高効率不均一系触媒として多孔性銅金属−有機骨格を用いるアリールボロン酸の酸化的ホモカップリング反応
本開示は、ビアリールを合成するための解放金属骨格の使用方法を提供する。該方法は、金属有機骨格(MOF)または金属有機多面体(MOP)とアリールボロン酸化合物とを、MOFまたはMOPがホモカップリング反応によるビアリールの合成を触媒する条件下で接触させることを含む。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、カップリング反応を触媒するための解放金属骨格の使用方法を提供する。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0002】
本開示は、カップリング反応を触媒するためのアクセス可能な金属部位(解放金属部位)を有する解放骨格を含む方法および組成物を提供する。本開示は、多座配位性有機または無機コアにより架橋された有機的連結により構築されるすべての解放骨格物質を含む。すべてのクラスの解放骨格物質:共有結合性有機骨格(COF)、ゼオライト型イミダゾレート骨格(ZIF)、金属有機多面体(MOP)および金属有機骨格(MOF)、ならびに網状化学構造資源の分野において記載されたすべての達成可能な網状形態が含まれる。
【0003】
本開示は貴金属系金属有機骨格(MOF)または金属有機多面体(MOP)、例えばCu系およびPd系骨格をビアリールのホモカップリング合成の触媒として使用する方法を提供する。最適化されていない条件下で、MOFおよび/またはMOP骨格の反応は最大95%の変換および最大90%の選択性を示す。MOFおよび/またはMOP触媒は化学的に安定であることが証明されており、長い間求められていた不均一系触媒特性を有する。
【0004】
一実施形態において、アリールボロン酸の貴金属に基づくホモカップリングによる置換ビアリールの合成が提供される。このような方法はゴンバーグ・バックマン(Gomberg-Bachman)反応によるアリールジアゾニウム塩の二量化およびウルマン(Ullmann)反応によるハロゲン化アリールのホモカップリングなどの従来の方法に取って代わるものである。
【0005】
本開示の方法および組成物は薬物前駆体合成の触媒および新規のアプローチの開発に使用することができる。
【0006】
本開示は、金属有機骨格(MOF)または金属有機多面体(MOP)とアリールボロン酸とを、MOFまたはMOPがホモカップリング反応によるビアリールの合成を触媒する条件下で接触させることを含む、ビアリールの合成方法を提供する。ある実施形態において、該方法はさらに酢酸第二銅を含み、MOFまたはMOPは金属銅を含む。さらに別の実施形態において、アリールボロン酸は、一般構造:
【化1】
【0007】
[式中、RはH、NO2、CN、Cl、t-Bu、N(CH3)2および置換または無置換ナフチルからなる群より選択される]
を有する。一実施形態において、ナフチルは、構造:
【化2】
【0008】
を有する。さらに別の実施形態において、MOFまたはMOPは、
【化3】
【0009】
[式中、R1〜R15は存在しても存在しなくてもよく、存在する場合には、-NH2、-CN、-OH、=O、=S、-SH、-P、-Br、-Cl、-I、-F、
【化4】
【0010】
(式中、Xは1、2、または3である)
からなる群より独立して選択される]
からなる群より選択される連結リガンドを含む。さらに別の実施形態において、連結部分は、
【化5】
【0011】
[式中、R1〜R3は存在しても存在しなくてもよく、存在する場合には、-H、-NH2、-CN、-OH、=O、=S、-SH、-P、-Br、-Cl、-I、-F、
【化6】
【0012】
(式中、Xは1、2、または3である)
からなる群より独立して選択される]
である。さらに別の実施形態において、MOFは銅を含む。特定の実施形態において、MOFはCu3(BTC)2(ここで、BTCはベンゼン-1,3,5-トリカルボキシレートである)を含む。別の実施形態において、MOFは、Cr(II)、Pb(II)、Mn(IV)、Ti(II)およびNi(II)からなる群より選択される金属を含む。
【0013】
本開示はまた、金属有機骨格(MOF)または金属有機多面体(MOP)およびアリールボロン酸を含む反応混合物を提供する。ある実施形態において、混合物はさらに酢酸第二銅を含む。ある実施形態において、アリールボロン酸は、一般構造:
【化7】
【0014】
[式中、RはH、NO2、CN、Cl、t-Bu、N(CH3)2および置換または無置換ナフチルからなる群より選択される]
を有する。一実施形態において、ナフチルは、構造:
【化8】
【0015】
を有する。さらに別の実施形態において、MOFまたはMOPは、
【化9】
【0016】
【0017】
[式中、R1〜R15は存在しても存在しなくてもよく、存在する場合には、-NH2、-CN、-OH、=O、=S、-SH、-P、-Br、-Cl、-I、-F、
【化10】
【0018】
(式中、Xは1、2、または3である)
からなる群より独立して選択される]
からなる群より選択される連結リガンドを含む。一実施形態において、連結部分は、
【化11】
【0019】
[式中、R1〜R3は存在しても存在しなくてもよく、存在する場合には、-H、-NH2、-CN、-OH、=O、=S、-SH、-P、-Br、-Cl、-I、-F、
【化12】
【0020】
(式中、Xは1、2、または3である)
からなる群より独立して選択される]
である。一実施形態において、MOFは銅を含む。特定の実施形態において、MOFはCu3(BTC)2(ここで、BTCはベンゼン-1,3,5-トリカルボキシレートである)を含む。さらに別の実施形態において、MOFは、Cr(II)、Pb(II)、Mn(IV)、Ti(II)およびNi(II)からなる群より選択される金属を含む。
【0021】
本発明の1つ以上の実施形態の詳細を、添付する図面および以下の詳細な説明に記載する。本発明の他の特徴、目的、および利点は詳細な説明および図面、ならびに特許請求の範囲から明らかになるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】結晶Cu3(BTC)2の原子連結性および構造を示す図である。(A) 合成時の(左)および活性化されたCu3(BTC)2骨格におけるCu部位;(B) BTC連結;(C) 合成時のCu3(BTC)2の構造;および(D)活性化されたCu3(BTC)2の構造。Cu、OおよびCを示す。明瞭化のためにすべてのH原子を省略した。
【図2】再利用されたCu3(BTC)2を用いた4-シアノフェニルボロン酸のホモカップリングの3回のサイクルについての収率の比較を示す図である。
【図3】Cu3(BTC)2により触媒される酸化的ホモカップリングの提案されるメカニズムを示す図である。
【図4】未使用のCu3(BTC)2(下)およびフェニルボロン酸のホモカップリング後のCu3(BTC)2(上)の実験的PXRDパターンの比較を示す図である。
【図5】未使用のCu3(BTC)2(下)および4-ニトロフェニルボロン酸のホモカップリング後のCu3(BTC)2(上)の実験的PXRDパターンの比較を示す図である。
【図6】未使用のCu3(BTC)2(下)および4-シアノフェニルボロン酸のホモカップリング後のCu3(BTC)2(上)の実験的PXRDパターンの比較を示す図である。
【図7】未使用のCu3(BTC)2(下)および4-クロロフェニルボロン酸のホモカップリング後のCu3(BTC)2(上)の実験的PXRDパターンの比較を示す図である。
【図8】未使用のCu3(BTC)2(下)および4-tert-ブチルフェニルボロン酸のホモカップリング後のCu3(BTC)2(上)の実験的PXRDパターンの比較を示す図である。
【図9】未使用のCu3(BTC)2(下)および4-(ジメチルアミノ)フェニルボロン酸のホモカップリング後のCu3(BTC)2(上)の実験的PXRDパターンの比較を示す図である。
【図10】未使用のCu3(BTC)2(下)および1-ナフチルボロン酸のホモカップリング後のCu3(BTC)2(上)の実験的PXRDパターンの比較を示す図である。
【図11】4-シアノフェニルボロン酸のホモカップリングの1回目のサイクル後のCu3(BTC)2(下)、2回目のサイクル後のCu3(BTC)2(中)、および3回目のサイクル後のCu3(BTC)2(上)の実験的PXRDパターンの比較を示す図である。
【図12】未使用のCu3(BTC)2のFT-IRスペクトルを示す図である。
【図13】ベンゼン-1,3,5-トリカルボン酸(BTC)のFT-IRスペクトルを示す図である。
【図14】フェニルボロン酸のホモカップリング後に回収された固体のFT-IRスペクトルを示す図である。
【図15】フェニルボロン酸のホモカップリング後に回収された液体のFT-IRスペクトルを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
詳細な説明
本明細書および添付される特許請求の範囲において使用される場合、単数形の「a」、「an」および「the」は、文脈上明白に他に指示されない限り、複数の指示対照を含む。すなわち、例えば、「骨格(a framework)」に対する言及は複数の前記骨格を含み、「金属(the metal)」に対する言及は1種以上の金属および当業者に公知のその同等物を含む、等である。
【0024】
また、「または」を使用する場合、他に表明しない場合には「および/または」を意味する。同様に、「含む(comprise, comprises, comprising, include, includes, including)」は交換可能に用いられ、限定することを意図しない。
【0025】
さらに、さまざまな実施形態の説明が用語「〜を含む」を使用する場合、当業者は、いくつかの特定の例において、一つの実施形態を、代替的に「本質的に〜からなる」または「〜からなる」という用語を使用して記載することができることを理解するであろう。
【0026】
他に定義されない限り、すべての技術用語および科学用語は、本開示が属する技術分野の当業者に一般に理解されるものと同じ意味を有する。本明細書において記載されるものと類似のまたは同等の方法および試薬を開示された方法および組成物の実施に使用することが可能であるが、ここでは典型的な方法および材料を記載する。
【0027】
本明細書において言及されるすべての刊行物は、前記刊行物に記載される方法論であって、本明細書の記載に関連して使用される可能性があるものの説明および開示を目的として、その全体を参照により本明細書に組み入れるものとする。上記で、および本文を通して考察される刊行物は、本出願の出願日以前のそれらの開示のみのために提供するものである。本明細書におけるいずれの記載も、発明者らが事前開示を理由としてこのような開示に先行する権利を与えられないことを認めるものであると解釈されるべきではない。
【0028】
官能基化されたビアリールの合成は、これらの化合物が天然産物、薬物および機能材料における最も重要な構造単位の1つであると考えられるため、最近大きな関心を集めており、重要性を有する分野となっている。貴金属触媒を用いるアリールボロン酸のホモカップリングは、対称なビアリールの合成の有用な方法であることが証明されている。効率的であるが、そのコストおよび安定性のために、多くの応用におけるPd系触媒の実現可能性は著しく限定されている。別の方法は高温(約200℃)を必要とするゴンバーグ・バックマン反応およびウルマン反応を使用するので、多くの官能基(-NO2および-CN)との適合性が厳しく限定されている。
【0029】
