説明

高反応性炭材の製造方法、高反応性炭材、および含炭塊成鉱の使用方法

【課題】通常のコークス、バイオマスチャー等の炭材を使用して、簡便に反応性の高い炭材を製造できる、銑鉄製造用の高反応性炭材の製造方法、高反応性炭材、および含炭塊成鉱の使用方法を提供する。
【解決手段】製鉄所圧延工程から排出される酸洗廃液を噴霧焙焼して製造される超微粒酸化鉄粉を、炭材と容器内転動混合させることで炭材表面に被覆させ、高反応性炭材を製造する。製造された高反応性炭材を、製鉄原料である含炭塊成鉱に使用することで高速還元体を製造する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、銑鉄を製造する高炉プロセスにおける製鉄原料である含炭塊成鉱中の高反応性炭材の製造方法、高反応性炭材、および含炭塊成鉱の使用方法に関する。特に、炭材に対する鉄触媒担持法に関する。本発明は、炭材の反応性を向上するものである。
【背景技術】
【0002】
地球温暖化の要因として、化石燃料に由来する二酸化炭素の排出が問題となっており、二酸化炭素排出量の削減が求められている。特に鉄鋼業、その中でも製銑製造プロセスにおける二酸化炭素排出量が問題となっており、高炉に投入する還元材の削減が求められている。
【0003】
この様な背景のもと、高炉における製鉄原料の改善が試みられており、高反応性の炭材であるフェロコークスや、高速還元が可能な含炭塊成鉱の使用が検討されている(例えば、非特許文献1参照)。それらの製鉄原料の反応は、炭材の反応律速であり、使用される炭材にはガス化速度向上が求められる。
【0004】
そこで、ガス化速度向上を目的に、炭材に対する触媒効果の付加が試みられている。即ち、炭材に触媒を含む溶液を含浸させる方法である(例えば、非特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】笠井昭人、内藤誠章、松井良行、山形仁朗、「炭材内装熱間成型ブリケットの昇温条件下での還元・浸炭挙動」、鉄と鋼、2003年、Vol.89、No.12、p.30-37
【非特許文献2】北口久継、野村誠治、内藤誠章、「触媒担持グラファイトを用いたCO−CO2共存下における高反応性コークスのソリューションロス反応特性基礎検討」、化学工学論文集、2007年、第33巻、第4号、p.339-345
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、含浸法では、溶液を使用するので含浸後に乾燥が必要となる。また、吸収率が悪い炭材の場合は減圧、加圧をすることで溶液を浸透させる必要があり、含浸工程が複雑となり、大規模な装置が必要となるという課題があった。更に、溶液中に触媒金属を溶かすために多量の触媒金属を担持することは困難であるという課題もあった。
【0007】
本発明は、上記の従来技術の課題を解決し、複雑で大規模な工程を用いずに既存の工程を利用した簡便な方法を用いて、尚かつより多量の触媒を担持でき、利用により反応性の高い炭材を製造できる銑鉄製造プロセス用の高反応性炭材の製造方法、高反応性炭材、および含炭塊成鉱の使用方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、銑鉄製造プロセスに使用される還元材の反応性向上が、銑鉄製造プロセスにおいて排出される二酸化炭素排出量削減につながるという知見から、還元材である炭材に触媒金属を担持することによって触媒のREDOX反応を利用し、ガス化速度を向上させるという方法に着目した。
【0009】
そこで、本発明者らは、製鉄所圧延工程から排出される酸洗廃液を噴霧焙焼して製造される超微粒酸化鉄粉を炭材表面に被覆させることが効果的という着想を得て、超微粒酸化鉄粉を被覆させた炭材についてガス化実験を繰り返し、詳細に検討を行った。
【0010】
また同時に、銑鉄製造プロセスに使用される製鉄原料である含炭塊成鉱に対しての上記炭材の使用方法・製造方法、及び構造についても検討を行った。
