説明

高周波モジュール

【課題】通過帯域外において広い周波数帯域で十分な減衰量を得られる高周波モジュールを実現する。
【解決手段】トリプレクサ13は、LPF311、BPF312、HPF313,314を組合せ、共用端子Pcrから入力される異なる周波数帯域の第1通信信号、第2通信信号、第3通信信号を分波して、各個別端子から出力する。トリプレクサ13の各個別端子2は、それぞれバラン321,322,323が接続されている。各バラン321,322,323は、通過帯域が通信信号の周波数帯域およびトリプレクサ13の通過帯域に重なり、且つ、トリプレクサ13の減衰極の周波数での減衰量が、−3dB以上になるように、形成される。これにより、減衰極の跳ね返り帯域での減衰量を大きく取ることが可能になる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、単一のアンテナを共用して複数周波数の高周波信号を送受信する高周波モジュールに関する。
【背景技術】
【0002】
現在、携帯電話機等の無線通信機器の高性能化、小型化に伴い、単一のアンテナを共用して、それぞれに異なる周波数帯域の高周波からなる通信信号を送受信する回路が必要とされている。このような回路として、異なる三種類の通信信号を送受信するためのトリプレクサが、各種考案されている。
【0003】
例えば、特許文献1のトリプレクサは、共通端子に対して、ローパスフィルタ、バンドパスフィルタ、およびハイパスフィルタを並列に接続しており、それぞれのフィルタの通過帯域を異ならせている。ローパスフィルタは、三種類の通信信号の内で最も低い周波数帯域の通信信号を通過させ、ハイパスフィルタは、三種類の通信信号の内で最も高い周波数帯域の通信信号を通過させ、バンドパスフィルタは、中間の周波数帯域の通信信号を通過させる。そして、各フィルタは、自身の通過帯域外の通信信号を減衰させる。
【0004】
このような複数の周波数帯域の通信信号を送受信する場合、特に各通信信号の周波数帯域が近接するような場合には、各フィルタが目的の通信信号のみを通過させるために、通過帯域の通過特性のみならず、通過帯域外の減衰特性も向上させなければならない。この通過帯域外の減衰特性を向上する方法の一つとして、インダクタとキャパシタの共振を利用した減衰極を、通過帯域の近傍に設定する方法がある。この方法を用いると、特許文献1の図3に示すように、通過帯域近傍の減衰特性が向上する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2006−332980号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、減衰極を形成する方法では、特許文献1の図3にも示すように、通過帯域を基準にして当該減衰極からさらに離間した周波数の領域に、減衰量の低い周波数帯域(減衰極による跳ね返り帯域)が発生してしまう。そして、このような通過帯域外における減衰量の低い周波数帯域が、当該高周波モジュールで利用する他の通信信号の周波数帯域に重なってしまうと、この本来減衰させたい他の通信信号まで、通過させてしまう。
【0007】
したがって、本発明の目的は、通過帯域外において広い周波数帯域で十分な減衰量を得られる高周波モジュールを実現することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
この発明は、少なくとも一つのフィルタ回路を備えて通信信号の所定周波数帯域を通過させる不平衡側の周波数選択部と、該不平衡型の周波数選択部の一方の入出力端子に接続され、不平衡−平衡変換を行うバラン部とを、備えた高周波モジュールに関する。この高周波モジュールでは、周波数選択部のフィルタ回路は、通信信号の所定周波数帯域の近傍に減衰極を有する。バラン部は、自身の通過帯域が通信信号の所定周波数帯域を含んで一致する。さらに、バラン部は、減衰極を基準にして通信信号の所定周波数帯域と反対側の周波数帯域における通信信号に対する減衰量が減衰極から離れるにつれて大きくなる。
【0009】
この構成では、フィルタ回路の通過帯域近傍の減衰極を基準として当該通過帯域と反対側に生じる減衰量の小さい周波数帯域すなわち上述の減衰極による跳ね返り帯域において、バランの減衰量が大きくなる。したがって、高周波モジュールとしては、減衰極による跳ね返り帯域における減衰量は大きくなる。これにより、通過帯域外での大きな減衰量が得られる周波数帯域を広く確保することができる。そして、このようにバラン部の特性を利用することで、跳ね返り帯域を減衰させるために、別のフィルタを用いる必要が無い。
【0010】
また、この発明の高周波モジュールでは、バラン部は、減衰極における減衰量が、通信信号の周波数帯域における減衰量と比較して約−3dB増加する特性を有する。
【0011】
