説明

高周波増幅器

【課題】入力変調信号のエンベロープのダイナミックレンジが大きい場合においても、利得の低下を抑えることができるエンベロープトラッキング方式の高周波増幅器を提供すること。
【解決手段】変調電源回路100は、エンベロープ信号に対応した変調電源制御信号に応じて出力電圧を可変する変調電源120と、前記出力電圧が高い第1の電圧領域で最適な動作をする第1の高周波デバイス140と、前記出力電圧が第1の電圧領域より低い第2の電圧領域で最適な動作をする第2の高周波デバイス150と、第1の高周波デバイス140又は第2の高周波デバイス150のどちらかの通過経路及び出力信号を切り替える入力RFスイッチ160及び出力RFスイッチ170と、入力RFスイッチ160及び出力RFスイッチ170を切替制御する切替信号を生成する切替信号生成部112とを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高周波増幅器に係り、詳細には、ET(Envelope Tracking)方式の高周波電力増幅器における利得の改善に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、移動体通信用の基地局アンプに代表される高周波大電力増幅器に対する高効率化の要望が強くなってきている。この解決策の一つの方法として、エンベロープトラッキング方式で構成される高周波増幅器が検討されている。
【0003】
エンベロープトラッキング方式は、高周波増幅器の高効率化に関する技術である。エンベロープトラッキング方式は、高周波デバイスに供給する電源電圧を入力変調波のエンベロープに応じて変動させて無駄な電力を排除し、高周波デバイスの動作効率を高める。
【0004】
図1は、エンベロープトラッキング方式の基本構成を示す図である。
【0005】
図1に示すように、エンベロープトラッキング方式の高周波増幅器10は、エンベロープ信号生成部11aを有し、RF変調信号とエンベロープ信号を生成するベースバンド信号処理部11と、エンベロープ信号に応じて出力電圧を可変する変調電源12と、変調電源12からの出力電圧で駆動する高周波デバイス13と、RF出力端子14と、を備える。
【0006】
なお、通常のエンベロープトラッキング方式の動作原理については、例えば非特許文献1などの文献により当業者にとってよく知られているので、詳細な説明は省略する。
【0007】
一般に知られるように、高周波デバイスは最適な動作をする固有の電圧範囲があり、その電圧範囲より電源電圧を上げると破壊するおそれがあり、下げると利得が大きく低下する。
【0008】
図2は、高周波デバイスの電圧変動による利得特性を示す図である。
【0009】
このような特性から、入力変調信号のエンベロープのダイナミックレンジが大きく、高周波デバイスの利得を一定に保つことのできる最適動作電圧範囲に満たない電圧まで下げる場合には、当然のことながら高周波デバイスの動作利得は大きく低下する。高周波デバイスの利得低下は、装置の線形歪みを増加させる。さらには、ドライブアンプに要求される飽和出力が高まり、ドライブアンプに使用する高周波デバイスのパワーランクが上がるので、装置のコストアップを招くことになる。
【0010】
この解決には、例えば非特許文献2に示されるように、ある閾値電圧以上の電圧範囲では高周波デバイスをエンベロープトラッキング動作させ、高周波デバイスの利得が下がる低電圧の領域では電源電圧を線形特性が良いA級又はAB級バイアスに固定するエンベロープトラッキング動作が提案されている。
【0011】
図3は、エンベロープトラッキング方式における供給電圧の特性曲線を示す図である。
【0012】
このエンベロープトラッキング方式によれば、高周波デバイスの利得が低下する電圧範囲を使用しないため、利得低下の小さいエンベロープトラッキング動作が可能となる。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0013】
【非特許文献1】Andrei Grebennikov,“RF and Micriwave Power Amplifier Design”,McGRAW−HILL p361−365
