説明

高周波増幅回路

【課題】略10GHz以上の準ミリ波帯、ミリ波帯以上で1つの電源を用いて安定的に動作する高周波増幅回路を提供する。
【解決手段】高周波トランジスタ101は、ゲート端子102側が入力端子105に接続され、ドレイン端子103側が出力端子106に接続されている。2つのソース端子104には、ランド107を介して抵抗111とコンデンサ112からなるセルフバイアス回路110が接続されている。抵抗111及びコンデンサ112の他端は、それぞれランド108a、108b及びスルーホール109a、109bを介して接地されている。ランド108(108a、108b)上における抵抗111及びコンデンサ112との接続点からスルーホール109(109a、109b)までの距離Dが好適に調整されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、無線通信や自動車用レーダ装置等に用いられる高周波増幅回路に関し、特に、略10GHz以上の準ミリ波帯並びにミリ波帯で用いる高周波トランジスタを利用した高周波増幅回路に関するものである。
【背景技術】
【0002】
FET(Field Effect Transistor)等の高周波トランジスタを用いた高周波増幅回路では、高周波トランジスタを高周波で安定的に動作させるために、ゲート端子に負電圧を供給するとともに、ドレイン端子に正電圧を供給することで、ドレインに流れる信号を制御するように構成されたものが従来より知られている。しかし、このような高周波増幅回路では、2種類の電源を必要とするため、高コストになる等の問題があった。
【0003】
そこで、1つの電源だけで動作させることが可能な高周波増幅回路が、例えば特許文献1乃至3に開示されている。特許文献1乃至3に記載の高周波増幅回路は、いずれもセルフバイアス方式を適用している。セルフバイアス方式を適用した従来の高周波増幅回路の構成例を、図12に示す。また、図12に示す構成の高周波増幅回路900の等価回路を図13に示す。高周波増幅回路900は、図12、13に示すように、入力端子905がFET901のゲート端子902に接続され、出力端子906がFET901のドレイン端子903に接続されている。
【0004】
入力端子905とゲート端子902との間には、他端が接地された抵抗907の一端が接続され、ゲート端子902側の直流信号がショートされる。また、出力端子906とドレイン端子903との間には、インダクタ908とコンデンサ909とからなるバイアス回路910を介して正の電源911が接続され、ドレイン端子903に正のバイアス電圧を印加している。セルフバイアス方式を適用した高周波増幅回路900では、FET901のソース端子904がセルフバイアス回路912を介して接地されている。セルフバイアス回路912は、抵抗913とコンデンサ914が並列に接地された構成となっている。
【0005】
セルフバイアス回路912を用いた高周波増幅回路900では、抵抗913にドレイン電流Idが流れることによって電圧降下が生じる。その結果、ゲート・ソース間電圧Vgsは、次式
Vgs=−Rs×Id
で与えられる。ここで、Rsは抵抗913の抵抗成分である。これより、ゲート電位は、見かけ上負の電位となる。このようなセルフバイアス回路912を用いることで、1つの電源だけで高周波増幅回路900を動作させることができる。
【0006】
セルフバイアス回路912の抵抗913及びコンデンサ914は、FET901のソース端子904との接続にランド915を用い、接地側をランド916に接続している。ランド916は、スルーホール917を介して所定の地板に接続されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平11−195936号公報
【特許文献2】特開2001−094361号公報
【特許文献3】特開平09−181541号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、セルフバイアス回路に用いる抵抗やコンデンサには、寄生容量が存在しており、抵抗やコンデンサを表面実装するためのランド(信号線路)には、インダクタ成分が存在している。図13に例示したセルフバイアス回路912の等価回路に、寄生容量及びインダクタ成分を追加した等価回路を図14に示す。同図に示すように、抵抗913は、抵抗成分Rsとインダクタ成分(Lrとする)を直列に接続した直列回路、コンデンサ914は、キャパシタ成分(Csとする)とインダクタ成分(Lcとする)を並列に接続した並列回路、ランド915、916は、分布定数回路理論から、これを1つにまとめて抵抗成分(Rとする)とインダクタ成分(Lとする)を直列に接続した直列回路、でそれぞれ等価的に表せる。
【0009】
