説明

高分子量水溶性重合体を含有する分散液、その製造方法及びそれを用いた抄紙方法

【課題】 塩水溶液中分散重合における増粘を抑制しつつ、分子量の低下を防止し超高分子量の水溶性重合体を含有する分散液を開発することを課題とする。
【解決手段】 塩水溶液中において、該塩水溶液中に溶解可能な高分子分散剤を共存させ、ビニル系単量体あるいはビニル系単量体混合物とともに重合遅延性物質を全単量体に対し0.5〜5モル%添加し攪拌下、分散重合することにより得た1規定NaCl水溶液中、25℃で測定した固有粘度が18〜25dl/gの範囲にある高分子量水溶性重合体を含有する分散液を製造することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は高分子量水溶性重合体を含有する分散液の製造方法、その製造方法及びそれを用いた抄紙方法に関するものであり、詳しくは塩水溶液中において、該塩水溶液中に溶解可能な高分子分散剤を共存させ、ビニル系単量体あるいはビニル系単量体混合物とともに重合遅延性物質を全単量体に対し0.5〜5モル%添加し攪拌下、分散重合することにより得た1規定NaCl水溶液中、25℃で測定した固有粘度が18〜25dl/gの範囲にある高分子量水溶性重合体を含有する分散液、その製造方法及びそれを用い歩留率及び/又は濾水性を向上させることを目的として抄紙前の製紙原料中に、前記高分子量水溶性重合体分散液あるいはその希釈液を添加する抄紙方法にも関する。
【背景技術】
【0002】
アクリルアミド系重合体の塩水溶液中分散液は、粉末状の重合体に比べて溶解が速く、その取扱いが容易であるため、凝集剤や増粘剤として各種廃水処理、廃泥処理、製紙、土木分野等にその用途を拡大しつつあり、特に、凝集剤、製紙用途には高分子量の重合体が要求される。
【0003】
塩水溶液中分散重合法は、分散媒としてのオイル(炭化水素系溶剤)を使用しないので環境負荷は軽減される反面、単量体濃度35〜50質量%などの高濃度では重合ができない点が大きな問題点となっている。その原因は重合開始後、溶液重合から分散重合への相転移が起きる時点で大きな増粘が発生することにある。この増粘により攪拌が不可能になり操業が停止してしまうこともある。増粘を防止するために特許文献1には、増粘抑制剤として多価カルボン酸、環状の多価アルコールあるいは多価フェノール、酸化性雰囲気あるいは酸化剤存在下でアクリル系カチオン性単量体を重合した生成物などを分散重合時添加する方法が開示されている。しかしこれらの化合物はいずれも連鎖移動性が高く、超高分子量の水溶性高分子を製造するには適してはいない。
【0004】
一方、製紙原料の視点から見てみると、資源の節約や環境への配慮という観点から、近年、製紙原料として古紙や機械パルプの配合率が増加の一途を辿っている。原料木材中に含有する樹脂やパルプ化時に生成するアニオン性物質が、パルプ分散液中に多く残留する。また、古紙も表面加工時使用する塗工剤が混入し、抄紙時、水不溶性微粒子の凝集物に起因するピッチトラブルの原因となる。そのため現在一般的に使用されているカチオン性あるいは両性歩留向上剤では分子量の不足によって性能はいま一歩という状況である。そのため上記のような超高分子量の歩留向上剤開発が急がれている。
【特許文献1】米国特許第6,187,853号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の目的は、塩水溶液中分散重合における増粘を抑制しつつ、分子量の低下を防止し超高分子量の水溶性重合体を含有する分散液を開発することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するため本発明者等は、詳細な検討を行なった結果、以下に述べるような発明に到達した。すなわち請求項1の発明は、塩水溶液中において、該塩水溶液中に溶解可能な高分子分散剤を共存させ、ビニル系単量体あるいはビニル系単量体混合物とともに重合遅延性物質を全単量体に対し0.5〜5モル%添加し攪拌下、分散重合することにより得た1規定NaCl水溶液中、25℃で測定した固有粘度が18〜25dl/gの範囲にある水溶性重合体を含有する分散液である。
【0007】
請求項2の発明は、前記単量体混合物が下記一般式(1)及び/又は(2)で表わされる単量体5〜50モル%、(メタ)アクリルアミド及び共重合可能な他の非イオン性水溶性単量体50〜95モル%であることを特徴とする請求項1に記載の高分子量水溶性重合体を含有する分散液である。
【化1】

