説明

高分子化合物およびその製造方法

【課題】紫外線などの活性エネルギーによる硬化に用いることができ、光硬化性が効率的で、重合硬化反応時の臭気発生が極めて少なく、作業環境の悪化を抑制できる自己光硬化性の高分子化合物を提供することを目的とする。
【解決手段】1分子中に一つ以上の下記一般式の化合物残基と一つ以上のエチレン性不飽和2重結合を含む高分子化合物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、紫外線などの活性エネルギーによる自己光硬化可能な新規高分子化合物に関し、特に硬度、密着性、耐薬品性に優れ、短時間で硬化する活性エネルギー線硬化型塗料、インキ、コーティング剤等への好適な高分子化合物およびその合成に用いられる新規化合物に関するものである。
【背景技術】
【0002】
紫外線などの光照射によりは従来のエポキシ樹脂、メラミン樹脂等の熱硬化性樹脂を使用するシステムに硬化する塗料、コーティング、インキ等に比べて省エネルギー、省スペース、短時間硬化、さらには皮膜強度が優れており、特に保護コート剤として表面硬度、耐スクラッチ性、耐薬品性が要求される用途に広く適用できる。
従来の光硬化性樹脂は、光硬化性モノマー、または、オリゴマーと光重合開始剤、及び、粘度調節のための希釈モノマーを混合した無溶剤型が一般的である。しかし、硬化時の体積収縮が大きく、密着性が低い等の問題を有する。また、モノマー、光重合開始剤、及び、その分解物の揮発による、臭気、毒性の問題の点で昨今の環境問題において適切ではない。
【0003】
この問題の解決方法として、ポリマー化した光重合開始剤を用いることが提案されている(特許文献1及び特許文献2)。しかしながら、これらのポリマー化には複数の合成工程が必要であり、製造が容易ではない。また、特許文献3には、複数の合成工程を必要としない高分子量化した光重合開始剤が開示されているが、その高分子量化した光重合開始剤については、光重合性モノマーもしくはオリゴマーが1分子中に存在せずに別々に存在しているため、光硬化性が効率的でなく、また、未反応の高分子量化した光重合開始剤が残存し、硬化時あるいは硬化物から揮発して臭気が発生し、作業環境を悪化させるなどの問題点があった。
【特許文献1】特開平10−279894号公報
【特許文献2】特開2002−187906号公報
【特許文献3】特開2006−28463号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、従来技術である光重合開始剤の上記問題点に鑑み、紫外線などの活性エネルギーによる硬化に用いることができ、光硬化性が効率的で、重合硬化反応時の臭気発生が極めて少なく、作業環境の悪化を抑制できる自己光硬化性の高分子化合物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは、上記の課題を解決すべく鋭意研究した結果、本発明を完成するに至った。
即ち、本発明は、以下の通りである。
(1)下記一般式(a)
【化3】


で示される化合物。ここでR、R及びRはそれぞれ独立に炭素数1〜4のアルキル基を表わし、m、nは1〜3の整数である。
【0006】
(2)1分子中に一つ以上の下記一般式(b)で示される化合物の残基と一つ以上のエチレン性不飽和二重結合の両者を含む高分子化合物。
【化4】