図14に示す等価回路は、共振回路を形成している。このように共振回路が形成されると、高周波電流の反射等が起きて安定して接地することができなくなってしまい、増幅回路の動作が不安定となる。このことから、従来より略10GHz以上の高周波帯では、セルフバイアス回路は用いられていない。略10GHz以上の準ミリ波帯からミリ波帯では、通常、高周波トランジスタを利用して増幅回路を安定的に動作させるために、ドレイン側に正電源を接続すると同時に、ゲート側に負電源を接続して用いている。従来の高周波増幅回路では、正の電源のみを用いたセルフバイアス回路を含む増幅回路はソース端子が安定に接地できないという問題があった。
【0010】
本発明は上記の問題を解決するためになされたものであり、略10GHz以上の準ミリ波帯、ミリ波帯以上で1つの電源を用いて安定的に動作する高周波増幅回路を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の高周波増幅回路の第1の態様は、ゲート端子が入力端子に接続され、ドレイン端子が出力端子に接続されて略10GHz以上の高周波帯で動作する高周波トランジスタと、一端が前記高周波トランジスタのソース端子に接続され他端が接地されて前記ゲート端子の直流電位を見かけ上接地電位より低くするための第1抵抗と、一端が前記ソース端子に接続され他端が接地されて高周波電流をショートさせるためのコンデンサとが並列に配列されたセルフバイアス回路と、一端が前記ゲート端子側に接続され他端が接地された第2抵抗と、前記ドレイン側に接続されて前記高周波トランジスタを駆動させるための正の直流電源と、前記ドレイン端子から出力される高周波信号が前記直流電源に漏出するのを防止するバイアス回路と、を備え、所定の基板の一方の面に形成されて前記基板の他方の面に形成されたグランドにスルーホールで接続されたランドに前記第1抵抗及び前記コンデンサが接続され、前記第1抵抗及び前記コンデンサと前記ランドとの接続点から前記スルーホールまでの距離Dを含むセルフバイアス回路が、高周波増幅回路の安定係数Kが所定の使用周波数で1以上となるように調整されていることを特徴とする。
【0012】
本発明の高周波増幅回路の他の態様は、前記距離Dは、事前に作成された周波数の1次式に前記使用周波数を代入することで決定されることを特徴とする。
【0013】
本発明の高周波増幅回路の他の態様は、前記コンデンサは、前記ランドに電気的に接続された所定の大きさの別のランドを前記グランドと対向するように前記基板の一方の面上に配置して形成されていることを特徴とする。
【0014】
本発明の高周波増幅回路の他の態様は、前記コンデンサは、前記ランドに電気的に接続されて前記基板の一方の面上に配置された所定の大きさの別のランドと、スルーホールで前記グランドに接続されて前記基板に内蔵された所定の大きさの金属板とを、所定距離だけ離して相互に対向させて形成されていることを特徴とする。
【0015】
本発明の高周波増幅回路の他の態様は、スルーホールで前記グランドに接続された別のランドが前記ランドに近接して前記基板の一方の面上に配置され、前記コンデンサは、前記ランドの側面と前記別のランドの側面とを所定距離だけ離して所定の面積だけ対向させて形成されていることを特徴とする。
【0016】
本発明の高周波増幅回路の他の態様は、前記ランドの側面と前記別のランドの側面との間に所定の誘電率を有する誘電体が配置されていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、略10GHz以上の準ミリ波帯、ミリ波帯以上で正の電源のみを用いて安定的に動作する高周波増幅回路を提供することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明の第1実施形態に係る高周波増幅回路の構成図である。
【図2】第1実施形態の高周波増幅回路の等価回路図である。
【図3】距離Dを変化させたときの周波数対安定係数Kの関係を示すグラフである。
【図4】距離Dをさらに長くしたときの周波数対安定係数Kの関係を示すグラフである。
【図5】周波数10GHzのときの距離D対安定係数Kの関係を示すグラフである。
【図6】10GHz以上の周波数に対する距離D対安定係数Kの関係を示すグラフである。
【図7】周波数対距離Dの関係を1次近似式と比較した結果を示すグラフである。
【図8】異なる高周波トランジスタ間での距離Dの関係示すグラフである。
【図9】第2実施形態の高周波増幅回路200の構成を示す斜視図である。
【図10】別の実施形態のコンデンサの構造を示す断面図である。
【図11】さらに別の実施形態のコンデンサの構造を示す断面図である。
【図12】セルフバイアス方式を適用した従来の高周波増幅回路の構成図である。
【図13】従来の高周波増幅回路の等価回路図である。