一般式(1)
R1は水素又はメチル基、R2、R3は炭素数1〜3のアルキル基、アルコキシ基あるいはベンジル基、R4は水素、炭素数1〜3のアルキル基、アルコキシ基あるいはベンジル基であり、同種でも異種でも良い。Aは酸素またはNH、Bは炭素数2〜4のアルキレン基またはアルコキシレン基、X1は陰イオンをそれぞれ表わす。
【化2】


一般式(2)
R5は水素又はメチル基、R6、R7は炭素数1〜3のアルキル基、アルコキシ基あるいはベンジル基、X2は陰イオンをそれぞれ表わす。
【0008】
請求項3の発明は、前記ビニル系単量体混合物が前記一般式(1)及び/又は(2)で表わされる単量体5〜50モル%、下記一般式(3)で表わされる単量体5〜50モル%、(メタ)アクリルアミド及び共重合可能な他の非イオン性水溶性単量体0〜90モル%であることを特徴とする請求項1に記載の高分子量水溶性重合体を含有する分散液である。

【化3】


一般式(3)
R8は水素、メチル基又はカルボキシメチル基、AはSO3、C6H4SO3、CONHC(CH3)2CH2SO3、C6H4COOあるいはCOO、R9は水素又はCOOY1、Y1は水素又は陽イオンをそれぞれ表わす。
【0009】
請求項4の発明は、前記ビニル系単量体あるいはビニル系単量体混合物が前記一般式(3)で表わされる単量体5〜100モル%、(メタ)アクリルアミド及び共重合可能な他の非イオン性水溶性単量体0〜95モル%であることを特徴とする請求項1に記載の高分子量水溶性重合体を含有する分散液である。
【0010】
請求項5の発明は、前記重合遅延性物質がイタコン酸、マレイン酸、フタル酸、アリルアミンおよびジアリルジメチルアンモニウムクロライドから選択される一種以上であることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の高分子量水溶性重合体を含有する分散液である。
【0011】
請求項6の発明は、塩水溶液中において、該塩水溶液中に溶解可能な高分子分散剤を共存させ、1規定NaCl水溶液中、25℃で測定した固有粘度が18〜25dl/gの範囲にある水溶性重合体を含有する分散液を製造するに際し、重合遅延性単量体を全単量体に対し0.5〜5モル%添加することを特徴とする高分子量水溶性重合体を含有する分散液の製造方法である。
【0012】
請求項7の発明は、前記単量体混合物が下記一般式(1)及び/又は(2)で表わされる単量体5〜50モル%、(メタ)アクリルアミド及び共重合可能な他の非イオン性水溶性単量体50〜95モル%であることを特徴とする請求項6に記載の高分子量水溶性重合体を含有する分散液である。
【化1】

一般式(1)
R1は水素又はメチル基、R2、R3は炭素数1〜3のアルキル基、アルコキシ基あるいはベンジル基、R4は水素、炭素数1〜3のアルキル基、アルコキシ基あるいはベンジル基であり、同種でも異種でも良い。Aは酸素またはNH、Bは炭素数2〜4のアルキレン基またはアルコキシレン基、X1は陰イオンをそれぞれ表わす。
【化2】


一般式(2)
R5は水素又はメチル基、R6、R7は炭素数1〜3のアルキル基、アルコキシ基あるいはベンジル基、X2は陰イオンをそれぞれ表わす。
【0013】
請求項8の発明は、前記ビニル系単量体混合物が前記一般式(1)及び/又は(2)で表わされる単量体5〜50モル%、下記一般式(3)で表わされる単量体5〜50モル%、(メタ)アクリルアミド及び共重合可能な他の非イオン性水溶性単量体0〜90モル%であることを特徴とする請求項6に記載の高分子量水溶性重合体を含有する分散液である。