この構成では、具体的なバラン部の通過帯域外の減衰特性の例について示している。このように、バラン部の通過帯域とフィルタ回路の通過帯域とを一致させ、減衰極の周波数でのバランの減衰量を通過帯域の約−3dBとすれば、減衰極を基準として通過帯域と反対側へは、概ね約−3dBから徐々に減衰量が増加する特性となる。したがって、上述のような減衰極による跳ね返り帯域の減衰量を確実に大きく取ることができる。
【0012】
また、この発明の高周波モジュールでは、周波数選択部は、複数のフィルタ回路を備えるとともに、一方の入出力端子を複数備える。周波数選択部の各一方の入出力端子は、それぞれに異なる周波数帯域からなる通信信号の個別入出力端子である。周波数選択部の他方の入出力端子は共通端子である。バラン部は、個別入出力端子毎に複数配設されたバランを備える。各バランは、それぞれが接続する入出力端子に応じた通過帯域および減衰量の特性を有する。
【0013】
この構成では、周波数選択部の具体的な構成例として、一つの共通端子に対して、複数の個別入出力端子が設けられた場合を示している。このような複数の周波数帯域の通信信号を用いた場合には、それぞれの通信信号の干渉が問題となるが、上述のように、各個別入出力端子に対するそれぞれの通過帯域外で、広い周波数帯域に亘り減衰量を大きく取れるので、このような干渉を効果的に抑制することができる。
【0014】
また、この発明の高周波モジュールでは、周波数選択部は、共通端子から入力される異なる周波数帯域からなる三種類の通信信号を分波するトリプレクサである。
【0015】
この構成では、周波数選択部の具体的な例として、トリプレクサの場合を示してる。
【0016】
また、この発明の高周波モジュールでは、トリプレクサを構成する回路要素は、複数の誘電体層を積層してなる積層体内の内層電極パターンまたは/および積層体の天面に実装される回路部品により形成される。このトリプレクサで伝送、分波する三種類の通信信号における最も高い周波数帯域の第1通信信号に対する第1バランと、三種類の通信信号における最も低い周波数帯域の第2通信信号に対する第2バランと、第1通信信号の周波数帯域と第2通信信号の周波数帯域との中間の周波数帯域の第3通信信号に対する第3バランは、内層電極パターンにより形成されている。第1バランの内層電極パターンと、第2バランの内層電極パターンとは、少なくとも一部が積層体の異なる層に形成されている。
【0017】
この構成では、上述のトリプレクサを含む高周波モジュールの具体的形成例として、積層体で形成する場合について示している。そして、特定の通信信号に対するバラン同士を、完全に同じ層に形成しないことで、これら特定の通信信号に対するバラン間の結合を抑制することができる。
【0018】
また、この発明の高周波モジュールでは、積層体の同じ層における第1バランの内層電極パターンと第2バランの内層電極パターンとの間に、第3バランの内層電極パターンが配設されている。
【0019】
この構成では、第1バランと第2バランとの間に第3バランが介することで、第1バランと第2バランとの間の結合を抑制できる。これにより、第1バランの通信信号の周波数と第2バランの通信信号の周波数とが所定倍の関係にあっても、すなわち、二つの通信信号の周波数が互いに高調波の周波数となり得る関係にあっても、確実に分波されるため、干渉等の悪影響を抑制できる。
【0020】
また、この発明の高周波モジュールでは、第1バランの内層電極パターンと第2バランの内層電極パターンはらせん形状に形成されるとともに、前記らせん形状の電極パターンの巻回方向が逆である。
【0021】
この構成では、第1バランと第2バランとの結合をさらに確実に抑制できる。
【0022】
また、この発明の高周波モジュールでは、第1、第2、第3バランは、それぞれの通信信号の略1/2波長の線路長からなる不平衡側線路と、略1/4波長の線路長からなる二個の平衡側線路とによって形成される。この高周波モジュールでは、通過帯域よりも低域側に現れる減衰極に対して、第1、第2、第3バランの特性を設定する。
【0023】
この構成では、第1、第2、第3のバランが、所謂、分布定数型のバランにより形成される。このような分布定数型のバランを用いることで、集中定数型では得られない通過帯域外の急峻な減衰量の増加を実現できる。これにより、減衰極に近接する跳ね返り帯域に対する減衰量の増加を、確実且つ大きくすることができる。
【0024】
そして、このような分布定数型のバランの場合、設定した通過帯域の高域側における奇数倍の周波数帯域にも再度通過帯域ができてしまうが、本構成のように、通過帯域外の低域側にのみ当該バランの特性を適用することで、通過帯域外の減衰量を効果的に広い範囲で大きく設定することができる。
【0025】
また、この発明の高周波モジュールでは、第1通信信号の周波数帯域が2GHz帯であり、第2通信信号の周波数帯域が5GHz帯である。
