説明

高分子電解質膜、触媒電極、膜電極接合体、及びそれらの製造方法、並びに結着剤

【課題】良好な電気的及び機械的特性を有する高分子電解質膜、触媒電極、膜電極接合体、及びそれらの製造方法、並びに結着剤を提供すること。
【解決手段】燃料電池として使用される膜電極接合体40は、触媒電極22a、22bとこれにより挟持された高分子電解質膜10によって構成され、高分子電解質膜10は、ポリスチレンスルホン酸系重合体(PSSA)の粒子12と、この粒子間を結着しているポリフッ化ビニリデン(PVDF)18とから構成されている。触媒電極22a、22bは、触媒金属19a、19bを担持した炭素粒子12とPSSA粒子12との混合体と、この混合体間のPVDF18とから構成され、炭素粒子12は、PVDFを溶解させた有機溶剤中にPSSA粒子12を分散させた溶液から有機溶剤を蒸発させて得られる結着剤によって結着されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
化学エネルギーを電気エネルギーに変換する燃料電池に関し、特に、高分子電解質膜、触媒電極、膜電極接合体、及びそれらの製造方法、並びに結着剤に関する。
【背景技術】
【0002】
化学エネルギーを電気エネルギーに変換する各種の電池がある。
【0003】
電池の特性を示すものとして、エネルギー密度と出力密度とがある。エネルギー密度とは電池の単位質量あたりのエネルギー蓄積量であり、出力密度とは電池の単位質量あたりの出力量である。リチウムイオン2次電池は、比較的高いエネルギー密度と非常に高い出力密度という2つの特徴を合わせもっており、完成度も高いことから、モバイル機器の電源として多く採用されている。しかし、近年、モバイル機器は高性能化にともなって消費電力が増加する傾向にあり、リチウムイオン2次電池にも更なるエネルギー密度と出力密度の向上が求められている。
【0004】
その解決策としてカソード及びアノードを構成する電極材料の変更、電極材料の塗布方法の改善、電極材料の封入方法の改善等が挙げられ、リチウムイオン2次電池のエネルギー密度を向上させる研究が行われている。しかし、実用化に向けてのハードルはまだ高い。また、現在のリチウムイオン2次電池に使用されている構成材料が変わらない限り、大幅なエネルギー密度の向上を期待することはできない。
【0005】
このため、リチウムイオン2次電池に代わる、よりエネルギー密度が高い電池の開発が急務とされており、燃料電池はその候補の一つとして有力視されている。
【0006】
燃料電池は、アノード、カソード、電解質等からなり、アノード側に燃料が供給され、カソード側に空気又は酸素が供給される。この結果、燃料が酸素によって酸化される酸化還元反応がアノード及びカソード上で起こり、燃料がもつ化学エネルギーの一部が電気エネルギーに変換されて取り出される。
【0007】
既に、様々な種類の燃料電池が提案又は試作され、一部は実用化されている。これらの燃料電池は、用いられる電解質によって、アルカリ電解質型燃料電池、リン酸型燃料電池、溶融炭酸塩型燃料電池、固体酸化物型燃料電池及び高分子電解質型燃料電池(PEFC:Polymer Electrolyte Fuel Cell、固体高分子型燃料電池等とも呼ばれる。)等に分類される。このうち、PEFCには、他の燃料電池に比べて低い温度、例えば、30℃〜130℃程度の温度で動作させることができる利点がある。
【0008】
燃料電池の燃料としては、水素やメタノール等、種々の可燃性物質を用いることができる。しかし、水素等の気体燃料は、貯蔵用のボンベ等が必要になるため、小型化には適していない。一方、メタノール等の液体燃料は、貯蔵しやすいという利点がある。とりわけ、メタノールを直接アノードに供給して反応させる直接型メタノール燃料電池(DMFC:Direct Methanol Fuel Cell)は、燃料から水素を取り出すための改質器を必要とせず、構成がシンプルになり、小型化が容易であるという利点がある。
【0009】
DMFCでは、燃料のメタノールは、通常、低濃度又は高濃度の水溶液として、もしくは純メタノールが気体の状態でアノード側に供給され、アノード側の触媒層で二酸化炭素に酸化される。このとき生じたプロトンは、アノードとカソードを隔てる電解質膜を通ってカソードへ移動し、カソード側で酸素と反応して水を生成する。アノード、カソード及び、DMFC全体で起こるメタノールの燃焼反応は、それぞれ、下記の反応式で示す通りである。
【0010】
アノード:CH3OH+H2O→CO2+6e-+6H+
カソード:(3/2)O2+6e-+6H+→3H2
DMFC全体:CH3OH+(3/2)O2→CO2+2H2
DMFCの燃料であるメタノールのエネルギー密度は、理論的に4.8kW/Lであり、一般的なリチウムイオン2次電池のエネルギー密度の10倍以上である。即ち、燃料としてメタノールを用いる燃料電池は、リチウムイオン2次電池のエネルギー密度を凌ぐ可能性を大いに持っている。以上の点から、DMFCは、種々の燃料電池の中で最も、モバイル機器や電気自動車等のエネルギー源として使用される可能性が高い。
【0011】
DMFCの理論電圧は水素ガスを用いるPEFCとほぼ同じく約1.2Vであるが、実際には、アノードでの電圧ロスが高いため実効的な電圧が低下してしまう、即ち、出力が小さくなってしまうという問題、また、メタノールが電解質膜を透過するクロスオーバーと呼ばれる現象があり、メタノールのクロスオーバーが生じると、メタノールがカソードで燃焼され燃料の損失を生じるのみならず、カソードの電位低下を招くという問題がある。そのため、メタノール反応活性の高い触媒材料の開発、メタノール透過性が低く且つプロトン伝導率の大きな電解質膜の開発が望まれている。
【0012】
従来、DMFCの研究に、PEFCにおいて検討されてきたNafion(デュポン社:登録商標)膜に代表されるパーフルオロ系プロトン伝導性ポリマー膜が用いられてきたが、この膜をDMFCに用いた場合、メタノールが透過しやすいことが指摘されている。
【0013】
以下、Nafion膜以外の電解質膜に関する従来技術に関して説明する。
【0014】
「新規な燃料電池用ポリマー電解質膜」と題する後記の特許文献1には、ポリスチレンスルホン酸(PSSA)とポリ(フッ化ビニリデン)(PVDF)とからなるポリマー電解質膜(PSSA−PVDF膜)に関して、以下の記載がある。
【0015】