本開示は、MOFおよびMOP構造が、貴金属に支配される鈴木ホモカップリング反応の卓越した代替物として作用し、同等の収率および選択性を有することを実証する。また、MOF化学により非常に優れた多孔性と共に所望の複雑さおよび官能性が導入されるために、本開示の方法および組成物はMOF化学の大きな可能性を示すものである。特に、独特に連結された活性中心により提供される前記複雑さのために、その分子のカウンターパートと比較してこれまでに例のない好ましいパターンの挙動を示す。本触媒はまた、望まれるホモカップリング反応の副生成物であり、合成において同程度に価値のあるチャン・ラム(Chan-Lam)カップリングを可能にするように改変することも可能である。
【0030】
本開示は、選択されたMOF/MOP:MOF-5、MOF-177、MIL-53、MOF-199およびMOP-OH(Cuを含有する)の群を用いる本開示の方法および組成物を示す。その一方で、本開示の方法に利用することができる他のMOFおよびMOP骨格は本開示より明らかであろう。
【0031】
本開示は、触媒として金属を含有する金属有機骨格(MOF)、例えば、Cu3(BTC)2(ここで、BTCはベンゼン-1,3,5-トリカルボキシレートである)を用いるビアリールのホモカップリング合成の方法を提供する。最適化されていない条件下で、例えば、-H、-NO2、-CN、-Cl、-t-Buおよび-Me2Nにより官能基化されたアリールボロン酸、ならびに1-ナフチルボロン酸のホモカップリングにおいてこのMOF触媒を使用すると、最大92%の収率が得られる。MOF触媒は、その高い秩序を有する解放された構造に由来する不均一系触媒としての著しく優れた特質を示す。この特徴のために、その能力は均一系触媒と同等のものとなる。さらに、MOF触媒は、MOF構成要素に加えることが可能な変化に伴うすべての利点を有する。これらの利点および特質のいくつかについての説明を表1に示す。
【表1】
【0032】
このホモカップリング反応を促進するために他の遷移金属、例えば、Cr(II)、Pb(II)、Mn(IV)、Ti(II)およびNi(II)が使用されてきたが、効率的なターンオーバーを促進するためには別の共触媒および環境に有害な添加剤を加える必要がある。Cuを含有する化合物が、均一系条件下でいくつかのカップリング反応(例えばグレーサーカップリングおよびチャン・ラムカップリング)を触媒し、その結果として高い収率を達成できることが知られている。このような能力を不均一系触媒系において維持するためには、単分散の完全にアクセス可能な金属中心を有する明確に定義された多孔性構造を有する物質が必要である。MOFは非常に優れた多孔性および記録的な表面積(最大5,900 m2 g-1)を有する新しいクラスの多孔性結晶である。
【0033】
本開示の実施形態を説明するために、銅系MOFであるCu3(BTC)2をさまざまな酸化的ホモカップリング反応の触媒として使用した。図1に示す通り、このMOFの構造は銅パドルホイール二次構造単位(SBU)から構築されている。2個のベンゼントリカルボン酸(BTC)基からの12個のカルボキシレート酸素原子が、化学式単位の3個のCuイオンのそれぞれに対する4個の配位部位に結合する。それぞれの金属はCu-Cu軸に沿うアキシアルH2Oリガンドと共にその擬八面体配位圏を完成する。水分子は減圧下で加熱することにより容易に除去することができ(図1A)、それにより細孔を通して単分散された解放銅中心が得られる(図1D)。銅中心はルイス酸であることが示されており、それらはさまざまな分子により配位され得る。高度に多孔性の解放骨格の中のこのような解放金属中心は、最初のアミンの配位およびそれに続くトランスメタル化を加速し得る。
【0034】
図3はビアリールの合成におけるMOFの作用の提案されるメカニズムを表す。骨格中の銅パドルホイールが塩基により配位された後、O2により酸化されて触媒銅(III)種Iを形成する。Iとアリールボロン酸とのトランスメタル化により錯体IIが生じる。それに続く銅中心における還元的脱離により、チャン・ラムカップリング生成物R-NHR’および銅(I)種IVが生成する。一方、錯体IIとアリールボロン酸との第2のトランスメタル化によりIIIが製造され、次いでこれが還元的脱離反応により種IVおよびホモカップリング生成物R-Rを形成する。種IVの加水分解により中間体Vおよびホウ酸アニオンが形成される(3.69 ppmの11B NMRシフトにより証明される)[13]。Vの酸化反応により触媒活性種Iが再生されることによって触媒サイクルが完了する。
【0035】
上記の通り、銅(II)コアは連結リガンドまたは連結部分を用いて連結される。連結リガンドまたは連結部分は、下に記載する通りのいくつもの異なる化合物であってもよい。本明細書に提供される特定の実施例において、連結リガンド/部分はBTC化合物である。さらに、連結リガンド/部分は下記の通りにさらに官能基化されていてもよいことが理解されよう。
【0036】
本明細書において使用される場合、「コア」は骨格中に見いだされる繰り返し単位(単数または複数)を指す。このような骨格は均一な繰り返しコア構造または不均一な繰り返しコア構造を含み得る。コアは金属または金属クラスターおよび連結部分を含む。互いに連結された複数のコアにより骨格が規定される。
【0037】
用語「クラスター」は、2個以上の原子の識別可能な会合を指す。このような会合は、典型的には、いくつかのタイプの結合(イオン結合、共有結合、ファンデルワールス結合等)により確立される。
【0038】
「連結クラスター」とは、連結部分構造と金属基との間または連結部分構造と別の連結部分構造との間に結合を形成することができる原子を含む、縮合可能な1個以上の反応種を指す。このような種の例は、ホウ素、酸素、炭素、窒素、およびリン原子からなる群より選択される。ある実施例において、連結クラスターは、架橋酸素原子と連結を形成することができる1以上の異なる反応種を含み得る。例えば、連結クラスターは、CO2H、CS2H、NO2、SO3H、Si(OH)3、Ge(OH)3、Sn(OH)3、Si(SH)4、Ge(SH)4、Sn(SH)4、PO3H、AsO3H、AsO4H、P(SH)3、As(SH)3、CH(RSH)2、C(RSH)3、CH(RNH2)2、C(RNH2)3、CH(ROH)2、C(ROH)3、CH(RCN)2、C(RCN)3、CH(SH)2、C(SH)3、CH(NH2)2、C(NH2)3、CH(OH)2、C(OH)3、CH(CN)2、およびC(CN)3 [式中、Rは1〜5個の炭素原子を有するアルキル基、または1〜2個のフェニル環を含むアリール基である]を含み得る。
【0039】
「連結部分」とは、連結クラスターを介して、それぞれ金属または複数の金属を結合する単座または多座化合物を指す。一般に、連結部分は、1〜20個の炭素原子を含むアルキルまたはシクロアルキル基、1〜5個のフェニル環を含むアリール基、あるいは1〜20個の炭素原子を含むアルキルもしくはシクロアルキル基または1〜5個のフェニル環を含むアリール基を含むアルキルアミンまたはアリールアミンを有する部分構造を含み、ここで、連結クラスターは該部分構造に共有結合している。シクロアルキルまたはアリール部分構造は1〜5個の環を含んでよく、これらの環は、環を形成する原子として炭素のみを含むか、炭素と窒素、酸素、硫黄、ホウ素、リン、ケイ素および/またはアルミニウム原子との混合物を含むかのいずれかである。典型的には、連結部分は、1個以上の共有結合したカルボン酸連結クラスターを有する下部構造を含むであろう。
【0040】
本明細書において使用される場合、化学式中の、一方の端に原子を有し、他方の端に何もない線は、その式が、原子が結合していない方の末端に別のものが結合している化学断片を指すことを意味する。場合により、強調するために線を波線で遮る。
【0041】
一実施形態において、連結部分の部分構造は、下記:
【化13】
【0042】
【0043】
[式中、R1〜R15は存在しても存在しなくてもよく、存在する場合、-NH2、-CN、-OH、=O、=S、-SH、-P、-Br、-Cl、-I、-F、
【化14】
【0044】
(式中、Xは1、2、または3である)
からなる群より独立して選択される]
のいずれかより選択される。
【0045】
いくつかの実施形態において、触媒に使用される骨格はゼオライト構造を有する。このような実施形態において、有機連結は、典型的には、5員環の1位および3位に窒素を有する少なくとも1個の5員環を含み、これが2個の金属イオンとの間に連結部分または架橋を形成する。イミダゾール環はさらに官能基化されてベンズイミダゾール、トリアゾール、ベンゾトリアゾール、テトラゾール、グアニン、キサンチンおよびヒポキサンチン誘導体を形成してもよい。例えば、本開示の触媒骨格の形成に以下の連結部分を使用することができる。
【化15】
【0046】
[式中、R〜R4は、-H、-NH2、-COOH、-CN、-NO2、-F、-Cl、-Br、-S、-O、-SH、-SO3H、-PO3H2、-OH、-CHO、-CS2H、-SO3H、-Si(OH)3、-Ge(OH)3、-Sn(OH)3、-Si(SH)4、-Ge(SH)4、-Sn(SH)4、-PO3H、-AsO3H、-AsO4H、-P(SH)3、-As(SH)3、-CH(RSH)2、C(RSH)3、-CH(RNH2)2、-C(RNH2)3、-CH(ROH)2、-C(ROH)3、CH(RCN)2、-C(RCN)3、
【化16】
【0047】
である]
さらに別の実施形態において、部分構造は、置換もしくは無置換芳香環、置換もしくは無置換芳香族複素環、置換もしくは無置換非芳香族環、置換もしくは無置換非芳香族複素環、または置換もしくは無置換炭化水素基を含み得る。飽和もしくは不飽和炭化水素基は1個以上のヘテロ原子を含んでもよい。例えば、連結部分は以下の構造:
【化17】
【0048】
【0049】
[式中、A1、A2、A3、A4、A5、およびA6はそれぞれ独立して、存在しないか、安定な環構造を形成することができる原子または基であり、R1、R2、R3、R4、R5、R6、R7、R8、R9、R10、R11、R12、R13、R14、R15、およびR16はそれぞれ独立して、H、アルキル、アリール、OH、アルコキシ、アルケン、アルキン、フェニルおよび前述の置換フェニル、硫黄含有基(例えばチオアルコキシ)、ケイ素含有基、窒素含有基(例えばアミド)、酸素含有基(例えば、ケトンおよびアルデヒド)、ハロゲン、ニトロ、アミノ、シアノ、ホウ素含有基、リン含有基、カルボン酸、またはエステルである]
を含み得る。一実施形態において、R1、R2、R3、R4はそれぞれ独立して、NH2、CN、OH、=O、=S、SH、P、Br、CL、I、F、
【化18】
【0050】
[式中、Xは1、2、または3である]
からなる群より選択される。
【0051】
適切な反応基を有する前記連結部分はすべて、好適な反応物質により骨格合成後に変換し、骨格をさらに官能基化することができる。合成後に骨格内の有機連結を修飾することにより、そこに存在する、以前はアクセス不可能であったか、アクセスに大きな困難および/または費用を伴った官能基へのアクセスが可能かつ容易になる。骨格合成後の反応物質としては、すべての公知の有機変換およびそのそれぞれの反応物質;N、S、Oなどの原子を含む官能基を有する1〜20個の炭素からなる環が挙げられる。官能基と、または前から存在する官能基と新しく加えた官能基との組合せと、キレート化し、それらを付加することが可能なすべての金属も挙げられる。例えば不均一系触媒として使用するための骨格への有機金属錯体の連結をもたらすすべての反応も挙げられる。
【0052】
骨格合成後の反応物質とは、すべての有機反応物質を指す。N、S、O、およびPなどの原子を含む官能基を有する1〜20個の炭素からなる環が有用である。さらに、官能基と、または前から存在する官能基と新しく加えた官能基との組合せと、キレート化し、付加することが可能な金属および金属含有化合物も有用である。例えば不均一系触媒として使用するための骨格への有機金属錯体の連結をもたらす反応を使用することができる。例えば、連結剤中の反応性の側基をアルコールに変換した後、該基をアルカリ土類金属と反応させて金属アルコキシドを生成する反応が提供される。
【0053】
