説明

高分子電解質材料、高分子電解質部品、膜電極複合体、および高分子電解質型燃料電池

【課題】
本発明は、プロトン伝導性に優れ、かつ、燃料遮断性や機械強度にも優れ、しかも生分解性もあって環境負荷の小さい材料から構成することができ、自立膜の形成が可能であるため製造が容易な高分子電解質材料を提供し、それらを用いた高分子電解質部品および膜電極複合体によって高性能な高分子電解質型燃料電池を提供せんとするものである。
【解決手段】
本発明は、前記課題を解決するために、次のような手段を採用するものである。すなわち、有機酸ビニルエステルとスルホン酸基を有するラジカル重合性モノマーとの共重合体、および/または有機酸ビニルエステルとスルホン酸基を有するラジカル重合性モノマーとの共重合体の鹸化物からなる高分子電解質材料およびその好ましい態様であり、さらには該高分子電解質材料からなる高分子電解質部品、膜電極複合体ならびに高分子電解質型燃料電池である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、プロトン伝導性に優れ、かつ、燃料遮断性や機械強度にも優れ、しかも生分解性もあって環境負荷の小さい材料から構成することが可能な高分子電解質材料、並びにそれからなる高分子電解質部品、膜電極複合体、および高分子電解質型燃料電池に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、スルホン酸基を有する高分子電解質材料が電気化学用途に使用されている。より具体的には、高分子電解質部品または膜電極複合体としてキャパシター、燃料電池、レドックスフロー電池、水電解装置およびクロロアルカリ電解装置等に使用されている。
【0003】
これらの中で燃料電池は、排出物が少なく、かつエネルギー効率が高く、環境への負荷の小さい発電装置である。このため、近年の地球環境保護への高まりの中で注目される技術である。燃料電池は、比較的小規模の分散型発電施設や、自動車、船舶などの移動体の発電装置として、将来的にも期待されている発電装置である。また、ニッケル水素電池やリチウムイオン電池などの二次電池の代替として、あるいは二次電池の充電器として、またあるいは二次電池との併用(ハイブリッド)によって、携帯電話やパソコンなどの小型移動機器での利用が期待されている。
【0004】
高分子電解質型燃料電池(Polymer Electrolyte Fuel Cell。以下、PEFCとも記載する。)においては、水素ガスを燃料とする従来型のものに加えて、メタノールなどの燃料を直接供給する直接型燃料電池も注目されている。直接型燃料電池は、従来のPEFCに比べて出力が低いものの、燃料が液体で改質器を用いないために、エネルギー密度が高くなり、一充填あたりの発電時間が長時間になるという利点がある。
【0005】
直接型燃料電池用の高分子電解質材料においては、水素ガスを燃料とする従来のPEFC用の高分子電解質材料に要求される性能に加えて、燃料の透過抑制も要求される。特に高分子電解質材料を用いた高分子電解質膜中の燃料透過は、燃料クロスオーバー、ケミカルショートとも呼ばれ、電池出力およびエネルギー容量が低下するという問題を引き起こす。
【0006】
ところで、ポリビニルアルコール(以下、PVAともいう)を架橋したものは、水/アルコールの浸透気化法分離膜に用いることができる(非特許文献1参照)。
【0007】
しかし、PVAは高分子固体電解質として用いるにはプロトン伝導性が著しく低い。
【0008】
そのため、非特許文献2の中では、ポリスチレンスルホン酸とPVAとからなる均質膜を熱処理して得られる陽イオン交換膜の検討がなされている。このPVA系架橋膜においては、熱処理するにつれてポリスチレンスルホン酸を酸触媒としたPVAの分子間脱水縮合により水に不溶となるものの、同時に可とう性が減少し、固くかつ脆くなってしまうため補強剤を用いることが提案されている。
【0009】
また、特許文献1にはスルホン酸基を有する高分子電解質材料が示されているが、単独では機械強度が不十分であるために、多孔質支持体の使用を前提としている。
【0010】
さらに、特許文献2にもスルホン酸基を有する高分子電解質材料が示されているが、やはり単独では機械強度が不足し、高性能の高分子電解質材料とはならないために、シラン系材料と複合化し、有機無機ハイブリッド材料としての使用が前提となっている。
【非特許文献1】Ji-Won Rhimet et al., Journal of Applied Polymer Science, Vol.68, 1717(1998)
【非特許文献2】工業化学雑誌、70巻、3号、393頁(1967)
【特許文献1】特開2004-253336号公報
【特許文献2】特開2001-307545号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明は、かかる従来技術の背景に鑑み、プロトン伝導性に優れ、かつ、燃料遮断性や機械強度にも優れ、しかも生分解性もあって環境負荷の小さい材料から構成することができ、自立膜の形成が可能であるため製造が容易な高分子電解質材料を提供し、それらを用いた高分子電解質部品または膜電極複合体によって高性能な高分子電解質型燃料電池を提供せんとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明は、かかる課題を解決するために、次のような手段を採用するものである。すなわち、有機酸ビニルエステルとスルホン酸基を有するラジカル重合性モノマーとの共重合体、および/または有機酸ビニルエステルとスルホン酸基を有するラジカル重合性モノマーとの共重合体の鹸化物からなる高分子電解質材料およびその好ましい態様であり、さらには該高分子電解質材料からなる高分子電解質部品、膜電極複合体ならびに高分子電解質型燃料電池である。
【発明の効果】
【0013】
本発明によって、プロトン伝導性に優れ、かつ、燃料遮断性や機械強度にも優れ、しかも生分解性もあって環境負荷の小さい材料から構成することができ、自立膜の形成が可能であるため製造が容易な高分子電解質材料が得られる。さらには、それらを用いた高分子電解質部品または膜電極複合体によって高性能の高分子電解質型燃料電池を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
