説明

高周波焼入装置

【課題】環状の被加熱物の内周面を誘導加熱し、さらに被加熱物を冷却液に浸漬すると共に冷却液を被加熱物の内周面に噴射供給して冷却を促進する高周波焼入装置を小型化することである。
【解決手段】被加熱物10を支持する支持部材3と、被加熱物の内周面10aに冷却液を噴射供給する内側冷却液噴射装置4とを、昇降装置5によって支持する。内側冷却液噴射装置4は、エアシリンダ6を介して昇降装置5に支持されている。エアシリンダ6を駆動すると、被加熱物10の内周面10aと内側冷却液噴射装置4の高さ方向の相対位置が変化する。よって、内側冷却液噴射装置4を被加熱物10の内周面10aに対向させて内周面10aに冷却液を噴射供給したり、内周面10aから内側冷却液噴射装置4を退避させ内側加熱導体2を内周面10aに対向配置すると内周面10aを誘導加熱することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、誘導加熱された被加熱物を冷却液槽に貯留した冷却液に浸漬させて、被加熱物を焼入れする高周波焼入装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
高周波焼入装置には、誘導加熱によって昇温した被加熱物を冷却するための冷却装置が設けられている。従来、冷却装置としては、被加熱物の誘導加熱された部位に冷却液を噴射するものや、被加熱物そのものを冷却液槽に貯留された冷却液に浸漬するものが使用されている。
【0003】
被加熱物が比較的大きく、誘導加熱される部位が大きい(又は誘導加熱される範囲が広い)場合には、後者の冷却装置を使用するのが好ましい。そして本件出願人は、被加熱物を冷却液槽に浸漬させ、さらに被加熱物に向けて低温の冷却液を噴射供給することができる高周波焼入装置の浸漬冷却装置を特許文献1に開示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2010−24516号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1に開示されている高周波焼入装置は、環状のワーク(被加熱物)の外周面を誘導加熱した後に、ワークを液槽に貯留された冷却液に浸漬させ、さらにワークの外周面に冷却液を噴射供給することができる冷却装置を備えている。特許文献1に開示されている高周波焼入装置では、昇温したワーク全体が液槽に貯留された冷却液に浸漬し、さらに加熱部位であるワークの外周面に冷却液が噴射供給されて冷却が促進される。
【0006】
ここで、特許文献1には開示されていないが、被加熱物が環状構造であって、その内周面を焼入する場合について考える。被加熱物の内周面を、外周面と同様に焼入するためには、当然ながら被加熱物の内周面に高周波の誘導電流を励起させる内側加熱用の加熱導体が必要である。また、被加熱物の内周面に冷却液を噴射供給する内側冷却液噴射装置も必要である。被加熱物の内周面を焼入するための高周波焼入装置の構造について、図10を参照しながら説明する。
【0007】
図10(a)に示すように、環状の被加熱物50の内周面50aを焼入する高周波焼入装置51は、冷却液56を貯留する冷却液槽55と被加熱物50の内周面50aに冷却液を噴射供給する内側冷却液噴射装置54と、被加熱物50を支持する支持部材53が必要である。支持部材53は、回転動力伝達部(図示せず)と張出部53aと載置部53bとが必要である。回転動力伝達部は、図示しない回転駆動機構から動力が伝達されて、内側加熱導体52に対して被加熱物50を回転させる機能を有する。張出部53aは、回転動力伝達部と連続し、水平方向に延びる部位である。載置部53bは、張出部53aに対して起立し被加熱物50を載置する部位である。また支持部材53は、図示しない上下移動装置によって上下移動が可能である。
【0008】
図10(a)に示すように、最初に加熱位置に内側加熱導体52を配置する。その際には、被加熱物50を下方に退避させておく。次に、図示しない上下移動装置で被加熱物50を上昇させ、図10(b)に示すように内周面50aを内側加熱導体52に対向させる。そして、図示しない回転駆動機構によって支持部材53(被加熱物50)を回転させると共に、高周波電源(図9)から内側加熱導体52に高周波電流を供給する。その結果、被加熱物50の内周面50aは、均一に誘導加熱される。
【0009】
次に、図10(a)に示すように被加熱物50を下降させて冷却液槽55の冷却液56に液没させると共に、内周面50aを内側冷却液噴射装置54に対向させ、内側冷却液噴射装置54から冷却液を噴射供給する。その結果、被加熱物50の内周面50aは、良好に冷却され焼入が完了する。