【化3】



一般式(3)
R8は水素、メチル基又はカルボキシメチル基、AはSO3、C6H4SO3、CONHC(CH3)2CH2SO3、C6H4COOあるいはCOO、R9は水素又はCOOY1、Y1は水素又は陽イオンをそれぞれ表わす。
【0014】
請求項9の発明は、前記ビニル系単量体あるいはビニル系単量体混合物が前記一般式(3)で表わされる単量体5〜100モル%、(メタ)アクリルアミド及び共重合可能な他の非イオン性水溶性単量体0〜95モル%であることを特徴とする請求項6に記載の高分子量水溶性重合体を含有する分散液である。
【0015】
請求項10の発明は、歩留率及び/又は濾水性を向上させることを目的として抄紙前の製紙原料中に、請求項1〜5のいずれかに記載の高分子量水溶性重合体分散液あるいはその希釈液を添加することを特徴とする抄紙方法である。
【発明の効果】
【0016】
本発明は、塩水溶液中において、該塩水溶液中に溶解可能な高分子分散剤を共存させビニル系単量体あるいはビニル系単量体混合物を分散重合する場合、重合遅延性物質を全単量体に対し0.5〜5モル%添加することにより、増粘が抑制可能であり、しかも1規定NaCl水溶液中、25℃で測定した固有粘度が18〜25dl/gの範囲にある超分子の水溶性重合体を製造することができる。
【0017】
また前記重合遅延性物質はイタコン酸、マレイン酸、フタル酸、アリルアミンおよびジアリルジメチルアンモニウムクロライドから選択される一種以上である。
【0018】
さらに歩留率及び/又は濾水性を向上させることを目的として抄紙前の製紙原料中に、前記水溶性重合体分散液あるいはその希釈液を添加することによって高い歩留率を達成することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
以下具体的に製造方法を説明する。原料として使用するカチオン性単量体、すなわち一般式(1)及び/又は(2)、必要に応じてアニオン性単量体、すなわち一般式(3)、(メタ)アクリルアミド及び共重合可能な他の非イオン性水溶性単量体を各々塩水溶液に溶解する。その後、前記高分子分散剤を添加し、窒素置換後、ラジカル重合開始剤により重合を開始させ、攪拌しながら重合することにより製造する。
【0020】
重合時の温度は、開始剤の種類により異なるが一般的に5〜55℃である。重合は2、2−アゾビス[2−(5−メチル−2−イミダゾリン−2−イル)プロパン]二塩化水素化物、あるいは4、4−アゾビス(4−メトキシ−2、4ジメチル)バレロニトリルなどのアゾ系開始剤が好ましい。
【0021】
またレドックス系開始剤で共重合する場合、40℃以上の条件で重合を開始させると重合の制御は難しく、急激な温度上昇や重合液の塊状化などが起きて、高重合度で安定な分散液が得られないため、15〜35℃が好ましい。
【0022】
前記カチオン性水溶性重合体を重合する場合、使用するカチオン性単量体の例として(メタ)アクリル酸ジメチルアミノエチルやジメチルアミノプロピル(メタ)アクリルアミド、メチルジアリルアミンなどが上げられる。また、四級アンモニウム基含有単量体の例としては、該三級アミノ含有単量体の塩化メチルや塩化ベンジルによる四級化物である(メタ)アクリロイルオキシエチルトリメチルアンモニウム塩化物、(メタ)アクリロイルオキシ2−ヒドロキシプロピルトリメチルアンモニウム塩化物、(メタ)アクリロイルアミノプロピルトリメチルアンモニウム塩化物、(メタ)アクリロイルオキシエチルジメチルベンジルアンモニウム塩化物、(メタ)アクリロイルオキシ2−ヒドロキシプロピルジメチルベンジルアンモニウム塩化物、(メタ)アクリロイルアミノプロピルジメチルベンジルアンモニウム塩化物、ジメチルジアリルアンモニウム塩化物などである。
【0023】
前記両性水溶性重合体を重合する場合、上記カチオン性単量体の他、アニオン性単量体を併用し、その例はビニルスルホン酸、ビニルベンゼンスルホン酸あるいは2−アクリルアミド2−メチルプロパンスルホン酸、メタクリル酸、アクリル酸、あるいはp−カルボキシスチレンなどである。
【0024】
さらに本発明の水溶性重合体は、他の非イオン性の単量体との共重合体でも良い。例えば(メタ)アクリルアミド、N,N−ジメチルアクリルアミド、酢酸ビニル、アクリロニトリル、アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸2−ヒドロキシエチル、ジアセトンアクリルアミド、N−ビニルピロリドン、N−ビニルホルムアミド、N−ビニルアセトアミドなどがあげられ、これら一種又は二種以上との共重合が可能である。
【0025】
カチオン性水溶性重合体を重合する場合は、一般式(1)及び/又は(2)で表される単量体5〜50モル%、(メタ)アクリルアミド及び共重合可能な他の非イオン性水溶性単量体50〜95モル%であり、好ましくは一般式(1)及び/又は(2)で表される単量体10〜50モル%、(メタ)アクリルアミド及び共重合可能な他の非イオン性水溶性単量体50〜90モル%である。また好ましいカチオン性単量体は、アクリロイルオキシエチルトリメチルアンモニウム塩化物あるいはアクリロイルオキシエチルベンジルジメチルアンモニウム塩化物であり、非イオン性単量体はアクリルアミドである。従って好ましい組み合わせとしてアクリロイルオキシエチルトリメチルアンモニウム塩化物、アクリロイルオキシエチルベンジルジメチルアンモニウム塩化物及びアクリルアミドであり、最も好ましい組み合わせは、アクリロイルオキシエチルトリメチルアンモニウム塩化物及びアクリルアミドである。
【0026】
両性水溶性重合体を重合する場合は、一般式(1)及び/又は(2)で表される単量体5〜50モル%、(3)で表される単量体5〜50モル%及び(メタ)アクリルアミド及び共重合可能な他の非イオン性水溶性単量体0〜90モル%であり、好ましくは一般式(1)及び/又は(2)で表される単量体10〜50モル%、(3)で表される単量体10〜50モル%及び(メタ)アクリルアミド及び共重合可能な他の非イオン性水溶性単量体0〜80モル%である。また好ましいカチオン性単量体は、アクリロイルオキシエチルトリメチルアンモニウム塩化物、メタアクリロイルオキシエチルトリメチルアンモニウム塩化物あるいはアクリロイルオキシエチルベンジルジメチルアンモニウム塩化物であり、非イオン性単量体はアクリルアミドである。従って好ましい組み合わせとしてアクリロイルオキシエチルトリメチルアンモニウム塩化物、アクリロイルオキシエチルベンジルジメチルアンモニウム塩化物、アクリル酸及びアクリルアミド、またはアクリロイルオキシエチルトリメチルアンモニウム塩化物、メタアクリロイルオキシエチルトリメチルアンモニウム塩化物、アクリル酸及びアクリルアミドである。