本発明の高分子電解質材料は、有機酸ビニルエステルとスルホン酸基を有するラジカル重合性モノマーとの共重合体、および/または有機酸ビニルエステルとスルホン酸基を有するラジカル重合性モノマーとの共重合体の鹸化物からなることを特徴とするものである。
【0015】
前記スルホン酸基を有するラジカル重合性モノマーとしては、得られる高分子電解質材料の機械的性状に優れることから、ビニルスルホン酸、スチレンスルホン酸、(メタ)アクリロイルオキシアルカンスルホン酸および2−(メタ)アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸から選ばれた少なくとも1種であることが好ましく、最も好ましくは2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸である。2種以上のスルホン酸基を有するラジカル重合性モノマーを併用しても良い。
【0016】
本発明においてスルホン酸基を有するラジカル重合性モノマーのスルホン酸基は、酸型であってもよく、金属塩型やオニウム塩型であってもよく、またエステル化されていても良い。
【0017】
なお、本明細書中において「(メタ)アクリル」は「アクリルおよび/またはメタクリル」を、「(メタ)アクリロイル」は、「アクリロイルおよび/またはメタクリロイル」を、「(メタ)アリル」は、「アリルおよび/またはメタリル」を、「(メタ)アクリレート」は、「アクリレートおよび/またはメタクリレート」を表す。
【0018】
本発明の高分子電解質材料において、前記有機酸ビニルエステルとしては、得られる高分子電解質材料の機械的性状に優れることから、炭素数1〜30の有機酸のビニルエステルが好ましい。好適なものを例示すれば、ギ酸ビニル、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、酪酸ビニル、カプロン酸ビニル、カプリル酸ビニル、カプリン酸ビニル、ラウリン酸ビニル、ミリスチン酸ビニル、パルミチン酸ビニル、ステアリン酸ビニル、ピバリン酸ビニル、2-エチルヘキサン酸ビニル、シクロヘキサンカルボン酸ビニル、モノクロロ酢酸ビニル、トリメチル酢酸ビニル、トリクロロ酢酸ビニル、トリフルオロ酢酸ビニル、安息香酸ビニル、ナフトエ酸ビニル、桂皮酸ビニル、アジピン酸ジビニル、(メタ)アクリル酸ビニル、クロトン酸ビニル、ソルビン酸ビニルなどであり、中でも酢酸ビニルが好ましい。2種類以上の有機酸ビニルエステルを併用しても良い。
【0019】
本発明の高分子電解質材料は、スルホン酸基を有するラジカル重合性モノマーと有機酸ビニルエステルとの共重合体および/またはその鹸化物からなることを特徴とするが、さらにこれら以外のモノマーを共重合成分とすることができる。使用可能なモノマーとしては、炭素炭素多重結合を有する重合性モノマーを広く使用できるが、例えば、(メタ)アクリル酸、無水マレイン酸、マレイン酸、フマル酸、クロトン酸、イタコン酸、ビニルホスホン酸、酸性リン酸基含有(メタ)アクリレート等の酸性モノマーやその塩;(メタ)アクリルアミド、N−置換(メタ)アクリルアミド、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、メトキシポリエチレングリコール(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコール(メタ)アクリレート、N−ビニルピロリドン、N−ビニルアセトアミド等のモノマー;N,N−ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレート、N,N−ジメチルアミノプロピル(メタ)アクリレート、N,N−ジメチルアミノプロピル(メタ)アクリルアミド等の塩基性モノマーやそれらの4級化物、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、ブチル(メタ)アクリレート等のアクリル酸エステル類等を具体的に挙げることができる。
【0020】
本発明の高分子電解質材料となるスルホン酸基を有するラジカル重合性モノマーと有機酸ビニルエステルとの共重合体を得る方法としては、公知のラジカル重合法の技術を使用することができる。好適な具体例としては、レドックス開始重合、熱開始重合、電子線開始重合、紫外線等の光開始重合等が挙げられる。熱開始重合、レドックス開始重合のラジカル重合開始剤としては、次のようなものが挙げられる。2,2’−アゾビス(2−アミジノプロパン)二塩酸塩等のアゾ化合物;過硫酸アンモニウム、過硫酸カリウム、過硫酸ナトリウム、過酸化水素、過酸化ベンゾイル、クメンヒドロパーオキサイド、ジ−t−ブチルパーオキサイド等の過酸化物。上記過酸化物と、亜硫酸塩、重亜硫酸塩、チオ硫酸塩、ホルムアミジンスルフィン酸、アスコルビン酸等の還元剤とを組み合わせたレドックス開始剤。または2,2’−アゾビス−(2−アミジノプロパン)二塩酸塩、アゾビスシアノ吉草酸等のアゾ系ラジカル重合開始剤が挙げられる。これらラジカル重合開始剤は、単独で用いてもよく、また、2種類以上を併用してもよい。
【0021】
上記ラジカル重合手段の内では、重合反応の制御がし易く、比較的簡便なプロセスが適用できる点で、紫外線による光開始重合も好ましいものの一つである。ラジカル系光重合開始剤の具体例としては、一般に紫外線重合に利用されているベンゾイン、ベンジル、アセトフェノン、ベンゾフェノン、キノン、チオキサントン、チオアクリドンおよびこれらの誘導体等が挙げられる。当該誘導体の例としては、ベンゾイン系のものとして、ベンゾインメチルエーテル、ベンゾインエチルエーテル、ベンゾインイソプロピルエーテル、ベンゾインイソブチルエーテル;アセトフェノン系のものとして、ジエトキシアセトフェノン、2,2−ジメトキシ−1,2−ジフェニルエタン−1−オン、1−ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン、2−メチル−1−(4−(メチルチオ)フェニル)−2−モンフォリノプロパン−1、2−ベンジル−2−ジメチルアミノ−1−(4−モルフォリノフェニル)ブタノン−1、2−ヒドロキシ−2−メチル−1−フェニルプロパン−1−オン、1−(4−(2−ヒドロキシエトキシ)−フェニル)−2−ヒドロキシジ−2−メチル−1−プロパン−1−オン;ベンゾフェノン系のものとして、o−ベンゾイル安息香酸メチル、4−フェニルベンゾフェノン、4−ベンゾイル−4’−メチルジフェニルサルファイド、3,3’,4,4’−テトラ(t−ブチルパーオキシカルボニル)ベンゾフェノン、2,4,6−トリメチルベンゾフェノン、4−ベンゾイル−N,N−ジメチル−N−[2−(1−オキシ−2−プロペニルオキシ)エチル]ベンゼンメタナミニウムブロミド、(4−ベンゾイルベンジル)トリメチルアンモニウムクロリド、4,4’−ジメチルアミノベンゾフェノン、4,4’−ジエチルアミノベンゾフェノン等が挙げられる。
