genbank登録番号NP079513である。便宜のため、その配列を以下に示す(配列番号3)。
【0026】
1 MQLPLALCLV CLLVHTAFRV VEGQGWQAFK NDATEIIPEL
41 GEYPEPPPEL ENNKTMNRAE NGGRPPHHPF ETKDVSEYSC
81 RELHFTRYVT DGPCRSAKPV TELVCSGQCG PARLLPNAIG
121 RGKWWRPSGP DFRCIPDRYR AQRVQLLCPG GEAPRARKVR
161 LVASCKCKRL TRFHNQSELK DFGTEAARPQ KGRKPRPRAR
201 SAKANQAELE NAY
【0027】
ヒトSOST遺伝子のためのプロモータは、配列番号1のヌクレオチド7960〜11960に見られる。このプロモータ配列は以下の通りである(配列番号4)。
【0028】
7960 T
7961 GAATGCCACA GCTTGTCAGC AGCCAGCAGA AGGCAGGTAA
8001 AAGGCCTTCC TCACTGTCCT CGAAGGAACC AACTCTGCCA
8041 ATGTCTTGAA CTTGCACTCC TAACCTCCAG CTCTGTGAGA
8081 CGACTTCTGT TGTTTATGCC ACCCAATTTG TGGTACTTAG
8121 TTACGGCAGC CTCATCAAAG TACCACCTAT GGGAGCCTCT
8161 ATTTTGCAGG TGAGGGCGGG GACTGGGCTG AGTTTTCTGG
8201 AAAACAGCCC TGCAATACCC TCATCAGACC ACCAAACTCT
8241 TCACACTCCC TCAGACACAG CATTCACTTC CAGAAATAAC
8281 TCTAAAGTTT TGTTTTGTTT TTTTAAACTT TGTGGAATAC
8321 TACTCAGCCA AAAAAAAAAA AAAAGAAAAG AAAAAGGAAC
8361 ATGTTACTGA TATGTACAAC TTGGATAATG GAAATAATGC
8401 TGAGTGAAAA AAAAATCCCC AAAGGCTACA TACTAATTGA
8441 TTCCATTTAT ATAACCTTTT TTTTTTTTTT TTGAGACAGT
8481 CTCACTCTGT CACCCAGGCT GGAGCACAGT GGCGCGATCT
8521 CAGCTCACTG CAACTTCCGC CTCCTGAGTT CAAGCGATTC
8561 TCTTGCCTTA GCTTCCCAAG TAGCTGGGAT TACAGGTGCG
8601 TGCCACCATG CCCAGCTAAT TTTTGTATTT TTAGTAGAGA
8641 CAGGGTTTCG CCATGTTGGC CAGGCTGGTC TCGAACTCCT
8681 GACCTCAAGT GATCTGCCTG CCTTGGCTTC CCAAAGTGCT
8721 GGGATTACAT GAGTGAGCCA CCGCACCTGG TCGCATTTAT
8761 GTAACAATTT TGAAGTGAAA AAAAAAATGA CAGAAATGGA
8801 GATTAGATGA GTAGTTGCCA GGGGTTAGTT GTGGGAGGGA
8841 GGGAAAAGGA GGGAAGGAGG TGGGCAACAG GAGAAAGACT
8881 TGTGGTCACA GAGCTGTGCT TTATCTTGAC TGTGGTGGAT
8921 CCCCAAATTT ACCCGTGACA AGATTGCATA GAACTAAGTA
8961 TACACACACG TGAATGCGTG TGCACGCACA CAGTAGAGGT
9001 TAAGCCACGG GAGATGTGGG TAAGATTGGT AAATTGTGTC
9041 AATATCAATA TCCTAGTTGT GATATTGTCC TATAGTTTCG
9081 CAAGGTGTTA TTGTTGTGGG AAACTGGATA AAGGATACAC
9121 GGAGTCTGCA TTTTCTTTTT TTTATTTTTA TTTTTTGAGA
9161 CGGGGTCTCA CTCTGTCAAC CAGGCTGGAG TGCAGTGGCC
9201 CAAGTATGGC TCACTGCAGC CTCGACCTCA ACCTCAAGTG
9241 AACCTCCCAC CTCAGCCTCC CAAGTAGCTA AGACCACAGG
9281 CGTGCGACCC CATGCCCAGC TAATTTTTAA ATTTTTTGTA
9321 GAGACTAGGC CTCACCATGT TGCCCAGGCT TTTATTTCTT
9361 ATAAGTATAT TTAAATTTAT AATTATATCC ACATTTTAAA
9401 ATTTTAATTT AAAAAATTAC TCTGAGGCCG GGCATTGTGG
9441 CTCATGCCTC TAATCCCCAG CACCTTGGGA GGCCGAGTTG
9481 GGCAGATCAC CCGAGGTCAG AAGTTCGAGA CCAGCCTGAG
9521 TAACATGGAG AAACCCCCGT CTCTACTAAA AATACAAAAT
9561 TGGCCGGGCG TGGTGGTGCA TTCCTGTAAT CCCAGCTACT
9601 CGGGAGGCTG AGGCAGGAGA ATTGCTTGAA CCCAGGAGGT
9641 GGAGGTTGCA GTGAGCCAAG ATTGTGCCAC TGCACTGCAG
9681 CCTGGGCCAC AGAGAGAATC TGCCAAAAAA AGAAAAAAAA
9721 AAAAATTTCA GCCGTACAAG GATGTTCATA GCAACCCTGC
9761 TGGAAATAGG AAAAAAAATT GGAAATAACC TAAACTACTC
9801 ACAATAGGAA TCAGCTAAAA CCCTGGGGGT TTAATTCCAG
9841 GGAATACTGT GAACAATGAC AAGTTTGTGG ACTGAGTAAA
9881 AATAAACAGC TGTCAATGAC TTAACATTAA ATGAAACAGC
9921 AGAAGATGTC ACAGCAGGTT CTCGCTGAGC CATTCAGAGG
9961 GGTGTGGATC ATTTAGAGGT TCAAGTCCAC TGGATTCTTC
10001 TTTTTCCTTT TAATATTACT TCACTTCCAA ATAAGGAAAG
10041 GAAAGGAAAG GAAATCACGT CCAGTCCTGA GACTTGCCAT
10081 CCTGCAGTCA CCCCTCCTTT TGTCTCCAGC AGGTGGCAGA
10121 CGCGTTCCAG GGATGAATCC CACTGCCTCT GTTTAATGCA
10161 GACGGTCCAG CCGCTCCCAA CAGCAGGTGG GGCTATAAGC
10201 ATCCATCCTA CCTGCTCAAG GAACCCAGGC ATCAGAACTG
10241 CTCTCTCCCA AGTCCATTGC AAGAAGGCAG TCGTCTGGTC
10281 ATGAGAGGGT TAACAGTCCA CATTCCAGAG CAAGGGAAAA
10321 GGAGGCTGGA GGGTCATAGA CAAGGGGAGG TGGTGCGGAG
10361 GGCCAGCTTC TCACAACACT ACCGGCTCTG CTGGGAGAGA
10401 TAGATCACCC CCAACAATGG CCACAGCTGT TTTCATCTGC
10441 CCTGAAGGAA ACTGACTTAG GAAGCAGGTA TCAGAGAGGG
10481 CCCTTCCTGA GGGGGCTTCT GTCTGGCTTG TAAAACTGTC
10521 AGAGCAGCTG CATTCATGTG TCGGATGATG GATGATGGAA
10561 AGGACAGTCG GCTGCAGATG GACACAGCGA CTTGCAAGTT
10601 GAGGCAGGTG GCAAAGGACT TGCAGAGGCT CTGCAGGTGG
10641 GGCATGCTGA TTCATTGCCC AGTTAAAATA CCAGAGGATC
10681 TGGGCAGCCT CTTCACAGGA GCTGCTTGTC CTCAAACAAT
10721 CTGTCTTCAA TGAAAGATTC CTCTGGCCTT CCTTTCTCTT
10761 CTTGCACCTC AGGTGTGAAT CCTTCTCCCC CACGCCTCTA
10801 CCTGCGCCCC CGCCCCCCGC CCCGGCCCTG TGTGGCTCAT
10841 TATATGCAGG GCCAAGGCAG CATTTTCTCT TAGCTTCTTT
10881 GTGACCAGTT GGTCCTGGGA TGGCTTCATG GAACACATCC
10921 TGTGGTGTGC ACCAATGAAG CTTTCCATAC AGGACTCAAA
10961 ACTGTTTTTG AAAAATGTAA CCAGCTGGAA GACAAGAAAA
11001 TAAAATGTCA GCACTAAAAA CGCTGGCTGT GGCTTTTGCT
11041 AAGGAAAGGA ATTTGGTGTT GTCTTCTCAC ACACACAGAC
11081 TGGTTGGGGA AATGACTGTC TTCAGCACAT CACCCTGCGA
11121 GCCACAGTGA GTGCCCTGGC TCAGAAGTGC CTGTCACAGT
11161 GCACAGGATC CCTGAGGAGC ATGAGCTGGG ATTTCCTCTG
11201 TGCTGTCCAT CACAGGAGCC TGAGTGACCA GCGCATCCTC
11241 GATTTGTAAC CAGAATCCTG CCCTCTCTCC CAAGCGGGCA
11281 CCCTTGCTCT GACCCTCTAG TTCTCTCTCT TGCCTTCCAG
11321 AGAATACCAA GAGAGGCTTT CTTGGTTAGG ACAATGAATG
11361 CTGAGACTTG TGGAGTTGGG ACCAATGGGA TTTCTTTAAA
11401 AGCATCTTTT TGCCTCTGGC TGGGTCTATG GGGGTCAAAC
11441 AGAAACACCT TGGGCCATTT GTTGGTGGGG TGACAAATGA
11481 ACTTGGCCTG AGAAATGGAA TAGGCCGGGC TCAGCCCCGC
11521 GAAGCACTCA GAACTGCACA TTTTCTTTGT TGAGCGGGTC
11561 CACAGTTTGT TTTGAGAATG CCCGAGGGCC CAGGGAGACA
11601 GACAATTAAA AGCCGGAGCT CATTTTGATA TCTGAAAACC
11641 ACAGCCGCCA GCACGTGGGA GGTGCCGGAG AGCAGGCTTG
11681 GGCCTTGCCT CACACGCCCC CTCTCTCTGG GTCACCTGGG
11721 AGTGCCAGCA GCAATTTGGA AGTTTGCTGA GCTAGAGGAG
11761 AAGTCTTTGG GGAGGGTTTG CTCTGAGCAC ACCCCTTTCC
11801 CTCCCTCCGG GGCTGAGGGA AACATGGGAC CAGCCCTGCC
11841 CCAGCCTGTC CTCATTGGCT GGCATGAAGC AGAGAGGGGC
11881 TTTAAAAAGG CGACCGTGTC TCGGCTGGAG ACCAGAGCCT
11921 GTGCTACTGG AAGGTGGCGT GCCCTCCTCT GGCTGGTACC
11960 ATGCAGCTCC CACTGGCCCT GTGTCTCGTC TGCCTGCTG
【0029】
本発明は、SOST遺伝子の変異体や、スクレロスチン・タンパク質の変異体を用いて実施することもできる。本発明は、例えばマウスまたはラットのSOST遺伝子、あるいはマウスまたはラットのスクレロスチン・タンパク質を用いて実施することができる。マウスのSOSTのcDNAは、Genbank登録番号NM024449である。便宜のため、その配列を以下に示す(配列番号5)。
【0030】
1 ATGCAGCCCT CACTAGCCCC GTGCCTCATC TGCCTACTTG
41 TGCACGCTGC CTTCTGTGCT GTGGAGGGCC AGGGGTGGCA
81 AGCCTTCAGG AATGATGCCA CAGAGGTCAT CCCAGGGCTT
121 GGAGAGTACC CCGAGCCTCC TCCTGAGAAC AACCAGACCA
161 TGAACCGGGC GGAGAATGGA GGCAGACCTC CCCACCATCC
201 CTATGACGCC AAAGATGTGT CCGAGTACAG CTGCCGCGAG
241 CTGCACTACA CCCGCTTCCT GACAGACGGC CCATGCCGCA
281 GCGCCAAGCC GGTCACCGAG TTGGTGTGCT CCGGCCAGTG
321 CGGCCCCGCG CGGCTGCTGC CCAACGCCAT CGGGCGCGTG
361 AAGTGGTGGC GCCCGAACGG ACCGGATTTC CGCTGCATCC
401 CGGATCGCTA CCGCGCGCAG CGGGTGCAGC TGCTGTGCCC
441 CGGGGGCGCG GCGCCGCGCT CGCGCAAGGT GCGTCTGGTG
481 GCCTCGTGCA AGTGCAAGCG CCTCACCCGC TTCCACAACC
521 AGTCGGAGCT CAAGGACTTC GGGCCGGAGA CCGCGCGGCC
561 GCAGAAGGGT CGCAAGCCGC GGCCCGGCGC CCGGGGAGCC
601 AAAGCCAACC AGGCGGAGCT GGAGAACGCC TACTAG
【0031】
マウスのスクレロスチンは、Genbank登録番号NP077769である。便宜のため、その配列を以下に示す(配列番号6)。
【0032】
1 MQPSLAPCLI CLLVHAAFCA VEGQGWQAFR NDATEVIPGL
41 GEYPEPPPEN NQTMNRAENG GRPPHHPYDA KDVSEYSCRE
81 LHYTRFLTDG PCRSAKPVTE LVCSGQCGPA RLLPNAIGRV
121 KWWRPNGPDF RCIPDRYRAQ RVQLLCPGGA APRSRKVRLV
161 ASCKCKRLTR FHNQSELKDF GPETARPQKG RKPRPGARGA
201 KANQAELENA Y
【0033】
ラットのSOSTのcDNAは、Genbank登録番号NM030584である。便宜のため、その配列を以下に示す(配列番号7)。
【0034】
1 GAGGACCGAG TGCCCTTCCT CCTTCTGGCA CCATGCAGCT
41 CTCACTAGCC CCTTGCCTTG CCTGCCTGCT TGTACATGCA
81 GCCTTCGTTG CTGTGGAGAG CCAGGGGTGG CAAGCCTTCA
121 AGAATGATGC CACAGAAATC ATCCCGGGAC TCAGAGAGTA
161 CCCAGAGCCT CCTCAGGAAC TAGAGAACAA CCAGACCATG
201 AACCGGGCCG AGAACGGAGG CAGACCCCCC CACCATCCTT
241 ATGACACCAA AGACGTGTCC GAGTACAGCT GCCGCGAGCT
281 GCACTACACC CGCTTCGTGA CCGACGGCCC GTGCCGCAGT
321 GCCAAGCCGG TCACCGAGTT GGTGTGCTCG GGCCAGTGCG
361 GCCCCGCGCG GCTGCTGCCC AACGCCATCG GGCGCGTGAA
401 GTGGTGGCGC CCGAACGGAC CCGACTTCCG CTGCATCCCG
441 GATCGCTACC GCGCGCAGCG GGTGCAGCTG CTGTGCCCCG
481 GCGGCGCGGC GCCGCGCTCG CGCAAGGTGC GTCTGGTGGC
521 CTCGTGCAAG TGCAAGCGCC TCACCCGCTT CCACAACCAG
561 TCGGAGCTCA AGGACTTCGG ACCTGAGACC GCGCGGCCGC
601 AGAAGGGTCG CAAGCCGCGG CCCCGCGCCC GGGGAGCCAA
641 AGCCAACCAG GCGGAGCTGG AGAACGCCTA CTAG
【0035】
ラットのスクレロスチン・タンパク質は、Genbank登録番号NP085073である。便宜のため、その配列を以下に示す(配列番号8)。
【0036】
1 MQLSLAPCLA CLLVHAAFVA VESQGWQAFK NDATEIIPGL
41 REYPEPPQEL ENNQTMNRAE NGGRPPHHPY DTKDVSEYSC
81 RELHYTRFVT DGPCRSAKPV TELVCSGQCG PARLLPNAIG
121 RVKWWRPNGP DFRCIPDRYR AQRVQLLCPG GAAPRSRKVR
161 LVASCKCKRL TRFHNQSELK DFGPETARPQ KGRKPRPRAR
201 GAKANQAELE NAY
【0037】
他のSOST核酸とスクレロスチン・タンパク質を用いて本発明を実施することができる。例えばベルベットモンキーのSOSTのcDNA(登録番号AF326742)とウシのSOSTのcDNA(登録番号AF326738)が使用できる。
本発明によれば、SOST遺伝子の発現は、骨芽細胞の成熟と分化、ならびに石灰化の開始とともに増大する。したがってSOSTの発現を骨芽細胞分化のマーカーとして利用することができる。
しかしSOSTの発現を増大させる因子は骨の石灰化を減らす。というのも、SOST遺伝子の産物であるスクレロスチンは骨形成因子のアンタゴニストであるため、骨芽細胞のアポトーシスを引き起こすからである。スクレロスチンは、分化しているhMSC細胞の培養物と骨芽細胞の初代培養物に添加したとき、前骨芽細胞/骨芽細胞に関する多数の表現型マーカー(ALP、I型コラーゲン、PTHr)の発現を減らした。さらに、スクレロスチンはBMP-6と相互作用してBMP-6の活性を阻害し、そのことによって骨芽細胞の分化を抑制した。
本発明によれば、スクレロスチンは、骨マトリックスの形成と骨の石灰化の調節において重要な役割を果たしている。いくつかのタンパク質(例えばノギン(noggin)、グレムリン(gremlin))が骨形成因子の作用に対するアンタゴニストとして機能すると考えられているが、スクレロスチンの機能が失われると、その機能は、ノギンによって置き換えることや、DANファミリーのアンタゴニストの他のどのメンバーで置き換えることもできないように見える。
【0038】
スクレロスチンが骨細胞の生物学にどのように影響するかの概略図を図26に示してある。スクレロスチンは、前骨芽細胞、骨芽前駆細胞、成熟骨芽細胞に効果を及ぼす。前骨芽細胞と骨芽前駆細胞に対して骨形成因子などの因子を枯渇させることにより、これらの細胞が分化して成熟骨芽細胞になることが阻止される。したがって、石灰化に利用できる骨芽細胞が少なくなる。さらに、これらのタンパク質はアポトーシスを阻止する重要な役割を担っているが、その役割は、スクレロスチンへの曝露が増えることによって潜在的な影響を受ける。その結果、前骨芽細胞と骨芽前駆細胞においてアルカリホスファターゼの活性が低下し、I型コラーゲンの合成が減少する一方で、スクレロスチンで処理した成熟骨芽細胞における石灰化が影響を受ける。SOSTの発現が低下する、すなわち骨芽細胞の増殖に利用できるスクレロスチンの量が減ると、より多くの細胞が、分化を通じ、より多くの成熟骨芽細胞を生み出し、I型コラーゲンをより多く合成し、骨にミネラルをより多く堆積させることが可能になる。
【0039】
いくつかの因子がSOSTの発現を促進する。そのような因子としては、インスリン様成長因子-1や骨形成因子(例えばBMP-2、BMP-4、BMP-6)などが挙げられる。骨形成因子が存在している場合には、レチノイン酸とビタミンDもSOSTの発現レベルを増大させた。したがってこれらの因子は、スクレロスチンの合成増大を通じ、コラーゲンの合成を減らし、骨の内部における石灰化を少なくすることができる。
逆に、SOSTの発現レベルは、デキサメタゾンがBMP-4またはBMP-6と同時に存在しているときに低下する。したがってデキサメタゾンは、BMP-4とBMP-6によるSOSTの発現促進効果を失わせる傾向がある。他の化学物質(例えばグルココルチコイド類似体、胆汁塩、プロスタグランジン)も、骨形成因子がSOSTの発現に及ぼす効果を変化させる。これについては以下に説明する。
【0040】
SOST/スクレロスチンの調節
本発明によれば、スクレロスチンが持つ骨芽細胞の活性低下能力を調節する任意の薬剤が、骨形成を増大させ、骨吸収を変化させ、骨の石灰化を増大させるのに役立つ。このような薬剤は、直接または間接にSOSTまたはスクレロスチンに作用を及ぼすことができる。このような薬剤は、転写レベル、翻訳レベル、またはタンパク質レベルで作用して、スクレロスチンが持つ骨芽細胞の活性低下能力を調節することができる。
“調節する”または“調節”という用語は、変わること、すなわち増加または減少することを意味する。したがって、SOSTの発現またはスクレロスチンの活性を低下させることのできる薬剤が本発明の組成物と方法でしばしば使用されるとはいえ、SOSTの発現またはスクレロスチンの活性を増大させる薬剤も本発明の範囲に含まれる。
SOSTの発現とスクレロスチンの活性を調節するのに役立つ薬剤としては、ステロイド、アルカロイド、テルペノイド、ペプトイド、ペプチド、核酸、アンチセンス核酸、合成化合物などが挙げられるが、これだけに限られるわけではない。いくつかの実施態様では、SOSTのアンタゴニストまたはアゴニストがグルココルチコイド受容体と結合できる。例えばデキサメタゾンは、BMP-4とBMP-6によるSOSTの発現促進効果を失わせる傾向がある。他の化学物質(例えばグルココルチコイド類似体、胆汁塩、プロスタグランジン)も、骨形成因子がSOSTの発現に及ぼす効果を調節する。
【0041】
本発明の一実施態様では、下記の一般式(I):