ここでR、R及びRはそれぞれ独立に炭素数1〜4のアルキル基を表わし、m、nは1〜3の整数である。
(3)上記高分子化合物の重量平均分子量が5000〜1000000である上記(2)に記載の高分子化合物。
【0007】
(4)1分子中に上記一般式(b)で示される化合物の残基が活性エネルギー線によりラジカルを発生する光増感性官能基であり、高分子化合物が自己光硬化性樹脂である上記(2)または(3)に記載の高分子化合物。
(5)ヒドロキシル基含有ベンゾイル化合物(A)とイソシアネート基含有エチレン性不飽和単量体(B)との付加反応により得られるエチレン性不飽和単量体(C)、反応性官能基を含有するエチレン性不飽和単量体(D)、及びこれらと共重合可能な他のエチレン性不飽和単量体(E)の混合物を共重合してなる共重合体に、(D)と付加反応可能なエチレン性不飽和単量体(F)を付加反応させることを特徴とする上記(2)〜(4)のいずれかに記載の高分子化合物の製造方法。
(6)イソシアネート基含有エチレン性不飽和単量体(B)、(B)以外の反応性官能基を含有するエチレン性不飽和単量体(D)、及びこれらと共重合可能な他のエチレン性不飽和単量体(E)の混合物を共重合してなる共重合体のイソシアネート基にヒドロキシル基含有ベンゾイル化合物(A)を付加反応させ、(D)と付加反応可能なエチレン性不飽和単量体(F)を付加反応させることを特徴とする上記(2)〜(4)のいずれかに記載の高分子化合物の製造方法。
【0008】
(7)上記高分子化合物の重量平均分子量が5000〜1000000である上記(5)または(6)に記載の高分子化合物の製造方法。
(8)ヒドロキシル基含有ベンゾイル化合物(A)が1−[4−(2−ヒドロキシエトキシ)−フェニル]−2−ヒドロキシ−2−メチル−1−プロパン−1−オンである上記(5)〜(7)のいずれかに記載の高分子化合物の製造方法。
(9)上記(2)〜(4)のいずれかに記載の高分子化合物に対して、1分子中に2つ以上のエチレン性不飽和二重結合を含有する多官能エチレン性不飽和単量体またはオリゴマーを配合してなる高分子組成物。
【発明の効果】
【0009】
本発明の高分子化合物は、紫外線などの活性エネルギーによる硬化反応に用いられ、光硬化性が非常に効率的であり、硬化反応時の臭気発生が極めて少なく、作業環境の悪化を抑制でき、優れた物性を持つ光硬化物が得られる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下本発明を詳細に説明する。
本発明の高分子化合物の合成には下記一般式(a)で示されるエチレン性不飽和単量体(C)の新規化合物が用いられる。
【化5】


この化合物は下記の一般式(c)の化合物と一般式(d)の化合物を反応させることに得ることができる。
【化6】


【化7】

【0011】
上記の反応において、ベンゾイル化合物には両末端に水酸基があるが、一方の炭素には水素が二つ、他方の炭素にはアルキル基が二つ付いており、この場合反応は水素が付いている方の炭素の水酸基が選択的に反応し、上記一般式(a)で示されるエチレン性不飽和化合物(C)の単量体が得られる。
本発明のエチレン性不飽和化合物(C)の合成に用いられるヒドロキシル基含有ベンゾイル化合物(A)の具体例としては、1−[4−(2−ヒドロキシエトキシ)−フェニル]−2−ヒドロキシ−2−メチル−1−プロパン−1−オン、1−[4−(2−ヒドロキシメトキシ)−フェニル]−2−ヒドロキシ−2−メチル−1−プロパン−1−オン、1−[4−(2−ヒドロキシプロポキシ)−フェニル]−2−ヒドロキシ−2−メチル−1−プロパン−1−オン、1−[4−(2−ヒドロキシエトキシ)−フェニル]−2−ヒドロキシ−2−エチル−1−プロパン−1−オンなどを挙げることができ、1−[4−(2−ヒドロキシエトキシ)−フェニル]−2−ヒドロキシ−2−メチル−1−プロパン−1−オンが好ましい。
上記のヒドロキシル基含有ベンゾイル化合物(A)との付加反応に用いるイソシアネート基含有エチレン性不飽和単量体(B)としては、2−イソシアナートエチル(メタ)アクリレート、3−イソシアナートプロピル(メタ)アクリレートなどを挙げることができる。
【0012】
付加反応は、ヒドロキシル基含有ベンゾイル化合物とイソシアネート化合物のイソシアネート基当量を調節して両者を混合し、付加反応で一般に用いられる有機酸、有機錫その他周知の加水分解触媒の存在下に加熱することで容易に行うことができる。
具体的には、ベンゾイル化合物の置換基に含まれるヒドロキシル基1モルに対して、1モルのイソシアネート基含有エチレン性不飽和単量体(B)を付加反応によりエチレン性不飽和単量体(C)を合成することができる。なお、上記付加反応により得られるエチレン性不飽和単量体(C)の生成は、IR(赤外線吸収スペクトル)によりイソシアネート基のピークが消失することで容易に確認できる。
【0013】
本発明の高分子化合物は1分子中に一つ以上の下記一般式(b)で示される化合物の残基と一つ以上のエチレン性不飽和二重結合の両者を含む新規な高分子化合物である。
【化8】