【図14】従来のセルフバイアス回路に寄生容量及びインダクタ成分を追加した等価回路図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本発明の好ましい実施の形態における高周波増幅回路の構成及び高周波増幅回路の製造方法について、図面を参照して以下に詳細に説明する。なお、同一機能を有する各構成部については、図示及び説明簡略化のため、同一符号を付して示す。
【0020】
(第1実施形態)
本発明の高周波増幅回路の好ましい第1の実施の形態を、図面に基づいて説明する。図1は、本実施形態の高周波増幅回路の構成図である。同図に示す高周波増幅回路100は、10GHz以上の高周波帯で使用可能な高周波トランジスタ101を用いて構成される。
【0021】
高周波トランジスタ101は、ゲート端子102、ドレイン端子103、及びソース端子104を有している。図1では、一例として高周波トランジスタ101が2つのソース端子104を有するものを示している。高周波トランジスタ101は、これに限定されず、ソース端子104を1つだけ有するものや3つ以上の複数有するものを用いてもよい。入力信号の高周波信号(RF信号)を入力するための入力端子105がゲート端子102側に接続され、高周波トランジスタ101で増幅された信号を出力するための出力端子106がドレイン端子103側に接続されている。
【0022】
2つのソース端子104には、ランド107を介して抵抗111とコンデンサ112が接続されている。抵抗111及びコンデンサ112の他端は、それぞれランド108a、108b及びスルーホール109a、109bを介して接地されている。この抵抗111及びコンデンサ112は、セルフバイアス回路110を形成している。
【0023】
図1に示す高周波増幅回路100の等価回路を用いて、高周波増幅回路100の構成をさらに詳細に説明する。図2は、図1に示す高周波増幅回路100の等価回路を示している。本実施形態の高周波増幅回路100では、入力端子105とゲート端子102との間に抵抗113が接続され、抵抗113の他端がランド114及びスルーホール115を介して接地されている。
【0024】
また、出力端子106とドレイン端子103との間には、バイアス回路117を介して正の直流電源116が接続されている。正の直流電源116は、ドレイン端子103側に駆動用の正の直流電圧を供給する。また、バイアス回路117は、インダクタ118とコンデンサ119の並列回路で構成され、高周波信号が電源116側に漏れ出さないようにしている。高周波トランジスタ101のゲート端子102側、ドレイン端子103側、及びソース端子104側のそれぞれには、インピーダンス整合を行うための整合回路(図示せず)が接続される。
【0025】
ソース端子104側にセルフバイアス回路110を接続することにより、ゲート端子102側にバイアス電源を接続することなく、高周波トランジスタ101を増幅回路として動作させることが可能となる。すなわち、図2の等価回路に示すような回路構成とすることにより、ドレイン端子103とソース端子104間にドレイン電流Idが流れ、抵抗111にドレイン電流が流れることによる電圧降下が生じる。その結果、ゲート端子102の電位が、見かけ上グランド電位0Vより低くなる。また、他端が接地されたコンデンサ112を並列に接続することで、高周波信号をショートさせることができる。
【0026】
このように構成された高周波増幅回路100では、セルフバイアス回路110を構成する抵抗111とコンデンサ112に、それぞれチップ抵抗とチップコンデンサが用いられる。そのため、抵抗111及びコンデンサ112が寄生容量を有している。また、抵抗111及びコンデンサ112を表面実装するランド107、108(108a、108b)は、インダクタ成分を有している。図2に示す高周波増幅回路100の等価回路では、上記のインダクタ成分をインダクタ121〜123で示している。なお、ランド107、108については、両者をまとめて抵抗124とインダクタ123が直列に接続された等価回路で表している。
【0027】
図2の等価回路に示すようなインダクタ成分121〜123が生成されると、セルフバイアス回路110は共振回路となる。その結果、略10GHz以上の高周波に対しては、高周波信号がコンデンサ112からショートされずに反射してしまい、増幅回路として使用周波数で安定に動作しなくなってしまう。
【0028】
そこで、本実施形態の高周波増幅回路100では、上記のような共振回路に形成されるセルフバイアス回路110に対し、その共振点が高周波増幅回路100の安定な領域となるように上記のインダクタ成分を調整する。インダクタ成分121〜123のうち、抵抗111及びコンデンサ112が有するインダクタ成分121及び122は、その大きさを容易に調整することはできない。そこで、本実施形態では、ランド107、108が有するインダクタ成分123を調整する。
【0029】