のステロイド(R1、R2、R3、R4、R5、R6、R7、R8は、それぞれ独立に、カルボニル、ハロ、フッ素、水素、ヒドロキシ、低級アシル、低級アルコキシ、低級アルキル、または低級ヒドロキシアルキルである)を用いてスクレロスチンの発現を調節することができる。R1、R2、R3、R4、R5、R6、R7は、カルボニル、ヒドロキシ、水素、低級ヒドロキシアルキルのいずれかであることが好ましい。R1はカルボニルまたはヒドロキシであることが好ましく、R2は低級アルキルであることが好ましい。またR8は、フッ素、水素、ハロのいずれかであることが好ましい。
【0042】
特に断わらない限り、以下の一般的な定義を用いる。ハロは、フルオロ、クロロ、ブロモ、ヨードのいずれかである。アルキル、アルコキシ、アルケニル、アルキニルなどは、直鎖型の基と分岐型の基の両方を表わすが、個々の基、例えば“プロピル”には直鎖型の基だけが含まれ、“イソプロピル”などの分岐型の異性体は別に言及する。アリールは、フェニル基、または環に約9〜10個の原子が含まれていて、少なくとも1つの環が芳香環であるオルト縮合二環式炭素環基を表わす。アルコキシは、アリール-O-を意味する。
【0043】
さらに具体的に述べると、低級アルキルは、(C1〜C6)アルキルを意味する。そのような(C1〜C6)アルキルとしては、メチル、エチル、プロピル、イソプロピル、ブチル、イソ-ブチル、s-ブチル、ペンチル、3-ペンチル、ヘキシルが可能である。低級アルコキシは、一般に(C1〜C6)アルコキシを意味する。そのような(C1〜C6)アルコキシとしては、例えばメトキシ、エトキシ、プロポキシ、イソプロポキシ、ブトキシ、イソ-ブトキシ、s-ブトキシ、ペントキシ、3-ペントキシ、ヘキシルオキシが可能である。好ましい低級アルキル基は(C1〜C3)アルキルであり、その中には、メチル、エチル、プロピル、イソプロピルなどが含まれる。より好ましい低級アルキル基はメチルである。低級アシルとは、低級アルキル基に付着したカルボニル基(例えば-CO-CH3)を意味する。低級ヒドロキシアルキルは、低級アルキル基または低級アルキレン基に付着したヒドロキシ基(例えば-CH2-CH2-OH)を意味する。
【0044】
SOST/スクレロスチンの効果的なアンタゴニストの一例はデキサメタゾンである。デキサメタゾンは、グルココルチコイド・ホルモンであるコルチゾールを合成して作ったものであり、抗炎症薬として使用されてきた。デキサメタゾンの構造は以下の通りである。
【0045】

【0046】
コルチゾールとそれ以外のグルココルチコイドや、デキサメタゾンと似た構造の分子も、本発明ではスクレロスチンのアンタゴニストと考えることができる。アンドロゲンとエストロゲンも、スクレロスチンのアンタゴニストと考えられる。他の化学物質(例えばグルココルチコイド類似体、胆汁塩、プロスタグランジン)も、骨形成因子がSOSTの発現に及ぼす効果を調節する。
【0047】
代表的な胆汁塩は、以下の構造:

を持つことができる。ただし、R1、R2、R3、R4、R5、R6、R7、R8は、上記のものと同じであり、R9は、カルボニル、ハロ、フッ素、水素、ヒドロキシ、低級アシル、低級アルコキシ、低級アルキル、または低級ヒドロキシアルキルである。R9は、水素、ヒドロキシ、低級アシル、低級アルキル、または低級ヒドロキシアルキルであることが好ましい。
【0048】
代表的なプロスタグランジンまたはエイコサノイドは、構造:

を持つことができる。ただし、R10とR11は、それぞれ独立に、カルボニル、ハロ、フッ素、水素、ヒドロキシ、低級アシル、低級アルコキシ、低級アルキル、低級ヒドロキシアルキル、アリール、またはアリールオキシである。
【0049】
SOST転写物またはスクレロスチンの分解を促進する化合物または分子も、スクレロスチンのレベルを低下させて骨の石灰化を促進するのに用いることができる。
別の実施態様では、本発明により、SOSTの発現、および/またはスクレロスチンの翻訳、および/またはSOST転写物の分解を調節するアンチセンスRNAまたはアンチセンスDNAが提供される。例えば配列番号1、2、4、5、または7を有する核酸にハイブリダイズすることのできるアンチセンスRNAまたはアンチセンスDNAを、スクレロスチンの発現を低下させるアンチセンスRNAまたはアンチセンスDNAとして使用することができる。
SOSTのmRNAの分解を増大させるには、RNA干渉(siRNAまたはRNAi)技術(Scherr, M.他、2003年;Martinez, L.A.他、2002年)を利用して合成二本鎖RNAの小さな二本鎖に曝露してもよい。したがって、細胞内にある標的遺伝子の発現を抑制する方法が提供される。この方法は、一部または全部が二本鎖になったRNAを細胞または細胞外環境に導入する工程を含んでいる。抑制は、SOSTのRNAに対して特異的に起こる。というのも、SOST遺伝子の一部に由来するヌクレオチド配列を選択して抑制性RNAを産生させるからである。この方法は、遺伝子の発現を抑制するのに有効である。
siRNAは、アンビオン社(オースチン、テキサス州)から提供されたガイドラインを利用して設計した。簡単に述べると、AAジヌクレオチドを有する標的配列を探すためにSOSTのcDNA配列を走査した。G/C含有量が35〜55%のその標的(AA+3'に隣接する19個のヌクレオチド)に対するセンスオリゴヌクレオチドとアンチセンスオリゴヌクレオチドを作製した。次に、これらの配列をヒトゲノム・データベースの他の配列と比較し、他の既知のコード配列とのホモロジーを最少にした(ブラスト探索)。
設計した標的配列とsiRNA配列は以下の通りである。
【0050】
標的配列1:AAGAATGATGCCACGGAAATC(配列番号9)
遺伝子配列における位置:140
GC含有量:42.9%
センス鎖siRNA:GAAUGAUGCCACGGAAAUCtt(配列番号10)
アンチセンス鎖siRNA:GAUUUCCGUGGCAUCAUUCtt(配列番号11)
【0051】
標的配列3:AATGATGCCACGGAAATCATC(配列番号12)
遺伝子配列における位置:143
GC含有量:42.9%
センス鎖siRNA:UGAUGCCACGGAAAUCAUCtt(配列番号13)
アンチセンス鎖siRNA:GAUGAUUUCCGUGGCAUCAtt(配列番号14)
【0052】
標的配列5:AACAACAAGACCATGAACCGG(配列番号15)
遺伝子配列における位置:209
GC含有量:47.6%
センス鎖siRNA:CAACAAGACCAUGAACCGGtt(配列番号16)
アンチセンス鎖siRNA:CCGGUUCAUGGUCUUGUUGtt(配列番号17)
【0053】
標的配列27:AATTGAGAGTCACAGACACTG(配列番号18)
遺伝子配列における位置:950
GC含有量:42.9%
センス鎖siRNA:UUGAGAGUCACAGACACUGtt(配列番号19)
アンチセンス鎖siRNA:CAGUGUCUGUGACUCUCAAtt(配列番号20)
【0054】
標的配列28:AAATGGAAGCATTTTCACCGC(配列番号21)
遺伝子配列における位置:1035
GC含有量:42.9%
センス鎖siRNA:AUGGAAGCAUUUUCACCGCtt(配列番号22)
アンチセンス鎖siRNA:GCGGUGAAAAUGCUUCCAUtt(配列番号23)
【0055】
標的配列30:AAAGTCCAGGGACTGGTTAAG(配列番号24)
遺伝子配列における位置:1093
GC含有量:47.6%
センス鎖siRNA:AGUCCAGGGACUGGUUAAGtt(配列番号25)
アンチセンス鎖siRNA:CUUAACCAGUCCCUGGACUtt(配列番号26)
【0056】
標的配列31:AAGAAAGTTGGATAAGATTCC(配列番号27)
遺伝子配列における位置:1111
GC含有量:33.3%
センス鎖siRNA:GAAAGUUGGAUAAGAUUCCtt(配列番号28)
アンチセンス鎖siRNA:GGAAUCUUAUCCAACUUUCtt(配列番号29)
【0057】
標的配列36:AACTGTAGATGTGGTTTCTAG(配列番号30)
遺伝子配列における位置:1201
GC含有量:38.1%
センス鎖siRNA:CUGUAGAUGUGGUUUCUAGtt(配列番号31)
アンチセンス鎖siRNA:CUAGAAACCACAUCUACAGtt(配列番号32)
【0058】
標的配列40:AATTCTCCTTCGGGACCTCAA(配列番号33)
遺伝子配列における位置:1269
GC含有量:47.6%
センス鎖siRNA:UUCUCCUUCGGGACCUCAAtt(配列番号34)
アンチセンス鎖siRNA:UUGAGGUCCCGAAGGAGAAtt(配列番号35)
【0059】
標的配列47:AAAGAGAGAGAATGAATGCAG(配列番号36)
遺伝子配列における位置:1414
GC含有量:38.1%
センス鎖siRNA:AGAGAGAGAAUGAAUGCAGtt(配列番号37)
アンチセンス鎖siRNA:CUGCAUUCAUUCUCUCUCUtt(配列番号38)
【0060】
標的配列63:AAGAAGCTATGCTGCTTCCCA(配列番号39)
遺伝子配列における位置:1590
GC含有量:47.6%
センス鎖siRNA:GAAGCUAUGCUGCUUCCCAtt(配列番号40)
アンチセンス鎖siRNA:UGGGAAGCAGCAUAGCUU(配列番号41)
【0061】
標的配列70:AAATCACATCCGCCCCAACTT(配列番号42)
遺伝子配列における位置:1726
GC含有量:47.6%
センス鎖siRNA:AUCACAUCCGCCCCAACUUtt(配列番号43)
アンチセンス鎖siRNA:AAGUUGGGGCGGAUGUGAUtt(配列番号44)
【0062】
したがって、本発明により、担体と、配列番号11、配列番号14、配列番号17、配列番号20、配列番号23、配列番号26、配列番号29、配列番号32、配列番号35、配列番号38、配列番号41、または配列番号44を含むsiRNAとを含有し、そのsiRNAがSOSTの発現を調節することができることを特徴とする医薬組成物が提供される。本発明により、担体と、配列番号9、配列番号12、配列番号15、配列番号18、配列番号21、配列番号24、配列番号27、配列番号30、配列番号33、配列番号36、配列番号39、または配列番号42を含むDNAに由来するRNAにストリンジェントな条件下で選択的にハイブリダイズするsiRNAとを含有し、そのsiRNAがSOSTの発現を調節することができることを特徴とする医薬組成物も提供される。
【0063】
このようなsiRNA分子の混合物および組み合わせも本発明に含まれる。これら組成物は、本発明の方法において、例えば骨関連細胞のアポトーシスに対処するため、あるいはアポトーシスを阻止するために、あるいは骨密度の損失に対処するため、あるいはアポトーシスを阻止するために使用することができる。これら組成物は、SOSTの発現を調節する(例えば低下させる)のにも有効である。
【0064】
この明細書に記載したsiRNAは、in vivoで、あるいはin vitroで、RNAに選択的にハイブリダイズすることができる。核酸配列が、生理的条件下で、あるいはストリンジェンシーが中程度のハイブリダイゼーション条件と洗浄条件の下で、参照核酸配列に“選択的にハイブリダイズすることができる”と考えられるのは、これら2つの配列が、生理的条件下で、あるいはストリンジェンシーが中程度のハイブリダイゼーション条件と洗浄条件の下で互いに特異的にハイブリダイズするときである。いくつかの実施態様では、siRNAは生理的条件下でRNA(例えばSOSTのRNA)に選択的にハイブリダイズすることができる。生理的条件下のハイブリダイゼーションは、RNAの機能との干渉を観察することにより、実際に測定することができる。別の方法として、生理的条件下のハイブリダイゼーションは、温度(37℃)と塩に関する条件を生体内と同じにしてsiRNAのハイブリダイゼーションを調べることにより、in vitroで検出することができる。
【0065】
さらに、初期的事項として、siRNAの相互作用の特徴を明らかにするために、別のin vitroハイブリダイゼーション条件を利用することができる。in vitro条件の具体例としては、バイオラド・ラブズ社のゼータプローブ・マニュアル(バイオラド・ラブズ社、ハーキュリーズ、カリフォルニア州)に記載されているようにして実行するハイブリダイゼーション;Sambrook他、『分子クローニング:実験室マニュアル』、第2版、コールド・スプリング・ハーバー・ラボラトリー・プレス社、1989年、またはSambrook他、『分子クローニング:実験室マニュアル』、第3版、コールド・スプリング・ハーバー・ラボラトリー・プレス社、2001年に記載されている。これら文献の内容は、引用により本明細書に明示的に取り込まれているものとする。例えばハイブリダイゼーションを1mMのEDTA、0.25MのNa2HPO4、7%SDSの中で42℃にて実行した後、42℃にて、1mMのEDTA、40mMのNaPO4、5%SDSの中と、1mMのEDTA、40mMのNaPO4、1%SDSの中で洗浄する。ハイブリダイゼーションを1mMのEDTA、0.25MのNa2HPO4、7%SDSの中で60℃にて実行した後、1mMのEDTA、40mMのNaPO4、5%SDSの中と、1mMのEDTA、40mMのNaPO4、1%SDSの中で洗浄することもできる。洗浄は、別の温度で実施することもできる。例えば37℃〜65℃、42℃〜65℃、37℃〜60℃、50℃〜65℃、37℃〜55℃の温度範囲、あるいは他の同様の温度範囲で実施することができる。
【0066】
本発明の組成物と方法で使用するsiRNAは、in vivoまたはin vitroで合成することができる。いくつかの実施態様では、当業者が利用できる方法、試薬、合成装置を用いてsiRNA分子はin vitroで合成される。細胞内に存在する内在性RNAポリメラーゼが生体内における転写を実現する。あるいはクローニングされたRNAポリメラーゼを用いてin invoまたはin vitroで転写を行なわせることができる。in vivoで導入遺伝子または発現構築物から転写させるためには、調節領域を利用してsiRNA鎖の転写を行なうことができる。
使用する個々の配列が何であるか、および、供給する二本鎖siRNA材料の量がどれだけであるかに応じ、本発明の組成物と方法により、標的遺伝子(SOST)の機能を部分的に失わせるか完全に失わせるかを決めることができる。少なくとも99%の標的細胞において遺伝子の発現が低下または消失することが、他の遺伝子で示されている。例えばアメリカ合衆国特許第6,506,559号を参照のこと。注入する材料をより少なくし、選択したsiRNAを投与してからの時間をより長くすると、抑制される細胞の割合をより少なくすることができる。
【0067】
siRNAは、重合したリボヌクレオチド鎖を1本以上含んでいてよく、リン酸-糖骨格またはヌクレオシドに対する修飾を含んでいてもよい。二本鎖siRNA構造は、単一の自己相補的RNA鎖から、あるいは相補的な2本のRNA鎖から形成することができる。二本鎖siRNAの形成は、細胞の中または外で開始させることができる。siRNAは、細胞1個につき少なくとも1つのコピーが供給されるような量を導入するとよい。二本鎖材料を多く投与するほど、抑制効果を大きくすることができる。
RNAの二本鎖領域に対応するヌクレオチド配列が遺伝子抑制の標的となるという意味で、抑制は配列特異的である。抑制には、標的遺伝子の一部と一致するヌクレオチド配列を含むsiRNAが好ましい。しかし標的配列に挿入、欠失、点突然変異があるsiRNA配列も、抑制効果を持つことがわかっている。例えば配列の一致は、従来技術で公知のアラインメント・アルゴリズムを用いてヌクレオチド配列間の違いの割合を計算することによって最適化できる。別の方法として、RNAの二本鎖領域を、標的遺伝子の転写物の一部とハイブリダイズできるヌクレオチド配列として機能的に定義することもできる。
【0068】
siRNAは、細胞の中(すなわち細胞内)に直接導入すること、生物の細胞外の腔、間隙、循環系に導入すること、経口的に導入すること、siRNAを含む溶液の中に生物を浸すことによって導入することができる。経口的な導入方法としては、siRNAをその生物にとっての食物と直接混合する方法や、食物として利用される種に遺伝子操作でsiRNAを発現させた後、効果を与えようとする生物にその食物を食べさせるという方法がある。核酸を導入する物理的方法としては、細胞内に直接注入する方法や、siRNA溶液を生物の細胞外に注入する方法がある。
siRNAは、従来技術で利用可能なトランスフェクション剤(例えばリポフェクトアミン)またはウイルス供給ベクター(例えばレンチウイルスからのもの)を用いてin vitroで培養細胞にデリバリーすることができる。このようなin vitroデリバリー、テストまたは治療を目的として行なうことができる。例えば患者からの細胞をin vitroで処理した後、その細胞を患者に再び投与することができる。
siRNAを用いることの利点としては、二本鎖siRNAを細胞に容易に導入できること、使用できるsiRNAの濃度が低いこと、二本鎖siRNAが安定であること、抑制が効果的であることなどが挙げられる。低濃度の天然核酸を使用できると、アンチセンス干渉のいくつかの欠点が避けられる。
【0069】
スクレロスチンのアンタゴニストまたはアゴニストも、スクレロスチンと相互作用してスクレロスチンの活性を調節する共因子(例えばタンパク質、ペプチド、炭水化物、脂質、小分子量の分子)になることができる。スクレロスチンを調節するための薬剤として考えられる他の分子としては、スクレロスチンを標的とする抗体や、構造が骨形成因子に似ているために骨形成因子に結合してスクレロスチンと不活性な複合体を形成する化合物またはペプチドなどが挙げられる。ポリペプチドの潜在的なアンタゴニストとしては、スクレロスチンと反応する抗体が挙げられる。
【0070】
本明細書に記載されるように、スクレロスチンは、骨の石灰化に関わる中心的な細胞型である成熟骨芽細胞の形成調節に関与する。骨の石灰化の速度が低下すると、骨減少症と総称されるさまざまな骨疾患(例えば骨粗鬆症、骨髄炎、高カルシウム血症、手術またはステロイド投与によって起こる骨減少症、パジェット病、骨壊死、関節リウマチによる骨の損失)になったり;歯周の骨損失、固定化、プロテーゼの緩み、骨溶解性転移が起こったりする可能性がある。
【0071】
本発明によれば、スクレロスチンの機能を調節する薬剤、またはSOSTの発現を調節する薬剤を用いてこれらの疾患すべてを治療することができる。好ましくは、SOST/スクレロスチンのアンタゴニスト、すなわちSOSTまたはスクレロスチンの機能を低下させる薬剤を用い、骨粗鬆症、脆弱な骨の問題、ならびに骨密度が不十分であることによる関連疾患が治療される。
逆に、骨の石灰化が増大すると、骨密度が過剰であることを特徴とする大理石骨病になる可能性がある。本発明によれば、スクレロスチンを用いて骨密度が過剰であることを特徴とする疾患を治療することができる。このタイプの最も一般的な疾患は、遺伝子の欠陥によって骨の重量が増大し、通常は数年のうちに生命が脅かされる大理石骨病である。好ましくは、大理石骨病はスクレロスチンの投与によって治療される。
【0072】
骨の石灰化の速度が不十分であるなどの骨疾患を治療または予防する方法には、その骨疾患を患っている哺乳動物にSOSTを調節することのできる薬剤(例えばSOSTのアンタゴニスト)を投与することが含まれる。この明細書に記載した任意の薬剤またはアンタゴニスト、あるいはこの明細書に記載した方法によって単離される任意の薬剤またはアンタゴニストを投与することができる。石灰化が減少することを含むあらゆる骨疾患は、これらの方法を利用して治療または予防することができる。
過剰な骨密度などの骨疾患を治療または予防する方法には、その骨疾患を患っている哺乳動物に対し、治療に有効な量のスクレロスチンを投与することが含まれる。哺乳動物のスクレロスチン・ポリペプチド(例えばこの明細書に記載したもの)のうちで利用可能な任意のものを投与して過剰な骨密度を治療または予防することができる。
【0073】
SOST/スクレロスチンを調節することのできる薬剤の単離方法
本発明により、骨疾患を治療するための治療薬を製造または同定するのに役立つスクリーニング法が提供される。特に、この明細書で同定されたSOST核酸とスクレロスチン・タンパク質を、SOSTおよび/またはスクレロスチンを検出するためのさまざまなアッセイや、SOST核酸またはスクレロスチン・タンパク質と相互作用する因子を同定するためのさまざまなアッセイで使用することができる。
一般に、スクレロスチンを同定するためのアッセイには、スクレロスチンがレポータ分子に結合できる条件下でテスト・サンプルをインキュベーションし、結合の程度を測定する工程が含まれる。レポータ分子としては、スクレロスチンに安定に結合し、しかも検出が可能な任意の分子が可能である。レポータ分子としては、例えば放射性同位元素(125I、32P、35S、3H)で標識した抗スクレロスチン抗体、蛍光染料(フルオレセイン、ローダミン)、酵素などが可能である。レポータ分子は、使用する検出システムに合わせて選択される。
【0074】
スクレロスチンは、精製してもよいし、混合物(例えば培養した細胞、組織サンプル、体液、培地)の中に存在していてもよい。定性アッセイまたは定量アッセイを開発することができる。後者は、スクレロスチンに対するレポータ分子の結合パラメータ(親和定数やキネティクス)を測定したり、混合物中のスクレロスチンのレベルを定量したりするのに役立つ。アッセイを利用してスクレロスチンの断片、類似体、誘導体を検出したり、新しいスクレロスチン・ファミリーのメンバーを同定したりすることもできる。
結合アッセイはいくつかの形式で実行することができる。例えば、細胞をベースとした結合アッセイ、溶液相アッセイ、イムノアッセイなどがある。一般に、テストするサンプルまたは化合物をスクレロスチン・テスト・サンプルとともに所定の時間インキュベーションした後、顕微鏡、蛍光測定、シンチレーション・カウンタ、あるいは利用可能な任意のイムノアッセイを用いてレポータ分子を測定する。結合は、競合ラジオイムノアッセイにおいてスクレロスチンを標識することによって検出することもできる。別の方法として、スクレロスチンを標識していないエピトープ・タグ(例えばビオチン、ペプチド、His6、フラグ、mycなど)で修飾し、上記のような検出可能な標識を有するストレプトアビジン、抗ペプチド、抗タンパク質抗体などのタンパク質と結合させることもできる。エピトープ・タグを含むスクレロスチンの別の形態を溶液やイムノアッセイで利用することができる。
【0075】
スクレロスチンと相互作用する化合物または分子の同定方法も本発明に含まれる。一般に、スクレロスチンと相互作用する化合物または分子を同定するためのアッセイは、その化合物または分子がスクレロスチンと結合できる条件下で、スクレロスチンを、その化合物または分子を含んでいる可能性のあるテスト・サンプルとともにインキュベーションし、結合が起こったかどうかを検出する工程を含んでいる。スクレロスチンは、精製してもよいし、混合物(例えば培養した細胞、組織サンプル、体液、培地)の中に存在していてもよい。定性アッセイまたは定量アッセイを開発することができる。定量アッセイは、スクレロスチンに対するレポータ分子の結合パラメータ(親和定数やキネティクス)を測定したり、混合物中の生物学的に活性な化合物や分子のレベルを定量したりするのに役立つ。アッセイを利用して、スクレロスチンの断片、類似体、誘導体に対する化合物または分子の結合を評価したり、新しいスクレロスチン・ファミリーのメンバーを同定したりすることもできる。
テスト・サンプル中の化合物または分子は、実質的に精製されていてもよいし、粗混合物中に存在していてもよい。結合する化合物または分子としては、核酸、タンパク質、ペプチド、炭水化物、脂質、小分子量の有機化合物などが可能である。化合物または分子についてはさらに、アゴニストまたはアンタゴニストとして作用するかどうかを明らかにするため、スクレロスチンの活性を増大または低下させる能力を調べることもできる。
【0076】
本発明の別の実施態様は、スクレロスチンに関係したアポトーシス活性を調節することのできる薬剤の同定方法に関する。この方法は、細胞にスクレロスチンとテスト薬剤の両方を接触させ、テスト薬剤が細胞のアポトーシスを阻止するかどうかを調べることを含んでいる。スクレロスチンとテスト薬剤の両方で処理した細胞におけるアポトーシスの量を、スクレロスチンだけで処理した細胞におけるアポトーシスの量と比較することができる。アポトーシスのレベルを測定するため、細胞生存アッセイとアポトーシス・アッセイを行なうことができる。当業者には多数の細胞生存アッセイが知られており、そのうちの任意のものを利用することができる。例えばプロメガ社のCellTiterGloルミネセンス生存アッセイを利用して細胞の生存率を調べることができる。アポトーシスは、利用可能な多数のアポトーシス・アッセイのうちの任意のものを用いて検出することができる。例えば均質カスパーゼELISA(ロッシュ社)または細胞死アッセイ(ヒストン関連DNAの断片化、ロッシュ社)を利用することができる。アポトーシスは、ロッシュ社のインサイチュ細胞死検出キットを用いたTUNEL染色によって検出することもできる。
【0077】
SOST核酸は、SOSTプロモータと相互作用してSOSTの発現を調節する因子を同定するのにも役立つ。そのような因子としては、細胞内タンパク質があり得る。具体的には、SOSTの転写を制御する調節配列(例えばSOSTプロモータ)と相互作用するDNA結合タンパク質が挙げられる。一例として、マーカー・タンパク質をコードしている核酸と、SOSTプロモータをコードしている核酸が融合したものを含むハイブリッド構築物を用いることができる。SOSTプロモータは、配列番号1に見ることができる。使用するプロモータは、例えば配列番号4の配列を有することができる。
マーカー・タンパク質としては、当業者が入手できる任意のマーカー・タンパク質が可能である。マーカー・タンパク質は、例えばルシフェラーゼ、グリーン蛍光タンパク質(GFP)、CATにすることができる。
【0078】
このような構築物はSOSTの発現を調節する因子を同定するためにin vitro転写アッセイまたはin vivo転写アッセイで使用される。SOSTの発現を抑制または低下させる因子が特に役に立つ。発現または転写のレベルは、RNAのレベルを測定するために当業者が利用できる任意の方法を用いて評価することができる。RNAのレベルは、例えばノーザン分析法、逆転写酵素分析法、逆転写ポリメラーゼ連鎖反応(RT-PCR)分析法、あるいはこれら以外の方法によって評価することができる。化合物ライブラリをこのような方法を利用してスクリーニングし、SOSTの転写を阻止する小分子化合物を見いだすことができる。
【0079】
スクレロスチンは、骨の石灰化に関わる中心的な細胞である成熟骨芽細胞の形成調節に関与する。スクレロスチンによって誘導される石灰化の低下を妨げる因子は、スクレロスチンに曝露した骨芽細胞培養物の中で、テスト薬剤が石灰化を増大させるかどうかを観察することによって同定することができる。したがってアッセイは、骨芽細胞にスクレロスチンとテスト薬剤の両方を接触させ、スクレロスチンだけと接触させた同様の細胞と比較して細胞の石灰化が増大するかどうかを観察することを含んでいる。
当業者にとって、この明細書に記載した方法に対する多くの変形例と変更例が存在することは明らかであろう。そのような変形例と変更例はすべて、本発明に含まれる。
【0080】
抗体
本発明により、スクレロスチンに対する抗体調製物、例えば配列番号3、配列番号6、または配列番号8の配列を有するポリペプチドに結合することのできる抗体が提供される。
すべての抗体分子は、免疫グロブリンと呼ばれる血漿タンパク質のファミリーに属する。免疫グロブリンの基本的構成ブロック(免疫グロブリンの折り畳み構造またはドメイン)は、免疫系や他の生物学的認識系の多くの分子においてさまざまな形態で使用される。典型的な免疫グロブリンは4本のポリペプチド鎖を有し、可変領域として知られる抗原結合領域と、定常領域として知られる非可変領域とを含む。
【0081】
天然の抗体と免疫グロブリンは、通常は、2本の同一の軽鎖(L鎖)と2本の同一の重鎖(H鎖)で構成された約150,000ドルトンのヘテロ四量体糖タンパク質である。それぞれの軽鎖は、1つの共有ジスルフィド結合によって重鎖に結合している。ジスルフィド結合の数は、どのアイソタイプに属する免疫グロブリンの重鎖であるかによって異なる。それぞれの重鎖と軽鎖は、鎖内に規則的に配置されたジスルフィド架橋も備えている。それぞれの重鎖は一端に可変領域(VH)を備えており、いくつかの定常領域がその後に続く。それぞれの軽鎖は一端に可変領域(VL)を備えており、他端に定常領域を1つ有する。軽鎖の定常領域は、重鎖の第1の定常領域と揃った位置にあり、軽鎖可変領域は、重鎖可変領域と揃った位置にある。特定のアミノ酸残基が軽鎖可変領域と重鎖可変領域のインターフェイスを形成すると考えられている(Clothia他、J. Mol. Biol.、第186巻、651〜666ページ、1985年;NovotnyとHaber、Proc. Natl. Acad. Sci. USA、第82巻、4592〜4596ページ、1985年)。
【0082】
重鎖の定常領域のアミノ酸配列に応じて、免疫グロブリンを異なるクラスに分類することができる。免疫グロブリンには少なくとも5つの主要なクラスがあり(IgA、IgD、IgE、IgG、IgM)、そのうちのいくつかはさらにサブクラス(アイソタイプ)に分けることができる(例えばIgG-1、IgG-2、IgG-3、IgG-4;IgA-1、IgA-2)。免疫グロブリンの異なるクラスに対応する重鎖の定常領域は、それぞれ、アルファ(α)、デルタ(δ)、イプシロン(ε)、ガンマ(γ)、ミュー(μ)と呼ばれる。抗体の軽鎖は、定常領域のアミノ酸配列に基づき、はっきりと分かれる2つのタイプ(カッパ(κ)、ラムダ(λ)と呼ばれる)の一つに分類することができる。免疫グロブリンの異なるクラスのサブユニット構造ならびに三次元構造は周知である。
【0083】
抗体の可変領域という文脈における“可変”という用語は、可変領域の所定の部分が抗体の配列同士で非常に異なっていることを意味する。可変領域は抗原との結合のために存在しており、特定の抗原に対する個々の抗体の特異性を決定している。しかし可変性は、抗体の可変領域全体を通じて均一に分布しているわけではなく、軽鎖と重鎖両方の可変領域にある相補性決定領域(CDR)と呼ばれる3つの区域に集中している。なお相補性決定領域は、超可変領域としても知られる。
【0084】
可変領域で非常によく保存されている部分は、フレームワーク(FR)と呼ばれる。天然の重鎖可変領域と軽鎖可変領域のそれぞれは4つのFR(たいていはβシート構造をとる)を含んでおり、これらFRが3つのCDRで接続されている。そのときCDRはβシート構造を互いに接続してループを形成するが、場合によってはそのループがβシート構造の一部を形成する。それぞれの鎖のCDRは、FRによって互いに近接した状態に保持され、他の鎖からのCDRとで抗体の抗原結合部位の形成に寄与する。定常領域は抗原に対する抗体の結合に直接は関与しないが、さまざまなエフェクター機能(例えば抗体依存性細胞毒性への抗体の関与)を示す。
【0085】
したがって本発明で使用する抗体はどのような形態でもよく、例えば、免疫グロブリン全体、抗体フラグメント(例えばFv、Fab)、同様のフラグメント、可変領域の相補性決定領域(CDR)を含む単鎖の抗体、同様の形態などが挙げられる。これらはすべて、本明細書では広い意味の“抗体”に含まれる。本発明では、ポリクローナル抗体であれモノクローナル抗体であれ、抗体のあらゆる特異性を利用することを考える。したがって本発明は、特定の抗原を認識して免疫反応をする抗体に限定されることはない。好ましい実施態様では、以下に説明する治療法およびスクリーニング法の両方の文脈において、本発明の抗原またはエピトープに対して免疫特異的な抗体またはそのフラグメントを用いる。
【0086】
“抗体フラグメント”という用語は、完全長抗体の一部を意味し、一般には抗原結合領域または可変領域を意味する。抗体フラグメントの具体例としては、Fabフラグメント、Fab'フラグメント、F(ab')2フラグメント、Fvフラグメントなどが挙げられる。抗体をパパインで消化すると、抗原結合部位を1つ持つFabフラグメントと呼ばれる2つの同一の抗原結合フラグメントと、残りの“Fc”フラグメントが生成する。なおFcフラグメントは、容易に結晶化するためそのように呼ばれる。ペプシンで処理すると、抗原と架橋できる抗原結合フラグメントを2つ持つF(ab')2フラグメントと、(pFc'と呼ばれる)残ったもう一方のフラグメントが生成する。さらに別のフラグメントとしては、二重特異性抗体、直線状抗体、単鎖抗体分子のほか、抗体フラグメントから形成された多重特異性抗体が挙げられる。本明細書では、抗体に関する“機能的フラグメント”とは、Fvフラグメント、Fabフラグメント、F(ab')2フラグメントを意味する。
【0087】
したがって本発明で考慮される抗体フラグメントは、完全長の抗体ではないが、抗スクレロスチン抗体と比べて免疫特性が似ている、あるいは改善されている。このような抗体フラグメントとしては、アミノ酸が約4個、5個、6個、7個、9個、約12個、約15個、約17個、約18個、約20個、約25個、約30個、あるいはそれ以上という小さなものが可能である。一般に、本発明の抗体フラグメントは、スクレロスチンに特異的に結合するのであればサイズの上限は任意であり、具体例として、配列番号3、6、または8の配列を有するポリペプチドが挙げられる。
【0088】
抗体フラグメントは、対応する抗原または受容体と選択的に結合する能力を幾分か保持している。抗体フラグメントのいくつかの型は、以下のように定義される。
(1)Fabは、抗体分子の1価の抗原結合フラグメントを含むフラグメントである。Fabフラグメントは、抗体全体をパパイン酵素で消化させ、インタクトな軽鎖と重鎖の一部を生じさせることによって得られる。
(2)Fab'は、抗体全体をペプシンで処理した後、還元してインタクトな軽鎖と重鎖の一部を生じさせることによって得られる抗体分子のフラグメントである。抗体分子1つにつきFab'フラグメントが2つ得られる。Fab'フラグメントは、抗体のヒンジ部からの1個以上のシステインを含む重鎖CH1ドメインのいくつかの残基がカルボキシル末端に付加されている点でFabフラグメントと異なる。
(3)F(ab)2は、抗体全体をペプシン酵素で処理した後、還元を行なわずに得られる抗体フラグメントである。F(ab')2は、2つのFab'フラグメントが2つのジスルフィド結合によって結合した二量体である。
(4)Fvは、完全な抗原認識部位および抗原結合部位を含む最小の抗体フラグメントである。この領域は、1つの重鎖可変領域と1つの軽鎖可変領域が堅固な非共有結合で結合した二量体である(VH-VL二量体)。各可変領域の3つのCDRが相互作用してVH-VL二量体の表面に抗原結合部位を規定するのは、この配置になったときである。6つのCDRが一緒になって、抗体に対する抗原結合特異性を生じさせる。しかし可変領域が1つだけ(すなわち1つのFvの半分で、抗原に対して特異的な3つのCDRだけを含む場合)でも、抗原を認識して抗原に結合する能力を有する。もっとも、親和性は結合部位全体のときより小さくなる。
(5)単鎖抗体(“SCA”)は、遺伝子工学によって融合した単鎖分子であり、適切なポリペプチド・リンカーによって結合した軽鎖可変領域と重鎖可変領域を含む、遺伝子工学による分子として定義される。このような単鎖抗体は、“単鎖Fv”抗体フラグメントまたは“sFv”抗体フラグメントとも呼ばれる。一般に、Fvポリペプチドは、VHドメインとVLドメインの間に、抗原が結合する上で望ましい構造をsFvが形成するためのポリペプチド・リンカーをさらに備えている。sFvの概説に関しては、『モノクローナル抗体の薬理学』、第113巻、RosenburgとMoore編、シュプリンガー-フェアラーク社、ニューヨーク、1994年の中のPluckthunによる269〜315ページを参照のこと。
【0089】
