説明

高出力差動増幅器

【課題】小型で利得が高く、高い出力が得られる高出力差動増幅器を得る。
【解決手段】基本トランジスタセルをN段(Nは2以上の整数)並列接続してなる第1の増幅器11および第2の増幅器12を有し、第1の増幅器11のエミッタ端子および第2の増幅器12のエミッタ端子を互いに接続して仮想接地点6を設け、第1の増幅器11のベース端子および第2の増幅器12のベース端子にそれぞれ逆位相となる信号を入力することにより、第1の増幅器11のコレクタ端子および第2の増幅器12のコレクタ端子から増幅された信号を出力する高出力差動増幅器において、第1の増幅器11および第2の増幅器12の対応する段の基本トランジスタセルのエミッタ電極同士を接続して1対ごとの仮想接地点6a〜6fを設け、1対ごとの仮想接地点6a〜6fを互いに接続したものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、入力信号を増幅する差動増幅器に関し、特に、高周波信号を増幅する場合に適した高出力差動増幅器に関する。
【背景技術】
【0002】
従来技術において、一つの基本トランジスタセルで所望の出力が得られない場合には、複数の基本トランジスタセルを並列接続することにより、実効的なトランジスタサイズを大きくして、高出力が得られるようにする増幅器がある(例えば、非特許文献1参照)。
【0003】
また、複数の基本トランジスタセルを並列接続してなるそれぞれの増幅器を、さらに互いに並列接続し、それぞれに逆位相の信号を入力することにより、差動増幅器を構成することが可能になる。このような差動増幅器を用いる場合にも、一つの基本トランジスタセルで所望の出力が得られない場合に、実効的なトランジスタサイズを大きくして、高い出力を得ることが可能になる。
【0004】
【非特許文献1】David A.Johns and Ken Martin、“Analog Integrated Circuit Design、”John Wiley & Sons、Inc.、1997、P103〜108
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、従来技術には次のような課題がある。従来の高出力差動増幅器は、周波数が高くなるにつれて線路による影響が大きくなってしまうという問題がある。すなわち、基本トランジスタセルのエミッタ電極から仮想接地点までを接続する線路がインダクタンスとして動作してしまうために、基本トランジスタセルのエミッタと高周波的な接地点である仮想接地点との間にインダクタンスが挿入されたように動作することとなり、利得が低下してしまうという問題があった。
【0006】
また、差動増幅器を構成するそれぞれの増幅器の入力から出力までの経路長(電気的な長さ)が異なる場合には、それぞれの増幅器の出力信号が合成される際の位相が違うために合成効率が低下し、利得および出力電力が低下してしまう問題があった。特に、高周波信号を増幅する場合に、このような問題が顕著となる。
【0007】
本発明は上述のような課題を解決するためになされたもので、小型で利得が高く、高い出力が得られる高出力差動増幅器を得ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明に係る高出力差動増幅器は、基本トランジスタセルをN段(Nは2以上の整数)並列接続してなる第1の増幅器および第2の増幅器を有し、N段の基本トランジスタセルのそれぞれのエミッタ電極を集結した端子である第1の増幅器のエミッタ端子および第2の増幅器のエミッタ端子を互いに接続して仮想接地点を設け、N段の基本トランジスタセルのそれぞれのベース電極を集結した端子である第1の増幅器のベース端子および第2の増幅器のベース端子にそれぞれ逆位相となる信号を入力することにより、N段の基本トランジスタセルのそれぞれのコレクタ電極を集結した端子である第1の増幅器のコレクタ端子および第2の増幅器のコレクタ端子から増幅された信号を出力する高出力差動増幅器において、第1の増幅器および第2の増幅器の対応する段の基本トランジスタセルのエミッタ電極同士を接続して1対ごとの仮想接地点を設け、1対ごとの仮想接地点を互いに接続したものである。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、複数の基本トランジスタセルを並列接続してなる2つの増幅器を差動動作させる際に、2つの増幅器のそれぞれの基本トランジスタセルのエミッタ電極同士を1対ごとに仮想接地点として接続し、これらの仮想接地点を互いに接続することにより、インダクタンスの影響による利得の低下を抑えることができ、小型で利得が高く、高い出力が得られる高出力差動増幅器を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下、本発明の高出力差動増幅器の好適な実施の形態につき図面を用いて説明する。
本発明の高出力差動増幅器は、基本トランジスタセルのエミッタ電極同士を1対ごとに仮想接地点として接続することを特徴としており、小型で利得が高く、高い出力が得られる高出力差動増幅器を得ることができ、特に、高周波信号の増幅に対して有効に働く。
【0011】
実施の形態1.
