説明

高い安定性を持つ薬理組成物

本発明は、ペプチド剤用の制御放出型の放出系として有用な、安定化された生分解性ポリマー組成物を提供する。本発明の組成物は、a) 強酸を用いて形成されたペプチド剤の有益な塩、これは、有機溶液における、該ペプチド剤と該ポリマーとの間の相互作用/反応を最小化又は阻害する;b) 生分解性ポリマー;c) 製薬上許容される有機溶媒;及びd) 場合により1又はそれ以上の賦形剤を含む。本発明は、また該組成物の製法及びその使用法にも関連する。

【発明の詳細な説明】
【背景技術】
【0001】
近年においては、多数の及び様々なペプチド剤、例えばペプチド、オリゴペプチド、ポリペプチド及びタンパク質が発見され、また薬物候補として高い注目を集めている。しかし、多くのペプチド剤は、酵素によってインビボにて容易に加水分解又は分解され、極めて短い循環半減期をもたらすことから、安定とはいえない。従って、ペプチド系医薬の殆どは、典型的には1日当たり複数回に及ぶ、注射によって投与されている。
【0002】
しかし、注射による投与は、苦痛を伴い、経費がかかり、また不便である。しばしば、患者はその応諾には、極めて忌避的である。多くのペプチド剤、特にホルモンに対しては、該薬物を、長期間に渡り、制御された速度にて、連続的に放出する必要があり、従って制御放出型の送達系が望ましい。このような系は、該ペプチド剤を、生分解性かつ生体適合性のポリマーマトリックス中に配合することにより得ることができる。一つの方法においては、該ポリマーを、有機溶媒中に溶解し、次いでペプチド剤と混合し、有機溶媒を除去することによって該ペプチド剤はマイクロカプセル、微細顆粒又は移植可能なロッドの形状に形成される。該ペプチド剤は、該ポリマーマトリックス中に閉じ込められている。幾つかの製品が、マイクロ粒子及び固体のロッド状インプラント、例えばルプロン(Lupron)、ゾラデックス(Zoladex)、トリプトレリン(Triptorelin)等の形状にある、生分解性のポリマーを使用することにより、上首尾で開発された。これらの製品は効果的であると考えられるが欠点及び限界を有し、例えばマイクロ粒子のために大容量の懸濁流体を必要とし、又は固体インプラントの外科的装入が必要である。これらの製品は、患者にとって全く都合のよいものとはいえない。加えて、無菌かつ再現性ある製品を作るための、製造工程は複雑であり、高い製造コストを必要とする。組成物が容易に製造でき、しかも容易に使用できることが、極めて望ましいことである。
【0003】
もう一つの方法においては、該生分解性ポリマー及び該ペプチド剤を、生体適合性有機溶媒中に溶解して、液状組成物を生成する。該液状組成物を、身体内に注入する場合、該溶媒は、周囲の水性環境内に散逸され、該ポリマーは、固体又はゲルデポ剤を形成し、そこから該生物活性な薬剤が長期間に渡り遊離される。以下のような参考文献が、当分野において代表的なものであると考えられ、またこれらを参考としてここに組入れる:米国特許第6,565,874号;同第6,528,080号;同第RE37, 950号;同第6,461,631号;同第6,395,293号;同第6,355,657号;同第6,261,583号;同第6,143,314号;同第5,990,194号;同第5,945,115号;同第5,792,469号;同第5,780,044号;同第5,759,563号;同第5,744,153号;同第5,739,176号;同第5,736,152号;同第5,733,950号;同第5,702,716号;同第5,681,873号;同第5,599,552号;同第5,487,897号;同第5,340,849号;同第5,324,519号;同第5,278,202号;同第5,278,201号;及び同第4,938,763号。幾分かの成功にも拘らず、これらの方法は、このような方法によって効果的に送達され得るペプチド剤の多くのものに対して、完全に満足なものではなかった。
【0004】
当分野においては、塩基性官能基を含む生物活性薬剤が、生分解性のポリマーと相互作用して、該ポリマーの分解を触媒(又は促進)し、また該ポリマー及び/又はその分解生成物と協約結合を形成することは、十分に認識されている。該生物活性薬剤及びポリマー担体間の相互作用/反応は、1) 該塩基性生物活性薬剤が該ポリマー担体中に取り込まれる際の処方中、例えばマイクロカプセル化、射出成型、押出成型、有機溶媒中でのポリマー溶液との混合;2) 保存中;及び3) 生分解過程中及びインビボでの生物活性薬剤の放出中に生じる可能性がある。
【0005】
ペプチド剤及び生分解性ポリマーの分解、及びこれら2種間の反応は、典型的には乾燥した固体状態におけるよりも、溶液中でより迅速に起る。生物活性薬剤及びポリマーが、非極性溶媒中に溶解/分散されている、溶媒蒸発/抽出法を利用したマイクロ粒子の形成過程中の、塩基性官能基、即ちアミンを含有する該生物活性薬剤とポリマーとの間の該相互作用/反応については、既に記載された[Krishnan M.及びFlanagan DR., J Control Release., 2000, Nov 3; 69(2): 273-81]。かなりの量のアミド部分が形成された。生分解性ポリマー薬物送達系を製造するために、通常使用される溶媒は、生物活性薬剤とポリマーとの間の迅速な反応を可能とすることが明確に示された。別の開示においては、極性プロトン性有機溶媒(例えば、メタノール)中の有機アミンによる、ポリマーの促進された分解についても、また報告された[Lin WJ, Flanagan DR, Linhardt RJ., Pharm. Res., 1994, 7月, 11(7):1030-4]。
【0006】
該制御放出型の送達系は、通常、有機溶媒中の生分解性ポリマー溶液にペプチド剤を溶解/分散させる操作を包含する段階を通して製造されるので、この段階における該組成物中の成分全ての安定性は、処方に係る極めて重要な要件である。溶液又は懸濁液におけるペプチド剤及び生分解性ポリマーの、製造並びに保存安定性に係る課題を克服するために使用されている、一般的な一つの方法は、該ペプチド剤及び該ポリマー溶液を、別々の2つの容器内に維持し、かつ使用の直前にこれらを混合することである。ここでは、該有機溶媒が、該ペプチド剤と該ポリマー溶液とを混合した後に、拡散、抽出又は蒸発によって、迅速にポリマーマトリックスから分離できることを想定している。その一例は、米国特許第6,565,874号及び同第6,773,714号に記載された。これら文献は、前立腺癌の治療用の、市販品エリガード(EligardTM)に関連するロイプロリドアセテート(ロイプロレリン)の、ポリマー放出処方物を記載している。該処方物の安定性を維持するために、この製品は、別々の注射器に収容して供給され、また該注射機内の内容物は、使用直前に混合される。しかし、該ポリマー処方物の粘稠な特性のために、最終的な使用者が、これら2つの別々の注射機内の内容物を混合することは、しばしば困難である。該最終的な使用者によって調製された該処方物の均一性は、著しく変動する恐れがあり、汚染が起る可能性もあり、また該治療の質も、大幅に低下する可能性がある。さらに、この方法は、混合並びに投与の際の、該ペプチド剤とポリマーとの間の相互作用を妨害することはない。US20060034923 A1に記載されているように、オクトレオチドアセテートを、NMPに溶解したポリラクチド-co-グリコリドの溶液と併合する際には、40%を越える量のオクトレオチドが、5時間以内にアシル化される。該ペプチドのこのような変性は、その活性の大幅な低下又は免疫原性の変化に導く可能性がある。該ポリマーの分子量も、同一の期間内に著しく低下した。該ペプチド及びポリマーのこの迅速な分解は、該ペプチドの放出プロフィールを変更し、また低下した治療上の結果をもたらす。従って、製造工程及び時間の正確な制御が決定的なものとなり、またこれは、最終的な利用者に対する困難さを著しく増大する。その上、該注入可能なポリマー組成物からの、該インプラントのインビボ形成が、即時的に起ることはない。典型的に、該溶媒の散逸過程は、使用した溶媒に依存して、2、3時間乃至数日を要する可能性がある。この期間中の、有機溶媒の存在は、該ペプチド剤と該ポリマーとの間の相互作用/反応を促進する可能性があった。従って、有機溶液中での、該ペプチド剤と該ポリマーとの間の相互作用/反応を最小化又は阻止する薬理組成物を、開発する必要性がある。さらに、直ぐに使用できる製品構成において、満足な保存有効期限を持つ、安定な薬理組成物を開発する必要性もある。
【発明の開示】
【0007】
驚いたことに、強酸(例えば、塩酸)を使用して形成した塩の形状にあるペプチド剤を含む、注入可能な生分解性のポリマー組成物が、弱酸(例えば、酢酸)を用いて形成した塩の状態、又は遊離塩基状態にあるものよりも、一層高い安定性を示すことを見出した。ペプチド剤のこのような有益な塩は、該ペプチド剤の任意の塩基性基を、強酸で中和することによって生成し得る。強酸を用いて形成した、ペプチド剤のこのような有益な塩を、注入可能な生分解性のポリマー組成物に配合した場合、該ペプチド剤と該ポリマーとの間の相互作用/反応は、最小化又は阻害される。強酸を用いて形成した、ペプチド剤のこのような有益な塩を使用すると、満足な保存安定性を持つ、直ぐに使用できる構成で、単一の注射器に予め満たした、安定化された注入可能な組成物の製造が可能となる。該注入可能なポリマー組成物の安定性を高めるための、本発明の、強酸を用いて形成した、ペプチド剤のこのような有益な塩の使用は、従来技術においては全く意図されていない。
【0008】
従って、本発明は、ペプチド剤に対する、経済的で、実用的な、かつ効果的に制御された放出型の送達系を製造するための、安定化された注入可能な生分解性のポリマー組成物を提供する。本発明は、また該組成物の製造方法及びその使用法をも提供する。本発明によれば、該薬物放出系は、容易に製造され、また哺乳動物又はヒト等の対象に、有利に送達される。該組成物は、所定の、長期間に渡り、好ましくは数週間乃至1年間に渡り、治療的な量のペプチド剤を送達する。該組成物は、生体適合性及び生分解性両者を満足するものであり、また該ペプチド剤の所定容量を送達した後、何の害もなしに消失する。
【0009】
本発明による該組成物は、a) 有機溶液中での、ペプチド剤とポリマーとの間の相互作用/反応を最小化又は阻害する、強酸を用いて形成された、該ペプチド剤の有益な塩;b) 生分解性ポリマー;c) 製薬上許容される有機溶媒を含む。本発明によれば、該薬理組成物は、場合により該ペプチド剤の最適の送達を達成するための賦形剤を含むことができる。該薬理組成物は、粘稠な又は非-粘稠な液体、ゲル又は半-固体であり得、これは流体として運動し、結果的に注射器を用いて注入することができる。該薬理組成物は、一本の注射器に予め充填して、直ぐに使用できる構成にある製品を製造することができる。
【0010】
本発明のペプチド剤は、少なくとも一つの塩基性の基を含む。該ペプチド剤は、動物又はヒトにおいて、生物学的、生理的又は治療上の効果を与えることのできる、任意のペプチド、オリゴペプチド、ポリペプチド、又はタンパク質であり得る。該ペプチド剤は、本明細書において引用されたあらゆる文書において認識されている、あるいはまた当分野において認識されている、任意の1種又はそれ以上の、公知の生物学的に活性なペプチド、オリゴペプチド、ポリペプチド、又はタンパク質であり得る。該ペプチド剤は、また動物又はヒトにおける、所定の生物学的又は生理学的活性を刺激又は阻害することができ、これは、制限なしに、免疫原性又は免疫学的な応答の刺激を含む。
【0011】
本発明の一態様によれば、該ペプチド剤は、一級アミン以外のN-末端を持つ(例えば、LHRHアゴニスト、例えばロイプロレリン、ゴセレリン、LHRHアンタゴニスト、例えばセトロレリックス、エンフビルチド(enfuvirtide)、チモシンα1、及びアバレリックス(abarelix)等)。本発明の他の態様においては、該ペプチド剤は、親水性及び/又は親油性部分によって、共有結合的に修飾された、N-末端一級アミノ又は側鎖一級アミノ基の何れかを含み、これは、ペジレーション(pegylation)、アシル化等によって製造できる。さらに、これら該ペプチド剤のN-末端一級アミノ及び側鎖一級アミノ基の両者も、ペギレーション、アシル化等によって、同時に親水性及び/又は親油性部分で、共有結合的に修飾することも可能である。
【0012】
該強酸は、3未満、好ましくは0未満、より好ましくは-3未満の、水中でのpKaを持つ任意の酸であり得る。例えば、該強酸は、塩酸、臭化水素酸、硫酸、有機硫酸、1-40個の炭素原子を含むアルキル硫酸、硝酸、クロム酸、メタンスルホン酸、トリフルオロメタンスルホン酸、有機スルホン酸、トリクロロ酢酸、ジクロロ酢酸、ブロモ酢酸、クロロ酢酸、シアノ酢酸、2-クロロプロパン酸、2-オキソブタン酸、2-クロロブタン酸、4-シアノブタン酸、過塩素酸、リン酸、ヨウ化水素酸等からなる群から選択できるが、これらに限定されない。