【0026】
この構成では、高周波モジュールで伝送する具体的な第1通信信号と第2通信信号の周波数帯域を示している。この場合、第2通信信号の周波数帯域は、第1通信信号の2倍高調波の周波数帯域になり、第1通信信号の周波数帯域は、第2通信信号の1/2倍高調波の周波数帯域となってしまう。しかしながら、上述の構成を用いることで、これら第1通信信号と第2通信信号とを確実に分波して、干渉を確実に抑制することができる。
【発明の効果】
【0027】
この発明によれば、フィルタ回路の通過帯域外の減衰極による跳ね返り帯域においても十分な減衰量を得ることができる。これにより、通過特性や減衰特性等に基づく分波性能が優れる高周波モジュールを実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】本発明の実施形態に係る高周波モジュールを含む通信用モジュールの回路ブロック図である。
【図2】本発明の実施形態に係る高周波モジュールの等価回路図である。
【図3】2.5GHzを通信帯域の中心に設定した分布定数型バランの通過特性図である。
【図4】本実施形態のトリプレクサ13、バラン321および高周波モジュールの第1通信信号(2GHz帯)に対する通過特性図である。
【図5】本実施形態のトリプレクサ13、バラン321および高周波モジュールの第3通信信号(3GHz帯)に対する通過特性図である。
【図6】本実施形態のトリプレクサ13、バラン321および高周波モジュールの第2通信信号(5GHz帯)に対する通過特性図である。
【図7】本実施形態の通信用モジュールの各層の構成を示す積み図である。
【図8】本実施形態の通信用モジュールの各層の構成を示す積み図である。
【発明を実施するための形態】
【0029】
本発明の実施形態に係る高周波モジュールについて、図を参照して説明する。図1は、本実施形態の高周波モジュールを含む、通信用モジュールの主要構成を示すブロック図である。図2は、本実施形態の高周波モジュールの等価回路図である。
【0030】
本実施形態の高周波モジュールは、本発明の「周波数選択部」に相当するトリプレクサ13と、バラン321,322,323とを備える。この高周波モジュールは、図1に示す通信用モジュール10の受信部に用いられ、当該通信モジュール10の一部として、後述する積層体および当該積層体に実装する回路素子により、一体的に形成される。
【0031】
高周波モジュールを含む通信モジュール10の構成について説明する。通信モジュール10は、アンテナに接続するアンテナ用共用端子Panを有する。アンテナ用共用端子Panは、ESD回路(静電気保護回路)11の一方端に接続している。ESD回路11の他方端は、スイッチIC12の共通端子に接続している。スイッチIC12は、図示しない制御電圧により、共通端子を四つのRF端子に切り替えて接続する機能を有する。スイッチIC12の第1RF端子は、受信回路であるトリプレクサ13の共通端子(図2のPcr)に接続している。スイッチIC12の第2、第3、第4RF端子は、それぞれに異なる周波数帯域の通信信号を送信するための送信回路に接続している。
【0032】
<送信回路>
第2RF端子は、HPF(ハイパスフィルタ)141、LPF(ローパスフィルタ)142を介して送信アンプ143の出力端に接続する。送信アンプ143の入力端は、HPF144、およびバラン145を介して、平衡入力端子Pt1p,Pt1nに接続している。なお、当該バラン145を含む送信側のバラン145,155,165の構造は、線路長が異なるのみで、後述する受信側のバランと同じであるので、詳細な構造説明は省略する。そして、これらの第2RF端子に接続する各回路構成要素は、2GHz帯からなる第1通信信号の送信周波数帯域を含む通過帯域を有し、他の第2、第3通信信号の送信周波数帯域を減衰帯域内に含むように、形成されている。
【0033】
第3RF端子は、HPF151を介して送信アンプ153の出力端に接続している。送信アンプ153の入力端は、バラン155を介して、平衡入力端子Pt2p,Pt2nに接続している。これらの第3RF端子に接続する各回路構成要素は、3GHz帯からなる第3通信信号の送信周波数帯域を含む通過帯域を有し、他の第1、第2通信信号の送信周波数帯域を減衰帯域内に含むように、形成されている。
【0034】
第4RF端子は、HPF161を介して送信アンプ163の出力端に接続している。送信アンプ163の入力端は、HPF164およびバラン165を介して、平衡入力端子Pt3p,Pt3nに接続している。これらの第4RF端子に接続する各回路構成要素は、5GHz帯からなる第2通信信号の送信周波数帯域を含む通過帯域を有し、他の第1、第3通信信号の送信周波数帯域を減衰帯域内に含むように、形成されている。
【0035】