本願発明の技術的特徴を明確にするために、まず始めに、基本的な高出力差動増幅器の構成について説明する。図4は、基本的な高出力差動増幅器の構成図である。この高出力差動増幅器は、ベース端子1a、1b、エミッタ端子2、コレクタ端子3a、3b、第1の増幅器11、および第2の増幅器12で構成される。
【0012】
さらに、第1の増幅器11は、線路5a、5b、5c、5gを介して並列接続された基本トランジスタセル4a〜4fで構成される。同様に、第2の増幅器12は、線路5d、5e、5f、5gを介して並列接続された基本トランジスタセル4g〜4lで構成される。なお、図4において、それぞれの線路を、長方形を用いて示しているが、これらの長方形は、各々遅延を含んでいることを示している。
【0013】
図4の構成において、基本トランジスタセル4a〜4fのそれぞれのベース電極を接続する線路を線路5aと総称する。また、基本トランジスタセル4a〜4fのそれぞれのエミッタ電極を接続する線路を線路5bと総称する。さらに、基本トランジスタセル4a〜4fのそれぞれのコレクタ電極を接続する線路を線路5cと総称する。
【0014】
一方、基本トランジスタセル4g〜4lのそれぞれのベース電極を接続する線路を線路5dと総称する。また、基本トランジスタセル4g〜4lのそれぞれのエミッタ電極を接続する線路を線路5eと総称する。さらに、基本トランジスタセル4g〜4lのそれぞれのコレクタ電極を接続する線路を線路5fと総称する。
【0015】
また、ベース端子1aは、第1の増幅器11として並列接続された基本トランジスタセル4a〜4fのそれぞれのベース電極を、線路5aを介して集結した端子である。一方、ベース端子1bは、第2の増幅器12として並列接続された基本トランジスタセル4g〜4lのそれぞれのベース電極を、線路5dを介して集結した端子である。
【0016】
また、コレクタ端子3aは、第1の増幅器11として並列接続された基本トランジスタセル4a〜4fのそれぞれのコレクタ電極を、線路5cを介して集結した端子である。一方、コレクタ端子3bは、第2の増幅器12として並列接続された基本トランジスタセル4g〜4lのそれぞれのコレクタ電極を、線路5fを介して集結した端子である。
【0017】
また、並列接続された基本トランジスタセル4a〜4fのそれぞれのエミッタ電極を接続した線路5bと、並列接続された基本トランジスタセル4g〜4lのそれぞれのエミッタ電極を接続した線路5eとは、線路5gを介して仮想接地点6に接続されている。そして、エミッタ端子2は、仮想接地点6とつながれた端子であり、第1の増幅器11と第2の増幅器12とに共通の端子となっている。
【0018】
次に、このように構成された高出力差動増幅器の動作について説明する。ベース端子1aから第1の増幅器11に対して入力された信号が、線路5aを介して基本トランジスタセル4a〜4fのベース電極にそれぞれ入力される。一方、ベース端子1bから第2の増幅器12に対して、ベース端子1aに入力された信号と逆位相となるように入力された信号が、線路5dを介して基本トランジスタセル4g〜4lのベース電極にそれぞれ入力される。
【0019】
このように、基本トランジスタセル4a〜4fと基本トランジスタセル4g〜4lには、それぞれ逆位相の信号が入力されていることから、基本トランジスタセル4a〜4fのエミッタ電極と基本トランジスタセル4g〜4lのエミッタ電極とを接続した仮想接地点6は、仮想接地点として機能する。すなわち、高周波的には仮想接地点6が接地されているとして動作することとなる。また、仮想接地点6は、エミッタ端子2を介して直流的に接地することにより、基本トランジスタセル4a〜4f、4g〜4lに直流バイアスを印加することができる。
【0020】
基本トランジスタセル4a〜4fにて増幅された高周波信号は、それぞれのコレクタ電極から線路5cおよびコレクタ端子3aを介して出力される。一方、基本トランジスタセル4g〜4lにて増幅された高周波信号は、それぞれのコレクタ電極から線路5fおよびコレクタ端子3bを介して出力される。ここで、コレクタ端子3aからの出力信号と、コレクタ端子3bからの出力信号とは、互いに逆位相となる。
