説明

高分子形燃料電池用電極の製造方法及び、その高分子形燃料電池用電極の製造方法で作られた高分子形燃料電池用電極

【課題】高分子形燃料電池用電極を、白金等触媒金属の使用量を低減すると共に、迅速且つ経済的に製造する方法、また、その製造方法により製造された高分子形燃料電池用電極、さらにまた、高分子形燃料電池用電極を用いた膜電極接合体及び高分子形燃料電池を提供することを課題とする。
【解決手段】炭素担体、電解質ポリマー、金属前躯体、アルコール系溶媒、水を含む触媒層形成用組成物を調製する工程と、触媒層形成用組成物を炭素電極基材に塗布する工程と、炭素電極基材に電子線を照射する工程を含むことを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高分子形燃料電池用電極の製造方法に関するものであり、詳しくはその高分子形燃料電池用電極の製造方法で作られた高分子形燃料電池用電極、その高分子形燃料電池用電極を用いた膜電極接合体及び高分子形燃料電池に関するものである。
【背景技術】
【0002】
燃料電池は、化学エネルギーを直接電気エネルギーに変換することができる電気化学デバイスである。
【0003】
燃料電池の動作理論は100年以上にわたって研究、開発がなされているが、これまで商業的に実現可能な燃料電池の製造は困難であった。その原因は、高い材料コストと高い製造コスト等にあり、燃料電池の商用化の成功は、電池性能を最適化することを前提として、低材料コスト化及び低製造コスト化が不可欠となる。低材料コスト化としては、電極に使用される白金系の電極触媒の削減等が考えられる。また、低製造コスト化としては、必要とされる材料と、必要とされる工程の範囲内で、迅速に、且つ連続して大量に製造できることが条件となる。
【0004】
通常、燃料電池は用いられる電解質によって種々のタイプに分類されており、主なタイプとして、アルカリ燃料電池、溶融炭酸塩燃料電池、リン酸燃料電池、固体酸化物燃料電池(SOFC)、高分子形燃料電池の5つのタイプに分類される。
【0005】
これらのタイプのうち、高分子形燃料電池は、負極と正極の間に高分子膜が電解質として用いられている。高分子形燃料電池は他の燃料電池に比べて出力特性が特に優れており、低い作動温度、迅速な始動応答性を有することから、自動車のような移動体用の電源としてはもちろん、住宅、公共建物の電源として使用可能な分散用電源及び電子機器用等の小型電源としてその用途範囲が広い。
【0006】
高分子形燃料電池は、水素または改質水素を燃料として、燃料電池の負極に供給することにより、電極化学反応によりプロトン及び電子が生成する。生成したプロトンは高分子電解質膜を通り、正極で酸素と反応することで水を生成する。即ち、発電時に発生するのは水のみであり、従来の発電システム、内燃機関等と異なり、二酸化炭素等の環境負荷ガスを発生しない為、次世代のクリーンエネルギーシステムとして注目されている。
【0007】
高分子形燃料電池は、図1に示すように、高分子電解質膜100の両面に電極である負極111aと正極111cを配置して膜電極接合体121が形成されている。該膜電極接合体121をセパレータ103aとセパレータ103cで挟むことによって高分子形燃料電池が構成される。複数の膜電極接合体がセパレータを介入して配置すると、燃料電池スタックとなる。前記セパレータ103a、103cは、燃料電池の反応に必要な燃料を負極111aに供給し、酸化剤を正極111cに供給する通路としての役割と、膜電極接合体121を直列に接続させる集電体としての役割を同時に行っている。
【0008】
膜電極接合体121は、図2に示すように、一般的にガス拡散機能を有する炭素電極基材102に触媒層101を堆積することにより形成された電極111を高分子電解質膜100の両面に互いに重ね合わせ、熱圧により形成されている。
【0009】
電極111は、図3に示すように、炭素電極基材102とその上に堆積された触媒層101からなっている。
【0010】
前記炭素電極基材102としては、電子導電性及びガス拡散のできる多孔性カーボンペーパーまたはカーボンクロースが用いられる。
【0011】
前記触媒層101は、触媒としての金属微粒子、担体としての炭素担体及び、バインダーとしての電解質ポリマー等の物質からなり、電子導電性、イオン導電性を有し、ガス拡散が可能な特性を有するものである。
【0012】
前記金属微粒子には、白金等の貴金属が使用されるが、白金等の貴金属は、その希少性から、その使用量を極力減らして、なおかつ触媒としての作用をできる限り向上させることが求められる。そこで、この要求に対応するために、前記金属微粒子は、例えば、カーボンブラックやカーボンナノチューブ等からなる炭素担体の表面に、金属微粒子を担持させた複合構造を有するものが広く用いられている。
【0013】
また、金属微粒子の触媒能を発揮させるためには、金属微粒子と電解質ポリマー及び供給燃料のそれぞれを直に接触させなければならない。この接触箇所は一般に三相境界と呼ばれ、この三相境界の形成が高性能な燃料電池製造には重要である。
【0014】
触媒作用は、主に金属の表面において発揮されることから、前記複合構造を有する触媒においては、良好な触媒作用を維持しながら、貴金属の使用量をできるだけ少なくするために、担体の表面に担持させる貴金属微粒子を、できる限り小粒径で、比表面積の大きいものとすることが有効となる。
【0015】
炭素担体の表面に金属微粒子を担持させる方法としては、含浸法と呼ばれる高温処理法や、液相還元法、気相法等があり、特に近年、製造設備の簡易化が容易な液相還元法、即ち、炭素担体を金属微粒子のもとになる金属前躯体を含む液相の反応系中に分散させた状態で、前記金属前躯体を還元剤の作用によって化学還元させることで、微粒子状に析出させると共に、炭素担体の表面に担持させる方法が広く普及しつつある。
【0016】
しかしながら、これら従来の触媒層の形成方法には、以下の3つの問題点が指摘されている。
【0017】