“二重特異性抗体”という用語は、抗原結合部位を2つ有する小さな抗体フラグメントを意味する。このフラグメントは、同じポリペプチド鎖中に、軽鎖可変領域(VL)に結合した重鎖可変領域(VH)を含んでいる(VH-VL)。同じ鎖上のこれら2つのドメインが対合するには短かすぎるリンカーを用いることにより、これらドメインを別の鎖の相補的ドメインと強制的に対合させ、2つの抗原結合部位を作り出す。二重特異性抗体については、例えばヨーロッパ特許第404,097号;WO 93/11161;Hollinger他、Proc. Natl. Acad. Sci. USA、第90巻、6444〜6448ページ、1993年にさらに詳しく記載されている。
【0090】
ポリクローナル抗体の調製法は当業者に周知である。例えば『免疫化学のプロトコル』(Manson編)のGreen他、「ポリクローナル抗血清の産生」、1〜5ページ(ヒューマナ・プレス社);『免疫学の最新プロトコル』(1992年)のセクション2.4.1、Coligan他、「ウサギ、ラット、マウス、ハムスターにおけるポリクローナル抗血清の産生」を参照のこと。なおこれらの文献は、引用により本明細書に組み込まれているものとする。
モノクローナル抗体の調製法も、同様に従来から知られている。例えばKohlerとMilstein、Nature、第256巻、495ページ、1975年;Coligan他、上記文献、セクション2.5.1〜2.6.7;『抗体:実験室マニュアル』(コールド・スプリング・ハーバー・パブリケーション、1988年)のHarlow他による726ページを参照のこと。なおこれらの文献は、参考としてこの明細書に組み込まれているものとする。モノクローナル抗体は、確立されたさまざまな方法によってハイブリドーマ培養物から単離して精製することができる。そのような単離技術としては、プロテインA・セファロースを用いたアフィニティ・クロマトグラフィ、サイズ排除クロマトグラフィ、イオン交換クロマトグラフィなどが挙げられる。例えばColigan他、上記文献、セクション2.7.1〜2.7.12とセクション2.9.1〜2.9.3;『分子生物学における方法』、第10巻のBarnes他、「免疫グロブリンG(IgG)」、79〜104ページ、(ヒューマナ・プレス社、1992年)を参照のこと。
【0091】
モノクローナル抗体をin vitroおよびin vivoで操作する方法も当業者には公知である。例えば本発明で使用するモノクローナル抗体は、KohlerとMilstein、Nature、第256巻、495ページ、1975年に最初に報告されたハイブリドーマ法で作ること、あるいは例えばアメリカ合衆国特許第4,816,567号に記載されている組み換え法で作ることができる。本発明で使用するモノクローナル抗体は、Clackson他、Nature、第352巻、624〜628ページ、1991年とMarks他、J. Mol. Biol.、第222巻、581〜597ページ、1991年に記載されている方法を利用して抗体ライブラリから単離することもできる。別の方法は、組み換え手段を用いてモノクローナル抗体をヒト化し、認識可能なヒト特異的配列を含む抗体を生成させることを含んでいる。概説としては、Holmes他、J. Immunol.、第158巻、2192〜2201ページ、1997年;Vaswani他、Annals Allergy, Asthma & Immunol.、第81巻、105〜115ページ、1998年を参照のこと。
【0092】
本明細書では、“モノクローナル抗体”という用語は、実質的に均一な抗体の集団から得られる抗体を意味する。すなわちこの集団に含まれる個々の抗体は、自然に発生してわずかな量が存在している可能性のある突然変異を除いて同一である。モノクローナル抗体は非常に特異的であり、単一の抗原部位に向かう。さらに、それぞれのモノクローナル抗体は、さまざまな決定基(エピトープ)に向かうさまざまな抗体を一般に含んでいる従来のポリクローナル抗体調製物とは異なり、抗原上の単一の決定基に向かう。モノクローナル抗体は、その特異性以外にも、ハイブリドーマ培養によって合成でき、他の免疫グロブリンで汚染されていないという利点を有する。“モノクローナル”という修飾語は、抗体が実質的に均一な抗体の集団から得られることを意味しており、抗体を何らかの特定の方法で調製する必要があると解釈してはならない。
【0093】
本明細書において、モノクローナル抗体には、特に“キメラ”抗体(免疫グロブリン)と、所望の生物活性を示す限りその抗体フラグメントが含まれる。なおキメラ抗体とは、その抗体の重鎖および/または軽鎖の一部が、特定の種、あるいは特定のクラスまたはサブクラスに属する抗体に由来する抗体の対応する配列と同じであるか似ており、その鎖の残りの部分が、別の種、あるいは別のクラスまたはサブクラスに属する抗体に由来する抗体の対応する配列と同じであるか似ているものである((アメリカ合衆国特許第4,816,567号);Morrison他、Proc. Natl. Acad. Sci. USA、第81巻、6851〜6855ページ、1984年)。
【0094】
抗体フラグメントを作る方法も従来技術において公知である(例えば『抗体:実験室マニュアル』(コールド・スプリング・ハーバー・ラボラトリー、1988年)のHarlowとLaneによる項を参照のこと。この文献は本明細書に引用により組み込まれているものとする)。本発明による抗体フラグメントは、抗体のタンパク質を加水分解することによって、あるいは大腸菌の中でそのフラグメントをコードしているDNAを発現させることによって、調製することが可能である。抗体フラグメントは、抗体の全体をペプシンまたはパパインで消化させるという従来法で得ることもできる。例えば抗体フラグメントは、抗体をペプシンという酵素で開裂させ、F(ab')2と表記される5Sフラグメントを生成させることによって得られる。チオール還元剤を用い、それに加え、ジスルフィド結合が開裂することによって生じるスルフヒドリル基に対するブロック基を必要に応じて用いてこのフラグメントをさらに開裂させ、1価の3.5S Fab'フラグメントを生成させることができる。別の方法として、ペプシンという酵素を用いて開裂させると、1価のFab'フラグメントが2個とFcフラグメントが1個、直接に得られる。これらの方法は、例えばアメリカ合衆国特許第4,036,945号、第4,331,647号と、これら特許文献に含まれる参考文献に記載されている。これら特許文献は、その全体がこの明細書に引用により組み込まれているものとする。
【0095】
インタクトな抗体によって認識される抗原にフラグメントが結合する限り、抗体を開裂させる別の方法利用することができる。例えば、重鎖を分離して1価の軽鎖-重鎖フラグメントを形成する方法、フラグメントをさらに開裂させる方法、他の酵素法、化学法、遺伝子技術などがある。例えばFvフラグメントは、互いに結合したVH鎖とVL鎖を含んでいる。この結合は非共有結合でもよく、可変鎖は、分子間のジスルフィド結合によって結合させたり、グルタルアルデヒドなどの化学物質で架橋させたりすることができる。Fvフラグメントは、ペプチド・リンカーで互いに結合したVH鎖とVL鎖を含んでいることが好ましい。このような単鎖の抗原結合タンパク質(sFv)は、オリゴヌクレオチドで互いに接続されたVHドメインとVLドメインをコードしているDNA配列を含む構造遺伝子を構成することによって調製する。この構造遺伝子を発現ベクターに挿入した後、その発現ベクターを宿主細胞(例えば大腸菌)に導入する。組み換え宿主細胞は、ペプチド・リンカーが2つのVドメインを架橋している単一のポリペプチド鎖を合成する。sFvsの製造方法は、例えば『方法:酵素学における方法の手引き』、第2巻、1991年のWhitlow他による97ページ;Bird他、Science、第242巻、423〜426ページ、1988年;Ladner他、アメリカ合衆国特許第4,946,778号;Pack他、Bio/Technology、第11巻、1271〜1277ページ、1993年に記載されている。
抗体フラグメントの別の形態は、単一の相補性決定領域(CDR)をコードしているペプチドである。CDRペプチド(“最小認識単位”)は、興味の対象である抗体のCDRをコードする遺伝子を構成することによって得られる。そのような遺伝子は、例えばポリメラーゼ連鎖反応を利用して抗体産生細胞のRNAから可変領域を合成することによって調製する。例えば『方法:酵素学における方法の手引き』、第2巻、1991年のLarrick他による106ページを参照のこと。
【0096】
本発明ではさらに、ヒト抗体と、非ヒト抗体(例えば囓歯類の抗体)をヒト化した抗体を考える。そのようなヒト化抗体は、非ヒト免疫グロブリンに由来する最小配列を含むキメラ免疫グロブリン、免疫グロブリン鎖、あるいはそのフラグメント(Fv、Fab、Fab'、F(ab')2、あるいは抗体におけるこれら以外の抗原結合サブ配列)である。通常、ヒト化抗体は、ヒト免疫グロブリン(レシピエントの抗体)であって、そのレシピエントの相補性決定領域(CDR)の残基が、マウス、ラット、ウサギなどの非ヒト種(ドナーの抗体)のCDRのうちで望む特異性、親和性、能力を有するものの残基で置換されたものである。
【0097】
場合によっては、ヒト免疫グロブリンのFvフレームワークの残基が対応する非ヒト残基で置換される。さらに、ヒト化抗体は、レシピエントの抗体にも見られず、導入されたCDR配列またはフレームワーク配列にも見られない残基を含んでいてもよい。このような修飾は、抗体の性能をさらに洗練させ、最適化するために行われる。一般に、ヒト化抗体は、可変領域中のすべてのCDR部または実質的にすべてのCDR部が非ヒト免疫グロブリンのCDR部に対応しており、すべてのFv部または実質的にすべてのFv部がヒト免疫グロブリンのコンセンサス配列になっている、少なくとも1つの(一般には2つの)可変領域の実質的に全体を含むことができる。ヒト化抗体は、免疫グロブリン(一般にはヒト免疫グロブリン)の定常領域(Fc)の少なくとも一部も含んでいることが好ましい。さらに詳しいことについては、Jones他、Nature、第321巻、522〜525ページ、1986年;Reichmann他、Nature、第332巻、323〜329ページ、1988年;Presta、Curr. Op. Struct. Biol.、第2巻、593〜596ページ、1992年;Holmes他、J. Immunol.、第158巻、2192〜2201ページ;Vaswani他、Annals Allergy, Asthma & Immunol.、第81巻、105〜115ページ、1998年を参照のこと。
【0098】
本発明により、抗体を突然変異させ、親和性、選択性、結合強度のほか、他の望ましい特性を最適化する方法も提供される。変異抗体とは、ある抗体のアミノ酸配列変異体を意味する。一般に、変異抗体では、参照抗体に存在しているアミノ酸残基と1個以上のアミノ酸残基が異なっている。このような変異抗体では、参照アミノ酸配列との一致または類似性が必然的に100%未満になる。一般に、変異抗体では、参照抗体の重鎖可変領域または軽鎖可変領域のアミノ酸配列との一致または類似性は少なくとも75%である。変異抗体では、参照抗体の重鎖可変領域または軽鎖可変領域のアミノ酸配列との一致または類似性は少なくとも80%であることが好ましく、少なくとも85%であることがさらに好ましく、少なくとも90%であることがより一層好ましく、少なくとも95%であることが最も好ましい。抗体を突然変異させる1つの方法は、ファージの提示を利用した親和性成熟である。
したがって本発明は、望ましい性質を有する抗体および/または抗体フラグメント、または抗体ポリペプチドを選択する方法に関する。望ましい性質としては、本発明のエピトープに対する結合親和性または選択性が増大していることが挙げられる。
【0099】
本発明の抗体および抗体フラグメントは、単離された抗体および抗体フラグメントである。単離された抗体とは、抗体を作り出した環境の一成分から同定、および/または分離、および/または回収された抗体である。この生成環境の汚染成分は、診断または治療において抗体としての利用を邪魔する物質であり、その具体例として、酵素、ホルモン、あるいはそれ以外のタンパク質性溶質または非タンパク質性溶質などが挙げられる。“単離された抗体”という用語には、組み換え細胞内の抗体も含まれる。というのは、抗体の天然環境の少なくとも1つの成分は決して存在しないからである。しかし通常は、単離された抗体は少なくとも1つの精製ステップによって調製されるであろう。
【0100】
所望であれば、利用可能な任意の方法で本発明の抗体を精製することができる。例えば抗体は、抗体生成に使用する抗原が結合する固体支持体に抗体調製物を結合させるという親和性精製法によって精製することができる。汚染物質を洗い流した後、抗体を公知の方法で溶離することができる。当業者であれば、ポリクローナル抗体とモノクローナル抗体の精製および/または濃縮に関し、免疫学において一般的なさまざまな方法を知っているであろう(例えばColigan他、ユニット9、『免疫学における最新プロトコル』、ワイリー・インターサイエンス、1991引用によりこの明細書に組み込まれているものとする)。
【0101】
好ましい実施態様では、抗体は、少なくとも3つの異なった方法によって精製度が測定でき、以下の程度まで精製される。すなわち、1)ローリー法によって95質量%を超える程度まで、もっとも好ましくは99%を越える程度まで;あるいは2)スピンニング・カップ・シークエンテイタを用い、N末端または内部アミノ酸配列の少なくとも15残基が得られる程度まで;あるいは3)還元条件下または非還元条件下でクーマシー・ブルーまたは銀染色、好ましくは銀染色を利用し、SDS-PAGEで均一になるまで。
【0102】
組成物
本発明によるスクレロスチンのアンタゴニストとそれ以外の薬剤(例えばスクレロスチン・タンパク質やSOST核酸)を投与し、骨の異常、徴候、疾患に付随する少なくとも1つの症状を軽減する。なおスクレロスチンのアンタゴニストとそれ以外の薬剤には、その塩も含まれる。
望む効果を得るために、スクレロスチンのアンタゴニストとそれ以外の薬剤を、単一用量で、あるいは分割した用量で投与することができる。例えば体重1kgにつき、少なくとも約0.01mgから約500〜750mg、少なくとも約0.01mgから約300〜500mg、少なくとも約0.1mgから約100〜300mg、少なくとも約1mgから約50〜100mgを投与する。しかし他の投与量でも有効な結果が得られる可能性がある。投与量は、選択したスクレロスチンのアンタゴニストまたはそれ以外の薬剤が何であるか;哺乳動物の疾患、体重、身体の状態、健康状態、年齢;行なうのが予防なのか治療なのか;スクレロスチンのアンタゴニストとそれ以外の薬剤が修飾されているかどうかなど(これらに限定されない)、さまざまな因子に応じて変動するであろう。このような因子は、医師が、モデル動物または従来技術において公知の他のテスト・システムを利用して容易に明らかにすることができよう。
【0103】
本発明の治療薬は、例えば患者の生理的状態、投与の目的が治療であるのか予防であるのか、当業者に公知の他の因子等に応じ、1回で投与すること、多数回に分けて投与すること、連続的または間欠的に投与することができる。本発明による治療薬の投与は、あらかじめ決めた期間にわたって基本的に連続的に行なうこと、あるいは間隔を空けて一連の投与を行なうことができる。局所投与と全身投与の両方が考えられる。
本組成物を調製するには、治療薬を合成し、あるいは他の方法で入手し、必要に応じて精製した後、凍結乾燥させて安定化させる。次にこの治療薬を適切な濃度に調節し、必要に応じて他の薬剤と組み合わせる。単位投与量に含まれる所定の治療薬の絶対重量はさまざまな値が可能である。本発明による少なくとも1つの治療薬、あるいは複数の治療薬を、例えば約0.01〜約2g、あるいは約0.1〜約500mg投与することができる。あるいは単位投与量は、約0.01g〜約50g、約0.01g〜約35g、約0.1g〜約25g、約0.5g〜約12g、約0.5g〜約8g、約0.5g〜約4g、約0.5g〜約2gの範囲にすることもできる。
【0104】
本発明による治療薬の1日の投与量も同様にさまざまな値が可能である。1日の投与量は、例えば、約0.1g〜約50g、約0.1g〜約25g、約0.1g〜約12g、約0.5g〜約8g、約0.5g〜約4g、約0.5g〜約2gの範囲にすることができる。
本発明の治療薬を含む1つ以上の適切な単位投与量の形態は、さまざまな投与経路を通じて投与することができる。投与経路としては、経口、非経口(皮下、静脈内、筋肉内、腹腔内など)、直腸、皮膚、経皮、胸腔内、肺内、鼻腔内(呼吸経路)などがある。この治療薬は、持続放出用製剤にすることもできる(例えばマイクロカプセル化する。WO 94/07529とアメリカ合衆国特許第4,962,091号を参照のこと)。製剤は、独立した単位投与量の形態にすると便利である。製剤は、薬理学においてよく知られている任意の方法で調製することができる。そのような方法には、治療薬を液体担体、固体マトリックス、半固体担体、細かく分割した固体担体、あるいはこれらの組み合わせと混合した後、必要に応じてそのでき上がった製品を望むデリバリー・システムに導入する、あるいは望むデリバリー・システム用に成形することが含まれる。
【0105】
本発明の治療薬を経口投与の形態にする場合には、一般に製薬的に許容可能な担体、希釈剤、添加剤と組み合わせ、医薬製剤または単位投与量の形態にする。経口投与するには、治療薬を、粉末、粒状製剤、溶液、懸濁液、エマルジョンのほか、活性成分がチューインガムから摂取されるようにするための天然または合成のポリマーまたは樹脂の形態にすることができる。治療薬は、ボーラス、舐剤、ペーストの形態にすることもできる。経口投与される本発明の治療薬は、持続放出用製剤にすることもできる(例えば治療薬をコーティングする、マイクロカプセル化する、持続デリバリー装置内に配置する)。このような製剤の内部には、活性成分が合計で製剤の0.1〜99.9質量%含まれている。
“製薬的に許容可能な”とは、製剤の他の成分と共存可能であり、この製剤を摂取する患者にとって害がない担体、希釈剤、添加剤および/または塩を意味する。
【0106】
本発明の治療薬を含む医薬製剤は、従来技術においてよく知られている手続きと容易に入手できる成分とを用いて調製することができる。例えば治療薬は、一般的な添加剤、希釈剤、担体を用いて製剤化することができる。その結果、錠剤、カプセル、溶液、懸濁液、粉末、エーロゾルなどにすることができる。このような製剤に適した添加剤、希釈剤、担体は、例えば緩衝溶液、充填剤、増量剤であり、具体例として、デンプン、セルロース、糖、マンニトール、ケイ酸誘導体などが挙げられる。結合剤も含めることができる。結合剤としては、例えばカルボキシメチルセルロース、ヒドロキシメチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、他のセルロース誘導体、アルギン酸塩、ゼラチン、ポリビニル-ピロリドンがある。湿潤剤も含めることができる。湿潤剤としては、例えばグリコール、分解剤(炭酸カルシウム、炭酸水素ナトリウムなど)がある。パラフィンなどの溶解遅延剤も含めることができる。第四級アンモニウム化合物などの再吸収促進剤も含めることができる。セチルアルコールやモノステアリン酸アルコールなどの界面活性剤も含めることができる。カオリンやベントナイトなどの吸着担体も添加することができる。潤滑剤も含めることができる。潤滑剤としては、例えばタルク、ステアリン酸カルシウム、ステアリン酸マグネシウム、固体ポリエチルグリコールがある。保存剤も添加してよい。本発明の組成物は、セルロースおよび/またはセルロース誘導体などの増粘剤も含むことができる。本発明の組成物は、ゴム(キサンタンゴム、グアルゴム、カルボゴム、アラビアゴムなど)、ポリエチレングリコール、ベントン、モンモリロナイトなども含むことができる。
【0107】
例えば本発明の治療薬を含む錠剤またはカプレットは、緩衝剤として、炭酸カルシウム、酸化マグネシウム、炭酸マグネシウムなどを含むことができる。錠剤とカプレットは、不活性成分として、セルロース、あらかじめゼラチン化させたデンプン、二酸化ケイ素、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ステアリン酸マグネシウム、微結晶セルロース、デンプン、タルク、二酸化チタン、安息香酸、クエン酸、コーンスターチ、鉱物油、ポリプロピレングリコール、リン酸ナトリウム、ステアリン酸亜鉛なども含むことができる。本発明による少なくとも1種類の治療薬を含む硬いゼラチンまたは柔らかいゼラチンからなるカプセルは、不活性成分として、ゼラチン、微結晶セルロース、ラウリル硫酸ナトリウム、デンプン、タルク、二酸化チタンなどと、液体ビヒクルとして例えばポリエチレングリコール(PEG)、植物油を含むことができる。さらに、本発明による1種類以上の治療薬を含む腸溶コーティングされたカプレットまたは錠剤は、胃での分解に抵抗し、十二指腸におけるより中性からアルカリ性の環境で溶けるように設計されている。
【0108】
本発明の治療薬は、経口投与に適するようにエリキシルまたは溶液にすること、あるいは非経口投与(例えば筋肉内投与、皮下投与、腹腔内投与、静脈内投与)に適した溶液にすることもできる。本発明による治療薬を含む医薬製剤は、水溶液、無水溶液、分散水溶液、無水分散液の形態にすることや、エマルジョン、懸濁液、軟膏の形態にすることもできる。
したがって治療薬は、非経口投与用(例えば注入による投与用。具体的には、ボーラス注射用または連続輸液用)に製剤化し、アンプル、あらかじめ充填した注射器、少量の輸液容器、多数回投与用の容器に入れた単位投与量の形態にすることができる。すでに指摘したように、保存剤を添加して投与形態の有効期間を維持することができる。治療薬と他の成分は、油性または水性のビヒクル中の懸濁液、溶液、エマルジョンの形態にすることと、懸濁剤、安定化剤、分散剤などの製剤化剤を含むことができる。あるいは治療薬と他の成分は、滅菌固体の無菌分離によって、あるいは溶液からの凍結乾燥によって得られる粉末の形態にし、使用前に適切なビヒクル(例えば滅菌した発熱物質を含まない水)と混合することもできる。
【0109】
これらの製剤は、従来技術においてよく知られた製薬的に許容可能な担体、ビヒクル、アジュバントを含むことができる。例えば生理学的観点からして許容可能な1つ以上の有機溶媒を用いて溶液を調製することが可能である。その有機溶媒の選択は、水のほか、アセトン、エタノール、イソプロピルアルコール、グリコールエーテル(“ダワノール(Dowanol)”という名称で販売されている製品)、ポリグリコール、ポリエチレングリコール、短鎖の酸のC1〜C4アルキルエステル、乳酸エチルまたは乳酸プロピル、脂肪酸トリグリセリド(“ミグリオール(Miglyol)”という名称で販売されている製品)、ミリスチン酸イソプロピル、動物油、鉱物油、植物油、ポリシロキサンの中からなされる。
【0110】
必要な場合には、酸化防止剤、界面活性剤、他の保存剤、フィルム形成剤、角質溶解剤、コメド溶解剤、香料、フレイバー、着色剤を添加することができる。酸化防止剤として、t-ブチルヒドロキノン、ブチル化したヒドロキシアニソール、ブチル化したヒドロキシトルエン、α-トコフェロールとその誘導体を添加することができる。
本発明による1種類以上の治療薬と、1種類以上の他の成分を含む組み合わせ製品も考えられる。この組成物は、例えばビタミン、ミネラル(例えばカルシウム)、抗炎症薬などを含むことができる。
さらに、本発明の治療薬は、持続放出投与形態などに製剤化するのに非常に適している。このように製剤化すると、治療薬が、おそらくある期間にわたって例えば腸または気道の特定の部分に放出される。例えばポリマー材料(ポリラクチド-グリコレートなど)、リポソーム、マイクロエマルジョン、微粒子、ナノ粒子、ろうを利用し、コーティング、エンベロープ、保護マトリックスを施すことができる。このようなコーティング、エンベロープ、保護マトリックスは、留置装置(例えば組織リモデリング装置、ピン、副子、関節代替装置など)を被覆するのに役立つ。
【0111】
局所投与に関しては、標的領域に直接塗布するため、治療薬を従来技術で知られているようにして製剤化することができる。局所投与用の主な形態は、例えばクリーム、ミルク、ゲル、分散液、マイクロエマルジョン、粘性をある程度与えたローション、浸漬させたパッド、軟膏またはスティック、エーロゾル製剤(例えばスプレーまたは泡)、石鹸、洗浄剤、石鹸ローション、ケーク状石鹸である。この目的での他の一般的な形態としては、傷口手当て用品、コーティングされた包帯あるいはそれ以外のポリマー・カバー、軟膏、クリーム、ローション、ペースト、ゼリー、スプレー、エーロゾルなどが挙げられる。したがって本発明の治療薬は、皮膚投与用のパッチまたは包帯を通じて供給することができる。別の方法として、治療薬は、接着性ポリマー(ポリアクリレート、アクリレート/酢酸ビニル・コポリマーなど)の一部となるように製剤化することもできる。長期にわたる塗布のためには、微小孔性および/または通気性の補強用ラミネートを使用することが望ましかろう。すると皮膚の水化または軟化を最少にすることができる。補強層は、所望の保護機能および支持機能を得るのに適した任意の厚さにすることができる。適切な厚さは、一般に約10〜約200ミクロンである。
【0112】
軟膏およびクリームは、例えば、適切な増粘剤および/またはゲル化剤を添加した水性ベースまたは油性ベースとともに製剤化することができる。ローションは、水性ベースまたは油性ベースとともに製剤化することができ、一般に、1種類以上の乳化剤、安定剤、分散剤、懸濁剤、増粘剤、着色剤も含んでいる。治療薬は、イオン注入法によって供給することもできる。これについては、例えばアメリカ合衆国特許第4,140,122号、第4,383,529号、第4,051,842号に記載されている。局所製剤中に存在する本発明の治療薬の質量%はさまざまな因子によって変化するが、一般に、製剤の全重量に対して0.01%〜95%であり、典型的には0.1〜85質量%である。
【0113】
滴薬(点眼薬または点鼻薬)は、1種類以上の治療薬が含まれる水性または非水性のベースを用いて製剤にすることができる。このベースには、1種類以上の分散剤、可溶化剤、懸濁剤も含まれている。液体スプレーは、一般に加圧容器から供給される。滴薬は、単純なキャップ式目薬容器から、あるいは液体を特殊な形状の出口を通じて一滴ずつ供給するのに適したプラスチック容器から供給することができる。
治療薬は、口または喉への局所投与用製剤にすることもできる。活性成分は、例えば、風味を付けたベース(通常はスクロースと、アラビアゴムまたはトラガカントゴム)を含むロゼンジの形態;不活性なベース(ゼラチンとグリセリン、あるいはスクロースとアラビアゴムなど)に本発明の組成物が含まれたトローチの形態;適切な液体担体に本発明の組成物が含まれたうがい液の形態に製剤化することができる。
【0114】
本発明の医薬製剤は、オプションの成分として、製薬的に許容可能な担体、希釈剤、可溶化剤、乳化剤や、従来から入手可能なタイプの塩を含むことができる。そのような物質の具体例として、通常の生理食塩水(緩衝生理食塩水)や水が挙げられる。本発明の医薬製剤において役に立つ担体および/または希釈剤の具体例としては、水や、緩衝生理食塩水(pHが7.0〜8.0のリン酸緩衝溶液など)が挙げられるが、これだけに限られるわけではない。
【0115】
本発明の治療薬は、気道を通じて投与することもできる。したがって本発明により、エーロゾル医薬製剤と、本発明の方法で使用される投与形態も提供される。一般に、そのような投与形態は、本発明による少なくとも1つの薬剤を、特定の感染、徴候、疾患に関する臨床症状を治療または予防するのに有効な量含んでいる。本発明の方法で治療を行なった結果として感染、徴候、疾患に関する1つ以上の臨床症状が統計的に有意な何らかの改善を示した場合は、本発明の範囲におけるそのような感染、徴候、疾患の治療であると考えられる。
【0116】
あるいは、吸入または散布による投与を行なうためには、本発明の組成物を乾燥粉末の形態(例えば治療薬と適切な粉末ベース(ラクトースまたはデンプン)を混合した粉末)にすることができる。この粉末組成物は、例えばカプセルまたはカートリッジに入れた単位投与量形態にすること、あるいはゼラチン包装またはブリスター包装にして粉末を吸入器、散布器、定量吸入器を用いて投与する形態にすることができる(例えば『エーロゾルと肺』、Clarke, S.W.とDavia, D.編、バターワースス社、ロンドン、1984年の197〜224ページにNewinan, S.P.によって記載されている加圧式定量吸入器(MDI)と乾燥粉末吸入器を参照のこと)。
【0117】
本発明の治療薬は、エーロゾルまたは吸入形態として投与する場合には、水溶液として投与することもできる。他のエーロゾル医薬製剤は、例えば治療する症状または疾患に対して有効な本発明による治療薬の1種類以上を約0.1mg/ml〜約100mg/ml含有する生理学的に許容可能な緩衝生理食塩水を含むことができる。固体状のポリペプチドまたは抗体を微細化した乾燥エーロゾル、あるいは液体に溶けたり分散したりしない細かく粉砕した粒子の形態になった乾燥エーロゾルも本発明を実施する際に役に立つ。本発明の治療薬は、細かい粉末製剤にすることができ、平均粒子サイズが約1〜5μm、あるいは2〜3μmの微細化した粒子を含んでいる。微細化した粒子は、従来技術において周知の粉末化法およびスクリーン濾過法を利用して調製することができる。微細化したこの粒子は、粉末の形態にすることが可能であり、所定量の粉末を吸入するという投与法が可能である。それぞれの投与形態について1回ごとのエーロゾル投与量に含まれる活性成分の単位量は、それだけで特定の感染、徴候、疾患を治療するのに有効な量になっている必要はないことに注意されたい。というのも、有効な必要量は、複数の単位投与量を投与することによって実現できるからである。さらに、有効量は、投与形態に含まれる投与量よりも少ない量を個別に投与することによって、あるいは何回も投与することによって実現できる可能性がある。
【0118】
吸入によって気道の上部(鼻)または下部に投与するためには、本発明の治療薬を、噴霧器、加圧容器、あるいはエーロゾル・スプレーを供給するための適切な他の手段から適切に供給する。加圧容器は、適切な推進剤として、ジクロロジフルオロメタン、トリクロロフルオロメタン、ジクロロテトラフルオロエタン、二酸化炭素、あるいは他の適切なガスなどを含むことができる。加圧エーロゾルの場合には、単位投与量は、所定量を供給するバルブを設けることによって決定することができる。噴霧器としては、アメリカ合衆国特許第4,624,251号、第3,703,173号、第3,561,444号、第4,635,627号に記載されているものが挙げられるが、これだけに限られるわけではない。本明細書に記載したタイプのエーロゾル供給システムは、多数の企業から入手することができる。例えば、フィゾンズ社(ベッドフォード、マサチューセッツ州)、シェリング社(ケニルワース、ニュージャージー州)、アメリカン・ファーモシール社(バレンシア、カリフォルニア州)などが挙げられる。鼻孔内投与に関しては、プラスチック製のボトル式噴霧器または定量吸入器を通じ、治療薬を点鼻薬や液体スプレーとして投与することもできる。代表的な噴霧器は、ミストメーター(ウィントロップ社)とメディハラー(ライカー社)である。
さらに、活性成分は、上記の疾患に対してであれ、それ以外の何らかの疾患に対してであれ、他の治療薬(例えば痛み緩和剤、抗炎症薬、ビタミン、ミネラルなど)と組み合わせて使用することもできる。
【0119】
本発明は、骨の疾患を制御するための包装された医薬組成物(例えばキットやそれ以外の容器に入った医薬組成物)にも関する。キットまたは容器には、骨の疾患を制御するための医薬組成物を治療に有効な量と、骨の疾患を制御するためのこの医薬組成物の使用法が収容されている。この医薬組成物は、本発明による少なくとも1種類の治療薬を、骨疾患を制御するのに有効な量だけ含んでいる。
本明細書で引用したすべての参考文献は、引用によりその全体がこの明細書に組み込まれているものとする。以下の実施例は、本発明のいくつかの特徴を例示するものであり、本発明の範囲がこれら実施例に限定されると考えてはならない。
【0120】
本出願の27枚の図面は、SOSTとその遺伝子産物であるスクレロスチンが骨のホメオスタシスの調節において重要であることを明らかにする実験結果を示している。図面全体を簡単に説明すると、図1〜図9は、成熟骨芽細胞がSOSTを発現しており、その発現が、重要な骨成長因子とステロイドによって調節されていることを示している。図10〜図19は、スクレロスチンが骨芽細胞マーカーの活性に及ぼす抑制効果を示している。最後に、図20〜図27は、スクレロスチンが骨芽細胞の生存に影響を与えることを示している。
【0121】
本発明の例示的な態様を以下に列挙する。
(1)担体と、下記の一般式(I)の化合物(R1、R2、R3、R4、R5、R6、R7、R8は、それぞれ独立に、カルボニル、ハロ、フッ素、水素、ヒドロキシ、低級アシル、低級アルコキシ、低級アルキル、または低級ヒドロキシアルキルである)とを含み、哺乳動物におけるSOSTの発現を調節することができる医薬組成物:

