説明

高周波ミシン

【課題】高周波電力を用いて確実かつ均一な接着強度が得られるようにしながら、熱集中による焼損など不良製品の発生を防止でき、しかも、曲線状部位や伸縮性繊維生地の接着に十分に対応させることができる高周波ミシンを提供する。
【解決手段】生地載置板4上に載置された被加工材Hを、水平及び上下に合成循環運動する送り歯8と押え金12との協同作用により間欠的に移送しつつ、この送り歯8による移送停止時において被加工材Hの上下に配置された一対の面状電極12,16間に高周波電力を印加することによって、被加工材Hにおける繊維生地Wの重ね合わせ部間に挟まれている熱可塑性樹脂テープTを高周波誘電加熱により溶融して繊維生地Wの重ね合わせ部を連続的に接着可能に構成している。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、綿や羊毛、絹等に代表される天然繊維、あるいは、ポリエステル、ナイロン、アクリル等に代表される合成繊維の布地(以下、本発明では、「繊維生地」という)を対象素材とし、この繊維生地の重ね合わせ端部等の重ね合わせ部を高周波による誘電加熱により溶融される熱可塑性樹脂テープを介して接着(溶着)することにより、例えば婦人服、子供服、紳士服等のアパレル品(衣料品)を製造加工する場合に用いられる高周波ミシンに関するものである。
【背景技術】
【0002】
この種の高周波ミシンとして、被加工材自身が、例えば、塩化ビニル樹脂などの熱可塑性合成樹脂シートあるいは合成樹脂フィルムであって、その被加工材の重ね合わせ部を溶着するものは既に数多く開発され実用化されている。この高周波ミシンは、被加工材である樹脂シートあるいは樹脂フィルムを重ね合わせ部の長手方向に沿って移送する移送手段と該手段により移送される樹脂シートあるいは樹脂フィルムの重ね合わせ部に高周波電力を付与する一対の電極を備えさせるだけでよい。したがって、針糸(上糸)、ルーパ糸、下糸などの縫糸をレーシングやルーピングして縫目を形成することによって繊維生地を縫合する一般的な縫製ミシンに比べて、当該縫製ミシンが必要とする構成、例えば、繊維生地を縫製進行方向に移送する送り歯の他に、縫糸を繊維生地に貫通させる針及び針の上下往復運動機構や、レーシングやルーピングを行わせるための下糸供給用の釜及び釜の作動機構あるいはルーパ糸供給用ルーパ及びルーパの作動機構等といった縫いを構成するための複数の複雑な機構及び部品の使用を省くことが可能で、ミシン全体の構造の簡素化が図れる。
【0003】
ところで、一般的な縫製ミシンに比べて、構造の簡素化が図れる既存の高周波ミシンとしては、被加工材(熱可塑性の樹脂シートあるいは樹脂フィルム)を上下一対の電極ローラ間に挟んで連続的に一定方向に移送しながら、該一対の電極ローラ間に高周波電力を印加して被加工材自体を高周波誘電加熱により溶融して被加工材の重ね合わせ部を接着する手段が採用されていた(例えば、特許文献1,2参照)。
【0004】
また、被加工材を挟んで一定方向に移送する上下一対の電極ローラを、一方向伝動クラッチを介装した運動変換機構を介して駆動モータに連動連結することで、一対の電極ローラを間欠回転させるように構成した高周波ミシンも提案されている(例えば、特許文献3参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】 特開平6−218819号公報
【特許文献2】 特開平6−155576号公報
【特許文献3】 特許第4022539号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記特許文献1〜3に開示されている従来の高周波ミシンは何れも、一対の電極ローラの接触部分が、ローラの幅だけの線接触(被加工材の移送方向でみた場合は点接触)となる。このような線接触あるいは点接触条件下においても、確実な接着強度が得られるようにするためには、印加する高周波電力を高い値に設定するか、被加工材の移送速度を遅くするかのいずれかの手段を採らねばならない。