【0010】
ところで、以上のような誘導加熱と冷却とを実施するためには、支持部材3の載置部53bを高さHAに設定しなければならない。すなわち、高周波焼入装置51では、内側加熱導体52は必ず液面よりも上に配置しなければならず、また、内側冷却液噴射装置54は、液面よりも下に配置しなければならないという制約がある。よって、被加熱物50の内側加熱導体52に対向する加熱位置(図10(b)に示す高さ位置)と、被加熱物50の内側冷却液噴射装置54に対向する冷却位置(図10(a)に示す高さ位置)の差である高さHCよりも、載置部53bの高さHAを大きく設定する必要がある。
【0011】
仮に、載置部53bの高さHAが高さHCよりも小さいと、被加熱物50を上昇移動させて内側加熱導体52に対向させる際に、支持部材53の張出部53aが内側冷却液噴射装置54に衝突する恐れがある。そこで載置部53bの高さをHAに設定すると、被加熱物50を冷却液槽55の冷却液56に液没(浸漬)させるために、冷却液槽55の深さをHBに設定しなければならない。すなわち、冷却液槽55の深さがHBよりも浅い深さHDであると、図10(c)に示すように被加熱物50を完全に浸漬させることができない恐れがある。図10(c)では、被加熱物50の一部が液面から突出している状態を示しており、この突出する部分は冷却することができない。
【0012】
よって、従来の手法によって環状の被加熱物50の内周面50aを焼入するためには、冷却液槽55の深さを少なくとも図10(a)に示すHBよりも深くしなければならず、これが装置の大型化を招いていた。
【0013】
そこで本発明は、環状の被加熱物の内周面を誘導加熱し、さらに被加熱物を冷却液に浸漬すると共に冷却液を被加熱物の内周面に噴射供給して冷却を促進する高周波焼入装置を小型化することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0014】
上記課題を解決するための請求項1の発明は、環状の被加熱物を誘導加熱し、前記被加熱物を冷却液槽に貯留した冷却液に浸漬させて焼入れする高周波焼入装置であって、被加熱物の内周面に高周波誘導電流を励起させる内側加熱導体と、被加熱物を支持する支持部材と、前記冷却液槽の冷却液に浸漬した被加熱物の内周面に冷却液を噴射供給する内側冷却液噴射装置とを有し、内側加熱導体は、前記冷却液槽に貯留された冷却液の液面よりも上に配置され、前記支持部材及び被加熱物を上下移動させる第1上下移動手段と、内側冷却液噴射装置を上下移動させる第2上下移動手段とを設け、内側冷却液噴射装置に冷却液を導く冷却液通路と支持部材とが、冷却液槽の底部に設けた共通の孔を貫通しており、前記孔は被加熱物よりも小径であり、支持部材は、前記孔から半径方向外方に延びる複数の張出部と、前記張出部から起立し、被加熱物を載置する載置部とを備えており、前記第1上下移動手段は被加熱物を、誘導加熱時における内側加熱導体に対向する高さと、冷却液槽に貯留した冷却液に浸漬する高さの間を移動させることができ、前記第2上下移動手段は内側冷却液噴射装置を、誘導加熱時における支持部材の張出部と内側加熱導体の両方に接触しない高さと、冷却時における被加熱物に対向する高さの間を移動させることができることを特徴とする高周波焼入装置である。
【0015】
請求項1の発明では、第1上下移動手段が被加熱物を、誘導加熱時における内側加熱導体に対向する高さと、冷却液槽に貯留した冷却液に浸漬する高さの間を移動させることができるので、被加熱物を誘導加熱した後に冷却液槽に貯留した冷却液に浸漬させて冷却させることができる。
また、第2上下移動手段が内側冷却液噴射装置を、誘導加熱時における支持部材の張出部と内側加熱導体の両方に接触しない高さと、冷却時における被加熱物に対向する高さの間を移動させることができる。そのため、支持部材の載置部の高さ寸法を、被加熱物が内側加熱導体に対向する高さレベルと、被加熱物が内側冷却液噴射装置に対向する高さレベルの差よりも小さく設定することができる。よって、被加熱物を支持する支持部材の高さを低くし、さらに支持部材の高さに合わせて冷却液を貯留する冷却液槽の深さを浅くすることができる。その結果、高周波焼入装置を小型化し、省スペース化を図ることができる。
【0016】
請求項2の発明は、前記支持部材を回転させる回転駆動手段を設けたことを特徴とする請求項1に記載の高周波焼入装置である。
【0017】