(I)。
(2) R1、R2、R3、R4、R5、R6、R7、R8が、それぞれ独立に、カルボニル、ヒドロキシ、水素、または低級ヒドロキシアルキルである、(1)に記載の医薬組成物。
(3) R1がカルボニルまたはヒドロキシである、(1)に記載の医薬組成物。
(4) R8が、フッ素、水素、またはハロである、(1)に記載の医薬組成物。
(5) 哺乳動物におけるSOSTの発現を低下させるため、治療に有効な量のグルココルチコイドを含む医薬組成物。
(6) グルココルチコイドがグルココルチコイド受容体と結合できる、(5)に記載の医薬組成物。
(7) グルココルチコイドが、フルオシノロンアセトニド、トリアムシノロン、またはデキサメタゾンである、(5)に記載の医薬組成物。
(8) 担体と、下記の一般式(II)のプロスタグランジン(R10とR11は、それぞれ独立に、カルボニル、ハロ、フッ素、水素、ヒドロキシ、低級アシル、低級アルコキシ、低級アルキル、低級ヒドロキシアルキル、アリール、またはアリールオキシである)とを含み、哺乳動物におけるSOSTの発現を調節することができる医薬組成物:

(II)。
(9) R1とR4が、それぞれ独立に、カルボニル、ヒドロキシ、水素、または低級ヒドロキシアルキルである、(8)に記載の医薬組成物。
(10) プロスタグランジンがプロスタグランジンE2である、(8)に記載の医薬組成物。
(11) 担体と、下記の一般式(III)の胆汁塩(R1、R2、R3、R4、R5、R6、R7、R8、R9は、それぞれ独立に、カルボニル、ハロ、フッ素、水素、ヒドロキシ、低級アシル、低級アルコキシ、低級アルキル、または低級ヒドロキシアルキルである)とを含み、哺乳動物におけるSOSTの発現を調節することができる医薬組成物:

(III)。
(12) R1、R2、R3、R4、R5、R6、R7、R9が、それぞれ独立に、カルボニル、ヒドロキシ、水素、または低級ヒドロキシアルキルである、(11)に記載の医薬組成物。
(13) 上記胆汁塩がウルソデオキシコール酸である、(11)に記載の医薬組成物。
(14) 担体と、配列番号11、配列番号14、配列番号17、配列番号20、配列番号23、配列番号26、配列番号29、配列番号32、配列番号35、配列番号38、配列番号41、または配列番号44を含むsiRNAとを含有し、前記siRNAがSOSTの発現を調節することができることを特徴とする、医薬組成物。
(15) 担体と、配列番号9、配列番号12、配列番号15、配列番号18、配列番号21、配列番号24、配列番号27、配列番号30、配列番号33、配列番号36、配列番号39、または配列番号42を含むDNAに由来するRNAにストリンジェントな条件下で選択的にハイブリダイズするsiRNAとを含有し、前記siRNAがSOSTの発現を調節することができることを特徴とする、医薬組成物。
(16) ウルソデオキシコール酸、フルオシノロンアセトニド、トリアムシノロン、プロスタグランジンE2、またはデキサメタゾンを哺乳動物に投与することを含む、哺乳動物においてSOSTの発現を調節する方法。
(17) 哺乳動物においてSOSTの発現を調節する方法であって、下記の一般式(I)の化合物(R1、R2、R3、R4、R5、R6、R7、R8は、それぞれ独立に、カルボニル、ハロ、フッ素、水素、ヒドロキシ、低級アシル、低級アルコキシ、低級アルキル、または低級ヒドロキシアルキルである)を哺乳動物に投与することを含む前記方法:

(I)。
(18) 哺乳動物においてSOSTの発現を調節する方法であって、下記の一般式(II)の化合物(R10とR11は、それぞれ独立に、カルボニル、ハロ、フッ素、水素、ヒドロキシ、低級アシル、低級アルコキシ、低級アルキル、低級ヒドロキシアルキル、アリール、またはアリールオキシである)を哺乳動物に投与することを含む前記方法:

(II)。
(19) 哺乳動物においてSOSTの発現を調節する方法であって、下記の一般式(III)
の化合物(R1、R2、R3、R4、R5、R6、R7、R8、R9は、それぞれ独立に、カルボニル、ハロ、フッ素、水素、ヒドロキシ、低級アシル、低級アルコキシ、低級アルキル、または低級ヒドロキシアルキルである)を哺乳動物に投与することを含む前記方法:

(III)。
(20) 哺乳動物にグルココルチコイドを投与することを含む、哺乳動物においてSOSTの発現を調節する方法。
(21) グルココルチコイドがコルチゾールまたはデキサメタゾンである、(20)に記載の方法。
(22) 哺乳動物においてSOSTの発現を調節する方法であって、配列番号11、配列番号14、配列番号17、配列番号20、配列番号23、配列番号26、配列番号29、配列番号32、配列番号35、配列番号38、配列番号41、または配列番号44を含むsiRNAを哺乳動物に投与することを含み、前記siRNAがSOSTの発現を調節することができる前記方法。
(23) 哺乳動物においてSOSTの発現を調節する方法であって、配列番号9、配列番号12、配列番号15、配列番号18、配列番号21、配列番号24、配列番号27、配列番号30、配列番号33、配列番号36、配列番号39、または配列番号42を含むDNAに由来するRNAにストリンジェントな条件下で選択的にハイブリダイズすることのできるsiRNAを哺乳動物に投与することを含み、前記siRNAがSOSTの発現を調節することができる前記方法。
(24) ウルソデオキシコール酸、フルオシノロンアセトニド、トリアムシノロン、プロスタグランジンE2、またはデキサメタゾンを哺乳動物に投与することを含む、哺乳動物において骨密度を増大させる方法。
(25) 哺乳動物において骨密度を増大させる方法であって、下記の一般式(I)の化合物(R1、R2、R3、R4、R5、R6、R7、R8は、それぞれ独立に、カルボニル、ハロ、フッ素、水素、ヒドロキシ、低級アシル、低級アルコキシ、低級アルキル、または低級ヒドロキシアルキルである)を哺乳動物に投与することを含む前記方法:

(I)。
(26) 哺乳動物において骨密度を増大させる方法であって、下記の一般式(II)の化合物(R10とR11は、それぞれ独立に、カルボニル、ハロ、フッ素、水素、ヒドロキシ、低級アシル、低級アルコキシ、低級アルキル、低級ヒドロキシアルキル、アリール、またはアリールオキシである)を哺乳動物に投与することを含む前記方法:

(II)。
(27) 哺乳動物において骨密度を増大させる方法であって、下記の一般式(III)の化合物(R1、R2、R3、R4、R5、R6、R7、R8、R9は、それぞれ独立に、カルボニル、ハロ、フッ素、水素、ヒドロキシ、低級アシル、低級アルコキシ、低級アルキル、または低級ヒドロキシアルキルである)を哺乳動物に投与することを含む前記方法:

(III)。
(28) 哺乳動物にグルココルチコイドを投与することを含む、哺乳動物において骨密度を増大させる方法であって、前記グルココルチコイドがSOSTの発現を調節する、前記方法。
(29) グルココルチコイドがコルチゾールまたはデキサメタゾンである、(28)に記載の方法。
(30) 哺乳動物において骨密度を増大させる方法であって、配列番号11、配列番号14、配列番号17、配列番号20、配列番号23、配列番号26、配列番号29、配列番号32、配列番号35、配列番号38、配列番号41、または配列番号44を含むsiRNAを哺乳動物に投与することを含み、前記siRNAがSOSTの発現を調節することができる前記方法。
(31) 哺乳動物において骨密度を増大させる方法であって、配列番号9、配列番号12、配列番号15、配列番号18、配列番号21、配列番号24、配列番号27、配列番号30、配列番号33、配列番号36、配列番号39、または配列番号42を含むDNAに由来するRNAにストリンジェントな条件下で選択的にハイブリダイズすることのできるsiRNAを哺乳動物に投与することを含み、前記siRNAがSOSTの発現を調節することができる前記方法。
(32) ウルソデオキシコール酸、フルオシノロンアセトニド、トリアムシノロン、プロスタグランジンE2、またはデキサメタゾンを哺乳動物に投与することを含む、哺乳動物において骨細胞のアポトーシスを低減する方法。
(33) 哺乳動物において骨細胞のアポトーシスを低減する方法であって、下記の一般式(I)の化合物(R1、R2、R3、R4、R5、R6、R7、R8は、それぞれ独立に、カルボニル、ハロ、フッ素、水素、ヒドロキシ、低級アシル、低級アルコキシ、低級アルキル、または低級ヒドロキシアルキルである)を哺乳動物に投与することを含む、前記方法:

(I)。
(34) 哺乳動物において骨細胞のアポトーシスを低減する方法であって、下記の一般式(II)の化合物(R10とR11は、それぞれ独立に、カルボニル、ハロ、フッ素、水素、ヒドロキシ、低級アシル、低級アルコキシ、低級アルキル、低級ヒドロキシアルキル、アリール、またはアリールオキシである)を哺乳動物に投与することを含む前記方法:

(II)。
(35) 哺乳動物において骨細胞のアポトーシスを低減する方法であって、下記の一般式(III)の化合物(R1、R2、R3、R4、R5、R6、R7、R8、R9は、それぞれ独立に、カルボニル、ハロ、フッ素、水素、ヒドロキシ、低級アシル、低級アルコキシ、低級アルキル、または低級ヒドロキシアルキルである)を哺乳動物に投与することを含む、前記方法:

(III)。
(36) 哺乳動物にグルココルチコイドを投与することを含む、哺乳動物において骨細胞のアポトーシスを低減する方法であって、前記グルココルチコイドがSOSTの発現を調節する、前記方法。
(37) グルココルチコイドがコルチゾールまたはデキサメタゾンである、(36))に記載の方法。
(38) 哺乳動物において骨細胞のアポトーシスを低減する方法であって、配列番号11、配列番号14、配列番号17、配列番号20、配列番号23、配列番号26、配列番号29、配列番号32、配列番号35、配列番号38、配列番号41、または配列番号44を含むsiRNAを哺乳動物に投与することを含み、前記siRNAがSOSTの発現を調節することができる前記方法。
(39) 哺乳動物において骨細胞のアポトーシスを低減する方法であって、配列番号9、配列番号12、配列番号15、配列番号18、配列番号21、配列番号24、配列番号27、配列番号30、配列番号33、配列番号36、配列番号39、または配列番号42を含むDNAに由来するRNAにストリンジェントな条件下で選択的にハイブリダイズすることのできるsiRNAを哺乳動物に投与することを含み、前記siRNAがSOSTの発現を調節することができる前記方法。
(40) SOSTの発現を低下させる因子の同定方法であって、
(i)検出可能なマーカーをコードする核酸と機能的に連結した、配列番号4を含むSOSTプロモータが含まれる核酸構築物を含有する細胞を用意すること;
(ii)前記細胞をテスト薬剤と接触させること;
(iii)前記テスト薬剤が、前記テスト薬剤と接触させていない細胞を含む対照と比べて前記検出可能なマーカーの発現を低下させるかどうかを検出すること、
を含む、前記方法。
(41) 細胞が骨形成因子に応答応答性である、(40)に記載の方法。
(42) 細胞が、ATCC受託番号CRL-1772の細胞株に由来するC2C12細胞、あるいはATCC受託番号CCL-226の細胞株に由来するC3H10T1/2細胞である、(40)に記載の方法。
(43) 細胞が、ヒト間葉(hMSC)細胞である、(40)に記載の方法。
(44) 核酸構築物が、骨芽細胞特異的ステロイド応答エレメントをコードする核酸エレメントをさらに含む、(40)に記載の方法。
(45) 核酸構築物が、グルココルチコイド応答エレメントをコードする核酸エレメントをさらに含む、(40)に記載の方法。
(46) SOSTの発現を低下させる因子の同定方法であって、
(i)配列番号3、配列番号6、または配列番号8を含むタンパク質をコードしている核酸を含有する細胞を、テスト薬剤と接触させること;および、
(ii)内在性SOSTの発現が低下するかどうかを検出すること、
を含む前記方法。
(47) 核酸が、配列番号1、配列番号2、配列番号5、または配列番号7を含む、(46)に記載の方法。
(48) スクレロスチンのアンタゴニストを同定する方法であって、
(1)スクレロスチンとテスト薬剤を細胞と接触させること;および、
(2)前記テスト薬剤が前記細胞のアポトーシスを阻止するかどうかを検出すること、
を含む前記方法。
(49) スクレロスチンに結合する分子を同定する方法であって、
(i)テスト薬剤を、配列番号3、配列番号6、または配列番号8を含むスクレロスチン・ポリペプチドと接触させること;および、
(ii)前記テスト薬剤が前記ポリペプチドと結合するかどうかを調べること、
を含む前記方法。
(50) 配列番号3、配列番号6、または配列番号8を含む、スクレロスチン・ポリペプチドを含有する、骨芽細胞分化マーカー。
(51) 配列番号1、配列番号2、配列番号5、または配列番号7を含む核酸を含有する、骨芽細胞分化マーカー。
【0122】
以下の実施例では以下の材料を使用した。
初代ヒト間葉細胞、初代ヒト骨芽細胞、ならびに対応する培地をバイオホイッタッカー社(ウォーカーズヴィル、メリーランド州)から購入した。マウスの間葉C3H10T1/2細胞をアメリカン・タイプ・カルチャー・コレクション(ATCC)(マナサス、ヴァージニア州)(ATCC寄託番号CCL-226)から入手した。腹部の脂肪細胞から調製した全RNAは、バイオチェーン・インスティチュート社(ヘイウォード、カリフォルニア州)から入手した。一般的な組織培養試薬、cDNA第1鎖合成キット、白金Taq DNAポリメラーゼは、インヴィトロジェン社(ロックヴィル、メリーランド州)から購入した。ノギン、グレムリン、コーディン、twisted gastrulation (Tsg)、骨形成因子2、4、6は、R&Dシステムズ社(ミネアポリス、ミネソタ州)から購入した。ストラタプレップ全RNAミニプレップ・キットは、ストラタジーン社(サンディエゴ、カリフォルニア州)から購入した。セファデックスG-25包装済みNAP-5カラムは、アマーシャム・バイオサイエンシーズ社(ピスカタウェイ、ニュージャージー州)から購入した。アルカリホスファターゼ(ALP)の活性を測定するための試薬は、ピアス-エンドジェン社(ロックフォード、イリノイ州)から入手した。プロラーゲンC ELISAキットは、キデル社(マウンテンヴュー、カリフォルニア州)から購入した。CellTiterGlo生存キットは、プロメガ社(マディソン、ウィスコンシン州)から入手した。均質カスパーゼELISAキット、細胞死アッセイ・キット(ヒストン関連DNAの断片化)、インサイチュ細胞死検出キットは、ロッシュ・ディアグノスティックス社(インディアナポリス、インディアナ州)から購入した。カスパーゼ阻害剤(カスパーゼ-1、阻害剤VIとカスパーゼ-3、阻害剤I)は、カルバイオケム社(サンディエゴ、カリフォルニア州)から入手した。他のすべての試薬と化学薬品は、シグマ社(セントルイス、ミズーリ州)から購入した。
【実施例1】
【0123】
実施例1:SOSTの発現は、前躯体細胞が運命づけられて分化することにより骨形成系列になることと関係している
この実施例では、SOSTの発現が細胞分化と関連づけられ、前躯体細胞が成長して骨芽細胞になるときにSOSTの発現が増大することが見いだされた。
【0124】
SOST発現アッセイ
ヒト間葉(hMSC)細胞を標準的な増殖培地(バイオホイッタッカー社のMSCGM)または骨芽細胞誘導培地(バイオホイッタッカー社のMSCGM培地に100nMのデキサメタゾン、50μg/mlのアスコルビン酸、10mMのβ-グリセロリン酸を補足したもの)の中で培養した。培地を1週間に2回交換した。増殖開始後、培養物を1日目、7日目、21日目に回収してRNAを単離し、SOSTをRT-PCRで分析した。SOSTの発現は、対応する培地(Pittenger他)の中で21日〜28日間培養した間葉細胞から生成された脂肪細胞と軟骨細胞でも測定した。ヒト骨芽細胞の初代培養物も骨芽細胞誘導培地の中で21日間にわたって増殖させた後に、RNAを単離してRT-PCRを行なった。SOSTの発現は、腹部の脂肪組織と長骨の軟骨端から単離した全RNA調製物においても分析した。
【0125】
結果
ヒト由来の間葉(hMSC)細胞が分化して骨芽細胞様細胞になるのに必要な細胞培養条件を開発した。間葉細胞は骨髄に由来する多能細胞の集団であり、多数の異なるタイプの組織(例えば骨、軟骨、脂肪、平滑筋、腱、骨髄支質、ニューロン)に分化することができる(Owen、1998年)。
図1Aは、一次ヒト骨芽細胞、未分化hMSC細胞、分化して骨芽細胞になるhMSC細胞、軟骨細胞、脂肪細胞から調製したRNAをRT-PCRで分析した結果である。これらの種類の細胞における特徴的な表現型マーカー(例えば脂肪細胞でのPPARγ2)の発現レベルを、SOSTの発現レベルと比較した。この図1Aからわかるように、未分化hMSC細胞と脂肪細胞ではSOSTの発現レベルは無視できるほど低かった。他方、石灰化を起こすことのできるタイプの細胞のうちで骨芽細胞の表現型に関係するマーカー(例えばI型コラーゲン、X型コラーゲン、副甲状腺ホルモン受容体(PTHr))を発現する細胞は、SOSTを発現した。そのような細胞としては、初代ヒト骨芽細胞、分化して骨芽細胞になるhMSC細胞、肥大性軟骨細胞の培養物が挙げられる。
【0126】
骨芽細胞様細胞に分化したhMSC細胞におけるSOSTの発現を、骨芽細胞誘導培地の中で21日間にわたって増殖させたhMSC細胞を観察することにより、骨芽細胞の分化段階と関連づけた。hMSC細胞は骨芽細胞に分化した。そのことは、ALPとコラーゲンの組織化学的染色が増大したこと(図1B、それぞれ右側にある、染色が濃くなった21日目の写真)とミネラルの堆積(7日目には無視できる程度であったのに対し、28日目には、タンパク質1mgにつきカルシウムが437±60μgになった)によってわかる。未分化のhMSC細胞は、SOSTのmRNAを無視できる程度にしか発現せず、アルカリホスファターゼ(ALP)の活性、コラーゲン、ミネラルの堆積と相関するmRNAのレベルも無視できるほど低かった(図1B、左側の2つの図)。他方、骨芽細胞誘導培地の中で増殖させた細胞では、ALP、コラーゲン、SOSTの発現が時間経過とともに増大した。
これらの結果は、骨芽細胞への分化が運命づけられている細胞でSOSTの発現が増大することを示している。
【実施例2】
【0127】
実施例2:ヒトの骨細胞における成長因子とホルモンによるSOSTの発現調節
この実施例では、hMSC細胞または初代ヒト骨芽細胞において成長因子とホルモンがSOSTの発現に及ぼす効果をRT-PCRを利用して観察した。SOSTの発現を測定する前に、これらの細胞を72時間にわたってBMP-2、BMP-4、BMP-6、インスリン様成長因子-1(IGF-1)、副甲状腺ホルモン(PTH)、トランスフォーミング成長因子-β(TGF-β)、デキサメタゾン(DEX)、レチノイン酸(RA)、1,25-ジヒドロキシビタミンD3(vit D)で処理した。未熟な骨芽細胞は、分化して石灰化が可能になるにつれ、骨芽細胞の表現型に関係するマーカー(I型コラーゲン、副甲状腺ホルモン受容体(PTHr))を発現する。成長因子とホルモンの影響を分化段階ならびにSOSTの発現レベルと関係づけられるようにするため、分化が起こったかどうかを確認するためにこれらのマーカーを用いた。
【0128】
方法
2%FCSを含む標準的な増殖培地の中に、ヒト間葉細胞と初代ヒト骨芽細胞を10,000細胞/cm2の密度になるように入れた。翌日、テスト試薬(10-7Mのデキサメタゾン、10-6Mのレチノイン酸、10ng/mlのTGF-β1、PTH(10-8M)、10または50ng/mlのIGF-1、10-7Mの1,25-ジヒドロキシビタミンD3、50〜300ng/mlの骨形成因子2、4、6)を単独で、あるいは組み合わせとして添加した。培養を24〜120時間継続した後、細胞を回収してRNAを単離した。
【0129】
結果
図2〜図6にこれらの実験結果が示してある。図2からわかるように、未処理hMSC細胞(“ビヒクル”)はI型コラーゲンを強く発現したのに対し、PTHrとSOST(ビヒクルと対照、21日目)のレベルは無視できる程度であった。これらの結果は、未処理hMSC細胞は骨芽細胞系になる初期段階にあるが、骨芽細胞の形成が運命づけられていることを示している。これら細胞をデキサメタゾン、骨形成因子、IGF-1(50ng/mlの濃度)、骨芽細胞誘導培地での長期培養物(21日間誘導)のいずれかで処理すると、分化の段階が進み、PTHrの発現が誘導された。
BMP-4、BMP-6、IGF-1を含むいくつかの因子もSOSTの発現を増大させた。興味深いことに、ビタミンD、PTH、TGF-β、デキサメタゾンといった因子はそれ自体ではSOSTの発現に影響を与えなかった。骨形成因子は、分化しているhMSC細胞とヒト骨芽細胞の初代培養物においてSOSTの発現を増大させた。
【0130】
図3には、hMSC細胞と初代ヒト骨芽細胞においてBMPによって誘導されたSOST発現の時間変化が示してある。この図からわかるように、SOSTの最大発現レベルは、処理開始から72〜120時間のときに達成された(図3)。
タンパク質、ノギンとグレムリンは、骨形成因子と結合して骨形成因子を不活化することにより、BMPのアンタゴニストとして機能すると考えられている(Yamaguchi他、2000年)。骨形成因子は、培養物中の骨芽細胞の中にあるノギンとグレムリンの発現を調節するとも考えられている。Gazzero他、1998年;Pereira他、2000年;NifujiとNoda、1999年を参照のこと。骨形成因子がSOSTの発現に及ぼす効果を、骨形成因子がノギンとグレムリンの発現に及ぼす効果と比較した。
図4は、未分化のhMSC細胞ではSOSTとノギンの基底レベルは無視できる程度であったが、BMP-2、4、6によってSOSTとノギンの発現が上方調節されたことを示している。他方、グレムリンは未分化のhMSC細胞で構成的に発現し、その発現は、骨形成因子によってほんのわずかしか増大しなかった。
レチノイドなどのステロイドは、間葉細胞と骨芽細胞の分化を調節することがわかっている(Gazit他、1999年;Weston他、2000年)。ステロイドに対する細胞応答は、ステロイド・ホルモンとTGF-βシグナル伝達経路の相互作用を通じて変化する(Yanagi他、1999年)。
ステロイドおよび/またはTGF-βシグナル伝達経路がBMPを媒介としたSOSTの発現調節に影響を与えているかどうかを調べるため、hMSC細胞と骨芽細胞を、ビタミンD、レチノイン酸、またはデキサメタゾンだけとともに、あるいはそれにBMP-4を組み合わせて72時間にわたってインキュベーションし、SOSTの発現をRT-PCRで分析した。
【0131】
図5に示したように、ステロイド(ビタミンD、レチノイン酸、およびデキサメタゾン)だけだと、hMSC細胞におけるSOSTの基底発現に影響を与えることはなかった。しかしBMP-4は、SOSTの発現を増大させた(図5)。興味深いことに、レチノイン酸とビタミンDは、BMP-4と組み合わせて添加したときにSOSTのレベルを増大させ、しかも検出されたレベルは、単独のBMP-4で処理した細胞におけるレベルよりも高くなった。
これとは対照的に、デキサメタゾンをBMP-4とともに添加したときには、SOSTの発現レベルが低下した。したがってデキサメタゾンは、BMPがSOSTの発現に及ぼす増大効果を明らかに阻害した(図5)。
BMP-4は、グレムリンとノギンの発現も増大させた(図6)。しかしステロイドは、BMP-4によって誘導されたSOSTの発現とはわずかに異なった形で、BMP-4によって誘導されたグレムリンとノギンの発現に影響を与えた(図6)。SOSTと同様、グレムリンの発現は、レチノイン酸またはビタミンDだけで処理した細胞においては変化しなかった。SOSTとは異なり、細胞をデキサメタゾンだけで処理した場合にはグレムリンの基底レベルが低下した。しかしレチノイン酸とデキサメタゾンをBMP-4とともに添加したときには、BMP-4がグレムリンの発現に及ぼす増大効果が低下した。ビタミンDは、BMP-4がグレムリンの発現に及ぼす効果を変化させなかった。
【0132】
これとは対照的に、BMP-4、レチノイン酸、デキサメタゾン、ビタミンDはすべて、hMSC細胞におけるノギンのレベルを増大させるように見えた。BMP-4が最も大きな効果を示した。BMP-4がノギンに及ぼす増大効果がステロイドによって大きく変化することはなかった。
したがってステロイドとBMP-4がグレムリンとノギンに及ぼす効果は、SOSTに対する効果とは顕著に異なる(図6)。BMP-4は、SOSTの発現レベルを顕著に増大させた。この効果は、ビタミンDまたはレチノイン酸の存在によって大きくなったが、デキサメタゾンの存在によっては大きくならなかった。実際、デキサメタゾンはSOSTの発現を顕著に抑制した。
【実施例3】
【0133】
実施例3:SOSTの発現に影響を与える化合物
前の実施例は、SOSTの発現が骨形成因子によって増大し、デキサメタゾンなどのステロイドによって変化したことを示している。これから示す実施例では、ヒトMSC細胞をさまざまなテスト薬剤の存在下で骨形成因子とともにインキュベーションし、他のステロイドや化合物が、BMPによって誘導されるSOSTに影響を与えることができるかどうかを調べた。SOSTの発現は、逆転写ポリメラーゼ連鎖反応(RT-PCR)で調べた。
【0134】
材料と方法
ヒト間葉細胞(hMSC)を、2%FCSを含む標準的な増殖培地の中で増殖させ、BMP-6のみを用いて、あるいはBMP-6とテスト化合物の組み合わせを用いて処理した。細胞を72時間後に回収し、RNAを調製してSOSTの発現をRT-PCRで分析した。