【非特許文献2】Timo Rautio,Henri Harju,Simo Hietakangas and Timo Rahkoen. Effects of Different VDD−drives in ET & EER Transmitters. In Norchip Conference,2007.25th, Page 1−4, Nov.2007.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
しかしながら、非特許文献2に記載の技術によれば、高周波増幅器の利得の低下を抑えることはできるものの、入力変調信号のエンベロープのダイナミックレンジが大きく、A級又はAB級で動作する閾値電圧以下となる動作時間が増える場合には無駄な消費電力が増加して装置効率が劣化する課題がある。
【0015】
すなわち、従来のエンベロープトラッキング方式では、電源電圧を低電圧とした時に高周波増幅器の利得が低下することへの課題認識が無く、対策がとられていない。このため、以下の課題がある。
【0016】
(1)低電圧動作時にPA(電力増幅器)の利得が低下する。
【0017】
(2)低電圧動作は利得が低く、アイソレーションが悪い。これは歪み劣化を招く。
【0018】
(3)利得が低下すると、ドライブ段のパワーランクUPが必要となる。
【0019】
本発明の目的は、入力変調信号のエンベロープのダイナミックレンジが大きい場合においても、利得の低下を抑えることができるエンベロープトラッキング方式の高周波増幅器を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0020】
本発明の高周波増幅器は、高周波デバイスに供給する電源電圧を入力変調波のエンベロープに応じて変動させ、前記高周波デバイスの利得が下がる電圧領域では電圧を固定するエンベロープトラッキング方式の高周波増幅器であって、エンベロープ信号に対応した変調電源制御信号に応じて出力電圧を可変する変調電源と、前記変調電源からの出力電圧が高い第1の電圧領域で最適な動作をする第1の高周波デバイスと、前記変調電源からの出力電圧が前記第1の電圧領域より低い第2の電圧領域で最適な動作をする第2の高周波デバイスと、前記第1の高周波デバイスと前記第2の高周波デバイスとを切り替えるデバイス切替手段と、前記デバイス切替手段を切替制御する切替信号を生成する切替信号生成手段と、を備える構成を採る。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、入力変調信号の包絡線のダイナミックレンジが大きい場合においても、変調電源の出力電圧範囲に応じて最適な動作をする高周波デバイスを選択することができ、利得低下を抑えたエンベロープトラッキング方式の高周波増幅器を実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】従来のエンベロープトラッキング方式の基本構成を示す図
【図2】従来の高周波デバイスの電圧変動による利得特性を示す図
【図3】従来のエンベロープトラッキング方式における供給電圧の特性曲線を示す図
【図4】本発明の実施の形態1に係る高周波増幅器の構成を示す図
【図5】上記実施の形態1に係る高周波増幅器の異なる高周波デバイス構造における利得対電圧特性を示す図
【図6】上記実施の形態1に係る高周波増幅器のエンベロープの電圧領域を区分する一例を示す図
【図7】上記実施の形態1に係る高周波増幅器の電源供給を切替えるタイミングを説明する図
【図8】上記実施の形態1に係る高周波増幅器の入力RFスイッチの構成の一例を示す図
【図9】上記実施の形態1に係る高周波増幅器の入力RF分配比の一例を示す図
【図10】本発明の実施の形態2に係る高周波増幅器の構成を示す図
【図11】上記実施の形態2に係る高周波増幅器の異なる高周波デバイス構造における利得対電圧特性を示す図
【図12】上記実施の形態2に係る高周波増幅器のエンベロープの電圧領域を区分する一例を示す図
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本発明の実施の形態について、図面を参照して詳細に説明する。