このような構成により、通信モジュール10の送信回路が構成される。この送信回路は、不平衡型回路で実現されており、バラン145,155,165を介して、各平衡入力端子Pt1p,Pt1n、平衡入力端子Pt2p,Pt2n、平衡入力端子Pt3p,Pt3nにそれぞれ接続している。これにより、当該通信モジュールの前段に、現在多く利用されている平衡入出力型のICを接続し、当該ICで生成される第1、第2、第3通信信号を、増幅、フィルタ処理してアンテナから送信することができる。
【0036】
<受信回路>
スイッチIC12の第1RF端子に接続するトリプレクサ13は、図2に示す構成からなる。
【0037】
トリプレクサ13の共用端子Pcrには、LPF311の一方端と、HPF314の一方端とが接続している。
【0038】
LPF311の他方端は、BPF(バンドパスフィルタ)312の一方端、およびHPF313の一方端に接続している。BPF31の他方端はバラン321に接続しており、バラン321は平衡出力端子Pr1p,Pr1nに接続している。HPF313の他方端はバラン322に接続しており、バラン322は平衡出力端子Pr2p,Pr2nに接続している。
【0039】
HPF314の他方端はバラン323に接続しており、バラン323は平衡出力端子Pr3p,Pr3nに接続している。
【0040】
次に、トリプレクサ13の具体的な回路構成を、図2を参照して説明する。
【0041】
LPF311は、共用端子Pcrに一方端が接続するインダクタL1を備える。インダクタL1の他方端は、BPF312の一方端に接続するとともに、インダクタL8とキャパシタC2との直列回路を介してグランドへ接続している。この構成により、LPF311は、第1通信信号と第3通信信号の受信周波数帯域(2GHz帯と3GHz帯)を通過帯域内に含み、第2通信信号(5GHz帯)の受信周波数帯域を減衰帯域を含む低域通過型の通過特性(減衰特性)を有する。
【0042】
BPF312は、LPF311とバラン321との間に、LFP311側からインダクタL2、キャパシタC4、キャパシタC6、およびキャパシタC1が直列接続された構造を有する。インダクタL2の一方端はLPF311の他方端(インダクタL1の他方端)に接続し、他方端はキャパシタC4の一方端に接続している。インダクタL2とキャパシタC4の接続点はインダクタL3とキャパシタC3との直列回路を介してグランドへ接続している。キャパシタC4の他方端はキャパシタC6の一方端に接続している。キャパシタC4とキャパシタC6の接続点はインダクタL4とキャパシタC5との直列回路を介してグランドへ接続している。キャパシタC6の他方端はキャパシタC1の一方端に接続している。キャパシタC6とキャパシタC1との接続点はインダクタL5とキャパシタC7との直列回路を介してグランドへ接続している。この構成により、BPF312は、第1通信信号の受信周波数帯域(2GHz帯)を通過帯域内に含み、第3通信信号の受信周波数帯域(3GHz帯)を減衰帯域を含む帯域通過型の通過特性(減衰特性)を有する。
【0043】
HPF313は、LPF311とバラン322との間に、キャパシタC8,C10が直列接続された構造を有する。キャパシタC8,C10の接続点は、インダクタL6とキャパシタC9との直列回路を介してグランドへ接続している。この構成により、HPF313は、第3通信信号の受信周波数帯域(3GHz帯)を通過帯域内に含み、第1通信信号の受信周波数帯域(2GHz帯)を減衰帯域を含む高域通過型の通過特性(減衰特性)を有する。
【0044】
HPF314は、共用端子Pcrとバラン323との間に、キャパシタC11,C13が直列接続された構造を有する。キャパシタC11,C13の接続点は、インダクタL7とキャパシタC12との直列回路を介してグランドへ接続している。この構成により、HPF314は、第2通信信号の受信周波数帯域(5GHz帯)を通過帯域内に含み、第1、第3通信信号の受信周波数帯域(2GHz帯および3GHz帯)を減衰帯域を含む高域通過型の通過特性(減衰特性)を有する。
【0045】
このような構成により、共用端子Pcrから入力された第1通信信号(2GHz帯)はバラン321へ出力され、第2通信信号(5GHz帯)はバラン323へ出力され、第3通信信号(3GHz帯)はバラン322へ出力される。
【0046】
バラン321,322,323は、所謂分布定数型のバランであり、積層体内の内層電極パターンにより形成される。
【0047】
バラン321は、不平衡側線路321uと平衡側線路321p,321nとを備える。不平衡側線路321uは、第1通信信号の受信周波数の波長に対して略1/2の長さの線路長で形成されている。平衡側線路321p,321nは、不平衡側線路321uに対して所定の結合度で結合するような位置関係で形成されている。平衡側線路321p,321nは、第1通信信号の受信周波数の波長に対して略1/4の長さの線路長で形成されている。平衡側線路321p,321nの一方端がグランドへ接続し、他方端がそれぞれ平衡出力端子Pr1p,Pr1nに接続している。この際、平衡出力端子Pr1p,Pr1nは、互いの出力される信号の位相が反転するように、平衡側線路321p,321nへ接続している。
