説明

骨補填材および骨補填キット

【課題】椎弓根に形成した貫通孔を介して、低侵襲で、十分な充填量を充填することができ、圧壊した椎体の形状を整復する。
【解決手段】椎弓根Aに形成された貫通孔Bを介して椎体C内に挿入される骨補填材1であって、可撓性を有し、軸方向に押圧力を伝達可能な生体適合性を有するチューブ3と、該チューブ3内に充填された硬化性の流動性セメント4とを備える骨補填材1を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、骨補填材および骨補填キットに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、骨粗鬆症患者における椎体圧迫骨折を治療する方法として、圧壊した椎体の椎弓根に貫通孔をあけ、そこからアクリルセメント(PMMA)、リン酸カルシウムセメント(CPC)あるいはリン酸カルシウムブロック(HA)を充填して圧壊した椎体を整復する椎体形成術が知られている(例えば、特許文献1参照。)。
【特許文献1】米国特許第6595998号明細書
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら、PMMAやCPCは流動性セメントであるため、椎体に充填されるとその亀裂から椎体外に漏洩してしまう不都合がある。一方、HAを充填する方法はそのような不都合はないが、椎体内の空間に効率よく充填することが困難であるという不都合がある。
【0004】
本発明は上述した事情に鑑みてなされたものであって、椎弓根に形成した貫通孔を介して、低侵襲で、十分な充填量を充填することができ、圧壊した椎体の形状を整復することができる骨補填材および骨補填キットを提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記目的を達成するために、本発明は以下の手段を提供する。
本発明は、椎弓根に形成された貫通孔を介して椎体内に挿入される骨補填材であって、可撓性を有し、軸方向に押圧力を伝達可能な生体適合性を有するチューブと、該チューブ内に充填された硬化性の流動性セメントとを備える骨補填材を提供する。
【0006】
本発明によれば、椎弓根に形成された貫通孔から可撓性のチューブを挿入して椎体内で湾曲させることにより、チューブを椎体内に充填することができる。この状態で椎体内に充填されたチューブ内に流動性セメントを注入して、硬化させることにより、チューブ内に硬化したセメントが充填された骨補填材を椎体内の空間に配置することができる。
【0007】
また、流動性セメントを椎体内の空間に直接充填する従来の方法と比較して、椎体の亀裂から椎体外に流動性セメントが漏洩する不都合の発生を防止することができる。さらに、チューブ間に形成される微少隙間の範囲で、硬化したセメントが充填されたチューブの変位が可能となり、隣接する椎体に過度の応力が作用することを回避して、隣接椎体の2次的な骨折を防止することが可能となる。
【0008】
上記発明においては、前記チューブの壁面に貫通孔が設けられていることが好ましい。
このようにすることで、チューブ内に充填された流動性セメントをチューブの壁面に設けた貫通孔から染み出させ、チューブ間を接着させて、椎体内に充填された状態の骨補填材の剛性を高めることができる。
【0009】
また、上記発明においては、前記流動性セメントが、リン酸カルシウムセメントであることが好ましい。
リン酸カルシウムセメントは、生体活性を有するので、チューブの壁面に設けた貫通孔から染み出した流動性セメントを経時的に自家骨化させていくことができる。
【0010】
また、本発明は、椎弓根に形成された貫通孔を介して椎体内に挿入される可撓性を有するチューブと、該チューブに着脱可能に接続される前記貫通孔を貫通して配置される供給管と、該供給管の後端から、該供給管を介して硬化性の流動性セメントを椎体内のチューブに供給するセメント供給装置とを備える骨補填キットを提供する。
【0011】
本発明によれば、椎弓根に形成された貫通孔を介してチューブを椎体内に挿入し、チューブに接続された供給管を貫通孔に貫通配置した状態で、セメント供給装置を作動させて、供給管の後端から流動性セメントをチューブ内に供給し、チューブと供給管とを切り離してチューブを椎体内に留置することで、チューブ内で流動性セメントが硬化した骨補填材を椎体内に高い充填効率で充填することができる。また、1本のチューブでは充填量が足りない場合には、複数本のチューブを順次充填することで、充填量を向上することができる。さらに、チューブのみでは充填されて行きにくい場合には、チューブ内にガイドワイヤを挿入して、ガイドワイヤの剛性により、充填を促進することができる。
【0012】
上記発明においては、前記チューブの壁面に貫通孔が設けられていることが好ましい。 また、前記流動性セメントが、リン酸カルシウムセメントであることとしてもよい。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、椎弓根に形成した貫通孔を介して、低侵襲で、十分な充填量を充填することができ、圧壊した椎体の形状を整復することができるという効果を奏する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