【0024】
(実施の形態1)
図4は、本発明の実施の形態1に係る高周波増幅器の構成を示す図である。本実施の形態は、エンベロープトラッキング方式の高周波電力増幅器に適用可能である。
【0025】
図4に示すように、高周波増幅器100は、ベースバンド信号処理部110、変調電源120、ドライブアンプ130、第1の高周波デバイス140、第2の高周波デバイス150、入力RFスイッチ160、出力RFスイッチ170、及びRF出力端子180を備える。上記ドライブアンプ130、第1の高周波デバイス140、第2の高周波デバイス150、入力RFスイッチ160、及び出力RFスイッチ170は、RFアンプ190を構成する。
【0026】
ベースバンド信号処理部110は、エンベロープ信号生成部111と、切替信号生成部112とを備える。
【0027】
ベースバンド信号処理部110は、入力変調信号を基にRF変調信号を生成し、RFアンプ190に出力する。エンベロープ信号生成部111は、入力変調信号を基に変調電源制御信号を生成し、変調電源120に出力する。
【0028】
切替信号生成部112は、入力変調信号を基にRFスイッチ制御信号を生成し、変調電源120を介して入力RFスイッチ160及び出力RFスイッチ170に出力する。RFスイッチ制御信号は、入力RFスイッチ160及び出力RFスイッチ170を切替制御し、高周波デバイスを切り替える切替信号である。切替信号生成部112は、第1の高周波デバイス140の利得が下がる低電圧領域では、動作電圧が低い前記第2の高周波デバイス150に切り替えるRFスイッチ制御信号(切替信号)を生成する。
【0029】
なお、図4では、ベースバンド信号処理部110が、切替信号生成部112を備える構成としたが、変調電源120が切替信号生成部112を備える構成としてもよい。
【0030】
変調電源120は、エンベロープ信号を高周波デバイスの電源電圧に電力増幅する。変調電源120は、エンベロープ信号に対応した変調電源制御信号で制御され、変調電源制御信号に応じて可変した出力電圧を高周波デバイス(第1の高周波デバイス140又は第2の高周波デバイス150)へ供給する。
【0031】
ドライブアンプ130は、ベースバンド信号処理部110から出力されるRF変調信号を電力増幅する。
【0032】
第1の高周波デバイス140は、変調電源120からの出力電圧が高い第1の電圧領域で最適な動作をする。
【0033】
第2の高周波デバイス150は、変調電源120からの出力電圧が第1の電圧領域より低い第2の電圧領域で最適な動作をする。
【0034】
上記第1の高周波デバイス140と第2の高周波デバイス150は、動作電圧が異なる高周波デバイスである。一般に、異なるデバイス構造の場合、動作電圧が異なる。例えば、第1の高周波デバイス140は、GaNデバイス、第2の高周波デバイス150は、LDMOS(Laterally Diffused MOS:横方向拡散MOS)である。また、同一デバイス構造であっても、整合調整により最適な動作電圧範囲を変えることができる。なお、GaN(窒化ガリウム)は、ガリウムナイトライド(gallium nitride)とも呼ばれる。
【0035】
入力RFスイッチ160は、ベースバンド信号処理部110から出力されるRF変調信号の通過経路を第1の高周波デバイス140又は第2の高周波デバイス150に切り替える。
【0036】
出力RFスイッチ170は、第1の高周波デバイス140又は第2の高周波デバイス150のどちらかの出力信号を選択する。
【0037】
上記RFスイッチ160,170には、低損失で高アイソレーションのRF−MEMS(Micro Electro Mechanical Systems)を使用することが好ましい。
【0038】
以下、上述のように構成された高周波増幅器100の動作について説明する。
【0039】
まず、本発明の基本的な考え方について説明する。
【0040】
エンベロープトラッキング方式では、ある閾値以上の電圧で電源電圧を変動させ、高周波デバイスの利得が下がる電圧領域では電圧を固定する。一般的にデバイスの利得は、電源電圧を下げると利得が下がるので、固定低電圧動作時の利得は低い。