この式において、R、R及びRはそれぞれ独立に炭素数1〜4のアルキル基を表わし、m、nは1〜3の整数を表す。
この高分子化合物は上記一般式(a)の化合物(C)とエチレン性不飽和単量体の共重合体を得、このエチレン性不飽和単量体のところに別のエチレン性不飽和単量体を付加反応させることにより製造することができる。
【0014】
この好ましい製造法を下記に示す。
(1)先ずヒドロキシル基含有ベンゾイル化合物(A)とイソシアネート基含有エチレン性不飽和単量体(B)との付加反応により上記構造のエチレン性不飽和単量体(C)を得る。次にこの(C)と反応性官能基を含有するエチレン性不飽和単量体(D)、及びこれらと共重合可能な他のエチレン性不飽和単量体(E)の混合物を共重合して共重合体を得、この共重合体の(D)と付加反応可能なエチレン性不飽和単量体(F)を付加反応させる製造方法。
【0015】
また次のような製造法を用いることもできる。
(2)先ずイソシアネート基含有エチレン性不飽和単量体(B)、B以外の反応性官能基を含有するエチレン性不飽和単量体(D)、及びこれらと共重合可能な他のエチレン性不飽和単量体(E)の混合物を共重合して共重合体を得、次にこのイソシアネート基にヒドロキシル基含有ベンゾイル化合物(A)を付加反応させ、さらに共重合体中の(D)と付加反応可能なエチレン性不飽和単量体(F)を付加反応させる製造方法。
【0016】
先ず合成に用いられる前記以外の化合物について説明する。
エチレン性不飽和単量体(D)
反応性官能基を含有するエチレン性不飽和単量体(D)としては、(I)イソシアネート基含有エチレン性不飽和単量体、(II)ヒドロキシル基含有エチレン性不飽和単量体、(III)グリシジル基含有エチレン性不飽和単量体、(IV)カルボキシル基含有エチレン性不飽和単量体が挙げられる。
(I)イソシアネート基含有エチレン性不飽和単量体としては、2−イソシアナートエチル(メタ)アクリレート、3−イソシアナートプロピル(メタ)アクリレートなどを挙げることができる。これらのイソシアネート基含有エチレン性不飽和単量体は単独であるいは組み合わせて使用することができる。
【0017】
(II)ヒドロキシル基含有エチレン性不飽和単量体としては、ヒドロキシエチルアクリレート、ヒドロキシプロピルアクリレート、ヒドロキシブチルアクリレート、ポリエチレングリコールモノアクリレート、ポリプロピレングリコールモノアクリレート、ポリテトラメチレングリコールモノアクリレート、ポリエチレングリコールポリテトラメチレングリコールモノアクリレート、ポリプロピレングリコールポリテトラメチレングリコールモノアクリレート、ヒドロキシエチルメタクリレート、ヒドロキシプロピルメタクリレート、ヒドロキシブチルメタクリレート、ポリエチレングリコールモノメタクリレート、ポリプロピレングリコールモノメタクリレート、ポリテトラメチレングリコールモノメタクリレート、ポリエチレングリコールポリテトラメチレングリコールモノメタクリレート、ポリプロピレングリコールポリテトラメチレングリコールモノメタクリレート等が挙げられる。好ましくはヒドロキシエチルアクリレート、ヒドロキシエチルメタクリレートである。これらのヒドロキシル基含有エチレン性不飽和単量体は単独であるいは組み合わせて使用することができる。
【0018】
(III)グリシジル基含有エチレン性不飽和単量体としては、グリシジルアクリレート、グリシジルメタクリレート、アリルグリシジルエーテル、メチルグリシジルアクリレート、メチルグリシジルメタクリレート、3,4−エポキシシクロヘキシルメチルアクリレート、3,4−エポキシシクロヘキシルメチルメタクリレートなどが挙げられる。好ましくはグリシジルメタクリレートである。これらのグリシジル基含有エチレン性不飽和単量体は単独であるいは組み合わせて使用することができる。