最初に、ポリ(フッ化ビニリデン)がアセトン(或いは、他の極性非プロトン性溶媒、CH2Cl2、THF、DMF、DMSO等)中にて35℃で24時間浸漬することにより平衡化される。これにより膜の膨潤が行われる。このPVDF膜は次いで、スチレン、ジビニルベンゼン(DVB)及びAIBN(0.3−0.4重量%)の浴に浸漬される。AIBNの代わりに他の重合開始剤を使用してもよい。スチレン/ジビニルベンゼン比により、架橋の程度を制御することができる。例えば、DVB/PS=4/96の場合、得られる物質は4%の架橋物となる。この比を変えてポリマーマトリックス中の架橋度を異ならせることができるが、ジビニルベンゼンが1−12%の範囲、より好ましくは4%程度が良好な組成といえる。この含浸重合は通常、3ないし4回行われ、連続的相互浸透ポリマーネットワーク(各相互反応において3ないし5重量%の増加)を形成することができる。DVBに対するスチレンの比は、この含浸工程において変化させ、或る架橋度勾配を有する最終マトリックス製品を得ることができる。この方法は、良好な電気触媒層結合及び接触のため、改善された電極/膜界面特性を与える所望の特性のものをつくるのに利用される。この方法は、更に、ポリマー混合体全体に亘ってスルホン酸密度分布を変化させるのに使用することができる。
【0016】
上記浴から取り出したのち、この膜を固いAl又はTiシートの間に挟み、ホットプレスに入れ、150ないし170℃で1時間、500−2000psi(35−141kgf/cm2)の圧力にて維持する。この手法は15ないし25%の膜重量の増加が達成されるまで繰り返される。次いで、この膜をクロロスルホン酸、ClSO3H(15%クロロホルム溶液)中にて24時間、浸漬することによりスルホン化させる。次いで、これを蒸留水で洗浄し、65℃で蒸留水中で加水分解させる。この手法により、90−10%スルホン化した可撓性のポリマー電解質膜を得ることができる。従って、各芳香環ごとに1つのスルホン酸基が含まれることになる。その他の、スルホン化法を用いてもよい。
【0017】
図11は、従来技術における、PSSAとPVDFとからなる高分子電解質膜の製造工程を説明する図である。
【0018】
特許文献1に記載の高分子電解質膜の製造工程では、先ず、不活性ポリマーマトリックスとしての役割をなすPVDF膜を、極性非プロトン性溶媒に浸漬させ膨潤させる(S21)。次に、膨潤させたPVDF膜を、スチレン、ジビニルベンゼン、重合開始剤を含む浴に浸漬させ、含浸重合を行う(S22)。この含浸重合は通常、3ないし4回行われる(各相互反応において3ないし5重量%の増加)。次に、浴から取り出しこの膜を、150ないし170℃で1時間、ホットプレスする(S23)。この手法は15ないし25%の膜重量の増加が達成されるまで繰り返される。次に、この膜を、クロロスルホン酸、ClSO3H(15%クロロホルム溶液)中にて24時間、浸漬させてスルホン化させ(S24)、蒸留水で洗浄し(S25)、65℃で蒸留水中で加水分解させる(S26)。このようにして、PSSAとPVDFとからなるポリマー電解質膜を得ている(S27)。
【0019】
【特許文献1】特表2001−504636号公報(第15頁)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0020】
燃料電池に用いる電解質としてイオン導電性物質が用いられる。電解質として、例えば、Nafion膜として知られている高分子電解質膜を使用した燃料電池では、この高分子電解質膜中のイオン移動は、スルホ基(SO3H)等を介して行われる。従って、スルホ基等の含有量が多い高分子電解質膜ほどイオン移動が容易となり電気導電性が高くなる。つまり、電気抵抗が小さく、高分子電解質膜中を電流が流れる時に損失するエネルギーが少なく、エネルギー効率のよい高性能の燃料電池が実現する。
【0021】
高分子電解質膜を用いた燃料電池の性能を向上させるためには、イオン伝導性、燃料ガスの透過性、機械的強度等、更に、製造に要する材料コスト、製造設備コスト、製造時間等の点から、高分子電解質膜の組成、製造方法を決定するのが望ましい。燃料電池の性能を再現性よく高く維持するためには、高分子電解質膜の組成を、予め、理論的又は実験的に求められた望ましい値に正確に一致させる必要がある。更に、低コストで材料を入手することができ、これを使用して特殊な設備と長時間を必要とせず製造可能であることが望ましい。
【0022】
従来、燃料電池用の高分子電解質膜として、例えば、Nafion膜に代表されるパーフルオロ系プロトン伝導性ポリマー膜が広く使用されており、これを用いた電池は、高分子電解質型燃料電池として知られる。Nafion等のフッ素化炭化水素を電解質として使用する場合、高密度に多数のイオン交換基を導入することが技術後的に困難であり、現在用い得る高分子電解質膜は電気抵抗が大きいという問題、フッ素を使用しているので合成が非常に高コストとなるという問題があった。また、これらのパーフルオロ系プロトン伝導性ポリマーは、メタノール透過が大きく、直接型メタノール燃料電池の電解質膜として機械的強度が十分でないという問題があった。
【0023】
また、従来、燃料電池用高分子バインダー(以下、本願明細書では、バインダーを結着剤とも表現する。)としてNafion分散液に代表されるパーフルオロ系プロトン伝導性ポリマーが広く使用されてきた。Nafion分散液以外のバインダーの例は少なく、Nafion膜以外の電解質膜に適応したバインダーはほとんど報告されていない。バインダーとして使用するパーフルオロ系プロトン伝導性ポリマーは、フッ素を使用しているので非常に高コストとなるという問題があった。
【0024】
特許文献1には、高分子電解質膜であるPSSA−PVDF膜の記載があるが、特許文献1に記載の方法では、PSSA−PVDF膜におけるPSSA濃度を正確に任意に制御することができないという問題がある。このPSSA−PVDF膜のPSSA濃度を制御するためには、図11に示す工程S22における含浸重合が行われる空間、即ち、PVDFマトリックス内に膨潤によって生じた空間(膨潤空間)の大きさを正確に制御する必要がある。膨潤空間の大きさを正確に制御するためには、図11に示す工程S21におけるPVDFの膨潤の際に膨潤度の制御を正確に行うことが必要となる。この膨潤度は、使用する溶媒の種類、濃度、浸漬温度、浸漬時間等に影響され、PVDFの膨潤度を正確に制御することは困難である。
【0025】
本発明は、上述したような課題を解決するためになされたものであって、その目的は、良好な電気的及び機械的特性を有する高分子電解質膜、触媒電極、膜電極接合体、及びそれらの製造方法、並びに結着剤を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0026】
即ち、本発明は、(1)化学エネルギーを電気エネルギーに変換する燃料電池に使用される高分子電解質膜において、前記高分子電解質膜が、ポリスチレンスルホン酸系重合体の粒子と、この粒子間を結着しているポリフッ化ビニリデンとから構成されていることを特徴とする、高分子電解質膜に係るものである。
【0027】
また、本発明は、(2)化学エネルギーを電気エネルギーに変換する燃料電池に使用される触媒電極において、前記触媒電極が、触媒金属を担持した炭素粒子とポリスチレンスルホン酸系重合体の粒子とからなる混合体と、この混合体の間に配置されたポリフッ化ビニリデンとから構成されていることを特徴とする、触媒電極に係るものである。
【0028】