【0021】
このようにして差動増幅器を動作させることにより、一つの基本トランジスタセルで所望の出力が得られない場合には、ベース端子1a、1bにベース電極を、エミッタ端子2にエミッタ電極を、コレクタ端子3a、3bにコレクタ電極を接続した複数の基本トランジスタセル4a〜4fおよび基本トランジスタセル4g〜4lを並列に接続することにより、実効的なトランジスタサイズを大きくして、高い出力を得ることが可能になる。
【0022】
次に、本願発明における高出力差動増幅器の構成について説明する。図1は、本発明の実施の形態1における高出力差動増幅器の構成図である。この高出力差動増幅器は、ベース端子1a、1b、エミッタ端子2、コレクタ端子3a、3b、第1の増幅器11、および第2の増幅器12で構成される。
【0023】
さらに、第1の増幅器11は、線路5a、5b、5cを介して並列接続された基本トランジスタセル4a〜4fで構成される。同様に、第2の増幅器12は、線路5d、5e、5fを介して並列接続された基本トランジスタセル4g〜4lで構成される。なお、図1において、それぞれの線路を、長方形を用いて示しているが、これらの長方形は、各々遅延を含んでいることを示している。
【0024】
図1の構成において、基本トランジスタセル4a〜4fのそれぞれのベース電極を接続する線路を線路5aと総称する。また、基本トランジスタセル4a〜4fのそれぞれのエミッタ電極に接続されている線路を線路5bと総称する。さらに、基本トランジスタセル4a〜4fのそれぞれのコレクタ電極を接続する線路を線路5cと総称する。
【0025】
一方、基本トランジスタセル4g〜4lのそれぞれのベース電極を接続する線路を線路5dと総称する。また、基本トランジスタセル4g〜4lのそれぞれのエミッタ電極に接続されている線路を線路5eと総称する。さらに、基本トランジスタセル4g〜4lのそれぞれのコレクタ電極を接続する線路を線路5fと総称する。
【0026】
また、ベース端子1aは、第1の増幅器11として並列接続された基本トランジスタセル4a〜4fのそれぞれのベース電極を、線路5aを介して集結した端子である。一方、ベース端子1bは、第2の増幅器12として並列接続された基本トランジスタセル4g〜4lのそれぞれのベース電極を、線路5dを介して集結した端子である。
【0027】
また、コレクタ端子3aは、第1の増幅器11として並列接続された基本トランジスタセル4a〜4fのそれぞれのコレクタ電極を、線路5cを介して集結した端子である。一方、コレクタ端子3bは、第2の増幅器12として並列接続された基本トランジスタセル4g〜4lのそれぞれのコレクタ電極を、線路5fを介して集結した端子である。
【0028】
また、第1の増幅器11として並列接続された基本トランジスタセル4a〜4fのそれぞれのエミッタ電極と、第2の増幅器12として並列接続された基本トランジスタセル4g〜4lのそれぞれのエミッタ電極とを線路5bと線路5eを介して互いに接続した中点をそれぞれ仮想接地点6a〜6fとして示している。
【0029】
すなわち、図1の構成は、第1の増幅器11と第2の増幅器12の一対の基本トランジスタセルである4aと4g、4bと4h、4cと4i、4dと4j、4eと4k、4fと4lを、それぞれ個別の仮想接地点6a、6b、6c、6d、6e、6fで接続している点で、図4の構成と異なっている。そして、エミッタ端子2は、これら仮想接地点6a〜6fを、線路5gを介して集結した端子であり、第1の増幅器11と第2の増幅器12とに共通の端子となっている。
【0030】