【0027】
アニオン性あるいは非イオン性水溶性重合体を重合する場合は、一般式(3)で表される単量体0〜100モル%、(メタ)アクリルアミド及び共重合可能な他の非イオン性水溶性単量体0〜100モル%である。また好ましい単量体は、アクリル酸単独及びアクリルアミドである。従って好ましい組み合わせとしてアクリル酸単独、アクリルアミド単独あるいはアクリル酸及びアクリルアミドである。
【0028】
本発明で使用する高分子分散剤は、イオン性、非イオン性とも使用可能であるが、好ましくはイオン性、さらに好ましくはカチオン性あるいは両性水溶性重合体を重合する場合は、カチオン性高分子分散剤であり、アニオン水溶性重合体を重合する場合は、アニオン性高分子分散剤であり、非イオン性水溶性重合体を重合する場合は、カチオン性高分子分散剤である。
【0029】
カチオン性高分子分散剤は、(メタ)アクリロイルオキシエチルトリメチルアンモニウム塩化物やジメチルジアリルアンモニウム塩化物などのカチオン性単量体の(共)重合体であるが、カチオン性単量体と非イオン性単量体との共重合体も使用可能である。非イオン性単量体の例としては、アクリルアミド、N−ビニルホルムアミド、N−ビニルアセトアミド、N−ビニルピロリドン、N、N−ジメチルアクリルアミド、アクリロニトリル、ジアセトンアクリルアミド、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレ−トのなどであるが、アクリルアミドとの共重合体が好ましい。
【0030】
また非イオン性高分子分散剤としては、ポリビニルピロリドン、アクリルアミド/ポリビニルカプロラクタム共重合体、アクリルアミド/スチレン共重合体、無水マレイン酸/ブテン共重物の完全アミド化物などアミド基と若干の疎水性基を有する水溶性重合体も有効である。
【0031】
さらにアニオン性高分子分散剤は、アニオン性単量体の単独あるいは複数のアニオン性単量体の重号体あるいは共重合体である。
アニオン性単量体の例は、ビニルスルホン酸、ビニルベンゼンスルホン酸あるいは2−アクリルアミド2−メチルプロパンスルホン酸、メタクリル酸、アクリル酸、あるいはp−カルボキシスチレンなどである。また非イオン性単量体との共重合体も使用できる。非イオン性単量体の例としては、アクリルアミド、N−ビニルホルムアミド、N−ビニルアセトアミド、N−ビニルピロリドン、N、N−ジメチルアクリルアミド、アクリロニトリル、ジアセトンアクリルアミド、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレ−トのなどであるが、アクリルアミドとの共重合体が好ましい。
【0032】
これらカチオン性あるいはアニオン性高分子分散剤の分子量としては、5,000〜200万、好ましくは5万〜100万である。また、非イオン性高分子分散剤の分子量としては、1,000〜10万、好ましくは1,000〜5万である。これら非イオン性あるいはイオン性高分子分散剤の添加量は、単量体に対して1〜20重量%であり、好ましくは5〜15重量%である。
【0033】
塩水溶液を構成する塩類は、ナトリウムやカリウムのようなアルカリ金属イオンやアンモニウムイオンなどの陽イオンとハロゲン化物イオン、硫酸イオン、硝酸イオン、リン酸イオンなどの陰イオンとを組み合わせた塩が使用可能であるが、多価陰イオンとの塩がより好ましい。これら塩類の塩濃度としては、10重量%〜飽和濃度まで使用できる。
【0034】
本発明水溶性重号体の固有粘度を求める際、1規定NaCl水溶液で希釈した数点の重合体希釈液を毛細管粘度計によって25℃で測定した還元粘度ηsp/cを測定し濃度c横軸にしてプロットし、その濃度をゼロに外挿する。
【0035】
一般に塩水溶液中での分散重合法は重合過程で反応液の粘度が上昇することがある。重合開始後、溶液重合から分散重合への相転移が起きる時点で大きな増粘が発生することにある。それを防ぐため、連鎖移動剤等あるいは背景技術で引用した増粘抑制剤である多価カルボン酸、環状の多価アルコールあるいは多価フェノール、酸化性雰囲気あるいは酸化剤存在下でアクリル系カチオン性単量体を重合した生成物などであるが(特許文献1)、これらの化合物はいずれも連鎖移動性が高く、超高分子量の水溶性重合体を製造することはできなかった。これに替わり本発明では、塩水溶液中に溶解可能な高分子分散剤、ビニル系単量体あるいはビニル系単量体混合物とともに重合遅延性物質を全単量体に対し0.5〜5モル%添加し攪拌下重合する。
【0036】
本発明で使用する重合遅延性物質の作用機構自体は、まだ十分に解明されてはいない。その効果としては、重合の進行が遅くなることにより、水溶性重合体の生成速度が低くなり、その結果相転移が緩やかになり、増粘が起きないうちに水溶性重合体が塩水中に析出し、
塩水中の水溶性重合体濃度が高まらず、増粘が発生しないと考えられる。
この目的に使用できる単量体としては、イタコン酸、マレイン酸、フタル酸、アリルアミン、ジアリルジメチルアンモニウムクロライドなどであるが、好ましくはイタコン酸およびマレイン酸である。これら重合遅延性物質は、通常全単量体のモル数に対し0.5〜5モル%添加するが、好ましくは1〜5モル%であり、更に好ましくは1〜3モル%である。
0.5モル%未満では、重合遅延効果が少なく、5モル%より多量に加えても重合の進行を遅らすことはできない。
【0037】
上記のように本発明では重合遅延性物質を添加することにより、塩水溶液中分散液を構成する重合体は、分子量の高い水溶性重合体を製造することが可能であり、またこれら分子量の高い水溶性重合体は、製紙工業における歩留向上剤として好ましいものができることが分かった。この水溶性重合体1規定NaCl水溶液中で測定した固有粘度は18〜25dl/g、より好ましくは20〜25dl/gである。
【0038】
本発明の水溶性重合体を製紙工業における歩留率及び/又は濾水性を向上させることを目的として使用した場合、添加量は、製紙原料の固形分に対して20ppm〜5000ppmであり、好ましくは50ppm〜1000ppmである。また無機凝集剤あるいは重縮合系水溶性高分子も併用して使用することもできる。
【0039】