(IV)カルボキシル基含有エチレン性不飽和単量体としては、アクリル酸、メタクリル酸、クロトン酸、フマル酸、マレイン酸、無水マレイン酸、2−メチルマレイン酸、イタコン酸、フタル酸、テトラヒドロフタル酸、テトラヒドロフタル酸無水物、それらの金属塩、アンモニウム塩或いはそれらの混合物を挙げられる。好ましくは、アクリル酸、メタクリル酸、マレイン酸、無水マレイン酸である。これらのカルボキシル基含有エチレン性不飽和単量体は単独であるいは組み合わせて使用することができる。
【0019】
他のエチレン性不飽和単量体(E)
共重合可能な他のエチレン性不飽和単量体(E)として、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、ブチル(メタ)アクリレート、2−エチルヘキシル(メタ)アクリレート、アリル(メタ)アクリレート、エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、メトキシエチル(メタ)アクリレート、ブトキシエチル(メタ)アクリレート、ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレート、ジエチルアミノエチル(メタ)アクリレート、アクリロニトリル、スチレン、スチレン誘導体、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、塩化ビニル、塩化ビニリデン、エチレン、プロピレン、ブチレン、イソブチレン等を使用することができる。これらエチレン性不飽和単量体は、単独であるいは組み合わせて使用することができる。本発明の自己光硬化性樹脂組成物のガラス転移温度は、特に制限されない。
【0020】
エチレン性不飽和単量体(F)
この単量体は上記(D)と同じ化合物が用いられるが、(D)と反応するものであり、したがって成分(D)との関係で組み合わせが決まる。
成分(D)が、イソシアネート基含有エチレン性不飽和単量体、ヒドロキシル基含有エチレン性不飽和単量体、カルボキシル基含有エチレン性不飽和単量体、グリシジル基含有エチレン性不飽和単量体の場合に応じて、(F)としては前記の順に対応してヒドロキシル基含有エチレン性不飽和単量体、イソシアネート基含有エチレン性不飽和単量体、グリシジル基含有エチレン性不飽和単量体、カルボキシル基含有エチレン性不飽和単量体を挙げることができる。
【0021】
次に本発明の高分子化合物の製造法について説明する。
製造法(1)
エチレン性不飽和単量体(C)と反応性官能基を含有するエチレン性不飽和単量体(D)及びこれらと共重合可能な他のエチレン性不飽和単量体(E)を混合し、共重合して共重合体を得る。
この重合には重合開始剤を用いる。重合開始剤としては、通常使用されるものであれば特に限定はなく、例えば、アゾビスイソブチロニトリル、アゾビス(2−メチルブチロニトリル)、過酸化ベンゾイル等が挙げられる。
重合法としては、一括して仕込み重合する方法、各成分を連続供給しながら重合する方法などが適用できる。重合は通常30〜150℃の温度で攪拌下に行われる。
【0022】
共重合における単量体(C)、(D)、(E)の混合割合は、(C)が0.01〜20モル%、(D)が0.1〜70モル%、(E)が10〜99モル%が好ましい。
(C)が20モル%を超えても皮膜の硬化性、硬化後の皮膜の物性は、向上しない。0.01モル%未満では皮膜の硬化性が低下し、十分な硬度、耐水性等の物性を得られない。