【0013】
該生分解性ポリマーは、任意の生体適合性及び製薬上許容されるポリマーであり得る。該生分解性ポリマーは、加熱した際に溶融し、かつ冷却した際に固化する、熱可塑性ポリマーであり得る。本発明の該生分解性ポリマーは、水性流体又は体液には実質的に不溶性であるが、水不混和性有機溶媒中に実質的に溶解し、又は分散して、溶液又は懸濁液を生成し得る。水性流体と接触した際に、該水不混和性有機溶媒は、本発明の組成物から拡散/散逸し、これは、該ポリマーの凝固を生じて、該ペプチド剤を封入する、ゲル又は固体マトリックスを形成する。本発明の組成物にとって適した該ポリマーの例は、何ら制限されるものではないが、以下に列挙するものを包含する:ポリラクチド、ポリグリコリド、ポリカプロラクトン、ポリ無水物、ポリウレタン、ポリエステルアミド、ポリオルトエステル、ポリジオキサノン、ポリアセタール、ポリケタール、ポリカーボネート、ポリオルトカーボネート、ポリホスファゼン、ポリヒドロキシブチレート、ポリヒドロキシバレレート、ポリアルキレンオキサレート、ポリアルキレンサクシネート、ポリ(マレイン酸)、ポリ(無水マレイン酸)、及びこれらのコポリマー、ターポリマー、又は組合せ若しくは混合物。好ましくは、乳酸を主成分とするポリマー、及びポリ(D,L-ラクチド-co-グリコリド)及びポリ(L-ラクチド-co-グリコリド)を含む、乳酸とグリコール酸とのコポリマー(PLGA)を、本発明において使用する。幾つかの態様において、該PLGAポリマーは、約2,000〜約100,000なる範囲内の質量平均分子量及び約50:50〜100:0なる範囲内の、乳酸対グリコール酸のモノマー比を有する。
【0014】
上記の製薬上許容される有機溶媒は、N-メチル-2-ピロリドン、メトキシポリエチレングリコール、アルコキシポリエチレングリコール、ポリエチレングリコールエステル、グリコフロール、グリセロールホルマール、メチルアセテート、エチルアセテート、メチルエチルケトン、ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド、テトラヒドロフラン、カプロラクタム、デシルメチルスルホキシド、ベンジルベンゾエート、エチルベンゾエート、トリアセチン、ジアセチン、トリブチリン、トリエチルシトレート、トリブチルシトレート、アセチルトリエチルシトレート、アセチルトリブチルシトレート、トリエチルグリセリド、トリエチルホスフェート、ジエチルフタレート、ジエチルタルタレート、エチルラクテート、プロピレンカーボネート、エチレンカーボネート、ブチロラクトン、及び1-ドデシルアザシクロ-ヘプタン-2-オン、及びこれらの混合物からなる群から選択することができる。
【0015】
本発明によれば、1種又はそれ以上の賦形剤を本発明の組成物に配合して、該ペプチド剤の最適の送達性を達成することができる。適当な賦形剤は、放出速度調節剤、バースト作用低下物質、緩衝性物質、酸化防止剤等を含むことができる。
【0016】
本発明によれば、適当な放出速度調節剤は、以下に列挙するものを含むが、これらに限定されない:両親媒性化合物又はコポリマー、例えばアルカンカルボン酸、オレイン酸、アルキルアルコール、極性脂質、界面活性剤、ポリエチレングリコールとポリラクチドのコポリマー即ちポリ(ラクチド-co-グリコリド)、ポロキサマー、ポリビニルピロリドン、ポリソルベート等;モノ-、ジ-及びトリカルボン酸のエステル、例えば2-エトキシエチルアセテート、トリエチルシトレート、アセチルトリブチルシトレート、アセチルトリエチルシトレート、グリセロールトリアセテート、ジ(n-ブチル)セバケート等;ポリヒドロキシアルコール、例えばポリエチレングリコール、ソルビトール等;脂肪酸;グリセロールのトリエステル、例えばトリグリセライド、中鎖トリグリセライド、例えばミグリオール(MIGLYOL) 810、812、818、829、840等。放出速度調節剤の混合物も、本発明の該ポリマー系において使用できる。
【0017】
本発明によれば、適当な緩衝剤は、以下に列挙するものを含むが、これらに限定されない:炭酸カルシウム、水酸化カルシウム、ミリスチン酸カルシウム、オレイン酸カルシウム、パルミチン酸カルシウム、ステアリン酸カルシウム、リン酸カルシウム、炭酸マグネシウム、水酸化マグネシウム、リン酸マグネシウム、ミリスチン酸マグネシウム、オレイン酸マグネシウム、パルミチン酸マグネシウム、ステアリン酸マグネシウム、炭酸亜鉛、水酸化亜鉛、ミリスチン酸亜鉛、オレイン酸亜鉛、パルミチン酸亜鉛、ステアリン酸亜鉛、リン酸亜鉛、及びこれらの組合せ。
【0018】
本発明によれば、適当な酸化防止剤は、以下に列挙するものを含むが、これらに限定されない:d-α-トコフェロールアセテート、アスコルビルパルミテート、ブチレート化ヒドロキシアニドール(hydroxyanidole)、ブチレート化ヒドロキシアニソール、ブチレート化ヒドロキシキノン、ヒドロキシコマリン(hydroxycomarin)、ブチレート化ヒドロキシトルエン、エチルガレート、プロピルガレート、オクチルガレート、ラウリルガレート、プロピルヒドロキシベンゾエート、トリヒドロキシブチロフェノン(trihydroxybutylrophenone)、ビタミンE、ペジレーテッド(pegylated)ビタミンE、又はビタミンE-TPGS等。
【0019】
本発明は、さらにこのような組成物を製造する方法及びその使用方法をも提供する。例えば、このような組成物を製造する方法は、ペプチド剤の塩基性アミノ基を中和して、該塩基性アミノ基と該ポリマーとの間の相互作用/反応を最小化又は阻害する工程を含み;また該組成物は、該有益な塩と他の成分及び随意の1種又はそれ以上の賦形剤との組合せを含む。好ましくは、該ペプチド剤の該有益な塩を、先ず製造し、次いで有機溶媒中に溶解している該ポリマーと組み合わせる。このような組成物は、制御された送達系の製造工程、例えばマイクロ粒子の製造工程又は他の移植性マトリックス製造工程の前及び該工程中、物理-化学的に安定である。好ましくは、このような注入可能な組成物は、製造、保存、及びその後の対象への投与の際に物理-化学的に安定であり、また組織部位に投与された際に、不変のかつ制御された放出性を示すインプラントを形成する。
【0020】
本発明は、さらに該注入可能な組成物を投与して、不変かつ制御された放出性を示すデポ剤系を製造するためのキットをも提供するものであり、該キットは、製薬上許容される溶媒に溶解した生分解性のポリマー;該ポリマービヒクル中に溶解又は分散された、強酸を使用して形成した、少なくとも一つの塩基性アミノ基を含む、ペプチド剤の有益な塩;及び随意の1種又はそれ以上の賦形剤を含む。これら全ての成分の均一な混合物は、単一の容器内に収容される。好ましくは、該容器は注射器である。従って、本発明は、また注射器を該組成物で充填して、そのまま使用できる構成の安定な製品を製造する工程を含む、方法をも提供する。
【0021】
本発明は、さらに対象内で、該ペプチド剤の制御放出型の送達系として機能し得るインプラントを、その場で製造する方法をも提供する。該ペプチド剤は、好ましくは該その場で生成されるインプラント内に組込まれ、引続き、該ポリマーの分解に伴って、周囲の組織流体中に、及び関連する身体組織又は器官に放出される。この方法は、本発明の注入可能な組成物の、液体を適用する任意の適当な方法、例えば注射器、針、カニューレ、カテーテル、加圧器等の使用によって、移植部位に投与することを含む。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
本発明は、ペプチド剤用の、経済的で、実用性のある、かつ効果的な制御放出型の送達系を製造するための、安定化された注入可能な生分解性ポリマー組成物を提供する。本発明は、また該組成物の製造方法及び該組成物の使用方法をも提供する。
【0023】
本発明の組成物は、a) 強酸を用いて形成したペプチド剤の有益な塩、これは有機溶媒中での、該ペプチド剤と以下のポリマーとの間の相互作用/反応を最小化又は阻害する;b) 生分解性ポリマー;及びc) 製薬上許容される有機溶媒とを含む。本発明によれば、該薬理組成物は、場合によって、該ペプチド剤の最適な送達性を達成するために、1種又はそれ以上の賦形剤を含むことができる。本発明の該注入可能なポリマー組成物は、流体として運動して、注射器を用いて注入することのできる、粘稠な又は非-粘稠な液体、ゲル又は半-固体であり得る。該注入可能なポリマー組成物を、一本の注射器に予め充填して、そのまま使用できる構成を持つ製品キットを製造することができる。
【0024】
本発明の制御放出型の送達系は、インビトロで、移植可能なマトリックスとして製造することができ、あるいはまたゲル又は固体インプラントとして、その場で製造することも可能である。対象に投与する場合、該ペプチド剤の制御放出は、該インプラントの組成に依存して、所定期間に渡り維持することができる。該生分解性のポリマー及び他の成分を選択することにより、該ペプチド剤の持続放出期間は、数週間乃至1年間なる範囲の期間に渡り、調節することができる。
【0025】
本明細書で使用する単数形の表示、即ち「a」、「an」及び「one」は、「1種又はそれ以上」及び「少なくとも一つ」として理解すべきものであることを意味する。
【0026】
本明細書で使用する用語「安定化(された)」とは、該注入可能なポリマー組成物中の成分の安定性における、大幅な改善を意味し、この改善は、実用可能な製品を開発するのに必要な安定状態を達成するのに必要である。本明細書で使用する用語「安定化(された)注入可能なポリマー組成物」とは、該組成物の成分、例えば該ポリマー及び該ペプチド剤が、該組成物の製造中、及び長期間、例えば数ヶ月〜数年、好ましくは12ヶ月を越える期間に渡る、適当な条件下での保存後に、該成分の元の分子量、構造及び又は生物学的な活性の少なくとも80%、好ましくは少なくとも90%を維持していることを意味する。
【0027】
本明細書で定義する用語「制御(された)放出型の送達」とは、投与後の、所定の、長期間に渡る、好ましくは少なくとも数週間乃至1年間に渡る、インビボでの、ペプチド剤の送達を意味するものとする。
【0028】
本明細書で使用する用語「ペプチド剤」とは、包括的な意味で、通常、一般的に、本明細書では互換的に使用される、「ペプチド」、「オリゴペプチド」及び「ポリペプチド」又は「タンパク質」と呼ばれている、ポリ(アミノ酸)を含むものである。この用語は、またペプチド剤類似体、誘導体、アシル化誘導体、グリコシル化誘導体、ペジレーテッド(pegylated)誘導体、融合タンパク質等をも包含する。該「塩基性ペプチド剤」は、塩基性アミノ酸、例えばアルギニン又はリジンの存在に起因する、あるいは該ペプチド剤のN-末端に起因する、事実上塩基性のペプチド、又は少なくとも一つの塩基性基を含み、場合により1種又はそれ以上の酸性アミノ酸基が存在する、単なるペプチド剤である。該用語は、またペプチドの合成類似体、塩基性の官能性を持つ非-天然型のアミノ酸、又は導入された塩基性を持つ型の任意の他の形状のものを包含する。
【0029】
用語「ペプチド剤」とは、診断並びに治療特性を持つあらゆるペプチド剤を含むものとし、例えば抗-代謝性、抗-真菌性、抗-炎症性、抗-腫瘍性、感染防止性、抗生物性、栄養物性、アゴニスト性、及びアンタゴニスト性特性を持つペプチド剤を含むが、これらに限定されない。
【0030】