本発明の水溶性重合体を単独で添加する場合の添加場所は、製紙原料が白水により希釈されるファンポンプ入り口、スクリーン入り口あるいはスクリ−ン出口などが考えられる。組み合わせて使用する無機凝集剤あるいは縮合系カチオン性水溶性重合体の添加場所としては、マシンチェストあるいはファンポンプ入り口、あるいはスクリーン入り口などが考えられる。また本発明の水溶性重合体の添加場所としては、スクリ−ン入り口あるいはスクリ−ン出口などが考えられる。
【0040】
本発明の水溶性重合体を歩留率及び/又は濾水性を向上させる使用する対象となる紙製品として上質紙、中質紙、新聞用紙、包装用紙、カード原紙、ライナー、中芯原紙あるいは白ボールなどである。
【0041】
以下実施例によって本発明を具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【実施例1】
【0042】
攪拌機、還流冷却管、温度計および窒素導入管を備えた4つ口500mlセパラブルフラスコに脱イオン水200.0g、硫酸アンモニウム84.1g、カチオン性単量体として80重量%アクリロイルオキシエチルトリメチルアンモニウム塩化物(以下DMQ)40.9g、50重量%アクリルアミド(以下AAM)135.6g、両単量体の総量に対しイタコン酸を1モル%(1.4g)、分散剤としてアクリロイルオキシエチルトリメチルアンモニウム塩化物単独重合体(20重量%液、粘度6450mPa・s)35g(対単量体;7.0%)をそれぞれ仕込んだ。その後、攪拌しながら窒素導入管より窒素を導入し溶存酸素の除去を行った。この間、恒温水槽により35±2℃に内部温度を調整した。窒素導入30分後、開始剤として2、2’−アゾビス〔2−(5−メチル−2−イミダゾリン−2−イル)プロパン〕二塩化水素化物の1重量%水溶液0.45g(対単量体100ppm)を添加し重合を開始させた。内部温度を35±2℃に保ち重合開始後6時間たったところで上記開始剤を0.45g追加し、さらに10時間反応させ終了した。この得られた分散液を試作―1とする。このDMQ/AAMのモル比は15/85であり、分散液粘度は470mPa・sであった。なお、顕微鏡観察の結果、1〜10μmの粒子であることが判明した。またキャノンフェンスケ型粘度計を用いて1規定NaCl水溶液中に重合体濃度0.02g/dl、0.04g/dl、0.06g/dlに希釈した液のそれぞれの還元粘度を25℃で測定し、固有粘度を算出した。結果を表1に示す。
【実施例2】
【0043】
実施例1と同様の装置に脱イオン水194.8g、硫酸アンモニウム89.3g、カチオン性単量体として80重量%DMQ40.9g及び50重量%AAM135.6g、イタコン酸を両単量体に対し1.5モル%(2.1g)分散剤としてアクリロイルオキシエチルトリメチルアンモニウム塩化物単独重合体(20重量%液、粘度6450mPa・s)35g(対単量体7.0%)をそれぞれ仕込み、実施例1と同様の方法で反応した。得られた分散液を試作―2とする。このDMQ/AAMのモル比は15/85であり、この分散液の粘度は410mPa・sであった。なお、顕微鏡観察の結果、1〜10μmの粒子であることが判明した。また実施例1と同様の方法で還元粘度を測定し、固有粘度を算出した。結果を表1に示す。
【実施例3】
【0044】
実施例1と同様の装置に脱イオン水200.0g、硫酸アンモニウム89.3g、カチオン性単量体として80重量%DMQ47.2g及び50重量%AAM118.2g、イタコン酸を両単量体の総量に対し1.5モル%(2.1g)分散剤としてアクリロイルオキシエチルトリメチルアンモニウム塩化物単独重合体(20重量%液、粘度6450mPa・s)40g(対単量体8%)をそれぞれ仕込み、実施例1と同様の方法で反応した。得られた分散液を試作―3とする。このDMQ/AAMのモル比は20/80であり、分散液の粘度は870mPa・sであった。なお、顕微鏡観察の結果、1〜10μmの粒子であることが判明した。また実施例1と同様の方法で還元粘度を測定し固有粘度を算出した。結果を表1に示す。
【実施例4】
【0045】
実施例1と同様の装置に脱イオン水250.0g、硫酸アンモニウム89.3g、カチオン性単量体として80重量%DMQ38.4g、80%アクリル酸4.4g及び50重量%AAM65.6g、
前記単量体の総量に対し1.5モル%のイタコン酸2.1g、分散剤としてアクリロイルオキシエチルトリメチルアンモニウム塩化物単独重合体(20重量%液、粘度6450mPa・s)40g(対単量体8%)をそれぞれ仕込んだ。その後、攪拌しながら窒素導入管より窒素を導入し溶存酸素の除去を行った。この間、恒温水槽により35±2℃に内部温度を調整した。窒素導入30分後、開始剤として2、2’−アゾビス〔2−(5−メチル−2−イミダゾリン−2−イル)プロパン〕二塩化水素化物の1重量%水溶液0.23g(対単量体50ppm)を添加し実施例1と同様の方法で反応した。この分散液を試作―4とする。このDMQ/AAM/AACのモル比は25/68/7であり、分散液粘度は660mPa・sであった。なお、顕微鏡観察の結果、1〜10μmの粒子であることが判明した。また実施例1と同様の方法で還元粘度を測定し、固有粘度を算出した。結果を表1に示す。
【実施例5】
【0046】
実施例1〜4と同様な操作により、重合遅延性物質としてマレイン酸、フタル酸、アリルアミン、ジメチルジアリルアンモニウムクロリドを用い、表1に示す組成により水溶性重合体を含有する分散液試作5〜8を製造した。結果を表1に示す。
【0047】
(比較例1)実施例1と同じ単量体組成とし、イタコン酸を添加しない処方により重合を行なったところ、重合開始後2時間後に反応液の粘度が著しく増加し攪拌不可能となり、全量が一塊となり流動性のある分散液として得られなかった。
【0048】
(比較例2)実施例1と同じ単量体組成とし、イタコン酸を単量体総量に対し0.5モル%添加し重合をおこなったところ、重合開始後2時間後に反応液の粘度が著しく増加したが、攪拌を強くすることにより対処し、反応を終了した。実施例1と同様の方法で還元粘度を測定し固有粘度を算出した。結果を表1に示す。
【0049】
(比較例3)実施例1と同じ単量体組成とし、イタコン酸を単量体総量に対し7モル%添加し重合をおこなったところ、重合開始後2時間後でも増粘することはなかった。反応を終了後、実施例1と同様の方法で還元粘度を測定し固有粘度を算出した。結果を表1に示す。
【0050】
(表1)