本実施形態では、インダクタ成分123を調整するために、図1に示すランド108上における抵抗111及びコンデンサ112との接続点からスルーホール109(109a、109b)までの距離D(以下では、セルフバイアス回路110のスルーホール109までの距離Dという)を調整する。距離Dを変化させると、インダクタ成分123が変化する。そこで、距離Dを変化させてインダクタ成分123を調整することで、セルフバイアス回路110の共振点が高周波増幅回路100の安定な領域となるようにする。
【0030】
高周波増幅回路100が使用周波数帯域で安定であるか否かを判定するのに、ローレットの安定係数Kを用いることができる。ローレットの安定係数Kは、所定の周波数で不安定のときに低下することが知られている。ローレットの安定係数Kは、次式のように定義される。
【数1】

上式において、S11、S12、S21、S22は、Sパラメータである。S11、S22は、それぞれ入力端子側、出力端子側から見た反射係数を表し、S12、S21は、それぞれ出力側から入力側への逆方向の通過係数、及び入力側から出力側への順方向の通過係数を表している。
【0031】
ローレットの安定係数Kを用いた場合、上式のKの値が、1以上(K≧1)のとき無条件安定領域、0より大きく1未満(0<K<1)のとき条件付安定領域、0以下(K≦0)のとき不安定領域となる。セルフバイアス回路110の抵抗111とコンデンサ112、及びランド107、108にインダクタ成分123が発生すると、共振回路が生成されて入力側の反射係数S11と出力側の反射係数S22が大きくなる。その結果、式(1)より、Kの値は負側に変化する。
【0032】
そこで、本実施形態の高周波増幅回路の製造方法では、式(1)の安定係数Kが1以上となるように、セルフバイアス回路110のスルーホール109までの距離Dを変化させてインダクタ成分123の値を調整する。具体的には、距離Dが所定の値のとき、所定の高周波信号の進行波と反射波を測定することで、その時のSパラメータを求めることができる。求めたSパラメータから、式(1)を用いて安定係数Kを算出する。以下同様に、安定係数Kが1以上となるまで距離Dを変化させていく。
【0033】
一例として、距離Dを、製造上の最小値である0.35mmから徐々に長くしたときの安定係数Kの変化を図3に示す。図3では、横軸を高周波増幅回路100に入力する高周波信号の周波数f[GHz]とし、縦軸に安定係数Kを対数目盛で表示している。また、D=0.35、1.35、3.85、4.85.6.85mmとしたときの安定係数Kの変化を、それぞれ符号11〜15で示している。同図において、K=1のライン(符号10で示す)以上のK≧1のときに、高周波増幅回路100が無条件安定領域にある。同図より、距離D=6.85mm(符号15)のときに、略10GHz以上の周波数の高周波信号に対してK≧1となり、安定的に動作することがわかる。
【0034】
距離Dを、6.85mmから9.85mmまでさらに長くしていったときの、安定係数Kの変化の一例を図4に示す。ここでは、D=7.85、8.85、9.85mmの時の安定係数Kの変化を、符号16〜18で示している。同図に示すように、6.85mmを超えてさらに長くしていくと、安定係数Kが略10GHz近傍で再び不安定領域に入ってしまう。このような結果をもとに、周波数10GHzの高周波信号について、距離Dに対する安定係数Kの変化を表したグラフを図5に示す。同図より、周波数10GHzの高周波信号に対し、安定係数K≧1となる距離Dの範囲は、4mm<D<8mmとなる。また、安定係数Kが最も大きくなって安定度が高い距離Dは、略7mmとなっている。
【0035】
つぎに、10GHz以上の異なる周波数に対し、距離Dに対する安定係数Kの変化を表したグラフを図6に示す。同図では、整合回路を調整して周波数を10GHzから16GHzまで1GHzずつ変化させたときの安定係数Kの変化を、符号20〜26で示している。同図より、周波数が高くなるにつれて、安定係数Kが安定領域に入るときの距離Dが小さくなっていくことがわかる。
【0036】
製造メーカの異なる2種類の高周波トランジスタ(TR1、TR2とする)をそれぞれ用いた高周波増幅回路について、図6に示すような周波数毎の距離Dと安定係数Kとの関係を求め、これから高周波信号の周波数と安定係数Kが安定領域に入るときの距離Dとの関係を求めて比較した結果を図7に示す。ここで、符号31、32は、それぞれ高周波トランジスタTR1、TR2を用いたときの結果を示している。図7より、周波数と距離Dとの間に略線形的な関係があることがわかる。同図において、高周波トランジスタTR1の周波数と距離Dとの線形的な関係を1次式で近似した結果を符号30で示す。周波数対距離Dの線形的な関係を1次式で近似することにより、高周波信号の周波数からそれに好適な距離Dを一次式から一意的に決めることができる。