骨格合成後の反応物質の例としては複素環化合物が含まれるが、これらに限定されない。一実施形態において、骨格合成後の反応物質は飽和または不飽和複素環である。用語「複素環」は、単独でまたは接尾辞もしくは接頭辞として用いられる場合、環構造の一部としてN、OおよびSより独立して選択される1個以上の多価ヘテロ原子を有し、かつ環に3〜約20個の原子を有する、環を含む構造または分子を指す。複素環は飽和または不飽和(1以上の二重結合を有する)であってよく、また、複素環は2個以上の環を有してもよい。複素環が2個以上の環を有する場合、環は縮合環または非縮合環であってよい。一般に、縮合環とは、2個の原子を共有する少なくとも2個の環を指す。複素環は芳香族性を有してもよく、芳香族性を持たなくてもよい。用語「複素環基」、「複素環部分」、「ヘテロシクリック」、または「ヘテロシクロ」は、単独でまたは接尾辞もしくは接頭辞として用いられる場合、複素環から1個以上の水素を除去することにより誘導される基を指す。用語「ヘテロシクリル」は、単独でまたは接尾辞もしくは接頭辞として用いられる場合、複素環から1個の水素を除去することにより誘導される1価の基を指す。用語「ヘテロアリール」は、単独でまたは接尾辞もしくは接頭辞として用いられる場合、芳香族性を有するヘテロシクリルを指す。複素環としては、例えば、アジリジン、オキシラン、チイラン、アゼチジン、オキセタン、チエタン、ピロリジン、ピロリン、イミダゾリジン、ピラゾリジン、ピラゾリン、ジオキソラン、スルホラン、2,3-ジヒドロフラン、2,5-ジヒドロフラン、テトラヒドロフラン、チオファン、ピペリジン、1,2,3,6-テトラヒドロピリジン、ピペラジン、モルホリン、チオモルホリン、ピラン、チオピラン、2,3-ジヒドロピラン、テトラヒドロピラン、1,4-ジヒドロピリジン、1,4-ジオキサン、1,3-ジオキサン、ジオキサン、ホモピペリジン、2,3,4,7-テトラヒドロ-1H-アゼピン、ホモピペラジン、1,3-ジオキセパン、4,7-ジヒドロ-1,3-ジオキセピン、およびヘキサメチレンオキシドなどの単環式複素環が挙げられる。例えば、本開示の方法に有用な複素環としては、
【化19】
【0054】
が挙げられる。
【0055】
さらに、複素環としては、芳香族複素環(ヘテロアリール基)、例えば、ピリジン、ピラジン、ピリミジン、ピリダジン、チオフェン、フラン、フラザン、ピロール、イミダゾール、チアゾール、オキサゾール、ピラゾール、イソチアゾール、イソキサゾール、1,2,3-トリアゾール、テトラゾール、1,2,3-チアジアゾール、1,2,3-オキサジアゾール、1,2,4-トリアゾール、1,2,4-チアジアゾール、1,2,4-オキサジアゾール、1,3,4-トリアゾール、1,3,4-チアジアゾール、および1,3,4-オキサジアゾールが挙げられる。
【0056】
骨格を反応種と反応させることにより骨格に合成後修飾をおこなうことができる。例えば、連結部分の側基が、例えばNH2を含む場合、アジリジン含有化合物との反応により、反応種の開環が起こる。この反応は一般に以下の通りに表される。
【化20】
【0057】
このような方法を用いて、変化をもたらし、官能基化された骨格を生成することができる。上に示した通り、連結部分とアジリジンとの反応により、連結部分への側基の付加が起こる。このような骨格において、骨格の細孔の中に反応性側基を延長することにより、細孔の大きさまたは電荷を改変することができる。
【0058】
本開示の骨格の調製は、水性系または非水性系のいずれかで実施することができる。場合により、溶媒は極性または非極性であり得る。溶媒はテンプレート剤または場合により単座官能基を有するリガンドを含んでもよい。非水性溶媒の例としてはn-アルカン、例えばペンタン、ヘキサン、ベンゼン、トルエン、キシレン、クロロベンゼン、ニトロベンゼン、シアノベンゼン、アニリン、ナフタレン、ナフサ、n-アルコール、例えばメタノール、エタノール、n-プロパノール、イソプロパノール、アセトン、1,3-ジクロロエタン、塩化メチレン、クロロホルム、四塩化炭素、テトラヒドロフラン、ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド、N-メチルピロリドン、ジメチルアセトアミド、ジエチルホルムアミド、チオフェン、ピリジン、エタノールアミン、トリエチルアミン、エチレンジアミン等が挙げられる。当業者は出発反応物質に基づいて適切な溶媒を容易に決定できるであろうし、本開示の物質を得るために溶媒の選択が決定的であるとは考えられない。
【0059】
本開示の方法においてテンプレート剤を使用することができる。本開示において使用されるテンプレート剤は、得られる結晶性基本骨格において細孔の中を占有する目的で反応混合物に加えるものである。本開示のいくつかの変化形において、空間充填剤、吸収された化学種およびゲスト種により金属有機骨格の表面積を増大させる。好適な空間充填剤としては、例えば、(i)アルキルアミンおよびそれに対応するアルキルアンモニウム塩(1〜20個の炭素原子を有する直鎖、分枝鎖、または環状脂肪族基を含む);(ii)アリールアミンおよびそれに対応するアリールアンモニウム塩(1〜5個のフェニル環を有する);(iii)アルキルホスホニウム塩(1〜20個の炭素原子を有する直鎖、分枝鎖、または環状脂肪族基を含む);(iv)アリールホスホニウム塩(1〜5個のフェニル環を有する);(v)アルキル有機酸およびそれに対応する塩(1〜20個の炭素原子を有する直鎖、分枝鎖、または環状脂肪族基を含む);(vi)アリール有機酸およびそれに対応する塩(1〜5個のフェニル環を含む);(vii)脂肪族アルコール(1〜20個の炭素原子を有する直鎖、分枝鎖、または環状脂肪族基を含む);または(viii)アリールアルコール(1〜5個のフェニル環を含む)からなる群より選択される成分が挙げられる。
【0060】
結晶化は、溶液を室温で、または300℃までの温度の恒温オーブン中で放置すること;希塩基を溶液に加えて結晶化を開始すること;希塩基を溶液中に拡散させて結晶化を開始すること;および/または溶液を密閉容器に移し、所定の温度に加熱することにより実施することができる。
【0061】
本開示の骨格は、図3に記載および図示される触媒作用を実施するために、種々の装置および系において使用することができる。カップリング(例えば、ホモカップリング)をおこなう試薬を含む反応容器にMOFおよび/またはMOP組成物を加えることができる。例えば、カップリングをおこなうアリールボロン酸を含む反応混合物にMOF-199を加えて反応を進行させる。ある実施形態において、試薬のホモカップリングを触媒するMOFおよび/またはMOPを含むカラムに反応混合物を通すことができる。別の実施形態において、反応容器を攪拌または混合することができる。本明細書の別の部分に記載した通り、MOFおよび/またはMOPは再使用することができる。ある実施形態において、反応を室温で実施する。別の実施形態において、反応を室温で攪拌しながら実施する。濾過して、新しいジクロロメタンにより洗浄した後、MOFを完全に回収し、活性の有意な損失を伴わずに再使用することができる。
【0062】
以下の実施例は本開示を説明することを目的とするものであって、限定を目的とするものではない。それらは使用し得る典型例であるが、それに代えて当業者に公知の他の方法を使用してもよい。
【実施例】
【0063】
MOF-199 (Basolite C300, Aldrich)、シクロヘキシルアミン、トリエチルアミン、フェニルボロン酸、4-ニトロフェニルボロン酸、4-シアノフェニルボロン酸、4-クロロフェニルボロン酸、4-tert-ブチルフェニルボロン酸(4-ter-burlyphenylboronic acid)、4-(ジメチルアミノ)-フェニルボロン酸、ナフタレン-1-ボロン酸および1,3,5-トリメトキシベンゼンはAldrich Chemical Co.より購入した。
【0064】
一般的なホモカップリング反応手順
Cu3(BTC)2 (Basolite C300、BASF製、www.mof.basf.com、Aldrichカタログ番号:688614)、シクロヘキシルアミン、トリエチルアミン、フェニルボロン酸、4-ニトロフェニルボロン酸、4-シアノフェニルボロン酸、4-クロロフェニルボロン酸、4-tert-ブチルフェニルボロン酸、4-(ジメチルアミノ)-フェニルボロン酸、ナフチル-1-ボロン酸および1,3,5-トリメトキシベンゼンはAldrich Chemical Coより購入した。ジクロロメタンはFisher Scientific International Incより購入した。すべての出発物質はそれ以上精製せずに使用した。すべての実験操作は、他に記載しない限り空気中で実施した。アリールボロン酸、(3.01 mmol)、シクロヘキシルアミン(0.248 g、286μL、2.51 mmol)およびトリエチルアミン(0.253 g、348μL、2.49 mmol)の混合物をあらかじめ混合し、50 mLの丸底フラスコ中で20 mLのジクロロメタンに溶解した。次に、MOF(0.100 g、0.165 mmol、0.495 mmol Cu(II))または酢酸第二銅一水和物(Cu(OAc)2・H2O、0.100 g、0.501 mmol)を溶液に加えた。混合物を室温で5時間攪拌した後、濾過し、新しいジクロロメタンにより洗浄した。次に、濾液中の過剰なジクロロメタンをロータリーエバポレーターにより除去した。1H NMRの内部標準として濾液に1,3,5-トリメトキシベンゼン(0.168 g、1.00 mmol)を加えた。すべての生成物の1H NMRの化学シフトは文献のデータと十分に一致した。
【0065】
ビフェニル:MOFを使用した場合、収率47%のビフェニル(フェニルボロン酸に対して)が得られた;酢酸第二銅一水和物の場合にはビフェニル生成物は形成されなかった。GC-MS, m/z+ 154.1;4,4’-ジニトロビフェニル:MOFおよび酢酸第二銅一水和物を使用した場合、それぞれ収率87%および18%の4,4’-ジニトロビフェニル(4-ニトロフェニルボロン酸に対して)が得られた。GC-MS, m/z+ 244.2;ビフェニル-4,4’-ジカルボニトリル:MOFおよび酢酸第二銅一水和物の存在下で、それぞれ収率92%および19%のビフェニル-4,4’-ジカルボニトリル(4-シアノフェニルボロン酸に対して)が得られた。第2および第3サイクルにおいて、それぞれ1.34 mmol(収率:90%)および1.35 mmol(収率:92%)のビフェニル-4,4’-ジカルボニトリルが観察された。GC-MS, m/z+ 204.1;4,4’-ジクロロビフェニル:MOFおよび酢酸第二銅一水和物の存在下で、それぞれ収率81%および8%の4,4’-ジクロロビフェニル(4-クロロフェニルボロン酸に対して)が得られた。GC-MS, m/z+ 223.1;4,4’-ジ-tert-ブチルビフェニル:MOFを使用した場合には収率25%の4,4’-ジ-tert-ブチルビフェニル(4-tert-ブチルフェニルボロン酸に対して)が得られたが、酢酸第二銅一水和物の場合には全く形成されなかった。GC-MS, m/z+ 266.1;N,N,N’,N’-テトラメチルジフェニル-4,4’-ジアミン:MOFおよび酢酸第二銅一水和物を使用した場合、それぞれ収率43%および5%のN,N,N’,N’-テトラメチルジフェニル-4,4’-ジアミン(4-(ジメチルアミノ)-フェニルボロン酸に対して)が得られた。GC-MS, m/z+ 240.1;1,1’-ビナフチル:MOFおよび酢酸第二銅一水和物を使用した場合、それぞれ収率90%および6%の1,1’-ビナフチル(ナフタリル-1-ボロン酸に対して)が得られた。GC-MS, m/z+ 254.2。
【0066】