第1の問題点は、金属前躯体を化学還元させて、金属微粒子を炭素担体表面に担持するための分散、乾燥工程と、得られた触媒をイオン導電性電解質ポリマー溶液に再分散する工程が必要である点である。これは、金属前躯体を化学還元させて金属微粒子を炭素担体表面に担持させた触媒は、電極に要求されたイオン導電性を持たない粉状態であり、電極触媒層を形成するためには、バインダーとしてイオン導電性電解質ポリマー溶液に再度分散させる必要があるからである。また、得られた再分散溶液を炭素電極基材に塗布する工程も必要となる。
【0018】
第2の問題点は、前記金属前躯体を化学還元するために、還元剤等の添加が必要になる点である。また、その化学還元工程には熱エネルギーを供給する必要があり、反応時間も長時間かかり、さらに未反応添加剤を除去するための浄化工程も必要となる。
【0019】
第3の問題点としては、上記のような触媒層の製造プロセスでは、触媒(金属担持炭素からなる)と触媒層(前記触媒と電解質ポリマーからなるシート状)が別々に製造されるため、触媒層中の三相境界の形成が制御できない点である。そのため、触媒層には触媒能を発揮できない金属微粒子が増加する。
【0020】
また、貴金属の金属前躯体を還元して貴金属微粒子を炭素担持体表面に担持させるため、貴金属の使用量増加がコスト高を引き起こす原因となっている。
【0021】
上記の問題を解決するために、少ない貴金属系触媒で高い発電性能を発現させる触媒層として、電解質ポリマーと炭素担体とを含む混合体に触媒原料化合物を吸着させた後、混合体中の触媒原料化合物を化学的に還元することにより触媒層を形成する方法が提案されている(例えば特許文献2〜4参照)。
【0022】
また、白金微粒子を含む有機複合物と炭素担体を電解質ポリマーに分散させ、インク組成物を調製し、そのインク組成物を高分子電解質膜に塗布した後、乾燥させ、その乾燥中に有機化合物を熱分解させて、白金微粒子を触媒層中の炭素担体に担持させる方法が提案されている(例えば特許文献4参照)。
【0023】
これらの方法によれば、触媒層に必要な成分を1つの製造プロセスで形成させられる点では有効であるが、上記第2の問題点である還元剤の添加に関しては未だ解決するべき問題がある。
【0024】
また、金属触媒を多孔性高分子フィルムにメッキした後に、プロトン導電性化合物の含浸及び電子線によりプロトン導電性化合物の固定化により膜電極接合体を製造する方法が提案されている(例えば特許文献5参照)。
【0025】
しかしながら、これらの提案にあっても、未だ満足のいく触媒層の製造方法が確立されていないのが現実であり、そのために、高性能触媒層をより低コストで大量製造を可能とする新たな技術が切望されていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0026】
【特許文献1】特開2000−012040号公報
【特許文献2】特開2000−012041号公報
【特許文献3】特開2003−157856号公報
【特許文献4】特開2000−678763号公報
【特許文献5】特開2009−224283号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0027】
本発明は、以上の通りの事情に鑑みてなされたものであり、従来の問題点を解消して、高分子形燃料電池用電極を、貴金属触媒の使用量を低減すると共に、迅速且つ経済的に製造する方法、また、その製造方法により製造された高分子形燃料電池用電極、さらにまた、高分子形燃料電池用電極を用いた膜電極接合体及び高分子形燃料電池を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0028】
本発明は、上記の課題を解決するために、以下のことを特徴としている。
【0029】
第1に、炭素担体、電解質ポリマー、金属前躯体、アルコール系溶媒、水を含む触媒層形成用組成物を調製する工程と、触媒層形成用組成物を炭素電極基材に塗布する工程と、炭素電極基材に塗布した触媒層形成用組成物に電子線を照射する工程を含む。
【0030】
第2に、炭素担体が、カーボンブラック、黒鉛、グラファイト、活性炭、またはカーボンナノチューブ、カーボンナノファイバー、カーボンナノワイヤー、カーボンナノホーン、及び気相成長炭素繊維からなる群より選ばれる少なくとも1種の炭素材料を含む炭素担体である。
【0031】
第3に、上記第1または第2の高分子形燃料電池用電極の製造方法において、電解質ポリマーが、少なくとも、スルホン酸基、ナトリウムスルホン酸基、カリウムスルホン酸基のいずれかを有する高分子樹脂である。
【0032】
第4に、上記第1または第2の高分子形燃料電池用電極の製造方法において、電解質ポリマーが、少なくとも、パーフルオロスルホン酸系のフッ素イオン交換樹脂、スルホン酸基を有する芳香族炭化水素高分子電解質のいずれかである。
【0033】
第5に、上記第1から第4の高分子形燃料電池用電極の製造方法において、アルコール系溶媒が、メタノール、エタノール、1−プロピルアルコール、2−プロピルアルコールからなる群より選ばれる少なくとも1種のアルコールである。
【0034】
第6に、上記第1から第5の高分子形燃料電池用電極の製造方法において、金属前躯体が、白金、ルテニウム、オスミウム、パラジウム、金からなる群より選ばれた少なくとも1種の金属原子を含む化合物である。
【0035】
第7に、上記第1から第5の高分子形燃料電池用電極の製造方法において、触媒層形成用組成物が約0.1パスカル秒以上の粘度を有する。
【0036】
第8に、上記第1から第7の高分子形燃料電池用電極の製造方法において、炭素電極基材が、電子導電性及びガス拡散性を有するカーボンペーパーまたはカーボンクロースである。
【0037】
第9に、上記第1から第8の高分子形燃料電池用電極の製造方法において、炭素電極基材が50〜500μmの厚さを有する。
【0038】
第10に、上記第1から第9の高分子形燃料電池用電極の製造方法において、電子線の照射線量が3〜300kGyである。
【0039】
第11に、上記第1から第10の高分子形燃料電池用電極の製造方法において、炭素電極基材に形成された触媒層が、5〜100μmの厚さを有するものである。
【0040】