また、本発明は、(3)化学エネルギーを電気エネルギーに変換する燃料電池に使用される膜電極接合体であり、触媒電極によって挟持された高分子電解質膜からなる膜電極接合体において、前記高分子電解質膜が、上記発明(1)に係る高分子電解質膜によって構成され、前記触媒電極が、上記発明(2)に係る触媒電極によって構成されたことを特徴とする、膜電極接合体に係るものである。
【0029】
また、本発明は、(4)化学エネルギーを電気エネルギーに変換する燃料電池に使用される結着剤において、前記結着剤が、ポリフッ化ビニリデンを溶解させた有機溶剤にポリスチレンスルホン酸系重合体の粒子を分散させた溶液から、前記有機溶剤を蒸発させて得られることを特徴とする、結着剤に係るものである。
【0030】
また、本発明は、(5)化学エネルギーを電気エネルギーに変換する燃料電池に使用される高分子電解質膜の製造方法において、ポリスチレンスルホン酸系重合体の粒子を有機溶剤中に分散させ第1の分散液を調製する第1の工程と、前記第1の分散液にポリフッ化ビニリデンを溶解して、第2の分散液を調製する第2の工程と、前記第2の分散液を用いて、前記ポリスチレンスルホン酸系重合体の粒子が、前記ポリフッ化ビニリデン中に分散され前記ポリフッ化ビニリデンによって結着された膜を形成する第3の工程とを有することを特徴とする、高分子電解質膜の製造方法に係るものである。
【0031】
また、本発明は、(6)化学エネルギーを電気エネルギーに変換する燃料電池に使用される触媒電極の製造方法において、ポリスチレンスルホン酸系重合体の粒子を第1の有機溶剤中に分散させ第1の分散液を調製する第1の工程と、前記第1の分散液に触媒金属を担持した炭素粒子を添加して第2の分散液を調製する第2の工程と、前記第2の分散液から前記第1の有機溶剤を蒸発させて、前記ポリスチレンスルホン酸系重合体の粒子と前記炭素粒子からなる混合体を得る第3の工程と、ポリフッ化ビニリデンが溶解された第2の有機溶剤中に前記混合体を分散させ第3の分散液を調製する第4の工程と、前記第3の分散液を用いて、前記混合体が前記ポリフッ化ビニリデン中に分散され、前記炭素粒子が前記ポリスチレンスルホン酸系重合体の粒子又は/及び前記ポリフッ化ビニリデンによって結着されて構成された膜を、基体の面に形成する第5の工程と、を有することを特徴とする、触媒電極の製造方法に係るものである。
【0032】
また、本発明は、(7)化学エネルギーを電気エネルギーに変換する電気化学に使用される膜電極接合体の製造方法であり、触媒電極によって挟持された高分子電解質膜からなる膜電極接合体の製造方法において、上記発明(5)に係る方法によって、前記高分子電解質膜を作成する工程と、上記発明(6)に係る方法によって、前記触媒電極を作成する工程と、前記触媒電極によって前記高分子電解質膜を挟持させて一体化させる工程とを有することを特徴とする、膜電極接合体の製造方法に係るものである。
【発明の効果】
【0033】
本発明によれば、前記高分子電解質膜が、ポリスチレンスルホン酸系重合体の粒子と、この粒子間を結着しているポリフッ化ビニリデンとから構成されているので、スルホン酸基が既に導入されているポリスチレンスルホン酸系重合体の粒子を所望の濃度でポリフッ化ビニリデンによって結着させることによって、前記高分子電解質膜におけるポリスチレンスルホン酸系重合体の粒子径、濃度を任意に変更することができ、低コストの材料を用いて、複雑な工程を必要とせず、イオン伝導性が大きく機械的強度を有し、良好な電気的及び機械的特性を有する安価な高分子電解質膜を提供することができる。
【0034】
また、前記触媒電極が、触媒金属を担持した炭素粒子とポリスチレンスルホン酸系重合体の粒子とからなる混合体と、この混合体の間に配置されたポリフッ化ビニリデンとから構成されているので、触媒金属を担持した炭素粒子がポリスチレンスルホン酸系重合体の粒子、ポリフッ化ビニリデンによって結着され、機械的強度を有し、低コストの材料を用いて、複雑な工程を必要とせず、安価な触媒電極を提供することができる。
【0035】
また、前記触媒電極によって前記高分子電解質膜を挟持するので、低コストの材料を用いて、複雑な工程を必要とせず、安価な膜電極接合体を提供することができる。
【0036】
また、前記結着剤が、ポリフッ化ビニリデンを溶解させた有機溶剤にポリスチレンスルホン酸系重合体の粒子を分散させた溶液から、前記有機溶剤を蒸発させて得られるので、低コストの材料を用いて、複雑な工程を必要とせず、前記触媒電極を構成する結着剤として好適に使用することができる、安価な結着剤を提供することができる。
【0037】
また、前記第1の分散液を調製する第1の工程と、前記第2の分散液を調製する第2の工程と、前記第2の分散液を用いて前記膜を形成する第3の工程とを有するので、低コストの材料を用いて、複雑な工程を必要とせず、前記ポリスチレンスルホン酸系重合体の粒子が、前記ポリフッ化ビニリデン中に所望の濃度で分散され前記ポリフッ化ビニリデンによって結着され、イオン伝導性が大きく機械的強度を有する高分子電解質膜の製造方法を提供することができる。
【0038】
また、前記第1の分散液を調製する第1の工程と、前記第2の分散液を調製する第2の工程と、前記混合体を得る第3の工程と、前記第3の分散液を調製する第4の工程と、前記第3の分散液を用いて、前記膜を基体の面に形成する第5の工程とを有するので、低コストの材料を用いて、複雑な工程を必要とせず、前記混合体が前記ポリフッ化ビニリデン中に分散され、前記炭素粒子が前記ポリスチレンスルホン酸系重合体の粒子又は/及び前記ポリフッ化ビニリデンによって結着されて構成され、良好な電気的及び機械的特性を有する触媒電極の製造方法を提供することができる。
【0039】
また、上記の触媒電極の製造方法によって作製された前記触媒電極によって、上記の高分子電解質膜の製造方法によって作製された前記高分子電解質膜を挟持させて一体化させるので、低コストの材料を用いて、複雑な工程を必要とせず、膜電極接合体の製造方法を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0040】
本発明の高分子電解質膜では、前記ポリスチレンスルホン酸系重合体は架橋構造を有する構成とするのがよい。前記ポリスチレンスルホン酸系重合体は架橋構造を有しているので、前記高分子電解質膜の有機溶剤による膨潤度を低めることができ、機械的強度を高めることができる。
【0041】
また、前記ポリスチレンスルホン酸系重合体の粒子を50wt%以上含有する構成とするのがよい。前記ポリスチレンスルホン酸系重合体の粒子を50wt%以上含有するので、スルホン酸基密度即ちイオン交換容量を増大させることができ、前記高分子電解質膜のイオン伝導性を高くすることができる。
【0042】
また、前記ポリスチレンスルホン酸系重合体の粒子を65wt%以下含有する構成とするのがよい。前記ポリスチレンスルホン酸系重合体の粒子を50wt%以上65wt%以下含有する構成によって、高分子電解質膜の電気的及び機械的特性を良好なものとすることができる。
【0043】