高周波電力の値を高くする手段の場合は、その高い高周波電力による熱が線あるいは点接触部に集中作用するために、被加工材が絶縁破壊されて焼損や破孔(孔明き)などの不良箇所を生じやすい。特に、被加工材が本発明の対象とする薄い繊維生地である場合は、焼損範囲が瞬間的に拡大しやすいために、多くの不良製品が製造されてしまうといった問題がある。また、高周波電力の値を低めに設定して一対の電極ローラによる移送速度を遅くする手段を採用した場合は、加工効率が極端に低下するという問題がある。このような線あるいは点接触に起因する問題は、特許文献3に開示されているように、一対の電極ローラを間欠回転させる構成を採用した場合であっても、同様に発生し、不良製品の発生や加工効率の低下は避けられない。
【0007】
また、繊維生地を対象素材としてアパレル品を製造加工するにあたっては、例えば婦人用下着等に見られるように曲線状部位の接合を要するケースが多い。また、伸縮性のある繊維生地を使用するケースも多い。アパレル品の製造加工に用いられるミシンにおいては、このような曲線状部位の接合や伸縮性の繊維生地の接合にも対応可能であることが要望される。しかしながら、被加工材を一対の電極ローラ間に挟んで一定方向に直線移送する従来の高周波ミシンでは、曲線状部位の接合や伸縮性生地の接合には十分に対応しきれない。即ち、一対の電極ローラを用いた従来の高周波ミシンは、樹脂シートのような非伸縮性の被加工材を直線的に移送しながら重ね合わせ部を接着加工するには適しているものの、繊維生地を対象素材とし、曲線状部位の接合や伸縮性素材を使用することが多いアパレル品の製造加工には不向きで、従来の高周波ミシンをそのまま繊維生地の接合に転用することは実質的に不可能と言える。
【0008】
本発明は上述の実情に鑑みてなされたもので、高周波電力を用いて確実かつ均一な接着強度が得られるものでありながら、焼損や破孔などが生じた不良製品の製造加工を防止でき、しかも、曲線状部位や伸縮性繊維生地の接着にも十分に対応させることができる高周波ミシンを提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するために案出された本発明に係る高周波ミシンは、ミシンベッド部の上壁部に取り付けられて繊維生地の重ね合わせ部間に熱可塑性樹脂テープを挟み込んだ被加工材を摺接移動可能に載置する生地載置板と、この生地載置板の下部のミシンベッド部内に配置され且つ生地載置板上に載置された被加工材の下面に当接して該被加工材を水平面に沿って特定の加工進行方向へ移送する状態と被加工材の下面から離間して該被加工材の移送を停止する状態とを交互に繰り返す間欠移送装置と、この間欠移送装置と協同して被加工材を前記加工進行方向へ移送するとともに移送停止時に被加工材を弾性的に押えるべく上下に往復移動可能な押え金と、前記生地載置板の上部に配置されて上下に往復移動可能に構成された上部の面状電極及び前記生地載置板の下部のミシンベッド部内に設置固定されて前記生地載置板の上面と面一の電極面を有する下部の面状電極とを備え、前記間欠移送装置による移送停止時において前記上部の面状電極を下方に移動させて該上部の面状電極と下部の面状電極との間に被加工材を挟んだ状態で、上部及び下部の一対の面状電極間に高周波電力を印加することによって、前記熱可塑性樹脂テープを高周波誘電加熱により溶融して繊維生地の重ね合わせ部を連続的に接着可能に構成していることを特徴としている。
【発明の効果】
【0010】
上記のように構成された本発明の高周波ミシンによれば、間欠移送装置と押え金の協同作用により、繊維生地を含む被加工材を水平面に沿って間欠移送しつつ、その移送停止時に上下一対の面状電極間に印加される高周波出力による熱を繊維生地の重ね合わせ部間に挟み込まれた熱可塑性樹脂テープに伝達して、樹脂テープを面状、つまり、一定面積単位毎に溶融させて繊維生地の重ね合わせ部を順次接着させることが可能であるとともに、同一箇所を繰り返し接着させることが可能である。そのため、低い高周波電力を印加しての繰り返し接着により確実かつ均一な接着強度が得られるものでありながら、高周波電力による熱を、線あるいは点接触部に集中させることなく、一対の電極の面接触部に分散させることができる。したがって、高周波電力による熱が極小面積部に集中することに起因する繊維生地の焼損や破孔(孔明き)などの不良箇所の発生を回避することができ、既述したような確実かつ均一な接着強度が得られることと相俟って、対象素材が熱に弱い繊維生地であっても、仕上がりのよいアパレル製品を確実に製造加工することができる。