【0022】
これら重合開始剤の使用量は、モノマーの総重量に対して0.001〜10重量%が好ましく、さらに好ましくは0.001〜5重量%、特に好ましくは0.01〜1重量%である。
【0023】
本発明の高分子電解質材料はスルホン酸基を有するラジカル重合性モノマーと有機酸ビニルエステルとの共重合体の鹸化物からなることがより好ましい。本発明において鹸化とは、前記共重合体中の有機酸ビニルエステルに由来するユニットのエステル基の一部または全部を加水分解あるいは加溶媒分解することを意味する。該鹸化は通常はアルカリ条件下で加熱して行うが、それ以外の条件を適用してもかまわない。該鹸化は該共重合体が得られた段階ですぐに行っても良く、また、高分子電解質膜、電極触媒層などの高分子電解質部品や、膜電極複合体に成形した後で行っても良い。
【0024】
本発明の高分子電解質材料は、電気化学用途で使用される際には、スルホン酸基の少なくとも一部がプロトン酸型であることが、プロトン伝導度の点で特に好ましい。塩型のスルホン酸基をプロトン酸型とするのは、塩酸、硫酸などの水溶液に0〜200℃程度の温度範囲で数分〜数日間程度の時間浸漬することで容易に行うことができる。またイオン交換樹脂と接触させることでプロトン酸型とすることも容易である。エステル型のスルホン酸基をプロトン酸型とするのは、塩基性あるいは酸性の条件下で加水分解を行った後、塩型となった場合には前記条件下で酸型とすることで容易に行うことができる。
【0025】
本発明の高分子電解質材料のスルホン酸基の含有量はイオン交換容量で示すことができる。本発明の高分子電解質材料におけるイオン交換容量は、プロトン交換能および耐水性の点から0.01〜3.0meq/gであることが好ましく、さらに好ましくは、0.1〜2.0meq/gである。スルホン酸基密度が、0.01meq/gより低いと、伝導度が低いため出力性能が低下することがあり、3.0meq/gより高いと燃料電池用電解質膜として使用する際に、十分な高分子の耐水性および含水時の機械的強度が得られないことがあるのでそれぞれ好ましくない。
【0026】
ここで、イオン交換容量とは乾燥した高分子電解質材料の単位グラム当たりに導入されたスルホン酸基のモル量である。本発明においてはイオン交換容量は元素分析または中和滴定により特定する。
【0027】
中和滴定の手順は下記のとおりである。測定は3回以上行ってその平均をとるものとする。
(1) 高分子電解質材料をミルにより粉砕し、粒径を揃えるため、目50メッシュの網ふるいにかけ、ふるいを通過したものを測定試料とする。
(2) サンプル管(蓋付き)を精密天秤で秤量する。
(3) 前記(1)の電解質材 約0.1gをサンプル管に入れ、40℃で16時間、真空乾燥する。
(4) 高分子電解質材料入りのサンプル管を秤量し、高分子電解質材料の乾燥重量を求める。
(5) 塩化ナトリウムを30重量%メタノール水溶液に溶かし、飽和食塩溶液を調製する。
(6) 高分子電解質材料に前記(5)の飽和食塩溶液を25mL加え、24時間撹拌してイオン交換する。
(7) 生じた塩酸を0.02mol/L水酸化ナトリウム水溶液で滴定する。指示薬として市販の滴定用フェノールフタレイン溶液(0.1体積%)を2滴加え、薄い赤紫色になった点を終点とする。
(8) イオン交換容量は下記の式により求める。
【0028】
イオン交換容量(meq/g)=
〔水酸化ナトリウム水溶液の濃度(mmol/ml)×滴下量(ml)〕/試料の乾燥重量(g)
本発明の高分子電解質材料は、無機のプロトン伝導体を含有することも好ましい。
【0029】
即ち、本発明の高分子電解質材料においては、無機のプロトン伝導体を含有することにより、より高いプロトン伝導性を維持したまま、メタノールなどの燃料透過が低減し、膜の強度低下も抑えられるという効果を奏するものである。
【0030】
本発明の高分子電解質材料中の無機のプロトン伝導体は、常温付近で高いプロトン伝導性を示す物質であれば特に限定されるものではないが、これらの物質の特徴としては、水和あるいは水分を保持した状態で安定に存在し、その水がプロトンの供給源および伝導経路となって高プロトン伝導性を発現することである。
【0031】
このような化合物としては具体的には、α−Zr(HPO)・nHO、γ−Zr(PO)(HPO)・2HO、α−Zrスルホフェニルリン酸塩、あるいはγ−Zrスルホフェニルリン酸塩等のような層状化合物、SnO・2HO、あるいはSb・5.4HO等のような水和酸化物、一般的に構造式H[XM120]・nHO(ここで、aは整数、XはSi、P、As、S、Fe、Coなどのヘテロ元素、MはMo、W、Vなどのポリ元素を表す。)で表されるヘテロポリ酸、ならびにCsHSO、RbH(SeO等のような水和物を持たない化合物が挙げられ、好ましく用いられる。
【0032】
なかでもヘテロポリ酸は、分子サイズが充分に大きく、また高分子多官能アルコールの水酸基と水素結合あるいは共有結合を形成するため、メタノールなどの燃料水溶液中での膜からの溶出を防ぐことも可能となるため、長期にわたってメタノールなどの燃料水溶液中で使用される高分子固体電解質膜においては特に好ましく用いることができる。
【0033】
ヘテロポリ酸のなかでもタングストケイ酸、タングストリン酸、あるいはモリブドリン酸が酸性度が大きく最も好ましく用いることが出来る。
【0034】
ヘテロポリ酸の使用量は、高分子電解質材料中に含まれるM/C(ここで、MはMo、W、Vなどのヘテロポリ酸由来元素、Cは炭素を表す。)のモル比で、好ましくは0.04以上、0.24以下、さらに好ましくは0.08以上、0.2以下、特に好ましくは0.11以上、0.17以下である。0.04未満であると、プロトン伝導性が不足してしまう。一方、0.24を超えると架橋された膜材料が脆性となり割れやすくなったり、無機のプロトン伝導体が溶出してしまう場合がある。なお、このM/Cのモル比は元素分析やICP発光分析等により容易に分析することが出来る。
【0035】
