説明

高エネルギー放射線を用いた材料加工方法

【課題】加工成果を損なわずに熱影響ゾーンが拡大されるようにする、高エネルギー放射線を用いた材料の改良加工方法を提供すること。
【解決手段】ポリマーマトリックス(1)に高エネルギー放射線、特にレーザービーム(9)を照射し、この際、前記放射線を焦点(11)に集束させ、前記焦点(11)は、これが、前記ポリマーマトリックス(1)の前記放射線と向き合った表面(3)の後方に位置するように調節され、前記ポリマーマトリックス(1)の材料除去が引き起こされ、それにより前記ポリマーマトリックス(1)の内部に反応空間(13)が形成されるようにする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリマーマトリックスに高エネルギー放射線、特にレーザービームを照射する、高エネルギー放射線を用いた材料加工方法に関する。
【背景技術】
【0002】
レーザービームを用いた材料加工は、産業上確立した方法の一つであり、とりわけ様々な加工材料の溶接、切断、穴あけ、および材料除去加工のために使用されている。レーザービームを用いた材料加工に関与する相互作用のメカニズムが、多種にわたると同時に複雑であることから、実際には、実験またはシミュレーションを通じてプロセスパラメータを実証済みであるレーザービームが適用されるようになっている。使用されるレーザーの操作変数と、その結果として生じる加工成果に関して、パラメータがどのように関係してくるかを考察すると、レーザー強度と放射線の作用時間が非常に重要な意味を持つ。
【0003】
レーザーを用いた材料加工においては、周知のごとく、加工対象である被加工物の表面に集束レーザービームが向けられる。その際に焦点の位置は、典型的には、被加工物の表面に対して、レーザービームの半径方向の広がりを最小にすることができるような、集束光学系からの距離に選定される。したがってレーザー強度は、被加工物の表面で最大となる。
【0004】
このフォーカルスポットの広がりに対するレーザーパワーの比が、ある一定の値から離れると、被加工物に伝達されるエネルギー密度が飛躍的に増大する。このレーザーエネルギーが結合される結果、被加工物の表面では相転移プロセスが誘発され、それにより一定の加工成果が可能となる。
【0005】
表面処理の分野では、パルスレーザービームを用いた衝撃(Beschuss)により被加工物の表面から材料を除去することを、レーザー・アブレーションと呼んでいる。
【0006】
レーザー光子のエネルギーを被加工物に伝達することによって、化学結合の切断をもたらすことができるが、非金属の場合は、短いレーザーパルスによって、クーロン爆発に至らせることもできる。これは、電子が固体から離れ、残された陽イオンの一部分がクーロン斥力により表面からはじき飛ばされることを意味している。
【0007】
ナノ秒域のレーザーパルスの場合は、レーザーのエネルギーにより、レーザーパルスの継続中(原子の熱運動という意味での)表面の加熱がもたらされる。熱伝導には限りがあって、体積中へのエネルギー輸送は、ゆっくりとしか行えないため、入射したエネルギーは非常に小さな領域に集中される。したがって被加工物は、この領域において非常に高い温度に達し、材料に急激な蒸発を来たすことがある。熱により誘発されるかまたはレーザー光子により直接誘発されるイオン化によって、除去された材料の電子とイオンから成るプラズマが生成されることがあるが、このプラズマ中のイオンは加速されて、そのエネルギーが100eVを超えることもある。
【0008】
(所与の波長およびパルス長での)アブレーションが可能となる最小パワー密度またはエネルギー密度は、アブレーション閾値と呼ばれる。エネルギー密度がこの閾値を上回ると、アブレーションレートが著しく増大する。
【0009】
このため、材料を狙い通りに除去する目的で、レーザー・アブレーションを、たとえば硬い材料を機械的に彫刻する代わりに、または非常に小さい穴を穴あけ加工するために、利用することができる。あるいは、除去された材料を、別の被加工物の表面被覆のために使用することも可能であり、これは、パルスレーザー蒸着(PLD)技術、またはレーザー転写フィルム(LTF)技術と呼ばれている。
【0010】
