説明

高い{110}面集積度または{222}面集積度を有するFe系金属板の製造方法

【課題】{110}面または{222}面がより高集積化されており、さらに、高い磁気特性や加工性が付与されたFe系金属板を効率的に製造する方法を提供する。
【解決手段】C:0.8%未満を含有し、α−γ変態成分系のFe系金属よりなる鋳片を熱間圧延し、さらに、圧下率が20%以上95%以下で冷間圧延して、母材金属板を製造し、該母材金属板の表面にα生成元素を付着し、この母材金属板を母材金属のA3点まで加熱して、母材金属板内にα生成元素を拡散させ、合金化させ、母材金属板をA3点以上1300℃以下の温度に加熱、保持して、α生成元素の拡散によって合金化されたα−Fe相の{110}または{222}面集積度をさらに増加させ、その後母材金属板をA3点未満の温度へ冷却し、母材金属板の{110}または{222}面集積度が30%〜95%となるようにするFe系金属板の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高い{110}面集積度または{222}面集積度を有し、電動機、発電機、変圧器の磁心等の用途に好適な、または、自動車ボディ用や缶詰用等の用途に好適なFe系金属板の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から{110}面や{111}面などの方位に集合組織を制御した鋼板は、方位に応じて優れた特性が得られることから、様々な工業製品へ応用されている。
{110}面を鋼板面に高度に集積化させた鋼板は、優れた磁気特性が期待できることから、電圧トランスコア用電磁鋼板やモータコア用電磁鋼板へ適用されている。
また、{111}面を鋼板面に高集積化させた鋼板は優れた絞り加工性が期待できることから、自動車ボディ用鋼板や缶詰用鋼板へ適用されている。
【0003】
これらの鋼板における集合組織の制御は、冷延と再結晶熱処理の組み合わせによって行われ、その圧延や熱処理の条件について適当なものを選んで高い面集積度を得ている。例えば、より高い面集積度を得るために、バッチ熱処理などの長時間の熱処理温度を施して、必要な方位の結晶粒を優先的に成長させてより優れた特性を実現してきた。
【0004】
そのような技術の例として、次のような先行技術がある。
特許文献1には、圧延面内で高ヤング率の鋼板を得る方法として、熱延は加熱温度1220℃超、仕上温度850℃未満、巻取温度600℃未満で行った後、最高温度800℃以上の熱延板焼鈍を施すか、仕上温度850℃以上、巻取温度550℃以上、かつ890℃以下での総圧下量を50%未満に制限した熱間圧延を行い、圧下率20〜80%の冷間圧延後、最高温度850℃以上の最終焼鈍を施すことが開示されており、これにより、板厚1/4層における{110}<001>の極密度が6以上の鋼板が得られ、高ヤング率化が達成されている。
【0005】
特許文献2には、磁気特性と耐変形性の優れた電磁鋼板の製造方法として、冷延率20%以上の冷間圧延工程直前の固溶C量を0.0005%以上に制御する方法が開示されており、これにより、鋼材の集合組織において{110}面内の最高強度と{111}面内の最高強度との比が2以上に向上している。
特許文献3には、溶接性、非時効性に優れ、溶接後の缶胴加工における缶高減少量が小さい缶用鋼板を得る方法として、熱間圧延時の仕上げ圧延は850℃以上960℃以下、巻取り温度は550℃以上740℃以下、冷間圧延率は91.5〜96%、焼鈍温度は再結晶温度以上780℃以下で焼鈍時間は60秒以下、調質圧延率は0.5〜10%とする方法が開示されている。その結果、表面から板厚方向に1/4tの深さ(t:板厚)において、({001}<110>方位の集積強度)/({111}<112>方位の集積強度)≧0.09または、({112}<110>方位の集積強度)/({111}<112>方位の集積強度)≧0.12の特性が得られている。
【0006】
特許文献4には、高い成形性と優れた収縮性を有すると同時に、溶融亜鉛メッキが可能となる複合組織の高張力鋼版を製造する方法として、前記スラブを1050〜1250℃の温度で再加熱する段階と、最終スタンドの圧下率を10%以下とする熱間圧延を実施する段階と、熱間圧延された鋼板を600〜750℃で巻き取った後、冷間圧延する段階、および 冷間圧延された鋼板を再結晶焼なまし処理をした後、冷却する段階とからなる方法が示されている。これにより、フェライトとマルテンサイトの複合組織からなリ、前記フェライト組織で、γ−ファイバーの方位((111)//RD方位)がvol%で0.35%以上であり、立方晶の方位((100)<001>)がvol%で0.2%以下である高張力鋼板を得られている。
【0007】
以上の従来技術では、ヤング率や磁気特性を向上させるために{110}面を高集積化したり、加工性を向上させるために{111}面を高集積化する技術が開発されている。これら何れの技術も、特定の条件で熱延した後、冷延と再結晶熱処理の組み合わせにより、{110}面や{111}面の集積度を制御している。しかしながら、これらの条件のみでは得られる集合組織のレベルには限界があり、より高い面集積度の集合組織を得るためにはさらなる手法の開発が必要である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2009−249698号公報