本発明の高分子電解質材料には本発明の目的を阻害しない範囲において、他の成分、例えば導電性若しくはイオン伝導性を有さない不活性なポリマーや有機あるいは無機の化合物、が含有されていても構わない。
【0036】
本発明において高いプロトン伝導性を保ったままメタノールなどの燃料透過低減が達成された要因は次のように考えられる。一般に無機のプロトン伝導体を高分子電解質材料に用いた場合、高いイオン伝導性を得るために有機ないし無機のプロトン伝導体の含有量を増加すると、高分子電解質材料が膨潤し、内部に径の大きな水のクラスターができ、高分子電解質材料中に自由水が多くなる。自由水の中ではメタノールなどの燃料の移動が容易に行なわれるため、従来は、十分な燃料クロスオーバー抑制効果が得られなかった。これに対して本発明の高分子電解質材料は、その水やアルコールなどの燃料に対して膨潤が起こりにくいと言う特長を有するため、自由水の割合を小さくすることができ、結果として高いプロトン伝導性を保ったままメタノールなどの燃料透過低減が達成できた。
【0037】
本発明の高分子電解質材料は高分子電解質部品として電気化学用途に使用することが好ましい。高分子電解質部品としては高分子電解質膜および電極触媒層を挙げることができる。
【0038】
本発明の高分子電解質材料を高分子電解質膜とする場合の製法を述べる。高分子電解質材料を膜へ転化する方法としては、高分子電解質材料を溶液、懸濁液あるいは乳濁液とし、該液を所望の膜厚となるようにコーティングしてから加熱により溶媒を除去することによって製膜する方法、すなわち溶媒キャスト法が挙げられる。
【0039】
該液の固形分濃度は、好ましくは1〜50重量%、さらに好ましくは5〜30重量%、特に好ましくは10重量%前後である。
【0040】
コーティング法としては、スプレーコート、刷毛塗り、ディップコート、ダイコート、カーテンコート、フローコート、スピンコート、スクリーン印刷などの手法が適用できる。
【0041】
製膜に用いる溶媒としては、高分子電解質材料を溶解し、その後に除去し得るものであればよく、例えば、水、N,N−ジメチルアセトアミド、N,N−ジメチルホルムアミド、N−メチル−2−ピロリドン、ジメチルスルホキシド、スルホラン、1,3−ジメチル−2−イミダゾリジノン、ヘキサメチルホスホントリアミド等の非プロトン性極性溶媒、γ−ブチロラクトン、酢酸ブチルなどのエステル系溶媒、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネートなどのカーボネート系溶媒、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノエチルエーテル等のアルキレングリコールモノアルキルエーテル、あるいはイソプロパノールなどのアルコール系溶媒、およびこれらの混合物が好適に用いられる。
【0042】
本発明の高分子電解質膜の膜厚としては、好ましくは1〜2000μmのものが好適に使用される。実用に耐える膜の強度を得るには1μmより厚い方がより好ましく、膜抵抗の低減つまり発電性能の向上のためには2000μmより薄い方が好ましい。かかる膜厚のさらに好ましい範囲は3〜500μm、特に好ましい範囲は5〜250μmである。かかる膜厚は、溶液濃度あるいは基板上への塗布厚により制御することができる。
【0043】
また、本発明の高分子電解質材料には、通常の高分子化合物に使用される可塑剤、安定剤あるいは離型剤等の添加剤を、本発明の目的に反しない範囲内で添加することができる。
【0044】
また、本発明の高分子電解質材料には、前述の諸特性に悪影響をおよぼさない範囲内で機械的強度、熱安定性、加工性などの向上を目的に、各種ポリマー、エラストマー、フィラー、微粒子、各種添加剤などを含有させてもよい。
【0045】
次いで、得られた高分子電解質膜を熱処理することが好ましい。この熱処理の温度は好ましくは50〜250℃、さらに好ましくは80〜230℃、特に好ましくは100〜200℃である。熱処理は減圧下で行うことが好ましい。熱処理時間は、好ましくは5分〜12時間、さらに好ましくは30分〜6時間、特に好ましくは1時間前後である。熱処理温度が低すぎると、燃料透過性の抑制効果が不足する。一方、高すぎると膜材料の劣化を生じやすくなる。熱処理時間が5分未満であると、架橋度が不足する。一方、12時間を超えると膜材料の劣化を生じやすくなる。
【0046】
本発明の高分子電解質膜は、さらに必要に応じて放射線照射などの手段によって高分子構造を架橋せしめることもできる。かかる高分子電解質膜を架橋せしめることにより、燃料クロスオーバーおよび燃料に対する膨潤をさらに抑制する効果が期待でき、機械的強度が向上し、より好ましくなる場合がある。かかる放射線照射の種類としては例えば、電子線照射やγ線照射を挙げることができる。
【0047】
本発明の高分子電解質膜は、20℃における、30重量%メタノール水溶液に対する単位面積当たりのメタノール透過量が40μmol・min−1・cm−2以下であることが好ましい。該高分子電解質膜を用いた燃料電池において、燃料濃度が高い領域において高出力および高エネルギー容量が得られるという観点から、高い燃料濃度を保持すべく、燃料透過量が小さいことが望まれるからである。メタノール透過量は、25℃の純水に高分子電解質膜を24時間浸漬した後、で測定する。
【0048】
かかる観点からは、0μmol・min−1・cm−2が最も好ましいが、プロトン伝導度を確保する観点からは0.01μmol・min−1・cm−2以上が好ましい。
【0049】
なおかつ、本発明の高分子電解質膜は、単位面積当たりのプロトン伝導度が1S・cm−2以上であることが好ましい。プロトン伝導度は、25℃の純水に高分子電解質膜を24時間浸漬した後、25℃、相対湿度50〜80%の雰囲気中に取り出し、できるだけ素早く行う定電位交流インピーダンス法により測定することができる。単位面積当たりのプロトン伝導度を1S・cm−2以上とすることにより、燃料電池用高分子電解質膜として使用する際に、十分なプロトン伝導性、すなわち十分な電池出力を得ることができる。プロトン伝導度は高い方が好ましいが、高プロトン伝導度の膜はメタノール水溶液などの燃料により溶解や崩壊しやすくなり、また燃料透過量も大きくなる傾向があるので、現実的な上限は50S・cm−2である。
【0050】
本発明の高分子電解質膜は、上記したような低メタノール透過量と高プロトン伝導度を同時に達成することが、高出力と高エネルギー容量を両立させる上から好ましい。