【0041】
また、高周波パワーデバイスは、素子によって最適な電圧が異なる。例えば、GaAsデバイスは12V、LDMOSは28V、GaNデバイスは50Vが一般的に知られている。
【0042】
本実施の形態は、エンベロープトラッキング方式において、高周波デバイスの利得が下がる低電圧領域では、動作電圧が低い高周波デバイスに切り替える。
【0043】
具体的には、本高周波増幅器100は、高電圧動作に対応する第1の高周波デバイス140と、低電圧動作に対応する第2の高周波デバイス150と、第1の高周波デバイス140又は第2の高周波デバイス150のどちらかの通過経路及び出力信号を切り替える入力RFスイッチ160及び出力RFスイッチ170(デバイス切替手段)と、入力RFスイッチ160及び出力RFスイッチ170を切替制御する切替信号を生成する切替信号生成部112とを備える。切替信号生成部112は、第1の高周波デバイス140の利得が下がる低電圧領域では、動作電圧が低い前記第2の高周波デバイス150に切り替えるRFスイッチ制御信号(切替信号)を生成する。
【0044】
次に、上記基本的な考え方に基づく高周波増幅器100の動作を説明する。
【0045】
本実施の形態に係る変調電源回路100の基本的な構成及び動作は、従来のエンベロープトラッキング方式の変調電源回路と同様である。
【0046】
図4に示すように、ベースバンド信号処理部110は、入力変調信号を基に、変調電源制御信号とRFスイッチ制御信号とRF変調信号を生成する。ベースバンド信号処理部110の切替信号生成部112は、電源電圧をアナログモニタしてRFスイッチ制御信号(切替信号)を生成する。
【0047】
ベースバンド信号処理部110から出力されたRF変調信号は、RFアンプ190を構成するドライブアンプ130により電力増幅されて入力RFスイッチ160へ入力される。
【0048】
変調電源120は、ベースバンド信号処理部110からのエンベロープ信号に対応した変調電源制御信号で制御され、変調電源制御信号に応じて可変した出力電圧を、第1の高周波デバイス140又は第2の高周波デバイス150へ供給する。
【0049】
図5は、異なる高周波デバイス構造における利得対電圧特性を示す図である。図6は、エンベロープの電圧領域を区分する一例を示す図である。
【0050】
図5に示すように、高周波デバイスの利得特性は、GaAsデバイスが最適な電圧12V、LDMOSが最適な電圧28Vであり、利得が一定となる電源電圧範囲は、異なる。
【0051】
本実施の形態では、第1の高周波デバイス140をGaNデバイスとし、第2の高周波デバイス150をLDMOSとする。図6に示すように、低電圧動作では第2の高周波デバイス150を、高電圧動作では第1の高周波デバイス140を動作させる。
【0052】
一般的に知られているように、GaNデバイスとLDMOSデバイスといった異なるデバイス構造からなる高周波増幅器では、同一の利得を得る回路に調整しても、遅延時間と位相特性も揃えることは非常に困難である。そのため、本実施の形態で2つのデバイスを同一利得として連続に切替える動作が実現できても、遅延時間と位相特性の不連続が生じて、システムの歪み特性などの性能を劣化させる可能性がある。
【0053】
この課題に関して、遅延時間については遅延時間が短いデバイスの回路に遅延回路を挿入して両デバイスの遅延時間を揃えればよい。位相特性の不連続性については、デジタル歪み補償といった歪み補償を備えることで解決する。
【0054】
変調電源120は、ベースバンド信号処理部110からのRFスイッチ制御信号に基づいて入力RFスイッチ160と出力RFスイッチ170を切り替える。変調電源120は、高電圧領域の場合には第1の高周波デバイス140を、低電圧領域の場合には第2の高周波デバイス150を駆動するように、入力RFスイッチ160と出力RFスイッチ170を切り替える。
【0055】