結果
テストした化合物およびその化合物で得られた結果を表1にまとめてある。
【0135】
表1

【0136】
図7と図8は、hMSC細胞においてBMP-6を媒介としたSOSTの発現誘導を阻止したいくつかの化合物に関して得られた結果を示している。デキサメタゾンと似たグルココルチコイド類似体であるトリアムシノロン(Triam)は、BMP-6がSOSTに及ぼす増大効果を阻止した(図7)。原発性胆汁性肝硬変の治療に用いられる胆汁酸であるウルソデオキシコール酸(Urso)も、BMP-6によるSOSTの誘導を投与量に依存した形で阻止した(図7)。特に3×10-6Mの濃度のウルソデオキシコール酸(Urso-2)は、BMP-6によるSOST発現の誘導を完全に阻止した(図7)。
図8は、フルオシノロンアセトニド(Fluo)とプロスタグランジンE2(PGE2)を用いてhMSC細胞を処理した結果を示している。どちらの化合物もBMP-6によるSOSTの誘導を効果的に阻止したが、他の化合物(タウロウルソデオキシコール酸、ICI 182,780、エストロゲン、ロバスタチン)は最小限の効果しかもたらさなかった。
BMP-6によるSOSTの誘導を効果的に阻止した5つの化合物の構造を図9に示してある。
この結果は、異なった3つのタイプのグルココルチコイド類似体がBMPによるSOST発現の誘導を阻止できることを示している。SOSTの発現を阻止した他の化合物としては、胆汁塩(例えばウルソデオキシコール酸)とプロスタグランジンがある。
【実施例4】
【0137】
実施例4:外部から添加したスクレロスチンが骨芽細胞の機能の発現を調節する
SOSTにヘテロ接合突然変異またはホモ接合突然変異を持つ人は、骨がより密でより重いことを特徴とする骨格表現型を有する(Beighton他、1976年)。この実施例では、スクレロスチンの遺伝子産物をin vtroで骨芽細胞培養物に添加した。骨芽細胞の表現型マーカーを用い、どの分化段階でスクレロスチンが骨芽細胞の機能に影響を与えるかを調べた。
【0138】
スクレロスチン・タンパク質がヒト間葉細胞に及ぼす効果の測定
骨芽細胞誘導培地を含む96ウエルの培養皿にhMSC細胞を10,000細胞/cm2の密度となるように入れた。NAP-5カラムを用い、バキュロウイルスで発現させたスクレロスチンの部分精製調製物を減菌PBSの中で調製した後、使用した。ヒトのスクレロスチン(0〜30μg/ml)または同じ量のSf9コンディションド培地(対照)を増殖開始後のさまざまな時期(1日目、8日目、15日目、21日目)にhMSC細胞培養物に添加した。スクレロスチンが骨芽細胞の分化に及ぼす効果を、アルカリホスファターゼの活性(ALP、0.5%のNP-40と10mMのp-ニトロフェニルリン酸塩を含むDEAA緩衝液(ピアス社)を用いて細胞層で測定)、I型コラーゲンの合成(プロラーゲンC ELISA)、石灰化によるカルシウムの堆積(細胞層の酸ライセートに関する比色アッセイ、シグマ社)を測定することによって調べた。
【0139】
スクレロスチン・タンパク質がマウス間葉C3H10Y1/2細胞に及ぼす効果の測定
C3H10T1/2細胞(ATCC寄託番号CCL-226)をウエル1つにつき細胞が25,000個になる密度にして96ウエルの培養皿に入れ、完全増殖培地(10%FCS、1%ペニシリン/ストレプトマイシン、0.1mMの非必須アミノ酸、0.1mMのピルビン酸ナトリウム、55μMのβ-メルカプトエタノール、20mMのHEPES、pH7.3を補足した高フルコース、高グルタミンのDMEM)の中で増殖させた。C3H10T1/2細胞を短時間(72時間)のアッセイで使用し、BMPによって誘導されたALPの活性にヒトのスクレロスチン・タンパク質が及ぼす効果を調べた。NAP-5カラムを用い、バキュロウイルスで発現させたスクレロスチンの部分精製調製物を減菌PBSの中で調製した後、使用した。スクレロスチン・タンパク質(0〜50μg/ml)または同じ量のSf9コンディションド培地(対照)を500ng/mlのBMP-6とともに1時間にわたって予備インキュベーションした後、細胞に添加した。比較のため、抗BMP-6抗体とノギンを用いて同様のインキュベーションを行なった。細胞を72時間後に回収し、ALPの活性を測定した。
スクレロスチンがもたらす効果の特異性を調べるため、FLAGタグ付きで合成したヒトのスクレロスチンを、アガロース・ビーズに結合させた抗FLAG抗体とともに4℃にて2時間にわたって予備インキュベーションした。次にこの混合物を4℃にて10,000xgで15分間にわたって遠心分離し、上清を上記アッセイにおける“スクレロスチン・タンパク質”として扱った。
【0140】
結果
図10は、分化しているhMSC細胞においてヒトのスクレロスチンとマウスのノギンがアルカリホスファターゼ(ALP)の活性に及ぼす効果を比較した図である。アルカリホスファターゼの活性は、骨芽細胞の表現型マーカーの1つである。処理を開始してから7日後、1μg/mlのノギンはALPの活性に影響を与えなかったのに対し、5μg/mlのノギンはALPの活性を顕著に増大させた(ビヒクルで処理した細胞との比較、p<0.001)。
これとは対照的に、同じ条件下において、部分精製したヒトのスクレロスチン調製物は、1μg/mlと5μg/mlのどちらを投与した場合でもアルカリホスファターゼの活性を確実に低下させた(図10)。
スクレロスチンは、ヒト骨芽細胞の初代培養物におけるアルカリホスファターゼの活性も低下させた(図11)。標準的な増殖培地の中で増殖させた骨芽細胞は、ALPの基底発現レベルが低かった(図11、右端)。このレベルは、細胞を誘導培地の中で増殖させたときに顕著に増大した(中央部の写真、濃い染色)。同様の細胞をヒトのスクレロスチンで処理すると、発現するアルカリホスファターゼの量が顕著に減少した。そのことは、染色が薄くなったことからわかる(図11、スクレロスチン+誘導培地)。
スクレロスチンは、hMSC細胞においてアルカリホスファターゼの活性と石灰化を投与量に依存した形で低下させた(図12)。アルカリホスファターゼの活性と(カルシウム・アッセイで測定される)ミネラルの堆積は、部分精製したヒトのスクレロスチン調製物の濃度を大きくしながら処理した細胞で顕著に低下したが、対照(Sf9コンディションド培地から調製したタンパク質)ではそうならなかった(図12)。アルカリホスファターゼの活性とミネラルの堆積は、約10〜15μg/mlのスクレロスチンで処理した細胞において約50%低下した(対照との比較、p<0.0001)。
【0141】
スクレロスチンで処理した細胞では、I型コラーゲンの合成も投与量に依存した形で低下した。部分精製したヒトのスクレロスチン調製物は、濃度10μg/mlのものを用いて処理した細胞においてI型コラーゲンの合成を約50%低下させた(対照との比較、p<0.0001、図13)。
分化しているhMSC細胞培養物の中でスクレロスチン・タンパク質が骨芽細胞マーカーの発現に及ぼす効果を明らかにするため、処理を開始してから40時間後にRNAを単離し、RT-PCRで分析した(図14)。図14からわかるように、脂肪細胞に関するRNAレベルのマーカー(PPARγ2)または未分化の間葉細胞に関するRNAレベルのマーカー(エンドグリン)は、部分精製したヒトのスクレロスチン調製物で処理したことの影響を受けなかった。他方、骨芽細胞表現型マーカー(例えばPTHr、I型コラーゲン、BMP-2、BMP-6)のRNAレベルは、部分精製したヒトのスクレロスチン調製物で処理した細胞において、Sf9コンディションド培地から精製したタンパク質(対照)で処理した細胞と比較して顕著に低下した。
【0142】
BMPは、骨芽細胞の活性を調節する。骨芽前躯体細胞または前骨芽細胞をBMPで処理すると、ALPなどのマーカーの活性を増大させることができる(Gazzero他、1998年;NifujiとNoda、1999年)。hMSC細胞培養物において、BMP-6はALPの活性を約2倍に増大させた(図15)。スクレロスチンは、BMPによって誘導されたこのALPの活性を投与量に依存した形で低下させた(ANOVA、p<0.0001)。BMP-6+30μg/mlのスクレロスチンで処理した細胞におけるALPのレベルは、BMP-6で処理した細胞またはビヒクルで処理した細胞におけるALPのレベルよりも顕著に低かった(p<0.0001)。実際、スクレロスチンはALPの基底レベルも投与量に依存した形で顕著に低下させた(ANOVA、p<0.0001)。
図16には、hMSC細胞培養物においてBMP-6の濃度を大きくしていったとき、スクレロスチンがアルカリホスファターゼの活性に及ぼす抑制効果を部分的に逆転させたことが示してある。
これらの知見は、スクレロスチンがBMPと相互作用して骨芽細胞の機能を調節していることを示している。
【0143】
マウスの間葉C3H10Y1/2細胞では、ALPの活性がBMP-6によって投与量に依存した形で増大した(図17)。この細胞の中でBMP-6がアルカリホスファターゼの活性に及ぼす増大効果は、マウスのノギン、部分精製したヒトのスクレロスチン調製物、およびBMP-6に対する中和抗体によって抑制された。図17には、BMP-6によって誘導されたアルカリホスファターゼの活性をマウスのノギンが低下させたこと、およびIC50が0.3μg/mlであったことが示してある。これはアベら(2000年)の発見と矛盾する。抗BMP-6抗体は、BMP-6によって誘導されるアルカリホスファターゼの活性を50%低下させ、IC50は0.49μg/mlであった。さらに、部分精製したヒトのスクレロスチン調製物は、BMP-6によって誘導されるアルカリホスファターゼの活性を投与量に依存した形で効果的に低下させ、IC50は10μg/mlであった(図17)。
スクレロスチンの応答の特異性を確認するため、FLAGタグがスクレロスチンのコード領域に融合したヒトのスクレロスチン融合タンパク質を調製した。マウスの間葉C3H10Y1/2細胞に添加する前に、抗FLAG M2抗体/アガロース複合体を用いてヒトのスクレロスチン-フラグ調製物の免疫を欠損させた。図17からわかるように、スクレロスチン-FLAG調製物を抗FLAG抗体/アガロース・ビーズ複合体とともに予備インキュベーションすると、C3H10T1/2細胞におけるBMP-6の拮抗作用が完全に消失した。これらのデータからわかるのは、BMP-6によって誘導されるアルカリホスファターゼの活性が部分精製したスクレロスチンを添加したときに低下することが観察されたのは、スクレロスチンのために特異的に起こったのであり、同時精製された同定されていない何らかの物質によるのではないということである。
【実施例5】
【0144】
実施例5:スクレロスチンがアポトーシスを引き起こす
アポトーシスは、カスパーゼとして知られる一連のシステイン・プロテアーゼが活性化することによって起こる(ThornberryとLazebnik、1998年)。カスパーゼは、アポトーシスを促進するBaxなどのタンパク質と、保護特性を示すタンパク質(例えばI-TRAFやサービビン)を活性化する。アポトーシス・カスケードの開始は、細胞表面死受容体(例えばFAS)のリクルート、細胞表面死受容体へのリガンドの結合を含む多数の異なるメカニズムによって起こり得る(Vaughan他、2002年;Budd、2002年)。この実施例では、hMSC細胞をスクレロスチンとともにインキュベーションし、カスパーゼとそれ以外のアポトーシス促進因子のレベルを測定することにより、スクレロスチンが骨芽細胞の生存において果たす役割を調べる。
【0145】
細胞生存アッセイ及びアポトーシス・アッセイ
骨芽細胞誘導培地(バイオホイッタッカー社のMSCGM培地に100nMのデキサメタゾン、50μg/mlのアスコルビン酸、10mMのβ-グリセロリン酸を補足したもの)を含む96ウエルの皿にヒトの間葉(hMSC)細胞を10,000細胞/cm2の密度となるように入れた。
細胞生存アッセイを行なうため、細胞をバキュロウイルスで発現させて部分精製したヒトのスクレロスチン調製物(0〜20μg/ml)またはSf9コンディションド培地から精製した同じ量のタンパク質調製物(対照)で1週間にわたって処理した。それぞれの培地を交換することによってスクレロスチンと対照を新鮮な状態にした。次に細胞を溶解させ、プロメガ社のCellTiterGloルミネセンス生存アッセイを利用して処理した。
アポトーシス・アッセイを行なうため、細胞をスクレロスチン、または市販されているBMPのアンタゴニスト調製物(ノギン、コーディン、グレムリン、twisted gastrulation(Tsg))で24時間にわたって処理した後、カスパーゼの活性を調べた。いくつかの実験では、細胞を、カルバイオケム社のカスパーゼ阻害剤の不在下または存在下で、バキュロウイルスで発現させて部分精製したヒトのスクレロスチン調製物(0〜30μg/ml)またはSf9コンディションド培地から精製した同じ量のタンパク質調製物(対照)で複数回処理した。細胞を回収し、処理し、均質カスパーゼELISA(ロッシュ社)または細胞死アッセイ(ヒストン関連DNAの断片化、ロッシュ社)を利用してアポトーシス・アッセイを行なった。
【0146】
TUNEL染色によってアポトーシスを測定するため、細胞をバキュロウイルスで発現させて部分精製したヒトのスクレロスチン調製物(20μg/ml)またはSf9コンディションド培地から精製した同じ量のタンパク質調製物(対照)で24時間にわたって処理した。細胞をパラホルムアルデヒドで固定し、ロッシュ社のin situ細胞死検出キットを用いて処理した。
別の研究では、hMSC細胞をビヒクルまたはスクレロスチンで6時間または48時間にわたって処理した。細胞を回収し、RNAを調製し、市販されているアポトーシス遺伝子アレイ(スーパーアレイ社、ベセスダ、メリーランド州)の分析に使用した。
【0147】
結果
図20は、hMSC細胞を部分精製したヒトのスクレロスチン調製物で7日間処理した効果を示している。細胞を溶解し、プロメガ社のCellTiterGlo生存アッセイを利用して処理した。この時点でこの細胞は、骨芽細胞前躯体/前骨芽細胞となることが運命づけられている。この細胞は、I型コラーゲンを高レベルで発現し、アルカリホスファターゼを低レベルで発現する。処理するヒトのスクレロスチンの濃度を大きくしていくと、培養物の中に残っているhMSC細胞の数が、対照(Sf9コンディションド培地から精製したタンパク質)で処理した細胞と比べて顕著に減少した。
スクレロスチンでhMSC細胞を処理すると、カスパーゼの活性が顕著に増大した(図21)。スクレロスチンの不活化調製物(他の生物学的アッセイや生化学的アッセイにおいて効果がないことからわかる)は、カスパーゼの活性に顕著な効果を与えることはなかった。
市販されているBMPのアンタゴニスト(ノギン、コーディン、グレムリン、Tsg)を同じ条件下でhMSC細胞に添加したところ、カスパーゼの活性増加は観察されなかった。これらの知見は、スクレロスチンがヒト骨細胞のアポトーシスを選択的に増大させることを示している。
【0148】
図22は、部分精製したヒトのスクレロスチン調製物の濃度を大きくしていくと、カスパーゼの活性とヒストン関連DNAの断片の量が顕著に増大したことを示している。DNAの断片化は、市販されている試薬を用いてTUNEL染色によって検出することもできる。スクレロスチンで処理した細胞では、対照(Sf9コンディションド培地から精製したタンパク質)で処理した細胞と比べ、アポトーシスを起こす核で染色が濃くなっている様子が図23に見られる(矢印を参照のこと)。スクレロスチンは、骨芽細胞のアポトーシスを促進することにより、骨芽細胞の生存率を低下させる。
hMSC細胞をスクレロスチンで処理するとカスパーゼの活性が72時間後まで増大していた(図24A)。ラットのスクレロスチンもhMSC細胞のアポトーシスを増大させたが、ヒトのスクレロスチンほどではなかった(図24B)。
hMSC細胞においてスクレロスチンによって誘導されるカスパーゼの活性は、市販されているカスパーゼ阻害剤を用いて効果的に低下させることができた(図25)。カスパーゼ-1阻害剤とカスパーゼ3阻害剤は、ヒト・スクレロスチンによるカスパーゼ活性の誘導を効果的に抑制した。これら2つの阻害剤を組み合わせると、いずれか一方の場合よりも強力であった。
スクレロスチンがhMSCのアポトーシスに及ぼす効果をさらに調べるため、スクレロスチンで処理した細胞とビヒクルからRNAを回収し、そのRNAを用いて、アポトーシス遺伝子を含むcDNA発現アレイをプロービングした。ビヒクル・サンプルとスクレロスチンで処理したサンプルでの結果を比較し、(バックグラウンドの補正をした)データをビヒクルに対するスクレロスチンの比として表わした。そのデータを以下の表にまとめてある。
【0149】

【0150】
スクレロスチンで6時間にわたって処理したhMSCでは、アポトーシス関連遺伝子(例えばカスパーゼ3、カスパーゼ4、カスパーゼ7、Bcl-2ファミリーのメンバー(例えばBax、Hrk)および細胞の生存に関わる遺伝子(カスパーゼ3、7、9を抑制することが報告されているXIAP、サービビン、ブルース)の発現が2〜4倍へと顕著に増大した。48時間後までには、Bcl-2ファミリーのアポトーシス促進メンバーとアポトーシス抑制遺伝子(カスパー、I-TRAF)の発現が増大した。したがってhMSCをスクレロスチンで処理すると、アポトーシス促進遺伝子およびアポトーシス抑制遺伝子の誘導が始まる。
図25では、市販されている2つのカスパーゼ阻害剤(カルバイオケム社の、カスパーゼ1と4を抑制するカスパーゼ-1、阻害剤VIと、カスパーゼ3、6、7、8、10を抑制するカスパーゼ-3、阻害剤I)が、hMSC培養物においてスクレロスチンによって誘導されるカスパーゼの活性を抑制した。この知見は、アポトーシス・アレイからの知見と合わせて考えると、スクレロスチンがFASを媒介とした経路を通じて骨芽細胞のアポトーシスを促進することを示唆している。
【0151】
まとめ
これらの実施例で示したデータから、スクレロスチンがBMPと相互作用して骨芽細胞の活性を調節していることがわかる。重要な成長因子と相互作用するというスクレロスチンのこの能力は、骨芽細胞の生存を調節する基礎にもなっているようである。細胞が機能するときに成長因子を利用できなくすることにより、スクレロスチンは骨細胞のアポトーシスを増やすことができる。したがって細胞の生存と骨芽細胞の活性を低下させるスクレロスチンの能力を阻害する薬剤は、失われた骨を回復するのに役立つ薬剤となる可能性がある。
【実施例6】
【0152】
実施例6:SOSTの発現を阻止する短い阻害RNA(siRNA)
アンビオン社(オースチン、テキサス州)から提供されたガイドラインに従ってsiRNAを設計した。簡単に述べると、AAジヌクレオチドを有する標的配列を探すためにSOSTのcDNA配列を走査した。G/C含有量が35〜55%のその標的(AA+3'に隣接する19このヌクレオチド)に対するセンスオリゴヌクレオチドとアンチセンスオリゴヌクレオチドを作製した。次に、これらの配列をヒトゲノム・データベースの他の配列と比較し、他の既知のコード配列とのホモロジーを最少にした(Blast探索)。
設計した標的配列とsiRNA配列を以下に示す。
【0153】
標的配列1:AAGAATGATGCCACGGAAATC(配列番号9)
遺伝子配列における位置:140
GC含有量:42.9%
センス鎖siRNA:GAAUGAUGCCACGGAAAUCtt(配列番号10)
アンチセンス鎖siRNA:GAUUUCCGUGGCAUCAUUCtt(配列番号11)
【0154】
標的配列3:AATGATGCCACGGAAATCATC(配列番号12)
遺伝子配列における位置:143
GC含有量:42.9%
センス鎖siRNA:UGAUGCCACGGAAAUCAUCtt(配列番号13)
アンチセンス鎖siRNA:GAUGAUUUCCGUGGCAUCAtt(配列番号14)
【0155】
標的配列5:AACAACAAGACCATGAACCGG(配列番号15)
遺伝子配列における位置:209
GC含有量:47.6%
センス鎖siRNA:CAACAAGACCAUGAACCGGtt(配列番号16)
アンチセンス鎖siRNA:CCGGUUCAUGGUCUUGUUGtt(配列番号17)
【0156】
標的配列27:AATTGAGAGTCACAGACACTG(配列番号18)
遺伝子配列における位置:950
GC含有量:42.9%
センス鎖siRNA:UUGAGAGUCACAGACACUGtt(配列番号19)
アンチセンス鎖siRNA:CAGUGUCUGUGACUCUCAAtt(配列番号20)
【0157】
標的配列28:AAATGGAAGCATTTTCACCGC(配列番号21)
遺伝子配列における位置:1035
GC含有量:42.9%
センス鎖siRNA:AUGGAAGCAUUUUCACCGCtt(配列番号22)
アンチセンス鎖siRNA:GCGGUGAAAAUGCUUCCAUtt(配列番号23)
【0158】
標的配列30:AAAGTCCAGGGACTGGTTAAG(配列番号24)
遺伝子配列における位置:1093
GC含有量:47.6%
センス鎖siRNA:AGUCCAGGGACUGGUUAAGtt(配列番号25)
アンチセンス鎖siRNA:CUUAACCAGUCCCUGGACUtt(配列番号26)
【0159】
標的配列31:AAGAAAGTTGGATAAGATTCC(配列番号27)
遺伝子配列における位置:1111
GC含有量:33.3%
センス鎖siRNA:GAAAGUUGGAUAAGAUUCCtt(配列番号28)
アンチセンス鎖siRNA:GGAAUCUUAUCCAACUUUCtt(配列番号29)
【0160】
標的配列36:AACTGTAGATGTGGTTTCTAG(配列番号30)
遺伝子配列における位置:1201
GC含有量:38.1%
センス鎖siRNA:CUGUAGAUGUGGUUUCUAGtt(配列番号31)
アンチセンス鎖siRNA:CUAGAAACCACAUCUACAGtt(配列番号32)
【0161】
標的配列40:AATTCTCCTTCGGGACCTCAA(配列番号33)
遺伝子配列における位置:1269
GC含有量:47.6%
センス鎖siRNA:UUCUCCUUCGGGACCUCAAtt(配列番号34)
アンチセンス鎖siRNA:UUGAGGUCCCGAAGGAGAAtt(配列番号35)
【0162】
標的配列47:AAAGAGAGAGAATGAATGCAG(配列番号36)
遺伝子配列における位置:1414
GC含有量:38.1%
センス鎖siRNA:AGAGAGAGAAUGAAUGCAGtt(配列番号37)
アンチセンス鎖siRNA:CUGCAUUCAUUCUCUCUCUtt(配列番号38)
【0163】
標的配列63:AAGAAGCTATGCTGCTTCCCA(配列番号39)
遺伝子配列における位置:1590
GC含有量:47.6%
センス鎖siRNA:GAAGCUAUGCUGCUUCCCAtt(配列番号40)
アンチセンス鎖siRNA:UGGGAAGCAGCAUAGCUU(配列番号41)
【0164】
標的配列70:AAATCACATCCGCCCCAACTT(配列番号42)
遺伝子配列における位置:1726
GC含有量:47.6%
センス鎖siRNA:AUCACAUCCGCCCCAACUUtt(配列番号43)
アンチセンス鎖siRNA:AAGUUGGGGCGGAUGUGAUtt(配列番号44)
【0165】
これらのsiRNAがSOSTのRNAレベルをいかにうまく調節するかを調べるため、in vitroとin vivoでテストを行なう。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a)間葉細胞に骨芽細胞誘導培地を前記細胞がSOST遺伝子を発現するに十分な量で添加すること;
(b)前記細胞を試験因子と接触させること;
(c)前記試験因子の非存在下におけるSOST遺伝子発現と比較した前記試験因子の存在下におけるSOST遺伝子発現の低下を検出することを含む、SOST遺伝子の発現を低下させる因子の同定方法であって、
前記検出により、前記試験因子を、SOST遺伝子発現を低下させる因子と同定する、
前記同定方法。
【請求項2】
SOST遺伝子が配列番号3、配列番号6および配列番号8からなる群より選ばれるアミノ酸配列を含むタンパク質をコードする核酸を含む、請求項1記載の方法。
【請求項3】
SOST遺伝子が配列番号1、配列番号2および配列番号5からなる群より選ばれるヌクレオチド配列を含む核酸を含む、請求項1記載の方法。
【請求項4】
試験因子がグルココルチコイド、グルココルチコイド類似体、エイコサノイドおよび胆汁塩からなる群より選ばれる、請求項1記載の方法。

【図1A】
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【図1B】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9A】
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【図9B】
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【図9C】
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【図9D】
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【図9E】
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【図10】
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【図11】
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【図12A】
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【図12B】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17A】
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【図17B】
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【図17C】
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【図17D】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図22A】
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【図22B】
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【図23】
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【図24A】
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【図24B】
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【図25】
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【図26】
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【図27】
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【公開番号】特開2010−213708(P2010−213708A)
【公開日】平成22年9月30日(2010.9.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−91409(P2010−91409)
【出願日】平成22年4月12日(2010.4.12)
【分割の表示】特願2003−572513(P2003−572513)の分割
【原出願日】平成15年2月28日(2003.2.28)
【出願人】(503014768)セルテック アール アンド ディー インコーポレイテッド (2)
【Fターム(参考)】