【0037】
また、上記の高周波トランジスタTR1の周波数対距離Dの関係と、別の製造メーカの高周波トランジスタTR2の周波数対距離Dの関係との相関を求めた結果を図8に示す。高周波トランジスタTR1とTR2との相関係数(R)は約98%となり、製造メーカによらずほぼ同様の特性を有していることがわかる。従って、高周波トランジスタの種類や製造メーカを問わず、高周波信号の周波数と距離Dとの関係を一次式で近似することができ、この近似式を用いて高周波信号の周波数からそれに好適な距離Dを一意的に決めることができる。
【0038】
上記説明の本実施形態の高周波増幅回路を用いることにより、10GHz以上の準ミリ波帯、ミリ波帯において、セルフバイアス回路を用いてソース側の接地を安定的に行うことができ、セルフバイアス方式の安定した高周波増幅回路を提供することができる。10GHz以上の高周波帯に対してもセルフバイアス方式を用いることが可能となることから、1つの電源だけで動作可能な高周波増幅回路を実現でき、高周波回路の小型化、省エネ化、低コスト化が実現できる。さらに、ソース端子のインダクタ成分を利用した共振回路により高周波トランジスタの種類によらず、セルフバイアス回路を構成することができる。
【0039】
本発明の別の実施の形態に係る高周波増幅回路を、図9を用いて以下に説明する。図9は、本実施形態の高周波増幅回路200の構成を示す斜視図である。同図では、高周波増幅回路200が、所定の基板202上に搭載されている状態を示している。基板202は、例えば携帯電話に搭載されている基板である。
【0040】
従来、セルフバイアス回路を構成する抵抗及びコンデサには、表面実装可能な抵抗及び表面実装可能なコンデンサが用いられていた。そのため、それぞれの寄生容量により共振回路が形成され、高周波信号の反射等が起きて安定に接地することができない、といった問題があった。そこで、本実施形態では表面実装可能なコンデンサを用いないでセルフバイアス回路を構成している。これにより、寄生容量の影響を低減することができる。
【0041】
本実施形態では、第1実施形態で用いられていた図1に示す表面実装コンデンサ112を用いず、所定の基板を用いてコンデンサを直接形成して用いる。図9では、第1実施形態のコンデンサ112に相当するコンデンサ212aを基板202を用いて形成しており、これと抵抗111でセルフバイアス回路210が形成されている。コンデンサ212aは、基板202上に所定の大きさのランド213を配置し、基板202や空気等を挟んでランド213と基板202の裏面に形成されているグランド203(図示しない)との間で静電容量を持つように形成されている。ランド213として、例えばランド107を用いるように形成することも可能である。
【0042】
このように形成されたコンデンサ212aは寄生容量が非常に小さいことから、セルフバイアス回路210は、抵抗111の寄生容量の影響のみを受ける。その結果、寄生容量の影響を大幅に低減できることから、略10GHz以上の高周波帯において安定に接地できるようになり、共振回路を利用したセルフバイアス回路210をもつ、高周波増幅回路100を容易に安定な動作にできる。
【0043】
セルフバイアス回路210に用いるコンデンサの別の実施形態を、図10を用いて説明する。図10は、別の実施形態のコンデンサの構造を示す断面図である。同図に示すコンデンサ212bは、基板202の内部に別の金属板214を内蔵している。金属板214は、スルーホール215でグランド203に接続されており、ランド213と金属板214との間で静電容量を持つように形成されている。
【0044】
コンデンサ212bの静電容量Cは、次式
【数2】

で与えられる。ここで、εrは基板202の比誘電率、Sは金属板214の面積(ランド213より小さいとしている)、dはランド213と金属板214との距離、を表している。金属板214を用いた場合には、式(2)に示すように、金属板214の寸法や内蔵位置を変更することで、寄生容量を非常に小さくしながらコンデンサ212bの容量Cを容易に設定することができる。
【0045】
セルフバイアス回路210に用いるコンデンサのさらに別の実施形態を、図11を用いて説明する。図11は、さらに別の実施形態のコンデンサの構造を示す断面図である。同図に示すコンデンサ212cは、ランド107に近接させて別のランド216を配置することで形成されている。ランド216は、スルーホール217でグランド203に接続されている。ランド107と216の対向する側面の面積、及びその間の距離を設定することで、寄生容量を非常に小さくしながらコンデンサ212cの静電容量を設定することができる。ランド107と216の対向する側面の間に、所定の誘電体218を流し込むことで、静電容量を高くすることも可能である。
【0046】