また、前記高分子電解質膜の厚さが8μm以上である構成とするのがよい。
【0044】
また、前記高分子電解質膜の厚さが40μm以下である構成とするのがよい。
【0045】
本発明の触媒電極では、前記炭素粒子は記ポリスチレンスルホン酸系重合体の粒子又は/及び前記ポリフッ化ビニリデンによって結着されている構成とするのがよい。この構成を有する触媒電極の使用によって、燃料電池の機械的強度を保持することができる。
【0046】
本発明の高分子電解質膜の製造方法では、前記第1の分散液を加温した状態で、前記第2の工程を実行する構成とするのがよい。ポリスチレンスルホン酸系重合体の粒子が有機溶剤中に分散した第1の分散液を加温した状態で、前記第1の分散液にポリフッ化ビニリデンを溶解するので、この溶解に必要とする時間が短縮され、より均一な前記第2の分散液を調製することができる。
【0047】
また、キャスト法、スピンコート法、スクリーン印刷法の何れかかによって、前記第3の工程を実行する構成とするのがよい。特殊な設備を必要とせずに簡単な方法で所望の厚さの高分子電解質膜を作製することができる。
【0048】
本発明の触媒電極の製造方法では、キャスト法、スピンコート法、スクリーン印刷法の何れかによって、前記第5の工程を実行する構成とするのがよい。特殊な設備を必要とせずに簡単な方法で所望の厚さの前記膜を作製することができる。
【0049】
また、前記第5の工程において、前記第2の有機溶剤を蒸発させる工程を含む構成とするのがよい。前記膜を構成する前記第2の有機溶剤を蒸発させることによって、ポリスチレンスルホン酸系重合体の粒子及びポリフッ化ビニリデンからなり、前記炭素粒子を結着させる、前記触媒電極を構成する安価な結着剤を形成することができる。
【0050】
本発明は、DMFC、PEFCに適用可能であり、本発明では、市販として安価に入手することができるポリスチレンスルホン酸系重合体(以下、PSSAと表す。)とポリフッ化ビ二リデン(以下、PVDFと表す。)を混合することにより、PSSA粒子がPVDF中に分散し均一に分布した高分子電解質膜(以下、PSSA/PVDF膜と表す。)を作製することができる。
【0051】
本発明では、スルホン酸基が既に導入されているPSSA粒子を所望の濃度で溶解されたPVDFと混合するので、PSSA/PVDF膜におけるPSSA粒子径、濃度を任意に変更することができる。本発明による方法では、PSSA/PVDF膜におけるPSSA濃度が任意に調製できるので、組成の異なるPSSA/PVDF膜を容易に作製することができ、PSSA粒子の分布の均一性が高く、所望のスルホン酸基密度を有し、高いイオン伝導性をもったPSSA/PVDF膜を再現性よく作製することができる。従って、低コストの材料を用いて、複雑な工程を必要とせず、イオン(プロトン)伝導性が大きく、メタノール透過が小さく、機械的強度を有し、正確な組成をもったPSSA/PVDF膜を再現性よく作製することができる。
【0052】
また、本発明では、上記した高分子電解質膜としてのPSSA/PVDF膜と同じような組成物を、触媒電極を作製する際のバインダーとすることができ、PVDFを溶解させた有機溶剤にPSSA粒子を分散させたバインダー分散液を作製し、これを触媒電極の作製時に使用して、有機溶剤を蒸発させることによって、低コストの材料を用いて、複雑な工程を必要とせず、触媒物質がPSSA粒子、PVDFによって結着された触媒電極を形成することができる。
【0053】
PVDFを溶解させた有機溶剤にPSSA粒子を分散させたバインダー分散液を用いて形成された触媒電極を、従来広く用いられているNafion分散液をバインダーとして用いて形成された触媒電極よりも、低コストで形成することができる。
【0054】
以下、図面を参照しながら本発明による実施の形態について詳細に説明する。
【0055】
実施の形態
図1は、本発明の実施の形態における、触媒電極22a、22bによって挟持された高分子電解質膜(PSSA/PVDF膜)10からなる膜電極接合体(MEA:Membrane Electrode Assembly)40の構造を模式的に示す断面図である。なお、図1では、膜電極接合体40の構成を理解し易くするために、構成要素である以下で説明する各種の粒子の大きさは任意に拡大され誇張して示されており、各種の粒子の大きさの大小を比例するように示していない。また、図1における縦及び横方向の大きさについても、簡略に図示するために寸法の大小が比例するように示していない。
【0056】
図1において、高分子電解質膜10は、ポリスチレンスルホン酸系重合体の粒子(PSSA粒子)12と、このPSSA粒子間を結着させている結着剤(ポリフッ化ビニリデン、PVDF)18とから構成されている。以下、高分子電解質膜10は、PSSA/PVDF膜10と記すこともある。PSSAは架橋構造を有しているので、高分子電解質膜10の有機溶剤による膨潤度を低めることができ、機械的強度を高めることができる。
【0057】
PSSA、PVDFは大量生産された合成品が市販品として安価に入手することができ、PSSA/PVDF膜を安価に作製することができる。PSSA/PVDF膜10は、安価な材料を用い複雑な工程を必要としないで作製することができ、燃料電池の構成要素として好適に使用することができる。PSSA/PVDF膜10は、PSSA粒子12を50wt%以上含有するのが、高いイオン伝導性を実現するためにスルホン酸基密度即ちイオン交換容量を増大させるために望ましい。また、PSSA/PVDF膜10中のPSSA粒子の粒径は100μm以下とするのがよい。好ましくは10μm以下とするのがよい。
【0058】
図1において、触媒電極22a、22bは、Pt等の貴金属、Pt−Ru等の貴金属合金からなる触媒金属19a、19bを担持した炭素粒子17とPSSA粒子12とからなる混合体、及び、この混合体の間に配置されているPVDF18から構成されている。触媒金属19aと触媒金属19bは同じでも異なっていてもよい。炭素粒子17はPSSA粒子12又は/及びPVDF18によって結着されている。炭素粒子17は、PVDFを溶解させた有機溶剤にPSSA粒子12を分散させた溶液から、有機溶剤を蒸発させて得られたバインダーによって、結着されている。このように炭素粒子17がPSSA粒子12又は/及びPVDF18によって結着されて構成された触媒電極22a、22bは、低コストの材料を用いて、複雑な工程を必要とせず作製することができる。
【0059】
触媒電極22a、22bは、集電体である導電性の基体を構成し、ガスや溶液に対して透過性をもったガス拡散層24a、24b上に密着して形成され、触媒電極22a、22bによって高分子電解質膜10を挟むことによって、膜電極接合体40が形成されている。触媒電極22a、ガス拡散層24aによってアノード20が構成され、触媒電極22b、ガス拡散層24bによってカソード30が構成されている。アノード20及びカソード極30は、ホットプレスによる熱圧着によってPSSA/PVDF膜10に密着して接合される。この結果、接合界面で水素イオンの高い伝導性が保持され、電気抵抗が低く保持される。