【特許文献2】特開2005−133175号公報
【特許文献3】特開2009−149947号公報
【特許文献4】特開2008−115454号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
{110}面や{111}面の集積度を向上させ、より高い磁気特性や加工特性を得るためには、従来の熱延・冷延と再結晶熱処理の組み合わせでは圧延パススケジュールが複雑になったり、熱処理時間が長時間になったりして工業的に必ずしも有利ではなかった。
そこで、本発明では、短時間の熱処理によって{110}面や{111}面の面集積度を極めて高いレベルまで増加させ、より高い磁気特性や加工特性を容易に得られる鋼板の製造方法を提示することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、鉄板などのα−γ変態成分系のFe系金属において、板面の{110}面集積度または{222}面集積度を高める新たな方法として、最初に{110}面または{111}面の集積度を高めた集合組織を表層部に形成し、その後熱処理によってγ−α変態させる際に、その集合組織を引き継ぐ形で変態させることを着想した。そして、表層部における{110}または{222}集合組織の形成方法やγ−α変態を利用してそれらの面を高集積化する方法について鋭意検討した。
その結果、Fe系金属板をスラブから圧延にて製造する際、熱延後の冷延圧下率を制御することによって、{110}または{222}集合組織の種を少なくとも表層部に形成できること、その後、γ−α変態を利用して表層部の{110}または{222}集合組織を引き継ぐ際に、あらかじめ表面よりFe以外の異種金属を拡散させておき、拡散した領域をα−Fe相化しておくと、そのα−Fe相化した領域が{110}または{222}化し、引き続くγ−α変態の際に、さらに変態によって生じたα−Fe相の{110}面集積度または{222}面集積度が高くなることを見出した。
このような検討の結果なされた本発明の要旨は、以下のとおりである。
【0011】
(1)Fe系金属よりなる母材金属板上にフェライト生成元素を付着させ、熱処理してフェライト生成元素を拡散させて高い{110}面集積度または{222}面集積度を有するFe系金属板を製造する方法であって、
(a)C:0.8質量%以下を含有し、α−γ変態成分系のFe系金属よりなる鋳片から圧延によって厚みを減少させて金属板を得る工程において、熱間圧延し、さらに、圧下率が20%以上95%以下で冷間圧延して、板厚10μm以上3mm以下の母材金属板を製造する工程と、
(b)該母材金属板の片面あるいは両面にフェライト生成元素を付着する工程と、
(c)フェライト生成元素の付着した母材金属板を母材金属のA3点まで加熱して、母材金属板内のフェライト生成元素を拡散させ、合金化させる工程と、
(d)母材金属板をA3点以上1300℃以下の温度に加熱、保持して、フェライト生成元素の拡散によって合金化されたα−Fe相の{110}面集積度または{222}面集積度を増加させる工程と、
(e)母材金属板をA3点未満の温度へ冷却し、合金化していない領域のγ−Fe相がα−Fe相へ変態する際に、該領域の{110}面集積度または{222}面集積度を高めて、母材金属板の{110}面集積度または{222}面集積度が30%以上95%以下となるようにする工程
とを有することを特徴とするFe系金属板の製造方法。
(2)前記(a)の工程において、冷間圧延での圧下率が20%以上40%未満であり、前記(d)の工程において、α−Fe相の{110}面集積度を増加させるとともに{222}面集積度を低下させて、前記(e)の工程において、母材金属板の{110}面集積度が30%以上95%以下となり、かつ、{222}面集積度が0.01%以上30%以下となるようにすることを特徴とする前記(1)に記載のFe系金属板の製造方法。
(3)前記(a)の工程において、冷間圧延での圧下率が40%以上95%以下であり、前記(d)の工程において、α−Fe相の{222}面集積度を増加させるとともに{200}面集積度を低下させて、(e)の工程において、母材金属板の{222}面集積度が30%以上95%以下となり、かつ、{200}面集積度が0.01%以上30%以下となるようにすることを特徴とする前記(1)に記載のFe系金属板の製造方法。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、高い面集積度を得るために長時間の再結晶熱処理を有した従来の方法に対して、極めて短い時間で{110}面や{111}面の面集積度をより高集積化させた鋼板などのFe系金属板を、効率的に製造することができる。これによって、低コストで極めて高い特性を有する薄鋼板を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】{110}面集積度または{222}面集積度を高めたFe系金属板を得るための過程を説明する図である。