【0011】
本発明は、上記知見に基づき成されたものであり、その特徴は以下の通りである。
(1) 銑鉄を製造する高炉プロセスにおいて、その原料として使用される含炭塊成鉱中の高反応性炭材の製造方法であって、石炭、コークス、木材またはバイオマスチャーから成る炭材の表面に、製鉄所圧延工程から排出される酸洗廃液を噴霧焙焼して製造される平均粒径1μm以下の超微粒酸化鉄粉を被覆させることを、特徴とする高反応性炭材の製造方法。
【0012】
(2) 銑鉄を製造する高炉プロセスにおいて、その原料として使用される含炭塊成鉱中の高反応性炭材であって、石炭、コークス、木材またはバイオマスチャーから成る炭材と、製鉄所圧延工程から排出される酸洗廃液を噴霧焙焼して製造され、前記炭材の表面に被覆された平均粒径1μm以下の超微粒酸化鉄粉とを有し、前記炭材と前記超微粒酸化鉄粉との接触界面でのREDOX反応を励起させ、二酸化炭素による前記炭材のガス化を促進可能であることを、特徴とする高反応性炭材。
【0013】
(3) 前記炭材の平均粒径が10μmから100μmであることを、特徴とする(1)記載の高反応性炭材の製造方法。
(4) 前記超微粒酸化鉄粉を、粉砕した前記炭材と容器内転動混合させることによって、前記炭材の表面に被覆させることを、特徴とする(1)または(3)記載の高反応性炭材の製造方法。
(5) (1)、(3)もしくは(4)記載の含炭塊成鉱の製造方法で製造された高反応性炭材、または、(2)記載の高反応性炭材を含む含炭塊成鉱を、固体還元鉄を製造する回転炉床炉の原料として使用することを、特徴とする含炭塊成鉱の使用方法。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、炭材に触媒効果を付加させることにより炭材反応性を向上させることができ、また、従来では工程が大規模で複雑であった触媒担持工程を、既存の工程を利用でき、銑鉄製造原料に対しての使用を主な対象とした高反応性炭材の製造方法、高反応性炭材、および含炭塊成鉱の使用方法を提供することができる。
【0015】
そして、本発明により、炭材反応性向上による銑鉄製造プロセスに使用される還元材比削減が可能になり、銑鉄製造プロセスから発生する二酸化炭素排出量削減を実現できる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明の実施の形態の、超微粒酸化鉄粉を原料とした高反応性炭材の製造方法、および、銑鉄製造プロセス用製鉄原料である含炭塊成鉱の製造プロセスを示す説明図である。
【図2】本発明の実施の形態の高反応性炭材(Biomass char-SIP)、および炭材単体(Biomass char)のガス化速度(K)の測定結果を示すグラフである。
【図3】本発明の実施の形態の高反応性炭材(Biomass char-SIP)、および炭材単体(Biomass char)の周囲のガス雰囲気(CO分圧)に対するガス化速度(K)の変化を示すグラフである。
【図4】本発明の実施の形態の高反応性炭材(Biomass char-SIP)を含む含炭塊成鉱の、全酸化鉄中超微粒酸化鉄粉比率(SIP ratio)を変化させたときの還元実験結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明において、超微粒酸化鉄粉とは、製鉄所圧延工程から排出される酸洗廃液を噴霧焙焼して製造される平均粒径1μm以下の酸化鉄粉のことを示す。
【0018】
本発明では、この超微粒酸化鉄粉を、炭材表面に被覆させることで高反応性炭材用原料として有効利用するものである。
【0019】
図1は、本発明の実施の形態の、超微粒酸化鉄粉を原料とした高反応性炭材の製造プロセス及び、銑鉄製造プロセス用製鉄原料である含炭塊成鉱の製造プロセスの一例を示す図である。
【0020】