次に、このように構成された高出力差動増幅器の動作について説明する。ベース端子1aから第1の増幅器11に対して入力された信号が、線路5aを介して基本トランジスタセル4a〜4fのベース電極にそれぞれ入力される。一方、ベース端子1bから第2の増幅器12に対して、ベース端子1aに入力された信号と逆位相となるように入力された信号が、線路5dを介して基本トランジスタセル4g〜4lのベース電極にそれぞれ入力される。
【0031】
このように、基本トランジスタセル4a〜4fと基本トランジスタセル4g〜4lには、それぞれ逆位相の信号が入力されていることから、基本トランジスタセル4a〜4fのエミッタ電極と基本トランジスタセル4g〜4lのエミッタ電極とのそれぞれの対を接続した仮想接地点6a〜6fは、それぞれ仮想接地点として機能する。すなわち、高周波的にはそれぞれの仮想接地点6a〜6fが接地されているとして動作することとなる。
【0032】
エミッタ端子2は、直流的に接地されるか、または電流源に接続される。トランジスタを動作させるための直流バイアスは、ベース端子1a、1bとコレクタ端子3a、3bに印加する。
【0033】
第1の増幅器11である基本トランジスタセル4a〜4fのベース電極にベース端子1aおよび線路5aを介して入力された高周波信号は、並列接続されたこれらの基本トランジスタセル4a〜4fによって増幅され、線路5cを介してコレクタ端子3aから出力される。一方、第2の増幅器12である基本トランジスタセル4g〜4lのベース電極にベース端子1bおよび線路5dを介して入力された高周波信号は、並列接続されたこれらの基本トランジスタセル4g〜4hによって増幅され、線路5fを介してコレクタ端子3bから、コレクタ端子3aからの出力と逆の位相として出力される。
【0034】
ここで、第1の増幅器11と第2の増幅器12のそれぞれ1対の差動で動作する基本トランジスタセル4a〜4fと4g〜4lのエミッタ電極同士を仮想接地点6a〜6fで接続している。これにより、それぞれの基本トランジスタセル4a〜4fと4g〜4lからそれぞれの仮想接地点6a〜6fまでの線路を短くすることができ、遅延を少なくすることができる。
【0035】
さらに、基本トランジスタセル4a〜4fと4g〜4lの1対ごとに仮想接地点6a〜6fを設けることにより、これらの仮想接地点間を接続する線路5gの影響が高周波的に無くなり、基本トランジスタセル4a〜4fと4g〜4lのエミッタ電極から仮想接地点6a〜6fまでのインダクタンスを低減することが出来る。これにより、エミッタに接続されたインダクタンスの影響による利得の低下を抑えることができ、利得の高い高出力差動増幅器を得ることができる。
【0036】
実施の形態1によれば、複数の基本トランジスタセルを並列接続してなる2つの増幅器を差動動作させる際に、2つの増幅器のそれぞれの基本トランジスタセルのエミッタ電極同士を1対ごとに仮想接地点として接続することにより、インダクタンスの影響による利得の低下を抑えることができ、利得の高い高出力差動増幅器を得ることができる。特に、数GHz以上の高周波信号に対して有効となる。
【0037】
実施の形態2.
実施の形態1では、1対の差動で動作する基本トランジスタセルごとにエミッタ電極同士をそれぞれの仮想接地点として接続することにより、利得の低下を抑えた高出力差動増幅器について説明した。本実施の形態2では、ベースおよびコレクタに接続された線路による利得の低下を小さくする場合について説明する。具体的には、本実施の形態2における高出力差動増幅器は、個々の基本トランジスタからの出力位相をそろえることにより、差動増幅器全体としての利得低下を防ぐものである。
【0038】
図2は、本発明の実施の形態2における高出力差動増幅器の構成図である。実施の形態1の構成図である図1と比較すると、図2の構成は、ベース端子1a、1b、およびコレクタ端子3a、3bの接続位置が異なっている。
【0039】
次に、異なる構成を中心に、動作を説明する。基本的な増幅動作は、実施の形態1で説明した動作と同様である。ベース端子1a、1bに入力された互いに逆位相を有する高周波信号は、それぞれ線路5a、5dを介して、第1の増幅器11である基本トランジスタセル4a〜4f、第2の増幅器12である基本トランジスタセル4g〜4lにそれぞれ入力される。