【図2】{110}面集積度または{222}面集積度を高めたFe系金属板の形態を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明は、高い{110}面集積度または{222}面集積度を有するFe系金属板の製造方法として、冷間圧延の圧下率を最適化することによって、少なくとも金属板の表層部に{110}集合組織または{222}集合組織が形成させられるようにし、表面からこの領域の一部または全部にフェライト生成元素を拡散させて、冷却時にFe系金属板全体を{110}化または{222}化させるようにする。
【0015】
このような本発明は、本発明者らが、表面に形成された集合組織における{110}または{111}結晶粒は、フェライト生成元素の拡散のための加熱過程のA3点以上において優先的に粒成長することを見出したこと、さらには、フェライト生成元素を内部に拡散合金化させた後冷却すると、Fe系金属板の板面の{110}面集積度または{222}面集積度が高くなることを見出したことに基づいている。
【0016】
本発明の基本原理の説明
まず、高い{110}面集積度または{222}面集積度が得られる本発明の基本原理を、図1に基づいて説明する。なお、以下の記載において、元素の含有量の%は質量%を意味するものとする。
【0017】
(a)母材金属板の製造(集合組織の種付)
C:0.8質量%以下を含有し、α−γ変態成分系のFe系金属よりなる鋳片から圧延によって厚みを減少させて金属板を得る工程において、熱間圧延し、さらに、圧下率が20%以上95%以下の範囲で冷間圧延して、少なくとも表層部に{110}集合組織または{222}集合組織を有し、板厚10μm以上3mm以下の母材金属板を得る。(図1aの状態参照)
その際、冷間圧延の圧下率を20%以上40%未満とすると、圧延後に少なくとも表層部に{110}集合組織が形成され、圧下率を40%以上95%以下とすると、圧延後に少なくとも表層部に{222}集合組織が形成される。
以下では、{110}集合組織が形成された母材金属板を例に説明するが、{222}集合組織が形成された母材金属板でも同様である。
【0018】
(b)第二層の形成
冷間圧延後の母材金属板の片面あるいは両面に、フェライト生成元素として例えばAlを蒸着法などを利用して付着させる。(図1bの状態参照)
【0019】
(c)集合組織の保存
フェライト生成元素としてAlを付着させた母材金属板を、母材金属板のA3点まで加熱して、母材金属板内の前記{110}集合組織を有する領域の一部または全部にAlを拡散させ母材に合金化させる。
合金化した領域ではα単相成分となり、その領域ではγ相からα相に変態していく。その際、表層部に形成された{110}集合組織の配向の芽を引き継いで変態するため、合金化した領域でも{110}に配向した組織が形成される。(図1cの状態参照)
【0020】
(d)集合組織の高集積化
母材金属板をさらにA3点以上1300℃以下の温度に加熱、保持する。
α単相成分の領域は、γ変態しないα−Fe相であるために、{110}結晶粒はそのまま保存され、その領域の中で{110}粒が優先成長して{110}面集積度が増加する。また、α単相成分でない領域はα相からγ相に変態する。
保持時間を長くすると、{110}結晶粒は粒の食い合いによって優先的に粒成長する。この結果、{110}面集積度はさらに増加する。また、Alの拡散に伴い、Fe−Al合金化した領域ではγ相からα相に変態していく。その際、変態する領域に隣接する領域ではすでに{110}に配向したα粒となっており、γ相からα相に変態する際に、隣接するα粒の結晶方位を引き継ぐかたちで変態する。これらにより、保持時間が長くなるとともに{110}面集積度が増加する。(図1dの状態参照)
【0021】
(e)集合組織の成長
母材金属板をA3点未満の温度へ冷却する。この時、合金化していない内部の領域のγ−Fe相は、α−Fe相へ変態する。この内部の領域は、A3点以上の温度域において既に{110}に配向したα粒となっている領域に隣接しており、γ相からα相に変態する際に、隣接するα粒の結晶方位を引き継いで変態する。このため、その領域でも{110}面集積度が増加する。(図1eの状態参照)
この現象によって、合金化していない領域でも高い{110}面集積度が得られるようになる。
前の(d)の段階で、板全体にわたり合金化されるまでA3点以上で保持された場合には、板全体にわたりすでに高い{110}面集積度の組織が形成されているので、冷却開始時の状態を保持したまま冷却される。
【0022】
以上、本発明の基本的な原理について説明したが、さらに、本発明の製造方法を規定する個々の条件の限定理由及び本発明を実施するに当たり好ましい条件について説明する。
【0023】
母材となるFe系金属板
本発明では、まず、Fe系金属よりなる母材金属板の表面に板内の{110}面集積度または{222}面集積度を高めるための芽となる{110}または{111}に配向した結晶粒を形成し、ついで、最終的には、その芽となるα粒の結晶方位を引き継ぐ形で板内にγ−α変態を進行させて、板全体の上記方位面の面集積度を高める。
このため、母材金属板に用いるFe系金属は、α−γ変態成分系の組成を有する必要がある。母材金属板に用いるFe系金属が、α−γ変態系の成分であれば、フェライト生成元素を板内に拡散合金化することによって、α単相系成分の領域を形成することができる。
【0024】