第12に、上記第1から第11の高分子形燃料電池用電極の製造方法において、炭素電極基材に形成された触媒層に含まれる金属微粒子の単位面積当りの含有量が0.05〜5.0mg/cmである。
【0041】
第13に、上記第1から第12の高分子形燃料電池用電極の製造方法で製造した高分子形燃料電池用電極である。
【0042】
第14に、上記第13の高分子形燃料電池用電極を含む膜電極接合体である。
【0043】
第15に、上記第13の高分子形燃料電池用電極を含む高分子形燃料電池である。
【0044】
第16に、上記第13の高分子形燃料電池用電極を含む水電解、ハロゲン化水素酸電解、食塩電解システムである。
【発明の効果】
【0045】
本発明者らは、電子線等の放射線の産業利用の研究開発、特に、放射線照射により水溶液中の金属化合物が金属微粒子に放射線還元する技術を確立すると共に、この技術によって上記要求性能を満たす燃料電池等の高性能電極を迅速且つ経済的に製造する方法の開発に成功し、上記課題を解決できることを見出した。
【0046】
上記第1の発明によれば、高分子形燃料電池用電極の製造方法において、炭素担体、電解質ポリマー、金属前躯体、アルコール系溶媒、水を含む触媒層形成用組成物を調製する工程と、触媒層形成用組成物を炭素電極基材に塗布する工程と、炭素電極基材に塗布した触媒層形成用組成物に電子線を照射する工程を含むので、還元反応が極めて短時間にでき、電極の迅速且つ大量製造を可能にする。
【0047】
上記第2から第9の発明によれば、本発明の高分子形燃料電池用電極の製造方法に用いる触媒層形成用組成物の各種構成物質及び、炭素電極基材を限定的に選択することにより、本発明の効果をより顕著なものとすることができる。
【0048】
特に、上記第7の発明によれば、本発明の高分子形燃料電池用電極の製造方法に用いる触媒層形成用組成物の粘度を特定することにより、金属微粒子が高粘度体系中に生成し、金属微粒子の再凝集の防止ができるため、従来よりさらに効率よく粒径の小さい金属微粒子を有する高性能電極を製造することができる。さらに、製造過程中での貴金属のロスを少なくすることができ、高価な触媒を節約できるため、製造コストを低減することができる。
【0049】
上記第10から第12の発明によれば、本発明の高分子形燃料電池用電極の製造方法の製造条件を特定範囲とすることにより、本発明の効果をより顕著なものとすることができる。
【0050】
上記第13の発明によれば、本発明の高分子形燃料電池用電極の製造方法で製造した高分子形燃料電池用電極であるので、高性能触媒層を有する高分子形燃料電池用電極を提供することができる。
【0051】
上記第14、15の発明によれば、本発明の製造方法により得られた高分子形燃料電池用電極を組み込んだ、膜電極接合体、高分子形燃料電池を提供することができる。
【0052】
上記第16の発明によれば、本発明の高分子形燃料電池用電極を、水電解システム、ハロゲン化水素酸電解システム、食塩電解システム、さらに酸素濃縮器、湿度センサ、ガスセンサ等にも応用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0053】
【図1】本発明の燃料電池の概略図
【図2】本発明の膜電極の概略図
【図3】本発明の電極の概略図
【図4】本発明の一つの実施形態としての、ロール・ツー・ロールプロセスの概略図。
【図5】本発明の実施例及び比較例の燃料電池電流密度−電圧関係曲線。
【発明を実施するための形態】
【0054】
以下、本発明の実施の形態について詳述する。
【0055】
本発明の電極の製造方法は、炭素担体、電解質ポリマー、金属前躯体、アルコール系溶媒、水を含む触媒層形成用組成物調製の第1工程と、第1工程で得られた触媒層形成用組成物を炭素電極基材に塗布する第2工程と、第2工程で触媒層形成用組成物を塗布した炭素電極基材に電子線を照射することにより、前記金属前躯体を還元させて、生成した金属微粒子を炭素担体表面に担持させる第3工程を含む高分子形燃料電池用電極の製造方法である。
【0056】
本発明の高分子形燃料電池用電極の製造方法の各工程について、以下により具体的に説明する。
<触媒層形成用組成物の調製>
本発明の第1工程では、少なくとも炭素担体、電解質ポリマー、金属前躯体、アルコール系溶媒、水を含む触媒層形成用組成物の調製をおこなう。
【0057】
本発明の触媒層形成用組成物に用いる炭素担体としては、通常一般に公知の電子伝導性を有する炭素材料であれば限定することなく用いることができ、このようなものとしては、例えば、カーボンブラック、グラファイト、黒鉛、活性炭、カーボンナノチューブ、カーボンナノファイバー、カーボンナノワイヤー、カーボンナノホーン、気相成長炭素繊維等を用いることができる。これらの炭素担体は、1種単独で用いてもよいし、2種以上を併用して用いてもよい。
【0058】
これらの中でも、入手容易性、コスト面、取り扱いの容易性等の点から、特にカーボンブラックを好ましく用いることができる。
【0059】
前記炭素担体の大きさは、特に制限はないが、通常、10nm〜5μmの範囲のものを好適に用いることができる。10nmより小さい場合には炭素材料の製造コストが大きくなり、触媒層形成用組成物の良好な分散性を確保するのが困難になることがある。5μmより大きいと表面積増加の効果が少なく、炭素担体の担持性能が低下する恐れがある。
【0060】
本発明の触媒層形成用組成物に用いる電解質ポリマーとしては、触媒層中におけるイオン導電性及び触媒粒子のバインダーの役割を有する電解質ポリマーであれば特に制限なく用いることができる。これらのものとしては、例えば、パーフルオロスルホン酸系のフッ素イオン交換樹脂、スルホン酸基を有する芳香族炭化水素高分子電解質等を用いることができる。このような電解質ポリマーの具体例としては、デュポン社製の「nafion」(登録商標)、旭硝子(株)製の「Flemion」(登録商標)、旭化成(株)製の「Aciplex」(登録商標)等が挙げられる。
【0061】