図1に示すように、超微粒酸化鉄粉(Submicron Iron Powder)は、圧延工程(Rolling process)において排出される酸洗廃液(Waste pickled liquid)、つまり塩化鉄水溶液を、酸化性雰囲気下500〜600℃において噴霧焙焼(Fluidized roasting)することによって製造される。
【0021】
超微粒酸化鉄粉は、平均粒径1μm以下であり、通常粉鉱石と比べて粒径が非常に細かい。また、灰分であるSiO2やAl2O3も少ないため、非常に高活性である。
【0022】
高反応性炭材は、超微粒酸化鉄粉と炭材(Carbon particle)とを容器内で転動混合することによって製造され、それらと鉱石(Ore particle)とを容器内で混合し、圧粉成型することで含炭塊成鉱が製造される。
【0023】
超微粒酸化鉄粉を使用する本発明の実施の形態の高反応性炭材の製造方法は、他の触媒添加方法、例えば液含侵法に比べて簡便であり、また、大型製鉄所には超微粒酸化鉄粉製造工程が既に設備されていることから、既存の工程を使用できる点でも有利である。
【0024】
本発明で用いる炭材は、平均粒度10μm〜100μmの範囲となる粉粒体ないし細片状に破砕したものを用いることが好ましい。銑鉄製造プロセスで用いられている微粉炭は、10μm以下に粉砕されているため、炭材の粉砕についても既存工程を利用できる。
【0025】
製造された高反応性炭材は、炭材と超微粒酸化鉄粉との接触界面で、図1に示すように、FeO⇔FeのREDOX反応サイクルが起き、炭材のガス化反応が加速される。
【実施例1】
【0026】
本発明を以下の実施例にて説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。
熱示差天秤を用いて触媒を担持した高反応性炭材のガス化速度(K)を測定した。この結果を図2に示す。実験に用いた炭材試料は、杉材をAr雰囲気中800℃において2時間乾留させたバイオマスチャー(Biomass char)を45〜75μmに粉砕後、整粒したものを用いた。超微粒酸化鉄粉と炭材との混合比は重量比で1/2とし、炭材単体ガス化速度と比較した。触媒を担持した高反応性炭材のガス化速度については、同条件での触媒である超微粒酸化鉄粉の重量変化を測定し、差し引くことでガス化速度を導出した。
【0027】
ガス化実験における昇温条件は、100℃/minで所定の保持温度(800,850,900,950℃)まで昇温し、20分間保持するとした。ガス雰囲気については、CO2、CO/CO2=7/3で流量200ml/minとした。
【0028】
図2に示すように、CO2雰囲気下では炭材単体(Biomass char)、高反応性炭材(Biomass char-SIP)でガス化速度に差は表れなかったが、CO/CO2=7/3雰囲気下では高反応性炭材が炭材単体に比べて約2〜7倍のガス化速度を示した。
【0029】
本来ならばガス化阻害効果のあるCO分圧が高い雰囲気下でも、高いガス化速度が得られることが、本発明が有利な点である。
【0030】
次に、図2のガス化実験と同じ試料を用いて、同様に熱示差天秤を用いて炭材ガス化速度に与える周囲のガス雰囲気の影響を測定した実験結果を、図3に示す。今回は保持温度を900℃とし、ガス雰囲気を変化させた。
【0031】
図3に示すように、CO分圧が大きくなると、ガス化阻害効果により炭材単体ガス化速度は低下するが、高反応性炭材の場合は、CO分圧0.6を境にガス化が加速され、CO分圧0.7〜0.8条件においてガス化が大きく加速された。900℃におけるFeO/Fe平衡分圧が約0.7であるので、担持された超微粒酸化鉄粉がFeO⇔Fe平衡状態に至る必要があると思われる。
【0032】
次に、図2および図3で用いた高反応性炭材を含炭塊成鉱に対して使用し、作製した試料について熱天秤を用いて還元実験を行った。実験結果を図4に示す。実験試料である含炭塊成鉱は、炭材/超微粒酸化鉄粉/粉鉱石(Fe2O3,MBR-PF)を用いて作製した。炭材には図2と同様に作製したバイオマスチャーを用い、炭材・MBR-PFの平均粒径は45〜75μmとした。含炭塊成鉱は、超微粒酸化鉄粉とMBR-PFとの割合を、全酸化鉄中超微粒酸化鉄粉比率(SIP ratio)0,1.25,6.25,12.5,100%になるように変化させた。含炭塊成鉱に使用した炭材中Cと、酸化鉄中Oとがモル比でO/C=1.0になるように混合した。混合した試料はφ=10mm、高さ約0.6mmに圧粉成型した。