そのため、母材金属板のC含有量は0.8%以下とする。0.8%以下ならばA3点が存在し、A3点を超えた温度からの冷却でγ→α変態が起こるようになり、フェライト生成元素を板内に拡散合金化することによって、α単相系成分の領域を形成することができる。
製品金属板の磁気特性の点からは、C含有量が0.01%以下であることが好ましい。また。加工性の点からは、0.1%以下であることが好ましい。
Cは、スラブを製造する過程で残留する成分であり、かつ磁気特性の点から少ないほうが好ましいので、必ずしも下限は必要がないが、精錬過程のコストの点から0.0001%以上とする。
【0025】
本発明は、原理的に、α−γ変態系の成分を有するFe系金属に適用可能であるので、特定の組成範囲のFe系金属に限定されるものではない。
α−γ変態系成分の代表的なものとして、純鉄や普通鋼やなどの鋼が例示される。
例えば、Cを上述のように1ppm〜0.8%以下含有し、残部Fe及び不可避不純物よりなる純鉄や鋼を基本とし、適宜、添加元素を含有させたものである。
電磁鋼板用の鋼としては、C:0.02%未満、Si:0.1〜2.5%を基本成分とするα−γ変態系成分のケイ素鋼や、その磁気特性を向上させるために、さらにAlやMnを含有させたものでもよい。その他の不純物としては、微量のNi、Cr、Al、Mo、W、V、Ti、Nb、B、Cu、Co、Zr、Y、Hf、La、Ce、N、O、P、Sなどが含まれる。
また、加工用の鋼としては、プレス加工用の鋼板や缶用などのめっき鋼板などに用いられる鋼があり、例えば、自動車外板用の鋼としては、C:0.1%未満、Si:0.1〜1.0%、Mn:0.1〜1.0%を基本成分とするα−γ変態系成分の鋼や、その加工特性を向上させるために、さらにAlやMnを含有させたものでもよい。その他の不純物としては、微量のNi、Cr、Al、Mo、W、V、Ti、Nb、B、Cu、Co、Zr、Y、Hf、La、Ce、N、O、P、Sなどが含まれる。
【0026】
母材金属板の厚みは、10μm以上、3mm以下とする。厚みが10μm未満であると、表層に{110}集合組織または{222}集合組織の種を付与できなくなる。また、厚みが3mm超では、拡散処理後の冷却後に表層の{110}集合組織または{222}集合組織を十分成長させられず、高い磁束密度が得られない。
【0027】
圧延条件
本発明では、前述のように少なくとも表層部に板内の{110}面集積度または{222}面集積度を高めるための芽となる{110}または{111}に配向した結晶粒を有するFe系金属よりなる母材金属板を出発素材として用いる。
母材の上記方位面を高集積化する方法としては、鋳片から熱間圧延及び冷間圧延によって薄肉の板体に圧延する過程で、冷間圧延の圧下率を調整する方法を用いる。
【0028】
まず、C:0.8%以下のα−γ変態成分系のFe系金属よりなる連続鋳造スラブやインゴットのような鋳片を準備し、その鋳片から熱間圧延及び冷間圧延によって順次厚みを減少させて母材金属板を得る工程において、圧下率が20%以上95%以下の範囲で冷間圧延することによって、表層部に{110}集合組織または{222}集合組織を形成した母材金属板を得る。
【0029】
その際、圧延後に少なくとも表層部に高い{110}面集積度の集合組織が形成されるようにするためには、冷間圧延の圧下率を20%以上40%未満とする。圧下率が20%未満や40%以上では十分な{110}面集積度が得られなくなる。
また、圧延後に少なくとも表層部に高い{222}面集積度の集合組織が形成されるようにするためには、冷間圧延の圧下率を40%以上95%以下とする。圧下率が40%未満や95%超では十分な{222}面集積度が得られなくなる。
【0030】
表層部に形成される{110}集合組織または{222}集合組織の形成される領域は、表面から板厚方向距離で1μm以上とするのがよい。これにより、次の拡散処理においてそれらの面集積度を30%以上とすることができる。距離の上限は特に限定されるものではないが、圧延で500μm以上の領域にそれらの集合組織を形成するのは困難である。
【0031】
なお、上記方位面の面集積度の測定は、MoKα線によるX線回折で行うことができる。
詳細に述べると、各試料について、試料表面に対して平行なα−Fe結晶の11ある方位面({110}、{200}、{211}、{310}、{222}、{321}、{411}、{420}、{332}、{521}、{442})の積分強度を測定し、その測定値それぞれを、ランダム方位である試料の理論積分強度で除した後、{110}あるいは{222}強度の比率を百分率で求める。
【0032】
その際、例えば、{110}強度比率では、以下の式(I)で表される。
{110}面集積度=[{i(110)/I(110)}/Σ{i(hkl)/I(hkl)}]×100 ・・・ (I)
ただし、記号は以下のとおりである。
i(hkl): 測定した試料における{hkl}面の実測積分強度
I(hkl): ランダム方位をもつ試料における{hkl}面の理論積分強度
Σ: α−Fe結晶の11の方位面についての和
ここで、ランダム方位を持つ試料の積分強度は、試料を用意して実測して求めてもよい。
【0033】
異種金属
上記圧延工程によって製造された母材金属板に、Fe以外の異種金属を拡散させ、鋼板厚み方向へ{110}化または{222}化した領域を増加させる。用いられる異種金属としては、フェライト生成元素が選ばれる。