請求項2の発明では、回転駆動手段で被加熱物を回転させることによって、内側冷却液噴射装置から噴射される冷却液が当たる部位が刻々と移動する。その結果、被加熱物の内周面の全周に渡って均一に冷却することができ、被加熱物の内周面を均一に焼入することができる。
【0018】
請求項3の発明は、被加熱物の外周面に高周波誘導電流を励起させる外側加熱導体と、冷却液槽の冷却液に浸漬した被加熱物の外周面に冷却液を噴射供給する外側冷却液噴射装置とを備えたことを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の高周波焼入装置である。
【0019】
請求項3の発明では、外側加熱導体によって被加熱物の外周面を誘導加熱し、さらに被加熱物を冷却液槽の冷却液に浸漬させると共に、外側冷却液噴射装置によって被加熱物の外周面に冷却液を噴射供給して被加熱物の外周面を冷却することができる。その結果、被加熱物の外周面を良好に焼入することができる。すなわち、請求項3の発明を実施することによって、環状の被加熱物の内周面と外周面の両方を焼入することができるようになる。
【発明の効果】
【0020】
環状の被加熱物の内周面を焼入する本発明の高周波焼入装置は、被加熱物を支持する支持部材の高さを低くし、さらに支持部材の高さに合わせて冷却液を貯留する冷却液槽の深さを浅くすることができる。その結果、高周波焼入装置を小型化し、省スペース化を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】本発明の高周波焼入装置の一部を断面視した正面図であり、環状の被加熱物を載置台に載置する直前の状態を示す。
【図2】図1において、被加熱物を載置台に載置し、さらに載置台を下降させた状態の高周波焼入装置の正面図である。
【図3】内側用加熱導体を、図2に示す状態から被加熱物の上方へ移動させた状態を示す高周波焼入装置の正面図である。
【図4】図3に示す状態から、被加熱物を載置した載置台を上昇させる途中の状態を示す高周波焼入装置の正面図である。
【図5】被加熱物を内側用加熱導体に対向配置した状態の高周波焼入装置の正面図である。
【図6】図3に示す高周波焼入装置の要部拡大図である。
【図7】本発明の高周波焼入装置の冷却装置の斜視図であり、支持部材に支持された被加熱物が下降して冷却位置にある状態を示す。
【図8】本発明の高周波焼入装置の冷却装置の斜視図であり、支持部材に支持された被加熱物が上昇して加熱位置にある状態を示す。
【図9】本発明の高周波焼入装置の系統図である。
【図10】(a)〜(c)は、従来の手法で環状の被加熱物の内周面を焼入する高周波焼入装置の要部簡略図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、図面を参照しながら説明する。
図9に示すように、高周波焼入装置1は、加熱装置45,冷却装置46,制御装置40,入力装置42を備えている。オペレータは入力装置42によって制御装置40に信号を入力する。制御装置40は、入力装置42からの信号を受け、加熱装置45及び冷却装置46の動作を制御する。
【0023】
以下、これらの構成を順に説明する。
まず、本発明の主要部を構成する冷却装置46について説明する。
図1,図6に示すように冷却装置46は支持部材3,内側冷却液噴射装置4,昇降装置5(第1上下移動装置),エアシリンダ6(第2上下移動装置),冷却液槽11,外側冷却液噴射装置14等を備えている。図1では、装置内部の構成が把握し易くなるように、一部を破断して描写している。
【0024】
図7,図8に示すように、冷却液槽11は内側液槽17と外側液槽18とを有している。内側液槽17の周囲に外側液槽18が配置されている。すなわち内側液槽17と外側液槽18は二重構造となっている。図1に示すように冷却液槽11は、複数の支柱47によって支持されている。すなわち、冷却液槽11の下には空間48が形成されている。なお、図7等の斜視図では、冷却液槽11より下方の描写は省略している。
【0025】
内側液槽17の側壁には孔17aが設けられており、同様に外側液槽18の側壁には孔18aが設けられている。孔17a,18aには、各々貯液管19が液密を保ち貫通している。貯液管19は、途中に貯液弁20(開閉弁)を備えている。貯液弁20を開くことによって、貯液管19は図示しない冷却液供給源から冷却液を冷却液槽11に導くことができる。
【0026】
そして、貯液管19から冷却液が供給されて、液位が上昇し続けると、やがて冷却液は内側液槽17の側壁の上部から外側液槽18に越流する。外側液槽18は、内側液槽17から越流した冷却液を受け入れることができる。