さらに、上記の電解質ポリマーは、プロトン型、ナトリウム型、またはカリウム型に限定されない。ナトリウム型またはカリウム型の電解質ポリマーの場合には、触媒層または電極を形成後に、イオン交換処理によりこれらの電解質ポリマーをプロトン化することで触媒層にプロトン導電性を付与できる。
【0062】
前記電解質ポリマーは、上記の電解質ポリマーを1種単独で用いてもよいし、2種以上を併用して用いてもよい。
【0063】
本発明の触媒層形成用組成物に用いる電解質ポリマーの配合量は、触媒層の総量の10〜60重量%、好ましくは25〜40重量%の範囲である。配合量が10重量%未満では、バインダー性能が働かず、炭素電極基材の表面に強固な触媒層が形成できない。また、プロトン導電性も低くなる恐れがある。一方、60重量%を超えると、多数の金属微粒子及び炭素担体に電解質ポリマーが全面に被覆し、触媒性能が働かず、電子導電性が低くなる恐れがある。
【0064】
本発明の触媒層は、金属微粒子を担持させた炭素担体及び電解質ポリマーからなる。これら金属微粒子としては、例えば、白金、ルテニウム、オスミウム、パラジウム、金等が挙げられる。
【0065】
本発明に用いる金属前躯体としては、前記金属の化合物を選択的に用いることができ、これら金属前駆体は1種単独で用いてもよいし、2種以上を併用して用いてもよい。
【0066】
本発明においては、特に白金を炭素担体に担持させるための金属前駆体として白金前駆体を好適に用いることができる。
【0067】
前記白金前駆体としては、例えば、ヘキサクロロ白金酸アンモニウム(NHPtC1、テトラクロロ白金酸アンモニウム(NHPtCl、ヘキサクロロ白金酸カリウムKPtCl、テトラクロロ白金酸ナトリウムNaPtCl、塩化白金酸水合物H(PtC1)・6HO、テトラニトリト白金酸カリウムKPt(NO、ヘキサクロロ白金酸HPtC1、二水素ヘキサヒドロキソ白金酸HPt(OH)、シスプラチンPt(NHC1、テトラアミン白金塩化物Pt(NHC1、水酸化テトラアミン白金Pt(NH(OH)、亜硝酸テトラアミン白金Pt(NH(NO、硝酸テトラアミン白金Pt(NH(NO、重炭酸テトラアミン白金Pt(NH(HCO、テトラクロロ白金酸テトラアミン白金(Pt(NH)PtC1等を挙げることができる。
【0068】
前記、金属前躯体の配合量は、触媒層中の金属微粒子の組成量から計算される。金属微粒子の組成量の好ましい範囲は、炭素担体の全表面面積、触媒のタイプ及び電極の用途により適宜決定することができ、触媒層の総量の5〜60重量%、好ましくは触媒層総量の15〜40重量%の範囲である。5重量%未満では、炭素担体の表面に生成される金属微粒子同士の間隔が拡がりすぎる。一方、60重量%を超えると、金属微粒子同士の間隔が近くなりすぎて、その成長過程で、隣り合う金属微粒子が融合して粒径が大きくなることがある。
【0069】
上記金属前駆体は、電解質ポリマー中のプロトンまたはカチオンイオンとのイオン交換により、電解質ポリマーに吸着させて用いられることが好ましい。この吸着工程は、通常、電解質ポリマー、炭素担体及び金属前駆体を直接混合する方法や、電解質ポリマー及び炭素担体を含む組成物を用いて、炭素電極基材上に塗布した後、塗布した基材を金属前駆体の水溶液に浸漬することで金属前躯体を吸着する方法等により行うことができる。
【0070】
本発明の触媒層形成用組成物に用いられるアルコール系溶媒としては、前記、電解質ポリマー、金属前躯体を溶解することができるアルコール系溶媒であれば、特に制限なく用いることができる。
【0071】
これらのものとしては、例えば、メタノール、エタノール、1−プロピルアルコール、2−プロピルアルコール、2−メチル−2−プロパノール、2−ブタノール、n−ブチルアルコール、2−メチル−1−プロパノール、1−ペンタノール、2−ペンタノール、3−ペンタノール、2−メチル−1−ブタノール、3−メチル−1−ブタノール、2−メチル−2−ブタノール、3−メチル−2−ブタノール等のアルコール類。エチレングリコール、プロピレングリコール、グリセロール等の多価アルコール類を用いることができる。これらのものは1種単独で用いてもよいし、2種以上を併用して用いてもよい。
【0072】
これらの中でも、常温で揮発性がやや低い2−プロピルアルコールを特に好ましく用いることができる。
【0073】
本発明の触媒層形成用組成物には、本発明の効果を損なわない範囲で、さらに他の
成分を添加することができる。
【0074】
これらのものとしては、例えば、分散剤、撥水剤、pH調整剤、凝集防止安定剤等を挙げることができる。
【0075】
分散剤としては、アニオン界面活性剤、カチオン界面活性剤、両性界面活性剤、非イオン界面活性剤等の界面活性剤を用いることができ、これらは1種類で用いても2種類以上を組み合わせて用いてもよい。触媒層形成用組成物に上記分散剤を添加することにより、保存安定性及び流動性を改善し、塗工時の生産性を向上させることができる。
【0076】
撥水剤としては、フッ素系ポリマーやシリコン系ポリマー等の撥水剤を用いることができる。撥水剤は生成する水を効率よく排出する効果があり、燃料電池の発電性能を向上させることができる。
【0077】
pH調整剤としては、各種の酸やアルカリ等を使用することができる。酸としては、硝酸等を挙げることができ、アルカリとしては、アンモニア水溶液等を挙げることができる。触媒層形成用組成物のpHの好適な範囲は、析出させる金属の種類や、そのもとになる金属前躯体の種類等によって異なり、また、その好適な範囲内でpHが低くなるほど(酸性領域)、形成される金属微粒子の粒径が小さくなる傾向がある。従って、pH調整剤を添加する際には、形成する金属微粒子の種類や粒径、電子線照射の条件等を考慮しながら、添加量を調整する必要がある。
【0078】
凝集防止安定剤としては、生成された金属微粒子の凝集防止のために用いることができ、ポリビニルピロリドン等高分子樹脂を添加することができる。その粒子は、粒子表面上に安定化ポリマー分子を吸着することによって安定化されて、凝集を防止することができる。
【0079】