【0060】
ガス拡散層24a、24bとしては、例えば、カーボンペーパー、カーボンの成形体、カーボンの焼結体、焼結金属、発泡金属等の多孔性基体を用いることができる。
【0061】
また、触媒電極中のPSSA/PVDF膜10中のPSSA粒子の粒径は100μm以下とするのがよい。好ましくは10μm以下とするのがよい。
【0062】
図1に示す膜電極接合体40は、図2に示すDMFC、図3に示すPEFCに好適に適用される。
【0063】
図2は、本発明の実施の形態における、高分子電解質膜(PSSA/PVDF膜)、触媒電極が適用されるDMFCの例を示す断面図である。
【0064】
図2に示すように、メタノール水溶液が燃料25として、流路を有する燃料供給部(セパレータ)50の入口26aから通路27aへと流され、基体である導電性のガス拡散層24aを通って、ガス拡散層24aによって保持された触媒電極22aに到達し、図2の下方に示すアノード反応に従って、触媒電極22a上でメタノールと水が反応し、水素イオン、電子、二酸化炭素が生成され、二酸化炭素を含む排ガス29aが出口28aから排出される。生成された水素イオンは高分子電解質膜10中を、生成された電子はガス拡散層24a、外部回路70を通り、更に、基体である導電性のガス拡散層24bを通って、ガス拡散層24bによって保持された触媒電極22bに到達する。
【0065】
図2に示すように、空気又は酸素35が、流路を有する空気又は酸素供給部(セパレータ)60の入口26bから通路27bへと流され、ガス拡散層24bを通って、ガス拡散層24bによって保持された触媒電極22aに到達し、図2の下方に示すカソード反応に従って、触媒電極22b上で水素イオン、電子、酸素が反応し、水が生成され、水を含む排ガス29bが出口28bら排出される。図2の下方に示すように全反応は、メタノールと酸素から電気エネルギーを取り出して水と二酸化炭素を排出するというメタノールの燃焼反応となる。
【0066】
図3は、本発明の実施の形態における、高分子電解質膜(PSSA/PVDF膜)、触媒電極が適用されるPEFCの例を示す断面図である。
【0067】
図3に示すように、加湿された水素ガスが燃料25として、燃料供給部50の入口26aから通路27aへと流されガス拡散層24aを通って、触媒電極22aに到達し、図3の下方に示すアノード反応に従って、触媒電極22a上で水素ガスから水素イオン、電子が生成され、余剰の水素ガスを含む排ガス29aが出口28aから排出される。生成された水素イオンは高分子電解質膜10中を、生成された電子はガス拡散層24a、外部回路70を通り、更に、ガス拡散層24bを通って触媒電極22bに到達する。
【0068】
図3に示すように、空気又は酸素35が、空気又は酸素供給部60の入口26bから通路27bへと流され、ガス拡散層24bを通って触媒電極22aに到達し、図3の下方に示すカソード反応に従って、触媒電極22b上で水素イオン、電子、酸素が反応し、水が生成され、水を含む排ガス29bが出口28bら排出される。図3の下方に示すように全反応は、水素ガスと酸素から電気エネルギーを取り出して水を排出するという水素ガスの燃焼反応となる。
【0069】
なお、図2、図3に示した例では、燃料25の入口26a、排ガス29aの出口28a、空気又は酸素(O2)35の入口26b、排ガス29bの出口28bの各開口部が、高分子電解質膜10、触媒電極22a、22bの面に垂直に配置されているが、上記の各開口部が、高分子電解質膜10、触媒電極22a、22bの面に平行に配置されている構成とすることもでき、上記の各開口部の配置に関して種々の変形が可能である。
【0070】
図4は、本発明の実施の形態における、(A)高分子電解質膜(PSSA/PVDF膜)の製造工程示す流れ図、(B)分散液及び膜の構造を説明する断面図である。以下、図4(A)に示す製造工程の各工程を、図4(B)を参照しながら説明する。
【0071】
S1:PSSA分散液の作製
PSSAの膜、ペレット、粉体等を乳鉢、冷凍粉砕ミル等を用いて粉砕し、これをセラミック球と共に、有機溶剤中に入れてボールミルにより湿式粉砕を行い、PSSA粒子が分散したPSSA分散液を作製する。このようにして、図4(B)の(a)に示すように、有機溶剤14の中にPSSA粒子12が分散したPSSA分散液を得ることができる。
【0072】
S2:PSSA/PVDF分散液の作製
80℃にPSSA分散液を加温し、攪拌しながらPVDF(溶解を短時間にするために、粉末、ペレットが好ましい。)を添加して、有機溶剤14にPVDFが溶解しPSSA粒子が分散したPSSA/PVDF分散液を作製する。このようにして、図4(B)の(b)に示すように、PVDFが溶解した有機溶剤15の中にPSSA粒子12が分散したPSSA分散液を得ることができる。
【0073】
S3:PSSA/PVDF膜の作製
PSSA/PVDF分散液を、ガラス等の上にキャスト法、スピンコート法、スクリーン印刷法等によって塗布し、80℃で有機溶剤を蒸発させてPSSA粒子12がPVDF18中に分散された所望の厚さのPSSA/PVDF膜10を作製する。
【0074】
S4:PSSA/PVDFの所望の組成の高分子電解質膜(PSSA/PVDF膜)の作製
工程S1、工程S2において、PSSA粒子12とPVDFの混合比を調製することによって、所望の組成をもったPSSA/PVDF膜10を作製することができる。このようにして、図4(B)の(c)に示すように、PVDF18中にPSSA粒子12が分散された所望の厚さをもったPSSA/PVDF膜10を得ることができる。
【0075】
図5は、本発明の実施の形態における、触媒電極及び膜電極接合体の製造工程を説明する流れ図である。以下、図5に示す製造工程の各工程について説明する。
【0076】
S11:PSSA粉末の作製
PSSAの膜、ペレット、粉体等を、乳鉢、冷凍粉砕ミル等を用いて粉砕する。
【0077】
S12:秤量
PSSA粉末、有機溶剤を秤量し混合する。
【0078】
S13:遊星ボールミル処理による分散液の作製
次に、工程S12で秤量し混合したものを遊星ボールミル処理にかけ分散液を作製する。
【0079】
S14:秤量
分散液、Pt−Ruを担持した炭素粒子を秤量し混合する。
【0080】
S15:ミキサーによる混合
工程S14で秤量し混合したものをミキサー処理にかける。
【0081】
S16:乾燥による混合粉末の作成
工程S15の終了後、有機溶剤を蒸発させるために、例えば、終夜乾燥処理を行い、PSSA粒子とPt−Ruを担持した炭素粒子との混合粉末を作製する。
【0082】
S17:混合粉末とPVDFを有機溶剤に分散させペースト化させる
工程S16で得た混合粉末とPVDFを有機溶剤に分散させてペースト化させる。
【0083】
S18:有機溶剤を蒸発させて触媒電極を作製
有機溶剤を蒸発させて、PSSA粒子、Pt−Ruを担持した炭素粒子がPVDF中に分散された所望の厚さの触媒電極を作製する。