【0048】
バラン322,323は、線路長がそれぞれ第3通信信号の受信周波数および第2通信信号の受信周波数を基準に設定されたものであり、基本的構造はバラン321と同じである。
【0049】
このような構成により、通信モジュール10の受信回路が構成される。この受信回路は、不平衡型回路で実現されており、バラン321,322,323を介して、各平衡出力端子Pr1p,Pr1n、平衡出力端子Pr2p,Pr2n、平衡出力端子Pr3p,Pr3nにそれぞれ接続している。これにより、当該通信モジュールの後段に、現在多く利用されている平衡入出力型のICを接続し、当該平衡入出力型のICで通信信号を復調する処理を行うことができる。
【0050】
そして、本願の通信モジュール10の受信回路は、上述のように各通信信号の通過帯域の設定にのみ特化した簡素な構成のトリプレクサ13とバラン321,322,323のみを用いて、次に示すように、通過帯域外の減衰特性を従来よりも改善することができる。
【0051】
まず、上述のバラン321,322,323を形成する分布定数型バランは、図3に示すような通過特性を有する。図3は、2.5GHzを中心周波数に設定した分布定数型バランの通過特性図である。図3に示すように、分布定数型バランでは、設定した中心周波数を基準にして、低域側では中心周波数の1/2倍の周波数に向かって指数的に減衰量が増加する。また、設定した中心周波数を基準にして、高域側では中心周波数の2倍の周波数に向かって指数的に減衰量が増加する。さらに、設定した中心周波数の奇数倍の周波数で再度通過帯域ができている。
【0052】
本実施形態では、このようなバランの通過特性を利用して、第1、第2、第3通信信号に対する上述のトリプレクサ13の通過帯域外の減衰量を改善する。
【0053】
図4はトリプレクサ13、バラン321および高周波モジュールの第1通信信号(2GHz帯)に対する通過特性図である。図5はトリプレクサ13、バラン322および高周波モジュールの第3通信信号(3GHz帯)に対する通過特性図である。図6はトリプレクサ13,バラン323および高周波モジュールの第2通信信号(5GHz帯)に対する通過特性図である。
【0054】
従来では、バランの通過帯域は、図4、図5、図6の「バラン単体(帯域シフト前)」の細破線に示すように、トリプレクサ13の通過帯域の低域側よりも周波数が低い帯域および高域側よりも周波数が高い帯域にも広い通過帯域幅を有する特性に設定している。
【0055】
一方、本願の実施形態の構成では、図4、図5、図6の太破線に示すように、バランの特性を、上記「バラン単体(帯域シフト前)」の特性よりも高域側にシフトさせる。この際、バランの通過帯域内の低域側の下限近傍帯域とトリプレクサ13の通過帯域とが重なり合うように設定し、当該重なり合う帯域が通信信号の周波数帯域に一致するように設定する。
【0056】
さらに、トリプレクサ13の通過帯域に最も近い減衰極の周波数で、バランの減衰量が、通過帯域の挿入損失(最低の減衰量に相当)に対して、−3dB以上となるように、バランの特性シフト量を設定する。このようにバランの特性を高域側にシフトさせることにより、トリプレクサ13の通過帯域の低域側の減衰量を大きくすることができる。なお、この場合、バランの特性シフト量が−3dB以下では、バランの特性シフトによる十分な減衰特性の改善効果が得られない。また、バランの特性シフト量は、例えばバランを構成する不平衡側線路および平衡側線路の線路長を短くすること等により実現することができる。
【0057】
このような構成とすることで、図4、図5、図6に示すように、減衰極よりも低域側に発生する減衰量の小さな周波数帯域では、バランによる通信信号の減衰量が3dBよりも大幅に大きくなる。したがって、高周波モジュールとしては、図4、図5、図6の太実線に示すように、通過帯域の低域側の減衰領域で、減衰極の跳ね返りによる減衰量の低下(伝送信号の通過量が増加すること)を抑制し、広い周波波数帯域に亘り、大きな減衰量を得ることができる。
【0058】
なお、この際、各バランの特性シフトのために各バランの形状が変形するので、バランのインピーダンスが変化し、トリプレクサ13との整合がずれてバランの挿入損失が悪化することがある。しかし、トリプレクサ13における各バラン321,322,323に接続するキャパシタC1,C10,C13のキャパシタンスを適宜調整することで、バランとトリプレクサ間の整合を取ることができる。これにより、バランの挿入損失を悪化させることなく、高周波モジュールとしての通過帯域の減衰特性を改善することができる。
【0059】