【0011】
しかも、被加工材の移送手段として、被加工材の下面に当接して該被加工材を水平面に沿って特定の加工進行方向へ移送する状態と被加工材の下面から離間して該被加工材の移送を停止する状態とを交互に繰り返す間欠移送装置と、この間欠移送装置による移送時に被加工材が浮き上がらないように該被加工材を生地載置板側に押える押え金との協同作用による移送手段を採用しているので、送り停止時に押え金の押し付け力に抗して被加工材を任意に方向転換することが可能で、直線に限らず自由に曲線移送させることも容易である。また、伸縮性のある繊維生地を対象とする場合であっても、その繊維生地に余分な挟圧力を加えることがなく、自然の状態のままで移送させることができる。すなわち、曲線状部位や伸縮性繊維生地の接着にも十分に対応させることができ、したがって、曲線状部位が多く、また、伸縮性のある繊維生地素材を用いることの多いアパレル品の製造加工にとって非常に好適かつ実用的な高周波ミシンの提供を実現できるといった効果を奏する。
【0012】
上記高周波ミシンにおいて、間欠移送装置として、前記載置板に形成されたスロット状長孔内に配置される送り歯と、該送り歯を前記スロット状長孔内で上下方向及び水平方向に合成循環運動させる送り歯駆動機構とにより構成されている間欠移送装置を用いることが好ましい(請求項2)。
この場合は、一般的な縫製ミシンが備えている送り歯と送り歯駆動機構とからなる周知の間欠移送装置として既に確立している製造技術及び組付け技術をそのまま有効に活用することが可能であり、高周波ミシン向けの専用且つ特殊な間欠移送装置を開発したり、製造したり、それを組付けるためにミシンベッド部を縫製ミシンのものとは大幅に変更したりするといった設計面、生産面での負担が非常に少なくてすみ、高周波ミシン全体の生産性の向上及び生産コストの低減が図れると共に、性能、品質の高い高周波ミシンを得ることができる。
【0013】
また、上記高周波ミシンにおいて、前記上部及び下部の一対の面状電極のうち、上部の面状電極は、前記押え金により兼用構成されていることが好ましい(請求項3)。
この場合は、間欠移送装置との協同により被加工材を間欠移送する押え金自体を上部の面状電極に兼用させることができるので、押え金とは別個に上部電極を設ける必要がない。そのため、構成部品の節減に止まらず、押え金の存在個所に別個に上部電極を配置し固定したり、押え金を絶縁化したりするための特別な工夫も要らず、全体構造をより簡素化し、コストの一層の低減を図りやすい。
【0014】
また、上記高周波ミシンにおいて、前記生地載置板及び間欠移送手段における被加工材の下面への当接部又は送り歯が、エンジニアリングプラスチックを含む電気絶縁性及び耐熱性材料から構成されていることが好ましい(請求項4)。
この場合は、生地載置板及び間欠移送装置における被加工材の下面への当接部又は送り歯の構造強度を十分に確保できるとともに、耐摩耗性、耐食性、電気絶縁性及び耐熱性にも優れ、高周波電力が印加される条件下で使用される各部品の耐久性向上を図ることができる。
【0015】
また、上記高周波ミシンにおいて、前記上部及び下部の一対の面状電極にはそれぞれ、予熱用ヒーターが付設されていることが望ましい(請求項5)。
この場合は、間欠移送装置による送り停止時において上下の電極を予熱により所定の温度に保持することが可能であるため、電極に印加する高周波電力の値をできるだけ低く設定してスパークの発生をより確実に防止しつつも、樹脂テープの溶融を確実化して所定の接着強度を安定よく得ることができる。
【0016】