Bruker D8-Discoverθ-2θ回折計を用いて、反射率ブラッグ・ブレンターノ光学系で粉末X線回折(PXRD)データを集めた。Kα線に乗せたプラナーGobel鏡(a planer Gobel Mirror riding the Kα line)を用いてCu Kα放射(λ = 1.5406Å;1,600 W、40 kV、40 mA)を収束させた。すべての測定に0.6 mm発散スリットを使用した。回折された放射線をNiモノクロメータを装備したVantec線検出器(Bruker AXS)(6°2θサンプリング幅)を用いて検出した。バルク中の単分散性を確保するためにすべてのサンプルを粉砕した後、粉末を落とすことによりサンプルホルダー上に固定したスライドガラス上に載せ、次いで幅広スパチュラによりサンプル表面を平らにした。ステップあたり0.4秒の露出時間で1〜50°の0.02°2θステップスキャンを用いることにより最良のカウント統計が達成された。ホモカップリング前および後の両方のCu3(BTC)2について集められた回折パターンを図4〜10に示す。また、3サイクル後のCu3(BTC)2の粉末パターンを図11に示す。
【0067】
ベンジルトリカルボン酸(BTC)およびCu3(BTC)2(未使用のものおよびカップリング反応後のもの)のFT-IRスペクトルを、KBrペレットとして、Nicolet 400 Impact分光計を用いて得た。カップリング反応後に回収された液体のFT-IRを、二枚の透明なKBr結晶プレート上で実施した。図12および13に示す通り、Cu3(BTC)2中のカルボキシレートのC=O伸縮は1653 cm-1に吸収を有するのに対して、BTCにおける遊離カルボン酸のC=O伸縮は1734 cm-1に吸収を有し、これは配位していないカルボキシル基の存在を示す強い特徴的なピークである。回収されたCu3(BTC)2固体は、図14に示す通り、分解による遊離カルボン酸がCu3(BTC)2骨格に捕捉されていないことを明白に示した。さらに、図15は、BTCが溶液中に浸出していないことを示している。これらの化合物の間のIRスペクトルの関係に関するこの考察は、カップリング反応を通してMOFが損なわれないことを支持するものとして提供されるものである。
【0068】
1Hおよび11B NMRスペクトルを、それぞれBruke ARX 400およびARX 500装置を用いて295Kで記録した(1H, 400 MHz; 11B, 160 MHz)。1H化学シフトの値は、SiMe4 (δ 0 ppm)に対する100万分の1(ppm)で報告される。11B化学シフトの値は、BF3・Et2O (δ 0 ppm)に対するppmで報告される。11B NMRによるモニター反応:ボロン酸の反応を11B NMRによりモニターして、ホウ素源を詳細に追跡した。
【0069】
ボロン酸のCH2Cl2中の懸濁液の11B NMRシフトはδ30.49 ppmであり、三量体生成物ボロキシン(PhBO)3に相当する;2当量のシクロヘキシルアミンを溶液に加えた後、溶液は透明になり、11B化学シフトは2つのシグナル:δ29.45 ppmの弱いピークおよびδ19.97 ppmの強いシグナルを示す(発明者らは、化学シフトに基づいて、これを3配位したホウ素中心に相当する中間物質IIであると決定した)。5 mol%のMOF199を加えて、混合物を1時間攪拌した後、分割量(aliquitor)に対して11B NMRをおこなった。先の2つのシグナルに加えて、δ3.69 ppmに第3のピークが観察された。生成物は単離されなかったが、この11B化学シフトは4配位したホウ素種の領域内にあるので、これは暫定的にホウ酸アニオンであると決定された。
【0070】
本発明の多くの実施形態を記載した。それでもなお、本発明の精神および範囲から逸脱することなく、さまざまな改変をおこなうことができることが理解されるであろう。したがって、他の実施形態は下記の特許請求の範囲に含まれる。
【0071】
さまざまな官能基を有する数種の代表的なアリールボロン酸のホモカップリング反応において銅MOFの活性を試験した(表2Aおよび2Bを参照されたい)。アリールボロン酸、トリエチルアミンおよびシクロヘキシルアミンを含む無水ジクロロメタンの溶液に、空気中で5.5 molパーセントのMOF触媒を加えた。比較のため、同じ銅パドルホイール単位および分子構造を有する非多孔性酢酸第二銅一水和物を同一の反応条件下で使用した。室温で攪拌しながら5時間反応をおこなった。MOFを用いたフェニルボロン酸およびtert-ブチルフェニルボロン酸のホモカップリングにより、最大47%の収率でビアリールが得られた。それに対して、酢酸第二銅は観察できる活性を示さなかった。ニトロ-、シアノ-、クロロ-、またはジメチルアミノ-フェニルボロン酸および2-ナフチルボロン酸のホモカップリングにおいて、MOF触媒の使用により最大92 %の収率が得られた。それに対して、酢酸第二銅を触媒としてこれらの反応をおこなった場合の収率は低かった(5%〜19%)。触媒量のMOFを存在させた結果として、明らかに最大15倍高い収率が得られた。
【表2】
【表3】
【0072】
濾過および新しいジクロロメタンによる洗浄の後、MOFを完全に回収し、活性の有意な損失なしに再使用することができる。それぞれのホモカップリングの後のMOFのPXRDパターンを測定して、元のものと比較した。明らかな変化またはシフトは観察されなかった。
【0073】
さらに、MOFを使用する4-シアノフェニルボロン酸のホモカップリングの反応を3回連続して実施した。図2および図11はすべてのサイクルを通してビアリールの収率が維持されていることを明白に示している。サイクルとサイクルの間にさらなる再活性化が必要ないことは注目に値することであり、これは工業規模での連続的生産において大きな可能性を提供するものである。さらに、完全に不均一な条件下で反応が起こるかどうかを決定するために、対照実験およびいくつかの浸出試験を実施した。第一に、同一の条件下でMOFを使用せずに対照実験を実施し、GC-MSおよび1H-NMRによりモニターしたところ、いずれのホモカップリングにおいても変換は観察されなかった。第2に、MOFにより触媒されるそれぞれの反応から濾液を回収して新しい反応物質と共に使用した場合、さらなる変換は観察されなかった。第3に、フェニルボロン酸のホモカップリングの後に回収された固体および液体の両方のFT-IRスペクトルを測定した。予想された通り、遊離カルボン酸のカルボニル伸縮は観察されず(図12および15)、これは反応全体を通してMOFネットワークが損なわれずに維持されていることを示している。また、カップリング反応を11B NMRを用いてモニターした。触媒サイクルおよびホモカップリング反応メカニズム中に存在するホウ素種に基づく。
【0074】
データは、貴金属に支配されるアリールボロン酸の酸化的ホモカップリング反応において、銅を含有するMOFが同等の収率を有する代替の触媒として作用し得ることを証明している。さらに重要なことは、置換ビアリールの系統的合成のための多用途で効率的な触媒の研究において、MOFの不均一系の性質がボロン酸のC-Cカップリングの新しい可能性を切り開く可能性があることである。この発見はまた、MOFが非常に優れた多孔性に加えて複雑さおよび官能性を導入することから、MOF化学の大きな可能性を示している。特に、独特に連結された活性中心により提供されるこのような複雑さは、その対応する分子においてこれまで見られなかった挙動をもたらす可能性がある。
【技術分野】
【0001】
本開示は、カップリング反応を触媒するための解放金属骨格の使用方法を提供する。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0002】
本開示は、カップリング反応を触媒するためのアクセス可能な金属部位(解放金属部位)を有する解放骨格を含む方法および組成物を提供する。本開示は、多座配位性有機または無機コアにより架橋された有機的連結により構築されるすべての解放骨格物質を含む。すべてのクラスの解放骨格物質:共有結合性有機骨格(COF)、ゼオライト型イミダゾレート骨格(ZIF)、金属有機多面体(MOP)および金属有機骨格(MOF)、ならびに網状化学構造資源の分野において記載されたすべての達成可能な網状形態が含まれる。
【0003】
本開示は貴金属系金属有機骨格(MOF)または金属有機多面体(MOP)、例えばCu系およびPd系骨格をビアリールのホモカップリング合成の触媒として使用する方法を提供する。最適化されていない条件下で、MOFおよび/またはMOP骨格の反応は最大95%の変換および最大90%の選択性を示す。MOFおよび/またはMOP触媒は化学的に安定であることが証明されており、長い間求められていた不均一系触媒特性を有する。
【0004】
一実施形態において、アリールボロン酸の貴金属に基づくホモカップリングによる置換ビアリールの合成が提供される。このような方法はゴンバーグ・バックマン(Gomberg-Bachman)反応によるアリールジアゾニウム塩の二量化およびウルマン(Ullmann)反応によるハロゲン化アリールのホモカップリングなどの従来の方法に取って代わるものである。
【0005】
本開示の方法および組成物は薬物前駆体合成の触媒および新規のアプローチの開発に使用することができる。
【0006】
本開示は、金属有機骨格(MOF)または金属有機多面体(MOP)とアリールボロン酸とを、MOFまたはMOPがホモカップリング反応によるビアリールの合成を触媒する条件下で接触させることを含む、ビアリールの合成方法を提供する。ある実施形態において、該方法はさらに酢酸第二銅を含み、MOFまたはMOPは金属銅を含む。さらに別の実施形態において、アリールボロン酸は、一般構造:
【化1】
【0007】
[式中、RはH、NO2、CN、Cl、t-Bu、N(CH3)2および置換または無置換ナフチルからなる群より選択される]
を有する。一実施形態において、ナフチルは、構造:
【化2】
【0008】
を有する。さらに別の実施形態において、MOFまたはMOPは、
【化3】
【0009】
[式中、R1〜R15は存在しても存在しなくてもよく、存在する場合には、-NH2、-CN、-OH、=O、=S、-SH、-P、-Br、-Cl、-I、-F、
【化4】
【0010】
(式中、Xは1、2、または3である)
からなる群より独立して選択される]
からなる群より選択される連結リガンドを含む。さらに別の実施形態において、連結部分は、
【化5】
【0011】
[式中、R1〜R3は存在しても存在しなくてもよく、存在する場合には、-H、-NH2、-CN、-OH、=O、=S、-SH、-P、-Br、-Cl、-I、-F、
【化6】
【0012】
(式中、Xは1、2、または3である)
からなる群より独立して選択される]
である。さらに別の実施形態において、MOFは銅を含む。特定の実施形態において、MOFはCu3(BTC)2(ここで、BTCはベンゼン-1,3,5-トリカルボキシレートである)を含む。別の実施形態において、MOFは、Cr(II)、Pb(II)、Mn(IV)、Ti(II)およびNi(II)からなる群より選択される金属を含む。
【0013】
本開示はまた、金属有機骨格(MOF)または金属有機多面体(MOP)およびアリールボロン酸を含む反応混合物を提供する。ある実施形態において、混合物はさらに酢酸第二銅を含む。ある実施形態において、アリールボロン酸は、一般構造:
【化7】
【0014】
[式中、RはH、NO2、CN、Cl、t-Bu、N(CH3)2および置換または無置換ナフチルからなる群より選択される]
を有する。一実施形態において、ナフチルは、構造:
【化8】
【0015】
を有する。さらに別の実施形態において、MOFまたはMOPは、
【化9】
【0016】
【0017】
[式中、R1〜R15は存在しても存在しなくてもよく、存在する場合には、-NH2、-CN、-OH、=O、=S、-SH、-P、-Br、-Cl、-I、-F、
【化10】
【0018】
(式中、Xは1、2、または3である)
からなる群より独立して選択される]
からなる群より選択される連結リガンドを含む。一実施形態において、連結部分は、
【化11】
【0019】
[式中、R1〜R3は存在しても存在しなくてもよく、存在する場合には、-H、-NH2、-CN、-OH、=O、=S、-SH、-P、-Br、-Cl、-I、-F、