具体的には、通過帯域BT2Gの第1通信信号(2GHz帯)に対しては、図4に示すように、トリプレクサ13単体では、略1.9GHzの減衰極に対して、約0.5GHzから約1.5GHzの帯域を中心として、減衰量が−15dB程度まで小さくなる跳ね返り帯域が存在するが、バラン321の通過特性をシフトして組み合わせることで、−30dB以上にまで改善することができる。
【0060】
また、通過帯域BT3Gの第3通信信号(3GHz帯)に対しては、図5に示すように、トリプレクサ13単体では、略2.7GHzの減衰極に対して、約0.5GHzから約2.2GHzの帯域を中心として、減衰量が−15dB程度まで小さくなる跳ね返り帯域が存在するが、バラン322の通過特性をシフトして組み合わせることで、−30dB以上にまで改善することができる。
【0061】
また、通過帯域BT5Gの第2通信信号(5GHz帯)に対しては、図6に示すように、トリプレクサ13単体では、略3.8GHzの減衰極に対して、約2.0GHzから約3.6GHzの帯域を中心として、減衰量が−10dB程度まで小さくなる跳ね返り帯域が存在するが、バラン323の通過特性をシフトして組み合わせることで、−20dB以上にまで改善することができる。
【0062】
以上のようの本実施形態の回路構成を用いることで、通過帯域の通過量を悪化させることなく、通過帯域外の減衰量を広い周波波数帯域で大きく取れる高周波モジュールを実現することができる。この際、跳ね返り帯域の減衰量を得るための個別のフィルタを追加で挿入する必要が無いので、簡素な構成で小型に、上記優れた特性を有する高周波モジュールを実現することができる。
【0063】
次に、上述の高周波モジュールを実現する積層体および当該積層体への回路素子の実装構成について、図7、図8を用いて説明する。図7、図8は、高周波モジュールを含む通信用モジュール10の各層の構成を示す積み図である。なお、図7は積層体の最上層となる誘電体層901から第15層となる誘電体層915までを示し、図8は第16層となる誘電体層916から積層体の最下層となる誘電体層928までを示す。図7、図8において、最上層となる誘電体層901から第18層となる誘電体層918までは、各誘電体層を天面側(最上層側)から見た平面図であり、図8において、第19層となる誘電体層919から最下層となる誘電体層928までは、各誘電体層を底面側(最下層側)から見た平面図である。また、図7、図8では、高周波モジュールすなわちトリプレクサ13およびバラン321,322,323に関する箇所のみを、記号を付して説明する。また、図7、図8の各誘電体層に示された小丸は、各層の内層電極パターンを積層方向に導通する導電性ビアホールを示す。
【0064】
通信用モジュール10を実現する積層体の最上層である誘電体層901の表面、すなわち積層体の天面には、実装型回路部品を実装する実装用ランドが、所定パターンで形成されている。BPF312を構成するインダクタL2,L3,L4,L5およびキャパシタC1と、HPF313を構成するインダクタL6と、HPF314を構成するインダクタL7は、それぞれに設定された実装用ランドに対して実装されている。
【0065】
誘電体層902、903、905には、LPF311を構成するインダクタL8が、線状電極パターンにより形成されている。
【0066】
誘電体層904には、BPF312のキャパシタC4、HPF313のキャパシタC8、およびHPF314のキャパシタC11をそれぞれに構成する平板状の対向電極が形成されている。
【0067】
誘電体層905には、キャパシタC4,C8,C11の対向電極がそれぞれ形成されている。誘電体層905のキャパシタC4の対向電極は、BPF312のキャパシタC6の対向電極を兼ねている。誘電体層905のキャパシタC8の対向電極は、HPF313のキャパシタC10の対向電極を兼ねている。誘電体層905のキャパシタC11の対向電極は、HPF314のキャパシタC13の対向電極を兼ねている。
【0068】
誘電体層906には、キャパシタC6,C10,C13の対向電極がそれぞれ形成されている。
【0069】
誘電体層908には、BPF312のキャパシタC3、C7の対向電極およびグランド電極GNDが形成されている。
【0070】
誘電体層910には、キャパシタC3、C7の共通の対向電極およびグランド電極GNDが形成されている。また、誘電体層910には、LPF311のキャパシタC2、HPF314のキャパシタC12の対向電極が形成されている。
【0071】
誘電体層911には、BPF312のキャパシタC5、HPF313のキャパシタC9の対向電極が形成されている。
【0072】
誘電体層912には、略全面にグランド電極GNDが形成されている。当該グランド電極GNDは、キャパシタC2,C5,C9,C12の対向電極を兼ねている。誘電体層914には、グランド電極GNDが形成されている。