本発明の一実施形態に係る骨補填材1および骨補填キット2について、図1〜図4を参照して以下に説明する。
本実施形態に係る骨補填材1は、図1に示されるように、椎弓根Aに形成された貫通孔Bを介して椎体C内に挿入されるチューブ3と、該チューブ3内に充填される流動性セメント4(図3参照)とから構成されている。
【0015】
前記チューブ3は、4フッ化エチレン樹脂、ウレタン樹脂あるいはシリコーン樹脂等の可撓性を有する生体適合性材料により構成されている。これらのチューブ3は長手方向にある程度の剛性を有し、長手方向に押圧することで、椎体C内を掻爬することにより形成された空間X内にそれ自体で進行していくことができるようになっている。チューブ3の先端は閉塞されているが、気体を通過させ流動性セメント4の漏洩を抑えるような微細な排気孔5が設けられている。
前記流動性セメント4は、アクリルセメント(PMMA)あるいはリン酸カルシウムセメント(CPC)のような硬化性のセメントである。
【0016】
本実施形態に係る骨補填キット2は、図3に示されるように、上記骨補填材1を構成するチューブ3と、該チューブ3を先端に着脱可能に取り付ける供給管6と、該供給管6の後端開口部6aから流動性セメント4を注入するセメント供給装置7とを備えている。
供給管6は、椎弓根Aに設けられた貫通孔Bに挿入可能な外形寸法を有し、先端部を前記チューブ3の後端開口3aに嵌合させることで、チューブ3を着脱可能に取り付けるようになっている。
【0017】
前記セメント供給装置7は、例えば、流動性セメント4を収容したシリンジである。セメント供給装置7は、その吐出口7aを前記供給管6の後端開口部6aに嵌合させた状態で収容された流動性セメント4を加圧することにより、供給管6を介してチューブ3内に流動性セメント4を供給することができるようになっている。
【0018】
このように構成された本実施形態に係る骨補填材1および骨補填キット2の作用について以下に説明する。
本実施形態に係る骨補填キット2を用いて椎体Cの圧迫骨折を整復する椎体形成術を行うには、まず、椎弓根Aに形成された貫通孔Bを介して、鋭匙(図示略)を用いて椎体骨C内の血腫や壊死骨、瘢痕組織等を掻爬することにより、椎体C内に空間Xを形成する。そして、椎弓根Aに形成された貫通孔Bを介して、空の状態のチューブ3を閉塞された一端側から挿入していく。
【0019】
チューブ3は長手方向にある程度の剛性を有し、半径方向に可撓性を有しているので、貫通孔B内を容易に進行し、図2(a)、(b)に示されるように、椎体C内の空間Xにおいては、自由に湾曲して空間Xを埋めていくようになる。チューブ3は椎体C内に挿入される過程において、半径方向に押圧されることによりその一部が潰れながら挿入されていくことになる。
【0020】
そして、チューブ3の後端開口3aに供給管6を取り付けておき、供給管6を貫通孔B内に挿入することにより、供給管6が貫通孔Bを貫通して、その先端を椎体C内の空間Xに配置されるとともに、その後端が患者の体外に配置される。
【0021】
この後に、供給管6の後端開口部6aにセメント供給装置7の吐出口7aを接続し、セメント供給装置7を作動させる。これにより、加圧された流動性セメント4が、供給管6を介して、該供給管6の先端に接続されたチューブ3に供給されていく。チューブ3の先端は閉塞されているが、排気孔5が設けられているので、流動性セメント4は比較的少ない抵抗でチューブ3内にスムーズに充填されていく。
【0022】
チューブ3は、椎体Cの空間X内で湾曲し、かつ半径方向に潰れて椎体C内の空間Xを埋めるように配置されているので、その内部に流動性セメント4を注入していくことにより、流動性セメント4によって潰れが復元していく。これにより、流動性セメント4は、チューブ3を復元させることによって椎体C内の空間Xを押し広げながら充填されるので、圧迫骨折により圧壊した椎体Cを整復していくことができる。そして、流動性セメント4をチューブ3のほぼ全長にわたって注入した後に、供給管6を貫通孔Bから引き抜くことにより、供給管6の先端からチューブ3を切り離して、椎体Cの空間X内に留置することができる。
【0023】
チューブ3内に充填された流動性セメント4は、経時的に硬化していくので、所定の時間の経過により、椎体Cの空間X内に湾曲して充填されたチューブ3の形態のままで硬化することになる。この場合において、流動性セメント4は、チューブ3によって椎体C内の空間Xの環境から隔離されているので、椎体C内の環境によって硬化を妨げられることなく効率よく硬化される。
【0024】
このように、本実施形態に係る骨補填キット2によれば、椎体C内の空間Xをほぼ埋めるように充填された曲がりくねったチューブ3内に充填された流動性セメント4が硬化することにより、椎体C内の空間Xに直接流動性セメント4を充填したのと同様に、椎体C内の空間Xに流動性セメント4を充填することができる。