レーザー・アブレーションでは、レーザー照射の間およびその直後に、飛散した微細な溶融粒子や飛沫のほか、冷却ならびに凝縮により生じる物質が、しばしば加工ゾーンの周囲にデブリとして付着する点が短所となっている。これらの分解生成物は、場合によってはプロセスガスにより加工地点から除去されることもある。しかしながら、これらは概してレーザー加工プロセスの間に望ましくない影響を与えるものであって、しばしば加工成果の品質にとっての決定的な要因となる。
【0011】
一般には、レーザーパラメータを調整し、かつプロセスガスを用いて反応を引き起こすことによって、それらの影響を最小限にすることが試みられている。多くの被加工材料においては、レーザーの吸収特性を利用して、高強度レーザーをこれらに短時間照射することで可能である。レーザーエネルギーの最大結合は、一般にはレーザーの焦点が被加工物の表面に位置することによって達成される。そこで放射線のエネルギーが熱に変換されることにより、熱の作用により所望される加工成果がもたらされる熱影響ゾーンが形成される。しかしその結果、熱伝導、対流、ならびに蒸発およびプラズマ生成による激しい熱プロセスにより、周辺領域にマイナスの影響を生じることがある。
【0012】
材料固有の熱伝達係数が小さく、熱の分配に劣る場合は、界面および/または周辺領域に過熱を来たすことがあり、これは、望ましくない加工材料の構造変化を結果としてまねく。特にガラスやセラミックスなどの非晶質材料や結晶質材料、および珪素などの結晶質金属の場合は、この高いエネルギー投入量により、加工対象である材料の品質を損なう応力や亀裂などのマイナスの影響がもたらされることがあるのが問題である。
【0013】
レーザービームは、これが基本モード(TEM00モード)で発振し、かつその強度分布がガウス曲線に従う場合に、最善の集束性がもたらされる。集束光学系により焦点距離を相応に設定することにより、40μmから120μmまでの最小ビーム径を達成し、被加工物の表面に向けることが可能となる。焦点が被加工物の表面に調節される場合、従来どおりレーザービームの最大パルスパワー密度(J/cm)が被加工物に投入されることになる。レーザービームの焦点面が被加工物の表面上には位置しない場合は、パルスパワー密度が小さ過ぎることになりかねず、その結果レーザービームにより、表面が加熱されるだけで、材料の永久的な変更は一切もたらされずに終わることになる。
【0014】
表面に集束する際に、吸収されるエネルギーがある一定の閾値を上回る場合は、投入されたエネルギーにより材料内部に相転移を来たす。それにより引き起こされる変化が、材料の凝集状態の変化を必然的に随伴するとは必ずしも限らない。しかし材料の表面が加熱される結果、被加工物の内部には一定の温度場が形成されることになる。温度勾配が大きければ熱応力を来たすが、これは、冷却期を経た後に、しばしば被加工物の内部に残留応力として残る。しかし加熱期の(温度が450℃未満であるときの)塑性変形によっても、固体内部に熱膨張により機械応力が残留することがある。しかし熱影響ゾーンに生じるこうした構造変化は、クレータの形成や、キャビティ、ミクロ割れなど、視認できる欠陥を後に残すこともある。
【0015】
レーザービームを用いた公知の材料加工方法はすべて、最小限の光透過性を示す、レーザーの波長を吸収する材料の表面に、レーザービームが向けられる点で共通している。その結果、材料内部への光の侵入深さは僅かだけとなり、熱影響ゾーンは主に照射された表面により決まってしまうことになる。熱影響ゾーンがこのように局所的に限定されることによって、材料へのエネルギーの絶対輸送量も限定されてしまう。それ以外にも単位時間あたりの除去可能な材料の量もまた、熱影響ゾーンの大きさ如何により左右される。他方では、照射される表面を拡大し、それを、必要なパルスパワー密度を得るために、レーザーパワーを増大することによって補償することは、望ましくない場合が多い。その理由は、レーザービームを用いた材料加工が、まさに、たとえば特に精密または微視的な切断、穴あけ、マーキングなど、正に非常に精確な加工成果の達成が要求される場合に使用されることが多いからである。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0016】
したがって、本発明の課題は、加工成果を実質的に損なわずに、熱影響ゾーンが拡大されるようにする、高エネルギー放射線を用いた材料の改良加工方法を提示することにある。