上記実施形態のコンデンサ212a、212b、212cのいずれを用いても、セルフバイアス回路210の寄生容量を低減することが出来る。その結果、寄生容量の影響を大幅に低減できることから、高周波信号を安定に接地することが出来る。一方直流電流は、上記実施形態のコンデンサ212a、212b、212cのいずれを用いても通過せず、抵抗111によってゲートの直流電位を見かけ上接地電位より低く見せることが出来る。
【0047】
なお、本実施の形態における記述は、本発明に係る高周波増幅回路の一例を示すものであり、これに限定されるものではない。本実施の形態における高周波増幅回路の細部構成及び詳細な動作等に関しては、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更可能である。
【符号の説明】
【0048】
100、200 高周波増幅回路
101 高周波トランジスタ
102 ゲート端子
103 ドレイン端子
104 ソース端子
105 入力端子
106 出力端子
107、108a、108b、114、213、216 ランド
109a、109b、115、217 スルーホール
110、210 セルフバイアス回路
111、113、124 抵抗
112、119、212a、212b コンデンサ
116 電源
117 バイアス回路
118、121〜123 インダクタ
202 基板
203 グランド
214 金属板
215 スルーホール
218 誘電体

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ゲート端子が入力端子に接続され、ドレイン端子が出力端子に接続されて高周波帯で動作する高周波トランジスタと、
一端が前記高周波トランジスタのソース端子に接続され他端が接地されて前記ゲート端子の直流電位を見かけ上接地電位より低くするための第1抵抗と、一端が前記ソース端子に接続され他端が接地されて高周波電流をショートさせるためのコンデンサとが並列に配列されたセルフバイアス回路と、
一端が前記ゲート端子側に接続され他端が接地された第2抵抗と、
前記ドレイン側に接続されて前記高周波トランジスタを駆動させるための正の直流電源と、
前記ドレイン端子から出力される高周波信号が前記直流電源に漏出するのを防止するバイアス回路と、を備え、
所定の基板の一方の面に形成されて前記基板の他方の面に形成されたグランドにスルーホールで接続されたランドに前記第1抵抗及び前記コンデンサが接続され、
前記第1抵抗及び前記コンデンサと前記ランドとの接続点から前記スルーホールまでの距離Dを含むセルフバイアス回路が、高周波増幅回路の安定係数Kが所定の使用周波数で1以上となるように調整されている
ことを特徴とする高周波増幅回路。
【請求項2】
前記距離Dは、事前に作成された周波数の1次式に前記使用周波数を代入することで決定される
ことを特徴とする請求項1に記載の高周波増幅回路。
【請求項3】
前記コンデンサは、前記ランドに電気的に接続された所定の大きさの別のランドを前記グランドと対向するように前記基板の一方の面上に配置して形成されている
ことを特徴とする請求項1または2に記載の高周波増幅回路。
【請求項4】
前記コンデンサは、前記ランドに電気的に接続されて前記基板の一方の面上に配置された所定の大きさの別のランドと、スルーホールで前記グランドに接続されて前記基板に内蔵された所定の大きさの金属板とを、所定距離だけ離して相互に対向させて形成されている
ことを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1項に記載の高周波増幅回路。
【請求項5】
スルーホールで前記グランドに接続された別のランドが前記ランドに近接して前記基板の一方の面上に配置され、前記コンデンサは、前記ランドの側面と前記別のランドの側面とを所定距離だけ離して所定の面積だけ対向させて形成されている
ことを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1項に記載の高周波増幅回路。
【請求項6】
前記ランドの側面と前記別のランドの側面との間に所定の誘電率を有する誘電体が配置されている
ことを特徴とする請求項5に記載の高周波増幅回路。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【公開番号】特開2011−211588(P2011−211588A)
【公開日】平成23年10月20日(2011.10.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−78505(P2010−78505)
【出願日】平成22年3月30日(2010.3.30)
【出願人】(000005290)古河電気工業株式会社 (4,457)
【出願人】(391045897)古河AS株式会社 (571)
【Fターム(参考)】