具体的には、本発明の該ペプチド剤は、強酸と有益な塩を形成することのできる任意のペプチド、特に電子供与性の塩基性基、例えば塩基性窒素原子、例えばアミン、イミン又は環状窒素を含むペプチド剤であり得る。該ペプチド剤は、好ましくは1又はそれ以上の露出したプロトン化可能なアミン官能基を含む。本発明の組成物の製造において有用なペプチド剤は、以下に列挙するものを含むが、これらに限定されない:オキシトシン、バソプレシン、副腎皮質刺激ホルモン(ACTH)、上皮増殖因子(EGF)、血小板由来増殖因子(PDGF)、プロラクチン、黄体形成ホルモン、黄体形成ホルモン放出ホルモン(LHRH)、LHRHアゴニスト、LHRHアンタゴニスト、成長ホルモン(ヒト、ブタ及びウシを含む)、成長ホルモン放出因子、インシュリン、エリスロポエチン(赤血球生成活性を持つ全てのタンパク質を含む)、ソマトスタチン、グルカゴン、インターロイキン(これはIL-2、IL-11、IL-12等を含む)、インターフェロン-α、インターフェロン-β、インターフェロン-γ、ガストリン、テトラガストリン、ペンタガストリン、ウロガストロン、セクレチン、カルシトニン、エンケファリン、エンドルフィン、アンギオテンシン、甲状腺刺激ホルモン放出ホルモン(TRH)、腫瘍壊死因子(TNF)、副甲状腺ホルモン(PTH)、神経成長因子(NGF)、顆粒球コロニー刺激因子(G-CSF)、顆粒球マクロファージ-コロニー刺激因子(GM-CSF)、マクロファージ-コロニー刺激因子(M-CSF)、ヘパリナーゼ、血管内皮成長因子(VEG-F)、骨形態形成タンパク質(BMP)、hANP、グルカゴン-様ペプチド(GLP-1)、エキセナチド(exenatide)、ペプチドYY(PYY)、レニン、ブラジキニン、バシトラシン、ポリミキシン、コリスチン、チロシジン、グラミシジン、シクロスポリン(これは、合成類似体及びその薬理的に活性なフラグメントを含む)、酵素、サイトカイン、抗体、ワクチン、抗生物質、抗体、糖タンパク質、卵胞刺激ホルモン、キョートルフィン、タフトシン、チモポイエチン、チモシン、チモスチムリン、胸腺体液性因子、血清胸腺因子、コロニー刺激因子、モチリン、ボンベシン、ダイノルフィン(dinorphin)、ニューロテンシン、セルレイン、ウロキナーゼ、カリクレイン、物質P類似体及びアンタゴニスト、アンギオテンシンII、血液凝固因子VII及びIX、グラミシジン、メラノサイト刺激ホルモン、甲状腺ホルモン放出ホルモン、甲状腺刺激ホルモン、パンクレオチミン、コレシストキニン、ヒト胎盤性ラクトゲン、ヒト絨毛性ゴナドトロピン、タンパク質合成刺激ペプチド、胃抑制性ペプチド、血管作用性腸ペプチド、血小板由来増殖因子、及びこれらの合成類似体及び変性体並びに薬理的に活性なそのフラグメント。
【0031】
本発明において使用する好ましいペプチド剤は、N-末端が、一級アミンでないペプチド剤を包含する。例えば、該ペプチド剤のN-末端は、ピログルタミン酸、例えばLHRH、及びLHRHアゴニスト、例えばロイプロレリン、ブセレリン、ゴナドレリン、デスロレリン、フェルチレリン、ヒストレリン、ルトレリン、ゴセレリン、ナファレリン、トリプトレリン等であり得る。あるいはまた、該N-末端アミノ基は、キャップド又はアシル化されたもの、例えばセトロレリックス、エンフビルチド(enfuvirtide)、チモシンα1、及びアバレリックス(abarelix)であり得る。
【0032】
本発明において使用する好ましいペプチド剤は、またN-末端一級アミンが、例えばペジレーション、アシル化等により、共有結合的に親水性及び/又は親油性部分で修飾されたペプチド剤をも含む。本発明において使用する好ましいペプチド剤は、さらに側鎖一級アミンが、例えばペジレーション、アシル化等により、共有結合的に親水性及び/又は親油性部分で修飾されたペプチド剤をも含む。本発明において使用する好ましいペプチド剤は、さらにN-末端一級アミノ基及び側鎖一級アミノ基両者が、同時に、例えばペジレーション、アシル化等により、共有結合的に親水性及び/又は親油性部分で修飾されたペプチド剤をも含む。
【0033】
該用語「親水性部分」とは、任意の水溶性の直鎖又は分岐オリゴマー又はポリマーを意味し、例えばポリエチレングリコール及びポリプロピレングリコール及び同様な直鎖又は分岐ポリマーを含むが、これらに限定されない。好ましくは、該ポリマーの分子量は、約500Da〜約50,000Daなる範囲内にある。本発明において使用する該親水性部分は、対象とする該ペプチド剤に、アミノ基、カルボキシル基、ヒドロキシル基又はチオール基を介して結合するために組込まれた、反応性の基を含むことができる。
【0034】
ここで使用する用語「ペジレーション(pegylation;PEGylation)」とは、可溶性のポリエチレングリコールの、該ペプチド剤に対する共有結合を意味する。ポリエチレングリコールは、メトキシ基等でキャップされた一方の端部及びペプチド剤上の活性基との結合を容易にすべく、活性化された他方の端部に関する、標準的なプロトコールに従って、製造できる。例えば、ポリエチレングリコールの様々な製法及びペジレーションのためのその使用は、当分野において記載されている[例えば、Roberts MJ, Bentley MD, Harris JM, ペプチド及びタンパク質のペジレーションのための化学(Chemistry for peptide and protein PEGylation), Adv. Drug Deliv. Rev., 2002, 6月17日; 54(4): 459-76;Veronese FM. ペプチド及びタンパク質のペジレーション(Peptide and protein PEGylation): 問題及び解決法の概観(a review of problems and solutions),Biomaterials, 2001, 3月; 22(5): 405-17及び米国特許第6,113,906号;同第5,446,090号;同第5,880,255号]。これら公知文献全てを、参考としてここに組入れる。
【0035】
該用語「親油性部分」とは、5mg/mL未満、好ましくは0.5mg/mL未満、より好ましくは0.1mg/mL未満の、20℃における水に対する溶解度を持つ分子を意味する。このような親油性部分は、好ましくはC2-39-アルキル、C2-39-アルケニル、C2-39-アルカジエニル及びステロイド残基から選択される。該用語「C2-39-アルキル、C2-39-アルケニル、C2-39-アルカジエニル」とは、炭素原子数2-39の、直鎖及び分岐鎖の、好ましくは直鎖の、飽和、モノ-不飽和及びジ-不飽和炭化水素を包含するものとする。
【0036】
ペプチド剤に対する共有結合的な親油性部分の導入は、親油性に変性されたペプチドに導き、これは元の分子と比較して、改善された治療効果を持つ可能性がある。この親油性化は、典型的には、ペプチド剤におけるアミノ基と、親油性分子における酸又は他の反応性の基との反応によって行うことができる。あるいはまた、ペプチド剤と親油性分子との間の結合は、分解性又は非-分解性であり得るブリッジ、スペーサ、又は結合部分等の追加の部分を介して行われる。幾つかの例が、従来技術に記載されている[例えば、Hashimoto, M.等, Pharmaceutical Research, 1989, 6:171-176及びLindsay, D. G.等, Biochemical J., 1971, 121:737-745;米国特許第5,693,609号;WO95/07931;米国特許第5,750,497号;及びWO96/29342;WO98/08871;WO98/08872及びWO99/43708]。これら公知技術の開示事項を、親油的に変性されたペプチドを説明し、またこれらの製造を可能とするための参考として、明確にここに組入れる。
【0037】
本明細書において定義する用語「強酸」とは、3未満、好ましくは0未満、及びより好ましくは-3未満の、pKa値を持つ任意の酸を含むことを意味する。本発明にとって適した該強酸は、塩酸、臭化水素酸、硝酸、クロム酸、硫酸、メタンスルホン酸、トリフルオロメタンスルホン酸、トリクロロ酢酸、ジクロロ酢酸、ブロモ酢酸、クロロ酢酸、シアノ酢酸、2-クロロプロパン酸、2-オキソブタン酸、2-クロロブタン酸、4-シアノブタン酸、パモ酸、過塩素酸、リン酸、ヨウ化水素等からなる群から選択されるが、これらに限定されない。
【0038】
本発明の該「強酸」は、また任意の有機硫酸、例えば炭素原子数1-40、好ましくは炭素原子数18未満及びより好ましくは炭素原子数6未満のアルキル、アリール又はアルキルアリール硫酸、及び有機スルホン酸、例えば炭素原子数1-40、好ましくは炭素原子数18未満及びより好ましくは炭素原子数6未満の、例えばアルカン、アリールアルカン、アレン、又はアルケンスルホン酸を含む。
【0039】
本明細書で定義する用語「ペプチド剤の有益な塩」とは、強酸を用いて形成したペプチド剤の任意の塩を含むことを意味する。該ペプチド剤の有益な塩は、簡単な酸と塩基との滴定又は中和によって製造できる。該ペプチド剤の有益な塩は、その合成工程及び精製工程中に製造することができる。あるいはまた、これらは、遊離塩基型のペプチド剤から製造することができる。該遊離塩基は、適当な液状媒体に溶解される。該ペプチド剤のこの溶液を、強酸の溶液と混合し、該溶媒を濾過又は凍結乾燥等の適当な手段によって除去することにより、該有益な塩を形成する。該ペプチド剤が、弱酸(即ち、pKa>3)を用いて形成した一般的に市販品として入手できる塩の形状にある場合には、該弱酸を、一般的なイオン交換法、例えば凍結乾燥法、沈殿法又は他の当分野において公知の方法によって、強酸で置換することができる。例えば、ロイプロリドアセテートを、適当な液状媒体、例えば水に溶解する。該ペプチド剤のこの溶液を、塩酸等の強酸の水性溶液と混合する。該ペプチドアセテート及び塩酸等の強酸を水に溶解すると、該強酸HClが弱酸のカルボン酸である酢酸と置き換わるにつれて、該ペプチドは、塩素イオンと結合する傾向がある。該溶媒及び遊離された酢酸(又は他の弱いが揮発性のカルボン酸)は、減圧下で除去される。従って、該混合溶液を、凍結乾燥して、水及び弱酸を除去し、結果的に該有益な塩を形成する。該ペプチド剤が、低pHにおいて安定でない場合、該ペプチド剤の有益な塩は、極めて低い強酸濃度に対して、徹底的な透析によって調製することができる。
【0040】
本発明の注入可能なポリマー組成物は、0.01〜40質量%なる範囲の量のペプチド剤を含むことができる。一般的に、最適な薬物負荷は、所望の放出期間及び該ペプチド剤の効力に依存する。明らかに、低効力かつ放出時間の長いペプチド剤に関しては、より高濃度での配合が必要となる可能性がある。
【0041】
該用語「生分解性」とは、その場で、徐々に分解し、溶解し、加水分解され及び/又は侵蝕される物質を意味する。一般に、本明細書において、該「生分解性ポリマー」とは、加水分解可能な、及び/又は主として加水分解及び/又は酵素分解により、その場で生物学的に侵蝕されるポリマーである。
【0042】
ここで使用する該用語「生分解性ポリマー」とは、インビボにおいて使用できる、任意の生体適合性及び/又は生分解性の合成並びに天然ポリマーを含むことを意味するが、該ポリマーが、少なくとも実質的に水性媒体又は体液に不溶であることを条件とする。ここで使用する用語「実質的に不溶」とは、該ポリマーの不溶性が、水性媒体又は体液中で該ポリマーを析出するのに十分なものである必要があることを意味する。好ましくは、該ポリマーの溶解度は、1質量%未満、及びより好ましくは0.1質量%未満である。水混和性又は分散性有機溶媒中のポリマー溶液を水性溶液と混合した場合、該ポリマーは析出して、該有機溶媒が散逸するにつれて、固体又はゲル化マトリックスを形成するであろう。適当な生分解性ポリマーは、例えば米国特許第4,938,763号、同第5,278,201号、同第5,278,2012号、同第5,324,519号、同第5,702,716号、同第5,744,153号、同第5,990,194号、及び同第6,773,714号に開示されている。該ポリマーの幾つかの非-限定的な例は、ポリラクチド、ポリグリコリド、ポリカプロラクトン、ポリジオキサノン、ポリカーボネート、ポリヒドロキシブチレート、ポリアルキレンオキサレート、ポリ無水物、ポリエステルアミド、ポリウレタン、ポリアセタール、ポリオルトカーボネート、ポリホスファゼン、ポリヒドロキシバレレート、ポリアルキレンサクシネート、ポリ(リンゴ酸)、及びポリオルトエステル、及びこれらのコポリマー、ブロックコポリマー、分岐コポリマー、ターポリマー、及びこれらの組み合わせ又は混合物である。
【0043】
該ブロックコポリマーは、A-B-Aブロックコポリマー、B-A-Bブロックコポリマー、及び/又はA-Bブロックコポリマー及び/又は分岐コポリマーを含む。好ましいブロックコポリマーは、そのAブロックが、疎水性ポリマーを含む、かつそのBブロックが、親水性ポリマーを含むものである。特に、上記ブロックコポリマーの一種を使用した場合、最も好ましいポリマーマトリックスは、以下のように定義される:そのAブロックが、ポリラクチド、ポリグリコリド、ポリ(ラクチド-co-グリコリド)、ポリ無水物、ポリ(オルトエステル)、ポリエーテルエステル、ポリカプロラクトン、ポリエステルアミド、ポリ(ε-カプロラクトン)、ポリ(ヒドロキシ酪酸)、及びこれらのブレンド及びコポリマーからなる群から選択される、生分解性ポリマーであり、かつそのBブロックが、ポリエチレングリコール又は単官能性の誘導体化ポリエチレングリコール、例えばメトキシポリエチレングリコールである、ポリマーマトリックス。これらの組み合わせの多くが、許容される熱的に可逆性のゲルを生成し得る。
【0044】
当業者は、ポリマーに関する適当な分子量を決定することができる。分子量を決定する際に考慮することのできるファクタは、所定のポリマーの分解速度、機械的強度、及び有機溶媒に対するポリマーに溶解速度を含む。典型的には、ポリマーの質量平均分子量の適当な範囲は、様々なファクタの中でも特に、使用すべく選択されたポリマーに依存して、約2,000Da〜約100,000Daなる範囲にあり、その多分散性は1.1〜2.5なる範囲にある。