【0027】
外側液槽18の底部には、孔18bが設けられている。孔18bには排液管23が接続されている。排液管23は、冷却水槽11の下の空間48に配置される。よって、外側液槽18に入った冷却液は、排液管23を介して外部に排出される。
【0028】
内側液槽17の底部(冷却液槽11の底部11a)には、孔8,孔21,孔22が設けられている。図1に示すように各孔は、各々別の配管を貫通させている。
【0029】
まず、孔21には排液管34が接続されている。排液管34は空間48に配置される。排液管34には開閉弁35が設けられている。よって、冷却液槽11(内側液槽17)に冷却液12が貯留されている状態で開閉弁35を開くと、内側液槽17内の冷却液12が排液管34を介して外部に排出される。また、開閉弁35を閉じ、貯液管19を介して内側液槽17に冷却液を供給すると冷却液12の液位(液面12a)を上昇させることができる。冷却液としては、例えば水道水を使用することができる。
【0030】
次に、孔22には給液管36が接続されている。給液管36は空間48に配置される。給液管36は、図示しない冷却液供給源から外側冷却液噴射装置14に冷却液を導く機能を有する。すなわち給液管36の途中の部位には、上流側から順にポンプ37,給液弁38,流量計39が設けられている。孔22は、設置される外側冷却液噴射装置14毎に設けられている。そして、各給液管36には図示しない冷却液供給源から冷却液が供給されており、ポンプ39を作動させると各外側冷却液噴射装置14から冷却液が噴射される。給液管36から供給される冷却液の量は、流量計37によって検出される。また、給液弁38を開閉することによって、外側冷却液噴射装置14からの冷却液の噴射と噴射の停止とを切り替えることができる。
【0031】
図1では、各給液管36にポンプ37,給液弁38,流量計39を設ける例を示したが、冷却液供給源に接続された大元の配管から複数の給液管36を分岐させ、大元の配管にポンプ,給液弁,流量計を設けてもよい。このように構成すると、操作するポンプ及び給液弁が一つとなり、利便性がよくなる。
【0032】
次に、孔8には給液管7が貫通している。給液管7は、昇降装置5(第1上下移動手段)で昇降可能に支持されている。給液管7の下部及び昇降装置5は、空間48に配置されている。図示していないが、給液管7は可撓性を有する配管を介して冷却液供給源が接続されている。給液管7の途中の部位には、上流側から順にポンプ24,給液弁25,流量計26が設けられている。すなわち、給液弁25を開きポンプ24を駆動すると、給液管7は冷却液供給源から冷却液を導くことができる。給液管7を通過する冷却液の量は、流量計26によって検出される。
【0033】
昇降装置5には、図示していないがボールネジとボールネジを回転駆動するサーボモータとが設けられている。また、このボールネジと螺合するナット(図示せず)がベース部材27と一体固着されている。さらに、昇降装置5にはガイドレール(図示せず)が設けられている。そして、サーボモータを駆動させるとボールネジが回転し、ナットと一体のベース部材27がガイドレールに沿ってボールネジに対して上下に移動する。
【0034】
ベース部材27は、剛性を有する板状の部材である。
ベース部材27には、エアシリンダ6(第2上下移動手段),駆動モータ9(回転駆動手段),支持部材3が設けられている。エアシリンダ6は、ロッド部6bとロッド部6bを収容する本体部6aとを有する。エアシリンダ6の本体部6aはベース部材27に固定されており、ロッド部6bは連結部材33を介して給液管7と連結されている。連結部材33は剛性を有する板状の部材である。
【0035】
エアシリンダ6は、本体部6aに対してロッド部6bが下になるようにベース部材27に設けられている。よって給液管7は、ベース部材27,エアシリンダ6を介して昇降装置5で昇降可能に支持されている。すなわち給液管7は、昇降装置5によって昇降し、また、エアシリンダ6が駆動されるとロッド6bが本体部6aから突出し、その結果給液管7が下降する。よって、ベース部材27に対して、給液管7(内側冷却液噴射装置4)が下降する。エアシリンダ6を逆に駆動すると、ベース部材27に対して給液管7(内側冷却液噴射装置4)が上昇する。給液管7は、可撓性を有する配管(図示せず)に接続されているので、昇降装置5が駆動されると、可撓性を有する配管が変形して昇降することができる。第2上下移動手段として、エアシリンダ6の代わりにボールネジをサーボモータで駆動する構成や油圧シリンダ等を採用することもできる。
【0036】