上記添加物は、触媒層の機能を妨げないものであればよく、水、または酸溶液中に浸漬するだけで簡易に除去できるものや、揮発性を有し乾燥により除去ができるものであれば好ましい。また、触媒層にイオン導電性、電子導電性、ガス拡散性等の機能を有し、除去が不要なものがより好ましい。NaOH、NaCO等の水溶性pH調整剤、多孔形成剤の金属イオンはイオン交換反応により簡易に除去できるためそれらを添加してもよい。
【0080】
さらにまた、必要に応じて炭素繊維等の他の成分を含有してもよい。
【0081】
本発明に用いる触媒層形成用組成物を調製するときには、炭素担体を電解質ポリマー、金属前躯体、アルコール系溶媒、水を含む溶液中に分散させる。この際、炭素担体は溶液中に均一に分散させることが好ましい。
【0082】
十分に均一に分散させるための分散方法は特に限定されるものではなく、例えば、撹拌、超音場分散、剛球ミール、ミキサ分散等の方法を用いることができる。
【0083】
本発明に用いる触媒層形成用組成物は、直接炭素電極基材に堆積可能な表面張力、粘度等、特定の物理的特性を有するペースト状態またはインク状に調製することが必要であり、これらの粘度は約0.1パスカル秒以上であることが好ましい。触媒層形成用組成物を高粘度とした場合、電子線により生成した金属微粒子の凝集が阻止でき、炭素担体の表面に超ナノサイズの金属微粒子を担持させることができる。
【0084】
なお、本発明の触媒層形成用組成物においては、炭素担体、電解質ポリマー、金属前駆体の合計配合量は、触媒層形成用組成物全量に対して10〜50重量%が好ましい。
【0085】
炭素電極基材は、触媒層の支持体としての機能、電子導電機能、電極反応に必要な反応物質及びその生成物質を輸送するトンネル機能を有することが重要である。この炭素電極基材は一般にガス拡散層とも呼ばれる。
【0086】
本発明に用いる炭素電極基材としては、カーボンペーパー、カーボンクロース、炭素フェルト等を好適に用いることができる。これらのものとしては、例えば、東レ(株)製カーボンペーパーTGPシリーズ、E‐TEK社製カーボンクロース等を挙げることができる。
【0087】
また、前記炭素電極基材としては、その表面に疎水性、親水性等の機能を付与したものであってもよい。これらのものとしては、例えば、テフロン(登録商標)による疎水処理されたカーボンペーパーや、テフロン(登録商標)とカーボン粒子からなる微細気孔層を堆積させたカーボンペーパー等を挙げることができる。
【0088】
本発明に用いる炭素電極基材の厚さは、50〜500μm、好ましくは100〜300μmの厚さである。厚さが50μm未満であると、触媒層の支持体の役割を果たせなくなり、500μmを超えると、抵抗損失が大きくなり、反応物質の輸送が円滑にできなくなることがある。
<塗布工程>
本発明の第2工程では、前記炭素電極基材の片面に調製した触媒層形成用組成物を均一に塗布する。
【0089】
前記触媒層形成用組成物を前記炭素電極基材の片面に塗布するための塗布方法については、触媒層形成用組成物の粘度等により塗布方法を選択することができる。これらの塗布方法は、特に限定されるものではなく、例えば、スプレー塗布、ロールコーター、刷毛塗り、筆塗り、バーコーター塗布、ナイフコーター塗布、ディップコーター、スピンコーター、ダイコーター、カーテンコーター、ドクターブレード法、スクリーン印刷、グラビアコーター、インクジェット法等の一般的な方法が挙げられる。これらの中でも、均一に塗布できる点から、スプレー塗布、ロールコーター、ナイフコーター塗布、スクリーン印刷、インクジェット塗布の方法が好ましい。
【0090】
前記、触媒層形成用組成物の塗布厚さは特に制限されるものではないが、5〜150μm、好ましくは15〜50μmの厚さである。5μm未満の場合には、触媒担持量が不十分となり、150μmを超える場合には反応物質の輸送経路が十分に確保できなくなるので好ましくない。
【0091】
前記塗布した触媒層形成用組成物中の金属前躯体の仕入れ量は、最終的に形成された触媒層中の金属微粒子の担持量により決める。例えば、白金の担持量は触媒層の単位面積で0.05〜5mg/cmであることが好ましい。水素を燃料とする燃料電池の場合には、白金の担持量は、0.1〜0.5mg/cmであることがより好ましい。メタノールを燃料とする燃料電池の場合には、白金の担持量は、0.5〜3mg/cmであることがより好ましい。また、要求された燃料電池性能に達成するために、白金等金属は、最小限に抑えることがコスト削減に重要因子である。金属前躯体は100%で金属に還元されるため、金属前躯体の仕入れ量はその金属の必要な担持量から簡単に計算できる。
<電子線還元工程>
本発明の第3工程では、炭素電極基材上に塗布した触媒層形成用組成物中の金属前駆体を電子線の照射により金属に還元させて析出させると共に、炭素担体の表面に担持させる。
【0092】
前記電子線は、電離放射線のうち、照射することで原子や分子を直接に電離することが可能な直接電離放射線に属し、触媒層形成用組成物中の水に照射することにより水和電子を発生させる。また、触媒層形成用組成物中のアルコール系溶媒は水和電子に対する捕捉作用があり、水和電子を効率的に生成させることができる。生成した水和電子は強い還元作用を有するため、速やかに前記組成物中の金属前躯体を金属微粒子に還元することができる。
【0093】
また、電子線は、ガンマ線より1000倍以上の線量率が得られるため、電子線照射による金属前躯体の還元反応は、数分間から数秒間の極めて短い時間で還元反応を完了させることができる。さらに、金属微粒子が短時間で生成するため、金属微粒子の成長を制御することができる。これにより、より小さいナノ金属微粒子を触媒層中に形成することができる。
【0094】
その結果、金属微粒子は、触媒として良好な活性を有し、触媒効率をより一層向上させることが可能となる。
【0095】
また、電子線は、他の電離放射線のように原子核崩壊によらず、加速器で電子を加速することで発生させることができるため、安全性の面からも好適な手法である。
【0096】
電子線の照射線量は、金属前駆体を100%金属微粒子に還元するために必要な線量で決まる。その照射線量は通常1〜200kGyである。電子線の照射線量が少ないと、金属前駆体が十分に還元されないため、一部金属前駆体が無駄になる恐れがある。また、電子線の線量が多すぎると、線量が無駄になると共に、電極にダメージを与える可能性がある。