【0045】
本発明の注入可能なポリマー組成物は、生分解性ポリマーを、10%〜70質量%なる範囲の量で含むことができる。本発明の注入可能な組成物の粘度は、使用した該ポリマーの分子量及び有機溶媒に依存する。典型的には、同一の溶媒を使用した場合には、該ポリマーの分子量及びその濃度が高い程、該組成物の粘度は高くなる。好ましくは、該組成物中の該ポリマーの濃度は、70質量%未満である。より好ましくは、該組成物中の該ポリマーの濃度は、30〜60質量%なる範囲内にある。
【0046】
ポリ(D,L-ラクチド-co-グリコリド)及びポリ(L-ラクチド-co-グリコリド)を包含する乳酸とグリコール酸とのコポリマー(PLGA)並びにポリ(乳酸)が、本発明において使用するのに好ましい。該ポリマー(又は熱可塑性ポリエステル)は、約50:50〜約100:0なる範囲の乳酸対グリコール酸のモル比、及び約2,000〜約100,000なる範囲の質量平均分子量を持つ。該生分解性熱可塑性ポリエステルは、当分野において公知の方法、例えば重縮合及び開環重合(例えば、米国特許第4,443,340号、同第5,242,910号、同第5,310,865号;これら全てを、参考としてここに組入れる)を利用して製造することができる。該ポリ(D,L-ラクチド-co-グリコリド)の末端基は、該重合法に依存して、ヒドロキシル基、カルボキシル基、又はエステル基の何れかであり得る。適当なポリマーは、単官能性アルコール又はポリオール残基を含むことができ、またカルボン酸末端基を持つことはできない。単官能性アルコールの例は、メタノール、エタノール、又は1-ドデカノールである。該ポリオールは、ジオール、トリオール、テトラオール、ペンタオール及びヘキサオールであり得、エチレングリコール、1,6-ヘキサンジオール、ポリエチレングリコール、グリセロール、糖類、還元糖類例えばソルビトール、等を包含する。
【0047】
多くの適当なPLGAが、市販品として入手でき、特定の組成を持つ該PLGAを、従来技術に従って、容易に製造することができる。様々なモノマー比及び分子量を持つ該PLGAが、ベーリンガー-インゲルハイム(Boehringer-Ingelheim; USA, Va州、ペタースバーグ)、レークショアバイオマテリアルズ(Lakeshore Biomaterials; USA, Al州、バーミンガム)、デュレクト(DURECT)社(AL州、ペラム)から入手することができる。
【0048】
本発明の組成物中に存在する該生分解性のポリマーの型、分子量、及び量は、該ペプチド剤が、本発明の制御放出性インプラントから放出される期間の長さに影響を与える。該制御放出性インプラントの所定の特性を達成するための、本発明の組成物中に存在する該生分解性のポリマーの型、分子量、及び量の選択は、簡単な実験によって行うことができる。
【0049】
本発明の好ましい一態様において、該液状組成物は、ロイプロリド塩酸塩に関する制御放出型の送達系を処方するのに利用できる。このような態様においては、該生分解性熱可塑性ポリエステルは、好ましくはヒドロキシル末端基及びラウリルエーテル末端基を含む、85/15ポリ(D,L-ラクチド-co-グリコリド)であり得、質量基準で該組成物の約30%〜約60%なる範囲の量で存在でき、また約15,000〜約50,000なる範囲内の平均分子量を持つことができる。
【0050】
本発明のもう一つの好ましい態様において、該液状組成物は、ロイプロリド塩酸塩に関する制御放出型の送達系を処方するのに利用できる。このような態様において、該生分解性熱可塑性ポリエステルは、好ましくは2つのヒドロキシル末端基を含む、85/15ポリ(D,L-ラクチド-co-グリコリド)であり得、質量基準で該組成物の約30%〜約60%なる範囲の量で存在でき、また約15,000〜約50,000なる範囲内の平均分子量を持つことができる。
【0051】
本発明のさらに別の好ましい態様において、該液状組成物は、ロイプロリド塩酸塩に関する制御放出型の送達系を処方するのに利用できる。このような態様において、該生分解性熱可塑性ポリエステルは、好ましくはカルボン酸末端基を含む、85/15ポリ(D,L-ラクチド-co-グリコリド)であり得、質量基準で該組成物の約30%〜約60%なる範囲の量で存在でき、また約15,000〜約50,000なる範囲内の平均分子量を持つことができる。
【0052】
本発明のさらに別の好ましい態様において、該組成物は、ロイプロリドの制御放出型の送達系を処方するのに利用できる。このような態様において、該生分解性ポリマーは、カルボン酸末端基を含む、又は含まない100/0のポリ(D,L-ラクチド)であり得、質量基準で該組成物の約40%〜約60%なる範囲の量で存在でき、また約8,000〜約50,000なる範囲内の平均分子量を持つことができる。
【0053】
上記用語「製薬上許容される有機溶媒」とは、水性流体又は体液と混和性又はこれに対して分散性の任意の生体適合性有機溶媒を含むことを意味する。該用語「分散性」とは、該溶媒が、水に対して部分的に溶解性又は混和性であることを意味する。好ましくは、単一の溶媒又は溶媒混合物は、0.1質量%を越える水に対する溶解性又は混和性を持つ。より好ましくは、該溶媒は、3質量%を越える水に対する溶解性又は混和性を持つ。最も好ましくは、該溶媒は、7質量%を越える水に対する溶解性又は混和性を持つ。該適当な有機溶媒は、体液中に拡散することができ、結果的に該液状組成物は、凝固又は固化すべきである。このような溶媒を単独で及び/又は混合物として、使用することができ、このような溶媒の適正は、簡単な実験により容易に決定することができる。
【0054】
製薬上許容される有機溶媒の例は、N-メチル-2-ピロリドン、メトキシポリエチレングリコール、アルコキシポリエチレングリコール、ポリエチレングリコールエステル、グリコフロール(グリコフルフラール)、グリセロールホルマール、酢酸メチル、酢酸エチル、メチルエチルケトン、ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド、テトラヒドロフラン、カプロラクタム、デシルメチルスルホキシド、ベンジルベンゾエート、エチルベンゾエート、トリアセチン、ジアセチン、トリブチリン、トリエチルシトレート、トリブチルシトレート、アセチルトリエチルシトレート、アセチルトリブチルシトレート、トリエチルグリセリド、トリエチルホスフェート、ジエチルフタレート、ジエチルタルタレート、エチルラクテート、プロピレンカーボネート、エチレンカーボネート、ブチロラクトン、及び1-ドデシルアザシクロ-ヘプタン-2-オン、及びこれらの組み合わせを含むが、これらに限定されない。
【0055】
様々な製薬上許容される有機溶媒に対する前記生分解性ポリマーの溶解度は、該ポリマーの諸特性及びその様々な溶媒に対する相溶性に依存して異なるであろう。従って、同一のポリマーが、異なる溶媒に対して同程度に溶解するわけではない。例えば、PLGAは、トリアセチンに対する溶解度と比較して、N-メチル-2-ピロリドン(NMP)に対してより一層高い溶解度を持つ。しかし、NMPに溶解して得たPLGAの溶液を、水性溶液と接触させた場合、NMPは、その高い水との混和性のために、極めて迅速に散逸して、固体ポリマーマトリックスを生成する。該溶媒の速い拡散速度は、迅速な固体インプラントの生成を可能とするが、これは、また高い初期のバースト放出に導く恐れもある。PLGAのトリアセチン溶液を、水性溶液と接触させた場合、その低い水混和性のために、極めて緩慢に散逸する。この溶媒の低い拡散速度は、粘稠な液体から、固体マトリックスへの転化のために長時間を要する可能性がある。該溶媒の拡散と、該ポリマーの凝固によるペプチド剤の封入との間には、最適の釣り合いが存在し得る。従って、異なる溶媒を組合わせて、所定の送達系を得ることが有利であり得る。低い及び高い水混和性を持つ該溶媒を組合わせて、該ポリマーの溶解度を改善し、また該組成物の粘度を調節し、その拡散速度を最適化し、かつ該初期のバースト放出性を緩和することができる。
【0056】
本発明の注入可能なポリマー組成物は、典型的に30〜80質量%なる範囲内の量で、有機溶媒を含む。本発明の注入可能な組成物の粘度は、使用する該ポリマーの分子量及び有機溶媒に依存する。好ましくは、該組成物中の該ポリマーの濃度は、70質量%未満である。より好ましくは、溶液中の該ポリマーの濃度は、30〜60質量%なる範囲内にある。
【0057】
本明細書で使用する用語「賦形剤」とは、本発明の組成物を製造するのに使用する、該ペプチド剤又は該生分解性ポリマー以外の、該組成物において有用な任意の成分を含むことを意味する。適当な賦形剤は、放出速度調節剤、バースト作用低下物質、緩衝物質、酸化防止剤等を含む。
【0058】
本発明によれば、適当な放出速度調節剤は、両親媒性化合物又はコポリマー、例えばアルカンカルボン酸、オレイン酸、アルキルアルコール、極性脂質、界面活性剤、ポリエチレングリコール及びポリ乳酸又はポリ(ラクチド-co-グリコリド)のコポリマー、ポロキサマー、ポリビニルピロリドン、ポリソルベート等;モノ-、ジ-及びトリ-カルボン酸のエステル、例えば2-エトキシエチルアセテート、トリエチルシトレート、アセチルトリブチルシトレート、アセチルトリエチルシトレート、グリセロールトリアセテート、ジ(n-ブチル)セバケート等;多価シアルコール、例えばポリエチレングリコール、ソルビトール等;脂肪酸;グリセロールのトリエステル、例えばトリグリセリド、中鎖トリグリセリド、例えばミグリオール(MIGLYOL) 810、812、818、829、840等を含むが、これらに限定されない。放出速度調節剤の混合物も、本発明の該ポリマー系において使用できる。
【0059】
該放出速度調節剤は、該注入可能なポリマー組成物中に、移植後の最初の24時間中に、該ペプチド剤の該ポリマー組成物からの上記初期バースト放出を減じるのに有効な量で存在し得る。好ましくは、該ポリマー組成物は、該放出速度調節剤を、約1〜約50質量%なる範囲、より好ましくは約2〜約20質量%なる範囲の量で含む。
【0060】
本発明によれば、適当な緩衝剤は、無機及び有機塩、例えば炭酸カルシウム、水酸化カルシウム、ミリスチン酸カルシウム、オレイン酸カルシウム、パルミチン酸カルシウム、ステアリン酸カルシウム、リン酸カルシウム、炭酸マグネシウム、水酸化マグネシウム、リン酸マグネシウム、ミリスチン酸マグネシウム、オレイン酸マグネシウム、パルミチン酸マグネシウム、ステアリン酸マグネシウム、炭酸亜鉛、水酸化亜鉛、ミリスチン酸亜鉛、オレイン酸亜鉛、パルミチン酸亜鉛、ステアリン酸亜鉛、リン酸亜鉛、及びこれらの混合物を含むが、これらに限定されない。
【0061】
上記緩衝剤は、該注入可能なポリマー組成物中に、その分解過程中に該インプラント内のpHを安定化するのに有効な量で存在し得る。好ましくは、該ポリマー組成物は、該緩衝剤を、約1〜約30質量%なる範囲、より好ましくは約2〜約15質量%なる範囲の量で含む。
【0062】
本発明によれば、適当な酸化防止剤は、d-α-トコフェロールアセテート、アスコルビルパルミテート、ブチレート化ヒドロキシアニドール(hydroxyanidole)、ブチレート化ヒドロキシアニソール、ブチレート化ヒドロキシキノン、ヒドロキシコマリン(hydroxycomarin)、ブチレート化ヒドロキシトルエン、エチルガレート、プロピルガレート、オクチルガレート、ラウリルガレート、プロピルヒドロキシベンゾエート、トリヒドロキシブチロフェノン、ビタミンE、ペジレーテッド(pegylated)ビタミンE又はビタミンE-TPGS等を含むが、これらに限定されない。
【0063】
該酸化防止剤は、該注入可能なポリマー組成物中に、該インプラント内で発生するあらゆるラジカル又はパーオキシドを補足するのに有効な量で、存在し得る。好ましくは、該ポリマー組成物は、該酸化防止剤を、約1〜約30質量%なる範囲、より好ましくは約3〜約15質量%なる範囲の量で含む。
【0064】
一局面において、本発明は、経済的で実用的な、しかも効率的な、ペプチド剤用の制御放出型の送達系を製造するための、安定化された注入可能な生分解性ポリマー組成物を提供し、該組成物はa) 強酸を用いて形成したペプチド剤の有益な塩、ここで該塩は、有機溶液中での、該ペプチド剤と該ポリマーとの間の相互作用/反応を最小化し又は阻害し;b) 生分解性のポリマー;c) 製薬上許容される有機溶媒;及びd) 随意の1種又はそれ以上の賦形剤とを含み、結果として該ペプチド剤の最適の送達性を達成する。好ましくは、該注入可能な組成物はキット内に収容され、該キットにおいては、該組成物をそのまま使用できる構成の注射器に充填する工程を含む。このキットにおける該組成物は、妥当な期間、好ましくは少なくとも1年間に渡り安定であって、制御された保存条件下で、適当な保存有効期限を持つ。該組成物は、好ましくはその場でインプラントを形成するために、対象に注入され、該インプラントから、該ペプチド剤が、所定の長い期間に渡り治療上有効な量で放出される。