【化12】
【0020】
(式中、Xは1、2、または3である)
からなる群より独立して選択される]
である。一実施形態において、MOFは銅を含む。特定の実施形態において、MOFはCu3(BTC)2(ここで、BTCはベンゼン-1,3,5-トリカルボキシレートである)を含む。さらに別の実施形態において、MOFは、Cr(II)、Pb(II)、Mn(IV)、Ti(II)およびNi(II)からなる群より選択される金属を含む。
【0021】
本発明の1つ以上の実施形態の詳細を、添付する図面および以下の詳細な説明に記載する。本発明の他の特徴、目的、および利点は詳細な説明および図面、ならびに特許請求の範囲から明らかになるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】結晶Cu3(BTC)2の原子連結性および構造を示す図である。(A) 合成時の(左)および活性化されたCu3(BTC)2骨格におけるCu部位;(B) BTC連結;(C) 合成時のCu3(BTC)2の構造;および(D)活性化されたCu3(BTC)2の構造。Cu、OおよびCを示す。明瞭化のためにすべてのH原子を省略した。
【図2】再利用されたCu3(BTC)2を用いた4-シアノフェニルボロン酸のホモカップリングの3回のサイクルについての収率の比較を示す図である。
【図3】Cu3(BTC)2により触媒される酸化的ホモカップリングの提案されるメカニズムを示す図である。
【図4】未使用のCu3(BTC)2(下)およびフェニルボロン酸のホモカップリング後のCu3(BTC)2(上)の実験的PXRDパターンの比較を示す図である。
【図5】未使用のCu3(BTC)2(下)および4-ニトロフェニルボロン酸のホモカップリング後のCu3(BTC)2(上)の実験的PXRDパターンの比較を示す図である。
【図6】未使用のCu3(BTC)2(下)および4-シアノフェニルボロン酸のホモカップリング後のCu3(BTC)2(上)の実験的PXRDパターンの比較を示す図である。
【図7】未使用のCu3(BTC)2(下)および4-クロロフェニルボロン酸のホモカップリング後のCu3(BTC)2(上)の実験的PXRDパターンの比較を示す図である。
【図8】未使用のCu3(BTC)2(下)および4-tert-ブチルフェニルボロン酸のホモカップリング後のCu3(BTC)2(上)の実験的PXRDパターンの比較を示す図である。
【図9】未使用のCu3(BTC)2(下)および4-(ジメチルアミノ)フェニルボロン酸のホモカップリング後のCu3(BTC)2(上)の実験的PXRDパターンの比較を示す図である。
【図10】未使用のCu3(BTC)2(下)および1-ナフチルボロン酸のホモカップリング後のCu3(BTC)2(上)の実験的PXRDパターンの比較を示す図である。
【図11】4-シアノフェニルボロン酸のホモカップリングの1回目のサイクル後のCu3(BTC)2(下)、2回目のサイクル後のCu3(BTC)2(中)、および3回目のサイクル後のCu3(BTC)2(上)の実験的PXRDパターンの比較を示す図である。
【図12】未使用のCu3(BTC)2のFT-IRスペクトルを示す図である。
【図13】ベンゼン-1,3,5-トリカルボン酸(BTC)のFT-IRスペクトルを示す図である。
【図14】フェニルボロン酸のホモカップリング後に回収された固体のFT-IRスペクトルを示す図である。
【図15】フェニルボロン酸のホモカップリング後に回収された液体のFT-IRスペクトルを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
詳細な説明
本明細書および添付される特許請求の範囲において使用される場合、単数形の「a」、「an」および「the」は、文脈上明白に他に指示されない限り、複数の指示対照を含む。すなわち、例えば、「骨格(a framework)」に対する言及は複数の前記骨格を含み、「金属(the metal)」に対する言及は1種以上の金属および当業者に公知のその同等物を含む、等である。
【0024】
また、「または」を使用する場合、他に表明しない場合には「および/または」を意味する。同様に、「含む(comprise, comprises, comprising, include, includes, including)」は交換可能に用いられ、限定することを意図しない。
【0025】
さらに、さまざまな実施形態の説明が用語「〜を含む」を使用する場合、当業者は、いくつかの特定の例において、一つの実施形態を、代替的に「本質的に〜からなる」または「〜からなる」という用語を使用して記載することができることを理解するであろう。
【0026】
他に定義されない限り、すべての技術用語および科学用語は、本開示が属する技術分野の当業者に一般に理解されるものと同じ意味を有する。本明細書において記載されるものと類似のまたは同等の方法および試薬を開示された方法および組成物の実施に使用することが可能であるが、ここでは典型的な方法および材料を記載する。
【0027】
本明細書において言及されるすべての刊行物は、前記刊行物に記載される方法論であって、本明細書の記載に関連して使用される可能性があるものの説明および開示を目的として、その全体を参照により本明細書に組み入れるものとする。上記で、および本文を通して考察される刊行物は、本出願の出願日以前のそれらの開示のみのために提供するものである。本明細書におけるいずれの記載も、発明者らが事前開示を理由としてこのような開示に先行する権利を与えられないことを認めるものであると解釈されるべきではない。
【0028】
官能基化されたビアリールの合成は、これらの化合物が天然産物、薬物および機能材料における最も重要な構造単位の1つであると考えられるため、最近大きな関心を集めており、重要性を有する分野となっている。貴金属触媒を用いるアリールボロン酸のホモカップリングは、対称なビアリールの合成の有用な方法であることが証明されている。効率的であるが、そのコストおよび安定性のために、多くの応用におけるPd系触媒の実現可能性は著しく限定されている。別の方法は高温(約200℃)を必要とするゴンバーグ・バックマン反応およびウルマン反応を使用するので、多くの官能基(-NO2および-CN)との適合性が厳しく限定されている。
【0029】
本開示は、MOFおよびMOP構造が、貴金属に支配される鈴木ホモカップリング反応の卓越した代替物として作用し、同等の収率および選択性を有することを実証する。また、MOF化学により非常に優れた多孔性と共に所望の複雑さおよび官能性が導入されるために、本開示の方法および組成物はMOF化学の大きな可能性を示すものである。特に、独特に連結された活性中心により提供される前記複雑さのために、その分子のカウンターパートと比較してこれまでに例のない好ましいパターンの挙動を示す。本触媒はまた、望まれるホモカップリング反応の副生成物であり、合成において同程度に価値のあるチャン・ラム(Chan-Lam)カップリングを可能にするように改変することも可能である。
【0030】
本開示は、選択されたMOF/MOP:MOF-5、MOF-177、MIL-53、MOF-199およびMOP-OH(Cuを含有する)の群を用いる本開示の方法および組成物を示す。その一方で、本開示の方法に利用することができる他のMOFおよびMOP骨格は本開示より明らかであろう。
【0031】
本開示は、触媒として金属を含有する金属有機骨格(MOF)、例えば、Cu3(BTC)2(ここで、BTCはベンゼン-1,3,5-トリカルボキシレートである)を用いるビアリールのホモカップリング合成の方法を提供する。最適化されていない条件下で、例えば、-H、-NO2、-CN、-Cl、-t-Buおよび-Me2Nにより官能基化されたアリールボロン酸、ならびに1-ナフチルボロン酸のホモカップリングにおいてこのMOF触媒を使用すると、最大92%の収率が得られる。MOF触媒は、その高い秩序を有する解放された構造に由来する不均一系触媒としての著しく優れた特質を示す。この特徴のために、その能力は均一系触媒と同等のものとなる。さらに、MOF触媒は、MOF構成要素に加えることが可能な変化に伴うすべての利点を有する。これらの利点および特質のいくつかについての説明を表1に示す。
【表1】
【0032】
このホモカップリング反応を促進するために他の遷移金属、例えば、Cr(II)、Pb(II)、Mn(IV)、Ti(II)およびNi(II)が使用されてきたが、効率的なターンオーバーを促進するためには別の共触媒および環境に有害な添加剤を加える必要がある。Cuを含有する化合物が、均一系条件下でいくつかのカップリング反応(例えばグレーサーカップリングおよびチャン・ラムカップリング)を触媒し、その結果として高い収率を達成できることが知られている。このような能力を不均一系触媒系において維持するためには、単分散の完全にアクセス可能な金属中心を有する明確に定義された多孔性構造を有する物質が必要である。MOFは非常に優れた多孔性および記録的な表面積(最大5,900 m2 g-1)を有する新しいクラスの多孔性結晶である。
【0033】
本開示の実施形態を説明するために、銅系MOFであるCu3(BTC)2をさまざまな酸化的ホモカップリング反応の触媒として使用した。図1に示す通り、このMOFの構造は銅パドルホイール二次構造単位(SBU)から構築されている。2個のベンゼントリカルボン酸(BTC)基からの12個のカルボキシレート酸素原子が、化学式単位の3個のCuイオンのそれぞれに対する4個の配位部位に結合する。それぞれの金属はCu-Cu軸に沿うアキシアルH2Oリガンドと共にその擬八面体配位圏を完成する。水分子は減圧下で加熱することにより容易に除去することができ(図1A)、それにより細孔を通して単分散された解放銅中心が得られる(図1D)。銅中心はルイス酸であることが示されており、それらはさまざまな分子により配位され得る。高度に多孔性の解放骨格の中のこのような解放金属中心は、最初のアミンの配位およびそれに続くトランスメタル化を加速し得る。
【0034】
図3はビアリールの合成におけるMOFの作用の提案されるメカニズムを表す。骨格中の銅パドルホイールが塩基により配位された後、O2により酸化されて触媒銅(III)種Iを形成する。Iとアリールボロン酸とのトランスメタル化により錯体IIが生じる。それに続く銅中心における還元的脱離により、チャン・ラムカップリング生成物R-NHR’および銅(I)種IVが生成する。一方、錯体IIとアリールボロン酸との第2のトランスメタル化によりIIIが製造され、次いでこれが還元的脱離反応により種IVおよびホモカップリング生成物R-Rを形成する。種IVの加水分解により中間体Vおよびホウ酸アニオンが形成される(3.69 ppmの11B NMRシフトにより証明される)[13]。Vの酸化反応により触媒活性種Iが再生されることによって触媒サイクルが完了する。
【0035】
上記の通り、銅(II)コアは連結リガンドまたは連結部分を用いて連結される。連結リガンドまたは連結部分は、下に記載する通りのいくつもの異なる化合物であってもよい。本明細書に提供される特定の実施例において、連結リガンド/部分はBTC化合物である。さらに、連結リガンド/部分は下記の通りにさらに官能基化されていてもよいことが理解されよう。
【0036】
本明細書において使用される場合、「コア」は骨格中に見いだされる繰り返し単位(単数または複数)を指す。このような骨格は均一な繰り返しコア構造または不均一な繰り返しコア構造を含み得る。コアは金属または金属クラスターおよび連結部分を含む。互いに連結された複数のコアにより骨格が規定される。
【0037】
用語「クラスター」は、2個以上の原子の識別可能な会合を指す。このような会合は、典型的には、いくつかのタイプの結合(イオン結合、共有結合、ファンデルワールス結合等)により確立される。
【0038】