この場合において、本実施形態によれば、流動性セメント4がチューブ3内に保持されるので、椎体Cに亀裂が生じていても、その亀裂から流動性セメント4が椎体C外に漏れることを防止することができる。
【0025】
また、本実施形態に係る骨補填材1によれば、椎体C内の空間Xに充填された状態で、チューブ3間に微少隙間が形成されるので、流動性セメント4がチューブ3内において硬化した後においても、チューブ3がその微少隙間の範囲で変位することができる。その結果、隣接する椎体Cから荷重がかかった場合には、チューブ3が微妙に変形することで隣接する椎体Cに対して過大な力が作用することを抑制し、隣接する椎体Cの2次的な骨折のような不都合の発生を未然に防止することができる。
【0026】
なお、本実施形態においては、チューブ3の先端を閉塞し、排気孔5のみを有する構造を採用したが、これに代えて、チューブ3がその壁面に多数の排気孔(図示略)を有する構造を採用してもよい。このようにすることにより、流動性セメント4を注入する際におけるチューブ3内からの排気をさらに容易にして、注入時の抵抗を低減し、注入し易さを向上することができる。
【0027】
また、流動性セメント4がチューブ3内に十分に充填された後に、さらに加圧されることにより、チューブ3内の流動性セメント4を排気孔を介してチューブ3外に微量漏れ出させることができる。その結果、漏れだした流動性セメント4が硬化することにより、チューブ3どうしを接合することができる。したがって、椎体C内の空間Xに充填された骨補填材1の剛性をさらに向上することができる。
【0028】
特に、流動性セメント4として、リン酸カルシウムセメントを使用することにより、リン酸カルシウムセメントの生体活性を利用して、骨補填材1の経時的な自家骨化を促進することができるという利点がある。
【0029】
また、本実施形態においては、チューブ3自体の剛性により椎体C内の空間Xに挿入していくこととしたが、空間X内に障害物がある場合等には、チューブ3がスムーズに挿入できないことも考えられる。このような場合には、チューブ3内にガイドワイヤ(図示略)を挿入して、ガイドワイヤを押すことにより、ガイドワイヤの剛性を利用してチューブ3を挿入することとしてもよい。
【0030】
また、1本のチューブ3のみでは十分な充填量ではない場合には、複数本のチューブ3を順次充填していくこととしてもよい。この場合には、先に充填したチューブ3により後から挿入するチューブ3の進行が妨げられるので、ガイドワイヤによって挿入力を高めることにしてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【図1】本発明の一実施形態に係る骨補填材を構成するチューブの挿入手順を説明する図である。
【図2】図1のチューブの挿入過程を説明する図である。
【図3】本発明の一実施形態に係る骨補填キットを示す図である。
【図4】図3の骨補填キットにより、椎体内に骨補填材を充填した状態を示す図である。
【符号の説明】
【0032】
A 椎弓根
B 貫通孔
C 椎体
1 骨補填材
2 骨補填キット
3 チューブ
4 流動性セメント
5 排気孔(貫通孔)
6 供給管
7 セメント供給装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
椎弓根に形成された貫通孔を介して椎体内に挿入される骨補填材であって、
可撓性を有し、軸方向に押圧力を伝達可能な生体適合性を有するチューブと、
該チューブ内に充填された硬化性の流動性セメントとを備える骨補填材。
【請求項2】
前記チューブの壁面に貫通孔が設けられている請求項1に記載の骨補填材。
【請求項3】
前記流動性セメントが、リン酸カルシウムセメントである請求項2に記載の骨補填材。
【請求項4】
椎弓根に形成された貫通孔を介して椎体内に挿入される可撓性を有するチューブと、
該チューブに着脱可能に接続される前記貫通孔を貫通して配置される供給管と、
該供給管の後端から、該供給管を介して硬化性の流動性セメントを椎体内のチューブに供給するセメント供給装置とを備える骨補填キット。
【請求項5】
前記チューブの壁面に貫通孔が設けられている請求項4に記載の骨補填キット。
【請求項6】
前記流動性セメントが、リン酸カルシウムセメントである請求項5に記載の骨補填キット。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2008−104811(P2008−104811A)
【公開日】平成20年5月8日(2008.5.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−292924(P2006−292924)
【出願日】平成18年10月27日(2006.10.27)
【出願人】(304050912)オリンパステルモバイオマテリアル株式会社 (99)
【Fターム(参考)】