また、上記上部の面状電極が前記押え金により構成されている高周波ミシンにおいて、前記上部の面状電極を構成する押え金と、当該押え金を予熱する予熱用ヒーターを保持しミシン本体に固定状態に取り付けられるヒーター保持台との間には、両者を上下に相対摺動可能に繋ぐ熱伝導性部材が介在されていることが好ましい(請求項6)。
この場合は、押え金(上部電極)の重量増加をできるだけ小さく抑えて被加工材の移送作用を円滑に、かつ、曲線移送のための操作を容易に行なえるようにしつつ、予熱用ヒーターの熱を熱伝導性部材を介して押え金に効率よく伝達することができ、電極の予熱効果によるスパークの発生防止及び安定よい接着強度を確保することができる。
【0017】
さらに、上記高周波ミシンにおいて、前記ミシンベッド部は、加工進行方向に直交する方向から視たとき、その外郭が略筒形状に形成されているもの(請求項7)、前記生地載置板を含めてベッド面全体が略長方形の平面をなす形状に形成されているもの(請求項8)のいずれであってもよい。
前者のように、外郭が略筒形状に形成されている、いわゆる、筒形ベッドを持つミシンに適用する場合は、例えば袖口や首回り等の比較的小さい筒状部位を接着する時の被加工材の取り扱いが非常に便利である。また、後者のように、ベッド面全体が略長方形の平面をなす形状に形成されている、いわゆる、フラットベッド形ミシンに適用する場合は、大きくて扱いにくい被加工材を接着する時、被加工材を大きな面積のフラットなベッド面に安定よく支持させて所定の接着を確実に行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明に係る高周波ミシンの一実施形態を示す全体外観斜視図である。
【図2】同上ミシンの要部の拡大斜視図である。
【図3】同上ミシンの要部の拡大縦断側面図である。
【図4】同上ミシンにおける送り歯の構成を示す分解斜視図である。
【図5】同上ミシンにおける上部の面状電極の取り付け状態を説明する分解斜視図である。
【図6】同上ミシンにおける下部の面状電極の取り付け状態を説明する分解斜視図である。
【図7】本発明に係る高周波ミシンの他の実施形態を示す全体外観斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の実施の形態を図面にもとづいて説明する。
図1は本発明に係る高周波ミシンの一実施形態を示す全体の外観斜視図、図2は同ミシンにおける要部の拡大斜視図、図3は同ミシンにおける要部の拡大縦断側面図である。これら図1〜図3において、1はミシン本体であり、このミシン本体1は、ミシンアーム部2とミシンベッド部3とにより構成されている。
【0020】
前記ミシンベッド部3は、加工進行方向Xに直交する方向から視たとき、その外郭が略角筒形状に形成されている。この略角筒形状のミシンベッド部3の上壁部には、縫製生地Wを含む被加工材Hを摺接移動可能に載置する生地載置板(これは、縫製ミシンにおける針板に相当する。)4及び滑り板5がそれらの上面がミシンベッド部3の上壁部上面と略面一の状態で取り付けられている。前記生地載置板4は、例えば、ポリアミド、ポリアセタール、ABS、ポリカーボネート等の構造材で、かつ、耐摩耗性、耐食性、電気絶縁性及び耐熱性を有する材料であるエンジニアリングプラスチックから構成されている。
【0021】
前記生地載置板4には、図2及び図6に示すように、互いに平行な四列のスロット状長孔6が貫通形成されている。この四列のスロット状長孔6のうち、生地載置板4の幅方向の中央部に位置する二列のスロット状長孔6aは、それらの長手方向の中間位置において、後述する下部の面状プラス電極16の設置用孔7を挟んで加工進行方向Xの前後二段に分断されている。前記四列の長孔6内には、水平方向運動と上下方向運動の組み合わせ(合成循環運動)によって生地載置板4上に載置された被加工材Hを水平面に沿って特定方向、即ち、加工進行方向Xへ間欠的に移送する送り歯8が設けられている。
【0022】