【0065】
本発明の、該安定化された注入可能な生分解性ポリマー組成物は、ペプチド剤の有益な塩、生分解性ポリマー、製薬上許容される有機溶媒、及び随意の賦形剤を適切に組合わせることにより製造できる。投与するための該組成物は、有利には、投与単位形として提供することができ、また薬学分野において公知の方法の何れかにより製造することができる。本発明の組成物の好ましい一製造方法は、先ず、製薬上許容される有機溶媒に、生分解性ポリマー及び/又は賦形剤を溶解して、均一なポリマー溶液/懸濁液を得ることである。次いで、該ペプチド剤の有益な塩を、該溶液/懸濁液に添加する。これらの成分を、任意の適当な手段を利用して、十分に混合して、均一な溶液又は懸濁液を得る。次いで、適当な量の該溶液又は懸濁液を注射器に移して、そのまま使用できる製品を得る。
【0066】
該ペプチド剤の有益な塩及びポリマーを、本発明の組成物に配合すべき濃度は、当然、該ペプチド剤成分の効力、該ペプチド剤を送達しようとする所定の期間、該溶媒に対する該ポリマーの溶解度、及び投与することが望まれる、該注入可能な組成物の体積及び粘度に依存して変動するであろう。
【0067】
本発明の幾つかの好ましい態様において、ペプチド剤のための、経済的で実用的な、また効果的な制御放出型の送達系を製造するための、該注入可能な生分解性ポリマー組成物は、約0.01〜40%なる範囲内の量の該ペプチド剤の有益な塩及び約10〜70%なる範囲内の量のポリ(ラクチド-co-グリコリド)ポリマーを含む。該組成物は、さらに約30〜70%なる範囲内の量で、製薬上許容される有機溶媒をも含む。
【0068】
本発明の好ましい一態様において、該組成物は、さらに約1〜40%なる範囲内の量で、上で定義した如き放出速度調節剤、バースト作用低下物質、緩衝物質、酸化防止剤、組織移送剤等を含む適当な賦形剤を含む。
【0069】
本発明によれば、該注入可能な組成物は、注入投与に適した無菌容器、例えば注射器に移される。この容器は、保存のために包装され、該組成物の成分は、製造並びに保存過程中に、又は動物又はヒト等の対象に投与する前に、該成分の元の分子量、構造及び/又は生物学的な活性の少なくとも80%、好ましくは少なくとも90%を維持している。
【0070】
このように、本発明によれば、該安定化された組成物は、ペプチド剤の制御放出型の送達が望まれる、対象に投与することができる。本明細書で使用する、該用語「対象」とは、温血動物、好ましくは哺乳動物、最も好ましくはヒトを含むものとする。
【0071】
本明細書で使用する、該用語「対象に投与する」とは、対象に対して組成物(例えば、薬理処方物)を、該対象内の所望の位置に、該組成物を送達するための任意の適当な経路によって、分配、送達、又は適用することを意味するものとする。好ましくは、本発明の組成物を、皮下、筋肉内、腹腔内、又は皮内投与経路で、注射及び/又は移植により投与して、該ペプチド剤で、様々な医学的状態を治療するための既知のパラメータに基く、所定の容量を与えることができる。
【0072】
本明細書で使用する、該用語「制御(された)放出型の送達」とは、インビボにて、投与後のある期間に渡る、好ましくは少なくとも数週間乃至1年間に渡る、ペプチド剤の連続的な送達を意味するものとする。該薬剤の持続的な制御放出型の送達は、例えば所定期間に渡る、該薬剤の継続的な治療効果によって立証することができる(例えば、LHRH類似体に関する、該類似体の持続的な送達は、所定期間に及ぶテストステロン合成の継続する抑制によって立証できる)。あるいはまた、該ペプチド剤の持続的な送達は、所定期間に渡る、該薬剤のインビボでの存在を検出することによって、明らかにすることができる。
【0073】
投与される該注入可能な組成物の量は、典型的には該制御放出型のインプラントの所定の特性に依存するであろう。例えば、該注入可能な組成物の量は、該ペプチド剤が、該制御放出型のインプラントから放出される時間の長さに影響を与える可能性がある。
【0074】
好ましい態様において、対象に注入すべき本発明の該注入可能なポリマー組成物の体積は、0.1〜2.0mLなる範囲、好ましくは0.2〜1.0mLなる範囲、及びより好ましくは0.3〜0.5mLなる範囲内にある。
【0075】
本発明は、さらに対象内にインプラントをその場で形成する方法にも係り、該方法は、a) 強酸を用いて形成したペプチド剤の有益な塩、ここで該塩は、有機溶液中での、該ペプチド剤と該ポリマーとの間の相互作用/反応を最小化し又は阻害し;b) 生分解性のポリマー;c) 製薬上許容される有機溶媒;及びd) 随意の1種又はそれ以上の賦形剤とを含み、結果として該ペプチド剤の最適の送達性を達成し、本発明の注入可能な組成物の有効量を対象に投与し;また該溶媒を、周囲の水性環境に散逸させて、該液状組成物を、相分離によってデポ剤に変換する工程を含む。該デポ剤は、粘稠なゲル、半-固体、又は固体マトリックスであり得る。該デポ剤は、また多孔質又は非-多孔質であり得る。該デポ剤は、該ペプチド剤を、所定の長期間に渡り放出する、送達系として機能する。
【0076】
もう一つの好ましい態様において、本発明の該注入可能な組成物は、身体の腔に嵌込むように投与して、デポ系を形成することができる。このような腔は、外科手術後に形成された空洞、又は自然状態の身体内の空洞、例えば膣、肛門等を包含する。
【0077】
もう一つの局面において、本発明は、ペプチド剤のための、経済的で実用的な、また効果的な制御放出型の送達系を製造するための、安定化された液状の生分解性ポリマー組成物を提供するものであり、該組成物は、a) 強酸を用いて形成したペプチド剤の有益な塩、ここで該塩は、有機溶液中での、該ペプチド剤と該ポリマーとの間の相互作用/反応を最小化し又は阻害し;b) 生分解性のポリマー;c) 有機溶媒;及びd) 随意の1種又はそれ以上の賦形剤とを含み、結果として該ペプチド剤の最適の送達性を達成する。該液状の生分解性ポリマー組成物は、移植可能なポリマーマトリックスに成型することができる。ここで、該液状の生分解性ポリマー組成物は、その製造工程前及び該製造工程中に、該組成物の元の分子量、構造及び/又は生物学的活性の少なくとも90%、好ましくは少なくとも95%を維持している。
【0078】
ここで使用する用語「移植可能なポリマーマトリックス」とは、粒子、フィルム、ペレット、円筒体、円板、マイクロカプセル、微小球、ナノ球、マイクロ粒子、ウエハ、及び薬物送達のために使用される他の既知のポリマー形状を含むものとする。
【0079】
様々な製薬上許容されるポリマー担体の製造方法は、当分野において周知である。例えば、米国特許第6,410,044号、同第5,698,213号、同第6,312,679号、同第5,410,016号、同第5.529,914号、同第5,501,863号、同第4.938,763号、同第5,278,201号、同第5,278,202号、及びPCT公開WO 93/16687号、EP 0,058,481号に記載されている。これら全てを、参考としてここに組入れる。
【0080】
本発明によれば、微小球形状にある該移植可能なポリマーマトリックスは、該ポリマー中に、該ペプチド剤の有益な塩を封入することにより作られる。該ペプチド剤の有益な塩は、様々な生物学的な環境に対して送達し、あるいは特定の機能を果たすのに適した、固有の特性を持つ、生体適合性及び/又は生分解性のポリマーを用いて、カプセル化することができる。該ペプチド剤の溶解速度及び結果としてその送達速度は、特定のカプセル化技術、ポリマーの組成、ポリマーの架橋度、ポリマー層の厚み、ポリマーの溶解度、生物学的に活性な化合物/ポリアニオン複合体のサイズ及び溶解度によって決定される。
【0081】
カプセル化すべき該ペプチド剤の有益な塩は、有機溶媒中のポリマー溶液に溶解又は懸濁される。該ポリマー溶液は、該溶液に添加された後に、該有益な塩を、完全に被覆するのに十分な程度まで濃縮される必要がある。このような量は、約0.01〜約50なる範囲、好ましくは約0.1〜約30なる範囲内の、該ペプチド剤の有益な塩対ポリマーの質量比を与えるような量である。
【0082】
該ペプチド剤の有益な塩は、懸濁状態に維持すべきであり、また該ポリマーとの接触により被覆された際に、凝集するものであってはならない。該ペプチド剤の有益な塩を含むポリマー溶液は、従って噴霧乾燥法、噴霧凝固法、乳化法、及び溶媒蒸発乳化法を包含する様々なマイクロカプセル化技術に掛けることが可能である。
【0083】
本発明の一態様によれば、該ペプチド剤の有益な塩は、有機溶媒中のポリマー溶液に溶解又は懸濁される。該溶液又は懸濁液は、乳化剤を含む大容量の水性溶液に移される。該水性溶液において、該有機相は乳化され、そこで該有機溶媒は、該ポリマーから蒸発又は拡散により追い出される。該固化したポリマーは、該ペプチド剤の有益な塩をカプセル化して、ポリマーマトリックスを形成する。該乳化剤は、該工程の固化段階中に、該系における様々な物質相間の界面、表面張力を減じるのに役立つ。あるいはまた、該カプセル化ポリマーが、ある固有の表面活性を持つ場合には、別途界面活性剤を添加する必要はない可能性がある。
【0084】
本発明による該カプセル化されたペプチド剤の有益な塩の製造のために有用な乳化剤は、ポロキサマー(poloxamers)及び本明細書において例示されたポリビニルアルコール、界面活性剤及び該ポリマーでカプセル化されたペプチド剤の有益な塩と該溶液との間の表面張力を減じることのできる他の界面活性化合物を含む。
【0085】
上に開示したものを除く、本発明の微小球を製造するのに有用な有機溶媒は、また酢酸、アセトン、塩化メチレン、酢酸エチル、クロロホルム、及び該ポリマーの諸特性に依存するはずの、他の非-毒性の溶媒をも含む。溶媒は、該ポリマーを溶解するように選択すべきであり、また結局のところ無毒のものである。
【0086】
従って、本発明によれば、これらの移植可能なポリマーマトリックスは、ペプチド剤の持続的な制御放出型の送達が望まれる対象に、投与することができる。好ましくは、本発明の該移植可能なポリマーマトリックスは、皮下、筋肉内、腹腔内、又は皮内投与経路で、注射及び/又は移植により投与して、該ペプチド剤で、様々な医学的状態を治療するための既知のパラメータに基く、所定の容量を与えることができる。
【0087】
本明細書で参照した、あらゆる書物、論文及び特許は、その全体をここに参考として組入れる。
【0088】

以下の例は、本発明の組成物及び方法を例示するものである。以下の例は、本発明を限定するものと考えるべきではなく、本発明の有用な制御放出型の薬物送達組成物の作成手段を、単に教示するものである。
【0089】
例1:強酸を用いて製造した、ペプチド剤及びペプチド誘導体の有益な塩の製造
【0090】
少なくとも一つの塩基性官能基を含むペプチド剤及びペプチド誘導体を水に溶解する。強酸の化学量論量を、該ペプチド剤の水性溶液に添加し、該ペプチド剤中の塩基性基を中和する。この塩は、析出、濾過及び/又は凍結乾燥によって得られる。
【0091】
例2:ロイプロリド塩酸塩の製造
【0092】
ロイプロリドは、9個のアミノ酸残基及び2つの塩基性官能基(ヒスチジン及びアルギニン基)を含む、黄体形成ホルモン放出ホルモン(LHRH)アゴニストである。そのN-末端アミノ基は、ピログルタミン酸としてブロックされていた。これは、前立腺癌及び子宮内膜症の治療において使用されている。ロイプロリドアセテート(LA-Ac)は、ポリペプチドラボラトリーズ社(Polypeptides Laboratories, Inc.)から得た(PPL Lot#PPL-LEUP0401A)。ロイプロリド塩酸塩(LA-HCl)は、イオン-交換及び凍結乾燥により、酢酸をHClで置換することにより製造した。典型的には、100mgのロイプロリドアセテートを、30mLの水に溶解した。3.19mLの0.5NのHCl(HCl:LA: 約2.2:1)を添加し、十分に混合した。この溶液を、72時間凍結乾燥して、酢酸を除去した。この乾燥粉末を、再度水に溶解し、再び凍結乾燥した。
【0093】
例3:ロイプロリドメシレートの製造
343.5mgのロイプロリドアセテート(PPL Lot#PPL-LEUP0401A)を、20mLの水に溶解した。32μLのメタンスルホン酸を添加し、十分に混合した(ロイプロリドアセテート対メタンスルホン酸のモル比:約1:2)。この溶液を、72時間凍結乾燥して、酢酸を除去した。この乾燥粉末を、再度水に溶解し、再び凍結乾燥した。
【0094】
例4:ゴセレリン塩酸塩の製造
【0095】
766mgのゴセレリンアセテート(PPL Lot#0603-219)を、20mLの水に溶解した。2.12mLの0.5NのHCl(HCl:ゴセレリンアセテートのモル比:2.2:1)を添加し、十分に混合した。この溶液を、72時間凍結乾燥して、酢酸を除去した。この乾燥粉末を、再度水に溶解し、再び凍結乾燥した。