【課題を解決するための手段】
【0017】
この課題は、請求項1に記載の方法により解決される。本発明による方法の好ましい実施形態は、それぞれの従属クレームの対象となっている。
【0018】
本発明によれば、高エネルギー放射線、特にレーザービームを用いて、ポリマーマトリックスを照射し;放射線を焦点に集束させ、この焦点を、これがポリマーマトリックスの放射線と向き合っている表面の後方に位置するように調節し、ポリマーマトリックスの材料除去が引き起こされ、それによりポリマーマトリックスの内部に反応空間が形成されるようにする、高エネルギー放射線を用いた材料加工方法を提示することが企図されている。
【0019】
この場合、加工対象である材料が、ポリマーマトリックス自体であっても、あるいはポリマーマトリックスと接触しており、放射線の波長に対して透過性である被加工物、好ましくはガラス基体であってもよい。
【0020】
ここでポリマーマトリックスと呼ぶのは、ポリマー成分をベースとするありとあらゆるマトリックスのことである。このマトリックスには、ポリマー成分のほかにも、任意の非ポリマー成分が含まれていてもかまわないが、あくまでも主成分はポリマー性のものでなければならない。特に「ポリマーマトリックス」という概念のもとには、複数のベースポリマーの混合物も含まれる。非常に好ましい実施形態においては、ポリマーマトリックスは熱硬化性のポリマーマトリックスである。特に熱硬化性ポリマーは、反応空間の形成に非常に適していることが判明している。
【0021】
本発明による方法により、反応空間の形成をもたらす、ポリマーマトリックスの材料除去が引き起こされる。「反応空間」とは、本発明においては、反応空間の内部で起きることができる、所望の反応用の反応体を内包するのに適したキャビティである。これらの反応体は、反応空間を形成する際に、反応空間がその中に形成されたポリマーマトリックスの領域の材料から生成されることが好ましい。
【0022】
反応空間が形成されることにより、加工成果を実質的に損なわずに、熱影響ゾーンが拡大される。これは、反応空間の領域内では、放射線の侵入深さが、反応空間のないポリマーマトリックスへの侵入深さよりも大きくなることによる。反応空間の形成後には、反応空間の内部に反応体が粉末の形態で存在することが好ましい。この場合、放射線が、反応空間内の粉末の形態の反応体によって、ポリマーマトリックスの内部に結合した形態のものよりも格段と強く吸収される。
【0023】
反応空間が、ポリマーマトリックスによっても、またポリマーマトリックスと接触している、放射線の波長に対して透過性である被加工物、好ましくはガラス基体によっても、空間的に限定されるようにすると、様々な理由から有利である。一方では、被加工物を、たとえばマーキングや刻印(beschriftung)されることになる、本来の加工対象である材料とすることができる。他方では、それにより反応空間が空間的に完全に仕切られ、ポリマーマトリックスの表面に開口しないことになる。それにより反応体は反応空間から出られなくなり、その全てを、反応空間の形成後に反応空間内での所望の反応のために利用できるようになる。材料除去後に反応空間の内部に反応体が存在しており、反応空間の内部のこれらの反応体が、高エネルギー放射線、特にレーザービームを用いた反応空間の照射下で反応して、生成物が生成されるようにすると望ましくあり得る。
【0024】
ポリマーマトリックスは、たとえばチタンドナーならびに炭素ドナーを有してよい。その場合、チタンドナーとしては、純チタン、または、エネルギーの作用下で短時間自由なチタンイオンを反応体として供与できる適性(Affinitaet)を有するチタン化合物が利用される。場合によっては、チタンを含有する中間生成物を介して、遊離したチタンの供与が行われるようにしてもよい。炭素ドナーからは、特にエネルギーの照射下で遊離した炭素が供与される。炭素ドナーは、炭素化合物、および/または、遊離した結合していない炭素であることができる。その際、炭素ドナーが、ポリマーマトリックス自体により供与されるか、たとえばカーボンブラックの形態をとるさらに別の炭素成分が存在してもよい。それに加えてさらに、ポリマーマトリックスは、さらに別の成分、たとえばポリマーや吸収体などを含有してもよい。放射線により、たとえばチタン化合物ならびに炭素化合物が破壊されることによって、反応体であるチタンおよび炭素が供与され、放射線の作用下で反応空間の内部に所望される生成物として炭化チタンが生成される。二酸化チタンが、700℃から2200℃の局所的な温度で、カーボンブラックまたは高純度グラファイトと還元反応して、炭化チタンと一酸化炭素が生成されるようにすることが好ましい。その場合は放射線により、反応空間の内部に反応のために不可欠な温度がもたらされる。