前記送り歯8は、図4に明示するように、前後二段に分断されたスロット状長孔6aの前部長孔部分内で運動する短尺送り歯8aを含む前送り歯8Aと、スロット状長孔6aの後部長孔部分内で運動する短尺送り歯8bを含む後送り歯8Bとにより構成される。これら前送り歯8A及び後送り歯8Bは、例えば、ポリアミド、ポリアセタール、ABS、ポリカーボネート等の構造材で、かつ、耐摩耗性、耐食性、電気絶縁性及び耐熱性を有する材料であるエンジニアリングプラスチックから構成されているとともに、生地載置板4下部のミシンベッド部3内に設置されている前送り歯取付台9A及び後送り歯取付台9Bに止めネジ10A及び10Bを介して固定されている。
【0023】
前記前送り歯取付台9A及び後送り歯取付台9Bは、前送り歯8A及び後送り歯9Bが上記の合成循環運動を繰り返すようにミシンベッド部3内に組み込まれた駆動機構に連動連結されている。この送り歯駆動機構は、一般的な縫製ミシンに採用されているものと全く同様な構成を有し、周知であるため、その駆動機構の具体的な構成の説明は省略する。
上記の送り歯8(前送り歯8A及び後送り歯8B)と送り歯駆動機構とにより、被加工材Hを加工進行方向Xへ移送する状態と移送を停止する状態とを交互に繰り返す間欠移送装置が構成されている。
【0024】
なお、生地載置板4の構成材料として、ポリエーテル・エーテル・ケトン樹脂からなるスーパーエンジニアリングプラスチックを用いることが好ましい。この場合は、生地載置板4の耐熱性、耐摩耗性を一層向上することができる。
また、前送り歯8A及び後送り歯8Bの構成材料としても、ポリエーテル・エーテル・ケトン樹脂からなるスーパーエンジニアリングプラスチックを用いることが好ましい。この場合は、前送り歯8A及び後送り歯8Bの耐熱性、耐摩耗性を一層向上することができる。
【0025】
前記生地載置板4の上部で、前記送り歯8の前送り歯8A及び後送り歯8Bに対向する箇所には、これら送り歯8(送り歯8の前送り歯8A及び後送り歯8B)と協同して被加工材Hを加工進行方向Xへ移送するとともに、被加工材Hが浮き上がらないようにバネ11の弾性力を介して被加工材Hを送り歯8側に押える押え金12が配置されている。この押え金12は、ミシンアーム部2の先端部に上下往復移動(昇降)可能に支持された押え杆13の下端部に取付金具14を介して固定されている。この押え杆13は、ミシンアーム部2内に組み込まれている駆動機構を介して、前記送り歯8による送り作用時には上昇移動して被加工材Hに対する押えを解除し、送り停止時には下降移動して押え金12によって被加工材Hを弾性的に押えるべく昇降移動可能に構成されている。
なお、押え杆13の昇降移動用駆動機構は、一般的な縫製ミシンに採用されているものと全く同様な構成を有し、周知であるため、その駆動機構の具体的な構成の説明は省略する。
【0026】
前記押え金12の押え面12aは、少なくとも送り歯8による送り作用幅以上の幅を有し、かつ、加工進行方向Xにも長く形成されている。また、この押え金12の側面には、図5に示すように、高周波発振器及び高周波整合装置からなる高周波電源(図示省略)から導出されたマイナス電極線15が接続されている。これによって、押え金12が、高周波電源から高周波電力が印加される一対の電極のうち、上部の面状マイナス電極を兼用するように構成されている。
【0027】
前記生地載置板4下部のミシンベッド部3の内部には、図2及び図6に示すように、上方に向けて開放された電極取付台17が固定されている。この電極取付台17の上面部に形成の凹溝17a内には、側面部に前記高周波電源(図示省略)から導出されたプラス電極線19を接続した下部の面状プラス電極16が落とし込み嵌合され、かつ、止めネジ18を介して電極取付台17に固定されている。この下部の面状プラス電極16は、一定面積を有する電極面16aが前記生地載置板4に形成の設置用孔7に臨み、生地載置板4の上面と面一になるように設置固定されている。
【0028】