【0096】
例5:パルミトイル-オクトレオチド(PAL-OCT)の製造
【0097】
50mgのオクトレオチドアセテートを、100μLのTEAを含む無水DMSO1000μL中に溶解した。17.1mgのパルミチン酸N-ヒドロキシサクシンイミドエステル(Mw: 353.50)を、3mLの無水DMSO中に溶解し、直接注入により、該ペプチド溶液に添加した。この反応を、室温にて一夜に渡り進行させた。この混合物を、ジエチルエーテル中に注込み、パルミトイル化オクトレオチドを沈殿させた。該沈殿を、ジエチルエーテルで2度洗浄し、次いで減圧下にて乾燥させた。この生成したアシル化ペプチドは、白色粉末形状にあった。該アシル化ペプチドのこの有益な塩は、強酸を用いて、残留する塩基性アミノ基を中和することにより製造した。
【0098】
例6:デカナール-オクトレオチド(DCL-OCT)の製造
【0099】
50mgのオクトレオチドを、pH 5の0.1M酢酸バッファー中に20mMのナトリウムシアノボロハイドライド(Mw 62.84; NaCNBH3) (2.15mg)を溶解して得た溶液2mL中に溶解した。13.7mgのデカナール(Mw 156.27) (OCT:DCL = 1:2)を、直接注入により、該ペプチド溶液に添加した。この反応を、4℃にて一夜に渡り進行させた。この混合物を、遠心分離により分離した。該沈殿したPAL-OCTを凍結乾燥した。該アシル化ペプチドのこの有益な塩は、強酸を用いて、残留する塩基性アミノ基を中和することにより製造した。
【0100】
例7:ペジレーテッド(PEGylated)オクトレオチドの製造
【0101】
オクトレオチドアセテートの水溶液(10mg/mL)を、pH 7.4の0.1Mリン酸バッファー中の、2モル当量のサクシンイミジルプロピオネートモノ-メチルPEG (SPA-mPEG; Mw 2000Da)を含むバイアルビンに添加した。この反応を、4℃にて一夜に渡り、攪拌しつつ進行させた。次いで、この混合物を、C-18(YMC ODS-A 4.6x250mm; 5μm;ウォーターズ(Waters)社製)上での、逆相HPLC(RP-HPLC)を利用して分離した。その移動相は、0.1%TFA水溶液(A)及び0.1%TFA含有CAN (B)からなっていた。この移動相を、1mL/分なる流量にて、20分間に渡る、30〜60%の溶離液Bの線形勾配の下で稼動し、得られる溶出液のUV吸光度を、波長215nmにて追跡した。各ピークに相当する該溶出画分を、別々に集め、窒素ガスでパージングし、かつ凍結乾燥した。
【0102】
あるいはまた、オクトレオチドのサイト-特異的ペジレーションも行うことが可能である。20mMのナトリウムシアノボロハイドライド(NaCNBH3)及びpH 5の0.1M酢酸バッファー中の、オクトレオチドアセテートの水溶液(10mg/mL)を、水中に3モル当量のモノメチルPEG-プロピオンアルデヒド(ALD-mPEG; Mw 2000Da)を分散させた液を含むバイアルビンに添加した。この反応を、4℃にて一夜に渡り、攪拌しつつ進行させた。次いで、この混合物を、C-18(YMC ODS-A 5μm、4.6x250mm;ウォーターズ(Waters)社製)上での、逆相HPLC(RP-HPLC)を利用して分離した。その移動相は、0.1%TFA水溶液(A)及び0.1%TFA含有CAN (B)からなっていた。この移動相を、1mL/分なる流量にて、20分間に渡る、30〜60%の溶離液Bの線形勾配の下で稼動し、得られる溶出液のUV吸光度を、波長215nmにて追跡した。各ピークに相当する該溶出画分を、別々に集め、窒素ガスでパージングし、かつ凍結乾燥した。該ペジレーテッドペプチドの有益な塩は、強酸を用いて、残留する塩基性アミノ基を中和することにより製造する。
【0103】
例8:注入可能なポリマー組成物におけるペプチド剤及び生分解性ポリマーの安定性
【0104】
ラウリルエーテル末端基を持つ、85/15なるラクチド対グリコリドの比のポリ(D,L-ラクチド-co-グリコリド) (PLGA) (DLPLG85/15; IV: 0.28)を、N-メチル-2-ピロリドン(NMP)に溶解して、50質量%の溶液を得た。該ロイプロリド塩を、NMP中の該PLGA溶液と混合して、以下の表1に示された比の、均一で注入可能な組成物を得た。該注入可能な組成物は、ルエル-ロックチップを備えた1.2mLのポリプロピレン製注射器に充填した。次いで、この予め満たした注射器を、ルエル-ロックキャップを用いて封止した。このキャップを取付けた注射器を、容器内に収容し、真空下でプラスチックバッグ内に封入し、次いで4℃にて、また室温(約22℃)にて18ヶ月間保存した。該注入可能な組成物を、24時間、1、2、3、6、12、及び18ヶ月経過時点において、サンプリングした。該サンプル中のロイプロリドの純度を、HPLCによって測定した。該ポリマーの分子量は、既知の分子量を持つポリスチレン標準物質を用いた、ゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)によって測定した。
【0105】
【表1】

【0106】
驚いたことに、ロイプロリドの酢酸塩の代わりに、その塩酸塩及びメシレート塩を使用した場合には、4℃及び室温両者において、PLGAのNMP溶液における、ロイプロリド及びポリマーの、時間の経過に伴う分解が、大幅に低下することが分かった。以下の表2及び3は、夫々4℃及び室温における、PLGAのNMP溶液における、ロイプロリドの時間の経過に伴う分解を示した。18月後に、4℃において、ロイプロリドアセテートを含む該ポリマー組成物においては、23%までのロイプロリドが分解し、一方でロイプロリド塩酸塩及びロイプロリドメシレートを含む上記処方物については、2%未満のロイプロリドが分解した。室温においては、18月後に、35%を越えるロイプロリドの分解が、ロイプロリドアセテート処方物について観測され、一方ロイプロリド塩酸塩及びロイプロリドメシレート含有処方物については、僅かに約11%の分解が観測された。さらに、室温において、色彩の変化(乳白色から、黄色乃至さび色)及び相分離が観測された。この相分離は、不均質な処方物を与え、また該処方物における、該ペプチド及び該ポリマーの不均一な分解を生じた。これら処方物のこの不均質性は、様々な時点において観測される結果のバラツキの原因となる可能性がある。
【0107】
【表2】

【0108】
【表3】

【0109】
以下の表4及び5は、様々な処方物における該ポリマーの分子量の変化を示す。ブランクコントロールと比較すると、6月後において、ロイプロリドアセテート処方物中のPLGAの分子量は、4℃において10%を越えて減少し、また室温においては90%を越えて減少した。ロイプロリド塩酸塩及びロイプロリドメシレート含有処方物中のPLGAの分子量は、12月後においてさえも、4℃及びRT(室温)両者において、該ブランクコントロールにおけるPLGAの分子量と同等であった。しかし、12月後においては、該ブランクコントロール、ロイプロリド塩酸塩及びロイプロリドメシレート含有処方物両者から、90%を越える該ポリマーが分解した。これらの結果は、HCl及びメタンスルホン酸等の強酸を用いて形成したロイプロリドの塩が、溶液中の、該ペプチドとPLGAとの間の相互作用/反応を、完全に阻害していることを示す。一方で、酢酸等の弱酸は、溶液中の、該ペプチドとPLGAとの間の、該有害な相互作用/反応を阻止しない。従って、強酸を用いて形成した該ペプチドの塩を使用することによる、該処方物の安定性の改善は、少なくとも1年という満足できる保存安定性を持つ、直ぐに使用できる注入可能な組成物の製造を可能とする。
【0110】
【表4】

【0111】
【表5】

【0112】
例9:注入可能なポリマー組成物におけるロイプロリド及びポリマーの安定性
【0113】
ラウリルエーテル末端基を持つ、85/15なるラクチド対グリコリドの比のポリ(D,L-ラクチド-co-グリコリド) (PLGA) (DLPLG85/15; IV: 0.28)を、ジメチルスルホキシド(DMSO)に溶解して、50質量%の溶液を得た。該ロイプロリド塩を、DMSO中の該PLGA溶液と混合して、以下の表6に示された比の、均一で注入可能な組成物を得た。該注入可能な組成物は、ルエル-ロックチップを備えた1.2mLのポリプロピレン製注射器に充填した。次いで、この予め満たした注射器を、ルエル-ロックキャップを用いて封止した。このキャップを取付けた注射器を、容器内に収容し、真空下でプラスチックバッグ内に封入し、次いで4℃にて、また室温(約22℃)にて16ヶ月間保存した。該注入可能な組成物を、予め規定した経過時間点においてサンプリングした。該サンプル中のロイプロリドの純度を、HPLCによって測定した。該ポリマーの分子量は、既知の分子量を持つポリスチレン標準を用いた、ゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)によって測定した。
【0114】
【表6】

【0115】
驚いたことに、ロイプロリドの、酢酸塩の代わりに、塩酸塩のメシレート塩を使用した場合には、4℃において、DMSO中のPLGA溶液における、ロイプロリド及びポリマーの時間の経過に伴う分解が、大幅に低下することが分かった。図2及び3には、4℃における、PLGAのDMSO溶液におけるロイプロリドの、時間の経過に伴う分解を示した。16月後に、ロイプロリドアセテートの場合には、約20%までのロイプロリドが分解し、一方でロイプロリド塩酸塩及びロイプロリドメシレート含有処方物については、5%未満のロイプロリドが分解した。図5は、種々の処方物中のPLGAの分子量変化を示した。ブランクコントロールと比較すると、ロイプロリドアセテート含有処方物中のPLGAの分子量は、16月後に、4℃において、約40%減少した。ロイプロリド塩酸塩及びロイプロリドメシレートを含有する注入可能なポリマー組成物中のPLGAの分子量は、16月後に、4℃において、該コントロールの分子量に匹敵するものであった。これらの結果は、HCl及びメタンスルホン酸等の強酸を用いて形成したロイプロリドの塩が、DMSO溶液中の、該ペプチドとPLGAとの間の相互作用/反応を、殆ど完全に阻害していることを示す。一方で、酢酸等の弱酸は、DMSO溶液中の、該ペプチドとPLGAとの間の、該有害な相互作用/反応を阻止しない。
【0116】
例10:注入可能なポリマー処方物からの、ロイプロリドのインビトロ放出
【0117】
3種のポリマービヒクル溶液を、以下のようにして調製した:ラウリルエステル末端基を持つPLG 85/15 (0.28 IV)を、50及び55質量%なる濃度にて、NMPに溶解し、またカルボン酸末端基を持つRG503 (0.42 IV)を、50質量%なる濃度にて、NMPに溶解した。次いで、適当量のロイプロリド塩酸塩(LAHCl)及びロイプロリドメシレート(LAMS)を、各々6質量%なる量にて、該ポリマー溶液と混合した。これら処方物を、十分に混合して均一な処方物を得た。
【0118】
該処方物懸濁液のアリコート(約100mg)を、pH 7.4の、0.1%ナトリウムアジドを含む、3mLのリン酸緩衝塩水中に、37℃にて注入した。受容流体を、選択された経過時間点において、新たな緩衝液で置換し、該取出された緩衝液を、pH 7.4のリン酸緩衝液で2-倍に希釈し、これをHPLCによって薬物濃度につき分析した。各時間点において放出された該薬物の量を計算した。図3は、時間の経過に伴う、様々な処方物に関するロイプロリドの累積放出量を示す。
【0119】
図3に示したように、LAHClとLAMSとの間には、ロイプロリド放出量における、如何なる有意な差も見られない。しかし、PLGAの型及び濃度は、ロイプロリドの放出に対して、かなりの影響を与えるものと思われる。RG503H処方物からのロイプロリドの放出は、PLG85/15処方物からのその放出よりも一層迅速であった。従って、RG503Hは、ロイプロリドの短期間での放出に適したものであり得、一方PLG85/15は、該ペプチドの長期間に渡る放出にとって適したものであり得る。該ペプチドの放出速度は、また該PLGAの濃度を変えることによって、さらに改善することができる。PLG85/15の濃度を、50%から55%に高めた場合には、ロイプロリドの初期放出速度は、著しく低下した。従って、該ペプチドの特定の処方物が、所定の放出プロフィールを達成するためのパラメータは、簡単な実験によって容易に得ることができる。
【0120】
例11:ロイプロリドのインビトロ放出に及ぼす賦形剤の効果
【0121】