入力RFスイッチ160は、ベースバンド信号処理部110から出力されるRF変調信号の通過経路を第1の高周波デバイス140又は第2の高周波デバイス150のいずれか一方に切り替え、出力RFスイッチ170は、第1の高周波デバイス140又は第2の高周波デバイス150のどちらかの出力信号を選択する。RF変調信号は、選択された高周波デバイスの経路を通過することになる。
【0056】
ところで、複数の高周波デバイスを切替えて使用する場合、デバイスの立ち上がりが瞬時に完了しなければ利得を一定にして切替えることはできず、本実施の形態の十分な効果を得ることは困難である。
【0057】
この課題に関しては、例えば、変調電源120から出力される高電圧動作の電源と低電圧動作の電源との切替えタイミングに重なり時間を設けることで、デバイスの立ち上がり時による不安定動作を無視することができる。
【0058】
図7は、電源供給を切替えるタイミングを説明する図であり、電源の切替えタイミングの一例を示す。
【0059】
図7に示すように、入力RFスイッチ160と出力RFスイッチ170を切替える時間を基準として、低電圧電源のON−OFF切替えのタイミングと、高電圧電源のON−OFFの切替えのタイミングとの間に、Tdelayの重なり時間を持たせる。このTdelayが、第1の高周波デバイス、及び第2の高周波デバイスを電源投入から安定動作するまでの時間より長く設定すれば、両デバイスの切替えによる利得の変動は生じない。
【0060】
また、別の方法の例として、入力RFスイッチ160を、図8に示す構成とすることで解決が可能である。
【0061】
図8は、入力RFスイッチ160の構成の一例を示す図である。
【0062】
図8に示すように、入力RFスイッチ160は、サーキュレータ161と、RFスイッチ制御信号で制御される例えばPinダイオードを用いて無段階にリターンロスの調整が可能なRFアッテネータ162とから構成される。
【0063】
図9は、図8の入力RFスイッチ160の入力RF分配比の一例を示す図である。
【0064】
図9に示すように、入力RFスイッチ160は、制御信号に応じて連続的に入力RF信号の分配比が制御される。
【0065】
ここで、図4の出力RFスイッチ170は、強制的に経路を切替えるスイッチの代わりにウィルキンソン型や結合型などの常に両入力端子からのRF電力を合成するRF合成器を用いる。この場合には、出力RFスイッチの制御信号は使用しなくてもよい。
【0066】
このような構成を採ることにより、エンベロープの振幅電圧レベルに応じて、サーキュレータ161を通過するRF変調信号と、サーキュレータ161に反射して戻ってくる電力の比率は連続的に変動する。すなわち、第1の高周波デバイスへの入力と、第2の高周波デバイスへの入力とに分配する電力の比率は、無段階にバランスを取りながら調整されるので、両デバイスの動作が急激に切替わるポイントは存在せず、デバイスを切り替える時の利得の特性変化が滑らかに合成されたRF出力を得ることが可能となる。
【0067】
また、図7に示した電源の切替えタイミングに加え、図8に示したRF信号経路の構成を用いてもよい。
【0068】
以上詳細に説明したように、本実施の形態によれば、変調電源回路100は、エンベロープ信号に対応した変調電源制御信号に応じて出力電圧を可変する変調電源120と、前記出力電圧が高い第1の電圧領域で最適な動作をする第1の高周波デバイス140と、前記出力電圧が第1の電圧領域より低い第2の電圧領域で最適な動作をする第2の高周波デバイス150と、第1の高周波デバイス140又は第2の高周波デバイス150のどちらかの通過経路及び出力信号を切り替える入力RFスイッチ160及び出力RFスイッチ170と、入力RFスイッチ160及び出力RFスイッチ170を切替制御する切替信号を生成する切替信号生成部112とを備える。
【0069】
以上の構成により、入力変調信号の包絡線のダイナミックレンジが大きい場合においても、変調電源の出力電圧範囲に応じて最適な動作をする高周波デバイスを選択することができる。
【0070】
例えば、低電圧領域は、低電圧駆動の第2の高周波デバイス150に対応させることで、低電圧領域での高周波増幅器100の利得低下を抑制することが可能になる。これにより、ET動作において、平均利得を向上させることができる。電圧と利得の線形性が向上し、歪み補償が容易となる。利得の向上により、PA(電力増幅器)のアイソレーションが改善する。利得の向上により、プリアンプのパワーランクの低減が可能となる。