【0025】
ポリマーマトリックスは、レーザービームに反応して、主に粉末化するように構成されており、それにより個々の反応体、特にチタンおよび炭素が遊離して反応に供されて、炭化チタンが生成される。
【0026】
たとえばガラス基体などの被加工物にマーキングを施すためには、これらの反応体から生成される、たとえば炭化チタンなどの生成物が、高エネルギー放射線、特にレーザービームを用いた反応空間の照射下で、ポリマーマトリックスと接触している被加工物、たとえばガラス基体などの表面に析出するようにすることが好ましい。その際に放射線は、ポリマーマトリックスないしは反応空間に当たる前に、放射線の波長に対する透過性を示す被加工物を透過する。
【0027】
反応空間は、20〜200μmの範囲の直径および10〜100μmの範囲の深さをもつ空間的な広がりを有することが好ましい。約70μmの直径および約40μmの深さをもつ空間的な広がりを有する反応空間により、最適な成果が達成されることが判明した。その際、照射源として、出力が12Wである、波長1060nmまたは1064nmのファイバ結合式ダイオードポンプ型レーザーを使用した。
【0028】
本方法の好ましい実施形態の一例においては、反応空間が第1のレーザーパルスにより形成され、続いてこの反応空間に第2のレーザーパルスが照射される。すなわち第1のレーザーパルスにより、反応空間と、好ましくは、その内部に存在する粉末の形態をとる反応体とが形成されて、第2のレーザーパルスにより、これらの反応体が反応して所望の生成物が生成されるのを促進し、そして好ましくは、この生成物が爆発的な蒸発により反応空間に接している透明な被加工物の表面に向かってはじき飛ばされる。
【0029】
さらに、高エネルギー放射線、特にレーザービームを用いたポリマーマトリックスの照射により、ポリマーマトリックスの内部に局所的に相並んだ複数の反応空間が形成されるようにすると有利であり得る。その場合は、放射線がパルスビームであり、パルスビームの照射の間に、パルスビームがポリマーマトリックスに対して、またはポリマーマトリックスがパルスビームに対して、相対的に横方向に動かすようにすることが好ましい。これについては隣接する反応空間が、それぞれの空間的な広がりの少なくとも25%にわたり重なり合うようにすると有利である。またその際には、パルス周波数、およびビームとポリマーマトリックスの間の相対運動速度、すなわち刻印速度が、互いに対して相応に調整される。それにより、繋がった構造、例えば反応空間の線や面を形成することができる。これは特に被加工物のマーキングまたは刻印の際に有利であり得る。
【0030】
放射線は、パルスレーザーにより、10kHz〜300kHzのパルスレートで生成されることが好ましい。特に、たとえば被加工物の表面に線状または面状のマーキングないしは刻印を得るために、レーザービームを、ポリマーマトリックスも含めた被加工物に対して、および/または、ポリマーマトリックスも含めた被加工物をレーザービームに対して、相対的に横方向に動かす場合は、パルスレートが高いと有利である。その場合は刻印速度が高いときにも、レーザーパルスのオーバラップを達成して、可能な限り高品質の線状または面状の構造体を構成することができる。その上、より多くの放射線のエネルギーが結合できるようにするために、反応空間により高いパルスレートでレーザーパルスを繰り返し当てる。
【0031】