「連結クラスター」とは、連結部分構造と金属基との間または連結部分構造と別の連結部分構造との間に結合を形成することができる原子を含む、縮合可能な1個以上の反応種を指す。このような種の例は、ホウ素、酸素、炭素、窒素、およびリン原子からなる群より選択される。ある実施例において、連結クラスターは、架橋酸素原子と連結を形成することができる1以上の異なる反応種を含み得る。例えば、連結クラスターは、CO2H、CS2H、NO2、SO3H、Si(OH)3、Ge(OH)3、Sn(OH)3、Si(SH)4、Ge(SH)4、Sn(SH)4、PO3H、AsO3H、AsO4H、P(SH)3、As(SH)3、CH(RSH)2、C(RSH)3、CH(RNH2)2、C(RNH2)3、CH(ROH)2、C(ROH)3、CH(RCN)2、C(RCN)3、CH(SH)2、C(SH)3、CH(NH2)2、C(NH2)3、CH(OH)2、C(OH)3、CH(CN)2、およびC(CN)3 [式中、Rは1〜5個の炭素原子を有するアルキル基、または1〜2個のフェニル環を含むアリール基である]を含み得る。
【0039】
「連結部分」とは、連結クラスターを介して、それぞれ金属または複数の金属を結合する単座または多座化合物を指す。一般に、連結部分は、1〜20個の炭素原子を含むアルキルまたはシクロアルキル基、1〜5個のフェニル環を含むアリール基、あるいは1〜20個の炭素原子を含むアルキルもしくはシクロアルキル基または1〜5個のフェニル環を含むアリール基を含むアルキルアミンまたはアリールアミンを有する部分構造を含み、ここで、連結クラスターは該部分構造に共有結合している。シクロアルキルまたはアリール部分構造は1〜5個の環を含んでよく、これらの環は、環を形成する原子として炭素のみを含むか、炭素と窒素、酸素、硫黄、ホウ素、リン、ケイ素および/またはアルミニウム原子との混合物を含むかのいずれかである。典型的には、連結部分は、1個以上の共有結合したカルボン酸連結クラスターを有する下部構造を含むであろう。
【0040】
本明細書において使用される場合、化学式中の、一方の端に原子を有し、他方の端に何もない線は、その式が、原子が結合していない方の末端に別のものが結合している化学断片を指すことを意味する。場合により、強調するために線を波線で遮る。
【0041】
一実施形態において、連結部分の部分構造は、下記:
【化13】
【0042】
【0043】
[式中、R1〜R15は存在しても存在しなくてもよく、存在する場合、-NH2、-CN、-OH、=O、=S、-SH、-P、-Br、-Cl、-I、-F、
【化14】
【0044】
(式中、Xは1、2、または3である)
からなる群より独立して選択される]
のいずれかより選択される。
【0045】
いくつかの実施形態において、触媒に使用される骨格はゼオライト構造を有する。このような実施形態において、有機連結は、典型的には、5員環の1位および3位に窒素を有する少なくとも1個の5員環を含み、これが2個の金属イオンとの間に連結部分または架橋を形成する。イミダゾール環はさらに官能基化されてベンズイミダゾール、トリアゾール、ベンゾトリアゾール、テトラゾール、グアニン、キサンチンおよびヒポキサンチン誘導体を形成してもよい。例えば、本開示の触媒骨格の形成に以下の連結部分を使用することができる。
【化15】
【0046】
[式中、R〜R4は、-H、-NH2、-COOH、-CN、-NO2、-F、-Cl、-Br、-S、-O、-SH、-SO3H、-PO3H2、-OH、-CHO、-CS2H、-SO3H、-Si(OH)3、-Ge(OH)3、-Sn(OH)3、-Si(SH)4、-Ge(SH)4、-Sn(SH)4、-PO3H、-AsO3H、-AsO4H、-P(SH)3、-As(SH)3、-CH(RSH)2、C(RSH)3、-CH(RNH2)2、-C(RNH2)3、-CH(ROH)2、-C(ROH)3、CH(RCN)2、-C(RCN)3、
【化16】
【0047】
である]
さらに別の実施形態において、部分構造は、置換もしくは無置換芳香環、置換もしくは無置換芳香族複素環、置換もしくは無置換非芳香族環、置換もしくは無置換非芳香族複素環、または置換もしくは無置換炭化水素基を含み得る。飽和もしくは不飽和炭化水素基は1個以上のヘテロ原子を含んでもよい。例えば、連結部分は以下の構造:
【化17】
【0048】
【0049】
[式中、A1、A2、A3、A4、A5、およびA6はそれぞれ独立して、存在しないか、安定な環構造を形成することができる原子または基であり、R1、R2、R3、R4、R5、R6、R7、R8、R9、R10、R11、R12、R13、R14、R15、およびR16はそれぞれ独立して、H、アルキル、アリール、OH、アルコキシ、アルケン、アルキン、フェニルおよび前述の置換フェニル、硫黄含有基(例えばチオアルコキシ)、ケイ素含有基、窒素含有基(例えばアミド)、酸素含有基(例えば、ケトンおよびアルデヒド)、ハロゲン、ニトロ、アミノ、シアノ、ホウ素含有基、リン含有基、カルボン酸、またはエステルである]
を含み得る。一実施形態において、R1、R2、R3、R4はそれぞれ独立して、NH2、CN、OH、=O、=S、SH、P、Br、CL、I、F、
【化18】
【0050】
[式中、Xは1、2、または3である]
からなる群より選択される。
【0051】
適切な反応基を有する前記連結部分はすべて、好適な反応物質により骨格合成後に変換し、骨格をさらに官能基化することができる。合成後に骨格内の有機連結を修飾することにより、そこに存在する、以前はアクセス不可能であったか、アクセスに大きな困難および/または費用を伴った官能基へのアクセスが可能かつ容易になる。骨格合成後の反応物質としては、すべての公知の有機変換およびそのそれぞれの反応物質;N、S、Oなどの原子を含む官能基を有する1〜20個の炭素からなる環が挙げられる。官能基と、または前から存在する官能基と新しく加えた官能基との組合せと、キレート化し、それらを付加することが可能なすべての金属も挙げられる。例えば不均一系触媒として使用するための骨格への有機金属錯体の連結をもたらすすべての反応も挙げられる。
【0052】
骨格合成後の反応物質とは、すべての有機反応物質を指す。N、S、O、およびPなどの原子を含む官能基を有する1〜20個の炭素からなる環が有用である。さらに、官能基と、または前から存在する官能基と新しく加えた官能基との組合せと、キレート化し、付加することが可能な金属および金属含有化合物も有用である。例えば不均一系触媒として使用するための骨格への有機金属錯体の連結をもたらす反応を使用することができる。例えば、連結剤中の反応性の側基をアルコールに変換した後、該基をアルカリ土類金属と反応させて金属アルコキシドを生成する反応が提供される。
【0053】
骨格合成後の反応物質の例としては複素環化合物が含まれるが、これらに限定されない。一実施形態において、骨格合成後の反応物質は飽和または不飽和複素環である。用語「複素環」は、単独でまたは接尾辞もしくは接頭辞として用いられる場合、環構造の一部としてN、OおよびSより独立して選択される1個以上の多価ヘテロ原子を有し、かつ環に3〜約20個の原子を有する、環を含む構造または分子を指す。複素環は飽和または不飽和(1以上の二重結合を有する)であってよく、また、複素環は2個以上の環を有してもよい。複素環が2個以上の環を有する場合、環は縮合環または非縮合環であってよい。一般に、縮合環とは、2個の原子を共有する少なくとも2個の環を指す。複素環は芳香族性を有してもよく、芳香族性を持たなくてもよい。用語「複素環基」、「複素環部分」、「ヘテロシクリック」、または「ヘテロシクロ」は、単独でまたは接尾辞もしくは接頭辞として用いられる場合、複素環から1個以上の水素を除去することにより誘導される基を指す。用語「ヘテロシクリル」は、単独でまたは接尾辞もしくは接頭辞として用いられる場合、複素環から1個の水素を除去することにより誘導される1価の基を指す。用語「ヘテロアリール」は、単独でまたは接尾辞もしくは接頭辞として用いられる場合、芳香族性を有するヘテロシクリルを指す。複素環としては、例えば、アジリジン、オキシラン、チイラン、アゼチジン、オキセタン、チエタン、ピロリジン、ピロリン、イミダゾリジン、ピラゾリジン、ピラゾリン、ジオキソラン、スルホラン、2,3-ジヒドロフラン、2,5-ジヒドロフラン、テトラヒドロフラン、チオファン、ピペリジン、1,2,3,6-テトラヒドロピリジン、ピペラジン、モルホリン、チオモルホリン、ピラン、チオピラン、2,3-ジヒドロピラン、テトラヒドロピラン、1,4-ジヒドロピリジン、1,4-ジオキサン、1,3-ジオキサン、ジオキサン、ホモピペリジン、2,3,4,7-テトラヒドロ-1H-アゼピン、ホモピペラジン、1,3-ジオキセパン、4,7-ジヒドロ-1,3-ジオキセピン、およびヘキサメチレンオキシドなどの単環式複素環が挙げられる。例えば、本開示の方法に有用な複素環としては、
【化19】
【0054】
が挙げられる。
【0055】
さらに、複素環としては、芳香族複素環(ヘテロアリール基)、例えば、ピリジン、ピラジン、ピリミジン、ピリダジン、チオフェン、フラン、フラザン、ピロール、イミダゾール、チアゾール、オキサゾール、ピラゾール、イソチアゾール、イソキサゾール、1,2,3-トリアゾール、テトラゾール、1,2,3-チアジアゾール、1,2,3-オキサジアゾール、1,2,4-トリアゾール、1,2,4-チアジアゾール、1,2,4-オキサジアゾール、1,3,4-トリアゾール、1,3,4-チアジアゾール、および1,3,4-オキサジアゾールが挙げられる。
【0056】
骨格を反応種と反応させることにより骨格に合成後修飾をおこなうことができる。例えば、連結部分の側基が、例えばNH2を含む場合、アジリジン含有化合物との反応により、反応種の開環が起こる。この反応は一般に以下の通りに表される。
【化20】
【0057】
このような方法を用いて、変化をもたらし、官能基化された骨格を生成することができる。上に示した通り、連結部分とアジリジンとの反応により、連結部分への側基の付加が起こる。このような骨格において、骨格の細孔の中に反応性側基を延長することにより、細孔の大きさまたは電荷を改変することができる。
【0058】
本開示の骨格の調製は、水性系または非水性系のいずれかで実施することができる。場合により、溶媒は極性または非極性であり得る。溶媒はテンプレート剤または場合により単座官能基を有するリガンドを含んでもよい。非水性溶媒の例としてはn-アルカン、例えばペンタン、ヘキサン、ベンゼン、トルエン、キシレン、クロロベンゼン、ニトロベンゼン、シアノベンゼン、アニリン、ナフタレン、ナフサ、n-アルコール、例えばメタノール、エタノール、n-プロパノール、イソプロパノール、アセトン、1,3-ジクロロエタン、塩化メチレン、クロロホルム、四塩化炭素、テトラヒドロフラン、ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド、N-メチルピロリドン、ジメチルアセトアミド、ジエチルホルムアミド、チオフェン、ピリジン、エタノールアミン、トリエチルアミン、エチレンジアミン等が挙げられる。当業者は出発反応物質に基づいて適切な溶媒を容易に決定できるであろうし、本開示の物質を得るために溶媒の選択が決定的であるとは考えられない。
【0059】
本開示の方法においてテンプレート剤を使用することができる。本開示において使用されるテンプレート剤は、得られる結晶性基本骨格において細孔の中を占有する目的で反応混合物に加えるものである。本開示のいくつかの変化形において、空間充填剤、吸収された化学種およびゲスト種により金属有機骨格の表面積を増大させる。好適な空間充填剤としては、例えば、(i)アルキルアミンおよびそれに対応するアルキルアンモニウム塩(1〜20個の炭素原子を有する直鎖、分枝鎖、または環状脂肪族基を含む);(ii)アリールアミンおよびそれに対応するアリールアンモニウム塩(1〜5個のフェニル環を有する);(iii)アルキルホスホニウム塩(1〜20個の炭素原子を有する直鎖、分枝鎖、または環状脂肪族基を含む);(iv)アリールホスホニウム塩(1〜5個のフェニル環を有する);(v)アルキル有機酸およびそれに対応する塩(1〜20個の炭素原子を有する直鎖、分枝鎖、または環状脂肪族基を含む);(vi)アリール有機酸およびそれに対応する塩(1〜5個のフェニル環を含む);(vii)脂肪族アルコール(1〜20個の炭素原子を有する直鎖、分枝鎖、または環状脂肪族基を含む);または(viii)アリールアルコール(1〜5個のフェニル環を含む)からなる群より選択される成分が挙げられる。