【0051】
本発明の膜電極複合体は、本発明の高分子電解質材料からなる高分子電解質部品を用いて構成されるものである。かかる高分子電解質部品としては、高分子電解質膜および/または電極触媒層が挙げられる。
【0052】
該電極触媒層は、電極反応を促進する電極触媒、電子伝導体、イオン伝導体などを含む層である。
【0053】
かかる電極触媒層に含まれる電極触媒としては例えば、白金、パラジウム、ルテニウム、ロジウム、イリジウム、金などの貴金属触媒が好ましく用いられる。これらの内の1種類を単独で用いてもよいし、合金、混合物など、2種類以上を併用してもよい。
【0054】
かかる電極触媒層に含まれる電子伝導体(導電材)としては、電子伝導性や化学的な安定性の点から炭素材料、無機導電材料が好ましく用いられる。なかでも、非晶質、結晶質の炭素材料が挙げられる。例えば、チャネルブラック、サーマルブラック、ファーネスブラック、アセチレンブラックなどのカーボンブラックが電子伝導性と比表面積の大きさから好ましく用いられる。ファーネスブラックとしては、キャボット社製“バルカンXC−72”(R)、“バルカンP”(R)、“ブラックパールズ880”(R)、“ブラックパールズ1100”(R)、“ブラックパールズ1300”(R)、“ブラックパールズ2000”(R)、“リーガル400”(R)、ケッチェンブラック・インターナショナル社製“ケッチェンブラック”(R)EC、EC600JD、三菱化学社製#3150、#3250などが挙げられ、アセチレンブラックとしては電気化学工業社製“デンカブラック”(R)などが挙げられる。
【0055】
またカーボンブラックのほか、天然の黒鉛、ピッチ、コークス、ポリアクリロニトリル、フェノール樹脂、フラン樹脂などの有機化合物から得られる人工黒鉛や炭素なども使用することができる。これらの炭素材料の形態としては、不定形粒子状のほか繊維状、鱗片状、チューブ状、円錐状、メガホン状のものも用いることができる。また、これら炭素材料を後処理加工したものを用いてもよい。
【0056】
また、かかる電子伝導体は、触媒粒子と均一に分散していることが電極性能の点で好ましい。このため、触媒粒子と電子伝導体は予め塗液として、よく分散させておくことが好ましい。
【0057】
さらに、かかる電極触媒層として、触媒と電子伝導体とが一体化した触媒担持カーボン等を用いることも好ましい実施態様である。この触媒担持カーボンを用いることにより、触媒の利用効率が向上し、電池性能の向上および低コスト化に寄与できる。ここで、電極触媒層に触媒担持カーボンを用いた場合においても、電子伝導性をさらに高めるために導電剤を添加することも可能である。このような導電剤としては、上述のカーボンブラックが好ましく用いられる。
【0058】
かかる電極触媒層に用いられるイオン伝導性を有する物質(イオン伝導体)としては、一般的に、種々の有機、無機材料が公知であるが、燃料電池に用いる場合には、イオン伝導性を向上するスルホン酸基、カルボン酸基、リン酸基などのイオン性基を有するポリマー(イオン伝導性ポリマー)が好ましく用いられる。なかでも、イオン性基の安定性の観点から、フルオロアルキルエーテル側鎖とフルオロアルキル主鎖とから構成されるイオン伝導性を有するポリマー、あるいは本発明の高分子電解質材料が好ましく用いられる。パーフルオロ系イオン伝導性ポリマーとしては、例えばデュポン社製の“ナフィオン”(R)、旭化成社製の“Aciplex”(R)、旭硝子社製“フレミオン”(R)などが好ましく用いられる。これらのイオン伝導性ポリマーは、溶液または分散液の状態で電極触媒層中に設ける。この際に、ポリマーを溶解あるいは分散化する溶媒は特に限定されるものではないが、イオン伝導性ポリマーの溶解性の点から極性溶媒が好ましい。
【0059】
前記、触媒と電子伝導体類は通常粉体であるので、イオン伝導体はこれらを固める役割を担うことが通常である。イオン伝導体は、電極触媒層を作製する際に電極触媒粒子と電子伝導体とを主たる構成物質とする塗液に予め添加し、均一に分散した状態で塗布することが電極性能の点から好ましいものであるが、電極触媒層を塗布した後にイオン伝導体を塗布してもよい。ここで、電極触媒層にイオン伝導体を塗布する方法としては、スプレーコート、刷毛塗り、ディップコート、ダイコート、カーテンコート、フローコートなどが挙げられ、特に限定されるものではない。電極触媒層に含まれるイオン伝導体の量としては、要求される電極特性や用いられるイオン伝導体の伝導度などに応じて適宜決められるべきものであり、特に限定されるものではないが、重量比で1〜80%の範囲が好ましく、5〜50%の範囲がさらに好ましい。イオン伝導体は、少な過ぎる場合はイオン伝導度が低く、多過ぎる場合はガス透過性を阻害する点で、いずれも電極性能を低下させることがある。
【0060】
かかる電極触媒層には、上記の触媒、電子伝導体、イオン伝導体の他に種々の物質を含んでいてもよい。特に、該電極触媒層中に含まれる物質の結着性を高めるために、上述のイオン伝導性ポリマー以外のポリマーを含んでもよい。このようなポリマーとしては例えば、ポリフッ化ビニル(PVF)、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、ポリヘキサフルオロプロピレン(FEP)、ポリテトラフルオロエチレン、ポリパーフルオロアルキルビニルエーテル(PFA)などのフッ素原子を含むポリマー、これらの共重合体、これらのポリマーを構成するモノマ単位とエチレンやスチレンなどの他のモノマーとの共重合体、あるいは、ブレンドポリマーなどを用いることができる。これらポリマーの電極触媒層中の含有量としては、重量比で5〜40%の範囲が好ましい。ポリマー含有量が多すぎる場合、電子およびイオン抵抗が増大し電極性能が低下する傾向がある。
【0061】
また、該電極触媒層は、燃料が液体や気体の場合には、その液体や気体が透過しやすい構造を有していることが好ましく、電極反応に伴う副生成物質の排出も促す構造が好ましい。
【0062】