本発明による方法においては、放射線が一つの焦点に集束され、そして放射線のこの焦点は、焦点がポリマーマトリックスの放射線と向き合っている表面の後方に位置するように、調節される。その際に反応空間は、この焦点の領域に形成されることが好ましい。もっともこの焦点は、ポリマーマトリックスのより深い地点、それどころかポリマーマトリックスの後方にも位置することができる。特に反応空間を限定している材料層では、ポリマーマトリックスの表面レベルにおける放射線パワー密度が3J/cm未満となるように焦点が調節されると有利であり得る。この表面レベルとは、ここでは、反応空間が形成される前のポリマーマトリックスの表面に沿った平面に相当する。これは、ポリマーマトリックスと接触している被加工物である場合は、被加工物により形成される反応空間の境界に相当する。それにより、被加工物は熱的に穏やかに扱われることになる、すなわち被加工物に、熱により永久的に残る品質低下を一切来たすことなく、被加工物の加熱だけがもたらされることになる。反応空間の効果的な形成と所望の反応を同時に達成するためには、反応空間の内部の最大放射線パワー密度が少なくとも5J/cm、好ましくは少なくとも10J/cmとなるように焦点が調整されると有利である。すなわち、本発明による方法では、公知の方法とは対照的に、焦点外れが意図的に行われる、すなわち焦点が、ちょうど材料の表面のところに調節されるのではなくて、むしろポリマー層のより深いレベルに、またはポリマーマトリックスの後方に調節される。
【0032】
その結果、レーザービームの焦点に生じる最大パルスパワー密度は、境界層のところに局限されないことになる。それにより、材料内部の境界層から離れたところに最大エネルギー投入量が投入され、隣接する被加工物に熱による不利な影響が作用し得ないことが保証される。
【0033】
それに加えてさらに、この焦点外れによって、粉末の形態で存在している反応体のところでエネルギー変換が直接行われることになるため、キャビティの内部に存在している反応体についても、レーザーエネルギーにより効率的な変換がもたらされる。
【0034】
従来の方法では、可能な限り高い局所解像(Ortsaufloesung)での材料加工を達成するために、焦点は典型的には被加工物の表面上に調節され、ないしは焦点外れが最小限に調整される。焦点位置が被加工物の表面の前方にある場合は、マイナス方向への焦点外れであり、焦点位置が被加工物の表面の後方にある場合は、プラス方向への焦点外れである。したがって本発明においては、プラス方向への焦点外れに調整される。
【0035】
この焦点外れにより、ポリマーマトリックスないしはこれと接触している被加工物の表面のレベルではビーム径が増大される。しかしいずれにせよこれは、本発明による方法においては、従来の方法の場合のように、材料内へのエネルギー投入量が過少となるという事態を来たすことはなく、それどころかむしろそれにより反応空間が形成されて、放射線は、この反応空間の内部のより深いレベルにエネルギーを投入できるようになる。これは、最大の熱的作用が、隣接する被加工物に害を与える恐れがある境界層のところでは発生されないため、有利である。
【0036】
ビーム断面をこのように調整することによって、層の上側の領域に制御された粉末化をもたらすパルスパワー密度が発生される。マトリックスの内部の空洞が、深さを大きくとって構成されることにより、初めて最大パルスパワー密度が達成される。それにより最大エネルギー投入量は、より深いレベルだけに投入されることになる。
【0037】
キャビティの内部に生じた粒子は、続いてその大半がクレータのより深い領域で固相から気相に直接遷移する。解重合により生じる反応体は、加熱されることによって反応して所望の生成物を生成し、そして膨張および/またはガスの噴射により、この相互作用ゾーンから高速で吹き飛ばされて、ガラス表面に衝突する。それによりこの相互作用ゾーンは、レーザービームがほぼ完全に熱エネルギーに変換される、局所的に限定された反応空間として利用されることになる。
【0038】
本発明による方法により、熱の作用によって生じる応力、亀裂、および蒸発など、ガラス基体に害を与える作用を排除することができる。ガラス基体にマーキングまたは刻印するために本方法を使用する場合、焦点外れにより、堆積後のマーキングまたは刻印の輪郭のシャープネスに無視できる程度の低下が見られるだけである。
【0039】
以下では添付図面を参照しながら有利な実施形態の例について詳しく説明する。
【図面の簡単な説明】
【0040】
【図1】図1a〜図1dは、ガラス基体と接触しているポリマーマトリックスの内部に本発明に従って反応空間を形成する各工程を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0041】