【0097】
前記電子線の照射線量を調整する方法としては、例えば、電子線加速器の加速電圧、加速電流または照射時間、照射位置等を調整する方法を採用することができる。
【0098】
また、電子線の照射線量の測定は、例えば、フィルム線量計を用いて測定することができる。このフィルム線量計は、線量測定用フィルムに電子線が照射されて吸収エネルギーを得ると、その分光特性が変化し、この分光特性の変化量と、電子線の吸収線量とが相関関係にあることを利用した測定装置である。
【0099】
電子線照射条件として、加速電圧は50kV〜10MVの範囲で実施することができる。電子線の電極を透過する深度は、加速電圧に依存する。50kV以下の加速電圧の場合には、触媒層形成用組成物の全体に照射できなくなる恐れがある。また、電子線加速器の電流は、照射線量率に比例しているために、生産性を高めるためにはより高い加速電流が好ましく、通常、加速電流は0.5〜15mAの範囲で実施することができる。また、電子線照射はアルゴン(Ar)等の不活性ガス置換雰囲気中で行うのが好ましい。
【0100】
上記の本発明における照射条件の好ましい一例としては、加速電圧:1MV、加速電流:5mAの条件を挙げることができる。
【0101】
電子線照射時の温度条件は特に限定はない。通常、室温(常温)下で実施されるのが普通であるが、0〜100℃の範囲の冷却及び加温条件を採用することもできる。
【0102】
次に乾燥の工程によりアルコール系溶媒、水等を除去し、炭素電極基材上に触媒層を固定する。
【0103】
液体のアルコール系溶媒、水等はこの乾燥工程により蒸発される。また、金属前躯体の還元において生成したHCl、NH等の副生物もこの乾燥工程により除去される。また、金属前駆体の還元において生成したNH、Na等の他の副生物は、無機酸等のイオン交換反応により簡単に除去することができる。即ち、炭素電極基材の表面には、最終的に金属微粒子、炭素担体及び電解質ポリマーを含む触媒層が固定される。
【0104】
乾燥温度は、通常40〜160℃程度、好ましくは60〜100℃程度である。乾燥時間は、乾燥温度にもよるが、通常2分〜2時間程度、好ましくは5〜30分間程度である。炭素電極基材に触媒層を十分に固定できれば、乾燥時間をさらに短くしてもかまわない。
<製造プロセス>
本発明の、高分子形燃料電池電極の製造方法において、電子線照射による金属微粒子の還元反応を短時間でおこない、制御可能としたことにより、一連の製造プロセスを1つのラインでおこなうことが可能となった。
【0105】
即ち、炭素電極基材に触媒層形成用組成物を塗布する塗布工程と、電子線照射により金属微粒子を析出させる電子線照射還元工程と、乾燥工程を組み合わせて、ロール状態に巻いた炭素電極基材の原料を切り離すことなく、電極の完成品をロール状に巻き取る、所謂ロール・ツー・ロールプロセスによる電極の連続製造が可能となった。
【0106】
前記ロール・ツー・ロールプロセスを図4を用いて説明する。
【0107】
炭素電極基材402はコンベア401上を移動し、炭素電極基材402上面に触媒層形成用組成物403が塗布される(塗布工程407)。次に電子線加速器404を通過して電子線の照射がおこなわれ、炭素電極基材402上の触媒層形成用組成物403中の金属前駆体は還元されて金属微粒子が析出し、炭素担体に担持される(電子線照射還元工程408)。次に乾燥機405を通過して触媒層形成用組成物403中のアルコール系溶媒、水分を蒸発させて乾燥する(乾燥工程409)。以上の一連の製造工程を経て、完成品の電極406がロール状に巻き取られる。
【0108】
なお、本発明の高分子形燃料電池電極の製造プロセスは、上記プロセスに限定されるものではなく、適宜工程を追加することができ、例えば電子線照射工程408と乾燥工程409の間に洗浄工程を追加することも可能である。
【0109】
また、コンベア401の搬送速度をコントロールすることにより、触媒層形成用組成物403に対する電子線の照射時間をコントロールすることができる。
【0110】
上記ロール・ツー・ロールプロセスによれば、製造工程が複雑化することがなく製造コストが削減できる等の利点がある。また、溶媒、添加剤等の使用量が少なく、材料コストを大幅に節減できることから、クリーンな製造工程と言える。
【0111】
また、電子線照射による金属前躯体の還元は数分から数秒間という極めて短時間で完成されるため、高速且つ経済的に電極を大量製造できる。そのため、電極の製造コストが大幅に低減することができる。
<膜電極接合体>
以下に、上記の本発明の方法により作成した電極を用いた膜電極接合体について図2を用いて詳しく説明する。
【0112】
本発明の方法により製造した電極111と、高分子電解質膜100を用いて、膜電極接合体121を製造する。膜電極接合体121は、電極111a及び111cの2枚を、触媒層101が高分子電解質膜100に接するように配置し、電極111a及び111cの背面側から加熱プレスを施して触媒層101と高分子電解質膜100と圧着することにより製造することができる。
【0113】
加熱プレスの加圧レベルは、圧着不良を避けるために、通常0.5〜20Mpa程度、好ましくは2〜10Mpa程度である。また、この加圧操作の際に、圧着不良を避けるために加圧面を加熱するのがより好ましい。加熱温度は、高分子電解質膜、触媒層中の電解質ポリマー、高分子樹脂等の熱特性により決められ、通常、高分子電解質膜100の破損、変性等を避けるために、250℃以下、好ましくは150℃以下がよい。
【0114】
使用される高分子電解質膜100は一般公知のものを用いることができる。これらのものとしては、例えば、デュポン社製の「Nafion」(登録商標)、旭硝子(株)製の「Flemion」(登録商標)、旭化成(株)製の「Aciplex」(登録商標)、ゴア社製の「Gore−Select」(登録商標)等全フッ素系高分子電解質膜、スルホン化した芳香族炭化水素系高分子電解質膜、フッ素系フィルムにグラフト重合及び/または化学変換反応によりスルホン酸基を導入した高分子電解質膜等が挙げられる。