【0071】
また、本実施の形態による高周波デバイス追加を主とする部材のコストアップは、装置のランニングコストの削減量と比べてはるかに小さい。高周波デバイス以外の周辺部品を考慮しても、基地局用の高周波増幅器の使用年数は10年間程度が一般的であり、部材費のコストアップよりランニングコストの削減量の方がはるかに大きい。
【0072】
さらに、上述したように、本実施の形態では平均動作利得を向上することができる。動作利得が3dB向上し、プリアンプ段の高周波デバイスを3W級から1W級へ、ランクをダウンできたとすると、この点でもコストダウンが見込める。
【0073】
以上により、利得低下を抑えたエンベロープトラッキング方式の高周波増幅器を実現することができる。
【0074】
(実施の形態2)
図10は、本発明の実施の形態2に係る高周波増幅器の構成を示す図である。本実施の形態の説明に当たり、図4と同一構成部分には同一番号を付して重複箇所の説明を省略する。
【0075】
図10に示すように、高周波増幅器200は、ベースバンド信号処理部110、変調電源220、ドライブアンプ130、第1の高周波デバイス140、第2の高周波デバイス150、入力RFスイッチ160、出力RFスイッチ170、及びRF出力端子180を備える。
【0076】
変調電源220は、エンベロープ信号を高周波デバイスの電源電圧に電力増幅する。変調電源220は、エンベロープ信号に対応した変調電源制御信号で制御され、変調電源制御信号に応じて可変した出力電圧を高周波デバイス(第1の高周波デバイス140又は第2の高周波デバイス150)へ供給する。
【0077】
変調電源220は、エンベロープ信号を高周波デバイスの電源電圧に電力増幅する複数の(4つの)DC/DC電源221〜224を有する。具体的には、変調電源220は、高電圧領域の出力電圧を供給する高電圧DC/DC電源221と、中高電圧領域の出力電圧を供給する中高電圧DC/DC電源222と、中低電圧領域の出力電圧を供給する中低電圧DC/DC電源223と、低電圧領域の出力電圧を供給する低電圧DC/DC電源224と、を備える。
【0078】
以下、上述のように構成された高周波増幅器200の動作について説明する。
【0079】
図11は、異なる高周波デバイス構造における利得対電圧特性を示す図である。
【0080】
図11に示すように、高周波デバイスの利得特性は、デバイスの構造により異なることが知られている。例えば、GaN−HEMT(High Electron Mobility Transistor:高電子移動度トランジスタ)を単体で高周波デバイスとして用いた場合には利得が一定となる電源電圧範囲は25〜50Vまでとなる。また、LDMOSを単体で高周波デバイスとして用いた場合には利得が一定となる電源電圧範囲は10〜25Vまでとなり、GaAs−HEMTを単体で高周波デバイスとして用いた場合には利得が一定となる電源電圧範囲は0〜10Vまでとなる。このため、25V以下の出力パワーとしたい場合にはA級、又はAB級の動作とする構成を採ればよい。
【0081】
図12は、エンベロープの電圧領域を区分する一例を示す図である。
【0082】
変調電源220は、図12aに示す高電圧領域の出力電圧を供給する高電圧DC/DC電源221と、図12bに示す中高電圧領域の出力電圧を供給する中高電圧DC/DC電源222と、図12cに示す中低電圧領域の出力電圧を供給する中低電圧DC/DC電源223と、図12dに示す低電圧領域の出力電圧を供給する低電圧DC/DC電源224と、を備える。
【0083】
図12に示すように、変調電源220は、出力電圧が図12a−cに示す中高電圧領域の場合には、第1の高周波デバイス140を駆動する。また、変調電源220は、出力電圧が図12dに示す低電圧領域の場合には、第2の高周波デバイス150を駆動する。
【0084】
ベースバンド信号処理部110は、変調電源220が、上記中高電圧領域では第1の高周波デバイス140を、上記低電圧領域では第2の高周波デバイス150を駆動するように、入力RFスイッチ160と出力RFスイッチ170を切り替えるRFスイッチ制御信号を出力する。