【0040】
このようにして基本トランジスタセル4a〜4f、基本トランジスタセル4g〜4lに入力された高周波信号は、各々の基本トランジスタセルにて増幅され線路5c、5fを介して、それぞれコレクタ端子3a、3bから互いに逆位相の信号として出力される。
【0041】
ここで、本実施の形態2における高出力差動増幅器は、ベース電極およびコレクタ電極に接続された線路による利得の低下を抑えるために、それぞれの線路の電気長が次のような関係を有するようにするものである。
【0042】
すなわち、第1の増幅器11において、基本トランジスタセル4a〜4fのそれぞれのベース電極間を接続する線路5aの電気長と、基本トランジスタセル4a〜4fのそれぞれのコレクタ電極間を接続する線路5cの電気長とを等しくする。
【0043】
これにより、個々の基本トランジスタセル4a〜4fに入力される高周波信号の位相はそれぞれ異なるが、ベース端子1aに入力された信号がコレクタ端子3aに伝達するまでの電気長は、どの基本トランジスタセル4a〜4fを通過しても等しくなる。これにより、それぞれの基本トランジスタセル4a〜4fで増幅された高周波信号の位相がそろうこととなり、位相差による利得の低下および出力の低下を抑えることが可能になる。
【0044】
同様に、第2の増幅器12において、基本トランジスタセル4g〜4lのそれぞれのベース電極間を接続する線路5dの電気長と、基本トランジスタセル4g〜4lのそれぞれのコレクタ電極間を接続する線路5fの電気長とを等しくする。
【0045】
これにより、個々の基本トランジスタセル4g〜4lに入力される高周波信号の位相はそれぞれ異なるが、ベース端子1bに入力された信号がコレクタ端子3bに伝達するまでの電気長は、どの基本トランジスタセル4g〜4lを通過しても等しくなる。これにより、それぞれの基本トランジスタセル4g〜4lで増幅された高周波信号の位相がそろうこととなり、位相差による利得の低下および出力の低下を抑えることが可能になる。
【0046】
上述したような効果を得るためには、それぞれの基本トランジスタセル4a〜4f(4g〜4l)で増幅された高周波信号の位相をそろえることが必要である。したがって、個々のベース端子1a(1b)から個々の基本トランジスタセル4a〜4f(4g〜4l)までの電気長を等しくして、さらに個々の基本トランジスタセル4a〜4f(4g〜4l)からコレクタ端子3a(3b)までの電気長を等しくすることによっても同様の効果が得られる。
【0047】
しかしながら、このような接続を実現するには、線路の長さをそろえるために回路が複雑になってしまう。しかし、本実施の形態2における図2に示した接続によれば、ベース端子1a(1b)から個々の基本トランジスタセル4a〜4f(4g〜4l)までの距離、および個々の基本トランジスタセル4a〜4f(4g〜4l)からコレクタ端子3a(3b)までの距離は、それぞれ異なっていてもよい。
【0048】
これにより、実際の線路パターンの配置の自由度が高まり、個々の基本トランジスタセル4a〜4f(4g〜4l)を小型かつシンプルに接続することが可能になり、線路自体による損失を低減することが可能になる。特に、第1の増幅器11内の基本トランジスタセル4a〜4f、および第2の増幅器12内の基本トランジスタセル4g〜4lの配置を一直線とすれば、小型かつシンプルな並列接続が可能となる。
【0049】
実施の形態2によれば、並列接続されたそれぞれの基本トランジスタセルを介してベース端子からコレクタ端子に至るまでのそれぞれの電気長を等しくすることにより、それぞれの基本トランジスタセルで増幅される高周波信号の位相をそろえることができる。これにより、位相差による利得の低下および出力の低下を抑えた高出力差動増幅器を得ることができ、特に、数GHz以上の高周波信号の増幅に対して有効に働く。
【0050】
実施の形態3.