そのために、α−γ変態系成分のFe系金属よりなる母材金属板の片面あるいは両面に異種金属を第二層として層状に付着させ、その元素が拡散して合金化した領域をα単相系の成分にして、α相に変態した領域以外にも、板内の{110}面集積度または{222}面集積度を高めるための配向の芽として保存できるようにする。
そのようなフェライト生成元素として、Al、As、Be、Cr、Ga、Ge、Mo、P、Sb、Si、Sn、Ti、V、W、Znの少なくとも1種を単独であるいは組み合わせて使用できる。
【0034】
異種金属を層状で母材金属板の表面に付着させる方法としては、溶融めっきや電解めっきなどのめっき法、圧延クラッド法、PVDやCVDなどのドライプロセス、さらには粉末塗布など種々の方法を採用することができる。工業的に実施するための効率的に異種金属を付着させる方法としては、めっき法あるいは圧延クラッド法が適している。
異種金属の加熱前の付着厚みは、0.05μm以上、1000μm以下であることが望ましい。厚みが0.05μm未満では十分な面集積度を得ることができない。また、1000μm超であると、残留させる場合でもその厚みが必要以上に厚くなる。
【0035】
加熱拡散処理
異種金属として例えばAlを付着させた母材金属板を、母材金属板のA3点まで加熱して、母材金属板の表層部に形成された{110}集合組織または{222}集合組織の領域の一部または全体にAlを拡散させ、母材に合金化させる。Alを合金化した領域ではα単相成分となり、その領域ではγ相からα相に変態していく。その際、表層部に形成された前記集合組織の配向を引き継いで変態するため、合金化した領域でも{110}または{111}に配向した組織が形成される。
【0036】
この結果、合金化された領域では、α−Fe相の{110}面集積度または{222}面集積度が、何れの場合でも25%以上50%以下となり、それに応じて、{110}面集積度が高い場合は{222}面集積度が1%以上40%以下となり、{222}面集積度が高い場合は{200}面集積度が1%以上40%以下となった組織が形成される。
【0037】
母材金属板をさらにA3点以上1300℃以下の温度に加熱、保持する。
すでに合金化されている領域ではγ変態しないα単相の組織となるため、{110}または{222}結晶粒はそのまま保存され、その領域の中でそれぞれの粒が優先成長して{110}面集積度または{222}面集積度が増加する。また、α単相成分でない領域はγ変態する。
保持時間を長くすると、{110}または{222}結晶粒は粒の食い合いによって優先的に粒成長する。この結果、それぞれの面の集積度はさらに増加する。また、Alの拡散に伴い、Fe−Al合金化した領域ではγ相からα相に変態していく。その際、変態する領域に隣接する領域ではすでに上記の方位に配向したα粒となっており、γ相からα相に変態する際に、隣接するα粒の結晶方位を引き継ぐかたちで変態する。これらにより、保持時間が長くなるとともに{110}面集積度が増加し同時に{222}面集積度が低下する。または{222}面集積度が増加し同時に{200}面集積度が低下する(図2aの状態)。
【0038】
なお、最終的に50%以上のより高い{110}面集積度または{222}面集積度とするためには、保持時間を調整して、この段階において、α−Fe相の{110}面集積度が30%以上で{222}面集積度30%以下の状態、または{222}面集積度が30%以上で{200}面集積度30%以下の状態とするのが好ましい。
また、板全体が合金化されるまでA3点以上で保持された場合には、板中心部までα単相組織となり、{110}または{222}に配向した粒組織が板中心に到達する。(図2cの状態)
【0039】
昇温後の保持温度は、A3点以上の温度とする。A3点以上でないと前述のようにγからαへの変態を利用して面集積度をさらに高める作用を利用することができない。保持温度の上限は1300℃以下とするのが好ましい。1300℃を超える温度で加熱しても{110}面集積度または{222}面集積度の増加が飽和するばかりでなく、冷却後の製品金属板の形状が悪くなるので好ましくない。
また、加熱保持時間は、保持温度に到達後直ちに冷却を開始してもよい(実質的には0.01秒以上保持)、600分以下の時間で保持して冷却を開始してもよい。600分を超えて保持しても効果が飽和する。
以上の条件を満たすと、{110}面配向または{222}面配向の芽の高集積化がより進行し、より確実に冷却後にα−Fe相の{110}面集積度または{222}面集積度を30%以上とすることができる。
【0040】
加熱拡散処理後の冷却
拡散処理後、Alが合金化されていない領域が残った状態で、冷却すると、合金化していない領域では、γからαへの変態の際に、すでに{110}または{222}に配向したα粒となっている領域の結晶方位を引き継ぐかたちで変態し、それらの面の集積度が増加し、冷却後に、α−Fe相の{110}面集積度が30%以上95%以下で、かつ、{222}面集積度が0.01%以上30%以下の集合組織、または、α−Fe相の{222}面集積度が30%以上95%以下で、かつ、{200}面集積度が0.01%以上30%以下の集合組織を有する金属板が得られる(図2bの状態)。