給液管7の下流側端部には、内側冷却液噴射装置4が接続されている。内側冷却液噴射装置4は、中央の円筒状の貯留部4aと、貯留部4aに接続され放射状に延びる複数の噴射部4bとを有している。図7では、8つの噴射部4bが設けられた例を示しているが、噴射部4bの数は任意に選定することができる。ポンプ24を駆動することによって、冷却液が貯留部4aに供給され、貯留部4aから各噴射部4bに高圧の冷却液が供給され、各噴射部4bから冷却液が噴射される。
【0037】
給液管7の周囲には、支持部材3が配置されている。
図1,図6に示すように支持部材3は、支持部28,張出部15,載置部16を有している。支持部28は、給液管7と同心状に設けられる筒状の部材である。また、支持部28は、軸受29を介してベース部材27上に設置されている。さらに、支持部28は、冷却液槽11の底部11aと給液管7に対して回転可能な構造を有している。すなわち、支持部材28は内側筒28aと外側筒28bとからなる二重筒構造を備えている。内側筒28aと給液管7の間には、一対の軸受31a(上側軸受),31b(下側軸受)が設けられている。よって、内側筒28aは、給液管7に対して回動可能である。
【0038】
外側筒28bは、冷却液槽11の底部11aに液密を保った状態で固定されている。また、外側筒28bと内側筒28aの間には、一対の軸受30a(上側軸受),30b(下側軸受)が設けられている。内側筒28aは、外側筒28bよりも下方へ突出している。内側筒28aにおけるこの下方に突出した部位にはギヤ部32が設けられている。ギヤ部32は、駆動モータ9(回転駆動手段)の駆動ギヤ9aと噛み合っている。その結果、駆動モータ9を駆動させると、ギヤ部32を備えた内側筒28aが回転駆動される。すなわち内側筒28aは、外側筒28b及び冷却液槽11の底部11aに対して回転可能である。
【0039】
支持部材3の内側筒28aの上端には張出部15が設けられている。図10に示すように張出部15は、放射状に延びる部位と環状の部位とが交錯して接合される蜘蛛の巣のような形状を呈することによって剛性が高められている。
【0040】
図7,図8に示すように、張出部15上には複数の載置部16が同一円周上に等間隔で立設されている。載置部16は、被加熱物10の大きさ(外径又は内径)に対応して張出部15上に配置される。すなわち各載置部16は、張出部15の中心(すなわち、給液管7の中心)から同一距離の位置(半径が同一の円周上)に配置される。その結果、複数の載置部16によって、被加熱物10を安定して支持可能になる。載置部16は、被加熱物10の直径(外径又は内径)に応じて張出部15の中心に接近又は離間する方向に移動させて固定できるように構成するのが好ましい。
【0041】
冷却装置46の内側冷却液噴射装置4(給液弁25,ポンプ24)、支持部材3(昇降装置5,エアシリンダ6,駆動モータ9)、冷却液槽11(貯液弁20,開閉弁35)、外側冷却液噴射装置14(給液弁38,ポンプ37)は、制御装置40によって制御される。また、内側冷却液噴射装置4の流量計26と外側冷却液噴射装置14の流量計39によって検出された冷却液の流量情報は、制御装置40に入力される。制御装置40は、冷却液を供給できる状態にしたにも関わらず、冷却液量が所定量に達していないと判定した場合には、噴射される冷却液量が増加するようにポンプ24(37)又は給液弁25(38)を制御する。その結果、冷却液の噴射量が増加して被加熱物10を良好に冷却することができる。
高周波焼入装置1の冷却装置46に係る構造は、以上のような構成を有している。
【0042】
次に、高周波焼入装置1の加熱装置45の構成について説明する。
加熱装置45は、高周波電源41,内側加熱導体2,外側加熱導体13,内側加熱導体駆動装置43,外側加熱導体駆動装置44等を有している。高周波電源41は、商用電源から供給される電力を高周波化する高周波発信器と、高周波化した電力を高圧化する変圧器を備えている。そして、高周波電源41から内側加熱導体2又は外側加熱導体13には高周波電流が供給可能である。
【0043】
図9に示すように高周波電源41は、制御装置40によって制御される。
制御装置40には入力装置42が接続されている。入力装置42は、オペレータによって操作され、環状の被加熱物10の内周面10aと外周面10bのいずれを焼入するかを選定することができる。すなわち、入力装置42は切替装置として機能する。入力装置42には、例えば内側用スイッチと外側用スイッチ(図示せず)とが設けられている。そして、被加熱物10の内周面10aを焼入する場合には、オペレータが入力装置42の内側用スイッチをON状態にすることによって制御装置40に指令信号を送信する。内側用スイッチと外側用スイッチは、排他的にON状態とOFF状態とが切り替わる。