膜電極複合体(MEA)には電極基材を使用することができる。電極基材としては、電気抵抗が低く、集電あるいは給電を行えるものを用いることができる。また、前記電極触媒層を集電体兼用で使用する場合は、特に電極基材を用いなくてもよい。電極基材の構成材としては、たとえば、炭素質、導電性無機物質が挙げられ、例えば、ポリアクリロニトリルからの焼成体、ピッチからの焼成体、黒鉛及び膨張黒鉛などの炭素材、ステンレススチール、モリブデン、チタンなどが例示される。これらの、形態は特に限定されず、たとえば繊維状あるいは粒子状で用いられるが、燃料透過性の点から炭素繊維などの繊維状導電性物質(導電性繊維)が好ましい。導電性繊維を用いた電極基材としては、織布あるいは不織布いずれの構造も使用可能である。たとえば、東レ(株)製カーボンペーパーTGPシリーズ、SOシリーズ、E-TEK社製カーボンクロスなどが用いられる。織布としては、平織、斜文織、朱子織、紋織、綴織など、特に限定されること無く用いられる。また、不織布としては、抄紙法、ニードルパンチ法、スパンボンド法、ウォータージェットパンチ法、メルトブロー法によるものなど特に限定されること無く用いられる。また編物であってもよい。これらの布帛において、特に炭素繊維を用いた場合、耐炎化紡績糸を用いた平織物を炭化あるいは黒鉛化した織布、耐炎化糸をニードルパンチ法やウォータージェットパンチ法などによる不織布加工した後に炭化あるいは黒鉛化した不織布、耐炎化糸あるいは炭化糸あるいは黒鉛化糸を用いた抄紙法によるマット不織布などが好ましく用いられる。特に、薄く強度のある布帛が得られる点から不織布を用いるのが好ましい。
【0063】
電極基材に炭素繊維からなる導電性繊維を用いた場合、炭素繊維としては、ポリアクリロニトリル(PAN)系炭素繊維、フェノール系炭素繊維、ピッチ系炭素繊維、レーヨン系炭素繊維などがあげられる。
【0064】
また電極基材には、水の滞留によるガス拡散・透過性の低下を防ぐための撥水処理や、水の排出路を形成するための部分的撥水、親水処理や、抵抗を下げるための炭素粉末の添加等を行うこともできる。
【0065】
本発明の高分子電解質型燃料電池においては、電極基材と電極触媒層の間に、少なくとも無機導電性物質と疎水性ポリマを含む導電性中間層を設けることが好ましい。特に、電極基材が空隙率の大きい炭素繊維織物や不織布である場合、導電性中間層を設けることで、電極触媒層が電極基材にしみ込むことによる性能低下を抑えることができる。
【0066】
高分子電解質膜および、電極触媒層あるいは電極触媒層と電極基材を用いて膜電極複合体(MEA)を作製する方法は特に限定されるものではない。公知の方法(例えば、「電気化学」1985, 53, 269.記載の化学メッキ法、「ジェイ エレクトロケミカル サイエンス」(J. Electrochem. Soc.): Electrochemical Science and Technology, 1988, 135(9), 2209. 記載のガス拡散電極の熱プレス接合法など)を適用することが可能である。熱プレスにより一体化することは好ましい方法であるが、その温度や圧力は、高分子電解質膜の厚さ、水分率、電極触媒層や電極基材により適宜選択すればよい。また、高分子電解質膜が含水した状態でプレスしてもよいし、イオン伝導性を有するポリマーで接着してもよい。
【0067】
本発明の高分子電解質型燃料電池の燃料としては、水素およびメタン、エタン、プロパン、ブタン、メタノール、イソプロピルアルコール、アセトン、エチレングリコール、ジエチレングリコール、ギ酸、酢酸、ジメチルエーテル、ジエチルエーテル、ジイソプロピルエーテル、ハイドロキノン、シクロヘキサンなどの炭素数1〜6の有機化合物およびこれらと水との混合物等が挙げられ、1種または2種以上の混合物でもよい。特に発電効率の点でとりわけ好ましいのは水素、メタノールまたはメタノール水溶液である。
【0068】
かかる膜電極複合体に液体燃料が水素に改質されることなく直接供給される場合、液体燃料中の炭素数1〜6のアルキル基またはアルキレン基を有する有機化合物の含有量は20〜70重量%が好ましい。かかる含有量が、20重量%未満では、実用的な高いエネルギー容量を得ることができず、70重量%を超えると、発電効率と出力のバランスが崩れ、高発電効率と高出力を同時に満足する実用的なものを得ることができない。
【実施例】
【0069】
以下、実施例により本発明をさらに詳しく説明する。
[測定方法]
実施例で採用する評価方法を以下に説明する。
【0070】
(1)プロトン伝導性
高分子電解質膜の試料を25℃において30%メタノール水溶液(重量比で試料量の1000倍以上)に撹拌しながら12時間浸漬し、その後20℃において純水(重量比で試料量の1000倍以上)に撹拌しながら24時間以上浸漬した後、25℃、相対湿度50〜80%の雰囲気中に取り出し、できるだけ素早く定電位交流インピーダンス法でプロトン伝導度を測定した。
【0071】
測定装置としては、Solartron製電気化学測定システム(Solartron 1287Electrochemical Interface およびSolartron 1255B Frequency ResponseAnalyzer)を使用した。サンプルは、φ2mmおよびφ10mmの2枚の円形電極(ステンレス製)間に加重1kgをかけて挟持した。有効電極面積は0.0314cmである。サンプルと電極の界面には、ポリ(2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸)の15%水溶液を塗布した。25℃において、交流振幅50mVの定電位インピーダンス測定を行い、膜厚方向のプロトン伝導度を求めた。またその値は、単位面積当たりのもので表した。
【0072】
(2)メタノール透過量(MCO)
H型セル間にサンプル膜を挟み、一方のセルには純水を入れ、他方のセルには1Mメタノール水溶液を入れた。セルの容量は各80mLであった。またセル間の開口部面積は1.77cm2であった。20℃において両方のセルを撹拌した。1時間,2時間および3時間経過時点で純水中に溶出したメタノール量を島津製作所製ガスクロマトグラフィ(GC−2010)で測定し定量した。グラフの傾きから単位時間、単位面積あたりのメタノール透過量を求めた。
【0073】
(3)膜厚
接触式膜厚計にて測定した。
【0074】
(4)MEAおよび高分子電解質型燃料電池の評価
膜電極複合体(MEA)をエレクトロケム社製セルにセットし、アノード側に30%メタノール水溶液、カソード側に空気を流してMEA評価を行った。評価はMEAに定電流を流し、その時の電圧を測定した。電流を順次増加させ電圧が10mV以下になるまで測定を行った。各測定点での電流と電圧の積が出力となるが、その最大値(MEAの単位面積あたり)を出力(mW/cm)とした。
【0075】