【0041】
また、図2cのように、板全体が合金化されるまでA3点以上で保持され、{110}または{222}に配向した粒組織が板中心に到達した場合には、そのまま冷却してそれらの面方位に配向した粒組織が板中心まで到達した集合組織を得る。(図2dの状態)
これにより、異種金属が板全体に合金化され、α−Fe相の{110}面集積度が30%以上95%以下で、かつ、{222}面集積度が0.01%以上30%以下の集合組織、または、α−Fe相の{222}面集積度が30%以上95%以下で、かつ、{200}面集積度が0.01%以上30%以下の集合組織を有する金属板が得られる。
【0042】
{110}面集積度または{222}面集積度の値や母材金属板表面の異種金属の残留の状態は、A3点以上の保持時間や保持温度により変化し、図2bでは、{110}面または{111}面に配向した粒組織が板中心までは到達せず、異種金属も表面に残留した状態にあるが、板中心までに{110}面または{111}面に配向した粒組織とし、表面の第二層の全部を合金化することもできる。
なお、拡散処理後の冷却の際、冷却速度は0.1℃/sec以上500℃/sec以下が好ましい。この温度範囲で冷却すると、{110}または{222}配向の芽の成長がより進行する。
【0043】
製品金属板
以上の工程により、母材金属板に形成された集合組織や異種金属の拡散の程度に応じて、α−γ変態成分系のFe系金属よりなり、次のような集合組織を有する製品金属板が得られる。
({110}集合組織が形成される母材金属板を用いた場合)
この場合には、α−Fe相の{110}面集積度が30%以上95%以下で、かつ、{222}面集積度が0.01%以上30%以下の集合組織が得られる。
{110}面集積度が下限値を下回ったり、{222}面集積度が上限値を超えたりすると十分な磁束密度を持った鋼板を製造するのが困難であり、また、{110}面集積度が上限値を超えたり、{222}面集積度が下限値を下回ると製造した鋼板の磁束密度が飽和する傾向を示し、製造にも手間がかかるので好ましくない。
({222}集合組織が形成された母材金属板を用いた場合)
この場合には、α−Fe相の{222}面集積度が30%以上95%以下で、かつ、{200}面集積度が0.01%以上30%以下の集合組織が得られる。
{222}面集積度が下限値を下回ったり、{200}面集積度が上限値を超えたりすると十分な塑性加工性を持った鋼板を製造できない。また、{222}面集積度が上限値を超えたり、{200}面集積度が下限値を下回ると製造した鋼板の組成加工性が飽和したりする傾向を示し、製造にも手間がかかるので好ましくない。
【実施例】
【0044】
以下、実施例により、本発明をさらに詳しく説明する。
(実施例1)
本実施例では成分A〜CからなるNo.1〜15の母材金属板を各種圧延条件で製造し、その後、第二層に各種異種金属を適用して、各種製造条件と{110}面集積度及び{222}面集積度の関係について調べた結果を示す。特に冷間圧延工程における圧下率を40%未満で変化させた効果について詳細に調べた。
【0045】
表1に示したA〜Cの成分(残部の成分はFe及び不可避不純物である)を有するインゴットを真空溶解によって溶製した。これを圧延素材として用い、表2に示した熱間圧延、冷間圧延の条件によって所定の厚みの冷延板に加工した。
【0046】
成分Aの場合には、1050℃に加熱した厚み250mmのインゴットを、種々の圧下率で熱間圧延し、厚さ0.9〜1.3mmの熱延板を得た。ついで、この熱延板を酸洗した後、種々の圧下率で冷間圧延して厚み0.8mmの母材金属板を得た。
成分Bの場合には、1000℃に加熱した厚み280mmのインゴットを、種々の圧下率で熱間圧延し、厚さ1.8〜2.4mmの熱延板を得た。ついで、この熱延板を酸洗した後、種々の圧下率で冷間圧延して厚み1.5mmの母材金属板を得た。
成分Cの場合には、1100℃に加熱した厚み50mmのインゴットを、種々の圧下率で熱間圧延し、厚さ0.0015〜6mmの熱延板を得た。ついで、この熱延板を酸洗した後、33.33%の圧下率で冷間圧延して厚み0.001〜4mmの母材金属板を得た。
【0047】
得られた冷延板について、X線回折によって母材の表層部の集合組織を測定し、前述の方法で{110}面集積度及び{222}面集積度を求めた。
また、L断面に垂直方向から組織が観察できるよう薄片化し、表面から1/4tまでの間の領域を観察した。得られた母材金属板の常温での主相はαFe相であった。α−γ変態を起こすA3点は測定の結果、成分Aでは907℃、成分Bでは874℃、成分Cでは921℃であった。
【0048】
表2に示した母材No.1〜15の各母材金属板には、第二層として、蒸着法、スパッタ法、電気めっき法によって両面に各種異種金属元素を皮膜した。表3,4に示したように、異種金属元素としては、Al,Si,Mo,Ga,Sn,Ti,Ge,Sb,V,Wを選択した。両面合計の皮膜の厚みは表3、4に示した。
【0049】
次に第二層を付着させた母材金属板に各種条件で熱処理を施す実験を行なった。熱処理にはゴールドイメージ炉を用い、窒素ガス雰囲気中で加熱保持した。昇温速度や加熱保持時間は、プログラム制御により制御した。
【0050】