【0044】
内側加熱導体2は、内側加熱導体駆動装置43によって移動可能に支持されている。すなわち、内側加熱導体駆動装置43は、内側加熱導体2を退避位置と加熱位置の間を往復移動させることができる。ここで退避位置とは、図1,図2に示すように、内側加熱導体2が、高周波焼入装置1のその他の部材や被加熱物10の障害とならない位置である。また加熱位置とは、図3〜図5に示すように、被加熱物10を誘導加熱できる位置である。
【0045】
同様に、外側加熱導体13も、外側加熱導体駆動装置44によって退避位置(図1等)と加熱位置とを往復移動することができる。内側加熱導体2と外側加熱導体13のいずれを使用するかは、オペレータが入力装置42を操作することによって選択される。例えば、オペレータが入力装置42の内側用スイッチ(図示せず)をONにすると、制御装置40は内側加熱導体駆動装置43に指令信号を発し、内側加熱導体2が退避位置から加熱位置へ移動する。外側用スイッチをON状態にしたときには、外側加熱導体駆動装置44によって外側加熱導体13が退避位置から加熱位置へ移動する。
【0046】
制御装置40は、入力装置42から入力された信号によって、被加熱物10の内周面10aと外周面10bのいずれを焼入するかを識別する。そして、図示しない内側用スイッチがON状態とされると、内周面10aを焼入するように各構成を動作させる。
【0047】
すなわちこの場合において制御装置40は、加熱装置45における内側加熱導体駆動装置43,冷却装置46における冷却液槽11(貯液弁20,開閉弁35),支持部材3(昇降装置5,エアシリンダ6,駆動モータ9),内側冷却液噴射装置4の動作を司る。
【0048】
また、入力装置42の図示しない外側用スイッチがON状態とされると、制御装置40は、加熱装置45における外側加熱導体駆動装置44,冷却装置46における冷却液槽11(貯液弁20,開閉弁35),支持部材3(昇降装置5,駆動モータ9),外側冷却液噴射装置14の動作を司る。
【0049】
次に、高周波焼入装置1の動作について説明する。
まず、入力装置42の内側用スイッチがON状態となった場合の動作を説明する。
最初に、焼入対象の被加熱物10が、図示しない搬送装置によって支持部材3の上方(加熱位置)まで搬送される(図1)。すなわち制御装置40は、図示しない搬送装置を駆動させて、被加熱物10を加熱位置まで搬送させる。
【0050】
また、制御装置40は支持部材3の昇降装置5を作動させ、載置部16を上昇させる。
その結果、図示しない搬送装置によって支持されて加熱位置で待機する被加熱物10が、載置部16によって支持される。すなわち、被加熱物10の支持が、図示しない搬送装置から支持部材3に移行する。制御装置40は、被加熱物10を加熱位置まで搬送した搬送装置を加熱位置から退避させる。また制御装置40は、昇降装置5を駆動して被加熱物10を下降させ、被加熱物10を加熱位置から退避させる。
【0051】
次に、制御装置40は加熱装置45を作動させる。すなわち、被加熱物10の内周面10aを誘導加熱する場合には、内側加熱導体駆動装置43によって内側加熱導体2を退避位置から加熱位置(支持部材3の上方の位置)まで移動させる。その前に制御装置40は、昇降装置5を作動させ、図2に示すように被加熱物10と支持部材3とを予め下降させておく。仮に、この被加熱物10及び支持部材3が下降していないと、内側加熱導体2は被加熱物10又は支持部材3が邪魔で加熱位置に移動することができない。
【0052】
そこで被加熱物10(支持部材3)を下降させて加熱位置から退避させると、内側加熱導体2を加熱位置に移動させることができるようになる。内側加熱導体2は、内側加熱導体駆動装置43によって水平方向に移動する。図3は、内側加熱導体2が加熱位置に移動した状態を示している。ここで内側加熱導体2は水平方向にのみ移動させ、上下方向には移動させない。その結果、高周波焼入装置1の高さ方向の大きさを小さくすることができる。
【0053】
内側加熱導体2が加熱位置に配置されると、制御装置40は昇降装置5を作動させ、被加熱物10を上昇させる。その際、制御装置40は支持部材3のエアシリンダ6も駆動し、内側冷却液噴射装置4を支持部材3の張出部15に接近させる。その結果、図4に示すように被加熱物10に対して内側冷却液噴射装置4が下方へ移動し、被加熱物10の内側が空になる。
【0054】