【0033】
還元実験における昇温条件は、高炉内昇温パターンを模擬しており、10℃/minで1000℃まで昇温し、30分保持、その後5℃/minで1200℃まで昇温し、40分保持した。ガス雰囲気は、Arで流量200ml/minとした。
【0034】
図4に示すように、超微粒酸化鉄粉配合量が増加するに従って、還元がより低温側にシフトした。また、超微粒酸化鉄を12.5%配合することで、鉱石全量を超微粒酸化鉄使用した場合と同じ還元挙動を示した。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
銑鉄を製造する高炉プロセスにおいて、その原料として使用される含炭塊成鉱中の高反応性炭材の製造方法であって、
石炭、コークス、木材またはバイオマスチャーから成る炭材の表面に、製鉄所圧延工程から排出される酸洗廃液を噴霧焙焼して製造される平均粒径1μm以下の超微粒酸化鉄粉を被覆させることを、
特徴とする高反応性炭材の製造方法。
【請求項2】
銑鉄を製造する高炉プロセスにおいて、その原料として使用される含炭塊成鉱中の高反応性炭材であって、
石炭、コークス、木材またはバイオマスチャーから成る炭材と、
製鉄所圧延工程から排出される酸洗廃液を噴霧焙焼して製造され、前記炭材の表面に被覆された平均粒径1μm以下の超微粒酸化鉄粉とを有し、
前記炭材と前記超微粒酸化鉄粉との接触界面でのREDOX反応を励起させ、二酸化炭素による前記炭材のガス化を促進可能であることを、
特徴とする高反応性炭材。
【請求項3】
前記炭材の平均粒径が10μmから100μmであることを、特徴とする請求項1記載の高反応性炭材の製造方法。
【請求項4】
前記超微粒酸化鉄粉を、粉砕した前記炭材と容器内転動混合させることによって、前記炭材の表面に被覆させることを、特徴とする請求項1または3記載の高反応性炭材の製造方法。
【請求項5】
請求項1、3もしくは4記載の高反応性炭材の製造方法で製造された高反応性炭材、または、請求項2記載の高反応性炭材を含む含炭塊成鉱を、固体還元鉄を製造する回転炉床炉の原料として使用することを、特徴とする含炭塊成鉱の使用方法。


【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図1】
image rotate


【公開番号】特開2011−162866(P2011−162866A)
【公開日】平成23年8月25日(2011.8.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−29620(P2010−29620)
【出願日】平成22年2月15日(2010.2.15)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 発行者名 :社団法人 日本鉄鋼協会 刊行物名 :材料とプロセス Vol.22(2009)No.2 発行年月日:平成21年9月1日 〔刊行物等〕 発行者名 :社団法人 日本鉄鋼協会 刊行物名 :第158回秋季講演大会 学生ポスターセッション アブストラクト集 発行年月日:2009年(平成21年)9月16日 〔刊行物等〕 発行者名 :独立行政法人日本学術振興会 刊行物名 :製銑第54委員会 第175回研究会資料 発行年月日:平成21年12月2日 〔刊行物等〕 発行者名 :国立大学法人東北大学(研究発表会の主催:東北大学多元物質科学研究所、共催:東北大学) 刊行物名 :2009年度 第9回 多元物質科学研究所 研究発表会 講演予稿集 発行年月日:2009年(平成21年)12月10日
【出願人】(504157024)国立大学法人東北大学 (2,297)
【Fターム(参考)】