昇温過程における{110}配向または{222}配向の種付け、昇温・保持過程における{110}または{222}に配向した結晶粒の保存・高集積化、冷却過程における成長に関して、同じ母材−皮膜条件の組み合わせの母材金属板を3つ用意して、それぞれの過程毎で熱処理実験を行なって集合組織の変化を調べた。
【0051】
昇温過程に関する試料は、母材金属板を所定の昇温速度で室温からA3点まで加熱し、保持時間無しで室温まで冷却して作製した。冷却速度は100℃/secとした。作製した試料の集合組織の測定は前述したX線回折法による方法で行い、X線は表面から照射し、逆極点図でα−Fe相の{110}、{222}面集積度を求めた。
保持過程における保存・高集積化に関する試料は、母材金属板を所定の昇温速度で室温からA3点を超える所定温度まで加熱し、所定の保持時間の後に室温まで冷却して作製した。作製した試料の集合組織を同様に測定し、α−Fe相の{110}、{222}面集積度を求めた。
【0052】
冷却過程における成長に関する試料は、母材金属板を所定の昇温速度で室温からA3点を超える所定温度まで加熱し、所定の保持時間の後に所定の冷却速度で室温まで冷却して作製した。合金化されてない位置の{110}、{222}面集積度を評価するため、合金化されていない位置が評価面となるように、作製した試料の表面から所定の距離までの層を除去した試験片を作製した。板全体に合金化されている場合は、板厚の1/2tの位置とした。作製したそれぞれの試料の集合組織の測定は、X線を試験片の表面と、層を除去された試験片の所定の面からそれぞれ照射し、同様にそれぞれのα−Fe相の{110}、{222}面集積度を求めた。
【0053】
得られた製品の評価は磁気測定によって行なった。まずSST(Single Sheet Tester)を用いて5000A/mの磁化力に対する磁束密度B50を求めた。この時、測定周波数は50Hzとした。次に、VSM(Vibrating Sample Magnetometer)を用いて飽和磁束密度Bsを求めた。この際に印加した磁化力は0.8×106A/mであった。評価値は飽和磁束密度に対するB50の比率B50/Bsとした。
【0054】
表3、4には、製造途中のそれぞれの過程、及び、製造後において測定した{200}面集積度と{222}面集積度を示した。また、表3、4には、得られた製品金属板の磁気測定評価結果を示した。
本発明例では、いずれもα−Fe相の{110}面集積度が30%以上95%以下、および、{222}面集積度が0.01%以上30%以下の条件を満たす製品金属板が得られており、かつ、その金属板は、B50/Bs値が0.86以上の優れた磁気特性が得られていることが確認できる。
【0055】
また、そのような金属板は、表2〜4に示すように、表層部に高い{110}面集積度の集合組織が形成されている金属板に他の金属を付着して第二層を形成し、それをA3点以上の温度に加熱して冷却する熱処理を施すことにより、熱処理の各段階においてα−Fe相の{200}面が高集積化した製品金属板が得られることが確認できる。
これに対し、本願発明の要件を満たさないα域圧延工程である母材金属板を用いると、本発明例のような高い{110}面集積度の金属板は得られず、その結果、得られた磁気特性も劣っている。
【0056】
【表1】

【0057】
【表2】

【0058】
【表3】

【0059】
【表4】

【0060】
(実施例2)
本実施例では成分DからFからなるNo.16〜30の母材金属板を各種圧延条件で製造し、その後、第二層に各種異種金属を適用して、各種製造条件と{222}面集積度及び{200}面集積度の関係について調べた結果を示す。特に冷間圧延工程における圧下率を40%以上で変化させた効果について詳細に調べた。
【0061】
表5に示したD〜Fの成分(残部の成分はFe及び不可避不純物である)を有するインゴットを真空溶解によって溶製した。これを圧延素材として用い、表6に示した熱間圧延、冷間圧延の条件によって所定の厚みの冷延板に加工した。
【0062】
成分Dの場合には、1150℃に加熱した厚み230mmのインゴットを、種々の圧下率で熱間圧延し、厚さ1.2〜16.0mmの熱延板を得た。ついで、この熱延板を酸洗した後、種々の圧下率で冷間圧延して厚み0.7mmの母材金属板を得た。
成分Eの場合には、1050℃に加熱した厚み200mmのインゴットを、種々の圧下率で熱間圧延し、厚さ0.7〜8.5mmの熱延板を得た。ついで、この熱延板を酸洗した後、種々の圧下率で冷間圧延して厚み0.4mmの母材金属板を得た。
成分Fの場合には、1080℃に加熱した厚み100mmのインゴットを、種々の圧下率で熱間圧延し、厚さ0.003〜12mmの熱延板を得た。ついで、この熱延板を酸洗した後、66.67%の圧下率で冷間圧延して厚み0.003〜4mmの母材金属板を得た。
【0063】
得られた冷延板について、X線回折によって母材の表層部の集合組織を測定し、前述の方法で{200}、{222}面集積度を求めた。
また、L断面に垂直方向から組織が観察できるよう薄片化し、表面から1/4tまでの間の領域を観察した。得られた母材金属板の常温での主相はαFe相であった。α−γ変態を起こすA3点は測定の結果、成分Dでは915℃、成分Eでは842℃、成分Fでは905℃であった。
【0064】