そして、図4に示す被加熱物10と内側冷却液噴射装置4の位置関係を保った状態で、昇降装置5によって被加熱物10(支持部材3)をさらに上昇させると、被加熱物10が加熱位置(誘導加熱時における内側加熱導体2に対向する高さ)に達し、図5に示すように被加熱物10の内側に内側加熱導体2が収容される。
【0055】
すなわち、内側冷却液噴射装置4が内側加熱導体2に衝突することなく、加熱位置で待機する内側加熱導体2が被加熱物10の内部に収容され、被加熱物10の内周面10aに内側加熱導体2が対向する。被加熱物10の内周面10aと内側加熱導体2の外周面の間には、全周囲に渡って略均一な隙間が形成されている。よって、図5に示す状態は、被加熱物10の内周面10aを均一に誘導加熱することができる状態である。
【0056】
次に、制御装置40は駆動モータ9を作動させ、被加熱物10を支持部材3ごと回転駆動する。また制御装置40の指令によって、高周波電源41(図9)から内側加熱導体2に高周波電流を供給し、被加熱物10の内周面10aを誘導加熱する。内周面10aが所定時間だけ誘導加熱されると、制御装置40は昇降装置5を作動させ、被加熱物10(支持部材3)を下降させる。
【0057】
その際、エアシリンダ6のロッド6bを本体部6aに収容するように駆動し、支持部材3の張出部15から内側冷却液噴射装置4を離間させる。そして図3に示すように被加熱物10が冷却位置(被加熱物10が冷却液槽11に貯留した冷却液12に完全に浸漬する高さ)に達すると、被加熱物10が冷却液槽11(内側液槽17)に貯留された冷却液12に浸漬すると共に、内側冷却液噴射装置4が被加熱物10の内周面10aに対向する。
【0058】
その後、制御装置40は速やかに給液弁25を開くと共にポンプ24を駆動し、内側冷却液噴射装置4の噴射部4bから被加熱物10の内周面10aに向けて低温の冷却液を噴射供給する。被加熱物10の内周面10aは、内側液槽17内の冷却液12に浸漬すると共に、内側冷却液噴射装置4から噴射供給される冷却液によって良好に冷却される。さらに、駆動モータ9を駆動することによって、内側冷却液噴射装置4から噴射された冷却液が内周面10aの全周囲に渡って供給される。その結果、内周面10aは全周に渡って均一に冷却される。
【0059】
内周面10aを冷却している間、内側液槽17内には内側冷却液噴射装置4から噴射される冷却液以外に、貯液管19からも低温の冷却液を順次供給する。これにより、昇温した冷却液を内側液槽17の上縁から外側液槽18へ越流させる。その結果、内側液槽17内に貯留されている冷却液12の温度上昇が抑制される。
【0060】
外側液槽18には、内側液槽17から昇温した冷却液が入ってくるが、昇温した冷却液は排液管23を介して外部に排出されるので、外側液槽18の液位の上昇が抑制される。
【0061】
被加熱物10の内周面10aの冷却が完了すると、制御装置40は駆動モータ9を停止し、給液弁25及び貯留弁20を閉じる。そして、昇降装置5及びエアシリンダ6を駆動させ、図1に示すように被加熱物10を加熱位置まで移動させる。その際には、内側加熱導体2は退避位置に退避している。すなわち被加熱物10を冷却している間に、制御装置40は内側加熱導体駆動装置43を駆動し、内側加熱導体2を退避位置に退避させる。そして、焼入が完了した被加熱物10を図示しない搬送装置によって搬送し、別の焼入されていない被加熱物10が加熱位置に搬送され、支持部材3上に載置される。
【0062】
被加熱物10の内周面10aを焼入した後、続いて外周面10bを焼入することもできる。その場合には、被加熱物10を冷却している間に、内側加熱導体2に代わって外側加熱導体13を加熱位置まで移動させておく。次に、内周面10aの焼入が完了した被加熱物10を昇降装置5によって加熱位置まで上昇させ、外側加熱導体13の内部に被加熱物10を配置する。その結果、被加熱物10の外周面10bに外側加熱導体13が対向する。そして、高周波電源41から外側加熱導体13に高周波電流を供給し、外周面10bを誘導加熱する。
【0063】
外周面10bの誘導加熱が完了すると、昇降装置5によって被加熱物10を下降させて貯留された冷却液12に浸漬させる。さらに、各給液弁38を開くと共にポンプ37を作動させ、外側冷却液噴射装置14から被加熱物10の外周面10bに向けて低温の冷却液を噴射供給する。なお、被加熱物10の外周面10bを焼入する際には、エアシリンダ6の動作は無用である。
【0064】