賦形剤を含む、及びこれを含まないポリマービヒクル溶液を、以下のようにして調製した:ラウリルエステル末端基を持つPLG 100DLPL (0.26 IV、AL州、レイクショア(Lakeshore))及びビタミンE TPGSを、以下の表7に従って、適当な量でNMPに溶解した。次いで、適当量のロイプロリド塩酸塩(LAHCl)を、15質量%なる量で、該ポリマー溶液と混合した。これらの処方物を十分に混合して、均一な処方物を得た。
【0122】
【表7】

【0123】
該処方物の懸濁液のアリコート(約100mg)を、pH 7.4の、0.1%ナトリウムアジドを含む、3mLのリン酸緩衝塩水中に、37℃にて注入した。受容流体を、選択された経過時間点において、新たな緩衝液で置換し、該取出された緩衝液を、pH 7.4のPBSで10-倍に希釈し、これをHPLCによって薬物濃度につき分析した。各時間点において放出された該薬物の量を計算した。図4は、時間の経過に伴う、様々な処方物に関するロイプロリドの累積放出量を示す。
【0124】
図4に示したように、ビタミンE TPGSの配合は、薬物の初期バースト放出に影響を与えないが、後の段階におけるロイプロリドの放出速度を減じるものと思われた。従って、ビタミンE TPGSは、該ペプチドの放出期間を延長する上で有用であり得、また酸化防止剤としても機能できる。
【0125】
例12:ロイプロリドのインビトロ放出に及ぼす賦形剤の効果
【0126】
賦形剤を含む、及びこれを含まないポリマービヒクル溶液を、以下のようにして調製した:ラウリルエステル末端基を持つPLD 100D040 (0.34 IV、CA州、デュレクト(Durect))及び中鎖トリグリセリドであるミグリオール(Miglyol) 812を、以下の表8に従って、適当な量でNMPに溶解した。次いで、適当量のロイプロリド塩酸塩(LAHCl)を、15質量%なる量で、該ポリマー溶液と混合した。これらの処方物を十分に混合して、均一な処方物を得た。
【0127】
【表8】

【0128】
該処方物としての懸濁液のアリコート(約100mg)を、pH 7.4の、0.1%ナトリウムアジドを含む、3mLのリン酸緩衝塩水中に、37℃にて注入した。受容流体を、選択された経過時間点において、新たな緩衝液で置換し、該取出された緩衝液を、pH 7.4のPBSで10-倍に希釈し、これをHPLCによって薬物濃度につき分析した。各時間点において放出された該薬物の量を、標準曲線を用いて逆算した。図5は、時間の経過に伴う、様々な処方物に関するロイプロリドの累積放出量を示す。
【0129】
図5に示したように、ミグリオール812の配合は、ロイプロリドの初期バースト放出を大幅に減じた。これはまた、後の段階におけるロイプロリドの放出速度を維持しているものと思われる。従って、ミグリオール812は、該ペプチドの放出期間を延長する上で有用であり得る。例11の結果と比較すると、該ポリマーの分子量は、またロイプロリドの初期バースト放出に、有意な影響を与えるものと思われる。該PLAの分子量が小さいほど、ロイプロリドの初期バースト放出速度は、低いものと思われる。
【0130】
例13:ロイプロリドのインビボ放出
【0131】
ラウリルエーテル末端基を持つ、85/15なるラクチド対グリコリドの比のポリ(D,L-ラクチド-co-グリコリド) (PLGA) (DLPLG85/15; IV: 0.28)を、N-メチル-2-ピロリドン(NMP)に溶解して、55質量%の溶液を得た。該ロイプロリド塩、即ちロイプロリドメシレート又はロイプロリドHClを、NMP中の該PLGA溶液と混合して、約12%なる薬物配合量の、均一で注入可能な処方物を得た。これらの注入可能な処方物を、ルエル-ロックチップを備えた1.2mLのポリプロピレン製注射器に移し、19ゲージの肉厚の薄い針を取付けた。次いで、各処方物を、1群当たり六匹の動物を用いて、約100μLなる体積にて、ラットに皮下注射した。注射後3時間、1、3、7、14、28、42、56及び70日経過した時点において、各動物から血清サンプルを採取した。該血清サンプルを、ペニンシュララボラトリーズ社(Peninsula Laboratories, Inc.)から入手できるキットを用いて、ELISA法により、ロイプロリド濃度につき分析した。種々の時点において、該インプラント中に残留するロイプロリドを、HPLCによって分析した。
【0132】
図6は、70日目までの、2種の異なる処方物から放出されるロイプロリドの、放出プロフィールを示す図である。これら処方物両者は、ロイプロリドの初期バースト放出を示した。LAHClを含有する処方物は、3時間で、661.6ng/mLなるCmaxに達し、またLAMSを含有する処方物は、同様に3時間で、370.6ng/mLなるCmaxに達した。これら処方物両者は、長期間に渡るロイプロリドの持続的放出性を示した。該LAMSを含有する処方物は、該LAHClを含有する処方物について得たロイプロリドの血清レベルよりも、一層一定の血清レベルを示した。
【0133】
例14:ロイプロリドのインビボ放出
【0134】
1,6-ヘキサンジオール部分を含む、85/15なるラクチド対グリコリドの比のポリ(D,L-ラクチド-co-グリコリド)(PLGA) (DLPLG85/15; IV: 0.28)を、N-メチル-2-ピロリドン(NMP)に溶解して、50質量%の溶液を得る。該ロイプロリド塩、即ちロイプロリドアセテート又はロイプロリドHClを、NMP中の該PLGA溶液と混合して、約12%なる薬物配合量の、均一で注入可能な処方物を得る。これらの注入可能な処方物を、ルエル-ロックチップを備えた1.2mLのポリプロピレン製注射器に移し、19ゲージの肉厚の薄い針を取付ける。次いで、各処方物を、1群当たり六匹の動物を用いて、約100μLなる体積にて、ラットに皮下注射する。注射後3時間、1、3、7、14、28、42、56、70,91、112、133、154、175及び206日経過した時点において、各動物から血清サンプルを採取する。該血清サンプルを、ペニンシュララボラトリーズ社(Peninsula Laboratories, Inc.)から入手できるキットを用いて、ELISA法により、ロイプロリド濃度につき、またLC/MS/MS法により、テストステロンにつき分析する。種々の時点において、該インプラント中に残留するロイプロリドを、HPLCによって分析することができる。
【0135】
他のLHRH類似体、例えばブセレリン、デスロレリン、フェルチレリン、ヒストレリン、ルトレリン、ゴセレリン、ナファレリン、トリプトレリン、セトロレリックス、アバレリックス及び他のペプチド、例えばGLP-1、PYY等、及び他のポリマー及び溶媒を用いて、同様な実験を工夫し、実施することができる。
【0136】
例15:安定化された注入可能なポリマー組成物の使用
【0137】
該安定化された注入可能なポリマー組成物の患者への投与は、多くの方法によって達成できる。生分解性ポリマー組成物を皮下又は筋肉内経路で投与して、その場でインプラントを形成することができ、経皮クリームとして適用することができ、また経直腸又は経膣坐剤として、患者に導入することができる。
【0138】
例16:LAHClを含有するポリマー微小球の製造
【0139】
ポリ(D,L-ラクチド-co-グリコリド)(PLGA)微小球を、水中油型(O/W)単一エマルション技術によって製造する。PLGAを、塩化メチレン(DCM)に溶解する。該LAHClをカプセル化するために、該薬物を、該PLGAのDCM溶液と混合する。該混合溶液又は懸濁液を、4℃にて冷蔵庫中で予め冷却した、500mLの0.5-1%(w/v) PVA(PVA、88%水和、平均分子量31,000-50,000、シグマ-アルドリッチ(Sigma-Aldrich)社製)溶液中で乳化する。このエマルションを、RTにて3時間、連続的に攪拌し、該DCMを蒸発させる。該硬化された微小球を集め、脱イオン水で3回洗浄し、次いで凍結乾燥する。
【0140】
例17:該安定化された液状ポリマー組成物の、移植可能なポリマーマトリックスを製造するための使用
【0141】
50:50〜100:0なるラクチド対グリコリド比を持つ、ポリ(ラクチド-co-グリコリド)、例えばRG503H(USAの、ベーリンガーインゲルハイムケミカルズ社(Boehringer Ingelheim Chemicals, Inc)からなる生分解性ポリマーを、揮発性有機溶媒、例えば酢酸エチル又は塩化メチレンに溶解する。適当な量の本明細書において定義した有益な塩、例えばゴセレリンメシレート(該ポリマーに対して0.01-30質量%)を、該ポリマー溶液中に溶解/分散させる。この溶液を十分に混合して、均一な溶液又は懸濁液を得る。該混合が完了した後、該溶媒を蒸発により除去する。これを噴霧乾燥手順により行い、注入用の小さく均一な粒子を形成する。これを、また金型内で行って、インプラントを形成することも可能である。得られるこのポリマーマトリックスは、また粉砕して、粉末とし、かつ注入可能な懸濁液として処方することも可能である。
【0142】
このようにして得た固体投与剤形は、皮下又は筋肉内経路で注入でき、あるいはインプラントとして、皮膚下部に外科的に配置することもでき、又はペプチド剤の経口放出系の一部として、経口経路で与えることも可能である。該固体マイクロ粒子は、懸濁液又は非-水性溶液として調製することも可能であり、これは、また肺に薬物を放出するための、吸入を介して患者に投与することもできる。該マイクロ粒子は、またオイル内に懸濁させ、経直腸又は経膣坐剤として、患者に導入することもできる。
【図面の簡単な説明】
【0143】
【図1】図1は、4℃における16月後の処方物中のLAの安定性を示す。
【図2】図2は、4℃における16月後の処方物中のPLGAの分子量を示す。
【図3】図3は、ロイプロリドの放出に及ぼすPLGAの型及び濃度の効果を示す。
【図4】図4は、注入可能な組成物からのLAの放出に及ぼすビタミンEの効果を示す。
【図5】図5は、注入可能な組成物からのLAの放出に及ぼすミグリオール812の効果を示す。
【図6】図6は、ラットへのSCの皮下投与後の注入可能なポリマーからのLAの放出プロフィールを示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
a) 塩酸、臭化水素酸、ヨウ化水素酸、硫酸、硝酸、クロム酸、メタンスルホン酸、トリフルオロメタンスルホン酸、トリクロロ酢酸、ジクロロ酢酸、ブロモ酢酸、クロロ酢酸、シアノ酢酸、2-クロロプロパン酸、2-オキソブタン酸、2-クロロブタン酸、4-シアノブタン酸、過塩素酸、及びリン酸からなる群から選択される強酸を用いて形成された、ペプチド剤の塩;
b) 生分解性ポリマー;
c) 該生分解性ポリマーを溶解し、水性又は生物学的流体と混和性であるか、又はこれに分散し得る、製薬上許容される有機溶媒;及び
d) 場合により1又はそれ以上の製薬上許容される賦形剤、
を含むことを特徴とする、注入可能なポリマー組成物。
【請求項2】
溶液、懸濁液、ゲル又は半-固体状態にある、請求項1記載の注入可能なポリマー組成物。
【請求項3】
前記ペプチド剤が、少なくとも一つの塩基性アミノ基を含む、請求項1記載の注入可能なポリマー組成物。
【請求項4】
前記ペプチド剤が、オキシトシン、バソプレシン、副腎皮質刺激ホルモン(ACTH)、上皮増殖因子(EGF)、血小板由来増殖因子(PDGF)、プロラクチン、黄体形成ホルモン、黄体形成ホルモン放出ホルモン(LHRH)、LHRHアゴニスト、LHRHアンタゴニスト、成長ホルモン、成長ホルモン放出因子、インシュリン、エリスロポエチン、ソマトスタチン、グルカゴン、インターロイキン、インターフェロン-α、インターフェロン-β、インターフェロン-γ、ガストリン、テトラガストリン、ペンタガストリン、ウロガストロン、セクレチン、カルシトニン、エンケファリン、エンドルフィン、アンギオテンシン、甲状腺刺激ホルモン放出ホルモン(TRH)、腫瘍壊死因子(TNF)、副甲状腺ホルモン(PTH)、神経成長因子(NGF)、顆粒球コロニー刺激因子(G-CSF)、顆粒球マクロファージコロニー刺激因子(GM-CSF)、マクロファージコロニー刺激因子(M-CSF)、ヘパリナーゼ、血管内皮成長因子(VEG-F)、骨形態形成タンパク質(BMP)、hANP、グルカゴン-様ペプチド(GLP-1)、エキセナチド、ペプチドYY(PYY)、レニン、ブラジキニン、バシトラシン、ポリミキシン、コリスチン、チロシジン、グラミシジン、シクロスポリン、酵素、サイトカイン、抗体、ワクチン、抗生物質、抗体、糖タンパク質、卵胞刺激ホルモン、キョートルフィン、タフトシン、チモポイエチン、チモシン、チモスチムリン、胸腺体液性因子、血清胸腺因子、コロニー刺激因子、モチリン、ボンベシン、ダイノルフィン、ニューロテンシン、セルレイン、ウロキナーゼ、カリクレイン、物質P類似体及びアンタゴニスト、アンギオテンシンII、血液凝固因子VII及びIX、グラミシジン、メラノサイト刺激ホルモン、甲状腺ホルモン放出ホルモン、甲状腺刺激ホルモン、パンクレオチミン、コレシストキニン、ヒト胎盤性ラクトゲン、ヒト絨毛性ゴナドトロピン、タンパク質合成刺激ペプチド、胃抑制性ペプチド、血管作用性腸ペプチド、血小板由来増殖因子、及びこれらの合成類似体及び変性体並びに薬理的に活性なそのフラグメントからなる群から選択される、請求項1記載の注入可能なポリマー組成物。