表6に示した母材No.16〜30の各母材金属板には、第二層として、蒸着法、スパッタ法、電気めっき法によって両面に各種異種金属元素を皮膜した。表7、8に示したように、異種金属元素としては、Al,Si,Mo,Ga,Sn,Ti,Ge,Sb,V,Wを選択した。両面合計の皮膜の厚みは表7、8に示した。
【0065】
次に第二層を付着させた母材金属板に各種条件で熱処理を施す実験を行なった。実験方法としては、雰囲気としてArガスを用いた以外は実施例1に示した同じ方法で行った。また、この間における集合組織の観察も実施例1に示した同じ方法で行った。
得られた製品金属板の評価は、JIS G0202に基づいて引っ張り試験片を作製し、引張り試験を実施してr値を測定し、加工性を評価することによって行った。r値の評価は、r値が2.5以上を加工性良好として○で表示し、r値が2.5未満を加工性不良として×で表示して、表7、8に示した。
【0066】
表7、8には、製造途中のそれぞれの過程、及び、製造後において測定した{222}面集積度と{200}面集積度を示した。また、表7、8には、得られた製品金属板の加工性評価結果を示した。
本発明例では、いずれもα−Fe相の{222}面集積度が30%以上95%以下、および、{200}面集積度が0.01%以上30%以下の条件を満たす製品金属板が得られており、かつ、その金属板は、いずれもr値が良好であることが確認できる。
【0067】
また、そのような金属板は、表6〜8に示すように、表層部に高い{222}面集積度の集合組織が形成されている金属板に他の金属を付着して第二層を形成し、それをA3点以上の温度に加熱して冷却する熱処理を施すことにより、熱処理の各段階においてα−Fe相の{200}面が高集積化した製品金属板が得られることが確認できる。
これに対し、冷間圧延の圧延率が本発明の要件を満たさない母材金属板を用いると、本発明例のような高い{222}面集積度の金属板は得られず、その結果、得られた磁気特性も劣っている。
【0068】
【表5】

【0069】
【表6】

【0070】
【表7】

【0071】
【表8】

【産業上の利用可能性】
【0072】
本発明のFe系金属板の製造方法は、トランスコア用やモータコア用の電磁鋼板、あるいは自動車ボディ用や缶詰用に好適な鋼板を効率的に製造することができるので、産業上有効である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
Fe系金属よりなる母材金属板上にフェライト生成元素を付着させ、熱処理してフェライト生成元素を拡散させて高い{110}面集積度または{222}面集積度を有するFe系金属板を製造する方法であって、
(a)C:0.8質量%以下を含有し、α−γ変態成分系のFe系金属よりなる鋳片から圧延によって厚みを減少させて金属板を得る工程において、熱間圧延し、さらに、圧下率が20%以上95%以下で冷間圧延して、板厚10μm以上3mm以下の母材金属板を製造する工程と、
(b)該母材金属板の片面あるいは両面にフェライト生成元素を付着する工程と、
(c)フェライト生成元素の付着した母材金属板を母材金属のA3点まで加熱して、母材金属板内のフェライト生成元素を拡散させ、合金化させる工程と、
(d)母材金属板をA3点以上1300℃以下の温度に加熱、保持して、フェライト生成元素の拡散によって合金化されたα−Fe相の{110}面集積度または{222}面集積度を増加させる工程と、
(e)母材金属板をA3点未満の温度へ冷却し、合金化していない領域のγ−Fe相がα−Fe相へ変態する際に、該領域の{110}面集積度または{222}面集積度を高めて、母材金属板の{110}面集積度または{222}面集積度が30%以上95%以下となるようにする工程
とを有することを特徴とするFe系金属板の製造方法。
【請求項2】
前記(a)の工程において、冷間圧延での圧下率が20%以上40%未満であり、前記(d)の工程において、α−Fe相の{110}面集積度を増加させるとともに{222}面集積度を低下させて、前記(e)の工程において、母材金属板の{110}面集積度が30%以上95%以下となり、かつ、{222}面集積度が0.01%以上30%以下となるようにすることを特徴とする請求項1に記載のFe系金属板の製造方法。
【請求項3】
前記(a)の工程において、冷間圧延での圧下率が40%以上95%以下であり、前記(d)の工程において、α−Fe相の{222}面集積度を増加させるとともに{200}面集積度を低下させて、(e)の工程において、母材金属板の{222}面集積度が30%以上95%以下となり、かつ、{200}面集積度が0.01%以上30%以下となるようにすることを特徴とする請求項1に記載のFe系金属板の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2012−233226(P2012−233226A)
【公開日】平成24年11月29日(2012.11.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−102085(P2011−102085)
【出願日】平成23年4月28日(2011.4.28)
【出願人】(000006655)新日本製鐵株式会社 (6,474)
【Fターム(参考)】