DMQ:アクリロイルオキシエチルトリメチルアンモニウム塩化物
AAC:アクリル酸、AAM:アクリルアミド、数値の単位;分散液粘度:mPa・s、固有粘度(1規定NaCl水溶液中):dl/g
【実施例6】
【0051】
上質紙製造用の製紙原料(pH5.92、全SS分3.4重量%、灰分0.55重量%)を用いてパルプ濃度0.8重量%に水道水を用いて希釈、ブリット式ダイナミックジャ−テスタ−により歩留率を測定した。添加薬品として、両性変性デンプン対製紙原料0.7重量%、炭酸カルシウム40重量%、中性ロジンサイズ0.25重量%、硫酸バンド1.0重量%、本発明の高分子量水溶性重合体を含有する分散液(試料―1〜試料―8)0.03重量%をそれぞれこの順に15秒間隔で添加し、攪拌を開始する。30秒後に10秒間白水を排出し、30秒間白水を採取し、下記条件で総歩留率を測定した。攪拌条件は、回転数1000rpm、ワイヤー125Pスクリーン(200メッシュ相当)、総歩留率(SS濃度)はADVANTEC NO.2にて濾過し測定した。また乾燥後、濾紙を525℃で焼却し灰分を測定し、歩留率を算出した。測定結果を表2に示す。
【0052】
(比較試験4)同様な試験を比較―2、比較―3及び比較―4(アクリロイルオキシエチルトリメチルアンモニウム塩化物15モル%、アクリルアミド85モル%からなる油中水型エマルジョン共重合物、固有粘度17.0dl/g)に関し実施した。結果を表2に示す。
【0053】
(表2)