【0084】
S19:触媒電極/(PSSA/PVDF膜)/触媒電極からなる積層体の作製
図4に示す製造工程によって得られたPSSA/PVDF膜を、工程S18による触媒電極で挟持させて積層体を作製する。
【0085】
S20:積層体を熱処理し一体化させ膜電極接合体を作製
上記の積層体を、例えば、120℃〜170℃で処理することによって、熱融着によって、PSSA/PVDF膜と触媒電極とが密着し一体化された膜電極接合体を作製する。
【0086】
なお、図5に示す工程S11〜工程S17において、PVDFを溶解させた有機溶剤にPSSA粒子を分散させたバインダー分散液を作製し、このバインダー分散液に、Pt−Ruを担持した炭素粒子を分散させてペースト化させる構成としてもよい。この場合にも、工程S11〜工程S20と同様にして、PVDFを溶解している有機溶剤を蒸発させることによって、触媒物質がPSSA粒子、PVDFによって結着され、触媒物質、PSSA粒子、PVDFが所望の重量比をなしている触媒電極を形成することができる。触媒電極におけるPSSA粒子とPVDFの重量比が、図4に示したPSSA/PVDF膜におけるPSSA粒子とPVDFの重量比と同じであっても異なっていてもよい。
【0087】
以下、本発明の実施の形態における高分子電解質膜(PSSA/PVDF)の性質について説明する。
【0088】
(実施例1)
高分子電解質膜(PSSA/PVDF膜)の伝導率と膜組成及び湿度との関係
図6は、本発明の実施例1であり、高分子電解質膜(PSSA/PVDF膜)の伝導率と膜組成及び湿度との関係を示す図である。
【0089】
実施例1では、PSSA、PVDFの混合比(重量比)、厚さが、PSSA:PVDF=5:5、厚さ18μm;PSSA:PVDF=6:4、厚さ12μm;PSSA:PVDF=7:3、厚さ16μmであるDMFCを作製し、Nafion212CS膜(膜厚50μm)を用いて比較例のDMFCを作製し、湿度を10%から100%まで変化させて、伝導率σを交流インピーダンス法により測定した。
【0090】
図6に示すように、PSSA/PVDF膜のイオン伝導率は湿度の上昇と共に大きくなる。PSSA/PVDF膜のメタノール透過率(図10において後述する。)から、混合比(重量比)、PSSA:PVDF=5:5の膜におけるメタノール透過量は、膜厚を考慮するとNafion212CS膜と同等と考えられ、混合比(重量比)、PSSA:PVDF=6:4及び7:3の膜では、Nafion212CS膜の1.5倍程度の透過量を有すると考えられる。PSSA/PVDF膜のイオン伝導率の湿度依存性はNafion212CS膜と同じ様相を示していることから、吸水速度等も似た性質を示すものと考えられる。また、混合比(重量比)、PSSA:PVDF=7:3の膜は、Nafion212CS膜より高いイオン伝導率を示した。湿度70%近傍で、PSSA:PVDF=7:3の膜抵抗は、膜厚を考慮すると、Nafion212CS膜の約1/2〜1/4倍程度となる。
【0091】
(実施例2)
高分子電解質膜(PSSA/PVDF膜)のメタノール浸漬による膨潤度
図7、図8、図9は、本発明の実施例2であり、高分子電解質膜(PSSA/PVDF膜)のメタノール浸漬による膨潤度を示す図であり、図7は面積における膨潤度(以下、面積膨潤度という。)、図8は体積における膨潤度(以下、体積積膨潤度という。)、図9は厚さにおける膨潤度(以下、厚さ膨潤度という。)を示す。
【0092】
実施例2では、混合比(重量比)がPSSA:PVDF=5:5(厚さ18μm)であるPSSA/PVDF膜、Nafion212CS膜(厚さ50μm)の各膜のメタノール浸漬による膨潤度の評価を行った。面積が25mm×mm各膜を、メタノール濃度0%〜100%の溶液(水溶液)に浸漬し、メタノール浸漬は温度25℃で行った。
【0093】
メタノールによる膨潤度の測定は、次のようにして行った。高分子電解質膜(PSSA/PVDF膜)を3Mの硫酸に浸漬し、イオン交換基を(H+)型とした。その後、室温水に浸漬し湿潤状態で寸法を測定した。次に、それぞれの高分子電解質膜(PSSA/PVDF膜)をメタノール比率を変えた溶液に浸漬し室温で一晩保持した。その後、高分子電解質膜(PSSA/PVDF膜)の寸法(面積、体積、厚さ)変化を測定し、面積膨潤度、体積膨潤度、厚さ膨潤度を求めた。
【0094】
図7に示すように、Nafion212CS膜の面積膨潤度はメタノール濃度の増大と共に、約13%から約30%と大きくなるが、PSSA/PVDF膜の面積膨潤度はメタノール濃度によらず約13%とほぼ一定である。
【0095】
図8に示すように、Nafion212CS膜の体積膨潤度はメタノール濃度の増大と共に、約30%から約120%と大きくなるが、PSSA/PVDF膜の体積膨潤度はメタノール濃度によらず約40%とほぼ一定である。
【0096】
図8に示すように、Nafion212CS膜の厚さ膨潤度はメタノール濃度の増大と共に、約25%から約40%と大きくなるが、PSSA/PVDF膜の体積膨潤度はメタノール濃度によらず約40%から約45%とほぼ一定である。
【0097】
PSSA/PVDF膜の含水率(図10において後述する。)からPSSA/PVDF膜の膨潤度が大きくなることが懸念されていたものの、メタノール濃度0%(純水)の場合、PSSA/PVDF膜は、Nafion212CS膜と比較すると、Nafion212CS膜よりも体積膨潤度、厚さ膨潤度が高いものの、面積膨潤度は同程度であり、厚み方向に膨潤しやすい傾向がある。このことから、メタノール濃度0%(純水)の場合、PSSA/PVDF膜を用いる場合、触媒電極界面への影響はNafion212CS膜と同程度と考えられる。
【0098】
また、メタノール濃度100%(純メタノール)の場合、PSSA/PVDF膜は、Nafion212CS膜と比較すると、Nafion212CS膜よりも面積膨潤度、体積膨潤度が小さく、厚さ膨潤度は同程度である。このことから、メタノール濃度100%(純メタノール)の場合、PSSA/PVDF膜を用いる場合、触媒電極界面への影響はNafion212CS膜よりもはるかに小さいと考えられる。
【0099】
図7、図8、図9から明らかなように、Nafion212CS膜の膨潤はメタノール濃度の影響を大きく受けるので、メタノールの燃焼反応による局所的なメタノール濃度の変動があると、高分子電解質膜の膨潤状態が変化するので、高分子電解質膜と触媒電極との接合面の状態を不安定にし、DMFCの動作を不安定にする原因となる。一方、PSSA/PVDF膜は、メタノール濃度によらずほぼ一定の膨潤度を示すので、仮にメタノールの燃焼反応による局所的なメタノール濃度の変動があったとしても、高分子電解質膜の膨潤状態が変化しないので、高分子電解質膜と触媒電極との接合面の状態を不安定にし、これによるDMFCの動作不安定を招くことはない。
【0100】