【0115】
高分子電解質膜の膜厚は通常10〜250μm程度、好ましくは20〜80μm程度である。
【0116】
前記膜電極接合体は、そのままで燃料電池に使えるが、さらに無機酸溶液及び蒸留水で処理することが好ましい。無機酸溶液及び蒸留水を処理することで、膜電極中の電解質ポリマー及び高分子電解質膜は、十分にプロトン化することができる。また、電極中の残存溶媒、不要な添加物等も除去することができる。処理条件としては、処理温度が室温〜100℃、好ましくは60〜95℃、処理時間が1分〜72時間、好ましくは5分〜24時間である。なお、処理を繰り返しおこなうことで、さらに効果を得ることができ、より好ましい。
<燃料電池>
燃料電池について図1に沿って詳しく説明する。
【0117】
本発明の燃料電池は、前記本発明の製造方法により製造した電極を含むことを特徴とするものである。
【0118】
高分子形燃料電池は、所定の温度で加湿した後、正極111cに、その通過量を制御しながら酸素を接触させると共に、負極111aに、その通過量を制御しながら水素を接触させることによって、発電させることができる。
【0119】
本発明の高分子形燃料電池は、電解質膜100を電極111a(負極)と111c(正極)との間に配置させた膜電極接合体121と、膜電極接合体121をセパレータ103aと103cとの間に配置された構成となっている。セパレータは電極反応に必要な原料を供給する流体分配板と電気を集める集電板との役割を有する。
【0120】
電極の性能は主に、発電特性として公知された電流−電圧の関係曲線として評価される。この関係は図5に示す分極曲線で示すことができる。一般的に同一電流密度で電圧が高いほど、電池性能が高いことになる。また、燃料電池の効率は電圧に依存する。電圧が高ければ燃料電池効率も高くなる。即ち、より実用化レベルの燃料電池効率を得るためには、高い電圧で、より高い電流密度を達成することが重要である。
【実施例】
【0121】
以下、実施例により本発明をさらに詳しく説明するが、本発明はこれらの実施例に何ら限定されるものではない。
【0122】
以下の実施例及び比較例には、以下に示すものを用いた。
炭素担体:カーボンブラック(カボット・コーポレイテッド社製VULCAN(登録商標)XC‐72)
多層カーボンナノチューブ(シグマアルドリッチ社製)
白金担持カーボンブラック(田中貴金属工業株式会社製、TEC10E50E、白金含有量50%)
電解質ポリマー:5%nafion(登録商標)(デュポン社製)
金属前駆体:白金前駆体 塩化白金酸錯体(HPtC1・6H0、分子量517.9、白金原子含有量37.5%)
アルコール系溶媒:2−プロピルアルコール
高分子電解膜:nafion212(登録商標)(デュポン社)
【実施例1】
【0123】
炭素担体1.0gを、電解質ポリマー溶液(電解質ポリマーにアルコール系溶媒及び水を加えたもの)10gに混ぜ、マグネチックスターラを用いて、500rpmの回転数で撹絆し、さらに、金属前躯体を1.07g入れ、30分間攪拌して、触媒層形成用組成物を調製した。
【0124】
前記触媒層形成用組成物を炭素電極基材表面にスプレー塗布方法で均一塗布した。炭素電極基材は長さ100cm、幅10cmで、面積1000cmとした。
【0125】
前記触媒層形成用組成物を塗布した炭素電極基材を電子線照射装置〔日新電機(株)製〕のコンベアに乗せて、2m/minの速度で搬送しながら、電子線を照射した。電子線照射条件を、電子線加速器の加速電圧1MV、加速電流6mAとし、照射線量を30kGyとした。次に、80℃、10分間で乾燥して、炭素電極基材表面に触媒層を形成して電極を得た。
【0126】
製造した電極を5cm×5cmの大きさに切断し、高分子電解質膜の両面につけ、ホットプレス装置により、140℃、0.5MPaで1分間保持した後、同温度で5MPa、1分間熱圧着し、膜電極接合体を得た。
【0127】
前記膜電極接合体を燃料電池(東陽テクニカ製、25cm)に組み込み、燃料電池とした。
【実施例2】
【0128】
電子線照射条件を、電子線加速器の加速電圧1MV、加速電流2mAとし、照射線量を10kGyとした以外は実施例1と同様の条件で電極を作成し燃料電池とした。
【実施例3】
【0129】
電子線照射条件を、電子線加速器の加速電圧1MV、加速電流9mAとし、照射線量を45kGyとした以外は実施例1と同様の条件で電極を作成し燃料電池とした。
【実施例4】
【0130】
触媒層形成用組成物の塩化白金酸錯体の配合量を0.54gとした以外は実施例1と同様の条件で電極を作成し燃料電池とした。
【実施例5】
【0131】
触媒層形成用組成物の塩化白金酸錯体の配合量を0.27gとした以外は実施例1と同様の条件で電極を作成し燃料電池とした。
【実施例6】
【0132】
炭素担体としてカーボンブラックを0.5g、多層カーボンナノチューブを0.5gとした以外は実施例5と同様の条件で電極を作成し燃料電池とした。
<比較例1>
【0133】
触媒層に電子線を照射しない以外は実施例1と同様の条件で電極を作成し燃料電池とした。
<比較例2>
【0134】
触媒層に電子線を照射しない以外は実施例5と同様の条件で電極を作成し燃料電池とした。
<比較例3>
【0135】
白金担持カーボンブラック200mgを、電解質ポリマー溶液(電解質ポリマーに水を加えたもの)2gと2−プロピルアルコール2g混合溶液の中に混ぜ、マグネチックスターラを用いて、500rpmの回転数で30分間攪拌して、触媒層形成用組成物を調製した。
【0136】
得られた触媒層形成用組成物を炭素電極基材表面にスプレー塗布方法で均一塗布した。炭素電極基材は長さ100cm、幅10cmで、面積1000cmとした。
次に、80℃、24時間乾燥して、炭素電極基材表面に触媒層を形成して電極を得た。
【0137】
製造した電極を5cm×5cmの大きさに切断し、高分子電解質膜の両面につけ、ホットプレス装置により、140℃、0.5MPaで1分間保持した後、同温度で5MPa、1分間熱圧着し、膜電極接合体を得た。
【0138】