【0085】
本実施の形態では、第1の高周波デバイス140をGaN−HEMTとし、第2の高周波デバイス150をLDMOSとすることで、装置の利得が一定となる電源電圧範囲を5〜50Vまで拡大したエンベロープトラッキング方式の高周波増幅器200を実現することができる。
【0086】
ここで、図12a−cに示す中高電圧領域の場合には、第1の高周波デバイス140をGaN−HEMTとし、図12dに示す低電圧領域の場合には、第2の高周波デバイス150をLDMOSとしているについて説明したが、第1の高周波デバイス140と第2の高周波デバイス150は、電圧変動による利得の低下を補うことができる他のデバイス構造の組み合わせであってもよい。
【0087】
例えば、第1の高周波デバイス140をGaNデバイス(高電圧動作)とし、第2の高周波デバイス150をLDMOS(低電圧動作)とする組み合わせがある。また、第1の高周波デバイス140をGaNデバイス(高電圧動作)とし、第2の高周波デバイス150をGaAsデバイス(低電圧動作)とする組み合わせがある。さらに、第1の高周波デバイス140をLDMOS(高電圧動作)とし、第2の高周波デバイス150をGaAsデバイス(低電圧動作)とする組み合わせがある。その他、動作電圧が異なるデバイスの組み合わせでも同様な効果を得ることができる。
【0088】
また、GaN−HEMTとGaAs−HEMTの組み合わせでは、Vgsを共通化可能である利点がある。
【0089】
以上の説明は本発明の好適な実施の形態の例証であり、本発明の範囲はこれに限定されることはない。
【0090】
上記各実施の形態では、MESFET(Metal Semiconductor FET)又はトランジスタは、化合物半導体デバイスを使用した例について説明したが、どのようなトランジスタでもよい。例えば、MIS(Metal Insulated Semiconductor)、MOS(Metal Oxide Semiconductor)トランジスタであってもよい。またこのMISトランジスタは、SOI(Silicon on Insulator)構造のシリコン基板上に形成されたMISトランジスタでもよい。さらに、HEMT、BT(Bipolar Transistor)、又はこれらの組み合わせであってもよい。但し、化合物半導体デバイスが高周波域でのパワーゲインの点で有利であることは言うまでもない。
【0091】
また、上記各実施の形態では、第1の高周波デバイス140と第2の高周波デバイス150は異なるデバイス構造のトランジスタを例に挙げて説明したが、整合調整で最適な動作電圧範囲を変えた同一構造の高周波デバイスによる組み合わせであってもよい。
【0092】
また、上記各実施の形態では、高周波デバイスを2個用いた2段階の切り替え動作としたが、高周波デバイスをn個とし、入力RFスイッチ160と出力RFスイッチ170をn個の接点で構成して、高周波デバイスを多段に切り替える構成・動作してもよい。このように構成することで、更に定利得動作の範囲が広いエンベロープトラッキング方式の高周波増幅器を実現することができる。
【0093】
なお、上記各実施の形態では、ベースバンド信号処理部110が、切替信号生成部112を備える構成としたが、入力RFスイッチ160及び出力RFスイッチ170を制御するRFスイッチ制御信号は、変調電源120,220で生成してもよい。
【0094】
また、図10では、変調電源220は、4つのDC/DC電源221〜224から構成する例で示したが、同様の機能を有する他の構成を用いてもよい。またその個数・電圧領域も任意である。
【0095】
また、上記各実施の形態では、高周波増幅器という名称を用いたが、これは説明の便宜上であり、RFパワーアンプ、高周波電力増幅器等であってもよい。
【0096】
さらに、上記高周波増幅器を構成する各回路部、例えばRFスイッチの種類、高周波デバイスの種類・段数などは前述した実施の形態に限られない。当然のことながら、本高周波増幅器に、各種補償用の回路を付加してもよい。
【産業上の利用可能性】
【0097】