以上説明したように、PSSA/PVDF膜の膨潤度のメタノール濃度に対する依存性は、Nafion212CS膜と比較して面方向、厚み方向共に低いことから、PSSA/PVDF膜は、メタノールを燃料とする燃料電池に好適な膜と思われる。
【0101】
(実施例3)
高分子電解質膜(PSSA/PVDF膜)の基礎物性
高分子電解質型燃料電池において、イオン交換膜はプロトンを伝導するための電解質として作用し、燃料である水素ガスやメタノールと酸素とを直接混合させないための隔膜としての役割も有する。このようなイオン交換膜としては、大きな電流を長期間流すので膜の化学的な安定性、特に酸性水溶液での安定性(酸耐性)、過酸化ラジカル等に対する耐性(耐酸化性)や耐熱性が要求される。一方、隔膜としての役割から、膜の耐応力性、機械的強度が高いこと、寸法安定性が優れていること、燃料、例えば、メタノールの透過性が低いこと等が重要な性質として要求される。
【0102】
実施例3では、高分子電解質膜(PSSA/PVDF膜)に関して、寸法安定性(含水率)、スルホン酸基密度、メタノール透過性、及び、イオン伝導率の測定を行った。なお、測定対象とした高分子電解質膜として、Nafion212CS膜、PSSAとPVDFの組成(重量比)が5:5、6:4、7:3のPSSA/PVDF膜を用いた。
【0103】
図10(A)は、本発明の実施例3であり、高分子電解質膜(PSSA/PVDF膜)の基礎物性を示す図であり、図10(B)は、混合比(重量比)、PSSA:PVDFとイオン交換容量の関係を示す図である。
【0104】
<含水率>
室温で水中に15時間以上保存していたイオン交換膜(高分子電解質膜(PSSA/PVDF膜))を、水中から取り出し軽く拭き取った後の重量をWs(g)とし、その後、この膜を40℃にて24時間以上真空乾燥したときの重量をW(g)として、100(Ws−W)/Wから含水率を求めた。
【0105】
図10(A)に示すように、PSSA:PVDF=5:5、6:4のPSSA/PVDF膜の含水率は、Nafion212CS膜を遥かに上回っている。DMFC等の燃料電池では水分管理が重要な問題となっており、高分子電解質膜の含水性及び保水性が要求されているが、PSSA/PVDF膜は高い含水率を有しており、これがDMFCの良好な発電結果に反映されている要因の一つとなっていると思われる。PSSA/PVDF膜は高い含水率をもつので、DMFC等の燃料電池において高分子電解質膜に保水性が要求される場合には、高い保水率によって保水性が維持されることになる。
【0106】
<スルホン酸基密度>
スルホン酸基密度nobsはイオン交換膜(高分子電解質膜)の1g又は1cm3当りの酸基量(mmol)で表わされる。スルホン酸基密度nobsは、50℃に保った3MNaCl水溶液中に、イオン交換膜(高分子電解質膜)を24時間浸漬してSO3Na型とし、イオン交換したプロトン(H+)を0.01MのNaOH水溶液で中和滴定することにより測定した。図10(A)には示していないが、PSSA:PVDF=6:4のPSSA/PVDF膜(厚さ12μm)に対して測定されたスルホン酸基密度は、nobs=4.42mmol/g=5.83mmol/cm3であった。
【0107】
<イオン交換容量>
イオン交換(高分子電解質膜)のイオン交換容量は、nobs/Wから求めた。ここで、nobsは上記のスルホン酸基密度であり、Wはイオン交換膜(高分子電解質膜)の乾燥重量(g)である。図10(B)に示すように、イオン交換容量は、PSSA/PVDF(重量比)にほぼ比例しており、図10(A)に示すように、PSSA/PVDF膜の組成比が何れの場合にも、イオン交換容量はNafion212CS膜と比較して1.3倍〜2.0倍と高い値である。
【0108】
<メタノール透過率>
メタノール透過率は隔膜前後におけるメタノール濃度の測定により求めた。図10(A)に示すように、PSSA/PVDF膜の組成比が何れの場合にも、メタノール透過率はNafion212CS膜、Nafion117膜と比較して小さい値でありPVDFをバインダーとして大量に用いることによって、PSSA/PVDF膜によるメタノールのクロスオーバーを低減することができる。
【0109】
<イオン伝導率>
イオン伝導率は交流インピーダンス法により測定した。図10には示していないが、PSSA:PVDF=5:5のPSSA/PVDF膜(厚さ18μm)を水に15時間浸漬した後に測定した結果、イオン伝導率は0.02S/cmであった。
【0110】
以上説明したように、本発明によれば、イオン伝導体として周知のPSSAと、バインダーとしてのPVDFとを用いて、PSSAを十分に粉砕してPVDFと混合して、PSSA/PVDF膜(高分子電解質膜)を形成することによって、PSSA単体を高分子電解質膜とする場合に比較して、メタノールに対する透過率を小さくし、機械的強度を向上させることができる。
【0111】
また、PVDFとPVDFの重量比を1:1前後とした組成をもったPVDF/PVDF膜を高分子電解質膜とすることによって、従来の高分子電解質膜で問題であったメタノールのクロスオーバーを抑えることが可能であり、且つ、高いイオン伝導率も同時に満たすことができる。
【0112】
また、従来のフッ化物系の伝導体物質と比較して安価に高分子電解質膜、DMFCを製造することが可能となる。
【0113】
また、上記高分子電解質膜としてのPSSA/PVDF膜と同じような組成物を、触媒電極を作製する際のバインダーとすることができ、PVDFを溶解させた有機溶剤にPSSA粒子を分散させたバインダー分散液を作製し、これを触媒電極の作製時に使用して、有機溶剤を蒸発させることによって、触媒物質がPSSA粒子、PVDFによって結着された触媒電極を形成することができる。
【0114】
また、非常に高濃度のメタノール水溶液や高純度メタノールから気化されたメタノールガスを流す構成の気化型燃料電池に適用することもできる。
【0115】
以上、本発明を実施の形態について説明したが、本発明は、上述の実施の形態に限定されるものではなく、本発明の技術的思想に基づく各種の変形が可能である。
【0116】
例えば、図2又は図3に示す燃料電池の構成を変形して得られる基本構造を、直列に複数個配列した平面型の燃料電池、或いは、複数個積層した積層型の燃料電池を構成することもできる。
【産業上の利用可能性】
【0117】
以上説明したように、本発明によれば、化学エネルギーを電気エネルギーに変換する燃料電池に好適に使用可能な、高分子電解質膜、触媒電極、結着剤を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0118】
【図1】本発明の実施の形態における、触媒電極によって挟持された高分子電解質膜(PSSA/PVDF膜)からなる膜電極接合体の構造を模式的に示す断面図である。
【図2】同上、高分子電解質膜、触媒電極が適用される直接型メタノール燃料電池の例を示す断面図である。
【図3】同上、高分子電解質膜、触媒電極が適用される高分子電解質型燃料電池の例を示す断面図である。
【図4】同上、高分子電解質膜(PSSA/PVDF膜)の製造方法と構造を説明する図である。