また、図2及び図5に示すように、前記ミシンアーム部2に止めネジ29を介して固定された取付台20には、エンジニアリングブラスチック製の絶縁ブロック21が止めネジ22を介して固定され、この絶縁ブロック22に止めネジ23を介して固定されたカートリッジヒーター保持台24には、予熱用カートリッジヒーター25が差し込み保持されているとともに、アース線26が接続されている。また、予熱用カートリッジヒーター保持台24には、二股状の上下摺動溝24aが形成されている一方、前記押え金で兼用される上部の面状マイナス電極12の上面には、前記上下摺動溝24a内に係合可能な係合片部27aを有する熱伝導性部材27が止めネジ28を介して固定されており、この熱伝導性部材27の係合片部27aを予熱用カートリッジヒーター保持台24の上下摺動溝24a内に上下方向に相対摺動可能に係合させることにより、前記予熱用カートリッジヒーター25による予熱(加熱)熱量を熱伝導性部材27を通じて常に面状マイナス電極12に伝達し該マイナス電極12を高温に保持可能とされている。
【0029】
更に、図6に示すように、前記電極取付台17に固定される下部の面状プラス電極16の水平基端部16b内には、予熱用カートリッジヒーター28が差し込み保持されている。これにより、予熱用カートリッジヒーター28による予熱(加熱)熱量を常に面状プラス電極16に伝達し該プラス電極16を高温に保持可能とされている。
なお、前記上部の面状マイナス電極12及び下部の面状プラス電極16の予熱温度を一定にフィードバック制御するために、予熱用カートリッジヒーター保持台24の側面及び下部の面状プラス電極16の側面にはそれぞれ熱(温度)センサ30及び31が取り付けられている。
【0030】
上記のように構成された高周波ミシンにおいては、生地載置板4の手前箇所において、例えば、図2及び図3に示すように、繊維生地Wの端部を折返して上下に重ね合わせるとともに、その重ね合わせ端部間に、表裏両面が接着面に形成された熱可塑性樹脂テープであるホットメルト(例えば、日東紡社の商標名「ダンヒューズ」)Tを挟み込んだ被加工材Hが予め準備される。
【0031】
この準備された被加工材Hを生地載置板4の上面に載置(セット)して、ミシンの回転を開始すると、被加工材Hは、送り歯8(送り歯8の前送り歯8A及び後送り歯8B)の合成運動と押え金12の上下往復運動との協同作用により、水平面に沿って所定の加工進行方向Xへ向けて間欠的に移送される。そして、移送停止時毎に高周波電源から上下一対の面状電極12,16間に高周波電力を印加して一対の面状電極12,16を加熱することにより、繊維生地Wの重ね合わせ端部間に挟み込まれた熱可塑性樹脂テープTが一定面積単位で溶融され、この溶融したテープTを介して繊維生地Wの重ね合わせ端部同士が順次に、かつ、同一箇所が繰り返し接着されることになる。
【0032】
このように一定面積単位の面接触状態で溶融され接着されるものであるために、一対の電極12,16に、確実かつ均一な接着強度が得られるように比較的高い高周波電力を印加したとしても、その高い高周波電力による熱を線や点接触部に集中させることなく、一対の電極12,16の面接触部に分散させることによって、熱が極小面積部に集中することに起因する繊維生地Wの焼損や破孔(孔明き)などの不良箇所の発生をなくすることができる。したがって、熱集中による不良箇所の発生がないことと、確実かつ均一な接着強度が得られることとが相俟って、被加工材Hが熱に弱い繊維生地Wであっても、仕上がりのよい製品を確実かつ安定よく製造加工することができる。
【0033】
加えて、被加工材Hの移送手段が、水平運動と上下運動の組み合わせによって生地載置板4上面の水平面に沿って加工進行方向Xへ間欠的に移送する送り歯8と、この送り歯8による移送時に繊維生地Wを含めて被加工材Hが浮き上がらないように生地載置板4側に押える押え金12との協同作用による移送手段であるので、直線に限らず任意に曲線移送させることも容易であり、また、伸縮性のある繊維生地Wを用いる場合であっても、その生地Wに余分な挟圧力を加えることなく、自然の状態のままで移送させることができる。したがって、曲線状部位が多く、また、伸縮性のある繊維生地素材を用いることの多いアパレル品であってもそれらに十分に対応させて所定の接着加工を確実かつ安定的に行なうことができる。
【0034】