エネルギー容量は、出力、MEAでのMCOを基に下記数式(数1)にて計算した。
【0076】
該MEAでのMCOは、カソードからの排出ガスを捕集管でサンプリングした。これを全有機炭素計TOC-VCSH(島津製作所製測定器)、あるいはMeOH透過量測定装置Micro GC CP-4900(ジ−エルサイエンス製ガスクロマトグラフ)を用い評価した。MCOは、サンプリングガス中のMeOHと二酸化炭素の合計を測定して算出した。
【0077】
【数1】

【0078】
エネルギー容量:Wh
出力:最大出力密度(mW/cm
容積:燃料の容積(本実施例では10mLとして計算した。)
濃度:燃料のメタノール濃度(%)
MCO:MEAでのMCO(μmol・min−1・cm−2
電流密度:最大出力密度が得られるときの電流密度(mA/cm
[比較例1]
市販の“ナフィオン”117膜(デュポン社製(商品名))を用い、プロトン伝導度およびメタノール透過量を評価した。ナフィオン117膜は、100℃の5%過酸化水素水中にて30分、続いて100℃の5%希硫酸中にて30分浸漬した後、100℃の脱イオン水でよく洗浄した。
【0079】
膜厚は210μmであり、メタノール透過量は5.9μmol・min−1・cm−2、プロトン伝導度は5.7S・cm−2であった。
【0080】
[実施例1]
(1)高分子電解質材料および高分子電解質膜の作製
(a) 2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸(以下AMPSと表す場合がある、分子量207.3、21mmol)を水(300g)に溶解した後、酢酸ビニル(分子量86.1、232mmol)を加えて激しく撹拌(窒素気流中)した。
(b) 水に溶かしたペルオキソ二硫酸カリウム(0.3g)を加えて、激しく撹拌(窒素気流中)しながら60℃で2時間重合を行った。
(c) 得られた溶液をそのまま凍結乾燥して脱水した。
(d) 得られた粉末をメタノールに溶解しアルカリ(水酸化ナトリウム(40%水溶液)約10ml)を加え、室温で1時間、加アルコール分解を行った。アセトン−メタノール−水系で精製後、乾燥し、水に溶解して、イオン交換樹脂を用いてプロトン交換を行った。
(e) 重合溶液を透析チューブに入れ、メタノール/水混合溶媒で洗浄、塩酸酸性のメタノール/水混合溶媒でプロトン交換、メタノール/水混合溶媒で洗浄の順に行った。
(f) 水に溶解し、ポリスチレンシャーレに注いで室温で製膜した。
(g)真空下で熱処理(120℃、30分間)を行った。
(2)評価
得られた高分子電解質膜のプロトン伝導性およびMCOを評価した。結果を表1に示した。プロトン伝導性はS・cm−2で表される数値を、MCOはμmol・min−1・cm−2で表される数値を求めて、それぞれを比較例1の値との比(Nafion比)で表した。さらにプロトン伝導性とMCOのバランスを評価する値としてMCOをプロトン伝導性で除した値、すなわち「MCO/プロトン伝導性」を求めた。この値が小さいほどプロトン伝導性とMCOのバランスに優れる。「MCO/プロトン伝導性」は、0.19であり、比較例1の膜よりも5倍以上優れた特性を示した。また得られた高分子電解質膜は強靱で、指で引っ張っても破れることはなかった。
【0081】
【表1】

【0082】
[実施例2〜6]
(1)高分子電解質材料および高分子電解質膜の作製
AMPSと酢酸ビニルの共重合比を表1に示したとおりとし、手順(g)における熱処理条件を表1に示したとおりとした以外は、実施例1と同様に行った。
(2)評価
得られた高分子電解質膜のプロトン伝導性およびMCOを実施例1と同様にして評価した。結果を表1に示した。「MCO/プロトン伝導性」は、0.30〜0.61であり、比較例1の膜よりも明らかに優れた特性を示した。また、得られた高分子電解質膜はいずれも強靱で、指で引っ張っても破れることはなかった。
【0083】
[実施例7]
(1)高分子電解質材料および高分子電解質膜の作製
(a) AMPS(分子量207.3、4.65mmol)を水(200g)に溶解した後、酢酸ビニル(分子量86.1、232mmol)を加えて激しく撹拌(窒素気流中)した。
(b) 水に溶かしたペルオキソ二硫酸カリウム(0.2g)を加えて、激しく撹拌(窒素気流中)しながら60℃で2時間重合を行った。
(c) 得られた溶液をそのまま凍結乾燥して脱水した。
(d) 得られた粉末をメタノールに溶解しアルカリ(水酸化ナトリウム(40%水溶液))を沈殿が生ずるまで加え、さらに室温で1時間、加アルコール分解を行った。アセトン−水系で精製後、乾燥し、水に溶解して、イオン交換樹脂を用いてプロトン交換を行った。
(e) 重合溶液を透析チューブに入れ、メタノール/水混合溶媒で洗浄、塩酸酸性のメタノール/水混合溶媒でプロトン交換、メタノール/水混合溶媒で洗浄の順に行った。
(f) 前記共重合体(10重量部)およびケイタングステン酸(以下STAと表す場合がある、10重量部)を水に溶解し、ポリスチレンシャーレに注いで室温で製膜した。
(g)真空下で熱処理(120℃、30分間)を行った。
(2)評価
得られた高分子電解質膜のプロトン伝導性およびMCOを実施例1と同様にして評価した。結果を表2に示した。「MCO/プロトン伝導性」は、0.10であり、比較例1の膜よりも10倍優れた特性を示した。また、得られた高分子電解質膜は強靱で、指で引っ張っても破れることはなかった。
【0084】
【表2】

【0085】
[実施例8〜17]
(1)高分子電解質材料および高分子電解質膜の作製
共重合体とSTAの混合比を表2に示したとおりとし、手順(g)における熱処理条件を表2に示したとおりとした以外は、実施例7と同様に行った。
(2)評価
得られた高分子電解質膜のプロトン伝導性およびMCOを実施例1と同様にして評価した。結果を表2に示した。「MCO/プロトン伝導性」は、0.05〜0.47であり、比較例1の膜よりも明らかに優れた特性を示した。また、得られた高分子電解質膜はいずれも強靱で、指で引っ張っても破れることはなかった。
【0086】
[実施例18]
(1)膜電極複合体(MEA)の作製
炭素繊維クロス基材に20%ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)懸濁液を用いて撥水処理を施し、焼成して電極基材を2枚作製した。
【0087】
1枚の電極基材上に、Pt−Ru担持カーボンと実施例6で得た高分子電解質材料の水/メタノール混合溶液とからなるアノード電極触媒塗液を塗工し、乾燥して、アノード電極を作製した。