本発明に係る高周波増幅器は、エンベロープトラッキング方式の高周波電力増幅器において有用である。また、エンベロープトラッキング方式の高周波増幅器以外にも、例えば電動モータなどの定格出力の複数の電気機器を必要な出力に応じて切り替えるといった回路構成に対しても有効である。
【符号の説明】
【0098】
100,200 高周波増幅器
110 ベースバンド信号処理部
120,220 変調電源
130 ドライブアンプ
140 第1の高周波デバイス
150 第2の高周波デバイス
160 入力RFスイッチ
161 サーキュレータ
162 RFアッテネータ
170 出力RFスイッチ
180 RF出力端子
190 RFアンプ
221 高電圧DC/DC電源
222 中高電圧DC/DC電源
223 中低電圧DC/DC電源
224 低電圧DC/DC電源


【特許請求の範囲】
【請求項1】
高周波デバイスに供給する電源電圧を入力変調波のエンベロープに応じて変動させ、前記高周波デバイスの利得が下がる電圧領域では電圧を固定するエンベロープトラッキング方式の高周波増幅器であって、
エンベロープ信号に対応した変調電源制御信号に応じて出力電圧を可変する変調電源と、
前記変調電源からの出力電圧が高い第1の電圧領域で最適な動作をする第1の高周波デバイスと、
前記変調電源からの出力電圧が前記第1の電圧領域より低い第2の電圧領域で最適な動作をする第2の高周波デバイスと、
前記第1の高周波デバイスと前記第2の高周波デバイスとを切り替えるデバイス切替手段と、
前記デバイス切替手段を切替制御する切替信号を生成する切替信号生成手段と、
を備える高周波増幅器。
【請求項2】
前記切替信号生成手段は、前記第1の高周波デバイスの利得が下がる低電圧領域では、動作電圧が低い前記第2の高周波デバイスに切り替える切替信号を生成する、請求項1記載の高周波増幅器。
【請求項3】
前記第2の高周波デバイスは、動作電圧が異なる複数のデバイスを備え、
前記デバイス切替手段は、前記第1の高周波デバイスと前記複数のデバイスのいずれかを切り替える、請求項1記載の高周波増幅器。
【請求項4】
ベースバンド信号処理部を備え、
前記切替信号生成手段は、前記ベースバンド信号処理部から出力されるRF変調信号の通過経路を前記第1の高周波デバイス又は前記第2の高周波デバイスに切り替える入力RFスイッチと、
前記第1の高周波デバイス又は前記第2の高周波デバイスのどちらかの出力信号を取り出す出力RFスイッチと、
を備える請求項1記載の高周波増幅器。
【請求項5】
前記第1の高周波デバイスと前記第2の高周波デバイスは、異なるデバイス構造である、請求項1記載の高周波増幅器。
【請求項6】
前記第1の高周波デバイスと前記第2の高周波デバイスは、整合調整により最適な動作電圧範囲を変えた同一デバイス構造である、請求項1記載の高周波増幅器。
【請求項7】
前記第1の高周波デバイスは、GaNデバイス、前記第2の高周波デバイスは、LDMOSである、請求項1記載の高周波増幅器。
【請求項8】
前記第1の高周波デバイスは、GaNデバイス、前記第2の高周波デバイスは、GaAsデバイスである、請求項1記載の高周波増幅器。
【請求項9】
前記第1の高周波デバイスは、LDMOS、前記第2の高周波デバイスは、GaAsデバイスである、請求項1記載の高周波増幅器。
【請求項10】
前記第1の高周波デバイスは、GaN−HEMT、前記第2の高周波デバイスは、LDMOS又はGaA−HEMTである、請求項1記載の高周波増幅器。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate

【図11】
image rotate

【図12】
image rotate


【公開番号】特開2012−4821(P2012−4821A)
【公開日】平成24年1月5日(2012.1.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−137544(P2010−137544)
【出願日】平成22年6月16日(2010.6.16)
【出願人】(000005821)パナソニック株式会社 (73,050)
【Fターム(参考)】