【0073】
誘電体層916には、バラン321,322,323を構成する線状電極が形成されている。誘電体層917には、バラン323を構成する線状電極が形成されている。誘電体層918には、バラン321,322を構成する線状電極が形成されている。誘電体層916,917,918の線状電極で実現されるバラン321,322,323は、それぞれ所定方向に巻回するらせん形状からなる。これら誘電体層916,917,918により実現されるバラン321,322,323は、不平衡側線路321u,322u,323uである。
【0074】
ここで、バラン321,322とバラン323とでは、巻回方向が逆に形成されている。これにより、バラン321,322とバラン323との間での結合を抑制することができる。
【0075】
また、バラン321,322とバラン323とでは、部分的に異なる層に形成されている。具体的には、バラン321,322は誘電体層916,918に形成されて、バラン323は誘電体層916,917に形成されている。このように、形成する層を少なくとも部分的に異ならせることで、バラン321,322とバラン323との間での結合を抑制することができる。
【0076】
また、バラン321とバラン323との間には、平面視してバラン322が配設されている。これにより、バラン321とバラン323との結合を抑制することができる。
【0077】
このようなバラン321,322,323の配置を行うことで、バラン間の結合を効果的に抑制できる。特に、上述の構成により、バラン321とバラン323との結合を、より効果的に抑制できる。ここで、バラン321は2GHz帯からなる第1通信信号用であり、バラン323は5GHz帯からなる第2通信信号用である。したがって、これら第1通信信号と第2通信信号とは、互いに高調波の周波数が重なり合う関係となる。このため、これら第1通信信号と第2通信信号との間での相互干渉は大きな問題となるが、上述の構成とすることで、このような相互干渉を抑圧できる。これにより、さらに通過特性や減衰特性に優れる高周波モジュールを実現することができる。
【0078】
誘電体層919には、略全面にグランド電極GNDが形成されている。誘電体層920には、グランド電極GNDが形成されている。
【0079】
誘電体層922には、バラン321,322,323を構成する線状電極が形成されている。誘電体層923には、バラン323を構成する線状電極が形成されている。誘電体層924には、バラン321,322を構成する線状電極が形成されている。誘電体層922,923,924の線状電極で実現されるバラン321,322,323も、誘電体層916,917,918と同様に、バラン321,322とバラン323とが異なる方向に巻回する形状からなる。これら誘電体層922,923,924により実現されるバラン321,322,323は、平衡側線路321p,321n,322p,322n,323p,323nである。誘電体層922,923,924においても、上述の誘電体層916,917,918の構成と同様の作用効果を得ることができる。
【0080】
誘電体層926には、略全面にグランド電極GNDが形成されている。
【0081】
積層体の最下層である誘電体層928には、各種外部接続用電極とグランド電極GNDとが所定パターンで形成されている。
【0082】
このように、本実施形態の構成を用いることで、小型化された積層体であって、通過特性の悪化を抑制し、通過帯域外の減衰特性を改善し、さらにバラン間での結合による特性劣化を抑制した、高周波モジュールおよび通信用モジュールを実現することができる。
【0083】
なお、上述の実施形態では、トリプレクサを例に説明したが、フィルタを用いて、所望とする周波数帯域の通信信号を通過させる高周波モジュールであれば、上述の構成を適用することができる。
【0084】
また、上述の実施形態では、トリプレクサの通過帯域の低域側の減衰量を改善する場合を例に説明したが、高域側についても同様に適用することができる。ただし、図3に示したように、高域側には、バランの通過帯域の中心周波数に設定する周波数の奇数倍の周波数に、再度通過帯域が生じる。したがって、高域側の減衰量を改善する場合は必要に応じて、バランの通過帯域の中心周波数を変えるなどの工夫をする必要がある。
【0085】
また、上述のように、減衰極の周波数で−3dB以上とすることは、バランの通過特性を設定するための具体的な設定例の一例を示すものである。したがって、本実施形態の作用効果を得るためには、トリプレクサとバランとの通過帯域を伝送する通信信号の周波数帯域に重ね、通過帯域の近傍のトリプレクサの減衰極を基準として、通過帯域と反対側の周波数帯域で、バランの減衰量が大きくなるように、バランの通過特性を設定すればよい。
【符号の説明】
【0086】