実施の形態1または2では、第1の増幅器11と第2の増幅器12を1対として構成した基本差動増幅器について説明した。本実施の形態3では、このような基本差動増幅器を並列接続する場合について説明する。このような構成においても、同様の効果が得られる。
【0051】
図3は、本発明の実施の形態3における高出力差動増幅器の構成図である。図3において、一点鎖線で囲まれた部分は、基本差動増幅器10および基本差動増幅器20を示している。これら基本差動増幅器10および基本差動増幅器20は、差動動作で対になった基本トランジスタセルを一直線に配置したものであり、実施の形態2で示した図2の構成と同一である。ここで、基本差動増幅器10は、第1の増幅器11と第2の増幅器12とで構成される。一方、基本差動増幅器20は、第1の増幅器21と第2の増幅器22とで構成される。
【0052】
ベース端子1aは、線路5a1を介して基本差動増幅器10内の第1の増幅器11のベース端子と接続されるとともに、線路5a2を介して基本差動増幅器20内の第1の増幅器21のベース端子と接続される。同様に、ベース端子1bは、線路5d1を介して基本差動増幅器10内の第2の増幅器12のベース端子と接続されるとともに、線路5d2を介して基本差動増幅器20内の第2の増幅器22のベース端子と接続される。
【0053】
エミッタ端子2は、線路5g1を介して基本差動増幅器10内のエミッタ端子と接続されるとともに、線路5a2を介して基本差動増幅器20内のエミッタ端子と接続される。
【0054】
さらに、コレクタ端子3aは、線路5c1を介して基本差動増幅器10内の第1の増幅器11のコレクタ端子と接続されるとともに、線路5c2を介して基本差動増幅器20内の第1の増幅器21のコレクタ端子と接続される。同様に、コレクタ端子3bは、線路5f1を介して基本差動増幅器10内の第2の増幅器12のコレクタ端子と接続されるとともに、線路5f2を介して基本差動増幅器20内の第2の増幅器22のコレクタ端子と接続される。
【0055】
このようにして、図3の高出力差動増幅器は、基本差動増幅器10と基本差動増幅器20とを並列接続した構成を有している。ここで、ベース端子1a、1bは、基本差動増幅器10と基本差動増幅器20とを並列接続した高出力差動増幅器に対する信号の入力端子に相当する。また、コレクタ端子3a、3bは、基本差動増幅器10と基本差動増幅器20とを並列接続した高出力差動増幅器からの信号の出力端子に相当する。
【0056】
次に、このような並列接続に伴う構成を中心に、動作を説明する。基本差動増幅器10および基本差動増幅器20の基本的な増幅動作は、実施の形態1、2で説明した動作と同様である。
【0057】
ベース端子1aに入力された高周波信号は、2分配され、一方が線路5a1を介して基本差動増幅器10の第1の増幅器11に入力され、他方が線路5a2を介して基本差動増幅器20の第1の増幅器21に入力される。同様に、ベース端子1bに入力された高周波信号は、2分配され、一方が線路5d1を介して基本差動増幅器10の第2の増幅器12に入力され、他方が線路5d2を介して基本差動増幅器20の第2の増幅器22に入力される。
【0058】
さらに、基本差動増幅器10において、第1の増幅器11で増幅された高周波信号は、線路5c1を介してコレクタ端子3aに出力され、第2の増幅器12で増幅された高周波信号は、線路5f1を介してコレクタ端子3bに出力される。同様に、基本差動増幅器20において、第1の増幅器21で増幅された高周波信号は、線路5c2を介してコレクタ端子3aに出力され、第2の増幅器22で増幅された高周波信号は、線路5f2を介してコレクタ端子3bに出力される。
【0059】
この結果、コレクタ端子3aには、基本差動増幅器10の第1の増幅器11の出力と、基本差動増幅器20の第1の増幅器21の出力とが合成されて出力されることとなる。同様に、コレクタ端子3bには、基本差動増幅器10の第2の増幅器12の出力と、基本差動増幅器20の第2の増幅器22の出力とが合成されて出力されることとなる。
【0060】
ここで、線路5a1と線路5c1、線路5a2と線路5c2、線路5d1と線路5f1、線路5d2と線路5f2のそれぞれ電気長を足し合わせたものが等しければ、ベース端子1a、1bから個々の基本差動増幅器10、20を通過してコレクタ端子3a、3bに通過する電気的な位相が等しくなる。これにより、個々の基本差動増幅器10、20からの高周波信号を合成する際に、位相差による利得の低下および出力の低下を抑えることが可能になる。
【0061】
実施の形態3によれば、複数の基本差動増幅器を並列接続して高出力差動増幅器を構成する際に、並列接続されたそれぞれの基本差動増幅器を介してベース端子からコレクタ端子に至るまでのそれぞれの電気長を等しくすることにより、それぞれの基本差動増幅器で増幅される高周波信号の位相をそろえることができる。これにより、高出力を得るために複数の基本差動増幅器を並列接続した場合にも、位相をそろえた出力信号を合成することができ、位相差による利得の低下および出力の低下を抑えた高出力差動増幅器を得ることができ、特に、数GHz以上の高周波信号の増幅に対して有効に働く。