(D)が70モル%を超えても皮膜の硬化性、硬化後の皮膜の物性は、向上しない。0.1モル%未満では皮膜の硬化性が低下し、十分な硬度、耐水性等の物性を得られない。
(E)が99モル%を超えると、皮膜の硬化性が低下し、十分な硬度、耐水性等の物性を得られない。10モル%未満では高分子溶液の安定性が悪く、経時でゲル化する。
【0023】
次にこの共重合体に(F)を付加反応させる。
(F)の量は(D)1モルに対して0.1〜1当量が好ましい。0.1当量未満であると、硬化性が十分でない。
この付加反応は、一般に用いられる周知の触媒存在下に加熱することで容易に行うことができる。
製造法(2)
先ずイソシアネート基含有エチレン性不飽和単量体(B)、反応性官能基を含有するエチレン性不飽和単量体(D)、及びこれらと共重合可能な他のエチレン性不飽和単量体(E)の混合物を共重合して共重合体を製造する。
ここでヒドロキシル基含有エチレン性不飽和単量体(D)は、イソシアネート基含有モノマー(B)と混合し、重合反応を行うと、重合反応中に、ヒドロキシル基とイソシアネート基が架橋反応するため、高分子量化し、ゲル化するため、使用することができない。
単量体(B)、(D)、(E)混合割合は(B)が0.01〜20モル%、(D)が0.1〜70モル%、(E)が10〜99モル%が好ましい。
【0024】
(B)20モル%を超えても皮膜の硬化性、硬化後の皮膜の物性は、向上しない。0.01モル%未満では皮膜の硬化性が低下し、十分な硬度、耐水性等の物性を得られない。
(D)70モル%を超えても皮膜の硬化性、硬化後の皮膜の物性は、向上しない。0.1モル%未満では皮膜の硬化性が低下し、十分な硬度、耐水性等の物性を得られない。
(E)99モル%を超えると、皮膜の硬化性が低下し、十分な硬度、耐水性等の物性を得られない。10モル%未満では高分子溶液の安定性が悪く、経時でゲル化する。
【0025】
共重合には製造法(1)と同様の重合開始剤および重合法を用いることができる。
次にこの共重合体のイソシアネート基にヒドロキシル基含有ベンゾイル化合物(A)を付加反応させ、さらに重合体中の(D)と付加反応可能なエチレン性不飽和単量体(F)を付加反応させる。
(F)の付加の量は(D)1モルに対して0.1〜1当量が好ましい。0.1当量未満であると、硬化性が十分でない。
これらの付加反応は、一般に用いられる周知の触媒存在下に加熱することで容易に行うことができる。
付加反応も同様に、モノマーを一括もしくは連続供給しながら、付加反応を行うことができる。
【0026】
本発明の高分子化合物を自己光硬化性樹脂として使用する場合、上記で説明した成分の他、必要に応じて他の樹脂、光重合促進剤、重合禁止剤、成膜助剤、可塑剤、防腐剤、消泡剤、界面活性剤等の公知慣用の添加剤を、本発明の目的を損なわない範囲で便宜選択して添加することも可能である。
高分子化合物の重量平均分子量は5000〜1000000が望ましい。高分子化合物を自己光硬化型樹脂として使用する場合、分子量が5000未満では、光硬化したときの硬度が大きく低下する。1000000を越えると、自己光硬化型樹脂の溶液粘度が高くなることから、基材への塗布が困難となり、作業性が大きく低下する。
【0027】
本発明の高分子化合物に、1分子中に2つ以上のエチレン性不飽和二重結合を含有する多官能エチレン性不飽和単量体またはオリゴマーを含有させることができる。これらの単量体、オリゴマーを入れることによって、硬化性を更に向上させることができる。1分子中に二重結合が二つ以上である理由は、二重結合が一つの場合、分子間同士の架橋がなく、本発明の高分子化合物の硬化性が向上しないからである。