前記膜電極接合体を燃料電池(東陽テクニカ製、25cm)に組み込み、燃料電池とした。
<測定及び評価>
上記の実施例及び、比較例の各条件で得られた電極の触媒層を、電子透過顕微鏡(TEM)写真により観察し、白金微粒子の平均サイズ求めた。
【0139】
また、電極を空気中で1300℃まで加温し、残渣である白金の重さから白金担持量を求めた。これらの結果を表1に示す。
【0140】
負極に飽和加湿した水素ガスを200ml/min、正極に飽和加湿した酸素ガスを200ml/minの条件で供給した。燃料電池温度は80℃、大気圧で(燃料電池排気口が大気圧に開放)燃料電池発電性能を測定した。電流−電圧特性結果を図5に示す。
また、0.2A/cmの電流密度における電圧の値を表1に示す。
【0141】
【表1】

【0142】
表1から明らかなように、照射線量が30kGy以上の場合、触媒担持量の測定値は、触媒金属前駆体使用量から計算した値と一致した。このことから、電子線照射による白金微粒子の生成率は100%であることがわかった。
【0143】
また、TEM写真の観察結果から、白金微粒子が炭素担体表面に均一に分布され、微粒子の大きさはほぼ同じであることが確認された。その大きさは照射条件及び触媒層形成用組成物の組成に依存し、白金担持量が少ないと、白金粒子の大きさが小さくなる傾向が見られた。また、実施例5と実施例6から、触媒担持量が少ないにもかかわらず、比較例3と比べて、優れた発電性能(高い電圧)が確認された。
【符号の説明】
【0144】
100 高分子電解質膜
101 触媒層
101a 触媒層(負極側)
101c 触媒層(正極側)
102 炭素電極基材
102a 炭素電極基材(負極側)
102c 炭素電極基材(正極側)
103a セパレータ(負極側)
103c セパレータ(正極側)
111 電極
111a 電極(負極)
111c 電極(正極)
121 膜電極接合体
401 コンベア
402 炭素電極基材
403 触媒層形成用組成物
404 電子線加速器
405 乾燥機
406 電極
407 塗布工程
408 電子線照射還元工程
409 乾燥工程

【特許請求の範囲】
【請求項1】
炭素担体、電解質ポリマー、金属前躯体、アルコール系溶媒、水を含む触媒層形成用組成物を調製する工程と、触媒層形成用組成物を炭素電極基材に塗布する工程と、炭素電極基材に塗布した触媒層形成用組成物に電子線を照射する工程を含むことを特徴とする高分子形燃料電池用電極の製造方法。
【請求項2】
炭素担体が、カーボンブラック、黒鉛、グラファイト、活性炭、またはカーボンナノチューブ、カーボンナノファイバー、カーボンナノワイヤー、カーボンナノホーン、及び気相成長炭素繊維からなる群より選ばれる少なくとも1種の炭素材料を含む炭素担体であることを特徴とする請求項1に記載の高分子形燃料電池用電極の製造方法。
【請求項3】
電解質ポリマーが、少なくとも、スルホン酸基、ナトリウムスルホン酸基、カリウムスルホン酸基のいずれかを有する高分子樹脂であることを特徴とする請求項1または2に記載の高分子形燃料電池用電極の製造方法。
【請求項4】
電解質ポリマーが、少なくとも、パーフルオロスルホン酸系のフッ素イオン交換樹脂、スルホン酸基を有する芳香族炭化水素高分子電解質のいずれかであることを特徴とする請求項1または2に記載の高分子形燃料電池用電極の製造方法。
【請求項5】
アルコール系溶媒が、メタノール、エタノール、1−プロピルアルコール、2−プロピルアルコールからなる群より選ばれる少なくとも1種のアルコールであることを特徴とする請求項1から4のいずれかに記載の高分子形燃料電池用電極の製造方法。
【請求項6】
金属前躯体が、白金、ルテニウム、オスミウム、パラジウム、金からなる群より選ばれた少なくとも1種の金属原子を含む化合物であることを特徴とする請求項1から5のいずれかに記載の高分子形燃料電池用電極の製造方法。
【請求項7】
触媒層形成用組成物が約0.1パスカル秒以上の粘度を有することを特徴とする請求項1から6のいずれかに記載の高分子形燃料電池用電極の製造方法。
【請求項8】
炭素電極基材が、電子導電性及びガス拡散性を有するカーボンペーパーまたはカーボンクロースであることを特徴とする請求項1から7のいずれかに記載の高分子形燃料電池用電極の製造方法。
【請求項9】
炭素電極基材が50〜500μmの厚さを有することを特徴とする請求項1から8のいずれかに記載の高分子形燃料電池用電極の製造方法。
【請求項10】
電子線の照射線量が3〜300kGyであることを特徴とする請求項1から9のいずれかに記載の高分子形燃料電池用電極の製造方法。
【請求項11】
炭素電極基材に形成された触媒層が、5〜100μmの厚さを有するものであることを特徴とする請求項1から10のいずれかに記載の高分子形燃料電池用電極の高分子形燃料電池用製造方法。
【請求項12】
炭素電極基材に形成された触媒層に含まれる金属微粒子の単位面積当りの含有量が0.05〜5.0mg/cmであることを特徴とする請求項1から11のいずれかに記載の高分子形燃料電池用電極の製造方法。
【請求項13】
請求項1から12のいずれかに記載の高分子形燃料電池用電極の製造方法で製造した高分子形燃料電池用電極。
【請求項14】
請求項13に記載の高分子形燃料電池用電極を含むことを特徴とする膜電極接合体。
【請求項15】
請求項13に記載の高分子形燃料電池用電極を含むことを特徴とする高分子形燃料電池。
【請求項16】
請求項13に記載の高分子形燃料電池用電極を含むことを特徴とする水電解システム、ハロゲン化水素酸電解システム、食塩電解システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2011−141994(P2011−141994A)
【公開日】平成23年7月21日(2011.7.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−1574(P2010−1574)
【出願日】平成22年1月6日(2010.1.6)
【出願人】(505374783)独立行政法人 日本原子力研究開発機構 (727)
【Fターム(参考)】