【0062】
なお、上述した実施の形態1〜3においては、基本トランジスタセルをエミッタ接地する場合について説明したが、これに限定されるものではない。ベース接地、あるいはコレクタ接地の場合にも、同様の効果を得ることができる。
【0063】
さらに、上述した実施の形態1〜3においては、基本トランジスタセルとしてバイポーラトランジスタを用いた場合について説明したが、これに限定されるものではない。基本トランジスタセルとして、バイポーラトランジスタの代わりに電界効果トランジスタ(FET)を用いた場合にも、同様の構成により同様の効果を得ることができる。
【0064】
さらに、上述した実施の形態1〜3においては、基本トランジスタセルを6個並列接続してなる増幅器を示し、また、実施の形態3においては、基本差動増幅器を2つ並列接続してなる高出力差動増幅器を示したが、これに限定されるものではない。所望の出力あるいは回路設計上の制約などに応じて、基本トランジスタセルあるいは基本差動増幅器の並列段数を2以上の任意の数として設定することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0065】
【図1】本発明の実施の形態1における高出力差動増幅器の構成図である。
【図2】本発明の実施の形態2における高出力差動増幅器の構成図である。
【図3】本発明の実施の形態3における高出力差動増幅器の構成図である。
【図4】基本的な高出力差動増幅器の構成図である。
【符号の説明】
【0066】
1a、1b ベース端子、2 エミッタ端子、3a、3b コレクタ端子、4a〜4l 基本トランジスタセル、5a〜5g、5a1、5a2、5c1、5c2、5d1、5d2、5f1、5f2 線路、10、20 基本差動増幅器、11、21 第1の増幅器、12、22 第2の増幅器。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基本トランジスタセルをN段(Nは2以上の整数)並列接続してなる第1の増幅器および第2の増幅器を有し、N段の基本トランジスタセルのそれぞれのエミッタ電極を集結した端子である前記第1の増幅器のエミッタ端子および前記第2の増幅器のエミッタ端子を互いに接続して仮想接地点を設け、N段の基本トランジスタセルのそれぞれのベース電極を集結した端子である前記第1の増幅器のベース端子および前記第2の増幅器のベース端子にそれぞれ逆位相となる信号を入力することにより、N段の基本トランジスタセルのそれぞれのコレクタ電極を集結した端子である前記第1の増幅器のコレクタ端子および前記第2の増幅器のコレクタ端子から増幅された信号を出力する高出力差動増幅器において、
前記第1の増幅器および前記第2の増幅器の対応する段の基本トランジスタセルのエミッタ電極同士を接続して1対ごとの仮想接地点を設け、前記1対ごとの仮想接地点を互いに接続したことを特徴とする高出力差動増幅器。
【請求項2】
請求項1に記載の高出力差動増幅器において、
前記第1の増幅器および前記第2の増幅器は、それぞれのベース端子からそれぞれのコレクタ端子に至るまでの電気長が、N段のいずれの基本トランジスタセルを介した場合にも同一となるように、N段からなる基本トランジスタセルを並列接続したことを特徴とする高出力差動増幅器。
【請求項3】
請求項2に記載の高出力差動増幅器において、
前記第1の増幅器および前記第2の増幅器は、基本トランジスタセルをN段並列接続する際に、隣り合う基本トランジスタセルのベース電極間を結ぶ線路の電気長と、隣り合う基本トランジスタセルのコレクタ電極間を結ぶ線路の電気長とが等しくなるように、N段の基本トランジスタセルを直線上に配置し、1段目の基本トランジスタセル側にそれぞれの前記ベース端子を配置し、N段目の基本トランジスタセル側にそれぞれの前記コレクタ端子を配置したことを特徴とする高出力差動増幅器。
【請求項4】
請求項2または3に記載の高出力差動増幅器を入力端子と出力端子との間でM段(Mは2以上の整数)並列接続してなる高出力差動増幅器において、
前記入力端子から前記出力端子に至るまでの電気長が、M段のいずれの高出力差動増幅器を介した場合にも同一となるように、M段からなる高出力差動増幅器を並列接続したことを特徴とする高出力差動増幅器。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2006−129197(P2006−129197A)
【公開日】平成18年5月18日(2006.5.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−316171(P2004−316171)
【出願日】平成16年10月29日(2004.10.29)
【出願人】(000006013)三菱電機株式会社 (33,312)
【Fターム(参考)】