【請求項5】
前記ペプチド剤が、一級アミンではないN-末端を持つ、請求項1記載の注入可能なポリマー組成物。
【請求項6】
前記ペプチド剤が、黄体形成ホルモン放出ホルモン(LHRH)、LHRH類似体、アゴニスト及びアンタゴニストからなる群から選択される、請求項5記載の注入可能なポリマー組成物。
【請求項7】
前記ペプチド剤が、ロイプロレリン、ブセレリン、ゴナドレリン、デスロレリン、フェルチレリン、ヒストレリン、ルトレリン、ゴセレリン、ナファレリン、トリプトレリン、セトロレリックス、エンフビルチド、チモシンα1、及びアバレリックスからなる群から選択される、請求項5記載の注入可能なポリマー組成物。
【請求項8】
親水性部分で共有結合的に修飾された、N-末端一級アミン及び/又は側鎖一級アミンを前記ペプチド剤が持つ、請求項1記載の注入可能なポリマー組成物。
【請求項9】
前記親水性部分が、約500Da〜約50,000Daなる範囲内の質量平均分子量を持つ、任意の水溶性直鎖又は分岐鎖オリゴマー又はポリマーを含む、請求項8記載の注入可能なポリマー組成物。
【請求項10】
前記親水性部分が、ポリエチレングリコール及び/又はその誘導体である、請求項8記載の注入可能なポリマー組成物。
【請求項11】
親油性部分で共有結合的に修飾された、N-末端一級アミン及び/又は側鎖一級アミンを前記ペプチド剤が持つ、請求項1記載の注入可能なポリマー組成物。
【請求項12】
前記親油性部分が、C2-39-アルキル、C2-39-アルケニル、C2-39-アルカジエニル及びステロイド残基からなる群から選択される、請求項11記載の注入可能なポリマー組成物。
【請求項13】
前記ペプチド剤が、質量基準で、前記組成物の約0.01〜約40%なる範囲内の量で存在する、請求項1記載の注入可能なポリマー組成物。
【請求項14】
前記生分解性ポリマーが、ポリラクチド、ポリグリコリド、ポリ(ラクチド-co-グリコリド)、ポリカプロラクトン、ポリジオキサノン、ポリカーボネート、ポリヒドロキシブチレート、ポリアルキレンオキサレート、ポリ無水物、ポリエステルアミド、ポリウレタン、ポリアセタール、ポリオルトカーボネート、ポリホスファゼン、ポリヒドロキシバレレート、ポリアルキレンサクシネート、ポリオルトエステル及びコポリマー、ブロックコポリマー、分岐コポリマー、ターポリマー及びこれらの組み合わせ及び混合物からなる群から選択される、請求項1記載の注入可能なポリマー組成物。
【請求項15】
前記生分解性ポリマーが、約50:50〜100:0なる範囲内の乳酸対グリコール酸比、及び約2,000〜約100,000なる範囲内の質量平均分子量を有する、ポリ(ラクチド-co-グリコリド)コポリマーである、請求項1記載の注入可能なポリマー組成物。
【請求項16】
前記ポリ(ラクチド-co-グリコリド)コポリマーが、ヒドロキシ、カルボキシル、又はエステル末端基を含む、請求項15記載の注入可能なポリマー組成物。
【請求項17】
前記ポリ(ラクチド-co-グリコリド)コポリマーが、単官能性アルコール又はポリオール残基を含み、かつカルボン酸末端を持たない、請求項15記載の注入可能なポリマー組成物。
【請求項18】
前記生分解性ポリマーが、質量基準で、前記組成物の約30〜約70%なる範囲内の量で存在する、請求項1記載の注入可能なポリマー組成物。
【請求項19】
前記製薬上許容される有機溶媒が、N-メチル-2-ピロリドン、ジメチルスルホキシド、グリセロール、ホルマール、グリコフロール、メトキシポリエチレングリコール350、アルコキシポリエチレングリコール、ポリエチレングリコールエステル、ベンジルベンゾエート、エチルベンゾエート、クエン酸のエステル、トリアセチン、ジアセチン、トリエチルシトレート、アセチルトリエチルシトレート、及びこれらの混合物からなる群から選択される、請求項1記載の注入可能なポリマー組成物。
【請求項20】
前記製薬上許容される有機溶媒が、質量基準で、前記組成物の約30〜約80%なる範囲内の量で存在する、請求項1記載の注入可能なポリマー組成物。
【請求項21】
さらに、1種又はそれ以上の放出速度調節剤をも含む、請求項1記載の注入可能なポリマー組成物。
【請求項22】
前記放出速度調節剤が、アルカンカルボン酸、オレイン酸、アルキルアルコール、極性脂質、界面活性剤、ポリエチレングリコールとポリラクチドとのコポリマー又はポリ(ラクチド-co-グリコリド)、ポロキサマー、ポリビニルピロリドン、ポリソルベート、2-エトキシエチルアセテート、トリアセチン、トリエチルシトレート、アセチルトリブチルシトレート、アセチルトリエチルシトレート、グリセロールトリアセテート、ジ(n-ブチル)セバケート、ポリエチレングリコール、ソルビトール、トリグリセライド、中鎖トリグリセライド及びこれらの混合物からなる群から選択される、請求項21記載の注入可能なポリマー組成物。
【請求項23】
さらに、1種又はそれ以上の緩衝剤をも含む、請求項1記載の注入可能なポリマー組成物。
【請求項24】
前記緩衝剤が、炭酸カルシウム、水酸化カルシウム、ミリスチン酸カルシウム、オレイン酸カルシウム、パルミチン酸カルシウム、ステアリン酸カルシウム、リン酸カルシウム、炭酸マグネシウム、水酸化マグネシウム、リン酸マグネシウム、ミリスチン酸マグネシウム、オレイン酸マグネシウム、パルミチン酸マグネシウム、ステアリン酸マグネシウム、炭酸亜鉛、水酸化亜鉛、ミリスチン酸亜鉛、オレイン酸亜鉛、パルミチン酸亜鉛、ステアリン酸亜鉛、リン酸亜鉛、及びこれらの混合物からなる群から選択される、請求項23記載の注入可能なポリマー組成物。
【請求項25】
さらに、1種又はそれ以上の酸化防止剤をも含む、請求項1記載の注入可能なポリマー組成物。
【請求項26】
前記酸化防止剤が、d-α-トコフェロールアセテート、アスコルビルパルミテート、ブチレート化ヒドロキシアニドール、ブチレート化ヒドロキシアニソール、ブチレート化ヒドロキシキノン、ヒドロキシコマリン、ブチレート化ヒドロキシトルエン、エチルガレート、プロピルガレート、オクチルガレート、ラウリルガレート、プロピルヒドロキシベンゾエート、トリヒドロキシブチロフェノン、ビタミンE、ペジレーテッドビタミンE、及びビタミンE-TPGSからなる群から選択される、請求項25記載の注入可能なポリマー組成物。
【請求項27】
a) LHRHアゴニスト又はアンタゴニストの塩酸塩又はメシレート塩;
b) ポリ(ラクチド-co-グリコリド)コポリマー、ここで該コポリマーのラクチド対グリコリド比は、50:50〜約100:0なる範囲内にある;
c) N-メチル-2-ピロリドン(NMP);及び
d) トリグリセライド及び/又はビタミンE又はその誘導体、
を含むことを特徴とする、注入可能なポリマー組成物。
【請求項28】
前記LHRHアゴニスト又はアンタゴニストが、ロイプロレリン、ブセレリン、ゴナドレリン、デスロレリン、フェルチレリン、ヒストレリン、ルトレリン、ゴセレリン、ナファレリン、トリプトレリン、セトロレリックス、エンフビルチド、チモシンα1、及びアバレリックスからなる群から選択される、請求項27記載の注入可能なポリマー組成物。
【請求項29】
液状媒体中にペプチド剤の遊離塩基を溶解して、溶液を調製する工程、及び該溶液を、強酸の水性溶液と混合して、該ペプチド剤の塩を形成する工程を含むことを特徴とする、ペプチド剤の塩の製造方法。
【請求項30】
a) 適当な液状媒体中に、揮発性の弱酸と共に、ペプチド剤の第一の塩を溶解して、溶液を調製する工程、b) 該溶液を、強酸の水性溶液と混合して、混合物を生成する工程;c) 該溶媒を該混合物から除去する工程;及びd) 該弱酸を除去して、該ペプチド剤の第二の塩を生成する工程、を含むことを特徴とする、ペプチド剤の塩の製造方法。
【請求項31】
治療的な量のペプチド剤を、対象に送達するために、持効性の制御放出系を製造するのに利用する、注入可能なポリマー組成物の製造方法であって、以下の諸工程:
a) 生分解性のポリマーを、製薬上許容される有機溶媒中に溶解する工程;及び
b) 強酸を用いて形成したペプチド剤の塩を、前記工程a)のポリマー溶液と組合せ、かつ混合して、注入可能な組成物を製造する工程、
を含み、該強酸が、塩酸、臭化水素酸、ヨウ化水素酸、硫酸、硝酸、クロム酸、メタンスルホン酸、トリフルオロメタンスルホン酸、トリクロロ酢酸、ジクロロ酢酸、ブロモ酢酸、クロロ酢酸、シアノ酢酸、2-クロロプロパン酸、2-オキソブタン酸、2-クロロブタン酸、4-シアノブタン酸、過塩素酸、及びリン酸からなる群から選択されることを特徴とする、前記方法。
【請求項32】
前記生分解性のポリマーを、製薬上許容される有機溶媒中に、1種又はそれ以上の製薬上許容される賦形剤と共に溶解する、請求項31記載の方法。
【請求項33】
a) 注入可能なポリマー組成物を、対象の身体内に投与する工程、ここで該組成物は、強酸を用いて形成したペプチド剤の塩、生分解性のポリマー、製薬上許容される有機溶媒及び場合により1種又はそれ以上の製薬上許容される賦形剤を含み;
b) 該製薬上許容される有機溶媒を該組成物から散逸させて、生分解性のインプラントを形成する工程、ここで、該強酸は、塩酸、臭化水素酸、ヨウ化水素酸、硫酸、硝酸、クロム酸、メタンスルホン酸、トリフルオロメタンスルホン酸、トリクロロ酢酸、ジクロロ酢酸、ブロモ酢酸、クロロ酢酸、シアノ酢酸、2-クロロプロパン酸、2-オキソブタン酸、2-クロロブタン酸、4-シアノブタン酸、過塩素酸、及びリン酸からなる群から選択される、
を含むことを特徴とする、生体内でインプラントをその場で製造する方法。
【請求項34】
前記注入可能なポリマー組成物を皮下投与する、請求項33記載の方法。
【請求項35】
前記注入可能なポリマー組成物を筋肉内投与する、請求項33記載の方法。
【請求項36】
治療的な量のペプチド剤を、対象に送達するための、制御放出系としての、ポリマー組成物を製造する方法であって、該方法が、以下の諸工程を含み:
a) 生分解性ポリマーを、有機溶媒に溶解する工程;
b) 強酸を用いて形成したペプチド剤の塩を、前記工程a)で得たポリマー溶液中に溶解又は懸濁させて、均一な処方物を得る工程;及び
c) 該ペプチド剤を封入した、該生分解性ポリマーを含む、マイクロ粒子又はナノ粒子を形成する工程、
ここで、該強酸は塩酸、臭化水素酸、ヨウ化水素酸、硫酸、硝酸、クロム酸、メタンスルホン酸、トリフルオロメタンスルホン酸、トリクロロ酢酸、ジクロロ酢酸、ブロモ酢酸、クロロ酢酸、シアノ酢酸、2-クロロプロパン酸、2-オキソブタン酸、2-クロロブタン酸、4-シアノブタン酸、過塩素酸、及びリン酸からなる群から選択されることを特徴とする、前記方法。
【請求項37】
治療的な量のペプチド剤を、対象に送達するための、制御放出系としての、ポリマー組成物を製造する方法であって、該方法が、以下の諸工程を含み:
a) 生分解性ポリマーを、有機溶媒に溶解する工程;
b) 強酸を用いて形成したペプチド剤の塩を、前記工程a)で得たポリマー溶液中に溶解又は懸濁させて、均一な処方物を得る工程;及び
c) 該ペプチド剤を封入した、該生分解性ポリマーを含む、固体ポリマーマトリックスを形成する工程、
ここで、該強酸は塩酸、臭化水素酸、ヨウ化水素酸、硫酸、硝酸、クロム酸、メタンスルホン酸、トリフルオロメタンスルホン酸、トリクロロ酢酸、ジクロロ酢酸、ブロモ酢酸、クロロ酢酸、シアノ酢酸、2-クロロプロパン酸、2-オキソブタン酸、2-クロロブタン酸、4-シアノブタン酸、過塩素酸、及びリン酸からなる群から選択されることを特徴とする、前記方法。
【請求項38】
前記固体ポリマーマトリックスが、マイクロ粒子、ナノ粒子、ロッド、フィルム、顆粒、円筒状又はウエハの形状にある、請求項37記載の方法。
【請求項39】
前記固体ポリマーマトリックスが、腸管外投与、経粘膜投与、経眼投与、皮下又は筋肉内注入又は装入、又は吸入に適したものである、請求項38記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公表番号】特表2009−523798(P2009−523798A)
【公表日】平成21年6月25日(2009.6.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−551315(P2008−551315)
【出願日】平成19年1月16日(2007.1.16)
【国際出願番号】PCT/US2007/001039
【国際公開番号】WO2007/084460
【国際公開日】平成19年7月26日(2007.7.26)
【出願人】(508218132)キューピーエス リミテッド ライアビリティ カンパニー (4)
【Fターム(参考)】