添加量;対製紙原料(%)、総歩留率;重量%、灰分歩留率;重量%



【特許請求の範囲】
【請求項1】
塩水溶液中において、該塩水溶液中に溶解可能な高分子分散剤を共存させ、ビニル系単量体あるいはビニル系単量体混合物とともに重合遅延性物質を全単量体に対し0.5〜5モル%添加し攪拌下、分散重合することにより得た1規定NaCl水溶液中、25℃で測定した固有粘度が18〜25dl/gの範囲にある高分子量水溶性重合体を含有する分散液。
【請求項2】
前記単量体混合物が下記一般式(1)及び/又は(2)で表わされる単量体5〜50モル%、(メタ)アクリルアミド及び共重合可能な他の非イオン性水溶性単量体50〜95モル%であることを特徴とする請求項1に記載の高分子量水溶性重合体を含有する分散液。
【化1】

一般式(1)
R1は水素又はメチル基、R2、R3は炭素数1〜3のアルキル基、アルコキシ基あるいはベンジル基、R4は水素、炭素数1〜3のアルキル基、アルコキシ基あるいはベンジル基であり、同種でも異種でも良い。Aは酸素またはNH、Bは炭素数2〜4のアルキレン基またはアルコキシレン基、X1は陰イオンをそれぞれ表わす。
【化2】