【0088】
また、もう1枚の電極基材上に、Pt担持カーボンと“ナフィオン”溶液とからなるカソード電極触媒塗液を塗工し、乾燥して、カソード電極を作製した。
【0089】
実施例1で得られた高分子電解質膜を、アノード電極とカソード電極とで夾持し、加熱プレスすることでMEAを作製した。
(2)高分子電解質型燃料電池の作製
前記(1)で得られたMEAをエレクトロケム社製セルに挟みアノード側に30重量%メタノール水溶液、カソード側に空気を流して高分子電解質型燃料電池とした。
【0090】
本実施例の高分子電解質膜を使用した高分子電解質型燃料電池は、20℃において出力は20mW/cmを示した。またエネルギー容量は2.0Whであった。
【0091】
[実施例19]
実施例7で得られた高分子電解質膜を用い、膜電極複合体と高分子電解質型燃料電池の作製は実施例18と同様にして行った。出力は19mW/cm、エネルギー容量は2.2Whであった。
【0092】
[実施例20]
膜電極複合体と高分子電解質型燃料電池の作製は、アノード電極触媒塗液の調製において、実施例6で得た高分子電解質材料の水/メタノール混合溶液の代りに“ナフィオン”溶液を用いる他は実施例18と同様にして行った。出力は18mW/cm、エネルギー容量は2.2Whであった。
【0093】
[比較例2]
“ナフィオン”117膜を用い、膜電極複合体と高分子電解質型燃料電池の作製は実施例20と同様にして行った。出力は8mW/cmを示し低い値であった。エネルギー容量も0.6Whであり低い値であった。
【産業上の利用可能性】
【0094】
本発明の高分子電解質材料、高分子電解質部品、または膜電極複合体は、種々の電気化学用途に適用可能である。例えば、キャパシター、一次電池、レドックスフロー電池などの二次電池、イオン交換膜として水浄化装置、燃料電池、水電解装置、クロロアルカリ電解装置、表示素子、各種センサー、信号伝達媒体、固体コンデンサー等が挙げられるが、中でも燃料電池が最も好ましい。本発明のイオン性基を有するポリマーまたは高分子電解質材料は燃料電池の高分子電解質膜としても、触媒層用の高分子電解質材料としても好適に使用できる。燃料電池のなかでも固体高分子型燃料電池に好適であり、炭素数1〜6の有機化合物またはこれと水との混合物を燃料とする直接型燃料電池にはより好適であり、炭素数1〜3のアルコール、ジメチルエーテルおよびこれらと水の混合物を燃料とする直接型燃料電池にはさらに好適であり、メタノールを燃料とする直接メタノール型燃料電池に最も好適である。
【0095】
さらに、本発明の燃料電池の用途としては、小型機器および移動体の電力供給源が好ましいものである。特に、携帯電話、パソコン、PDA(Personal Digital Assistant)、無線ID読取機(RFIDリーダー)などの携帯機器、小売業、飲食店、運送業、輸送業等で利用される各種業務用ハンディーターミナル、電動ドリル、電動ドライバー等に代表される電動工具、シェーバー、掃除機等に代表される各種家電、玩具、乗用車、バス、トラックなどの自動車、電動アシスト自転車および二輪車、電動車椅子、電動カート、船舶、鉄道などの移動体の電力供給源として好ましく用いられる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
有機酸ビニルエステルとスルホン酸基を有するラジカル重合性モノマーとの共重合体、および/または有機酸ビニルエステルとスルホン酸基を有するラジカル重合性モノマーとの共重合体の鹸化物からなることを特徴とする高分子電解質材料。
【請求項2】
前記スルホン酸基を有するラジカル重合性モノマーがビニルスルホン酸、スチレンスルホン酸、(メタ)アクリロイルオキシアルカンスルホン酸および2−(メタ)アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸から選ばれた少なくとも1種であることを特徴とする請求項1に記載の高分子電解質材料。
【請求項3】
前記有機酸ビニルエステルが、酢酸ビニルであることを特徴とする請求項1に記載の高分子電解質材料。
【請求項4】
無機のプロトン伝導体を含有することを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の高分子電解質材料。
【請求項5】
前記無機のプロトン伝導体が、タングストケイ酸、タングストリン酸、モリブドリン酸から選ばれた少なくとも一種であることを特徴とする請求項4に記載の高分子電解質材料。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれかに記載の高分子電解質材料を用いて構成されていることを特徴とする高分子電解質部品。
【請求項7】
請求項6に記載の高分子電解質部品を用いて構成されていることを特徴とする膜電極複合体。
【請求項8】
請求項7に記載の膜電極複合体を用いて構成されていることを特徴とする高分子電解質型燃料電池。
【請求項9】
該高分子電解質型燃料電池が、炭素数1〜6の有機化合物およびこれと水との混合物から選ばれた少なくとも1種を燃料に用いる直接型燃料電池であることを特徴とする請求項8に記載の高分子電解質型燃料電池。

【公開番号】特開2006−206671(P2006−206671A)
【公開日】平成18年8月10日(2006.8.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−17989(P2005−17989)
【出願日】平成17年1月26日(2005.1.26)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 学会発表1 第53回高分子討論会、社団法人高分子学会主催、平成16年9月15日 高分子学会予稿集(平成16年9月1日発行)(発表番号:1Pf112)「DMFC用高分子固体電解質膜の研究(13)」
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成16年度新エネルギー・産業技術総合開発機構、固体高分子形燃料電池システム技術開発事業、固体高分子形燃料電池要素技術開発等事業委託研究、産業活力再生特別措置法第30条の適用を受ける特許出願
【出願人】(000003159)東レ株式会社 (7,677)
【出願人】(503092032)
【Fターム(参考)】