【図5】同上、触媒電極及び膜電極接合体の製造工程を説明する流れ図である。
【図6】同上、実施例1であり、高分子電解質膜(PSSA/PVDF膜)の伝導率と膜組成及び湿度との関係を示す図である。
【図7】同上、実施例2であり、高分子電解質膜(PSSA/PVDF膜)のメタノール浸漬による膨潤度(面積)を示す図である。
【図8】同上、実施例2であり、高分子電解質膜(PSSA/PVDF膜)のメタノール浸漬による膨潤度(体積)を示す図である。
【図9】同上、実施例2であり、高分子電解質膜(PSSA/PVDF膜)のメタノール浸漬による膨潤度(厚さ)を示す図である。
【図10】同上、実施例3であり、高分子電解質膜(PSSA/PVDF膜)の基礎物性を示す図である。
【図11】従来技術における、PSSAとPVDFとからなる高分子電解質膜の製造工程を説明する図である。
【符号の説明】
【0119】
10…高分子電解質膜(PSSA/PVDF膜)、12…PSSA粒子、
14…有機溶剤、15…PVDFが溶解した有機溶剤、17…炭素粒子、
18…PVDF、19a、19b…触媒金属、20…アノード、
22a、22b…触媒電極、24a、24b…ガス拡散層、25…燃料、
27a、27b…通路、28a、28b…出口、29a、29b…排ガス、
30…カソード、35…空気又は酸素、40…膜電極接合体、50…燃料供給部、
60…空気又は酸素供給部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
化学エネルギーを電気エネルギーに変換する燃料電池に使用される高分子電解質膜において、前記高分子電解質膜が、ポリスチレンスルホン酸系重合体の粒子と、この粒子間を結着しているポリフッ化ビニリデンとから構成されていることを特徴とする、高分子電解質膜。
【請求項2】
前記ポリスチレンスルホン酸系重合体は架橋構造を有する、請求項1に記載の高分子電解質膜。
【請求項3】
前記ポリスチレンスルホン酸系重合体の粒子を50wt%以上含有する、請求項1に記載の高分子電解質膜。
【請求項4】
前記ポリスチレンスルホン酸系重合体の粒子を65wt%以下含有する、請求項3に記載の高分子電解質膜。
【請求項5】
前記高分子電解質膜の厚さが8μm以上である、請求項1に記載の高分子電解質膜。
【請求項6】
前記高分子電解質膜の厚さが40μm以下である、請求項5に記載の高分子電解質膜。
【請求項7】
化学エネルギーを電気エネルギーに変換する燃料電池に使用される触媒電極において、前記触媒電極が、触媒金属を担持した炭素粒子とポリスチレンスルホン酸系重合体の粒子とからなる混合体と、この混合体の間に配置されたポリフッ化ビニリデンとから構成されていることを特徴とする、触媒電極。
【請求項8】
前記炭素粒子は記ポリスチレンスルホン酸系重合体の粒子又は/及び前記ポリフッ化ビニリデンによって結着されている、請求項8に記載の触媒電極。
【請求項9】
化学エネルギーを電気エネルギーに変換する燃料電池に使用される膜電極接合体であり、触媒電極によって挟持された高分子電解質膜からなる膜電極接合体において、前記高分子電解質膜が、請求項1から請求項6の何れか1項に記載の高分子電解質膜によって構成され、前記触媒電極が、請求項7又は請求項8の何れか1項に記載の触媒電極によって構成されたことを特徴とする、膜電極接合体。
【請求項10】
化学エネルギーを電気エネルギーに変換する燃料電池に使用される結着剤において、前記結着剤が、ポリフッ化ビニリデンを溶解させた有機溶剤にポリスチレンスルホン酸系重合体の粒子を分散させた溶液から、前記有機溶剤を蒸発させて得られることを特徴とする、結着剤。
【請求項11】
化学エネルギーを電気エネルギーに変換する燃料電池に使用される高分子電解質膜の製造方法において、
ポリスチレンスルホン酸系重合体の粒子を有機溶剤中に分散させ第1の分散液を調製
する第1の工程と、
前記第1の分散液にポリフッ化ビニリデンを溶解して、第2の分散液を調製する第2
の工程と、
前記第2の分散液を用いて、前記ポリスチレンスルホン酸系重合体の粒子が、前記ポ
リフッ化ビニリデン中に分散され前記ポリフッ化ビニリデンによって結着された膜を形
成する第3の工程と
を有することを特徴とする、高分子電解質膜の製造方法。
【請求項12】
前記第1の分散液を加温した状態で、前記第2の工程を実行する、請求項11に記載の高分子電解質膜の製造方法。
【請求項13】
キャスト法、スピンコート法、スクリーン印刷法の何れかかによって、前記第3の工程を実行する、請求項11に記載の高分子電解質膜の製造方法。
【請求項14】
化学エネルギーを電気エネルギーに変換する燃料電池に使用される触媒電極の製造方法において、
ポリスチレンスルホン酸系重合体の粒子を第1の有機溶剤中に分散させ第1の分散液
を調製する第1の工程と、
前記第1の分散液に触媒金属を担持した炭素粒子を添加して第2の分散液を調製する
第2の工程と、
前記第2の分散液から前記第1の有機溶剤を蒸発させて、前記ポリスチレンスルホン
酸系重合体の粒子と前記炭素粒子からなる混合体を得る第3の工程と、
ポリフッ化ビニリデンが溶解された第2の有機溶剤中に前記混合体を分散させ第3の分
散液を調製する第4の工程と、
前記第3の分散液を用いて、前記混合体が前記ポリフッ化ビニリデン中に分散され、前
記炭素粒子が前記ポリスチレンスルホン酸系重合体の粒子又は/及び前記ポリフッ化ビ
ニリデンによって結着されて構成された膜を、基体の面に形成する第5の工程と、
を有することを特徴とする、触媒電極の製造方法。
【請求項15】
キャスト法、スピンコート法、スクリーン印刷法の何れかかによって、前記第5の工程を実行する、請求項14に記載の触媒電極の製造方法。
【請求項16】
前記第5の工程において、前記第2の有機溶剤を蒸発させる工程を含む、請求項14に記載の触媒電極の製造方法。
【請求項17】
化学エネルギーを電気エネルギーに変換する燃料電池に使用される膜電極接合体の製造方法であり、触媒電極によって挟持された高分子電解質膜からなる膜電極接合体の製造方法において、
請求項11から請求項13の何れか1項に記載の方法によって、前記高分子電解質膜
を作成する工程と、
請求項14から請求項16の何れか1項に記載の方法によって、前記触媒電極を作成
する工程と、
前記触媒電極によって前記高分子電解質膜を挟持させて一体化させる工程と
を有することを特徴とする、膜電極接合体の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2008−123941(P2008−123941A)
【公開日】平成20年5月29日(2008.5.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−308880(P2006−308880)
【出願日】平成18年11月15日(2006.11.15)
【出願人】(000002185)ソニー株式会社 (34,172)
【Fターム(参考)】