一般式(2)
R5は水素又はメチル基、R6、R7は炭素数1〜3のアルキル基、アルコキシ基あるいはベンジル基、X2は陰イオンをそれぞれ表わす
【請求項3】
前記ビニル系単量体混合物が前記一般式(1)及び/又は(2)で表わされる単量体5〜50モル%、下記一般式(3)で表わされる単量体5〜50モル%、(メタ)アクリルアミド及び共重合可能な他の非イオン性水溶性単量体0〜90モル%であることを特徴とする請求項1に記載の高分子量水溶性重合体を含有する分散液。
【化3】


一般式(3)
R8は水素、メチル基又はカルボキシメチル基、AはSO3、C6H4SO3、CONHC(CH3)2CH2SO3、C6H4COOあるいはCOO、R9は水素又はCOOY1、Y1は水素又は陽イオンをそれぞれ表わす。
【請求項4】
前記ビニル系単量体あるいはビニル系単量体混合物が前記一般式(3)で表わされる単量体5〜100モル%、(メタ)アクリルアミド及び共重合可能な他の非イオン性水溶性単量体0〜95モル%であることを特徴とする請求項1に記載の高分子量水溶性重合体を含有する分散液。
【請求項5】
前記重合遅延性物質がイタコン酸、マレイン酸、フタル酸、アリルアミンおよびジアリルジメチルアンモニウムクロライドから選択される一種以上であることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の高分子量水溶性重合体を含有する分散液。
【請求項6】
塩水溶液中において、該塩水溶液中に溶解可能な高分子分散剤を共存させ、1規定NaCl水溶液中、25℃で測定した固有粘度が18〜25dl/gの範囲にある水溶性重合体を含有する分散液を製造するに際し、重合遅延性物質を全単量体に対し0.5〜5モル%添加することを特徴とする高分子量水溶性重合体を含有する分散液の製造方法。
【請求項7】
前記単量体混合物が下記一般式(1)及び/又は(2)で表わされる単量体5〜50モル%、(メタ)アクリルアミド及び共重合可能な他の非イオン性水溶性単量体50〜95モル%であることを特徴とする請求項6に記載の高分子量水溶性重合体を含有する分散液の製造方法。
【化1】

一般式(1)

R1は水素又はメチル基、R2、R3は炭素数1〜3のアルキル基、アルコキシ基あるいはベンジル基、R4は水素、炭素数1〜3のアルキル基、アルコキシ基あるいはベンジル基であり、同種でも異種でも良い。Aは酸素またはNH、Bは炭素数2〜4のアルキレン基またはアルコキシレン基、X1は陰イオンをそれぞれ表わす。
【化2】


一般式(2)
R5は水素又はメチル基、R6、R7は炭素数1〜3のアルキル基、アルコキシ基あるいはベンジル基、X2は陰イオンをそれぞれ表わす
【請求項8】
前記ビニル系単量体混合物が前記一般式(1)及び/又は(2)で表わされる単量体5〜50モル%、下記一般式(3)で表わされる単量体5〜50モル%、(メタ)アクリルアミド及び共重合可能な他の非イオン性水溶性単量体0〜90モル%であることを特徴とする請求項6に記載の高分子量水溶性重合体を含有する分散液の製造方法。
【化3】


一般式(3)
R8は水素、メチル基又はカルボキシメチル基、AはSO3、C6H4SO3、CONHC(CH3)2CH2SO3、C6H4COOあるいはCOO、R9は水素又はCOOY2、Y1あるいはY2は水素又は陽イオンをそれぞれ表わす。
【請求項9】
前記ビニル系単量体あるいはビニル系単量体混合物が前記一般式(3)で表わされる単量体5〜100モル%、(メタ)アクリルアミド及び共重合可能な他の非イオン性水溶性単量体0〜95モル%であることを特徴とする請求項6に記載の高分子量水溶性重合体を含有する分散液の製造方法。
【請求項10】
歩留率及び/又は濾水性を向上させることを目的として抄紙前の製紙原料中に、請求項1〜5のいずれかに記載の高分子量水溶性重合体分散液あるいはその希釈液を添加することを特徴とする抄紙方法。





【公開番号】特開2008−56752(P2008−56752A)
【公開日】平成20年3月13日(2008.3.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−233035(P2006−233035)
【出願日】平成18年8月30日(2006.8.30)
【出願人】(000142148)ハイモ株式会社 (151)
【Fターム(参考)】