また、上記の実施形態のように、押え金12自体を上部の面状電極に兼用させることにより、押え金12とは別個に上部電極を設ける必要がない。そのため、構成部品の節減に止まらず、押え金12の存在個所に上部電極を配置し固定したり、押え金の電気絶縁性などのための特別な構造的工夫を施したりすることも不要となり、全体構造を一層簡単化し、コスト低減も図りやすい。
【0035】
特に、上記の実施形態のように、生地載置板4及び送り歯8を、エンジニアリングプラスチックやスーパーエンジリアリングプラスチックのように、耐摩耗性、電気絶縁性及び耐熱性に優れた材料から構成する場合は、それら生地載置板4及び送り歯8の構造強度を十分に確保できるとともに、耐摩耗性、耐食性、電気絶縁性及び耐熱性にも優れ、高周波電力が印加される条件下で使用される各部材4,8を耐久性の高いものに構成することができる。
【0036】
また、上記の実施形態のように、前記一対の面状電極12,16それぞれに、予熱用カートリッジヒーター25,28を付設する場合は、送り歯8による送り作用時においても上下の電極12,16を予熱により高い温度に保持することが可能であるため、送り停止時に電極12,16に印加する高周波電力をできるだけ低い値に設定して過剰加熱による焼損などの発生をより確実に防止しつつも、樹脂テープTを常に確実に溶融させて所定の接着強度を安定よく得ることができる。
【0037】
さらに、上記押え金12が上部の面状電極を兼用するように構成されている場合において、上部の面状電極を兼用構成する押え金12と、当該押え金を12予熱する予熱用カートリッジヒーター25を保持しミシンアーム部2に固定されるカートリッジヒーター保持台29との間に、両者12,29を上下に相対摺動可能に繋ぐ熱伝導性部材27を介在させることによって、押え金(上部電極)12の重量増加をできるだけ小さく抑えて繊維生地Wを含む被加工材Hの移送作用を円滑に、かつ、押え金12の重量に抗して行う曲線移送のための操作を容易なものとしつつ、予熱用カートリッジヒーター25の熱を熱伝導性部材27を介して押え金12に効率よく伝達することができ、電極12の予熱効果によって焼損などの発生防止及び安定よい接着強度を確保することができる。
【0038】
なお、上記の実施形態では、押え金12自体を上部の面状電極に兼用させたもので示したが、押え金12とは別に上部の面状電極を設けてもよい。この場合は、押え金12をエンジニアリングプラスチックやスーパーエンジニアリングプラスチック等の構造材で、かつ、耐摩耗性、電気絶縁性及び耐熱性に優れた材料から構成すること、及び、上部の面状電極を押え金12の昇降に同期して昇降させる機構が必要となる。
【0039】
また、上記の実施形態では、間欠移送装置として、水平方向運動と上下方向運動との組み合わせにより合成循環運動する送り歯8を用いたもので説明したが、これに限定されない。例えば、複数条に並列させた突起付きベルトコンベアを常時駆動させ、これら突起付きベルトコンベアを生地載置板4に形成した長孔を通して昇降させることにより、被加工材Hを加工進行方向Xへ移送する状態と移送停止する状態とに交互に切替え可能としたものであってもよい。
【0040】
また、上記の実施形態では、上下予熱用ヒーターとして、カートリッジタイプのものを使用したが、これに限らず、電熱式ヒーターなどを固定的に組み込んでもよい。
【0041】
また、上記の実施形態では、ミシンベッド部3が、加工進行方向Xに直交する方向から視たとき、その外郭が略角筒形状に形成されている筒形ベッドを持つミシン、いわゆる、筒形ミシンへの適用例について説明した。この場合は、例えば、各種アパレルの袖口や首回り等の比較的小さい筒状部位を接着する際、その筒状部位を筒形のミシンベッド部3に前方から差し入れて該筒状部位をミシンベッド部3の回りに転回させるように間欠移送することにより、所定の接着作業を行うことができ、繊維生地を含めた被加工材の取り扱いが非常に便利である。
【0042】