【0028】
多官能エチレン性不飽和単量体またはオリゴマーとしては、1,4−ブタンジオールジ(メタ)アクリレート、1,6−ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ネオペンチルグリコールアジペートジ(メタ)アクリレート、ヒドロキシピバリン酸ネオペンチルグリコール(メタ)アクリレート、ジシクロペンタニルジ(メタ)アクリレート、カプロラクトン変性ジシクロペンテニルジ(メタ)アクリレート、エチレンオキシド変性リン酸ジ(メタ)アクリレート、アリル化シクロへキシルジ(メタ)アクリレート、イソシアヌレートジ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、プロピオン酸変性ジペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、プロピレンオキシド変性トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、トリス(アクリロキシエチル)イソシアヌレート、プロピオン酸変性ジペンタエリスリトールペンタ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレート、カプロラクトン変性ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレート等が挙げられる。オリゴマーとしては、ウレタンアクリレート、エポキシアクリレート、ポリエーテルアクリレート等が挙げられる。多官能不飽和単量体またはオリゴマーの使用範囲としては、自己光硬化性樹脂100質量部に対して300質量部以下が望ましい。単独であるいは組み合わせて使用することができる。
【実施例】
【0029】
以下実施例を挙げて、本発明を具体的に説明する。なお、以下において、部は質量部、%は質量%を意味する。
試験片の作製
ポリMMA板に8milのアプリケーターで塗布し、60℃、10分で乾燥させた。UV照射器(ウシオ電機(株)製超高圧水銀ランプUSH−250SC)にて、積算照度500mJ/cm2になるよう紫外線照射して硬化させ、以下の試験にて評価を行った。
鉛筆硬度
ポリMMA板に塗装した硬化塗膜にて、JIS−K−5400に基づいて測定した。
【0030】
密着性
ポリMMA板に塗装した硬化塗膜にクロスカットを入れ、カットした塗膜上にセロテープ(登録商標)を貼った。1時間放置後、このセロテープ(登録商標)を剥離して密着性を評価した。評価基準は以下のように行った。
○:全く剥離無し △:一部分が剥離する ×:全面剥離する
耐温水性
ポリMMA板に塗装した硬化塗膜を60℃の温水に1週間浸漬した。評価基準は以下のように行った。
○:変化無し △:一部白化 ×:全面白化
【0031】
溶液粘度
得られた自己光硬化性樹脂の溶液粘度を評価した。評価基準は以下のように行った。
○:低粘度で扱いやすい △:中粘度でやや扱いにくい ×:高粘度で扱いが困難
重量平均分子量の測定
GPC法でカラムにShodex GPC KF−806を用い、溶離液としてテトラヒドロフランを用い、常温で測定した。
【0032】
(製造例1)
温度計、撹拌棒、還流冷却器、及び、滴下漏斗を備えた遮光性反応容器に、1−[4−(2−ヒドロキシエトキシ)−フェニル]−2−ヒドロキシ−2−メチル−1−プロパン−1−オン200部、ジラウリン酸ジ−n−ブチル錫0.2部、メトキノン0.04部を入れて攪拌、50℃に加熱した。ここに2−イソシアナートエチル(メタ)アクリレート138.3部を1時間にわたって滴下し、さらに2時間50℃で攪拌し、光増感基含有エチレン性不飽和単量体A−1を得た。