図1aにはポリマーマトリックス1が示されており、その平坦な表面3は、ガラス基体7の平坦な表面5と直接接触している。集束パルスレーザービーム9の形態をとる高エネルギー放射線が、ガラス基体7を透過してポリマーマトリックス1の表面3に向けられている。ガラス基体7が、放射線の波長に対して透過性であるのに対して、ポリマーマトリックス1は放射線をほぼ完全に吸収する。図1aにおいて、レーザービーム9の仮想焦点11は、ポリマーマトリックス1の平坦な表面3ならびにガラス基体7の平坦な表面7から離れたところ、具体的にはポリマーマトリックス1の平坦な表面3の後方のポリマーマトリックス1の内部に位置することで、プラス方向への焦点外れが達成されるように、調節される。これを明らかにするために、図1aには仮想焦点11が破線により示されている。レーザービーム9の集束強度は、わかりやすくするために誇張して図示されている。すなわち表面3には、最大パルスパワー密度ではなく、3J/cm未満のパルスパワー密度だけが当たるようになっている。これは、プラス方向への焦点外れにより、この照射面積の方が、焦点11における照射面積よりも大きいからである。この3J/cm未満のパルスパワー密度により、隣接するガラス基体7およびその表面5は、穏やかに扱われ、有害な熱影響にさらされることは一切ない。これとは逆にポリマーマトリックス1は、表面3の領域で高エネルギー放射線を吸収し、そしてポリマーマトリックス1が粉末化される程に熱エネルギーが大きくなるまで加熱される。ポリマーマトリックス1の粉末化された領域は、放射線に対して少なくとも部分的に透過性を示す。したがって表面3領域の粉末化が進むにつれて、レーザービーム9は侵入深さを増大し、それにより、より深いところに位置する領域に到達する。その際にレーザービーム9は、プラス方向の焦点外れにより、より深いところに位置する領域に、より強力に集束され、それによりポリマーマトリックス1の材料に伝達されるパルスパワー密度も増大する。このプロセスは、レーザービーム9が焦点11に到達しそこを超えるまでの作用時間の範囲内で継続され、その結果、反応空間13が生ずる。反応空間13の形成に必要な作用時間は、レーザービーム9の最初のパルスの継続時間に相当し得る。
【0042】
図1bにおいては、反応空間13がそれの必要とされる大きさに達しており、反応空間13の内部では10J/cmを上回る最大パルスパワー密度が支配的となっている。図1aにおいてはなお仮想であった焦点9は、図1bにおいては反応空間13の内部の現実の焦点9となっている。これは必ずしも必要なことではない。なぜならば、レーザービームの作用時間により反応空間13の大きさを調整することができるからである。焦点9は、本方法の全工程にわたり仮想のままとどまっていても、それどころかポリマーマトリックス1の外部ないしは後方に位置していてもよい。反応空間13の内部には、所望の反応のために供与される粉末化された材料である反応体15、17が存在している。これらの反応体15、17は、この例においては、二酸化チタン15およびカーボンブラックの形態の純炭素17である。
【0043】
図1cには、放射線のさらなる作用下で、たとえばレーザービーム9の第2のパルスにより、反応体15、17が反応して生成物19が生成される、好ましい実施形態の例の工程段階が示されている。この場合、二酸化チタン15が純炭素17で、反応空間13内の放射線により発生された700℃から2200℃までの局所的な温度で還元反応されて、生成物として炭化チタン19が生成される。
【0044】
図1dに示されるように、レーザービーム9の第2のパルスの形態をとる放射線のさらなる作用により、反応空間13の内部で、粉末材料の爆発的な蒸発が生じる。その際に、生成された炭化チタン19がガラス基体7の表面5にはじき飛ばされ、そこに炭化チタン19が堆積する。ガラス基体7に堆積した炭化チタン19は、たとえばガラス基体7のマーキングまたは刻印として利用することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
高エネルギー放射線を用いた材料加工方法であって、ポリマーマトリックス(1)に高エネルギー放射線、特にレーザービーム(9)を照射し、その際、前記放射線を焦点(11)に集束させ、前記焦点(11)は、これが、前記ポリマーマトリックス(1)の前記放射線と向き合っている表面(3)の後方に位置するように調節され、前記ポリマーマトリックス(1)の材料除去が引き起こされ、それにより前記ポリマーマトリックス(1)の内部に反応空間(13)が形成される、前記方法。