10−高周波モジュール、11−ESD保護回路、12−スイッチIC、13−トリプレクサ、31−フィルタ部、141,144,151,161,164,313,314−ハイパスフィルタ(HPF)、142,311−ローパスフィルタ(LPF)、312−バンドパスフィルタ(BPF)143,153,163−送信アンプ、145,155,165,321,322,323−バラン、145u,155u,165u,321u,322u,323u−不平衡側線路、145p,155p,165p,145n,155n,165n,321p,322p,323p,321n,322n,323n−平衡側線路

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも一つのフィルタ回路を備え、通信信号の所定周波数帯域を通過させる不平衡側の周波数選択部と、
該不平衡側の周波数選択部の一方の入出力端子に接続され、不平衡−平衡変換を行うバラン部とを備え、
前記周波数選択部の前記フィルタ回路は、前記通信信号の所定周波数帯域の近傍に減衰極を有し、
前記バラン部は、自身の通過帯域が前記通信信号の所定周波数帯域を含んでおり、且つ、前記減衰極を基準にして前記通信信号の所定周波数帯域と反対側の周波数帯域における前記通信信号に対する減衰量が前記減衰極から離れるにつれて大きくなる、高周波モジュール。
【請求項2】
請求項1に記載の高周波モジュールであって、
前記バラン部は、前記減衰極における減衰量が、前記通信信号の周波数帯域における減衰量と比較して、約−3dB増加している、高周波モジュール。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載の高周波モジュールであって、
前記周波数選択部は、複数のフィルタ回路を備えるとともに、前記一方の入出力端子を複数備え、各一方の入出力端子がそれぞれに異なる周波数帯域からなる通信信号の個別入出力端子であり、他方の入出力端子が共通端子であり、
前記バラン部は、前記個別入出力端子毎に複数配設されたバランを備え、それぞれが接続する入出力端子に応じた通過帯域および前記減衰量の特性を有する、高周波モジュール。
【請求項4】
請求項3に記載の高周波モジュールであって、
前記周波数選択部は、前記共通端子から入力される異なる周波数帯域からなる三種類の通信信号を分波するトリプレクサである、高周波モジュール。
【請求項5】
請求項4に記載の高周波モジュールであって、
前記トリプレクサを構成する回路要素は、複数の誘電体層を積層してなる積層体内の内層電極パターンまたは/および前記積層体の天面に実装される回路部品により形成され、
前記三種類の通信信号における最も高い周波数帯域の第1通信信号に対する第1バランと、前記三種類の通信信号における最も低い周波数帯域の第2通信信号に対する第2バランと、前記第1通信信号の周波数帯域と前記第2通信信号の周波数帯域との中間の周波数帯域の第3通信信号に対する第3バランは、前記内層電極パターンにより形成され、
前記第1バランの内層電極パターンと、前記第2バランの内層電極パターンとは、少なくとも一部が、前記積層体の異なる層に形成されている、高周波モジュール。
【請求項6】
請求項5に記載の高周波モジュールであって、
前記積層体の同じ層における前記第1バランの内層電極パターンと、前記第2バランの内層電極パターンとの間に、前記第3バランの内層電極パターンが配設されている、高周波モジュール。
【請求項7】
請求項5または請求項6に記載の高周波モジュールであって、
前記第1バランの内層電極パターンと、前記第2バランの内層電極パターンはらせん形状に形成されるとともに、前記らせん形状の電極パターンの巻回方向が逆である、高周波モジュール。
【請求項8】
請求項4乃至請求項7のいずれかに記載の高周波モジュールであって、
第1、第2、第3バランは、それぞれの通信信号の略1/2波長の線路長からなる不平衡側線路と、略1/4波長の線路長からなる二個の平衡側線路とによって形成され、
前記周波数選択回路の通過帯域よりも低域側に現れる減衰極に対して、前記第1、第2、第3バランの特性を設定する、高周波モジュール。
【請求項9】
請求項4乃至請求項8のいずれかに記載の高周波モジュールであって、
前記第1通信信号の周波数帯域が2GHz帯であり、前記第2通信信号の周波数帯域が5GHz帯である、高周波モジュール。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2011−259066(P2011−259066A)
【公開日】平成23年12月22日(2011.12.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−129855(P2010−129855)
【出願日】平成22年6月7日(2010.6.7)
【出願人】(000006231)株式会社村田製作所 (3,635)
【Fターム(参考)】