【0060】
結晶化は、溶液を室温で、または300℃までの温度の恒温オーブン中で放置すること;希塩基を溶液に加えて結晶化を開始すること;希塩基を溶液中に拡散させて結晶化を開始すること;および/または溶液を密閉容器に移し、所定の温度に加熱することにより実施することができる。
【0061】
本開示の骨格は、図3に記載および図示される触媒作用を実施するために、種々の装置および系において使用することができる。カップリング(例えば、ホモカップリング)をおこなう試薬を含む反応容器にMOFおよび/またはMOP組成物を加えることができる。例えば、カップリングをおこなうアリールボロン酸を含む反応混合物にMOF-199を加えて反応を進行させる。ある実施形態において、試薬のホモカップリングを触媒するMOFおよび/またはMOPを含むカラムに反応混合物を通すことができる。別の実施形態において、反応容器を攪拌または混合することができる。本明細書の別の部分に記載した通り、MOFおよび/またはMOPは再使用することができる。ある実施形態において、反応を室温で実施する。別の実施形態において、反応を室温で攪拌しながら実施する。濾過して、新しいジクロロメタンにより洗浄した後、MOFを完全に回収し、活性の有意な損失を伴わずに再使用することができる。
【0062】
以下の実施例は本開示を説明することを目的とするものであって、限定を目的とするものではない。それらは使用し得る典型例であるが、それに代えて当業者に公知の他の方法を使用してもよい。
【実施例】
【0063】
MOF-199 (Basolite C300, Aldrich)、シクロヘキシルアミン、トリエチルアミン、フェニルボロン酸、4-ニトロフェニルボロン酸、4-シアノフェニルボロン酸、4-クロロフェニルボロン酸、4-tert-ブチルフェニルボロン酸(4-ter-burlyphenylboronic acid)、4-(ジメチルアミノ)-フェニルボロン酸、ナフタレン-1-ボロン酸および1,3,5-トリメトキシベンゼンはAldrich Chemical Co.より購入した。
【0064】
一般的なホモカップリング反応手順
Cu3(BTC)2 (Basolite C300、BASF製、www.mof.basf.com、Aldrichカタログ番号:688614)、シクロヘキシルアミン、トリエチルアミン、フェニルボロン酸、4-ニトロフェニルボロン酸、4-シアノフェニルボロン酸、4-クロロフェニルボロン酸、4-tert-ブチルフェニルボロン酸、4-(ジメチルアミノ)-フェニルボロン酸、ナフチル-1-ボロン酸および1,3,5-トリメトキシベンゼンはAldrich Chemical Coより購入した。ジクロロメタンはFisher Scientific International Incより購入した。すべての出発物質はそれ以上精製せずに使用した。すべての実験操作は、他に記載しない限り空気中で実施した。アリールボロン酸、(3.01 mmol)、シクロヘキシルアミン(0.248 g、286μL、2.51 mmol)およびトリエチルアミン(0.253 g、348μL、2.49 mmol)の混合物をあらかじめ混合し、50 mLの丸底フラスコ中で20 mLのジクロロメタンに溶解した。次に、MOF(0.100 g、0.165 mmol、0.495 mmol Cu(II))または酢酸第二銅一水和物(Cu(OAc)2・H2O、0.100 g、0.501 mmol)を溶液に加えた。混合物を室温で5時間攪拌した後、濾過し、新しいジクロロメタンにより洗浄した。次に、濾液中の過剰なジクロロメタンをロータリーエバポレーターにより除去した。1H NMRの内部標準として濾液に1,3,5-トリメトキシベンゼン(0.168 g、1.00 mmol)を加えた。すべての生成物の1H NMRの化学シフトは文献のデータと十分に一致した。
【0065】
ビフェニル:MOFを使用した場合、収率47%のビフェニル(フェニルボロン酸に対して)が得られた;酢酸第二銅一水和物の場合にはビフェニル生成物は形成されなかった。GC-MS, m/z+ 154.1;4,4’-ジニトロビフェニル:MOFおよび酢酸第二銅一水和物を使用した場合、それぞれ収率87%および18%の4,4’-ジニトロビフェニル(4-ニトロフェニルボロン酸に対して)が得られた。GC-MS, m/z+ 244.2;ビフェニル-4,4’-ジカルボニトリル:MOFおよび酢酸第二銅一水和物の存在下で、それぞれ収率92%および19%のビフェニル-4,4’-ジカルボニトリル(4-シアノフェニルボロン酸に対して)が得られた。第2および第3サイクルにおいて、それぞれ1.34 mmol(収率:90%)および1.35 mmol(収率:92%)のビフェニル-4,4’-ジカルボニトリルが観察された。GC-MS, m/z+ 204.1;4,4’-ジクロロビフェニル:MOFおよび酢酸第二銅一水和物の存在下で、それぞれ収率81%および8%の4,4’-ジクロロビフェニル(4-クロロフェニルボロン酸に対して)が得られた。GC-MS, m/z+ 223.1;4,4’-ジ-tert-ブチルビフェニル:MOFを使用した場合には収率25%の4,4’-ジ-tert-ブチルビフェニル(4-tert-ブチルフェニルボロン酸に対して)が得られたが、酢酸第二銅一水和物の場合には全く形成されなかった。GC-MS, m/z+ 266.1;N,N,N’,N’-テトラメチルジフェニル-4,4’-ジアミン:MOFおよび酢酸第二銅一水和物を使用した場合、それぞれ収率43%および5%のN,N,N’,N’-テトラメチルジフェニル-4,4’-ジアミン(4-(ジメチルアミノ)-フェニルボロン酸に対して)が得られた。GC-MS, m/z+ 240.1;1,1’-ビナフチル:MOFおよび酢酸第二銅一水和物を使用した場合、それぞれ収率90%および6%の1,1’-ビナフチル(ナフタリル-1-ボロン酸に対して)が得られた。GC-MS, m/z+ 254.2。
【0066】
Bruker D8-Discoverθ-2θ回折計を用いて、反射率ブラッグ・ブレンターノ光学系で粉末X線回折(PXRD)データを集めた。Kα線に乗せたプラナーGobel鏡(a planer Gobel Mirror riding the Kα line)を用いてCu Kα放射(λ = 1.5406Å;1,600 W、40 kV、40 mA)を収束させた。すべての測定に0.6 mm発散スリットを使用した。回折された放射線をNiモノクロメータを装備したVantec線検出器(Bruker AXS)(6°2θサンプリング幅)を用いて検出した。バルク中の単分散性を確保するためにすべてのサンプルを粉砕した後、粉末を落とすことによりサンプルホルダー上に固定したスライドガラス上に載せ、次いで幅広スパチュラによりサンプル表面を平らにした。ステップあたり0.4秒の露出時間で1〜50°の0.02°2θステップスキャンを用いることにより最良のカウント統計が達成された。ホモカップリング前および後の両方のCu3(BTC)2について集められた回折パターンを図4〜10に示す。また、3サイクル後のCu3(BTC)2の粉末パターンを図11に示す。
【0067】
ベンジルトリカルボン酸(BTC)およびCu3(BTC)2(未使用のものおよびカップリング反応後のもの)のFT-IRスペクトルを、KBrペレットとして、Nicolet 400 Impact分光計を用いて得た。カップリング反応後に回収された液体のFT-IRを、二枚の透明なKBr結晶プレート上で実施した。図12および13に示す通り、Cu3(BTC)2中のカルボキシレートのC=O伸縮は1653 cm-1に吸収を有するのに対して、BTCにおける遊離カルボン酸のC=O伸縮は1734 cm-1に吸収を有し、これは配位していないカルボキシル基の存在を示す強い特徴的なピークである。回収されたCu3(BTC)2固体は、図14に示す通り、分解による遊離カルボン酸がCu3(BTC)2骨格に捕捉されていないことを明白に示した。さらに、図15は、BTCが溶液中に浸出していないことを示している。これらの化合物の間のIRスペクトルの関係に関するこの考察は、カップリング反応を通してMOFが損なわれないことを支持するものとして提供されるものである。
【0068】
1Hおよび11B NMRスペクトルを、それぞれBruke ARX 400およびARX 500装置を用いて295Kで記録した(1H, 400 MHz; 11B, 160 MHz)。1H化学シフトの値は、SiMe4 (δ 0 ppm)に対する100万分の1(ppm)で報告される。11B化学シフトの値は、BF3・Et2O (δ 0 ppm)に対するppmで報告される。11B NMRによるモニター反応:ボロン酸の反応を11B NMRによりモニターして、ホウ素源を詳細に追跡した。
【0069】
ボロン酸のCH2Cl2中の懸濁液の11B NMRシフトはδ30.49 ppmであり、三量体生成物ボロキシン(PhBO)3に相当する;2当量のシクロヘキシルアミンを溶液に加えた後、溶液は透明になり、11B化学シフトは2つのシグナル:δ29.45 ppmの弱いピークおよびδ19.97 ppmの強いシグナルを示す(発明者らは、化学シフトに基づいて、これを3配位したホウ素中心に相当する中間物質IIであると決定した)。5 mol%のMOF199を加えて、混合物を1時間攪拌した後、分割量(aliquitor)に対して11B NMRをおこなった。先の2つのシグナルに加えて、δ3.69 ppmに第3のピークが観察された。生成物は単離されなかったが、この11B化学シフトは4配位したホウ素種の領域内にあるので、これは暫定的にホウ酸アニオンであると決定された。
【0070】
本発明の多くの実施形態を記載した。それでもなお、本発明の精神および範囲から逸脱することなく、さまざまな改変をおこなうことができることが理解されるであろう。したがって、他の実施形態は下記の特許請求の範囲に含まれる。
【0071】
さまざまな官能基を有する数種の代表的なアリールボロン酸のホモカップリング反応において銅MOFの活性を試験した(表2Aおよび2Bを参照されたい)。アリールボロン酸、トリエチルアミンおよびシクロヘキシルアミンを含む無水ジクロロメタンの溶液に、空気中で5.5 molパーセントのMOF触媒を加えた。比較のため、同じ銅パドルホイール単位および分子構造を有する非多孔性酢酸第二銅一水和物を同一の反応条件下で使用した。室温で攪拌しながら5時間反応をおこなった。MOFを用いたフェニルボロン酸およびtert-ブチルフェニルボロン酸のホモカップリングにより、最大47%の収率でビアリールが得られた。それに対して、酢酸第二銅は観察できる活性を示さなかった。ニトロ-、シアノ-、クロロ-、またはジメチルアミノ-フェニルボロン酸および2-ナフチルボロン酸のホモカップリングにおいて、MOF触媒の使用により最大92 %の収率が得られた。それに対して、酢酸第二銅を触媒としてこれらの反応をおこなった場合の収率は低かった(5%〜19%)。触媒量のMOFを存在させた結果として、明らかに最大15倍高い収率が得られた。
【表2】
【表3】
【0072】
濾過および新しいジクロロメタンによる洗浄の後、MOFを完全に回収し、活性の有意な損失なしに再使用することができる。それぞれのホモカップリングの後のMOFのPXRDパターンを測定して、元のものと比較した。明らかな変化またはシフトは観察されなかった。
【0073】