【請求項2】
前記材料除去後に前記反応空間(13)内に反応体(15,17)が存在しており、高エネルギー放射線、特にレーザービーム(9)を用いた前記反応空間(13)の照射下で、前記反応空間(13)内の前記反応体(15,17)が反応して生成物(19)を生成する、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記反応空間(13)が、前記ポリマーマトリックス(1)によっても、また前記ポリマーマトリックス(1)と接触している放射線の波長に対して透過性である被加工物(7)、好ましくはガラス基材(7)によっても空間的に限定され、前記放射線が、前記ポリマーマトリックス(1)に当たる前に前記被加工物(7)を透過する、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
前記生成物(19)が、高エネルギー放射線、特にレーザービーム(9)を用いた前記反応空間(13)の照射下で、前記ポリマーマトリックス(1)と接触している、前記放射線の波長に対して透過性である前記被加工物(7)の表面に堆積する、請求項2および3に記載の方法。
【請求項5】
前記反応空間(13)が、20〜200μmの範囲、好ましくは約70μmの直径と、10〜100μmの範囲、好ましくは約40μmの深さとをもつ空間的な広がりを有するように形成される、請求項1〜4のいずれか一つに記載の方法。
【請求項6】
前記反応空間(13)が、パルスレーザービーム(9)の第1のパルスにより形成され、前記反応空間(13)に、パルスレーザービーム(9)の第2のパルスが照射される、請求項1〜5のいずれか一つに記載の方法。
【請求項7】
前記ポリマーマトリックス(1)に高エネルギー放射線、特にレーザービーム(9)を照射することによって、前記ポリマーマトリックス(1)の内部に局所的に相並んだ複数の反応空間(13)が形成される、請求項1〜6のいずれか一つに記載の方法。
【請求項8】
前記放射線がパルスレーザービーム(9)であり、照射中に前記パルスレーザービーム(9)が前記ポリマーマトリックス(1)に対して、または前記ポリマーマトリックス(1)が前記パルスレーザービーム(9)に対して、相対的に横方向に動かされる、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
隣接する反応空間(13)が、それぞれの空間的な広がりの少なくとも25%にわたり重なり合う、請求項7または8に記載の方法。
【請求項10】
前記放射線が、パルスレーザー(9)により10〜300kHzのパルスレートで生成される、請求項1〜9のいずれか一つに記載の方法。
【請求項11】
前記焦点(11)が、前記反応空間(13)の内部、前記ポリマーマトリックス(1)の内部、または前記ポリマーマトリックス(1)の後方に位置する、請求項1〜10のいずれか一つに記載の方法。
【請求項12】
前記ポリマーマトリックス(1)の前記表面(3)における放射線パワー密度が3J/cm未満となるように、前記焦点(11)が調節される、請求項1〜11のいずれか一つに記載の方法。
【請求項13】
前記反応空間(13)の内部の最大放射線パワー密度が少なくとも5J/cm、好ましくは少なくとも10J/cmとなるように、前記焦点(11)が調節される、請求項1〜12のいずれか一つに記載の方法。
【請求項14】
放射線の波長に対して透過性である被加工物(7)にマーキングまたは刻印するための、請求項4〜13のいずれか一つに記載の方法の使用。

【図1】
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【公開番号】特開2010−120087(P2010−120087A)
【公開日】平成22年6月3日(2010.6.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−262582(P2009−262582)
【出願日】平成21年11月18日(2009.11.18)
【出願人】(509120403)テーザ・ソシエタス・ヨーロピア (118)
【Fターム(参考)】