さらに、本発明は、上記実施形態で説明した筒形ミシンへの適用に限られることなく、図7に示すように、ミシンベッド部3のベッド面3A全体が略長方形の平面をなす形状に形成されている、いわゆる、フラットベッド形ミシンに適用することも可能である。この場合は、例えば大きくて扱いにくい繊維生地の長尺部位を接着する時、被加工材全体を大きな面積のフラットなベッド面3Aに安定よく支持させて所定の接着を確実容易に行うことができる。
【符号の説明】
【0043】
1 ミシン本体
3 ミシンベッド部
3A フラットなベッド面
4 生地載置板
8(8A,8B) 送り歯(間欠移送装置)
12 押え金兼用の上部の面状電極
16 下部の面状電極
25,28 予熱用カートリッジヒーター
27 熱伝導性部材
W 繊維生地
T 熱可塑性樹脂テープ
H 被加工材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ミシンベッド部の上壁部に取り付けられて繊維生地の重ね合わせ部間に熱可塑性樹脂テープを挟み込んだ被加工材を摺接移動可能に載置する生地載置板と、この生地載置板の下部のミシンベッド部内に配置され且つ生地載置板上に載置された被加工材の下面に当接して該被加工材を水平面に沿って特定の加工進行方向へ移送する状態と被加工材の下面から離間して該被加工材の移送を停止する状態とを交互に繰り返す間欠移送装置と、この間欠移送装置と協同して被加工材を前記加工進行方向へ移送するとともに移送停止時に被加工材を弾性的に押えるべく上下に往復移動可能な押え金と、前記生地載置板の上部に配置されて上下に往復移動可能に構成された上部の面状電極及び前記生地載置板の下部のミシンベッド部内に設置固定されて前記生地載置板の上面と面一の電極面を有する下部の面状電極とを備え、
前記間欠移送装置による移送停止時において前記上部の面状電極を下方に移動させて該上部の面状電極と下部の面状電極との間に被加工材を挟んだ状態で、上部及び下部の一対の面状電極間に高周波電力を印加することによって、前記熱可塑性樹脂テープを高周波誘電加熱により溶融して繊維生地の重ね合わせ部を連続的に接着可能に構成していることを特徴とする高周波ミシン。
【請求項2】
前記間欠移送装置は、前記載置板に形成されたスロット状長孔内に配置される送り歯と、該送り歯を前記スロット状長孔内で上下方向及び水平方向に合成循環運動させる送り歯駆動機構とにより構成されている請求項1に記載の高周波ミシン。
【請求項3】
前記上部及び下部の一対の面状電極のうち、上部の面状電極は、前記押え金により兼用構成されている請求項1又は2に記載の高周波ミシン。
【請求項4】
前記生地載置板及び間欠移送手段における被加工材の下面への当接部又は送り歯が、エンジニアリングプラスチックを含む電気絶縁性及び耐熱性材料から構成されている請求項1又は2に記載の高周波ミシン。
【請求項5】
前記上部及び下部の一対の面状電極にはそれぞれ、予熱用ヒーターが付設されている請求項1ないし3のいずれかに記載の高周波ミシン。
【請求項6】
前記上部の面状電極を兼用する押え金と、当該押え金を予熱する予熱用ヒーターを保持しミシン本体に固定状態に取り付けられるヒーター保持台との間には、両者を上下に相対摺動可能に繋ぐ熱伝導性部材が介在されている請求項3に記載の高周波ミシン。
【請求項7】
前記ミシンベッド部は、加工進行方向に直交する方向から視たとき、その外郭が略筒形状に形成されている請求項1ないし6のいずれかに記載の高周波ミシン。
【請求項8】
前記ミシンベッド部は、前記生地載置板を含めてベッド面全体が略長方形の平面をなす形状に形成されている請求項1ないし6のいずれかに記載の高周波ミシン。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2011−47099(P2011−47099A)
【公開日】平成23年3月10日(2011.3.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−113646(P2010−113646)
【出願日】平成22年4月23日(2010.4.23)
【出願人】(000114868)ヤマトミシン製造株式会社 (66)
【Fターム(参考)】