さらに、MOFを使用する4-シアノフェニルボロン酸のホモカップリングの反応を3回連続して実施した。図2および図11はすべてのサイクルを通してビアリールの収率が維持されていることを明白に示している。サイクルとサイクルの間にさらなる再活性化が必要ないことは注目に値することであり、これは工業規模での連続的生産において大きな可能性を提供するものである。さらに、完全に不均一な条件下で反応が起こるかどうかを決定するために、対照実験およびいくつかの浸出試験を実施した。第一に、同一の条件下でMOFを使用せずに対照実験を実施し、GC-MSおよび1H-NMRによりモニターしたところ、いずれのホモカップリングにおいても変換は観察されなかった。第2に、MOFにより触媒されるそれぞれの反応から濾液を回収して新しい反応物質と共に使用した場合、さらなる変換は観察されなかった。第3に、フェニルボロン酸のホモカップリングの後に回収された固体および液体の両方のFT-IRスペクトルを測定した。予想された通り、遊離カルボン酸のカルボニル伸縮は観察されず(図12および15)、これは反応全体を通してMOFネットワークが損なわれずに維持されていることを示している。また、カップリング反応を11B NMRを用いてモニターした。触媒サイクルおよびホモカップリング反応メカニズム中に存在するホウ素種に基づく。
【0074】
データは、貴金属に支配されるアリールボロン酸の酸化的ホモカップリング反応において、銅を含有するMOFが同等の収率を有する代替の触媒として作用し得ることを証明している。さらに重要なことは、置換ビアリールの系統的合成のための多用途で効率的な触媒の研究において、MOFの不均一系の性質がボロン酸のC-Cカップリングの新しい可能性を切り開く可能性があることである。この発見はまた、MOFが非常に優れた多孔性に加えて複雑さおよび官能性を導入することから、MOF化学の大きな可能性を示している。特に、独特に連結された活性中心により提供されるこのような複雑さは、その対応する分子においてこれまで見られなかった挙動をもたらす可能性がある。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属有機骨格(MOF)または金属有機多面体(MOP)とアリールボロン酸化合物とを、MOFまたはMOPがホモカップリング反応によるビアリールの合成を触媒する条件下で接触させることを含む、ビアリールを合成する方法。
【請求項2】
前記方法がさらに酢酸第二銅を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
アリールボロン酸が、一般構造:
【化1】
[式中、Rは、H、NO2、CN、Cl、t-Bu、N(CH3)2および置換または無置換ナフチルからなる群より選択される]
を有する、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
ナフチルが、構造:
【化2】
を有する、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
MOFまたはMOPが、
【化3】
[式中、R1〜R15は存在しても存在しなくてもよく、存在する場合、-NH2、-CN、-OH、=O、=S、-SH、-P、-Br、-Cl、-I、-F、
【化4】
(式中、Xは1、2、または3である)
からなる群より独立して選択される]
からなる群より選択される連結リガンドを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
連結部分が、
【化5】
[式中、R1〜R3は存在しても存在しなくてもよく、存在する場合、-H、-NH2、-CN、-OH、=O、=S、-SH、-P、-Br、-Cl、-I、-F、
【化6】
(式中、Xは1、2、または3である)
からなる群より独立して選択される]
である、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
MOFが銅を含む、請求項5または6に記載の方法。
【請求項8】
MOFがCu3(BTC)2(ここで、BTCはベンゼン-1,3,5-トリカルボキシレートである)を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項9】
MOFが、Cr(II)、Pb(II)、Mn(IV)、Ti(II)およびNi(II)からなる群より選択される金属を含む、請求項5または6に記載の方法。
【請求項10】
金属有機骨格(MOF)または金属有機多面体(MOP)およびアリールボロン酸を含む反応混合物。
【請求項11】
混合物がさらに酢酸第二銅を含む、請求項10に記載の反応混合物。
【請求項12】
アリールボロン酸が、一般構造:
【化7】
[式中、Rは、H、NO2、CN、Cl、t-Bu、N(CH3)2および置換または無置換ナフチルからなる群より選択される]
を有する、請求項10に記載の反応混合物。
【請求項13】
ナフチルが、構造
【化8】
を有する、請求項12に記載の反応混合物。
【請求項14】
MOFまたはMOPが、
【化9】
[式中、R1〜R15は存在しても存在しなくてもよく、存在する場合、-NH2、-CN、-OH、=O、=S、-SH、-P、-Br、-Cl、-I、-F、
【化10】
(式中、Xは1、2、または3である)
からなる群より独立して選択される]
からなる群より選択される連結リガンドを含む、請求項13に記載の反応混合物。
【請求項15】
連結部分が、
【化11】
[式中、R1〜R3は存在しても存在しなくてもよく、存在する場合、-H、-NH2、-CN、-OH、=O、=S、-SH、-P、-Br、-Cl、-I、-F、
【化12】
(式中、Xは1、2、または3である)
からなる群より独立して選択される]
である、請求項14に記載の反応混合物。
【請求項16】
MOFが銅を含む、請求項14または15に記載の反応混合物。
【請求項17】
MOFがCu3(BTC)2(ここで、BTCはベンゼン-1,3,5-トリカルボキシレートである)を含む、請求項10に記載の反応混合物。
【請求項18】
MOFが、Cr(II)、Pb(II)、Mn(IV)、Ti(II)およびNi(II)からなる群より選択される金属を含む、請求項14または15に記載の反応混合物。
【請求項1】
金属有機骨格(MOF)または金属有機多面体(MOP)とアリールボロン酸化合物とを、MOFまたはMOPがホモカップリング反応によるビアリールの合成を触媒する条件下で接触させることを含む、ビアリールを合成する方法。
【請求項2】
前記方法がさらに酢酸第二銅を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
アリールボロン酸が、一般構造:
【化1】
[式中、Rは、H、NO2、CN、Cl、t-Bu、N(CH3)2および置換または無置換ナフチルからなる群より選択される]
を有する、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
ナフチルが、構造:
【化2】
を有する、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
MOFまたはMOPが、
【化3】
[式中、R1〜R15は存在しても存在しなくてもよく、存在する場合、-NH2、-CN、-OH、=O、=S、-SH、-P、-Br、-Cl、-I、-F、
【化4】
(式中、Xは1、2、または3である)
からなる群より独立して選択される]
からなる群より選択される連結リガンドを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
連結部分が、
【化5】
[式中、R1〜R3は存在しても存在しなくてもよく、存在する場合、-H、-NH2、-CN、-OH、=O、=S、-SH、-P、-Br、-Cl、-I、-F、
【化6】
(式中、Xは1、2、または3である)
からなる群より独立して選択される]
である、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
MOFが銅を含む、請求項5または6に記載の方法。
【請求項8】
MOFがCu3(BTC)2(ここで、BTCはベンゼン-1,3,5-トリカルボキシレートである)を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項9】
MOFが、Cr(II)、Pb(II)、Mn(IV)、Ti(II)およびNi(II)からなる群より選択される金属を含む、請求項5または6に記載の方法。
【請求項10】
金属有機骨格(MOF)または金属有機多面体(MOP)およびアリールボロン酸を含む反応混合物。
【請求項11】
混合物がさらに酢酸第二銅を含む、請求項10に記載の反応混合物。
【請求項12】
アリールボロン酸が、一般構造:
【化7】
[式中、Rは、H、NO2、CN、Cl、t-Bu、N(CH3)2および置換または無置換ナフチルからなる群より選択される]
を有する、請求項10に記載の反応混合物。
【請求項13】
ナフチルが、構造
【化8】
を有する、請求項12に記載の反応混合物。
【請求項14】
MOFまたはMOPが、
【化9】
[式中、R1〜R15は存在しても存在しなくてもよく、存在する場合、-NH2、-CN、-OH、=O、=S、-SH、-P、-Br、-Cl、-I、-F、
【化10】
(式中、Xは1、2、または3である)
からなる群より独立して選択される]
からなる群より選択される連結リガンドを含む、請求項13に記載の反応混合物。
【請求項15】
連結部分が、
【化11】
[式中、R1〜R3は存在しても存在しなくてもよく、存在する場合、-H、-NH2、-CN、-OH、=O、=S、-SH、-P、-Br、-Cl、-I、-F、
【化12】
(式中、Xは1、2、または3である)
からなる群より独立して選択される]
である、請求項14に記載の反応混合物。
【請求項16】
MOFが銅を含む、請求項14または15に記載の反応混合物。
【請求項17】
MOFがCu3(BTC)2(ここで、BTCはベンゼン-1,3,5-トリカルボキシレートである)を含む、請求項10に記載の反応混合物。
【請求項18】
MOFが、Cr(II)、Pb(II)、Mn(IV)、Ti(II)およびNi(II)からなる群より選択される金属を含む、請求項14または15に記載の反応混合物。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【公表番号】特表2013−500345(P2013−500345A)
【公表日】平成25年1月7日(2013.1.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−522962(P2012−522962)
【出願日】平成22年7月27日(2010.7.27)
【国際出願番号】PCT/US2010/043373
【国際公開番号】WO2011/014503
【国際公開日】平成23年2月3日(2011.2.3)
【出願人】(500445295)ザ レジェンツ オブ ザ ユニヴァースティ オブ カリフォルニア (28)
【出願人】(508020155)ビーエーエスエフ ソシエタス・ヨーロピア (2,842)
【氏名又は名称原語表記】BASF SE
【住所又は居所原語表記】D−67056 Ludwigshafen, Germany
【Fターム(参考)】
【公表日】平成25年1月7日(2013.1.7)
【国際特許分類】
【出願日】平成22年7月27日(2010.7.27)
【国際出願番号】PCT/US2010/043373
【国際公開番号】WO2011/014503
【国際公開日】平成23年2月3日(2011.2.3)
【出願人】(500445295)ザ レジェンツ オブ ザ ユニヴァースティ オブ カリフォルニア (28)
【出願人】(508020155)ビーエーエスエフ ソシエタス・ヨーロピア (2,842)
【氏名又は名称原語表記】BASF SE
【住所又は居所原語表記】D−67056 Ludwigshafen, Germany
【Fターム(参考)】
[ Back to top ]