支持部材3が第2上下移動手段(エアシリンダ6)を備えていることによって、内側冷却液噴射装置4と被加熱物10の相対位置を変化させることができ、冷却液槽11の深さを従来よりも浅くすることができる。すなわち、エアシリンダ6を伸張させると、被加熱物10の内周面10aと対向している内側冷却液噴射装置4が下降し、環状の被加熱物10の内部(中心部分)を空にすることができる。その結果、被加熱物10を上昇させて被加熱物10の内周面10aを、上方で待機している内側加熱導体2に対向させることができる。よって、内側冷却液噴射装置4と内側加熱導体2とを衝突させずに済む。
【0065】
本発明による高周波焼入装置1では、被加熱物10の加熱位置(図3において二点鎖線で示す)と冷却位置との差は距離HCである。すなわち、被加熱物10は、距離HCだけ離間した加熱位置と冷却位置とを往復する。
【0066】
ところが、図3に示すように支持部材3の載置部16の高さHaは、図10に示す従来の高周波焼入装置51の載置部53bの高さHAよりも低い。これは、被加熱物10を支持する支持部材3が昇降装置5によって上下移動する際に、エアシリンダ6によって内側冷却液噴射装置4を同時に上下方向に移動させることができるためである。そのため、被加熱物10が加熱位置と冷却位置の間を移動する間に、内側冷却液噴射装置4が支持部材3の張出部15や内側加熱導体2に衝突(接触)する事態を防止することができる。
【0067】
その結果、冷却水槽11の高さHbを、図10に示す従来の冷却液槽55の高さHBよりも低くすることができるようになる。よって、本発明を実施すると、高周波焼入装置1を小型化することができる。
【符号の説明】
【0068】
1 高周波焼入装置
2 内側加熱導体
3 支持部材
4 内側冷却液噴射装置
5 昇降装置(第1上下移動手段)
6 エアシリンダ(第2上下移動手段)
7 冷却液通路
8 冷却液槽の底部に設けた孔
9 支持部材を回転させる駆動モータ(回転駆動手段)
10 環状の被加熱物
10a 被加熱物の内周面
10b 被加熱物の外周面
11 冷却液槽
12 冷却液槽に貯留された冷却液
12a 液面
13 外側加熱導体
14 外側冷却液噴射装置
15 支持部材の張出部
16 支持部材の載置部
27 ベース部材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
環状の被加熱物を誘導加熱し、前記被加熱物を冷却液槽に貯留した冷却液に浸漬させて焼入れする高周波焼入装置であって、
被加熱物の内周面に高周波誘導電流を励起させる内側加熱導体と、
被加熱物を支持する支持部材と、
前記冷却液槽の冷却液に浸漬した被加熱物の内周面に冷却液を噴射供給する内側冷却液噴射装置とを有し、
内側加熱導体は、前記冷却液槽に貯留された冷却液の液面よりも上に配置され、
前記支持部材及び被加熱物を上下移動させる第1上下移動手段と、内側冷却液噴射装置を上下移動させる第2上下移動手段とを設け、
内側冷却液噴射装置に冷却液を導く冷却液通路と支持部材とが、冷却液槽の底部に設けた共通の孔を貫通しており、前記孔は被加熱物よりも小径であり、
支持部材は、前記孔から半径方向外方に延びる複数の張出部と、前記張出部から起立し、被加熱物を載置する載置部とを備えており、
前記第1上下移動手段は被加熱物を、誘導加熱時における内側加熱導体に対向する高さと、冷却液槽に貯留した冷却液に浸漬する高さの間を移動させることができ、
前記第2上下移動手段は内側冷却液噴射装置を、誘導加熱時における支持部材の張出部と内側加熱導体の両方に接触しない高さと、冷却時における被加熱物に対向する高さの間を移動させることができることを特徴とする高周波焼入装置。
【請求項2】
前記支持部材を回転させる回転駆動手段を設けたことを特徴とする請求項1に記載の高周波焼入装置。
【請求項3】
被加熱物の外周面に高周波誘導電流を励起させる外側加熱導体と、
冷却液槽の冷却液に浸漬した被加熱物の外周面に冷却液を噴射供給する外側冷却液噴射装置とを備えたことを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の高周波焼入装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2012−158774(P2012−158774A)
【公開日】平成24年8月23日(2012.8.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−17010(P2011−17010)
【出願日】平成23年1月28日(2011.1.28)
【出願人】(390026088)富士電子工業株式会社 (48)
【Fターム(参考)】