【0033】
(実施例1)
温度計、撹拌棒、還流冷却器、及び、滴下漏斗を備えた遮光性反応容器に、ジプロピレングリコールジメチルエーテル(商品名プログライドDMM、ダウケミカル社製)60部を入れて攪拌、110℃に加熱し、表1記載の配合例1を1.5時間にわたって滴下した。滴下終了1時間後アゾビスイソブチロニトリル1部、ジプロピレングリコールジメチルエーテル3部を加え、さらに110℃で2時間攪拌した。温度を80℃まで冷却後、メトキノン0.5部、及び、表1記載の配合例2を添加した。配合例2の添加後、さらに80℃で4時間攪拌した。高攪拌下でジプロピレングリコールジメチルエーテルを添加して希釈し、室温に冷却して不揮発分25%の自己光硬化性樹脂を得た。
【0034】
(実施例2〜4)
実施例2〜4として、実施例1における配合例1、配合例2を表1に示す組成に変更した。それ以外はすべて実施例1と同様の操作を行い、自己光硬化性樹脂を得た。
(実施例5)
実施例5として、ペンタエリスリトールヘキサアクリレート130部を添加したそれ以外はすべて実施例1と同様の操作を行い、自己光硬化性樹脂を得た。
(実施例6)
温度計、撹拌棒、還流冷却器、及び、滴下漏斗を備えた遮光性反応容器に、ジプロピレングリコールジメチルエーテル60部を入れて攪拌、110℃に加熱し、表2記載の配合例1を1.5時間にわたって滴下した。滴下終了1時間後アゾビスイソブチロニトリル1部、ジプロピレングリコールジメチルエーテル3部を加え、さらに110℃で2時間攪拌した。温度を80℃まで冷却後、メトキノン0.5部、及び、表2記載の配合例2を添加した。配合例2の添加後、さらに80℃で4時間攪拌した。高攪拌下でジプロピレングリコールジメチルエーテルを添加して希釈し、室温に冷却して不揮発分25%の自己光硬化性樹脂を得た。
【0035】
(実施例7〜8)
実施例7〜8として、実施例6における配合例1、配合例2の組成を表2に示す組成に変更した。それ以外はすべて実施例6と同様の操作を行い、自己光硬化性樹脂を得た。
(実施例9)
実施例9として、ペンタエリスリトールヘキサアクリレート130部を添加したそれ以外はすべて実施例6と同様の操作を行い、自己光硬化性樹脂を得た。
(比較例1)
比較例1として、実施例1における配合例2を使用しない以外は、実施例1と同様の操作を行い、樹脂を得た。
【0036】
(比較例2)
比較例2として、実施例1における配合例1にA−1溶液を含まない以外は、実施例1と同様の操作を行い、樹脂を得た。
(比較例3)
比較例3として、実施例1における配合例1、配合例2を表3に示す組成に変更し、1−[4−(2−ヒドロキシエトキシ)−フェニル]−2−ヒドロキシ−2−メチル−1−プロパン−1−オン14.36部を添加した。それ以外はすべて実施例1と同様の操作を行い、樹脂を得た。
【0037】
(比較例4)
比較例4として、実施例6における配合例2を使用しない以外は、実施例6と同様の操作を行い、樹脂を得た。
(比較例5〜6)
比較例5〜6として、実施例6における配合例2を表4に示す組成に変更した。それ以外は、実施例6と同様の操作を行い、樹脂を得た。
(比較例7)
比較例7として、実施例6における配合例2を表4に示す組成に変更し、1−[4−(2−ヒドロキシエトキシ)−フェニル]−2−ヒドロキシ−2−メチル−1−プロパン−1−オン12部を添加した。それ以外はすべて実施例6と同様の操作を行い、樹脂を得た。
【0038】
【表1】

【0039】
【表2】

【0040】
【表3】

【0041】
【表4】

【0042】
(実施例10)
エチレン性不飽和単量体(C)の製造
温度計、撹拌棒、還流冷却器、及び、滴下漏斗を備えた遮光性反応容器に、1−[4−(2−ヒドロキシエトキシ)−フェニル]−2−ヒドロキシ−2−メチル−1−プロパン−1−オン200部、ジラウリン酸ジ−n−ブチル錫0.2部、メトキノン0.04部を入れて攪拌、50℃に加熱した。ここに2−イソシアナートエチル(メタ)アクリレート138.3部を1時間にわたって滴下し、さらに2時間50℃で攪拌した。IR(赤外線吸収スペクトル)により2250cm-1に帰属するイソシアネート基のピークの消失及び1638cm-1に帰属する二重結合のピークを確認し、エチレン性不飽和単量体(C)を得た。
【産業上の利用可能性】
【0043】
本発明の高分子化合物は、紫外線などの活性エネルギーによる硬化反応に用いられ、光硬化性が非常に効率的であり、硬化反応時の臭気発生が極めて少なく、作業環境の悪化を抑制でき、優れた物性を持つ光硬化物が得られ、塗料、コーティング、インキ等特に保護コート剤として表面硬度、耐スクラッチ性、耐薬品性が要求される用途に広く適用できる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(a)
【化1】


で示される化合物。ここでR、R及びRはそれぞれ独立に炭素数1〜4のアルキル基を表わし、m、nは1〜3の整数である。
【請求項2】
1分子中に一つ以上の下記一般式(b)で示される化合物の残基と一つ以上のエチレン性不飽和二重結合の両者を含む高分子化合物。
【化2】


ここでR、R及びRはそれぞれ独立に炭素数1〜4のアルキル基を表わし、m、nは1〜3の整数である。
【請求項3】
上記高分子化合物の重量平均分子量が5000〜1000000である請求項2に記載の高分子化合物。
【請求項4】
1分子中に上記一般式(b)で示される化合物の残基が活性エネルギー線によりラジカルを発生する光増感性官能基であり、高分子化合物が自己光硬化性樹脂である請求項2または3に記載の高分子化合物。
【請求項5】
ヒドロキシル基含有ベンゾイル化合物(A)とイソシアネート基含有エチレン性不飽和単量体(B)との付加反応により得られるエチレン性不飽和単量体(C)、反応性官能基を含有するエチレン性不飽和単量体(D)、及びこれらと共重合可能な他のエチレン性不飽和単量体(E)の混合物を共重合してなる共重合体に、(D)と付加反応可能なエチレン性不飽和単量体(F)を付加反応させることを特徴とする請求項2〜4のいずれかに記載の高分子化合物の製造方法。
【請求項6】
イソシアネート基含有エチレン性不飽和単量体(B)、(B)以外の反応性官能基を含有するエチレン性不飽和単量体(D)、及びこれらと共重合可能な他のエチレン性不飽和単量体(E)の混合物を共重合してなる共重合体のイソシアネート基にヒドロキシル基含有ベンゾイル化合物(A)を付加反応させ、(D)と付加反応可能なエチレン性不飽和単量体(F)を付加反応させることを特徴とする請求項2〜4のいずれかに記載の高分子化合物の製造方法。
【請求項7】
上記高分子化合物の重量平均分子量が5000〜1000000である請求項5または6に記載の高分子化合物の製造方法。
【請求項8】
ヒドロキシル基含有ベンゾイル化合物(A)が1−[4−(2−ヒドロキシエトキシ)−フェニル]−2−ヒドロキシ−2−メチル−1−プロパン−1−オンである請求項5〜7のいずれかに記載の高分子化合物の製造方法。
【請求項9】
請求項2〜4のいずれかに記載の高分子化合物に対して、1分子中に2つ以上のエチレン性不飽和二重結合を含有する多官能エチレン性不飽和単量体またはオリゴマーを配合してなる高分子組成物。

【公開番号】特開2009−1730(P2009−1730A)
【公開日】平成21年1月8日(2009.1.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−165968(P2007−165968)
【出願日】平成19年6月25日(2007.6.25)
【出願人】(000187068)昭和高分子株式会社 (224)
【Fターム(参考)】